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孔明 GM 

 初めまして、孔明と申します。三国志、水滸伝などといった中国古典が特に好きで、戦記物や悪徳官吏をアウトローが成敗する話が得意です。

担当NPC


メッセージ


作品一覧


魔法薬の素材採集 (ショート)
孔明 GM
 魔法学園フトゥールム・スクエアは『勇者』の育成をするための教育機関であるが、昨今は時世の流れもあって通常の勇者としての教育以外にも、日常生活や魔法知識などを教える多角的な学校となっている。  そして多角的な教育を施すということは、多くのカリキュラムがあるということである。一般に流通している薬草の効能や、魔法薬の作り方を学ぶ魔法薬基礎もその一つだ。  魔法学園は生徒数が膨大のため一つのカリキュラムに複数の教員が存在するが、今教室で講義をしているのはスペンサー・バーナードというヒューマンの教授だ。  くすんだ灰色の髪に、骸骨の標本のように痩せこけた頬。2m近い長身は腹のあたりを強打すれば、全身がポキッと折れてしまいそうなほど華奢である。全ての窓をカーテンで覆ってしまっているにも拘らず、サングラスをかけている理由は不明だった。 「この学園に入学するにあたって、最低限の予習は済ませているであろう君たちは当然知っていることと思うが……」  冷たい口調でバーナード教授が言う。サングラスの奥の目は、生徒たちを見渡しながら『最低限の予習を済ませていない』生徒を確認しているようだった。 「魔法薬は勇者になる上で『必修』とされる課目の一つだ。理由が分かるものは?」 「便利だから、だと思います」 「百点満点で五点の解答だな」  生徒の一人の答えをバーナード教授はピシャリと切り捨てた。 「魔法薬が通常の魔法と比べ、明確に優れる点。それは万人が等しく扱えることにある。例えば基本的な回復魔法一つにしても、使うにはその魔法を習得するだけの才能が不可欠だ。魔法を扱う才能がゼロであれば当然回復魔法の行使もできない」  だが、とバーナード教授は机の上に置かれているフラスコをとる。  フラスコの中では血のように真っ赤な液体が揺れていた。 「この回復の魔法薬を使えば、魔法が使えない者でも回復魔法と同じ結果を得ることができる」  教授はわざとナイフで自分の指を切って血を流してみせた後、魔法薬を飲むと、たちまちのうちに傷が消えた。 「しかし便利であるからこそ、その効能と種類について知らねばならない。毒状態にかかった勇者が、毒消しの魔法薬を服用とした際、誤って対魔物用の毒を飲んでしまい、そのまま死亡したという事故も過去にはある」 「……質問です、先生。毒消しと毒を間違うなんて、本当にあるんですか?」 「幾らなんでもそんな馬鹿な間違いはしない――毎年そう言うものは必ず一人はいる。ではこれを見ても同じことを言えるかな?」  そう言ってバーナード教授は二つのフラスコを魔法で浮かして見せる。  二つのフラスコにはまったく同じ無色透明な液体が入っていて、見た目だけではまったく違いを判別することができない。 「二つフラスコの片方は猛毒の魔法薬で、もう片方が毒消しの魔法薬だ。この二つは効能は真逆でありながら、色はともに無色透明で臭いも似通っている。魔法を用いるか、高度な魔法薬の知識がなければ判別は不可能だ」 「……」  さっき疑問を投げかけた生徒が黙り込んでしまう。  毒と毒消しの誤飲。冗談みたいなそれが現実に起こりえることだと理解したのだ。おそらく教室にいる生徒全員が。 「といってもこちらの猛毒の魔法薬は、私のような魔法学園の教職でもなければ所持の許されない禁薬。市場に出回ることなどありえない。だが勇者を志す以上、最低でも君たちは自分がよく使う魔法薬の判別と制作程度は、できるようになって貰わねば困る」  バーナード教授がチョークで黒板に字を書いていく。  それは魔法薬を作るための材料のようだった。最後に何かを書こうとしたところで、手を止めたバーナード教授が振り返る。 「これは回復魔法薬を作るために最低限必要な素材だ。次の授業では実際に魔法薬作りを体験してもらう。準備をしておくように。素材は学園内にある超大型商店『クイドクアム』で購入できる。この魔法薬を作るための素材を購入した代金は、後日学園のほうから支払われるため領収書は残しておくように。優れた魔法薬を作った者には、多少の報酬を出そう」  以上、解散。  バーナード教授がそう言うのと、授業終了のチャイムが鳴るのはほぼ同時だった。  授業終了後、何人かの生徒が同級生のメカス・トッテマオーの声かけにより集められた。  水のように、というより水分を人間のように変化させた青い髪は、少年がローレライである証である。  メカス・トッテマオーは集めた生徒達の前でわざとらしく咳払いをすると、得意げに口を開いた。 「なぁ君たち。さっきの教授の出した課題の本当の意味は分ったかい?」 「次の授業で使う素材を買っておけっていう話か?」  生徒の一人の答えに、トッテマオーは待ってましたと言わんばかりに『チッチッチッ』と指を振る。 「教授の言ったことを一言一句思い出してみなよ。教授は『回復魔法薬を作るために最低限必要な素材』って言ったんだぜ。これってつまり黒板に書かれた素材を使うだけじゃ、最低限な魔法薬しか作ることができないってことだよね」 「そういえばバーナード教授……最後に黒板になにか書こうとして止めてたな」  生徒の一人が思い出したように、ポン、と手を叩く。 「その通りさ。僕は予習してたから知ってるんだけど、課題の魔法薬を『完璧に』作るためには、黒板で書いてあった素材の他に『ポルクの花の花弁』を入れる必要があるみたいなんだ」  ポルクの花。森の中に生えている、魔法薬の素材にもなる白い花のことである。  そういえば教授が最後に書こうとしたなにかは『P』から始まっていた。  P――ポルクの花の花弁で間違いないだろう。 「よし。それじゃ早速『クイドクアム』でポルクの花の花弁を他の素材と一緒に買って――」 「……駄目なんだよ、それが」 「駄目?」 「ああ! 僕もそう思ってポルクの花の花弁を買いに行ったんだけど、全部誰かに買い占められてたんだよ! しかも再入荷は次の魔法薬基礎の授業の後だ! きっと僕と同じ結論に辿り着いた奴が、自分だけ単位と報酬を独り占めするために買い占めたに違いない!」  トッテマオーの言ってることが本当なら、その買い占めた何者かは阿呆だ。  授業で得られる報酬なんて微々たるもの。とてもではないが一つの商品を買い占めるために必要な額と釣り合っていない。 「じゃあどうするんだ? 金はかかるけど学園外の店を見に行ってみるか?」 「心配ないよ。第一校舎にある『リリー・ミーツ・ローズ』は知ってるだろ?」  こくりと頷く。  リリー・ミーツ・ローズは世界中の植物を集め、生育している植物園だ。  植物園の名前の由来にもなった初代管理者のリリーとローズによって環境が整備された結果、巨大な迷宮のようになっているという話である。 「『クイドクアム』にないんなら僕たちが自分で採集してくればいいんだよ。学園の先輩に『ポルクの花の花弁』が生えてる場所は聞いてきたから、今日これから僕らで採りに行かないか?」 「……」  正直トッテマオーは胡散臭かったが、このままでは最低限の魔法薬しか作れず、報酬は貰えないのは確実。  ならば返答は一つしかなかった。 「分かった」  トッテマオーはにやりと笑った。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-01-22
完成 2019-02-10
脱獄大作戦 (ショート)
孔明 GM
 魔法学園フトゥールム・スクエアは通常のカリキュラム以外にも、ギルドにくるような依頼を受けて生徒を派遣することがある。  生徒に勇者としての実地体験を積ませつつ、世間における学園での印象を上げることもできるため、学園はこの手の依頼を広く集めていた。  依頼内容も様々で街を襲い住みついたドラゴンの討伐なんていう難易度の極めて高いものもあれば、お手伝いの延長のような簡単なものもある。  そして今日も学園に一つの依頼が舞い込んできた。しかしその依頼の余りの突飛さに、受付をしていた学園教師の【スペンサー・バーナード】教授は目を丸くすることになった。 「……失礼。耳が遠いなんてことはなかったが、もしかしたら聞き間違えたかもしれない。もう一度依頼内容を言ってもらえるかな、マダム」  ずれかけたサングラスを戻しながらバーナード教授が言う。額には冷や汗が滲んでいた。 「何度でも言ってやるよ」  バーナード教授の向かい側に座る【マダム・ダイソン】はゴリラのように太ましい体を揺らしながら口を開く。張り手をすればこの部屋にある木製のドアなど、木っ端微塵となって吹き飛んでしまうだろう。 「うちの夫を脱獄させるのに手を貸して欲しいんだよ!!」 「……」  念のために繰り返すがここは魔法学園フトゥールム・スクエアである。次世代の勇者を育成させるための学校だ。断じて犯罪者養成学校ではない。  マダム・ダイソンのやっていることは、言うなれば火消に放火を依頼するようなものだ。 「正気かな、マダム」 「当然さ! これが狂った奴の目に見えるのかい!?」  大きな顔でらんらんと輝く虎のような眼には、強い意志が感じられる。乱暴な言葉を吐いた口のある顔は、凶悪かつ凶暴ではあったが狂気はなかった。  精神安定の魔法薬を処方しようかと懐に手を伸ばしたバーナード教授は、仕方ないと嘆息する。 「勇者を育成するための学園に、犯罪協力を依頼にきたのは……まぁ膨大な前例の中にはなくはないだろうが、私の知る限りでは初めてだ。しかしどうも込み入った事情があるようだし、一から事情を説明をして頂きたい。ただし場合によってはこの場で貴女を拘束せねばならないことを、前もって忠告させていただく」 「ここにきた甲斐があったよ。ここにくるまでに寄ったギルドじゃ、碌に話も聞かないで門前払いされてきたからねぇ」 (それはそうだ)  マダム・ダイソンは少しだけ気分を良くしたようで、落ち着いた口調で話し始めた。  彼女の夫の名前は【シン・ダイソン】で職業は主に魔物の討伐を専門とした猟師だという。故郷では腕のいい猟師として評判だったそうだが、国の開発計画のせいで猟師を続けられなくなったため、引っ越しをしたのだとか。  そこまでならよくある話だが、彼にとっての不幸は引っ越し先の代官がケチで守銭奴の上に不公平な男だったことだろう。ケチで守銭奴だけなら場合によっては長所にもなりうるのだが、ここに不公平まで加わればどうしようもない。実際代官の【モーコウ】はどうしようもない男だった。 「引っ越しして暫くして猟師として再出発しようって時に、凶暴なジャバウォックが出没してね。代官のモーコウの野郎がジャバウォックを討伐した猟師か冒険者には、多額の報奨金を出すって布告したんだよ」  当然猟師をするために引っ越してきたシン・ダイソンは、喜び勇んでジャバウォック狩りに出かけ見事に討伐に成功した。  これでもしも代官が約束を履行していれば何も問題にはならなかっただろう。 「代官は報奨金を支払わなかった。まだ引っ越し手続きが住んでないからだとか、そういう屁理屈を並び立てて一銭たりとも出そうとはしなかったんだよ。当然、主人は文句を言った! だけど代官のモーコウはそれをつっぱねるどころか、猟師なんて仕事は下賤だ、とか侮辱したらしくてね。それで……」 「それで?」 「その場で代官の顔面殴り飛ばして、鼻の骨をへし折ったらしいんだよねぇ。いやぁ、流石はアタシが旦那に選んだ男だよ!」  マダム・ダイソンは夫を誇るように言った。  バーナード教授は夫のシン・ダイソンと会ったことも話したこともないが、間違いなくダイソン夫婦は似たもの同士であろうと確信する。 「短絡的すぎるだろう」 「はっ! 公衆の面前で男を侮辱したんだ! 殺されたって文句は言えないだろう!」  どうやらマダム・ダイソンは任侠の精神をもっているようだ。ヤクザの妻になればいい姉御に、山賊の亭主になれば立派な女頭領になったに違いない。 「で、捕まって監獄に叩き込まれたわけか」 「その通りだよ! で、主人が男を見せたからには妻としちゃ女を見せなきゃならないだろう? 監獄には私の親戚の【カズ】って男が看守として勤めてて、アタシに協力してくれるって約束してくれたけど、二人だけじゃ牢破りは難しい。だからここに調達にきたってわけさ」 「話は理解した。だがそういうことなら脱獄の協力などを依頼するより、代官より上の職にある者に現状を訴え、公平なる裁きを求めるべきだろう」 「……代官の上にいる領主様に訴えようにも時間がかかる。噂じゃ領主はそう悪い人間じゃないらしいし、訴えを聞いてくれれば主人を出所させられるかもねぇ。けどそんな時間はないんだよ」 「というと?」 「主人の死刑執行日が近いんだよっ!」  なんでもシン・ダイソンは代官に対しての暴行傷害、殺人未遂、反逆未遂、危険生物取り扱い違反など十七の罪状で死刑が確定しているそうだ。うち暴行傷害以外は完全なる冤罪で、代官の腹いせであることは間違いないという。  初めてバーナード教授はこの厳つい夫人に好感を抱いた。乱暴な口調も全ては夫を死なせたくない一心だったのだろう。 「しかし代官に非があるとはいえ、悪法も法であることに変わりない。その代官が今後も代官であり続けられるかはともかく、現状でマダムの夫を脱獄させることは明確な犯罪行為にあたる。生徒にやらせるわけには――」 「なになに、バーちゃん。面白い依頼受けてるじゃん! オーケーオーケー! 引き受けよう、その依頼!」 「なっ!?」  バーナード教授が今日最大級の驚愕で、顔面を歪ませた。空いた口は開いたまま閉じない。  少女そのものの童顔に豊満な胸、なによりも内包した測定できないほどの魔力。学園長の【メメ・メメル】がそこにいた。 「が、学園長。引き受けるとは一体どういうことですか?」  どこまで聞いていただとか、いつの間にこの部屋にだとかは今更言いはしなかった。  彼女にそんな常識的な質問がどれだけ無意味なのか理解していたからである。 「言葉通りさ。このメメたんの責任で、彼女の依頼は引き受ける!」 「ほ、本当かい!」  まさかのこの学園最高権力者からの助け舟に、マダム・ダイソンは顔を明るくさせた。  バーナード教授は頭を抱えながら、無駄な抵抗だと思いながら食い下がる。 「……幾ら貴女でも、問題になりませんか?」 「へーきへーき! このオレサマに不可能はないんだから、大船に乗った気でいたまえよ~! ってなわけで依頼を受ける生徒の募集ヨロね、バーちゃん☆」 「はぁ。……分かりました。直ぐに手配しましょう。あとその呼び方は止めて頂きたい」  肺の中の空気を全て絞り出す巨大な溜息をつくと、バーナード教授は依頼の手配を始めた。
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-04-14
完成 2019-04-29

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