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七四六明 GM 

 こんにちは、七四六明(ななしむめい)と申します。

 いつまでも初心を忘れぬことを心掛けて書き続ける、無名の作家です。

 主に戦闘シーン、バトルファンタジーを書いています。
 何卒、よろしくお願い申し上げます。

 戦闘ものエピソードと言えば無名の作家、と言った風に憶えて頂けるよう、頑張って参ります。

担当NPC


メッセージ


作品一覧


神に仕える人形少女 (EX)
七四六明 GM
 八色の街、トロメイア。  精霊が住むとされる高山、アルマレス山の麓に広がる信仰の街より依頼を受けて、学園生らは比較的小さな教会へと向かう。  扉を開ければ広大な礼拝堂。  待ち受けていたかのように奏でられているパイプオルガンの旋律に出迎えられて、最奥の精霊の像に祈りを捧げていたシスターがこちらに気付き、深々と頭を下げる。 「魔法学園(フトゥールム・スクエア)の皆様ですね。ようこそお越し頂きました。ワタクシがここの管理を任されている、マザーの【アグネス・ティムス】と申します。どうぞ気軽に、マザーとお呼びください」  と、マザーが自己紹介を終えたのと同時、修道服に身を包んだ銀髪の少女が現れる。  そのときは気付かなかったが、演奏が止んでいたために生まれた静寂が彼女を異質に見せた。  何せ彼女の後に遅れて来た他の修道女やマザーと違って、彼女だけがウィンプル――修道女用の頭巾を被らずにいたから、煌めく銀髪を強く印象付けて見せる。  だが右手の甲に魔法陣を見たとき、少女に対する印象はまた変わった。 「それでは、立ち話もなんですからどうぞこちらへ。【ピノー】、皆様を食堂へご案内して」 「では皆様、どーぞこちらへ」  修道女ピノーに連れられて食堂へ。  その途中、修道女らと遊んでいる子供達で賑わう部屋を通り過ぎた。初めて見る人達の来訪に怯えるどころか、元気に手を振ってくるので、こちらも手を振り返す。 「このきょーかいは、孤児院としての役割も兼ねております。種族も年も関係なく、マザーは身寄りのない子供達を引き取り、育てているのです。カルマのピノーも、その一人です」  やはりカルマ。  学園にも何人かいるのでもう見慣れたものだが、このような場所で、しかも修道服を着たカルマと会うとは思わなかった。  だが彼女の言う通り、この教会には全種族――とは言わないが、種族問わず受け入れているようだ。修道女にも数名、ヒューマン以外にもいる様子。  ただしカルマは、ピノーと呼ばれているこの子以外に、いないようだが。 「今回あなた方にご依頼したいのは、墓を荒らす悪魔の退治です」  悪魔――聞きなれない単語であるが、この教会では怪物か何かを差して使う言葉か。話を聞く周囲のシスター、語るマザーの顔色から、そう見て取れた。 「この教会の裏には小さい墓地があるのですが、最近夜中になると墓荒らしが墓を掘り、悍ましいことに、供養した亡骸を――」  喰らう、そうだ。なるほど確かに悍ましい怪物。マザーが語る悪魔とやらの所業であるのだろう。  要はそれを退治して欲しいとのことだったが、『悪魔』というだけでは情報が少な過ぎて対処も難しい。それを目撃したらしい修道女らの話から、特徴をまとめた。  細い体躯に一対二枚の巨翼。  鋭い爪を持った四足で立ち、唸る口からは冷気を放つ単眼の悪魔――。  情報は、ドラゴニア純種の一種と酷似している。  ドラゴニア純種の一種の中に、単眼の肉食龍がいるとドラゴニアの先輩から聞いたことがある。  ただ先輩の話で聞いたものと、今回の悪魔と呼ばれているそれは、大きさにかなり違いがある。そして何より、死体を喰らうなどという話は聞いていない。  もし先輩から聞いた肉食龍そのものであれば、親からはぐれた子供の可能性があるが。もしそうでないのなら、その肉食龍を元に作られた魔物の一種か。  どちらにせよ、油断は禁物。相手が龍の純種であろうと魔物であろうと、出来る限りの対処をして、挑まなくてはならないだろう。 「こちらがだんせー、こちらがじょせーのお部屋になります。どーぞ、お好きに使ってくださいとのことです。今から一時間後に食事になりますので、先程のしょくどーまで、お越しください」  とりあえず休憩をと、マザーが部屋を用意してくれていた。ただ案内してくれたカルマのピノーは少し黙ると、部屋に通すより前に自分達に向き直って。 「ピノーからも……ピノーからも、お願いします。墓荒らしのしょーたいが何かはわからないけれど、ピノーは怖いです。子供達が襲われないか、いつも、心配です。怖いです。だから、お願いします。悪魔から、子供達を、護ってあげて、ください。ピノーから、せーいっぱいの、お願い、です」  肉食龍には、人さえ喰う種類もいる。話からして、魔物も同じだろう。  大人が食われる事件だって、珍しくない。今回のそれはまだ死体だけを喰らっているようだが、仮に人の子供の味を覚えれば、今後はそれを狙って襲うだろう。  未だ正体に関しては判断し兼ねる部分はあるが、概ね先輩から聞いた話だと、魔物の方だと思っていいかもしれない。  重ねて言うが、断言はしない。  しないものの、もしかしたらそれより恐ろしい相手かもしれないし、まったく見当違いの相手である可能性もある。  どんな相手であれ、子供達が食い殺されていく、だなんて展開になどさせてはならない。  カルマの修道女からの切なる願いも受けて、まず食事までの一時間、魔物である場合の呼称を『アイバーン』として、作戦会議を開始した。
参加人数
5 / 8 名
公開 2020-03-14
完成 2020-04-02
星の瞬く間に (ショート)
七四六明 GM
 学園都市『レゼント』に、今年も、次代の勇者を目指す勇者候補生達が集結する。  各個の努力と研鑽の果て、入学許可を得てついに、憧れの勇者育成機関――魔法学園『フトゥールム・スクエア』への入学を決め、入寮のために世界各国から続々と多種多様な人種の若者達が門を叩く。  この中の誰かが、もしくは彼らが、次代の勇者とその一行となるかもしれない。そんな期待を胸に、または不安をも胸に、来週に入学を控えたある日の夜。  緊張のためか、不安のためか、なかなか寝付けずに夜を更かす若者が数人。  そんな静寂に包まれる夜の『レゼント』に、突如一体のオークが侵入し、若者らと対峙する。  自分達にはまだ、オークを倒せるだけの術はない。剣も魔法もまだまだで、腕前だってオークを倒せるレベルにはないだろうことは明白。  しかし放っておけば、民間人への被害は甚大である。ならば放っておけるものか。  夜を更かしていた若者らは一丸となって協力し、学園の先輩方が駆けつけるまでの時間稼ぎと避難誘導を買って出た。  これは彼らの、後の次代勇者パーティとなるかもしれないチーム結成に繋がる、きっかけと出会いの物語となるやもしれぬ話。  星の瞬く間に起きた、短い戦いの物語。
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-04-09
完成 2019-04-27
月夜の狩人 (ショート)
七四六明 GM
 フトゥールム・スクエアに来てしばらく。ついにこのときがやって来た。  校長先生によって新入生たちに与えられる難易度の高い試練――実力テスト!  これまでに学園で学んだ魔法、技術のすべてを試す絶好の機会に皆が全力で挑む。  筆記、実技を終えて、いよいよ実戦テストのときが来た。  内容は二人以上八人以下のチームを組み、依頼人役となっている先輩を狩人役の先輩方からの猛攻から制限時間の間護り切れば合格となる厳しい試験。  チームごとに試験会場は異なり、それぞれが全力で先輩方に挑んでいく中、ついに自分達の番が来た。  試験会場は学園近くの森の古城。月夜に輝く真夜中に、新入生を狩るため参戦した狩人三人が待ち構える。 「悪いけど手加減はせぇへんよぉ? 覚悟を決めてぇな」  銀髪のヒューマンが木刀を担いでケタケタと笑う。どこの国の訛りかはわからないが、細身の外見もあってのらりくらりとこちらの手を躱して来そうな危うさを感じる。  その隣で、少々老け顔のローレライは面倒そうに頭を掻きながら疲れ切った様子で湿った溜め息を吐いた。 「ま、こっちも単位が掛かってるからなぁ……」  面倒だが、全力で。その方針はヒューマンと変わりないようだ。  ヒューマンのほくそ笑むような目に対して、不機嫌そうにも見える鋭い眼光でこちらを睨みつけてくる。 「いやいや、手加減しないといけないから。手加減してねって先生に言われたから。それこそ大怪我なんてさせたら私達の面目ないから。本当、頼んだからね?」  と、虎のルネサンスが諫める。  だがこの先輩が一番危険だと聞いている。  先のテストにも狩人として参加して大暴れし、二チームに不合格の烙印を叩きこんだらしい。三人の中で、最も油断ならない相手だろう。 「ほな、始めよか? 後輩諸君、せいぜい気張りぃやぁ」  果たしてこの強敵狩人の猛襲を潜り抜け、テストに合格することはできるのか。  これまでに学び、経験したことすべてを出し切って、見事試験に合格せよ!  次代の勇者一行による難関実戦テスト、開幕!
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-05-30
完成 2019-06-27
襲撃の驟雨 (ショート)
七四六明 GM
 真夏の魔法学園『フトゥールム・スクエア』  次代の勇者を目指す青年達の間で、先輩達から聞いた怪談じみた話が一つ。  学園からも徒歩で行ける距離にある、大きな池のある公園の真ん中に、両岸を繋ぐ橋が架かっている。大人四人が横並びになれる程度の大きな橋だ。  あるとき、剣を差した男が雨の日に人を待ってると、突然街灯が点滅を始めて、二、三度繰り返したそのとき目の前に現れ出でるのが巨大な怪物。  街灯すらも超えた巨躯を鎧兜に覆わせた、三メートル近い巨躯を持つ骸骨武者。  生徒の剣を見ると四本の腕に握った大太刀で容赦なく斬りかかり、逃げようものなら逃しはしないとグルリと首を回し、六つの目で剣士を捉え続けて襲って来るのだから恐ろしくて堪らない。  それでも公園の外には出てこないようで、なんとか逃げ帰った生徒の話は瞬く間に学園内に広がり、まるで激しいにわか雨にでも襲われたかのようだったと語るものだから、驟雨(しゅうう)と名付けられた怪物は、未だ誰も倒せていない。  何せ剣士しか相手にせぬ上、魔法で攻撃しようものならそっぽを向いたかのように消えていなくなるものだから、魔法使いじゃ相手にもしてくれない。  剣士を相手にすると凄まじい執念を見せて斬りかかって来るが、拳だ槍だと他の武器で挑もうものなら邪魔だ邪魔だと峰打ちで押し退けて、ひたすら剣士に突っ込んでいく。  故に驟雨の噂を聞きつけた剣の腕に覚えのある生徒が興味本位で挑むが、皆返り討ちにあう始末。公園という人通りの多い場所に出没するとあって、見過ごすこともできないと学園は頭を悩ませていた。  そんなあるとき、とある生徒が持ち帰って来たのが驟雨の振るっていた大太刀の欠片。学園も未だ解明し切れていない謎の素材だが、武器の素材としてはとても良質で、数さえあればそれは立派なものが出来上がる。  そこで学園は閃いた。そうだ、この素材を集めて作った武器ならもしかしたら――。  学園は未だ、驟雨の討伐依頼を受け続けている。  さぁ、君はどうする――。
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-08-10
完成 2019-08-30
クマさんとハニーハント (ショート)
七四六明 GM
 秋も中旬。蜂にとっては繁殖と越冬のための大事な時期。故に攻撃的になる時期。それは、蜂型の魔物もまた同じ。  巣の近くを通る旅人らを襲う蜂型の魔物駆除のためやってきた新入生一行。  しかし森の中、魔物や獣との遭遇を回避するために迂回を続けていたせいで道に迷ってしまう。  そこに別の依頼を終えて帰路の途中にあった先輩らと偶然出会い、事情を説明すると先輩の一人が提案した。 「クマさん、この子達を案内してあげたら? あなたなら、蜂蜜の匂いを頼りに見つけられるんじゃない? 手助けしてあげなさいよ、大好物でしょ?」  無言で頷くクマのルネサンス。通称【クマさん】。  周囲も皆がクマさんと呼ぶため、新入生らは彼の本名を誰も知らない。そして喋っているところを見たところがないくらいに無口で、表情もほとんど変わらないため何を考えているかわからない人だが、協力してくれるらしい。 「蜂型の魔物は巣の中で新女王が越冬し、また新たに子供を産み、巣を作る。早めに叩き潰しておいて損はないだろう。報告はしておく。せいぜい後輩らの面倒を見てやれ、クマ」 「ほな、みんな頑張ってなぁ。近々ハロウィンパーティーもやるさかい、いい蜂蜜取って来て欲しいわぁ。木に引っ付いてる部分を切れば簡単に落っこちるから、頑張ってなぁ」  と、流れで蜂蜜採取まで頼まれてしまった一行は、無言のクマさんについていく。  クマさんとのハニーハントが、始まったのだった。
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-10-15
完成 2019-11-02
贈呈、チョコレート・ゴーレム! (ショート)
七四六明 GM
 男子はソワソワ、女子はウキウキの二月のイベント――そう、バレンタインデー!  友チョコ、義理チョコ、自分チョコ。数種類のチョコレートはあれど、男子が求めるのは本命チョコ!  平静を保とうとしている内側で、やっぱり意識してしまうそこの男子に、私からプレゼント・フォー・ユーだ!  魔法学園『フトゥールム・スクエア』の男子達に、素敵で強敵で屈強なるチョコレート・ゴーレムを贈呈しよう!  さぁさぁ、遠慮せず受け取り給え!  素材はもちろん、味にもこだわったからそこらのチョコより美味しいかもだ!  ただ……強さにもこだわっていてね。そこらの魔物より手強いように作ってある。  岩盤を砕くチョコレート・パンチ。肩で風を切るチョコレート・タックル。そして超重量のチョコレート・プレス!  動きが鈍重なのと火属性攻撃で溶けてしまうのが難点だが、あっさり終わらないよう十体作ったから充分楽しめるはずさ!  さぁ、君達の力を見せつけて、女の子達に存分にアピールしてくれ給え!   もちろん、ゴーレムもれっきとしたチョコレートだからね。倒したらおいしく食べて欲しいな。うふふ……。  という名目の元、毎年恒例となってしまったらしい先輩のゴーレム機動実験が始まってしまったのだった。なんと、ありがた迷惑な……。
参加人数
6 / 8 名
公開 2020-02-05
完成 2020-02-21
アメシスト・アンコール (ショート)
七四六明 GM
 始まりを告げる風。温もりを抱く春風が吹き抜ける、魔法学園『フトゥールム・スクエア』に、今年も次代の勇者になる可能性を秘めた新入生らがやって来る。  緊張と不安を抱きながらも、入学してきた新入生。  初めての後輩に緊張しつつ、気を引き締めねばと気持ち改める二期生。  その他、変わりゆく環境に不安と期待を積もらせる先輩や教師に、校長からのサプライズ。  最近若者の間で有名な歌姫、【アメシスト・ティファニー】。  校長のオファーを受け、学園にて歌を披露してくれることになった彼女を学園へ送るため、公演が開かれていた近くの街まで迎えに行く。 「ご苦労様。よろしくね、未来の英雄さん達」  膝の上には茶色のケットシー。撫でているのはプライドが高く、好戦的で有名なデスレイプニール。突然の来訪者に視線を向ける一匹と一頭に、可憐な歌姫は大丈夫と制す。 「動物に好かれやすいの。この子達も、私のお友達。みんなからは、なんでか怖がられちゃうけれど」  魔物を動物と思ってる彼女に引かれてか、護衛の旅路にも魔物という魔物が寄って来るし、襲って来る。  ゴブリン、コカトリス、リザードマン。彼女の手前、殺生はなるだけ避けて、どうしてもという場合は彼女だけ先に行かせて、ここまで蹴散らして来た。  そして、草原にて突進してくるのはアーラブルの群れ。 「まぁ、今日は随分と来るわね」  普段の移動はどうしてるんですか、歌姫様。  ちょっと間の抜けた歌姫様を護り、学園に歌を届けろ、次代の勇者達!
参加人数
6 / 8 名
公開 2020-04-13
完成 2020-04-29
強襲、驟雨! (EX)
七四六明 GM
 斬り払えば黒風白雨。鋭き一撃は篠突く雨。刀剣の動きは流し雨。  梅雨の雨闇、通り雨の如く、冷たき刃を携えて奴が来る。  魔法学園『フトゥールム・スクエア』より徒歩で行ける距離にある、大きな池のある公園。池の両端を繋いで架かる橋に、雨の降る中、帯刀したまま渡ろうとすると現れる。  四つの腕に握り締めた怨刀たる大太刀振るい、一周する頭についた六つの眼にて、捉えた剣士を襲う。鎧兜を被った、三メートル近い巨躯の骸骨武者。  魔法使いは眼中になく、拳闘士は峰にて払う。  執拗に剣士の命だけを狙う怪物の剣撃はにわか雨の如く。  後に驟雨(しゅうう)と名付けられた。今や学園に語り継がれる怪談の一つ。  剣の腕に覚えがある生徒が幾度となく挑んだものの、未だ討伐できた記録なし。  現在、驟雨の握る刀を持ち帰って対抗する武器を作る試みがあるものの、未だ達成出来てない。  そんな驟雨が、猛威を増して降り頻る。  ある日驟雨の剣を持ち帰るため向かった生徒らが、刀剣の持ち帰りに失敗し、敗走。  全員が命を取り留めたものの、重傷の身で命からがら逃げてきたのである。  曰く、これまで魔法攻撃が向かってきただけで消えた驟雨が魔法を斬り裂き、魔法を使った生徒向かって斬りかかったとのこと。  魔法がぶつかると消え去ったが、これまでの戦いで学習したか、更に実力を増しているという。  一般人の被害が出ないうちに驟雨を倒さねば。  そのためにも、驟雨を打倒し得る武器を作らなければ。  打倒、驟雨。  月時雨の繁吹く夜、学園は再び怪物に挑む――。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-05-30
完成 2020-06-18
【水着】アメシスト・ティファニーの休日 (ショート)
七四六明 GM
 鼻孔をくすぐる潮の風。  白波は浮き輪という揺り籠を揺らし、さざ波は子守唄となって眠りを誘う。  目の前に広がるそれは紛れもなく、疑いようもなく、空と同じ色を反射して輝く――そう、海である。 「ここまでお疲れ様。そしてようこそ、未来の英雄さん達。どうぞゆっくり、なさってね」  別荘の主にして、最近若者を中心に人気を博している歌姫【アメシスト・ティファニー】が出迎える。  人々どころか魔物をも引き寄せ、ケットシーとデスレイプニールを手懐ける歌姫より、依頼を請け負った生徒一同は、アルチェにある彼女の別荘に招かれた。  依頼内容はアルチェで休日を過ごす間、彼女の写真を撮ろうとするパパラッチや、浜辺から彼女に招かれたかのように出てくる魔物からの護衛だ。 「その代わりと言っては何ですが、別荘のプライベートビーチを好きに使ってくださいな。水着も用意してあるから、お好きなのを選んで頂戴」  というわけで、依頼をこなしながらアルチェでバカンス!   ――と行きたかったのだが、パパラッチは生徒らを見て自ら撤退していくものの、魔物は彼女がビーチに来ると、これでもかとばかりに海から出てくる!  そして今度はフラッシャーの群れ! 「あら、また来たのね? 困ったわ。今日はクロールを練習しようと思っていたのに」  彼女、果たしてこのビーチで泳いだことがあるのだろうか?!  白い肌が映える歌姫の美しい水着姿を拝みたいところだが、今はとにかく彼女を護れ! 未来の英雄達!
参加人数
4 / 8 名
公開 2020-07-11
完成 2020-07-24
緋色の辻斬り (EX)
七四六明 GM
 とある集落にて、今宵、結婚式が開かれる。  集落には古くから代々続く、結婚にまつわる風習があり、結婚する男女が永遠の愛を誓うのは神に仕える神父ではなく、集落近くの山を護る守護神――とされている牛のルネサンス。通称【牽牛】(けんぎゅう)様だと言う。  彼に永遠の愛を誓い、彼の洗礼を受けることで結婚したことになるらしい。  そして毎年、牽牛様を狙って襲って来る輩がいるのだとか。  一体どこから、またいつからなのか知らないが、牽牛様の角は高く売れるという噂が周辺地域から国内へと広まり、以来、牽牛様が出て来ると狙って来る賊が出るようになったそう。  故に集落は、対策として牽牛様の洗礼と宣誓を年に一度としたのだが、逆に年に一度のチャンスだと、より多くの賊が一度に襲って来るようになってしまった。  そして今年もまた、一組のカップルのために牽牛様が集落へ赴く。魔法学園『フトゥールム・スクエア』の生徒達は、牽牛様護衛のため駆り出された。 「で、何で俺達まで来なきゃダメなんだよ、畜生……」  学園を出発してから、アークライトの弓兵【シルフォンス・ファミリア】はずっと、ぶつぶつぶつぶつ呪いの言葉のように文句を言い続けている。  そして度々、隣を歩く虎のルネサンス【ティグー・ラント】に脛を蹴られていた。 「ったくあんたは、いつまで経ってもウダウダウダウダ! 殴るわよ!」 「蹴ってから言うなっての! ……ったく、わかってるよ。大物が出て来るかもしれねぇってんだろ? あぁあ、せめて確実な情報寄越せっての。来るかどうかもわからねぇ奴相手に出向くなんざ――ってイったっ!」  また、ティグーに脛を蹴られる。  二人の後ろを歩く【灰原・焔】(はいばら ほむら)は面白いよな、と二人を指差してケタケタ笑い、こちらの緊張を緩めようとしてくれていた。 「ま、だけど俺も緊張するよ。牽牛様――仮にも神様の護衛だなんてさ。しかも狙って来る敵も大物も大物、って、まだ噂の域を出ないのだけれどね。緊張するのは仕方ないよ」  牽牛様の角を狙う輩など、毎年多過ぎて絞れはしない。  だが今年は偶然、別の学生が依頼で行った大型盗賊団の支部となるアジトにて、その盗賊団が牽牛様を狙い打つ計画書を発見。学園に持ち帰り、今回の依頼に至ったわけだが、その計画書の中にあった名が問題だった。  【荒野・式】(あらや しき)――通称、緋色の辻斬りと呼ばれる指名手配犯。  老若男女問わず、種族問わず、人数も家も問わず、視界に収まった相手を襲い、斬りつける極悪非道の人斬り男。  確かな証拠こそ見つけられなかったが、そんな男を盗賊団が雇った可能性がある以上、今まで以上の警戒をしなければならない。  そのため学園は自分達に加えて、急遽、手練れの先輩方三人を手配した。  出発前になって急に決まったので、伝わってしまった緊張感に背筋を撫でられ、悪寒を誘われている気分だ。  先輩方にとっても急な話だったので、シルフォンスは不機嫌だし、ずっとぐちぐち言っているシルフォンスにティグーが苛立っている。 「荒野・式はかなりの手練れって聞いてる。俺のきょうだい弟子が一度遭遇したらしいけど、間合いの違う二本の薙刀を駆使して、懐に入れて貰えなかったらしい。ま、あいつも当時は酒が入ってたらしいから、普通にやってたら勝っただろうけどな!」  緊張感を振り払うため、焔は笑い飛ばす。  結婚式を挙げる集落に、未だ確実とは言い難い人斬りの存在を明かしてはいないため、依頼人のカップルや集落の人々に気取られないようしなければならない。  緊張を表に出して、不安を煽るようなことはなるだけ避けるべきだし、何より学園側にも狙いがある。 「いいか? 俺達の依頼はあくまで牽牛様の護衛だ。そして、その中に辻斬りがいる、かもしれない。それだけだ。神出鬼没の辻斬りが出る可能性があるから捕らえる――ってのは、あくまでついで。学園が決めた勝手な都合だ。だから、俺達の仕事は護衛なんだ。だから、そんな緊張すんなって」  そうやって焔に背中を叩かれ、励まされながら、集落へと到着した。  神様の護衛依頼、始まる――。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-07-30
完成 2020-08-15
炸裂の種、下から仰ぐか傍で爆ぜるか (EX)
七四六明 GM
 海の街、アルチェ――近くのとある洞窟。  そこで夜な夜な、怪しげな人影が目撃されているとの情報を聞きつけ、魔法学園『フトゥールム・スクエア』は生徒達を向かわせた。 「よぉ、着いたか。早速だが、今晩向かって貰うぞ。怪我人の俺がわざわざ調べたんだ、ありがたく思いやがれ」 「動かないでください。包帯が巻けません」 「いいんだよ。今更包帯なんて」 「動かないください……殺しますよ」 「これ治療なんだよな?!」  二日前に到着していたアークライトの弓兵【シルフォンス・ファミリア】より、看護師志望のカルマ【クオリア・ナティアラール】の治療を受けながらの報告である。  どうやら地元の人間も近付かないことを良い事に、洞窟で盗賊相手の物資の取引が行われているらしいのだ。  しかも取引されている物資と言うのが、刺激を受けると爆発する炸裂の種。もしも取引中に爆発すれば、洞窟内部はもちろん、周囲の居住区にも影響を及ぼしかねない量が保管されているという。 「昼間は見事に隠蔽されてる上、万が一にも人が来たら最悪な事態もあり得る。行くなら夜だが……引火誘爆の可能性もある上、商人が邪魔して来る。商人はゴーレム使いだ」 「皆様には、商人の捕縛と、種の回収をお願いします。処理はシルフォンスが行いますので、くれぐれも気を付けて。私は彼の完治していない肩を治しますので」 「もうほぼ治ってるっての」 「完治はしてませんので、治します。大人しくしていないと、殺しますよ」 「――っ。そういうわけだおまえら! 商人は貧弱だが、ゴーレムが多い! あれらをどうにかして種を取って来い! もし失敗して帰ってきてみろ……眉間に風穴開けて――!」 「すみません。騒々しいので、静かにして頂きます」 「ちょ、待て――おまえこれ、冗談じゃ……!?」 「では皆様、こんばんにでも行って来て下さい。怪我をしたならすぐにご報告を。安心してください。殺してでも、治療しますので」  失敗と怪我だけは許されない。締め落とされたシルフォンスが、そう告げる。  ともかく今晩の作戦実行のため、作戦会議から始めることとした。  いざ! 炸裂の種争奪作戦!
参加人数
3 / 8 名
公開 2020-08-19
完成 2020-09-03
豪雨収める鞘 (EX)
七四六明 GM
 台風一過。過ぎ去ればまるで夢幻。残すは破壊の爪痕のみ。  雨と共に現れ、剣士を襲う災禍が如き怪物、驟雨(しゅうう)。奴を打倒するため幾人もの学生が挑み、戦い、返り討ちにされてきた。  が、学園は驟雨との戦いで回収に成功した驟雨の刀剣の欠片から、驟雨を打倒し得る可能性を秘めた刀剣の制作を開始し、遂に完成間近にまで迫り来ていた。 「――せやけど肝心な鞘がない、言うんやからお粗末な話やわぁ」 「仕方ない。私達とて、失念していたんだからな」  鋭利な刃物が表に出ていることほど危ないことはない、というのが【白尾・刃】(しらお じん)、【黒崎・華凛】(くろさき かりん)、【灰原・焔】(はいばら ほむら)を鍛えた師匠の持論だった。  だから刀に合う鞘を作れる鞘師と連携し、鞘を作って貰うことにした学園の判断には大いに賛成なのだが、鞘師が出した条件とやらが面倒だった。  近頃、鞘師が工房を構えるシュターニャの墓地にグレイブスナッチが棲みついてしまったので、それを退治して欲しいと言うのだ。  夜しか現れないものの、日中もキラーバットを使って集落を監視しているらしく、いつ人を襲うかわからない状況下。  早めに手を打っておくことに越したことはないのだが、相手はグレイブスナッチだ。  死と生の狭間に住み着き、大鎌を振るう死神。驟雨ほどではないにしても、かなり手強い相手だ。苦戦は強いられるだろう。 「にしても久し振りだなぁ、おまえ達と組むの。姐さんも居れば完璧だったのにな」 「まぁ、すぐに組むことになるかもしれないけれどね」 「まぁま。今は鞘師の要望に応えようやありまへんの。グレイブスナッチなんておっかないの、放ってもおけんもんなぁ。みんなでパァっとやったりまひょう」  そんなわけで、鞘を作って貰うため、皆で鞘師の住む傭兵達の街、シュターニャへ。  鞘を作って貰うため、倒すべき相手は墓場の死神グレイブスナッチ。キラーバットを使役する死の化身。 「お、これで全員集まったか? よっしゃ、行こうぜ! 目指せ、シュターニャ!」  死神退治に、いざ参る。
参加人数
5 / 8 名
公開 2020-09-09
完成 2020-09-27
そうよ私は蛇使い座のヲンナ (ショート)
七四六明 GM
 魔法学園フトゥールム・スクエア学園長【メメ・メメル】が持つ執務室の一つが開けられる。  突然の来訪者に驚いたのは最初だけで、入って来た人の顔を見るなり、メメルは嬉しそうに顔を綻ばせた。 「おっすおーっすお疲れさん☆ 景気はどう? ってか、成果はどうだった?」 「相変わらずお元気そうで何よりだわ、学園長。でも三か月間も遠征に行ってた生徒に、もう少し労いの言葉があっても良いんじゃなくて?」  もう、と【紫波・璃桜】(しば りおう)は不満そうに髪を掻き上げ、ソファに深々と腰掛ける。荷物持ちで付き添っている二体のシルキーが、代わりに深々と頭を下げた。 「成果も何も、私怒ってるのよ学園長。私がアジトを突き止めるため長く出ていたって言うのに、こっちの何の関係もないところで、アジトの手掛かりを見つけちゃうだなんて」 「んー、何のことだったかな?」 「アルチェで炸裂の種の密売人を捕まえた時、情報を吐かせたんでしょう? 当人から聞いてるわよ、まったく……」 「あちゃー、バレてたか。さすが、あのお爺ちゃんのお弟子さんだ。一体どこで知ったのやら」 「偶然よ、偶然。奴らのアジトを探してる時に聞いただけ。それに私が今日戻って来たのは、直接文句を言ってやるためだけじゃないわ」 「おぉ! 何かしら情報を掴んでくれたんだねぇ。さすが璃桜たん♪ やる時はや、る、お、と、こ♪」 「生物学的にはね。私はそう、言うなれば蛇使い座のヲンナ……そんなヲンナが手にした情報によると、近々とある盗賊が堂々と店を貸し切って、とあるお店で酒宴を開くそうよ。私としてはそこで、一網打尽にしたいのだけれど……」 「人手の問題ってわけか! 任せろ! すぐ募集してやる!」 「助かります……彼らは例の集会においても、外の警備を任される。彼らを捕まえて、正確な場所はもちろん、作戦当日の防御を薄くしたいの。まぁ、メメ・メメル学園長なら、これくらいの事はすぐ思いついたから、奴らが簡単に手配出来たんでしょうけど?」 「えぇ、どうかなぁ。買い被り過ぎかもしれないぜぇ?」  食えない人ね、と璃桜は立ち上がる。シルキーに剣を渡し、無言で任務の終了を報告した。 「ではメメ・メメル学園長? 人選はお任せします。驟雨(しゅうう)の討伐も大事ですけど、個人的にはこちらを急いで貰いたいわ。せっかく盗賊や山賊、海賊らが一気に集まる機会を見つけ出したのですもの」 「わかってるってぇ♪ もう、璃桜たんってば、そんなに眉間に皺寄せてると、刻まれちまう、ぜ♪」 「刻まれたら、それはお爺ちゃんのせいよ。この世で最も怖いのは、爪を隠せる能ある鷹と、武器を隠せる能ある人、だなんて教え込んでくれたんですからね」 「そういえば君の他のお弟子くんは、最近後輩と仲良くやってるみたいだぜ? 璃桜たんも、ようやく戻ってこれたんだし、後輩と交流でもしたらどうだい☆」 「……失礼したわ」  部屋を出た璃桜は、シルキーから鏡を受け取る。  メメルに言われた眉間の皺が気になって見ると、確かに厳つい皺が年輪として刻まれつつあるように見えた。  ――最近後輩と仲良くやっているみたいだぜ?  仲良くやっているうち、腕が鈍っていなければいいのだが。それとも弟、妹弟子らと仲良くしているその後輩とやらが、自慢の腕前を見せてくれるのか。  さすがに眉間の皺を消してくれるまでではないだろうが――。 「お手並み拝見、と行きましょうかね」  ヲンナの舌が、さながら蛇のうねる二又の舌の如く、唇を啜り舐めた。
参加人数
2 / 8 名
公開 2020-10-15
完成 2020-11-02
Trick or Blood? (EX)
七四六明 GM
 人々が仮装に身を包み、先祖の霊と共に練り歩く秋の祭典は幕を閉じ、例の合言葉も聞かれなくなった頃、とある街裏を染め上げる夕闇の陰にて、とある二択を迫られる。 「Trick or Blood?」  悪戯か、血か。  そんな物騒な二択を迫られた人々が、次々と襲われる怪事件。  どちらを選ぼうとも、どちらとも選ばずに逃げ出そうとも、結末は同じ。襲われ、斬られ、繰り広げられる血の惨劇。多くの犠牲者と被害者を出していると聞いた学園はすぐさま三人の生徒を派遣し、本体が合流するまでの時間稼ぎ。あわよくば、捕縛の命令を出した。  だが、噂を聞く限りはこの通り魔。只者ではないらしい。  漆黒かつ巨大な刃のついた大鎌を振り、緋色の髪を揺らして迫るその様は、まさしく――緋色の辻斬り。 「――などと聞き及び、兄弟子が不覚を取り、泥酔した姉弟子を退けた辻斬りの実力をいざこの手で試してやらんと、自ら望んで来たわけなのだが……おまえが、緋色の辻斬りだと?」  【黒崎・華凛】(くろさき かりん)の前に立ち尽くす黒衣。フードの下はジャック・オー・ランタンの目、鼻、口が彫られているだけの鉄仮面で隠され、素顔は見えない。噂通りの巨大な大鎌と合わせて見ると、ハロウィンに出遅れて役目を失った可哀想な死神に見えた。  噂通りの緋色の髪はフードの下か。今のところまだ見えない。いずれにせよ、そうして顔を隠し姿を隠すような身なりをしている時点で、華凛が学園の同輩や兄弟子らから聞く辻斬りの印象からはずっと離れていた。 「Trick or Blood?」  不意に現れてそんな二択を迫られては、混乱は必至。恐怖に狩られるも無理からぬだろうが、こちらは元よりその問い掛けをするそちらに用があるのだから、混乱も無ければ恐怖も無い。  質問への返答の代わりに、腰の左右に差した愛刀を抜く。 「Trick or Blood?」 「どちらを選ぼうと斬りかかってくる癖をして、いつまでも祭り気分の抜けぬ阿呆か――!」  遠距離狙撃を任せた天使が痺れを切らし、合図も待たずに放たれた矢が飛んで来る。払い除けた鎌とぶつかった矢が爆ぜて黒煙を上げたが、辻斬りは黒煙をも鎌で斬り裂き、無傷の姿を晒して現れた。  派手な陽動から死角を取った華凛が、不意を突いて斬りかかる。  だが腕に籠手を巻き、腹には防具まで着ているのか、切れたのは全身を覆っている黒衣だけで、辻斬りの肌には届かなかった。  剣撃を弾いた辻斬りは一歩引いてから大振りで鎌を振り、自身の間合いにまで置いてから攻め立てる。  風を切る漆黒の速度は速く、影の中に溶け込んで時折見失って、防御に手を回さざるを得ず、反撃に至れない。わざわざ影の色濃い場所に出没している理由は、これのためだろう。  ならば夜に仕掛ければいいものを、夜では自分も同じデメリットを負わされる可能性があるからか。 「やはりおまえ、緋色の辻斬りではないな」  兄弟子と戦った緋色の辻斬りは、腕に籠手こそ巻いていたものの、ほとんど頼る事もなく攻撃こそ最大の防御とばかりに防御らしい防御もしなかったという。  そんな人間が、まるで防具に頼り切った防御でやり過ごす事など考えられない。面や黒衣で正体を隠したりと、とても聞いていた印象と違い過ぎる。 「おまえは臆病過ぎる。面と黒衣で隠した正体、剥がさせて貰おうか」 「Trick or Blood……Blood、Blood!!!」  再び、遠方から放たれた矢の雨が強襲。ただし今度は直撃させず、周囲に放って逃げ場を奪いつつ、爆ぜた矢が煙を上げて視界を封じる。  側面から迫って来た刃を弾き飛ばしたが、飛び込んできたのは刀だけで、華凛は正面からもう一刀で以て斬りかかる。  籠手で受けつつ鎌で払い除け、距離を取ろうとした辻斬りは視界から華凛の姿を見失う。やや遅れて鎌に重さを感じて振り返ると、鎌の上に乗った華凛が先に弾き上げられた刀を掴み取り、鉄仮面を斬り捨てんと振り被っていた。 「離れろぉぉぉっ!!!」  振り落とすべく、鎌を強く振り下ろして、地面を叩き割る。  しかしすでに華凛の姿はなく、上を見上げてもいない。では背後――にもいない。  下だった。  鎌が振り下ろされる直前に飛び退いた華凛は、辻斬りの足下で片膝を突き、構えていた。  と、華凛に気を取られている隙に三度目の矢が時雨の如く強襲。今度は全弾、狙いは辻斬り。  すかさず回避しようとしたが、咄嗟に片脚に重みを感じて見下ろすと華凛が脚を掴んでおり、直後に足を刀で貫かれて地面に固定され、全弾命中した。  が、脱げた黒衣の下にいたのは身代わりのうさぎのぬいぐるみ。本体は防具と籠手を巻いた死神らしからぬ姿を晒し、ずっと後方に離れていた。足を貫いた刀を引き抜くために力尽くで蹴り上げられて、華凛は堪え切れずに尻餅をつく。  華凛の体勢が崩れたのを見た辻斬りは今だとばかりに撤退。狙撃を振り切るためだろう、人通りの多い表通りの方へと逃げてしまった。 「ここまで、か」 「治療ですね。すぐさま治療しますので、動かないように」  建物の陰に隠れ、いざとなれば参戦するつもりでいた【クオリア・ナティアラール】が飛び出し、尻餅を突いていた華凛を起こす。 「いや、私は怪我など……」 「言い訳は結構。大丈夫、ほど信頼出来ない言葉もありませんので。無暗に多用している人ほど、早死にしますので、大人しく治療を受けて下さい。でないと、本当に死にますよ」 「わかった、わかった……」  多くの依頼に奔走している【シルフォンス・ファミリア】が、いつも無傷で帰って来る理由が、彼女の存在で理解出来る。ずっとこんな調子では、傷など残したくとも残せまい。  尻餅をついた際に擦った手に、クオリアは消毒を行い始める。 「辻斬りは」 「ご心配なく。彼が追っているはずですから。それにあの辻斬り、緋色のではないでしょう。あれだけ臆病な性格で、堂々と表で人を襲う事はないでしょうし……まぁ、あれだけの防具があれば怪我の心配が減るので、褒めるべき点はそこだけですか」 「君には敵わないな……」  クオリアの言う通り、あれが表で人を襲う事はないだろう。  しかし裏通りの、こうした表から隠れた陰で人を襲い続けるに違いない。早期解決に越した事はなく、そのために早急に動くことに異論はない。  が、流石に人手不足か。相手は闘争よりも、逃走のプロと見るべきだ。三人では詰め切れない。 「処置が完了しました。他に怪我はありませんね? 毒の類もありませんね?」 「あぁ、すまない。応援が来るまで、私達は奴が出没するだろう場所を片っ端から確認しておこう。これより先、一人も犠牲者を出さないためにも」 「賛成です。では、二手に分かれて行きましょう」  以上の経緯で以て、現在、ジャック・オー・ランタンの鉄仮面を被った謎の死神を追跡中である。  これ以上のTrickもBloodも出さないためにも、全力を賭して掛かるべき案件だ。
参加人数
3 / 8 名
公開 2020-11-17
完成 2020-12-03
アメシスト・オンステージ (EX)
七四六明 GM
 新年を迎えた魔法学園『フトゥールム・スクエア』に、一通の手紙が届く。赤い封蠟がベーシックなところ、紫の封蠟で閉じられた手紙は、一枚の依頼書。  差出人は昨今、若者を中心に業界を賑わせる人気歌手。魔物をも魅了する玲瓏なる歌姫、【アメシスト・ティファニー】。 「馬車を使いたいのだけれど……魔物にお馬さんが襲われて危ないし……この子が暴れても危ないから、ね」  と、手懐けているデスレイプニールを撫でる彼女の肩に、乗っているのはケットシー。  アルチェにある彼女の別荘にて、二匹の魔物を従える彼女を、アルチェから目的の街まで護衛するのが今回の仕事。  だが、徒歩での道のりとなると一日がかりの大移動。近道を使えば半日で到着するものの、狼型のジャバウォックの群れが作る巣の真ん中を突っ切らないといけない。  魔物を引き寄せる彼女の性質上、通常ルートを通っても魔物や獣との接触は避けられまい。しかしそれでも、ジャバウォックの群れと遭遇するよりはマシと考えてそちらを選ぶか。  それともジャバウォックの巣を通過してでも、近道を通って早期到着を試みるか。 「危険な旅路になるかもしれないけれど、私、今回どうしても歌いに行きたいの。行かなくちゃ……いけないの。だから、お願いします」  今回で三度目の依頼だが、何やら今までと違う様子。  通常ルートか近道か。どちらを選んでも艱難辛苦は変わらぬけれど、それでも歌姫の願いを届け、街に彼女の歌声を届けよ、未来の英雄達!
参加人数
2 / 6 名
公開 2021-01-08
完成 2021-01-25
月下戦陣 (EX)
七四六明 GM
「よし! 今年もやっちゃおうかぁ? 実力テェスト♪」  と言うフトゥールム・スクエア学園長【メメ・メメル】の一言により、新入生歓迎大歓迎実力テストの開催が決定された。  筆記、実技、実戦の三つの試験にて、新入生らの実力を測る学園長から新入生への激励でもある高難易度試験。  特に実戦試験では、今に持ちうる力のすべてを試せる機会とあって、新入生らは緊張と武者震いとで震えながら、不安と期待を込めて準備を始める。  教師や先輩らも、試験に向けての準備を着々と始めていた。 「はぁあ」 「何だ? そのわざとらしいくらいに大きな溜息は」  実戦試験会場の一つである、学園近くにある森の古城。  かつて試験管として、その前には受ける側として、同じ場所で刀を振った【白尾・刃】(しらお じん)のつく深い溜息が気になって、【黒崎・華凜】(くろさき かりん)は事前調査をしていた手を止める。  試験会場として使うのに安全か否かを調べるのが今の二人の仕事だが、刃はまったくと言っていいほど手が動いていない様だった。 「わざとちゃう。深々ぁと悩んでるのんやぁ」 「何を」 「……今年のチョコゴーレムイベント、中止やねんて」 「何を言い出すのかと思えば……」  呆れて言葉が出てこない。今度は華凜から、深々と溜息が漏れた。 「仕方ないだろう。作り手が当日不在なのだから。私としては、学内が甘ったるい匂いでいっぱいにならず、安堵すらしているが?」 「この時期のチョコ言うんは、男にとっちゃあ意味深ぁいものがあんのよ。例え義理でもお遊びでも、貰えるんやったら貰っときたいやん?」 「まったく……では私が例年の倍のチョコをくれてやる。それで良いだろう?」 「――それ、ホンマ?」 「あぁ、約束してやる。約束してやるから、とっとと作業に戻れ」  と言うと、ニンマリ笑った刃は華凜の耳に自身の口を近づけ、めっちゃ好き、と囁きを残して、浮かれきった足取りで調査に向かって行った。  馬鹿馬鹿しいくらいに単純に思えながら、同時に可愛らしく見えてしまうのだから、自分も馬鹿だなと考えつつ、華凜も作業に戻る。  幾度か修繕はしているものの、元々古びた城だ。生徒らが奮闘するより前に倒壊などしては、大怪我に繋がりかねない。  故に念入りに、修繕した方がいい箇所がないか、新たに倒壊している場所がないか確認していく。と、城を囲う森の中、華凜は違和感に気付き、目を凝らして覗き込んでみた。  足跡。  別に、足跡自体は珍しくも何ともない。ここを修行の場所としている生徒くらい、何人もいるだろうし、実際、刃も何度か利用している事を知っている。  ただし、足跡が魔物の物となれば、話は別だ。 「――!」  背後から襲い掛かってきた敵の気配に気付き、高々と跳躍。木を足場に敵目掛けて飛び込み、着地と同時に斬り払う。  短い悲鳴を上げて息絶えた外敵を確認した華凜は、すぐさま刃に報告しようと振り返って、言葉と共に息を呑んだ。  ハイゴブリン。アーラブル。リザードマン。  種族も生息地域も違う魔物が、あろうことか群れを作り、自分を取り囲んでいる。  明らかに統率された動き。だがハイゴブリンやアーラブルならまだしも、知能の高いリザードマンまで従えているとなると、異常事態以外の何物でもない。 「主導者は誰だ! 何処にいる!」  反響する声は、相手に届いているようだった。  ただし声ではなく、返ってきたのは音だった。  単調な音ではない。楽器での演奏だ。それも一つだけではなく、管楽器から弦楽器、鍵盤まで、まるで小規模のオーケストラ。  聞いていて不快な感覚はしないが、危機感を煽られている感覚はある。  何せ演奏を聞いた魔物達が一斉に吠え、華凜目掛けて石の剣や斧を振りかぶり、襲い掛かってきたのだから。 「――エア・レイ!!!」  横から一直線に駆け抜けた突風が、目の前の魔物らを一蹴する。  直後目の前に飛び降りてきた刃は刀を振り払い、足下の落ち葉を舞い上げて無言で威嚇した。 「自分ら……寄って集うて俺の女に、何しよとしとるん? なぁ、己ら、なぁ!」 「刃! 落ち着け! ……だが、異常事態だ。信号を上げる。それまで持ち堪えてくれるか」 「当たり前や。全員叩き斬ったる……ん?」  禍々しい雰囲気と共に這い出てくる。  地獄の住人を模して作ったとされる魔物が、大目玉を見開き、怒号を轟かせて現れた。 「オオメダマまで出て来たん? えぇよぉ? 全員叩き斬ったる事には、変わらんもんなぁ」  真円の満月が光る空に、白い煙を上げて信号弾が打ち上がる。  窓辺に腰を据えて酒を飲んでいた【紫波・璃桜】(しば りおう)の下に、【灰原・焔】(はいばら ほむら)が木製の義足を鳴らしながら駆けつけてきた。 「姐さん! あの信号弾……しかも、あの古城には今!」 「えぇ。何か、嫌な気配がするわね。学園長も把握しているでしょう。私とあんただけじゃあ足りないかも知れない。学園長に呼び掛けて、応援を頼みましょう。焔、走って頂戴。緊急だから何人集まるかわかんないけど、集まったらすぐに向かうわよ」 「あ、あぁ!」  走って行く焔の義足の足音が、酒を飲んだ頭に響く。  泥酔まではしてないものの、酒の入った状態。ベストコンディションとは言い難い。焔は言わずもがな。夜更けの緊急招集にどれだけ集まるかわからないが、報酬は学園長が弾んでくれる。自分は出来る限り体に残る酒を抜きつつ、数が集まる事を祈りながら備えるだけだ。 「無事でいなさいよ、兄弟弟子」  乱れた髪を振り払いながら、ヲンナは自室に待機させているシルキーの下へと早足で向かって行った――。
参加人数
4 / 4 名
公開 2021-02-11
完成 2021-03-02
冷酷な天使のパパ (ショート)
七四六明 GM
 自称、学園一忙しい天使【シルフォンス・ファミリア】。  授業に出席している時間より、依頼で学園を留守にしている事の方が多く、学年問わず、彼とは依頼先で会う事が多い。  自称、学園で一、二を争う実戦経験を経て、学内のアークライトの中でもトップクラスの覚醒時間を有する――らしい。  ともかくそんな彼は、今日も依頼に出ていた。  この日はとある山中にて、山賊の討伐依頼である。  洞窟を根城にしていた山賊相手に、容赦なく弦を弾いて矢を放つシルフォンスは、有無も言わさず団員を掃討。戦塵の晴れた洞窟には、虫の息で倒れる山賊と、彼らが近くの村から強奪した金品が転がって、彼らを打ち倒した大量の矢が、あちこちに突き刺さっている。 「数だけだったな……ゴブリンより弱かった」 「怪我はしてませんか? していませんね? しているなら秘匿しないで詳細に話してください。でないと殺しますよ」 「一方的に打ってただけだ、怪我なんかするか」 「本当ですか? 本当ですね?」 「あぁ、本当だよ。ったく……」  怪我の絶えない彼にいつも付いて行く看護師志望のカルマ【クオリア・ナティアラール】は、疑いの目で以てシルフォンスを睨む。  自分がいなければまともに手当てすらせず、次の依頼にすぐ行ってしまうし、今回だって矢の補充役と回復役が必要なのに、自分一人で行こうとするし、とにかく目が離せない。  だからと言って、周囲から恋人同士と思われるのは、大変癪なのだが。 「……? あの扉は何でしょう」 「さぁな。金品はそこに転がってるし、それ以上の何か……前みたいに、炸裂の種でも蓄えてんじゃねぇだろうな」  クオリアの拳撃で以て鍵を破壊し、扉を打ち壊す。  中は暗く、クオリアが自身の魔力でキラキラ石を使って明かりを点けて、シルフォンスが奥へと進む。  特別何も置かれておらず、何も無いと思いながらも奥に進むと、大きな絨毯が一つ丸められて、大きな縄一本で縛られていた。  絨毯は物によっては高級品だと言うが、それもその類なのか、とシルフォンスが考えを巡らせた時、絨毯の中心が突如として動いて、中にいる何者かの存在を知らせて来た。  クオリアにアイコンタクトを送り、懐から取り出したナイフで紐を切り裂く。  絨毯が緩んで広がると、中から薄汚れた服を着せられ、ボサボサの髪のまま長い間放置されていただろう少女が出て来たのだった。 「何だ? 奴隷か?」 「人身売買をしていたと言う情報は、なかったはずですが……」 「とにかく、全員近くの警備隊に引き渡すぞ。このガキも――」  不意に、裾を掴まれる。  力の方向がやや下に向いているのに気付いたシルフォンスが見下ろすと、少女はシルフォンスの裾をしっかり掴んで。 「パパ」  静寂の籠る中、とんでもない爆弾を投げつけて来たのだった。
参加人数
3 / 6 名
公開 2021-03-07
完成 2021-03-21
雨ニモマケズ呪ニモマケズ (EX)
七四六明 GM
 フトゥールム・スクエア、工房の一角。  さながら、伝説に聞く選定の剣が如く、しかしてかの聖剣のような美しさはない禍々しい刀が、一行の目の前に鎮座していた。  内側に孕んだ禍々しい魔力を垂れ流し、輝かせる刀身は艶やかながら、極めて鋭利。  完成に近づくに連れ、自然と刀身に刻まれていったと言う文字は、今や廃れた昔の文故、未だ解読は済んでいない。が、刀身から鍔、柄へと通じて、ただ一言、握れ、と訴えて来るのだけは伝わってくる。  剣士であれば尚更に、強く、感じられる物があった。 「これが、例の怪物から作った刀か」  ローレライ、【ネル・シュワルツ】。クマのルネサンス、通称【クマさん】の見守る中、【灰原・焔】(はいばら ほむら)が抜刀に挑む。  剣技の練度。実戦経験値。過去、雨の怪物――驟雨(しゅうう)と名付けられた刀の怪物と戦った師匠の弟子と言う三点から、刀の使い手に選ばれた。  しかし、名人ならざる者。刀匠とも言い難き生徒らでも、理解出来る。  多くを学んで得た知識と、数をこなして得た技術とを結集させ、匠ならざるも、業物に近しい物を作り上げたと自負している。  が、良くも悪くも素材の性質故か、完成してしまった。  業物と呼ぶにはあまりにも禍々しく、妖しく、艶めかしい刀が。 「驟雨を斬る刀故、斬雨《きりさめ》と命銘した。が、見ての通り普通の刀ではない。妖刀、怨刀、とにかくそう言った類の物だ」 「それでも、誰かが取らないとならない。そうだろ?」  小、薬、中、一指、親の順で握り取る。  直後、同じ順の指を伝って刀から魔力が流れ込み、焔がそのまま項垂れた。  体に一切の力み無く。立ち尽くす姿に淀み無く。瞳に一切、光無く。 「おい、クマ」  刀を作った生徒は即座に退避。  二人は、想定していた万が一に備え、構えた。 「おい、意識はあるか。あるなら返事。ないなら無言で答えろ」  ゆっくりと、ゆっくりと、刀を抜く。  鞘は、目の前。敵は、何処。  斬れ、切れ、キレ――頭の中で反芻されし言の葉が響き、脳を構成する細胞の一つ一つに染み込むように溶けていく。それ以外の思考が、消えていく。  紙、木材、石。何でも良い。  動物、魔物、人。何でも良い。  斬れ、切れ、キレ――繰り返される言葉は、禍々しき呪いを帯びて、焔の体を蝕んでいく。犯していく。穢して行く。  ダメだと抗う理性さえ、溶けて、微睡み、落ちて、代わりに、起こされる。過去の悔恨。若気の至り。己の力に果ては無しと信じていた頃、犯した過ち。  海馬の最奥に封じ込めた、己が罪。  天上天下唯我独尊――この世に我が敵はなしと言う意味と勘違いしていた頃、連ねて名付けた剣技と共に、心に封じた記憶が燃え上がる。 「炎上蓮華(えんじょうれんげ)……唯火独占(ゆいがどくせん)……!」  捕えんと伸びた水の触手を薙ぎ斬り払い、背後から迫るクマの巨体を、剣圧が生み出す熱風が疾く、吹き払う。  刀を握る腕から肩、首を駆け抜け、顔の右半分に、水面に雫が落ちて広がったような波紋模様が広がり、刺青のように刻まれた。  淡く濁る瞳孔の内側で、水に落とされた墨汁のような細い黒が泳いでいる。 「斬る……斬る……斬る……」 「それ、殺すって意味のキルと掛かってるんじゃねぇだろうな。笑えねぇぞ、この野郎」  赫赫と、炯炯、明明と輝く妖刀にて、火の粉を払い、斬る。  燃え上がり、輝ける妖刀を握る焔の目が映すのは、斬るべき雨の怪物ではない。が、斬ると繰り返し宣う口と目に、冗談と返す様子無し。  向かわねばやられる。それだけはごめんだ。 「おい、外の連中に連絡だ。灰原は失敗した」  工房の外で待っていた一行は、連絡を受ける。  直接連絡を受けた生徒は溜息を零し、緊張の面持ちで構えていた一行に改めて告げる。 「焔くんが斬雨による精神支配を受け、暴走しました。私達四人は学園の四方に散り、彼が外に出ないよう迎え撃つ体勢を整えます。あなた方はネル、クマと共に彼の捕縛に勤しんで下さい。ですが、決して無理はしないように。あくまでも、自分の命を優先して行動して下さい」  それだけ言って、四人の先輩らは各方面に散る。  計ったかのようなタイミングで工房の出入り口である鉄扉が焼き斬られて、壺から落とされたタコが如く、太い水流の触手を操るネルが、クマを引っ張って抜け出て来る。  直後、入口より更に外側の内が焼き斬られて、崩れ落ちた瓦礫を踏み締めながら、燃える妖刀を握り締める焔が、悠然と闊歩して現れた。  灰色の眼光の中、屈折した光の中で、薄い墨の線が揺らめくようにうねり、這う。一瞥だけでゾクリと背筋を逆撫でられたような悪寒が走って、一瞬だが震えた。 「ビビるな! 後れを取るぞ! おまえ達は他三人の兄妹弟子に託されたんだ! 気を引き締めて掛かれ! 今のこいつは、加減なんて知らないぞ!」  火の粉を払い、火の粉を斬る。  斬る、斬ると念仏のように繰り返し、握る刀と反して冷酷な眼光を差す目が告げる。  おまえを、斬る。 「炎上、蓮華……!」 「来るぞ! 構えろ!」  躊躇えば斬られる。  背を向けても言わずもがな。  故に彼の兄妹弟子らは、この戦いに参加させてすら貰えなかった。  自分達は託されたのだ。  躊躇をするな。背を向けるな。決して、固めた意思を揺るがすな。己が力、全身全霊で以て止めろ。全神経を張り詰め、戦意を震え上がらせろ。  目の前にいるそれは、いつか倒すべき、雨の怪物に次ぐ怪物と思え。 「唯火、独、占!!!」  いざ、尋常に、勝負――!
参加人数
6 / 6 名
公開 2021-04-05
完成 2021-04-22
借り返しのアリエッタ (ショート)
七四六明 GM
 自称、学園一忙しい天使【シルフォンス・ファミリア】。  授業に出席している日数よりも、依頼に出ている時間の方が多い彼が、とある依頼先で出会った名も無きアークライトの少女。  シルフォンスをパパと呼ぶ彼女は【アリエッタ】と名付けられ、現在、フトゥールム・スクエアにて保護、面倒を看ていた。 「ヤァア! アリエッタも行くぅう!」 「リザードマン掃討作戦なんて連れて行けるか! 大人しく待ってやがれ!」 「ヤァ! ヤァ、ヤァ、ヤァァア! アリエッタもパパと行くのぉ!」  ここ最近の、二人の間で定番のやり取りだ。  依頼に行こうとするシルフォンスの袖なりズボンなりを引っ張って、行かせまいとするアリエッタが駄々を捏ねる。一時間程度すれば泣き疲れて眠る彼女を置いて依頼に行き、起きた彼女がパパがいないと泣き出すまでが、一連の流れである。  何故アリエッタがシルフォンスをパパと呼び、ここまで懐くのか、調査はしているものの、未だ彼女の素性を突き止める手掛かりとなりそうな物は見つかっていない。  彼女を探している家族がいるならば、早急に見つけ出して会わせてやりたいものだが、アリエッタの本当の名前さえわかっていないのが現状であった。  そうして、彼女を保護してからおよそひと月経った頃。季節は春の薫風が蒼穹を衝き、荒れ狂う台風となって世界を闊歩し始める頃合い。 「待て。待て……待てよ、待て……よし、ホラ」 「わぁ! クッキー! ありがとぉ、パパぁ!」 「依頼先で購入したお土産を渡す光景も、そのような犬と同じ扱いでは感動出来ませんね」 「誰も感動させるつもりはねぇよ」  【クオリア・ナティアラール】の冷たい視線も受け流し、シルフォンスの視線は貰ったクッキーを高々と掲げて駆け回るアリエッタへと向いている。  彼は彼で一応気に掛けているようで、彼女が転んでしまわないか見ている様だった。  ただもしも転んでしまったその時、助けてくれるのかどうかは怪しい目付きをしていたが。 「パパぁ、ありがとう!」 「あぁ。次も何か買って来るから、また大人しく待ってな」  ぼとん、と今まで落とさず持っていたクッキーの袋が重力に沿って落ちる。  みるみる両目に涙が溜まって、膨らんだ頬が真っ赤に染まると、座っていたシルフォンスの脚に強く抱き着いて泣きじゃくり始めた。 「いやぁあ! アリエッタもパパと行くぅう!」 「山賊団との乱戦に連れて行けるか! 今回は緋色の何たらとか言うヤバいのもいるかもしれないんだ!」 「ヤァ! アリエッタもぉ!」 「フム、さすがに此度の同行は私としても容認出来ませんね。しかし……」  アリエッタはいつも学園に置いて行くばかりで、シルフォンスとほとんど遊べていない。  かと言って、学園の外に出すにはまだ危ないだろう。ならば――と、クオリアは思い付いた。 「ではアリエッタ、一つ御遣いを頼まれては頂けませんか」 「お、おぢゅか、い……?」 「はい、御遣いです」  鼻水と涙でぐじゅぐじゅになった少女の顔を拭い、アリエッタに小さなバスケットを手渡す。  アリエッタにはただ綺麗な花々が詰め込まれているだけに見えているだろうが、クオリアからすれば全てが薬だ。全て適当な方法で加工する事で、立派な回復薬となる薬草と言う薬草が詰め込まれているのである。 「これを私の友人に届けて欲しいのです。彼女はこれを調合し、薬にします。そうすると、もしもパパが怪我をした時、パパがそのお薬で怪我を治す事が出来るのです。そう、これはパパのためなのです」 「パパの、ため……ぐしゅ、ぐしゅん……パパ、アリエッタもお手伝い出来る?」  クオリアの眼光が、アリエッタの背後から光る。  下手な事を言うな。察しろ。殺気さえ籠っていそうな冷たい視線が、天使の反論を射殺した。 「あぁ、そうだな……助かる」 「……! わかった! アリエッタ、御遣い行くぅ!」 (泣いたり笑ったり駆けずり回ったり、元気なこった……)  そして、可哀想なアリエッタ。  何と健気で純粋な心を、この冷徹なカルマに利用されるのだから。  バスケットの中身が薬草で、それらから作られる薬がシルフォンスを助けるまでは間違っていない。が、クオリアがバスケットを渡して欲しいと言った相手は、決して彼女の友人などではない。同じ医学を目指し、医療の道を進みながら、全く気の合わない犬猿の仲だ。  要は、彼女に渡すべき薬草があるにはあるが、自分で渡しに行くのを避ける口実としてアリエッタを利用したのである。 「おまえもおまえで、なかなかこき使ってるじゃねぇか」 「アリエッタを預かる際、あれにも借りを作ってしまいました。その借りを返すだけです。それに私はこれから、あなたと共に行くのです。心身共に万全な状態で挑むため、あれとの接触を避けるだけの事。何より、アリエッタもあなたのために何かしたいのです。その気持ちを無下にするべきではないのでは?」 「あぁ、はいはい。で、どうする。誰か傍に付けてやるのか?」 「それは……」  一人で行く! と駄々を捏ねるアリエッタの姿が想像出来てしまって、クオリアは少し考える。考えて、懐に手を入れて、袋に入った硬化の数を確認して――決めた。 「数名集って、陰から彼女を補佐する様に頼みます。あなたは少し時間を稼いで下さい。お願いしますよ」 「は? おい、何で俺が――」 「何でも何も、あなたのためでしょう? いいですね。お願い、します、よ?」 「パパ! 待っててね! アリエッタが、お薬貰って来るから!」 「……心配だぁ」  二重の意味で。  そそくさと退出していくクオリアの背中を見届けながら、脚に抱き着く少女の頭に手を置くシルフォンスは、彼女が来て以降控えていた煙草の味が、恋しくなった。
参加人数
4 / 4 名
公開 2021-05-02
完成 2021-05-18
露払う者達 (EX)
七四六明 GM
 夜闇、地面を穿たんとばかりに降り注ぐ雨粒が、静閑を裂く。  波紋重ねる公園の池。端から端へと掛かる一本橋。  傘差さず、刀を差して赴けば、魔鎧を纏う恩讐が、狂気と共に現れ出でる。  四つの腕で繰り広げる大立ち回り。命をば寄こせと襲う妄執が化身。  祖は驟雨(しゅうう)。宵闇の勇断(ゆうだち)也……。 「なぁんて。まぁ、えぇ様に言われたもんやなぁ。勇者を断つ怪物やから勇断(ゆうだち)たぁ、世間も言うてくれるやないか。なぁ? おまんら」  驟雨の持つ刀より作り出した妖刀、斬雨(きりさめ)暴走事件からおよそひと月半。  不甲斐なき兄弟子の失態を挽回すべく、自他共に剣の腕を磨く【白尾・刃】(しらお じん)は、到来しつつある梅雨の時期を感じながら、誰でもない相手に問いかける。  誰かに語り掛けているわけでもないので、返事こそないが、我こそはと刀剣の腕に自信のある生徒達が互いに互いを鼓舞し合い、士気を高め合う修練の成せる音が、代わりに返って来る。  それで充分。  が、だからと言って驟雨を倒す役を譲るつもりはない。  兄弟子の失態は、弟弟子が拭うのが礼儀と、次に斬雨へ挑戦する権利を得るため、刃もまた木刀を取る。 「さぁてぇ。ほな、うちの相手してくれる人おらへんのん? 何なら驟雨みたく、四人同時に相手したろやないか」  我こそは、と生徒達が名乗り上げようとする。  だがそこに、横槍ならぬ横刀が飛んで来て、刃のすぐ側を通過し、背後の壁に高い音を立てて真っ直ぐに突き刺さった。  他の生徒らの隙間を縫いながら、確実に刃を狙った投擲。躱していなければ、本当に危なかった。そんな剣呑な雰囲気を斬り裂かんとする呑気な声が、刀に続いて練習場に響く。 「はぁい。私、立候補しまぁす」  その場の誰も、見覚えはなかった。学年関係なく、誰もその人を知らない。唯一、自分へと歩み寄ってくる白髪の女性を知っている刃の顔色が、蒼白に塗り替わる。 「刃くんがどれだけ強くなったか、お姉ちゃん、見てみたいなぁ」 「ね、姉さん……! やのうて、大姉弟子!」 「もう、いいじゃない。実の姉弟なんだから。確かに大姉弟子でもあるけれど、お姉ちゃん、悲しいわ」 「あんさんがこっちにいるぅ言う事は……」 「うん、いるよ? もう、そこに」  刃を含め、その場の誰も気付けなかった。  刃の姉を自称する女性が先に投擲して突き刺さった刀の上に、黒髪の男が立っている事に。彼女に指され、振り返った事でやっと気付いた。 「お、大兄弟子……」 「……蹲(つくば)え、白の弟よ。【金剛・刀利】(こんごう とうり)の前である」  静かな言葉に圧し掛かられて、刃はすぐさま膝を突き、首を垂れる。  周囲もまた、男の黒い髪の下で輝く金色の双眸に、無駄口どころか行動の一切を封じられ、その場から動けなかった。 「何で、学園に……」 「灰の弟が失態を晒したと聞き、師匠よりの言伝を賜って来た。白の弟よ、黒の妹と共に来い」 「師匠がうちらをお呼びに……?!」 「怪物の件は知っている。学園側から度々師匠に、報告と相談がされていた。怪物の刀より討伐武器を作り上げたものの、使い手が見つからないと。灰の弟の失敗以降、使い手を育てているとも……不甲斐なし。師匠は二人の弟子と、怪物討伐に強い意欲を抱く学園生徒を呼んで来いとの事だ。ちなみに【銀鏡・十束】(ぎんきょう とつか)の同行は、予定になかったのだが……」 「私が刃くんの様子見に行きたいって言って、同行させて貰ったの。本当はお師匠のお世話もあったのに、刀利くんが説得してくれて……」 「銀の許嫁の頼みだ。断る理由がない」 「もう、刀利くんたら。恥ずかしいなぁ」  唐突に惚気が入ったが、最早、驚けない。  事態は転がるように勝手に進み続け、周囲に口を挟む余裕も猶予も与えてはくれない。  姉弟と言った二人の苗字が違う事を始め、刃の怯え様など、突っ込み所は多数あるはずなのに、誰も口を挟む事が出来なかった。  何より惚気文句を口にしながら、当の本人らは剣呑な雰囲気を保ったまま話を続けているのだから、第三者がこの空気を打ち壊す事は許されない。話は、未だ多くの野次馬の中、当事者らの間だけで続けられる。 「話を逸らしてしまった……白の弟よ。黒の妹並び、学園側の面々を揃えて来い。威勢のいいだけの雑魚を寄越してくれるなよ。鍛えてやると言うのに、死なれては困る」 「お言葉ですけど大兄弟子。ここには、威勢の良い生徒はいますが、雑魚はいてませんので」 「そうか。その言葉、信じるぞ。故に、失望させるな。せめてこの、斬時雨(きりしぐれ)を受けられるだけの奴が現れなければ……雨の怪物など倒せぬと知れ」  さながら、彼以外の時間が停止し、一瞬だけ空間が縮小されたかのように、刀利は全員の視線と意識を抜け、十束の背後にまで戻っていた。  彼は振り返る事無く、言伝を終えたからと何も告げず帰って行く。  ずっと惚気て、照れていた十束は刀利の足音が背後から聞こえてようやく事態に気が付き、刃にまたねと手を振ってから、刀利の後を追いかけて行った。  あっという間に二つの台風が過ぎ去り、練習場には静寂が積もる。一番に破ったのは、今の今まで実の姉と兄弟子に言われていた刃だった。 「とりあえずメメたんに報告して、正式に集うか。誘い文句は……そう、地獄が見たい奴だけ集まれ、や。半端な覚悟で来たら死ぬ、ってぇ脅し文句も添えてなぁ。はぁ、あ……大兄弟子相手の尻尾取りとかなったら、ヤやなぁ……」  雨の怪物への挑戦前の試練、来たる。
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-06-05
完成 2021-06-22
慈雨の奏でる鎮魂歌 (EX)
七四六明 GM
 自称、世界屈指の剣豪。  世界最強の座に至れぬまま死んだ悔しさをバネに、地獄の番犬を斬り殺し、不死鳥が浴びる炎を浴びて蘇った男――【色神・斬羅】(しきがみ きるら)。  学園に通う四人の生徒を含め、数えきれない数の弟子を世に放ちながら、未だ多くの弟子を抱え続ける蘇った伝説(自称)。  そんな男に、英雄の卵達は滅多にない機会だとばかりに問う。 「何? 強さの秘密? 俺の? 驟雨とか言う怪物の……あぁ、そう」  目の前に広がる満漢全席を誰よりも貪り喰らい、痩躯の中に納めながら考える。と言っても、時間にして一分にも満たない、ほんのわずかな時間であった。 「前にも言ったが、あれは殺された時の記憶を持っている。俺達リバイバルと違って、過ぎるほど鮮明に。つまり、自分を殺した術をも憶えているわけだ。そして、あれはそういった死の記憶が幾つも集まった集合体。中には俺みたいな達人に殺された個体もあっただろう。そういった自らを死に貶めた術技の全てを、模倣しているとしたら?」  わかるだろ、と包帯の下の鋭い眼光に理解を促される。  実際、そこまで難しい話ではなく、理解する事自体は難しくはなかった。理解し難かったのは、自分を殺した術技を模倣し、再現してでも復讐を果たさんとする、怨念の抱く狂気の底であった。 「皮肉な事に、この世で最も鋭い刃は、勇者の抜く聖剣でもなければ怪物の振る魔剣でも、名匠が鍛えて出来てしまった偶然の産物たる妖刀でもない。殺気――殺意の籠った刃だ。斬ってやる。斬り殺してやると言う気持ちこそ、握る刃を鋭利に研ぐ。そう、ただ斬るだけなら、そこの包丁一つでさえ済むわけだ。だからこそ、おまえ達の言うところの化け物が生まれた」  人が襲われる事件が起きていたから駆除した。  自分達が襲われたから迎え撃った。  危険な存在であるが故に、起こり得る未来を見越して討伐した。  どのような正当な理由があろうとも、知性ある者達の都合など、魔物にとっては知った事ではない。  本能故の襲撃だろうと、空腹故の襲撃だろうとも。  体内にどれだけ強き毒を持つ個体だとしても、どれだけ気性が荒く、闘争心の強い個体だとしても、関係ない。  魔法で殺される筋合いも、拳に殴り殺される筋合いも、剣に殺される筋合いもない。  故に応戦する。こちらも殺す。喰らって、潰して、斬り殺す。生きるために――。 「皮肉だな。誰かを護るため磨き上げて来た技術が呪われる。真似され、護りたかったはずのものが傷付けられる。殺される。共に理解し合えない。理解し合わない暴力同士の衝突の後、残るのは勝者だけだ。それこそ敗者は、怨念くらいしか残せない」  だが、彼は言った。  そうした敗者の――殺された魔物の怨念の集合体が、かの怪物であると。  集まった怨念の持つ記憶と体験から、自身を殺した術技を体現し、復讐を果たさんとする怪物が、殺された魔物達の遺した怨念と呪いから生まれたと。  だから皮肉なんだと、彼は肉についた骨を噛み砕く口で言う。 「そいつをまた倒すのに、特別な武器も何も要らねぇが……二度と出て来ねぇようにしてぇなら、倒しちゃいけねぇ。今まで磨き上げて来た術技でただ倒したんじゃあ、また、より強くなって戻って来るだけだからな」  確かに皮肉だ。  誰かを護るべき研鑽され、実績を上げた術技の結集が怪物の力の源で、倒したとしてもまた、より深き怨念と恩讐で以て現れ、より多くの被害を齎すと言うのだから。  誰かを護るため、もしくはより強くなるため磨かれた技が、自分も知らぬ場所で、誰かの大切な何かを壊しているかもしれないのだから。 「だからこそ、すでに奴が知ってる物。奴の核としてすでに成立している術技でなら、奴が胸の奥に刻み付け、憎む程嫌ってる痛みなら、奴を消し去れる。つまるところはそれだけの話だ。だが、それだけの話が難しい。何せこちらはまず、その奴が抱える痛みとやらを、理解しなければならねぇんだからなぁ……じゃあどうすればいいんだ、って顔してるな。本来長い時間を掛けてやるべきだろうが、手っ取り早い方法がある。おまえらが用意した刀……それの浄化をしな」  そうして学園に帰って来て、彼の話をそのまま学園長に話してから、一週間。  再度二人の間でやり取りがあって、斬雨の念を理解し、恩讐を祓うための魔法が学園長の手で完成したらしい。  刀に生徒らの念を送り込んでの、刀の恩讐そのものとの直接対決。  ただし、編み出されたばかりかつ高度な魔法なので、送れるのは少数。更にほんの一端とはいえ、相手はあの怪物、驟雨の力だ。  激戦は必至。  だがこれは、殺すための戦いではなく、倒すための戦いではない。  驟雨の知る痛み。驟雨の抱える痛み。驟雨の恨む痛みを知るための戦いである。  と、ここで自称最強の剣士様から、本人曰くありがたいお言葉――。 「あいつとの戦いは戦闘じゃねぇ。いわば鎮魂だ。将来勇者になりてぇと宣うのなら、鎮魂歌の一つでも歌ってやりな。あ? ちょっと待て? じゃあいつになったら準備が整うんだ? 愚図共め」  最後の一言は、要らないと思う。
参加人数
4 / 4 名
公開 2021-06-28
完成 2021-07-16
進撃の驟雨 (EX)
七四六明 GM
 滴る刃は流し雨。  鋭き刃は篠突く雨。  降り頻る勇断(ゆうだち)、卯の花腐しが如く命腐らす。  宵闇に降る雨の怪物。命をば寄越せと四本の腕に巨大な大太刀握り締め、未だ不敗にして恐怖の雨――驟雨(しゅうう)。  公園の池に掛かる橋の上。帯刀して赴いた雨の日の夜に、それは現れる。  が、今日この日、驟雨はその名、異名の通りの夕立と化す。  斬る、切る、キル……腹の底に圧し掛かるお経のような音が、夜の街に響く。音の出所を探ってカーテンを開けた人々は、それを見つけてすぐさま閉める。  鈍重な鎧兜に身を包み、六つの赤い眼を怪しく光らせる骸骨武者。  歯向かおうとしたならば、四本の腕がそれぞれに握り締める刀剣のいずれかに両断される事は目に見えている。  故に誰にも止められない。奴は一切止まらない。  奴が一歩進む度、雨足が激しさを増す。奴が目的地に迫る度、雨足が強さを増す。  血をば寄越せ。息の根をば寄越せ。命をば寄越せ。  斬る、切る、キル。  勇断(ゆうだち)が行く。豪雨が通る。降り頻る驟雨が、斬り殺しに参る。  向かうは勇者達の学園。未来の希望を育む場所。フトゥールム・スクエア。  参るぞ。参る。驟雨が参る。怨念、執念、恩讐、復讐を携えて、決着付けるべく進撃せん。恩讐、執念失いし我が一部と共に両断せん。 「――!!!」  暴雨警報、発令。
参加人数
6 / 8 名
公開 2021-07-30
完成 2021-08-19
精霊王らの宴、スピリッツ・フィエスタ (EX)
七四六明 GM
 火の精霊王、エンジバ。  水の精霊王、リーベ。  風の精霊王、アリアモーレ。  土の精霊王、プロギュート。  雷の精霊王、イグルラーチ。  闇の精霊王、ボイニテット。  光の精霊王、オールデン。  七柱の精霊王を称えて行なわれる、七年に一度の歌の祭典、スピリッツ・フィエスタ。またの名を、精霊王らの宴。  毎度七人の歌手が選出され、特設のステージにて精霊王に捧げる歌を披露する。  そして今年は、彼女が参加する事となった。若者を中心に人気を博し、魔物からも愛される紫の歌姫。【アメシスト・ティファニー】。  と、言う事は、そう言う事だ。 「こんにちは。アメシスト・ティファニーです。フフ、お久し振りの方も、いますね」 「学園代表、【シルフォンス・ファミリア】だ。今回もあんたの護衛をする事になった。よろしく頼む」 「いいえ、こちらこそ。それで……その子がお話にあった、【アリエッタ】ちゃんですか?」  自称、学園一忙しい天使、シルフォンスが依頼先で拾ったアークライトの少女、アリエッタ。  アメシストの護衛依頼と聞いて自分も行くと言い出して聞かなかった彼女は、小さなドレスワンピースに身を包んだ姿でシルフォンスの脚に抱き着いていた。  話題の歌姫を前にして、緊張しているのだろう。元々人見知りな部分はあるが、今日の彼女は少し照れ恥ずかしそうである。  なかなか前に出れず、チラチラと歌姫を仰ぐ少女の赤く紅潮した視線まで自身のそれを落としたアメシストは手を伸ばし、伸ばした腕の上を、肩を伝ってケットシーが歩み寄って来た。  目の前に下りたケットシーが長い尾をアリエッタの腕に絡めて、アメシストの前に先導する。 「初めまして、可愛いお姫様。私はアメシスト・ティファニー。今日は私達の歌、楽しんで行ってね?」 「……う、うん! アリエッタ! アメシストさん応援する! アリエッタ、アメシストさん大好き! 会えて嬉しい!」 「ありがとう。アメシストも、アリエッタと会えて、嬉しいわ」  超が付くファンなら卒倒必至だろう、力強いハグで抱き寄せられる。  頬を擦りつけられるアリエッタも嬉しそうで、見ていてとても微笑ましく、可愛らしかった。  【コレット・ルティア】はそれこそ目に焼き付けんばかりに見つめて自身も頬を紅潮させて、【クオリア・ナティアラール】も表情こそ変えなかったものの、安堵したような吐息を漏らして、シルフォンスへと視線を向ける。  視線で返したシルフォンスに対し、返事こそしないものの、返答だけは返した。 「アリエッタ。アメシスト様はこれから、祭典の準備をしないといけません。それまで私と、コレットお姉さんと一緒にいましょう」 「ヤぁ。もうちょっとぉ」 「また後で会えます。アメシスト様も、アリエッタに最高の歌を披露しようと頑張って下さるのですから、アリエッタも頑張って待ちましょう?」 「……うん。アリエッタ、頑張って待つ」 「偉いですね、アリエッタ」  無表情は相変わらず一貫しているが、クオリアもだいぶ、アリエッタとの付き合い方がわかって来たらしい。  と言うか、アリエッタもクオリアに対して随分心を許したものだ。最初はシルフォンスだけだったのに、今ではクオリアにも自分から抱き着くのだから、距離が縮まった証拠だろう。 「では、私とアリエッタ。コレットはシルフォンスの用意した関係者席にいますので、皆様はどうかよろしくお願いします」 「俺が用意したとか、余計な事を言うな! さっさと行け!」 「アリエッタ、バイバイ」 「バイバイ! アリエッタ、応援してるからね!」  何度も振り返って、大きく手を振る少女に、稀代の歌姫も満面の笑みで手を振り返す。  姿が見えなくなると嬉しそうに、可愛い娘さんですねと微笑んだ。  彼女は天然だ。わざとではない。だから苛立ちの矛先は、共に護衛依頼へとやって来た自分達へと向いて来る。 「おまえら、今回は道中の護衛と訳が違うからな……歌姫様以外にも六人の歌手。彼女達を目当てに来る大勢の客。それら全員を守るのが俺達の仕事だ。あの歌姫様の出番は奇しくもトップだから、歌声に多くの魔物が引き寄せられるだろう。だから、全員気を引き締めろ。魔物一頭、蟲の一匹も入れない覚悟で迎え撃て!」  建設された会場から、西に数キロ離れた先にある森の奥。妖しく美しく響く旋律があった。  弦。金。木。打。鍵。  楽器を元に作られた魔物達、アポカリプらの五重奏が、森の魔物達を呼び覚ます。  ゴブリン。  ジャバウォック。  キラーバット。  アーラブル。  リザードマン。  ワイバーン。  コカトリス。  土龍。  元の習性も忘却し、呼び起こされた森の魔物達が、五重奏にそれぞれの声を重ねる。合唱とは言い難く、聞き心地の悪い不協和音だったが、不思議と一つの演奏として成立していた。  それこそ五体のアポカリプを操り、多くの魔物を操る演奏を奏でるこの男、【ザンテ・クリエール】にとっては、開幕を告げる序曲として、相応しい楽曲であった。 「嗚呼、嗚呼、嗚呼! 酷いです、悲しいです、辛いです。七年に一度のスピリッツ・フィエスタ。ワタクシ楽曲担当としてお声掛けお待ち申し上げておりましたのに。あの場に集った七人の歌い手を飾れるのは、我が楽団以外にないと言うのに! 嗚呼、悲しいですが仕方ありません。我らを知らぬと言うのなら、知らしめるだけにございます」  ザンテの背後の洞窟から、それは巨体を揺らしながら現れる。  項垂れた顔は黒い髪で見えない。折れ曲がった猫背の巨体を二本の両腕で支え、這って出て来たそれに後ろ足はなく、代わりに大量の鱗が並ぶ蛇のような尾っぽがあって、森の奥の洞窟ではあったが、その姿はラミアないし、人魚のようにも似て見えた。  曰く、人魚の中には歌で人をかどわかし、海に引きずり込む種類がいると言うけれど、その後の事は誰も語らない。が、それは引きずり込んだその先を、長い髪でも覆い隠せない大量の唾液から想像させた。 「さぁ、八人目の歌い手よ。我が楽団の麗しきディーヴァよ。並び立つ七柱の精霊の王に、おまえの歌声を捧げに行き給う! さぁ、奏でよう! 行進の時だ!」  行進とは名ばかりの、おぞましき進軍が始まる。
参加人数
4 / 6 名
公開 2021-08-27
完成 2021-09-14
天使少女と黒猫のケットシー (ショート)
七四六明 GM
 ケットシー。  一見すると、ただ一回り大きいだけの猫。  獣人族と妖精族の特徴を真似て作られた魔物ながら、昨今を賑わす歌姫然り、知ってか知らずか飼い猫にしている家も少なくない。  だから学園に迷い込んで来る猫ないし、探して欲しいと頼まれた猫がケットシーだった、なんて事も少なくはなくて。 「ん? あらまぁ」  ベンチで休んでいた【白尾・刃】(しらお じん)の前に、小さな女の子が歩いて来る。  若干人見知りをしてビクリと体を震わせたが、パパの同級生とわかって小さく会釈。誘われるまま、刃の隣に座る。 「パパはまたお仕事か?」 「うん。アリエッタ、おるすばん」 「そっかぁ、偉いなぁ。で、その子はどうしたん?」  ベンチに座った【アリエッタ】の膝に座るようにして、抱かれる猫が一瞥を配る。  ケットシーだと気付いたのはそのときで、刃は視線を交えて腹の内を探ったが、猫のフリを止めるつもりは無さそうで、すぐさまとんだ杞憂だと警戒を解いた。 「こぉてぇで、歩いてたの。アリエッタのとこ来て、ついて来るんだよ?」 「そっかぁ」  黒い毛並みは整えられている気配があるし、翡翠色の双眸も人に慣れていそう。  首輪など付けている訳ではなかったが、どこかで飼われている猫なんだろうなと察した。  時折配られる一瞥が、私を主の元へ返せと訴えているようで、勝手に想像しておいて勝手に生意気だなと思って、勝手にアリエッタに捕まったケットシーに対して、少しだけだがざまぁみろなんて思う刃は、ふと柱の上にあった時計を仰ぐ。 「しゃあない。女の子一人残して行く訳にもいかんし……報酬はシルフォンスから貰うとして……はぁ。そっちは、うちの問題か。なぁ、アリエッタ。その猫は、どこかの飼い猫かもしれん。一緒に、飼い主を探しに行くか?」 「……うん! 行く!」 「そぉかぁ。やっぱ偉いなぁ、アリエッタは。パパに似とるわぁ」  パパに似てる。  そう言われた少女は、嬉しそうにはにかんだ。  血縁関係はないし、彼女が勝手にパパと呼んでいるだけなのだが、それほど彼女の父は、あの不愛想な天使と似ているのか。それとも、純粋に彼に似ている事が嬉しいのか。  まぁ、彼女が可愛らしいことには違いないのだけれど。 「ほな、依頼出して助っ人を何人か呼んで来よか。アリエッタもおいで。人が集まるまで、ビスケットでも食べながら待ってよやないの」 「うん!」  まぁおそらく、このケットシーは放っておいたところで家族の元へ帰れるのだろうけれど、アリエッタが強く抱き締めている辺り、無理に引き離すと泣いてしまうかもしれない。  今はパパも、パパの相方であるカルマもいないので、泣かせたとなると困ってしまうし、そもそも泣かせる気なんてまるでない。  最悪、飼い主の元へはケットシーが勝手に帰るだろう。  後をついて歩くだけでもいいし、とにかくアリエッタが納得出来る別れ方がベストだ。そんなわけで、小さな天使とのケットシーの飼い主探しが、始まったのである。
参加人数
2 / 4 名
公開 2021-11-13
完成 2021-11-30
真っ赤な格好の辻斬りさんは (EX)
七四六明 GM
 ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る。  今日も明日も明後日も、もはやその日に関係なく、この時期ずっとクリスマス。  毎日毎日、楽しい楽しいクリスマス。  いつか来るかな来ないかな。いい子にしてればきっと来る。赤い服に白いおひげ。大きな袋を持ったサンタクロースが――。 「ねぇねぇおにぃさん。ずっとここで何してるの?」  男は、ベンチに座っていた。  公園の一角にあるベンチで、ただ座っているだけだった。何もしていなかった。だから好奇心旺盛な子供に声を掛けられて困る。  何もしていないのだから、何をしているのと聞かれても返す言葉がない。  何処とも言えない空の彼方に一瞥を配って考え、深く、深く溜息をついた。 「……待ってるんだ」 「そっか! おにぃさんも、サンタさんを待ってるんだ! もしかして、サンタさんのおともだち?!」  どうしてそうなる。  子供の方程式はよくわからない。またどう返していいのかわからなくて、空の彼方の誰でもない何者かに助けを乞う様に、一瞥を配る。 「そうだな。袋を持った老人とは、よく話す」  主に家から物を持ち出す類の人間と、最期の挨拶を――なんて、現実は言えない。 「やっぱり! おにぃさんも赤いもんね! おにぃさんも、いつかサンタさんになるの?!」 「いや、俺の髪は地毛で、服は……」  空に一瞥。 「……あぁ、そうだ。俺はここで子供達を観察し、どんなプレゼントを欲しているのかを見極める訓練をしている。が、今はまだ出来ない」 「そっか……ぼくはね、弟がほしいんだ。友達に弟がいて、すっごく仲が良くて、うらやましくて……だから……」 「そうか。善処するように伝えておく」 「うん! ありがとう、おにぃさん!」  それからその子の親が来て、子供は帰って行った。  我ながら、馬鹿げた事を言ったと思う。  サンタクロースも、多分だけど万能ではないし、弟を与えるのは無理だろう。仮に本物のサンタクロースにはそんな力があったとしても、自分には出来ないと男は断言出来た。  何せこの身は、世間では緋色の辻斬りなどと呼ばれ、恐れられる斬り裂き魔なのだから。 「子供の扱いが上手いとは意外だな。おまえは殺す事しか能がないと思っていたよ、【荒野・式】(あらや しき)」 「……要件は」  ベンチの裏に生えている木の更に後ろ。式には見えない背後の陰から話しかける声は酷く濁って聞こえて来る。  人物特定を避けたガスを作っての隠ぺい工作。  式からすれば、真正面からやり合えない弱者の稚拙な悪足掻き。幾ら声色を変えたところで、声の癖ないし口調ないし、探る方法は幾らでもあるのだから。 「消して欲しい奴がいる。盗賊の一団を任せていたんだが、牛の角を取る仕事しくじって、任せてた一団を潰された挙句、一人逃げた奴だ」 「……口封じ、か」 「我々と面識のある奴は消しておく必要があるからな。そいつは剣の腕に多少自信があった。おまえの退屈を凌げるかどうかは知らないが……」 「……そうか。わかった」  同時刻、魔法学園(フトゥールム・スクエア)。 「【ヴィンレスト・リーガン】。前に護衛依頼を受けた牛さんを襲った、盗賊団のボスだったヲトコ……そいつを、こっちで捕まえるわ」  魔法学園学園長室。  学園長【メメ・メメル】と、生徒【紫波・璃桜】(しば りおう)の対談は、璃桜の連れるシルキーを除き、他の誰もいない状況で行なわれていた。  静寂の夜。紅茶の甘い香りに、鼻孔の奥を突く様にくすぐられる。 「そうだねぇ♪ 彼は君が探ってた大規模組織の中でも、数少ない幹部クラスだったし? このままじゃあ口封じされちゃうものね♪」 「えぇ。そして数日後、彼が表に出て来るの。どうやら、新しい雇用先を見つけたいみたい」 「なるほどなるほど? それまでに人を集めて欲しい訳だ☆ わかった♪ 掲示板に出しておくから、楽しみにしておいてくれ給え♪」 「えぇ、お願いします学園長。出来れば精鋭が好ましいですね。あの男も相当の手練れですが、組織が送り込むのはおそらく……彼が追われるきっかけとなった事件にもいた、あの辻斬り本人か、同格の刺客でしょうから」 「荒野式、かぁ……君にとっても、因縁ある相手だね。璃桜たん♪」 「まぁ、弟弟子を可愛がってくれたもの? 姉弟子として、ヲンナとして、返さなきゃいけないものはちゃんと返さないと。ただ、それだけの話ですよ」  メメには濁して伝えたが、情報はしかと掴んでいる。  口封じに来るのは緋色の辻斬り、荒野式で間違いない。弟弟子【灰原・焔】(はいばら ほむら)を追い詰めた二刀流薙刀使い。  相手にとって不足なし。寧ろ遠慮をしようと配慮をしようと、手を抜こうものならこちらが死ぬ。  そんな相手と、あろう事か街中でやり合わなければいけない。しかも常時より人だかりの多い、この時期に。  重ね重ね、こちらには不利が続く。が、手が多ければやりようはある。そう、まだ手さえあれば――。 「なんて、弱気になってちゃダメよねぇ? まったく……」  ふと、窓の外を見る。  本番と同じ時間帯。夕日が沈んで暗くなった空の下、明るく照らされた街並に、多くの人々が行き交い、声と歌と言葉が通う。  そんな中に、奴が来る。  斬り裂き浴びた返り血に濡れに濡れ、赤く染まった辻斬りが。
参加人数
2 / 6 名
公開 2021-12-18
完成 2022-01-05
木滅の刀 (EX)
七四六明 GM
 恩讐に果て無し。雨は止めども終焉遠し。汝の戦い未だ果てず。  強い雨足の跫音が響く。  冷たく強く、叩き付ける様に降り頻る雨の中で、静謐の二文字を具現した声が、脳の内側でこだまする。  恩讐に果て無し。されどもし、汝が此の恩讐に立ち向かわんとするならば、疾く走れ。鎮魂の剣(つるぎ)を持って、疾く参れ。  至るべき終わりを齎さんと驕るならば、疾く、疾く――英雄擬きの剣(つるぎ)達よ、走れ。向かえ。荒ぶる魂を鎮めんがために。 「来たか……」  怪談じみた奇妙な話だが、この村は毎年ある時期になると、森に侵食されていた。  夜になると、異常な速度で成長する木々。広がる緑は土から栄養を奪い、村の作物を枯らしてしまう。  枝葉に紛れて、ジャバウォックやポイゾネスジャバウォックが人を襲い、夜にはウィルオーが跋扈する。足元に広がる草花の中にはマヒノクサやヨイユメゴケが混じって、幻覚や麻痺毒に苦しむ人が多い。  そんな村にフラリとやって来て、生活を保証して貰う代わり、森から村を守っている男がいた。 「鳶《とび》さん! 鳶さん来てくれ!」 「魔物が出たか」 「今日は枝だ! 団体客だ!」  男の名は【鶯・鳶】(うぐいす とび)。  色の神なんて姓のついた師から、髪と同じ色を受け取った男。金、銀の色を持つきょうだい弟子と共に、剣の技を磨いた男。 「あれ、か……」  まるで、枝葉の波だ。  限界まで高く、上まで伸びて、村を圧し潰し、呑み込まんとする大津波。夜空の光源を村から奪わんばかりの巨大な影が、怪物の仁王立ちの如く立ち上がっていた。  が、鳶は引くどころか、肩からぶら下げた刀身の凄く長い長刀を抜く。 「村の者ども! 始めるぞ! 夜の祭りだ!」  水平に構えて月光を反射する刀身が、風と雷の魔力を同時に纏い、大きく振り回した。  そして、大きく薙ぎ払う。横一閃された斬撃が、長く伸びた枝の波を両断。再度伸びて来る枝を、今度は縦に両断する。  すると今度は大きく成長した大型のジャバウォックが飛び出し、一直線に突進して来た。  水平に構えた長刀が嵐を纏い、大きく開いた口から一直線に両断する。縦半分に両断されたジャバウォックを見た村人達が、歓声を上げた。  更にポイゾネスジャバウォックまでもが襲い来るが、それも両断。再び、村から歓声と拍手が上がる。  逆に勢いを失った森は、盛り上がらせていた枝を引いて、急激に大人しくなった。 「今夜の祭りはここまでだぁ! 明日もあるだろうから、さっさと寝なぁ!」  この時期になると決まって来る森との戦いを、男は祭りと呼んで村から恐怖と共に斬る。  が、ここ最近の戦いは例年より激しさを増して、祭りだ何だと言って誤魔化せる物でもなくなって来た。 「鳶! ……どうする?」 「さすがに、もう俺一人でカバーするのも難しいな……仕方ねぇ。梟を飛ばしてくれ。爺さんの弟子が、何人かいるはずだ。どれくらいの出来かは知らねぇが、色を貰ったなら使えるだろ」 「わかった!」  単なる直感だが、何となくわかる。  森の中に、この事態を引き起こしてる何かがいる。  目的は知らないが、人相手に良い印象を持っている感じはない。村に来たのは本当に偶然だったが、自分が来ていなければ、今頃村は森を操る何者かによって、食い尽くされていただろう。  敵意、殺意。  そう言ったものを感じさせる何者かが諦めてくれない以上、掃討する他ない。 「魔法学園、か……どんな奴が来るんだかなぁ……」  期待と不安とが混じり籠った手紙を脚に括り付け、梟が飛ぶ。
参加人数
2 / 6 名
公開 2022-01-11
完成 2022-01-29
雷光斬火 (EX)
七四六明 GM
 某月某日、魔法学園(フトゥールム・スクエア)に一通の手紙が届く。 ・拝啓――。  何て堅っ苦しい挨拶は抜きにする。【鶯・鳶】(うぐいす とび)だ。先刻の森の化け物退治では、随分と世話になったな。  前置きは無しで、本題に入る。  昨今魔物の活動が活発になってやがる。てめぇらが魔族と呼ぶような薄気味悪い連中の影も、チラホラ見えて来たと聞く。  今後、おまえらが戦ったって言う【驟雨】(しゅうう)や、俺達が森でやり合ったあいつ、【ダンデ・ラ・フォレ】みてぇな怪物が出て来る事も少なくねぇだろう。  そしてその時、毎回精鋭が揃うなんて事もねぇと思う。これだけ魔物が活発に活動してるんだ。手は幾らあっても足りねぇだろう。  そこでだ。お節介だとは思ったが、俺の知るきょうだい弟子連中に、学園への協力を頼む便りを寄越した。全員が全員応えてくれるかは知らねぇが、応じてくれる奴は、学園(そっち)に手紙をくれるはずだ。  まぁ、良くも悪くも癖の強い連中だ。何なら、腕試しくらいして来るかもしれねぇが、そこは祭りだと思って存分に暴れやがれや。  無論、俺も協力出来るならしよう。ただ正直、俺は村を守らなきゃならねぇから、きょうだい弟子が助けてくれるなら、そっちを頼ってくれると助かる。  これからもてめぇらの上げる派手な花火が、人々の笑顔と安寧に繋がる事を祈るぜ――鶯・鳶。  鳶の手紙から五日後。再び学園に手紙が届く。ただし手紙と言うにはあまりにも仰々しい、果たし状のような大きな紙で。 ・弟弟子から手紙を預かった。シュターニャの傭兵組合、シュッツェンで【黄泉夜・涼鶴】(よみや りょうかく)の名を出せ。力を見る。  シュターニャ付近の広原にて、男は風に吹かれていた。 「涼鶴」  筋骨隆々。晒す半身、筋肉の塊。  自身の広い肩幅まで足を広げて立つ姿は、文字通りの仁王立ち。  純粋なヒューマンながら、両腕に施した龍の鱗を思わせる刺青と、生まれ持った鋭い牙のような歯。そして二メートルを超える背丈のせいで、今まで何度、ドラゴニアとの血縁だと間違われた事か。  師曰く、色の弟子の中でも五指の一つ。今までで一、二を争う問題児。  大らかで和やかな黄色を与えられながら、血沸く闘争心に駆られ続ける戦闘狂戦士。 「来たかぁ」  広原にて、狩りで仕留めた獲物に群がり喰らうのけもの達。  群れのボスは先に喰らい終え、周囲を警戒しているが、それは、彼の警戒さえ掻い潜って、瞬足を謳われる速度でも逃げ切れぬ速度で襲い来た。  地中から現れたそれの口に、噛み殺されたボスが垂れ下がる。鎌首をもたげて上を向いた口から、流れるように巨体が丸呑みにされて、丸々と肥え太った腹に収まった。  他ののけものも逃げようとしたが、逃げ遅れた子供の存在がその場に留め、次々と、広原の狩人たる猟獣を喰い殺していくそれは、巨大な蛇だった。  もたげる鎌首は三つ。のけものの群れ一つを呑み込む腹は一つ。  槍の矛先のような形をした尻尾を鞭のように叩き付け、振り回して進む。  稀に振り返って見せる三つの顔に、一つの目玉も無し。空虚の面相を舐め啜る。 「あれが、弟弟子の言っていた、恩讐の、怪物……」 「ふふふははは! 良いぞ! スクエアの小僧共が来る前に、俺が狩るか!」 「落ち着く。それじゃあ、元も子も、ない」 「なら味見だ! おい【レドラッド】! 俺の得物寄越せ!」 「昂るのは、わかる。が、ケンタウロスより、我慢できない……まぁ、だから一緒に行く。決めたん、だけど」 「おいレドラッド! 早く寄越せ!」 「まるで、子供……」  ケンタウロスのレドラッドが、背中に背負った布に包まれた鉾を取る。  布を剥ぎ取り、異形に作られた切っ先を晒した涼鶴は、単身跳び込んで行った。  三つの顔が一斉に向く。目玉のない面相が迎えるのは、嬉々として顔を歪ませる狂戦士。溢れんばかりの殺意(えみ)で笑う男の巨躯を丸呑みにせんと、三つ首の蛇は牙を剥く。  電光石火。  のけものが戦場とする速度の領域で戦う両者の速度は、最早、石を擦り切り火を起こす程度に留まらない。さながら、岩を斬り砕き燃え上がる雷霆。 「雷光斬火(らいこうざんか)!!!」  雷光炸裂。吐かれる毒霧を薙ぎ斬って、硬い鱗に叩き付ける。  雷撃に焼け焦がされながら、斬撃を受けた鱗は鎧の如く弾いて、蛇は尾の先で薙ぎ払う。  鉾同士の衝突が周囲を巻き込み、両者の周囲に生える草花を焼き斬る。周囲が見る影もなく破壊されていく光景を見て、騒ぐケンタウロスの血を収めるレドラッドは、血風荒ぶ空を仰ぐ。  恩讐、疾駆。
参加人数
3 / 8 名
公開 2022-04-06
完成 2022-04-26

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 わかってた。
 私が彼にとっての一番になれないことは。
 だけど私は、一番でなくてもいいと思っていた。
 せめて二番目くらいに――彼の二番目になれればいいと思っていた。
 それくらいはなれると思っていたし、現に私は彼の右腕だ。
 だのに何故、心が晴れない。彼のために戦って、彼のために命を賭しているというのに、この心の靄がかかったような感覚は――
「おいおいどうした? もう少し頑張ってくれよ! 七龍帝の名が泣いてるぜ」
 酷い笑い声。
 戦う相手にリスペクトはなく、ただねじ伏せるだけの圧倒的暴力。
 人の肉体を得たとはいえ、あいつはやはり龍なのだ。
 人に尊敬の念を抱くなど、あるはずもない。
「まったく情けない。俺なんかさっさと倒すんじゃなかったのか? 俺を倒してあいつの下へ向かうんだろう? そらそら、立った立ったぁ!」
 顎を蹴り上げられて体が浮く。
 同時に盛り上がる大地が腹部を抉り上げて、大きく跳ね上げる。
 赤血を嘔吐する彼女にも容赦なく、敵は追撃を続ける。
 鉄拳で地面に叩きつけると再び隆起させて跳ね上げ、地面から岩弾を放って叩き込む。
 彼女を撥ねた岩弾が空中で集まって巨塊になると重力に任せて降り注いで、彼女を地中深くに埋める勢いで叩き潰した。
 嘲笑が響く。
 彼の笑い声は人の体で発せられていても耳障りなほどにうるさい。
「そらそら、テンカウントしてやろう! その間に起き上がってみな、水龍帝! はい、いぃち!」
 うるさい。やっぱりあいつは嫌いだ。
 嫌い嫌い、大嫌い。
 好きなのなんて、彼くらいだ。
 でももうダメ、もう終わり。
 このまま土の中に埋められて終わりなの。
 ごめんなさい、こんなところで終わってしまって。
 ごめんなさい、なんの役にも立たなくて。
 こんな奴楽勝だなんて、大見栄を切っておいてこの始末。本当に、ごめんなさい。
 でも、いいわよね。
 あなたにはあの子がいる。あの子の方が役に立つ。
 私はあの子にはなれないし、あの子のように優しくもない。
 私は、彼にとっての一番にはなれないのよ。
「さん、しぃ! どうした、起きないのか? ごぉ!」
 人の命なんて、おもちゃ程度にしか思っていないのだろう――いや、こいつの場合、おもちゃ程度にも考えてないかもしれない。
 だとすれば確かに、こんな奴に殺されるのはあまりにも不甲斐なく思えるが、もう力なんて湧いてこないし、立ち上がったところで勝てる気力すら湧かない。
 ならばもういっそ、この場で死んでしまいたい。
 彼にはもう、あの子がいるのだから。
「なんだよつまらねぇなぁ。はぁち、きゅう……あぁあ。そういやいたなぁ、あいつにずっとくっ付いてた女が……あれ殺したら少しは盛り上がるかなぁ」
 すでに勝負は決したと思って、カウントも切り上げて次の戦いへと行こうとした彼が、そっと零した言霊一つ。
 彼女を起こすには、充分過ぎた。
 自身を押し潰していた巨岩を粉砕し、立ち上がってすぐさま奴の頬に拳を叩きこんで殴り飛ばす。
 今までほとんど効きもしなかった敵の一撃が深く響いたことに、敵は驚きを禁じ得ない。
 同時、突然覚醒した彼女の翼に生える水の両翼が広がっていくのを、見逃さなかった。
 彼女の中で荒ぶる龍殺しの力が、上がっていく。
「あの子を、どうするって?」
 凄んだところで怖くはない。
 今の今まで圧倒的な差を見せつけていた相手だ。
 落ち着いてしまえば恐れることはない。
「はっ! あの女を殺してやろうって話だよ! あれを殺せば、あいつも俺を殺しに来るだろ? 最高に面白くなるじゃあねぇの! 復讐に来た人間を返り討ちにするほど、面白いことはねぇからよぉ!」
 だからこいつは、殺し続けているのか。
 すべては自分を誰かの仇として殺しに来る人間を、返り討ちにして楽しむために。
 そのためだけに。
「あんた人の命を、なんだと思っているの?!」
「おいおいおめぇら人間の言える台詞か? 人間は人前では自分の本性も晒す勇気のねぇ、矮小な生き物なんだぜ。そのくせ自分が言っているとバレなきゃ、見ず知らずの他人にだって死ねと言える、他人の命なんてなんとも思ってねぇ生き物、それが人間だろ? だったら俺は殺す。死ねというくらいなら俺の手で殺す。俺を殺すために来た奴を殺す。俺を死ねと言った奴を殺す! 死ねとただ願うより、殺した方が爽快じゃあねぇか! 俺からしてみりゃあおまえ達は自分からこの爽快感を捨てた、綺麗事好きの大馬鹿野郎の集まりさ!」
 隆起した岩板が砕けて、散弾として襲い掛かって来る。
 水の両翼が粉砕するものの、背後から襲い掛かって来る岩の塊を防げず、吹き飛ばされた。
「死ねと思ってんだろ?! 邪魔だと思ったんだろ?! だったら素直に殺せばいいじゃねぇか! なのに何もしねぇでただ死ね死ね鳴いてるだけの獣なんざぁ、殺されたって文句言う権利もねぇんだよ愚図がぁ!」
 巨塊の岩石が彼女を中心に集まる。
 そのまま押し潰さんとしようとするが、彼女の操る水流によって粉砕される。
 だがすぐさま、細かく砕けた散弾が彼女の皮膚を貫く。
「おまえ、あれのことが好きなんだろ? だったらあの女を一回くらい邪魔だと思ったろ? だったら殺せばいいじゃねぇか。なんで何もしねぇ。二番目は嫌だろ? あれをおまえのものにしてぇだろ? だったら殺せよ。そのうち二番目ですらなくなっちまうからな。てめぇみたいな偽善者面した愚図はよぉ!」
 敵がさらに攻撃を重ねようとした瞬間、彼女は反撃を返した。
 水の両翼から繰り出される水の散弾が岩を貫き、襲い掛かる。
 肌を斬り、肉を貫き血を弾ける。敵が初めて揺らぐ。
「あんたには、わからないでしょうね……邪魔だって何度も思ったわ。あの子じゃなくて私なら、って思ったわ。だけど殺しちゃダメなのよ。その一線だけは超えちゃダメなのよ!」
 両翼が伸びて、先端が丸く固まって叩きこまれる。
 拳のような形状になって何度も殴るうち、敵が奪い取った人間の皮膚の上に生えていた鱗が、砕けて剥がれ始めた。
「殺してしまうのは簡単よ! 死なせてしまうことほど簡単なことはないの! だけどその瞬間、人間は、私達は心が死ぬのよ! それがみんな怖いの! 強い言葉で強がってるだけで、本当は弱い生き物なの!」
 何故押される。何故戦況がひっくり返る。
 わからない、意味がわからない。
 強がっていると言った時点で、自分達は弱者だと認めたことと同じ。
 弱肉強食の世界では、弱者が弱点を露呈した瞬間に勝負は決まる。そこから戦況がひっくり返るなどあり得ない。
 ならば何故、今押されている。
 死にかけの人間一人、何故この俺が――強者が押されている。
「誰だって誰かを妬む! 僻ひがむ! 邪魔だと思うし、誹謗中傷だって浴びせる酷い生き物よ! だけど、誰かを殺した瞬間に、その人は心が死ぬのよ! もう二度と笑えない! 何も楽しくない! 大好きな人といても、そこに幸せなんてないの!」
「ふざけるな! 散々殺してきただろ?! 今までたくさん殺してきただろ?! これからも殺すんだろ?! 自分達が一番になりてぇと、他人を蹴落としてきたんだろ?! それを否定すんのか、今更! 素直になれよ!」
 砂塵が舞う。
 水柱がそれを貫き、その隙に翼を出したグランドールは飛んでいく。
 そして地面からくりぬいた巨大な岩盤を、落とす。
「そら言えよ! もう二番目は嫌だろ?! 邪魔は全部消し去って、あれをおまえのものにしたかったんだろ?! 羨んで殺して、殺して奪って、それが人間だろうがよぉ!」
「悪いけど、殺すだけの獣と人間を一緒にしないで。人間はね、憎むだけじゃないのよ。妬むだけじゃないのよ――その数倍、数百倍、他人を愛せる生き物なのよ! “水龍王天昇顎スプラッシュ・プレッシャー”!!!」
 巨大な水龍が現れて、巨岩を高圧の水流で噛み砕く。
 そのまま飛翔した龍は敵を捉え、巨岩と同様に噛み砕いた。
「あぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁっっっ!!!」
 断末魔とも呼べる叫び声を上げて、敵は力を失って落ちる。
「……そりゃあ、ずっと二番目はイヤよ。私だってあいつに――愛されたいと思うわよ。でもね、あの子がいるから今の彼がいる。あの子がいたから今、彼は戦える。私じゃできなかったことを、あの子はやってくれた……だから、今は譲っているだけよ。私だってあいつを愛してるんですもの。いつまでも二番目に落ち着いてやらないんだから」
「おや、そこにいたのですか」
「……あんた今の台詞聞いてた?」
「なんのことです? ……敵は、倒せたようですな」
「あなたもね。そうとなったら、さっさと彼のとこに行くわよ。あいつのことだもの、また無茶してるに違いないんだから」
 と、血塗れの笑みを浮かべる彼女。
 彼女もまた、愛する人のために現在進行形で無茶を重ねていることを見逃さなかった。
 当然、指摘はしないが。
 思わず、若干の呆れを含んだ笑みが零れる。
「ちょっと、今笑うポイントあった?」
「なんでもありませんよ。それよりもさっさと行きましょう。ほっといたらボスとあの子、またイチャイチャし始めますでしょうからね」
「それは、許せないわね。なら急ぎましょう」
「了解」
 二人は颯爽と駆け抜ける。
 互いの想い人の下へと、全速力で。