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天使少女と黒猫のケットシー


ストーリー Story

 ケットシー。
 一見すると、ただ一回り大きいだけの猫。
 獣人族と妖精族の特徴を真似て作られた魔物ながら、昨今を賑わす歌姫然り、知ってか知らずか飼い猫にしている家も少なくない。
 だから学園に迷い込んで来る猫ないし、探して欲しいと頼まれた猫がケットシーだった、なんて事も少なくはなくて。
「ん? あらまぁ」
 ベンチで休んでいた【白尾・刃】(しらお じん)の前に、小さな女の子が歩いて来る。
 若干人見知りをしてビクリと体を震わせたが、パパの同級生とわかって小さく会釈。誘われるまま、刃の隣に座る。
「パパはまたお仕事か?」
「うん。アリエッタ、おるすばん」
「そっかぁ、偉いなぁ。で、その子はどうしたん?」
 ベンチに座った【アリエッタ】の膝に座るようにして、抱かれる猫が一瞥を配る。
 ケットシーだと気付いたのはそのときで、刃は視線を交えて腹の内を探ったが、猫のフリを止めるつもりは無さそうで、すぐさまとんだ杞憂だと警戒を解いた。
「こぉてぇで、歩いてたの。アリエッタのとこ来て、ついて来るんだよ?」
「そっかぁ」
 黒い毛並みは整えられている気配があるし、翡翠色の双眸も人に慣れていそう。
 首輪など付けている訳ではなかったが、どこかで飼われている猫なんだろうなと察した。
 時折配られる一瞥が、私を主の元へ返せと訴えているようで、勝手に想像しておいて勝手に生意気だなと思って、勝手にアリエッタに捕まったケットシーに対して、少しだけだがざまぁみろなんて思う刃は、ふと柱の上にあった時計を仰ぐ。
「しゃあない。女の子一人残して行く訳にもいかんし……報酬はシルフォンスから貰うとして……はぁ。そっちは、うちの問題か。なぁ、アリエッタ。その猫は、どこかの飼い猫かもしれん。一緒に、飼い主を探しに行くか?」
「……うん! 行く!」
「そぉかぁ。やっぱ偉いなぁ、アリエッタは。パパに似とるわぁ」
 パパに似てる。
 そう言われた少女は、嬉しそうにはにかんだ。
 血縁関係はないし、彼女が勝手にパパと呼んでいるだけなのだが、それほど彼女の父は、あの不愛想な天使と似ているのか。それとも、純粋に彼に似ている事が嬉しいのか。
 まぁ、彼女が可愛らしいことには違いないのだけれど。
「ほな、依頼出して助っ人を何人か呼んで来よか。アリエッタもおいで。人が集まるまで、ビスケットでも食べながら待ってよやないの」
「うん!」
 まぁおそらく、このケットシーは放っておいたところで家族の元へ帰れるのだろうけれど、アリエッタが強く抱き締めている辺り、無理に引き離すと泣いてしまうかもしれない。
 今はパパも、パパの相方であるカルマもいないので、泣かせたとなると困ってしまうし、そもそも泣かせる気なんてまるでない。
 最悪、飼い主の元へはケットシーが勝手に帰るだろう。
 後をついて歩くだけでもいいし、とにかくアリエッタが納得出来る別れ方がベストだ。そんなわけで、小さな天使とのケットシーの飼い主探しが、始まったのである。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2021-11-21

難易度 簡単 報酬 少し 完成予定 2021-12-01

登場人物 2/4 Characters
《2期生》ナイル・レズニック
 アークライト Lv12 / 賢者・導師 Rank 1
「やぁ、ぼくはナイル。ナイル・レズニックさ。この布?かっこいいだろう?」 「顔が見たい?ふふ、タダじゃ見せれないね。ごめんね。」 【容姿】 体型→細マッチョ 髪 →黒髪 瞳 →桃色/猫目 服装→キャスケット帽、雑面 【好き】 魔法、散歩、料理 【性格】 優しい 【雑面】 いつも雑面をつけている。 雑面のイラストはコロコロ変わる。 雑面の下は見せようとはしない。 顔にできたケロイドを見せたくないから。
《新入生》キィ・トリークル
 ヒューマン Lv8 / 賢者・導師 Rank 1
「困ったことがあれば、ウチに相談するといいのだ!」 ■容姿■ 見た目:幼女 髪:ショートヘア ■性格■ ・長所 元気で明るい性格。好奇心旺盛。 人懐っこく、誰とでもすぐ打ち明けられる。 大人の知識をさらっと当たり前の様に語る。 ・短所 承認欲求が強く、 自分が必要とされない事を何よりも恐れる。 自分で自分の価値が分からない他者準拠な悲しい性格。 年相応の子供っぽいところ。 ■口調 ちょっと片言の様な幼い口調で話す。 話し方は偉い人であっても基本変わらない。 ~なのだ(口癖) 二人称:名前、お前(敵に対して) ■サンプルセリフ ・ウチはお腹が空いたのだ ・これが本末転倒というやつだな ・これ、知ってるか? ・気分いいな!

解説 Explan

 今回の依頼内容は、アークライトの少女アリエッタと共に、ケットシーの飼い主を探しに行く事。ただし、最後にはケットシーが見つけて来るので、参加して下さる皆様には、飼い主を探しているアリエッタの護衛がメインとなります。
 場所は学園がある居住区レゼントなので、危険は少ないかと思いますが、アリエッタも年齢的に好奇心旺盛な年頃なので、色々と気遣ってあげて下さい。
 NPC、【白尾・刃】(しらお じん)と【黒崎・華凛】(くろさき かりん)が同行しますが、基本的には参加して下さっている皆様に動いて頂きたく思います。
 二人には、二人の予定がありますので……何卒、よろしくお願い申し上げます!


作者コメント Comment
 皆様こんにちは、こんばんは。
 お久し振りになりました、七四六明(ななしむめい)です。
 普段戦闘エピソードばかり用意している自分ですが、息抜きに日常ショートをご用意させて頂きました。
 可愛い女の子とお散歩に行く感覚で、飼い主探しを手伝ってあげてください!


個人成績表 Report
ナイル・レズニック 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:120 = 40全体 + 80個別
獲得報酬:2400 = 800全体 + 1600個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
心情;
関わったからには頑張ろうかな

行動;
基本的には、少女の好きなようにさせる
自分自身は、見守る
否定などは基本せずに、彼女の意志を尊重する
危なそうな提案があったら、さりげなく別なことに注意が行くよう話しかける

万が一、少女とケットシーに危険が及ぶ場合は、技能や特性を使用してでも防ぐ
例)落下物へ攻撃魔法。落ちそうになったら、飛翔で腕を掴む等

無事に仲間とケットシーが、合流出来たら少女を褒める
頑張ったご褒美で甘いものを作ることを提案

キィ・トリークル 個人成績:

獲得経験:40 = 40全体 + 0個別
獲得報酬:800 = 800全体 + 0個別
獲得友情:300
獲得努力:50
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---

リザルト Result

 とてとて、とてとて。
 並んで歩く黒猫のケットシーと【アリエッタ】に、可愛い、と注目が集まる。
 後ろを歩く【ナイル・レズニック】は、顔を覆う布の下で周囲を警戒しつつ、確かにと胸の内で周囲の声に同意していた。
 それはそうと、ウチが先輩らと一緒に飼い主の手掛かりを探す、と言って別行動を取っていた【キィ・トリークル】は、何か手掛かりを掴んだだろうか。
 【白尾・刃】(しらお じん)、【黒崎・華凛】(くろさき かりん)先輩方はさっさと解放して、二人きりのデートをさせてあげなければと言っていたから、実質一人で探している状況だが。まぁ、先輩曰く、仮に見つけられずとも、目の前のケットシーが勝手に帰るだろうとの事なので、今回のメインはアリエッタの護衛。彼女には程ほどに頑張って貰おう。
 と言うか、寧ろ緊張感を持って挑まねばならないのはこちらの方で、もしもアリエッタに何かあったら、彼女にパパ認定されているアークライトの先輩に何をされるかわからない。
 絶対、死守するくらいの気持ちでいなければ。
「っくちゅ!」
「おっと。ごめんよ、寒かったね。さ、これを着て」
 まだ日中とはいえ、肌寒くなって来たここ最近を思い、持って来たコートを着させる。
 全体的にもこもことした羊を思わせる姿に包まれた少女は、まさに天使。可愛らしさが倍増し、周囲を歩く女性から悲鳴じみた声が聞かれて、手を振られたので振り返すと、また黄色い声を上げられるから、アリエッタはよくわからずに終始、ポカンとしていた。
「にあう?」
「あぁ、よく似合っているよ。パパもきっとそう言ってくれるさ」
 嬉しそうにアリエッタは跳ねる。
 そのまま先を歩くケットシーを走って追いかけていく背中を見るナイルは、内心、複雑な気持ちであった。
 何故か。
 コートが似合う事は本当だ。嘘じゃない。ただ、自分が着ていた物を貸したから、そもそもサイズが合っていない。だから今、アリエッタは余った裾をズルズルと引き摺ってるわけで――。
「よく、洗っておかないとな……」
 雑面の顔まで涙を流しそうだが、今は我慢。ここで出し渋って、万が一にも風邪なんて引かせてみろ、殺してでも生かすが信条のカルマに、自分が半殺しにされた後、生かされる。
 自分で想像しておいてよくわからないが、とにかくそんな目に遭うのは御免だ――って、実は凄い損な役回りを押し付けられたんじゃないかと、今更ながらに思った。
「にぃに、行こ!」
「あ、あぁ。そうだね。行こう」
(何気に兄判定されてる……)
 嬉しいような、気恥ずかしいような。
 しかし、やはりアークライト。家族の存在が脳裏にあるのか、ただ同族だからそう感じているのか。未だ、彼女の家に関する情報はまるで掴めていない。
 学園で尽くせる手を尽くして探しているが、彼女を売買しようとしていた盗賊団も、別の盗賊から買ったの一点張り。その別の盗賊と言うのも、発見時にはすでに何者かによって壊滅させられており、捜査続行不可能と言うのが今の状況だ。
 何か別のアプローチがあれば進展するやもしれないが、今はどうにも出来ない。
「ネコさん、パパとママ、みつかるといいね。アリエッタも、いっしょにさがすからね?」
 とことこ歩くケットシーの後ろを、とてとてと歩くアリエッタは今、ケットシーの飼い主を探している。本当は彼女自身の、アリエッタでアリエッタじゃない彼女のパパとママ、家族を探さなければならないのに。
 忘れてしまったのだろうか。代わりの自分達で充分だと言うのだろうか。それとも、もしかして最初から――。
「ナイルにぃに?」
「っと、ごめんよ。何でもないから。コートはあったかいかな?」
「うん。あったかぁ、だよぉ」
「そっか」
 考えていても仕方ない。
 ケットシーも振り返って止まってくれている事だし、今はせっかくの時間を楽しもう。
「よし。おいで、アリエッタ。肩車してあげる」
「かたぐるま?」
「ぼくの頭に跨って……行くよ、それっ」
「わぅっ! ……おぉ、たかぁい!」
「怖くはないかい?」
 返事こそないが、楽しそうな笑い声が聞こえて来る。
 ケットシーも特に異論なさそうだし、大丈夫なのだろう。
 ただアリエッタが興奮し過ぎて、頭をバシバシ叩いて来るのがちょっと痛いが。まぁ、そこは我慢だ。
「じゃ、行こうか」
 自分よりずっと高い視線。大きな歩幅で進む。
 たったそれだけの事なのに、世界がまるで変わったかのよう。光から始まる色彩、明暗、光沢の有無、濃淡。目に飛び込む光の量と角度が変わるだけで、世界がまるで違って見える。
 覚醒さえすれば、更に高い視点から世界を見られる事を知らないアリエッタには、ナイルの背丈から見られる世界でさえ異世界で、今まで知らなかった世界が広がっていた。
 ナイルもまた、弟の事を思い出して懐かしむ。
 家の事情で離ればなれになってしまったけれど、元気にやっているだろうか。躾の厳しい家だから、窮屈な思いをしていないだろうか。
「ねぇ、アリエッタ? 猫さんの飼い主を見つけられたら、何か甘い物でも作ってあげようか」
「ホント?!」
「本当だとも。何が良い?」
「サブレ! クッキー! ビスケットー!」
「多いなぁ」
 と言うか、ほとんど違いがわからない……。
 その後、クッキーとビスケットの違いは糖分と脂肪分の量で、ビスケットとサブレの違いはベーキングパウダーの有無だと知った。つまり、飼い主は見つかったのだ。
「シャトン!」
「しゃとん?」
「シャトン……」
 鋭い目付きとふてぶてしい態度には似合わない、何とも可愛らしい名前だったのでつい聞き返してしまった。
 ケットシーの方はナイルの方を振り返って、何か文句でもあるのかと睨め上げて来る。
「本当、ありがとうございます。この子、かれこれ二日も帰って来てなくて……良かったらどうぞ、お茶でも飲んでいって下さい」
「クッキーある?」
「ありますよ? さ、どうぞ」
「すみません。お邪魔します」
 レゼントの中でも、比較的大きな部類に入るだろう家に、飼い主は住んでいた。
 猫の飼い主は若い女性だが、家主は彼女の祖父で、彼女は猫と共に時折、祖父の面倒を見に来ているとのことだった。
 そんな中で猫がいなくなって、女性も大層心配していただろう。探しに行こうにも祖父の事も心配だし、長時間探せなかっただろうから。
「もうご主人様に心配かけちゃダメだよ」
 甘やかすご主人の代わりに注意すると、登った階段の途中に座り込んで、大きく欠伸する。わかっているのかいないのか。まぁともかく、依頼自体は達成した。
「ナイルにぃに! クッキー食べよ!」
「あぁ、そうだね」
「ネコさんも、食べよ」
(ケットシーって、クッキー食べるのか?)
 と思っていたが、ケットシーは一度伸びをしてからゆっくりと降りて来て、アリエッタの差し出したクッキーを一つ銜(くわ)え、アリエッタと共に甘い匂い香るリビングへと向かう。
 ナイルも続くと、色彩豊かなたくさんのクッキーと甘い香りを漂わせる紅茶とが並ぶ大きなテーブルの前に、かなり年季の入ったロッキングチェアに座る老人がいた。
 肘掛に肘を立てて頬杖をしたまま眠っているのかと思ったが、そのまま話し掛けて来る。
「孫の猫を見つけ出してくれたみたいだね、ありがとう」
「い、いえ。申し遅れました。フトゥールム・スクエアのナイル・レズニックと申します」
「アリエッタは、アリエッタ! おじいちゃ、クッキーありがと!」
「アリエッタ? ……そうか。てっきり、フィロソフィの孫娘かと思っていたのだが」
「フィロソフィ? ……あの、実は――」
 アリエッタがケットシーとお孫さんと戯れている間に、ナイルは老人にアリエッタの事を話していた。
 老人は最初こそ驚いた様子だったが、最後まで静かに聞いていて、聞き終えると短く唸って、わずかに目を開いてみせた。
「フィロソフィは私の友人でね。当人はすでに亡くなっているんだが、家族とは交流があった。そして、孫娘を遠くの学園にやったと言うので、もしやと思ったのだが……何やら、事情がありそうだな」
「そのフィロソフィさんの家は今、どちらに」
 アリエッタの惨状からして、あまり良くない状況に転んでいる気がしてならないが、せっかく掴んだ情報を無駄にせんと、ナイルは老人よりフィロソフィ家の住所を預かった。
 犬も歩けば棒――いや、猫と歩いて手掛かりを見つけ出したナイルは、これから待ち受ける展開を想像すると、猫を抱き締め撫で回す幸せそうな少女が、可哀想に見えて仕方なかった。



課題評価
課題経験:40
課題報酬:800
天使少女と黒猫のケットシー
執筆:七四六明 GM


《天使少女と黒猫のケットシー》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!