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木滅の刀


ストーリー Story

 恩讐に果て無し。雨は止めども終焉遠し。汝の戦い未だ果てず。
 強い雨足の跫音が響く。
 冷たく強く、叩き付ける様に降り頻る雨の中で、静謐の二文字を具現した声が、脳の内側でこだまする。
 恩讐に果て無し。されどもし、汝が此の恩讐に立ち向かわんとするならば、疾く走れ。鎮魂の剣(つるぎ)を持って、疾く参れ。
 至るべき終わりを齎さんと驕るならば、疾く、疾く――英雄擬きの剣(つるぎ)達よ、走れ。向かえ。荒ぶる魂を鎮めんがために。

「来たか……」
 怪談じみた奇妙な話だが、この村は毎年ある時期になると、森に侵食されていた。
 夜になると、異常な速度で成長する木々。広がる緑は土から栄養を奪い、村の作物を枯らしてしまう。
 枝葉に紛れて、ジャバウォックやポイゾネスジャバウォックが人を襲い、夜にはウィルオーが跋扈する。足元に広がる草花の中にはマヒノクサやヨイユメゴケが混じって、幻覚や麻痺毒に苦しむ人が多い。
 そんな村にフラリとやって来て、生活を保証して貰う代わり、森から村を守っている男がいた。
「鳶《とび》さん! 鳶さん来てくれ!」
「魔物が出たか」
「今日は枝だ! 団体客だ!」
 男の名は【鶯・鳶】(うぐいす とび)。
 色の神なんて姓のついた師から、髪と同じ色を受け取った男。金、銀の色を持つきょうだい弟子と共に、剣の技を磨いた男。
「あれ、か……」
 まるで、枝葉の波だ。
 限界まで高く、上まで伸びて、村を圧し潰し、呑み込まんとする大津波。夜空の光源を村から奪わんばかりの巨大な影が、怪物の仁王立ちの如く立ち上がっていた。
 が、鳶は引くどころか、肩からぶら下げた刀身の凄く長い長刀を抜く。
「村の者ども! 始めるぞ! 夜の祭りだ!」
 水平に構えて月光を反射する刀身が、風と雷の魔力を同時に纏い、大きく振り回した。
 そして、大きく薙ぎ払う。横一閃された斬撃が、長く伸びた枝の波を両断。再度伸びて来る枝を、今度は縦に両断する。
 すると今度は大きく成長した大型のジャバウォックが飛び出し、一直線に突進して来た。
 水平に構えた長刀が嵐を纏い、大きく開いた口から一直線に両断する。縦半分に両断されたジャバウォックを見た村人達が、歓声を上げた。
 更にポイゾネスジャバウォックまでもが襲い来るが、それも両断。再び、村から歓声と拍手が上がる。
 逆に勢いを失った森は、盛り上がらせていた枝を引いて、急激に大人しくなった。
「今夜の祭りはここまでだぁ! 明日もあるだろうから、さっさと寝なぁ!」
 この時期になると決まって来る森との戦いを、男は祭りと呼んで村から恐怖と共に斬る。
 が、ここ最近の戦いは例年より激しさを増して、祭りだ何だと言って誤魔化せる物でもなくなって来た。
「鳶! ……どうする?」
「さすがに、もう俺一人でカバーするのも難しいな……仕方ねぇ。梟を飛ばしてくれ。爺さんの弟子が、何人かいるはずだ。どれくらいの出来かは知らねぇが、色を貰ったなら使えるだろ」
「わかった!」
 単なる直感だが、何となくわかる。
 森の中に、この事態を引き起こしてる何かがいる。
 目的は知らないが、人相手に良い印象を持っている感じはない。村に来たのは本当に偶然だったが、自分が来ていなければ、今頃村は森を操る何者かによって、食い尽くされていただろう。
 敵意、殺意。
 そう言ったものを感じさせる何者かが諦めてくれない以上、掃討する他ない。
「魔法学園、か……どんな奴が来るんだかなぁ……」
 期待と不安とが混じり籠った手紙を脚に括り付け、梟が飛ぶ。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 6日 出発日 2022-01-20

難易度 とても難しい 報酬 多い 完成予定 2022-01-30

登場人物 2/6 Characters
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」
《虎児虎穴の追跡者》シャノン・ライキューム
 エリアル Lv11 / 教祖・聖職 Rank 1
エルフタイプのエリアル。 性格は控え目で、あまり声を荒げたりすることはない。 胸囲も控え目だが、華奢で儚げな外見のせいか、人目を惹きやすい。 本人は目立つことを嫌うので、服装は質素で地味なものを好む。 身長は160センチほど。 学園に来る前は、叡智を司る神の神殿で神職見習いをしていた。 叡智神の花嫁と言われる位に、叡智神の加護を受けていると言われていたが、何故か、 「その白磁の肌を打って、朱く染めたい」だの、 「汚物を見るような目で罵って下さい!」だのと言われたり、 孤児院の子供達から、流れるようなジェットストリームスカートめくりをされたりと、結構散々な目に遭っている。 最近では、叡智神ではなく「えぃち」ななにかに魅入られたのではと疑い始めたのは秘密。 学園に腹違いの妹が居るらしい。

解説 Explan

 疾く、疾く、疾く参れ。
 英雄達よ、呼び掛けに応えよ。此度の戦場は夜の森。魔物を解き放ち、枝葉を広げて襲い来る夜の森林を操る主。
 枝で組まれたドレスに身を包んだ草花の体。蔓を伸ばして脚として立つそれは、さながら森の貴婦人。後にダンデ・ラ・フォレと名付けられるそれは、かつての雨の怪物と同じ存在。
 故に勇者よ、英雄よ。疾く参れ。森の怪物。異形の草木。怨念の化身たる彼女を倒し、その魂を鎮めるために……。

 と、言う訳で、皆様にはNPCと協力して魔物ダンデ・ラ・フォレの対峙に挑んで頂きたいと思います。外敵情報は、以下の通りです。
 ・ダンデ・ラ・フォレ【格】4
 【生態】言語理解能力はあるものの、発話能力はない。何か声を発しているようだが、言葉として成立していない。全身草木で出来た女性の人形のような姿で、脚の役割を担う蔓から養分を吸って成長する。
 【本能】核が森で人に殺された魔物や動物の魂の集合体なので、人が嫌い。枝で突き刺し葉で切り裂き、蔓で縛って襲い来る。ジャバウォック。ポイゾネスジャバウォックを飼いならし、マヒノクサ。ヨイユメゴケ。ボタレシアなどの植物をも生やす事が出来る。
 【属性得意/苦手】水、雷/火、風
 【得意地形】森の中
 【状態異常】麻痺、混乱、気絶
 【マスター情報】森の中に突如現れる災害のような存在。森で出る行方不明者も遭難者も、もしかして彼女の仕業かも? 人間に強い敵意を持っているので、森の中での戦闘に特化したエピソードが執筆可能です。
 味方NPC情報は以下の通り。
 【鶯・鳶】(うぐいす とび)……長刀の使い手にして、かの色の剣士の弟子。風と雷の魔力を持ち、刀に嵐を纏わせる。学園の生徒達とは初対面。
 【灰原・焔】(はいばら ほむら)……大太刀の使い手である学園の先輩。片脚が義足で、他人を護るためなら我が身を差し出す。炎の斬撃を操る。
 物語は鳶との合流から始まります。皆で協力し、敵の撃破を目指して下さい!


作者コメント Comment
 皆様こんにちは、こんばんは。七四六明(ななしむめい)です。
 雨の怪物――驟雨の討伐、基、鎮魂から今。新たな鎮魂の時です。
 夜の森に出現した森の貴婦人、ダンデ・ラ・フォレ。
 それもまた、森に彷徨う魂の集合体。人々に対する魔物達の恩讐。是非皆様の力で鎮魂し、森、村に平和を齎して頂きたいと思います。
 英雄、勇者の卵の皆様、是非頑張って頂きたいと思います!


個人成績表 Report
タスク・ジム 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:621 = 207全体 + 414個別
獲得報酬:21600 = 7200全体 + 14400個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
生物学、魔物学の知識を元に
毒魔獣が毒物を好む性質を利用
群れに対し
「ほーら!美味しいものあげるよ!」
ハライタダケを遠方に投げて気を引き
数を減らす
※実績 白兎GM様「白銀のマリオネッタ」冒頭

残った魔物を基本剣術と先輩方との連携で確実に倒す
仲間の援護を信じて戦闘に集中

ダンデ・ラ・フォレの正体が驟雨と同質と【推測】
必要な心構えは祭りと言うより祭祀ですねと呟き
驟雨戦を思い出し心を鎮魂で満たす

フォレの攻撃を晴天灰陣で受け
辛さ恨み恐怖を受け止め僕もそうだと同調
だから、終わろう
刀に宿る元恩讐と心一つに鎮魂の思いを込めて月下白刃

知識・剣技・内観の日課は経歴
刀の力はEX装備【希望の剣】のEX解説文参照希望

アドリブA

シャノン・ライキューム 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:621 = 207全体 + 414個別
獲得報酬:21600 = 7200全体 + 14400個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
村と森の平穏を脅かす存在への対処

◆流れ
鶯さんの要請を受け村へ
先輩方とも合流して、用意ができたら森へ

人数が少なめですし、はぐれたりしないように、互いの姿を視認できる範囲で動きましょう
この騒ぎの元凶と遭遇したら、必要であれば応戦

◆応戦
後方から、仲間の負傷や状態異常への対処を軸に応戦
魔力残量に留意しつつ、デトルで麻痺を優先し解除
毒も解除したいですけど、今回は行動できなくなる麻痺の方が脅威ですし……

傷が深い者にはリーライブで回復

なるべく後方に位置取り、先輩方の足を引っ張らないように
周囲の物音や敵の動きを注視し、仲間の死角からの攻撃や新手の横槍等を警戒

必要なら声を掛け合い、互いにカバーし合うように

リザルト Result

「この状況は一体……」
 【シャノン・ライキューム】は、周囲の窓から子供達に覗き込まれている状況に驚いていた。
 普段から人の注目を集める事はあるけれど、子供達のそれは種類が違う。村にとって珍客。様々な場所を冒険し、多くの経験をして来た学生らに対する好奇心で、目を輝かせている。
 対して【タスク・ジム】もまた、目の前で胡坐を掻く男に好奇心を抱いて見つめていた。
 【灰原・焔】(はいばら ほむら)と同じ師の下で剣を学び、色を与えられた男、【鶯・鳶】(うぐいす とび)。村人達に頼られ、慕われている彼に対しての興味が損なう事はない。
「驟雨(しゅうう)。恩讐の怪物、か。そいつが出たと、学園は見込んでる訳だ」
「少なからず、驟雨の刀と打ち直した僕の刀が反応しています。同質の存在だと思って、間違いないと思います」
「大兄弟子と大姉弟子の刀の主体……噂には聞いてたが、他にもあるとは。そしてまさか、学園に同質の剣士がいるとはな」
「こいつぁ金の兄貴から鈴も取ってます。緋色の辻斬りからも一目置かれた男ですんで、頼りになりますよ!」
 力強く背中を叩かれ、思わず咳き込む。
 そうか、と返しただけの鳶はずっと不機嫌そうな仏頂面で、表情がまるで変わらない。が、子供達には笑って見えたようで、驚いた様子で耳打ちし合っているのが、シャノンの耳にだけ聞こえていた。
「んじゃ、行くか。奴らが動くのは主に夜だが、夜の森はこっちにとって危険過ぎる。シャノンだったな。俺は森の奥に入った事がない。おまえの耳が頼りだ」
「は、はい。お任せください」
「よし……おいガキ共! そういうこった! 今から祭りだ神輿を作れ! 今日は神様に喧嘩売るぞ!」
 祭りだ祭りだ、とはしゃぎ回る子供達。大人も入り交じり、文字通りのお祭り騒ぎ。
 鳶が持ち上げた村人達の異様な盛り上がりが、タスクとシャノンを鼓舞すると同時、失敗出来ない雰囲気を感じさせて、緊張を誘われた。
「じゃあいくか」
(とは言っても、義足の先輩もいるし、森の中は魔物だらけ……ここは慎重に――)
 と、考えていたシャノンは、数秒後に大きく裏切られた。
「退きな退きなぁぃ! 祭りの総大将、鳶様のお通りだぁい!」
 家を出るなり、敵はどっちだと聞かれて、風を頼りに方向を特定したかと思った瞬間、槍の形に形成された嵐とも言うべき力が投擲されて、森を貫通。担ぎ上げられたシャノンはそのまま、自分ではまだ届かない速度で森の奥へと運ばれていく。
 慎重どころか豪快かつ大胆な進行に、タスクも焔も驚かされ、何も言えなかった。
「静かな人だと思ったけど、違うんですか、ね」
「自分で言うのも何だが、爺さんの弟子は癖の強い奴ばっかりだなぁ。まぁいいや。タスク。急いで追いかけろ。俺は今のでおびき出された奴ら片付けながら行くから」
「わかりました。道中お気を付けて!」
「おぅ! 俺にも見せ場残してくれよ!」
 タスクは鳶を追いかけ、走る。
 黒、白、灰、赤、紫、銀、金――と来て、現れた次なる背中。今見える位置は果たして、実力的に見ても同じかそれとも。
 斬ってみたいか。試してみたいか――そう、刀の中の恩讐が疼く。そんな事はないと返したいが、正直になると返せなかった。
 そうしたやり取りをしていたからこそ、タスクはより遠くなっていく背中を追いかけられたのかもしれない。
 刀に籠る恩讐と同質の強い思念へと、導かれている感覚。風を頼りに索敵し、位置を示すシャノンとは違う物に、タスクの体は引き寄せられていた。
 そして敵もまた、そうした物が近付いていると察したのだろう。接触は、全員の予想よりずっと早かった。
 側面より大口を開け、飛び掛かって来るポイゾネスジャバウォックを跳んで躱す。
 身を転げて翻り、にじり寄る巨体がもう一度体当たりして来ようとしているのに対して、タスクはポケットを開き、早打ちでもするかの如く構えた。
「そーら! 美味しい物をあげるよ!」
 突進の直前、宙に抛られる毒キノコ。タスク目掛けて突進しようとしていた巨体は、シャノンの風を受けて更に高く浮き上がるキノコへと跳び上がる。
 口に入れて呑み込むまでの一瞬、がら空きになった胴体へと刃を抜いたタスクが入る。
「月下白刃――!」
 宙にあった巨体が回転し、捩じれて、巨木に叩き付けられる。
 咀嚼したキノコが体液を交えて吐き出されて、紫の巨体が無力になりながら落ちる。その屍を肥やしとして生える、ヨイユメゴケやマヒノクサ。
 周囲の木々を枯らした分の養分を使い、花弁を広げたボタレシアが異臭を放つ。
 太い蔓が鞭のようにしなり、地面を打つ。そのうちの一つ、蔓の中を巨大な何かが通過して、吐き出される。
 地面に落ちたそれは種で、埋まった瞬間にすぐさま発芽。森に蔓延る恩讐の支配者。全身緑の貴婦人、ダンデ・ラ・フォレの顕現である。
「こいつかぁこいつだなぁこいつだよなぁ、多分」
「はい。驟雨と似た気配がします。おそらくは……」
「……」
 タスクと鳶が話題にしなかった事から、敢えて口にはしなかったものの、シャノンはこの時、目の前の魔物の声を聴いた。
 言語と言うにはあまりにも粗末な雑音。砂嵐のような音階は、人の言葉とは似て非なる。しかし首を傾げる仕草と言い、手を差し出してみせたりと、人に近い形をしているせいか、独自の言語で話しているような感覚に陥っていた。
「どうした」
「い、いえ……」
 自分は、この中で一番実戦経験値がない。それでも自分が出来る事を、最善を尽くして、みんなのために。そう思って来たけれど、いざ対面して見ると――怖い。
 恩讐。森で死んだ者達の思念の塊。
 そんなオカルトじみた性質を抜きにしても、得体も底も知れない恐ろしさ。
 元々後衛支援のつもりだったけれど、そうでなくとも気持ちが半歩下がっている。
 しかし、恐れるからこそ考える。後ろにいるからこそ視野が広がる。前には任せられる人達がいる。だからこそ、あなたはあなたの最善を尽くせシャノン・ライキューム。
「麻痺を優先的に回復させます! 仕留めた魔物には近付かないで下さい!」
「よし、頼むぞ。おまえは祭りの巫女だ。俺が一切触れさせねぇよ。え? 私はって? いやいや、森の貴婦人には申し訳ねぇが、てめぇは数に入ってねぇよ!」
 抜刀。そして大きく振り被る。籠められた魔力の量からしても、大技なのは間違いない。
「まずはド派手な花火だ」
 刀剣を這う嵐が唸る。
 鞭のように向かって来る蔓が風に煽られ、軌道を削がれて吹き飛ばされる。
 麻痺や混乱などの異常を齎す花粉は空高く舞い上がって、タスクらには粉の一粒も届かない。
「壊刀嵐魔(かいとうらんま)!」
 振り下ろされた剣撃の起こす突風が、マヒノクサやヨイユメゴケを千切りながら吹き荒ぶ。
 自身の周囲を巡る形で木を生やし、防御するダンデ・ラ・フォレの繰り出す太い根の槍を両断しながら、タスクは肩で風を切りながら肉薄。続いて来る攻撃を回避、もしくは両断しながら距離を詰め、盾となっている木を斬ったが、そこにはもう彼女はいない。
 萎んでいくポイゾネスジャバウォックの死骸から生えて来て、周囲の大木を変形させ、叩き落してくる。
 鞭のようにしなり、槌のように硬い木々。とても植物とは思えない。本来意思のない植物の枝葉の一つ一つから、驟雨の刀にもあった殺意が感じられるから、猶更そう思わされる。
「へぇ、聞いてた以上だ。あちこちから殺意を感じる」
 鳶はさすがに敏感だ。が、シャノンも寒気がするのか、自分の腕をさすっている。
 初めて相対する、恩讐の塊という未知の存在。経験値ならばそれなりに積んでいるシャノンでも、初めてではさすがに慣れない。
 悪寒を誘う殺意の波を前に、立てているだけ上出来と言えた。
 正直、タスクから見てもかなりの殺意。剣士を相手にしていない時の初期の驟雨の方が、まだ優しかったくらいだ。
「シャノンさん……」
「大丈夫です。直に慣れます。タスクさんは目の前の敵に集中を」
「はい」
 相手は初めて対戦した時の驟雨より上。が、自分だってその時よりは上。後ろに、隣に、共に戦う仲間がいる限り、背中を向ける事はない。
「準備はいいか?」
「はい。祭りはまだまだこれからです」
 ふっ、と隣から聞こえる。
 二人共顔は見なかったので、仏頂面が変わったのかどうかは定かではない。
「じゃあ、派手な葬式とするか? なぁ!」
 わざと張られた威嚇の咆哮に、恩讐は応じる。
 地面から大量に伸ばした大樹が、鎌首もたげた蛇のように牙を剥いて迫り、タスクは跳躍。鳶はシャノンを肩に乗せ、うねる樹木を伝って走る。
 鳶の肩の上という高い視点を手に入れたシャノンは、タスクを補足。伝って走る大樹の表面に生えたマヒノクサから発せられた花粉による麻痺をデトルにて解除。続くフドにて、花粉を吹き飛ばす。
 麻痺で一瞬もつれながらも、タスクはそのまま特攻。繰り出される蔓の鞭打を掻い潜り、跳躍から回転。空中で翻って、渾身の突きを放つ。
 が、固い樹皮に阻まれ、届かない。
 背後から射出されようとされている木の葉の刃。数なんて数えきれない厖大な規模。回避など出来るはずもないが、タスクは避けなかった。
 背後に一瞥を配った時、シャノンの表情が彼の到着を知らせていたからだ。
 鳶が初めに出した大技は、ただ派手な演出などではなかった。
『斬紅灰陣(ざんこうはいじん)!』
 先ほど刺突を止めた樹皮が、赤い斬撃で奥の貴婦人ごと焼き斬れる。
 周囲の発射直前の木の葉は灰に変わって、見るも無残に土に帰る。
 必死に駆け付けた結果すり減った義足で急ブレーキをかけて、タスクと背を合わせた焔が微笑んだ。
「遅れた!」
「いえ、ぴったしです!」
 焼かれた木の葉に変わって、半分炭化した枝が頭上から襲い来る。
 躱したタスクはそのまま肉薄。先ほど焼き切った樹皮の奥の影を斬るが、両断したのは中身のない皮一枚。
 大木を一本枯らして出現した貴婦人の指先から放たれる種子の弾丸を咄嗟に刀で受けるが、連射弾数が徐々に増してきて、弾くのが追い付かなくなっていく。
 しかし台風一過。横から通り過ぎた嵐が一瞬で種子を攫っていき、目の前に着地したとほぼ同時に振られ、地面を抉り斬った鳶の斬撃に、十指全てが斬り落とされる。
 そのまま追撃――となりそうな時、突如タスクが鳶目掛けて跳んだ。
 種子に幻覚作用の成分でもあったか。状況を混乱して見ているタスクは、鳶を敵と誤認して斬りかかっていた。
 すかさず、シャノンが解除。混乱が解けたタスクの認識は正常に戻っていたが、もう突進の勢いは削げないところまで来ていた。
 そう見切って、焔が間に割って入る。
「跳べ!」
「はい!」
 さながら、バレーボールのレシーブだ。下から振り上げられる太刀の峰を足蹴に跳んで、頭上を覆っている枝の波に着地したタスクは、再び枝を足蹴に跳ぶ。
「タスクさん!」
 背中にフドを受けて加速。地面から伸びて来る針葉樹の槍を斬りながら肉薄し、樹木の上を滑り降りる。
 追撃の樹木を両断した鳶の長刀が、紺碧の嵐を帯びて唸る。
 栗のように厚い樹皮を覆った上から、更に硬い樹皮の壁に覆われた貴婦人へと、二人は剣と風を重ねて放つ。
『月下颶風一貫(げっかぐふういっかん)!』
 吹けば諸共攫い、貫く風の一撃。刺突と唐竹に合わせて繰り出された二つの風は、貴婦人の用意した風除けを破壊し、恩讐ダンデ・ラ・フォレへと吹き抜ける。
 幾ら周囲に毒草を生やそうと花粉は流され、木の葉は散り、枝は砕けて折れる。
 吹き付ける台風の如き風圧に、この時のダンデ・ラ・フォレはまるで無力。吹き荒れる颶風が、ダンデ・ラ・フォレの体をも斬り裂き、割っていく。
「英雄達よ、疾く行かん。恩讐に苦しむ魂を、同じ苦しみを知る刃にて鎮め給う」
 祝詞に紡がれた言の葉を受けて、三人の剣士が一挙に肉薄。最初に鳶、次に焔。最後にタスクと、間合いの長い得物から短くなって、徐々に距離を詰めていく。
 だが次第にダンデ・ラ・フォレが態勢を立て直し、反撃に出始めた。
 自身をブラインドにし、陰から伸ばした針葉樹の槍にてタスクを穿つ。同時、針葉樹に生えていたマヒノクサから生じた花粉が、タスクの動きを鈍らせる。
 すぐさまシャノンがデトルを掛けようとするが、ダンデ・ラ・フォレの攻撃の方が早い。
 しかしそれより、タスクの動き出しの方が早かった。麻痺して硬直する体を無理矢理に動かし、血反吐を吐く勢いで刀を振るう。
「君の呪いも恐怖も、全て……! っ――!」
 晴天灰陣月下白刃。さながら桜の花吹雪。
 乱れ舞う斬撃の応酬が巡り巡って、針葉樹もマヒノクサも全て叩き斬り、無残に散らす。
 斬撃は奥のダンデ・ラ・フォレをも捉えて、細い肢体に刻み付けた。刀に宿る恩讐が、ダンデ・ラ・フォレの体を締め付けるように硬直させる。
 焔と鳶とが肉薄し、ダンデ・ラ・フォレを地面に潜らせた隙に、変形した木々を伝って降りて来たシャノンが駆け付ける。
「タスクさん! あなたはもう、噂通り無茶をされる方ですね!」
「あはは、すみません……ちなみにそれ、どこ情報でしょうか」
 まぁ、似たような依頼で大分お世話になっている人がいるから、その人だとは思うのだけれど、なんて思いながら、シャノンに麻痺を解除。体力まで回復して貰って、再度距離を取った場所に咲いた貴婦人へと対峙する。
「あいつ、俺達との実力差に気付き始めてるのか……?」
「んな気配だなぁ。奴の移動手段的に、逃げられると厄介だ。出来るならここで決めてぇが……この一回だな。次に地面に潜られたら仕留め損ねると思った方が良い。っつぅわけでぇ、こっから更に速く、激しく、ド派手に行くぜぇ。ついて来いよぉ、てめぇらぁっ!」
 元より間合いの広い長刀に、更にウィズマ・アーダで刃を付ける。そうした刀を振って走るのは不可視の刃。真空斬り裂くかまいたち。
 地面に潜るどころか、反撃の態勢にさえ移らせない猛攻の嵐。やがて風はダンデ・ラ・フォレを囲う形で円形に集束。中にある体を絶えず斬り裂く籠へと閉じ込めた鳶は、高々と刀を掲げる。
「預かり奉る色は鶯! 声高らかに名乗る名は鳶! 恩讐ダンデ・ラ・フォレに捧げ給う! これが、俺がてめぇに送る手向けだ! 嵐刀(らんとう)! 天獄(てんごく)!」
 閉じ込めていた風の籠諸共、ダンデ・ラ・フォレの体に斬撃が入る。傷口から水を噴いて揺らぐ体の背後へと回った焔が、高く跳んだ。
 かつて自ら恩讐に駆られ、皆を傷付けたこの一撃。どうか恩讐を祓い、鎮める炎へと至らん――!
「炎上蓮華(えんじょうれんげ)唯火独占(ゆいがどくせん)!」
 天を衝く紅蓮の業火。天に昇ると花のように大の字に広がり、光輝と共に爆ぜる。
 先の鳶の斬撃から生じる風を受け、威力を増した炎がダンデ・ラ・フォレの体を焼き、胸の中心に魔力が集まる核らしき部分を見せた。
「そぉらタスク! 決めたれ!」
「一丁締めだぁ」
「はい!」
 一歩、強く大地を踏み締めて肉薄。
 ダンデ・ラ・フォレが呼び寄せたジャバウォックとポイゾネスジャバウォックが飛び掛かって来るが、シャノンのフドと衝突して停止。その隙に振り払った斬撃が二頭の腹を捌き、毒々しい色の体液を浴びながらも距離を詰め続ける。
 毒を浴びながらも肉薄し続けるタスクは薬草を噛み締め、最後まで持たせるための体力を回復させる。
 迫り来る針葉樹の槍と蔓の鞭打とを斬り裂きながら、走る、走る。マアル・ブーストで加速し、ウィズマ・アーダでリーチを伸ばし、重ねて繰り出された樹皮の盾目掛け、セイズ・マ・バーストを叩き込む。
 全ての防御を掻い潜り、遂にゼロまで距離を詰めた時、ダンデ・ラ・フォレの最後の抵抗として、樹皮が研がれた鋭利な爪が振り下ろされた。
 その一瞬に見えた、恐怖。
 絶対に敵わないとわかりつつも、一縷の望みにかけて最後の抵抗を試みる弱者の視点。思考が、目の前のダンデ・ラ・フォレから感じられた。
 理解は出来る。弱肉強食なんて自然の摂理にだって、恐怖はある。理不尽な殺戮だってあっただろう。無慈悲な出来事もあっただろう。
 だから、もう終わろう。
 晴天灰陣月下白刃――否。
「心、刀、滅、却!!!」
 突き立てた刃から生じる斬撃と風とが、衝突。
 崩れていくダンデ・ラ・フォレの体が、風に砕かれて吹き飛んでいく。それこそ、花のように散って逝く。
「恨みに囚われし恩讐よ。どうかあなたの魂が自然の循環の輪へと戻り、安らかに眠らん事を」
 シャノンの祝詞が、彼女へと届いたのかはわからない。
 森閑が酷く大きく感じられる中で紡がれた言葉は、タスクらにはちゃんと聞こえていたけれど、崩れ逝く恩讐は応じなかった。
 今まで周囲からずっと感じていた殺意が花のように散って、散った葉の一枚がタスクの胸を小突くように張り付き、吹き飛ばされて去って行く。
 驟雨のように最後に何か残す事なく消えていったダンデ・ラ・フォレの残影を吹き飛ばされる木の葉に見るタスクは、今になって足腰に麻痺が回って尻もちをつく。
 シャノンが背中を支えながら、あれこれ文句を言いつつ回復させる様を見て、焔は刀を収める。その隣で鳶は簡単な小さい墓を作って、背を丸めて祈っていた。
「どうです? 学園の生徒は」
「あぁ、よくやるもんだ。タスク・ジム、だったか。あいつは一体、何色になるだろうなぁ?」
 村に戻ると、敵の首魁を打ち取った事を祝う祭りが開かれた。
 夜も眩く賑やかに、騒がしいほどド派手に騒ぐ。
 そうして愉快に送り出してやる事もまた、彼らなりの弔いなのだと語る鳶と再会する日は、そう遠くはなかった。



課題評価
課題経験:207
課題報酬:7200
木滅の刀
執筆:七四六明 GM


《木滅の刀》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 1) 2022-01-18 23:14:33
勇者・英雄コースのタスク・ジムです。
よろしくお願いいたします!

明日いっぱいで出発ですが、一緒に戦ってくれる仲間を
熱血大募集中です!!

《虎児虎穴の追跡者》 シャノン・ライキューム (No 2) 2022-01-19 19:58:09
エリアルの教祖・聖職コースのシャノンです。よろしくお願いします。
戦いではあまりお役に立てそうにありませんが、デトルでの解毒、麻痺の治療やリーライブでの回復で支援しますね。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 3) 2022-01-19 21:25:50
シャノンさん、参戦ありがとうございます!
よろしくお願いいたします!
回復のことを全然考えていなかったので、来てくださって心強いです!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 4) 2022-01-19 23:57:24
いよいよ出発ですね!

こちらは、
戦闘では驟雨戦と同じく鎮魂を重視した戦い方、先輩方との連携、
搦め手としては、毒魔獣が毒を好む性質(実績 白兎GM様「白銀のマリオネッタ」冒頭)を利用し、ハライタダケを投げて気を引き数を減らす、ということを書いてみました。

そして、仲間のサポートのおかげで戦闘に集中できる、とも書いてみました。

お互い、武運を祈りましょう。
今回はご一緒いただきありがとうございました!