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精霊を持って響かせろ


ストーリー Story

 『絶唱型呪文演習施設』という施設がある。
 字面から分かるであろうその施設は、大声はおろか魔法を発した際に起きる轟音をも防ぐ防音性の高い施設であり、その施設はもっぱらストレス解消目的で使用されている。
 学園の生徒はもちろん、時には先生達も抱えたストレスなどを発散していた。
 しかし、そんなストレス解消目的で利用されるのは、基本的に放課後、あるいは夜の利用が当然多いわけで。
 まだ日が高い時刻に、先生の一人がそこを利用しようとするのは大変珍しいわけで。
 さらに言えばおおよそ一人では演奏出来ないであろう大量の、多種類の楽器を持ち込むと言うことは、珍しいを通り越して異常であった。
「さてぇ、準備は整いましたしぃ、ようやく授業を行えますぅ」
 額に浮いた玉の汗を拭い、そう呟いた呟いた先生は、部屋の中の楽器達を見回すと、
「演奏会が楽しみですねぇ」
 そう、微笑みをこぼすのだった。

 *

 生徒達に伝えられた授業が行われる場所。
 それは、絶唱型呪文演習施設『スペオケ』と呼ばれる場所で、今までそんな場所で授業が行われるとは知らなかった生徒達は驚いた。
 なにせ、レジャー以外の用途が思いつかなかったからである。
 とはいえ授業だから、と気を引き締めて指定された部屋の扉を開けば、視界に現れたのは大量の楽器。
 思わずキョトンとする生徒達に、真上から声を掛けた存在が一つ。
「いらっしゃぁい。魔法コントロールの授業にようこそぉ」
 おっとりとした女性の声だったが、如何せん急に、しかも頭上から声を掛けられれば、誰でも例外なく驚くこと請け合い。
 そんな生徒達の目前に降りてきたリバイバルの先生は、自己紹介を始めた。
「私はぁ、【ストラテリ・ディエロ】と申しますぅ。私の担当する授業はぁ、魔法――とりわけ精霊に関する授業が主でしてぇ」
 ふよふよと漂い、楽器達を撫でながら続けるストラテリ先生。
「今日はぁ、その精霊さんを使って皆さんで演奏会をしたいな~と思いますぅ」
 魔法と精霊の繋がりは分かるが、それに演奏がどう繋がるか全く理解出来ずに首を捻る生徒達。
 そんな生徒達へ、ストラテリは実演を持って見せつける。
「例えばぁ……えい☆」
 バイオリンへ向けて指を鳴らし、指揮者のように腕を振るえば、バイオリンが独りでに音楽を奏で始めたではないか。
 それを見て呆然とする生徒達へ、
「実はぁ、ここにある楽器達はぜぇんぶ魔法道具なのですよぉ。精霊に反応し、音楽を奏でるようにしてもらっているのでぇ――」
 とネタばらし。
 そして、
「今日の授業ではぁ、みんなで精霊達をコントロールしてぇ、大合奏をしちゃいましょぉ!」
 ストラテリが掲げた腕に合わせてシンバルが鳴る。
「ここにある楽器ならどんな楽器でも自由、一人でいくつ演奏してもいいですがぁ、取り合いになっても困っちゃいますしぃ、一人二個までにしましょうかぁ」
 ギターの音が混じったかと思えば、今度はティンパニも参加して混沌へ。
「ふふふ、楽しみですねぇ。――それではぁ、魔法コントロール実習、『精霊交響曲』を始めましょぉ!!」
 生徒達が部屋に入ってから、一度も開かれなかったストラテリの目の奥底が、ほんの少しだけ光ったような気がして、それまで鳴っていた楽器達の音色が止まる。
 と同時に、授業の開始を示すチャイムが鳴り響くのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2019-07-29

難易度 簡単 報酬 少し 完成予定 2019-08-08

登場人物 3/8 Characters
《熱華の麗鳥》シキア・エラルド
 ヒューマン Lv25 / 芸能・芸術 Rank 1
音楽と踊りが好きなヒューマンの青年 近況 自我の境界線が時々あやふやになる みっともない姿はさらしたくないんだけどなぁ 容姿 ・薄茶色の髪は腰の長さまで伸びた、今は緩く一つの三つ編みにしている ・翡翠色の瞳 ・ピアスが好きで沢山つけてる、つけるものはその日の気分でころころ変える 性格 ・音楽と踊りが大好きな自由人 ・好奇心>正義感。好き嫌いがハッキリしてきた ・「自分自身であること」に強いこだわりを持っており、自分の姿に他者を見出されることをひどく嫌う ・自分の容姿に自信を持っており、ナルシストな言動も。美しさを追及するためなら女装もする。 好きなもの 音楽、踊り、ともだち 苦手なもの ■■■■、理想を押し付けられること 自己犠牲 二人称:キミ、(気に入らない相手)あんた 初対面は名前+さん、仲良くなると呼び捨て
《模範生》プラム・アーヴィング
 ヒューマン Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
「俺はプラム・アーヴィング。ラム肉を導く修道士だ。…そうは見えない?そりゃそうだ、真面目にヤる気ないからな。ま、お互い楽しく適当によろしくヤろうぜ。ハハハハ!」                                       ■身体 178cm/85kg ■人格 身に降り注ぐ事象、感情の機微の全てを[快楽]として享受する特異体質持ち。 良心の欠如が見られ、飽き性で欲望に忠実、貞操観念が無い腐れ修道士。 しかし、異常性を自覚している為、持ち前の対人スキルで上手く取り繕い社会に馴染み、円滑に対人関係を構築する。 最近は交友関係を構築したお陰か、(犬と親友と恋人限定で)人間らしい側面が見られるように。 現在、課題にて連れ帰った大型犬を7匹飼っている。 味覚はあるが、食える食えないの範囲がガバく悪食も好む。 ■口調 修道士の皮を被り丁寧な口調の場合もあるが、普段は男口調を軸に雑で適当な口調・文章構成で喋る。 「一年の頃の容姿が良かっただァ?ハッ、言ってろ。俺は常に今が至高で完成されてんだよ。」 「やだ~~も~~~梅雨ってマジ髪がキマらないやんけ~~無理~~~二度寝決めちゃお~~~!おやすみんみ!」 「一応これでも修道士の端くれ。迷えるラム肉を導くのが私の使命ですから、安心してその身をゆだねると良いでしょう。フフ…。」 ■好き イヌ(特に大型) ファッション 極端な味付けの料理 ヤバい料理 RAP アルバリ ヘルムート(弟) ■嫌い 教会/制約 価値観の押し付け
《ゆうがく2年生》ドリス・ホワイトベル
 リバイバル Lv12 / 芸能・芸術 Rank 1
【外見】 緑のショートウェーブ つり目 色白 実年齢は15歳だが昔から栄養あるものを食べさせて貰えなかったせいであまり成長出来なかった 【性格】 弱気な中二病 努力家 照れ屋 ちなみに、何故か光属性に拘ってるが名前がホワイトベルなんだから光属性であることを譲りたくない為らしい。 が、種族上どうあがいても闇属性である。 小さい頃に捨ててあった白猫のぬいぐるみ ボロボロで目がとれかけてたから眼帯をつけてあげた 今では白猫はお友達 名前は『ミルク』 よく腹話術でお話してくれるけど口が動いていて腹話術にならない。 【入学理由】 誰にも見向きもされなかった為、友達が欲しくて仕方がない ※アドリブ大歓迎

解説 Explan

 魔法を使う際に作用する精霊。
 その精霊を用いて楽器を演奏する、という授業です。
 ですので、楽器の扱いの上手い下手は関係無く、どれだけ魔法をコントロール出来るかで演奏の善し悪しが変わってきます。
 とはいえ学園が用意してくれた魔法道具を用いているので、全く音が鳴らない、なんて事にはなり得ないのでご安心下さい。
 字の通り、音を楽しんでいただければ、きっと精霊達も楽しくなって、上機嫌な演奏を聴かせてくれることでしょう。

 ストラテリ先生が運び込んだ楽器はおおよそを網羅しており、中には特殊な楽器も見受けられますが、いくつか運び込めなかった物もあるようです。

・大太鼓 大きさと重さの関係でストラテリ先生には無理だったようです。
・グランドピアノ 大きさと重さで(略
・パイプオルガン 大きさと(略

 以上の楽器以外は、何とか用意したようなので、一人二個まで、お好きな楽器を使用して下さい。
 


作者コメント Comment
 と言うわけで音楽の授業と魔法に関する授業をくっつけてみました。
 皆さんの思う、自キャラにあった楽器を想像し、この授業でイメージを深めていただければ幸いです。
 …………馬頭琴と指定されるのは――覚悟してます←


個人成績表 Report
シキア・エラルド 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
自分で演奏するんじゃなくて、精霊に奏でさせるってこと?面白そう!

選んだ楽器
ティン・ホイッスル
アコーディオン

精霊魔法は座学で学んだ程度
精霊ってことは…奏でるのをお願いするってこと?
それならば、と語りかけるように意識を集中させ
ヒューマンは得意は属性はないけど…風の精霊にお願いしてみよう
「あれは?きっと楽しいよ、少しやってごらん?」
こんな感じでいいのかな
弾いてもらうんだから、奏でて楽しい方がいいんじゃない?

最初はティン・ホイッスルを
慣れればアコーディオンを追加

友人のプラムと同コースのドリスと一緒にセッション
お互いにアドバイスし合う
ドリスさんは音楽について
プラムからは魔法のコントロールについて

プラム・アーヴィング 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【精密行動】【集中】【魔法感知】【魔法学】を使い、魔力・魔法をコントロール。
【会話術】【心理学】を応用して、シキアとドリスさんに魔法コントロールの指南をする。

音楽のリズムとか細かい技術は芸能・芸術コースの2人の指示に従い、魔力の扱いは俺が指示して、お互いの得意分野で補って演奏。
チームプレーは音楽でも戦闘でも大切。

おや、子供の玩具のグランドピアノがあるね。
とりあえずこれで精霊と魔法コントロールを慣らそう。二人もね。

慣れたら複雑な楽器に変えていき、二人と被らず相性が良い楽器を見つけたい。

そうだ、演奏が複雑な楽器はシキアの演奏を見て理解を深めることで、魔力コントロールに活かせないかな。

ドリス・ホワイトベル 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
皆と楽器演奏!

【行動】
使用楽器
・ハンドベル
・ドラム

自分の種族の精霊さんにお願いする
音楽に必要なメロディラインをフルートで
ドラムでメトロノームの役割を果たしてバランサーを目指す

ただし、ピアノの様な万能さはハンドベルには無いので必要なメロディラインを弾いてドラムでリズムを取る様な形で精神さんにお願いしてみる

【心情】
えっ?普通に演奏するんじゃないの?
えっと…精霊さんにお願いして演奏…魔力コントロール…?

『僕もやるから百人力にゃー!(ぬいぐるみ顔の前に構えながら』

えっと、シキアさんとフラムさん
今日は宜しくお願いします
え、リバイバルだから闇の精霊?
ち、違うもの!ホワイトベルだから光の精霊だもの!

リザルト Result

「とりあえず、最初はこれで慣らしてみないかい?」
 『絶唱型呪文演習施設』に入ってから辺りを見渡していた【プラム・アーヴィング】は、大小や種類の違いは多少あれど、ミニピアノが人数分あることを把握しており、ソレを指さして他の二人へと尋ねる。
「そうだね。ピアノなら扱いは簡単だし、音も想像できるから、慣らすにはもってこいかもね」
 と、プラムの判断を肯定する【シキア・エラルド】。
「じゃあ、まずはピアノからね! 精霊に弾かせるって……こうかしら?」
「僕も張り切っちゃうにゃー!」
 早速ピアノに駆けていく【ドリス・ホワイトベル】とその腕に抱き抱えられたぬいぐるみのミルクは、ピアノの周りをグルグルし始めた。
 そんなドリスとは対照的に、ゆっくりと近付いたプラムとシキアは、ドリスのように動き回らずに、ピアノに向けて腕をかざした。
 魔力を込めて。
 そして、それを放さないように。
 そんな二人の内、最初に音を鳴らすことに成功したのはシキア。
 魔法使いの家系故か、それとも好きこそもののというやつか。
 頬を撫でるそよ風のように、静かで、柔らかな音色を響かせると、隣に居たプラムとなおも動き回っていたドリスから即座に質問が飛んだ。
「どうやったんだ!?」
「どうやったの!?」
 と。
「え、ええと……。鳴らしたい楽器から魔法を発生させるように、で分かるかな? 発生源を自分じゃなく、楽器に置いてみるんだよ」
 本人も何分初めてのことで、それが的を射ている説明とは言い難い。
 しかし、それでも演奏の助力――取っ掛かりには繋がったようで、それからさほど時間がかからないうちに、両者とも音を鳴らすことに成功した。
 プラムのピアノからは、教会の空気を思わせるような、荘厳で重量感のある音が。
 ドリスのピアノからは、少し不安をかき立てつつも、どこか心に染み入るような音が、それぞれ流れる。
「出来た!」
「出来たわ!」
 まだ演奏と呼べるものでは無く、音が出ただけ。
 それでも、二人はガッツポーズをしてその嬉しさを表現する。
 その様子を微笑ましそうに見ていた【ストラテリ・ディエロ】は、優しく声を掛けた。
「演奏になるとぉもぉっと複雑な操作が必要になってきますぅ。オトモダチと相談しながらぁ、素敵な演奏会にしてくださぁい」
 まだスタートラインだぞ、と。
 それを受け、お互いにアイコンタクトをして頷いた三人は、ピアノを演奏することに集中し始めた。
 しばらく思い思いに音を出していた三人だったが、未だ演奏とは呼べるものにはほど遠く。
「とりあえず音の強弱は付くようになったけど、演奏となると難しいね」
 小休止、と息を吐いたプラムにシキアが尋ねる。
「強弱ハッキリさせるだけでも難しいよ。精霊にお願いするだけかと思ったけど、そうじゃないみたいだし。……プラムはどうやってるんだい?」
「ん? なんつーか、真綿で首絞めていくイメージだと音が弱くなって、逆にクッパリ開いていくイメージだと音が強くなってく感じ」
「ごめん、よく分からない」
 という会話を二人がしていると、その耳に不協和音一歩手前の奇妙な演奏――とも言えなくも無いものが届いた。
 音のする方を振り返ってみれば、そこには二人と同じく驚いた表情をしているドリスの姿。
 が、二人の視線が自分に注がれている事に気が付いたドリスは、自分の抱えていたミルクを突き出して、
「聞いたかにゃー! 聞いたかにゃー! 演奏出来たにゃー!!」
 しっかり唇を動かしながら、腹話術のつもりらしいミルクの台詞をアテレコした。
『凄い! どうやったの?』
 音楽好きのシキアとしても、授業に参加しているプラムにしても、どうすれば演奏になるかは当然気にかかる。
 故に、やり方を尋ねるのは必然。
 そして、ドリスとしてもそれを拒否する意味は全くないために、どうやって演奏をさせたかを説明し始めた。
「さ、最初は演奏する楽しさを精霊さん達に教えてたんだけど、おんなじ音しか鳴らしてなかったから、こうすると別の音が出るよーって話しかけながらやったら、さっきの音が鳴ったの」
「なるほど。……演奏してみてごらん? 楽しいよ? って語りかけたりしてたけど、そもそも演奏という行為が分からなかったのか」
「つまりはどう演奏するかも指示が必要って事か?」
 どうやら個別で語りかけていたらしいシキアは、ドリスの説明を聞いて納得出来たらしい。
 が、いまいち確証が持てないプラムは、自分の理解が正しいかどうか、シキアへと尋ねる。
「多分……。ちょっと待って、俺もやってみるから」
 自信の無さそうな返答の後、シキアはピアノへと手をかざして意識を集中。
「カプリチョーソ――いや……アドリビトゥムの方が適切か。とにかく全部を、自由に……」
 何やらブツブツ呟いたシキアが魔力を込めると――――。
「あ……綺麗」
「おー、こりゃなんとも」
 耳に届くのは自由な旋律。
 けれど、シキアが意識した風の精霊の影響か、風が通り抜けたような清々しい旋律だった。
「うん、やっぱり合ってるよ! 精霊にどうして欲しいかまで意識しなきゃ駄目なんだ! 俺は精霊に全部の鍵盤を使って自由に、って丸投げしたけど、ここに自分の注文を入れれば望んだ旋律を奏でてくれる筈さ!」
 音楽好きの性(さが)か、演奏出来たことにより一気にテンションが上がり、プラムへ向けてやや早口でそう捲し立てたシキアは、説明を終えるとすぐにピアノへと向き直る。
「あぁ、次はどう演奏して貰おうか。……別の楽器だとどんな扱いになるんだろう」
 もはや意識は完全に楽器。
 同じく芸能・芸術コースのドリスもまた、独り言を言いながらピアノとにらめっこ。
「ていうかあたし、『ホワイトベル』なのになんであんな音が鳴るのよ……」
 悲しいかな彼女はリバイバル。
 如何に名前が光属性っぽかったとしても、その身に受ける加護は闇の精霊であることは変えようがない。
 そんな独り言を聞きながら、プラムは先ほどシキアが早口で説明していた内容を脳内で反復。
 自分なりにかみ砕き、シキアが命令したような音楽記号を用いたものでは無く、
「そのピアノの鍵盤を、好きなように引っかき回せ。出来ればさっきみたいな教会を思い出す胸くそわりー音以外で頼むよ」
 と、誰にも聞かれない小声で精霊に指示を出すのだった。

 *

「プラム、そこはもっとテンション上げてハイテンポで!」
「そうは言うけど結構むずいんだぞ!」
「コントラバスのキミにみんな引っ張られちゃうんだから頼むよ!」
「でも、最初よりは合ってきてると思いますよ?」
 あの後、教会で過ごしていたという経緯があるためか、それをイメージしてしまう厳かな雰囲気の旋律以外は出なかったプラムだが、その音を聞いたシキアから、合奏で使用する楽器として、コントラバス――いわゆるベースを提案された。
 確かにそれならば、と納得し、シキア、ドリス共に選んだ楽器と合奏の練習に入ったのだが、中々に苦戦中。
 それもその筈、ドリスはハンドベルとドラム。
 シキアはアコーディオンとティン・ホイッスル。
 プラムは前述の通り、コントラバスとサックスを。
 三人が三人とも、思い思いの楽器を選んだのだから……。
 ドリスのドラムでリズムを刻み、ハンドベルでメロディを整えるドリスは、ドラムの前に立ち、逐一精霊に指示を追加する形で全体のバランサーとして務めており、一つにつき一つの音階しか奏でられないハンドベルは、手に持って演奏しようとすれば一人だと五個程度が限界だろう。
 が、今回は精霊に演奏させる魔法道具。指示を込めた魔力を持って、精霊にお願いすれば、総数二十五個からなる二オクターブに相当するハンドベルは、輪になってドリスとドラムの周りをゆっくり回転しながら音を響かせる。
「つーか、シキアも魔力のムラのせいか音途切れたりしてるからな?」
 コントラバスで低音をカバーしつつ、サックスの音域範囲をもって全体に深みを与えているプラムは、普通はエンドピンを床に刺して身体で支えて演奏するコントラバスを、まるで独楽のように回転させながら精霊に演奏させており……。
 さらにはそのコントラバスの周りを、衛星のようにサックスを漂わせている。
「一旦、意見交換というか、アドバイスをし合う時間にしないかニャー」
 ミルク……の台詞を腹話術になっていない腹話術で示したドリスの発言で、全員が精霊への指示を止める。
 他の二人とは違い、アコーディオンもティン・ホイッスルも空中に固定し、自分の気の向くままに好きな方を演奏するような指使いをしながら演奏させていたシキアも同様である。
「思ったように演奏させるって、やっぱり難しいわね」
「授業だから、で片付けていいとは思えないんだよね。……そうだ、プラムはどうやってあんなに演奏にメリハリを付けさせてるんだい?」
「こっちはどうやってあんなテンポを変えてるか不思議でしょうが無いよ」
「テンポはそのまま精霊さんを急かせばいいんじゃない? 急げ急げ~って」
「俺は、走るよ~、とか、ダッシュダッシュ! とかを伝えてたけど?」
「あ、それでいいの?」
「それより音の強弱はどうやってるんだい? 強く! とか指示してもあまり分かってくれないみたいで……」
「込める魔力自体を調整するんだよ。強くなら多く、弱くなら魔力を絞ればいい」
「なるほど……やってみようか」
 言うが早いか、アドバイスを聞いたシキアは、直ぐに精霊達へと指示を飛ばし……。
「むむむ……」
 魔力の量を調整して音の強弱を付けようとするが……特に変化は無い。
「手の先に穴が空いてるイメージ」
 そんな様子を見ながら、プラムがシキアへと助言を行う。
「その穴を、徐々に広げるイメージで意識の中で大きくしていってみ?」
 助言を受け、小さく頷いたシキアはその通りにイメージして……。
 徐々にアコーディオンの音が力強くなっていくことを己の耳で確認する。
「極端に穴を小さくするイメージ」
 シキアに声をかけ続けるプラムに従い、そのイメージを行えば、今度は先ほどとは打って変わって、いきなり弱々しい音色へと変化した。
「凄い! あぁ、面白いなぁ」
「あたしも出来たわ! 魔力のコントロールって、イメージ次第でこんなにも変わるものなのね!」
 出来ないものが出来るようになるというのは楽しいものだ。
「……急げっつったって、走れって命令したってテンポが変わらないんだけど?」
「口だけじゃ駄目だよ。自分も意識の中で走らないと」
「何かから逃げたりとか、追っかけたりするイメージすると分かりやすいかも?」
 いくら急げと指示しても、テンポが変わらなかったプラムに、ドリスが助言してくれたとおりに、
(男の尻追っかけるときか、それとも教会のクソやろーから全力ダッシュかます時か……)
 どちらがより急ぐかを思案した瞬間。
 早送りにでもしたかのように、コントラバスもサックスもけたたましい音色を奏でた。
「極端すぎる気もするけど、一応出来た?」
 尋ねるプラムに、
「そっちは、調整が難しそうだね……」
 シキアは苦笑いを返すのだった。
 
 *

「んー……微妙にずれるね」
「合奏出来てはいるけど、物足りない気もするのよね」
「でもテンポや強弱は間違ってないんだよね? 他にどこ修正するつもり?」
 三人が知っている曲。
 それを合奏することに決め、お互いにアドバイスしながら合わせること数回。
 どこか物足りない、そう全員が思い、納得が出来ないまま授業の終了時刻が近付いてきた。
 合奏出来るのは恐らく次で最後。
 けれど、どこを修正すれば満足いく合奏になるか……。
 ――と。
「ねぇ? あたし達は楽しいけど、精霊さん達も楽しいのかな?」
 突破口を開いたのは、ドリスのこの言葉だった。
「楽しんで演奏してって指示だから、きっと楽しんでくれてると思うんだけど……」
「そうじゃなくて、合奏は楽しいのかなって」
『あっ!』
 演奏を楽しめ。そう指示を出したまま変えていなかった事に気が付いたのだ。
 音の違いから分かるように、三人が指示している精霊は同一体ではない。
 ならば、それぞれは合奏を楽しめているのだろうか。
「時間的にも最後だし、全員で楽しむよ!!」
『オーッ!』
 指示する内容が決まり、全体が一つになった授業中最後の合奏が、幕を開けた。
 最初はコントラバスとドラムからのスタート。
 静かに、ゆっくりと荘厳な音が『スペオケ』に響き渡る。
 単独では闇の精霊のせいか、不安定な音だったドラムも、コントラバスとのデュオにより、その特徴を包み込まれていた。
 そこに最初に割って入ってくるのは、不思議と震える音を奏でるハンドベル。
 その震える音は、どっしりと構えたコントラバスの音によって支えられ、旋律として合流。
 そんな中に溶け込むようにアコーディオンとティン・ホイッスルが合わさり、アコーディオンが主旋律を奏でれば、ティン・ホイッスルの素朴な音色の助けでより深く、味わい深い音へと昇華する。
 そんな合奏に最後に彩りを添えるのは、少しだけテンポの速いサックス。
 楽しいを表現するように。そして、共有するように。
 三人の奏でる六つの楽器が一つになったとき、その空間は一気に背景が変わる。
 見事なまでの合奏は、聞く者を、演奏者さえも鳥肌を立たせ。
 その衝撃は、思わず身を震わせるほど。
 そんな圧倒的な演奏に成功した……演奏をさせることに成功した生徒達に待っていたのは――。
 授業終了のチャイムと、拍手を送り続けるストラテリ先生だった。



課題評価
課題経験:44
課題報酬:1200
精霊を持って響かせろ
執筆:瀧音 静 GM


《精霊を持って響かせろ》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!