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発酵グルメバトル!


ストーリー Story

「今回は、発酵食品をテーマにグルメバトルをして欲しいのよ」
 料理人2人と商人1人を前にして、アルチェの領主一族に連なる女商人【ララ・ミルトニア】は言った。
「それって、前にやったヤツみたいなのですか?」
 ララに尋ねたのは、料理人の【ガストロフ】。
 もう1人の料理人である【辰五郎】と共に、グルメバトルに参加した経験者だ。
 その時のグルメバトルは、土の霊玉を宿す男の子が住んでいるボソク島の経済的な自立を確立するために行われた物だが、今回は違った。
「前とは目的が違うのよ。と言っても、ボソク島にも関わる話だけどね」
 そう言うとララは、学園出身の商人【ガラ・アドム】に視線を向ける。すると――
「今回は、こいつを広めるためにグルメバトルをしたいんだ」
 ガラは1枚の符を取り出しテーブルの上に置くと、端を破る。
 途端、出来立ての料理が現れた。
 甘鯛をメインにしたブイヤベースや、ムール貝やアサリにイカやエビを使ったパエリヤに、同じ食材を使ったピラフ。
 食べられる花(エディブルフラワー)が彩りとして加えられ、目で見ても楽しめる。
 他にも、枝豆を使ったコンソメスープや、魚の燻製と野菜を酢や柑橘の汁であえたマリネと、山菜やハーブのオイル漬けなどなど。
 見ていて食欲がそそられる。
「へぇ、こいつは――」
 出てきた料理のひとつ、パエリヤを試食した辰五郎が言った。
「これ、あの時のグルメバトルに参加してたネェさんの料理だな」
「ああ。学園の学食に正式採用されたもんだ」
「へぇ、良いもん出てくんだな学園の食堂は――って、それはそれとしてだ。一番気になるのは、こいつは出来てから時間が経ってねぇな」
「マジか!?」
 驚いたガストロフが、辰五郎と同じように試食して、さらに驚く。
「すげぇな。ひょっとして、さっきの符が関係してるのか?」
「そういうこった」
 ガラが応える。
「どこでも食符。出来立ての料理を封じて、いつでも好きな場所に、封じた出来立ての料理を解放することが出来るってマジックアイテムだ」
 ガラの説明に、興奮する料理人2人。
「おいおいおいっ、とんでもねぇじゃねぇかそいつはよ。そいつを使えば、旬の最高に旨い素材を使って、いつでもどこでも最良の料理が食えるってことじゃねぇか」
「それに店舗の制約も無くなっちまう。料理人の働き方まで変わっちまうぞ」
「そういうこった」
 ガラが2人に応える。
「こいつはかなり、料理業界の流通を変えちまう代物だ。ただし、問題はコストでな」
「……だからグルメバトルをするって訳か」
「それって……あぁ、分かった。コストが高くなる分、高くても買いたくなるブランド力を付けたいって訳だ」
 料理人としてだけでなく、料理店の経営者でもあるガストロフと辰五郎は理解した。
 どこでも食符は便利だが、効果としては『出来立ての料理が食べられる』ことに尽きる。
 魅力的ではあるが、言ってみればそれだけだ。
 実際に使うためには、出来立ての料理の値段に加えて、どこでも食符のコスト分の値段を上乗せしないといけなくなる。
 なので、値段が高くても構わない付加価値をつけるため、グルメバトルを開催しようというのだ。
「そういうことよ」
 理解の速い2人に、ララは笑みを浮かべながら言った。
「どこでも食符は、これから量産体制に入るそうだけど、そうなれば誰でも使える道具になるから、物珍しさだけじゃ売りにならない。それこそ中身が大事ってわけ。その中身を、貴方達にも参加して貰って作って欲しいってこと」
「俺達『にも』ってことは、他にも参加するんで?」
 ガストロフの問い掛けに、ララは応える。
「ええ。貴方達以外の料理人にも声を掛けているし、あとは学園生にも出て貰えないか打診するつもり」
「へぇ、良いですね。あの時参加した学園生達も、光る物持ってたし。楽しみだな」
「学園生といや、屋台形式で出してたのも良かったな。フィシュバーガーとか、旨そうなもんがあったぜ」
「屋台か、良いな。偶にああいうの、作って出したくなるんだよな」
「良いわね。なら今回は、屋台形式でやってみましょ」
 ガストロフと辰五郎の会話を聞いて、ララは閃く。
「屋台形式でお客さん集めて、売り上げで優勝を決めちゃいましょ。お客さんも参加できて、楽しめるわよ」
「そいつは楽しめそうだ。しかしそうなると、てんでバラバラに作っていたらテーマ性が感じられなくて売りが弱い……ひょっとして、その辺も考えて、発酵食品でグルメバトルって提案したんですか?」
 ガストロフの問い掛けに、ララは笑顔で応えた。
「違うわよ。最近発酵食品がマイブームなの」
 基本、生まれがお貴族様なご令嬢なので、屈託がない。
「私は食べたい物が食べれて、その上で儲けに繋がるなら、最高じゃない?」
 ララの応えに、苦笑しながら辰五郎が言った。
「発酵食品がテーマってことですけど、ラム酒とかもオッケーですか? どうせなら、ボソク島のを使ってやりたいんです。サトウキビの廃糖蜜を発酵させて作る訳ですし」
「良いわよ。その辺の括りはゆるーくやっちゃいましょ。発酵してる食品使えば、何でもオッケー」
「そういうことなら……確かボソク島にはバナナも作られてたから、それを使った物を試してみますかね」
「バナナって……お酒作れたかしら?」
 ガストロフにララが尋ねると、応えが返ってくる。
「実じゃなくて、葉っぱを使うんです。豆をバナナの葉っぱで包んで発酵させると、テンペってのになるんです。発酵で出て来るクセは、高温で一気に調理すると消えるんで、油で揚げると素材の旨味と発酵で出来た旨味の両方が味わえて良いんですよ。生をスライスしてチーズと一緒に食べるのもアリです。酒の肴にする時は、俺はそうしますね」
「好いじゃない」
 出来あがった料理を想像し、笑みを浮かべながらララは言った。
「楽しみだわ。お客さんにも楽しんで貰うためにも、学園生達と一緒に、頼むわよ」
 これに力強く応える2人だった。

 そして課題が出されます。
 内容は、発酵グルメバトルに参加すること。
 必要な物があれば先方が用意してくれるとの事です。
 屋台形式で行われる今回の発酵グルメバトル。
 皆さんは、どんな料理を作って出しますか?


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2021-12-02

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2021-12-12

登場人物 4/8 Characters
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。
《光と駆ける天狐》シオン・ミカグラ
 ルネサンス Lv14 / 教祖・聖職 Rank 1
「先輩方、ご指導よろしくお願いしますっ」 真面目で素直な印象の少女。 フェネックのルネサンスで、耳が特徴的。 学園生の中では非常に珍しく、得意武器は銃。 知らない事があれば彼女に訊くのが早いというくらい、取り扱いと知識に長けている。 扱いを知らない生徒も多い中で、その力を正しく使わなくてはならないことを、彼女は誰よりも理解している。 シオン自身の過去に基因しているが、詳細は学園長や一部の教員しか知らないことである。 趣味と特技は料理。 なのだが、実は食べるほうが好きで、かなりの大食い。 普段は常識的な量(それでも大盛り)で済ませているが、際限なく食べられる状況になれば、皿の塔が積み上がる。 他の学園生は、基本的に『○○先輩』など、先輩呼び。 勇者の先輩として、尊敬しているらしい。 同期生に対しては基本『さん』付け。  
《スイーツ部》ルージュ・アズナブール
 リバイバル Lv15 / 村人・従者 Rank 1
生前の記憶を失った、どこにでも居そうな村人の女性。 挨拶や返事はとてもいいが、実は面倒くさがりで、目を離すとすぐに手抜きをしようと画策するグラマラスなリバイバル。 『生前の記憶を探したい』という、ありがちな目的を達成するために学園へ来た。 名前を表すような真紅の髪が自慢。 酒好きで、節約なんて言葉は知らない。 身長は167cmほどで、体重はヒミツ★ 驚異のEを自称。もっとすごいかもしれない? 生前は海の近くに居たのか、魚や海産物の料理が得意。 特にお酒に合いそうなスパイシーなものや、煮込み料理が何故か得意。 なお、近親者に名前が4つあったり通常の3倍だったりする人はいない。 もちろん仮面や色眼鏡の人もいない。 赤いノースリーブなんて言語道断らしい。
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。

解説 Explan

●目的

屋台形式の発酵グルメバトルに参加する。

発酵している食品を使えば、何を作っても構いません。

●場所

観光名所でもあるアルチェで、広場が用意されています。

数十軒以上の屋台が参加しても大丈夫な場所です。

●方法

以下のようなことが出来ます。

1 料理を作って屋台を出す。

1人でも、他のPCと協力しても構いません。

発酵食品を使っていれば、どのような物を出してもオッケー。

お酒は発酵食品だからカクテルを出す、みたいなのでも構いません。

とにかく、発酵食品を使っていればオッケーです。

2 屋台の売り子さんになる。

料理を作って出す、以外のことが出来ます。

売り子さんとして販売に勤しむも可能ですし、着ぐるみを着て集客する、とかも可能です。

●NPC

ガストロフ&辰五郎

超一流の料理人です。

屋台の協力を求めることが出来ます。

協力は求めず、ライバルとして競い合うことも可能です。

ララ・ミルトニア&ガラ・アドム

色々と伝手やコネのある商人です。

必要な物があれば、頼めば基本、用意してくれます。

その他の要望も、内容によりますが、出来る限り叶えてくれます。

以上です。


作者コメント Comment
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。

今回は、最近YouTubeでの配信の中で、発酵食品バトルのネタが出てきましたので、折角なので作ってみよう、ということで出してみました。

こんな感じで、配信の中で出されたネタがエピソードとして出て来る場合もありますので、興味を持っていただけましたら、YouTubeのご登録やグッドボタンお願いします。

などと、配信者っぽいことを呟きつつ、これにて。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリザルトに頑張ります。


個人成績表 Report
エリカ・エルオンタリエ 個人成績:

獲得経験:97 = 65全体 + 32個別
獲得報酬:3000 = 2000全体 + 1000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
・発酵食品の販路拡大を行う

お酒などは樽やボトルで流通させやすそう
高品質なものは貴族やお金持ちに気に入ってもらえれば、太い販路が見込める

他の食品も食符の他にも瓶詰や干物などの別手段で保存と運搬を可能にしたい
素材の育成や確保、調理人や加工従事者、販売従事者の仕事が増えれば
地域の収入源にもなるはず

食符のコストはかさむけれど、どうしても遠距離を旅しないといけない行商人や冒険者、傭兵などには
いざという時の保存食として、命を預けるアイテムとなれば、多少高くても手元に置いておきたいと思うのではないか
試供用の食符を配って、感想や改善案などを提供してもらうと同時に、満足すれば口コミで評判を広めて欲しいと依頼する

シオン・ミカグラ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
発酵グルメバトルに参戦して、料理を作ります!
……まあ、私はどうも競うってことを意識するのが苦手なものでして……たはは、純粋においしいものを作って皆さんに食べてもらえたらなって思います!

私が屋台で出す発酵食品はズバリ、納豆です!
東方由来の食品なので、幻灯にはありましたが他ではあまり見かけないかも
なのでこの機会により広く知ってもらえたらなって思いました

匂いも独特ですし、出すときも工夫が必要ですね
そのまま頂く方には柑橘の効いたポン酢を一緒に勧めます。使えばある程度匂いも抑えられますから
ほかにも加熱する納豆パスタや納豆ピザならより食べやすいのでそれも作りましょう
テンペとも是非、味比べしてほしいです!

ルージュ・アズナブール 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:156 = 65全体 + 91個別
獲得報酬:4800 = 2000全体 + 2800個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
発酵食品を使用した料理の屋台を出し、売上が上がるよう努力する

◆発酵食品
普段は使わない魚やエビを発酵させた調味料とか使ってみますわ
いわゆる魚醤ですわね
屋台向けならば、麺や焼き物でしょうか

◆料理
シュリンプペースト(エビを発酵させた魚醤)を使って、エビやキャベツ、玉ねぎ、ニンジン、ししとう等を具にした焼きビーフンを作ってみますわ
焼くときの臭いは強烈ですが、臭いが飛んだあとの料理の味は保証しますわ

今回は、島でも再現できるようにビーフンにしましたが、焼きそばでもいけるはず

折角ですし……島のホワイトラムとミント、砂糖にボソク島の柑橘を使って、ボソク島風モヒートを作って、大人向けに売ってみましょうかね

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
発酵食品……でしたらわたくしは酵母で麦を発酵させる「パン」をつくります。

ごくふつうのパンを、でもやきたてのおいしさをさしあげたいです。

おいしいお料理……でも、それだけでたべることはあんまりありません。
パンとかいっしょにたべることがおおいとおもいます。

ですからわたくしはそれをほかの方々に提供します。

「いつもの食事」とおなじようにあじわえるようにしてあげたいから。

リザルト Result

 ひんやりとした風を頬に受けながら、【エリカ・エルオンタリエ】はグリフォンに乗って空を飛んでいた。
(さすがに今の時期になると、冷たくなってくるわね)
 すでに年末。冬の気配が見え始める中、空は一段と冷える。
 念のため、雨風と寒さ避けに、ボソク島で作られた雨合羽を羽織っていたのだが正解だった。
「もう少しだから、頑張ってね」
 グリフォンを労うように、軽く首を撫でると甘えたような鳴き声が返ってくる。
「あとで美味しい物あげるから」
 嬉しそうな鳴き声が返ってくる。
 それに、くすりと笑みを浮かべながら、エリカは段取りを思い浮かべた。
 エリカが向かっているのはトロメイア。
 そこにはスポンサーになってくれるかもしれない資本家達が集まっていた。
 以前のグルメバトルと同じように、各地域をグリフォンに乗り巡っていた彼女だったが、その手助けをするように【ガラ・アドム】が資本家達との渡りをつけてくれている。
 アルチェの貴族筋でもある女商人【ララ・ミルトニア】の伝手も加わっているので、今回は更に大きなスポンサーを獲得できる可能性があった。

 そして現地に辿り着いたエリカは、豪奢な部屋で資本家達との折衝を始めた。

「販路拡大を行いたいと」
「はい。皆さんにとっても益のあることだと思います」
 エリカが応えた相手は【ブラム・ストーカー】。
 特定の領地ではなく不特定多数の領地に商会を広げている大資本家だ。
 古くから謂れのある一族であり、初代の名を継ぐ彼は言った。
「販路の拡大なら今も行っています。わざわざ、貴女達の手を借りる意味はありますかね?」
「あります。それがこれです」
 エリカは持って来ていた食符を破り様々な料理を広げる。
「なるほど。話には聞きましたが、確かにこれには価値がある。もっとも、貴女の狙いは他にもありそうですが」
 先を促すブラムに、エリカは応える。
「目の前の料理の材料は、これまで人に知られて来なかった場所の物です」
 グリフォンで各地を巡り協力者を募る事と同時に、漁師や猟師、農家とも接触し食材の提供を求めていた。
「今まで知られていなかった場所にも価値のある物は沢山あります。それを発掘し、付加価値のある商品に加工できれば商機になります。特に、質の良いお酒を樽や瓶で流通できれば、富裕層にアピールできると思います」
「ふむ。流通経路を作り出せれば、行きと帰りで常に荷物を運ぶことでコストも安くなる。食符以外の商品にも繋がりますね」
「ええ。食符を使わずに他の食品を、瓶詰や干物などの別手段で保存して運搬を可能にしたいんです。それに関わる素材の育成や確保、調理人や加工従事者、販売従事者の仕事が増えれば地域の収入源にもなる筈ですから」
「大規模に広まれば可能でしょうね。ですが、そのためには継続した宣伝も必要だ。その費用も大きなものになる」
「それはお客さんに広めて貰えばいいんです」
 エリカは策を語る。
「どうしても遠距離を旅しないといけない行商人や冒険者、傭兵などに試供用の食符を配って、感想や改善案などを提供してもらうと同時に、満足すれば口コミで評判を広めて欲しいと依頼する方法があります」
「試供品の経費は、宣伝の初期投資と割り切れと?」
「効果はある筈です。それと、大きな取引ができそうな相手には試供用の食符や保存食を進呈し、利用者の多い宿や酒場、食堂等にも優先的に営業や試供品配布を行って、食品の大規模流通や本場への旅行の促進を目指し評判を広めて貰えば効果は拡大します」
「なるほど……」
 ブラムは熟考してから応えた。
「分かりました。貴女達の案に乗らせて貰いましょう。我々、特に私の一族としては、貴女たち学園との縁も欲しいですからね」
 他の資本家達も同意し、多くのスポンサーを得ることが出来た。

 スポンサーが増えたことで、グルメバトルは規模が大きくなることが決定。
 お客さんも沢山来ることが予想されるので、学園生達は料理の腕を振るうことにする。

「今回は、普段は使わない魚やエビを発酵させた調味料とか使ってみますわ」
 機嫌よさ気に言いながら、【ルージュ・アズナブール】は中身の入った瓶を並べる。
 瓶のふたを開け漂ってくる匂いに、一緒に料理の準備をしている【シオン・ミカグラ】は興味深げに言った。
「これ、何でしょう? 醤油に似てますけど、香りが強いですね」
「いわゆる魚醤ですわ。匂いが強いですけれど、それも調理次第で美味しさのひとつになりますわ」
「使い方次第というわけですね」
 料理の知識も技術もあるルージュに、シオンは耳をぴんっと立て感心する。
 これにルージュは返す。
「料理はやり方次第で、材料が同じでも色々な物が作れるのが魅力のひとつですわ。ミカグラさまはどんな物を使うおつもりですの?」
「私が屋台で出す発酵食品はズバリ、納豆です!」
 シオンは元気良く応える。
「海を渡ってきた母の故郷でも納豆を食べるそうです。お味噌も発酵食品ですけど、あえて万人受けの難しいほうで挑戦してみたくなりました」
 そこまで言うと、少し気まずそうに続ける。
「料理勝負で、それだと駄目かもしれないんですけれど……まあ、私はどうも競うってことを意識するのが苦手なものでして……たはは、純粋においしいものを作って皆さんに食べてもらえたらなって思います!」
「美味しいって思って貰えることが、一番ですわ」
 ルージュは笑顔で応える。
「美味しい物を食べたら、みんな笑顔になりますもの。それに、食材を知って貰うのも今回の目的ですものね」
 ルージュの言葉に、シオンは表情を明るくして言った。
「はい! 納豆は東方由来の食品なので、幻灯にはありましたが他ではあまり見かけないかも知れないって思っていましたから、この機会により広く知ってもらいたいんです」
 熱弁すると、少し恥ずかしそうに続ける。
「自分の知ってる食材を、みんなに知って貰えたら嬉しいですし」
「わたくしも、そう思います」
 シオンの言葉に賛同したのは、【レーネ・ブリーズ】。
 幾つもの金型など、料理器具を用意していたレーネに、シオンは尋ねた。
「レーネ先輩は、何を作られるんですか?」
「わたくしは酵母で麦を発酵させる『パン』をつくります」
 そう言って、小麦粉の入った袋を調理台に、とんっと載せる。
「ごくふつうのパンを、でもやきたてのおいしさをさしあげたいです」
 食符を使えば、焼き立てのパンをお客さんに出すことが出来る。
 けれどレーネの拘りは、それだけじゃない。
「おいしいお料理は、それだけでたべることはあんまりありません。パンといっしょにたべることがおおいとおもいます」
 それは日々の生活の中で、寄り添うように共にある物。
 意識しないほど自然に、けれどあると嬉しい主食となるパンを作りたいと思っていた。だから――
「もしよかったら、作ったパンを使ってみてくれませんか? 『いつもの食事』とおなじようにあじわえるようにしてあげたいのです」
 レーネは、ルージュやシオンに呼び掛ける。
 これに2人は笑顔で応えた。
「好いですわね。焼きビーフンを作るつもりでしたし、パンに挟んでみても美味しいかもしれませんわ」
「私も納豆……は、パンに合うと良いんですが……」
 悩むシオンに、料理作りに参加している【辰五郎】と【ガストロフ】が言った。
「それなら納豆トーストにしてみれば良いんじゃねぇか?」
「ツナやチーズを一緒にトッピングしても良いしな。美味いもん、作っていこうぜ」
 これにシオンは、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「はい! 美味しいのを作りましょう!」 
 シオンの呼び掛けに、皆は作っていく。
 レーネは小麦粉を、ボールに入れる。
 それをひょいっと見ていたガストロフと辰五郎が言った。
「パン向きの良い強力粉だな」
「粉の挽きも良いし、良いパンが作れるな。どこの小麦使ってるんだい?」
「グラヌーゼ麦を使っています」
 何度か課題で関わったことのあるレーネとしては、思い入れのある物だ。
「復興を目指すグラヌーゼの『いつもの食事』、そのアピールもしたい、そうおもいますから」
「いつもの食事か」
「好いな、それ」
 料理人として思う所があるのか、2人は協力を申し出る。
「パンを焼くにしても、使う酵母の種類によって風味も変わってくるから、幾つか使ってみるかい?」
「小麦粉に加える物の違いでガラっと味や食感は変わって来るしな。何かいるもんがあったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
 礼を返すと、レーネは思いを込めてパンを作っていく。
(日々をくらす場所で、たべてほしいです)
 食べる人々の顔を思い浮かべながら願う。
(それぞれの場所でひとびとがおいしくたべられること、それがわたくしのねがいだから)
 少しでも多くの人に届けて、願いが叶うように。
(それをおおぜいのひとにかんじてほしいから)
 レーネはパンを作っていった。

 パンを焼く美味しい匂いが漂う中、シオンとルージュも負けていない。

「匂いも独特ですし、出すときに工夫が必要ですね」
 少しでも受け入れて貰い易くするために、加える調味料を工夫する。
「醤油を用意して貰いましたから、これに酢橘を加えて――」
 納豆をまぜまぜ。
「どうでしょう?」
「いけると思うぜ」
 試食したガストロフが応える。
「匂いは、抑えられてますか?」
「ああ。これなら手軽で良いな。他にも、調理法を変えてみるのも良いと思うぜ」
「そうですね……なら、パスタにしてみます」
 シオンは熱湯にパスタを入れ、茹でている間にソース作り。ガストロフや辰五郎の助言を受けながら作っていく。
 細かくした納豆に溶かしバターを加え、各種調味料を振りかける。
 ゆで上がったパスタと絡めて出来あがり。
「美味しく出来ました」
 シオンは試食してみて、美味しさに笑顔が浮かぶ。
 同じく試食した辰五郎も笑みを浮かべる。
「いけるな。この調子で品数増やしていこう」
「それなら、ピザも作ってみたいです」
 シオンの言葉に辰五郎とガストロフが手伝い、難しい生地作りを担当してくれる。
 それに納豆やチーズをトッピング。
 焼いている間に、もう一品。
「レーネ先輩、パンを貰えますか?」
「はい。使ってください」
 レーネが作ったパンを使って納豆トーストも作る。
「美味しいです」
 次々料理が出来あがり、嬉しさで頬が緩むシオンだった。

 そして一際料理の腕を見せるのは、ルージュだ。

「屋台向けなら、やはり麺や焼き物ですわね」
 フライパンを振るいながら、手際よく作っていく。
「エビやキャベツに玉ねぎ、それにニンジンとししとうも使って――」
 具沢山な食材を油でいため、火が通った所で下準備しておいたビーフンを投入。
 焦げ付いたりしないよう絶妙な火加減で混ぜ合わせた所で、調味料を掛ける。
 エビを発酵させた魚醤であるシュリンプペーストが、濃い匂いを一気に広げた。
 くせの強い匂いだったが、火が通って行く内に、それは食欲をそそる香りに変わっていく。
「好い感じだな」
 料理人2人が感心するように様子を見に来る。
 これにルージュは応えるように言った。
「焼くときの臭いは強烈ですが、臭いが飛んだあとの料理の味は保証しますわ」
「出来あがりが楽しみだな。これ匂い消しに、なに使ってるんだ?」
「生姜とレモン汁を使ってますわ。ボソク島の食材との相性も合うようにしてますわ」
 ルージュが使っているのは、ほとんどがボソク島の食材だ。ボソク島でも簡単に再現できるレシピで作っている。
(個人的なこだわりですけども)
 けれどそれが料理の味の良さにも繋がる。
 全体の味の調和を考えて作られた料理は、とても美味しい出来あがりだった。
 そこに見栄えの良さも加える。
「トロピカルなエディブルフラワーを添えて……お皿に盛れば女性にも受けそうな見映えになりますわね」
 観光名物になりそうな料理になった。
 出来あがったビーフンで、さらにもう一品。
「パン、いただきますね」
「はい。使ってください」
 レーネから焼きたてパンを貰い、ビーフンを挟んだ物を作る。
 ビーフンの味を調整し、パンを軽く焼いているので、単に挟んだだけじゃない新たな料理になった。
「他にも作りたいですわね。折角ですし……島のホワイトラムとミント、砂糖にボソク島の柑橘を使って、ボソク島風モヒートを作って、大人向けに売ってみましょうかね」
 ラムに砂糖とミントと柑橘類を加えて作るカクテル、モヒートを作る。
「ボソク島風モヒートは、炭酸強めのソーダで爽快感を強調したいですわね。もし、ボソク島でも炭酸水を確保できるなら……いずれは、すべての材料がボソク島産のモヒートを飲んでみたいですわ」
 一口味見して、出来の良さに笑みを浮かべる。
「あとは、未成年には、ラムの代わりにサトウキビジュースを使ってもいいかもしれませんわね」
 大人から子供まで、みんなに喜んで貰えるように考えているルージュだった。

 そして出来上がった料理を食符で封じ、いざグルメバトル開始。

「フトゥールム魔法学園が作る、各地の食材を使った料理です。美味しいので、ぜひ来て下さい」
 お客さんの呼び込みを、エリカがしてくれる。
 その甲斐があり、多くのお客さんが並んでくれた。
「お客さん、もっと呼び込みしても良い?」
「はい! お願いします」
 お客さんに料理を提供しながら、シオン達はエリカに応える。
「食符にストックしてある出来立て料理はまだまだありますから、お願いしますわ」
「こちらは、わたくしたちで回していきますから、おねがいします」
 ルージュとレーネも、お客さんへの対応をしながら応えを返す。
 エリカは笑顔で頷いて、客引きへと戻る。
 そして次々来てくれるお客さんに、シオンとルージュ、そしてレーネは接客していった。
「大豆は畑のお肉と呼ばれるくらい栄養価の高い食材なんですよ。私もお揚げとか大好きですし!」
 笑顔でシオンは勧める。
「納豆の食べ方はですね、よくかき混ぜて粘りを出すとより美味しくなるんです。炊いておいたご飯もあるので良ければご一緒に!」
 勧める料理は数多い。
「納豆パスタもピザも、トーストも美味しいです! テンペとも是非、味比べしてください!」
 お勧め料理を教えるだけでなく、接客もスムーズだ。
「はい、どうぞですわ」
 ルージュが出際よく、お客さんを捌いていき――
「ありがとうございました」
 レーネは丁寧に、パンの入った包みを渡していった。

 次から次にお客さんが来て大盛況。
 それは他の屋台も同じで、予定より早く用意していた料理は全て売れ切れた。
 一息ついて、皆は空腹に気付く。
「あぅ……ずっと料理のことを考えていたのでおなかが空いてきちゃいました」
 シオンの言葉に、皆は頷く。
「折角だから、皆でご飯食べて帰りましょう」
「好いですわね。お酒が出る所が良いですわ」
「はい。いきましょう」
 4人は笑みを浮かべ、打ち上げも兼ねた食事会に向かうのだった。



課題評価
課題経験:65
課題報酬:2000
発酵グルメバトル!
執筆:春夏秋冬 GM


《発酵グルメバトル!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 1) 2021-11-26 00:01:32
賢者・導師コースのエリカ・エルオンタリエよ。よろしくね。

《スイーツ部》 ルージュ・アズナブール (No 2) 2021-11-28 22:36:49
ご挨拶が遅くなってごめんなさい。村人・従者コースのルージュと申しますわ。
よろしくお願いいたしますわね。

折角ですし……普段使わないものを使いましょうか。
魚やエビを発酵させた調味料とか。

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 3) 2021-11-30 01:03:09
わたしは食品やお酒など発酵食品の販路拡大に傾注しようと思うわ。

お酒などは樽やボトルで流通させやすそうだし、
高品質なものは貴族やお金持ちに気に入ってもらえれば、太い販路ができそうだわ。

他の食品も食符がコスト的に厳しいなら、瓶詰や干物などの別手段で保存と運搬を可能にしたいわね。
素材の育成や確保、調理人や加工従事者、販売従事者の仕事が増えれば
地域の収入源にもなるでしょうしね。

《光と駆ける天狐》 シオン・ミカグラ (No 4) 2021-11-30 04:01:49
っとと!私もご挨拶するのを忘れていました。
教祖・聖職コースのシオン・ミカグラです。よろしくお願いします!
私はちょっと怖いですけどせっかくなので納豆に挑戦してみます。母の故郷の伝統的な料理の一つでもありますから。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 5) 2021-12-02 00:00:26
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。

ギリギリの参加になっちゃいましたけど、おてつだいしますね。