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王冠――わが道を行く


ストーリー Story


●ふたり
 サーブル城の間近。
 【セム・ボルジア】はタバコをくゆらせ崩れたガーゴイルを見上げている。
 これはただの人間である彼女にとって危険な行為だ。城には魔物がいるのだから。
 こんなことをしようなんて、彼女自身思わなかったはずだ。少し前まで――【赤猫】と【黒犬】がこの界隈をうろついていた時分には。
 だけど今は何の対策も取らず、ここにやってきている。魔物が自分に手を出せないと思っているかのように――いや、彼女自身はそこまで考えていないはずだ。ただ、感じているのだろう。無意識の奥深いところで。魔物は自分がしようとしていることを邪魔出来ないのだと。
 明らかに変化が起き始めている。もとい、起きた上で進行している。
 そのことを思いながら【ラインフラウ】は、愛しい彼女に声をかけた。
「セム、あなたの呪いにことなんだけどね。少し分かったことがあるの。聞きたい?」
 セムはラインフラウに顔を向ける。
 鋭くて、ずるくて、抜け目のない、孤独な眼差し。
「ええ、それはもちろん興味がありますね。教えてくださいラインフラウ」
「呪いはね、セム、ノアが協力的な人間を――もっと言えば復活を手助けする人間を得るためのものよ。そう考えれば、これまでのこと、納得いくと思わない? ボルジア家が破格の富を築いたことも、富を分かち合う血族を持たないことも、あなたがグラヌーゼにこだわっていることも」
 セムは少し考えた。そうして苦い顔をした。
「私の考えは、ノアに操られたものだということですか?」
 ラインフラウは静かに首を振る。
「いいえ、違うわ。グラヌーゼを発展させたいという考え、サーブル城を観光地化したいという考え。どちらもあなた自身から出てきたもの。あなたの生来の資質と、育ってきた環境から導き出されたもの。もっともその両方が、ノアの呪いによって育まれたものだけど。ノアの願いがあなたの願いを呼び覚ましたのか、あなたの願いがノアの願いを呼び覚ましたのか。卵が先か鶏が先かって所ね。どこまで辿っても堂々巡りで、切り離せないの。あなたと呪いは一体よ、セム。どちらか一つに切り離そうとしても、切り離せるものじゃない」
 セムはまた黙った。灰色の目が自分自身を探る。
 舌打ちしたいような気分だがそれは出来なかった。タバコを咥えているので。
「……そうですか。どっちにしても切り離したいとは思いませんがね」
「そう。どうして?」
「第一に、私、そうしたら死にますでしょう? 違いますか?」
 ラインフラウは切なげにセムを見やる。
「違わないわ。その場合ボルジア家は、第二のシュタイン家となる。血族も富もすべてご破算。それが、途中棄権した者へのペナルティ」
 セムは遠くを見やった。虚空にヒュウヒュウ風が吹き抜けている。
「私は死にたくないですよ。特に惜しまれる命でもありませんがね。少なくとも、グラヌーゼの事業にメドが立つまでは死にたくないですね」
 やだあ、とラインフラウが言った。だだをこねる子供みたいに。
「そういう寂しいこと言わないでよ、セム。あなたが死んだら私も死ぬわよ?」
 抱き着いてくる彼女をセムは、特に制止しなかった。少し苦しそうに目を伏せただけだ。
「あなた、すぐそういうことを言う」
「言うだけじゃないわよ。やるわよ」
「そうですね。あなたならやりますね、きっと。私によく似て、目的のためならなんでもやりますから」
 ラインフラウはセムに教えなかった。自分がすでに、新たな手段を見つけていることを。
 セムと一緒に死ぬ手段。そして久しくともにあれる手段――ノアはそれを成し遂げている。
 呪いという形で。

●道を戻す
 グラヌーゼに新たな遺跡――街道の痕跡――が見つかったというニュースが、学園にも伝わってきた。『ホテル・ボルジア』が一帯の調査をしているさい見つけたらしい。きっかけは、学園のいち生徒だったらしいが。荒れ地を歩いているとき、偶然土から露出していたそれにつまづいたとか。
 場所が場所だけに聞き流すことが出来なかった学園は、向こうの要請もあったので、早速生徒を派遣した。課題という名目で。
 その際教師も派遣した。かねてよりこの問題に長くかかわっている二人、【ラビーリャ・シェムエリヤ】と【ドリャエモン】が指名された。

「……これは、街道の石畳。古いですね、とにかく――千年以上はたってそうです。サーブル城とどっこいどっこいなんじゃないでしょうか」
 ラビーリャは一部掘り出された遺跡を見て、即断した。彼女は建築のことに、ことのほか詳しい。だからその見立ては間違いないだろう。
「こんなところに似つかわしくないくらい、立派なものです……これなら、四頭立の馬車だって楽々通れる」
 似つかわしくない、という言葉を受けドリャエモンは、茫々たる荒れ地を見回した。
「確かにの。で、この道はどこに続いておると思うかの」
 ラビーリャはすっと腕を上げ、サーブル城を指さした。それから荒れ地のかなた――今は穀倉地帯へと続いている場所を指さした。
「城から町の中心へ、繋がっていたんだと思います。もしかしたら複線みたいなのもあるかもしれないですが……ここを通ってノアは、領内を行ったり来たりしていたんじゃないでしょうか」
「領主の専用道路ということかの」
「多分……彼らの治世のやり方を調べた限りでは、領民に開放したとも思えませんし。まあ、城の関係者くらいは通してくれたかもしれないですけど。後は、税を納めるときなんか」
 ラビーリャは目を細めて、布を張り巡らした一角を眺める。そこでは発掘作業が続いているのだ。
 遠くには別の工事が行われている。陥没箇所の修復、らしいが。
 彼女は近くに立っているセムに聞いた。
「あなた、街道を全部掘り出すつもり?」
「ええ。まだ使えそうですから。新しく作るより安上がりですし――そうすることに、問題はありそうですか?」
「……さあ。今のところはそういうものは見いだせないけど、でも、あまり感心しないね。そういうことをするのは。どういう仕掛けが隠されているのか分からないのだし」
「それを見つけるためにも、まずはある程度掘り出してみませんと。もし何かまずいことが起きそうなら、また埋めますよ」
 そう言い残してセムは、場から離れて行く。ラインフラウと一緒に。
 ラビーリャが聞く。
「どこに行くの」
「地下の湿気が取れたかどうか、確かめに行くんです。一緒に来ますか?」



エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2022-03-27

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2022-04-06

登場人物 2/8 Characters
《猫の友》パーシア・セントレジャー
 リバイバル Lv19 / 王様・貴族 Rank 1
かなり古い王朝の王族の娘。 とは言っても、すでに国は滅び、王城は朽ち果てた遺跡と化している上、妾腹の生まれ故に生前は疎まれる存在であったが。 と、学園の研究者から自身の出自を告げられた過去の亡霊。 生前が望まれない存在だったせいか、生き残るために計算高くなったが、己の務めは弁えていた。 美しく長い黒髪は羨望の対象だったが、それ故に妬まれたので、自分の髪の色は好きではない。 一族の他の者は金髪だったせいか、心ない者からは、 「我が王家は黄金の獅子と讃えられる血筋。それなのに、どこぞから不吉な黒猫が紛れ込んだ」 等と揶揄されていた。 身長は150cm後半。 スレンダーな体型でCクラスらしい。 安息日の晩餐とともにいただく、一杯の葡萄酒がささやかな贅沢。 目立たなく生きるのが一番と思っている。
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。

解説 Explan


Kです。
王冠シリーズ、続きです。
サーブル城、発掘が進んでいます。
今回は、セムと一緒にお城の地下に入ってもらいます。現状の問題を片付けるためには、そこがどうなっているのかの確認をしなくてはなりませんので。
セムにとって城の地下に入るのは、確かこれで三度目になりましょうか。
目的は排水の確認ということですが……外に理由があるのかも知れません。特にラインフラウの方。またぞろ無理心中を画策しているようですし。
OPでも指摘されていますが、魔物は出てきません。隠れています。何かを恐れて。ですから今回、魔物との戦闘はありません。

地下探索には、NPCラビーリャ、ドリャエモンが同行いたします。

※これまでのエピソードやNPCの詳細について気になる方は、GMページをご確認くださいませ。
そういうものが特に気にならない方は、確認の必要はありません。そのままプランを作成し、提出してください。エピソードの内容に反しない限り判定は、有利にも不利にもなりません。


作者コメント Comment
皆さんこんにちは。
春めいてきましたね。
でもグラヌーゼは、まだ灰色という感じです。冷涼な土地柄ですから。
サーブル城は着々とリフォームが進んでいるようです。





個人成績表 Report
パーシア・セントレジャー 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
サーブル城地下の調査

◆用意
キラキラ石を用意し、光源代わりに利用

◆調査
孤立したら危険だし、一団で動いて地下を調査
排水の確認となると……排水路や排水の一時貯留池なんかかしらね

そういう設備なら、排水路の途中に、ゴミを集めたりする溜升があるはず
触覚強化を活かし、葦の杖で升の中を探ってみましょ

何か手応えがあれば、杖の先で引っかけたり、重くて無理なら、可能なら升に入って対象を確認
必要なら回収しておきましょ

他にも、一部だけ煉瓦や石畳等の色や質感が違う場所や、最近掘られた穴の跡とかあれば、葦の杖の先で触ってみたりと調査

何もない袋小路や広間では、足元や壁だけでなく天井も確認して、何かないか漏らさず調査ね

朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:90 = 60全体 + 30個別
獲得報酬:2250 = 1500全体 + 750個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
ひとまず地下に入ったらランタンで明かりをとりますわ。目、耳、鼻、全ての感覚を研ぎ澄ませて危険がないか注意を払っておきますわね。周囲に魔物の気配は感じますが襲ってくる気はない様子。怯えも見えますし何を恐れているのかも注意が必要ですわね

気になる物にはチョークで印をつけておきますわ。一応危険がありそうな場合は私が確かめてみますわね。一応肉体派ではありますので

それと最近セム様の様子も少しおかしいようですし、何か危険な事をしそうになったら即断即決でそれを阻止できるかやってみますわ。或いはノアの呪いが影響を与えているのかもしれませんが、最悪意識を失わせて地下から連れ出しますわね

何事もなく済めばよいのですが

リザルト Result

●何度目かの地下訪問
「排水の確認となると……排水路や排水の一時貯留池なんかを見て回るのかしら?」
「ええ、そうです。やはり自分の目で見ないと、納得出来ませんのでね」
 【パーシア・セントレジャー】が【セム・ボルジア】とそんな会話を交わす中、【朱璃・拝】はランタンを灯す。
 ガラス越しに揺らめく炎はパーシアが持ち込んだキラキラ石とあいまって、地下空間を照らした。
 ひとまず空気は前回来たときと比べて、大幅に改善されている。閉鎖空間特有のすえた匂いはほぼなくなり、湿気もほとんど感じない。
「……」
 朱璃は目、耳、鼻、全ての感覚を研ぎ澄ませ危険がないか探った。
 周囲に魔物の気配は――ある。だが遠い。襲ってくる気はないらしい。それどころか、怯えを感じる。
(私たち訪問者を恐れているのでございましょうか?) 
 いや、違う。と朱璃の本能は告げる。もっと違うものを魔物は恐れている、と。
 それはそう、多分、この城の古き主たち。彼らは――少なくとも彼らの力は今も存在し続けている……。
(……ノア一族の最終的な思惑は、やはりこの城への帰還なのでしょうか?)
 セムが歩きだした。いつもと変わらない足取りで。【ラインフラウ】と話しながら。
「ねえセム、グラヌーゼには数日逗留するのよね?」
「ええ、そのつもりでいます」
 一同は深く潜っていく。サーブル城の下へ。【ドリャエモン】、【ラビーリャ・シェムエリヤ】教師陣二名を伴って。
 バラバラに探索して回る方が効率は上がるだろうが、そうしなかった。出立前にパーシアが、次の提案をしたからだ。
『孤立したら危険。一団で動いて調査したほうがいい』

●深みへ
 朱璃は道中、ラインフラウに忠告する。彼女の性向がいまだ改まっていないと聞いたので。
「まだセム様と心中しようと思っておられるのですか?」
「さあ?」
「……セム様は嫌がっておられるようですし、あまりやり過ぎると嫌われてしまいますわよ」
 パーシアはじっくりと、地下通路の煉瓦や石畳を観察する。一部だけ色や質感が違う場所や、最近掘られた穴の跡などないものかと。
 ほどなくして壁のところどころに、発光している箇所を見つけた。
 形その他から判断するに、照明らしい。
 念のため、セムに聞く。
「これは、あなたたちがつけたの?」
「いいえ。もともとあった設備が、環境の改善で再稼動し始めたんだそうです――ラインフラウによると。そうでしたね、ラインフラウ?」
「ええ、そうよ」
 朱璃は、発光している箇所の下にチョークで印をつけていく。また後で調査するよすがにしようと。
 それはそれとして、彼女はセムの行動に、疑問を持っていた。
 いくら現場を見て回るのが好きだといっても、湿気の確認だけなら別に、本人が来なくてもよいはずではないか? 
「何かお目当てがありますの?」
 その質問にセムは、そっけなく答えた。
「いえ。確認以外特に何も」
 直後不自然な言葉を繋げる。
「これなら彼らがいつ戻ってきてもいい」
 朱璃は思わず立ち止まり、相手の横顔をまじまじと見る。
 セムは、別人のように柔らかい表情を作っていた。だけどそれは一瞬のこと。我に返ったようにいつもの顔に戻る。
 自分が今言ったことも、どうやら忘れているらしかった。こんな台詞を続けてきたからには。
「――何か?」
 水音が聞こえる。
 排水路の水が小さな滝となって、流れ落ちているのだ。
 行き着いた先は広間。
 広間の真ん中には、池くらいの大きさがある溜め升。
 パーシアは周囲を確認した。
 前方の壁一面が、ほかとは違う一枚岩で出来ている。その中央に縁取りされた小さな穴が穿たれている。
(……これは鍵穴?)
 パーシアはキラキラ石を升にかざしてみた。
 どうしたことか水は真っ黒。底が全く見通せない。
 持ってきた葦の杖を、慎重に水の中へ入れてみる。
 どろん、と重い。
(泥が堆積しているのかしら……もしかしてその中に、まだ見つかってないノア一族の遺物とかがあるかも)
 杖が動かなくなった。固められてしまったように、にっちもさっちもいかない。
 パーシアは一旦杖を引き上げようとした――が、重くて動かない。朱璃に手伝ってもらったが、やっぱり動かない。ラビーリャとドリャエモンの助けを借りてもだ。
 これ以上無理にやると、杖が折れるかもしれない。
 そのように思った彼女は意を決し、升の中に入ってみることにした。
 朱璃は彼女にくれぐれも、と念を押す。黒い水を横目にしながら。
「危ないと思ったら、すぐ逃げてくださいまし」
 そこでラインフラウが言った。
「お付き合いするわ。私なら、もう絶対溺れないわよ、ローレライだもの」

●欲するものを与う
 枡に入ったパーシアはあたりを見回した。
 想像以上に底が深い。足が全くつかない。
 おかしなことに、あれだけ手ごたえがあったにもかかわらず、泥などはなかった。上下左右ただただ真っ暗な水が満たされているばかり。
 キラキラ石をかざしてみたが、光は黒に吸い込まれ手元から広がらず、先を見透かすことは出来ない。
 底のほうに光るものが見えた。
 肩を叩かれた感触がした。
 顔が見えないが、ラインフラウのようだ。
 耳元で彼女の声が聞こえた。
「行ってみましょうよ」
 ひとまずパーシアは、その言葉どおりにする。水をかきわけるようにして光に近づいていく。
 すっと光が消えた。
 誰かが何かを自分の手に握らせた。ような気がした。
 また耳元で声。
『お前たちに望むものをやろう』
 これはラインフラウではない。
 気づいた瞬間、顔が――死相と笑いを浮かべた端正な顔が――目の前に現れた。
 金色の瞳、黒い髪、褐色の肌。
 パーシアは叫ぶ。水の中で。

 朱璃は升の水面を見つめる。
 激しく泡が上がったと思った途端、パーシアが浮き上がってきた。
「いかがでございました? 何か、見つかりましたか」
「……ええ」
 荒い息をついてパーシアは、升から上がる。拾い上げてきたものを見せる。
「……これは、鍵、でございますか?」
 質問に頷き、壁の鍵穴を指差す。
「多分、あそこの鍵だと思うのよ」
 ところでラインフラウがまだ上がってこない。
 心配になったのか、セムは身をかがめ、升の縁から中をのぞき込んだ。
 直後水の中からラインフラウの腕が出てきて、彼女の首に回された。
 激しい水音を聞く。
 一同そちらへ顔を向ける。
 水の中に引きずり込まれかけているセムを大急ぎで捕まえ、引き戻す。
 ラビーリャが一喝した。
「ラインフラウ、あなた、なにをしてるの!」
 ラインフラウは悪びれもせず水から上がってきて、小さく舌を出す。
「やあねえ、ちょっとした冗談よ」
 セムは飲んだ水を吐き出した。
「……こういう冗談は好きじゃないですね」
 声が細かく振動している。動揺の証だ。
 けどそれは、ラインフラウのたちの悪い悪戯に対してのものではなさそうだった。視線は彼女に向いていないのだから。
 朱璃は遠慮しつつ、セムに探りを入れる。変調がもし呪いに関するものだったら、早くこの場から連れ出したほうがいいと思って。
「……いかがなされました?」
「思い出したんですよ。晩餐の日のことを」
「……何があったのでございますか?」
「あの絵に描かれていたとおりのことです」
「……毒を盛ったのですか? ご家族に」
「ええ。こっそりと」
「どうしてそんなことを」
「ここまで範囲が狭まった以上、相手を『間合い』に入れないことも、相手の『間合い』に入らずにいることも、不可能になると思ったからです」
 セムは喉を鳴らした。空虚な笑い声が響く。
「でも、結局先手を取りきることは出来なかった。私も毒に当たった。全員が私と同じことを考え、同じことをしたんですね、自分以外の人間をいち早く始末しようと」
 笑い声が不意に止む。
 気だるい呟きがぽつりと転がり出た。
「まあ、そういうことです。時効ですけどね、何もかも」
 場が静まる。
 その静けさのもとパーシアは、鍵を鍵穴に差し込んだ。
「開けるわよ」
 壁が左右に開いた。
 そこにあったのはグラヌーゼの古地図。
 城を中心に線が四方八方に引かれていた――そのひとつは、幻惑の森へ繋がっている。
 ラビーリャが目を細めた。
「どうやら、青い線は水路のようだね。赤いのは、街道かな」
 パーシアは地図に顔を近づけ、眉をひそめた。
(随分規則的な形……まさか、巨大な魔方陣とか……なんて、物語じゃあるまいしねえ。でも、気になるわ)
 そのとき、猫の鳴き声が聞こえた。
 はたと目を向ければどこから現れたのか【赤猫】。軽やかな足取りでセムに近寄ってきて、体をこすりつける。
「連れてきたんでございますか?」
 朱璃が聞くとセムは、不本意そうに言った。
「いいえ。ついてきたんですよ。勝手に荷物に潜り込んで」
 パーシアはラインフラウに、疑わしさを交えた眼差しを送る。
「ねえ、あなたは水の中で、何か拾わなかった?」
 ラインフラウは朗らかに返した。
「いいえ?」
 その言葉が信用ならないことを、パーシアは知っている。
 彼女も何か受け取ったはずなのだ。あの声の主はこう言っていたのだから。

 お前『たち』に望むものをやろう。







課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
王冠――わが道を行く
執筆:K GM


《王冠――わが道を行く》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2022-03-21 17:22:08
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 2) 2022-03-21 22:26:33
王様・貴族コースのパーシア。よろしくお願いします。

今回は、本筋はセムさん達に同行して、サーブル城地下の調査かしらね。
個人的には、セムさんとラインフラウさんの様子も気になるし、発掘が進んでる街道も気になるけど。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 3) 2022-03-22 22:36:38
そうですわね、街道も確かに気になりますがメインは地下の調査でしょううから、何かするにしても字数が余れば、くらいでしょうか。

それにしてもラインフラウ様は解ってはいましたがまだ諦めておられない様子。ある意味感心いたしますわ・・・。さて、何か調査に役立つような手持ちのスキルがありましたかしら・・・?

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 4) 2022-03-26 17:10:53
ひとまずプランは提出しましたわ。あまり具体的なことは書けませんでしたが、危険に関しては十分注意しておこうと思いますわ。