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異界同盟を調査しよう


ストーリー Story

『覇王二柱に異界の創造主。随分と豪勢な面子だね』
 陽炎の如く揺れる影が、客人を出迎える。
 名は渾沌(こんとん)。
 覇王六種が一柱、『滅尽覇道・饕餮』の臣下にして端末たる、『三凶・渾沌』だ。
『それで、わざわざ会いに来るなんて、何の用だい?』
「気付いているか確認に来たのである」
 覇王六種が一柱、夜天覇道【アーカード】が問うと、渾沌は哂うように言った。
『火遊びをしてる、異界の異物共のことかい? それなら気付いているよ』
 渾沌が口にする異物とは、異世界からこの世界に訪れた者達のことだ。
 この世界には、異世界から『人』が転移してくることがある。
 訪れた『人』は、この世界の『法』に従って作り変えられ、この世界の人間種族に変えられ無害な存在に成るのだ。
 だがそれは、記憶や知識には及ばない。
 あくまでも、『基本』は、ではあるが。
 転移した人物の状況によっては、一部記憶が消えてしまうこともあるが、大半は転移する前の記憶や知識が残ったままだ。
 だからこそ、危険をはらんでいる。
 知識は、再現性のあるものだ。
 仮に、この世界では実現が不可能な物でも、『それまでには無かった発想』は容易く過去を置き去りにし、在り得なかった物を生み出しかねない。
 それは有益な物ばかりとは限らない。
 場合によっては、世界にとって危険極まりない物も生まれかねないのだ。
「少し前、魔族を浚う輩どもを潰したのである。そやつらのリーダー格が異世界出身であったが、こちらの世界の材料で、異世界の技術で作られた物を持っていたのである。そういう輩は、他にも多いのであるか?」
 アーカードが尋ねるのは、饕餮の探知能力を知っているからだ。
 饕餮は世界を維持するためのシステムであり、世界のバランスを崩しかねない存在を食滅することで、世界を保っている。
 それを十全に発揮するために、世界で起こる様々な事象を探知する能力を持っており、常に『世界を観測』しているのだ。
「答えられる範囲で良いので教えて欲しいのである」
『夜空の星よりは少ないんじゃないかな?』
「随分詩的なこと言うであるな」
『そちらに分かり易いように例えてあげただけだよ』
「それはつまりー、数えきれないほど多いってことですかー?」
 尋ねたのは、異世界人である【メフィスト】だ。
 これに渾沌は返す。
『そうだよ。以前から異世界由来の、『世界の脅威に成り得る種』はあったけど、魔王がああなってから増えてきてるね』
「そいつらの中で、今すぐ饕餮が動く必要があるのっているのか?」
 飴玉をガリガリ噛み砕きながら破天覇道【スルト】が尋ねると、渾沌が応える。
『今すぐ動く必要のある相手はいないよ。この先は知らないけどね』
「なら今の段階でー、どうにかすることは出来ますかー?」
『なんで?』
 メフィストの問い掛けに、渾沌は言った。
『饕餮に出来ることは『喰らうこと』だけだよ。そうならないよう未然に防ぐだなんて、そんな余分な機能を持ったら性能が落ちるじゃないか』
「ならせめてー、危険度が高い物を教えて貰うことは出来ますかー?」
『それはかなりギリギリになるよ。饕餮はこの世界全てを観測する全知だけど、全能じゃない。全て見えてるけど、全てを理解してるわけじゃないんだ。危険であればあるほど、それに分析力を集中することで『知覚』出来るけど、危険度が低い物までいちいち全部分析してたら計算が終わらない。そんな無駄なこと、饕餮はしないよ』
「おーう、それってあれですかー。食滅するラインギリギリにならないとー、詳しいことは分からないってことですかー?」
『そうだよ』
 あっさりと答える渾沌。
『饕餮はあくまでも『起った事』に対するカウンターだ。これから起こるかもしれない『可能性』にまで関与しないよ。免疫システムがそんなことしてたら暴走じゃないか』
「ですよねー。ちょっとしたことで一々動いてたらー、健康な組織まで攻撃する免疫細胞みたいなもんですしー」
『だから動くなら饕餮以外だよ。我が巫女の一欠片のような、学園生とかね』
「楽すること覚えたであるな」
『幸い、減らない噛みタバコがあるからね。丁寧に磨り潰しても無くならないのは便利だよ。どうせなら、種類を増やしても良いけどね』
 含みを持たせる渾沌に、メフィストは言った。
「それはやはりー、まだ人形遣いがこの世界に在るということですねー?」
『直接観測できないから、痕跡を分析して出した推測だけど間違ってないだろうね。全知をどうやってすり抜けてるんだか知らないけど』
「そういうのに能力のほとんどを全振りしてますからアレはー。全知や遠隔走査じゃ見つけられないのでー、地道に痕跡辿って見つけ出すしかないんですよー」
『あっそ。がんばって』
「少しは協力して下さーい」
『知らないよ。喰らう時が来たら饕餮が喰らう。ただそれだけだよ』
「それだと人形遣いの思うつぼになると思うので協力しましょー」
『どういうことかな?』
「恐らく人形遣いはー、自分では無くこの世界の人間が自主的に滅びに近付くように技術や知識を撒き散らしている筈でーす」
『だろうね。それで?』
「これが人形遣いの思い通りに進むとー、世界の危機がちょくちょく出て来る筈でーす」
『その時は饕餮が食滅するよ』
「それが頻発するとー、間違いなくこの世界の人達はー、隠れて実体のつかめない人形遣いでは無くー、食滅を繰り返すあなたを危険視するようになるでしょー。そうなればあなたを封印しようとするでしょー」
『饕餮が封印されている間に、人形遣いは自由に動くようになるってこと?』
「そうでーす。自分は目立たぬようこそこそ動いて破滅の種をバラ撒き続けー、それが実現した時にあなたが食滅すればー、あなたの危険性を煽ってあわよくば共倒れを狙っていると思いまーす」
『だからそうならないよう協力しろってこと?』
「そうでーす」
『…………』
 しばらく沈黙が続いたあと渾沌は応えた。
『計算したら、そっちの言ってる可能性が高いのが分かったから、手を貸してやるよ。何を知りたい?』
「現状一番危険な相手がいたら教えて下さーい」
『いいよ…………分析完了。そいつらの情報を伝えるから、せいぜい働きなよ』

 そして、現時点で一番危険な集団の情報を得ることが出来た。
 その名は『異界同盟』。
 異世界からこちらの世界に転移し、この世界の人間種族へと存在変換された者達の集まりだ。
 どうやら異世界由来の知識を再現し悪用することを目的としているらしいが……。
 その内のひとつ。
 少し前に学園が叩き潰した、魔族を浚った者達も属している組織のようだ。
 その壊滅のため、学園から課題が出されるのでした。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 6日 出発日 2022-08-22

難易度 普通 報酬 なし 完成予定 2022-09-01

登場人物 3/8 Characters
《虎児虎穴の追跡者》シャノン・ライキューム
 エリアル Lv11 / 教祖・聖職 Rank 1
エルフタイプのエリアル。 性格は控え目で、あまり声を荒げたりすることはない。 胸囲も控え目だが、華奢で儚げな外見のせいか、人目を惹きやすい。 本人は目立つことを嫌うので、服装は質素で地味なものを好む。 身長は160センチほど。 学園に来る前は、叡智を司る神の神殿で神職見習いをしていた。 叡智神の花嫁と言われる位に、叡智神の加護を受けていると言われていたが、何故か、 「その白磁の肌を打って、朱く染めたい」だの、 「汚物を見るような目で罵って下さい!」だのと言われたり、 孤児院の子供達から、流れるようなジェットストリームスカートめくりをされたりと、結構散々な目に遭っている。 最近では、叡智神ではなく「えぃち」ななにかに魅入られたのではと疑い始めたのは秘密。 学園に腹違いの妹が居るらしい。
《ゆう×ドラ》シルク・ブラスリップ
 エリアル Lv17 / 村人・従者 Rank 1
「命令(オーダー)は受けない主義なの。作りたいものを、やりたいように作りたい……それが夢」 「最高の武具には最高の使い手がいるの。あなたはどうかしら?」 #####  武具職人志願のフェアリーの少女。  専門は衣服・装飾だが割と何でも小器用にこなすセンスの持ち主。  歴史ある職人の下で修業を積んできたが、閉鎖的な一門を嫌い魔法学園へとやってきた。 ◆性格・趣向  一言で言うと『天才肌の変態おねーさん』  男女問わず誘惑してからかうのが趣味のお色気担当。  筋肉&おっぱい星人だが精神の気高さも大事で、好みの理想は意外と高い。 ◆容姿補足  フェアリータイプのエリアル。身長およそ90cm。
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。

解説 Explan

●目的

異界同盟の撲滅に向けた行動をとって下さい。

今回は、調査になります。

異界同盟と関わりのある人物達と接触を図って下さい。

異界同盟は様々な場所に浸透しており、メンバーを募集しています。
相手側が興味を持ちそうな話をするなどして、内部に侵入する取っ掛かりを作って下さい。
潜入スパイ工作、のようなものです。



ならず者が集まる酒場で、異界同盟の一員と思しき者に話をする。
学園などの情報を流すので、それと引き換えにメンバーにするよう交渉する。

資本家が集まる秘密クラブに潜入し、異界同盟メンバーと接触。
大きな金が動く話をし、それに介入するために協力者を求めていると交渉する。

異世界の技術を再現したいマッドサイエンティストの集まりに接触。
何かしらの技術をちらつかせ、それを実現するための協力者を求めていると交渉する。

他にも、

社会に浸透している異界同盟のメンバーと接触し、スパイとして潜り込む

という流れに繋がる状況でしたら、自由にシチュエーションを作って展開していただいても構いません。

NPCは自由に出していただいて構いませんし、必要であるなら、大きなお金を動かしたり、何かしらの事業を『餌』として起こしても構いません。

学園と、学園に協力している国や商人がバックアップしてくれます。

異界同盟が起こそうとしている『事件』も、自由にプランで書いていただけます。

それが他のエピソードに繋がる場合があります。

●異界同盟

異世界からゆうがく世界に転移し、ゆうがく世界の人間種に存在変換された者達が作った組織。

簡単に言うと、悪の秘密結社です。

初期メンバーは異世界から転移してきた者達で作られましたが、現在はそれ以外の、ゆうがく世界の住人も加わっています。

メンバーを拡大し影響力を増そうとしています。

資金確保や実験材料にするため魔族を浚ったり、色々とあくどい事をしています。

指人形が構成員の証明書になっているようです。

以上です。


作者コメント Comment
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。

今回は、アフターストーリーエピソード第七弾、になっています。

内容的には、魔王がいなくなったからって悪人が無くなるわけでもないです、という物になっています。

書いていただいたプランによっては、関連エピソードが出て来る可能性もあります。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリザルトに頑張ります。



個人成績表 Report
シャノン・ライキューム 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆状況
何やら、怪しい組織から脱走してきた方が……と思ったら、追手が来たようです

◆対応
追われてた方は、組織に連れ戻されるのを……かなり恐れてる様子
追われてた方には隠れて貰い、追手には、

「昨日、迷い人が訪れたので、一晩泊めていたが、今朝になったら教会への喜捨とともに姿を消していた」
「こちらも、これから探しに行く準備の途中だった」

等と話し、相手の目的を探る

相手が面白いことを言ってきたら、乗ったふりして、一緒に行動します

もちろん、匿ってる方にはそのまま隠れて貰って、怪しい組織の目的を見極めたいですね

怪しまれたら、
「宗教はこういった活動の隠れ蓑にはぴったり
変わったことも儀式で済みますから」

等と誤魔化して

シルク・ブラスリップ 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●方針
マッドサイエンティストの集まりに接触
レアそうなSALF(グロドラ世界)や空挺都市(のとそら世界)の技術を餌に同盟へと潜入を試みる


●学園への要請
経歴の偽装…一時放校扱いにしてもらい「やべー異界技術を研究してるエアリアルが放校になった」という体を整えてもらう。

また可能なら強奪という扱いで、エスバイロの部品(はっきりわかるが単品で役に立たない)を借り受け

●行動
情報のあった溜まり場に潜り込み、異界技術をちらつかせて交渉。
こちらのやりたい事のため、技術交流できる所はないかという感じで

やりたい事については、派手なのが好きそうならアサルトコア、疑われそうならエスバイロの建造あたりを予定

エリカ・エルオンタリエ 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
自分が異世界転生者である事を活用、異界同盟に潜入して内部から組織解体

人の姿で活動するが、男装&長いマフラーで口元を隠し『さすらいの冒険者ファルコン』として行動

エリカは元々ともと21世紀の日本人なので、当時の文化や日本史・世界史、科学知識などを小出しに
異世界人であると同盟のメンバーにアピールして近づき、加入を希望

ラコン=パルションでの旅で得た知識として、異世界人による劇的な世界改変には学園や饕餮による粛清の危険性があると警告
死ぬ前に攫った人を解放し、元の世界に戻る方が良いと提案

学園長へ連絡し、セントリアに話を通し、同盟を抜ける人の送還依頼
門は一方通行で戻ってこれないように

アドリブ・絡み大歓迎です

リザルト Result

 異界同盟。
 異世界の知識や技術を再現応用し、悪用しようとする秘密組織。
 それに学園生達が、それぞれ関わろうとしていた。

●侵入工作
 その女性は、酷く怯え警戒していた。

「好きなだけ、ここに居て下さい」
 その日も、【シャノン・ライキューム】は安心させるように声を掛けた。
「……」
 返事は無く、無言。
 身体を掻き抱くように縮め、睨め上げるような視線を返すだけ。
 それでもシャノンは、やわらかな笑みを浮かべる。
「……」
 変わらず返事は無い。
 けれど女性は視線を逸らし、うつむいている。
(余程、酷い目に遭われたんでしょう)
 シャノンは無理に、女性に変化を望むつもりは無い。
 それを望むには、女性は疲労し過ぎている。
(まずは回復してからでないと。全てはそれからです)
 何かをするためには、余裕が必要だ。
 その余裕を失い、あるいは奪われた相手には、まずは取り戻させてあげなければ先に進まない。
 寄る辺なき者達が集まる教会でシャノンは、そう思っていた。

 シャノンが学園を出奔してから、一か月が過ぎようとしている。
 覇王六種の一角、【アーカード】の血族となり、学園や腹違いの妹に迷惑が掛かることを恐れ出奔した彼女は、辺境の打ち捨てられた教会で、行き場のない人々を保護する活動を手伝っていた。
 その教会は、アーカードと縁のあるストーカー家の出資で運営されている場所であり、資金面では余裕がある。
 けれど人手の面では乏しく、シャノンも忙しく働いていた。
(仕方ありませんね。信頼のおける方でないと、招くことは出来ませんから)
 教会では虐げられた人々を保護していることもあり、万が一にも弱った相手に付け込むような人物を雇うわけにはいかない。
 それだけに、今教会で働いているのは、ストーカー家の調査も済んだ信頼できる者だけだ。
 その内の1人、祭服であるカソックを着た男性、【ヘルシング】がシャノンに近付き言った。
「警戒しとけ。なんか知らんが、可怪しな連中が周囲を探ってる」
 それを聞いて、女性がビクリッと体を震わせる。
「知り合いかい?」
 ヘルシングの問い掛けに、女性は体を震わせた。すると――
「大丈夫。ここは安全です」
 シャノンは腰を落とし視線を合わせ、女性の冷たい手を温めるように包み込む。
 女性は、おどおどと視線を合わせ、何か言おうとするように唇を震わせる。
「ゆっくりでいいです。落ち着いて」
 手を繋いだまましばらく待つと、絞り出すように女性は事情を説明した。
「アタシ、人攫いから逃げて来たんだ……」
 女性の話によれば、元々は親に売られた娼婦だったらしい。
 どうにか年期も開け自由になれると思った所で、娼館が人攫いの組織に売り捌いたようだ。
「あいつら……元の姿と力を取り戻すとか、変なこと言ってて……」
 そこでは何かの実験が行われており、実験台にされた1人が化け物のような姿になったそうだ。
「それが暴れて……牢屋も壊してくれたから、逃げたんだ……他にもアタシと同じようなのいたけど……どうなったか知らない……」
「無事に逃げられて好かった」
 シャノンは震える女性を、そっと抱きしめる。
「ぅ、うぅ……」
 抱きしめられる温かさに、女性は堪えていた物が溢れたかのように涙を零す。
 苦しむ女性に悲しさと、原因となった相手に怒りをシャノンは抱く。
「ヘルシングさん」
「何だ?」
 女性が落ち着くまで抱きしめたあと、シャノンは指示を出す。
「念のため、奥で匿ってあげて下さい」
「そっちはどうする?」
「私が出ます。もしかすると、しばらく教会を離れることになるかもしれません。その間は任せます」
「おう、分かった。でも、ブラムやアーカードの旦那には言っとくぜ」
 離れるシャノンに――
「ぁ……」
 縋る様に、あるいは心配するように、女性は手を伸ばす。
「心配すんな」
 安心させるようにヘルシングは言った。
「あいつは強い。準備しなきゃ俺でも勝てねぇぐれぇにな」

 そしてシャノンは、教会に訪れた一団に対峙する。

「何か御用ですか?」
「逃げ出した雌犬探してる。来てんだろ? 貧相な売女だよ」
 脅すように言う男に、シャノンは平然と返す。
「昨日、迷い人が訪れたので一晩泊めていましたけれど、今朝になって教会への喜捨と共にいなくなっています」
「本当か?」
「ええ。私達も、これから探しに行く準備で忙しいので、帰って下さい」
「いなくなったねぇ……」
 妙に鋭い犬歯で唇を噛みながら男は言った。
「血を飲み干して殺しちまったんじゃねぇのか? なぁ?」
「言ってる意味が分かりませんが?」
「とぼけなくて良いぜ、吸血鬼」
 静かに目を細めるシャノンに男は言った。
「おっと、警戒しないでくれ。今日はスカウトに来たんだ」
「スカウト?」
「ああ、そうだ」
 男は事情を説明する。
「正直言うと、逃げ出した雌犬一匹ぐらいどうでもいいんだ。代わりを買ってくりゃ良い。狩って来ても良いしな。でも一応、逃げた足取り探してたらここの教会を見つけて、それで詳しく調べてあんたのことを知ったってわけさ」
 糸を引くような笑みを浮かべ男は続ける。
「学園から出奔してるな? そいつは、こっちの世界の吸血鬼の真祖の血を受けて『血族』になったからだろ?」
(こっちの世界?)
 気になったシャノンは、情報を引き出すため、韜晦するように言った。
「血族? なんのことです?」
「おいおい、とぼけんな」
 探りを入れるように見詰めながら男は言った。
「真祖の体、血でも精でも、なんなら肉を食い千切っても良いが、それを取り込んで転化した奴のこったよ」
「……そうなのですか? それが本当なら、随分と居そうですね。体の一部でも取り込めばいいのなら、それこそ髪の毛でもなんでもいい筈ですし。気付かれずに集めて、吸血鬼になればいい。でも私の知る限り、吸血鬼になった人は知りません」
「そりゃそうだ。忌々しいが、この世界の真祖は、自分が認めた相手しか血族にならないようにしてやがる。仮に真祖の身体を抉った所で、すぐに灰になっちまうからな。お蔭で、血族に転化するための身体の一部が手に入らねぇ。だから吸血鬼を手軽に増やせねぇが、血族のあんたがいれば話が違う」
「どこまで知っているのですか?」
 相手の情報を引き出すため、あえて試すように尋ねると、男は笑みを浮かべ言った。
「真祖は血を吸って吸血鬼を増やさないが、血族は血を吸った相手を、その気になれば吸血鬼に出来る。いま生き残ってる吸血鬼の眷属は、そうした第二世代以降の奴らだ。あんたは、その気になれば吸血鬼の王国を作ることも出来るんだよ」
「アーカード様は望まないでしょう」
「そりゃそうだ」
 嘲笑うように男は言った。
「知ってるか? 最初に血族になった奴らのほとんどは、真祖の意に沿わないから吸い殺されたって話だ。文献に残ってた話じゃ、泣きながら殺して回ってたらしいが。はっ、テメェの思い通りにならないから泣いて殺して回るってのは、我がまま放題のクソガキじゃねぇか」
「……そうですね」
 内心は隠し頷くシャノンに、男は言った。
「とにかくだ。血族になったあんたには価値がある。それだけじゃない。あんたが支配してる教会にも興味があるんだ」
「……集まっているのは寄る辺なき人々です。使えませんよ。血、以外は」
 シャノンは相手の情報を引き出すため、わざと含みを持たせる。
 これに男は、にぃっと笑みを深めた。
「あぁ、やっぱそういうことか。便利だよなぁ、いつ消えても良い奴らは。俺も元の世界じゃ、そういう『飼い場』を持ってた」
「……別に、それ以外にも使えますよ。宗教はこういった活動の隠れ蓑にはぴったりですから。変わったことも儀式で済みます」
「はっ、言うねぇ。でも、そういうの以外にも使えるぜ?」
「例えば?」
「使い捨ての駒にゃ、ちょうど良い」
 下衆極まりないことを平気で言う。
「ここに来るような奴らは、世界に絶望したり、世界に復讐をしたい連中だ。ちぃと上手く操作してやりゃ、駒になる。こっちにゃ、そういう知識を持った奴らもいる。ひひっ、えげつないぜぇ、魔力のない世界の奴等の技術は。マインドコントロールとか、頭弄らなくても操作する術までありやがる」
「貴方達は、一体なんなんですか?」
「異界同盟」
 それまでの下卑た様子が嘘だったかのように、崇高なことを告げるように男は言った。
「俺達は異世界の力で世界をあるべき姿に変え、虐げられる者達が、世界に復讐するための組織だ。そして世界と戦うための力や、知識を持つ者は同志としてスカウトしている」
 男はシャノンの目を覗き込むような視線を向けながら提案する。
「あんたには、俺達の同志になる資格がある。どうだ?」
「……分かりました。興味があります。連れていって下さい」
 異界同盟を探るため、シャノンは危険を承知で、男たちと共に組織へと向かうことにするのだった。

●マッドサイエンティスト集会
 その日、学園のとある研究室が爆発した。
 飛び散った粉塵が晴れると、1人のフェアリータイプのエリアルが首を傾げながら呟いた。
「おっかしいわね……」
 設計図を見返しながら不備を探す。
「理論上は可能な筈なんだけど、なんで爆発しちゃったのかしら?」
 卵焼きを作ろうとして少し焦がした、ぐらいの気軽さで失敗の原因を探す。
「ん~……」
 しばし悩んだあと――
「分かんない。まっ、いっか」
 晴れがましい表情で言った。
「失敗は成功の元っていうし、再チャレンジよ!」
 諦めを忘れた、と言わんばかりの勢いで、【シルク・ブラスリップ】は誓った。そして――

「駄目に決まってるメェー!!」
 半泣きの勢いで、【メッチェ・スピッティ】教員が言った。
「何で実験で研究室が吹き飛ぶんだメェ~」
「先生、落ち着いて下さい」
 シルクが静かな口調で言った。
「科学の発展には犠牲がつきものなんです」
「それ認めちゃダメなやつだメェ~」
 当然、否定したメッチェは、続けて言った。
「とにかく、これだけのことをしたんだからペナルティなしでは済まされないメェ~。一時的に学園生の資格を停止して放校するメェ~」
「え!? だったら実験はどうするんです?」
「だからそれしちゃダメって言ってるんだメェー。学園の外に出て、しばらく頭を冷やして貰うメェ」

 そんなこんなで、シルクは放校されることになった。

「どうしよう……」
 学園を追い出されたシルクは、ふよふよ浮かびながら悩む。
「個人で実験続けるのは厳しすぎるし……」
 しばし悩むが――
「後ろ向きになったらダメよね。やれることをしないと」
 学園がダメなら他の伝手を当たれば良いということで、各地を巡った。

 その中のひとつ。
 何度か訪れたことのある研究都市セントレア。
 そこで知り合った研究所や研究員と連絡を取ろうとするが、にべなく断られてしまう。
「学園から話を聞いてるよ。あんた、無茶したんだろ」
 どういうわけかシルクが行く先々で、先に学園から連絡が行っている。
「やべー異界技術を研究してるエリアルが放校になったって聞いてるよ。校舎丸ごと吹き飛ばしたんだろ?」
「そこまでしてないわよ!」
 何故か、噂話に尾ひれがついて、話が大きくなっている。
 それが行先全てで付いて回り、結果、当ての全てが全滅した。

「なんでなのよー」
 やけ酒をするように、シルクはセントレアにある小さなバーでくだを巻く。
「研究のためには~、ちょっとぐらいの犠牲はしょうがないじゃないのよ~」
 へべれけになっている『ように』、シルクは見えた。
 そこに、1人の男が近付き声を掛ける。
「やぁ、一杯奢らせてくれ」
「要らないわよぉ~、そんな気分じゃないの~」
「いやいや、そう言わないでくれ。別にナンパの誘いじゃないんだ。興味があるのはアンタの知識と技術だ」
「ん~」
 酔っている『ように』見せながら、胸中でシルクは呟く。
(これは、釣れたかしらね?)
「なに? 知識と技術って? スポンサーにでもなってくれるっての?」
「アンタに、それだけの価値があるなら幾らでも出そう」
 そう言うと、男は声を潜めて言った。
「詳しいことは他で話そう。異世界の技術には、我々も当てがあるのでね。そちらにとっても悪い話じゃない」
 畳んだメモ用紙を渡す。
 それには地図が記されていた。
 シルクは内容を確認し、カクテルに見せかけたソフトドリンクで喉を潤しながら、考える。
(すぐ学園に連絡した方が良いかしらね? でも盗聴の類の技術を持った相手だと、通信魔法石での連絡は無理よね)
 思案すると、バーのトイレに行ったあと、協力者であるバーのマスターに目配せをしながら言った。
「トイレ、汚れてたわよ~。早く掃除しといた方が良いんじゃない?」
「え? 参ったな」
 マスターは目配せを返し、トイレの片付けをする振りをして向かう。
 そこには現状の情報を記した連絡用紙が置かれている。
(学園に頼むわね)
 心の中で呟くと、メモ用紙に記されていた場所へと向かった。

 そんなことをシルクがしているのは、潜入捜査をするためだ。
 事の起こりは、少しばかり時間を遡る――

「おとり捜査、ですか?」
「そうだゾ☆」
 学園長である【メメ・メメル】に内密に呼ばれ何事かと思っていると、そんなことを提案された。
「どういうことなんです?」
「それについては、ちゃんと説明するメェ~」
 同室しているメッチェが詳しく説明してくれる。
 話を聞くと、異界同盟というヤバい組織があり、それは異世界の知識や技術を再現応用し、自分達の欲望を叶えようとしているらしい。
「その内情を詳しく知るために、スパイとして侵入しろと……あの、なんであたしなんですか?」
「潜って貰う所が、マッドサイエンティストの巣窟みたいな所だからよ」
 シルクに応えたのは、【ユリ・ネオネ】教員だ。
 彼女は、シルクが選ばれた理由を告げる。
「向こうに話を合わせたり情報を引き出すにしても、それなりの知識が必要だし。なによりも、そういった相手のノリについて行ける人選じゃないといけないの」
「……なるほど」
 自覚はあるので、反論せず納得する。
(異世界の技術を悪用しようとする秘密組織か……ひょっとしたら、知らない知識を持ってるかも) 
 元々、異世界由来の技術には大いに興味があるので、ある意味渡りに船な依頼ではある。
「分かりました、お引き受けします」
 話がまとまり、詳細を決めていく。
「潜入するのに怪しまれないよう、一時的に放校された、みたいなカバーストーリーがあると良いかも」
 シルクの提案に、教員達は応えてくれる。
「それはわっちで対処するメェ~。どんな理由で放校されることにするメェ?」
「どうせなら派手なのが良いぞ☆ 校舎大爆発なんてどうだ♪」
「派手すぎるメェー」
「学園長、それはちょっと……」
 ユリが間に入って調整してくれると、続けて言った。
「万が一のことも考えて、私も含めて隠密が得意な人員で、離れた場所から見守っておくわ。でもすぐには助けに行けないから、油断はしちゃダメよ」

 そうしたやりとりがあり、いまシルクは異界同盟の集まりのひとつに訪れていた。

「結構、人が多いのね」
 観光地であるアルチェの、とある講堂。
 そこに集まった人数の多さに、シルクが男に尋ねる。
「もっと人目を気にするかと思ってたんだけど」
「そういう部門もある、組織には」
 シルクをスカウトした男は言った。
「実験材料を集めたりする部門だったりね。だがウチの部門は研究開発だ。スポンサー探しを円滑にするためにも、アルチェのような人出の多い街は悪くない」
(思ったより、手広くやってるのかしら……)
 情報を探るためにも、話をする。
「それで、あたしも参加させて貰えるってことかしら?」
「それはアンタの持ってる知識や物次第さ。何か売り込めるようなブツは無いかね?」
「そうね――」
 シルクは、学生カバンに収納していたブツを披露する。
「異世界の飛行機械の部品よ。学園から放校された時に、慰謝料代わりに貰って来たの」
 それはエスバイロの部品だが、単品では意味がない物だ。
 しかし、この場に集まった研究者は興味深げに見に来ると、口々に推論を戦わせる。
「制御系では無いな」
「駆動系か?」
「魔力に反応する箇所があるが、随分と効率が良いな」
「気に入ったみたいね。じゃ……これはどう?」
 シルクはSALFバッチと試作型高圧魔力収束砲を見せ、さらに興味を惹く。
 研究者たちは爛々と目を輝かせ、シルクと技術について意見を交わす。
 それを見ていた男は、シルクに尋ねた。
「随分と詳しいな。それも研究というより開発畑に見えるが……なんでそんな実力があるのに学園を放り出された?」
「やりたいことしてたら追い出されたのよ」
 嘆くようにシルクは言った。
「デカい戦が終わって学園も固くなっちゃってねー。デカブツ作れる場所を探してるってワケ」
「なるほど」
 にぃっと男は笑みを浮かべると、誘いをかけて来る。
「アンタは十分に価値がある人のようだ。どうだ? ウチに加わらないか?」
「協力は常にギブ&テイクよ。ソッチはあたしに何を出してくれるかしら?」
 これに研究者の1人が応えた。
「お前さんの話を聞いてると人型巨体兵器に関心があるみたいじゃな。ウチのグループは兵器に関する物を研究しておるが、中にはそういった物もある。興味がないか?」
「あるわ」
 シルクは即座に応えると、情報収集と、個人的な嗜好を満たす事も考えて、組織に侵入することを承諾。
 スパイとして入り込むことに成功した。
「学園や他の研究都市の知識も可能なら手に入れたい。元学園生の伝手を使って調べられるか?」
「ええ。その代り、そちらも色々と教えて貰うわよ」
 シルクは、利用する気満々の相手を転がすように、やりとりを交わしていくのだった。

●冴えた方法を求めて
 場末の酒場。
 見るからに粗野な者達が集まっているように見える。
 だが、人を見る目がある者は気付くだろう。
 酒場に屯してる者の何人かは、理知的な輝きを瞳に宿していると。
 そんな酒場に、ひとりの人物が訪れた。
 今の時期に、長いマフラーで口元を隠している。
 明らかに、素性を隠しているのだと分かる風体だ。
 その人物は、カウンターで独り飲んでいる男の隣に座ると――
「強い酒をくれ」
 注文をし、出された酒を隣りの男に差し出す。
「……なんのつもりだ?」
「奢りだ。飲んでくれ」
「恵んで貰うつもりはねぇぞ」
「そういうつもりはない。ただ――」
 声を潜めながら言った。
「異界同盟のことについて話したい。興味がある」
 これに男は、無言で酒を受け取り飲み干すと尋ねた。
「どこで知った?」
「【アルド】から聞いた。以前、あいつの手配で『資材』を確保する手伝いをしたことがある」
 それは少し前、魔族を浚っていた組織のリーダー格の名前だ。
 学園生達の手により捕縛されているが、表立っては知られていない。
「あいつか……」
 男が空のグラスを返すと、口元を隠した人物はもう一杯注文し差し出す。
 それを男は空にすると、尋ねた。
「最近見ないが、どうしてる?」
「学園に捕縛された。それもあって、伝手を頼りたいと思って話しに来た」
「……よく知ってるな。アルドが捕まった時にいたのか?」
「いたよ」
 嘘はついてない。
「アルドは捕まったが、俺は離れた」
「よく逃げられたな。それだけ実力があるってことか?」
「あぁ。だから売込みに来てる」
「なるほどね……」
 男は自分で酒を注文しながら訊いた。
「名前は?」
「ファルコン」
 偽名を、【エリカ・エルオンタリエ】は口にした。

 なぜ彼女が、こんなことをしているのか?
 それを知るには少し時間を遡らなければならない。

「元気そうで安心したゾ☆」
「……はい」
 メメルに嬉しそうな笑顔を向けられ、面映ゆそうにエリカは返す。
 今の彼女の姿は、隼ではなくエリアルの姿だ。
 少し前、ズェスカの復興に奮闘したのだが、その時、精霊王達と魔法犬【ココ】の助けを借りて作られた温泉を被ることで変身している。
 そして人の姿を取れるようになったので、安否をメメルに伝えに来たのだ。
「おにいたまを初期化する時に居なくなったから心配したけど、戻って来てくれたなら万々歳だナ☆」
「その節は本当に、ご心配をおかけしました」
「気にしなくて良いゾ☆ それより、復学するのか? 籍はそのままだからいつ戻って来ても良いゾ♪」
「……そのことで学園長、お願いしたいことがあるんです」
「なんだ? 言ってみ」
「異界同盟という組織を探っていると聞きました。わたしにも、力を貸させていただけませんか?」
「……むぅ、それ、髭オヤジから聞いたのか?」
「はい。わたしと同じ、異世界からこちらに訪れた人達で作った組織だと聞いています。既に学園でも捜査をしてると聞きました」
「そうだが……復学早々いいのか? 物騒だゾ」
「構いません……むしろ、関わりたいんです。私と同じ境遇の人たちが関わっているのなら……他人事だと思えませんし」
「ん~……そっか、分かった! なら手伝って貰うゾ☆」
 メメルは、現状の情報を共有しながら提案する。
「この前捕まえたのから聞き出した情報で、連中の連絡場所みたいな所を探ってるから、その内のひとつを当たってくれるか?」
 エリカがネックレスのように首に下げている小瓶を見てメメルは言った。
「その小瓶の中に入ってる温泉を使えば、多少の変装は出来る筈だからナ☆ 聞き込みにはうってつけだゾ♪」

 そうしたやりとりがあり、今エリカは場末の酒場にいる。

「お前も転移者か」
「お前も、ということは――」
「俺もだ」
 くいっと強い酒を煽りながら男――【バド】は言った。
「俺は元居た世界じゃ、ドワーフって種族だったが……」
 飲み終えたグラスをつまらなそうに置き、不満そうに言った。
「この世界の酒はどれもこれも弱すぎる」
「口に合わないか……あぁ、確かにそうだな」
「……故郷の味が恋しいか?」
「そうだな……こちらの世界の料理は基本が洋風――あぁ、こんなこと言っても分からないな」
「気にしねぇから話せよ」
「そうか? なら話すが……和食が……故郷の味が恋しくなることがある」
「わしょく、ねぇ……そんなこと話してる奴もいるな。『ねっとも無い環境なんてたまったもんじゃない』とかぶつくさ文句の多い奴だが」
「……それって、元居た世界は地球の、日本って場所じゃないか?」
「お前、同じ場所から流れて来たのか? ……あぁ、いや、違うかもな。同じ名前でも違う世界が無数にあるって話だしな」
 エリカは、バドの懐に入る様に話をしていく。
 元居た世界の文化や歴史、あるいは科学技術を小出しにし、異世界人であることをアピールしていった。
「――なるほどね」
 バドは変わらず酒を煽ると、エリカに提案した。
「お前が転移者なのは納得した。組織の一員に招き入れても良い。ただ、何が出来る?」
「冒険者として大抵のことはした。荒事もいけるし、調べ物も経験してる」
「分かった。それなら頼みたいことがある。明日この場所に来てくれ」
 そう言ってバドは、住所の記されたメモ用紙を置いて店を出て言った。

 次の日。
 指定された場所にエリカは訪れた。

「おいおい、随分なよっちぃ奴だな。女みてぇだ」
 男装しているエリカに、神経質そうな青年が言った。
 それをバドが嗜める。
「【ゲン】、煽るな。これからチームを組んで仕事するんだ。仲良くしとけ」
「だってよ、【シア】」
 ゲンと呼ばれた青年は、部屋にいるもう1人、シアと呼んだ少女に声を掛ける。
「お行儀良くしとけってよ」
「……そうね」
 静かにシアは返した。
 その3人と、エリカはチームを組んで仕事をする。
「上からの指示だ。この2人を調べるぞ」
 差し出された資料を見て、エリカの心臓が跳ねる。
 そこには2人の学園生の情報が記されていた。
「シャノン・ライキュームとシルク・ブラスリップ。スカウトするのに素性を探っておけって話だ」
 異界同盟に有益だと思われ、スカウトするための身辺調査をするようだ。

 これをエリカは利用する。
 学園に連絡し、異界同盟に不審に思われずに情報の取得ができるよう御膳立てをして貰う。
 それにより思惑通りの情報が異界同盟に渡り、エリカ達は組織に評価され、シャノンとシルクが組織に自然と入れるように情報を与えることが出来た。
 その後も、何度かエリカはバド達と仕事をする。
 非道な行いであれば、エリカは見過ごす事など出来ず止めていたが、基本はスカウトする相手や、脅威となる相手の身辺調査だった。
 どうやら異界同盟は複数のグループに分かれているらしく、そこからさらに、仕事内容によって細かく分かれているらしい。

「一部が潰されても他が生き残って再生できるようにするための仕組みらしい」
 バドから聞いた話では、そういうことらしい。

 そうして仕事を繰り返す中、顔見知りが増えていく。
 話をする機会もあり、段々と内情が分かる。
(自分から進んで組織で働いているのも多いけど、他に行き場が無かった人達も少なくないわ)
 この世界に転移し、訳が分からず彷徨い、そうして辿り着いたのが異界同盟という者も少なくなかった。
(わたしは、学園に保護されていたから良かったけど、そうじゃなかったら……)
 他人事には思えず、エリカはバド達に言った。
「元の世界に、戻りたいと思わない?」
「……どうやってだよ」
 ゲンの言葉に、エリカは返す。
「それは、どうにかして……」
「はんっ、夢物語かよ」
「でも、思うぐらい良いでしょう?」
「そうね……」
 静かに同意するシアに、エリカは続ける。
「戻れるなら戻った方が良いかもしれない……でないと大変なことになる、かも」
「何がどうなるってんだよ」
「饕餮って、知ってる?」
 エリカは、異世界人による劇的な世界改変には学園や饕餮による粛清の危険性があると、警告するように話した。
「お前、よくそんなこと知ってんな」
「学園を調べた時に知った。だから下手に急激な技術革新とかしない方が良いと思う」
「技術革新ねぇ……俺のいた世界だと産業革命とかあったな。こっちの世界でも蒸気機関で鉄道走らせるみてぇじゃん。はんっ、物知らねぇからなこの世界の奴らは。蒸気機関なんざ下手すりゃ山が丸裸になるぜ」
「そういう事も起きないよう、この世界に親和性の高い魔法を流用したものを使えば良いと思うんだけど……」
「随分と、この世界に肩入れしてるな」
 話を遮るようにバドが口を挟む。
(警戒された?)
 踏み込んだ話をし過ぎたかとエリカが思っていると、バドが言った。
「他のチームの奴らには、下手に今みたいな話はするな。上に知られると、粛清対象にされかねん」
 どこか気遣うような口調で、エリカやゲン、そしてシア達、年若い者に言い含めるように言った。
 それを聞いて、ゲンやシアは神妙に押し黙り、皆の様子を見たエリカは決意する。
(元居た世界に戻すことが出来るなら、同盟を抜ける人が出るかもしれない)
 そのためには、学園やセントレアと話を通し、便宜を図って貰う必要があるが、可能だろう。問題は――
(慎重に事を進めないと……)
 下手に進めれば怪しまれ粛清対象になりかねない。
 それに数人程度を助けたとしても、それで他の同盟員が抜け出すことが難しくなっては拙い。
 場合によっては、足抜けをする時にばれないよう細工をする必要があるだろう。
 困難は多いが、不可能とは思わない。
 学園を始めとして、精霊王や異世界人まで含めた多くの協力者がいるのだ。
(みんなと協力して――)
 必ずどうにかしようとエリカは決意し、その為に組織に侵透するための仕事をこなしていくのだった。

 かくして、異界同盟への侵入に成功する。
 それが巧くいくかどうかは、今の時点では分からなかった。



課題評価
課題経験:0
課題報酬:0
異界同盟を調査しよう
執筆:春夏秋冬 GM


《 異界同盟を調査しよう》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《虎児虎穴の追跡者》 シャノン・ライキューム (No 1) 2022-08-21 12:02:10
(教祖・聖職コースのシャノンです。よろしくお願いします。
現在、RPの結果、学園から出奔した形になっておりますので、学園とは別口で異界同盟に接触を試みるつもりです。

今のところ、身を潜めている教会で保護している脱走者を、組織に連れ戻しに来た者に接触して……異界同盟に潜入してみようかと思案中です。)

《ゆう×ドラ》 シルク・ブラスリップ (No 2) 2022-08-21 20:47:32
村人・従者コースのシルクよ。
急参戦だけどよろしくー

あたしは実際幾つか異界の技術に関わってるし、その辺を囮に忍び込んでみようかなと考えてるわ。
先に忍び込めたらシャノンの方も援護させてもらうわね

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 3) 2022-08-21 23:48:00
締め切り間際にごめんなさいね。
人の姿に戻れたので、異世界出身者としての知識を生かして異界同盟に潜入してくるわ。
戻れたこと自体は公表してないので、まだ直接学園とは連携できないけれど
邪魔にはならないように気を付けるわね。