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命がけのいたずら


ストーリー Story

 魔法学園『フトゥールム・スクエア』には、多くの先生達がいる。
 様々な種族、老若男女問わずに大勢居るその先生達には、もちろんその数だけ様々な噂がある。
 どの先生が実はカツラを被っているだとか、あの先生がとある生徒から告白を受けていた、というようなものであったり、ローレライ種の先生専用の井戸がある。等々。
 そんな、僅かな話の種にしかならない噂もあれば、思わず確認したくなるような、好奇心をくすぐられるような噂も当然ある。
 そして、そんな噂を聞いてしまったら、行動に起こしてしまうというのはこの学園の生徒であるならば、至極当然の事だった……。

 「ふんふふ~ん♪」
 上機嫌に鼻歌を歌いながら、廊下を歩いて行くルネサンスの教員が一名。
 手には『お徳用干しぶどう! 期間限定200%増量中!!』と書かれた特大の干しぶどう入りの袋を持っている、茶髪のロングヘアーにもふもふの獣耳尻尾。
 【コルネ・ワルフルド】というその教員は、どうやら残り一割程になった袋の干しぶどうを補充するため、行きつけの店に出向いている途中らしい。
 袋を口に当て傾けて、腰に手を当て、風呂上がりの牛乳やコーヒー牛乳よろしく干しぶどうというフルーツを飲み物が如く消費した彼女は、カラになった袋をゴミ箱にダンクシュートし、次なる干しぶどうを摂取するため、お店へと駆け出した。

「おかしい」
 店を数軒回り、その回った全ての店にお気に入りの大容量干しぶどうどころかぶどうのぶの字も見当たらず、今までに体験したことの無いモヤモヤとした感覚に襲われた。
「絶対に変だよ!!」
 誰に言うわけでも無く、自分の中で疑問とした事を口にするコルネは、周囲に他の先生達が居るにもかかわらず、声を上げて取り乱す。
「だってみんな私が干しぶどう大好きだって知ってるんだよ!? 毎日しっかり私のために仕入れてくれてるし、それが今日に限って無いなんて有り得ないよ!!」
「コ……コルネ先生?」
「ハッ!? そう言えばお店の人はみんな私が今日買いに行ったらなんとも言えない表情をしていた!? ――もしかして……誰かが買い占めた? つまり……陰謀!?」
 干しぶどうの摂取がままならない為か、色々と変な想像というか妄想を始めるコルネだが、先ほどコルネを心配するも無視された一人の教員から、この『消えた干しぶどう事件』に関する情報がもたらされた。
「コルネ先生? ……その――最近生徒達の中で噂になっている話があるのですが……」
 関係ない話を振るな。私は今干しぶどうの事で頭が一杯で忙しいんだ。
 そう言いたげな目でコルネは睨み付けてしまい、思わず話しかけた教員はヒィッと悲鳴をあげてすくみ上がってしまう。
 が、話を続けてくれた。
「そ、その噂というのがコルネ先生に関するものでして……」
「何?」
「ヒィッ!? え、えぇと……コルネ先生が干しぶどうを一日摂取しないと大幅に弱体化するというもので……」
「つまり今の状況は……?」
「生徒達が買い占めている可能性が――」
 教員がそこまで言ったとき、既にコルネの姿は、残像だけをその場に残し、どこかへと消えていた。
 思わずへたり込んでしまった教員の耳に、学園中に響くコルネの慟哭が届く。
「私の干しぶどうはどこだ~!!! ……買い占めた生徒達はグラウンド千周は覚悟しておくんだね!!!」
 放課後の夕下がり、いたずらで干しぶどうを買い占めた生徒達と、その干しぶどうを狩猟するコルネ先生の戦いが今――幕を開ける!


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2019-03-23

難易度 とても難しい 報酬 ほんの少し 完成予定 2019-04-02

登場人物 5/8 Characters
《新入生》アルバリ・サダルメリク
 エリアル Lv13 / 黒幕・暗躍 Rank 1
【外見】 糸目だが開いた目をよく見ると緑色 黒い短髪 エルフ系エリアル 見た目怪しい中国人 【性格】 腹黒守銭奴 お金をくれるなら大体なんでもやってくれる いつもなにか含みがある事を言ってる 金を稼ぐのは最早趣味 『口調』 ~ヨ、~ネ。 エセ中国人風 【服装】 中華系の袖の広い服を好んで来ている。 ※アドリブ大歓迎!
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《新入生》アムル・アムラ
 ヒューマン Lv3 / 村人・従者 Rank 1
〇ご挨拶 初めまして、僕はアムル・アムラ。 14歳のヒューマンだよ。 専攻は村人・従者コース、立派な村人Aを目指そうと思ってるよ。 皆さん、よろしくね!   脱獄かー。 城塞だの監獄だのって聞くと難攻不落・脱出不能に感じるよね。 だけど、たった一人内通者がいるだけで、簡単に陥落しちゃったりするらしい。 今回はどうなるかな?   〇見た目でわかる事 無造作に切った髪は灰色。 肌は薄い褐色。 やや釣り目ぎみのパッチリお目目、瞳は暗い緑。 背は低く声は高く、ひどく中性的。 そんな訳で「大人になりかけの子ども」と認識する人が多いだろう。   衣服へのこだわりはなく、基本清潔なら満足して着る。 ただ上着はブカブカの物を好む。 現在、支給された制服を愛用中。 「最近、たまに女子制服を着たりしてるけど、変装の練習だからね?」   〇目立った性分 元気で気まぐれ、マイペース。 東で走り回っていたかと思うと、南で昼寝してたりする。 モフモフ好き、可愛いも好き、甘味大好き(食い気! 泣き虫、泣くと【しぶとさ】が大幅に上がる。 「そんなの、ステータスにないっ!」   〇口癖 「うん、興味深い!」 「世知辛いっ!」   〇アドリブ 基本A、応用でもA。 つまりアドリブ大好きにんげんだった。 「人生って想像つかないくらいのが興味深いよね?」
《新入生》メルヴィナ・セネット
 ローレライ Lv3 / 賢者・導師 Rank 1
メルヴィナ・セネット。 この学園で多くを知るのを楽しみにしている。 魔法とか精霊とか一般常識とか。色々。 これからよろしく。 ……自己紹介とはこれでいいのだろうか。 ◆好奇心旺盛なローレライの少女 素直な性格。色々と抜けており忘れっぽい所もある 顔にはあまり感情が出ないが仕草や言動の端々に表れてしまっている 入学理由はさまざま。 主な理由は学園の摩訶不思議さに心惹かれたため 魔法や精霊への興味から賢者・導師コースを選択した 雪に関わる精霊や生物がいたら仲良くなりたい ◆最近の様子 学園散策を楽しむ日々 課題を記録する職員さんがいるという ときどき職員室に行ってみている。片手にはレターセット ------------------------ 【容姿】 肩下・胸元まで伸ばした茶色のウェーブヘアー どことなく眠たげな瑠璃色の瞳 髪の周りに水を纏わせている(水分放出は髪先から) 魔法使いな服を好む 身につけている銀の雪結晶のブローチは双子の兄からの入学祝い 帽子は水のような特性をもつ魔法の帽子。らしい 【交流】 誰に対しても友好的。よく喋る 会話は楽しい&自身にはない考えや知識に触れられるので好き 人とのペースの合わせ方、会話は勉強中 (PL:交友申請等は常時大歓迎です) 【話し方】 かための口調と話し方+少しくだけた言い回し 何かを呟く、眠い時は少しゆるくなる 二人称:名前、通称、または貴方 おもな口調:~だ、だな、だろう/~。~と思う/~か、~かな
《模範生》レダ・ハイエルラーク
 ドラゴニア Lv16 / 黒幕・暗躍 Rank 1
将来仕えるかもしれない、まだ見ぬ主君を支えるべく入学してきた黒幕・暗躍専攻のドラゴニア。 …のハズだったが、主君を見つけ支えることより伴侶を支えることが目的となった。 影は影らしくという事で黒色や潜むことを好むが、交流が苦手という訳ではなく普通に話せる。 ◆外見 ・肌は普通。 ・体型はよく引き締まった身体。 ・腰くらいまである長く黒い髪。活動時は邪魔にならぬよう結う。 ・普段は柔らかい印象の青い瞳だが、活動時は眼光鋭くなる。 ・髭はない ・服は暗い色・全身を覆うタイプのものを好む傾向がある。(ニンジャ…のようなもの) ・武器の双剣(大きさは小剣並)は左右の足に鞘がついている。 ◆内面 ・真面目。冗談はあまり効かないかもしれない。 ・立場が上の者には敬語を、その他には普通に話す。 ・基本的に困っている者を放っておけない性格。世話焼きともいう。 ・酒は呑めるが呑み過ぎない。いざという時に動けなくなると思っている為。なお酒豪。 ・交友は種族関係なく受け入れる。 ・伴侶を支えるために行動する。 ◆趣味 ・菓子作り。複雑な菓子でなければ和洋問わず作ることができる。

解説 Explan

 怖いもの知らずの生徒達は、どうやらいたずらでコルネ先生の逆鱗に触れてしまったようです。
――が、ここまで来たからには是非とも逃げ切って下さい。とはいえ見つかるとすぐに捕まってしまうでしょう。
よって、コルネ先生に見つからない場所に隠れた方がよいでしょう。

隠れることが出来る場所の例は次の通りです。

・植物園【リリー・ミーツ・ローズ】

・動物園【アニパーク】

・湖【スペル湖】

・活性火山【フラマ・インペトゥス】とその周辺の森

・大図書館【ワイズ・クレバー】

・その他学園内施設や教室など


先生も当てもなく学園内を探し回るわけではありません。干しぶどうへの凄まじい執着はその五感全てを研ぎ澄ませているようです。
まずは匂いでどの辺りに居るか当たりを付けてくるでしょう。先生が近づいてきたら、干しぶどうが擦れる音にも注意をせねばなりません。


生徒の皆さんはどこに、どのように隠れても構いません。ですから……無事に翌日を迎えて下さい。


作者コメント Comment
全力でふざけてみようと、生放送で出たアイデアを元にしてみました。
この学園を卒業した先生が相手のいたずらであるため、難易度はとても難しいであるにもかかわらず、報酬はほんの少しとなっております。
が、しかし。本来いたずらとはそういうもので、そのいたずらの先にあるのは生還か、はたまた罰か。

黒幕・暗躍コースの生徒やいたずら好きな生徒、くだらないことに全力を尽くしちゃう系生徒は特に集まれ集まれ~!


個人成績表 Report
アルバリ・サダルメリク 個人成績:

獲得経験:49 = 33全体 + 16個別
獲得報酬:1125 = 750全体 + 375個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
干しブドウを高値で売り付ける

【行動・心情】
アイヤー、最近思いついたけどネ?
コルネ先生毎日干しブドウを食べてるから
今の品薄状態だったら高値で売り付けられるんじゃないかと思うヨ

まぁ、話を聞かない可能性はあるから逃げる必要もあるケド

試して見る価値はあると思うネ

商人はめげないネー!

とりあえず火山付近の森に居るヨ

ただ『風の民』で音は拾って
『気配察知』で距離感を確認しながら

見つかったら

先生を待ってたネ☆

と歓迎しつつもいつでも森と同化出来るように準備して
相場の4倍で売りさばきたいネ

先生ともあろう人が他人が買った物を力ずくで奪い取るのはどうなのかネ

ワタシは商人
安く仕入れて高く売るのは当たり前ヨ?

朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:39 = 33全体 + 6個別
獲得報酬:900 = 750全体 + 150個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
激昂するコルネ先生を物陰から見てこれは不味いですわ、と慌てて退散。ひとまず動物園へ逃げ込みますわ

先生が来る前にダチョウに干しブドウを与えていざという時の為に手なづけてみますわ。同時に各檻を回り色んな動物の匂いをその身に纏い先生の鼻をごまかせないかやってみます。その上で風下に位置する動物厩舎に隠れ、時折鼻を外に出して嗅覚強化で先生の匂いがしないか確認

先生がこちらに向かってくる様子があれば祖流還りで肉体を強化し邪魔な障害は立体起動で躱しながら全速力で逃げますわ。そのままダチョウの檻へ向かい最悪追いつかれそうな時は動物騎乗でダチョウに乗ってさらに逃走

最悪追いつかれた時は潔く諦めて素直に罰を受けますわ

アムル・アムラ 個人成績:

獲得経験:49 = 33全体 + 16個別
獲得報酬:1125 = 750全体 + 375個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
〇目標
みんなで生きて明日を迎えよう(ガクブル

〇状況
武神・無双コースの先生vs新入生な圧倒的構図。
しかも野獣化めいたおまけつき!
把握できる情報と【推測】を駆使して、落とし処を模索するよ。

〇逃走
目指すは植物園の温室、中でも甘い香りの立ち込める果樹エリア。
「干しぶどう」+αの香りを少しでも誤魔化さないとね。
コルネ先生と出逢ったら、迷わず【全力撤退】。
打撃が飛んできても【忍耐】で走り続ける。
仲間がいたら先に逃がすよ【自己犠牲】、僕の屍を越えていけ!

〇武器
僕の用意できる物。
・買い占めた「干しぶどう」
お小遣いをはたいたからそれなりな量。
荷物カバンに詰め込もう。
・「服従のポーズ」
お腹を見せて【下僕の構え】。

メルヴィナ・セネット 個人成績:

獲得経験:39 = 33全体 + 6個別
獲得報酬:900 = 750全体 + 150個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
逃げ回りながらコルネ先生と遊ぶ(悪戯する)

◆行動
『危険察知』『緊急回避』で周辺を警戒して動く
干しぶどうはコルネ先生曰く飲み物らしいので空の水筒に一杯詰めておく。匂いや音漏れの意味もあるぞ
残りは使い切るまで袋に入れたままにする。先生と遭遇した際の囮に投げるなりで活用

隠れる場所は生物園
此処では動物との触れ合いや曲芸ショーもあった気がするな。動物や飼育員にも干しぶどうを差し入れしながら、干しぶどうの匂いを分散させて時間を稼ぐ
あとは生物園各所にそっと配置しよう
グリフォンのような生き物などもいないか探す。いたら干しぶどうをオヤツに交渉して乗せてもらえないかお願いしてみたい。干しぶどう好きだといいな

レダ・ハイエルラーク 個人成績:

獲得経験:39 = 33全体 + 6個別
獲得報酬:900 = 750全体 + 150個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
隠れる
逃げる
調理

◆使用特性・技能・道具
龍の翼
部分硬質化
隠密
沈黙影縫
気配察知
危険察知
料理Lv3
息止め
変装
水泳
隠匿
緊急回避
聞き耳
隠れ身
忍び歩き
跳躍
解錠
飛行
事前調査
応急処置
調理道具一式

◆プレイング
・【事前調査】で「調理可能な所」を調べる
・隠れる時は【龍の翼】【隠密】【沈黙影縫】【息止め】【隠匿】【聞き耳】【隠れ身】【忍び歩き】【跳躍】【飛行】【気配察知】【危険察知】を使用移動・隠れる
・逃走時は【龍の翼】【気配察知】【危険察知】【緊急回避】【聞き耳】【隠れ身】【跳躍】【飛行】を使用し移動・隠れる
・【部分硬質化】攻撃を受けた際に使用する可能性あり
・【変装】【水泳】【解錠】【応急処置】は使用

↓に続く

リザルト Result

 何やら遠くに、遠吠えにも似た声を聞いた気がするが、【レダ・ハイエルラーク】は泡立て器を掻き混ぜる手を止めること無く、調理を続けた。
 クラブ活動にてお菓子を作ろうと思い立ち、どうせなら誰か先生がいつも口にしているものを取り入れようと考えた結果、干しぶどうに辿り着き、それならばとクッキーにしたりクリームと共に生地で挟んでみようと考えていたときだ。
 開かれた窓のその枠に、先ほどまでいなかった――干しぶどうを常に口にしている【コルネ・ワルフルド】先生その人が、佇んでいたのだ。
 まるで飢えた獣のような目つきでレダを……レダの近くにある干しぶどうを睨み付けていた。
「コルネ先生? どうかなされたので?」
「干しぶどう……ほしぶどう……ホシブドウ……」
 この時点で、レダは思った。――自分は今、危機に瀕しているのでは無いか? と。
「せ、先生! 今私は干しぶどうを使ったお菓子を作っています。ですので、この干しぶどうを渡す事は出来ませんが、出来上がり次第差し入れますので、もう少しお待ちください!!」
 意味の分からない恐怖に震え、そう絞り出したレダの声は、果たしてコルネに届いたのか。
「ヤクソク……ヤブッタラ……ユルサナイ」
 そう言い残し、思わず体を庇うほどの衝撃波がレダを襲い、レダが次に窓枠を見たときには、そこにコルネの姿は無かった。
 ――静かに窓を閉め、鍵までかけたのは言うまでも無い。

 *

 コルネの叫びを聞き、我が身が危ないと恐怖に駆られ、生物園『アニパーク』へと逃げ込んだ二つの影。
 腕には大きなお徳用干しぶどう入りの袋を抱え、生物園の入り口で顔を合わせた二人は、現在行動を共にしている。
 一人は【朱璃・拝(しゅり・おがみ)】――現在絶賛激怒中のコルネ先生と同じ狼のルネサンス。
 そしてもう一人は【メルヴィナ・セネット】――髪の先端から水を滴らせ、周りに纏わせている姿からも分かる通り、ローレライの生徒である。
 お互いが手に持つ干しぶどう(お徳用)で察したのか、それぞれ全く同じ行動を取っていた。
 匂いで悟られぬように、風下に移動しながら、見かけた動物たちやその場に居た先輩や動物等の世話係に干しぶどうを差し出すのだが、動物たちは干しぶどうを見るなり涙目で脱兎の如く離れていき、口にするどころか匂いすら嗅がない。
 まるで、干しぶどうの先に見える存在に怯えるかのように。
 ソレを口にしてしまったら、逃れられないと本能に刻まれている様に――。
 先輩達も苦笑いをしながら遠慮しておく、との一点張りで、未だに先生を引き寄せるその爆弾をただの少しも消費出来ずに居た。
 ――そして、二人は知らなかった。
 風下だろうが、水の中だろうが、干しぶどうを欲したコルネはその匂いを嗅ぎつける事を。
「みぃつけた。絶対に逃がさないんだよ!!!」
『ピィッ!?』
 背後から聞こえた恐怖の声に、思わず揃って変な声をあげてしまった二人。
 即座に顔を見合わせて、別々の方向へと全力でダッシュし逃げ始める。
「まずは君からだね!!!」
 まず獲物として追われたのはメルヴィナの方。
「むぅ、こっちに来たか。……まさかここまで怒っているとは」
 自身を追いかけてくる狩猟者の姿を確認したメルヴィナは、そんなことを呟いた。
 コルネが自分を追いかけてくることを確認し、即座に逃走を図ったが、ぶどう狂と化しているコルネを撒く事は出来ず。
 ならば! と、お徳用干しぶどうを一掴み、思い切り横へと放り投げる。
 この時、その様子を見ていた生物園に居た生徒は後に、『コルネ先生が二人に見えた』と語るのだが、後ろも確認せずにひたすら逃げるメルヴィナはそんな様子を知るよしも無い。
 追ってくる気配が薄くなり、撒けたか? と思った直後に背後から、
「ヒヒ、ホシブドウ、モットモット……」
 と先ほどまでの理性が、半端に干しぶどうを摂取してしまったせいで吹き飛んだらしいコルネの呟きが聞こえた。
 戦慄した。本能が、警告を発した。――これ以上、関わるな、と。
 思わず危機回避の本能に従い、お徳用干しぶどうを高らかに放り投げ、可能な限り迅速にアニパークを後にしたメルヴィナは、一応生き残れはしたが、肝心の干しぶどうはコルネの手に渡ってしまった。……唯一残ったのは、干しぶどうは飲み物との言葉を確かめるべく水筒に入れており、イタズラの後に飲ませてみようと思っていた少しの干しぶどうのみである……。

 *

 アニパークから離れるメルヴィナを遠巻きに見ながら、茂みに隠れている朱璃は安堵の息を吐いた。メルヴィナの放り投げた干しぶどうの袋を空中で切り裂き、そのまま空中で全ての干しぶどうを平らげた様を見て、こちらに来ることは無いと判断したからなのだが――。
 朱璃はビクリと、体を震えさせた。
 振り返ったコルネが朱璃を指さしたように見えたからだ。
 そんなわけ、と思っても冷や汗は流れるし足は震える。
 落ち着こうと深呼吸をしたとき――。
「私の干しぶどう、ここかな?」
 隠れていた茂みの上から、そんな言葉が降ってきたのだ。
 理解するよりも早く、もはや反射の一種で茂みから飛び出して、自分を――否。自分の手に持つ干しぶどうを狙う存在を真正面から見据える。
「朱璃・拝!! これより逃走を試みさせていただきますわ!!」
 涙目になりながら。けれども力強く宣言した朱璃は、祖流還りを発動させる。
 これで逃げられるようにと心の中で懇願しながら。
 しかし、朱璃がルネサンスであるように、コルネもまた、ルネサンスなのだ。
 朱璃に僅かに遅れて祖流還りを発動したコルネは、見失わなかった朱璃の姿を追った。
 朱璃が飛んでアニパークの壁を蹴り、施設の屋根の上へと登れば、それを追ったコルネは動物たちを囲う柵に張り付き、屋根へと駆け上がる。
 そのコルネを踏み台に、隣の建物へと飛び移る朱璃を、ただの跳躍一回で捉えんとするコルネ。目まぐるしく動く二人の周りには、いつの間にかアニパークで作業中の生徒や職員達が見物の為に集まっていた。
 追いつかれも、引き離されもしない。
 状況を知らない見物客が思わず途中で拍手を送るほどの追いかけっこは、残念な事に、当然という形で決着がついた。
「あっ――」
 祖流還りの効果時間が切れてしまったのだ。……もちろん、先に発動していた朱璃の。
 脱力感と気怠さに襲われ、膝をついた朱璃の眼前に、仁王立ちするコルネ。
「正々堂々と正面からアタシに挑んでくるその意気や良し! けれど、まだ精進が足りないかな? その気概に免じて干しぶどうを渡してグラウンド百周。今日はそれで許してあげるよ!」
 そう言い放ってようやく祖流還りの効果時間が切れたコルネは、一息に干しぶどうを流し込むと、次なる干しぶどうを探すためにその場所を後にした。
 ……朱璃は、暗くなるまでグラウンドを走ることになったが、走っている最中の朱璃は、どこか満足そうな顔で言われたとおりにグラウンド百周をこなすのだった。

 *

「う~ん。色んな匂いが混ざっちゃってるね。……ここにも干しぶどうがある筈なんだけど」
 独り言を言いながらコルネが歩いているのは植物園『リリー・ミーツ・ローズ』。
 その場所で育てられている植物の様々な匂いの中に、コルネの欲する干しぶどうの匂いを嗅ぎ分けたが、中に入ったコルネは顔をしかめた。
 充満する植物の匂いと干しぶどうの香り。そこに――洋酒の匂いが混ざっていたのだ。
 別にお酒に弱い訳では無いが強くも無いコルネに取って、普段ならば気にもしないだろうが、今現在のコルネの状況は、祖流還り発動後であり、干しぶどうを満足量摂取出来ていない。
 言うなれば弱った状態であり、そこに酒の匂いというものは中々にきつい。
 そして、植物園に隠れ、この場に酒の匂いを追加した張本人である【アムル・アムラ】もまた、弱っていた。
 肉体的にでは無く、精神的に。
 遠くに聞いたコルネの叫び声。それを確認してから干しぶどうの匂いを紛れさせるためにリリー・ミーツ・ローズに逃げ込んだはいいが、いつ、コルネ先生がアムルを狙って追いかけてくるのか。もう大丈夫なのか。自分以外に干しぶどうを買い占めた生徒達はどうなったか。
 一人で隠れ続けるという精神的負担は、アムルを静かに弱らせていった。
 そして待ちかねては居なかったが、こうして見える範囲内にコルネの姿を確認し、思わず唾を飲んだ。
 バレてもすぐに逃げ出す。という覚悟の表れ。しかし、出来れば気付かないでくれ、という懇願の証。
 そんな彼の思いは、悲しいかな素直に彼の体に反応として表れた。
 カサッ――。
 些細なその音は、本来はコルネの耳に届く前に霧散してしまう程度に小さなもの。
 しかし、この時ばかりは状況が悪い。
「あぁ~~!! 干しぶどうの音~~!!」
 恐らくコルネにしか聞き分けられないその音を元に、アムルの居場所に気付いたのだ。
 遠くにありながら目が合ったように思えたアムルは、覚悟したとおり、踵(きびす)を返して逃走を開始した。
 後ろについてくる気配に追われながら。けれども隠れている間に散々想定したルートで、コルネから逃げ切るために足を動かす。
 絡み合った木の根の間を抜け、ツタを伝って出口へ、出口へ。
 コルネよりも体が小さいアムルだからこそ通れるそのルートは、確実に狩猟者であるコルネとの距離を開くのに一役買った。
「――!? 出口!」
 今まで忘れていた発言という行為を行ったのは、リリー・ミーツ・ローズの出口を通過したとき。
 かなり薄れたコルネの気配に、それでもアムルはそこから追跡されないように、リリー・ミーツ・ローズでは使わないでいたとっておきを使った。
 ――それは、匂い袋。
 きつい匂いが漂うその袋は、園内で使えば即刻クレームになりそうなもの。しかし、リリー・ミーツ・ローズを出たならば大丈夫だろう。と開いて匂いを辺りに漂わせる。
 そして、一目散に寮へと帰宅。無事にコルネを撒いたアムルは、寮長さんに少し怪訝な顔をされながら――ついでにきつめの匂いを漂わせながら、干しぶどう入りの徳用袋を抱えて自室へと戻るのだった。

 *

「うへぇ~。……匂い袋だね。してやられちゃったね」
 リリー・ミーツ・ローズを出た直後に漂う匂いに顔を突っ込んでしまい、しばらく匂いを嗅ぎ取れなくなってしまったコルネは、苦笑しながら頭を掻いた。
 要因はあれど、逃げられた。逃がしてしまった……干しぶどうを。
「あの徳用、次いつ発売されるか分かんないんだぞぅ……」
 逃がした干しぶどうは大きい(物理)。悔やんでも悔やみきれないコルネに、ゆっくりと近寄る影が一つ。
「先生? バターサンドを作ってみたのですが?」
 その影はレダであり、手には宣言通り、干しぶどうを挟んだ出来たてのバターサンドを持っていて、
「食べる! いいの!?」
 食い気味に聞いたコルネは、レダが頷く初動を確認し、彼の手からバターサンドをいただく。
「ん~~!! しっとりした生地にバターと干しぶどうの美味しさが相乗効果で凄い! 凄く美味しいね!!」
 彼の持って来た全てのバターサンドを平らげると、どうやら鼻の効きも戻って来たらしく。
「んん~? どうやら最後みたいだね? お菓子ありがと! まだあるなら適当な所に置いてて欲しいかな」
 そうレダに残して駆けていったコルネを見送ると、レダはまた、調理室へと戻るのだった。

 *

「お、来たアルネ。アイヤ~待ちくたびれたヨ」
 火山付近の森。その入り口で隠れること無く堂々と待っているのは【アルバリ・サダルメリク】。
 彼が隠れずにコルネを待っているのは簡単だ。――吹っ掛ける為である。
 もちろん喧嘩では無いし、卒業生かつ先生にそんなことをして勝てるなどとは欠片も思っていない。
 そもそも彼は『商人』なのだ。ならば、吹っ掛けるものは決まっているというもので。
 つまりはそう……値段である。
 ゆっくりとこちらへ歩いてくるコルネを見据えながら、声の届く範囲まで入ってくるのを待っていたアルバリだったが、彼の思惑は一度外れた。
 一瞬で眼前へとコルネが移動してきたのだ。
「――――へ?」
「干しぶどう……オイテケ」
 おおよそ会話と思えないその口調に、思わず後ろに飛び去ったアルバリだが、コルネが動く気配を出さないことから、先ほどの行為は彼女なりの威嚇なのだと理解する。
 であるならば、目の前のコルネは理性が働いている筈なのだ。
 多分、恐らく……きっと。
「せ、先生? 声は聞こえるネ?」
 問いかけに何の反応も見せなかったコルネだったが、次の一言で急変する。
「干しぶどう……譲ってあげるヨ」
「本当!? もし渡してくれなかったらこれから一週間毎日グラウンド千周って言おうと思ってたんだよ~♪」
 先ほどまでの狂ぶどう化状態はどこへやら。普段通りの彼女の言葉でそう笑いながら返した。
 言われたアルバリは内心、冗談では無いと両方に思っているが、まだその事は口に出さない。
「けど先生? これはワタシが自分のお金で買ったものネ。それを無料で渡すというのは流石に納得出来ないヨ?」
 イタズラでは無く、あくまで自分のために購入した。
 その体(てい)で丸め込めば市場価格よりは高く売れるだろう。
「これくらいの金額でいかがネ?」
 そんな考えを持ってアルバリが提示したのは、市場価格の五倍ほど。
 しかし、その金額を聞いたコルネは即座に、
「そう。じゃあ明日まで我慢するから大丈夫だよ! じゃあグラウンド千周頑張ってね!!」
 そう言って踵(きびす)を返して帰ろうとしてしまった。
「じゃぁ、明日も買い占めるだけネ」
 その足を止めたのはアルバリの一人言。
「だって、ワタシは商人ヨ? 商人が一度決めた商品から手を引くときは利益を上げた時だけネ。だったら、利益が出るまで同じ事をするのは不思議じゃないネ? ワタシのお金が尽きるのが先か、先生の我慢が限界を迎えるか、我慢比べヨ!」
 暗に買え。と。そうして貰うまで何日でも続けるぞ、と。
 そうした脅しにも近いアルバリの宣言に、コルネはほんの少しだけ考えて……。
「グラウンドを走る距離減らすから、ちょ~っとまけてくれないかな~?」
 商人相手に値切りを始めたのだった。
 結局二人が手打ちにしたのはアルバリの言い値の半額で干しぶどうを買い取り、アルバリへの罰則無しという、商人の勝ちと言える内容だった。

 *

「はぁ……はぁ……。これ……で、百周……です……わ」
 言われたとおりにグラウンドを百周し、そのまま大の字に寝転んだ朱璃。 
「風邪を引くぞ? こんな場所で寝ていては」
 そんな朱璃に突然差し出されたのは――泡立て器。
 思わず脳内に疑問符が浮かぶが、手の代わりに差し出されたのだろう、と泡立て器を掴むと、思った通りに立ち上がるのを手伝ってくれた。
「何があったかは知らないが、これでもどうだ? 干しぶどう入りのクッキーだ」
 親切心でクッキーを差し出したレダだったが、今この瞬間において干しぶどうは朱璃のトラウマであり――。
「――――ッッ!!?」
 声なき声を上げ、朱璃は寮へと猛ダッシュした。
 首を傾げるレダをその場に残して。



課題評価
課題経験:33
課題報酬:750
命がけのいたずら
執筆:瀧音 静 GM


《命がけのいたずら》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 アムル・アムラ (No 1) 2019-03-19 19:09:41
僕はアムル、村従コースのヒューマンだよ。
よろしくねっ!

噂の検証をしようとしたら、とんでもない事になっちゃった。
興味深いね♪
うーん、植物園にでも逃げようかな?

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 2) 2019-03-19 19:41:40
武神・無双コースの朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

武神・無双コース、そしてルネサンスの先達としての本気のコルネ先生とお手合わせしたいと思ったのですが・・・これはやりすぎてしまいましたかしら?流石に命の危険を感じますわね。私はひとまず動物園に逃げ込もうと思いますわ。

《新入生》 アルバリ・サダルメリク (No 3) 2019-03-20 01:55:59
アイヤー、先生怒ってるネー。

ワタシは黒幕・暗躍コース所属のエリアル。
アルバリ・サダルメリクネ。
以後宜しくヨ。

ワタシは商人だからネ!
買い占められる商品は把握してるヨ。
今干しブドウは品切れ品薄状態と言うことは一儲けのチャンスネ!

とはいえ、先生に見つかったら八つ裂きにされそうな予感はひしひしするからとりあえずは火山付近の森に隠れるネ。

見つかったら…かなり高値で吹っ掛けるのもアリヨ!

商人の腕の見せ所ね!

《新入生》 メルヴィナ・セネット (No 4) 2019-03-20 12:42:04
賢者・導師コース専攻のメルヴィナ・セネットだ。よろしく。
噂が気になって実行したのだが……弱体化どころかパワーアップしてないか?

私は先生に見つかったら覚悟を決める。追加で悪戯するつもりだ。逃げながら干しぶどうを各所に置いたりする。あとはまだ考え中。
行き先は……まずは生物園かな。隠れたり色々出来そう。

《模範生》 レダ・ハイエルラーク (No 5) 2019-03-20 20:59:45
黒幕・暗躍のレダだ。宜しくな。

最初は持てる力で隠れて逃げてみる事にする。
途中で干しぶどうに何かするつもりだが、何かまではまだ決めていない。

隠れる場所はある場所を予定している。

《新入生》 アムル・アムラ (No 6) 2019-03-21 22:50:20
メルヴィナさん、レダさん、今回もよろしくね!
うむむむむ、頭を捻ってみても相手が圧倒的すぎて小細工でしかないよ。
どんなに綱渡りでも、逆光で「プラン通りだ、問題ない…」とか呟いてのける根性がほしい。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 7) 2019-03-22 20:18:40
プランは提出しましたわ。正直最後まで逃げ切れる自信が微塵もないのですが・・・とりあえず動物園で先生が来る前にダチョウを手なづけていざという時はそれに乗って逃走してみようかと。