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春夏秋冬 GM 

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。

日常系だけでなく戦闘系シナリオなど、色々と出させていただこうと思っています。

興味を持って頂ければ幸いです。

担当NPC


メッセージ


作品一覧


魔法学園を回ってみよう (ショート)
春夏秋冬 GM
 魔法学園フトゥールム・スクエア。  言わずと知れた勇者の育成を掲げる教育機関だ。  特徴といえば、広い。とにかく広い。  なにしろ1000平方キロメートル以上。  ひとつの街が入って余りあるほどの大きさだ。  なので、いくつか町が学園の中に入っていたり、さまざまな施設がごちゃまんとあったりしてる。  それほど大きい学園なので、迷子になっちゃう者も。  そうしたことを避けるためにも、ちょっとしたオリエンテーションといった感じに、学園を見て回ることが勧められている。  特に、新入生には学園に慣れて貰うためにも、こういったことは必要なのだ。  という訳で、見て回ることに。  今回見て回る場所は、次の通り。  超大型商店「クイドクアム」は、文字通りの大型商店だ。  食べ物に衣料品、小物に雑貨と数多く、疲れたら小休憩でフードコートにレストラン、カフェなんかもあったりする。  ここに訪れるのなら、これからの生活で必要なものがあるかないかを探してみるのも良いだろう。  休日の憩いの場になるかどうかの下調べをしてみても良いかもしれない。  情報酒場「スタリウム」は、世界各地から卒業生が戻ってきて交流を行なう場所だ。  雑多で騒がしく賑やかな酒盛りをしている者も居れば、静かに密談めいたものをしている者も見ることができるだろう。  卒業生に声を掛けてみるのも良いし、ベテランめいたふりをして、自分の世界に浸ってみるのも一興だ。  もっとも、ここに居るのはクセのある卒業生たち。  どんな反応が返って来るかは、分からない。  体験型レジャー施設「勇者の穴」は、勇者の能力を使えるアミューズメントパークだ。  今だと『かかって来い勇者達!』とかいうイベントがあるらしい。  着ぐるみを着た卒業生が、魔物に扮して模擬試合をしてくれるとか。  胸を借りるつもりで、突貫してみるのも良いだろう。  そんな話が出ている中、アナタ達は――?
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-02-09
完成 2019-02-24
【メイルストラムの終焉】White (ショート)
春夏秋冬 GM
 活気のある声が響く。 「そっち持ってくれ!」 「おう!」  破壊された家屋の柱を男衆が運んでいく。  周囲を見渡せば、いたる所に瓦礫が散乱していた。  その全ては、魔王復活を目論む軍勢により破壊された物だ。  少し前、長閑な島が襲われた。  現地の言葉で、『名も知らぬ』あるいは『無名の』という意味を持つ『ボソク島』。  朴訥とした、この島が襲撃されたのは、もちろん理由があった。  霊玉。  かつて魔王を封じた九人の勇者。彼らの魂が結晶化したものだ。  強大な魔力の源であり、全てを集めれば魔王復活さえ叶うと言われていた。  霊玉は八個存在し、その内のひとつを宿す少年【テジ・トロング】が島に居たのだ。  それをどこからか聞きつけた、魔王復活を目論む軍勢が島を襲撃。  学園生たちの活躍のお蔭で事なきを得ることが出来たのだが、さすがに被害なしというわけにはいかなかった。  人の犠牲は抑えられたものの、家屋の破壊などを防ぐことまでは出来ず、復興前の瓦礫の片付けが進んでいる。  襲撃から日が浅く、島民達だけでは時間が掛かるほど、瓦礫は散乱していた。  けれど、いま周囲を見渡せば、そんなことはない。それは―― 「これ、あっち、持って行ったら、良い?」  見上げるほどの巨人、【ガニメデ】が片付けを手伝ってくれているお蔭で、作業は驚くほどに進んでいた。 「ありがとな、ガニメデ」 「そのまま、あっちに持って行ってくれ」 「うん。分かった」  島民に言われるまま、ガニメデは瓦礫を運んでいく。  彼は少数種族である巨人で、本来ならボソク島に居る筈はない。  そんな彼が何故いるかといえば、島が襲撃されたことに関わっている。  着けた者を意のままに操る仮面により意識を操られ、襲撃者に加わっていたのだ。  幸い、学園生たちの活躍により事なきを得て、元凶である仮面も破壊されたことで自由を取り戻し、今は島で生活している。  もっとも本人としては故郷に帰りたいようで、最初の内は、めそめそと泣いていた。  見上げるほどの大きさだが、巨人としては子供だったらしく―― 「お家、帰りたい……」  と、心細そうに泣いていた。  それを島民たちが慰め、今では島の復興に大いに役に立っている。  本人としても、意識を操られていた時のこととはいえ、島を荒らす原因の一つとなってしまったのを気に病んでいたらしい。  一生懸命瓦礫を片付け、島民達とも仲良くなっていた。 「ガニメデ、少し休むか?」 「ううん、いい。やる」 「そうか? でもな、ずっと働いてるし」  島民が声を掛けている時だった。 「ガ~ニ~メ~デ~」 「あーそーぼー」  小さな子供達がやってくる。  皆ルネサンス族だ。ほぼすべてウサギの耳、ちらほらと狼や熊の耳が混じっている。  中には、霊玉を宿した男の子、テジも居た。 「う、遊ぶ?」  心動かされたのか、ガニメデは島民達に視線を向ける。  島民たちは苦笑すると、快く送り出す。 「遊んできな。おやつだって用意してくれてるだろうから、食べて来ると良い」  島民たちの応えに、ガニメデは顔をほころばすと、子供達と一緒に遊びにいく。 「なにするー?」 「おにごっこー」 「おにごっこ、する」  賑やかに走り回る子供達を島民達が微笑ましげに見詰めていると、商人の一団がやってくる。 「子供は元気で良いですね」  にこにこ笑顔で、商人達の代表団が島民に声を掛ける。  彼らは学園と繋がりのある商人の集まりらしく、島の復興などの協力にやって来たのだ。 「巨人というから最初はおっかなびっくりでしたが、ふたを開ければ子供ですものねぇ。早く故郷に戻してやりたい所ですが、船の修理に、もう少し掛かりそうです」  島を襲撃した軍勢は、幾つもの船でやって来たのだが、その内の幾つかは、奪われるのを嫌って破壊されている。  ガニメデを乗せてきた船も同じで、甲板などが、爆破系の魔法で壊されていた。 「まぁ、そっちはこちらの職人がどうにかしますから、ご安心を。それとは別に、例の件、承諾していただけますか?」 「島で夏祭りをして観光客を呼び寄せるってヤツかい?」 「ええ、そうです」 「別にかまわないけど、本当に観光客が来るのかね?」 「そちらは、こちらで巧くやりますので安心してください」  笑顔のまま、商人は続ける。 「勇者候補生、魔王軍撃破記念夏祭り! 盛り上げていきますよー!」  商人は気合を入れるように言った。  なんでも、学園生が魔王復活を目論む軍勢を倒したことを記念して、各地で夏祭りを開催するらしい。  その始まりのひとつとして、ボソク島を観光地として売り出しつつ、盛り上げていこうとしている。 「しっかし、アンタら商人だろ? 儲かるかどうか分かんないのに、良いのかい?」 「商人だからですよ」  変わらぬ笑顔で商人は返す。 「商人としては儲けが第一。それなのに魔王軍なんてのにデカい顔をされたら商売あがったりで」  軽くため息をつき、続ける。 「戦争で儲けられるんじゃ? なんて言うド素人が居ますけどね、ふざけんなって話で。あんな水物、出てくばっかりで上がりはそこそこ。むしろ世の中が不安なせいで、製品を作るのが滞ったり商品運ぶのに邪魔だったり、何よりお客さん減らされてたまるかってんですよ! ええまったく」  大分、憤慨している。 「まぁ、そういうわけで、勇者候補生の皆さんには、頑張って欲しいんですよ。その後押しやらも兼ねて、夏祭りで盛り上げようと、そうなりまして」 「んー、それってアレか。プロパガンダで宣伝しつつ、商売の邪魔する奴らをぶっ飛ばしたいと」 「そういうことです。ついでに言うと、魔王軍と戦うなら、そこに必要な物資とかは沢山要りますからねぇ。食い込めたら美味しいでしょ?」  あけっぴろげに悪巧みを口にする商人に、島民は笑って返す。 「さすが抜け目ないね。まぁ、そういうことなら、島を上げて手伝うよ。とはいえ、その前に島の復興が先だがな」 「そっちもお任せを。学園にお願いして、勇者候補生たちに手伝いに来て貰えるよう手配しました。夏祭りのアイデアとかも出してくれるかもしれませんよ」  笑顔を崩さず、商人は応えた。  そして、皆さんに課外授業が出されました。  魔王復活を目論む軍勢に荒らされたボソク島の復興のお手伝いと、夏祭りの準備やアイデア出し。  霊玉を宿すテジ・トロングや島の子供達。そして巨人などの相手をしてくれると、助かるとの事です。  話を聞いたあなた達は、早速島に向かうことに。  さて、あなた達は、どう動きますか?
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-07-18
完成 2021-08-05
【メイルストラムの終焉】Green (ショート)
春夏秋冬 GM
「そろそろ、お別れじゃ」  天を突くほどの巨木、【ツリーフォレストマン】は、自らが死に逝くことを告げた。 「……」  傍らに立つ【シトリ・イエライ】は、返す言葉を迷うように無言のまま。  そんな彼に、ツリーフォレストマンは穏やかな声で言った。 「悔いが無いわけじゃないが、悪くない生じゃったと思っておるよ」 「成すべき事を成したと?」  自らを省みるように、シトリはツリーフォレストマンに返す。  かつて高き塔に閉じこもり、研鑽を深めるのみで、得た知識も力も使うことのなかった彼は、ツリーフォレストマンの生き方に何かを感じているのかもしれない。 「出来ることをしただけじゃよ」  死を間近にしているとは思えない静かな声で、ツリーフォレストマンは言った。 「二千年で、わしがやった事といえば、それだけじゃ。出来んかったことも、力の及ばんこともあったが、最後に霊樹を守るために力を振るえたのは、勇者の卵たちのお蔭じゃと思っておるよ」  それは魔王復活を目論む軍勢が各地を襲撃した時のこと。  弱りゆく霊樹を回復させるため勇者候補生たちが奔走している間、ツリーフォレストマンは余計な邪魔が入らないよう、老体に鞭を打って全力を尽くした。  その反動で弱り切った体は、もう持ちそうにない。  体の内部には無数のひびが入り、気を抜けば肉体が消滅してしまいそうなほど、気力が減っている。  いつ死んでもおかしくない状態だった。  それでも、最後に霊樹を護り、勇者候補生たちの頑張る姿を見れたことが、彼の長い長い生を『悪くない』と思える物にしてくれていた。だが―― 「わしが死んだあと、霊樹を護るものが必要じゃ」  自らが亡くなったあとのことを思い、ツリーフォレストマンは言った。 「霊樹は、霊玉と同じぐらい、これからの戦いで意味を持つ」  魔王を封じた勇者の魂が結晶化したものである霊玉。  魔王復活を目論む者達は、すでに幾つかを手にしている可能性があり、予断を許さない。だからこそ―― 「メメルは先を見据え、霊樹を植えた。それが必要じゃと、分かっておったからじゃ」 「それは、どういう……」  推測は立てられる。  だが勇者達が魔王と戦った、英雄の時代を直に生きたツリーフォレストマンからの言葉を、シトリは待つ。  ツリーフォレストマンは、言葉を選ぶような間を空けて応えた。 「勇者は九人。じゃが、彼らの魂が結晶化したものである霊玉は、八つじゃ」  それはつまり、数が合わないということ。 「そうなる理由があった。じゃが、いずれ復活するやもしれぬ魔王と戦うためには、より多くの力が必要じゃった。じゃからこそ、霊樹は学園に植えられたんじゃ」  本来なら霊樹は大きく育ち、メメルや勇者の卵たちの力強い助けとなっていた筈だった。  けれど、かつての学園生の造反。魔王復活への胎動。そして勇者達の犠牲の元に生まれた平和の中、自らの欲に駆られた多くの者達。  その全てが、今の有り様へと繋がっている。  誰かが悪いのではなく、言ってしまえば、皆全てが少しずつ悪かった。  ぬるま湯のような平和の中、それに胡坐をかいてしまったのだ。 (すまぬ、メメル。先に逝く)  言葉には出せず、ツリーフォレストマンは悔恨を思う。  かつて、今とは比べ物にならないほど小さな、若木だった頃。  メメルと出会った時の笑顔は、今でも覚えている。 (人で言うなら、姉のように、思っておったよ)  魔王全盛期。苦しい時代にあって、それでも未来を夢見て希望を抱いていた、あの頃。  犠牲の果てに、望む未来が訪れると思っていた。けれど―― (人の欲と、二千年の歳月が、願いを妨げた)  種族間の確執。託された霊玉は、争いと長い月日の中で、今では行方の知れないものさえある。  その苦境を乗り越えるべく、メメルは身を削るような思いで立ち回っていた。  けれどそれも限界に近い。  かつての屈託のない笑顔は、何かを誤魔化すような笑みに代わり、迫り来る脅威と不安から逃れようとするかのように、浴びるように酒を飲む。  それでも懸命に学園長の職責を全うしようとしているのは、勇者の卵たちを護るためだ。  その姿が、ツリーフォレストマンにとって、痛々しい。  少しでも彼女の背負う重荷が減るよう、願いを託す。 「祭を、してくれんか?」 「祭、ですか?」  真意を尋ねるシトリに、ツリーフォレストマンは応えた。 「なに、湿っぽく終わるより、賑やかなのを見ながら逝くのが好みというだけじゃ。それに――」  霊樹のある方角に視線を向け、続ける。 「霊樹は、学園生達の心情にも影響を受ける。今回、霊樹が弱ったのは、かつての学園生である【ディンス・レイカー】や、霊玉を宿した【テジ・トロング】が襲われた件も、大きく影響しておる」  世界を守るためテロを起こし、異世界と繋がる『特異点』を巡る攻防で消え失せたディンス・レイカー。  とある島で過ごしていた、テジ・トロングを奪うために上陸した軍勢。  それは今まで積み重なって来たことが一気に表れる切っ掛けでしかなかったかもしれないが、それでも、学園生達との繋がりが強いことの証拠でもある。 「祭の理由は、そうじゃな……魔王復活の軍勢を退けられたことを祝って、でもええじゃろう。祭をすることで学園生達の気持ちが盛り上がり、未来をより良くしていこうと思ってくれれば、それが霊樹の力になる。そうして霊樹の力を強めねば――」  ツリーフォレストマンは自らの表皮を削り、幹の中を蠢く物を取り出して見せた。 「それは――!」 「あの、嵐の日。こいつらが暴風に隠れて霊樹に食いつこうとしておった」  それは漆黒の蟲だった。  ムカデのようにも、毛虫のようにも見える。  だがタールのように粘つく暗黒の姿は、真っ当な物には見えない。 「呪い、ですね」 「そうじゃ。東方の呪法で、『蠱毒』というヤツじゃな」  それは毒虫に食い合いをさせ、残ったものを呪いに使うといわれている。  だが実態は、さらにおぞましい。  それは虫のみならず、犬や猫、果ては人さえも使い、お互いを呪い合う飢えの中に堕とし熟成させる呪法。  凝縮した怨念を用いて害をなす、まさしく禁術だ。 「あの日、嵐と共にわしは、こいつらから霊樹と勇者の卵たちを護った。わし自身の身体に巣食わせることでの」  蟲を潰し、ツリーフォレストマンは続ける。 「わしを食わせる代わりに、呪詛返しを術者にくれてやった。毒へと変えたわしの身体を食らったんじゃ。術者にも影響が返っておる。当分は、毒でまともに動くことも出来まい。じゃが、倒せた気配はない。いずれ、また襲撃に来るじゃろう。それまでに、備えねばならん」  ツリーフォレストマンは懺悔する様に言った。 「すまん。お前たち幼き者に、後を託す。霊樹を育て護り、メメルを助けてやってくれ」 「はい。必ず」  静かな声で、シトリは応えた。  そして祭りが始まります。  魔王復活を目論む者達を退けたことを祝う、お祭りです。  それにより霊樹を活性化させ、より強く育てることが目的のひとつだと、学園生には伝えられました。  けれどツリーフォレストマンが死に逝くことは、伏せられています。  ツリーフォレストマンは少し離れた場所で、学園生達が祭で楽しむ声を耳にしながら、終わりの時を迎えようとしています。  このお祭りの中、あなた達は、どう動きますか?
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-07-22
完成 2021-08-07
【メイルストラムの終焉】Black (ショート)
春夏秋冬 GM
 小都市セントリア。  研究都市として計画的に設計されており、ほぼ正方形で碁盤の目のように区画整備されている。  画一的な配置になっているように見えるが、ただひとつ、中央部分が例外だった。  巨大なドーム状の研究施設は、周囲を壁で覆われ外部の侵入を拒んでいるように見える。  だが他の研究所にとっては、大きな問題では無かった。今までは。  なぜなら各研究施設は、それぞれ独自の研究を行っており、同じ都市に存在するとしても関係性が極めて薄い。  それは、そうなるように意図されたものだった。  セントリアにある研究施設のほぼ全てが、本命の研究を隠すためのダミー施設だったのだ。  本命である、中央に位置するドーム。  研究されているものは、魔法に関する物と風評されていたが、実際の所は違う。  異世界に通じる門『特異点』を外から隠しながら研究することを目的とするものだった。  町の東西南北四方には、特異点を制御するための魔法陣が埋めてあるという。  それを隠すため、研究施設を周囲に誘致し、同じように存在する他の研究所と変わらぬものだと誤認させる。  木を隠すには森の中。  それを実践して作られたのが、研究都市セントリアだ。  さらに隠蔽を強化するため、周辺施設や関係者にも、都市の成り立ちを伝えることなく隠し、中央研究所に務める一部の者だけが、実体を知るに留まっていた。  それがテロ組織『霞団』の付け入る隙となった。  中央研究所の一部の者達さえ押さえてしまえば、あとは事情を知らない。  だから霞団が中央研究所を占拠した後、事情を知らない周辺研究所は、テロの片棒を担ぐことに繋がった。  異世界に通じる門『特異点』を操るための機材発注を受け、知らずに作ってしまった所さえある。  さらに、霞団が周囲に散ったことで、制圧されていることにさえ気づけず、実質的な支配下に陥った。  だが今は、勇者候補生たちの活躍により解放されている。  都市に潜入し情報収集。  要所要所を押さえ、最後には霞団の指導者であり、フトゥールム・スクエア生であった【ディンス・レイカー】と対決。  戦闘の末、ディンスは異世界転移の『核(コア)』である、手鏡の中に消え失せた。  それにより最悪の事態は防がれたが、騒動はむしろ解決した後に起ったのだ。 「とにかく全部話して貰うぞ!」  周辺研究所の代表者たちが詰め寄った。 「……」  相対しているのは、中央研究所の代表者。  といっても、彼に特別な権限がある訳じゃない。  霞団の騒動が終わった後、関わった者達の大半は更迭、あるいは捕えられ、いま残っているのは事情をあまり知らないものばかりだ。  研究内容の秘匿のため、隠蔽主義を貫いていたことの弊害が出ている。 (俺に言われても……)  いっそのこと逃げ出したいぐらいだが、そういうわけにもいかない。  下手にそんな素振りを見せれば袋叩きにされそうな気配だ。 (気持ちは分かるけどな……)  殺気立つ彼らの理由も分かる。  セントリアは研究都市であり、生活しているのは研究者ではあるが、もちろんそれ以外も大勢いる。  日常の生活を支えてくれるスタッフや、研究者の家族も住んでいた。  だというのに、今まで何の事情も知らされず、あげくテロ組織に中央研究所が占拠され、中には知らず片棒を担ぐはめになってしまった所さえある。  そのため今後、二度と同じことが起らないよう、情報の共有を求めて周辺研究所の代表者たちが押し寄せて来たのだ。 (帰りてぇ……)  キリキリと胃を痛めながら、貧乏くじを引く事となった彼は、ひとつの手鏡を皆に披露した。 「細かいことの前に、まずは事の発端を皆さんにお見せします。これが、異世界の門となる『核(コア)』です」  さざ波のようにざわめきが起き、やがて押し黙る。  この場に居るのは研究者達であり、それだけに目の前の重要度は分かっていた。 「それを、ここで出して良いのか?」 「皆さんに対する誠意のひとつだと思って下さい」 (よし。なんとか賭けに勝ったな)  ひとまず胸を撫で下ろす。  ハッタリに近い行動だったが、注意を引く事は出来たようだ。  皆が『核(コア)』に意識を向けている間に、話をしていく。 「今までの秘匿主義の行き過ぎが、今回のテロ事件に繋がったことは重々承知してます。ですから、それを是正するためにも、皆さんと今後は協議し、協力できることはしていければと思います。その話し合いに――」 『勇者候補生を呼んだら良いと思いまーす』 「……」 「……」  血の気が引くような沈黙が広がる。  全員の視線は、声の聞こえてきた『核(コア)』に向いていた。  静まり返る中、能天気な声が『核(コア)』である手鏡から聞こえてくる。 『ハローハローでーす。聞こえてますかー。不審者で怪しいものでーす』  絶賛胡散臭い声を上げている手鏡に、恐る恐る、中央研究所の代表者である【ハイド・ミラージュ】が返す。 「貴方は、誰ですか……」 『おーう、聞こえてましたねー。好かったでーす』  底が抜けきったとぼけた声が返ってくる。 『私はー、そちらにとっては異世界人でーす。そっちの世界からこっちの世界に来た人から、事情を聴きましたー』  ざわりと、周囲がざわめくのもお構いなしに、手鏡から聞こえる声の主は、マイペースに続ける。 『そちらとこちらを安定して繋げる方法を教えまーす。こっちとしてもー、そっちの世界が混乱して滅びに向かうとえらいこってすからー』 「……は? え、どういう――」  ハイドが聞き返そうとすると、声の主は一方的に言った。 『細かいことはー、また後で話しまーす。そっちにあるー、世界間接続の核(コア)はー、戦闘の影響で万全じゃないみたいですしー、今はこちらから何か送ることも出来ませーん。せいぜいがー、声を届けるので精一杯ですからねー。それも時間制限がありそうですしー。とにもかくにもー、勇者候補生という人達をー、呼んで下さーい』 「何で異世界の住人が勇者候補生たちに拘るんです」  ハイドの問い掛けに声の主は応えた。 『こっちの世界に来たー、貴方達の世界の住人のー、進言ですよー』 「ちょ、それって、誰のこと――」 『詳しいことはー、勇者候補生が来たら話しまーす。お願いしますねー』  そう言うなり、声は聞こえなくなった。 「なんなんだ、一体……」  後には、訳が分からず困惑する者達ばかりだった。  その後、話し合いの末、少しでも情報を得るために勇者候補生たちを呼び寄せることが決まりました。  目的は、手鏡から聞こえてきた異世界人とのコンタクトです。  それと同時に、セントリアの各研究機関が連携が取れるよう、アイデアを出して欲しいとの事です。  部外者である勇者候補生たちを間に入れることで、確執を避けたいらしいとのこと。  要は、ギクシャクしている間の潤滑油として、参加して欲しいとの事でした。  色々と不明な中、あなた達は、どう動きますか?
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-07-26
完成 2021-08-12
蠱毒の蠢動 (ショート)
春夏秋冬 GM
 彼は、全身を包帯で覆われた人型だった。 「老いぼれが……」  荒野を独り歩いている。  口から出るのは怨嗟の声。  呪いの塊である彼にとって、それはいつものこと。  だが、常よりも滲ませる怒りの色が濃い。 「霊樹を喰えると思ったのに、邪魔しやがって」  それはフトゥールム・スクエアが嵐に包まれた日のこと。  嵐に紛れ、自分自身でもある蟲を放った彼は、霊樹を喰らうという目的を阻まれた。  ツリーフォレストマン。  二千年を生きた巨木に邪魔されたのだ。 「痛ぇ……」   全身に焼け爛れるような痛みが走り続け、一歩動くだけでも億劫になるほどの倦怠感に包まれる。  それはツリーフォレストマンの身体を食ったことによる後遺症だ。  ツリーフォレストマンは、嵐に紛れ蠱毒の蟲が霊樹を襲おうとしていることを感知し、自らを盾にした。  自身が霊樹であると誤認させ、全ての蟲を惹き付けると、自分自身を喰わせたのだ。  しかも自らを毒へと変えていた。  二千年を生きた古き命が変じた毒は、蟲の本体である彼にも多大な影響を与えている。  力は大きく削がれ、ただ歩くだけでも苦労する。けれど―― 「喰ってやる」  彼は、何ひとつ諦めてはいなかった。 「霊樹も。老いぼれが繋いだ若い命も、何も残さねぇ」  仄暗い悦びを声に滲ませ、彼は歩いていく。  喰らうこと。  それが『飢餓』の呪いである彼の本質であるのだから。  だがそれを実行するには、今の彼は弱り切っている。  なんであろうと、それこそ毒であろうと喰らう彼だが、二千年の命が造り上げた毒は、さすがに利いていた。  時間を掛ければ毒を分解し、元の力を取り戻すことが出来るが、その時間を耐えることが苛立たしい。  少しでも早く霊樹を喰らい、ツリーフォレストマンが遺そうとした若い命を摘み取るために、彼は手駒を増やしていた。 「居たぁ……――」  にちゃりと、糸を引くような歓喜の声を上げ、彼は1体の魔物を見つける。  それは腰から上は筋骨たくましい狩人の姿を持ち、腰から下は地を力強く駆ける駿馬の形をしていた。  ケンタウロス。  魔王が生み出した生物、魔物の内、高い知性と戦闘力を有する種だ。  駿馬の高速移動と、狩人として卓越した弓矢の腕を振るい、中には槍を得物にする者もいる。  いま目の前に居るケンタウロスは槍を使うようで、よく使いこまれた槍を警戒して構えていた。 「何者か」  ケンタウロスは、彼に問い掛ける。  好戦的な種ではあるが知性が高いため、出会ったからといって戦いにならないことも多い。  だが今、ケンタウロスが問い掛けたのは、得体のしれない相手を探るためだ。 (なんだ、こいつは?)  ケンタウロスの目の前の相手は、一見するとヒューマンのような形をしていた。  だが全身をくまなく包帯で覆い、目も口も隠されている。  東方の出身者が着るような着流しを羽織っている所を見ると、そちらから流れて来たのかもしれないが、それ以上に特徴的なのは漂わせている気配だ。  この世全てを呪い害そうとしているかのような禍々しさを匂わせている。 (不快だ)  見聞を終わらせたケンタウロスは、一気に勝負を決めるべく突進する。  槍突撃(ランス・チャージ)。  数百キロの質量が一気に加速され、突撃の威力が槍に集約される。  まともに当たれば即死は免れないだろう。  だというのに彼は避けない。  槍に身体を貫かれ―― 「捕まえたぁ」  狙い通り、槍にしがみついた。 「貴様!」  ケンタウロスは槍を振り上げ、彼を振り落とそうと槍を振り払う。  だが無駄。  がっしりと槍にしがみつき、なにより貫かれた傷口を締め上げ、憑りつくようにまとわりつく。 「おのれ!」  不気味さを感じながらも、ケンタウロスは振り払おうとする。  それは失策だった。  今すぐ槍を捨て逃げ出せば、速さに勝るケンタウロスは逃げ切れただろう。  けれど長年使った愛用の槍を捨てることが出来ず固執したことが、致命へと繋がった。 「きひっ。喰ってやる」  ざわりと、槍に貫かれた傷口からタールのような黒い染みが溢れ出す。  それは蟲だ。  何十何百という呪いの蟲が彼の傷口から溢れ出し、槍を伝ってケンタウロスに襲い掛かる。 「があああっ!」  悲鳴が上がる。  ケンタウロスの耳や口に蟲が潜り込み、皮膚を噛み切り肉に潜り込む。 「ひひひっ、お前も俺になれ」  愉悦に笑い声をあげながら、瞬く間にケンタウロスを喰い殺し―― 「そこそこ喰いでがあったな」  彼は、新たな端末を造り出した。 「喰って来い」  身体のいたる所に蟲を這わせた、ケンタウロスだった物に、彼は命令する。 「俺が回復しきるには命が足らねぇ。だから適当に襲って喰らえ。殺しきらなくても良い。適当に襲って命を啜り逃がせ。そうすりゃ、何度でも命を喰える」  彼の命令を受け、端末と化したケンタウロスの残骸は走り出した。  それからしばらく経って、幾つもの被害報告が出される。  ある街道に、ケンタウロスらしき物が出没し、通る者を襲うというのだ。  襲撃の理由は不明。  死者は今の所は出ていないが、それは意図された物のようだ。   致命傷の一歩手前になるまで傷付けられ、その後は放置される。  瀕死で逃げ出す場合は追い駆けて来ないようだが、無傷の場合は襲い掛かってくるようだ。  街道は重要な輸送ルートに当たり、そこを通らねばならない商人達は、襲撃者の排除を決断する。  そして白羽の矢が立てられたのが、魔法学園フトゥールム・スクエア。  件のケンタウロスらしき襲撃者を撃破して貰えるよう頼んできた。  それを受け、新たな課題が出されました。  内容は、街道で暴れる謎の襲撃者の撃破です。  この話を聞き、アナタは、どう動きますか?
参加人数
7 / 8 名
公開 2021-08-08
完成 2021-08-27
【夏祭】サマーバケーション! (ショート)
春夏秋冬 GM
 夏。  眩い日差しに白い砂浜。  そして目の前に広がる、透き通った海。  海水浴には絶好のロケーション。  実際、周囲を見渡せば、それを目当てにした観光客がちらほらと。  場所によっては、砂浜近くに魚介類を泳がせた綱いけすが作られているので、そこで掴み取りに参加している者も居る。  疲れたら、最近建てられたらしい海の家で休むこともできた。  獲れたての魚介類をバーベキューにして食べることも可能で、島の名産である色とりどりの果物を味わうことも出来る。  島の少し奥に向かえば、そこには幾つもの出店があり、お祭り雰囲気が楽しめた。  今まで人の行き来が乏しかったボソク島は、観光名所へと生まれ変わろうとしていた。  それは学園生達のおかげだ。  少し前、霊玉を宿す男の子を浚うべくやって来た、魔王復活を目論む軍勢を学園生達が撃退し、事後対応もキッチリやってくれた。  色々なアイデアが形となって島は変わり、賑やかさを見せ始めている。 「好い感じですね」  島の発展に協力した商人、【ガラ・アドム】は満足げに言った。 「いやー、商人さん達のおかげだよ」  ガラに返したのは島民のひとり。 「正直、巧くいくか半信半疑だったけど、お客さんも誘致してくれて助かってるよ」 「いえいえ、頼もしい後輩達が頑張ってくれたんです。卒業生としても頑張らないと」 「後輩って、あんた学園生だったのか?」 「ええ。腕っぷしよりも算盤勘定の方が性に合ってると思って、卒業した後は商売してますがね」  ガラは、どこか機嫌好さ気に応える。 (出来の良い後輩が育ってくれてて、オジサンとしちゃ嬉しいねぇ)  ガラは志を持って学園に入学したものの、腕っぷしでは巧くいかないと早々に見切りをつけ、いつか後方支援が出来るように商人となったので、後輩達の活躍は誇らしい。 (島の保全だけじゃなく、将来を見越して動いてくれたからねぇ)  外部との流通も考え、商人達とやりとりをして協力を取り付けてくれたりと、巧くやってくれた。  お蔭で、ガラの所にも話が来て、それならばと積極的に協力するようになったのだ。 (このままいけば、この島は観光名所として発展する。あとは――)  ガラは、砂浜で遊ぶ子供達に視線を向ける。  そこに居るのは、霊玉を宿す【テジ・トロング】を含めた島の子供達だけでなく、巨人の子供である【ガニメデ】もいた。 (問題は、あの子なんだよなぁ)  学園生がガニメデのことを気に掛け、故郷に帰れるよう連絡を取って欲しいと頼まれたので奔走し、場所を探し当て現地に向かったのだが、そこで一悶着があった。  山間部の奥地にいる巨人族『サイクロプス』。  巨大な体躯と凄まじい膂力を持った種族であり、雷を操り、それを用いて鍛冶を行うことが出来る。  その技術は神技と言っても良く、現代の技術でも追い付けないほどだ。  もっとも、そのせいで争いごとに巻き込まれることも多く、穏やかな性格をした彼らは人里から隠れるようにして住んでいる。  だというのに、子供であるガニメデが浚われた。  話を聞くと、村に訪れた商人風の一団に武器を作って欲しいと言われたが断り、その後にガニメデが居なくなったというのだ。  あとで脅迫状が来たらしいのだが、ガニメデの安否と引き換えに武器を作れという物だったらしい。  そんなことがあったので、最初に村に訪れた時、巨人達は殺気立っていた。  ガラは自分独りだけで巨人達の集落に残り、文字通り命がけでやり取りをし続け、どうにか交流を取れるまでにはこぎつけている。  もっともそれは、学園生達がガニメデのことを気に掛け、相手をしてくれたお蔭でもあった。  巨人であるガニメデを乗せて、海を渡る船を用意するのに時間が掛かったので、手紙のやりとりを特急で行い、その中で学園生達に遊んで貰ったことなどをガニメデが伝えてくれたので、巨人たちの態度は軟化している。 (後は連れて帰るだけなんだが、その前に、ガニメデの坊主には、好い思い出を土産にしてやらねぇとな)  だからこそ―― 「また学園生達に島に来て貰おうと思うんですが、いいですかね?」 「そりゃ、好い。歓迎するよ。でも、なんでだい?」  不思議そうに尋ねる島民に、ガラは応えた。 「いえね。島の盛り上げも考えて、楽しんで貰おうと思いまして。サクラじゃないですが、楽しんでる客がいると、他の客も『ここは良い場所だ』って思ってくれるんですよ。それに、ガニメデも含めた子供達に良い思い出を残してやりたいですからね。あとは、純粋に頑張った後輩達に夏の思い出を作ってやりたくなりましてね」  ガラの言っていることは本音もあるが、他にも思惑はある。 (ガニメデの坊主が後輩達に懐けば、色々と進められるからな)  神代の鍛冶師とも言える巨人族、サイクロプスに色々と便利な物を作って貰えるかもしれないのだ。 (ま、そこまで行けばめっけもんだが……)  目まぐるしく頭を回転させながら、ガラは仲良く遊ぶ子供達を微笑ましげに見詰めていた。  そして、ひとつの課題が出されました。  内容は、ボソク島に遊びに来て欲しいとのこと。  島を盛り上げるためにも、現地で楽しんでくれれば、それで十分らしい。  現地には子供達もいるので、巨人の子供であるガニメデも含めて、気が向いたら遊んでやって欲しいとも頼まれました。  この話を聞いてアナタ達は、どう動きますか?
参加人数
5 / 8 名
公開 2021-08-17
完成 2021-09-02
異世界人と、こんにちは (ショート)
春夏秋冬 GM
 小都市セントリア。  異世界転移の核となる特異点研究所を中核として、それを隠蔽するための複数の研究所からできた研究都市。  テロに遭ったりと騒動があったが、事後処理も含めて学園生達のおかげで巧く回り始めている。  学園生達の提言で年2回の大規模研究会と、小規模な研究会を分野ごとに分かれ開催を始めていた。  それにより出来た横の繋がりのおかげで、新たな研究成果も上がり始めている。  良い方向に進み始めており、今まで以上に研究が盛んにおこなわれていた。  それは、特異点研究も例外では無くて―― 「そちらの要望通り魔力を集めましたけど、これで良いですか?」  異世界転移の核である『鏡』を前にして、研究所責任者【ハイド・ミラージュ】は魔力の込められた符を数枚置いた。  すると『鏡』から応えが返ってくる。 『オッケーでーす』  声の主は異世界人【メフィスト】。  すでに何度かやり取りしているので、ハイドとしても気安い声で返した。 「では記録保持のために、今回の実験内容を復唱します」 『はい、お願いします』  核から返って来たのは若い女性の声。  向こうの世界とこちらの世界の協定に関する取り決めのやりとりをしている【桃山・令花】だ。  今回のような実験をする時には、向こう側の記録手としての仕事もしていた。 「それでは復唱します」  ハイドは、向こう側の記録準備も出来たのを確認し口を開く。 「今回の実験内容は、核を介しての魔力操作実験です」  向こう側の世界から、『鏡』を通じてこちらの世界に干渉できるのか?  というのが、今回の実験の目的だ。  それに必要な物として、魔力の込められた符を用意している。 (大したことは出来ないとは思うけど)  符を用意したハイドは期待する。 (何をしてくれるか楽しみだな) 「それでは、こちらで用意した魔力で出来そうなことを、やってみてください」 『やーりまーすよー』  気の抜けた声が返って来ると、符に変化が起こる。  符が光の粒子に変換されながら魔力を解放。  解放された魔力は、拡散することなく収束すると、球状の魔法陣を展開。 「え……」  ハイドが予想外のことに驚いていると、魔法陣は周囲の魔力を吸収し始める。 「ちょ、待って――」  何か大事になりそうな予感に止めようとするが間に合わない。  魔法陣は必要な魔力を集め終ると、爆縮。  極小へと転じたかと思うと――  ぽんっ。  気の抜ける音と共に白煙が上がり、それが晴れたあとに、フェアリータイプのエリアルのオッサンが現れた。 「はーい、メフィストでーす」 「……は? え、向こうの世界から転移してきた?」 『ちょっと違いまーす』  核を通じてメフィストの声が聞こえてくる。 「え、ええっ!? じゃ、これなんです!?」 「分身みたいなもんでーす」  こちらの世界のメフィストが声明する。 「あちらの世界からー、こちらの世界に渡るにはー、まだ色々と足りないものがありますからねー。とりあえずー、こちらの世界で動ける端末をー、こちらの世界の魔力から造ったのでーす」 「造ったって、そんな簡単な……」 「こちらの世界にはー、元々そういう基盤がありますからねー」 「……どういう意味ですか?」 「こちらの世界はー、全てが魔力で出来た世界ですからねー。魔力が物質化し易い世界なのですよー」 「は? え、ちょっと待って」  自分を落ち着かせるような間を空けて、ハイドは尋ねた。 「全てが魔力って、私達の身体も、ですか?」 「そーでーす」  あっさりとメフィストは言った。 「貴方達はー、死んでも気力があれば復活できるのですよねー」 「ええ」 「それは貴方達がー、本質的に魔力生命体だからでーす。物質で出来た生命体ならー、そんなことは無いですよー」 「……そうなんですか?」 「そーでーす。恐らく貴方達の世界はー、原初では膨大な魔力があるだけだったのでしょー。そこに誰かが魔力に物質的な方向性を与えー、そこから進化を続けー、今の貴方達が生まれるようになったのでしょうねー」 「……誰かって」 「創造神とか、その類じゃないですかねー」  神代の話をし出すメフィストに、ハイドは眩暈に似たものを感じる。 「いや、ちょっと……話がデカくなってきて追い付くのが大変なことに……」 「そういうことがあったかもー、というだけの話ですよー。そんな昔話よりー、今の話をしましょー」  メフィストは気楽な声で続ける。 「とりあえずー、向こうの世界からこっちの世界に来れるようにしたいのですがー、色々と問題があるのでーす」 「問題?」 「そーでーす。さっきも言いましたけどー、この世界は万物魔力世界でーす。なのでー、他の世界の生物がこちらに来るとー、こちらの世界に合う形に変換されちゃうのでーす」 「変換?」 「そーでーす。簡単に言うとー、魔力生命体に変換されちゃうのでーす。これによってー、こちらの世界で問題なく生きていけるようになりますがー、能力が初期化されちゃうのでーす」 「初期化?」 「レベル99だったとしてもー、レベル1になっちゃうようなもんでーす。元の世界に帰ればー、元に戻りますがー、こちらの世界に居る間はー、1から鍛えないと強くなれないのでーす」 「……だから、そうならないようにしたい、と?」 「そーでーす。とはいえー、こちらの頼みを聞いて貰う前にー、まずはそちらの頼みを聞きますよー」 「頼みって、何でも良いんですか?」 「出来る範囲ですけどねー。色々とー、問題があったらそれの解決に協力しますよー。あとこっちの世界にはー、他の世界から来た人も多いみたいですしー、元の世界をちょっとですけど見れるようにしまーす」 「出来るんですかそんなこと!?」 「できますよー。あくまでも見るだけですけどねー」  メフィストの話を聞いて、ハイドは考える。 (どうする? 色々と実験できそうだし頼めることは頼みたいけど、他の研究所とも協議しないと。それに――) 「こっちから頼むとして、見返りをすぐ返さないといけない、とかは無いですよね?」 「ないでーす。前の話し合いで、まずは信頼して貰わないとダメなのは分かりましたからー。少しでも信頼して貰えるようになればー、こちらとしては十分ですねー」  ハイドとメフィストが話していると、『鏡』を通して、令花が話に加わる。 『あの、ひとつお願いしたいことがあるんですが』 「お願い、ですか?」  身構えるハイドに、令花は言った。 『こちらの世界でお預かりしている【ディンス・レイカー】さんの処遇についてです』  テロを起こし向こうの世界に転移し、向こうの世界の武器工房に侵入して色々と盗んで元の世界に戻ろうとした彼だが、それが発覚して今は向こうの世界で投獄されている。 『まだ協定が決まってませんし、引き渡しについても決定してませんが、こちらとそちらの世界が行き来できるようになった際に、そちらに引き渡すということで良いでしょうか? こちらで処遇についてどうするか、悩んでいるものですから』 「え、いやそれは……」  ハイドとしては、研究出来そうなことはともかく、政治に関わりたくはない。なので―― 「そういうことについては、こちらはどうにもできないので……学園生に参加して貰いましょう」  丸投げすることに決めたハイドだった。  という訳で、再び異世界人との接触をする課題が出されました。  今回は、色々とこちらのお願いを聞いてくれるようです。  この課題、アナタは、どう動きますか?
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-08-22
完成 2021-09-08
草原にて相争う (ショート)
春夏秋冬 GM
 人気のない荒野で、彼は毒づいていた。 「クソが、アイツら邪魔しやがって」  少し前、自身の分身ともいえる端末を使い人々を襲わせていた彼だが、それを学園生達によって防がれた。 「アイツらも絶対に喰ってやる。喰い残さねぇ」  怨嗟の声をあげる彼に、背後から声が掛けられる。 「随分と、ご機嫌ななめねぇ」  背後を振り返りそこに居たのは、長身の偉丈夫に見える人物だった。  均整のとれた肉体と整った顔立ちをしており、華美な化粧で自身を彩っている。  指には全て豪奢な指輪をつけ、それらとは対照的に、上品で洒落た服装に身を包んでいた。 「笑いに来やがったのか【シメール】」 「そーよぉ、あははははははっ!」 「殺す!」 「やーね~、冗談じゃない。いきり立たないでよぉ、私と貴方の仲じゃない。ねぇ、【テイ】」  笑みを浮かべながら、シメールと呼ばれた彼は、テイと呼んだ彼の肩を抱く。 「援助しに来てあげたのよぉ。嬉しいでしょう?」 「……見返りは何だ」 「話が早くて良いわねぇ。簡単よぉ。ギブ&テイク。助けたげるから、私も助けてぇ」 「何しろってんだ? 色々動いてるみてぇだが」 「そーよぉ、ちょっと聞いてよぉ」  おばちゃんのように、ぱんぱん肩を叩くシメールに、テイは苛立たしげに言った。 「テメェの愚痴なんざ聞きたくねぇんだよ」 「いいじゃない、ちょっとぐらい。最近ねぇ、ボスの命令で苦労したのよぉ」 「……はぁ? 何をだよ?」  嫌々ながらも聞いてしまうので、ちょこちょこシメールの愚痴に付き合わされることになるのだが、テイに自覚は無い。  それをいいことに、シメールは喋り続けた。 「霊玉探したり、学園潰せるような武器を揃えろって言われたからさぁ、色々とやったのよ。巨人の子供捕まえたりとかさぁ。なのに、ボスったらどうしたと思う?」 「知らねぇよ」 「人質にするつもりだった巨人の子供、兵士にするからって連れて行ったのよぉ! きーっ! どんだけ苦労したと思ってんのよぉ!」 「知るか」  逃げようとするテイを、ぐわしっと捕まえ、シメールは言った。 「聞いてよー。連れてかれた巨人の子供は、殺されもしないで自由になっちゃって。その縁で、学園と巨人が交流しちゃうかもしれないのよ~」 「そうかよ。で、その巨人っての、殺すのか?」 「邪魔になりそうなら、それもアリね~。でも今はー、水の霊玉とかー、色々手に入らないか右往左往してんのよぉ」 「だから手伝えってのか? どうせテメェのこった、俺以外にも声かけてんだろ」 「当ったり前じゃない。でも、人手は多い方が良いでしょ? だから手を貸して欲しいのよぉ。報酬は、先払いしたげるわ」  そう言うと、シメールが付けた指輪のひとつが妖しげに光る。  すると、ぞろぞろとゴブリン達が近付いてきた。  全員が一様に、目に焦点が無く、おぼろげな表情をしている。 「喰っていいわよぉ」 「相変わらず便利だな、テメェの能力」  テイはゴブリン達に近付き、テーブルに乗った食事を見るような視線を向けながら言った。 「魔物限定だが、操れるのは便利だな」 「そうでもないわよぉ。操るって言ったって、今の私じゃ、弱い魔物じゃないと無理だしー。操ってる魔物は、まともな意思が無くなっちゃうから、いちいち命令しなくちゃいけなくて手間だもの。貴方みたいに、食べた相手を自由に操れる方が便利で良いわよぉ」 「自由に操る、か……」 「あら、どうしたのぉ?」 「最近端末にした奴を、勝手に解放されてな」  忌々しそうにテイは言った。 「ああ、思い出したらムカついて来た。あのケンタウロス野郎、調子こきやがって。学園生共も許す気はねぇが、あの野郎の一族も食い殺してやる」  全身を隈なく包帯で覆われているテイは、声だけで愉悦を浮かべているのが分かるほどハッキリと、感情をあらわにした。 「ひひっ、決めた。全員食い殺す。学園生共に手を貸す可能性も潰せて一石二鳥だ」  そう言うと、テイは包帯で覆われた体から、無数の蟲を這い出させると、ゴブリン達に襲い掛からせ喰い殺しも自身の端末へと変えていく。 「契約成立ね」  ゴブリンを食らうテイに、シメールは言った。 「ケンタウロスを襲ったら、その後は私に協力して貰うわよ」 「ああ、分かった」  ゴブリン達を食らうのに夢中になり、顔も向けずにおざなりに応えるテイを、『実験動物』を見るような目で見つめるシメールだった。  それから数日後。  アナタ達、学園生達もケンタウロス達に会いに向かっていました。 「もう少ししたら、槍の氏族の生息地に着くぜ」  気安い声を掛けて来たのは、学園卒業生の【ガラ・アドム】。  最近の学園生達の活躍を聞いて、協力を申し出てきた商人だ。  彼は、そのコネクションを使い、ケンタウロス槍の氏族に会う算段を付けてくれた。 「槍の氏族は狩猟生活中心なんだが、酒やら日常品やらを、狩り獲った獲物と交換してるんでね。その伝手で、商人ともコネがあるのよ。それを辿って、今日連れて行くわけだ」   アナタ達が槍の氏族に会いに行くのは、一本の槍を届けるためだ。  それは蠱毒に操られたケンタウロスが遺したもの。  遺品でもあるそれを渡すために、向かっていた。  このまま進めば、アナタ達は槍の氏族とやり取りをすることになりますが、その途中で、襲われることになるでしょう。  相手は、蟲に操られた数十のゴブリン達。  ケンタウロス達は、当然迎え撃つでしょうが、アナタ達はどうしますか?
参加人数
6 / 8 名
公開 2021-08-29
完成 2021-09-16
グルメバトル開催! (ショート)
春夏秋冬 GM
 熱したフライパンに牛脂を落とす。  じゅう、という小気味良い音と共に油が溶け出し、フライパンに広がった所でスライスした玉葱を投入。  じっくり炒めていく。  炒めていく内に水分が飛び、かさが減った所で追加投入。  山盛りになるほどスライスしていた玉葱が、全部フライパンに入れられた。  焦げないよう火加減を注意して、亜麻色になるまでじっくり火を通す。  甘く香ばしい玉葱の匂いと、旨味を予感させる牛の油の香り。 「うん、美味い」  軽く味見をして確認。  ペースト状に近くなるほど、じっくり火を通された玉葱は旨味たっぷりだ。  それを寸胴鍋に放り込み、海鮮出汁をベースにしたブイヨンを入れて混ぜる。  改めて火を通し、各種スパイスに炒めた小麦粉をブレンドした物を入れ、さらに煮込めば出来あがり。 「ほいよ」  炊き立てご飯にカレーを掛けて、手渡す。一口食べれば―― 「美味っ!」  パクパク食べながら、商人である【ガラ・アドム】は、いま食べているカレーを作った料理人【ガストロフ】に言った。 「具は玉葱だけなのに美味いな」  「素材が好いからな」  ガストロフは、ボソク島から取り寄せた玉葱を手に取りながら返す。 「こいつはかなりの代物だ。色んな料理に使えるぜ」 「はー、そういうもんか」  カレーを全部平らげ、ガラは言った。 「こっちとしちゃ、ボソク島の輸出のメインは海産物になると思ってたんだが、やっぱ料理人だと目の付け所が違うな」  少し前、木の霊玉を宿す男の子が住んでいる島、ボソク島にガラとガストロフは訪れていた。  それは、島の活性化を手伝う学園生達の頑張りを聞きつけた、卒業生であるガラが、在校生たちの手助けになるべく、同じ卒業生であるガストロフ達を誘ったのだ。  当初は、島を観光地として盛り上げることを考えていたガラだが、島に同行した学園生の1人の言葉で方針を変えている。 「『すでに復興から発展にむかってあるきだしてるボソク島』に投資をしたいです」  その言葉を違えることなく、身銭を切った学園生の心意気に、ガラの商人魂に火が付いた。  用意されたお金を担保の形にして債権化し投資家を集め、ボソク島の自立を前提とした商売をスタートさせている。  今、ガストロフが作った『ボソク島カレー』は、そのための一環だ。  ボソク島の活性化のために動いていた学園生の1人が、グルメバトルを企画してくれたので、それに向けてリハーサル中なのだ。 「こいつなら、優勝できるんじゃねぇか?」 「それはどうかな!」  突如、乱入者が現れる。  それはガストロフと同じく料理人、【辰五郎】だった。 「いきなりあらわれてご挨拶じゃねぇか!」  ビシッ! と指さし応えるガストロフ。  なんかノリノリだった。 「俺の料理にケチをつけるたぁ、テメェの料理によほどの自信があるんだな!」 「くはははははっ! 当たり前だ!」  そう言うとスタンバイしていた、綺麗に皿に盛りつけられた料理を差し出す。 「こいつは!」 「食べてみるがいい! アルチェ名物、ジェムフィッシュを使った海鮮カルパッチョよ!」 「なんだと! 秋が旬で獲り辛いジェムフィッシュを手に入れたというのか!」 「そうだっ! アルチェでなければ食べられない逸品よ!」  商品解説してくれる2人。 「さぁ、食べてみろ!」 「食べてやるさ!」  ちゃんと小皿を取り出して、小分けにしてから食べるガストロフ。 「――これは!」  しっかり味わって食べたあと、目を見開く。 「まだ旬ではなく味が乗り切っていない筈だというのにこの美味さ! 程よい食感となるギリギリを見極め切り分けられた身を噛みしめるほどに旨味が口の中に広がっていく。掛かっているソースが味を引き立てているが、それ以外の工夫がある!」 「くくくっ、その通り! 東方の技法である『こぶ締め』を使い、味の深さを演出したのさ!」 「くっ、なんてヤツ。だが、俺にはまだ奥の手がある!」 「なーにー! それは一体!」 「それはこれよ! ――って、あれ?」 「うっわマジ美味ぇ」  奥の手である海鮮アヒージョの瓶詰を、いつの間にか開けていたガラに、カレーライス(おかわり)に乗せて食べられていた。 「いや、ここでお前が食ってどうする」  突っ込むガストロフ。  それに、カレーを食べながらガラは返す。 「良いじゃん本番じゃないし。あ、そっちの海鮮カルパッチョもくれ」  辰五郎の持ってる皿から、ごっそり取って食べる。 「うっわ、こっちも美味ぇな」 「それは良かった」  辰五郎は肩をすくめるようにして返すと、カレーを一口。 「……美味いな。こっちのアヒージョの材料、ボソク島で獲れたヤツか?」  ガストロフが返す。 「ああ。特に海老が好いだろ? 身が肥えてて美味い」  さっきまでのバトル形式のやり取りが嘘だったかのように、気安く声を掛けあう。  先程までの料理バトルは、本番前の練習だ。  今度アルチェで開かれるグルメバトルは対戦形式。  観客の前で作り、審査員に食べて貰い順位を決めるのだ。  しかし、ただ食べるだけでは盛り上がらないので、色々とパフォーマンスをするのがお約束。  料理人も審査員も、大げさなリアクションをとるので、その練習をしていたのだ。  一見するとイロモノに見えるが、作る料理には手を抜いてない。 「カレーをメインにして、付け合せに瓶詰を使ったのは、気軽に持ち帰れる利便性と全国展開考えてだろ? 条件厳しいのに、よくここまでの味出せたな」 「そっちのカルパッチョも大したもんだぜ。旬じゃないのに、よくあそこまで旨味を上げたな」 「ジェムフィッシュは、アルチェの看板のひとつだからな。名を落とす訳にゃいかねぇ」  お互いレシピを交換する2人。  この2人もガラと同じく学園卒業生で同期の仲なので、気心が知れている。 「いやー、やっぱ両方、美味かったな。とはいえ、食べ比べるとガストロフのカレーの方が美味いから、予定通りボソク島での再戦に繋げられるな」  アルチェのグルメバトルでガストロフが勝った後、その雪辱を果たすという形でボソク島でもグルメバトルをする段取りが出来ている。  そのため当日参加する料理人には、事前にお互いの料理を試食して確認してもらっていた。  もっともやらせという訳でなく、全員が手を抜かずに作った料理を、ガストロフは越えなければならなかったのだが、それをクリアしていた。 「ま、盛り上げるためには筋書きもたまには必要だわな」  料理を満喫したガラは、2人に言った。 「当日は盛り上げるために、学園生にも来て貰えるように手配してある。よろしく頼むぜ」  これに応じる2人だった。  それからしばらくして、ひとつの課題が出されました。  内容は、グルメバトルに参加すること。  料理人や審査員、あるいは裏方として参加して欲しいとの事です。  ボソク島の自立のためにも手伝って欲しいと頼まれています。  この課題に、アナタ達はどう動きますか?
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-09-10
完成 2021-09-28
ギガンテス・ネゴシエーション (ショート)
春夏秋冬 GM
「ばいばーい!」 「またねー!」  ボソク島の船着場から、子供達が見送りながら手を振っていた。 「またねー!」  ぶんぶん手を振りかえすのは巨人の子供【ガニメデ】だ。  彼は、魔王軍に操られ島を襲ったのだが、学園生達の奮闘で解放されている。  その後、学園生達の協力もあり島で生活していたのだが、故郷へ連れ帰るための船が用意出来たので、帰郷となった。 「……もう、見えない」  船のへりで、ずっと島を見ていたガニメデだが、もはや島が点にしか見えないぐらいに離れている。  今ガニメデが乗っている船は、風を操る魔法と水を操る魔法を使った高速艇。 「……ぐす」  一緒に遊んだ友だち達の姿が見えなくなり、涙ぐむ。すると―― 「そう湿っぽい顔すんな。また会いに来れば好いんだからよ」  明るい声が掛けられる。  声の主は【ガラ・アドム】。  商人にして学園卒業生の彼は、ガニメデを故郷に返してやるために船の手配をした人物だ。 「……また、遊びに行ける?」  ちょこんと、身体を縮めるようにして座りながらガニメデは問い掛ける。 「心配すんな。また来れるさ」  ガラは、ちょこんと座るガニメデを見上げながら言った。 「ボソク島との交易路を拡充する為にも、船は定期的に出すつもりだからな。ちゃんと準備すれば、遊びに行けるぞ」 「ほんとう?」 「ああ。でも、その前に家族を安心させてあげないとな。会いたいだろう?」 「うん……父ちゃんと母ちゃんにあいたい……おうち、かえりたい……」  話している内に、望郷の念が湧いて来たのか、大きな一つ目に涙を貯めるガニメデ。 「心配すんな! おいちゃんが返してやるからよ!」  ガラは笑顔で言った。 「帰る時は学園生に――ほら、前に島で遊んでくれた兄ちゃんや姉ちゃん達がいただろ? そこに護衛で来て貰えるように手配してるから、何の心配もないぞ」 「……うん!」  泣き笑いで応えを返すガニメデに、ガラは笑みを浮かべながら続けて言った。 「それでな、みんなで一緒に行くんだけど、そん時に、学園生以外の大人も一緒について来るけど、そっちも心配しなくても良いからな」 「おとなの、ひと?」  首を傾げるガニメデに、ガラは続ける。 「研究都市セントリア、って難しいこと言っても良く分かんないわな……んー、まぁ、色んなことを調べたりしてる所なんだけど、そこの人が付いて来るんだ」 「なんで?」  好奇心を浮かべて尋ねるガニメデに、ガラは応える。 「ガニ坊の父ちゃん達に、作って欲しい物があるんだ。ガニ坊の父ちゃん達は、なんでも造れるんだろう?」 「うん! 父ちゃんたち、すごいの。いろんなもの、つくれる」  ガニメデ達、巨人種サイクロプス族は、雷を操り様々な物を作ることに長けている。  しかし、その業が災いし、彼らの武具を巡って争いが起きたことがあり、今ではトロメイアにある大陸随一の高山、アルマレス山に連なる山岳地帯に隠れるようにして住んでいた。 (ガニ坊のことがあるから、こっちの印象は悪く無いが、交渉は気を使わねぇと)  ただでさえ魔王軍にガニメデが浚われて気が立ってる。  最初に話をしに行った時は、生きた心地がしなかったぐらいだ。 (その辺も、後輩たちに任せるかね)  御膳立てに全力を尽くすことにしているガラは、その後のことは学園生達に任せることにしていた。  そして船は、アルチェに到着。  そこからは陸路で向うことにしており、一緒に向かう学園生達を待っていた。すると―― 「ああ、居た居た! 巨人が居ると目立つから見つけやすくて助かりますね」 「迷わずにすんで好かったでーす」  ヒューマンの男性と、フェアリータイプのエリアルに見えるオッサンが近付いて来た。 「どうもどうも。貴方、ガラ・アドムさんですよね? 私、セントリア中央研究所の責任者をしてます【ハイド・ミラージュ】と言います」 「【メフィスト】でーす」 「あぁ、話は聞いてます。同行するのは、お2人だけですか? 「ええ。学園生さん達はともかく、私達があまり大勢で行くと警戒されるかと思いまして」  ハイドが説明する。  彼らが同行するのは、サイクロプス達に、必要とする材料を作って貰うためだ。  少し前、学園生達と共にセントリアで話し合いが行われた。  それは異世界の技術を流用し、何かが作れないかという物だった。  幸い、技術面では幾つか目処が立ち始めていたが、肝心の材料を手に入れる算段が出来ていなかった。  異世界の門となる特異点を安定して固定するための『界錨』や、仮面による支配を防ぐ結界を張るための『支柱』などなど、設計図は組めても作るための材料が無い状況だ。  それを作れるサイクロプス達と継続して交易できないか、というのが彼らの目的である。 「まぁ、その辺の交渉はお任せします。どーにも、うといもので」 「頼みまーすねー」  ガニメデと鬼ごっこするメフィストの声を聞きながら、どうしたものかと考えるガラだった。  この状況で、アナタ達は同行することになります。  巨人の子供であるガニメデを故郷に届け、サイクロプス族に継続した材料の交易をして貰えるように交渉するのが、皆さんに出された課題です。  幸い、今までの学園生達の奮闘により、サイクロプス族は皆さんに対して好意的なようですが、交渉を間違えると失敗することもあり得ます。  今後の魔王軍との戦いのためにも、ぜひ交渉を成功させて下さい。
参加人数
4 / 8 名
公開 2021-09-19
完成 2021-10-07
【天遣】rivalizar - 始動篇 (ショート)
春夏秋冬 GM
 海洋国家リーベラント。  広大な国土を持ちながら、国民が少ないことで知られている。  幾つかの例外を除いて、ローレライの民にしか国籍を認めない方針をとっていた。  王の名は、【クラルテ・シーネフォス】。  かつて魔王を封印した九勇者の直系の子孫だ。  そんな彼の居城に、【メメ・メメル】は訪れていた。 「で、オレサマを呼び出した理由を聞こうか」  片肘をテーブルにのせて首をかたむける。 「まず、申し上げておこう」  急病で臥せった王に代わり、王太子である【アントニオ・シーネフォス】は言う。 「ありていに言って我らはもう、あなたたちを信頼していないということを」 「ふぅん」  知ってるよ、と言わんばかりにメメルは薄笑みを浮かべた。 「そっちの親子も同意見かい?」  視線の先には、どこか神々しい光を背負ったような男女の姿がある。  達観したようなまなざしからして、アークライトと見てまちがいないだろう。 「同意見とお考えください」  アークライトの女性が言った。アントニオとはちがい糾弾するような口ぶりではない。けれど毅然として、書道家が書き始めの筆を運ぶときのように、自分の発言に疑いをもっていない様子だった。彼女は【セオドラ・アンテリオ】という。年若い。  もう一人は黙ってうなずいただけだった。セオドラの父親【テオス・アンテリオ】だ。テオスもやはりアークライトであり、アークライト族の代表者でもあった。  セオドラの言葉を継ぐように、テオスも考えを口にした。 「フトゥールム・スクエアは先日、火の霊玉を魔王軍に奪われたと聞いている。そのような醜態をさらしたのは、ひとえに、長である貴殿の責任であろう」  魔族を自称する【怪獣王女(ドーラ・ゴーリキ)】、そして魔王軍と名乗った【ドクトラ・シュバルツ】との交戦の結果、火の霊玉は失われてしまったのだった。  正確にいえば、魔王軍の手に火の霊玉があるとは言い切れない状況ではあった。霊玉は消失したのであって奪取されたわけではない。怪獣王女が魔王軍と共同戦線を組むとも言い切れない。  だがこのところ学園に批判的だったアークライト族代表テオスはこれを奇貨として学園を公然と非難し、まだしも中立的であろうとしたクラルテから代替わりしたローレライ族代表アントニオもこの流れに乗り、メメルを召喚して会談という名の糾弾を行う流れとなったのである。 「もはや学園に霊玉の管理を任せることはできない。土の霊玉を宿すという少年ともども、すべての霊玉の引き渡しを要求する。我らに任せるべきだ」 「ははは、ノー・サンキューと言っておこう。ベリー・ノーだな☆」  その『ベリー・ノー』って文法的に正しいの……? とコルネがつぶやいたが誰も聞いていない。 「なぜ」 「学園が管理するのが一番安全だからだよ。わからんかねチミィ」 「そうでしょうか?」  セオドラが言う。 「学園と、そこで育ったかたがたに力があるのは知っています。ですが、それが正しく使われるとは限らない。過日、研究都市セントリアで起ったテロ事件。これを元学園生である【ディンス・レイカー】が主導して起こしたことは、力が正しく使われなかった証拠でしょう」  それは! とコルネが言いかけるもメメルは手で制した。 「……ディンスのことで責めがあるなら、いくらでも聞く用意がある。でも霊玉の保管については別だな。霊玉を分割して持っているのが危ないことはオレサマも認めるが、だったらなおのこと、そちらが持っている水の霊玉と光の霊玉を学園に渡してほしいと言いたいな♪」 「私たちは、フトゥールム・スクエアはもう信頼できないと言ったはずですが」 「リーベラントなら信用できるというのかな?」  かつて、霊玉は各種族の代表や勇者の直系の子孫がそれぞれ分けて有すことで各種族のパワーバランスを保ち、政情の安定を図っていた。  だがそれは平時の話だ。  魔王軍が活発に動き出している今は有事である。  分散させていた力をひとつに集める必要が出てきたのだ。 (クラルテが病で倒れなければ……)  メメルとしては、事態の急変が悔やまれる。  リーベラントの王であるクラルテは、ときとして尊大な態度をとることもあったが基本は進歩的で、フトゥールム・スクエアにもたくさんの学生を送り出してきた。クラルテなら他種族と協力して危機を乗り越える道を選んだだろう。リーベラントに霊玉を集めるなどと無謀を言わず、学園を拠点とすることに応じたはずだ。  しかし彼の息子であるアントニオはちがう。  父とは正反対で、ローレライ第一主義をとり、ヒューマンやルネサンスを『化外の民』と呼んで見下している。魔法力文化力にすぐれたローレライこそが各種族を束ねる立場であると断じ、一方で魔王軍に対しては早期の封じ込めを主張していた。  それだけでも問題だが、そこに追い打ちをかけているのが、アークライトの代表であるテオスだ。  彼も、元々は他種族と協調して危機を乗り越えるべしと唱える人物だったが、事情が変わってしまった。  アークライトとなって、すでに18年が過ぎた彼は、もはや寿命が近い。  そのため、自身と同じくアークライトとなった娘であるセオドラに対外的なことを任せている。  だがセオドラは父とは違い、アークライトこそが力を束ね、魔王軍を討つべしという強硬派だ。  結果、それぞれが霊玉の所有を主張しているのが現状だった。  苦悩するメメルに、テオスが言った。 「力を束ねる必要がある。それに異論はないでしょう」  鐘のようによく通る、澄んだ声だった。  アークライトとして同胞に寄り添い、精神的支柱として支えてきた彼の人生を感じさせるような声。  だからこそ、メメルを含めた全員は耳を傾けた。  テオスは提案した。 「言葉ではなく、行動で示しましょう。我々アークライトは、今までフトゥールム・スクエアにあまりに多くを任せすぎていた。しかし現在の我々は、各地の騒動の解決だけでなく、魔王軍に対する備えもはじめています」 「それは、学園になりかわるってことか?」 「いいえ。より相応しい者が、全てを束ねるというだけです。メメ・メメル、我々は、その覚悟がある。それを示すため、我々は今まで学園に任せていた業務を代行させていただく」 「あえて露悪的に言うが許せよ。それってもしかして、自分たちの方が巧くやれるから、フトゥールム・スクエアは引っこんでろってことか?」 「そう思っていただいても構いません。反論があるなら、結果で示して下さい。そうでなければ、納得が出来ない」  テオスの言葉に、アントニオも賛同した。  かくして、三つ巴の競争が、これから起きることになる。  学園が課題として受けていた依頼に、ローレライやアークライトの勢力が横槍を入れはじめたのだ。  目的は、自分達の優位性を示すこと。  学園よりも早く、あるいは確実に依頼をこなすことで、霊玉の所有者に相応しいと知らしめようとしているのだ。  少しずつではあるが、それは現実のものとなりはじめている。  このまま手をこまねいていては、メメルの学園長の辞任要求を起こされ、学園を実効支配されかねない。  それを防ぐためには、今まで以上に、課題を達成していく必要がある。  この状況で、あなたたちは、どう動きますか?
参加人数
6 / 8 名
公開 2021-09-27
完成 2021-10-15
【王遺】遺跡からの呼び声は誰ぞ  (ショート)
春夏秋冬 GM
●古王の目覚め  古から時を刻み続ける古代の遺跡。  その最奥でゆっくりと動き出す存在がいた。  身体は蔦に覆われ、その身は苔生しているがその佇まいは凛としている。  ぼろぼろのマントを翻し、その存在はやっと口を開いた。 「……我らが求めるは闘争なり。今、眠りより覚めしこの時……闘争の宴の開始となろう」  かつては煌びやかであったであろう朽ちた剣を古の【王】が掲げる。  すると剣から光が放たれ、周囲で跪いた状態の石像たちに降りかかった。  次の瞬間、石像たちもまた【王】のように動き出す。  彼らは整列し王の前に跪いた。彼らの身もまた苔生してはいるが経年劣化による欠損はないようだ。  その中でもひと際重厚な鎧を纏った石兵が口を開く。 「我らが王よ、今が【その時】なのでしょうか? 眠りより覚めし我らが……再び覇を唱える王の剣となるその時と」 「是非もなし。者どもよ、外界ではそれなりの刻が経っているだろう。我らに抗する者には事欠かん。まずは情報を集めるのだ、敵を知らねば勝利の美酒は味わえぬ」 「御意、我らの中でも足の速い者を向かわせるとしましょう。ではこれにて」  兵が慌ただしく動き出す様を見ながら石兵たちの王【レガニグラス】は口の端を歪ませ笑みを作る。  それは来たる戦いへの興奮と期待が込められたものだった。 「さて永き眠りについた甲斐があったと思わせてくれ……この時代の強者共よ。我を……退屈させるでないぞ」  大陸一の高山【アルマレス山】。  そこは精霊に愛された土地であり、巡礼者たちが作り上げた町【トロメイア】がある。  そんなトロメイアでは今、町の周囲で見たこともないような石の動く石兵が目撃されたという話が飛び交っている。  現在の所、観光客や住民に被害はなくそれらが敵対的な行動に出てくることは無い。  だがトロメイアの町に居を構える大手商会【キルガ商会】の主【キルガ・レーンハイム】は事態を儲けの好機と見ていた。  そんな彼に依頼として呼び出され、フトゥールム・スクエアの生徒たちは応接間にて彼の話を聞いている。  キルガは酒瓶からグラスにワインを注ぎ、それを一口飲むと意気揚々と話し出した。 「諸君、見たこともない石の兵と聞いてわくわくしないかね? 彼らはどこから来たのか、何が目的か、謎は多い。わしはわくわくしておるとも。わかるか、ロマンというものだよ」  そういったキルガは生徒たちに見えるように地図を壁に張り出した。その地図にはいくつかの点が記されている。 「これはわしの情報網で割り出した奴らの出現場所の印が入った地図だ。どうだ、見て何か気づくことは無いかね?」  キルガに促され、よく見てみれば点はある地点の周囲を囲むように記されていた。その地点はアルマレス山の中腹にあるようだ。 「わかるか、この地点には古い遺跡の入口があってな。昔の土砂崩れで入れなかったんだが……何かあると思ってな。部下を向かわせた所、なんと土砂がどかされていたのだよ。それも内側からなぁ。不思議だろう? 人などいるはずがないのにだ」  グラスの酒を飲み干すとキルガは楽しそうにしゃべる。その瞳はきらきらと輝いていた。 「ぷはっ、そのまま調査をしてもよかったんだが遺跡の入口には例の石兵がうろついていてなぁ。念の為、腕に覚えがある者を調査隊として送ろうと考えたのだよ。それで頼みとなるのが君たち、というわけだ」  彼が言うには遺跡の内部調査をしてほしいとのこと。  観光に使えるようなら良し、危険性のある魔物などの生物がいる場合は討伐も視野に入れて欲しいようだ。 「ああ、そうだ。中で見つけた物は自由にしてくれて構わんぞ。学園に持ち帰って君たちの糧にしてくれ。古代の遺物など、わしらが持っているよりもその方が有効活用できるだろうからなぁ」  こうして生徒たちは古代遺跡の調査を依頼として請け負ったのである。  アルマレス山中腹。遺跡付近。  生徒たちは地図を頼りに件の遺跡の付近にて身を潜めていた。  ここまで石兵に遭遇することは無かったが、遺跡が見えてきた途端に石兵を多く見かけるようになったのだ。  彼らはまるで遺跡を守るかのように布陣しており、その様子はさながら警備兵。守りは厚く、衝突は避けられないように見える。  ふと、生徒たちの頭の中に声が響き渡った。  それはか細く、そして透き通った声で小さな少女のもののようだ。 (来て……お願い……私を……ここから……解き放って……誰か、私を……私を……)  声は次第に小さくなり、ついには聞こえなくなった。  なぜだかわからないがその声の主は目の前の遺跡の中にいる、そう生徒たちは感じ取る。  そして彼らは小さな助けを求める声に導かれるまま、遺跡へと足を踏み入れるのであった。  遺跡に足を踏み入れ、石兵たちと生徒たちは剣を交える。  交戦に入った石兵は腰のほら貝を吹いて敵襲を知らせた。ほら貝の音が遺跡に響き渡る。 「敵襲ーーーッ! 者ども、であえであえーーッ!」  石造りの太刀を抜いた石兵たちが遺跡の入口を守るように展開する。その後方には弓を構えた兵の姿も見えた。  弓矢の雨を潜り抜け、石兵と衝突する生徒たちの頭にはまた少女の声が響く。 (お願い……どうか……もう、こんなことは、嫌、なの……お願い、私を……解放して……早く……)  遺跡の最奥で待つのは何者か。  彼らを呼ぶ少女の声の正体は。  真相の全ては、昏い遺跡の奥に眠っている。
参加人数
3 / 8 名
公開 2021-10-01
完成 2021-11-04
学園での一日・魔物編 (ショート)
春夏秋冬 GM
 魔法学園フトゥールム・スクエア。  言わずと知れた、勇者の育成を掲げる教育機関だ。  年齢や種族を問わず学生として受け入れ、日々賑やかな生活が行われている。  各種依頼を引き受けるギルドを母体として始まったこともあり、現在も『課題』として様々な依頼を引き受けていた。  そんな学園に、幾つかのお客が訪れていた。 「おっきい」  今年で5才になる子供が大木を見上げる。  それは霊樹。  学園のシンボルであり魔力の貯蔵庫としての役割を持っている。  一時は枯れかけた事もあったが、学園生達のお蔭で、今では青々とした葉を茂らせていた。 「手、とどかない」  ぴょんぴょんと子供が『4本の足』で跳ねる。  ルネサンスが祖流還りで原種の姿になっている訳ではない。  元々、彼女はその姿なのだ。  ケンタウロス。  腰から上はヒューマンで、下は馬体の魔物だ。  魔物と言ってもケンタウロスは知性が高く、会話を交わすことも出来る。  魔王が、ヒューマンとルネサンス両方の力を持った生物を作ろうとして生まれた、という歴史を持つ。  その歴史から八種族と敵対しそうなものだが、そういう訳でもない。  そもそも魔物自体が、『魔王によって作り出された生物』という意味合いでしかない。  必ずしも、魔王に絶対服従、という訳ではない。  特に世代を重ねると、その傾向が薄れるとの研究もあるようだ。  それ以前に、いわゆる『人』とされている八種族と、それ以外の種族の差は、知性が一定以上あるかないかも前提だが、政治的な理由も過分に大きい。  いわゆる『魔族』と呼ばれる者達も、八種族と大差ない者達も大勢いる。  霊樹を前に跳びはねている女の子も、そうした『ひとり』だ。  少し前、学園生達により仁義と恩義を受けたケンタウロス族がいた。  その借りを返すべく、何かあれば『二度』までは共に戦うと約束をした。  けれどそのためには、学園と連絡が取れるようになる必要があり、いまケンタウロスの一団が学園に訪れている。  しかも、彼女達が約束した時に立ち会った学園生達との交流が切っ掛けで、学園での滞在も行われていた。  彼女達は羊を家畜として育てているのだが、それを連れて学園を回ることで、雑草の駆除をしている。  彼女達としても、羊たちに食べさせる草は必要だったので、お互い利のある状態だ。  という訳で、ケンタウロスの大人達は放牧に出ているのだが、子供達は別だった。  今まで見たことも聞いたこともない大きな大きな学園に訪れ、好奇心が刺激されている。  だから子供達の中には、探検するように学園を回っている者も居た。  いま霊樹を前にして跳びはねている【ツキ】も、その内の1人だった。 「ん、やっぱりとどかない」  さわさわ風で揺れる大きな枝に手を伸ばしながら、ツキは後ろに下がる。 「かけあがったら、のぼれるかな?」  助走をつけて、霊樹の幹を駆け上がろうとしていたのだ。すると―― 「そんなことしちゃダメだもん!」  小さな男の子の声が聞こえてきた。  不思議に思ってツキが振り返ると、そこには一本の若木が見える。  少し離れた場所には、芽吹いてからあまり経っていない新しい霊樹があった。  他には何も見えないのでツキが小首を傾げていると―― 「駆け上がったら霊樹の幹が傷付くもん!」 「木がしゃべった」  ツキは好奇心に目を輝かせて、若木に近付く。 「へんなのー」 「変じゃないもん!」  ツキにつつかれた若木は、地面から根っこを抜いて枝を振り上げた。 「僕はフォレストボーイだもん!」 「へんなのー」  フォレストボーイと名乗った若木(?)を、ひょいっと持ち上げるツキ。 「もってかえるー」 「そんなことしちゃダメだもん!」  じたばた暴れるフォレストボーイ。 「僕は霊樹も学園も、学園生も、みんなみんな守るんだもん!」 「まもるの?」 「そうだもん! それがじぃちゃんとの約束なんだもん!」 「おじぃちゃん?」  興味深げに、ツキは尋ねた。 「おじぃちゃん、いたの?」 「ツリーフォレストマンの、じぃちゃんだもん」  フォレストボーイは応えた。 「じぃちゃんは、死ぬ前に僕に頼んだんだもん。みんなを守ってくれって。僕は約束を守るんだもん。だから学園に居ないといけないんだもん」 「やくそく……」  ツキは想いを馳せるような間を空けて言った。 「わたしも、おじちゃんとやくそくしたの。ゆうかんな子になるって」  死んだ伯父と、かつて交わした約束を思い出し、ツキは鼻の奥をツンっとさせる。すると―― 「大丈夫だもん。きっと守れるもん」  フォレストボーイは、枝でツキの頭を撫でる。 「ここは勇者の学校なんだもん! ここに居たら勇気もりもりだもん!」 「そうなの?」 「そうだもん!」  フォレストボーイは、胸(?)を張る様に言った。 「勇気一杯になりたかったら、学園を見て回ると良いんだもん。案内するもん」 「あんない、できるの?」 「当然だもん! 僕はじぃちゃんの知識を受け継いだんだもん。行ってみたい所があれば案内してあげるもん」 「なら、えだまめのある所がいい!」 「え、枝豆?」  ぴしっ、と固まるフォレストボーイ。  しかしツキは、お構いなしに続ける。 「うん。このまえ食べたの。おいしかったの。だから、また食べたい」 「え、枝豆……」  悩んでいるのか、微妙にしおれた感じになるフォレストボーイ。 「むりなの?」 「む、無理じゃないもん! えっと、えっと……あっちに行ったら、きっとある筈だもん!」  そう言って、枝で指示したのは、世界中の植物を集め、生育している植物園『リリー・ミーツ・ローズ』がある方角。 「あっちに行ったら、きっとある筈だもん」 「わかった。いく」 「なら案内するもん!」  そんなこんなで、子供2人が『リリー・ミーツ・ローズ』に向かいます。  同じころ、アナタ達は学園で課題をしています。  なにかの実験かも知れませんし、訓練かもしれません。  あるいは、書類仕事や調べ物をしているかも?  そんな中、一息ついていると、奇妙な子供2人組をアナタ達は見つけます。  気になって声を掛けてみるのも良いですし、気にせず、自分の課題をしていても良いでしょう。  学園での、とある一日。  アナタ達は、どう過ごしますか?
参加人数
7 / 8 名
公開 2021-10-10
完成 2021-10-28
学園での一日・異世界人+α編 (ショート)
春夏秋冬 GM
 魔法学園フトゥールム・スクエア。  言わずと知れた、勇者の育成を掲げる教育機関だ。  年齢や種族を問わず学生として受け入れ、日々賑やかな生活が行われている。  各種依頼を引き受けるギルドを母体として始まったこともあり、現在も『課題』として様々な依頼を引き受けていた。  そんな学園に、幾つかのお客が訪れていた。 「申し訳ありませんが、学園長は席を外しています」  学園への来訪者を、【シトリ・イエライ】が対応していた。  相手は2人。  1人は、フェアリータイプのエリアルに見えるおっさん。ただし本体ではなく、異世界人である【メフィスト】が作りだした分身。  もう1人は、セントリア中央研究所の責任者をしている【ハイド・ミラージュ】だ。 「残念ですねー」 「何か用事があったんでしょうか?」 「ええ……」  歯切れ悪くシトリは応える。  なぜなら、【メメ・メメル】が居ない理由が、ローレライとアークライトによる学園弾圧を和らげるために動いているからだ。  現在、火の霊玉を学園が確保できなかったことを槍玉に挙げ、このふたつの種族が大きく動いている。  目的は、自分達の勢力に霊玉を集中すること。 (このようなことをしている場合ではないでしょうに)   ローレライであるシトリとしては、別段関わっている訳ではないが、色々と思う所はある。  とはいえ、部外者であるメフィストとハイドに気取らせる訳にはいかないので、淡々と対応する。 「どのような用件で、今日は来られたんでしょうか?」 「実験の協力をお願いしようと思ってきたんです」  ハイドが応える。 「この前、学園生さん達から、異世界の技術を使って色々と要望を貰いましたからね。それを実現するべく、来たわけでして」 「それでしたら、わざわざ学園に来られなくても、セントリアで行えると思いますが」 「出来ない物もあるのでーす」  メフィストが口を挟む。 「特にー、ここの学園長って人のー、身体いじるには直接会わないとダメですしねー」 「何をする気なんです」  珍しく眉を顰めるシトリに、メフィストが応える。 「肉体に干渉してー、不調を治すためでーす。ここの子にー、頼まれましたからねー。発作を治したりー、無理なら新しい体に移すような方法を作って欲しいとー」 「……それは、副作用は無いのですか?」 「基本は肉体の初期になっちゃうのでー、元気になるでしょうがー、弱体化しちゃうでしょうねー」 「……恐らく学園長は望まないでしょうね」 「そうですかー? でも気が変わることもあるかもですしー、やっていきますよー。それでー、ひとつ聞きたいのですがー、この世界ではー、生まれつきの種族から変わることがあるのですよねー?」 「ええ。リバイバルとアークライトですね」 「それですよー。この学園にも居るんですよねー? それならー、ちょっーと何人か会わせて下さーい。サンプルとしてー、情報収集したいでーす」 「それなら私も」  ハイドも要望を出す。 「武器や防具、それに封印術式とかの実験に協力して欲しいんですよ。ウチだと作るのは出来ても、実践できるのが少なくて」  色々と要望を足して来る2人に、どうしたものかと悩むシトリだった。  シトリが悩んでいる頃、第一校舎『フトゥールム・パレス』の中にある、マスターラウンジでも来訪者が話をしていた。 「学食に新メニューを卸すって形で、話を付けました」 「話が早いわね」  機嫌よく言ったのは、アルチェの領主一族に連なる女商人【ララ・ミルトニア】。 「時間が掛かるかと思ったけど、有能ね」 「別段、俺の手柄って訳じゃないですよ」  肩を竦めるようにして、学園の卒業生でもある商人【ガラ・アドム】は返す。 「アルチェとボソク島のグルメバトルで、学園生の作ったメニューの評価が良かったですからね。そういう実績があったんで、どうにかなったってだけです」  少し前、とあるグルメバトルがあったのだが、それに学園生が参加していた。  その中で、グルメバトルで使う食材の輸出先であるボソク島の発展のため、継続したスポンサーを学園生の1人が探して回ったのだが、賛同したのがララという訳である。  彼女は継続した事業として動かしていくため、色々な場所を回っていたが、学園に訪れたのもそれが理由だ。 「原価はギリギリまで落としてあげる。ただし、食材の供給先はアルチェとボソク島に限定してよ。学園での口コミも、期待してるんだから」  学園には様々な地域から人が訪れるので、そこで味が知られれば、宣伝になると考えているのだ。 「そこら辺は万事抜かりないですよ」  ガラが応える。 「ひとまず、グルメバトルで学園生が作ってくれたメニューは確定で。それ以外何かメニューに加えられないか、試行錯誤中です」 「良いんじゃない。頑張って」  基本、人を動かすことに慣れているララは、笑顔で仕事を促した。  そんなこんなで、学園に訪れた来訪者たちは、思い思いに動いています。  同じころ、アナタ達は学園で課題をしています。  なにかの実験かも知れませんし、訓練かもしれません。  あるいは、書類仕事や調べ物をしているかも?  そんな中、一息ついていると、来訪者たちの姿をアナタ達は見つけます。  気になって声を掛けてみるのも良いですし、気にせず、自分の課題をしていても良いでしょう。  学園での、とある一日。  アナタ達は、どう過ごしますか?
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-10-10
完成 2021-10-28
【天遣】諦観天使と傍観の魔法使い達 (ショート)
春夏秋冬 GM
 最初の問い掛けを、彼女は致命的に間違えていた。 「先生は、怖くないの?」  幼き少女の問い掛けに、青年は困ったような笑みを浮かべ応えた。 「怖いです。だから、何かを残したいのです」 「残す?」  じっと見つめる幼き少女【セオドラ・アンテリオ】に、アークライトの青年は言った。 「この世界に自分が居た証を残したい。それは何でも良いのです。私にとってそれは、貴女に知識を伝え残すことです。そして貴女の御父上にとっては、貴女自身が、そうなのですよ」 「……」  セオドラは、泣くのを堪えるように黙る。  彼女の父である【テオス・アンテリオ】は、青年と同じくアークライトだ。  元々は、とある地の領主であったが、アークライトとして覚醒してからは、悩めるアークライト達の指導者としての役割を引き継いでいる。  アークライトは、覚醒してから長くても20年で『消滅』してしまうため、その事で思い悩む者も多い。  悩める同胞達の苦しみを少しでも和らげるように、テオスは生きていた。  けれど娘であるセオドラは、それが怖かった。  眠りに就き目が覚めれば、その時には父が『消滅』してしまっている。  そんな悪夢を見るのも、一度や二度ではない。  物心つく前に母を亡くしているセオドラには父以外に家族は居らず、それが『恐怖』をより強く感じさせていた。  だから、家庭教師である青年に問い掛けてしまったのだ。  怖くないのか? と。 「何かを残したい。私は、そう思っています」  それは青年の本心であった。  同時に、諦めから来る言葉でもあった。  だからこそ、ある種の呪いとして、成長しアークライトに覚醒したセオドラの心に、楔として食い込んでいた。  ◆  ◆  ◆ 「申し訳ありません。お父さま」  近況を伝えるセオドラに、テオスは静かに返した。 「謝る必要はない。皆も、よくやってくれているのだろう?」 「はい」  迷いを見せず、セオドラは応えた。 「今回は学園の働きを超えることはできませんでしたが、必ず、私達が学園に代わり得るのだと多くの人達に思って貰えるようにします」  少し前から、セオドラ達アークライトの一団は学園の役割を担うべく活動している。  同じように動いているローレライの王族勢力とは、『対学園』では協調関係を結んでいるが、だからといって同盟という訳ではない。  向こうとしては、場合によってはアークライトを魔王軍攻勢の旗頭に据えるぐらいのことは考えているかもしれないが、あくまでも主導権はローレライの物だと思っているだろう。  もっとも、それならそれで構わない。  セオドラ達にとって必要なのは、『複数の霊玉を自分達アークライトが使える状況』にすることだ。  そのためにも、学園が持つ霊玉を手に入れられるようにしなくてはならない。  学園の代わりになろうとするのは、『手段』でしかないのだ。 「ローレライの方達も動かれています。私達も、より積極的に動かないと――」 「そーよねぇ」  軽い口調で賛同する声に、セオドラは視線を向ける。  そこに居たのは1人の偉丈夫。『ヒューマン』の商人である彼の名は、【シメール】。  十指全てに指輪を嵌めた手で口元を覆い、笑うように言った。 「貴方達には先行投資させていただいてますものねぇ。ちゃあんと、回収させて下さいましねぇ?」 「……分かっています」  苦い声でセオドラは応えた。  シメールとセオドラ達との関係は、出資者と活動家だ。  どこから聞きつけて来たのか、霊玉を求めるセオドラ達に接触してきて、活動のための資金援助をしている。  ローレライ陣営にも息の掛かった者を送り込んでいる節もあり、資金面の関係で、切りたくても切れない間柄だ。 「我々が学園を掌握した暁には、学園の利権に貴方が関われるよう便宜を図ります。そのためにも、今まで以上の援助をお願いします」 「もちろんよぉ。ローレライの坊やたちと同じように、面倒見てあげるわぁ」  獲物を見るような目を向けるシメールに、セオドラが怖気を感じていると、シレーヌは笑みを浮かべたまま言った。 「そうそう、お金だけじゃなくて、情報もあげちゃうわぁ。学園が、魔法国家ミストルテインに接触するみたいよぉ。あそこを学園に引き込まれると面倒だから、先に獲りに行ってねぇ」 「……分かりました」  苦い声で応えるセオドラだった。  それからしばらくして、魔法国家ミストルテインでは、学園の関係者が訪れていた。  ◆  ◆  ◆ 「では、つまり、サイクロプスに調べろと言われて、この国に来た訳ですか」  鷹揚に執務机に座り、壮年のヒューマンが言った。  彼の名は【レト・グリファ】。  魔法国家ミストルテインの代表議長をしている。  ミストルテインは合議制国家であり、高位の魔法使い達により議員は選ばれている。  当然、レトも例外ではない。 「最近、我が国を調べている者が居るとは聞いていましたが、捕えてみれば学園の関係者ですか」 「卒業してるので、もう直接関係は無いんですけどね」  軽い口調で返したのは、【ガラ・アドム】。  他の2人と一緒に、魔法で拘束されているのに余裕である。  もっとも、もう1人はそうでもなかったが。 「私関係ないんで自由にして下さいー」  泣き言を言っているのは、研究都市セントリアの代表責任者【ハイド・ミラージュ】。  そしてもう1人。 「逆さになると血が頭に下がりまーす」 「それは私の責任ではないが?」  拘束された状態でふよふよ浮いているのは、異世界人である【メフィスト】。  この3人は、少し前、学園とサイクロプスの交渉に立ち会っている。  その時、サイクロプスにミストルテインを調べろと言われたので、商人であるガラは商売を装い入り込んでいた。  ハイドとメフィストは、ガラにくっつく形で一緒に訪れている。  2人とも、他国と関係性が薄く秘密主義なミストルテインの技術を探る好機だと言って付いて来たのだが、色々と調べている内に不審者として捕まったという訳だ。  しかも、調べられる中で事情を話していると、どういう訳か代表議長であるレトの前に連れて来られたという訳だ。 「学園関係者と聞いて、アークライトのように協力関係を結びに来たのかと思ったが、よりにもよってサイクロプスとは……」  何やら考え込むレトに、ガラが売り込むように言った。 「学園も貴方達との協調を望んでいます。どうです? ひとつ、話を聞くだけでも」 「どちらでも好きな方を選べと? なら、試させて貰いましょう。貴方達とアークライト、より強い方と、私達は話をしたい」  そして一息つくような間を空けて、続けて言った。 「力なき理念は無力だ。理念なき力は、暴力にすぎんが」 「それはー、貴方の背後の『ヒト』の考えですかー?」  レトの頭上に視線を向けながら尋ねるメフィストに、レトは返す。 「……私の考えだ」  警戒するようにメフィストを見詰めるレトに―― (それって、巧くいっても個人的な考えだから国としては知らん、って言い訳も出来るってことだよな)  ため息をつくように考えるガラだった。  そしてひとつの課題が出されました。  内容は、ミストルテインの魔法使いが作った疑似ゴーレムと、アークライトの一団。  そして学園代表で、バトルロワイヤル形式で戦い力を示す、という内容です。  結果を見てミストルテインは、どの勢力と今後関わるかを考えるというのですが……。  さて、この課題、アナタ達は、どう動きますか?
参加人数
5 / 8 名
公開 2021-10-18
完成 2021-11-03
【天遣】諦観天使は世界平和を願う (ショート)
春夏秋冬 GM
「我らの内情が魔王軍に知られている可能性がある、そういうことなのだね」 「はい、お父さま」  父である【テオス・アンテリオ】の言葉に頷いたのは、【セオドラ・アンテリオ】。  少し前、魔法国家ミストルテインの協力を得るため、アークライト達は学園生達と競い合ったのだが、それを魔王軍に関わりがあると思われる『蟲』に見られていた。  さらに、その時に現れた雷の精霊王【イグルラーチ】により、蟲がアークライト達の内部に浸透している可能性があることを示唆されたのだ。 「可能性があるとすれば、【シメール】殿だろう」  アークライト達の活動支援のため資金援助を申し出た『ヒューマン』の商人であるシメールは、アークライト達が学園を掌握した後、学園での権益を融通することで協力体制を築いている。  元々が利害で繋がっていることもあり、最初から警戒していたため信用はしていないが、だからといって露骨に態度で示すことも出来ない相手だ。  少なくとも、現時点では関係を切りたくても切れない状態である。なぜなら―― 「儀式の完成度は、どこまで進んでいるか教えてくれるかい?」 「9割方は終わらせています。ですが残りを完成させるために、まだ資金が必要です」 「まだ手を切ることも出来ない、ということだね……」  テオスは思案する。  自分達、アークライトの使命を果たすためには、外部の協力者は不可欠だ。  そうでなければ、世界を魔王の脅威から守ることは出来ないし、これから生まれてくるアークライト達を『短命の宿命』から解放してやることも出来ない。 「現状を続けるしかないということか……シメール殿も含めて、外部の者に儀式場の場所を気取られている可能性は無いのかい?」 「ありません。我らと、何よりも儀式場の核となられている【オールデン】様により周囲の探知を途切れることなく行っています。そもそも儀式場へは、オールデン様の力を流用した転送魔法で移動しています。具体的な場所は、信頼の置ける少数のみ知っているだけですから、外部から知ることは不可能です」  光の精霊王オールデンの関与を前提に2人は話を続ける。 「仮に魔王軍が我々に干渉しようとしているとしても、それさえ利用してでも計画は進めるべきです」 「……」  セオドラの言葉に、テオスは思案するような間を空けて応えた。 「ミストルテインに協力を求めよう」 「それは……すでにミストルテインは、学園との協力体制に入っています。下手に私達のしようとしていることを伝えれば、学園に伝わる可能性が高いです」 「そうだろうね。だから、学園にも伝わる前提で交渉しよう」 「……学園が知れば、許さない可能性の方が高いです。魔王を完全封印するためとはいえ、霊玉を複数消滅させることになるのですから」 「そうかもしれない。だが我々の内情を、魔王軍が知ろうとしている可能性があるなら、儀式の時期は早める必要がある。なりふり構っていられる状況ではない」 「……分かりました。それなら、私も交渉には参加します。実情をお伝えする為に、それに今まで現場で働いて下さった方達に責任を押し付けてしまわないためにも、私が参加する必要があります」 「……頼むよ」  苦悩を飲み込みながら、テオスは娘に返した。  そのやりとりを、シメールは離れた場所で聞いていた。 「便利なもんだな」 「でしょ~」  セオドラ達が話していた建物から数百メートル以上離れた場所にある建物の屋上で、ころころと笑いながらシメールは言った。 「博士が異世界の技術を調べる中で手に入れた技術をパクってきたのよー。光を当てて、その反射光を使って盗聴するわけ」 「魔法じゃないから気付けない、と。そんなのあるんなら、俺にミストルテインで盗聴させなくても良かっただろ。お蔭で盗み聞きしてるのがバレちまうし」  全身を包帯で覆い着流しを着た【テイ】が非難する様に言うと、シメールは応える。 「アレはアレで良いのよー。アークライト達を焦らせることは出来るし、巧くいけば、アークライト達とアタシ達が繋がっているように見えるでしょ? 不信感でグッチャグチャになってくれればめっけもんじゃない」 「そういうもんかね? それより、どうすんだ? 魔王の完全封印だとよ」 「良いんじゃない。好きにさせれば」 「お前、一応魔王の腹心なんだよな?」 「そーよー。でーもー、別にボスが殺される訳じゃないしー、封印されてくれるんなら、アタシは今まで通り好き勝手に遊べるしー」 「だから放置、と」 「ええ。まぁ、どう転んでも良いようにするけどね。それにしても――」  けらけらと、シメールは笑う。 「憐れで可愛らしいわよねー、あのアークライト達。どのみち自分達は消滅間近だからって、あーんなことしようとしてるんだもの」 「寿命が近いんで、トチ狂ってるだけじゃね?」 「あいつら分かっててやってるから面白いのよー。ローレライ達もそうだけどさー、いいように踊ってくれるわよねー。どう転ぶか分からないけれど、せいぜい利用してあげましょ」  心底楽しげに、シメールは言うのだった。  そしてミストルテインでは、雷の精霊王【イグルラーチ】と、代表議長である【レト・グリファ】が話し合っていた。 「アークライト達から、我々との会談要請が来ました。魔王を完全封印するために力を貸して欲しい、との事です」 「あー、やっぱ、そういうことかー」  雷鳥の姿になって、執務机の上で座り込んでいるイグルラーチは、レトに応えた。 「光の兄弟も限界だろうしな。あの方法を使うなら、少なくとも今以上に魔王の封印は強固になるだろうさ。色々と失うものは多いけどな」 「断りますか?」 「いや、受けてくれよ。その代り、学園も会談の席には呼んでくれ」 「……どういうおつもりですか? 全てを話されるので?」 「んー……そこまではなー。特に魔王が何なのかとか、教えるのはリスクもあるしな」 「我らの国については?」 「任せるよ。そろそろいい加減、レトっち達も先祖がしでかそうとしたことに負い目を感じる必要はないと思うしな。自由になって良いと思うぜ」 「そうかもしれません。とはいえ一歩間違えれば、新たな魔王を創ってしまう所だったのですから、先祖のしでかそうとしたこととはいえ、割り切れる物ではありません」 「それも含めて前に進むためにも、お話をしようぜ」  そんなやり取りがあった数日後、魔法国家ミストルテインで、アークライト達も含めた会談が行われることになりました。  その場に、アナタ達は学園からの代表として訪れています。  アークライト達は、この場に学園生が招かれることを知らなかったようで、最初は動揺していましたが、すぐに落ち着いて自分達の考えを伝えてきます。  内容はどうやら、魔王の完全封印に関することらしいのですが?  この会談の中で、アナタ達は、どう舌戦を繰り広げますか?
参加人数
6 / 8 名
公開 2021-11-10
完成 2021-11-25
異世界に行ってみよう (ショート)
春夏秋冬 GM
 小都市セントリア。  異世界転移の核となる特異点研究所を中核として、それを隠蔽するための複数の研究所からできた研究都市だ。  学園生達のお蔭で研究は進展しており、その成果が形になろうとしていた。 「完成です!」 「徹夜した甲斐がありましたー」  セントリア中央にあるドーム型研究所の中で、、研究所責任者【ハイド・ミラージュ】と異世界人である【メフィスト】は、他の研究員達と共に歓声を上げた。 「これでさらに実験が出来ますね!」 「向こう側からの物資も持って来れそうですしー、もっと実験しましょー」  若干ハイテンションになっているというか、マッドサイエンティストっぽくなっていた。 「とりあえずメフィストさんの世界と接続チャンネル繋げてますが、調整すれば他の世界にも繋げられるかもしれないですね」  目を輝かせながら、ハイドは『異世界転移門』を見詰めた。  外観は、ストーンサークルのような見た目をしている。  巨人であるサイクロプスから提供されたアダマント鋼の柱を同心円状に配置し、中央には異世界転移の核となる特異点の鏡を組み込んだ制御柱が、どーんっ! と建っている。  床を見れば、超高密度の術式が刻まれた魔法陣になっており、それにより異世界とこちらの世界を安全に繋げられるようになっていた。 「色んな世界の技術や理論と出会えるかもしれないのはワクワクします!」  今にも『異世界転移門』を発動させようとしているハイドに、メフィストが言った。 「理論上は可能でしょうけどー、下手するとヤッベーのがこの世界に来るかもしれませんしー、リミッターを外して運用するのは止めといた方が良いかもですねー」  メフィストの突っ込みに、ハイドは一瞬固まったあと応える。 「……まぁ、そうですね。手に負えない世界と繋がっちゃうとダメですし」  残念そうに言うが、紙一重の良識で踏み止まった。とはいえ―― 「安全を確保した上での実験は積極的にしていきたいですよね!」  根本が研究者なハイドは、実験そのものは、やる気満々だ。  これにメフィストは賛同する。 「実験は必要ですねー。現状だとー、せいぜい数分から1時間ぐらいしかー、人は転移できませんからねー」  縁が関係してますからねー、などと言ったあと、続けて言った。 「本格的に始動する前にー、学園生に協力して貰いましょー。何かアクシデントがあってもー、対応して貰えそうですしー」 「好いですね! それならついでに、この前と同じく製造したアイテムの実験にも協力して貰いましょう!」  そう言うとハイドは、符を数枚取り出す。 「これなんかは、ほぼ実用化できてますけど、他のはまだまだですし」  言いながら、打ち上げ用に設置していたテーブルに符を置いて、一部を破る。  その途端、美味しそうな料理が現れた。 「どこでも食符。出来立ての料理を封印して、いつでも自由に出せる。便利で良いですよね」  説明しながら、見た目だけでなく匂いも美味しい料理に、ハイドだけでなく他の研究員達も腹が鳴る。  ちなみに現れた料理は、学園の学食で正式採用された物を持って来たものだ。  甘鯛をメインにしたブイヤベースや、ムール貝やアサリにイカやエビを使ったパエリヤに、同じ食材を使ったピラフ。  食べられる花(エディブルフラワー)が彩りとして加えられ、目で見ても楽しめる。  他にも、枝豆を使ったコンソメスープや、魚の燻製と野菜を酢や柑橘の汁であえたマリネと、山菜やハーブのオイル漬けなどなど。  見ていて食欲がそそられる。  なので、寝食を惜しんで頑張っていた研究員達は、次々手を伸ばし食べていく。 「美味い」 「うめぇ」  ガツガツ食べる研究員に、自分の分を取られまいとハイドも手を伸ばす。 「はふ、もぐ――っごく。いやぁ、これ良いですよねー、便利で。他のもこれぐらい実現できてれば好かったですけど、資金面とか色々ありましたからね」  他にも実験的なアイテムは幾つもあったが、スポンサーの確保が出来ていた物だけが、実現が出来ているというわけだ。 「武器の方は、魔力や思考の受け取りを抑制できる機構が完成しないと難しいですし」 「そっちの方はー、私の世界から抑制機構に使える材料を持ってきますからー、どうにかできますよー。魔力探知機もー、使える材料が無いか見繕っておきましょー」  そう言うと、メフィストも料理争奪戦に加わるのだった。  などということがあった数日後。  ひとつの課題が出されました。  内容は、小都市セントリアでの実験に協力して欲しい、とのことです。  異世界に訪れたり、異世界の技術や材料を使ったアイテムの製造に力を貸して欲しいようです。  巧く協力すれば、きっと学園の力にもなる筈です。  皆さんの力を貸して下さい。
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-11-15
完成 2021-12-02
教える側に回ってみよう (ショート)
春夏秋冬 GM
 魔法学園フトゥールム・スクエアの運動場で、ケンタウロスの女の子と動く若木が駆けっこをしていた。 「負けないんだもん!」 「ん、負けない」  ぴゅーっと2人で走っている。  ケンタウロスの女の子【ツキ】も、動く若木である【フォレストボーイ】も楽しそうだ。  運動場をぐるーっと一周走り、先にゴールしたのはツキ。 「勝った」 「負けちゃったんだもん」  少し遅れてゴールするフォレストボーイ。 「次、なにする?」 「植物園に行くもん」  走ったばかりだというのに、元気よく植物園に2人は向かった。 「大きく大きく大きくなーれだもん」 「大きくなーれ」  温室に植えた枝豆に念じながら水をあげる2人。  時々、踊ったりしている。  少し前、学園生達と関わったことがあったのだが、そこで枝豆を元気にしてあげるための世話の仕方を教わったので、実践していたのだ。 「今日も元気だもん」  芽を出して伸びた枝豆は、枝葉がつやつやしている。  フォレストボーイの魔力の影響か、応援すると植物は、ちょっとだけ元気になるのだ。  枝豆の世話を終えた2人は、次の場所にテクテク歩いていく。  道中、学園生と出会うと―― 「こんにちはだもん!」 「こんにちは」  2人は挨拶していった。  ここ最近、色々な学園生に会う度に挨拶しているので顔を覚えられ、馴染んできている。  魔物であるケンタウロスの女の子と動く若木という珍妙なコンビに、最初は戸惑っていた学園生達であったが、段々と慣れてきていた。  それはツキとフォレストボーイが人懐っこいことも理由だ。  そうなれたのは、2人が学園生達に優しく構って貰えたことが大きい。  子供は特に、周囲の反応に影響を受けるものなのだ。  そんな2人が歩いて辿り着いた先は、霊樹のある場所だった。 「ただいまだもん!」 「おじゃまします」  2人の呼び掛けに、大きな霊樹はざわざわと枝葉を揺らし、まだまだ小さな霊樹はふるふると枝葉を揺らす。 「今日はツキと駆けっこしたんだもん」 「ん、勝った」  ツキとフォレストボーイの2人は、大きな霊樹と小さな霊樹に話し掛ける。  それが2人の日課だ。  2人の話に相槌を打つように、ときおり霊樹は枝葉を揺らす。  そうして話をしていると、大きな霊樹の近くで、ぼんやりと光る玉があるように感じる。 (じぃちゃん)  光る玉を、フォレストボーイは見上げる。  それは光る玉が、フォレストボーイの先代とも言えるツリーフォレストマンの魂だからだ。  少し前、とある学園生が、聞いた者のかしこさを一時的に上げてくれる竜爪笛を霊樹の前で奏でてくれた。  その音色に呼応するように、霊樹の近くに光る玉が浮かび上がり、竜爪笛の音色で一時的にかしこさが上がり、それによる閃きを得たフォレストボーイは、光る玉がツリーフォレストマンの魂だと気が付いた。  それ以来、フォレストボーイは強くなろうと頑張っている。 「じぃちゃんを安心させるんだもん!」  学園の守護者であったツリーフォレストマンのあとを継げるよう、学園や学園生達を守れるようになりたいのだ。  だから一生懸命、駆けっこをしたり枝豆の世話をしたり、他にも学園生の誰かが困っていれば助けられるよう、力を付けられるよう努力している。  そんなフォレストボーイに、ツリーフォレストマンの魂は、何も応えない。  なぜなら魂でしかない今のツリーフォレストマンは、意識も何も無く、ただそこに居るだけの物でしかないからだ。  異世界人であるメフィストが言うには、ツリーフォレストマンの魔力を引き継いだフォレストボーイがいるから、辛うじて留まっているだけらしい。  それを聞いてしょんぼりするフォレストボーイに、なにやらメフィストは考えがあるようだったが、まだ今は動きは無い。  けれどフォレストボーイは落ち込むことなく、今日も今日とて、ツキと一緒に遊びつつ鍛えていた。  そこに、【シトリ・イエライ】が声を掛けた。 「頑張っているようですね」 「こんにちはだもん!」 「こんにちは」 「はい、こんにちは」  元気の好い2人の挨拶に、シトリは微笑みながら応える。 「今日も、走り込みをしていたようですね」 「もっともっと走るもん。いっぱい動けるようになるんだもん」 「成果は出ていると思いますよ。それに楽しんでいるみたいですね」 「楽しいんだもん!」 「ん、走るの、楽しい」 「ツキと一緒だから、1人より楽しいんだもん!」 「うん、楽しい」 「一緒に頑張れるのは、良いことですね」  微笑みながら頷くシトリ。  かつて孤高の研鑚に人生を費やし、けれど今は誰かと関わることで、より多くの物を得たシトリは、子供達にも自分が得た物を分けてあげたくて提案した。 「一緒に頑張るなら、もっと多くの人達と関わると良いと思います。だから、学園生達に教えて貰いませんか?」 「みんなと一緒に頑張るもん?」 「おにーちゃんとおねーちゃん達と遊ぶの?」  期待するように聞き返す子供2人に、シトリは頷いた。 「ええ。それにこれは学園生達にとっても、意味のあることです。教えることで、得られる物もありますからね」  教師であるシトリは、実感を込めて言った。 「課題として、学園生達に出しておきましょう。ツキさんも、一緒に参加しますか?」 「一緒にする。だから、おかあさんに、言ってくる」  そう言ってツキは、フォレストボーイと共に、学園近くでテントを敷いている自分の群れに戻り事情を説明した。 「一緒に、ダメ?」 「いや、構わん。折角だから、他の子達とも一緒に行くと良い。それと――」  ツキの母親であり、百を超えるケンタウロスの群れの首領である【アサ】は、自分と同じ戦士職の大人と視線を合わせた後に続ける。 「私達も参加させて貰おう。学べるものがあれば学びたいし、可能なら戦闘訓練もしたい。まだ借りは返せてないから、その時までに練度を上げておきたいからな」  いま学園の近くに住んでいるケンタウロス達は、学園生達から受けた恩を返すため、二度までは共闘をすると約束している。  それを確かな物にするために、事前に予行練習をしておこうというのだ。 「おかあさんも、一緒?」 「ああ」  アサの応えに、笑顔になるツキ。 「好かったんだもん!」 「うん。よかった」  喜ぶフォレストボーイとツキに、アサは微笑ましげに目を細めるのだった。  それから数日後、ひとつの課題が出されました。  内容は、ケンタウロスの子供達やフォレストボーイ、そして大人のケンタウロス達に、教師役として教えてあげる事です。  普段は教わる側の皆さんですが、今回は教える側に回ってください。  一体どんなことを教えてあげますか?
参加人数
7 / 8 名
公開 2021-11-20
完成 2021-12-08
発酵グルメバトル! (ショート)
春夏秋冬 GM
「今回は、発酵食品をテーマにグルメバトルをして欲しいのよ」  料理人2人と商人1人を前にして、アルチェの領主一族に連なる女商人【ララ・ミルトニア】は言った。 「それって、前にやったヤツみたいなのですか?」  ララに尋ねたのは、料理人の【ガストロフ】。  もう1人の料理人である【辰五郎】と共に、グルメバトルに参加した経験者だ。  その時のグルメバトルは、土の霊玉を宿す男の子が住んでいるボソク島の経済的な自立を確立するために行われた物だが、今回は違った。 「前とは目的が違うのよ。と言っても、ボソク島にも関わる話だけどね」  そう言うとララは、学園出身の商人【ガラ・アドム】に視線を向ける。すると―― 「今回は、こいつを広めるためにグルメバトルをしたいんだ」  ガラは1枚の符を取り出しテーブルの上に置くと、端を破る。  途端、出来立ての料理が現れた。  甘鯛をメインにしたブイヤベースや、ムール貝やアサリにイカやエビを使ったパエリヤに、同じ食材を使ったピラフ。  食べられる花(エディブルフラワー)が彩りとして加えられ、目で見ても楽しめる。  他にも、枝豆を使ったコンソメスープや、魚の燻製と野菜を酢や柑橘の汁であえたマリネと、山菜やハーブのオイル漬けなどなど。  見ていて食欲がそそられる。 「へぇ、こいつは――」  出てきた料理のひとつ、パエリヤを試食した辰五郎が言った。 「これ、あの時のグルメバトルに参加してたネェさんの料理だな」 「ああ。学園の学食に正式採用されたもんだ」 「へぇ、良いもん出てくんだな学園の食堂は――って、それはそれとしてだ。一番気になるのは、こいつは出来てから時間が経ってねぇな」 「マジか!?」  驚いたガストロフが、辰五郎と同じように試食して、さらに驚く。 「すげぇな。ひょっとして、さっきの符が関係してるのか?」 「そういうこった」  ガラが応える。 「どこでも食符。出来立ての料理を封じて、いつでも好きな場所に、封じた出来立ての料理を解放することが出来るってマジックアイテムだ」  ガラの説明に、興奮する料理人2人。 「おいおいおいっ、とんでもねぇじゃねぇかそいつはよ。そいつを使えば、旬の最高に旨い素材を使って、いつでもどこでも最良の料理が食えるってことじゃねぇか」 「それに店舗の制約も無くなっちまう。料理人の働き方まで変わっちまうぞ」 「そういうこった」  ガラが2人に応える。 「こいつはかなり、料理業界の流通を変えちまう代物だ。ただし、問題はコストでな」 「……だからグルメバトルをするって訳か」 「それって……あぁ、分かった。コストが高くなる分、高くても買いたくなるブランド力を付けたいって訳だ」  料理人としてだけでなく、料理店の経営者でもあるガストロフと辰五郎は理解した。  どこでも食符は便利だが、効果としては『出来立ての料理が食べられる』ことに尽きる。  魅力的ではあるが、言ってみればそれだけだ。  実際に使うためには、出来立ての料理の値段に加えて、どこでも食符のコスト分の値段を上乗せしないといけなくなる。  なので、値段が高くても構わない付加価値をつけるため、グルメバトルを開催しようというのだ。 「そういうことよ」  理解の速い2人に、ララは笑みを浮かべながら言った。 「どこでも食符は、これから量産体制に入るそうだけど、そうなれば誰でも使える道具になるから、物珍しさだけじゃ売りにならない。それこそ中身が大事ってわけ。その中身を、貴方達にも参加して貰って作って欲しいってこと」 「俺達『にも』ってことは、他にも参加するんで?」  ガストロフの問い掛けに、ララは応える。 「ええ。貴方達以外の料理人にも声を掛けているし、あとは学園生にも出て貰えないか打診するつもり」 「へぇ、良いですね。あの時参加した学園生達も、光る物持ってたし。楽しみだな」 「学園生といや、屋台形式で出してたのも良かったな。フィシュバーガーとか、旨そうなもんがあったぜ」 「屋台か、良いな。偶にああいうの、作って出したくなるんだよな」 「良いわね。なら今回は、屋台形式でやってみましょ」  ガストロフと辰五郎の会話を聞いて、ララは閃く。 「屋台形式でお客さん集めて、売り上げで優勝を決めちゃいましょ。お客さんも参加できて、楽しめるわよ」 「そいつは楽しめそうだ。しかしそうなると、てんでバラバラに作っていたらテーマ性が感じられなくて売りが弱い……ひょっとして、その辺も考えて、発酵食品でグルメバトルって提案したんですか?」  ガストロフの問い掛けに、ララは笑顔で応えた。 「違うわよ。最近発酵食品がマイブームなの」  基本、生まれがお貴族様なご令嬢なので、屈託がない。 「私は食べたい物が食べれて、その上で儲けに繋がるなら、最高じゃない?」  ララの応えに、苦笑しながら辰五郎が言った。 「発酵食品がテーマってことですけど、ラム酒とかもオッケーですか? どうせなら、ボソク島のを使ってやりたいんです。サトウキビの廃糖蜜を発酵させて作る訳ですし」 「良いわよ。その辺の括りはゆるーくやっちゃいましょ。発酵してる食品使えば、何でもオッケー」 「そういうことなら……確かボソク島にはバナナも作られてたから、それを使った物を試してみますかね」 「バナナって……お酒作れたかしら?」  ガストロフにララが尋ねると、応えが返ってくる。 「実じゃなくて、葉っぱを使うんです。豆をバナナの葉っぱで包んで発酵させると、テンペってのになるんです。発酵で出て来るクセは、高温で一気に調理すると消えるんで、油で揚げると素材の旨味と発酵で出来た旨味の両方が味わえて良いんですよ。生をスライスしてチーズと一緒に食べるのもアリです。酒の肴にする時は、俺はそうしますね」 「好いじゃない」  出来あがった料理を想像し、笑みを浮かべながらララは言った。 「楽しみだわ。お客さんにも楽しんで貰うためにも、学園生達と一緒に、頼むわよ」  これに力強く応える2人だった。  そして課題が出されます。  内容は、発酵グルメバトルに参加すること。  必要な物があれば先方が用意してくれるとの事です。  屋台形式で行われる今回の発酵グルメバトル。  皆さんは、どんな料理を作って出しますか?
参加人数
4 / 8 名
公開 2021-11-23
完成 2021-12-11
吸血鬼さんを気軽に殺そう (ショート)
春夏秋冬 GM
 トロメイア。  精霊の住む山とされるアルマレス山の麓に広がる街だ。  アルマレス山の精霊たちを祀る神殿があり、観光客を多く迎え入れている。  そのため、宿屋も多い。  もちろん質はピンからキリまであり、素泊まり宿からスイートルーム完備の高級宿まで様々だ。  その内のひとつ。  超が付くほど高級な宿に、祖母と孫が泊まっていた。 「いよいよ時が来たのじゃ!」 「はぁ、そうですか」  やたらとテンションの高い祖母【ヴィヴィ・ストーカー】に、孫娘である【カタリナ・ストーカー】はおざなりに応える。 「何でそんなに嫌そうなんじゃ」 「そりゃ嫌になりますよ」  ため息をつくように、カタリナは返す。 「二千年前に封印された魔族が解放されるって古文書を見つけたから会いに行くって、どんな酔狂ですか」 「何を言う。浪漫じゃろう」  楽しそうに言うヴィヴィ。  元々は文学少女だったが、商才があるばっかりに一族の長として数十年を過ごし、後継者が育ったので後は趣味に生きる彼女としては、伝説の封印された魔族と会える機会を逃したくはないのだ。  それに付き合わされるカタリナとしては、堪ったもんではないが。 (みんなで押しつけるし)  父も母も伯父も伯母も兄×3も従兄弟達も、皆が良い笑顔で送り出した。  げんなりとする孫娘に、ヴィヴィは言った。 「やる気を見せるのじゃ。なにしろ、ウチの一族にも関わりのある魔族なんじゃからの」 「本当ですか?」  胡散臭そうに返すカタリナ。  なんでも、当時の一族の長が契約し、今に至る繁栄の基礎を築いたという話が残っているというのだが、カタリナは本気にしてない。 (どうせ箔をつけるために作り話だろうし。それに万が一にも本当の話として、封印されるような魔族に会いに行くってどういう神経なのよ)  心底乗り気でないカタリナ。しかし―― 「さぁ、行くのじゃ!」 「はぁ……」  なんだかんだで祖母が心配なカタリナは、ため息をつきながら連いていくのだった。  そして今、封印場所に2人は辿り着いた。 「……これ、マジ物じゃないですか」  緻密な魔法陣の中央に鎮座する魔法石を前に、カタリナは引きつった声を上げた。 「最初からそう言っとるじゃろ」  平然と返すヴィヴィ。  2人が居るのは、アルマレス山の裾野に作られた地下建造物の中だ。 「ここまで連いて来たんじゃから腹を括れば良いじゃろ」 「途中から止めたのに言うこと聞かなかったじゃないですか!」 「こりゃ引っ張るな。ここまで来て会わずに帰れるか」  2人がもみ合っていると、突然魔法石に罅が入る。 「おおっ、復活の時じゃな」 「ああああっ、手遅れだったー!」  喜ぶヴィヴィと慌てるカタリナ。  対照的な2人を前に魔法石は完全に砕け、そこから灰が零れ落ちて来たかと思うと、あっという間に人の形を取った。 「我輩、復活である!」  現れたのは、黒マントを羽織った男。その姿は―― 「なんかしょぼい?」 「えらく痩せとるのぅ」  カタリナとヴィヴィの言う通り、貧相な姿をしていた。  それを聞いた男は―― 「ガハッ!」  精神的ダメージを受けて死んだ。 「なんでー!?」 「言葉のナイフが刺さったからだー!」 「一瞬で復活するのぅ」  死んで灰になってから、すぐさま復活した男に、ヴィヴィは近付くと―― 「てぃ」 「ぐはっ!」  ちょっぷを叩き込んでサクッと殺す。 「なにをするー!」  すぐさま復活して突っ込む男。 「面白そうじゃったから」 「そんな理由で気軽に殺すなー!」 「ちょ、おばあさま」  男からヴィヴィを引き離すカタリナ。 「挑発しないで下さい。危ないですよ」 「そうかのぅ」 「……いや、それは、まぁ、そうかもしれないですけど。でも封印されてた魔族であることは変わらないんですよ。今の内に逃げましょう」 「ふははははーっ! 正しく我輩を畏れておるようだな! 感心感心。その心意気を見込んで、復活後の眷属第一号にしてやろう」 「えっ、て、いやーっ!」 「ぐえっ!」  いきなり近づいてきた男に驚いてカタリナが突き飛ばすと、死んで灰になる。  すぐに復活したが。 「そこまで嫌がることは無かろう。思わず死んでしまったではないか」  突き飛ばされるより、そっちの方がダメージが大きかったようである。これにヴィヴィは―― 「いきなり抱きつこうとして来たんだから当たり前じゃないですか!」  涙目で言った。  これに男は怯んだ様子を見せると、言い訳がましく返す。 「抱き着くなど破廉恥なことをする気は無いぞ。ただ我輩は、血を吸って眷属にしようとしただけだ」 「血を吸うって、やっぱり変態――」 「違うぅ! 我輩は吸血鬼だから血を吸って眷属にしようというだけだ!」 「エロい魔族じゃのぅ」 「誰がだー!」  ヴィヴィに突っ込むと、男は自分を落ち着かせてから言った。 「とにかく、お前達は何だ。この場所を知っているということは、【ブラム・ストーカー】の子孫だろう」 「おばあさま、誰です?」 「ウチの一族の初代じゃな。夜天覇道(ナイトウォーカー)の威名を持った血の魔族、吸血鬼【アーカード】の眷属となった方じゃ」 「夜天覇道って、これが?」 「指を指すなー!」  涙ぐむ吸血鬼、アーカード。 「おのれ、また勢いで死ぬところだったぞ」 「貧弱すぎる」 「何でそこまで弱体化しとるんじゃ」 「そんなもの、封印され続けていたからに決まって――って、ちょっと待て。今はいつだ? 魔王が封印されてから百年後に起こしに来いと、ブラムには言っておいたはずだが」 「え? 百年じゃなくて二千年経ってますよ」 「長すぎるわー! どんだけ放置されとるんだ我輩!」 「それには理由があるのじゃ」  ヴィヴィは、キリっとした顔で言った。 「預かっておった財宝を横領して商売の元にしたので気まずくなったのじゃ」 「何やっとんだアイツはー!」  頭を抱えるアーカード。そして―― 「ええい、このままここに居ても埒が明かん。外に出て眷属募集を掛け、血を吸って力を取り戻してくれる」  そう言うと、霧に変わり外へと出ていく。 「おばあさま、どっか行っちゃいましたよ。どうするんです」 「見なかったことにするかのぅ」 「いやダメでしょそれ! 何かあったらウチの一族のせいになるんですよ!」 「大丈夫じゃと思うがのぅ」 「ダメですよー。あああ、こういう時は……そうだ、学園。学園に頼めばどうにかしてくれるかも!」  藁をも掴む気持ちで、一縷の望みを掛けるカタリナだった。  そして、ひとつの課題が出されることになりました。  内容は、封印されていた血の魔族、吸血鬼アーカードが解き放たれたので、どうにかして欲しいというものです。  話を聞くと、アーカードはトロメイアの街に度々表れては、眷属にならないかと誘いをかけてるようです。  その度に拒否されて死んでいるようですが。  話を聞けば聞くほど、問題ないんじゃないかと思えてきますが、すでに依頼料という形で学園に多額の寄付がされているので、何もしないわけにはいきません。  現地に訪れて、アーカードと接触してきてください。
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-12-02
完成 2021-12-19
犬の名前は何ですか? (ショート)
春夏秋冬 GM
 大きなトカゲが鳴き声を上げた。 「わん」 「どういうことだメェ~?」  可怪しなトカゲに、【メッチェ・スピッティ】は小首を傾げる。  いまメッチェが居るのは、学園の一角。  早朝に授業の用意をするべく教室に向かっていたのだが、その途中で可怪しなトカゲに出会ったのだ。 「犬みたいなトカゲだメェ~」  好奇心にかられて近付く。  可怪しなトカゲは中型犬ぐらいの大きさで、口を軽く開けて舌を覗かせている。  それが余計に犬のように思えた。 (ひょっとすると――)  ひとつの推測を抱いて、メッチェはトカゲを撫でる。 「手触りが好いメェ~」  鱗の感触じゃなく、さらさらとした毛並みの手触り。 「幻惑魔法が掛けられてるみたいだメェ~」  見た目が変わる魔法が掛かった犬らしい。それが証拠に―― 「わん」  一声鳴いて、姿が変わる。 「今度はフクロウだメェ~」  大きめのフクロウの姿に変わる。  もっとも見た目だけで本来の姿は変わっていないので、フクロウの背中から先、何も無い筈の場所を触っても、さらさらした手触りがあった。 「誰かが魔法を掛けたメェ~? それとも、自分で掛けてるメェ~」 「わん」  知らないよ、とでも言うように鳴く犬(?)。 「この子、どうするメェ~」  野良犬のようだが人に懐いているので、どこかで飼われていた犬なのかもしれない。  それに魔法が掛かった、あるいは魔法を使える犬を放置するのも、気が引ける。 (どうするかメェ~?)  などと考えながら犬(?)を見詰めていたメッチェは、ふと思いつく。 「何て呼んだら良いメェ~?」  犬、と呼ぶのも味気ない。 「お前、何て名前だメェ~?」 「ひゃん」  付けて、とでも言いたげに、甘えた声を上げる犬(?)。  メッチェは少し考えて―― 「めぇめぇでどうだメェ~?」 「わふぅ……――」  不満を示すように鳴いたあと、またトカゲの姿になると、メッチェの前から走って逃げ出す。  お気に召さなかったようだ。 「どうするメェ~?」  逃げられたメッチェは、思案しながら教室へと向かった。  その後も、件の犬(?)は学園内で頻繁に見つかる様になりました。  時折、学園生が餌をやっていることもあり住み付いたようです。  人懐っこいようですが、名前を付けようとして気に入らないと逃げ出す模様。  気になったメッチェは、課題を出しました。  内容は、学園に住み着いた犬(?)に名前を付けて、飼い主になって欲しいとのこと。  この課題を聞いてアナタ達は、どう動きますか? 
参加人数
5 / 8 名
公開 2021-12-08
完成 2021-12-24
【領地戦】悪意の群れを撃ち砕け (EX)
春夏秋冬 GM
 魔王の完全封印を目指すアークライト達は追い詰められていた。 「彼らの偉業を讃えましょう!」  礼賛の声が上がる。  声を張り上げているのは1人の男。  だが、その前には多くの人々が集まっていた。 「魔王を完全封印し世界を平和に導こうとする彼らは讃えられるべきです!」  声を張り上げる男の言葉に嘘は無く、アークライト達を信仰するかのような熱があった。  同時に、酔っている。  まるでお気に入りの観劇の役者が死に絶える場面に出会えた観客のように、悲劇に酔っていた。 「さあ、彼らを讃えましょう!」  男は声を張り上げながら、背後の建物を見上げる。  そこには魔王の完全封印のために命を懸けようとしているアークライト達の指導者【テオス・アンテリオ】と、娘である【セオドラ・アンテリオ】が居た。 「なんで、こんなことに……」  セオドラは苦悩を堪えるように手を握りしめ、外から聞こえてくる無責任な声に耐えていた。  いま彼女がいる建物は、魔王の完全封印の準備を進めるため、拠点としている物のひとつだ。  当然、彼女以外にもアークライト達は大勢いる。  各地の仲間との連絡員である彼らから、この場で起っていることと同様の事案が発生していると連絡を受けていた。 「魔王の完全封印を私たちが計画していることが知られています」 「各地の支部の前で扇動するように、演説を行う者が出て来ています」 「少しずつですが話を信じる人達が増え、私達に期待する人達が増えています」  外部には知らせていない筈の計画が知られ、それを広められている。  結果として、自分達に期待するような者が増え、少しずつ広がっていた。  今の所は、ただ期待しているだけだ。  けれどいつそれが裏返るか分からない。  事実、期待するかのようにアークライト達を讃える者達の中から、僅かだが急かすような物言いをする者達も出始めている。 「このまま進めば、我々だけでなく、家族にも何か行動を起こす者が出るかもしれません」  悔し涙を堪えるように、実行部隊の隊長である【アラド】は言った。  彼は他のアークライト達と同じように、命を懸けて魔王の完全封印を行う覚悟が出来ている。  それは彼の家族や友人のような近しい人達だけでなく、まだ会ったことは無い、けれど心を通じ合えるかもしれない誰かのことを想ってのものだ。  けれど人の無邪気な悪意は、それを食い潰す。  全てでは無いだろう。それは解っている。  だが確実にいる。『尊い犠牲を望む者』が。  讃えながら犠牲になるのが自分ではないことに安堵し、尊い見世物に立ち会える事を楽しむのだ。  それをアークライト達は理解している。  理解した上で、それでも守りたいのだ。  大切な人達を。そして、そうなれるかもしれない見知らぬ誰かを。  その覚悟は出来ている。けれど現実を絶え間なく見せ続けられるのは、悲しかった。  ただただ、悲しかった。それでも―― 「計画を急ぎましょう」  セオドラは言った。 「今の状況は、恐らく【シメール】さんが関わっている筈です」  セオドラ達に協力していた商人シメールは、今は連絡が取れない。  少し前、魔法国家ミストルテインとの会談で、セオドラはシメールが自分達に関わっていることを学園にも告げていた。  それ以後、すぐに連絡が取れなくなっている。  代わりに、時期を同じくして、いま外で扇動しているような人物が現れるようになったのだ。 「シメールさんは、何らかの形で魔王軍と関わっている可能性があります。現在の状況は、私達の邪魔をするためのものかもしれない。だからこそ、計画を進める必要があります」  セオドラは、父であるテオスと向き合い言った。 「進めても構いませんね、お父さま」 「……ああ」  死に急ごうとする娘に、テオスは苦しげに応える事しか出来なかった。  その苦悩を、元凶は嘲笑う。 「今頃、面白いことになってるわよぉ」  けらけらと笑いながら、シメールは楽しそうに言った。 「必死こいて計画進めてる所に、急かすような奴らが集ってるでしょうからね」 「よくやるな」  呆れたように返すのは、全身を包帯で覆った着流しを着た人物、【テイ】。 「洗脳でもしてんのか?」 「してないわよぉ。そういう奴を見つけて、ちょいと誘導してやっただけよぉ。『他人は知らない自分だけが知ってる真実』なんてのを信じて、勝手にピーチクパーチク囀ってるだけよ」 「アホなのか?」 「アホよ。でも好いじゃない。使い捨てにし易いし」 「さよけ。しっかしよ、そんな回りくどいことしないで、直接叩き潰しゃ良いだろ」 「やーよ。前にも言ったでしょ。アタシにとってはボスが、魔王様が封印されてると都合が良いのよ。むしろさっさとしろって話ね」 「ふーん。でもよ、それ以外は潰しに行くんだな」  そう言いながら、テイは後方に顔を向ける。  そこには100体の魔物が付いて来ていた。 「ミストルテインは邪魔くさそうだもの」  魔物を率いミストルテインに近付きながら、シメールは言った。 「あそこが学園と手を組むと面倒だし」 「そんなに強いのか?」 「ええ。国としてもだけど、あそこは守護者の――」  シメールの言葉が終わるより早く、天より無数の雷が落ちる。  雷を受けた100体の魔物達は焼かれる。しかし―― 「いきなりねぇ」 「びっくりすんだろ」  シメールとテイは平然としていた。 「お前ら、なんだ」  警戒を滲ませ、雷の精霊王【イグルラーチ】は言った。 「嫌な気配がしたから飛んで来てみれば……何者だ」 「やーねぇ。分からない?」  にぃと笑みを浮かべるシメールに、イグルラーチは返した。 「まさか……お前、オリジナルジャバウォック、キマイラか」 「そーよぉ。ヒューマンの姿してるから分からないかと思ったけど、やるじゃない」 「何で生きてる……お前は夜天覇道達、覇王六種に討ち取られたんじゃねぇのか」 「そんなの死んだ振りよぉ。死に掛けはしたけど。それよりさあ、アンタ、アタシとやる気?」  ざらつく気配をさせながらシメールは言った。 「8匹全員集まってんならともかく、たかだか精霊王一匹で、俺に勝てると思ってるのか」 「……」  挑発されるがイグルラーチは動けない。  するとシメールは、ケラケラ笑いながら言った。 「冗談よぉ。今日の所は帰るわぁ。でも、また来るわ」 「……ミストルテインを滅ぼすつもりか」 「心配しなくても皆殺しにはしないわよぉ。だってアンタら、餌だもの」  嫌な笑みを浮かべ言った。 「この世に生きるモノは全て魔王様の供物。生かさず殺さず、末永く恐怖を搾り取ってあげるわ」  そう言いながら去るシメールを、イグルラーチは睨み続けるのだった。  そして学園に救援要請が出されます。  魔法国家ミストルテインを襲うであろう魔王軍との戦いに手を貸して欲しいとのこと。  それに応えアナタ達が訪れると、千近い魔物の群れが近付いて来るとの連絡が入るのでした。
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-12-15
完成 2022-01-03
サンタクリスマス (ショート)
春夏秋冬 GM
 12月も終わりに近づいている。  冬の気配も近付いて、雪がちらほら降っている場所もあった。  この時期に盛大に行われるイベントといえば、当然―― 「クリスマスをするんだメェ?」  小首を傾げ、学園を歩いていた【メッチェ・スピッティ】は聞き返す。  これに応えたのは、話を切り出した【シトリ・イエライ】だった。 「年末のイベントですからね。皆で楽しんでも良いんじゃないかと思うんです」 「楽しいのは好いメェ~。でも、なんでそんなこと急に言い出したんだメェ?」  これにシトリは、授業を受けている学園生達に視線を向けたあと応える。 「最近は、色々と騒動がありましたから。学園生達の気分転換にも良いんじゃないかと思ったんです」  魔王軍が活発に動き始める中、その対応に学園生達が駆り出されることが増えている。  その度に体と心の両方に疲労が溜まっているとシトリは思っていた。 「学園全体でクリスマスを祝って、皆を楽しませてあげたいんです」 「好いと思うメェ~。でもそれなら、なにをするメェ?」 「そうですね……」  シトリが、メッチェと共に歩きながら考えていると――  シャンシャンシャン、シャンシャンシャーン  軽快な鈴の音が聞こえてくる。視線を向けると―― 「こんにちはだもん!」 「こんにちは」  歩く若木である【フォレストボーイ】と、ケンタウロスの女の子【ツキ】が挨拶してきた。 「……はい、こんにちは」  少し返事が遅れるシトリ。  それはツキとフォレストボーイの姿に、ちょっと意表を突かれたからだ。  ツキの姿といえば、赤で統一された服を着て、何故か鈴の付けられたソリを牽いている。  フォレストボーイといえば、ツキが引くソリに乗り、どういうわけか星や雪を象った飾りを付けていた。 「クリスマスツリーなんだもん!」 「それは飾るものであって自分が成るものではないと思うメェ」  思わずツッコミを入れるメッチェ。これにフォレストボーイは―― 「大丈夫だもん! ちゃんとクリスマスツリーに成れるもん!」  俺自身がクリスマスツリーになることだ! という勢いで意気込んでいた。 「みんなを元気にするんだもん!」  どうやらフォレストボーイも学園生達を気に掛けているようで、クリスマスで楽しませようとしているらしい。  それはツキも同じようだ。 「ツキは、なんでソリを牽いてるんだメェ?」  メッチェが訊くと、ツキは応える。 「トナカイ、代わりをする。走るの、得意」  話を聞くと、クリスマスの話を聞いて、学園生達にプレゼントを配って回りたいらしい。 「だから、プレゼント集めてる」 「良いの、集まったメェ?」 「ん、これから」 「まだなんだもん」  ちょっと気落ちするツキとフォレストボーイ。  勢いで色々とやってみたようだが、プレゼントまで手が回っていないようだ。 「なら一緒に作るメェ」 「ん、作る」 「一緒に作るもん」  いつのまにやらプレゼントを作るようになったらしい3人に、シトリは言った。 「好いですね。どうせなら、それを課題にしましょう」 「どういうことだメェ?」  小首を傾げたメッチェに、シトリは応える。 「みんなでサンタになって、贈り物をしましょう。学園の中でプレゼントし合っても良いですし、学園の外のどこかの街で、サンタとしてプレゼントを配っても好いでしょう」 「それだと、ちょっとお金が掛かりそうだメェ」 「ええ。ですから、学園の外にもスポンサーを募りましょう。幸い、最近は学園に出資してくれる資本家も増えましたから。言い出したのは私ですし、手配はしておきます」  というわけで、サンタクロースになってプレゼントを配る課題が出されることになりました。  プレゼントは、幾つかのスポンサーがついてくれることになり、頼めば用意してくれるとのこと。  学園の中で、学園生同士でプレゼントの交換をしても良いですし、学園生以外に配るのも良いでしょう。  学園の外に跳び出して、どこかの街でサンタとしてプレゼントを配ることも出来るようです。  さて、アナタ達は、どんなプレゼントを配りますか?
参加人数
8 / 8 名
公開 2021-12-20
完成 2022-01-06
異世界避難先準備しましょう (EX)
春夏秋冬 GM
 小都市セントリア。  異世界転移の核となる特異点研究所を中核として、それを隠蔽するための複数の研究所からできた研究都市だ。  学園生達のお蔭で研究は進展しており、幾つかの成果が上がっている。  その実力を見込まれ、学園からひとつの要望が出されていた。 「魔王の影響をどうにかしてくれって、無理ですよぅ」  泣き言を言っているのは、特異点研究所の責任者である【ハイド・ミラージュ】。 「そりゃ、異世界との接続は成功しましたよ。それで得た知識や材料で今までに無かった物を作れましたよ。だからって無茶ぶり言われても」  魔王の復活に備え学園から要請されたのは、ハイドが口にしたように『魔王の影響の排除』。  この世界の生物の恐怖を取り込み、際限なく強くなっていく魔王をどうにかできないかと訊かれたのだ。 「無理に決まってるじゃないですかこんなのー」 「そんなに無理なのですかー?」  ハイドに尋ねたのは、異世界人である【メフィスト】。  これにハイドは、説明する。 「メフィストさんも、学園長から渡された資料を見たじゃないですか。あんなの滅茶苦茶ですよ」  学園長の【メメ・メメル】は、魔王と直接戦ったことのある内の1人だ。  その時の経験を可能な限り全て記した資料を渡されたのだが、実際、どうしようもなかった。 「基本不死身で殺しても殺しても恐怖する誰かが居るだけで復活するとか、どうしろと。しかも戦ってる最中も、誰かの恐怖を取り込み続けることで体力も魔力も際限なく回復し続ける上に、元々の力の最大値も上がっていくって」  体力と魔力が自動回復し続ける上に、その最大値が戦っている最中も上がり続けるという相手だ。 「アークライトという種族丸々ひとつの命を代償にして、光の精霊王が核になった封印をすることで回復力を低下させて倒したみたいですけど、一度受けた魔法には耐性を持つとか書いてるじゃないですかー。これ、今の封印解けたら、同じ方法だとどうにもできないですよぉ」 「魔王の周囲を結界で覆って倒すのはどうですかー?」  メフィストの提案に、ハイドは少し考えて応える。 「とんでもない出力が要りますよ。それをどっからもってくるかって話ですし。それに根本部分で、この世界に恐怖を抱く生物がいる限りどうにもなりません」 「勇者達は、どうだったのですかー? その人達もー、恐怖はしたでしょうしー」 「それは、精霊王の加護で一時的に魔王からの影響を排除してみたいです。今、人間と呼ばれる八種族も精霊王の加護を与えられているので、ある程度は魔王の影響を排除できるでしょう。ですが、それ以外の種族、いわゆる『魔族』は、もろに影響を受けるでしょうね」 「魔族ですかー。それって単純に、精霊王からの加護を受けられなかった種族ってだけですよねー?」  メフィストの言葉に、ハイドは返事に詰まった後、眉を顰めて応えた。 「ええ。学園長の資料が正しいなら、そういうことでしょう。本質的に、我々『人間』と『魔族』に違いは無い。単に、精霊王に選ばれたかどうか、ただそれだけです。そして精霊王が『人間』にしか加護を与えなかったのは、善とか悪とか、そんなもんじゃない」 「ただ単にー、力が足らなかったってだけですねー」  単純明確な答えをメフィストは口にした。 「そもそも魔族というのはー、『魔力から生まれた種族』ってことでしょうしー。それを言ったらー、この世界全てが魔力から形作られてますからねー。全ての生き物が魔族ですよー」 「ええ、そうです」  ハイドは、メフィストの言葉に返す。 「この世界において『人間』と『魔族』との差は、善や悪や性質の違いから来る物じゃない。単に運が良いか悪いか、その程度だ」 「でしょうねー。だからー、人間に善人や悪人が居るようにー、魔族にも色々いるでしょー。ですがー、魔族が居るとー、魔王を倒すことが難しくなるー」 「……そうとは限らないでしょう。魔王からの影響を跳ね除ける『覇王』と呼ばれる魔族も居たと資料には書いてあります」 「それはごく一部ですねー。大半は違いますよー。だからー、一番手っ取り早いのはー」 「魔族の皆殺し、でしょうね」  吐き捨てるようにハイドは言った。 「恐らく、今の魔族との因縁は、それが関わってるんでしょう。当時の情勢を考えれば、そうなるのも仕方ないと思います。魔族の中には、魔王を信仰して、積極的に人間から恐怖を搾り取ろうとした者達も居たようですから。だからといって……」 「殺し合いは嫌ですかー?」 「嫌ですよ! そんなの当たり前じゃないですか!」 「なら止めましょー。他の方法取れば良いだけですしー」 「他の方法って、そんなの――」 「異世界に避難させれば良いじゃないですかー。魔王を倒すまでー」 「……え」  あまりにも単純で、けれど意識から抜け落ちていた答えに、ハイドは間の抜けた声を上げた。 「そんな、ことって……」 「できますよー。とりあえず私の世界に避難して貰いましょー。他にもー、私の世界にぶつかって来るー、巨大宇宙船の世界にも協力して欲しいですしー。それ以外の世界にもー、一時的に避難できるなら避難して貰いましょー」 「それが可能なら……いや、いけるか? 転移門の出力を上げて、今以上に複数の異世界との経路を作れば――」  研究者として考え光明を見出すハイドに、メフィストは言った。 「これはこちらの世界の人達がー、魔族の皆殺しをしようとしなかったから提案したことでーす。うちの世界にしてもー、軽々しく皆殺しにしようとするような人達は避難先として受け入れられませんからねー」 「見定めてました? ひょっとして」 「それはもちろんー。そこはお互い様ですねー。それよりもー、これを実現してー、魔王を殺して決着をつけましょー」 「魔王を殺す、ですか」 「そうですよー。資料から判断してー、今の魔王は話し合いで解決はしませんー。殺す以外の選択は無いですよー。これは生存競争ですねー。生きてる限り逃れられませんー」 「……そうですね。でも魔王は殺しても、この世界がある限り新たに生まれる。それは……」 「一から育てて、誰も傷つけないような子になって貰えば良いじゃないですかー」 「それは……」 「おかしいですかー? でもー、学園を作ったメメルって子は、そう願ってると思いますよー。だからこそ学園にー、『魔王・覇王コース』なんてものがあるんでしょうからねー」  その答えに息を飲むハイドに、メフィストは応えた。 「いつか生まれてくる新たな魔王が健やかに育ち皆と歩めるようにー。覇王と呼べるほどの強力な魔族もー、共に学園生として過ごせるようにー。そういう願いをー、持っているんだと思いますよ」  メフィストの応えに、ハイドは小さく笑う。 「メフィストさんって、ロマンチストなんですね」 「ええー、もちろんですよー」  漂々と応えるメフィストだった。  そして学園から課題が出される。  内容は、異世界に避難先を作ること。  そして、より多くの異世界との繋がりを作ること。  いずれ必ず起こる魔王との戦いを前に、殺さないための戦いの協力を求められるのでした。  この課題に、アナタ達は、どう動きますか?
参加人数
5 / 8 名
公開 2022-01-10
完成 2022-01-25
魔族の王達を起こしに行こう (ショート)
春夏秋冬 GM
 トロメイア。  精霊の住むといわれるアルマレス山の麓に広がる街であり、観光名所として名高い。  多種様々な種族が住んでいることもあって、一際雑多な雰囲気を見せる街でもある。  そこで、1人の美女と食道楽が観光していた。 「ああ、あの子ええわぁ。かわいい。あっちの子も、ええわぁ」  オープンカフェで紅茶を飲みながら、美女が道行く美形を見て堪能していた。  ちなみに、性別年齢種族関係なしである。 「みんな色艶ええし、目の保養になるわぁ。昔に比べて、ええ時代になったんやねぇ」 「みたいだな」  一口でチーズケーキを食べながら、相席している男が返す。  美女は狐のルネサンス、食道楽の男はドラゴニアであるように『見えた』。 「食い物も昔に比べて種類が多いし、封印を破ったかいがあったな」 「せやねぇ」  さらっと、聞き捨てならないことを言いながら、2人は会話を続ける。 「こんだけ、かわええ子らがおる時代やったら、うちは別に暴れんでもええかなぁ思うんやけど、そっちはどないするん? 【スルト】」 「下手に暴れて美味い物が食えなくなるのは御免こうむる。とりあえず百年ぐらいは各地を巡って美味い物が食いたい。そっちは相変わらず美形探しか? 【コトノハ】」 「せやねぇ……魔王のアカンたれのごたごたのせぇで、あの子がどうなっとるのか分からんようなってもうとるし、せめて子孫でも残ってへんか見て回ろう思うんよぉ」 「……最後にお前が契約した小僧のことか?」 「そやわぁ。放っといたらぐずぐずに堕ちる子ぉやったから、どんな最期を迎えたのか気になるんよぉ。まぁ、痕跡探そうしても、どうにもならへんやろうけど」 「気になるなら我輩が探すの手伝ってやるのである」  突然声を掛けられて、スルトとコトノハは視線を向ける。  そこには顔なじみが居た。 「【アーカード】やないの」 「お前も封印解いたのか」 「ふははははっ、当然である!」 「いや、こっちが解いてあげたんじゃないですか」  血の魔族アーカードに突っ込みを入れたのは1人の少女、【カタリナ・ストーカー】。 「きゃー、かわええ子やないのぉ。おばちゃんの膝に座るぅ?」 「嫌です」  さらっと返すカタリナ。  めそめそ嘘くさく泣くコトノハ。  そちらをちらりと見たあと、スルトは言った。 「そっちの娘は何だ? アーカード」 「我輩の眷属の子孫なのである」 「……【ブラム・ストーカー】の子孫か。そっちの眷属は律儀だな。二千年経ってるのに、封印を解きに来るとは」 「我輩の持ってた財宝パクって成り上がった後に放置されてたのである」 「……あいつらしいな。封印を解いても問題ない時代になるまで力を蓄えて、お前を迎える準備を子孫にさせてたのか」 「そういうことは真顔で言わないものである。気恥ずかしいであるからな!」 「……承知した。それで、何しに来た? 今の時代は娯楽と美味い物に溢れてるからな。わざわざお前と殺し合いをして暇つぶしする気は無いぞ」 「相変わらず物騒であるな、汝は。そんなつまらんことをする気は無いのである。殺すなら魔王を殺すである」 「……ほぅ」  にやりと、楽しげな笑みを浮かべるスルト。 「魔王は封印されていると聞いたが?」 「どーせ近い内に出て来るのである。それが分かってるから、2人とも封印破って出てきたのであろう?」 「せやねぇ」  カタリナを膝の上に乗せながらコトノハが言った。 「あのアカンたれに無茶苦茶されて、かわええ子らが減ったら世界の損失やろ? やから出てきたんよ。色々変わってて、慣れるまで時間かかったわぁ」 「なら話が早いのである。とりあえず覇王六種、全員起こしに行くのである」 「……あの、前々から気になってたんですけど、覇王六種って具体的になんなんです?」  コトノハの膝の上に乗ったカタリナ(抵抗したが諦めた)は、疑問に思って尋ねる。 「アーカードさんも入ってるから、凄いのか凄くないのか分からないんですけど」 「そいつ今はそんなだが、眷属が増えれば増えるほど際限なく強くなるぞ」 「吸血鬼の魔王みたいなもんやねぇ」 「え~、本当ですか?」 「信用零である! ならば説明するのである!」  というわけで説明し始めるアーカード。  話によると、魔王に喧嘩を売れるぐらいの強さを持つ強大な魔族、とのこと。6人おり、それは――  血の魔族・夜天覇道(ナイトウォーカー)アーカード。  奈落の魔族・滅尽覇道(メギド)饕餮(とうてつ)。  言葉の魔族・創天覇道(ゴッドワード)コトノハ。  破壊の魔族・破天覇道(ラグナロク)スルト。  進化の魔族・変天覇道(アトラクナクア)レン。  無限の魔族・無尽覇道(ケイオスオーバー)女華(じょか)。  全てが規格外の力を持つ魔族だった。話を聞き終ったカタリナは恐る恐る言った。 「あの、みんなとんでもないんですけど、特に饕餮さんって――」 「起きた途端、気に入った種族が絶滅するまでもぐもぐしかねんヤツであるな」 「そんなの起こしちゃダメでしょー!」 「そうは言っても、もう起きかけてるのである。それにあれを起こそうとしてるのもいるみたいであるし、どの道起きるのである」 「じゃぁ、どうするんですか?」 「その辺は我輩がどうにかするのである。それより、残りのレンと女華を起こしに行くのである」 「ちょっと待って下さい!」  慌ててカタリナは止めると、続けて言った。 「封印解きに行くなら、学園生さん達に協力して貰いましょう」  ヤベーヤツらに好き勝手させられない、と言わんばかりに説得し始めるカタリナだった。  そして課題が出されます。  内容は、覇王六種と呼ばれる強力な魔族の封印を解きに行くこと。  アーカード達、すでに目覚めている覇王六種達も付いて行くとの事です。  この課題にアナタ達は、どう対応しますか?
参加人数
6 / 8 名
公開 2022-01-17
完成 2022-02-03
雷の霊玉を求めて (ショート)
春夏秋冬 GM
 トロメイアにある大陸随一の高山、アルマレス山に連なる山岳地帯。  天然の要害となっており、それゆえ住む者は少ない。  そんな場所に飛んで向かっているのは雷の精霊王【イグルラーチ】。  背に異世界人である【メフィトス】を乗せ彼が向かっているのは、鍛冶の巨人サイクロプス達の元だった。 「イグルラーチ様」 「久しぶりだな」  出迎えてくれたサイクロプス達にイグルラーチは挨拶しながら、まずは謝る。 「すまねぇな。魔王軍に子供が浚われてたんだろ? 気付けず悪かった」 「いえ、貴方が謝られることではありません。貴方の羽を頂くことで我らの里は今も守られている。相手が悪かったのです」 「……そうだな。まさかキマイラの奴が生きてるとは思わなかったからな……でも、気付けなかったのはオレっちの不足だ。そこは謝らせてくれ」 「頭をお上げください。我々は、感謝しているのです。我らの先祖と貴方が交わしてくれた約束のお蔭で、我々はここで静かに暮らせる。貴方の力が無ければ、無理だったことです」  サイクロプスの里は、四方を守るように結界が敷かれているが、その要となっているのがイグルラーチの羽だ。 「そいつは、当然の権利ってヤツだ。なにしろ、雷の霊玉を隠して保管して貰ってるんだからな」  イグルラーチの言葉通り、サイクロプス達は雷の霊玉を誰にも気づかれないように保管してくれている。  山を利用して作り出した迷宮内の奥に雷の霊玉を封じ、それがあばかれないよう代々守ってくれているのだ。  そうなっている理由は、かつて雷の霊玉を所有していた魔法国家ミストルテインの騒動が原因である。  雷の魔法属性は、元々生命の発生に大きく関わる物なのだが、それを利用して新たな生命創造を行おうとして大失敗しそうになったのだ。  ミストルテインで造られたゴーレムに、イグルラーチが雷の魔法を注ぎこむことで新たな生命、カルマを生み出したように、魔王に対抗できる生命を作り出そうとした。  元々ミストルテインでは、創造神の御業を自分達で復活させようという機運が強かったのも、そうなった一因であるだろう。  そしてイグルラーチにさえ秘密にし、考え方の違いで内部闘争まで起こした挙句、新たな魔王が生まれる寸前にまで陥りそうになった。  幸い、魔王は封印されているとはいえ現存しているため、新たな魔王が発生し辛い環境であったことと、研究所が爆発したりして気付いたイグルラーチが駆けつけ、生まれる前に破壊し霧散させたことで危機は脱した。  とはいえ、この事が知られれば世界中からミストルテインは叩かれる可能性が高く、他国でも同じようなことをしでかす可能性があったため、雷の霊玉は紛失したということにして、サイクロプス達に封印を頼んだのだ。 「この地が無ければ、我らも安穏とは暮らしていけなかったでしょう」 「ああ、そうだな。だが――」  イグルラーチは、迷うような間を空けて言った。 「この地から離れてくれねぇか。それと、雷の霊玉を渡して欲しい」  ざわつくサイクロプスに、イグルラーチは説明した。 「恐らく近い内に、魔王は封印から解放される。そうなればここも危ういし、戦うために雷の霊玉は確保しておきたい」 「それは、どういう……」  怯えたように尋ねるサイクロプスに、イグルラーチは応えた。 「魔王軍やキマイラの動きから推測すると、魔王の封印自体が緩みかけてる。アークライト達が命がけで封印の強化をしようとしてるみてぇだが、それでも復活自体はされちまうとオレっちは見てる」 「それでは、我らは……」  サイクロプス達は恐怖を飲み込む。  彼らのように魔王に従わない魔族は、恐怖を搾り取る餌としての未来しか残されていない。  戦おうにも、人間のように精霊王の加護が無い以上、魔王が復活しただけで命を喰われていくため、戦うどころではない。 「どうすれば……」  イグルラーチにサイクロプスが縋る様に尋ねると、それに応えたのはメフィストだった。 「大丈夫でーす。避難先は用意してまーす」 「それは、どういう……」 「魔王の影響が出ない異世界に避難して貰いまーす。一先ず私の世界とー、他にも幾つかの世界に確保してるのでー、他の魔族の人達も一緒に避難することが出来まーす。学園生さんとも話して準備してくれてますからー、大丈夫ですよー」 「本当、ですか」 「ああ、オレっちが保証する」  イグルラーチが太鼓判を押してくれ、サイクロプス達の間に希望が広がる。  そんな彼らに、イグルラーチは言った。 「だからみんなには、早速避難して貰いつつ、ここにある雷の霊玉を渡して欲しい。出来るか?」 「可能です。ですが、迷宮の奥にあるので、取りに行かねばなりません」  サイクロプスが説明する。 「魔王信仰者達に奪われないよう迷宮を作り、その奥に雷の霊玉は封じてあります」 「すぐに取りに行けねぇのか?」 「残念ながら。内部の迷宮は自動で作り替わるように出来ており、雷の霊玉が迷宮内のどこにあるのか、すでに我らにもわかりません。それに雷の霊玉を守るための守護者も設置されています。我らが脅されて取りに行く事態を防ぐため、迷宮内は我らでも自由には出来ない仕組みになっています」 「それって、迷宮のどこにあるか分からない雷の霊玉を探し出して、それを守る守護者を倒さないといけねぇってことか」 「はい。容易いことでは――」 「どーにかなると思いますよー」 「どうにかなんのか!?」  聞き返すイグルラーチに、メフィストは応えた。 「できますよー。学園生の子達から頼まれてー、魔力探知機作ってましたからー、それを使って霊玉を探せば良いですしー、守護者についてはー、学園生の子達に倒して貰いましょー。どうですかー?」  メフィストの提案に―― 「ああ。頼らせて貰おう」  イグルラーチは賛同した。  そして課題が出されました。  内容は、迷宮内にある雷の霊玉を取りに行くこと。  迷宮内は迷路になっており刻々と作り替わるとのことですが、魔力探知機があるので探し出すのは可能とのこと。  雷の霊玉を守る守護者が居るとの事ですが、それを倒し霊玉を手に入れてくれ、という内容です。  この課題にアナタ達は、どう動きますか?
参加人数
7 / 8 名
公開 2022-01-23
完成 2022-02-10
学園生の自由な一日 (ショート)
春夏秋冬 GM
 人生というものは、山もあれば谷もある。  時に波乱万丈な時を過ごすことがあっても、凪のように穏やかな日もあるだろう。  それは学園生達も変わらない。  魔王軍の動きが活発になり、それに対処する動きを皆が取り始めていても、ちょっとした偶然の重なりで、自由になれる日もある物だ。  そんな自由な一日を得られるとして、アナタ達は、どうするだろう?  ゆっくりと英気を養うために休むだろうか?  それとも、ちょっとした気晴らしに、遊びに出るだろうか?  ひょっとしたら、いつもと変わらず、勉学や活動に励んでいるかもしれない。  そんな自由な一日を、アナタは得ました。  授業も課題も無く、何をしても良い休日。    この自由な一日をアナタ達は、どうすごしますか?
参加人数
8 / 8 名
公開 2022-01-27
完成 2022-02-12
風の問い掛け (ショート)
春夏秋冬 GM
 大空を、風の精霊王【アリアモーレ】は飛び続けていた。  精霊王達に、本来は決まった形などないが、今のアリアモーレは巨大な隼の姿をしている。  そして首元には、失われたと言われている、風の霊玉を着けていた。  なぜ、そんなことになっているのか?  全ては、風の霊玉を巡る騒動が原因であった。    かつて風の霊玉は、当時の勢力バランスを保つために、有力な氏族に渡された。  しかし風の霊玉を持つことによる権威と、霊玉の膨大な力を手中に収めようとする者達の間で争いが起り、無用な血が流れた。  それを嘆いたアリアモーレが、風の霊玉を消滅したように見せかけ、守るようにして空を飛び続けている。  アリアモーレの行動は無用な血が流れることを嫌ったからでもあるが、一番の理由は、霊玉の元となった人物が憐れになったからだ。    霊玉は、魔王を倒し封印した勇者たちの魂が元になっている。  魔王の脅威から皆を守るため命がけで戦い、倒したあとも、魔王が復活しないよう自身の魂を捧げた勇者達。  彼ら、そして彼女達が魂まで懸け掴んだ未来が、人間同士の争いで汚されるのを嫌ったからだ。  アリアモーレは、風の霊玉の元となった勇者のことを忘れないでいる。  自由を好み、それ以上に、人々の安らかなる未来を願っていた。  だというのに、そんな勇者の魂が争いの元になるなど、悲しすぎる。  だからこそ、アリアモーレは今も空を、風の霊玉と共に飛び続けている。  魂だけとなり自我が無かったとしても、自由な空を見せてやりたかったからだ。  すでに亡き勇者を想いながら、アリアモーレは飛び続ける。そこに―― 「アリアモーレ! ちょっと待ってくれ!」  同列の精霊王たる、雷の精霊王【イグルラーチ】が声を掛けてきた。 「何の用? イグルラーチ」 「風の霊玉を渡してくれ!」 「嫌よ」  ぐんっとスピードを上げアリアモーレは、さらに高い空を翔ける。 「ちょっ、待てって!」  イグルラーチは必死に追いかけながら声を掛け続ける。 「いま霊玉は1つでも多くが必要なんだ! 魔王が復活するからな!」 「……封印はどうなってるの?」 「緩んで来てる!」 「なぜ? いくら魔王とはいえ、あと千年は問題なく封印できるはずよ」 「無理だ! 土と火の霊玉は、力の継承自体は行われたが、オリジナルは争乱のごたごたで失われちまってる。多分それが原因で緩んじまってる!」 「馬鹿なことをしたわね……」  アリアモーレは飛ぶのを止めると、遥か眼下の大地を見詰める。  そこに住まう人間に向ける視線は冷ややかだった。 「八霊玉全てが揃っていれば、魔王の再封印も問題なく行えたでしょうに……一度でも緩んでしまったなら、もう手遅れね」 「ああ……だから光の兄弟が自身を核に、アークライト達の命も使って封印の強化をしようとしてる」 「【オールデン】が……止めさせられないの?」 「そのためにも霊玉は1つでも多く必要なんだ」 「……何か考えがあるの?」 「霊玉と、それに対応する精霊王で魔王を囲む形で結界を組む。結界の中なら、精霊王の加護を受けた人間達を大きく強化できる。その中で、魔王を倒すんじゃなく殺す」 「本気で言ってるの? それ」  冷ややかな声でアリアモーレは言った。 「問題が幾つもあるわね? まずひとつは、霊玉が全て揃ってる前提の話だけど、実際はどうなの?」 「……闇の霊玉は、十中八九、魔王軍の手にある。それと火の霊玉に相当する物を持つ者も、魔王軍に組してる可能性が高い」 「最初の段階で破綻してるじゃない」 「霊玉は足らなくても、結界自体は張ることが出来る」 「そうね。でもその分、結界の強度は弱まるから、外部から破壊され易くなるし、効果時間も短くなるわ。そうなると、結界を破壊させないように守りつつ、短い時間で魔王を殺さないといけないのよ。誰にさせる気?」 「勇者候補生達がいる」 「……」  イグルラーチの言葉に、アリアモーレは不快そうに沈黙したあと言った。 「また同じことをさせる気? その子たちに命を懸けさせて、仮に魔王を殺せたとしても、その後はどうするの? いずれ新しく生まれてくる魔王に対抗できるよう、今度はその子達を霊玉にする気? そんなこと――」 「させねぇよ!」  イグルラーチは強い口調で言い切った。 「そんなことをさせないために、【メメ・メメル】はフトゥールム・スクエアを作ったはずだ!」 「……そうね。あの子なら、そう願っているんでしょうね」  嘆くように、アリアモーレは続ける。 「さっき、闇の霊玉は魔王軍の手に渡っていると言ったわね? なら、あの子の様子は、どう? 魔王の封印を解くために闇の霊玉が干渉を受けてるなら、あの子もタダでは済まないでしょう?」 「……だろうな。どうも弱ってるらしい。多分――」 「死ぬか、場合によっては封印を逆流させられて、死ぬことすら許されない永遠の眠りに就くことになるでしょうね」 「……させねぇよ。そのためにも風の霊玉と、お前の力が要るんだ」 「……」  イグルラーチの言葉に、アリアモーレは沈黙を貫く。  だがその時、風の霊玉が微かに輝き、優しく頬を撫でるようなそよ風が、イグルラーチとアリアモーレに意志を伝えるように流れた。 「……何の自我も無いはずなのに……」  アリアモーレは慈しむように、翼で風の霊玉を撫でると、イグルラーチに言った。 「分かったわ。この子が望むなら、私も力を貸すわ。でも、その前に、勇者候補生たちに会わせて」 「どうするんだ?」 「別に……ただ、話して……問い掛けたいの……本当に、魔王と戦うつもりなのか。そして……魔王を打ち倒したあと、どうするつもりなのかを」 「分かった。学園に話をつけておく」  イグルラーチは応えると、学園に向かった。  そして、ひとつの課題が出されます。  内容は、風の精霊王アリアモーレに会い、その問い掛けに応えることです。  アリアモーレの問い掛けに、アナタ達は、どう応えますか?
参加人数
6 / 8 名
公開 2022-01-30
完成 2022-02-18
【天遣】rivalizar - 完結篇 (EX)
春夏秋冬 GM
 魔王の完全封印を目指していたアークライト達が、全て消息を絶った。  ひっそりと、静かに。  のちの禍根を残さないようにするかの如く、可能な限り身辺整理を行ってからの事だった。  それを知り、一部の者達は喜びと感謝と、称賛の声を上げていた。 「魔王の脅威がなくなる!」 「素晴らしい!」 「アークライト達の偉業を讃えよう!」  口々に歓声を上げ、それを多くの者は遠巻きに見るだけだった。  状況を知り得ない多くの者達は、何が起こっているのか理解できず、関わりたくないと遠ざかるか、無関心を貫いていた。  ごく一部は、状況がつかめないにも関わらず、祭りに参加するかのように騒いでいる。  それが、世の中の全てであっただろうか?  いや、違う。  状況を理解し、動こうとしている者達もいた。 「今どこに居るのか居場所が掴めねぇ」  苦渋の声を上げているのは雷の精霊王【イグルラーチ】。  この場にいるのは、多くの人間。  ミストルテインの統治理事会本部で、アークライト達の行動を止めるために集まっていた。 「どうかにして、居場所を知らねぇと……」 (アークライト達の……【オールデン】の本気を甘く見てた)  アークライト達の動向を、可能な限りミストルテインは把握しようとしていた。  だが、ある日忽然と、一斉に消えたのではどうしようもない。 (オールデンのヤツ、転移魔法を使いやがったな……予想より動きが鈍いと思ったら、それが出来るように魔力を溜めてやがった)  もはや猶予は無い。  見つけ出さなければならないというのに、その方法が―― 「どーにかしますよー」  能天気な声と共に、アークライト達を探し出す方法を携えて、異世界人である【メフィスト】が本部にやって来た。 「探せるのか!」 「探せまーすよー」  食い気味に訊いて来たイグルラーチにメフィストは、研究都市セントリアから来た【ハイド・ミラージュ】と共に、1つの機械を出してみせた。 「こいつは、前見たことがある。魔力探知機、だったな?」 「そうでーす。学園の子たちが要望を出してくれたお蔭でー、色々と役に立ってまーす。というわけで早速ー、スイッチオンでーす」  ポチリと押すと、地図と共に光点が浮かび上がる。 「魔力属性と魔力量に応じてー、居場所が分かりまーす」  探知機を指示しながら説明する。 「アークライトの属性は光ですからー、反応数の多さと一際大きくて強い反応からー、ここに居るんだと思いまーす」  地図と照らし合わせ、イグルラーチは判断する。 「アルマレス山だ。あそこは創造神が最初に創った場所だから、世界に与える影響が大きい。地理的特性も利用して、魔王を封じるつもりだ」  イグルラーチの言葉に、この場に集まった者達が期待の声を上げる。 「なら、そこにいけば――」 「止められる。あそこまで行くのに時間が掛かるから、オレっちが連れて行く。ただ、連れて行ける人数は多くて10人ぐらいだ。止めようとして抵抗された時のことも考えなきゃならねぇから、戦えるのを選ばなけりゃならねぇが――」 「なら学園の子たちに頼んだらいいんじゃないですかー」  提案したのはメフィストだった。 「恐らく今回の件はー、この世界の命運に関わる選択になるでしょー。だとすればー、今まで多くの運命に関わって来たー、学園生が良いと思いますよー。あとついでにー、少し前に異世界に行った時にー、頼まれた技術もあるのですがー、それも学園の子たちに合わせて作っているのでー、それを使うためにも学園の子たちが良いと思いまーす」  この提案に、イグルラーチは少し黙した後―― 「ああ。学園生達に賭けようぜ」  世界の命運を、学園生達に託すのだった。  そして選択の時が来ました。  アナタ達は、巨大な雷鳥となったイグルラーチの背中に乗り、アルマレス山に向かいます。  そこでアナタ達は、選ぶことになります。  アークライト達の犠牲を肯定し、魔王の完全封印を目指す。  あるいは犠牲を否定し、いずれ復活するであろう魔王と戦うことを。  世界の命運を巡る選択が、これから訪れます。
参加人数
8 / 8 名
公開 2022-02-06
完成 2022-02-24
異世界と協力しましょう (EX)
春夏秋冬 GM
 小都市セントリア。  異世界転移の核となる特異点研究所を中核として、それを隠蔽するための複数の研究所からできた研究都市だ。  研究目的であった『異世界との接続』は現在では安定して使用することが出来るようになっており、それにより幾つかの世界と協力関係を結び始めている。  その内のひとつ。  煉界と呼ばれる世界から、一柱の神が、元創造神を連れてやってきた。 「調子はどうですかー?」 「大丈夫ですわ、おじさま」  エルフタイプのエリアルに見える女性が、異世界人である【メフィスト】に応える。  彼女の名前は【ダヌ】。  メフィストと同じく煉界から訪れていた。  彼女に、特異点研究所の責任者である【ハイド・ミラージュ】が声を掛ける。 「身体の調子はどうですか? 可能な限り変質しないで、こちらの世界に渡れるようにしたんですが」  本来、異世界から訪れた者は、この世界からの干渉を受け弱体化する。  それを出来る限り抑えて転移できるようにしたのだ。 「存在するだけなら、大丈夫よ」  ダヌが、ハイドの問い掛けに応える。 「元々この体は、本体じゃなくて魔力で作った化身だから。全てが魔力で作られている、この世界との親和性が高いの。でも、あまり大きな力を使ったら、その瞬間にこの世界から弾き出されると思うわ」 「その辺の確認もしないといけませんねー。本番の前に実験しないとー」  メフィストの言う実験とは、この世界の生き物を異世界に転移させる実験である。  近い内に訪れるであろう、魔王との決戦。  その戦いの中で、戦えないものを逃がすことで、魔王の力の源となる恐怖を世界から減らそうという作戦を実行する予定だ。  それを実行するために呼んだのが、ダヌである。  彼女は煉界における『八百万の神』と呼ばれる者の一柱。  多くの人々に信仰される内に神格を得た強力な存在である。  特に彼女は、八百万の神のまとめ役に就いている十二柱のひとりなので、他の八百万の神達に指示を出すことが出来た。 「何をすれば良いのかしら? おじさま」  指示を仰ぐダヌに、メフィストは応える。 「口寄せ魔方陣を使ってー、転移門と直結させられないか試してみて下さーい」  メフィストの話によると、煉界における転移術である口寄せ魔方陣を使い、セントリアにある転移門と対象者を直結。  わざわざセントリアに訪れなくても異世界に転移できるようにしたいというのだ。 「人間だと無理ですがー、八百万の神である貴方達が協力すればー、大陸ひとつ分の生き物を一度に異世界転移させることも出来るでしょー」 「出来ると思うわ」  ダヌは、おっとりした声で応える。 「物質を転移させるのは難しいけれど、この世界の住人は魔力で出来ているから。問題なく転移させることが出来ると思うわ」 「ではあとは実践あるのみですねー。そちらは実験するとしてー、甘光は持って来てくれましたかー?」 「ええ。【シャオマナ】ちゃんに、いっぱい貰って来たわ」  そう言うとダヌは、ぽんっという音と共に、大きな瓶を召喚する。 「この中に入っているのが、甘光ですか?」  興味深げに、ハイドは瓶に満たされた黄金の蜜のような物を指先で触れ、舐める。 「ああああああああああああっ!」  舐めた途端、転げ回った。 「あああああああああああ、あまっ、甘いーっ!!」  魂が焼けるような甘さに悶絶する。 「おーう、止める暇も無かったですねー」 「どうしましょう」  メフィストとダヌの2人は、ハイドが落ち着くまで待っていたが、やがて―― 「な、なんなんですか、これ……」  息も絶え絶えな様子で、よろめきながらハイドは尋ねる。 「命の塊みたいな物とは聞いてましたけど、死ぬかと思いましたよ」 「それだけ強力ってことですよー」  メフィストは説明する。  なんでも、生命の権能を持つシャオマナという八百万の神が創り出す甘光は、生命が凝縮されたかのような効能を持つと同時に、魂が焼けるような激烈な甘さをしている。 「今まで口にして平気だったのはー、年がら年中魔術で睡眠やら休息を削り続けてる超甘党な彼ぐらいでしたからねー」 「どういう人ですか……」 「超絶ワーカーホリックですよー。それはそれとしてー、この甘光があればー、蟲を祓うことが出来る筈でーす」 「……呪いで変質させたリバイバル、ですよね?」  ハイドは眉を寄せる。 「今まで何度か学園生さん達が戦ったらしいですけど、それをこれでどうにか出来るんですか?」 「出来まーす。なぜなら蟲の呪いはー、飢えを核としてますからねー。飢えを満たせるだけの生命力の塊である甘光を使えばー、祓うことが出来る筈でーす」  メフィストによると、甘光を用いた食べ物を作り、それを与えることで飢えを満たすらしい。 「戦いじゃなくて、食べ物を使って倒すってことですか?」 「それをする前にー、積み上げられた飢えが形になった蟲を倒しておく必要はありますけどねー」 「本体を覆う蟲を全部倒してから、甘光で作った食べ物を与えて飢えを満たし呪いから解放するってことですね」 「そういうことでーす。ただー、それだけだと消滅しちゃうのでー、そこから新生させますよー」 「どういうことです?」  ハイドが尋ねると、メフィストは説明した。 「つい最近ー、この世界に新しい法則が刻まれたのでー、呪いから解放した後にー、新しく人生をやり直せるようにー、生まれ変わらせるってことでーす」 「出来るんですか?」 「出来るようにしまーす。魔王との戦いでも使えるようにしたいですしねー。その技術を確立するためにー、まずは学園の霊樹に留まっているー、【ツリーフォレストマン】って人の魂を新生させますよー」 「それするのに僕を呼んだってこと?」  幼い声でメフィストに言ったのは、ダヌの足元に居る一歳児。 「あの、この子は?」  ハイドの問い掛けにメフィスト達は応える。 「転生経験者でーす。【ネームレス・ワン】と言いまーす」 「今は【無名・一】だよ」  忌々しげに子供は言った。 「転生者云々で言うならお前もだろ。わざわざ僕を呼ぶ必要あったか?」 「念には念をですよー。貴方と私の転生情報を元にー、新生術式を組み上げまーす。別段貴方はー、サンプル元として突っ立ってるだけで良いですよー」 「やだよ。わざわざ他所の世界に来たんだ、今の僕の身体で、どの程度のことが出来るか確かめておきたいし、手伝ってやるよ」 「できますかー? 貴方まだ一歳児でしょー」 「出来るよ。と言いたいけど、確実にしたいなら、他にも人手は用意しろ」 「そのつもりでーす。学園生達さんにー、助けて貰いましょうー」  ということで、新しい課題が出されました。  内容は、異世界の協力者を手伝って欲しいというもの。  魔王との戦いにも役立つとの事です。  この課題に、アナタ達は、どう動きますか?
参加人数
8 / 8 名
公開 2022-02-27
完成 2022-03-17
因果干渉魔法ヘラルド (EX)
春夏秋冬 GM
 あらゆるものは変化する。  それは生物だけでなく、世界も変わらない。  なぜなら変化こそが、『存在』に不可欠だからだ。  どれほど広大無辺、無限に『在った』としても、変化なきモノは『無』と同じ。  たとえ無限の魔力で満ちていたとしても、それだけでは何も『存在』することはできない。  ゆえにこそ、『存在』するために世界は変化を求め、受け入れる。  だがそれは――  ◆  ◆  ◆ 「成功してたら、この世界が消滅してましたねー」 「……」  異世界人である【メフィスト】の言葉を、【クロス・アガツマ】は吟味するように聞いていた。 「基本的にー、すでに発生してる法則や結果を消すことはー、矛盾を発生させることになりまーす」 「タイムパラドクスを起こすようなもんだ」  メフィストに続けて言ったのは、一歳児に見える幼児。メフィストと同じく異世界の存在である【無名・一】だ。 「世界法則や結果を消せば、それに関連する物だけじゃなく、連鎖反応で他の物も全部消滅する」 「家を支えてる柱を一本抜いたらー、他の柱も全部崩れるようなものでーす」 「……その例えで言うなら、新しい法則を追加することは、柱が増えるような物だから問題ないと?」  クロスの問い掛けに、メフィストと一は応えていく。 「大雑把には、そういうものでーす。もっともバランスが大事ですけどねー」 「他の柱より飛び抜けて長い柱なら削らないとダメだろ? そういった物は、世界が干渉して対応する。あるいは――」 「調整できる『何か』があったということですねー」 「それが『ヘラルド』だと?」 「そういった役割と能力を持ってるんだと思いまーす」  いま話題に出ている『ヘラルド』とは、元々は魔導書の名前だ。  かつてクロスがリバイバルとなる前、生前に研究していた魔導書である。  魔王の脅威を取り除くため、因果に干渉する研究をしていたのだが、それを実現するために創り上げようとした魔法の名称を魔導書から取って、ヘラルドと名付けた。  それこそが因果干渉魔法『ヘラルド』。  クロスは少し前、自身の存在と千年を超える研究を懸けヘラルドを発動しようとしたのだが、【メメ・メメル】に止められた。  その際、クロスは奇妙な場所に訪れ、少女に見える『何か』と出会った。  メフィスト達が言うには、その少女に見える『何か』との縁がまだ繋がっているのだという。 「とりあえずー、ヘラルドちゃんを連れて来て欲しいのですよー」 「……どういうことだ?」  尋ねるクロスに、一が応える。 「お前がヘラルドと出会ったのは、世界法則が刻まれている場所だ。この世界のルールが記された概念空間であり、世界の根源に近い場所。そこにヘラルドが居るから、連れて来いってことだよ」 「……待て、整理させてくれ。俺が因果干渉魔法を使おうとして訪れた場所が、世界法則が刻まれた場所で、そこに魔法であるヘラルドが居ると?」 「そういうことでーす。今の貴方にはー、ヘラルドちゃんとの縁が繋がってるのでー、それを利用して連れて来て欲しいのですよー」 「何故だ?」 「幾つか理由はありまーす。例えばー、学園長さんの初期化を安全確実にするためとかー、魔王の新生を確実にするためとかー、色々でーす」 「それは、ヘラルドに魔法の補助をさせるということか?」 「そういうことだよ」  一が説明する。 「多分ヘラルドは、魔法が人化した存在だ。大元は魔導書だったんじゃないか? 世界法則に干渉する魔法を使うために誰かが魔導書を作って、それを使って魔法を発動した。その時に発動された魔法は世界の根源に到達し、そこに留まった」 「そこに居る間にー、人化したんでしょうねー」 「それを連れて来いと……出来るのか?」 「出来ますよー」  メフィストが説明する。 「今の所ー、貴方には因果干渉魔法を使った時の残滓が残っていまーす。それをラインにして根源に行って貰ってー、そこに居るヘラルドちゃんを連れて来ればオッケーでーす」 「ただし、お前1人だと無理だから、他にも人を用意して貰う」 「どういうことだ? なぜ俺1人だと無理なんだ?」 「世界に融けちゃうからですよー」  軽い口調でメフィストは言った。 「海に一滴のインクを落としちゃうような物でーす。貴方1人だとー、存在証明が出来ませんからねー。貴方を認識する『誰か』に一緒に行って貰いー、お互いを認識し合うことでー、世界に融けず独立して存在することが出来るのでーす」 「要は1人だと簡単に自我を無くして世界と一体化しちゃうから、複数人で行って来いってことだよ」  一の説明に、クロスは返した。 「それならメフィストと一が同行すれば良いんじゃないか?」 「それは無理でーす。私達はー、貴方達が安全に根源に到達できるよう調整する役に就かないといけませんからねー」 「それ以前に、僕達が根源に到達したら大事だぞ。海に太陽を落とすようなもんだ」 「私達はー、この件では直接には役に立たないってことでーす」 「……俺以外の誰かに、手伝って貰う必要があるってことか」  軽く眉を寄せ考えた後、クロスは尋ねた。 「実行するに当たって、危険や注意点は無いのか?」 「ヘラルドちゃんを見つけ出すまでにー、色々と過去を見たりするかもしれませんねー」  メフィストは言った。 「根源はー、この世界全ての大元ですからねー。この世界の過去が記されているのですよー。なのでー、過去が見えちゃうかもしれませーん」 「多分、自分に関連する過去が見えると思うぞ」  一も口を挟む。 「自分だけでなく、自分と関わり合いのある誰かの過去とか。ひょっとしたら、全く関係ない過去も見えるかもしれない。注意するなら、それぐらいだ。あとは、ヘラルドを見つけたら『名付け』をしろ」 「名前なら、ヘラルドという名がある筈だが」  クロスの疑問に、メフィストと一が応える。 「それは魔法としての名ですからねー。人としてこの世に実体化させるためにー、楔となる『名』が必要なのですよー」 「名を持つことが、存在証明になるからな。それにヘラルドだけじゃ可愛くないだろ」 「ですねー。かわいい名前を付けてあげて下さいねー」 「……名前、ね」  考え込むクロスだった。
参加人数
5 / 8 名
公開 2022-03-17
完成 2022-04-05
異世界移民斡旋します (ショート)
春夏秋冬 GM
 荒涼たる地に1人、奇妙な紳士が佇んでいた。  服装に奇異な点は無い。  ひろげれば雨傘にもなる長いステッキを携え、蝶ネクタイに燕尾服で整えている。  靴は光沢のある本革で、高級感のあるボーラーハットも頭に乗せていた。  公の場に出ても可怪しくない風体であり、それだけに彼自身の奇妙さを際立たせている。  何しろ彼には、肉体が無い。  手袋、燕尾服にスラックス、靴、いずれも中身はあるように見えるが、袖口と手袋の間、あるいはシャツと顔の間、いずれの空間も無なのである。  顔も、溶接工が被るような鉄面なのだ。フルフェイスで両眼は黒い窓、口の部分から蛇腹状の管が垂れている。  そんな奇妙な彼の名は、【スチュワート・ヌル】。  魔王軍幹部の1人、【エスメ・アロスティア】に仕える執事だ。 「さて」  1人この場に訪れた彼は、独りごちるように呟いたあと、呼び声を上げた。 「有用な話があるそうですね。約束通り、私独りで来ましたよ」 「どーもでーす」  ヌルに返したのは、異世界人である【メフィスト】。  今までどこにも居ないように見えて、魔法で姿を隠していたらしい。  にょいっと現れた彼は手土産を渡す。 「とりあえずー、どうぞー」  メフィストは、小さなクリスタルを取り出しヌルに渡す。 「貴方がハッキングしていた船の管理キーでーす」 「……本物のようですね」  確かめたヌルはメフィストに尋ねる。 「私と取引がしたい、とのことですが、その前に幾つか質問をしても構いませんね?」 「どうぞー」  質問を待つメフィストに、ヌルは尋ねる。 「何故私の居場所が分かったんです?」  少し前、飛空船団のある異世界に訪れたヌルだったが、そこで学園生達と一悶着を起こした後、こちらの世界に戻って来た。  その後しばらくして、ヌルにのみ伝わる連絡法――電子通信を用い、メフィストが取引をしたいと持ちかけて来たのだ。 「探知機器の類は付けられてない筈ですが」 「貴方の魔力の波長を捕えただけでーす」  メフィストは、板状の道具を取り出し説明する。 「飛空船団の世界にー、貴方のデータがありましたからねー。それを参考にして調べられるようにしたんでーす」 「それはユートピアの管理電子脳にハッキングしないと無理……あぁ、したんですね。それで、この管理キーを作ったというわけだ」  ヌルは管理キーを見詰めた後、いつでも攻撃できる準備をしながら言った。 「それで、私に何をさせたいんです?」  力を解放しようとした所に―― 「ユートピアに移民して欲しいんでーす」  メフィストの申し出は意外な物だった。 「……どういうことです? 私独りで、あんな場所に行けと?」 「違いまーす。貴方が連れて行きたかった人達も連れて行って下さーい」 「それも知って……あぁ、管理電子脳にハッキングした時に、私が『人間』だった頃のデータも見たということですか」 「そうでーす。貴方あちらの世界の出身なのですよねー? アビスとかいうヤッベー物をどうにかするためにー、その体になったみたいですがー」 「ええ。滅びを、少しでも避けるために。その時の実験で、どういうわけか、この世界に来ることになりましたが」  ヌルは用心深く尋ねる。 「貴方の申し出に間違えが無いなら、私だけでなくエスメラルダ様――魔王軍幹部と、その旗下にある魔族も移民させるということですか?」 「そうでーす」 「何故?」 「殺し合いしたくないからですよー」  さらっとメフィストは言った。 「殺し合いしなくて済むんならー、空挺都市のひとつぐらい安いもんでーす」 「……ずいぶんと勝手なことを。あの都市は無人ですが、他の空挺都市が受け入れるとでも――」 「それをどうにかするのに今まで掛かったんですよー」 「どういう――」  ヌルが問い掛けようとした時だった。 「空挺都市間での協議は、すでに終わらせている。スチュワート少尉」 「――!」  突然聞こえてきた懐かしい声に、思わずヌルは押し黙り凝視する。  混乱する心を治める間を空けて、ヌルは彼を呼んだ。 「【ガウラス・ガウリール】少佐」 「最終的な階級は特佐になったよ、スチュワート少尉。だが今では軍を離れているのでね。だからガウラスで構わない。私も、君のことはヌルと呼ばせて貰う」  既に老年の域に達しているガウラスだったが、かくしゃくとした態度でかつての部下の名を呼んだ。 「積もる話はあるが、それは向こうに君達が来てからのことだ。今は、空挺都市同盟の決定を伝えよう」  特使として、ガウラスは言った。 「無人空挺都市ユートピアの居住権を進呈する。見返りとして、魔力の取り引き相手としての窓口を希望する」 「要はー、魔力をくれるなら空挺都市あげるってことでーす。こちらの物品をてきとうに持って行けばー、それは成立しますよー」 「それで、いいのですか……?」  不安を滲ませるヌルに、ガウラスは言った。 「むしろこちらは、魔力の補給が急務なのでな。学園との取引も考えているが、取引相手は多い方が良い。正直、今まで存在したこと自体知られていなかった船ひとつで、魔力の供給先が増えるなら、こちらとしても願ったりだ」 「……随分と、物分かりの良い時代になったようですね、そちらは」 「なに、色々と苦労した者が多かったというだけだ。サンタクロース運送も苦労してくれたが」  どこか苦笑するような表情を見せた後、ガウラスは言った。 「とにかく我々としては、君達を取引相手として望んでいる。こちらの世界では色々とあるようだが、我々としては関与しない。お互い中立を保ちつつ、利益を探り合いたい」 「ウィンウィンになりましょーってことですよー」 「……なるほど」  状況を理解したヌルは言った。 「それが事実なら、こちらも取引の用意はあります。ですが、それを学園は受け入れるのですか?」 「受け入れてもらいましょー。向こうも魔王との戦いを前にー、余計な戦力は使いたくないでしょうしー」 「魔王との戦いに集中したいと? ですが、そのあとにこちらを襲撃することは無いのですか?」  慎重に尋ねるヌルに、メフィストとガウラスは応える。 「向こうの世界に行っちゃったらー、こちらの世界から転移できないようにすればいいだけですよー。貴方達が住む船に転移できないようにするぐらいならー、船の機能を使えば出来る筈でーす」 「他の船に転移して、そこから君達の船に侵攻する手段はあるだろうが、それはこちらが断固として拒否する。我々としても、余計な争いは望まないのでね」 「……分かりました。貴方達、この世界に属さない方達の意見は、そういうことなのですね。ですが、それだけでは足らない」  先のことも見通し、ヌルは交渉する。 「学園との盟約を結びたい。私達がユートピアに移住する邪魔をせず、今後危害を加えないという確約を望みます」  これをメフィストは予想していたのか、すぐに返した。 「分かりましたー。学園の代表者の人達にー、盟約を結んで貰いましょー。もし破ろうとしたならー、盟約を記した書が壊れてー、知らせるような魔法を組み込みまーす。それなら不意を突かれることも無いですしー、いいんじゃないですかー?」 「いいでしょう。では、またこの場で。盟約を結ぶとしましょう」  かくして魔王軍幹部と、不可侵の盟約を交わすことになりました。  その代表者として、貴方達は参加することになります。  そこでアナタ達は、何を喋り、どうするのか?  ひとつの行く末が、アナタ達に掛かっています。  頑張ってください。
参加人数
5 / 8 名
公開 2022-04-11
完成 2022-04-22
アナタ達の未来は続いていく (EX)
春夏秋冬 GM
 長きに亘る魔王との因縁は、ひとつの結末を得た。  それがこの先、どうなるのか?  知る者はいない。  なぜならそれは、これから作られていく未来なのだから。  それは世界だけでなく、そこに生きる皆も変わらない。  そう、アナタ達も、この先は続いていくのだ。  魔王との決着がついた今、アナタ達は、何をしていますか?  これまでと変わらず、授業に出ているだろうか?  あるいは、これを機に、新天地を目指すのだろうか?  それとも、自身にまつわる因縁を解きほぐしに行くこともあるかもしれない。  仮にアナタ自身は、これまでと変わらず生活しようとしても、アナタと関わる誰かの因縁と向き合っていかなければいけないかもしれない。  それ以外にも、事は起るだろう。  魔王は倒され赤ん坊になってしまったけれど、魔王を信仰していた者達が、そのまま終わるとも限らない。  ひょっとすると、魔王に変わって世界に動乱を起こそうとする者もいるかもしれない。  それに、この世界だけで済むとも限らない。  異世界と繋がってしまった、この世界は、今後も色々な世界と関わることがあるかもしれない。  中には、邪悪の化身のような者が、暗躍し始めているかも?  異世界から、この世界に訪れた学園生ならば、元居た世界との関わりを強めていく橋掛かりになる人物も出て来るかもしれないだろう。  いくつものいくつもの、未知が溢れているのだ。  それがきっと、世界というものだ。  そんな中で、アナタ達は、どう未来を進みますか?  自由に、好きなように、アナタ達の物語を進めてみてください。
参加人数
7 / 8 名
公開 2022-06-17
完成 2022-07-05
偶には故郷に里帰り (EX)
春夏秋冬 GM
「やっと終わった」  疲れた声で、学園生の1人が息をつく。  それも無理は無い。  ここしばらく、瓦礫の後片付けや破壊された施設の修理に駆り出され、ろくに休む暇も無かったのだ。  一月ほど前、魔王の軍勢に学園が襲撃され撃退したものの、その爪痕は広範囲に残り、表面を取り繕うだけでも時間が掛かっていた。 (本格的な修繕は、またこれからみたいだけど)  教師達から話を聞くと、この際なので改修も兼ねた修繕を行うらしい。  これまで学園は、魔王の脅威に対抗する為の側面も持っていたが、これからはそれも変わる。  今まで以上に授業の専門性を上げることを提唱する者もいれば、外部との連携を強め研究都市としての特色を出していこうという者もいた。  魔王の撃破という、歴史の転換点とも言うべき状況に、祭めいた熱狂が広がっているようだ。 (まぁ、要は、浮かれてるってことだよな)  教室に戻りながら、彼は思う。 (しょうがねぇよな。それだけ大きなことを成し遂げたんだから)  どこか誇るように思いながら歩いていると、同じ学年の友人に声を掛けられた。 「よう、そっち終った?」 「ああ。今回の課題は、これで終わり。次、どうすっかな?」 「だったら、帰省の課題に参加してみねぇか?」 「帰省? 故郷に帰るってことか?」 「そういうこと。学園以外でも魔王軍は暴れてただろ? それに異世界に避難してた所もあるみたいだし」 「あー、それってつまり、学園の後始末に片が付いたから、労働力を外部に放流しようと」 「そういう意味もあるみたいだけど、ほら、やっぱ故郷がどうなってるか気になる生徒もいるだろ? そういうのも汲んで、課題という形で手配してくれてるみたい。帰省するのにかかる費用とか、諸々を用立ててくれるみたいだし」 「なるほどね。なら、参加してみるかな。お前はどうする? あと――」  彼は友人の名前を口にした。 「あいつは、どうだろうな? なんか、故郷は異世界らしいけど」 「そっちも、手配してくれるらしいぜ。異世界転移門の研究してる、ほら、なんつったっけ?」 「セントリアか?」 「ああ、そこそこ。そこと協力して、出来る限り異世界転移者が元居た世界に戻れるように便宜を図ってくれるらしい。向こうとしても、研究データが入るんで乗り気みたいだ」  以前は眉唾物とも思われていた異世界ではあるが、実証された今となっては、新たな研究テーマとして熱を帯び始めている。 「俺は折角なんで、あいつが異世界に帰省するのについて行こうかと思ってるんだ。研究論文の良いテーマになりそうだからな」 「そっかー……そっちもそそられるなぁ。故郷にはいつでも帰れるし」 「なら、お前も連いてくる?」 「んー……悩む」  などと、友人同士で喋りながら、2人は教室に戻っていった。  そうした帰省に関する課題が、学園から出されました。  故郷が気になったので帰るのでも良いですし、友人や知人が異世界に戻るのに同行してついていっても良いようです。  ひょっとすると、故郷が既にない人がいるかもしれませんし、あるいは、故郷に何かしらの因縁がある人もいるかもしれません。  そうしたことを解決するためにも、一度故郷の地を踏むのも良いでしょう。  魔王に勝利し、新たな時代が訪れる中、新たな区切りを迎えるためにも、この課題に参加してみませんか?
参加人数
4 / 8 名
公開 2022-06-27
完成 2022-07-15
悪の芽は潰えず (EX)
春夏秋冬 GM
 ソレは邪悪だった。 「プランAは失敗しましたねぇ」  嘲笑う声に、蔑む声が返す。 「他人事ではないだろう。アレの失敗は、私達の失敗でもあるのだ。私よ」 「そうですねぇ、私。悪くない所までは行けたと思ったんですが」 「ああなる前に私達全てが死んで力を集約するべきだったか?」  見下す声に、侮蔑する声が返す。 「無駄な仮想実験。私達が死ぬより早く、あの私は捕食封印された」 「確かに」  侮る声が同意する。 「プランAを進めていた私の行動は、あの時点の直前までは正しかった」 「そうでありながら失敗したなら、やはり他のプランを進めるべきだ」  嘲弄する声が断言するように言った。 「今後は、私達それぞれのプランを進めるべきだ」 「ならばこれ以上封印されないよう、気を付けましょう」  見縊る声が言った。 「この世界の維持機構に、すでに私(あくま)達の存在は知覚された。今いる私達を直接知覚することは出来ないが、増やそうとすれば居場所を知られ即座に封印される」 「面倒だねぇ」  愚弄する声が言った。 「大人しく惨めに嘆きながら滅びていけば良いのに。余計な手間を掛けさせてくれる」 「それはそれで良いではないですか。弄ぶ時間が増える」  嘲笑う声に、この場にいる11の同位体は嗤いながら同意した。 「違いない」 「滅ぼし喰らう前に」 「嘆きと苦痛で彩って」 「恐怖と怨嗟をスパイスに」 「味付けしてやろう」 「それぐらいしか価値は無い」  けらけらと悪魔は嗤い、邪悪な企みをこらし始めた。 ◆  ◆  ◆ 「黙ってついて来い!」  ヒューマンの男が、痩せ衰えた魔族を殴りつけた。  苦悶の声を上げながら、殴りつけられ倒れた男は立ち上がる。 「……」  無言で殴ってきたヒューマンの男を睨みつける魔族に、舌打ちしながら今度は蹴り飛ばした。 「薄汚ねぇ魔族がっ、調子こいてんじゃねぇぞ!」  さらに殴りつけようとした男を、軽い声が止める。 「それぐらいにしとけ。死んだら素材にならねぇ」  いかにもチンピラといった狼のルネサンスの男が、にやにや笑いながら言った。 「そいつはクソ以下のカスだが、俺達で巧く使ってやりゃ、人間様の役に立つ物になれるんだ。魔王なんかに従ってた極悪人共に、罪を償わせてやる折角のチャンスを無駄にしちゃいけねぇよ。なにより、俺達の儲けが減るだろ、こんな所で無駄に殺したら」 「……分かってますよ」  渋々というようにヒューマンの男は応えると、魔族を殴りながら言った。 「オラ、さっさと進め! 手間かけさせんじゃねぇ!」  言われるがままに、魔族の男は進む。  だが、魔族の男は気付かれずに痕跡を残した。  それは小さな宝石。  豆粒にも満たない小さな粒は、魔族の男の種族が使える魔法だ。  情報を刻んだ魔力を宝石として固定することが出来る。  それを、魔族の男が連れて行かれた後で、2人の覇王が見つけた。 「巧くいってるようであるな」  情報の刻まれた宝石を拾い上げながら【アーカード】は、同行する【スルト】に言った。 「これで人攫いのアジトの場所が分かるのである」 「そこに囚われた者達を助けに行くのか?」 「もちろんである」 「そうか」  たこ焼きを食べながらスルトは返す。 「それで、場所は1つだけなのか? それなら手っ取り早くて良いが」 「ちょっと待つである」  アーカードは、宝石の内部に蓄えられている情報を閲覧する。 「複数あるみたいであるな。あまり時間を掛けるとろくなことになりそうにないであるから、学園にも手伝わせるのである」 「ふむ。まぁ、別に良いが。俺もストーカーの所で食客になってるから、飯の分は働いてやる」  気軽に応えるスルト。  いま2人がここに居るのは、銀行業を筆頭に幅広く商業活動を行っているストーカー商会の筆頭、【ブラム・ストーカー】の頼みを受けているからだ。  アーカードの眷属であった人物を先祖に持つストーカー家は、魔王のとの決着がつく前から魔族の一部と関わりを持っている。  その伝手で、魔族の一部が人間に浚われる事件が頻発しているという話を聞き、アーカード達に協力を求めて来たのだ。 「昔と変わらんな、こういうのは」  呆れたように言うスルトに、アーカードは応える。 「それでも変わってはいるであるよ。それをより我輩達好みに変えるためにも、早く助けに行くである」  その後、人攫いのアジトのひとつに行き、人攫い達をボッコボコにしたアーカードとスルトは、他のアジトも潰すため学園に協力を求めるのだった。
参加人数
4 / 8 名
公開 2022-07-06
完成 2022-07-25
未来に向かって (EX)
春夏秋冬 GM
 魔王との決戦から、一月ほどが過ぎようとしていた。  歴史的な変革ともいえるこの偉業に、世界と、そこに住まう人々の生活は、変化を見せ始めている。  もっとも、目に見えて分かることは少ない。  一見すればこれまでと変わらず、同じように進んでいるように見える。  だが、違う。  確実に変化は起り始めている。  それは新たなる未来へ向かっての物であり、過去の清算に繋がる物でもあった―― ◆  ◆  ◆ 「――というわけで、霊玉の件も含めて、色々と協力して貰うぞ☆」  学園長室で、【メメ・メメル】は異世界人である【メフィスト】に頼む。 「オッケーでーす。こちらとしてもー、この世界が安定して貰った方が余計な不安を抱えずに済むので助かりますからねー」  2人が話しているのは、諸々の問題となりそうな物を、今の内に未然に解決しておこうというものだ。 「それで、霊玉の解放は目処がつきそうなのか?」 「とにかくー、内在する膨大な力を何かで消費する必要がありますねー。何に使うとかはー、そちら任せになりますがー」 「オッケーだ。むしろそうしてくれないと困る。異世界人に好きにさせたとか、あとで難癖つけられたら腹が立つからな」 「それなら学園生さんに協力して貰いましょー。色々とー、他にも頼みたいことはあるみたいですがー」 「まぁ、色々とあるぞ☆」  メメルは言いながら、机に書類を広げる。  以前なら魔法で簡単に出来たことだが、今では入学したての生徒と変わらないので多少の手間はかかる。  もっとも、人の目につかない所で鍛錬を始めてるので、時間は掛かっても以前のような力を取り戻すことが出来るかもしれない。  それはさておき、メメルは関係書類を広げて説明する。 「人に宿っていない霊玉、五つは学園で確保してるから、いつでも使えるな。残りのふたつは人に宿っているから、取り扱いは気をつける必要があるぞ☆」 「霊玉ひとつでもー、魔王が宿った子を受肉化する力がありましたからねー。残りの霊玉の力を消費しようと思ったらー、色々と使わないとですねー」 「それもあるが、他にも処理しないといけないことは山盛りだ」  少しうんざりするようにメメルは言った。 「魔族との融和問題に、魔王との決戦での爪痕の復興もしないといけない。それに魔王がいなくなったから、そっちに割いてたリソースを好きに使おうって色気だしてる所もあるからなー。地味に忙しすぎて飲む暇もないぞ」 「大変ですねー。幸い人手はー、学園生さんを頼りにすれば良いですしー、その辺りの手配はお願いしますねー」 「うぅー、大変だ。労いがてら、そっちの世界の銘酒をくれても良いんだぞ☆」 「私甘党なのでー、今度甘い物持ってきますねー」 「酒に合うのを頼む」  などという話がされ、学園生達に色々な課題が出されるのでした。
参加人数
6 / 8 名
公開 2022-07-15
完成 2022-08-02
学園生の日常 その1 (EX)
春夏秋冬 GM
「今度の休みの日、どうする?」  授業の終った学園生が、友人に問い掛けた。 「ちょっと街の方にでも行ってみるか?」 「ん、いや止めとく」 「えー、なんで?」 「実家の手伝いしようと思って。この前、故郷に帰る課題あったじゃんか」 「あったけど、お前帰ってなかった?」 「帰ったんだけど、割と魔王戦の影響で荒らされててさ」 「お前んち、学園に近かったよな……進攻ルートに引っかかってた?」 「微妙にだけど、おかげで魔物に荒らされてさ。避難してたから人死には出なかったけど、家とかボロボロになってて」 「その後片付け、まだ終わってなかったのか?」 「いや、大体の目処は立ったんだけど、問題は復興でさ。家立て直したりするにも先立つ物はいるし。だから学園のコネ使って、どうにかしてくれって言われてさ」 「無茶ぶりだな、おい」 「だよなー。とりあえず先生達にOBやOGの伝手紹介して貰って、商人の人らから金引っ張って来れないか交渉しなきゃなんねーんだ。手ぶらじゃ話になんねーから、なんか商売のプレゼンしなきゃなんねーし」 「おぉう、大変だな」 「そういうお前はどうなん? 暇なら手伝ってくれよ」 「んー、いいけど、日によっちゃ無理だぜ。受けたい講義があるし」 「勉強熱心だな。研究職目指してるの、変んねーんだ」 「おう。どうにかしてセントレアに潜り込んで、異世界の研究してぇ」 「異世界か~、商売のネタになるかな?」 「なるんじゃね? でも、かなり熱いことになってんぜ」 「え、どういうこったよ」 「利に目敏い商人が黙ってるわけねーじゃん。どうにかして利用しようとしてるみたいだけど、学園がストップかけてるみたいだな」 「……同じ世界でも争いは絶えないってのに、それを他の世界にも広げたらめちゃめちゃになるわな」 「そういうこと。そういう状況で、どうにか食い込めねぇかと日々奮闘してんですよ、俺は」 「なるほどね。なら、その手伝いをするよ。そん代わり、俺の方の手伝いもしてくれ」 「んー……分かった。それじゃ、先生にセントレアに行く許可貰いに行くか」 「オッケー」  などという話が、学園では見られます。  他にも学園生ごとに、それぞれの目的に沿った日常を過ごしています。  中には、邪悪な何かと戦う者もいるでしょう。  あるいは、力なき人々に手を差し伸べるため奮闘する者もいる筈です。  ひょっとすると、過去の因縁にまつわる何かの決着をつけるため動いている人もいるでしょう。  そうした重苦しいことだけでなく、明るい日常を送る者もいるのです。  日常と一口に言っても、人によって千差万別。  その日常を守るために、学園は力を貸してくれるでしょう。    そんな中で、アナタ達は、どう未来を進みますか?  自由に、好きなように、アナタ達の物語を進めてみてください。
参加人数
5 / 8 名
公開 2022-07-25
完成 2022-08-11
大規模事業の始まり (EX)
春夏秋冬 GM
 ズェスカ地方は、以前は活気の溢れた湯治場だった。  温泉は湯量が豊富であるだけでなく効能も抜群で、大陸中から多くのお客が来たものだった。  しかしそれは昔の話。  いまでは温泉は枯れ、当時住んでいた村人達も多くが他に移り住むようになり、寂れた場所になっていた。  けれど、それが変わろうとしている。  切っ掛けは、学園を中心とした新規事業が提案されたことだ。  火の霊玉の力を宿した【ドーラ・ゴーリキ】に協力を得て、ズェスカの温泉復活計画が始まったのだ。  しかも南国の島であるボソク島とも提携し、相互に活性化を図っている。  現在、各地で異世界の技術を下地にした鉄道事業の計画が立てられているのだが、それを利用し、ズェスカとボソク島を繋げる旅行プランも練られ始めていた。  これらの発起人は学園生であり、彼ら、あるいは彼女達が奔走することで、大きなうねりとなって進み始めていた。  銀行業を主軸に置いたストーカー家が資金を出し、各国が提携し鉄道事業の技術推進や敷設に邁進している。  それらに必要な人手は、人間種族だけでなく魔族からも募集していた。  これは人間種族と魔族の融和を念頭に置いた物でもある。  同時に福祉事業としての側面も持ち、貧困に窮する者や、何らかの事情で働き辛い者達にも仕事が回るように便宜を図っている。  それを促進するため、弱者救済に動いている団体や個人とも可能な限り連携が取れるように動いていた。  ある意味、大陸全土が関わる超特大事業であるため仕事は大量にあり、むしろ人手が足らないので、活発に動いている。  それらは、学園生達の尽力の賜物であり、より良い未来に向けたのものになっていた。  それに関わっている学園OB【ガラ・アドム】は、後輩たちの苦労を無駄にしないよう奔走していた。 「ズェスカの新名物、試作できたんだって?」 「ああ」 「提案されたものも含めて、幾つか作ってみた」  ガラに応えたのは、料理人である【ガストロフ】と【辰五郎】だ。  2人は以前、ボソク島や、観光名所であるアルチェで行われたグルメバトルで関わったことがあり、今回の学園生達が企画した事業にも関わっている。 「まずは、頼まれてた『食べられる石の温泉卵』。食べてみてくれ」  ガストロフに勧められガラは、見た目は石にしか見えない黒い温泉卵の殻を割って食べる。 「ん……思ってた以上に美味いな。卵に味が付いてるし、黄身が半熟状態で食感も良い」 「下処理で出汁に漬けてるからな。染み込ませた出汁で味だけじゃなく黄身の凝固も調整できるようにしてる。他の温泉地で試して作ったもんだが、ズェスカで温泉が湧いたら調整して、誰でも作れるようレシピを用意するつもりだ」 「助かる。他には、何があるんだ?」  これに辰五郎が応えた。 「饅頭に蒸し芋、あとプリンも温泉の蒸気で作ってみた。他にも蒸しチーズケーキとかも考えたんだが、温泉の蒸気を直接利用するとどうしても匂いが付くからな。場合によっちゃ、匂いが付かないようにする必要があるな」 「分かった。そっちは任せてくれ。どうにかできないか、学園やセントリア、あとミストルテインとかで訊いてみる」 「そうか……それでそっちはどうなんだ? 色々と調整してるみたいだが」 「まぁ、色々と走り回ってるよ。ズェスカとボソク島を繋ぐ鉄道を利用した旅行事業とかは、分担してるけどな」  今回の事業では、鉄道を利用した長距離観光事業の企画も上がっているのだが、そちらは貴族筋にコネがあるアルチェの貴族商人【ララ・ミルトニア】が動いている。 「やること多くて目が回りそうだが、ケンタウロスの姐さんやサイクロプスのお蔭で、色々と助かっているよ」  ケンタウロス達は飛脚業務や資材や生活必需品の運送を行い、サイクロプス達は鉄道や街道や橋にトンネルの整備、あるいは住居施設建築などの物理的インフラに携わっている。  どちらも大きな成果を上げていた。  ケンタウロス達は迅速に必要な物を運ぶだけでなく、1人1人が強力な戦士でもあるので、盗賊などを寄せ付けない。  サイクロプス達は魔法を併用した工作技術が素晴らしく、工期の短縮や質の向上に大いに貢献していた。 「大まかには巧くいってるよ」 「……大まかにってことは、そっちもなんかあるのか」  げんなりした口調の辰五郎にガラは言った。 「ひょっとして、引き抜きとかあったか?」 「ああ。金は倍払うとか言ってきたが、胡散臭いんで断った。他にも金ちらつかせたり脅しまがいで引き抜こうとしてるのがいるみたいだ」 「そっちもか」  腹立たしげにガラは言った。 「金の匂い嗅ぎつけて胡散臭い奴らが山のように湧いてやがる。揉め事が起らなきゃいいんだが」  ガラの懸念は、各地で現実となっていた。 「じゃから儂の土地をどうしようが儂の勝手じゃろうが!」  銅鑼声で恰幅のいい脂ぎった男、【ギド・ギギル】は言った。 「何で畜生共のためにそんままにせんとあかんのや!」  ギドが学園の使者と話しているのは、ズェスカの土地利用についてだ。  ズェスカの温泉を復活させるため、ドーラが霊玉の力を使い、マグマと地殻変動を制御することで地形を変える予定なのだが、それにより野生動物の住処が無くなる場所も出て来てしまう。  それを防ぐため、野生動物の新たな生息地に予定していた土地があったのだが、権利者と名乗るギドが利用に待ったをかけたのだ。 「なんや儂がこの土地もっちょるのがおかしいんか? ちゃあんとここらの権利は儂が買うたんや。権利証もあって証明されちょるけぇの」  ズェスカがさびれた時、村人は他所の土地に移ったのだが、その村人達から買いあさっていたらしい。  幸い、予定している温泉地からは離れているが、隣接しているので性質が悪い。 「とにかくここは儂の土地じゃ。帰れ帰れ!」  どう見てもゴロツキにしか見えない取り巻きをけしかけて学園からの使者を追い返したギドに、1人の男が声を掛ける。 「順調ですか?」 「こりゃあ先生! そりゃもう」  揉み手をしながら言った。 「先生に教えてもらっちょったお蔭で、バカな村人共から安う買えましたわ。ここで博打に女に薬に、たぁんと銭が寄って来るもん作りますさかい、そんときゃサービスしやすぜ」 「いえ、お気になさらずに。それよりも、これを」 「はぁ? こいつは?」  両手に乗るぐらいの水晶玉に見える何かを渡されギドが問うと、『先生』と呼ばれた男は言った。 「ズェスカで行われるマグマと地殻の変動に干渉できる魔法玉です。これを後で設置してください。そうすれば、この近くでも温泉が湧くでしょう」 「そいつは良い! 二束三文のこの土地の価値がさらに上がる」  喜ぶギドに、男は指人形をあしらったネックレスを渡す。 「これを差し上げます。私達の組織の一員の証です。今後も便宜を図りますから、寄付をお願いしますよ」 「へへー、そりゃもう」  ギドは頭を下げながら内心では舌を出す。 (はっ、使える内は使うちゃるわ。見ちょれ、その内、組織も儂が貰っちゃるけぇの)  頭を下げるギドを、男は亀裂のような薄く壊れた笑みを浮かべ見詰めていた。
参加人数
5 / 8 名
公開 2022-08-04
完成 2022-08-20
異界同盟を調査しよう (EX)
春夏秋冬 GM
『覇王二柱に異界の創造主。随分と豪勢な面子だね』  陽炎の如く揺れる影が、客人を出迎える。  名は渾沌(こんとん)。  覇王六種が一柱、『滅尽覇道・饕餮』の臣下にして端末たる、『三凶・渾沌』だ。 『それで、わざわざ会いに来るなんて、何の用だい?』 「気付いているか確認に来たのである」  覇王六種が一柱、夜天覇道【アーカード】が問うと、渾沌は哂うように言った。 『火遊びをしてる、異界の異物共のことかい? それなら気付いているよ』  渾沌が口にする異物とは、異世界からこの世界に訪れた者達のことだ。  この世界には、異世界から『人』が転移してくることがある。  訪れた『人』は、この世界の『法』に従って作り変えられ、この世界の人間種族に変えられ無害な存在に成るのだ。  だがそれは、記憶や知識には及ばない。  あくまでも、『基本』は、ではあるが。  転移した人物の状況によっては、一部記憶が消えてしまうこともあるが、大半は転移する前の記憶や知識が残ったままだ。  だからこそ、危険をはらんでいる。  知識は、再現性のあるものだ。  仮に、この世界では実現が不可能な物でも、『それまでには無かった発想』は容易く過去を置き去りにし、在り得なかった物を生み出しかねない。  それは有益な物ばかりとは限らない。  場合によっては、世界にとって危険極まりない物も生まれかねないのだ。 「少し前、魔族を浚う輩どもを潰したのである。そやつらのリーダー格が異世界出身であったが、こちらの世界の材料で、異世界の技術で作られた物を持っていたのである。そういう輩は、他にも多いのであるか?」  アーカードが尋ねるのは、饕餮の探知能力を知っているからだ。  饕餮は世界を維持するためのシステムであり、世界のバランスを崩しかねない存在を食滅することで、世界を保っている。  それを十全に発揮するために、世界で起こる様々な事象を探知する能力を持っており、常に『世界を観測』しているのだ。 「答えられる範囲で良いので教えて欲しいのである」 『夜空の星よりは少ないんじゃないかな?』 「随分詩的なこと言うであるな」 『そちらに分かり易いように例えてあげただけだよ』 「それはつまりー、数えきれないほど多いってことですかー?」  尋ねたのは、異世界人である【メフィスト】だ。  これに渾沌は返す。 『そうだよ。以前から異世界由来の、『世界の脅威に成り得る種』はあったけど、魔王がああなってから増えてきてるね』 「そいつらの中で、今すぐ饕餮が動く必要があるのっているのか?」  飴玉をガリガリ噛み砕きながら破天覇道【スルト】が尋ねると、渾沌が応える。 『今すぐ動く必要のある相手はいないよ。この先は知らないけどね』 「なら今の段階でー、どうにかすることは出来ますかー?」 『なんで?』  メフィストの問い掛けに、渾沌は言った。 『饕餮に出来ることは『喰らうこと』だけだよ。そうならないよう未然に防ぐだなんて、そんな余分な機能を持ったら性能が落ちるじゃないか』 「ならせめてー、危険度が高い物を教えて貰うことは出来ますかー?」 『それはかなりギリギリになるよ。饕餮はこの世界全てを観測する全知だけど、全能じゃない。全て見えてるけど、全てを理解してるわけじゃないんだ。危険であればあるほど、それに分析力を集中することで『知覚』出来るけど、危険度が低い物までいちいち全部分析してたら計算が終わらない。そんな無駄なこと、饕餮はしないよ』 「おーう、それってあれですかー。食滅するラインギリギリにならないとー、詳しいことは分からないってことですかー?」 『そうだよ』  あっさりと答える渾沌。 『饕餮はあくまでも『起った事』に対するカウンターだ。これから起こるかもしれない『可能性』にまで関与しないよ。免疫システムがそんなことしてたら暴走じゃないか』 「ですよねー。ちょっとしたことで一々動いてたらー、健康な組織まで攻撃する免疫細胞みたいなもんですしー」 『だから動くなら饕餮以外だよ。我が巫女の一欠片のような、学園生とかね』 「楽すること覚えたであるな」 『幸い、減らない噛みタバコがあるからね。丁寧に磨り潰しても無くならないのは便利だよ。どうせなら、種類を増やしても良いけどね』  含みを持たせる渾沌に、メフィストは言った。 「それはやはりー、まだ人形遣いがこの世界に在るということですねー?」 『直接観測できないから、痕跡を分析して出した推測だけど間違ってないだろうね。全知をどうやってすり抜けてるんだか知らないけど』 「そういうのに能力のほとんどを全振りしてますからアレはー。全知や遠隔走査じゃ見つけられないのでー、地道に痕跡辿って見つけ出すしかないんですよー」 『あっそ。がんばって』 「少しは協力して下さーい」 『知らないよ。喰らう時が来たら饕餮が喰らう。ただそれだけだよ』 「それだと人形遣いの思うつぼになると思うので協力しましょー」 『どういうことかな?』 「恐らく人形遣いはー、自分では無くこの世界の人間が自主的に滅びに近付くように技術や知識を撒き散らしている筈でーす」 『だろうね。それで?』 「これが人形遣いの思い通りに進むとー、世界の危機がちょくちょく出て来る筈でーす」 『その時は饕餮が食滅するよ』 「それが頻発するとー、間違いなくこの世界の人達はー、隠れて実体のつかめない人形遣いでは無くー、食滅を繰り返すあなたを危険視するようになるでしょー。そうなればあなたを封印しようとするでしょー」 『饕餮が封印されている間に、人形遣いは自由に動くようになるってこと?』 「そうでーす。自分は目立たぬようこそこそ動いて破滅の種をバラ撒き続けー、それが実現した時にあなたが食滅すればー、あなたの危険性を煽ってあわよくば共倒れを狙っていると思いまーす」 『だからそうならないよう協力しろってこと?』 「そうでーす」 『…………』  しばらく沈黙が続いたあと渾沌は応えた。 『計算したら、そっちの言ってる可能性が高いのが分かったから、手を貸してやるよ。何を知りたい?』 「現状一番危険な相手がいたら教えて下さーい」 『いいよ…………分析完了。そいつらの情報を伝えるから、せいぜい働きなよ』  そして、現時点で一番危険な集団の情報を得ることが出来た。  その名は『異界同盟』。  異世界からこちらの世界に転移し、この世界の人間種族へと存在変換された者達の集まりだ。  どうやら異世界由来の知識を再現し悪用することを目的としているらしいが……。  その内のひとつ。  少し前に学園が叩き潰した、魔族を浚った者達も属している組織のようだ。  その壊滅のため、学園から課題が出されるのでした。
参加人数
3 / 8 名
公開 2022-08-13
完成 2022-08-25
学園生の日常 その2 (EX)
春夏秋冬 GM
 今日も今日とて、学園では学生たちの日常が続いている。 「最近、課題増えたなぁ」  同期の呟きに、友人の学園生が返す。 「なんか、ズェスカの復興事業で人手が要るみたいで、手伝い募集してるみたいだぞ」 「あれ? それって、大陸横断鉄道事業のヤツじゃなかったっけ?」 「そっちも人手募集中らしいぜ。なんか、ボソク島とズェスカ結ぶ旅行ルートを開拓して盛り上げるとかなんとか」 「いいね。景気の好い話じゃん」 「だな。とはいえ、それだけじゃねぇけどよ」  げんなりした声を上げる友人に、学園生は尋ねた。 「なんかあったのか?」 「んー、何か色々あるみたいでさ。デカい事業が続いてんのは良いけど、それに食い込もうとしてる胡散臭い業者とかの話聞くしさ。それに、魔族も事業に関わらせられないかって動きもあるみたいだし」 「あー、そっちか……まだまだ、わだかまりあるだろうしなぁ……でもそっちは、まだ良いんじゃねぇか。他の奴がなぁ……」 「なんかあったか?」 「んー、なんか異世界出身の奴等が怪しい秘密結社作ってるみたいでさー。それの調査とかの課題受けてんだよな~」 「あぁ……異界同盟だっけ?」 「そうそう。たまったもんじゃねぇよな。それで異世界の研究とか禁止されたらどうしてくれるんだってんだよ」 「ん? あ、そういえばお前、セントレアの研究職目指してるんだっけ?」 「そうだよ。こっちが日々伝手を積み上げてるってのに、関係ない所でおじゃんにされてたまるかってんだ」 「そういうのも含めて、課題こなしていくしかねぇよな~」 「だな」  などという話が、学園では見られます。  他にも学園生ごとに、それぞれの目的に沿った日常を過ごしています。  中には、邪悪な何かと戦う者もいるでしょう。  あるいは、力なき人々に手を差し伸べるため奮闘する者もいる筈です。  ひょっとすると、過去の因縁にまつわる何かの決着をつけるため動いている人もいるでしょう。  そうした重苦しいことだけでなく、明るい日常を送る者もいるのです。  日常と一口に言っても、人によって千差万別。  その日常を守るために、学園は力を貸してくれるでしょう。    そんな中で、アナタ達は、どう未来を進みますか?  自由に、好きなように、アナタ達の物語を進めてみてください。
参加人数
2 / 8 名
公開 2022-08-23
完成 2022-09-03
不穏の種は未然に防げ (EX)
春夏秋冬 GM
 ズェスカ地方を始めとした復興事業は順調に進んでいた。  大陸を縦断する鉄道計画も、大国が参加することで進展している。  それらを進めるに当たって必要な人手も、確保されていた。  魔王軍との戦いで被害を受けた人々や、魔族達も積極的に雇い、着実に形になっていった。  懸念されていた魔族との軋轢も、学園生達が尽力することで最小限に抑えることが出来ていた。  それは魔王の脅威がなくなった世界を象徴するように、繁栄と平和へと繋がるものであるように見える。  多くの人々が待ち望んだ世界が、これから続いていくように思えるような状況だった。  けれど、それを望まぬ者もいる。 「どねーかしてくださいや! このままじゃジリ貧になっちまうんじゃ!」  懇願するように、悪徳商人【ギド・ギギル】は男に頼む。 「折角アホどもから二束三文で手に入れた土地が、学園のクソ共のせいで取り上げられちまったんじゃ!」  それはズェスカでの話だ。  ギドは、元々の住人から現地の土地を買い占めていたのだが、学園が間に入ることで取り返されている。  それは現地で行われた、地殻変動による温泉計画を乗っ取ろうとしたことが原因だ。  火の霊玉を中心として行われた地殻変動に干渉し、自分達の土地の価値を高め、それ以外の土地は暴力沙汰で奪うつもりでいたが、学園生達により防がれている。  地殻変動に干渉しようとしたことがバレ、それを切っ掛けに学園に介入されたのだ。  手に入れた土地自体が、暴力じみた脅しで強引に買い上げていたり、場合によっては詐欺で騙して手に入れていたので、そこを突かれ土地を没収された。  どうにかしようにも、名のある大国は全て学園と協調しているので、それらに広げていた伝手を頼ろうにも断られる始末。  なので、異界同盟という秘密結社に、ギドは泣きついていたのだ。 「そもそもそっちが寄こしたもんが原因じゃろが!」  懇願していたギドだったが、相手の応えが鈍いので、脅すような口調で言った。 「儂がこうなったんはアンタらのせいじゃ! 責任があるじゃろ責任が!」 「そうですねぇ」  激昂するギドに、男は言った。 「確かに言われてみれば、あなたの言い分は正しいですねぇ」 「そ、そうじゃろ」 「ええ。それに私達としても、あなたのように我々の理念を理解して協力して貰える方は大事にしたいと思っています。それにあなたは商才もある。我々が世の中を牛耳った暁には、あなたのような方に商業をお任せしたいと思っているのですよ」 「そ、そうなんか。ははっ、そりゃまぁ、儂も力になれることがありゃ、力になりたいとおもっとるんじゃ」  相手が言うことを聞き、持ち上げるようなことを口にしたので、ギドは途端に下手に出る。 「本当に、あんたらの力になりたいと思っちょるんじゃ。じゃけど、それにゃ色々と人手もいるけぇ」 「ええ、分かっています。ですので、これらを差し上げます」  そう言って男が指を鳴らすと、無表情な男たちが現れた。 「これらは死人兵と言います。自分で動く死体、ゾンビのようなものと思って下さい」  男は説明すると、刃物を取り出し死人兵の1人に刺した。 「少々壊れても動きます。それに命令に忠実です」  そう言うと、男は命令する。 「自分で傷を抉りなさい」  刺された死人兵は言われた通りに従う。 「これらをあなたに差し上げます。好きに使ってください」 「こいつ、儂の言うこと聞くんか?」 「ええ。そのように設定しました」 「ほうか」  ギドは笑みを浮かべると、死人兵の1人を殴りつける。 「土下座せぇ」  命令通り従う死人兵。 「こりゃあええわ!」 「喜んでいただけたなら何よりです」  微笑みながら男は言った。 「異世界の技術を応用して作りました。こちらの世界にも死霊術はあったらしいのですが、それを使っていた魔王軍の幹部は殺されてしまったらしく、代替するのに手間が掛かりましたよ」  笑顔のまま男は続ける。 「素材となる人間がいれば幾らでも作れますから、売っていただければ買いますよ」 「ええの! 邪魔な奴ら殺したら処分する金かかっとったが、これからは儂が貰えるんか!」 「その通りです。色々と実験するのにも素材は必要なので、あるだけ買いますよ」 「そげぇに研究することあるんですかの?」 「もちろん。死人兵に吸血鬼の性質を付与して、勝手に増えるようにもしたいですから。まぁ、そうした事を進めるためにも、表の世界の顔役となって貰える方が必要なのです。なっていただけますか?」 「もちろんじゃ! 任せぇ!」  大口を叩くギドを、男は薄い笑みを浮かべ見詰めていた。  そして、不穏な事態が進行する。  ギドは死人兵を荒事に使い、裏社会で急速に力を着けていく。  同時に表の顔である商人としての伝手を使い、各地の復興事業に手を広げようとしていた。  斡旋業を介したピンハネや、土地の地上げ。  そうしたあくどい商売をしながら裏社会の伝手も使い、復興事業の労働者を博打や薬に引きずり込もうと画策している。  しかも搾り取れるだけ搾り取ったあとは、異界同盟に売りさばくつもりのようだ。  それを学園は、事前に察知している。 「魔法でみんなまとめて吹き飛ばした方が早いと思うゾ☆」  笑顔で言う【メメ・メメル】に、【ユリ・ネオネ】が返す。 「気持ちは分かります。というか私もそうしたいですけど、それしちゃうと地下に潜られちゃうんで、慎重に行きましょう。潜入工作してくれている生徒達の安全も確保しないといけませんし」  ユリの言葉通り、いま学園では、学園生による異界同盟への潜入工作が行われている。  ギド達の動きも、そうした学園生達からの情報で得た物だが、それを表に出すと潜入している学園生達の安全が危ない。  仮に安全が守られたとしても、相手に気付かれたら潜入工作が難しくなる。 「あくまでも偶然を装って、悪徳商人の悪巧みを防ぎつつ、異界同盟の本丸を叩く準備をしないといけないんです」 「面倒だナ」 「はい。ですが現時点では、この方針が最善です。ですので各地の復興事業に協力しつつ、不測の事態が起こりそうな場所に学園生を配置しましょう」  ユリの提言をメメルは許可し、課題が出されることになるのでした。
参加人数
2 / 8 名
公開 2022-09-04
完成 2022-09-18
学園生の日常 その3 (EX)
春夏秋冬 GM
 今日も今日とて、学園では学生たちの日常が続いている。 「いよっしゃー! セントリアに潜り込めたー!」 「マジか。おめでとう」  友人を祝いながら学園生は言った。 「それで、どんな伝手で入ったんだ?」 「親戚のおじさんが実験材料の納入業者してたから、その手伝いしつつ地道に研究員の人達に売り込みかけてたら採用された」 「執念だねぇ。でもこれで、異世界関連の実験できるんじゃねぇか?」 「そうなると良いけど、まだ先は長ぇな。それで、そっちはどうよ」 「俺か……あ~、色々とあるなぁ」 「んだよ、歯切れ悪いな」 「学園の中とはいえ、詳しく話せんのよ。ほら、例のアレ」 「それって、例の同盟のヤツか?」 「まぁ、そんなとこ。色々と水面下で動いてるから、俺も援護に入ってんのよ」 「は~、大変だな」 「他人事みたいに言ってる場合じゃないぞ。こっちの活動が巧くいかなきゃ、セントリアの異世界研究に待ったがかかるかもしれんし」 「なんでだよ!」 「そんだけヤベーってこったよ」 「いやそれダメだろ。せっかく潜り込めたっていうのに……頼むからどうにかしてくれ」 「へいへい、せいぜい頑張るよ」 「いやもっとやる気だせ! あーもー、そんなことなら俺も何か手伝わせろ! これまでの苦労を水の泡にさせてたまるか!」 「いいね。人手は多い方が良いしな。じゃ、先生の所に行こうぜ」  などという話が、学園では見られます。  他にも学園生ごとに、それぞれの目的に沿った日常を過ごしています。  中には、邪悪な何かと戦う者もいるでしょう。  あるいは、力なき人々に手を差し伸べるため奮闘する者もいる筈です。  ひょっとすると、過去の因縁にまつわる何かの決着をつけるため動いている人もいるでしょう。  そうした重苦しいことだけでなく、明るい日常を送る者もいるのです。  日常と一口に言っても、人によって千差万別。  その日常を守るために、学園は力を貸してくれるでしょう。    そんな中で、アナタ達は、どう未来を進みますか?  自由に、好きなように、アナタ達の物語を進めてみてください。
参加人数
5 / 8 名
公開 2022-09-13
完成 2022-10-02
GDプロジェクトに協力しよう (EX)
春夏秋冬 GM
 GDプロジェクト。  それは異世界の技術を組み合わせ作られる巨大機体計画のことだ。  発案者は、【シルク・ブラスリップ】。  彼女は今、学園で危険な実験を行ったことで休学処分(潜入工作のための演出)となったあと、異世界出身者が中核メンバーである異界同盟と呼ばれる組織の客分となっていた。  そこで、他のマッドサイエンティスト……――もとい、研究者達と共に、巨大機体の製造に勤しんでいる。  そんな彼女が、ライバル研究者のリーダー格、【ヤン】に呼ばれていた。 「何の用?」  フェアリータイプのエリアルなので、ふわふわ浮かびながらシルクはヤンに尋ねた。 「パイロットを寄こせって言うならダメよ」  シルクのチームのパイロット、【ゼノ】は、類まれな操縦技術を使い試作段階で目を見張る動きを見せている。  そのデータをフィードバックさせることで、シルクの研究チームはメキメキと成果を上げていた。 「ゼノは、うちの大事なパイロットなんだから。良いパイロットが欲しいなら、そこは自分で見つけて来ないと」 「道理だな」  落ち着いた声が返ってくる。 「……なにかあった?」  気になったシルクが声を潜めて聞き返すと、ヤンは応えた。 「この場所は盗聴対策をしてある。だから話すが、お前は学園と繋がってるな?」 「そりゃ、学園生だもの。休学中だけど」 「心配しなくても、その事で糾弾するつもは無い。むしろ協力を求めたい」 「……どういうこと?」  ヤンの真意を窺うように尋ねると、明朗な応えが返ってきた。 「結論から話す。私も含め、研究チームを学園に保護して欲しい」 「……危機感を抱くようなことがあったってこと?」 「ああ」  ヤンは応えると、詳細を説明し始めた。 「うちの研究チームの情報が、上に抜かれてる。それに合わせて、うちで製造中の機体の資材が流れているのを確認した。十中八九、うちのチームの研究成果を上が奪うつもりだ」 「それは……あり得るわね」  異界同盟の壊滅のため、潜入工作をしているシルクだが、ここしばらく内部で活動している中で、下部組織の上前を撥ねるような組織だというのは感じ取っていた。 (死人兵なんてものを作ってるぐらいだし)  死者を利用した兵隊を作り出し、異界同盟に所属している者に『死後の利用許可』を求めるような組織だ。 「研究成果だけ取られて捨てられるぐらいなら、学園に確保された方がマシってことね」 「そう取って貰って構わない」  ヤンは平然と応えると、続けて少し悪い顔を覗かせながら続ける。 「学園に保護を求めるが、その前に、少し協力して欲しい」 「……内容によるわね」 「なに、お前にとっても悪い話じゃない。そちらの機体と、こちらの機体の模擬戦を行いたい。その協力を学園に求める」 「逃げ出す前に実験したいってことね……良い性格してるわねぇ」 「否定はしない。だが、お前も望むことだろう? 自分が作った物を、思う存分動かしたいと思うのは、作り手の性だろう?」  そこまで言うと、続けて―― 「巨大ロボットでバトルしたいって思うだろ」 「分かる」  即答だった。 「やっぱり作るだけじゃなくて、動かしてみたいわね」 「くくくっ、さすがシルク・ブラスリップ。私がライバルと認めただけはある」 「はいはい。おだてても何も出さないわよ?」 「本音を口にしただけだ。まぁ、それはそれとしてだ。実利の面でも必要だ」 「実利?」 「ああ。うちのデータをパクってる部署だが、資材の動きが派手だ。恐らく大量生産しているはずだ。しかも死人兵をパイロットにしている可能性が高い」 「……そこまで予想できるの?」 「うちで作っている機体の性質と、死人兵の相性は良いからな」  ヤンのチームが作っているのは、機体と操縦者の感覚を一体化させる、『人機一体型機体(エクステンションマシン)』。  操縦者の肉体と機体を同調させることで高度な動きを実現できるが、操縦者に機体の損傷が痛みとして伝わる欠点がある。  だが死人兵なら、死んでいるのでお構いなしというわけだ。  それに対してシルクのチームが作っているのは、ゴーレム技術を併用した、機体にパイロットの補佐をするAIが組み込まれた『相棒型機体(パートナーマシン)』。  操縦者が誰でもある程度は動かせる利点がある代わりに、一定以上の動きを取るには、AIと操縦者の相性が重要になってくる欠点がある。 「――とにかくだ」  話を纏めるように、ヤンは言った。 「勝手に研究成果を盗み出すような奴らの下でこれ以上やってられんので逃げることにした。だがその前に、組織の金と資材で実験して、今ある機体をチューンナップする」 「……それを使って暴れて、逃げ出すってわけね」 「ああ。どうだ? この話、乗らないか?」 「乗った」  笑顔で応えるシルクだった。  そして学園に連絡が来ます。内容は――  異界同盟の兵器部門研究者を、学園に保護要請。  ただしその前に、巨人機体の稼働実験に協力を求む。  その際に得られたデータで機体を強化し、異界同盟からの脱退時に使用する計画を進行中。  というものでした。  これを受け、学園は課題を出し、アナタ達は協力するのでした。
参加人数
4 / 8 名
公開 2022-10-19
完成 2022-11-07
異世界留学 (EX)
春夏秋冬 GM
 世界は、無数に存在する。  それは異世界転移門があるセントリアが証明していた。  なにより、他の世界から訪れ、こちらの世界の『人間種』に変化した者が学園にも多数在学していることからも明らかだ。  その内の1人、高度な科学技術により『星の海』を渡ることさえ出来る世界から訪れた【レネンヴィオラ・ウェルス】は、今後のことを話し合っていた。 「メフィちゃんの申し出~受けることになったわ~」 「おーう。ありがたいですねー」  レネンヴィオラに礼を言うのは、【メフィスト】。  学園がある世界とは別の世界の人間だが、彼はレネンヴィオラ達に提案をしていた。  それは全界連盟(ワールドオーダー)と呼ばれる、異世界間の共存組織に入らないかというものだった。 「助かりますよー。星の海を渡れるほどの科学力を持った世界はー、中々お目に掛かれませんからねー」  メフィストが言うには、その段階に行くまでに、大抵の文明は滅ぶか停滞するとのこと。 「それでー、そちらの本部はどこに置くつもりですかー」 「いま~避難民を受け入れている惑星に~置こうと思うの~」  魔王との決戦時、レネンヴィオラの世界は惑星1つ丸ごと避難地にした上で引き渡すという離れ業をやってのけた。 「元々は~こっちの生物全部~避難させるつもりだった場所だから~広さも~居住性も十分だし~」  それだけ好条件の惑星を用意していたのは、いまレネンヴィオラが言った通り、場合によっては、こちらの世界の生き物を全て移住させるつもりだったからだ。  なぜならレネンヴィオラが所属している組織、CGFは、こちらの世界の住人の力では魔王を倒せないと判断していたのだ。  高度な科学を前提とした分析により、それは正しい見解ではあったが、幾つもの条件が重なり、魔王は無力化された。  結果、CGFは評価を改め、むしろ学園側に力を借りれないかと思っていた。なぜなら―― 「広さは十分だけど~ちょっと~大き過ぎるかもしれないの~」  何しろ惑星ひとつ分である。  それに比べ避難民は少なく、とてもではないが星を維持することができない。 「他から人を呼ぶことは出来ないのですかー?」 「ちょうど~そういう申し出があったんだけど~それはそれで問題があるの~」  メフィストの問い掛けに、レネンヴィオラは説明した。 「新しく入植してくれる人達の方が~すごく人数が多いの~」  余りにも数に差があるせいで、肩身の狭い思いをしてしまうかもしれないとのこと。そもそも―― 「避難民で~あちらに残る人は~こちらの世界で~肩身の狭い思いを~してきた人達だと思うの~。詳しく話せる人に~説明して貰っても良い~?」 「お願いしまーす」 「分かったわ~」  レネンヴィオラは応えると、空間投影型ディスプレイに1人の人物を映し出す。 『始めまして。私の名は【ダゴン】。異界の方、どうか見知りおいていただきたい』  それは頭髪がうねうね動く触手で、牙が百本はありカチカチと音を鳴らした、目が血のように赤いダゴ星人だ。  見た目は怖いが、理知的な声で物腰は柔らかい。 「ダゴちゃんは~参謀副長なの~」 「おーう、お偉いさんですねー。どうもでーす」  微妙にごまを掏ろうとするメフィスト。  そんなメフィストに、ダゴンは説明した。 『我々が最も懸念しているのは、最終的に戦争に発展することです』  ダゴンは恐れを口にする。 『避難民の健康診断で、そちらの世界の人は、こちらの世界では大幅にパワーアップすることが確認されています。その拡大した力で大きな戦争に発展したら、ただでは済みません』 「おーう、それはー……新たに入植する人達がー、一方的にやられちゃうかもってことですかー?」 『いえ、それは無いと予想しています。なぜなら入植を予定している人達は、遠い昔に、そちらの世界からこちらの世界に訪れた者達の子孫ではないかと推測されるからです』  遺伝子レベルで近しい種族である事は既に確認しているという。 『1人1人が、稀なレベルの力を持っています。幸い、問題行動をとるような人達ではないので大事にはなっていませんが、そちらの世界の住人と接触することでどういう変化が起きるか、予想も出来ません』 「おーう、それはー……こちらの世界のようにー、世界からの制約も何も無いってことですかー?」 『我々と、そちらの世界。そして貴方の世界の大きな違いは、恐らくはそれだと思います』  ダゴンは、思案するように無数の牙をカチカチ鳴らしたあと続ける。 『そちらの世界の上位者は、うまく力の制限をかけているようだが、こちらの上位者は野放図なようです。でなければ、宇宙怪獣だの、L01i星人だのは、生まれぬ筈ですから』 「おーう、それは恐らくー……世界を創った者がいなくなってるかー、自然発生タイプの世界ってことですねー」 『どういうことなのだろうか?』  ダゴンの問い掛けにメフィストは応える。 「世界と一口に言ってもー、色々あるのですよー。世界の外側に単独で存在できる『超越者』が創造神として創った世界もあればー、世界そのものが外界から創造者となるモノを喚び寄せる世界もありまーす」  学園のある世界は後者らしく、無限の魔力が存在する世界が『人』を喚び寄せ、世界のバックアップにより創造者とした世界とのこと。 「自然発生型の世界の場合はー、恣意的な制約が無い『自然な』世界になりますしー、世界を創った者がいなくなってればー、制約を課す者はいませーん。もっともー、なにか意図があって掛けてない可能性もありますがー」 『ふむ。興味深い話だが……と、申し訳ない。話が逸れそうなので元に戻させて貰うが、我々は今までになく稀有な力を持つ同胞の発生を恐れていると同時に、期待もしています』 「どういうことですかー?」 「一言で言うと~人手が足らないの~」  レネンヴィオラは言った。 「第一級侵略型生命体のせいで~CGFの隊員が~たくさん殉職しちゃったの~」  憂いを込めた声を一瞬だけさせ、気持ちを切り替えるようにレネンヴィオラは続ける。 「だから~学園生の子達に~一時留学して~もらえないかと思って~。そうすれば~抑止力の証明にもなるし~移民問題も和らぐわ~」 「なるほどー。それは学園生ならだれでも良いのですかー?」 「ある程度は力がないと~危ないわ~。学園の評価基準で言うと~レベル45以上ね~」 「おーう、それはどうにかできますよー」 『できるのかね!?』  ダゴンにメフィストは応える。 「こちらの世界にはー、魔王を封じた勇者の魂を核にした霊玉がありまーす。その力を使えばー、一時的にレベルを上げられまーす。試してみますかー?」 「いいかも~」  というわけで、一時的にレベルを上げ、レネンヴィオラの故郷である世界で任務を手伝う課題が出されることとなりました。  この課題、アナタ達は、どう動きますか?
参加人数
2 / 8 名
公開 2022-10-27
完成 2022-11-12
学園生の日常 その4 (EX)
春夏秋冬 GM
 今日も今日とて、学園では学生たちの日常が続いている。 「うおぉぉ、年末が近いせいで忙しい」  学食で、かっ込むように昼食をとる友人に学園生は声を掛ける。 「どしたん?」 「聞いてくれるか」 「いーよ。どーせ、それが目的で相席したんだろ?」 「まーな。てか聞いてくれよー。学園長が変わるじゃんか」 「そだな」 「それの玉突き事故で事務仕事が増えて借り出されてるんだよぉぉ」 「あー……お前、教職目指してるから良いんじゃね?」 「そりゃまぁ、コネとか出来るからそこは良いよ。でもさー、事務仕事はしつつ単位も落とすなってのは厳しくない?」 「普段から授業出てたら余裕だろ」 「……出席日数ギリギリなんだ」 「アホなん?」 「しょうがないじゃんかー色々あったんだからさー。で、物は相談なんだけど――」 「手伝えってんならバイト代は出せ」 「えー金取るのかよー……って、金出したら手伝ってくれんの?」 「今月金欠なんだよ。で、どうする?」 「おねがいしやす!」  などという話が、学園では見られます。  他にも学園生ごとに、それぞれの目的に沿った日常を過ごしています。  中には、邪悪な何かと戦う者もいるでしょう。  あるいは、力なき人々に手を差し伸べるため奮闘する者もいる筈です。  ひょっとすると、過去の因縁にまつわる何かの決着をつけるため動いている人もいるでしょう。  そうした重苦しいことだけでなく、明るい日常を送る者もいるのです。  日常と一口に言っても、人によって千差万別。  その日常を守るために、学園は力を貸してくれるでしょう。    そんな中で、アナタ達は、どう未来を進みますか?  自由に、好きなように、アナタ達の物語を進めてみてください。
参加人数
3 / 8 名
公開 2022-11-04
完成 2022-11-24
コルネ・ワルフルドの結婚式 (EX)
春夏秋冬 GM
 次期学園長になることが決まった【コルネ・ワルフルド】の日常は、大きく変わっていた。  仕事の質や量が変わったのはもちろん、色々と気遣いしないといけないことも増えている。  そして予想もしなかった厄介事も身に降りかかろうとしてた―― ◆  ◆  ◆ 「貴女との婚姻を望みます」  美丈夫な相手からの求婚に、コルネは渇いた笑みを浮かべる。 (これで何人目だっけ……?)  正直、げんなりしている。  バッサリと断れればいいのだが、相手は大国の大貴族。  学園の外交を考えて相手に恥をかかせるわけにはいかない。 (こんなことになるとは思わなかったよ……)   次期学園長になることで、仕事や責任が圧し掛かるのは覚悟していた。  けれどまさか、ハニートラップの如く、次から次に求婚されるのは予想外すぎる。 (学園と強い関係を作りたいってことなんだろうけど……)  王侯貴族なら普通の習わしなのかもしれないがコルネとしては、まっぴらごめんである。 「折角の申し出ですが、アタシには御付き合いしている方がいます」  気遣いつつキッパリ断る。しかし―― 「気にしません」  笑顔で相手は応える。 「相手の方がどなたかは存じませんが、私との婚姻をしていただければ、学園をより一層発展させてみせます」  プロポーズというよりセールスするようにぐいぐい迫ってくる。 「別れろとは言いません。ただ、婚姻は私と結んでいただきたい。先に私との子供は必要ですが、あとは相手の方と幾ら作られても構いません。嫡子でなければ、どうとでもなります」  かなりエグイことを言っているが、相手は自覚がない。  それが却って、コルネを冷静にさせた。 (学園長は、こういう時どうしたんだろう……)  理事長になる【メメ・メメル】のことを思い浮かべるが、「まぁ、メメルだし」の一言で納得できる。  実際、メメルに求婚しようなどという恐れ知らず……ではなく、覚悟を持った者はいなかった。 (結局は、あたしが与し易いって思われちゃってるんだろうなぁ……)  などと思いつつ、美丈夫をなんとかあしらうコルネだった。  その一部始終を、コルネは恋人である【クロス・アガツマ】に話していた。 「――ってことがあったんだよ」 「大変だったね」  人気のないテラスに置かれたテーブルに突っ伏すコルネを慰めるようにクロスは言った。 「もし何かあったら、言って欲しい。俺も立ち会うよ」 「ん……ありがと」  小さく笑みを浮かべコルネは礼を言うと、胸の中の物を吐き出すように喋っていく。 「それにしても、もう少し言い方あるよね。だいたい、子供を先に作れば後はどうでもいいって、生まれた子供の将来はどうするのって話だし」  怒るように話すコルネ。  それを聞きながらクロスは思う。 (子供、か……)  それは自分とコルネでは叶わない。  なぜならクロスはリバイバルだからだ。  未練さえあれば、実質寿命のないリバイバルだが、それは同時に、生身で生きていないことを意味している。  生身として触れることも出来ず、食事を同じように摂ることも出来ない。  そして同じ時を歩み生きていくこともないのだ。  コルネは、その事を理解し、その上でクロスと生きていこうと思っているが―― (俺は、彼女の想いに、なにを返し残せるだろうか……)  コルネの負担にならないよう表情には出さず、静かに思っていた。  苦悩を抱くクロスに、能天気な声で髭オヤジ――異世界人である【メフィスト】が提案した。 「生身の人間になりませんかー?」 「唐突になんだ」  人気のない場所で、突如現れたメフィストに胡散臭そうな視線を向けながらクロスは言った。 「リバイバルからヒューマンにするということか?」 「違いまーす。他の種族になって貰いまーす」 「他の種族?」 「そうでーす。近い内にー、新しい精霊王が生まれる予定なのでー、その加護を受ける新種族にならないかってことでーす」 「……詳しく話せ」 「オッケーでーす」  詳細を話すメフィスト。  それは次のような内容だった。  霊玉の力を使い、新たな精霊王を生み出す。  それにより霊玉の力を使い切り、核となっている勇者達の魂を解放。  新たな精霊王は、魔族のように『それまで精霊王の加護を得ていなかった種族』や、『他の精霊王の加護を受けている種族』にも加護を与えることが出来る。  加護を与えると、元々の種族としての性質と共に、新たな種族としての特質を得ることになり、それはある種の『変質』に近い。  リバイバルの場合は、初期化の技術と合わせることで、生身の人間になることが出来る。 「――ということでーす」  メフィストの説明を聞いたクロスは、黙考したあと尋ねる。 「具体的に、どういった変化が起こるんだ?」 「リバイバルの場合はー、元の種族であるヒューマンの体になるでしょうねー。年齢などはー、今の貴方の外見的な物に準じる筈でーす」 「ヒューマンとして生き返ると?」 「違いまーす。そもそもリバイバル自体がー、幽霊の類じゃありませんからねー。リバイバルは生身の肉体がないだけで生きてるのですよー」 「……ヒューマンとして肉体を得ることが出来るが、ヒューマンではないと?」 「そうでーす。なのでー、リバイバルになったりアークライトになったりすることは出来なくなりまーす。つまり定命の運命を受け入れるということでーす。貴方の場合はー、だいたい五十年ぐらいの寿命になるでしょうねー。リバイバルならー、未練さえあれば際限なく生きれますがー」  生身がないまま未練を抱え生き続けるか、定命を受け入れ生身として生きて死ぬか、選べということだ。 「まぁその前にー、色々と片付けないといけないことがありますがー」 「どういうことだ?」 「異界同盟って組織がー、精霊王の力を探ってるみたいでーす。邪魔されたら嫌なのでー、壊滅して欲しいですねー。学園も準備してるみたいですしー」 「その手伝いをしろということか?」 「いえいえー、その前に貴方はー、結婚式した方が良いと思いますよー」 「……随分と踏み込んだこと言ってくれるな」 「経験者としての助言でーす。しといた方が良いですよー」 「……お前、結婚できてたのか」 「娘もいますよー。娘の彼氏の実家の蔵から金目の物持ち出したらぶっ飛ばされましたがー。まぁそれはともかくー、結婚式しておいたらどうですかー? その方が対外的にケジメがついて良いでしょうしー。ちょっかい出してくる人達の調査に割かれてる人員もー、異界同盟の壊滅に集中できるので良いと思いますしー。じゃ、そういうことでー」  言うだけ言って去っていくメフィスト。  あとに残されたクロスは―― 「……結婚式か」  何かを決意するように呟くのだった。  ということがあり、時期学園長であるコルネとクロスの結婚式が執り行われることになりました。  その手伝いをして貰えるよう、課題も出ています。  新たな出発の門出を、みなさんで盛り上げてあげて下さい。
参加人数
4 / 8 名
公開 2022-11-13
完成 2022-12-03
悪の秘密組織のロボを粉砕せよ! (EX)
春夏秋冬 GM
 見上げるほどの鋼の巨体。  騎士を思わせる風体のそれは、異世界の技術を組み込んで作られたものだ。  全長十m。  型は、大きく分けて二つ。  機体と操縦者の感覚を一体化させる、『人機一体型機体(エクステンションマシン)』と、機体にパイロットの補佐をするAIが組み込まれた『相棒型機体(パートナーマシン)』だ。  機体性能は、次の通り。  人機一体型機体。  武装。目から放たれるビームと、指先から撃ち出される機関砲。  それに加え盾と剣を装備し、操縦者の魔法を増幅して使用することも出来る。  防御面では、光学兵器を拡散する特殊な塗料が塗られ、魔法で強度自体が上げられていた。  操縦者の感覚と一体化する性質から、戦いに集中し過ぎると、機体状況の把握が疎かになる可能性があったが、逐次操縦者に状況を把握できるように表示することで問題点は解決している。  機体を起動させると同時に、最初から全力を出し易い機体で、先行部隊に適している。  相棒型機体。  武装。剣と盾。近接戦タイプ。人機一体型機体と同じく、操縦者の魔法を増幅して使用することが出来る。  防御面では、人機一体型機体と同じ物を使用。  そして機体を制御しサポートするAI――リュミエールが内蔵されている。  学園生の協力により生まれたリュミエールは、株分けされL型AIとして全ての相棒型機体に組み込まれていた。  L型AIは、操縦者の生存を第一の命題としており、防御や回避といった守りに秀でた性質をしており、それが相棒型機体と相性が良い。  相棒型機体は、起動と共に出力が上がっていく性質のため、戦闘の初期では力を出し切れないが、逆に言うと時間が経てば経つほど強くなる。  出力が上がった状態では、全身に魔力を纏い防御力を強化したり、推進力として使用することで急加速も出来る。  また、掌に収束した魔力を撃ち出すことで、高い攻撃性能も持っていた。  先行部隊が進攻したあと、第二陣として突撃する追撃部隊に適している。  この二種類の機体が、それぞれ50。  合計100機が、魔導列車に搭載され目的地に向かっていた。 「最終チェック急いで! 万全の状態で送り出すわよ!」  整備員達に檄を飛ばしながら、自分も忙しく機体整備に動き回っているのは、【シルク・ブラスリップ】。  相棒型機体の、GD-X1シリーズの設計者であり、フトゥールム学園生でもある。 「【ヤン】! そっちの進捗は?」  人機一体型機体の整備チームリーダーに声を掛けると、テンションの上がった声が返ってきた。 「万全だ! 折角の貴重な実戦データが取れるチャンスだ! これ以上ないほどに仕上げてみせるとも!」  ノリノリである。  それもその筈、巨大人型兵器の軍団戦がこれから行われるのだ、マッドサイエンティ――もとい、熱心な科学者なら興奮しないわけがない。しかも―― 「人の成果をパクろうとした異界同盟にはキッチリ落とし前をつけて貰わねばな!」  恨みもあるのでひとしおである。  いまシルク達が向かっているのは、異界同盟と呼ばれる秘密組織の拠点のひとつだ。  異世界の技術を使って世界に覇を唱えようという、その組織に、シルクとヤンは一時所属していた。  もっともシルクは、潜入工作員ではあったが。  異界同盟の危険性を知った学園が壊滅させるために送り込み、そこで巨大人型兵器の開発をしつつ工作していたのだ。  その工作が功を奏し、ヤンを含めた技術者を多数学園側へと引き込み、いま異界同盟の拠点のひとつに向かっている。 「向こうにもこちらに匹敵する数の機体がある。全て叩き潰せるよう、機体を仕上げるぞ!」  ヤンの檄に整備員達は応える。  いま向かっている異界同盟の拠点には、ほぼ同数の機体があるのは調査していた。  シルクやヤンの設計した機体をベースにしているので基本性能は近いが、こちらの機体は学園生の協力により性能が上がっている。  それでも油断なく整備を続け―― 「あと20分で目的地に到着予定。操縦者は準備されたし」  先頭車両からの連絡が響く。それに続けるように―― 「さあ、始めるわよ! 戦闘準備!」  シルクが改めて檄を飛ばし、出撃の準備が急ピッチで進んだ。
参加人数
2 / 8 名
公開 2022-11-19
完成 2022-12-08
新たな精霊王 (EX)
春夏秋冬 GM
 精緻な巨大魔法陣。  見る者が見れば言葉を無くすほどの代物だ。  それが今、学園の運動場に敷かれている。  目的は、ただひとつ。  新たなる精霊王を生み出すことだ。 ◆  ◆  ◆ 「問題は無いと思うゾ☆」  運動場に敷かれた魔法陣を検分した【メメ・メメル】に、異世界人である【メフィスト】は返す。 「お墨付きをいただきましたー。これで安心して儀式を進められますよー」  メフィストが声を掛けたのは、【アンリ・ミラーヴ】と魔法犬【ココ】。 「あとは霊玉を精霊王の人達が持って来てくれればー、いつでも精霊王への転化の儀式を始められまーす。」  メフィストの言う通り、これから行われるのは新たなる精霊王を生み出す儀式だ。  霊玉の魔力を精霊王達により全て引き出して貰い、魔法陣に注ぎ込むことで実行される。  新たなる精霊王が産まれることで、魔族のようにこれまで精霊王の加護を得られなかった種族にも加護を与え、霊玉の力を消費し尽くすことで、霊玉の核となっている勇者達の魂を解放し、赤ん坊として初期化することで新たな生を与えようとしていた。  それを実現するために必要なのは、精霊王になり得る器を持ったモノであり、今ここにいるココこそが、その資格者だった。 「最後の確認になりますがー、本当に精霊王になるつもりがありますねー?」  メフィストの問い掛けに、ココは応える。 「うん。ボク、せいれいおうになる」  ココの応えを聞いたあと、メフィストはアンリにも尋ねた。 「止める気はありませんかー? 止められるとしたらー、貴方だけですしー」  これにアンリは、軽く首を振って応えた。 「ココの、やりたいことを、させてあげたい。それに精霊王になっても、問題は起らないと聞きました」 「それは大丈夫でーす」  メフィストは、アンリを安心させるように応える。 「ココちゃんに害はありませーん。単純にー、精霊王としての力を使えるようになるだけでーす」  メフィストが言うには、精霊王になったからといって精神や外見に変化は無いらしい。  単純に、精霊王としての力を得るだけとのこと。 「逆に言うとー、精霊王になったからといってー、いきなり成長するわけではないのでー、時間をかけて育ててあげる必要がありまーす。その役割をー、引き受ける気はありますかー?」 「ココとは、最期までずっと一緒にいるつもりです」  話を聞いてから、将来のことを考えていたアンリは迷いなく応える。 「ちゃんと考えて、決めました」 「好い応えでーす」  安堵するようにメフィストは言った。 「ほっとしてまーす。ではココちゃんにはー、魔法陣の中央に行って貰えますかー?」 「うん!」  元気よく応え、たたたっと駆けていく。そんなココに―― 「ぴっ!」  がんばれー! というように鳴き声を掛けたのは、見た目は手の平サイズの子犬の姿をした【シメール】。  元々は魔王が創り出した最強の魔獣だが、魔王決戦の時に初期化され、今では文字通り子犬になっている。  本来、世界の根源と繋がっているので、あらゆる生物の姿を取ることも出来、単体で精霊王を超える戦闘力を得ることも出来るのだが、現在は無害な子犬でしかない。  ここからの育て方次第で、善にも悪にもなり得るのだが、ココと同様にアンリが育てているので、その心配はないだろう。 「ぴー!」  「がんばるー!」  シメールの応援に応えながら、ココは魔法陣の中央で、おすわりして待機している。すると―― 「おーう、霊玉持って来てくれましたねー」  精霊王達が空を飛び、あるいは地面から浮かび上がる様にして現れる。そして―― 「それでは始めましょー」  新たなる精霊王の生誕が始まろうとしていた。
参加人数
3 / 8 名
公開 2022-12-01
完成 2022-12-21

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