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黄金色の魔術師 ~魚人達の饗宴~


ストーリー Story

●黄金色の魔術師

 魔法学園【フトゥルーム・スクエア】に観光地【アルチェ】からの魔物討伐依頼が届いていた。
 観光地区に面する浜辺に不可思議な“金色の装飾物”を装備したサハギンが大量に出没したというのだ。
 それらをどうか討伐してほしいとの依頼である。
 観光地を荒らす魔物を早急に何とかして欲しいアルチェからの依頼ということで報酬は多いようだった。
 あなた達は数名規模の先行偵察隊に参加していた【リリア】の話を聞く。
 彼女は以前、住んでいる村が襲われた際に学園の生徒に助けられた少女であり、今は学園の魔王コースに在籍している。
 手違いから魔王コースに入ってしまったのだが、彼女なりに“良い魔王”を目指すとのことで今はコースの変更などは考えていないようだった。
 そんなリリアに話を聞くとリリアは魔物にイラついた様子で話す。身体には傷が目立ち、どうやら返り討ちにあったようだ。
「あーもうっ、なんなんだよー、あいつら! こっちの攻撃は避けられるし、魔法を撃てば弾かれるし……あんなのどうしろっていうんだよーっ!」
 彼女が言うにはサハギン達にはなぜか攻撃が“当たらない”というのだ。
 魔法に至っても至近距離で何かに“弾かれて”効果がないという。
「うぐぅ、勝てる気がしない……あうぅ、こんなんじゃ解決なんて無理だよぉーっ!」
 頭を抱えてあうあうと落ち込むリリアを励ましながらあなた達は彼女から情報を聞き出そうと試みる。
 多少落ち着きを取り戻したリリアにあなた達はリーダーのような者がいないか、雰囲気が違う者がいないかと聞く。
「えっ、なんか違う雰囲気の奴がいたかって? うーん……あ、そういえばなんか色の違うサハギンがいたよ。赤くて、後ろで控えている奴」
 リリアの情報によると、サハギンはほとんどが緑の体表を持つ者で構成されているが、一体だけ赤いサハギンがいたという。赤いサハギンは緑のサハギンに守られているように見えたようだ。
 近づこうにも緑のサハギンが壁となり、赤いサハギンには近寄れなかったということらしい。
「それでさ、赤い奴が卑怯なんだよ、後ろにいて前に出てこない癖に魔法はばんばん撃ってくるし!」
 緑のサハギンによる近接戦闘と赤いサハギンによる魔法での援護攻撃、これらが組み合わさり手も足も出なかったという。
「確か、アルチェって魔物の被害が少ないはずでしょ。なんでサハギン達なんか急に現れたんだろうね? それにあの金装飾、村に来た獣と似てる気がするんだ……」
 リリアの村は以前、金色の装飾物を装着された魔物に襲撃され、被害を被っていた。
 今回の事件はそれに酷似しているという。
「裏に誰かがいるってことなのかな……あーもうっ難しいこと考えたら頭痛くなってきた。とりあえず、あのサハギン達をどうにかする! それが一番の解決方法だよね!」
 リリアの言葉に頷いたあなた達は彼女と共に謎のサハギン討伐の為、アルチェへと向かうのであった。



 誰もいない夜の浜辺。
 そこには観光客ではない者達が闊歩している。
 金色の装飾物を頭や胸に着けた赤い目のサハギン達が歩いているのだ。手には小盾と三叉槍を持っている。
 そんなサハギン達を見下ろす黄金色のローブを纏った明らかに目立つ人物がいた。見た所、魔術師のようにも見える。
「実験は上々、ふむ……前に使った獣達よりは効果が出ているようだ。やはりある程度の知能が必要ということか」
 メモ書きのようなものを記しながら彼はにやりと笑う。
「さあ、サハギン共……大いに暴れろ! いずれやってくるであろう邪魔者達と戦い、私にデータを寄こすのだ。優秀な実戦データをな、くくく、ふははははは!」
 笑っているその声に反応したのか、赤いサハギンが咆哮と共に火球を数発ほど黄金色の魔術師に放つ。
 黄金色の魔術師はそれを片手を振るって不可視の壁で弾くと笑った。その笑いは嘲笑に似たものである。
「ははは、戦闘意欲旺盛なのは結構、結構。だが、刃を向ける相手を間違えてはいけないぞ?」
 ぐっと手を緑のサハギンへ向けるとふわっとその身体を宙に浮かばせる。サハギンはもがき苦しむようにじたばたと手足をばたつかせていた。
 次の瞬間、サハギンの身体がぶわっと炎に包まれ、燃えあがる。断末魔の叫びと共にサハギンは一瞬で黒焦げとなった。
「見せしめだ、私に歯向かうからこうなる。大人しく従っていればいいのだよ、貴様ら魔物風情はな」
 それだけ言うと黄金色の魔術師は不思議な装置を展開すると扉のような形状になったその不思議な装置の中へと消えていく。
 金色の装置は淡く発光しておりどうやら魔力が流れているようだった。恐らく、原動力は魔力なのだろう。
「では、盛大に暴れてくれ。邪魔者もいずれ来るだろう……くく、私は離れた所で見物とさせていただこうか。この、面白い実験の結果をな」
 装置が閉じると黄金色の魔術師は装置と共に消失する。その場には黒い焼け焦げた跡だけが残っていた。

 それから数分後、リリアとあなた達は浜辺に到着しサハギン達に見つからないように物陰に身を隠す。
 サハギン達は浜辺に設置してある観光用の物品や施設などを手当たり次第に破壊しているようだった。
 見れば一体だけいる赤いサハギンが三叉槍で指示を飛ばし、その方向を緑のサハギンが破壊しているように見える。
「統制が取れているってことなのかな? あの赤い奴がリーダーで他の奴に指示を飛ばしているように見えるし。うし、だったらあいつをぶっ飛ばして……!」
 飛び出そうとするリリアをあなた達は制止する。
「なんで止めるんだよぉ、え、緑の奴をどうにかしないと赤いのにたどり着けない? うーん、言われてみればそうか」
 どうしようかと考えていると赤いサハギンが咆哮をあげ三叉槍を天に向ける。
 すると数匹の緑のサハギンが海から飛び出すように浜辺へと現れたのだ。それらも一様に金色の装飾物を頭や胸に付けているようだ。
「うそっ、あいつ仲間を呼ぶの!? ぐぬぬ……赤いのをどうにかしないと、際限なく増えるってことじゃん。あー……頭がパンクしそう」
 頭を抱えるリリアと共に様子を見ながら、あなた達はサハギン達への対抗策を練るのであった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2021-07-19

難易度 普通 報酬 多い 完成予定 2021-07-29

登場人物 3/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。
《イマジネイター》ナノハ・T・アルエクス
 エリアル Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
フェアリータイプのエリアル。 その中でも非常に小柄、本人は可愛いから気に入っている。 明るく元気で優しい性格。天真爛漫で裏表がない。 精神年齢的には外見年齢に近い。 気取らず自然体で誰とでも仲良く接する。 一方で、正義感が強くて勇猛果敢なヒーロー気質。 考えるよりも動いて撃ってブン殴る方が得意。 どんな魔物が相手でもどんな困難があろうと凛として挑む。 戦闘スタイルは、高い機動性を生かして立ち回り、弓や魔法で敵を撃ち抜き、時には近接して攻め立てる。 あまり魔法使いらしくない。自分でもそう思っている。 正直、武神・無双コースに行くかで迷った程。 筋トレやパルクールなどのトレーニングを日課にしている。 実は幼い頃は運動音痴で必要に駆られて始めたことだったが、 いつの間にか半分趣味のような形になっていったらしい。 大食漢でガッツリ食べる。フードファイター並みに食べる。 小さな体のどこに消えていくのかは摩訶不思議。 地元ではブラックホールの異名(と食べ放題出禁)を貰うほど。 肉も野菜も好きだが、やっぱり炭水化物が好き。菓子も好き。 目一杯動いた分は目一杯食べて、目一杯食べた分は目一杯動く。 趣味は魔道具弄りで、ギミック満載の機械的な物が好き。 最近繋がった異世界の技術やデザインには興味津々で、 ヒーローチックなものや未来的でSFチックな物が気に入り、 アニメやロボットいうものにも心魅かれている。 (ついでにメカフェチという性癖も拗らせた模様)

解説 Explan

勝利条件
:サハギンの全滅

敗北条件
:リリアの死亡

戦闘場所
:アルチェの観光地区にある浜辺。周囲には観光用の出店などの施設やパラソル、椅子などが置かれたまま。
 時刻は夜で明かりはほとんどなく暗いので明かりとなる物を持っていくことを推奨。

敵データ
《サハギン・ソルダート》……数については不明
【格】
:2
【生態】
:群れで行動する雄個体のサハギン。狩りの為、海辺に良く出没する。体表は緑。
【本能】
:小盾と三叉槍で武装しておりガードは固く、槍での攻撃も素早い。
 頭と胸に金色の淡く発光する金装飾があり、それの効果により魔法を無効化する。
 また素早さが強化されており通常のサハギンよりも素早い。
【属性得意/苦手】
:雷を苦手とする
【得意地形】
:水上、水中
【戦闘スタイル】
:槍での激しい槍術、盾による手堅いガード。
【状態異常】
:無し

▼GM補足情報
:基本的に脳筋なサハギンです。

●《サハギン・クリム》……数は一体
【格】
:3
【生態】
:サハギンを統率する雌個体。体表が赤い特徴がある。
【本能】
:短めの三叉槍で武装しており盾は持っていない。水系統と火系統の魔法を扱うので注意。
 頭と胸の金装飾の効果により魔法の威力が強化されている。また相手からの魔法を吸収する。
【属性得意/苦手】
:雷を苦手とする
【得意地形】
:水上、水中
【戦闘スタイル】
:緑のサハギンに守られながらの魔法攻撃。
 サハギン・クリムが存命の場合、サハギン・ソルダートを無尽蔵に呼び出す。
【状態異常】
:無し

▼GM補足情報
:雄のサハギンを尻に敷いている雌のサハギンです。

●登場NPC
リリア
:学園の魔王コースに在籍する明るいルネサンスの少女。難しいことを考えるのは苦手な脳筋。
 見た目は巨乳の少女で、獣耳と尻尾がある以外は人と差異はない。
 魔力を拳や足に込め、格闘術に上乗せして攻撃する技術の使い手。最近、友人の教えで魔法も覚えた。


作者コメント Comment
お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
黄金色の魔術師の暗躍により、観光地であるアルチェが脅かされています。
赤いサハギン【サハギン・クリム】、緑のサハギン【サハギン・ソルダート】を討伐し、観光地の安全を取り戻してくださいませ!

楽しい観光地の海を取り戻せるかどうかは、皆様の腕にかかっているのです。
それでは皆様のご参加をお待ちしております!


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:216 = 72全体 + 144個別
獲得報酬:5400 = 1800全体 + 3600個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
●作戦
今回はリリアも戦力。サハギン・ソルダートを突破し、クリムを狙う

●事前準備
リリアを含む全員と作戦共有。
ソルダートを一気に削ったらクリムを強襲すると

●行動
恐らく単騎突入になるので、リリアにナノハたちの守備を依頼。
序盤は隙をつく形で可能な限り接近しつつ、押されるように見せかけソルダートを誘導。
ある程度集まったらレーネの『スプリーム・クラッシュ』に合わせ、
自分も『電結変異』を発動し、『正義一迅』で陣形を立て直す前に突破。
二段ジャンプやブースターも使い、クリムに接近・撃破を狙う。

魔法には種族特性『シルト』、攻撃は『衝撃享受』
自分の『スプリーム・クラッシュ』はソルダートが再集結された時のための保険

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:86 = 72全体 + 14個別
獲得報酬:2160 = 1800全体 + 360個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
暗闇について
職業技能「暗視順応Ⅰ」で逆にわたくしの有利にかえます。
周囲を見渡し、把握し、ひそんでいるものもみつけだします。


事前準備
装備した「魔法薬生成キット:B」ふたつを一般技能「魔法薬生成(治療)」で
調合しておきますね。

たたかい
仲間のひとたちといっしょに行動し、まものの大群にかこまれたら
職業技能「スプリーム・クラッシュ」でまとめてふきとばして
仲間のひとたちが行動しやすくしますね。
消耗については調合した魔法薬で回復していきます。
まものからの攻撃についてはがんじょうさをたかめる装備でうけとめますね。

ナノハ・T・アルエクス 個人成績:

獲得経験:86 = 72全体 + 14個別
獲得報酬:2160 = 1800全体 + 360個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
サハギンの討伐

■行動
まずはキラキラ石を投げつけて照明に。
箒で飛行し、旋回しながら上空から角度の付いた射撃で指揮官の頭を狙い撃つ。
当たれば御の字だけど、陽動と牽制と撹乱のためにも撃てる時には撃っていくよ。
指揮はさせないよ!

魔法を撃たれたら回避。
集中で敵の狙いを読んで、方向転換したり速度に緩急を付けたりして避けるよ。
見える!なんてねっ♪

前衛組が指揮官との間合いを詰めたら、僕は援護に回るよ。
着地して射撃ポジションを整える。
バレットリロードで魔力を回復しつつ、トライショットで緑を3体狙い。
ファイニンを雷属性に切り替え、集中で防御の隙間を狙い定めて撃ち抜くんだ。
指揮官の援護はさせないよ!

リザルト Result

 観光地アルチェ。
 本来であれば人で賑わうはずのその浜辺に現在、人の姿はない。
 夜であることも理由の一つではあるが、原因はそこに現れた金装飾の装備を付けた謎の魚人達だ。
 魚人達……サハギン達は赤色のサハギン・クリムに率いられ、サハギン・ソルダートと呼ばれる緑の者達が浜辺で暴れていた。
 浜辺に設置されている施設やパラソル、椅子を薙ぎ倒しながら暴れまわる彼らは咆哮を上げる。
 彼らの天下かと思われたその時間は突如として終わりを告げる。
 空から落とされたキラキラ石が闇に紛れる彼らの姿を照らし出す。
 それと同時に上空からのファイニンによる射撃が彼らを撃ち貫いた。
 上空を旋回しながらサハギン・ソルダートを攪乱するのは【ナノハ・T・アルエクス】。彼女は箒にまたがり、戦闘機さながら上空からの牽制射を行う。
 地上で戦う者にとって上空からの牽制射ほど厄介な物はない。なぜなら上から狙われた場合、回避は難しいからだ。身を隠すような物陰もこの浜辺には存在しない。
 ある程度、サハギンが浮足立ったのを確認すると箒を急旋回させ、ナノハは防備が薄くなったサハギン・クリムに狙いをつける。
 ナノハのファイニンの射撃がサハギン・クリムの頭を狙うがそれは魔力で生成された盾によって防がれてしまう。
「くっそー、当たらないかぁ。でも、最低限指揮だけでもさせないっ!」
 サハギン・クリムがサハギン・ソルダートへ指示を飛ばそうと腕を動かしたタイミングを狙ってナノハはファイニンを打つ。
 彼女の射撃は有効打は与えられなかったが、サハギン・クリムの指揮を乱すには十分すぎる効果であった。
 空を飛ぶナノハを煩わしく思ったのか、サハギン・クリムは炎弾を連続的に放つ。
 次々と飛来する炎弾を的確な箒捌きで避けていくナノハはさながらエースパイロットのようだ。
「……当たらないよっ! ふふ、見えるっ……ってね!」
 ナノハの攪乱により、統制が取り辛くなったサハギン・ソルダート達は地上で戦う二人によってサハギン・クリムから少し離れた位置へと誘き出されていた。
 彼らは勇猛果敢だが猪突猛進な所があり、的確な指揮が取られなければ罠や誘導作戦に簡単にハマってしまうという欠点があるのだ。
 緑のサハギンに押し込まれるような形で奮戦するのは【フィリン・スタンテッド】だ。勿論、押し込まれているのは彼女による見せかけ。本当の狙いは別にある。
 彼女は手に持ったレイダーを振るいながら、飛び掛かるように襲ってくるサハギン・ソルダートを盾で弾き返す。
 その動きはサハギン達から見れば、数に手間取り後退しているように見えるのだ。勇猛果敢な戦士ならばそのような隙を見逃すはずもない。
 畳みかけるように次々とフィリンヘサハギン・ソルダートが襲い掛かるが、その攻撃はどれも彼女に有効打を与えられていない。
 それもそのはず。彼女は攻撃を防ぎながらサハギン・クリムとの位置を常に確認しており、押し込まれている風を装い、機を窺っていたのだから。
 攻撃を弾き返しながらフィリンはいつ仲間の攻撃が始まったとしても、合わせて飛び出す準備を整えている。
 上空から見ればサハギン達は後退するフィリンとその仲間を追いかけるような形で完全に突出している状態だった。
 部隊としての連携は既に取れておらず、闘争本能のままに彼女達を追い立てている。
 周囲を無数のサハギン・ソルダートに囲まれ、機は熟したと判断した【レーネ・ブリーズ】は技の準備に入った。
 その隙を逃すまいと突進するサハギン・ソルダートを【リリア】の魔力がこもった拳が殴り飛ばす。力、速度が増されたその一撃は錐もみ回転させながらサハギン・ソルダートを吹き飛ばす。
 彼女はフィリンから言われた『今回は頼りにしてる…みんなをお願い』という言葉を思い、仲間を守る盾として奮闘していたのだ。
「あたしだって役に立てるっ! 考えるのは苦手だけど、身体を動かすのは得意だからっ!」
 少し跳躍すると空中で身体を捻ってリリアは鋭い回し蹴りを放った。振り抜かれた足がサハギン・ソルダートの盾を粉砕する。回転しながら続けざまに放たれる二発目の回し蹴りが彼を地面へと沈ませた。
 更に少し離れたサハギンを狙おうとしてリリアは思い留まる。彼女はナノハから言われた『突っ込むのは絶好のタイミングで』という言葉を思い出したからだった。
 皆との触れ合いでただ突進するだけだった彼女も少しは成長しているようだ。
「それでは、いきますっ! エーデン・ユートよ、わたくしに応えてっ!」
 魔力を開放し、鮮やかな光を放ちながらレーネはエーデン・ユートを浮遊させる。そのままエーデン・ユートは彼女の周囲を素早く回転した。
 円状に放たれた光を纏うエーデン・ユートによって集まっていたサハギン・ソルダート達は纏めて吹き飛ばされ、完全に統制が崩れ去った。起き上がって唸る者、立ち上がれず呻く者、武器を振り上げて吠える者と様々。
 統制が取れなくなった集団程、突破しやすいものはない。どのような集団であろうとも集団で動けなくなった時点でそれは烏合の衆なのだ。
「スタンテッド家の名にかけて……使命を遂行する!」
 その言葉と共に駆けだしたフィリンは浮足立っているサハギン・ソルダートの間を抜けていく。
 しかし彼女の進路を防ぐようにサハギン・ソルダートが立ち塞がるが彼女はその速度を緩めない。
 フィリンとサハギンがぶつかる前に側面から急襲したリリアが彼女の進路を塞ぐサハギンを蹴り飛ばす。鋭い蹴りで昏倒したサハギンは完全にその動きを止めてずしゃりと倒れた。
「行って、フィリンっ! あの赤い奴を……お願いっ!」
「うん、任せて!」
 擦れ違いながらリリアと手をタッチさせたフィリンは赤いサハギン……サハギン・クリムへと一直線に走る。
 電結変異により身体から小さな稲光を放つ彼女の速度に飛び掛かるサハギン・ソルダート達は追いつけていない。
 ついにサハギン・クリムの前へと現れたフィリンはサハギン・クリムが放つ炎弾をシルトを発動させ、全て受け止める。
 魔法発動の隙を抜け、正義一迅を放ったフィリンの刃はサハギン・クリムの右腕を切断する。杖を失い、後方へと跳躍したサハギン・クリムは口を開いた。
「アノ、オカタ……クレタ、ツエ……キサマァァァァアッ!」
「こいつ、喋れるの!?」
 辛うじて残っている左手の爪に火を灯すと炎の鉤爪となったそれを振るってサハギン・クリムはフィリンヘと襲い掛かった。
 盾で弾くように鉤爪をいなすとフィリンはセイズ・マ・バーストを発動する。淡い光が彼女の武器へと収束していった。
 次の瞬間、振り抜かれたレイダーの一撃は青い閃光を放つ。威力が上昇したその斬撃はサハギン・クリムの胸部を斬り裂き、彼女を大きく吹き飛ばした。
 サハギン・クリムの危機を察知した数匹のサハギン・ソルダートがクリムを救おうと走るが彼らの行く手をナノハの射撃が阻んだ。
「悪いけど、そっちには行かせないよっ」
 足元を狙撃されたサハギン達は危機を感じ、ばらばらに跳んだ。だがそれこそが彼女の狙いである。空中ならば咄嗟の回避行動はとれないからだ。
 バレットリロードを行うと、ナノハは空中で無防備となっているサハギンに狙いをつけ、ファイニンのトリガーを引く。撃鉄が落ち、シリンダーが回転、銃身から光と共に魔法弾が放たれる。
 放たれ絡み合う三つの光弾はある程度進んだ所で弾けるように拡散した。それらはそれぞれ、空中で回避行動もとれないサハギン達を撃ち貫いた。
 一方、フィリンは炎を爪に灯したサハギン・クリムと何度も斬り結んでいた。互いの得物がぶつかり合い、火花を散らす。
 それぞれ距離を取るように跳躍すると二人はお互いを睨み合う。そう、互いに次の一撃が最後となるのを察しているのだ。
 炎を更に腕へと纏わせ、炎の腕と化した左腕を構え、サハギン・クリムは咆哮する。その胸部からは紫色の血が流れていた。
 フィリンもレイダーを振り被ると大技の準備へと入っている。二の太刀はない、一撃で決める為の技を。
 両者動かない静かな時間が流れ、それはふっと終わりを告げる。
 弾かれるように飛び出した二人は互いの得物を振り被り衝突した。
 大上段から振り下ろされる炎の腕による一撃を紙一重でフィリンは避ける。爪が頬を僅かに掠り、その顔から一筋の血が流れた。
 少し顔を歪ませながらもフィリンはレイダーを蛇腹剣状に変化させ、それを振るう。流れる動作から放たれる無慈悲な連続攻撃はさながら空を征く流星のようだった。
 還襲斬星断……スタンテッド家に伝わる変幻武術の一つだ。
 どしゃりと倒れたサハギン・クリムへ近づくと止めを刺す為に剣の切っ先をフィリンはその胸部へと向けた。サハギン・クリムの目は狂乱した赤色から緑色に戻っている。
 本来、サハギン・クリムによって率いられる群れは人に友好的であり、このような襲撃は行わない。
 明らかに誰かの手が入っているのだ。フィリンはそれが気になっていた。
「殺す前に聞くけれど、誰の差し金? 貴女を変えたのは……一体誰なの?」
「がふっ、ごはっ……ワレ、ラ、ヲ……リヨウ、シタ……ノハ……キンノ、キンノマジュ……ッ」
 それだけ言うと空中に手を伸ばし、サハギンは絶命した。
「金の、魔術? 魔術師ってこと? 前に戦った獣も金装飾の……これって、偶然なの?」
 フィリンがサハギン・クリムに止めを刺した頃、レーネの方側ではサハギン・ソルダートを片づけた所であった。
 レーネは生成しておいた魔法薬を飲む。バックに入った魔法薬の一本をリリアへと渡す。
 コルクの蓋を指で開け、リリアはそれを一気に飲み干した。爽やかな味が口内へと広がっていく。
「ふぅ……助かったよ、レーネ。あたしさ、まだ魔力のコントロールがへたくそでね。威力は出るんだけど、燃費が悪くて」
「ふふ、たすかったならよかったです。魔力のコントロールは次第に慣れるしかないので、練習あるのみですね」
 一息つこうとしたレーネだったが何者かの殺気を感じ取り、リリアを守るようにして手甲を盾代わりに飛来する何かを受け止める。真紅色の手甲が弾いたのは金色の矢であった。
 レーネが見る方向には崖があり、その崖の上に金装飾のボウガンを持ったこれまた派手な金のローブを纏った人物が立っている。
「ふむ、亜人少女が狂うデータも見たかったのだが……仕方あるまい。ま、サハギン共のデータが取れただけでも良しとしようか」
「あなたは……何者ですか? この矢、リリアに何をしようとしていたんですかっ」
 レーネの問いかけをあざ笑ったローブの人物は大仰な動作で手を広げた。まるで狙ってくれと言わんばかりの動きである。
 だが攻撃はできない。なぜなら攻撃してはいけないかのような、手を出してはいけないかのような……重圧のような物が漂っているからである。強者に対峙した時の圧のようなものだろうか。
「君が知る必要はないよ。もっとも、その身をもって知りたいというのなら……止めはしないがね?」
 ローブの男の身体を舐め回すかのような嫌な視線にレーネは嫌悪感を抱いた。リリアも同様のようである。
「ここで君達を倒し、その身体を弄り倒して……あの学園の生徒がどれだけデータの活用になるのか、調べてもいいが……む?」
 嫌な目線を向け続けるローブの男へ魔法弾のがいくつか飛来する。
 男の周囲に薄い金色の膜のような物が現れ、それは衝突した魔法弾を拡散し霧散させる。よく見れば腰の金色の装置がそれを発動させたようだった。
「あっれー、全弾命中したはずなのにっ!」
「ふむ……あれもよいデータが取れそうな個体ではあるが……エリアルにしてはいい身体つきの。だがまあ、いい。ここは退こう、次に相まみえるのを楽しみにしている、学園の生徒達よ」
 それだけ言うと男は金色のゲートのような物を出現させるとその中へと消えていった。
「今の人は……いったい、なんだったのでしょう」
「分からないよ。でも、ヤバイ奴だってのは確かだと思う」
 こうして首謀者は逃げたようだが、アルチェの依頼であるサハギンの討伐は完了し、ここに観光地の平和が戻ったのであった。



 暗い地下で金色のローブを纏った男が女性の身体の前にいる。女性は激しく痙攣し悲鳴を上げていたが、次第に動かなくなる。
 死体となってしまった女性を見て男は溜め息をついた。
「やはりただの一般人では、この装置には意味がないか。適合する強い肉体が必要だな……そう、あの学園の生徒のような」
 そうして見上げる壁にはリリアに関するデータや覚書、人相書きが多数貼られている。
「くっくっく、我が実験は順調だ……魔力に反応する金属に装置。あとはデータと実証実験だけ。もう少し、もう少しで……はーっはっはっは!」
 男の嫌な笑い声が暗い地下に木霊していた。



課題評価
課題経験:72
課題報酬:1800
黄金色の魔術師 ~魚人達の饗宴~
執筆:ウケッキ GM


《黄金色の魔術師 ~魚人達の饗宴~》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 1) 2021-07-15 06:45:39
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。

グリフォンや魔法の箒で空からの突撃とかになるでしょうか。
範囲攻撃とかも考えてみますね。
よろしくおねがいします。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 2) 2021-07-16 10:01:22
ごめん、出遅れちゃった…勇者・英雄コースのフィリンよ。
レーネは今回もよろしくね。

既に浜辺に来ている状況だし、あまり手の込んだ罠は使えないのが難しいところね…グリフォンはあったっけ
(PL註.物陰に身を隠しているそうだし、大きい乗物は持ち込めないかも)

範囲攻撃でソルダーとを切り崩すか、あるいは陽動をかけて切り離すか…

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 3) 2021-07-16 23:48:15
範囲攻撃は検討しています。
ただ、わたくしたちとリリアさんの三人だと戦力的にまだくるしい気がしますね。

《イマジネイター》 ナノハ・T・アルエクス (No 4) 2021-07-17 22:11:35
賢者・導師コースのイマジネイター、ナノハ・T・アルエクスだよ。
遅い参加になったけど、よろしくね♪

立ち回りは考え中だけど、多分遠距離攻撃がメインになるかな。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 5) 2021-07-18 21:46:57
「スプリーム・クラッシュ」と射程5のエーデンユートを準備しました。
わたくしを中心に範囲6の魔物をふきとばせます。
消耗については魔法薬を用意してます。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 6) 2021-07-18 21:59:53
よろしく、ナノハさん。
遠距離攻撃は手薄な所だし、引き受けてもらえるならありがたいわ。

そうすると私は突破メインのセッティングがいいかな…
『正義一迅』で加速しながら、『電結変異』の回避で一気に女王を狙ってみようと思うの。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 7) 2021-07-18 22:41:32
アルエクスさんもよろしくおねがいします。

行動のバリエーションをふやしてなんとかなるといいですね。