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Miroir ―Nuageux


ストーリー Story

●???
 彼女は自分の部屋のベッドに腰を掛け、手にした名簿をじっと見つめていた。
 名簿に記された一つの名前。それを見つめる彼女は、

 積年の再会を歓喜するかのように、
 愛しき人を見つめるように、
 不倶戴天の仇を睨みつけるかのように、

「やっと見つけたわよ」

 口元を釣り上げた。

●沖の明かり
 『メイルストラム』と呼ばれた作戦はとうに過ぎ去り、既に残暑の季節だが、フトゥールム・スクエアの日常が大きく変わることは無かった。
 そんなある日の放課後に、褐色肌の女性教師【ヴィミラツィカ・サラヴィシチェ】はやや唐突に説明を始めてきた。
「一つ課題を説明したいのだがその前に、お前達はアルチェに行ったことはあるか?」
 確か、観光と漁業で有名な町だ。過去にはアルチェを中心に様々な課題が行われたこともあった筈だ。
 ここ暫くはどうだっただろうか。もしかしたら課題や休みで行ったかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
「ふむ。そのアルチェでここ最近、ある漁師が夜の沖合に不自然な明かりを見たという話が囁かれていてなァ。と言っても、明かりと言うにはあまりにも小さすぎて、海に詳しい漁師でなければ見逃してしまうような小さなものだったそうだ」
 美しいアルチェの海も、沖合となると凶暴な魔物が多く生息しているらしく、稀に漁師が襲われることがあるという。
 夜の沖合の不自然な明かりは、そんな魔物によるものなのだろうか?
「最初は誰もがそう思って、漁師同士で注意を呼び掛けていたそうだ。ところが、何も起こらなかったのだ。明かりを目撃した漁師は増えていくというのに、漁師が魔物に襲われる事はなかった。明かりの件と結び付かない例で魔物に襲われたのが片手で数える程度はあったか。不可思議な話だが、明かりについて実害が出ていない以上、漁師達は気味悪がることしかできなかったわけだ」
 確かによく分からない話ではある。明確な違和感が存在するというのにずっと何も起きないのでは、却って不自然ではないだろうか。
「そこで、私の部下にちょっとあれこれ調べさせたところ、奇妙なことが判明した。漁師が明かりを見た日のみ、観光地区のとある業者が所有する遊覧船が一隻、夜中にいなくなっているという、なァ?」
 それは恐らく偶然ではないのだろう。明かりの正体がこの船だとしたら寧ろ合点がいく。
 だが、まだ分からないことが多すぎる。引き続き説明を聞くことにした。

「富裕層向けの真夜中のクルーズと言うのもあるにはあるが、そうだったとしてもやはり明かりが小さすぎると漁師達は言っていた。それに、安易に魔物が出やすい沖合に出るのは自殺行為だ。さてこの遊覧船の持ち主だが、夏にレジャー目的で船を出す中規模な業者だ。然し、去年は今一つ振るわなかったのか、業績は右肩下がり。そして最近、少し変な動きがあるのを確認した。例えば、中からうめき声が聞こえる箱を船に運び入れてたりなァ?」
 唐突に気味の悪い展開になった。うめき声が聞こえる箱だなんてどう考えてもまともじゃない。
「さて? ここまで説明すれば、何をすればいいか大体分かるだろう?」
 この遊覧船の持ち主の目的や、積み荷が何かを探れ、ということになるのだろう。
 それならそれほど難しい課題ではなさそうだ。
「まァそういうことなのだが、ここは一つ、正々堂々を忘れてこそこそと秘密裏に動いてもらいたいのだ」
 正々堂々を忘れて、とはどういう言い回しだ。
 だが、そのような手段を取らなければならない事情があるということでもある。そうするとそれは何なのだろうか?
「アルチェには領主が統括する司法警察がある。漁師の話を聞きつけて捜査に乗り出したはいいんだが……一部の末端が、例の業者から袖の下を受け取っていることが部下の調査で分かってしまってなァ。いやはや、先立つものが無くては法と正義も名乗り辛かろうが、お前達が派手に動けば、そこら辺も明らかになる可能性があり、翌日はアルチェ中が騒ぎになる。しかも、あそこの上層部はプライドが高い。勇者が絡んだと知ると、後々面倒なことになるのは容易に想像できてしまうのでなァ」
 どうやらとんでもないことを聞いてしまったようだ。黙ってはいられない案件ではあるが、然し、逆に黙っていた方がいいこともあると、ヴィミラツィカは言っているのだった。

「話を戻そう。この遊覧船の持ち主は用心棒を雇っているのだが、彼等がアルチェの沖合の魔物を退けていると考えて間違いない。頑張れば倒せないことは無いが、町中でまともに剣を交えれば、確実に騒ぎになって警察がやってくるだろう」
 近づく上で障害となることは確かだが、騒ぎを起こしてはならない以上、どのように対処したものだろうか。
「周辺の地理だが、港湾に面したところに事務所と、規模の大きな倉庫が隣接している。事務所は8人の従業員が作業を行っており、幾つか小さな部屋があるようだ。倉庫は船の修理場も兼ねておりそこそこ規模はある。事務所より数倍は大きいな。次に遊覧船は倉庫に近い位置に係留されている。遊覧船の規模は20人は載せられる程度で、まァ大きすぎることも小さすぎることもないな。周辺は他の業者の施設で囲まれており、あまり片付いていないのか、所々に様々な大きさの空の木箱が積み重なっているな。また、お前達が着く頃にはそこそこに雨が降っているだろう」
 大まかではあるが重要な情報には違いない。周辺の施設や木箱は身を隠すのに使えないだろうか?
「次に用心棒だが、多くて7人程と見ている。あまり素行は良くないが、アルチェの沖の魔物を退ける程度の強さは持っている。彼等の配置だが、基本的に外に出ているのは3人だけ。倉庫周辺に2人、事務所前に1人と言った具合か。決められた時間に事務所内に待機している別の奴と交替しているようだ。そして、夜中に遊覧船を出した時には、5人乗り込んだそうだ。残りの2人は事務所の留守番だ」
 警備にあまり隙はなさそうだ。どのようにしてこの傭兵たちを相手にするかがカギとなりそうだ。
「最後に、何をすべきか3つ提示するぞ。1つは事務所内で何かしら証拠を見つける。2つは倉庫内に侵入して積み荷を検める。3つは、夜の遊覧船に乗り込んで直接確かめる。どれか一つでも達成できれば課題は合格としようか」
 課題と言うには、何だかコソ泥か探偵のようだ。騒ぎを起こすわけにはいかないとはいえ、何だか腑に落ちない。
 不満そうな様子の生徒を見て、ヴィミラツィカはくっくと笑った。
「まァ、黒幕・暗躍コース向けの課題を想定していたのでなァ。戦いは力のみに非ず、知恵や発想力で敵をやり込めるのもまた強さと言うものだぞ」
 そう言われると何となく格好良さそうにも聞こえてくる。
 この課題を受けようかどうかと悩んでいたところで、ヴィミラツィカはふと何かを思い出し、呟くように言った。
「……そう言えば、アルチェの近海で活動している海賊たちが、ある時期を境に急に鳴りを潜めたらしい。大体、今年に入ってからだろうか。アルチェの司法警察などが動いたわけでもないのになァ」
 海賊とは、また急なワードが飛び出してきたものだ。つまり、海賊が今回の課題と関係しているという事なのだろうか?
「悪いがそこまでは分からんよ。まァ何にしても、お前達がこの課題で関わることなどあるまい」
 それなら余計なことを呟かないでほしいが、然し何となく嫌な予感はする。注意するに越したことはなさそうだ。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2021-09-26

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2021-10-06

登場人物 2/6 Characters
《新入生》ティムール・アスタホフ
 ヒューマン Lv12 / 黒幕・暗躍 Rank 1
■名前/愛称■ ティムール・アスタホフ/ティム ■容姿■ 見た目→やや高めの童顔細マッチョ 髪 →薄紅梅で赤メッシュ 瞳 →紺碧の切れ長 服装→きっちりとした服、ロケットペンダント ■好き■ 戦い、訓練、甘いもの、赤いもの ■嫌い■ 暇、苦い ■趣味■ 訓練、甘味を食す、小物作り ■敬語■ 使えない訳では無いが苦手 ■性格■ クールというかぶっきらぼう ■サンプルセリフ■ 「俺はただ強くなりたい。強くなって、やりたいことをやる。」 「甘味か、いただく。」 「うるさい…騒ぐな」
《新入生》シアン・クロキ
 ルネサンス Lv12 / 黒幕・暗躍 Rank 1
「おいらはシアン・クロキ。よろしくなのだ。ん?誰がちびなのだ。お前さんが大きいのだ。」 「こら、耳を引っ張るな、やめるのだ」 ■容姿■ 身長→小学校低学年サイズ 瞳 →紫。瞳孔は✕型。 髪 →黒色のショートカット 動物→うさぎ 耳 →ロップイヤー 服装→ワイシャツ、ショートパンツ、サスペンダー、ブーツ ■性格■ 背が小さいのでなめられないように必死。 かわいいものや甘いもが好きだが、ばれないようにしてたり、わざとぶっきらぼうな態度をとっている。 そのせいで、基本ツンツンしているように見られてしまう。 仲良くなれば甘えてくるかもしれない。 ■サンプルセリフ■ 《基本》 「ジロジロ見てなんなのだ。言いたいことははっきり言えなのだ。」 《仲良し(低)》 「なんだ、お前さんなのか。何か用なのだ?用がないなら、あまり見ないで欲しいのだ。」 《仲良し(中)》 「もう少し付き合ってやってもいいのだ。え、いらない?そ、そうなのか…」 《仲良し(高)》 「遅いのだ!どれだけ待たせるのだ。って、別に待ってなんかないのだ。勘違いしないで欲しいのだ!!」 ■趣味■ カードゲーム、ボードゲーム ■好き■ ニンジン、かわいいもの、あまいもの、紅茶 ■嫌い■ 身長を馬鹿にする人、耳を引っ張られること、ちびと言われること ■苦手■苦いもの、兄、姉 ■口調■ 一人称:おいら 二人称:お前さん。お前さんら。苗字呼び捨て

解説 Explan

 アルチェ沖の謎の小さな明かりと、夜ごとに消える遊覧船の謎の真相を探ってください。但し、騒ぎを起こすなどをしてアルチェの司法警察に、フトゥールム・スクエアが関与していることがばれると失敗となります。
 その為、監視や潜入といった静的な行動が重要となります。但し、司法警察がシナリオ中に何かしら絡んでくることはありませんので、その点は懸念する必要はありません。
 目的はヴィミラツィカが述べたように、『事務所へ侵入し手掛かりを探る』、『倉庫へ侵入し積み荷の中身を確かめる』、『遊覧船に乗り込んで何が行われているかを確かめる』の、3つの内のいずれかを達成すれば課題は成功となります。2つ以上成功させることができれば、評価がより高くなります。
 用心棒たちの強さは、レベル10程度の勇者に匹敵します。然し、特殊な技能を持ってませんので、何かしら搦め手などを駆使すれば苦戦する相手ではないでしょう。
 また、海賊について懸念する必要はないとヴィミラツィカは言っていますが、参加者のプラン次第では特別な何かが起こる可能性があります。少なくとも、参加者にとってマイナスとなるイベントではありません。
 展開次第では戦闘となることも考えられますが、戦闘に関するプレイングよりも、調査や潜入に関する行動に重きを置いてプランを作成すると良いでしょう。

 それでは、後悔なき選択を。


作者コメント Comment
 大体9か月ぶりでしょうか。お久しぶりです、機百です。
 何とかして一般的な勇者の活動とは異なる課題を出すのに大いに悩んだ結果、こんな感じのものになりました。
 まぁ、他にも赤い靴に無駄に足を引っ張られたりして、無駄な時間ばかりを過ごしたりもしたのですが……それはまあ、どうでもよろしいですね。
 一応、連作物のシナリオとなる筈です。途中で力尽きない限りは。
 さておき、お付き合いいただければ幸いです。


個人成績表 Report
ティムール・アスタホフ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
○目的
1.倉庫へ侵入し積み荷の中身を確かめる
2.事務所へ侵入し手掛かりを探る

○行動
味方が、情報を集めてくるまでは、目視で異常がないかを確認。
味方が戻ってきたら、中の様子と外の様子を情報共有。

共有が終わったら、行動開始。
味方が積み荷の中身を確認している間、周辺警戒。
「隠密」で隠れながら、「掠め取り」で無力化していく。
撤退する必要がある時は、「ヒ8」などを使って撤退する。

味方が任務を終えるまで、手出しをさせない。
接敵はなるべく控える。

○戦闘
「睡蓮の舞」を利用する
近距離で攻撃をし続ける

シアン・クロキ 個人成績:

獲得経験:97 = 65全体 + 32個別
獲得報酬:3000 = 2000全体 + 1000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
今回は積み荷を確認しに行くのだ。可能なら、事務所にも向かおうと思ってはいるのだ。

手筈としたら、まずはおいらが、「動作察知Ⅰ」「聴覚強化Ⅰ」で中の様子を探るのだ。
どう動くのかとか、何を話しているのか聞き取るのだ。
2人と聞いているので、きっと何か情報を落としてくれると……思うのだ。
ばれそうになったら、「ル6」で跳躍して逃走するのだ。

味方と合流したら、「隠密」で潜入開始。
「沈黙影縫」は、事務所に潜入することがあればやるのだ。
おいらの仕事は、積み荷の中身を確認すること。
持って帰れそうであれば、バッグに入れて持ち帰るのだ。
周辺警戒は仲間に任せるとするのだ。

リザルト Result

 2人が到着した時、アルチェは薄く曇っていた。
 まるで漁師達の形なき不安が曇天を呼び寄せたようだった。
「この手のは久々だ」
 何気なしに【ティムール・アスタホフ】は呟いた。
 突然の言葉に【シアン・クロキ】は目を丸くしてティムールの顔を見つめた。その表情は出発前と何ら変わりなく見える。
 が、すぐにシアンは得心した。
「おいらに任せるのだ」
 短い言葉でティムールの心情を察したつもりではないが、少なくともシアンもティムールを信用して言葉を返した。
「分かっている」
 その時、前から誰かが歩いて来るのが見えた。特徴的な制服と厳めしい顔つき。2人には誰なのかすぐに分かった。
「……」
「……」
 2人は黙ってその男とすれ違い、やがて通り過ぎる。
 特に緊張する必要はない筈だが、事前に聞かされた話を思い出すとあまりいい気分ではない。
「早く行くのだ」
「ああ」

●潜入
 港の係船岸を添うように歩いていくと、やがて目的の遊覧船業者の施設が見えてきた。ティムールとシアンはすぐ近くの別の建物に身を潜め、様子を窺った。
 事前に聞いた通り、どこか物々しい恰好の人物が見られた。事務所の前に1人、倉庫の周辺には2人。内1人が退屈そうに欠伸をしていた。
「確かに妙だな」
 ティムールは確かな違和感を感じていた。ここへ来るまでに他の同業の施設を見てきたが、用心棒に警備などをさせているところはなかった。見てきたのは精々、倉庫の扉に鎖と錠前をかけてがっちりと閉じているくらいだった。
「では早速、様子を見てくるのだ」
「分かった。俺はここから外の様子を探る」
 足音と気配を隠して先を進むシアンを、ティムールは見送った。

 シアンは倉庫の周りに無造作に積まれた木箱の陰に身を潜め、倉庫の入り口の近くに立つ用心棒を注意深く見ていた。
 これだけ状況が落ち着いているなら、用心棒の動作と息遣いも十分に把握できる。問題は、倉庫に侵入する目途が立っていないことだった。用心棒がどこかに行ってくれなければ、手も足も出せない。
(然し焦っては事を仕損じるのだ)
 頬に汗が伝う。張り詰めた糸のような緊張感が心を支配していた。
 一刻一刻と時間だけが流れていく。そのくせして、用心棒は何とも怠けたようにまた欠伸をしていた。
 だが、用心棒に動きがみられた。懐から何かを取り出したのを、シアンは見逃さなかった。
 それは、ポケットに入れて携行するお酒用の水筒だった。用心棒が蓋を開けて呷ろうとしたが、顔をしかめて閉めてしまった。どうやら中身を切らしていたらしい。
 するとこの用心棒はこっそりと持ち場を離れてどこかに行ってしまった。
(職務怠慢なのだ)
 然し今はそれが喜ばしい。シアンはすぐに周囲の安全を確認すると倉庫の扉の前に立ち、物音と気配を探った。
 中に明確な人の気配はない。だが、無人の倉庫というには何か得体のしれない違和感を感じた。
 続けて扉の隙間から中の様子を窺う。やはり人がいるようには見えない。だが、集中して耳をそばだてていたシアンの耳に、うめき声のような何かが聞こえてきた。
(!?)
 扉越しに聞いたものだから空耳だったかもしれない。然し、それにしては嫌な生々しさがあった。それに、うめき声が聞こえる箱を運んでいるという話が脳裏によぎった。
 急ぎ、ティムールと合流したシアンは、簡潔に情報を伝えた。
「なるほど。そのまま入って大丈夫か?」
「中に気配はないのだ。急ぐなら今なのだ」
「分かった。それにしても怠惰な用心棒だった」
 ティムールも例の用心棒のことをしっかり見ていた。ティムール曰く、例の持ち場を離れた用心棒だが、他の仲間も見て見ぬふりをしていたらしい。これなら、戻ってくるまでしばらく時間があると2人は考えた。
「だが、終えるまで油断はするな」
「分かってるのだ」
 1秒が惜しい。シアンの後を追うようにして、ティムールも足音を隠しながら後を追った。

●奪取
 倉庫の扉の前に立ち、シアンはもう一度中の気配を窺った。注意深く気配を探り、やはり気配はないことを感じ取った。
「どうだ?」
 ティムールは周りの気配を探りながらシアンに問う。 
「大丈夫そうなのだ。早く入るのだ」
 シアンは扉の隙間を影のようにするりと入り込み、ティムールも倣った。
 倉庫の中には、ある程度整頓されている木箱が積まれていた。他にも周りには食料の入った布袋や、液体が入っていると思わしき樽が積まれているくらいだった。
 確かに人の気配はなく、不気味なまでに静寂が倉庫の中を支配していた。この中から、怪しい積み荷を検めなければならない。
「俺は辺りを見張る。手早く頼む」
「任せるのだ」
 ティムールは柄に手をかけつつ外や周囲を警戒し、シアンは注意深く木箱を探り始めた。

 手近にあった木箱には封がされておらず、中身も果実や衣類だったりと、特に不審な点はなかった。
 変哲のない中身にシアンは首を傾げたが、恐らくこれではないのだろう。そう思った時、ティムールがシアンを呼んだ。
「どうしたのだ?」
「……あっちの奥の方の木箱だ。少し揺れたような気がする」
 そう言ってティムールは、倉庫の奥の一角の木箱の山を指さした。他の木箱よりも、より強固なつくりになっている木箱だった。それも、人一人くらいは簡単に入りそうなくらいの大きさで、何故か棺を想起させた。
「揺れ、なのか?」
「何かは分からないが、気を付けた方がいい」
 得心したシアンはすぐにティムールが指さした木箱を調べに行った。ティムールも、シアンを視界の片隅に入れられる位置に立ち、より一層警戒を強めた。
 シアンが駆けつけると、確かに木箱が一瞬、『ガタッ』と音を立てた。どうやら、目当てのものはこれと見て間違いない。
 意を決して、シアンは木箱の蓋を開けた。

『んん、んんーー!?』

「っ!」
 箱の中に居たのは、猿ぐつわと目隠しを付けられ、荒縄で厳重に拘束された人だった。思わぬうめき声に、シアンは咄嗟に木箱に蓋をした。
 すると共鳴するように、他の木箱からも同じようなくぐもったうめき声が聞こえてきたが、程なくして静かになった。
 シアンはすぐにティムールの側に戻った。
「俺にも聞こえた。用心棒には聞かれていないようだ」
「そうなのか。然しあれは、すぐに助けられないのだ……」
 中にあるものが学生鞄に入るものならシアンは助けるつもりだったが、事態は想像を上回っていた。
 あのように拘束した人を、沖合まで運んで何かをしているのだろうか?
「一つは目的を達せたが、どうする? ここと事務所は繋がっているようだが」
 そう言ってティムールは倉庫の端にある扉を指し示した。方角的には事務所の方に繋がる扉だが、どう繋がっているかまでは分からない。
「行くのだ。サポートを頼むのだ」
「分かった。あまり無理はするな」

 シアンは『沈黙影縫』を用い、そっと扉を開けて先行した。
 後を追うようにティムールも扉に入り、事務所の中の様子を窺った。やや見通しは悪いがそれほど広くはなく、遠い所から品のない笑い声が聞こえてくる。やはり怠慢なのだろう。
(可能な限り、やってみるか)
 ティムールも倣うように『沈黙影縫』をして、そっと移動を始めた。
 まず最初に、手近なところにあった扉に意識を傾ける。いびき交じりの寝息が聞こえると、安全を確認してそっと開けた。
 部屋の中では2人の用心棒がソファーに雑魚寝していた。寝泊まりする場所がないからこんなところで寝ているのだろうか?
 ともあれ、これだけ隙だらけなら無力化も容易い。ティムールは2人の側にあった武器を取り上げると部屋から持ち出し、扉を適当な板きれで簡単にロックし、倉庫まで戻って適当な木箱の中に隠した。
(これで脅威は3人か)
 ティムールは再び事務所の方に戻ろうとした時、騒ぎ声が聞こえてきた。
 シアンが見つかったのか? ティムールは気配を殺しつつ駆け付けた。

「ど、泥棒だ! たたた助けてくれ!」 
「泥棒じゃないのだ!」
 やはり見つかってしまったらしい。ある部屋目掛けて用心棒が3人殺到しているのを見て、咄嗟に行動に移していた。
「こっちだ!」
 ティムールが声を張り上げつつ用心棒の一人に一気に肉薄し、大きく加減した『睡蓮の舞』の一撃を見舞った。思わぬ方向からの声に用心棒達は気を取られ、一撃を受けた用心棒は気絶した。
 浮足立った用心棒を無視するように脇を抜け、声がした部屋に向かうと、シアンは帳簿らしきものを小脇に抱えつつ窓のサッシに足をかけていた。
「さらばなのだ!」
 そう言ってシアンは、貧弱そうな男を後目に高く跳躍して外へ逃げた。
 シアンが逃亡できたのなら、これ以上付き合う理由はない。ティムールも同じ窓から飛びあがって、シアンを追った。

 その後、学園にてシアンが持ち去った裏帳簿と、積み荷の中身を知らせることで課題は成功となった。
 それから遊覧船業者は、匿名の情報提供を受けたアルチェの司法警察に、人身売買の容疑で摘発された。最後にシアンが持ち出した帳簿が証拠の決め手になったという。



課題評価
課題経験:65
課題報酬:2000
Miroir ―Nuageux
執筆:機百 GM


《Miroir ―Nuageux》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 シアン・クロキ (No 1) 2021-09-25 22:30:47
おいらはシアン・クロキ。よろしくなのだ。