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スノーウォックを狩り尽くせ (ショート)
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 寒の戻りという言葉がある。春、暖かく心地よい気候になりつつあったのに、一時的に冬の寒さがぶり返してくる現象のことだ。  真冬より幾分マシと言えど、暖炉に火をつけたってなかなか部屋が温まらない。マフラーでも巻かなければ薪を取りに一瞬外へ出るのすら厳しい。冬物の服を慌てて引き出しの奥から引っ張り出している者も少なくないはずだ。  暖かい中で急に寒さが戻ると、天気は崩れやすくなる。この日は冷え込みがかなり強まったので、空気中の水分は雪の結晶となって地表に散り積もった。雪かきをするほどでもないが、頑張って雪を寄せ集めれば雪だるまやかまくらが作れそうな様子だ。昨日までの春の陽気が嘘のようである。  雪は綺麗ではあるが、喜ぶのはある程度小さい子供くらいなものだ。雪の積もった路上は滑りやすく歩きにくい上、基本的な移動手段は箒であるため、休校や休講の理由にもならない。結局今日もまた、学生たちは白い息を深く吐いて、ブーツで新雪をきゅっと踏み鳴らしながら、キンキンに冷えた箒にまたがる。  当たり前だがグラウンドも真っ白で、射撃などを練習する道具も白化粧をしている。これらを使用する部活動の学生たちは、今日一日その雪落としに時間を取られるに違いない。グラウンドには何人かの暇な学生が雪で遊んだり、雪景色をぼーっと眺めていたりしている。  そんな中、一人の男が全速力で飛び出してきた。グラウンドの真ん中あたりまで突っ走って言ったかと思うとスライディング気味に急ブレーキをして、今自分が出てきた校舎の方を全力で振り返った。 「おいお前らー! 早く出てこーい! 『祭り』が始まってんだろーが!!」  男が両手を口に当てて大声を出すと、校舎の玄関から数人の学生たちがとぼとぼと出てきた。いずれも呆れたような目線を男に送っている。 「こんな寒い中に連れ出してきて何する気なんだあ?」 「お前らを外へ連れてきたのは他でもない、実践課題のためだ。動けばすぐに温まる。寒さなんか少しくらい我慢しろ」  この男の名前は【ランドルフ・メイスン】。いかにもマイペースで適当そうな男だが、一応は勇者にしてストゥールム・スクエアで講師でもあったりする。  ……つまり、今は授業中というわけだ。 「せっかくだしグラウンドにいるお前らも参加しろ! いい経験にはなると思うぜ! 俺が保証する」  ランドルフがそう呼び掛けると、興味を持ったのか、あるいは教員の命令だからしぶしぶ従ったのか、グラウンドにいた生徒たちも若干名ではあるが集まってきた。 「さてお前ら、今日は雪が積もった。これが何を意味するか分かるかー?」 「知りませんわよそんなの……」 「ああ? 分からないなんてのは世間知らずすぎだ。よく覚えとけ、雪が降ると『ヤツら』が来る」  ランドルフが指をさすので、寒さで縮こまった学生らは首だけそっちに向ける。 「あれは……」  そこでは、街中にも関わらず、何やら白い魔物らしきものと交戦している者たちがいた。彼らは飛び掛かってくる魔物たちを次々に斬り倒していく。 「確かにあれだけ動いていれば少しは温まりそうだぜ」  眉毛の太い男子学生、【リューク・フット】は拳を手のひらに打ち付けながらそう言った。現場を見てやる気が出たらしい。 「あいつらは『スノーウォック』。ジャバウォックの冬バージョンだ。流石にジャバウォックは分かるな? よく森に出る獣の姿をした魔物だ。だが、スノーウォックは雪が積もると、どこであろうと積もった雪から次々と湧いて出てきやがる。だから毎年雪が降った日にゃ街中で討伐祭りってこった。そういうわけでだ、お前らに授業時間全部をやるから、好きなだけスノーウォックを狩ってみな」  どうやらそれが今日の課題らしかった。寒いグラウンドへ無理矢理引きずり出されて不服そうだった学生らも、実戦と聞いて少しだけやる気が湧いたようだ。仮にも勇者の端くれだ。戦闘に興味がないわけではないのだから。 「でも、実戦となるとやはり危ないのではなくて……?」  お嬢様気質の学生、【フィリーネ・ダグラス】はそうはいってもまだ完全に乗り気というわけではないらしい。初めての実戦ともなれば緊張するのは当然だろう。 「なに、心配せずともそう強い魔物でもねえさ。もちろん氷系の魔物だから高熱に弱いと言えば弱いが、ジャバウォックと同じで基本的にはどんな攻撃も通る。初心者でも適当に突っ込んでりゃなんとかなるだろ。ただ、たまに口から冷気を発するからそれには気を付けろよ。凍傷にでもなったら治療に時間がかかるからな」  ランドルフが早口で説明している間にも、街の方からは剣の音や爆発音、スノーウォックの鳴き声が聞こえてくる。その騒がしさは、確かに『祭り』という喩えが似合う。  ……その騒がしさのせいで、ランドルフはいてもたってもいられない様子だ。 「まあものは試しだ。課題は好きなだけスノーウォックを狩ってくること。二時間後、またこのグラウンドに集合な。街中なんだから、何かあったら俺を呼べ! すぐに助けてやるからな。そんじゃ、一旦解散! っしゃー! 狩るぞ狩るぞ!! 年に一度のお祭りだ!!」  ランドルフは一方的に説明を打ち切って備品の剣を手に取って、さっきグラウンドに飛び出してきたのと同じように全力疾走で街に繰り出していった。 「まったく、今日も通常運転だなあいつは」  ランドルフのマイペースさに、無鉄砲が売りのリュークさえ呆れ顔である。  これは今に始まったことではない。しょうもないことで学生と喧嘩してたり、そうかと思えば自分のやりたいことを即時行動にのではなくて共にしたり……学内では割と有名な問題児である。 「なんだか、巻き込んでしまって申し訳ありませんわね……」  たまたま居合わせた学生たちに、ランドルフの教え子であるフィリーネが控えめな笑顔を浮かべつつ謝る。リュークも一緒になって、首だけで礼をして軽く謝った。 「ほんとすまねえな。でもあいつも根は悪いヤツじゃないんだぜ。大人だけど子供っつーか……普通は大人って上から目線だろ? でもあいつはあくまで俺らと対等なんだ。だから俺はそこまで嫌いじゃない」 「それに腐ってもこの学園の講師ですし、あれでも知識と技術の量はとても高いのですわ。馬鹿なところもあるけれど、私たちはそこらの下手な先生よりは彼を信頼していますの」  リュークとフィリーネが揃ってランドルフを褒めると、他の生徒たちも首を縦に振って同意の意志を見せた。 「半強制的に『祭り』に参加させられたわけだけどよ、どうせやるからには全力で『祭り』を楽しんでやろうぜ! なあみんな!」 「何かあったらあの馬鹿講師に助けを求めればいいのですわ」  リュークとフィリーネの掛け声で、学生らはかなりまとまりを見せた。  また、リュークたちがランドルフから教わったことをもとに、初心者でも戦いやすいように陣形を整えた。  相変わらず凍えるほど寒いが、文句は後で直接みっちり言うとして、今はとりあえず戦闘が始まっている街中へ繰り出すことにしたのだった。
参加人数
7 / 8 名
公開 2019-03-04
完成 2019-03-24

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