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シルキー付きの喫茶店


ストーリー Story

●歩こう歩こう
 保護施設に住まう小さな女の子【トマシーナ・マン】は、学園に通うお兄ちゃん【トーマス・マン】と、施設の番犬たちをお散歩に連れて行くところ。
 番犬は二匹。黒マスチフの【黒犬】といかにも雑種という中型犬タロ。前者を引いて行くのがトーマス、後者を引いて行くのがトマシーナ。何しろ小さな子には、大型犬はちょっと危ない。軽々と引きずられてしまう。
 タロは待ち切れないように目をキラキラさせ尻尾を振っているが、黒犬はいまひとつ浮かない顔。それというのもトマシーナお手製の大きなリボンが尻尾にくくりつけられているからだ。見た目が怖い黒犬を少しでもかわいくしてやろうという彼女なりの心遣いなのだが、彼にとっては迷惑千万である。
「トマシーナ、犬のうんちの始末袋とスコップはちゃんと持った?」
「うん、ちゃんともってるわ」
「よし。じゃあ行こうか」

●いわくありげな売り出し物件
 ここは学園領、某所。
 学園生徒達は、山沿いの旧街道に来ていた。
 街道の傍には可愛らしい三角屋根の家。壁が白、屋根は赤。風見鶏がついている。
 そして扉のところには、『本物件売約済』という張り紙。
「あれえ? 人が住んでいなかった割には随分きれいだね」
「本当だ。ガラスなんかぴかぴか。中のレースカーテンは、ちょっと日焼けしちゃってるけど」
「身内の人が来て、掃除しておいたのかなあ」
 何を隠そうこの三角屋根の家は、喫茶店。街道沿いということもあってもともとはそれなりに繁盛していたのだが、十何年か前アクセスのいい新街道が出来上がってからは、客足が年々減少。経営者の女性が生きている間はそれでも細々続いていたが、先年老衰でお亡くなりになられた。残された女性の家族はこの商売に興味がなかったため、早々物件を売りに出した。それを学園が買った。ついで生徒達に、お片付けの課題を出した――とこういう流れ。
「しかし、なんでこんな物買ったんですかねえ」
「なんでも学園長が気まぐれに視察して、『うおお、内装でらめっさかわいーじゃん! オレサマ引き取る予算お願いっ♪』って言ったそうで」
「はあ、なるほどねえ」
 とりあえず預かった鍵で扉を開け、中に入る。
 するとそこには『街道沿いの喫茶店』と言うワードから程遠い光景が広がっていた。
 壁、床ともにオールピンク。虹や星や花やお菓子といった模様が乱舞。
 テーブルや椅子はパステルカラー。全部ロココな猫足仕様。
 天井は全然見えない。所狭しとカラフルなフリルパラソル、風船、ぬいぐるみが吊り下げられているために。
「……なかなかキッチュな趣味の店主だったんだな」
「……これ、かわいいか?」
「うーん、一つ一つの要素は間違ってないんだけど、全部が主張し過ぎて落ち着かないっていうか、そんな感じだよね」
「えー、そう? かわいいと思うけど。むしろこれくらいしないと、印象に残らないよね」
「うん。こういう方が映えるー」
 感想はいろいろだが、とにもかくにもこのメルヘンワールドをいったん整理しなくてはならない。
「何から始める?」
「えーと、まずテーブル、椅子あたりから外に出すか」
「しかし天井のデコレーション、相当な量だよね」
「ま、ひとつひとつ片付けていくしかないさ。とりあえず三脚がいるな、三脚。誰か持ってきてたっけ?」
 そんな会話を生徒達が交わしていたところ、ウウウと唸り声がした。
 何事かと皆、声がした方――カウンターを見る。
 いつのまにかそこには、小さな子供くらいの大きさの生き物がいた。
 体にちょうどぴったりなメイド服を身につけ、箒を手にしている。
 全身柔らかそうな毛に覆われて、目は大きくて真っ黒で、口先がちょっと尖っている。猿とリスを足して二で割った、という具合。ちょこちょこした動きがなんとも愛らしい。
「……なんだあれ」
 とりあえず邪悪なものでは無さそうだが――これはなんであろうか。
 そんなことを思いながら皆が見ていると、小さなものは箒を振りかざし彼らを威嚇してきた。次のような言葉を添えて。
「デテイケ、ドロボウ! 【チャーリー】、ミセノモノ、ヒトツモヌスマセナイ!」
 どうやら人間の言葉が喋れるようだ。そして名前はチャーリーらしい。
 しかし泥棒とは何事か。
「ええ? ちょっと待ってよ。私たち、泥棒じゃないわよ。このお店をお掃除に来ただけよ」
「オソウジ、イラナイ! ゼンブチャーリーガヤッテル! オバーサンニマカサレテル! チャーリー、コノミセマモル!」
 なにやら話がややこしくなってきたな、と誰しもが思った。
「ねえ、どういうことなの? こんなのがいるなんて聞かされてないわよ」
「うーん……困ったなあ」
 相談した結果一同は、この話を持ってきた学園長に事情説明を求めた。テールで。
 すると学園長は、明るく笑ってこう言った。
『すまんすまん、言うのを忘れてた☆ あのなー、その喫茶店、元店主に懐いてたシルキーが住み着いてるんだ。と言うことでそっちの処理もよろしく頼む』
「えっ、いや、よろしくって……どうすればいいんですか。シルキーって相当強力な魔物ですよね」
『ああ。でも、性質は大人しい――逆鱗にさえ触れなければ、攻撃してくることはない。言葉も通じるから、説得だって可能だ。追い出すか、それとも協力関係を得るか。どうするかは、ちみたちの自由裁量に任せるぞい!』
 勝手なことを言って、学園長はテールを切った。
 生徒達は困惑の視線を交わし合う。


 散歩の途中トーマスとトマシーナは、ずっと閉まっていた三角屋根の店の扉が開いているのを見つけた。
 なにやら、たくさん人が集まっている。
 トマシーナは俄然興味をわかせて、兄にこうせがんだ。
「にいたん、みにいきましょう。あそこのおみせ、しんそうかいてんしたのかも」


 困惑の視線を交わし合っていた生徒達は、入り口に顔を向けた。トマシーナがこう言いながら、入ってきたので。
「こんにちわあ」
 直後トマシーナが連れていたタロが尻尾を振り、吠えた。
「キャアッ」
 その途端チャーリーが縮み上がり、カウンターの下に隠れた。
 どうやら彼(彼女?)、犬が苦手な性分らしい。




エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2022-02-09

難易度 とても簡単 報酬 通常 完成予定 2022-02-19

登場人物 3/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。
《人間万事塞翁が馬》ラピャタミャク・タラタタララタ
 カルマ Lv22 / 魔王・覇王 Rank 1
不気味で人外的な容姿をしたカルマの少女。 愛称は「ラピャ子」や「ラピ子」など。 名前が読み難かったらお好きな愛称でどうぞ。 性格は、明るく無邪気でお茶目。 楽しいと面白いと美味しいが大好き。 感情豊かで隠さない。隠せない。ポーカーフェース出来ない。 そしてちょっと短気なところが玉に瑕。 ギャンブルに手を出すと確実に負けるタイプ。 羞恥心を感じない性質で、露出度の高い衣装にも全然動じない。 むしろ前衛的なファッション格好いいと思ってる節がある。 戦闘スタイルは我流の喧嘩殺法。 昔は力に任せて単純に暴れるだけだったが、 最近は学園で習う体術を取り入れるようになったらしい。 しかしながら、ゴリ押しスタイルは相変わらず。 食巡りを趣味としているグルメ。 世界の半分よりも、世界中の美味しいモノの方が欲しい。 大体のものを美味しいと感じる味覚を持っており、 見た目にも全く拘りがなくゲテモノだろうと 毒など食べ物でないもの以外ならば何でも食べる悪食。 なお、美味しいものはより美味しく感じる。Not味音痴。 しかし、酒だけは飲もうとしない。アルコールはダメらしい。 最近、食材や料理に関する事を学び始めた模様。 入学までの旅で得た知識や経験を形に変えて、 段々と身に付いてきた…と思う。たぶん、きっと、おそらく。

解説 Explan


冬真っ盛りなこの頃、皆様お元気ですか。
これは閉店した喫茶店を、今後どのように利用するか考える問題。
喫茶店には、店を守ると自負している魔物、チャーリーが住み着いています。魔物は今は亡き喫茶店店主になついておりました。ために、その店主が残した店を何が何でも守ろうとしています。

トマシーナが入ってきて分かったのですが、チャーリーは、どうやら犬が苦手な様子。
出て行ってもらうのか、住み続けてもらうのか、皆さんの考えをお聞かせくださいませ。




作者コメント Comment
Kです。
お元気ですか皆様。
喫茶店でほっこりあったまっていってくださいませ。






個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:54 = 45全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
「あら、トマシーナ様にトーマス様」

と入ってきた彼らを見て声をかけますわ。そして犬を怖がるチャーリー様を見て、一先ず黒犬とタロを外に繋いでおいてもらいますわね

チャーリー様が落ち着いたら改めてお話を。先ずお婆様が亡くなられた事を認識しているのかを確かめ、その上でこの元喫茶店の今後についてチャーリー様に子供の為の施設はどうかという考えを話してみますわ。子供が喜びそうな内装ですし、机と椅子にキッチンもある。おやつを作る事もできますわね。そしてそこで働いてみないかと持ち掛けます。悪さをするような方ではなさそうですし、この場所を追い出すのも忍びないですし

もしチャーリー様が納得していただけたなら、トーマス様にお願いしてチャーリー様からお婆様の特徴を聞き、デッサンセットとキャンパスを用意してお婆様の似顔絵を描いていただこうかと。それを飾っておけばチャーリー様も寂しくないのではないかと思いますわ

ベイキ・ミューズフェス 個人成績:

獲得経験:54 = 45全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
元喫茶店だった建物の片付けと、そこに住み着くシルキーへの対処

◆対処
折角、前のご主人を想って住み着いてるんですし、このまま残って貰って仲良くして欲しいですね

まずは、元店主のお婆様が亡くなったのに、キチンと建物を管理してくれてるチャーリーさんを褒めましょう
そのうえで、残念ながらお婆様はお亡くなりになって、このお店は売られてしまったことを、順序だてて根気よくお話して

理解頂けたら、この建物のルールなんかがあれば、チャーリーさんに教えて貰いましょう
お店をするにも、誰かが住むにも大事なことですからね

それが済んだら、建物のなかを片付けてもいいかチャーリーさんに尋ねて、可能な範囲でお片付けしましょうか

ラピャタミャク・タラタタララタ 個人成績:

獲得経験:67 = 45全体 + 22個別
獲得報酬:1800 = 1200全体 + 600個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
店として復活させる

■行動
まずは店の名前じゃ。店の名前を確認するぞ。
名は体、店を守るのなら名を守らねばのぉ。

そういう方針にするかはチャーリーや皆で決めるとして…
やはり前店主の意向というか喫茶店としての拘りは残したいのぉ。
ならば、あちきは喫茶店のメニューとかレシピとか確認して、再現してみるのじゃ。
もし喫茶店として立ち上げるなら料理は必須じゃし、
それ以外にするにしろ作れると色々便利じゃからのぉ。

かつては繁盛し、客足が遠のいても経営が続けられる程の客がいたならば、
些細ながらも確固たる努力と拘りがあったに違いない。
簡単じゃなかろうと試してみる価値はあるじゃろうし、グルメとして気になるのじゃ!

リザルト Result

●チャーリー、ショック
「全く学園長先生もうっかりさんですわね。チャーリー様、害はなさそうですがどうしたものでしょうか?」
「そうですねえ……折角、前のご主人を想って住み着いてるんですし、施設をどうするにせよ、このまま残って貰う方向でかまわないのではと……」
 【朱璃・拝】と【ベイキ・ミューズフェス】がひそひそ話をしているところに、【トーマス・マン】【トマシーナ・マン】、【黒犬】、タロが入ってきた。
 それを見た朱璃は、二人へ声をかける。
「あら、トマシーナ様にトーマス様」
「あ、朱璃さん、こんにちは」
「しゅりねえたんこんにちは。なにしてるのー?」
 時同じくして【チャーリー】が悲鳴を上げ、カウンター下へ逃げる。
 トマシーナは目ざとくチャーリーの存在に気づき、カウンターの下を覗きこんだ。
「わあ、かわいい。しゅりねえたん、これ、なんていういきもの?」
 黒犬は鼻先を突っ込み胡散臭げに嗅ぐ。タロはひたすらフレンドリーに吠える。
 これはまずいと思った朱璃は、トーマスたちに、犬を下がらせてくれるよう頼む。
「どうやらこの方は犬が苦手なようですので、いったん二匹を外に出していただけますか?――タロ、黒犬、後でお肉を食べさせてあげますから、大人しくしていてくださいね?」
「あ、うん」
「わかったー」
 犬が出て行く。
 落ち着いた場で朱璃は、改めて、チャーリーに話しかけた。
「もう大丈夫ですわ。出ていらしてください。お話をしたいですので」
 相手が犬を下がらせたことで、チャーリーは大いに警戒心を解いた。カウンターの下から素直に出てくる。
「ハナシッテ、ナニカ。コノオミセ、オバーサンノモノ。オミセノナカノモノモ、オバーサンノモノ。チャーリーダレニモワタサナイ」
「ええ、そのことなら存じておりますわ」
 話を合わせつつ朱璃は、もしかしてチャーリーは、主人の死を知らないのではないだろうかと疑う。ベイキも同じ疑念を抱く。
 シルキーなる魔物は主人に忠誠を尽くす一方、その主人がいなくなったさいは混乱状態、悪ければ錯乱状態に陥ると言われている。しかして現段階では、チャーリーに、そんな気配はない……。
(ひとまず、そこのところを確かめなくてはいけませんね)
 そう思ってベイキは、チャーリーに話しかけた。
「こんなにきちんと建物を管理されているなんて、偉いですわね。ガラスも曇りひとつありませんし」
 褒められて悪い気はしなかったようだ。チャーリーは尖った口先を持ち上げ胸を張った。
「コノクライアサメシマエ。チャーリー、トッテモオソウジジョウズ。オバーサンニソウイワレテル」
「そうですか……ところで、その店主様……お婆様が、今どこにいらっしゃるかご存じですか?」
 チャーリーは、たちまちしょんぼりした顔になる。
「オバーサン、ココニハイマ、イナイ。ビョウインニイル。デモ、ゲンキニナッタラカエッテクル。オバーサンカエッテクルマデ、チャーリー、ミセマモル」
 やはりチャーリーは、主人の死をいまだ知らないようだ。
 ベイキは朱璃と顔を見合わせる。
 朱璃は無言で頷く。
 ベイキもまた、無言の頷きで返す。そうして再びチャーリーに話しかける。
「チャーリーさん、お婆様について大事なお話があるのですが、聞いていただけますか?」
「ダイジナオハナシ?」
 チャーリーは首を傾けてから、ぴょいと跳びあがった。うれしそうに。
「オバーサン、ヨクナッタ? ビョウインカラ、カエッテクル?」
 こういうふうに出られるとすごく言いにくい。けど、言わなくてはならない。それがこの子のためなのだ。
 己を鼓舞してベイキは、優しく容赦なく事実を告げた。
「いいえ。お婆様はお亡くなりになられました」
 チャーリーは雷に打たれたように全身を強ばらせた。それから、きいきいわめき出した。
「ウソ、ウソ! オバーサン、シナナイ! カエッテクルッテユッタ! オマエウソツキ!」
 チャーリーの動揺を、ベイキは静かに受け止める。
「いいえ、ウソではないのです。お婆様は亡くなられました。一年も前に」
 その頑として揺るがない姿勢は、チャーリーに、今彼女が言ったことが真実であると悟らせた。そして悲嘆へとたたき込んだ。
「オバーサン、ユッタ! チャーリーニカエッテクル、ユッタ! ユッタ……チャーリーニ……ユッタ……」
 チャーリーは火がついたように泣き出した。
 その泣き声を聞いたトーマスと、トマシーナが、心配そうな顔をして店に入ってくる。偶然前を通りがかった【ラピャタミャク・タラタタララタ】も、また。
「なにやら騒がしいが、一体どうしたのじゃな?」

●チャーリー、気を取り直す
 店主の死を知ったチャーリーは、すっかり意気消沈してしまった。
 号泣は収まったものの、しゃくりあげ続けている。
「オバーサンシンジャッタ……イナクナッチャッタ……」
 こんな状態のところに追い打ちをかけたくはないのだが、言わねばならぬことはやっぱり言わねばならぬ。
 ということでベイキは、再び口を開いた。
「それでこのお店についてなのですが、お婆様の後誰も引き継ぐ方がいませんでしたので、売りに出されたのです。それを学園がこの度買いとりました。ということで、今、このお店の所有権は学園にあるのです」
 チャーリーはその言葉に激しく反応した。ウー、と唸って歯を剥き出す。怒った猿みたいに。
「ソンナノシラナイ! コノミセ、ズットズットオバ-サンノモノ! チャーリーコノミセマモル!」
 そこでラピャタミャクが、どん、と床を蹴り、チャーリーを一喝した。
「店を守ってるじゃと……? はっ、笑わせる! 汝は店なんぞ守れてないのじゃ!」
 チャーリーがふうっと体の毛を膨らませる。
「コノミセ、オバーサンガツクッタ! ショユーケンオバーサンノモノ! ヨコドリユルサナイ!」
 ラピャタミャクは小さな鼻先に人差し指を突き付け、一息にまくし立てる。
「あほう! 所有権とか人の都合なんぞどうでも良い! 店の体を成してないといっておるのじゃ! この店はいつ開いて、客が何人来て、売上はいくらじゃ? 客を迎えることが出来なければ店と呼べないのじゃぁぁーーっ!!」
 チャーリーは愕然とした。おろおろと呟きを漏らした。
「オキャクコナイト、ミセジャナイ……?」
 自分の言葉が効いたと見たラピャタミャクは、さらに畳み掛ける。
「チャーリー、汝に問うぞ。ただ単に、この建物と思い出に縋りたいのか? それとも、客を迎えられる店で在りたいのか? どっちじゃ?」
 答えに詰まるチャーリー。
 主人の死を聞かされたばかりで、まだ混乱しているのだ。そうすぐ結論は出ないだろう。
 思いながら朱璃は、小さな相手に語りかけた。今後を考える一助になれば、と。
「この場所にはチャーリー様の思い出が詰まっておりますのね? できればこの内装を活かした施設にしたいものですが、子供達の為の施設はどうかと思いますわ。保育園や託児所のような……チャーリー様、そこで子供達の遊び相手をしたり、危険から護ったりといった事をしてみませんか?」
 ベイキは彼女の提案に賛意を示した。
「ああ、それはいいかも知れませんね」
 個人的には「保護施設入居者の新居にどうかな」と考えていたのだけれど……どうせならこの形のままで使える道を探した方がいいかもしれない。せっかくこんなに面白い内装をしているのだから。
「コドモ……ココデアズカル?」
「ええ。チャーリー様を受け入れた店主様――お婆様はきっとお優しい方だったと思いますし、そういう方なら子供も好きだった筈。きっとお婆様も喜びますわ――トマシーナ様も散歩でこの辺りによく来られるのなら、遊び相手ができてよいのではないでしょうか?」
 朱璃に話を振られたトマシーナは、わくわくした顔で、賛意を示した。
「うん。ここがそういうばしょになるなら、わたし、いちばんにおきゃくさんになる!」
 チャーリーはおずおずと朱璃に言った。
「オバーサン、ヨロコブ?」
「ええ、お喜びになりますわ――チャーリー様があんまり悲しんでいると、お婆様は、とても心配されます。だから、元気を出してくださいまし。この喫茶店を、お婆様に任されたのでしょう?」
「ウン、マカサレタ……」
「では、その約束を守らなくては。チャーリー様ならやりとげることが出来る。そう思ったからこそお婆様は、あなたに、そのように言ったはずですから」
 そして、涙を拭った。
「……ウン……チャーリー、ミセヲマモル。オバーサントヤクソクシタカラ、ソレ、マモル」
 すかさずラピャタミャクが拍手する。
「よし、これで話は決まりじゃ。ではチャーリー、まずはこの店の名前を教えてくれんか。看板が下ろされてしもうとるでのう。託児所にするにせよなんにせよ、名は体、店を守るのなら名を守らねばのぉ」
 彼女は実のところ、この喫茶店の閉店をことの他惜しんでいた。
 グルマンとしての血が叫ぶのだ。かつて繁盛し、客足が遠のいても経営が続けられる程の客がいたならば、些細ながらも確固たる努力と拘りがあったに違いない。うまいものを出していたに違いない。それを無に帰することは、この世の全てに対する冒涜であると。
「オミセノナマエ、『ボーノ』」
「ほう、ボーノ……どこかの言葉で、おいしいという意味じゃったかの。そういう名前をつけるとは、この店、よほど料理に自信があったと見える」
「モチロン。オバーサンノツクルリョウリ、ホントウニオイシイ。トクニスイーツ、ゼッピン」
「それは興味深いの。可能ならレシピなど確認させてもらえんかのう? あちきが再現するで」
「ソレダメ。レシピハオバーサンカラアズカッタ、ミセノマルヒジコウ。カルガルシクミセラレナイ」
「えー、それじゃああちき、味が確かめられんではないか」
「モシタベタイナラ、チャーリー、ツクッテアゲテモイイ」
「何、料理出来るのか、汝」
「モチロン。ヨクオバーサンノオテツダイシタ」
「おお、それは頼もしい。では早速注文しようかの。ええと、メニューは……これか。え-と、まずは、チーズケーキにショソンにクレープシュゼットに、シナモンドーナツ――」
 ラピャタミャクはテーブルに腰掛け、メニューをめくり始めた。
 矢継ぎ早な注文を、すらすらメモに書き留めるチャーリーに、朱璃が言った。
「チャーリー様、もしよろしければ、おばあさまの似顔絵を描いてもらってはいかがですか? ここにいる、トーマス様に」
 それを聞いたベイキは、トマシーナに言う。
「トマシーナさんは、チャーリーさんと仲良くなりたいですか?」
「うん!」
「でしたら、チャーリー様のお顔を描いてあげてはいかがでしょう? トーマスさんと一緒に。どうせ飾るなら、お婆様だけでなく、チャーリーさんの肖像画も揃って飾ったほうがいいでしょう?」

●お店、新装開店(予定)
 トマシーナがクレヨンでチャーリーの顔を描き終えた。
 トーマスもまたおばあさんの肖像画を描き終えた。
「できたわ! ちゃーりちゃんのおかお!」
 トマシーナは自作の出来栄えに満足しているようだが、彼はちょっと不安である。絵の中にいるのが、かなりエキセントリックな姿のお婆さんだったから。
 一応チャーリーの証言通りに描きはしたのだが……ハートのサングラス、タマネギ形に結った紫髪、ポップかつど派手なドレス、コーヒーカップの縁くらいあるイヤリング、ピンク色のマニキュア、キンキラ光るキセル。
「……ええと、チャーリー、これでいい? 間違ってない?」
 ラピャタミャクのテーブルにお菓子を運び終えたチャーリーは、トーマスが描いた肖像画を見て、目を輝かせた。
「オバーサン……ソックリ!」
 トーマスからその絵を、トマシーナから自分の絵を引き取り、かわいい額に入れ、きょろきょろ店内を見回す。そして、入り口に面した壁――入ってきた人が、まず真っ先に見るだろう場所に飾り付ける。
「オバアサントチャーリー、イッショ!」
 よかった、と朱璃は心から安堵する。この分なら、彼(彼女かしら?)も、寂しくはないだろう。
 ベイキは、チャーリーに尋ねる。
「チャーリーさん、この建物のルールなんかはありますか? これはしてはいけないとか、あれはしてもいいとか」
「オソウジドウグヲイレタロッカー、サワッテハダメ。アト、チューボー、バックヤード、ハイッテハダメ。オミセカンケイシャイガイタチイリキンシ」
「分かりました。では、チャーリーさん。建物のなかの今言った以外の部分は、片付けてもいいですか?」
「カタヅケル? ドウシテ。ミセ、キレイ。コノママデジュウブンツカエル」
「ええ。でも、子供たちを預かるとなると、遊ぶスペースが必要になろうかと思います。後、本を置いたりおもちゃを置いたりしなければいけないでしょうし……ですから、少し椅子やテーブルの数を絞ってはどうかなと。思い出の品等はなるべく残して、まだまだ大事に使うということで……どうでしょう?」
「ウーン……」
 チャーリーは店内席の削減に、あんまり気乗りしてなさそう。
 そこでラピャタミャクが、口を挟んだ
「この際じゃから、新しく庭に雨避けの屋根などつけて、そこに余分な椅子やテーブルを並べて、テラス席など作ってみてはどうかの? そうしたら人目につきやすくなって、客の入りもよくなるかも知れぬで」
「ンー、ソレナラマア……イイカモ。デモ、ヤネツケルッテドウスルノ」
「ああ、そこは学園に丸投げすればよいのじゃ。きっとよいものが出来ると思うぞ?」

 シルキー付きの喫茶店。託児所としての新装開店、確定である。






課題評価
課題経験:45
課題報酬:1200
シルキー付きの喫茶店
執筆:K GM


《シルキー付きの喫茶店》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2022-02-03 00:05:54
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

とりあえず内装の様子等から、子供向けの施設にしたらどうかと思いましたわ。託児所とか、保育園とか。元喫茶店なので机と椅子はありますし、キッチンもあるのでおやつも作れるでしょうし。

チャーリー様は特に害はないという事ですし、子供たちの護り手かつ遊び相手になっていただくとか?

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 2) 2022-02-06 00:01:13
ご挨拶が遅れ申し訳ありません。教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。

面白い施設ですね。
タイミング的にウルドさんご家族の新居かと思ってましたが、さてどうしましょう。

個人的には、チャーリーさんには残ってもらって、色々とおうちのことを教えて欲しいですね。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 3) 2022-02-06 11:55:28
とりあえずはチャーリー様にお話を聞いてもらわないといけませんから、タロと黒犬には外にいていただいた方がよいですわね。

あとは説得スキルなどがあればお話はできるでしょうか?一応持ってはおりますが・・・。チャーリー様がお婆様が亡くなられた事を自覚しているのかいないのかでまた話も変わってきそうですけれど。

チャーリー様に店主でいらしたおばあ様の特徴を聞けるようでしたら、丁度トーマス様もいますし似顔絵を描いてもらって中に飾るというのもよいかもsれませんわ。

《人間万事塞翁が馬》 ラピャタミャク・タラタタララタ (No 4) 2022-02-08 22:25:59
らぴゃたみゃくたらたたららた!
ギリギリになって申し訳ないが、よろしくなのじゃ。

あちきは喫茶店だった頃のメニューとかレシピとかを確認して再現してみるのじゃ。
喫茶店にするなら料理は必要じゃろうし、
それ以外にするにしても喫茶店の名残と言うか拘りは残しておきたいと思うのじゃ。