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【優灯】お化け盗賊をやっつけろ!


ストーリー Story

●鏡と白い何か
 秋晴れの朝。あなたは小さくあくびしつつ、洗面所に立った。
 まずは水を口に含んで、軽くすすいでから吐き出す。次に自分のコップの中に立てた歯ブラシを取り、ブラシに適量の歯磨き粉をつけて歯磨きを始めた。
 鏡に映る自分は、少し顔色が悪い。今日は空気に寒気が混じりつつあり、風邪をひきかけているのかもしれない。
 もうじき十一月で、冬の入り口に差し掛かっている。ハロウィンの時期でもあるが、どうもおかしな話をよく耳にする。多くの人が記憶を無くし、魔物の大軍を引き連れた奇妙な三人組が現れたという話だが――。
 考え事をしながら歯磨きをしていると、何の前触れもなく、パカッと鏡が開いた。
 思わず目をむいてしまう。『鏡』が扉のように開いたのだ。
 そしてその向こうには、狂気的な気配を瞳に宿した、女性教師の顔があった。

「やあ、おはよう。いい朝だなァ?」

 思わず口の中身を吹き出してしまった。この女性教師の褐色の顔にかかってしまうが、それどころじゃない!
 さらに歯磨き粉が喉に飛び込んで、ついむせて咳き込んでしまった。
 なんて朝だ!
「おおっと……顔に遠慮なくぶちまけるとは、なかなかいい素質だなァ?」
 何が!? 訳が分からないよ! と言うか分かりたくもない!!
 女性教師はこっちが咳き込むのを無視して、水場の蛇口を開けて自分の顔をさっと洗い流すと二タッと笑い、
「そんな事よりもお前に課題を与えよう。放課後に呼んでやるからな」
 一言だけ伝えると、鏡をパタンと閉じていなくなった。まるで、最初から自分しかいなかったかのようだった。
 こっちがやっと落ち着いたらこれである。女性教師が言ったことは一応理解できたが、今はそんなことを考えられなかった。
 この鏡、少し調べてみたがどうやっても開けることができなかった。念のため、接着剤を縁に塗っておこうか。

●脱力して真剣に聞いて困惑して
 そんなこんなで、例の女性教師は放課後の教室で説明を始めた。
「さて? ここ最近、ハロウィンが怖いものになっていると評判らしいなァ? その影響なのかどうか分からないが、エルメラルダで面白い話を耳にした」
 ろくでもない事のような気もするが、一応聞いておこう。
「夜間、エルメラルダ近辺の森でキャンプをしていた隊商が、奇妙な盗賊に襲われた。そいつらは何と、揃いも揃ってお化けの恰好をしていたらしい」
 何それ。
 それは確かに奇妙な盗賊というほかない。盗賊達もハロウィンを楽しむ気は……いや、それはないだろう。
「どうもこの盗賊達、巷でハロウィンが恐ろしいことになっていることに便乗して、お化けの恰好をして悪事を働くことで相手の戦意を喪失させているらしい。なかなか冗談のような話だが、これまでに二回も被害が出たそうだ。だが盗賊に襲われたものの、魔物に襲われたという報告はなかった。偶然だろうが、例の三人組の魔物はあの辺りに出没しないようだ。故に盗賊だけに専念してくれ」
 こうして話を聞く分にはまさに冗談のようにしか聞こえないが、逆に言えば例の三人組による影響がそれほどまでに大きいと考えるべきだろうか。
 何にしても、そんな卑劣な盗賊は成敗しなければならない。
「ここで注意してほしいのだが、盗賊達は奥の手として『眠りの粉』を持っている。それほど珍しい道具ではないが、簡単に手に入るものでもない。これを顔面に振り撒かれると、戦闘中だろうと簡単に眠ってしまうからしっかり対策しろよ? だが、ここにちょっと引っかかる点があってなァ……」
 するとこの女性教師は小さく眉間にしわを寄せて目を瞑りながら話し始めた。
 眠りの粉を塗されるなら、少々値は張るが購買で売られている道具で対処できるだろう。それでは駄目なのだろうか。
「そうではなくてだな、この盗賊達が使う眠りの粉で眠らされた者は、全員がとてもひどい悪夢にうなされたそうだ。悪夢の内容は様々だが、起きた時には疲労でガタガタになるほどの恐ろしい悪夢だったと証言している。一般に出回っている眠りの粉に悪夢を見せる効果はない筈なのだがな? それを確かめるためにも、奴らが持つ眠りの粉を、使われる前に一袋だけでも確保してきてくれないか?」
 やるべきことはそれほど難しくはない。だが、話が奇妙な方向に向かってきていると思った。
 ただの偶然とは思えないが、どういうことなのだろうか? 盗賊達を捕らえれば分かるのだろうか?
「お前達には、エルメラルダ行きの隊商に同行してもらう形で護衛してもらうぞ。盗賊の強さはまちまちだが、こちらの数が余程少なくない限りは苦戦することはないだろうな。だが安心するといい。【ミロワール・ド・スクレ】が盗賊達を討伐すると予告状を出したのでなァ」
 ミロ……えっ、何だって?
「大陸中の多くの悪人の悪事を暴いてきた、一定の姿を持たない正義の怪傑だ。まだ卒業はしていないが、一流の腕を持つお前達の先輩でもある。見た目はアレだが、頼りになるはずだぞ。尤も、何を目的とし、どんな姿で現れるかまでは私にも分からないがなァ」
 また話が妙な方向に進み始めた。ミロ……何とかさんは、本当に頼りにしていいのだろうか?
「今回の課題の一番の目的は、仮装盗賊の討伐だ。眠りの粉の件は、なるべくといったところだ。説明はこんなところだなァ」
 女性教師は生徒達をちらりと眺めて、そう締めくくった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2019-10-21

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2019-10-31

登場人物 5/8 Characters
《今を駆ける者》ダケン・ヴァルガー
 ルネサンス Lv15 / 魔王・覇王 Rank 1
「姓はヴァルガー、名はダケン。故郷は知れず、世間が呼ぶには流しの無頼。ま、よろしく頼むぜ」 「……って、駄犬じゃねぇ!?」 #####  狼系ルネサンス。  若い頃から正々堂々、スジを通して道理を通さぬ荒くれ者として世間様に迷惑をかけてきた年季の入った無頼。  本人は割とイケていたつもりだったが、ある時襲った貴族の娘から 『獣臭い』『薄汚い』『さっさと死んでくれないかな?』  と容赦ない口撃を浴びて脱落(リタイア)  一念発起して系統立った悪の道を修めるべく、学園の門を叩く。 ◆性格・趣味嗜好  一言で言って『アホの二枚目半』  前提知識が足りない系アホの子で脳筋単細胞。悪人ではないが、パワーオブジャスティス。  ひらめきや発想は普通にあり社交性も悪くないため、決められる場面では最高に二枚目。  いざという時以外は基本三枚目。足して二で割って二枚目半。  脱ダサ悪党を目指して清潔感は増したが、服装センスが致命的でやっぱりダサ悪党。   ◆外見補足  顔立ちは濃いが造りは悪くなく、黙って無難な服を着ればワイルド系イケメンおっちゃん。  服装センスの悪さは『イモっぽい』『田舎もの』といった類。  気合が入ると脱いじゃう系の人。
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《ゆうがく2年生》リベール・ド・ヴァンセ
 ヒューマン Lv11 / 勇者・英雄 Rank 1
リベール・ド・ヴァンセ。 聞き取り辛いなら名札か手帳を読みなさい。 ……わざわざ言うべきことはないの。
《ゆうがく2年生》ヒューズ・トゥエルプ
 ヒューマン Lv21 / 黒幕・暗躍 Rank 1
(未設定)

解説 Explan

 隊商の護衛として同行し、お化けに扮した仮装盗賊達を倒してください。
 歩きではなく馬車を使って行きますので、歩き疲れるといった心配はいりません。
 盗賊がよく現れるのは、左右を森に挟まれた少し薄暗い街道で、時刻は真夜中となります。キャンプで気が緩んだ時を狙うようです。彼らが持つ武器はそれほどいいものではなく、戦闘に慣れていない新入生でも十分無力化が可能です。
 唯一注意すべきは、『眠りの粉』による睡眠攻撃です。袋に入った粉を顔に振り撒いてきます。アイテムを準備するなど、何かしら対策を講じる必要があるでしょう。
 また、【ミロワール・ド・スクレ】があるタイミングで登場するようです。経験の低い生徒が多かったり、人手が足りない場合に協力してくれるようです。彼女は彼女で何かしら目的を持っているようですが、それを明かしてくれることはないでしょう。唯、おちょくって彼女を怒らせると、酷い目に遭うかもしれません?

 補足説明は以上です。
 それでは、後悔なき最善の選択を。


作者コメント Comment
 ずる賢い連中による卑劣な悪事のつもりで書いたはずが、やっぱり間抜けな感じがしてならないです。
 尚、ミロワール・ド・スクレという人物は、拙作の『正義の怪傑参上!』にて登場しています。


個人成績表 Report
ダケン・ヴァルガー 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【アクションプラン】
●方針
盗賊討伐とスクレへの協力。
(対立した場合、スクレの方優先。怒られても)

●事前準備
悪夢を見せる眠りの粉について『事前調査』。
何か伝承や由来はないか…スクレが仕掛けそうなタイミングの『推測』にもつなげられれば

●行動
皆と協力して小隊を偽装、油断した不利をして盗賊を釣って迎撃。
夜戦には『暗視順応』、眠りの粉には戦闘直前に『珈琲の葉』を噛んで対抗。
初手は『楽園楽土』で攪乱して退路の遮断。可能ならスクレの狙いと思しき『眠りの粉』奪取を試みる。
スクレが仕掛けてくる/きた時は『威圧感』をかけて行動を支援。
彼女が捕まりそう、正体バレしそうな危機には最優先で援護

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
夜にばっか襲ってくる野盗、卑怯卑劣なのか戦略的なんだか。
とりま出席数犠牲仮装先輩ちょろちょろな噂ある辺り、背景見物する間もない悪人なんだろーけどさぁ。

なんせよ、お昼よりもほとんど夜に襲撃ってなら、お昼のうちに体力使い切らないほーがいーよね。
2交替か3交代かでお昼のうちに昼寝組と見張り組でくるくるしとくのが丸いでしょ。
っても流石に全員すやすやだと、逆に襲ってきそうだしね。

でもって、夜になったら全員起きとく…んだろーけど。
あっちが適度に襲いやすい感じの雰囲気出すために、わざと気抜いた風な【ハッタリ】見せとこ。役割的に囮っぽくなんかな。
【気配察知】で警戒は続けとくんだけどね。見かけだけ油断的なあれ。

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:97 = 65全体 + 32個別
獲得報酬:3000 = 2000全体 + 1000個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
眠りの粉やら噂の先輩が来るかもって話だけどとりあえずは盗賊退治の事考えておけばいいだろ

設計、防御拠点でキャンプで過ごしやすくする
ついでに鳴子と簡単なブービートラップを配置できればいいな
あぁ、罠の位置は皆に教えておくぞ
真夜中にキャンプで気が緩んだ時に襲撃してくるみたいなので皆と交代で見張り
オレの場合、数合わせみたいなもんだがいないよりましだろ

盗賊が襲ってきたら威圧感、基本鎌術で対処

眠りの粉対策として珈琲の葉をすぐに食べられるようにしておくのと眠った味方に効果あるかわかんないけどプチミドで水ぶっかける

戦闘後、眠りの粉を回収
十分な量が回収できたのなら盗賊でまだ起きてるやつに実験してみたいとこだな

リベール・ド・ヴァンセ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
夜に備えて昼に寝ておく
夜は暗視順応と動作察知で警戒し、散開して近づいてくるような集団の中央にとんでく花火を撃ち込む。
「在庫処分に付き合ってちょうだい」
これで敵が浮足立っている間にプチラドで攻撃。近づかれる前に数を減らすのも勿論だが、間接攻撃で倒せれば粉を使わせずに確保できるだろうか。
接近戦では決定打を浴びせたら、粉対策の為に盾で殴って倒す。
「(トリックオアトリートの)orとandの区別もつかないようね」
チンピラどもを片付けたら、速やかに粉を確保する。怪傑とやらが独占しないとも限らない。

ヒューズ・トゥエルプ 個人成績:

獲得経験:97 = 65全体 + 32個別
獲得報酬:3000 = 2000全体 + 1000個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
懐が寂しくてね。珈琲の葉は調達できなかった。
代わりに購買で良いもん見繕ってきた。頭装備の【汗の染みたバンダナ】
コイツを顔に巻けば、粉の吸引を防げる。
しかも、バットスメルが目鼻を駆け巡るんで眠気もすっ飛んじまうぜ。

【聴覚強化】で周辺の警戒に当たる。
花火を合図に仕掛ける。
花火の明かりで一瞬見えた敵の位置を確認。
明かりが出ないタイプ花火のだった場合は悲鳴など声で敵位置を把握。
敵陣に切り込み、手の早い【刻閃斬】を使用。
二人目に【投擲技術】で剣を投げつける。

粉攻撃には「緊急回避Lv3」【基本回避】でバックステップ。
懐から【うちわ】を取り出して、舞った粉を敵に扇ぐ。

武器を回収し、盗賊の壊滅に努めます。

リザルト Result

●人を想う
 出発前。五人が隊商の護衛に向かうより少し前の事。
「やっぱ、そう簡単にゃ見つからねぇか」
 【ダケン・ヴァルガー】は頭を荒く掻き毟りながら護衛する隊商と合流した。
 悪夢を見せる『眠りの粉』。もしそのようなものが存在するならと図書館などで調べてみたが、残念ながら期待したような情報は得られなかった。分かったのは、別の薬の材料になること、医者や薬師にのみ厳重に取引される代物であるということくらいだった。
(ま、そんなのを盗賊が持ってるってのも……あ?)
 他の四人が隊商と話し合っている中、線が細く頼りなさそうな男がダケンの元へ駆け寄ってきた。
「護衛の方ですよね! た、頼りにしてますからっ!」
「お、おぅ?」
 それだけを言うと、その男は馬車の方へ逃げるように走って、馬にブラシをかけ始めた。
(馬車の御者か? 何だったんだ……?)
 少なくとも頼られて悪い気分はしない。ダケンはすぐに四人と合流した。

 それから準備を終えた隊商は、学園からエルメラルダに向けて馬車を走らせていた。
「先に眠らせてもらうわ」
 そう言うと、【リベール・ド・ヴァンセ】は馬車に備えられた毛布にくるまって横になった。
「じゃ、オレ達も倣うか。さあ、おやすみなさいの時間だ」
「それなんかおかしくないすか?」
 同じく先に寝始めた【仁和・貴人】(にわ たかと)に、【ヒューズ・トゥエルプ】がツッコミを入れた。キメ台詞なのだから仕方がない。
 三人は晩の見張りに備えて、昼の内から寝ておくことにした。例の盗賊が襲い掛かってきた時に寝ぼけ眼で迎えるわけにはいかないし、迎え撃つ為に色々と下準備もしなければならないからだ。
「じゃ、適当な頃に起こしたげるねぇ」
 今起きているのは、ダケンと【チョウザ・コナミ】のみ。まだエルメラルダ周辺に着いていないから、例の盗賊に襲撃される心配はない。
 チョウザはとりあえず軽めの警戒をしようとしたが、ダケンの様子が少しおかしいことに気付いた。
(んーこの顔?)
 ダケンは馬車の後ろから青空を見ていた。然し空を見ているというより、その遥か先を見つめているように見えた。
 そう言えば、例の『出席数犠牲仮装先輩』と初めて会った課題でダケンと同行したはずだ。その時にダケンがどうしたのかは一応知っているが、恐らくダケンは……。
(ま、そういうのもアリ? タダのモブにはどーでもいいけど)
 チョウザには無駄な好奇心はなかった。それに野暮な興味を持つのもあまり趣味が良くない。
 今はダケンをそっとしておくことにして、周囲の様子を見ることにした。

 五人が護衛する隊商は、日が沈みかける頃にエルメラルダの森に到着した。
 街道のはずれにある、少し開けた草原地帯でキャンプし一夜を過ごす予定だが、この辺りで別の隊商が例の盗賊に襲われたという。
 逆に言えば、五人がいる今なら仮装盗賊を撃退するチャンスだと言えた。
「罠を仕掛けに行く。鳴子を仕掛けるから、あまりうろつかないように」
「んじゃ、俺も手伝っていいすか?」
 そう隊商の人に注意を呼び掛けた貴人に、ヒューズが後を追った。できる限り多く罠を設置したいところだが、最低でも手ごろな木と馬車にあったロープを繋いだ簡単な鳴子は最優先で設置する必要があった。
「火の番でもするわ」
 焚火の側に座りながら、リベールは適当な木の枝を放り込んだ。そんなリベールの所持品を入れた鞄が妙に膨らんでいた。
 尚、ダケンとチョウザは今は仮眠を取っていた。もう少ししたら三人と交替して、夜が更けてきた辺りでもう一度交代する予定だ。

 そんな五人を見つめる奇妙な視線があったが、誰もそれに気が付くことはなかった。

●夜襲
 それから夜が更け、焚火の明かりでは少し心許なくなってきた頃。
 ダケンとチョウザと再度交替し、貴人とリベールとヒューズが周囲を警戒していた。
 隊商の人々は既に眠っている、ふりをしていた。これは隊商を偽装しようというダケンの提案で、盗賊達を油断させようという考えだった。盗賊達の目に護衛の五人がどう見えるかは知る由もないが、向こうが侮ってくれるならそれに便乗するしかない。
「もう少し仕掛けたかったな」
 森の奥の暗闇を見つめながら貴人は呟いた。できる事なら逃亡ルートを想定して罠を設置して足止めをしたかったが、十分な数の罠を設置するには純粋に技能が不足していた。
 仕方なくため息を吐くしかない。
 その時、隊商の中からリーダーの男が立ち上がったことに、馬車の陰で見張っていたヒューズが気付いた。
「ん、どうしたんすか?」
「すまん、ちょっと用を足したいんだが……」
「でしたら護衛は任せてくだせぇ。耳は塞いどきますんで。鼻も摘んどきますか?」
「いやいや、そこまで気を遣うなって!」
 ヒューズの言葉に、リーダーの男は顔を引きつらせて突っぱねた。男同士でサービスが少々過剰だったかもしれない。
「何をやっているのよ……」
 そんなコントのようなやり取りを後目に、リベールは焚火に新たな木の枝を入れた。
 その仕草は少々気怠く見えたが、すぐにでも荷物鞄を開けて中身を取り出せるようにしていた。
 まさにその時だった。
『カラン! カラン! カラン!』
 周囲に鳴子の乾いた音が強く響いた。同時に、音が聞こえた方向から複数のどよめきが聞こえてきた。
 すぐにリベールが視線を動かすと、暗闇の奥にお化けやら悪魔やゴブリンに扮した奇妙な連中の姿が見えた。そんな奇妙な格好をした連中の手には、こん棒や曲刀などの武器が握られていた。仮装に似合う持ち物ではない。
「在庫処分に付き合ってちょうだい。遠慮はいらないわ」
 相手を確認したリベールは、荷物鞄の中から『とんでく花火』の束を取り出すと、焚火で導火線にまとめて火をつけた。夏の間に使い切りたかった、季節外れの危険物だ。
 暫くして、強行する盗賊達が隊商のキャンプ目掛けて走ってきたが、時間は十分だった。そして、火が花火の本体に到達する寸前で、盗賊達目掛けて投げ込むと、とんでく花火は笛のような甲高い音を立てて破裂したり、森の向こうで他の盗賊に命中した。
『何だこりゃ! あちち!!』
『うわっ、火が! 誰か消して!!』
 森の奥で色とりどりの眩い光と騒音が溢れ、更に男たちの絶叫や悲鳴が聞こえてきた。よい子の皆は、くれぐれもマネしないように。
「よし、上出来だ。行くぜ!」
 ヒューズは花火の光を頼りに敵中に飛び込んでいき、消火をしている盗賊に斬りかかった。『汗の染みたバンダナ』をマスクのように顔に巻いていたが、これは彼なりの『眠りの粉』への対策だった。粉を吸気しないようにすると同時に、たっぷりと染み込んだ汗のバッドなスメルが嫌でも眠気を吹き飛ばすだろうと考えたのだ。だが、即席のマスクと今着ている『冥土☆服』の取り合わせはまるで掃除だった。
 花火でこちら側へ這い出るように逃げ出してきた盗賊が一人いたが、威圧感をたっぷりと放出した貴人に阻まれてしまう。
「知らなかったのか? 魔王からは逃げられない」
 白い奇妙な仮面をつけた貴人の目がきらりと光った。
 その一方で、用を足す筈だったリーダーの男が取り残されていたが、
「ほーらこっちこっち。やられたらトイレどころじゃないよぉ?」
 チョウザがリーダーの男を馬車の中まで手早く誘導すると、三人に加勢しに行った。

●怪傑参上!
「便乗騒ぎたァ、正道だが美しくねぇな」
 チョウザよりも先に出ていたダケンは『珈琲の葉』を噛みしめながら、盗賊達に語りかけた。
「俺には何物にも代えがたい女性(ヒト)がいる! 今は片思いでしかないが、いずれ振り向かせてみせる。俺の全身全霊をかけて、必ずだ!! お前らのような悪党共を許せない彼女が、お前らに傷つくようなことがあれば、俺は決してお前らを許さねぇ。だから俺はお前らのような悪党をこの世から全て倒し、彼女を幸せにする!! それに……」
 内容が内容だがダケンの『楽園楽土』に、盗賊達は呆れを取り越して思わず仰天してしまった。こんな夜中に告白とは大胆にも程があるだろうにと。
(あーこういうのってもしや?)
 近くにいた盗賊を『六角棒』でなぎ倒しながら、チョウザはダケンの様子を見た。すると、コケにされたと思ったか多くの盗賊がダケンに殺到した。
 曰く、『人目憚らず色恋に夢中な男女』は速攻で襲われがちらしい。状況が多少異なるが、こういう事をさす適切な言葉があったはずだ。
「死亡フラグ、だったっけ?」
 思わぬ数を相手取ることになって目を丸くするダケンに、チョウザは言った。
「縁起でもねぇ! だが、つい張り切り過ぎちまった……!」
 ダケンの周りを盗賊が取り囲む。中には懐に手を入れている盗賊もいた。眠りの粉だったとしても珈琲の葉を噛みしめているダケンに通用はしないが、長時間浴びるように振りかけられたら流石にどうなるか分からない。
「まずいな、頑張り過ぎだ」
「あんな大人数で……orとandの区別もつかないようね」
「ちと、深入りしすぎしまったか……!」
 貴人とリベールとヒューズは善戦するも、ダケンを助けに行く余裕はなかった。
「長々とぬかしやがって……!」
「その女の前でぼこぼこにしてやらぁ!」
 怒声を挙げながら、ダケンにじりじりと迫る盗賊達。
 すると、
『ハロウィンの夜にお化けが男一人を虐めるなんて、ちっとも面白くないわよ?』
 どこからか、その場にそぐわないような少女の声が聞こえてきた。
 何事かと、五人と盗賊達が辺りを探すと、馬車の幌に奇妙な格好をした少女が腰を掛けて見つめていた。 
 その姿は、不思議の国を渡り歩いた少女の服をベースに、首には大きな懐中時計を下げ、猫の耳が生えた大きなシルクハットを被り、腰からぴょこぴょこと動く鼠の尻尾を生やした、ある童話の世界を一人で体現したようなコスチュームだった。
『悪戯と笑顔で賑わう夜にも邪な人間は蔓延り、踏みにじられるわ。笑顔が失われ、人々は嘆き悲しみ涙する時、鏡の世界の使者は立ち上がるのよ。あたしこそ、人々の切なる祈りを受け止めし鏡にして千変の使者、【ミロワール・ド・スクレ】。ハロウィンバージョンで参上よ!!』
 想像してもしきれないような仮装と長い口上にその場にいた殆どが唖然としていたが、
「やっぱり今回も結構長みー」
「うぉっ、このタイミングで!?」
 彼女を知るチョウザとダケンだけがすぐに反応できた。
 高らかに口上を述べたミロワール・ド・スクレは馬車から飛び降りると、リボンで装飾されたレイピアを抜き払って、ダケンを囲む盗賊達に向けた。
「さっきのは素敵だけど、もうちょっと実力を備えていたら格好よかったのに」
 そう言うや否やミロワール・ド・スクレは一歩踏み出す間もなくフッと消え、一瞬だけ銀色の閃光が迸る。
 そして気が付けばミロワール・ド・スクレは盗賊達の遥か先に立っていた。そしてレイピアを月光にかざすと、囲んでいた盗賊達は力なく気絶した。
 それを見た盗賊達は再び狼狽えた。
「なんだかんだで先輩なのは確かなんだねーえ?」
 別の盗賊を六角棒で突いて気絶させながら、チョウザは少しおどけたような口ぶりで言った。出席日数だの可笑しいあだ名だのと第一印象はあまりにも微妙だったが、実力は確かに『先輩』らしかった。
「くすっ、あたしに見とれている場合じゃなくてよ」
 不思議の国のお茶会じみた格好のミロワール・ド・スクレだが、ダケン以外は『それはないない』と心で呟きながら戦闘を再開した。

 貴人と戦っていた盗賊が形勢の不利を悟ると、懐に手を入れた。
「くそ、これでもくらえ!」
 この盗賊が粉末を振り撒くのと同時に、貴人が珈琲の葉を口に放り込んだ。
「そんな子供だましなど魔王には通じない。さぁ、おやすみなさいの時間だ」
 『バタフライリッパー』の柄で殴られた盗賊は、カエルのような声を上げて気絶した。
 これを機に、他の盗賊達も次々と眠りの粉を振り撒いてきたが、その殆どは珈琲の葉を持参して備え、リベールは距離を取ってプチラドを放っていたため、届く事はなかった。
 無論、ヒューズにも眠りの粉が振り撒かれたが、
「おら。秘技、燕返しだ」
 何と持参したうちわを扇ぎ、眠りの粉を払い返そうと試みた。この奇策に盗賊は自分で蒔いた粉を浴びで眠りに就いてしまった。
 だが、扇いだはいいが粉が綺麗に跳ね返されるわけではなく、辺りに拡散した少量の粉を吸い込んでしまう。
「やべ、この量でも、結構グラグラ、しちまう……」
 強烈な眠気に思わず近くの樹に寄りかかってしまうが、するといつの間にか、紅茶のポットとカップを手にしたミロワール・ド・スクレがすぐ近くに立っていた。
「悪人のお掃除、お疲れ様だわ。眠気覚ましにはいいお茶が一番なのよ」
 そう言うとミロワール・ド・スクレはポットからカップに何かのお茶を淹れると、ヒューズのバンダナをまくり上げ、口に少し押し込むように飲ませた。口の中に独特の苦みと砂糖の甘みが広がると、ヒューズは一気に目が覚めた。
「センパイ、助かりやした。けど、このお茶……?」
「珈琲の葉を煎じた薬草茶よ。葉のままより効くわ」
 用意がいいのは良いとして、仮装も兼ねているとは言えお茶会をする気だったのか? 色々な意味で只者ではないとヒューズは思った。
 ともあれ態勢は整えることができた。ヒューズは逃げ腰の盗賊に『フギン』を投擲して足止めした。

 画して仮装盗賊達はほぼ一掃され、気絶している盗賊は仮装を剥いでからロープで拘束した。同時に、十分な量の眠りの粉を没収できたから、二重の意味で課題は成功した。
 逃げる盗賊もいたが、ミロワール・ド・スクレが、
「あなた達の目的は討伐じゃなくて護衛よ。後始末は任せなさい」
 と言ったから、後は任せる事にした。
 そんな彼女を訝しんでいたリベールが訊ねた。
「こいつらのバックでも探りに来たの?」
「いい勘ね。こんな悪用し放題の代物、盗賊が普通に持っていていいものじゃないのよ」
 そう言ってミロワール・ド・スクレは立ち去ろうとするが、ダケンが呼び止めた。
「はは、情けねぇな……借り一つもらっちまった! けど、次こそは絶対に助けるからな!」
「ふふっ、あれだけ叫んだのだもの。そうでないと困るわ」
「そ、それはその……ほ、惚れた弱みってか、しゃあねぇだろ……」
「けど、おやめなさい。あたしを好きになっても、あなたはいずれ悲しむだけなのよ」
 俯きがちにミロワール・ド・スクレは呟いた。
「おい、それってどういう」
「じゃあね。よい子はそろそろ眠りなさい♪」
 ダケンの言葉を遮り、ミロワール・ド・スクレはエルメラルダの森の闇に消えた。

 余談だが、隊商から馬車の御者が一人いなくなっていたという。

●悪夢の謎
 その後、盗賊が持っていた眠りの粉を精査したが、『悪夢』を見せる成分は検出されなかった。
 それどころか、あの場にいた誰もが普通に寝ていたにもかかわらず悪夢にうなされたという。やはり原因は不明。
「となると、エルメラルダか」
 例の三人組とは別の、恐るべき脅威が確かに動いている。
 女性教師は一人確信した。



課題評価
課題経験:65
課題報酬:2000
【優灯】お化け盗賊をやっつけろ!
執筆:機百 GM


《【優灯】お化け盗賊をやっつけろ!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《今を駆ける者》 ダケン・ヴァルガー (No 1) 2019-10-15 22:59:30
魔王・覇王のダケンだ。
ミロワールを追いかけてたら、話に出くわしてな。
まぁ、よろしく頼むぜ。

アイツの事は気になるが…まぁまずは盗賊だな。
俺たちが正体を隠しておびき出して返り討ち…ってのが基本方針かね?

ミロワールのは過去から何となく察しはつくが、今回は邪魔する限りではねぇかな?
無理に対立してどうこうするメリットも思いつかねーし…

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 2) 2019-10-16 00:53:36
出席数犠牲仮装先輩様がいるってことは。
あんまし細かなこと気にしなくていいわるわる存在ってことだよね、たぶん。
そったらてきとーにぽこすかな。折角なら面白いお話聞きたいんだけど。むしろ目的そっちだし。

眠りの粉に関してはあれだよね、【珈琲の歯】加えといて、やばめを感じたら噛み咀嚼でしのぐみたいな。
そんな感じで。

《ゆうがく2年生》 リベール・ド・ヴァンセ (No 3) 2019-10-16 02:05:02
夜に備えて昼は寝かせてもらうわ。
暗視順応と動作感知で警戒し、奴らが来たらとんでく花火をお見舞いする。これで混乱してる間に魔法で倒せれば一人や二人は粉を使わせずに片付くかも。
抜けてきた奴は接近戦で決定打を食らわせたら、粉対策の為に盾で殴り倒す。
以上が今考えてる事。

《ゆうがく2年生》 ヒューズ・トゥエルプ (No 4) 2019-10-18 02:57:11
眠りの粉ね。思わず喉から肩が出ちまうような代物だ。
方針の方は了解しやした。こっちは聴覚強化で用心しときましょう。


《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 5) 2019-10-19 20:42:57
(羊皮紙に、大きく開いた口からショルダータックルの兎が飛び出している魚の絵をかりかりと描きつつ)
…睡眠薬的なあれ、そんなおもしろ光景生み出す物体なの?それはそれで見たいんだけど。
購買に無いかな。逆珈琲の葉みたいな。学園の倫理的に危うげやばめでダメだったり?

とりま思うのはー、夜よく出るなら日中はそこまで危うくないだろーけど、念の為起きとく人員は需要だろーし。
半々の2交替でゆっくり寝といて備えるのが丸いかな。もう1人来たら3交代でもいーんだろーけど。

でもって、夜になったら寝たふりとか、雑談とかで気ゆるっゆるしてるフリだけしてー、容赦なく迎撃みたいな。
不安なら囮と物陰奇襲で別れても良さみかもね。ザコちゃん?どっちかってっと囮?

あとは何らかの光源あったら楽かな。夜なら必要だし。
それこそ【キラキラ石】で事足りそーだし、挙句の最終ザコちゃんがわけわけしてもいーけどね。

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 6) 2019-10-20 20:07:39
防御拠点でキャンプ地に罠と鳴子を設置する。
・・・粉の回収はとりあえず考えないことにして盗賊を叩きのめそうかと思っている。