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王冠――クリスマスを控えて


ストーリー Story


●提案と妥協
 『ホテル・ボルジア』本社。
 来るべきクリスマスの飾り付けが進行中である大ホール。

 【セム・ボルジア】は不動産会社『オーク』社長【トリス・オーク】に対し、いかにも親しげな表情を作った。
「これはこれは。よくいらっしゃいましたオークさん。こうして直にお会いするのは――二カ月ぶりですかね?」
 トリスはほんの一瞬躊躇したが、彼女が差し出した手を捨て置くことなく、握手した。
「そうだね。それくらいになるか。不義理をお許し願いたい。何しろこちらも、忙しかったものでね」
「分かりますよ。裁判というのは実に煩瑣で、面倒なものですからね。貴重なお金と時間を食うばかりで。もっと手続きが簡略化されていいと思いませんか?」
 トリスの口元が一瞬憎々しげに歪んだ。髭が生えているのでうまく隠されたが。
「そうですな。全く同意見です」
 握手を終えた二人はそのまましばらく黙る。飾り付けの作業を見るふりをして。
「……そういえばボルジアさん。あなたのホテルで最近、展覧会が開かれたそうですね」
「ええ。学園の方から話を持ちかけられましてね。よろしければ、と場所を提供した次第です」
「ほう。学園と随分親しいようですな。うわさでは、グラヌーゼで事業展開をしようとしているとか」
「ええ」
「あんな場所にホテルを建てて、集客が見込めるものですかな?」
「見込めますよ、もちろん。今すぐにということでないのは確かですが――まあ、私が生きているうちには。あそこにはそれだけの潜在力がある」
 トリスは紳士らしく、優雅に頷いた。そして先程のお返しとばかり、刺のある言葉を吐き出した。
「あなたがそこまで言うのなら、そうなんでしょうな。実に商売のうまい方ですから。その若さで莫大な富を手にしておられる。ともに祝うご家族が一人もご存命でないというのは、寂しいことでしょう」
 セムがトリスに横目を向ける。蛇のように鋭く。
 トリスは手にした杖でこつこつ床を叩く。
「いや……そうでもありませんかな。ご家族の死はあなたが望んだものだから。ああそういえば、そういう趣旨の絵が応募されてきたそうで」
 沈黙。からの反問。
「ええ、応募されてきましたとも。ところでオークさん。どなたやらの轢死は、あなたが望んだことですか?」
 トリスの瞳孔が丸くなった。白目から浮き上がるように。
「一体何のことですかな?」
「さあ。私にはいまいち分かりません。でも、あなた自身は分かってらっしゃるんでしょう。多分」
 セムは体を斜めに向けた。トリスと相対する形になるように。
 顔は笑っているが、目は笑っていない。お互いに。
「展覧会に私の絵を応募してきた子ですがね、学園に保護されましたよ。ああなるともう、誰にも手出しが出来ませんね」
「なぜ私にそんな話をするのですかな? 関係のないことではないですか。むしろそれで残念に思っているのはあなたではないですかな?」
「私が? どうして」
「面白からず思っているでしょう。ああいう絵を描いてきた相手について」
「そりゃあね、気持ちのいいものではありませんね。しかし、あなたは私以上にそうでしょう。私と違って非常に世間の評判がよろしい方ですから、醜聞は命取りになりかねない。今度のシュターニャ市会議員選に立候補されるんでしょう。そんなタイミングで後ろ暗いプライバシーに踏み込んでこられるのは、困りますよねえ」
 沈黙。
「何を要求している」
「私たちの間の係争案件、あなたの側から取り下げていただけますか? そうしたら私は、あなたのお考えを、先方へお伝えしますよ」
 トリスは顎を突っ張らせた。奥歯を噛みこんだのだ。セムの申し出を飲まなければいけないと悟って。

 【ラインフラウ】は社長室の窓から、立ち去っていく馬車を見送る。それから軽やかに身を翻す。椅子に座っているセムに抱きつく。はしゃぐ様に。
「お手並み鮮やかねえセム。ウルドの件をこういう風に利用するなんて、悪知恵のよく働くこと――で、これから学園に行くの?」
「もちろん」
「さて、皆納得してくれるかしら?」
「してもらわないと、困ります。ウルドさん本人のためにもね」

●お祭り近づく学園町角
 【ウルド】は、通りに飾られているクリスマスツリーを前に羽を止め、呟いた。
「……きれいやなあ」
 そのままぼうっと数秒見とれる。
「おーい、ウルドよ」
「うるどちゃん、こっちよ」
 【ドリャエモン】と【トマシーナ・マン】が呼ぶので、そちらへ急いで飛んで行く。小さな買い物カゴをぶらさげて。
「次はどこに行くんや」
「おにくやさん。プディングにつかうこまにくをかうのよ」
 クリスマスのための買出しは、まだしばらく続きそうだ。

●等価交換
 保護施設を訪れたセムは、施設関係者の面々、並びにウルドの祖父母を前にこう言った(ウルド本人とトマシーナ、ドリャエモンは場にいない。買出しに行っているので)。
「単刀直入に申しますと、ウルドさんの家を焼いた犯人はオークさんで間違いないです。けれどもその件については、これ以上追求しない方がよろしいかと」
 【アマル・カネグラ】は戸惑った顔で聞き返す。
「なんでですか?」
「オークさんがおっしゃったのですよ。『そうしてくれるなら、内々に賠償金を支払ってもいい』と」
 【ラビーリャ・シェムエリヤ】はセムが、相手側と何か取引したらしきことを察した。普段にない厳しい顔つきで、彼女を詰問する。
「……どういうこと、セム。一体向こうに何を話したの」
「あの子が学園にいることを伝えただけです。そうしましたらあの方は、今回のことを不問に付してくれるなら、以降けしてウルドさんに関わることはしないと明言されました」
 ウルドの祖父が憤懣やるかたなしの声を上げる。
「そんな勝手な話があるか! わしら、家を焼かれて死ぬところだったのじゃぞ!」
「オークさんはそこまでするつもりはなかったということでした。全て現場の暴走だそうです。彼は『穏便に、全ての絵の買取をして来い』と言っただけだそうで」
 アマルがまん丸な顔を傾げて、うーん、と唸った。そしてウルドの祖父に聞いた。
「不審者が来たとき、お金の話、してました?」
「そんなものは知らん! 連中、ただ何も言わんと押し入ってきただけじゃ!」
 アマルは無言でセムに目を向ける。
 軽く肩をすくめたセムは、言葉と言葉の間にゆっくりと間を置いて、続けた。
「家を襲った人たちは、全員所在が知れません。オークさんが襲撃を命令したという証拠はありません。この件を正面から訴え出ても、勝ち目はないです。オークさんはおっしゃいましたよ。『法廷に持ち込むなら、私は私の名誉のために、断固として戦う』と」
「あのう、それって脅しでは」
 アマルの突込みに対しセムは、肯定も否定もしなかった。
「私思うのですが、ウルドさん、並びにお爺様お婆様は、この先学園領内に定住すべきではないですか。学園ならば、ウルドさんの能力を受け入れる土壌がありますから。お家についても、いったん手放されてはいかがですか。私が引き受けてもよいのですよ」
 ウルドの祖母はとんでもない、というように首を振る。
「そんなことを言われても、あそこは先祖代々の土地です。売るなんて、とんでもない」
「お気持ちはよく分かります。とは言いましても、ウルドさんの能力が消えない限り、この先ああいうことがまた起きますよ。いくらでも」





エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2021-12-25

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2022-01-04

登場人物 2/8 Characters
《猫の友》パーシア・セントレジャー
 リバイバル Lv19 / 王様・貴族 Rank 1
かなり古い王朝の王族の娘。 とは言っても、すでに国は滅び、王城は朽ち果てた遺跡と化している上、妾腹の生まれ故に生前は疎まれる存在であったが。 と、学園の研究者から自身の出自を告げられた過去の亡霊。 生前が望まれない存在だったせいか、生き残るために計算高くなったが、己の務めは弁えていた。 美しく長い黒髪は羨望の対象だったが、それ故に妬まれたので、自分の髪の色は好きではない。 一族の他の者は金髪だったせいか、心ない者からは、 「我が王家は黄金の獅子と讃えられる血筋。それなのに、どこぞから不吉な黒猫が紛れ込んだ」 等と揶揄されていた。 身長は150cm後半。 スレンダーな体型でCクラスらしい。 安息日の晩餐とともにいただく、一杯の葡萄酒がささやかな贅沢。 目立たなく生きるのが一番と思っている。
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。

解説 Explan





これは『王冠――新たな保護要請』に続くお話です。


ちょっとばかり早いですが、クリスマス前夜的な雰囲気。
セムがなにやら画策しています。
今のところ彼女は、自分の利害と絡めて、『ウルド一家の安全確保』を最優先に考えております。それ以外の意図は持っておりません。
トリス・オークとの会談内容について、聞けば答えてくれます。エピソード本文に出ている範囲内のことに限りますが。

とにかく、今回の襲撃については不問にして欲しい。
そうすれば賠償金(?)を内々に払おう。
不問にしなかった場合は徹底的に争う。
以上がトリスのスタンス。

そういうことなら勝てそうもない争いを避け、貰うものは貰っておいて、今後のための蓄えなりなんなりにすべきだろう、というのがセムの考え。

以上を踏まえて今後の対応を考える、というのが今回の課題の趣旨です。

余裕があれば、トマシーナたちのクリスマス準備を手伝ってあげてくださいませ。


※これまでのエピソードやNPCの詳細について気になる方は、GMページをご確認くださいませ。
そういうものが特に気にならない方は、確認の必要はありません。そのままプランを作成し、提出してください。エピソードの内容に反しない限り判定は、有利にも不利にもなりません。



作者コメント Comment

Kです。
フライング気味ですが、クリスマス前夜のお話です。
悩ましい事態ではありますが、皆でよい答えを探しましょう。
ベストではなくベターを目指して。




個人成績表 Report
パーシア・セントレジャー 個人成績:

獲得経験:90 = 60全体 + 30個別
獲得報酬:2250 = 1500全体 + 750個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
そうね……やれそうなことは多いけど、何をやるか判断する材料がもう少し欲しい気がするわ
だから、「今回は」争わないというのには反対しないけど、図書館やらでオーク氏絡みの事件を調べてみようかしら

◆目的
オーク氏絡みの事件を調べ、今後に備える

◆調査
図書館やらで、オーク氏絡みの事件を調べてみる
不動産会社……強引な土地買い上げを下請、孫請使ってやってたりするかもね
あと、近々行政主導の開発が始まる土地を、事前に格安で入手して利鞘を得てるとか

評判悪い同業者や、役人との繋がりなんかを中心に調べつつ、他にも面白いネタがありそうなら調べてみる

その後、トーマスさん誘ってトマシーナさん達のクリスマスの用意を手伝いましょう

朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
ひとまずセム様にオーク氏との会談の内容をお聞きしますわ。それからウルド様の絵に描かれた轢死について、その被害者等調べがついているのかも

その上で、オーク氏と法律上争う事については確かにこのままでは勝ち目がないとは思いますし、セム様の思惑がどうであれ賠償金を受け取って解決する事自体には反対しませんわ

ただ、ウルド様ご一家へ手出ししない事に関しては口約束だけではなく念書を書いて皆の目の前で署名する事、及びウルド様ご一家へ直接謝罪する事、慈善事業にもご熱心だそうですから(皮肉ですが)交通事故被害者への支援団体への相当額の御寄附、くらいは最低条件として彼にのんでもらいたい所ですわ、とセム様に提案してみます

リザルト Result

●その話、丸呑みは出来ない
 ――今回のことを不問に付してくれるなら、以降けしてウルドに関わることはしない。そうしてくれるなら、内々に賠償金を支払ってもいい。法廷に持ち込むなら、断固として戦う――。
 被害者に対し随分虫のいい申し出だ。
 とは言うものの【朱璃・拝】は【セム・ボルジア】が持ってきた提案に、一定の理解を示す。
「……オーク氏と法律上争う事については確かにこのままでは勝ち目がないとは思いますし……賠償金を受け取って解決する事自体には反対しませんわ」
 その上で彼女は次の二つについて、確認を取る。
 一つ、【トリス・オーク】との会談内容。
 そしてもう一つ、【ウルド】の絵に描かれていた『轢死』について、被害者の見当はついているのかという旨。
 最初の質問についてセムは、包み隠さず教えた。自分と相手が実際口にした言葉を、全部。
 しかし二番目の質問については、明らかなところを示さない。
「そうですねえ……なんとなくは。割と最近の事案ではありますよ。シュターニャの再開発にからんでの案件ですからね」
 ヒントはやるから自分で調べてくれ、ということらしい。
 相手との関係上、あからさまに言えないこともあるのだろう。そのように察しつつ【パーシア・セントレジャー】は、セムに聞いた。
「その事案、新聞なんかに出ていたりしたかしら?」
「ええ。出ていましたよ。特集記事も一回か二回組まれたんじゃなかったでしょうか。もっともオーク氏と関連づけたものではありませんでしたがね」
「そう。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。ところでパーシアさん、あなたの賠償に対するご意見は?」
「そうね……『今回は』争わないというのには反対しないけど」
 パーシアはウルドの祖父をちらりと見やった……憤りに満ちた目で口をつぐんでいる。
 今度はウルドの祖母を見た……うな垂れ、涙ぐんでいる。
 彼らが受けた痛みをないがしろにして、話を進めてはいけない。たとえやむなく先方の申し出を受けるとしても、丸呑みはすべきではない。
 思いながらパーシアは、言葉を続ける。やんわりとした非難を込めて。
「でも、今回の調停案、ウルドさんたちの意見は一切入っていないでしょう? こちらが出してやった条件に、イエスかノーか答えろ。ノーなら戦う。だものね。それは……いかがなものかしらね?」
 セムは明るく笑った。気の利いた冗談でも聞いたみたいに。ついで両手を組み軽くこすり合わせる。商談に臨むように。
「まあ、そうですね。内容について、交渉の余地はありましょう。どうしても何かを買わないといけないにしても、言い値で引き受ける必要はないわけですからね? さて、どんな提案がありますか? 仰ってくだされば、全て先方へお伝えいたしますよ」
 朱璃が一呼吸置いてから『提案』を列挙する。
「ウルド様ご一家へ手出ししない事に関して、念書を作成してくださること――皆の目の前での署名つきで。及びウルド様ご一家へ直接謝罪する事――」
 次の言葉を口にする際彼女は、唇が皮肉に歪んでくるのを感じた。でも、それを押さえることはしなかった。あえて。
「――慈善事業にもご熱心だそうですから、交通事故被害者への支援団体への相当額の御寄附。以上は、最低条件として飲んでもらいたい所ですわ。今の言葉、全て先方へお伝えいただけますか?」
「いいでしょう。で、念書を得たとしてどうします?」
「念書は学園で保管するようにすればよいと思いますわ。ウルド様ご一家の土地や住居の再建に関しては、芸術コースの課題として学園で支援、ということも考えてみていいのではないか、という気がしていますの」
「そうですね。そうした方が安全かも知れませんね」

●断片
 セムが戻って行った後パーシアは、早速図書館へ行き、シュターニャ再開発計画の文献……近年発行された新聞や業界紙、雑誌等を漁る。
 見ただけで目が満腹になるほど膨大な文字の中から、必要なものだけを抜き出す。
 どうやってか?
 直感でだ。
 手擦れ跡が著しいものは特に要注意。それだけ人に興味を持って読まれているということだから。

(……やれそうなことは多いけど、何をやるか判断する材料がもう少し欲しい気がするわ)
 再開発に関する醜聞は、すぐに見つけられた。
『再開発居住区住民が語る開発の影――手薄な生活再建保障』
『工事会社の関係筋による反対住民への嫌がらせ。立ち退き工作』
 しかしそのどの記事も、オーク不動産の関与について、断定的な見方はしていない。
 よほど潔白と見られているのか、あるいは何らかの遠慮があるのか。
『複数企業による、再開発直前の土地格安購入。市への再売却疑惑』
 と言う特集記事には、ホテル・ボルジアの名も出ていたりした。
『活躍を期待されていた再開発計画課の若手官僚が、公表前の土地開発計画・土地購入の予定価格を多数企業に漏らしていたことが判明した。当人は即日辞表を提出。関連企業には行政処分検討。オーク不動産は悪質だとして、関連企業の筆頭とされるホテル・ボルジアを提訴。事実誤認としてホテル・ボルジア側も即日オーク不動産を提訴。事態は泥沼の様相に』
(なるほど、係争中ってこのこと……)
 セムは、この記事に書かれているようなことを本当にしたんだろうか? 
 ……しそうだ。あの人のことだから、ギリギリ法に触れていない形をとってだろうが。
 思いつつパーシアは資料漁りを続ける。この官僚がどうなったか、その後を見たいと思って。
 それはすぐ見つかった。
『辞職した中堅官僚。交通事故により死亡』
『法廷証言叶わず』
『早朝の惨事。記者に追われた揚げ句の衝突事故。轢いたのは工事用の砂利運搬馬車』
 パーシアは寒々とした気持ちになって、呟く。
「ねえ……これって、蜥蜴の尻尾切りって奴じゃないかしらね?」

●クリスマスの準備
(勝てる勝てないは別として、オーク氏がスキャンダルにまみれてもそれ自体は自業自得。ただその事でロンダル様やそのご両親のように事件に関係しない方が不幸になるとしたら……そんな事をする権利が私達にあるのかどうか)
「しゅりねえたんどうしたの、おっきなためいき」
 よもぎ白玉団子を丸めている【トマシーナ・マン】が不思議そうに、朱璃の顔を見上げる。
 彼女の声で我に返った朱璃は、照れ隠しのような微笑を浮かべた。
「いえ、ちょっと……トッピングの苺が多すぎたかな、と思いまして」
 そう言いながら彼女は、籠に山盛りの苺を指さす。
 あたりに漂うのは、こうばしい香り。彼女とトマシーナが協力して作った、米粉のスポンジケーキがオーブンで焼けているからだ。
 それとは別に強いスパイスのこもったような匂いもする――こちらは、蒸し上げられているプディングのもの。
「そんなことないわ。おおければおおいほど、いいもの。わたしいちごだいすき」
「そうでございますか。安心いたしましたわ」
 戸口からパーシアが、【トーマス・マン】を伴って入ってきた。
「ごめん、遅くなったわ」
「お手伝いすること、まだ残ってる?」
 朱璃は彼女らに、ツリーの飾り付けをしているウルドを手伝ってくれるよう頼んだ。
 ちょうどスポンジケーキが焼き上がる。
 朱璃はそれをオーブンから出す。
 トマシーナと一緒に苺を輪切りにして張り付け、さらし餡をまぶし、ヨモギ団子でデコレーションする。

●蛇の道は蛇
「――念書、署名、直接謝罪、交通事故被害者への支援団体へ相当額の御寄付」
 手中の札を一つ一つ開陳したセムは、オークに尋ねた。
「この条件のうち、いくつ実現出来そうですか?」
 オークは苦いながらも穏やかな表情を浮かべている。
「随分条件が多いですな。あなた、何か入れ知恵しましたかな?」
「いいえ。私はあれしろこれしろとは言いませんよ。ただあなたの言葉を伝えただけなんですから。で、どうします? どのあたりまで飲めそうですか? それをお教えいただけたなら、私はまた彼らに改めてお伝えしますのでね――おせっかいではありますが、出来ないことは出来ないと言った方がよいですよ」
 オークは杖に体重をかける姿勢で、しばし考えた。そうして注意深く言葉を運ぶ。
「謝罪については私は直接伺えません。秘書に行かせましょう。念書には彼が、代理人の肩書きで署名致します。寄付ですが、私は普段から出来る限りのことをしております。しかしまあ、これもいい機会かも知れませんから、増額致しましょう」
「寛大にして、賢明なご判断です」
「あなたも、そういうことを少しはしてみては?」
「してますよ。リターンがあると判断出来ればね」
「実に貧しい心根ですな」
「お褒めの言葉どうも」

●よき夜を
「めりーくりすまあす」
「おめでとう」
「おめでとー」
 今年も保護施設ではささやかなお祝いが開かれている。
【ミラ様】はそのことをうれしく思う。ツリーのてっぺんに鎮座しながら。
 新しく入ってきた人たちも、幸福になれますように。
 外は小雪がちらついている。きっと明日は、一面に積もることだろう。






課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
王冠――クリスマスを控えて
執筆:K GM


《王冠――クリスマスを控えて》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2021-12-19 11:37:12
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝ともうします。どうぞよろしくお願いしますね。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 2) 2021-12-21 19:21:52
さて、どうしたものですか・・・。セム様の思惑はともかく、このままでは確かに争っても勝ち目はなさそうなのですわよね・・・。争わない、という事を前提とするなら、賠償金は支払うと言ってはいますがそれに加えて最低でもウルド様ご一家へのきちんとした謝罪と今後絶対手を出さないという確約は必要かとは思いますが。

とはいえオーク氏が過去にも犯罪を犯しているならそれを見逃す事は正義にもとる、という事にもなりますがそれも立証のしようが無い事でもあるのですわよね・。・・。それにオーク氏自身はともかく、前回出てこられたロンダル様はオーク氏の甥、という事になるのでしょうか。オーク氏を追い詰める事でロンダル様が不幸になるなら、私達にそんな権利があるのか、とも思ってしまいますし、これはなかなか難しいですわね、やはり。もう少し考えてみますわ。

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 3) 2021-12-21 22:13:14
ご挨拶が遅れてごめんなさい。王様・貴族コースのパーシア。よろしくお願いします。

まあ、オークがウルドさん一家の命を狙ってただけなら、賠償金踏んだくって……もと居た森の家の土地に家を再建できるようにして、ウルドさんのお爺さん達夫婦の家を確保する。
って手もあるけど、お爺さん夫婦があの森に戻ったら、掌くるーんになる可能性も否めないのよね。

それに、臭いものに蓋をするような対応に違和感を感じるのは理解できるわ。
(後ろのが急に眼科通いでしばらく片目が不自由なんで、相談に顔出せる頻度が減る&誤字脱字が増えそうです。申し訳ないです。)

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 4) 2021-12-21 22:54:08
パーシア様の背後様はお大事にですわ。

正直どうするにせよ、もう少しオーク氏に関して詳しく知りたい所ですわね。過去に犯した罪を反省して以後は人の為に尽くして来た、というようならまだ提案を飲んでもいいかもと思えるのですが、ウルド様の家を襲わせた所からして外面はいいようですが内面は良い人、とはいえないようですけれど。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 5) 2021-12-24 19:49:12
ひとまずオーク氏と法律上争わない、という事に反対はしませんが、ウルド様ご一家へ手出ししない事については口約束だけではなく念書を書く事、ご一家に直接謝罪する事、交通事故被害者への支援団体に相当額の寄付をする事、を最低条件として加える事を提案してみますわ

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 6) 2021-12-24 22:09:55
(ご迷惑おかけします。ありがとうございます。)

そうね……やれそうなことは多いけど、何をやるか判断する材料がもう少し欲しい気がするわ。
だから、「今回は」争わないというのには反対しないけど、図書館やらでオーク氏絡みの事件を調べてみようかしら。