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新年あけましておめでとうございます。


ストーリー Story


●年始のシュターニャ
 ボルジア邸。
 【赤猫】は、豪華な居間の椅子の上。丸くなって、のんびり寝ている。
 【セム・ボルジア】並びに【ラインフラウ】は本社へ行っているから、邸の中は空っぽ(もっとも、いつもほとんどそんな感じだ)ここにいるのは彼女一人。
 うううや。
 やややあ。
 声が聞こえたので目を開けると、数匹の猫が寒そうに窓から覗いていた。
 うーや。
 返事をした赤猫は伸びをし起き上がり、部屋を出て行く。野良友達を家の中に入れてやるために。

●年始の学園
 【ラビーリャ・シェムエリヤ】は教員住宅で一人、お雑煮を食ている。
「……静かだねえ……」
 確かにこの時期学園は、常になく静かだ。多くの生徒、並びに教員が帰省するからである。
(今、誰と誰が学園から離れてるかなあ……)
 つれづれなるままにラビーリャは、指折り数える。
(アマル・カネグラは帰省……ガブ、ガオ、ガルも帰省……トーマスとトマシーナは、ドリャエモン先生が実家へ連れて行ったっけ……後、ロンダル・オークも帰省したね……それから――)
 一通り名前を連ね確認した後、今度は、まだ学園にいる存在について思いやる。
(ウルドはずっと保護施設にいるね。おじいさんおばあさんと一緒ではあるけど……)
 年始の挨拶がてら様子を見に行ってみようか。
 そう思って彼女は、お雑煮を食べ終えた後、保護施設に向かう。手土産の菓子折りなど買ってから。

●年始の田舎
 【ドリャエモン】の故郷は、火山地帯に程近いのどかな田舎だった。
 雪が降る中、あちこちから湯気が上がっている。
 見える家は皆石作りだ。壁はもちろんそうだが、屋根も、薄く切った石片で葺かれている。でも、全体的に丸っこい作りであるし、土を塗って凹凸が目立たないようにしてあるしで、いかつい感じはしない。
 集落の真ん中には広場がある。広場には、火山岩で出来た粗削りな噴水が作られている。噴出しているのは、水ではなくお湯。
 おかみさんらがその周囲に集い、山積みにされた服を洗っている。
「さあ、ついた」
 【トーマス・マン】と【トマシーナ・マン】は、物珍しい光景に目を見張る。
 ドリャエモンたちの姿を目に留めるや彼女らは、気さくに声をかけてきた。
「ありゃ、ドリャエモン様。お帰りなされましたか」
「おおこれはババ殿。お久しぶりでございます。洗濯ですかな?」
「そうさ、なにしろ新年一番のアカ落としをしなきゃならないからね」
 大掃除といえば大体年末にするものだが、ここでは年始にやるものらしい。
 【ドリャコ】が朗らかに言った。
「すぐ私も、洗い物をもって来なければいけませんね」
「ああ、そうしなそうしな。土産話などたくさん聞かせておくれよ。あんたたちからそれを聞くのを、皆、楽しみにしていたんでね」
「はいな」
 ドリャエモンの家がある。彼らの息子たち、並びにその妻子が出迎えに出てきた。皆親によくにてかっぷくがいい、その子供たちもいる。
「父上、母上、よくお戻りなされた。これが新しく迎えた、我々の弟と妹ですかな?」
 見知らぬ大きなドラゴニアたちに囲まれて、トーマスとトマシーナはちょっと緊張気味だ。
 ドリャコはそんな彼らの背を押して、安心させる。
「大丈夫よ、トーマス、トマシーナ。皆、仲良くしてあげてね」
 孫、ひ孫たちは、揃ってはあいと声を上げる。そして遊びに誘う。
「トマシーナちゃん、一緒にたこあげしよ」
「こま回しと、羽子板もあるよ」
 同じ年頃の子供たちの申し出に、トマシーナは気を取り直した。元気よく頷く。
 トーマスにもまた、同じ年頃の子供たちが声をかける。
「トーマス、一緒にお供えの餅をつこう。それが新年の男のお勤めだ」
「う、うん……」
 と答えはしたものの、正直トーマスには餅つきというものがなんだか分からない。
 こそっとドリャエモンに聞いた。
「おじいちゃん、餅ってなあに?」
 餅つきの準備として袖をまくり上げていたドリャエモンは、おや、と声を上げる。
「トーマスは、餅を見たことはなかったかの?」
「うん……」
「餅というのはな、食べ物だ。もち米という米を蒸し、ついてこねて、形を整えて――」
 説明している間に手際よく、準備がなされていく。米を蒸すための大きなカマド、せいろ、それから大きな石臼、杵。餅を丸め冷やすためのすのこ。交ぜ込むための黒豆やヨモギ……。

●年始の保護施設
 【黒犬】は寒いのなんかへっちゃらとばかり小屋の外へ出て、寝そべっている。
 人の気配がしたので顔を上げる。
 それがラビーリャだと分かった時点で再び顎を落とす。
「新年あけましておめでとう、黒犬」
 と言われても、尻尾を軽く一振りするだけ。実に無愛想。
 でもその数秒後には、もっと奮発して勢いよく尻尾を振った。彼女が大きな骨をよこしてきたので。
「はい、お年玉」
 黒犬が喜び勇んで骨をかじり出すのを尻目に、ラビーリャは、玄関のチャイムを鳴らす。
「失礼します。ラビーリャです――あけましておめでとうございます」
 一番先に出てきたのは、施設に住まう光の精霊【ミラ様】。
 次に出てきたのは、【ウルド】。
「あ、先生。あけましておめでとうさんでございます」
 三番目に祖母が出てきた。
「まあまあ、よくいらっしゃいました。わざわざご挨拶すみません」
「いいえ。あ、これ、つまらないものですがお納めください」
「まあま、こんなによいものをいただきまして……どうぞおあがりになってくださいませ。お茶くらいはお出しいたしますので」
 最後に祖父が出てきた。
「おや、これはこれは。新年おめでとうございます」
「これはこれは――」
 型通りのあいさつを一通り終えたラビーリャは、奥へ入って行く。ささやかな新年祝いをするために。





エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2022-01-09

難易度 とても簡単 報酬 通常 完成予定 2022-01-19

登場人物 3/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《猫の友》パーシア・セントレジャー
 リバイバル Lv19 / 王様・貴族 Rank 1
かなり古い王朝の王族の娘。 とは言っても、すでに国は滅び、王城は朽ち果てた遺跡と化している上、妾腹の生まれ故に生前は疎まれる存在であったが。 と、学園の研究者から自身の出自を告げられた過去の亡霊。 生前が望まれない存在だったせいか、生き残るために計算高くなったが、己の務めは弁えていた。 美しく長い黒髪は羨望の対象だったが、それ故に妬まれたので、自分の髪の色は好きではない。 一族の他の者は金髪だったせいか、心ない者からは、 「我が王家は黄金の獅子と讃えられる血筋。それなのに、どこぞから不吉な黒猫が紛れ込んだ」 等と揶揄されていた。 身長は150cm後半。 スレンダーな体型でCクラスらしい。 安息日の晩餐とともにいただく、一杯の葡萄酒がささやかな贅沢。 目立たなく生きるのが一番と思っている。
《新入生》ルーシィ・ラスニール
 エリアル Lv14 / 賢者・導師 Rank 1
一見、8歳児位に見えるエルフタイプのエリアル。 いつも眠たそうな半眼。 身長は115cm位で細身。 父譲りの金髪と母譲りの深緑の瞳。 混血のせいか、純血のエルフに比べると短めの耳なので、癖っ毛で隠れることも(それでも人間よりは長い)。 好物はマロングラッセ。 一粒で3分は黙らせることができる。 ◆普段の服装 自身の身体に見合わない位だぼだぼの服を着て、袖や裾を余らせて引き摺ったり、袖を振り回したりしている。 これは、「急に呪いが解けて、服が成長に追い付かず破れたりしないように」とのことらしい。 とらぬ狸のなんとやらである。 ◆行動 おとなしいように見えるが、単に平常時は省エネモードなだけで、思い立ったときの行動力はとんでもない。 世間一般の倫理観よりも、自分がやりたいこと・やるべきと判断したことを優先する傾向がある危険物。 占いや魔法の薬の知識はあるが、それを人の役に立つ方向に使うとは限らない。 占いで、かあちゃんがこの学園に居ると出たので、ついでに探そうと思ってるとか。 ◆口調 ~だべ。 ~でよ。 ~んだ。 等と訛る。 これは、隠れ里の由緒ある古き雅な言葉らしい。

解説 Explan

皆様、あけましておめでとうございます。
今回の課題は日常です。これといって解決しなければならない問題はありません。
それぞれのお正月を楽しんでくださいませ。

自分だけのお正月を過ごすもよし。
NPCと絡んでもよし。





作者コメント Comment
Kです。

前回に引き続きフライングでありますが、新年明けましておめでとうございます。
叶うならば本年も、どうぞよろしくおねがいいたします。




個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:54 = 45全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
とある山の麓にある拝一族が暮らす里へ里帰り。道行く人や子供達に声をかけたりかけられたりしながら実家へ。長である父と母に挨拶し、学園入学後に生まれた!妹にはにゃ~となった後、兄のお墓へ参ります

兄のお墓で学園生活の事や、最強の拳士になるべく精進している事を報告後、ふと朱里さん?と声をかけられ振り返ると、そこには幼馴染でもある貴族の娘様が

私が学園に入学する少し前にとある貴族の元へお嫁に行って以来の再会、あれやこれや、つもるお話をいたします。ふとお腹が少し膨らんでいるのを見て、おめでたかと喜びますが、母親になる事について少し不安そうにしているのを見て励ましますわ

けど、久々に皆に会えて嬉しかったですわ




パーシア・セントレジャー 個人成績:

獲得経験:67 = 45全体 + 22個別
獲得報酬:1800 = 1200全体 + 600個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
シュターニャ再開発計画に関する情報収集

◆行動
先日、図書館で調べたシュターニャ再開発計画に関する記事を執筆した記者に、お手紙でアポとって話を聞きに行ってみるわ

再開発地域では、補償の手薄さや、非協力的な市民への嫌がらせが問題になってるようだけど……更には、事業に深く関わってた行政当局職員の不可解な事故死
どこかに、都合が悪いものを潰しに掛かってる黒幕でも……居るみたいよね?

何人か接触してみて、それぞれの反応を見たいわね

情報収集が済んだら、保護施設のウルドさん達のところに行って、新年のご挨拶をしておきましょう
ミラ様や黒犬にもお土産持っていって、ウルドさん達を守って貰うようにお願いしておかないと

ルーシィ・ラスニール 個人成績:

獲得経験:54 = 45全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
ウルドさとは初顔合わせじゃし、挨拶さしとくでよ

◆行動
まずは、ウルドさ一家とラビーリャ先生に挨拶さすっぺ
今年もよろしくお願いするでよ

ミラ様と黒犬達にも挨拶さしねえとな

そういや、ウルドさは絵描きの才能さあるって聞いたでよ
手元にある絵を見せて貰ってもええだか?

もし、描いてる最中の絵とかあるなら、そっちも見てえでよ

そうそう……もし、生活で不便なこととか、気になることがあれば遠慮なく言うて欲しいで

◆手土産
ウルドさは絵描きらしいし、デッサン用の木炭とか差し入れすっぺ
ミラ様には、ゾンビフラッシャー退治した漁村で拾った、綺麗な貝殻さあげるべ
黒犬達ワンコには、肉屋のおっちゃんから分けて貰った、豚の骨をお年玉だべ

リザルト Result

●【朱璃・拝】の里帰り
 雪化粧を施された、とある山里。そこが、朱璃の生まれ育った故郷。

(変わっていませんわねえ)
 お正月、久々の里帰りを果たした朱璃は、懐かしさに浸りながら里へ足を踏み入れた。
 すると早速声がかけられる。彼女のことを小さい頃からよく知っている、里の老若男女から。
「あれま、あんた拝さん家のお嬢さんでないかい。お久しぶりだねえ。今お帰りかね?」
「まあまあ、一段ときれいになられて」
「里帰り? そりゃあええことだよ、お早うお帰り。あんたん家の父様や母様、寂しがっとったからねえ」
「あっ、朱璃さまじゃ」
「ほんとじゃ、朱璃さまじゃ」
「のーう、一緒遊んでくれ」
 ちょっと見ないでいる間にじいさまばあさまはしわが増え、子供たちは大きくなっている。特に伸び盛りの子供は、ぐんと背が高くなった。
(時の流れは速いですわねえ)
 朱璃は、足を早めていく。
 向かう先は里の奥まったところにある大きな建物。拝家の屋敷。
 どっしり雪が積んだ重厚な檜皮葺きの屋根。それを取り囲む古木。
 胸弾ませながら朱璃は、松竹梅の正月飾りが施された門扉をくぐる。
「新年明けましておめでとうございます!」
 その声を聞いて、屋敷からぞろぞろ人が出てきた。ちょうど一族総出で集まっていた所らしい。
「おお、朱璃、戻ったか」
「まあまあ、大きくなって」
「待っていたぞ」
 親戚たちとの挨拶はそこそこに、朱璃は、一帯の長である父そして母のもとへ、一目散に馳せ参じた。
「父様、母様、お久しぶりですわ。ただ今戻りましてございます」
 父も母も目を細め、娘との再会を喜ぶ。
「うむ、息災そうで何よりじゃ」
「見ない間に、大人びたことね。顔を見て、安心いたしましたよ」
 本来ならそこから積もる話に続くところだが、朱璃はそれをせず気もそぞろ。母が抱いている梅模様のおくるみに、目が釘付けなのだ。
 おくるみの中にいるのは――彼女の妹である。つい最近生まれたばかり。両親は夫婦仲良好かつ身体壮健なのだ。
「お母様、私もその子を抱いてよろしゅうございますか?」
 うずうずしながら聞いてくる娘に母は、笑いながら言った。
「もちろんですよ」
 朱璃は注意深くおくるみを受け取る。壊れ物が入っているかのように。
 赤ん坊は髪こそぽやぽや頼りないが、もう目が開いていた。赤い瞳でじいっと姉を見上げ、ふにゃっと顔をほころばせる。
 その可愛さに朱璃の顔も、はにゃ~と緩む。緩まざるを得ない。
「私がお姉さんですわよ♪」

●はじめまして、おめでとう
「――つうことで、今年もよろしくお願いするでよラビーリャ先生」
 【ラビーリャ・シェムエリヤ】にそう言った後【ルーシィ・ラスニール】は、【ウルド】に向き直る。
「んで、初めまして、ウルドさ。おらルーシィ・ラスニールと言うものだべ。あけましておめでとうとともに、あんじょうよろしゅうになあ」
 そののんびりした喋り方は、たちどころにウルドの緊張感を解いた。
 彼はぺこんと頭を下げる。
「これはこれは、新年からご丁寧なあいさつ、あんがとなあ」
 ルーシィは手持ちのポシェットから、ぽち袋を取り出した。
 袋の口から木炭の小枝が飛び出している。
「そったらこれ、おらから差し入れだあ。おめさ絵描きの才能さあるって聞いたでよ。デッサンに使ってけれ」
「え、ええんか?」
「もちろんだべ。お近づきのしるしだあ」
 ぽん、と相手の手にぽち袋を乗せたルーシィは、続けて天井付近を漂う【ミラ様】に顔を向ける。
「ミラ様にもおみやげあるでよ、受け取ってけれ」
 そして差し出したのは、きれいな貝殻だった。形はあこや貝を小さくした感じ。色は海のような青――以前さる依頼を受け赴いた地で、拾ったものだ。
 ミラ様は快く貝殻を受け取った。宙に浮き上がらせ、すっと中に入る。
「気に入ってくれただか?」
 との質問に、貝の中からちかちか点滅してみせる。
 内側から光る貝は、なんだか不思議な宝石のよう。
「……ミラ様さ入るには、そん貝殻じゃあちいせえかもなあ」
 ルーシィはそのように心配するが、ミラ様はへっちゃらである。そもそも『形』というものがないので。(ちなみにルーシィは、施設へ入ってくる際、番犬のタロと【黒犬】にも、お年玉として豚の骨をあげた。彼らは今庭中を掘り返し、予期せぬボーナスの貯蓄に励んでいるところだ)。
「あ。そういや、ウルドさ、手元にある絵を見せて貰ってもええだか? 知ってる人からよう、めっさうめえと聞いたでな。もし、描いてる最中の絵とかあるなら、そっちも見てえだが……」
 ウルドはその申し出を一旦断った。だが、結局のところ見せることにした。
「あんなあ、見て気持ちのいい絵じゃないで?」
「うむ。そこは知っとるで、大丈夫だべ」
 ルーシィは渡されたスケッチブックを開く。
 黒い色と赤い色がわっと目の前に広がった。

●シュターニャにて、正月返上
 【パーシア・セントレジャー】はシュターニャ再開発計画に関する醜聞記事を執筆した記者たちに、話を聞いて回る。
「再開発地域では、補償の手薄さや、非協力的な市民への嫌がらせが問題になってるようだけど……更には、事業に深く関わってた行政当局職員の不可解な事故死。どこかに、都合が悪いものを潰しに掛かってる黒幕でも……居るみたいよね?」
 記者は質問にすぐには答えず、パーシアを見る。どこまで話していいのか見定めようとするかのように。
「あなた、随分この問題に興味がおありですな。何故ですか?」
 パーシアは相手の顔を見返す。その奥にある本音を探ろうと。
「個人的に好きなのよ、こういうゴシップ。本来は市民への補償に回るはずの財源が……別の者の懐に入ってたりするとかいうことはない?」
 記者はいったんタバコを吸おうとした。しかし火をつける前に考え直して、やめる。水気のない声で話し始める。
「……保障に回る財源、最初から作ってないんですよ」
「というと?」
「生活再建保障金を受け取るためには、対象者が申請しなくてはいけない仕組みになってましてね。申請の後受理。受理の後審査。保障対象として認定されたらやっと保障金が受け取れるわけですが、全手続きには最短でも二、三ヶ月かかる。その間対象者は、シュターニャに住み続けなければならないのですよ。シュターニャに住所を持たない人間は、給付受け取り資格がなくなりますから」
「え……居続けるって、どうやって? だって、退去させられるんだから、当然それまでの住所はなくなるでしょう?」
「そこはもうホテルを借りるかアパートを借りるか、とにかく自力で住所を確保してくださいということのようで」
 ひどい話だ、と彼女は思う。そんなことをしたら、受け取れるものも受け取れない人が大勢出るではないか。そもそもすぐアパートやホテルに移って数ヶ月待てる人間は、元から裕福なはずでは。
「そういう方針を決めたのは、誰なの?」
「誰、ということはありません。市議会ですよ。市民が選んだ代表の方々」
「それだって、中心になっている人はいるわけでしょう?」
 質問がそこまで至ると。記者は口を閉じた。
「……さあて。どうですかね」
 とだけ言って。
 この後パーシアは数名の記者に会ったが、対応は上記と似たり寄ったりなものだった。
 だが、最後に訪れた記者だけは、この問いに答えてくれた。
「……再開発関係の族議員じゃないかと思いますよ。福祉事業より経済発展事業のほうに予算を振り向けようという腹なんでしょう。その後ろには財界の強力な後押しがある」
「財界の、誰?」
「不動産、建築、観光業界の主だったところは全部ですね」
 経済界の総意ということだろうか。そう思ったところで記者が、軽く咳払いし、とってつけたようなことを言い出した。皮肉たっぷりに顔をゆがめて。
「ただその中でもオーク不動産は、少し違いましてね。社会福祉にいたく関心を示してます。申請の目処が立てられない退去者の為に、自分が所有している慈善団体を介して、支援金給付をしていますよ。額は本来の保障金の十分の一以下――支援金を受け取った人間は、即時給付対象外にされますけどね」
 そこで突如同僚らしき人物が、記者を呼びに来た。仏頂面で。
「リッチくん、ちょっと……お客様が来られているみたいだよ」
 記者はちょっと黙り込み、パーシアに雑誌を渡した。
「うちの最新号ですのでね。よろしければ、どうぞ」
 なにかある。
 ぴんときたパーシアは、そそくさ場を辞した。そうして、こっそり手洗いに潜み『お客様』の姿を確認した。
 それは、黒い革鞄を抱えたスーツ姿の男だった。先ほどの記者にこんなことを言っている。
「――困りますねえ、あのように片寄った扇情的な記事を――我がオーク社としましては――」
 細かいところは聞こえない。だけど、なんとなく分かる。圧力をかけに来たのだということが。
 貰った雑誌をめくってみた。特集記事の見出しが目に飛び込んでくる。
『オーク不動産VSホテル・ボルジア 法廷合戦電撃終結。オーク不動産提訴取り下げ。その一時間後ホテル・ボルジア提訴取り下げ。両者和解交渉に入る。』
「……」

 もやもやした思いを抱きながらパーシアは、学園へ帰る道すがら、亡くなった中堅官僚の墓参をし花を手向けた。
 帰ろうとしたとき、ふと人が来たのに気づく。それは、白髪交じりの中年男性だった。
「はて、珍しいね。参る人がいるとはなあ」
 パーシアは警戒しつつ、相手の素性を確かめる。
「……あなたはこの墓に眠る方のお知り合いですか?」
「いいや、わしはこの墓地の管理人でね」
「……ああ、そうなのですか。あの、このお墓にお参りする方はいないのですか?」
「そうだね、見かけないね。生きてるときは結構な身分だったらしいがね。今じゃあだあれも来やしない。気の毒なもんさ」

●再会
 朱璃は語りかける。家から少し離れた場所にある、亡き兄の墓に向かって。
「――ということでお兄様、私、充実しておりますわ。最強の拳士になるべく日々精進しておりますの」
 そこに、声。
「朱里さん?」
 振り返ると、幼馴染である貴族の令嬢――現在は奥方――の姿があった。
 朱璃は思わず尻尾を振る。
「貴方も里帰りですか?」
「ええ、さっきあなたの家へご挨拶に行ったら、あなたが帰ってきていると聞いて。会えてよかったわ」
 お互い手に手を取って喜び合う。
 そこで朱璃は、はたと気づいた。相手のお腹が少し膨らんでいることに。
「……もしかして、おめでたですの?」
「ええ。もう五カ月になるかしら……」
「おめでとうございますっ!」
 全身全霊全力で朱璃は喜ぶ。我がこととして。
 だけど相手は、なんだか浮かない顔。
「どうされましたか? もしかして、つわりとか……」
「いいえ、幸いそれはないの。でも……大丈夫かなって、心配になってくるの。これからのことを考えると……私、ちゃんと母親になれるかしら」
 朱璃は悟った。出産という大事業を前に、幼馴染が竦んでしまっていることを。
 だから声を大にして励ます。
「少しだけ素に戻りますわ。あたしはあんたを目標にずっとやってきたんだ。あんたはそれだけの女性だよ。兄様だってきっとそう言う。母親だってきっとこなせる。あたしと兄様が保証するよ!」
 幼馴染はちょっと驚いた顔をした。それから、勢いよく朱璃の肩を叩いた。弾けるように笑った。昔みたいに。

●夢
 森が焼ける荒らされた森の奥の聖域は奪われた打ち砕かれた聖剣が破片となって散らばり人々が魔物に食い散らされ美しい娘達はその中で死よりも苦しい責め苦を受け泣き叫び息絶えて行くのを隠れて見ていた聖域の祭壇に身を隠し震えて見ていることしかできない子どもがおらだおらはただ見ていた赤い赤い赤い燃える燃える燃える熱い熱い熱い。
「なんでウルドさが、あの地獄を知ってるだ!?」
 叫んだ瞬間がっと肩を掴まれた振り向けばそこには醜い魔物の顔。

 かん高い自分の悲鳴によってルーシィは目が覚めた。
 目の前が明るい。ミラ様が旋回し、光の粉を振りかけているせいだ。
 傍らには自分を心配そうにのぞき込むラビーリャと、ウルドと、パーシアの顔。
 ラビーリャが静かに言う。
「……ウルドの絵を見て急に倒れたのよ、あなたは」
 ウルドは実にすまなさそうな顔で、肩を落としている。
「俺、またいらんもの描いたんやな」
 大体のことを思い出したルーシィは、体を起こして、手を振る。気にしないでくれ、と。
「おらが見たいと言っただから。ウルドさのせいではねえだよ、ウルドさは何を描いているか、分からないんだべ?」
 ウルドはこくりと頷いた。
 パーシアは固くなった空気を少しでも和らげようと、持ってきた土産(施設に入り黒犬たちへ干し肉をやっていたところで、この騒ぎが起きたので、まだ開けてなかったのだ)の菓子折りを開く。
 中に詰まっていたのは、クッキーの詰め合わせ。
「皆、甘いものでも食べましょう。とにかく、大事がなくてよかったわ。心配したのよ。ちょうど階段のところで倒れたっていうから」
 そうだったのか、とルーシィは自分の頭を撫でる。確かにコブが出来ているようだ。
 ああ、いやな夢。
 頭を振って彼女は、クッキーに手を伸ばす。三つ一ぺんに放りこむ。
「はい、ミラ様にもお土産――蜂蜜よ」
 パーシアがそう言ったとき、ウルドがはっと顔を上げた。聞こえない音を聞いたかのように。
 しばらくそのままでいた後彼は、スケッチブックを手に取る。そして、ものも言わず描き始める。憑かれたように動かない目は画面を見ていない。今ここではないどこかを見ている。





課題評価
課題経験:45
課題報酬:1200
新年あけましておめでとうございます。
執筆:K GM


《新年あけましておめでとうございます。》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2022-01-03 00:32:12
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 2) 2022-01-03 12:42:17
まだはっきり何をしようとか決めていませんが、里帰りとかでもいいのでしょうか?

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 3) 2022-01-04 09:52:17
ご挨拶が遅れてごめんなさい。王様・貴族コースのパーシア。よろしくお願いします。

それぞれのお正月を楽しむようだし、里帰りもいいんじゃないかしらね。
私はウルドさんところに行くか、シュターニャ再開発計画に関する記事を執筆した記者に、話を聞きに行こうかな……と思ってるところだけど。

冬休みの自由研究って奴ね。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 4) 2022-01-04 16:51:08
そうですわね、それでは里帰りをしてみましょうか・・・。

《新入生》 ルーシィ・ラスニール (No 5) 2022-01-08 21:50:24
おらぁ、賢者・導師コースのルーシィいうだ。よろしく頼むだよ。
さあて、何すっぺか……ウルドさとは初顔合わせじゃし、挨拶さしとくでよ。