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沖合一本勝負!


ストーリー Story

●嵐の夜に。
 とある漁村。
 男たちは明かりを手に外へ出る。
 叩きつけてくる雨粒で目の前がよく見えない。雨合羽が風をはらみ、ばたばた大きな音を立てる。
「ひどいしけだな」
「ああ。こりゃあ、今晩いっぱい続きそうだ」
 港には漁船が繋いである。何かあったら大きな損害だ。波にさらわれないように、もやい綱をきっちり結び直しておこう。
 そんなことを考えながら彼らは、通い慣れた道を走って行く。
 秋も終わりの雨は冷たく、骨に染みてくる。体から白い湯気が上がる。
 港が見えてきた。
 ……何やら大きな塊が浮いている。
 暗いので詳細が分からないが、毬のように膨らんで丸い。そして黒い。
「おい、なんだえ、ありゃあ――」
 それは波にもまれるままに、右へ左へ揺れ動いている。その様子から見るに、どうも生きていないようだが……。
「おい、船にぶつかっちょるぞ」
「いかんな。なんとか港の外に出せんか」
 男たちは長い棒を手に手に持ってきて、なるべく船に近寄らせまいと、苦心惨憺頑張った。
「えいくそ、向こうに行け!」
「こっちに来るな!」
 しかし風も波もあまりにも強い。
 おまけに黒い物はぶよぶよぬるぬるしていて、突いた棒がするりと外れてしまう。
 そして……なんだか臭い。
 そこに至って皆は、これはもしかして大きな魚か、トドか、セイウチか、そういったものの死骸ではないかと思い始めた。
「なにもここへ流れつかんでよさそうなものをなあ」
「えいくそ、どうしたらええだ」
 口々に言い合っていたそのとき、誰かが名案を思いついた。
「ひとまず固定してしまうというのはどうじゃろ? 縄をつけたモリをあれにぶっさしてよ、そのへんの岩や木に端をくくりつけておけば、とりあえず船にぶつからんように出来るんじゃないか?」
 なるほど。それはかなり有効そうだ。
 ということで皆は家に引っ返し、モリと縄を取ってくる。
 黒い塊目がけてそれを投げ付ける。
 モリの幾つかが、黒い塊にずぶりと刺さった。
「よーし、うまくいったぞ!」
「引け引け!」
 刺さったモリの綱を皆で引く。端をがっちり陸に繋ぎとめる。
「やれやれ、これで何とか、嵐が去るまで持つじゃろ」
「波が収まったら、改めて沖合へ捨てに行くことにしようじゃないか」
「そうだの。こんなものが港にあっては邪魔だし、第一匂いがひどいでな……」

●翌朝。台風一過。
 子供たちは昨晩親達から聞いた話を思い返しつつ、港へ駆けて行く。
 いち早く問題の代物――黒くて丸い何か――を見たかったのだ。
「あ、あった!」
「うわあ、ほんとにくっせえなあ」
「なんだろ、これ……」
「でっかい魚が腐ったのだってよ」
「ほら、ヒレみたいなのがある」
「あ、ほんとだ」
「目はどこかな」
 皆でわいわいやっているところへ、父親たちが来る。
「こりゃ、お前達離れい。これから捨てにいくのじゃから」
 子供たちは散り散りに離れて行く。
 といっても興味があるから、よそへ行ったりはしない。怒られないよう距離を取りつつ成り行きを見守る。
 父親たちは塊を結び付けた綱を解き、それぞれの船の尻に結び直す。港の外へ引っ張って行くために。
「それにしても、ほんに臭いのう」
「鼻が曲がりそうじゃわ」
「何の魚かね」
「何でもいいさ。こんだけ痛んでたら、食えやしねえんだもの」
 やいのやいの言いながら順調に事を進めていたそのとき――突然丸いものがクルッと動いた。
 黒い体の両側についていた切れ込みが開く。
 散々黄色く濁った魚の目。それが確かに動いた。自分の周りにいる人間を見た。
 次の瞬間猛スピードで沖へ出て行く。繋がった小船を引き連れて。
「わ、わ、わ!?」
「大変だ、とっちゃんたち連れて行かれたー!」
「村に知らせないと!」
 子供たちは全速力で来た道を戻って行く。助けを呼ぶために。
 知らせを受けた村人たちは、これはただならぬ事と、学園へ救援要請を行った。

●追いかけて。
 【ガブ】、【ガル】、【ガオ】及び生徒達は、漁村の人々が仕立ててくれた小船に乗り、沖合に出ていた。正体不明な何かに連れ去られた人々を救助するために。
 どこだ、どこだ、どこだ……。
「――おい、あれじゃないのか!」
 見つけた。
 大きな黒い魚がものすごい勢いで、小さな円を描き泳ぎ回っている。
 くっついている4、5隻の船は当然のことながらもみくちゃ。乗っている人間は、今にも振り落とされそうだ。
 ガブは首を傾げる。
「何してやがんだ、あいつ?」
 それに対して別の生徒が言った。正確なところを。
「もしかして、人間を振り落とそうとしてるんじゃないか?」
「何のためにだよ」
「そりゃ……食うためじゃないか?」
 ガブたちはもう一度黒い魚を見た。
 腐敗して相当に色が変わっているが……なんだかようく見たら、あの生き物はもしかして……。
「オイ、あれフラッシャーじゃないか!? 腐り過ぎて真ん丸になってるけど!」
 その指摘は確かに当たっていたようだ。なぜかと言うに黒い魚が、宙に浮いたから。
 漁師が粘るので業を煮やしたらしい。今度は浮いてぐるぐるスピンし始める。何か飛びちった――どうやら腐った肉体の一部らしい。
 これにはさすがに持ちこたえられず、6人ばかりの乗員がいっせいに船から弾き飛ばされた。







エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2021-11-25

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2021-12-05

登場人物 3/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《人間万事塞翁が馬》ラピャタミャク・タラタタララタ
 カルマ Lv22 / 魔王・覇王 Rank 1
不気味で人外的な容姿をしたカルマの少女。 愛称は「ラピャ子」や「ラピ子」など。 名前が読み難かったらお好きな愛称でどうぞ。 性格は、明るく無邪気でお茶目。 楽しいと面白いと美味しいが大好き。 感情豊かで隠さない。隠せない。ポーカーフェース出来ない。 そしてちょっと短気なところが玉に瑕。 ギャンブルに手を出すと確実に負けるタイプ。 羞恥心を感じない性質で、露出度の高い衣装にも全然動じない。 むしろ前衛的なファッション格好いいと思ってる節がある。 戦闘スタイルは我流の喧嘩殺法。 昔は力に任せて単純に暴れるだけだったが、 最近は学園で習う体術を取り入れるようになったらしい。 しかしながら、ゴリ押しスタイルは相変わらず。 食巡りを趣味としているグルメ。 世界の半分よりも、世界中の美味しいモノの方が欲しい。 大体のものを美味しいと感じる味覚を持っており、 見た目にも全く拘りがなくゲテモノだろうと 毒など食べ物でないもの以外ならば何でも食べる悪食。 なお、美味しいものはより美味しく感じる。Not味音痴。 しかし、酒だけは飲もうとしない。アルコールはダメらしい。 最近、食材や料理に関する事を学び始めた模様。 入学までの旅で得た知識や経験を形に変えて、 段々と身に付いてきた…と思う。たぶん、きっと、おそらく。
《新入生》ルーシィ・ラスニール
 エリアル Lv14 / 賢者・導師 Rank 1
一見、8歳児位に見えるエルフタイプのエリアル。 いつも眠たそうな半眼。 身長は115cm位で細身。 父譲りの金髪と母譲りの深緑の瞳。 混血のせいか、純血のエルフに比べると短めの耳なので、癖っ毛で隠れることも(それでも人間よりは長い)。 好物はマロングラッセ。 一粒で3分は黙らせることができる。 ◆普段の服装 自身の身体に見合わない位だぼだぼの服を着て、袖や裾を余らせて引き摺ったり、袖を振り回したりしている。 これは、「急に呪いが解けて、服が成長に追い付かず破れたりしないように」とのことらしい。 とらぬ狸のなんとやらである。 ◆行動 おとなしいように見えるが、単に平常時は省エネモードなだけで、思い立ったときの行動力はとんでもない。 世間一般の倫理観よりも、自分がやりたいこと・やるべきと判断したことを優先する傾向がある危険物。 占いや魔法の薬の知識はあるが、それを人の役に立つ方向に使うとは限らない。 占いで、かあちゃんがこの学園に居ると出たので、ついでに探そうと思ってるとか。 ◆口調 ~だべ。 ~でよ。 ~んだ。 等と訛る。 これは、隠れ里の由緒ある古き雅な言葉らしい。

解説 Explan

今回は、簡単な魔物退治のお題。
『魔物・ゾンビフラッシャー(一匹)と戦い撃破せよ』です。

ゾンビフラッシャーの能力は、フラッシャーと一緒です。

以下、WORLD『外敵一覧』より転載

――――

【格】
 3
【生態】
 名前の由来は「フライングシャーク(飛翔する鮫)」。
 海に住む生物の特性を真似て作られた魔物。
 基本は水棲生物だが、噛みついたら離さない鋭い牙と、
 短時間なら水中から飛び出しても、浮遊し活動出来る汎用性を持つ。
【本能】
 獰猛で好戦的。
 知能は低め。
【属性得意/苦手】
 水/雷
【得意地形】
 空中、水中
【戦闘スタイル】
 高速で泳ぎ敵に噛みつく。
 水中に引きずり込み噛みちぎる。
 地上では噛みついた敵を地面に打ち付ける、など。
【状態異常】
 氷結


――――



ただ体が腐っているので、痛覚が鈍いです。ほとんど感じないといっても過言ではありません。
死んだふりして人間をおびき寄せる技を心得ているあたり、普通のより頭もちょっといいのかも知れません。
どっちにしても危険な魔物ですので、始末の方、よろしくお願い致します。
冬の海は寒いです。
仕事が終わったら、浜でふるまいを受けましょう。村の方々が、たき火と熱い海鮮汁を用意して待ってくれています。

NPCは【ガブ】【ガオ】【ガル】が同行致します。


※これまでのエピソードやNPCの詳細について気になる方は、GMページをご確認くださいませ。
そういうものが特に気にならない方は、確認の必要はありません。そのままプランを作成し、提出してください。エピソードの内容に反しない限り判定は、有利にも不利にもなりません。




作者コメント Comment
Kです。
今回は分かりやすい救助依頼。
単発ですので前後の話を考える必要はありません。
のびのびと(?)敵をぶっ叩きに行きましょう。
事後は浜で漁師メシを食べることが出来ます。




個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
ラピャタミャク様がフラッシャーを足止めして下さる間に海に落ちた方々を助けて船に上げますわね。それが済んだら私も船に上がって攻撃を

手の届く範囲なら魔牙Ⅱ、空を飛ぶ場合はドドーガで攻撃してみます

船の上は揺れると思いますが、運動神経でなんとかバランスをとってみます。もしフラッシャーがヤバいと思って飛んで逃げようとした時は、狼ズに階段になってもらい、精神統一で力を上げ立体機動を用いて駆け上がってジャンプ、空中でフラッシャーに全力攻撃を叩き込みますわ

上手く勝てたら、振る舞い料理の際は感謝しつつ頂きますわ。寒いしお腹も空いていますし最高ですわね!踏み台にしたお詫びに狼ズには酔いどれ饅頭を差し上げますわ

ラピャタミャク・タラタタララタ 個人成績:

獲得経験:90 = 60全体 + 30個別
獲得報酬:2250 = 1500全体 + 750個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
村人の救助
ゾンビフラッシャーを退治

■行動
まずは海に投げ出された村人を救わねばじゃの。
あちきは陽動。
大海原のパンツの効果を発動させて海に飛び込み、雷装を纏って斧で鮫を攻撃し注意を引き付けるのじゃ。
鮫がこちらに向かってきたら、電結変異で回避力上げて噛み付かれないように対応。
もし噛み付かれたらイド・パラリジアで反撃して抜け出すのじゃ。
腐り鮫、汝の相手はこのあちきなのじゃ!

村人の救助が済んだら、あちきも船に戻って反撃じゃ。
向かってきたり死んだふりした鮫に合わせて、雷装を纏わせた絶対王セイッ!をブチかますのじゃ。
食らえ!そして眠れ!これが、魔神の一撃というものじゃっ!

ルーシィ・ラスニール 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
ゾンビフラッシャーの撃破

◆救出
まずは仲間と三兄弟が敵の気を引いてる隙に、ロープで落水した漁師達を救助
救助が済んだら、操船を漁師に任せて、船上から敵と応戦

◆応戦
マドガトルで敵を攻撃しつつ、負傷者をリーラブで回復
応戦の主力になる者や、敵の先手を取りたい者が居るならエ4、エ9で援護
応戦中は周辺の状況を把握し、仲間が不意打ちを受けそうなら、声掛けし警戒を促す

敵が姿を消しても油断せず、船底から船を突き上げたりされそうなら、漁師や仲間に船やロープに捕まるよう声掛けし、漁師や仲間が落水しないよう留意

◆事後
温かい焚き火と振る舞いで温まって、漁師や三兄弟と話したりして
これは……サメじゃあねえよな?

リザルト Result

●シャークアタック
ゾンビフラッシャーの姿を目の当たりにした【ルーシィ・ラスニール】は遠慮会釈のない感想を述べる。
「それにしても……くっせえなあ。くさくて気が遠くなりそうだあ」
 【ラピャタミャク・タラタタララタ】もその横で、鼻の下をぐしゅぐしゅこすった。
「う~む、腐りかけが何とやらとは言うが………あれはダメじゃな」
 【朱璃・拝】は何も言わなかったが、かなり憂鬱な気分になっていた。狼ルネサンスである彼女は――【ガブ】【ガオ】【ガル】もそうだが――嗅覚が鋭い。異臭という攻撃に対してのダメージが大きくなりがちだ。
 しかし今はそんなことを言っている場合ではない。ゾンビフラッシャーは人間が落ちたと見るやスピンを止め、再び海に飛び込んだのだ。
 なんのためか。
 もちろん人間を食べるためである。
「おっとこれはいかん! 迅速に退治せねばじゃ!」
 ラピャタミャクは斧を構えなおし、船の縁から海へ飛び込む。狼ズにこう言い置いて。
「海難救助とこぎ手の安全確保を最優先で頼むのじゃ! あちき達が鮫を退治するにしても、守りながらでは満足に立ち回れないからのぉ!」
 彼女は海中に没する。そして走る――――泳ぐではない。『大海原のパンツ』を身につけていれば、そういうことが可能なのだ。
「だりゃあああ!」
 雷装をまとわせた大斧にて、まずは先制攻撃。相手の横っ腹に一撃を加える。
 ゾンビフラッシャーの腐れ肉が一部ごぼっと剥げ落ちたが、当人はそれを苦にする様子はない。ラピャタミャクを攻撃目標として認定し、身をひるがえし向かってくる。
 全身に細かな電流をまとったラピャタミャクは、それをたくみにかわしつつ、船からゾンビフラッシャーを遠ざけて行く。

 ラピャタミャクが敵の引き付けを行っている間に、朱璃とルーシィが救助を始める。
 まずはこぎ手の漁師に、溺れている人々へ船を近づけてもらう。ゾンビフラッシャーに気づかれないよう、背後を回るようにして。
 彼らはそれにすぐ気づいた。体力がまだ残っているものは、自分から救助船へ近づいてくる。
「おーい、助けてくれー!」
「乗せてくれー!」
 朱璃は船べりから身を乗り出し、泳いできた者たちの腕を取って、次々引き上げた。
「大丈夫、私達があれを倒しますわ!」
 ルーシィは泳いでくる元気も残っていなさそうな人々に向け、輪っかを結んだロープを投げる。
「これに捕まるだよ! おらたちが引っ張るでな! ほれ、ガブさ、ガオさ、ガルさも手伝うべ! おらだけではちとパワー不足だで!」
「お、おう!」
 狼ズはルーシィと一緒にロープの端を掴み、力いっぱい手繰り寄せる。
 自力で船に上がってきた漁師たちが、それを手伝う。
「そーれ!」
「引け引け、吊り上げろい!」
 ロープはグングン船の中へ手繰りこまれていく。それにくっついている人間と一緒に。

 ゾンビフラッシャーは自分の餌が次々逃げていることに気づいた。
 ラピャタミャクを追うのを止め、猛スピードで元の場所に戻ってくる。
「うわあ、こっちに来たぞ!」
「早く船に上がれ、早く!」
 ルーシィはマドガトルを、魚影に向けてぶちかました。少しでも接近を遅らせようと。
 朱璃もまた同時にドドーガを発動させる。
 ゾンビフラッシャーは攻撃を避けるため、海中深く潜り込んだ。
 そこにラピャタミャクが追いついてくる。
「こらこらこら、試合放棄はゆるさんぞ! 腐り鮫、汝の相手はこのあちきなのじゃ!」
 ゾンビフラッシャーは水中から海面に飛び上がった。そして頭を逆さにした。
 奇妙な行動を見たルーシィは、ラピャタミャクに声をかける。海の中へ聞こえるかどうかは分からなかったが。
「おうい、気をつけるだよ! 敵は不意打ちしてくるつもりだんべ!」
 ゾンビフラッシャーは、海面目掛け垂直に落下した。さながら急降下で魚を狙う海鳥のごとし。
 先に使った電結変異が響いていたらしい。ラピャタミャクはそれを、完全には避けきれなかった。肩を噛みこまれた。
 しかしその程度で負けはしない。巨大な顎に挟み込まれる痛みを起爆剤にして、至近距離から斧をぶち当てる。
 ゾンビフラッシャーの頭部が一部吹き飛んだ。

 船の上でガブたちが騒ぐ。
「おい、何か浮いてきたぞ」
「魔物か!」
「いや、それにしちゃ小さ――くせえなあおい!」
 一目では正体がよくつかめない。
 朱璃は船に備え付けの鉤竿を持ってきて、浮いているものを引き寄せ、正体を確かめる。
 それはフラッシャーの頭の一部だった。赤黄色に腐り果てた目玉が一個ついており、ぎょろんぎょろんと動いている。
 彼女は無言でそれを空中にほうり上げた。魔牙を打ち込んだ。
 腐った肉片はほぼ抵抗なく飛び散る。非常な悪臭が撒き散らされたが、飛び散ったものが黒い霧へと変わり消えて行くのと同時に、跡も残さず消えてしまった。
 試しに自分の手を嗅いでみたが、残り香はない。そのことに彼女はほっとする。
 そこでラピャタミャクが海から上がってきた。

 ルーシィは上がってきたラピャタミャクにリーラブをかける。
「おめさ、随分やられたなあ。がっつり歯型がついとるべ」
「何のこれしき。かすり傷じゃ」
 朱璃は身構える。ゾンビフラッシャーの追撃を警戒して。
 しかしラピャタミャクを襲ったゾンビフラッシャーは、海面に姿を現さない。
 そのまま沈黙の数分が過ぎる。
 漁師たちは楽観的な言葉を交し合った。
「逃げたんじゃないか?」
「あれだけやられりゃあな」
 だがルーシィはちりちりしたいやな感じを覚える。
「油断しない方がいいべ。まだ近くにいる気がするだでな」
 彼女の予感は当たった。次の瞬間、船に下からの衝撃が来たのだ。一度や二度ではない。何度も何度も。
「皆、落ちないように、なんかそのへんにあるものに掴まるべ!」
 と彼女が言ったとき、がりがりっと不吉な音が聞こえた。
 ガブたちがそちらに顔を向けると、船底に破れが出来ていた。
 更に突き上げがくる。
 バリバリバリっ。
 船の床板破れが広がり、水が漏れ始めた。ゾンビフラッシャーの仕業であることは間違いない。
「やべえ!」
「塞げ、塞げー!」
 漁師たちとガブたちは、有り合わせのものを穴に突っ込んで止水を試みる。
 そこでゾンビフラッシャーが姿を現した。
 海から飛び出し、宙に浮き、船に飛び込んでくる。
 ラピャタミャクはその鼻先目がけ、雷装を纏わせた『絶対王セイッ!』を食らわせた。
「食らえ! そして眠れ! これが、魔神の一撃というものじゃっ!」
 ゾンビフラッシャーの頭がつぶれた。
 残ったほうの目玉が眼窩からポンと飛び出し、涙のようにぶら下がる。
 それと同時に同じ箇所から名も知れぬミミズのような虫やらフナムシのような虫が集団ではい出てきた――そして、日の光に戸惑ったか、ごそごそ引っ込んで行った。
「うっ……」
 殴った当人であるが、ラピャタミャク、ちょっと引く。
 朱璃は蔑むような視線を魔物に向け、挑発した。
「その腐った体はミンチにして腸詰にしても食べられそうにありませんわね」
 直後視線を床に落とし、激しく憂鬱な呟きを漏らした。小声で。
「それにしても直接殴る蹴るする拳士である事が辛いと思う時がくるとは思いませんでしたわ」
 匂いの強烈さにガブたちは、咳き込んでいる。
「……おい、何か体ん中に色々飼ってるみてえだぞ、この腐れ魔物……」
「勘弁してくれよ……」
「……臭すぎて俺、頭痛くなってきた」
 ルーシィは、服の袖で鼻元を押さえっぱなしだ。
 鼻にきすぎて目も痛くなってきた。どうにかならないかと焦るあまり彼女は、ある意味禁断の呪文である『メルルンテ』を発動した。そうしたら劇的な何かが起きるかもしれないと期待して。
 そして、何かは起こった。
 次の瞬間フライングスラッシャーの肉が、度重なる負荷に耐えかね、全てはげ落ちたのだ。
 かくしてフライングスラッシャーは、骨格標本と化す。
 同時に中にいた虫が全貌を表す。
 先程フナムシとミミズといったがそれだけに止まらない。ヒトデっぽいのシデムシっぽいのエビっぽいのウジっぽいのが一塊になってにょごにょご動いている。皆落ちないよう、必死に骨にしがみついている次第。
 昆虫嫌いの人間であれば、いや特に昆虫嫌いでなくとも、鳥肌を覚えてしまう事間違いなしだ。百戦錬磨の勇者さえ、思わず顔が引きつるくらいなのだから。
 しかしゾンビフラッシャーは、自分のそんな惨状に気づく事なく、カチカチ顎を鳴らし人間を威嚇。天高く上昇し頭を下に直立。
 どうやら先ほどの攻撃を、またやるつもりらしい。
 朱璃は狼ズにてきぱき指示を出した。
「はい、一人は立って、一人は中腰、一人は正座して下さいませ!」
 何がだかよく分からないまま、なんとなくそのとおりにする狼ズ。
 彼女は彼らににっこりほほ笑んだ。
「皆様、体は丈夫ですわよね」
 狼ズはこれまた何のことやら分からないまま、頷く。
 朱璃は跳んだ。
 3人の肩を駆け上がって飛ぶ。高く。
「「踏み台かよ!?」」
 三重の叫びに振り向くことなく、垂直急降下してくる相手へ、全力で拳をたたき込む。
 ゾンビフラッシャーは一瞬にして粉々になり――きらっと光を放ち――大爆発した。
「たーまやー」
 手を叩いて囃すラピャタミャク。
 ガブは降りてきた朱璃に聞いた。
「……おい、何で今あいつ、爆発したんだ。スラッシャーに爆発する要素って、あったっけか?」
「そうですわねえ……スラッシャーには多分なかったと思いますわ。でもあれは明らかに腐っていましたから、別物の魔物だと解釈した方が良さそうですわね」
 ラピャタミャクは適当に言う。
「腐った体にガスでもたまっておったんじゃないかの。それが引火して爆発したのじゃろう」
 ガル、ガオが顔を見合わせる。
「ガス溜まってたにしても、ぶっ飛ばされる前に飛び散ってねえか? 最後骨だけだったし」
「な」
 ルーシィは以下のような解釈を示した。
「あれだべさ、きっとお約束っちうのをわかっとったんだべ。古今東西悪役は爆発して終わるもんだでな……そういやおめえたち、最近セムさのお仕事やってっか?」
「何だよ、急に」
「いや、あぶねえことしてねえかとか気になってなあ。おめえたちもお調子もんだから。で、どうなんだべ?」
「最近は、そうだな、グラヌーゼのへんでなんか工事してっから、その警護とか頼まれたかなあ」
「へえ。割と普通な依頼だべな。何の工事だべ?」
「道路工事。街道を通りやすくするんだってよ。旅行客が通りやすいようにするんだとか言ってたな?」
「ああ、言ってた。工事費用は全部『ホテル・ボルジア』持ちだってよ」

●事後のねぎらい
 ゾンビフラッシャーに連れて行かれた人々は、一人もあまさず帰ってきた。
 村は大喜び。早速勇者たちをねぎらう。ひとまずは盛大に火を焚く。
「さあさあ、寒かったでしょう」
「たあんと火に当たってくださいねえ」
 次いで大きな釜で、大量の飯を炊き始める。
 更に大きなナベに、なりは悪いが滋味豊かな雑魚をほうり込む。そして酒、ミソ、出汁。芥子と山椒が隠し味。芋、野菜とくつくつ煮る。
 簡易式のカマドが作られ金網が乗せられ、カキが並べられる。ホタテも。サザエも。じゃこ天も。
 あぶられた貝はぶつぶつ泡を噴いてぱかりと口を開ける。
 そこにちょいと青葉を乗せ酒を垂らすと、それはもう、えもいわれぬよい香り。
「ハイどうぞ。小腹満たしに焼けたのから、どんどん取って行ってくださいましねえ」
 勇者たちはお言葉に甘え、そのとおりにした。フォークであるいは箸で、あつあつの身をえぐり口に運ぶ。
 ラピャラミャクは舌を焦がしながら、頬を膨らませる。
「ほおっ、これはうまいのお。肉厚じゃあ」
「やはりカキは冬に限りますわね。寒いしお腹も空いていますし最高ですわね!」
 ルーシィはじゃこ天を口に運んではふはふしながら、思い出したように尋ねる。
「これは……サメじゃあねえよな?」
 そうこうしているうちに汁が煮えた。
 大ぶりの器に具だくさんの海鮮汁が注ぎ込まれる。
 ほかほかのご飯がどんぶり一杯に盛られる。
 ご飯の上にかけられるのは、刺身と新しょうがの千切り。甘辛い秘伝のしょうゆだれつき。
 ラピャタミャクは意気揚々と漁師メシ片手に、海鮮汁をあおる。
「獲れたてならではの新鮮グルメ、いただきますなのじゃ!」
 口を動かし、啜り、ぷはぁと満足のため息。
「磯の香り、魚介の旨味、そして何より暖かさが海で冷え切った体に染み渡るのじゃ~♪ おかわりいただけるかの!」
「はい、いくらでも」
 朱璃は近くのおかみさんに、声をかけている。
「よろしければ参考までに、このお汁の作り方をお聞かせ願えませんか?」
「ああ、いいよ。まずはね――」
 盛り上がってくると無論、入り用なのは酒類。
 上等な蒸留酒ではない。白く濁ったどぶろく。もちろん村人たちのお手製だ。
「どうです、いっぺえやりませんかね」
「それではいただくとしようか。おっと、狼ズはいかんぞ。ルーシィも。汝らはまだ未成年じゃからの」
 ラピャタミャクの言葉にガブ、ガオ、ガルは、ぶうぶう騒ぐ。
「いいじゃん、飲ませろよ」
「お前こそ明らかに未成年じゃねえか」
「何を言う。あちきはこの中では、誰よりも古株じゃい」
 朱璃は不服そうな狼ズに、はい、と『酔いどれ饅頭』を手渡した。
「踏み台にしたおわびですわ。今回のところはこれでお納めくださいまし」

 この後勇者たちの帰還に際し、おみやげを貰った。
「よかったら、これどうぞ」
「学園の皆さんと一緒に食べてくださいな」
 取れたての鮮魚、干物。佃煮。そして海苔。
 皆は厚く礼を述べ、謹んでそれらを持ち帰り、学園の食堂に収めたのであった。






課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
沖合一本勝負!
執筆:K GM


《沖合一本勝負!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2021-11-19 21:23:14
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《人間万事塞翁が馬》 ラピャタミャク・タラタタララタ (No 2) 2021-11-22 01:03:06
らぴゃたみゃくたらたたららた!
魔王・覇王コースのラピャタミャク・タラタタララタじゃ。よろしくなのじゃ。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 3) 2021-11-22 21:53:25
敵は一体、ですが腐ってもフラッシャーという所でしょうか。とりあえず私の攻撃としては空中に居る時はドドーガ、手が届く所にきたら拳で殴る、という所でしょうか。弱点属性の攻撃方はありませんが、まぁなんとかなると思いますわ。ただ殴るにしろ蹴るにしろ、あまり気は進みませんけれど。

戦闘後のふるまいは楽しみですわね♪何か作れたら私も温かい物を作ってみましょうかしら?

《人間万事塞翁が馬》 ラピャタミャク・タラタタララタ (No 4) 2021-11-23 19:51:19
まずは海に投げ出された村人を救助せねばじゃな。
あちきは先ず海に飛び込んで攻撃を仕掛けて、鮫を足止めしてみるつもりじゃ。
大海原のパンツで短時間だが身動き取りやすいじゃろうからのぉ。

その後は船に戻って、同じく間合いに入ったところを斧で迎撃する感じじゃな。
雷が弱点なら、雷装が有効じゃろうし使っていくとしようかのぉ。

《新入生》 ルーシィ・ラスニール (No 5) 2021-11-23 23:15:52
挨拶さ遅うなってすまねえだ。
おらぁ、賢者・導師コースのルーシィいうだ。よろしく頼むだよ。
おらは、マドガトルで敵さ攻撃したり、リーラブで回復したりするでよ。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 6) 2021-11-24 19:21:31
ラピャタミャク様が足止めして下さるなら、その間に落ちた方々の救助を致しますわ。

攻撃は先述の通り、空中に居る時はドドーガ、手が届く所なら魔牙Ⅱで攻撃してみますわ。もし空を飛んで逃げようとしたりした時は狼ズに協力してもらおうかと思っておりますわ。逃げなければ不発になるとは思いますが。