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なんでもない貴重な休日


ストーリー Story

 その日の朝は、普段よりも冷え込みが激しかった。
 今日は休日。学園の授業もお休みだ。
 いつもの制服ではなく私服のセーターを着こみ、とある男子生徒は寮の自室の扉を開けた。 
 すると、向かいの部屋の扉も同じように開く。髪に寝ぐせを付けたままの同級生が姿を現した。
「おはよう。今日は冷えるね」
「ああ……。おかげでいつもより早く目が覚めちまったよ」
「寝坊しなくてよかったじゃない」
 そんな軽口をたたきながら、二人は廊下を並んで歩く。同じように、朝食をとろうと部屋を出てきた生徒たちで廊下は混雑していた。
 ふと、寝ぐせのついた生徒が隣を歩く彼を肘でつついた。
「おい、見ろよ。どうりで寒いわけだ」
 窓の方を顎で指す。つられて視線を向け、彼は驚いて窓に駆け寄った。
「わあ……!」
 窓越しに見えるのは、白く染まった街並み。見慣れたパン屋の赤い屋根、広場の噴水、公園の木々。すべてが真っ白に染められていた。
 わずかに雲間から覗く太陽の光を受け、白い粒はキラキラと輝く。彼の目はその景色にくぎ付けだった。
「雪が降ったんだ……!」


 学園中がどこかキラキラしていた。生徒も先生も関係なく、みんながこの貴重な休日を満喫しようと心躍らせていた。
 雪の積もったグラウンドでは、雪合戦をしようと生徒たちが雪壁を作っている。片隅では雪遊びに興じる女子生徒の姿も見える。
 一方で、スコップを持った先生があわただしく正門の前を走り抜けていった。なにかあるのだろうか。
 寒さの苦手な者は、校舎の中で銀世界を楽しんでいるようだ。ほかほかと紅茶の湯気が立ち、教室の窓を曇らせていた。
 湖には氷がはり、レゼントの街からスケート靴片手に子供たちがやってきていた。
 夜にはグラウンドにかまくらを作り、鍋なんかもするらしい。
 
 このなんでもない貴重な休日。君たちはどう過ごすだろうか?


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 6日 出発日 2019-12-26

難易度 とても簡単 報酬 少し 完成予定 2020-01-05

登場人物 5/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《未来を願いし者》エトワール・フィデール
 ヒューマン Lv8 / 教祖・聖職 Rank 1
私は恵まれている、愛されている。だから…今度は私が愛を返す番です ーーーーーーーーーーーーーーーー 容姿 ・緩くミツ編みにした腰まである長い黒髪、丸い大きな青い目にうっすらと紅い頬。何処か人形めいた容姿に柔らかく穏やかな表情が人間味を与えている。 ・学園の制服以外では孤児院を出る際にマザーとシスターから貰った修道服を着て過ごしている 名前 ・教会のマザーにつけてもらった。愛称はエト ・姓は孤児院のものである 【PL】 ・友達申請ご自由に
《ゆうがく2年生》四季杜・カガヤキ
 ドラゴニア Lv6 / 黒幕・暗躍 Rank 1
「四季杜カガヤキと申します。……以後、お見知りおきを」 □ 名前 :四季杜 カガヤキ(シキモリ・ー) 四季杜→姓 カガヤキ→名 血液型:B 身長 :175センチ 年齢 :17歳 好物:温かい食べ物、飲み物 苦手:冷たい食べ物、飲み物(例外有り) 特技:物音立てず近寄る(忍び寄る) 趣味:刺繍、編み物 服装:タートルネックの上にフードマント、口布。 右目の隠れた混じりのない純黒の髪。 藍鉄の双眸に、褐色の肌。 誰に対しても常に一歩線を引いた距離で、固い敬語で人を選ばず淡々と話す。 独り言、ひとりの際は「〜だ、だろう」で、やはり淡々と話す。 争いごとの全てを好まないが、仕える主の為となるなら容赦はしない。 大体いつも、気難しげな表情をしているが、これは彼にとっての「無表情」。 機嫌が悪いわけではない。 (アドリブ等は歓迎致します)

解説 Explan

●目的
 休日を思い思いに満喫しましょう。
 みんなで遊ぶも良し、ひとりで学園を散策するもよし、部屋でぬくぬくするもよし。
 自由に行動してください。
 夜には学園長主催の『かまくらDE鍋パーティー』が開催されます。

●状況
 夜半に雪が降ったため、とても冷え込んでいます。
 現在は雪は止み、わずかに晴れ間がのぞいています。雪を溶かすほどではありません。
 箒の貸し出しやグリフォン便も通常営業です。
 雪が降っているのは学園とレゼントのみのようです。

●注意点
 ・世界観にそぐわない行動、公序良俗に反する行動などを除いて、基本的には自由に行動できます。
 ・自由行動のできる時間は朝9時~18時までです。18時以降は鍋パーティーのため、生徒も先生もグラウンドに集まります。
 ・鍋パーティーには好きな食材を持ってきてもかまいません。参加不参加も自由です。
 ・物語の性質上、アドリブが多く入ります。どうしてもNGな行為がある場合はプラン等で注意をお願いします。

●何をするか迷ったら
 こんな光景を学園で見かけました。声をかけてみてください。
 ・グランドには雪合戦をする生徒と、雪だるまをつくる生徒がいます。
 ・先生が雪かきを手伝ってくれる人を募集しているみたいです。
 ・校舎の中ではお茶会が開かれています。温かい物を持ち寄って、雪にまつわる思い出話をしているみたいです。
 ・湖に氷がはっています。スケート靴は街の人が貸し出してくれるようです。
 ・夜の鍋パーティーにむけて、有志の生徒がかまくら作りに励んでいます。


作者コメント Comment
 雪が降るとたいてい滑って転ぶ、海無鈴河です。
 いつも課題に授業にと忙しいみなさんも、休日ぐらいのんびりしたっていいじゃない。というか生徒の皆さんって、休日はどう過ごしているんでしょうか。もしかしたら意外な素顔が見られたり……見られなかったり。
 そのあたりも自由に想像して、楽しんでもらえればうれしいです!


個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:64 = 54全体 + 10個別
獲得報酬:2304 = 1920全体 + 384個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
私は日中湖でワカサギ釣りをいたしますわ。スケートを楽しんでいる方もいらっしゃいますから邪魔にならないよう橋の方で氷に穴を開けワカサギ釣りを楽しみます

充分釣り上げたら、残りの時間は子供達と一緒にスケートを楽しみますわ。最初は手を持ってゆっくり滑ってあげて、慣れてきたら傍らでフォローしつつ一人で滑れるよう優しく教えてあげますわね

その後釣ったワカサギを持って学園へ戻り、鍋パーティ用の食材としてワカサギをミンチにし、そこへイカやホタテを混ぜ塩胡椒で味付けしたつみれを作りますわ

他にどんな食材が揃うか解りませんが鍋とは勝負。いかな食材とて一度箸をつけたら必ず食す。この勝負、決して負ける訳には参りませんわ!

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:64 = 54全体 + 10個別
獲得報酬:2304 = 1920全体 + 384個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
…さむ。
ザコちゃん寒いの苦手。好きなお人のが珍し貴重いかもだけどさぁ。
思い出しちゃうから、やな事。…やな時期?やな空気?なんせよ好きじゃあないから。

なーんかゆーしゃ様達がぱたついたりお鍋するだとかも聞こえてきたけど、別に面白い食材があるでもなさそーだし、でも部屋でなんかするのも面白くないし。
なんか面白いもん探すほどの頭も回らないし。

…グリフォン便、今日も飛んでんだ。
寒い中人種の利便性の都合で振り回されてんだねぇ、わーわー、たいへぇん。
課題でもちょこちょこ見かけもふりしてっけど、羽毛ふかふかだったよね、あの子達。

…暖を取りにもふりにいこっかな。
出ずっぱりで出会えないかもだけど、それはそれとして。

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:64 = 54全体 + 10個別
獲得報酬:2304 = 1920全体 + 384個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
雪が積もってるけど、雪かき、かまくら作りに参加するのはしんどいってことで
有志を集めて外で頑張ってるものに対してあったかい飲み物でも作って振る舞おうか
予算?メメたんに相談だ
断られてたら食堂のおばちゃんらに相談だ
予算があったらお汁粉、ココア辺り予算がなかったら無料のお茶を作ってくか・・・

これを飲んであったまったらまた頑張ってくれ

鍋パーティーには参加する
真鱈の鍋が食べたいんで確保出来ればいいんだが・・・
確保できなかったとしてもメジャーな具材だし誰かしら持ってきてるだろ
御伴侶にあずかろう

アドリブ大歓迎だ

エトワール・フィデール 個人成績:

獲得経験:64 = 54全体 + 10個別
獲得報酬:2304 = 1920全体 + 384個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
休日をのんびりと過ごす

【行動】
編みかけのマフラーを完成させたいです。
編み終わったらどなたかの作った雪だるまに着けて差し上げようかしら。でも、寒さに震えている方が居たらそちらが優先ですね
鍋にも参加する予定。

【セリフ】
ふふ、何だか懐かしい。院にいた頃も下の子たちにこうしてマフラーやセーターを編みましたね

【アドリブ】
B

四季杜・カガヤキ 個人成績:

獲得経験:64 = 54全体 + 10個別
獲得報酬:2304 = 1920全体 + 384個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
部屋でぼんやりしているのは、勿体ない、か…?
 編みかけのてぶくろを視界に映しつつ、こてりと首を傾げ悩み
 書きかけの手紙の続きを書くことも考えたが、
筆がのらないな…ぼんやりとした感情のまま主に送るなど、失礼というもの

 部屋の外へ出て、学園内へ
 声をかけられ振り返ると、先生に「雪かきを手伝ってくれないか」と言われる
雪かき…でございますか?
いえ、私でよろしいのであれば喜んで
特に予定もございませんのでお任せを

 主の元へいる頃、雪が積もったらお嬢と雪かきをしていたなあと思いながら取り組む
ふう…なかなか重労働だな
だが、しっかりせねば

先生、このような感じでよろしいでしょうか
では、他にこの私にできることはございますか?

リザルト Result

●朱璃の休日 ~昼~
 【朱璃・拝】(しゅり おがみ)が朝起きると、自室のドアの隙間にビラが挟み込まれていた。
「『かまくらDE鍋パーティー』。素敵ですわね」
 でも『かまくら』とは一体どういうことだろう。
 小首をかしげつつ、窓の外に視線を向ける。なるほど、と声がもれた。
「今日は冷えると思ったら雪が降っておりましたのね」
 外の冷気で曇った窓をちょっとだけ指先で拭い、目に入ったのは真っ白な世界。
 普段とは少し違う光景を見て、朱璃の頭にあるアイディアが浮かぶ。
「そうですわ。夜に鍋パーティーもあるのなら……湖に行ってみましょう」
 さっそく朱璃は支度を整えると、意気揚々と寮を出た。
 
 学園生、そしてレゼント住民の憩いの場であるスペル湖は今日も多くの人で賑わっていた。
 朱璃は氷の張った湖に足を踏み入れると、端の方にスペースを確保した。
「お、お嬢ちゃんもかい?」
「はい、せっかくですので」
「なら、これ使いな」
 たまたま隣同士になった住民の男性に道具を借りると、朱璃は器用に氷に穴をあけた。
 そして、穴の中に釣り糸を垂らす。
(たくさん釣れるといいのですけれど……)
 朱璃のアイディアとは、ワカサギ釣り。この季節しか楽しめない上に、今夜の鍋の具材にもちょうどいい。まさに今日にぴったりの楽しみ方だ。
「っ……来ましたわね!」
 くい、と糸の先が引かれる感覚があった。素早く、しかし慎重に糸を持ち上げる。
「まずは1匹、ですわね」
 手のひらほどの小さな魚が水の中から姿を現す。それを外して、また糸を垂らす。
 淡々と、のんびりとその行為を繰り返す。
 穏やかな天気と、街の人々の声。日の光を受けキラキラときらめく氷。そのまぶしさに目を細めつつ、朱璃はワカサギ釣りを楽しんだ。
 
「……このくらいあれば十分ですわね」
 獲りすぎは良くない。
 ということで、必要量を確保した朱璃は一度湖岸へと戻った。
 荷物をまとめてふと辺りを見回せば、街の人たちはスケートを楽しんでいる。
 その中に。
「うわぁっ!」
「あははっ。お兄ちゃんまた転んだ!」
「う、うるさいなぁ」
 ベージュのマフラーを巻いた少女と尻餅をついた少年――幼い兄妹がいた。
(男の子の方はスケートが得意ではないのでしょうか)
 朱璃はスケート靴を借りると、2人の元へ近づいた。
「おふたりで来たのですか?」
 話しかけると、少女がうん、とうなずく。
「わたし、お兄ちゃんの練習に付き合ってあげてるの。好きな子にカッコいいところ見せてあげたいんだってー」
「お、おまえ……!」
 少年の頬が紅潮する。それでも彼はうつむきつつ、小さくうなずいた。
 朱璃はふふ、と微笑むと少年と視線をあわせた。
「よかったらお姉さんが教えてあげますわ」
「……いいんですか?」
「ええ! これでも昔はよく遊んでいましたのよ♪」
 まだ故郷の集落にいた頃、よく兄や友人の少女と共にスケートで遊んだ。
 もう兄と一緒に、3人で過ごす光景は戻ってこない。でも、その時の思い出が今につながっている。
 少しだけ感傷に浸りながら、朱璃は少年の手を取った。
「さあ、最初はゆっくり。私が支えますから、焦らず滑りましょう」

「お姉さん、ありがとう!」
「またねー!」
 夕方。元気よく駆けていく兄妹を見送ってから、朱璃は学園へと足を向けた。
 黒髪のドラゴニアが教師となにやら話しているのを横目で見つつ、目指すは調理室。
「さて……やりますわよ」
 まずは先ほど釣ったワカサギをミンチに。少し粗めにしても食感が変わって面白いが、今回は無難にしっかりと身を潰す。
 そこに途中で買ってきたイカとホタテ、塩コショウを振って混ぜる。
(これを鍋に入れたら……間違いなく美味しくなりますわ♪)
 手で一口大にちぎりながら、朱璃はぐつぐつと煮える黄金色の出汁に思いを馳せる。
 グラウンドからは徐々に生徒たちの声が聞こえるようになってきた。

●チョウザの休日 ~昼~
「……さむ」
 寮から出た【チョウザ・コナミ】は思わずそう声に出した。
(寒いの苦手なんだよねぇ。好きなお人のが珍し貴重いかもだけどさぁ)
 肌に刺さるような冷気は色々なことをチョウザに思い出させようとする。
 嫌なこと。あるいは嫌な時期。あるいは空気。
 なんにせよ、チョウザは寒さは好きではなかった。
「さて、なにしよっかねぇ」
 鍋パーティーだとか、雪遊びだとか、寮で色んな噂を聞いたものの、どれにもチョウザの食指は動かない。かといって部屋にいるのも面白くない。
 と思って外に出てきたはいいのだが、今のところこれと言ってなにもないのが現状。
 見覚えのある銀髪の少女とすれ違いつつ、意味もなく街中をぶらぶらと歩いていると頭上を大きな影が通り過ぎた。
 見上げれば翼を広げたグリフォンが空を飛んでいる。
「……グリフォン便、今日も飛んでんだ」
 学園内ではすっかりおなじみの光景。この雪でも通常営業なのは空を飛んでいるからこそ。
(寒い中人種の利便性の都合で振り回されてんだねぇ、わーわー、たいへぇん)
 とはいえ、チョウザからすればそんな風に思ってしまう。
 以前飛べないグリフォンのために奔走したり、『羽毛』と名付けた子と共に復興支援をしたこともあり、グリフォンはチョウザにも馴染みがある生き物だ。
(羽毛ふかふかだったよねぇ。あの子達)
 その時の触感を思い出し、チョウザはそうだ、とグリフォン便乗り場の方へ足を向けた。
「……暖を取りにもふりにいこっかな」

「代わりに掃除をしてくれるならいいよ」
 と、係員が提示した交換条件を二つ返事で了承。
 チョウザは熊手やカゴといった掃除道具を借りて厩舎に入った。
 中では数体のグリフォンが丸まって眠っていた。
「クゥ?」
 突然の人の気配に驚き、グリフォンたちは一斉にチョウザへと視線を向けた。
「いーよー、そのまま寝てて。ザコちゃん好きにしてるから。あ、でも、ちょっともふらせてくれると嬉しみ」
「クゥ」
 肯定と思われる鳴き声をあげ、グリフォンたちは再び丸まって目を閉じる。
 チョウザは掃除道具を隅に放り出すと、そのうちの1体の元に寄っていった。
 他のグリフォンたちよりも体の大きな1体。閉じていた目を細くひらくと、足元に寄ってきたチョウザに視線をちらりとむけた。その様子はどことなく貫禄を感じさせる。
「もふっていい?」
「クゥ」
 チョウザはもう一度許可を得ると、彼の羽毛にぼふっと体をうずめた。
「あー、ぬくい」
 羽毛の中に埋もれていると、街の喧騒は遠く離れて行く。
 話しかけてくる人の声、どこから聞こえてくる風の音。全部全部遠くなる。
 会話をする必要なんてない。チョウザはこの静かな空間を満喫していた。
 羽を優しくなでてやれば、グリフォンは気持ちよさそうに鳴き声を漏らす。
 時折体を揺らすが、嫌がることもなく大人しく眠っていた。
(んー、意志疎通できるわけじゃないし。ホントはどーだか分からないけど)
 暴れてはいないし、良しということにしておこう。
 また羽を撫でてやりながら、チョウザは気の向くままに思考を巡らせる。
(鳴き声の翻訳とかできんのかね? できたらおもしろそーだけど、たぶんないでしょ)
 起き上がると、今度は他のグリフォンの元へ。
 また許可を取ると、ぼふりと羽毛の中にダイブ。
「こっちもふかふか。楽しい」
 途中、何体かのグリフォンが出勤するのを見送りつつ、チョウザは色んな大きさ、羽の色、性格のグリフォンと触れ合った。

「んー、そろそろお掃除しよっかな」
 しばらくして、チョウザはむくりと体を起こした。
 羽を貸してくれたグリフォンたちに礼を言い、放り出した掃除道具の元へ。
 係員の提示してきた条件をのんだのは、なにも厩舎に入るためだけではない。
 もう1つの目的――羽毛集めを果たすため。
「おー、いっぱい落ちてる」
 手始めに出勤中のグリフォンの寝床を覗いてみると、真っ白な羽が大量に散らばっていた。
 熊手を使ってそれらをかき集め、1か所山にしてまとめる。
 こんもりと積みあがった羽毛は、それだけでも顔をうずめたくなるような魅力を放っていた。
 ふわふわで軽い羽毛は少しの風圧で舞い上がる。厩舎の入り口が開いた拍子に飛んでいかないように、風のしのげそうな場所にまとめて置いておいた。
 次にまだ厩舎にいるグリフォンたちの元へ向かうと。
「ねーねー。ちょっとだけ羽毛もらっていーい?」
 そう声をかけてみる。まあ、実際通じるかは分からないのだが。
「クゥ……クゥ!」
 グリフォンたちは少し考えるような素振りを見せたが、一鳴きすると体を少しずらしてスペースを空けてくれた。
「ありがと」
 手早く熊手で羽をかき集め、カゴに乗せて離れた場所へと運ぶ。
 そんな風に作業を繰り返し、厩舎の中はすっかり綺麗になった。
 
「ふふ、たいりょー」
 夕方、チョウザは大きな袋を背負い寮へと戻った。
 寮の入り口で、これまた見覚えのある修道服の少女とすれ違う。
(みんなお鍋しに行くんかな。……まあ、ザコちゃんは『コレ』をどーにかするんだけど)
 チョウザは満足そうな足取りで、自室へと戻った。

●貴人の休日 ~昼~ 
(あれって地味にしんどいんだよなぁ……)
 雪かきをしている教師陣と、かまくらを作る有志の生徒たち。
 通りがけに彼らを見かけ【仁和・貴人】(にわ たかと)はそんなことを思った。
 学園長【メメ・メメル】主催の鍋パーティー、その準備を手伝ってくれる有志を求む。
 そんなお触れが出ているのは知っていた。しかし。
「メメたーん。オレ、働きたくないんだ」
 貴人の正直すぎる声は誰にも聞かれることなく、冷たい空気に溶けた。
 とはいえ、貴重な休日の奉仕活動。実績を作ればなにかしら学園から特典ぐらい付くんじゃないのか。成績とか成績とか。
 そんな目論見もあるわけで。
「あったかい飲み物でも差し入れるか」
 そんなことを思いつき、貴人はとりあえず校舎の中へと足を向ける。
 まず向かった先は購買。なにかを振舞うにしても、材料を探さねば。
 食品を扱う一角に行き、棚を見つめ……。
(…………メメたん、スポンサーになってくださいよ。作った飲み物持っていくから!)
 思っているよりも予算がかかることに気がついた。
 ちょっと、いや割とポケットマネーから出すのは……キツイ。
 諦めて購買を出て、今度は食堂に向かう。
(おばちゃんたちに相談だ。なるべく予算がかからない、ちょうどいい差し入れ。プロならなにか知っているだろう)
 道中、学園長に会えたらそれはそれでラッキー。交渉してみることにしよう。
 そんな計画を立て、廊下を進む。
「失礼しまーす」
 食堂の厨房へと足を踏み入れると――。
「来たね、坊や」
 なぜかおばちゃんたちが仁王立ちで貴人を待ち構えていた。
(え、なにこの迫力。ちょっと怖いぞ!)
「話は『M』から聞いたよ。材料費は預かってるから安心しな」
「は、はぁ……?」
 いや、何の話だ。
 そう尋ねようとして、貴人は仮面の奥ではっと目を見開いた。
(もしや、Mって……メメたんか!?)
 なんでオレの思考読み取ってんの。結局接触できてなかったよね!?
 SSM! マジSSM(そこまでにしておけよメメたん)!
 色々と疑問が湧きあがり、貴人は思わず自身の腕をさすった。
 なんだろう……急に背筋が寒くなった気がした。
「で、何を作りたいんだい? 協力は惜しまないよ」
 相変わらずの仁王立ちスタイルでおばちゃんが尋ねてきた。
「え、あ。ええと、お汁粉、とか。……っていうかいつまでそのスタイルのままなんだ?」

 おばちゃんたちの手を借りお汁粉を作り上げた貴人は、熱々の鍋ごとグラウンドへと向かった。
「差し入れでーす」
 声を張り上げると、せっせとかまくらを作っていた生徒たちが何事かと集まり始めた。
 貴人は自ら器にお汁粉をよそうと、片っぱしから手渡していく。
「これを飲んであったまったらまた頑張ってくれ」
 そうねぎらうことも忘れない。
「あったけぇ……」
「生き返る……」
「幸せの味がする……」
 冷え切った体に染みわたる熱々のお汁粉。
 その美味しさになぜか涙を流す生徒までいる始末。
(そこまで辛かったのか、かまくら制作)
 貴人は改めて自分の選択に感謝した。
 たくさん作ったお汁粉は全員に行き渡ってもなお余っていた。
 それならば、と今度は教員たちの元へと足を向ける。
「差し入れでーす」
「おっ、美味そうだなぁ」
 さっきのように器によそい、片っぱしから手渡していく。
 その中には生徒の姿も混じっていた。
「お疲れ様」
 ドラゴニアの男子生徒にそう言いながらお汁粉を渡せば、彼はありがとうございます、と丁寧に礼を言った。
 
 すっかり鍋は空っぽになった。
 日は少しずつ傾き、まもなく夕方を迎えようとしていた。
 食堂へと戻りながら、貴人は鍋パーティーへと想いを馳せる。
「……真鱈が食べたい」
 今日はそういう気分なのだ。
(さっさと鍋を返して……今から調達できるか?)
 そんな算段を立て、貴人は食堂へと向かう足を早めた。

●エトワールの休日 ~昼~
 ベージュの毛糸に、愛用の編み棒。それに、編みかけのマフラー。
 それらを携え、【エトワール・フィデール】は寮の自室から出た。
「子供は元気ですね」
 外から聞こえてくる街の子供たちのはしゃぎ声に、彼女の頬もつい緩む。
 窓の外に視線を移せば、パン屋の主人が呼び込みをし、道行く人は少し寒そうに早足で歩く。派手な髪色の生徒がひとり、グリフォン便の乗り場へとのんびり歩いて行くのも見えた。
(これが終わったら、私も出かけてみてもいいかもしれませんね。たしか、夜には鍋パーティーも開催されると言いますし)
 手元の毛糸に目を落とし、エトワールは作業場所を求めて寮内を歩き回った。

 たどり着いた先は寮の談話室。自習用の机と、リラックスできるようなソファ。暖炉が置かれた温かな部屋は、生徒たちの共用スペースで、今も数人の生徒が思い思いにくつろいでいた。
 エトワールは隅の方に腰を落ち着けると、さっそくマフラーを編み始めた。
 パチパチ、と暖炉の薪が爆ぜる音を背景に、エトワールは手慣れた様子で編み棒を操る。
 1本ずつ、淡い色の毛糸を紡いでいけば、自分の思い出も記憶の中から紡がれていく。
 ふふ、と小さく笑みが零れ落ちた。
(なんだか懐かしい。院にいた頃も、下の子たちにこうしてマフラーやセータを編みましたね)
 あの子たちは元気にしているだろうか。
 目を閉じれば鮮やかに思い出せる、自分を呼ぶ子供たちの声。
 それを懐かしみながらエトワールは丁寧にマフラーを編み上げた。

 少しだけ休憩をはさみ、エトワールは学園へと足を向けた。
 先ほど編み上げたマフラーもせっかくだから、と持ち出した。
(どなたかの作った雪だるまに着けて差し上げようかしら)
 甘い匂いが漂う校舎の横を通り抜け、エトワールはグラウンドまでやってきた。
 雪合戦に興じる生徒たちを見守るように、2体の雪だるまが寄り添って佇んでいる。
 手元のマフラーは1つ。寄り添う2体の両方を巻けるほどの長さはない。
「かといって片方だけ、というのも悲しいですし……」
 さてどうしたものか、とエトワールが眉尻を下げた。その時。
「うわぁぁぁぁん!」
 子供の泣き声が聞こえ、エトワールの意識はそちらに向いた。
 見れば遊びに来たのか、街の子らしき少女が涙を流している。
「わたしのマフラー……」
「泣くなってば。たぶんどこかに落ちてるから、探してみようぜ」
 少女の手をつなぐ少年は兄だろうか。困ったように彼女をなだめていた。
「どうされましたか?」
 エトワールは2人に歩み寄ると、膝を折り視線を合わせる。
「わたしのマフラー、無くなっちゃったの」
「たぶんどこかで落としたんです。さっきから探してるんですけど、見つからなくて」
「それは可哀そうに。学園内で失くしたのならば、受付に届いているかもしれませんが……」
 エトワールが言うと、少年が首を横に振る。すでに空振りだったらしい。
 少女の首元は白い肌があらわになっていて寒そうに見える。
(そうだ。これを……)
 エトワールは少女の方に向き直ると、手元のマフラーを首に巻いてやった。
「そのままでは寒いですから、これを使ってください。私も一緒に探します」
「お姉ちゃん……いいの?」
「はい。使っていただけると嬉しいです」
「ありがとう……!」
 ぱあ、と少女の顔に笑みが広がる。エトワールはほっと息を吐いた。
 そのあと、3人で周囲を探し、途中で会った生徒たちにも協力を頼んで、学園中を探し回った。
 そして。
「さっき受付に子供用のマフラー、届いたってよ!」
 生徒の1人がそんな知らせを持ってきた。
「お姉ちゃん、マフラー貸してくれてありがとう!」
 少女は満面の笑みで、エトワールのマフラーを差し出したが。
「そのまま持っていてください。もしご不要でしたら、雪だるまにでも着けてあげてくださると嬉しいです」
 エトワールはそう答え、少女はまた嬉しそうにうなずいた。
 兄妹は何度もエトワールに礼を言うと、仲良く手をつないで駆けていった。
(無事に見つかって良かった)
 達成感で胸を満たし、エトワールは幼い背中に微笑みを向けた。

●カガヤキの休日 ~昼~
 【四季杜・カガヤキ】(しきもり かがやき)は自室で悩んでいた。
 今、目の前にあるもの。
 編みかけの手袋と、書きかけの手紙。
 やりかけならば片付けてしまえばよいのだが、彼はそれらを見つめ首をこてりと傾げる。
(手紙は筆が乗らないな……こんなぼんやりとした感情のまま主に送るなど、失礼というもの)
 手袋だって同じこと。ぼんやりとしたまま良い物が編みあがるとも思えない。
 ……それでは今日一日、どう過ごす?
(特にすることもない……何をすればよいのか)
 窓の外の銀世界に視線を移す。人々の生活は今日もいつも通り営まれている。
 荷物を持ってどこかへと歩いていく銀髪のルネサンスの姿が目に入り、カガヤキはふと思いついた。
「私も学園内を散策すれば何か見つかるやもしれません、参りましょう」

 雪を踏みしめ、第一校舎の近くまで足を伸ばすと。
「そこの君!」
「はい?」
 声をかけられ振り返ると、男性教師の姿があった。
「君、今時間ある!?」
 なぜ、そんな必死の形相で。内心疑問を抱きつつも、カガヤキは正直に答えた。
「はい、特に予定はございませんが」
「なら、雪かきを手伝ってくれないか!?」
「雪かき……でございますか?」
 話を聞けば、学園長の命令により、教師総出で学園中の雪かきをしているらしい。
 男性教師の手に握られた雪かき用のスコップをちらりと見る。
「魔法を使えばいいのでは?」
 カガヤキが抱いたのは単純な疑問。魔法学園なのだから魔法を使えばそこまで苦労はしないはず。
 しかし、教師は首を横に振った。
「全くその通りなんだけど、学園長が『魔法学園の教師たるもの、魔法を使えない人の苦労も知っておくべきなんだゾ☆』なんてマトモなこと言い出して……確かにその通りだし、頷くしかないけど……けど!」
 辛いんだよぉぉぉぉ。
 教師の悲痛な叫びは雪の中へと吸い込まれていった。
「やっぱり肉体労働はNG? 今まで何人かに声かけたんだけど、軒並み断られちゃって」
 しかしカガヤキはそんなことはない、と首を横に振った。
「いえ、私でよろしいのであれば喜んでお手伝いさせていただきます。お任せください」

 スコップの先を雪に埋め、ぐっと力を入れて持ち上げる。
 持ち上げた雪は脇に固める。
 それをひたすら繰り返す。
 そうすると真っ白の中に一本、道ができる。
 雪かきのやり方はよく知っている。
(……雪が積もったとき、お嬢と一緒にやっていたからな)
 カガヤキの頭をかすめたのは、かつて自分の守っていた娘の姿だった。
 自分に役目と帰る場所を与えてくれた、大切な主とその娘。
「ふう……」
 吐いた息は白い。今日も寒さは厳しかった。
 しかし、カガヤキの心はほのかに温かさを感じていた。それは体を動かしているせいか、それとも――彼らを思いだしたせいか。
「さて、もう一息ですね」
 スコップを握る手に力を込める。
(なかなか重労働だな……だが、しっかりせねば)
 途中、仮面の少年からの差し入れをありがたくもらいつつ、カガヤキは教師とともに雪かきを続けた。

「先生、このような感じでよろしいでしょうか」
 あらかた雪かきを終えると、夕方近くになっていた。
 カガヤキが声をかけると、教師は満面の笑みを浮かべた。
「完璧だよ! いやぁ、本当に助かった。ありがとうな!」
「それはなによりでございます。では、他にこの私にできることはございますか?」
「いや、もう十分だよ。あ、そうだ。もし今日の夜空いてるなら鍋パーティーに出てみないか?」
「鍋パーティー、でございますか?」
 教師はカガヤキにビラを手渡した。『学園長主催・鍋パーティー開催!』と大きく文字が躍っている。
「もしよかったら顔を出してくれ。人が多い方が楽しくなるからな」
 カガヤキはしばし考えたが。
(せっかくの機会だ。参加してみるのも悪くはないか)
 そう結論付けて、教師にうなずいた。
「それでは、具材を調達してから参ります」

●それぞれの休日 ~夜~
 学園長主催の鍋パーティー。
 会場であるグラウンドは大きく2つに区分けされていた。
 一方はおいしそうな匂いが漂う『天国鍋区域』。
 そしてもう一方は、紫だったり黒だったり、およそ食品から出る色ではない湯気が漂う『地獄鍋区域』。
 この地獄鍋区域は今、緊張の一瞬を迎えようとしていた。

「……おい嘘だろ」
「誰だよ、こんな鍋作った奴!」
 生徒たちの戦慄の声。
 それを耳にした貴人は思わずその場で足を止めた。
「うっ……」
 顔をしかめる。仮面越しにも漂ってくる甘くて酸っぱいこの香り。
 何度となく生徒たちを苦しめてきたこの香りは……。
「ほしぶどう……なべ……投、入……? ウッ、アタマガァ!」
 よみがえるトラウマ。貴人はたまらず絶叫した。
「な、なにごとですの!?」
 そこに騒ぎを聞きつけた朱璃がひょこりと顔を出す。
「って、なんてものを作ってますの……!」
 彼女もまた、うっと眉をひそめた。
 あろうことか、干しぶどうが煮込まれていた。しかもぶどうジュースで。
 ぶどうinぶどう。まさにぶどうの暴力。
 と、そこに。
「ん~いい匂いがするなぁ~。干しぶどうの芳醇な香りだよ~……」
 ふらふらっと姿を現したのはお馴染み【コルネ・ワルフルド】。
 彼女はあっけにとられる生徒たちを尻目に、鍋の前に陣取ると。
「いっただきまーす!」
 勢いよく鍋をかき込んだ。いや、飲んだ。
「んー美味しい! やっぱ干しぶどう鍋サイコー!」
 えぇ、と若干引き気味の生徒たち。そんな反応に気づかないのか、コルネは朱璃に向かってはい、と器を差し出した。
「おいしーよ? 食べてみたら?」
「えっ!?」
 今日の先生は機嫌が良いらしい。目を丸くする朱璃。しかしすぐに思いなおす。
「鍋とは勝負。いかな食材とて一度箸をつけたら必ず食す。この勝負、決して負ける訳には参りませんわ!」
「いや、なんか違くないかソレ」
 貴人のツッコミも耳に入らない。朱璃は覚悟を決めて器に口をつけた。

「不味くはなかったんですわよ。でも、鍋とはどうしても思えなくて……」
「だろうな。実質ただの粒入りぶどうジュースなんだから。鍋ではないだろうが」
 朱璃と貴人は若干疲れた顔で天国鍋区域に戻ってきた。
「普通の鍋を食べよう。そうしよう」
「ですわね。私、ワカサギでつみれを作ってきましたわ」
「オレは真鱈を仕入れてきた。さしずめ魚介鍋ってところか」
 さっそく2人は空いているかまくらを見つけると、周囲の生徒数名も巻き込んで準備を始める。
 鍋が煮えると、かまくらの中は魚介の出汁の香りに満たされた。
 さっそく一口、朱璃は自ら作ったつみれを食す。ふわふわの食感とほどよい塩気が舌を刺激した。
「んんっ。温かくて美味しいですわ。やはり寒い日は鍋に限りますわね♪」
 

(今日は良い一日でしたわ)
 お腹いっぱい鍋を食べ、朱璃は満足気に息をついた。
(そういえば、あの男の子はカッコいいところを見せられたでしょうか)
 昼間の微笑ましい兄妹を思い出し、ふふ、と朱璃は1人笑みを浮かべる。
 新しい出会いと思い出とともに、朱璃の休日は賑やかに過ぎていった。
 

(あ、そういやメメたんに差し入れしてないな)
 はた、と貴人は思い出した。
(やばい。これは怒られるのでは……?)
 不安に駆られ思わず左右を見回すと、彼の目の前にふわりと手紙が舞い落ちてきた。
 拾って開けてみると。
『今回だけは許してあげるゾ☆ ただし、真鱈はぜーんぶもらったのだ!』
 鍋をのぞけば、真鱈だけがすっかり消え去っていて。
「……いつの間に」
 メメたん怖い。少し背中がぞっとなりつつ、貴人の休日は過ぎていった。


 鍋パーティーの会場は冬とは思えない熱気に包まれていた。
 ロウソクの淡い光が、鍋から立ち上る湯気を照らす。そこかしこから良い匂いが漂ってきていた。
 さて、どこに入ろうかとカガヤキが思案していると。
「よろしければ、こちらにどうぞ」
 修道服をまとった少女――エトワールがかまくらの中から声をかけてきた。他にも数人の生徒が鍋を一緒に囲んでいる。
「まだ空きがありますので」
 中を見れば、たしかにもうひとり分くらいのスペースはありそうだ。
「では、お言葉に甘えて失礼いたします」
 少しだけ奥につめてもらい、空いたスペースに体を滑り込ませる。
 若干狭いが同じ鍋をつつくには丁度良いかもしれない。
「私からはこちらを。どうぞお召し上がりください」
 カガヤキは持参した野菜を取り出した。おお、と学生の中から声があがる。
 どうやら他の学生たちは肉ばかり用意してしまったらしい。エトワールの用意したキノコと豆腐が申し訳程度に隅っこの方に鎮座していた。
「うっかり肉鍋になるところだった」
「マジ助かるよ」
「それはなによりでございます」
「では、さっそく入れてしまいますね」
 エトワールがふふ、と微笑み、野菜を受け取ると手際よく鍋へと入れていった。
「そういえば、私、皆さまとご一緒するのは初めてです」
「ああ、たしかに。自己紹介もまだでしたね」
 エトワールが思いつき、それもそうだとカガヤキが同意。自己紹介や雑談なんかを楽しみながら、鍋が煮えるのを待つ。
 やがて、蒸気が蓋を揺らし、食べごろを告げる。
「フィデール様、どうぞ」
 カガヤキは人数分を器に取り分け、手渡していった。
「ありがとうございます。カガヤキさんもしっかり食べてくださいね」
 エトワールはほほ笑んで器を受取ると、ふうふうと少し冷ましてから食べた。
「……おいしいですね」
 同じようにカガヤキも、一口出汁をのんで。
「ええ、本当に」
 いつもの気難しげな表情を少し和らげてうなずいた。


 温かな光と、湯気の向こうには同じ学園の仲間の姿。
(こうして素敵な皆様と一緒に過ごすことができること、神に感謝いたします)
 エトワールはそっと手を組むと、心の中でそうつぶやく。
 長い時を過ごした孤児院は彼女にとって無くてはならない大切な場所。
 しかし、この学園もまた彼女にとって新しい居場所になりつつあった。
(私は恵まれています……とても幸せ。だから、これからも私は愛を返し続ける)
 改めて決意をかため、エトワールの休日は穏やかに過ぎていった。


(平和、だな)
 かつては自身の手を血で染めたこともあった。
 しかし、今この平和な空間に自分自身がいる。
 種族も、得意も不得意も、思想も違う生徒たちの集まるこの空間に。
 遠くに来たな、と藍鉄の瞳が少しだけ揺れた。
(主への手紙。なかなか筆が乗らなかったが……そうだな)
 入学を勧めてくれたこと、感謝いたします。
 まずはその一言を書かなければ。
 大切な人たちに思いを馳せ、カガヤキの休日は平和に過ぎていった。


 一方、にぎやかな学園から離れ、女子寮の一室ではチョウザが1人もくもくと作業をしていた。
 厚手の布と愛用のソーイングセット。そして、取り出したるは厩舎でもらってきた大量の羽毛。
「お布団にはちょっと足りないかぁ。んじゃ、枕にしよ」
 布を器用に縫い合わせ袋にし、その中に羽を詰め込む。
 口をまた縫い合わせれば……ふかふかの枕が1つ出来上がった。
 さっそく使ってみると、ふわっとチョウザの頭は温かさに包まれる。
「ふかふか……でも本物にはかなわないかもねぇ」
 そんな風につぶやいて、チョウザの休日はのんびりと過ぎていった。

 冷たい空気を温めていく、にぎやかな街の声。
 真珠をまいたような星空が街を見守り、このなんでもない貴重な休日を彩っていた。



課題評価
課題経験:54
課題報酬:1920
なんでもない貴重な休日
執筆:海無鈴河 GM


《なんでもない貴重な休日》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2019-12-20 22:12:12
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《未来を願いし者》 エトワール・フィデール (No 2) 2019-12-20 22:21:36
ごきげんよう
教祖・聖職コースのエトワール・フィデールと申します。宜しくお願いします

私はこの機会に作りかけのマフラーを完成させようと思っています。
…どこで編むかは考え中ですが

《ゆうがく2年生》 四季杜・カガヤキ (No 3) 2019-12-23 16:28:05
皆様、初めまして。
私は黒幕・暗躍専攻、四季杜カガヤキという者でございます。
なにとぞよろしくお願い致します。

……何をするかはまだ迷っておりますが、皆様、より良い一日を。

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 4) 2019-12-25 22:23:46
魔王・覇王コースの仁和だ
よろしく

雪かきか・・・地味につらいんだよな
どうするべきか・・・

っと、プランの提出期限まであと少しだ
出し忘れの無いようにな