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殺人料理店


ストーリー Story

 アルチェの地、メルカ市場。
 巨大な魚市場であるそこでは、今日も大きな声で競りが行われており。
 そんな活気溢れる場内から少し……いえ、わりと――かなーり離れた所に、ポツンと一軒、食事処がありました。
 離れすぎて客足などほとんど無く。そして、ごく稀に来たお客さんも、この店の料理を食べると――いきなり倒れてしまうらしく。
 ついたあだ名は呪いの食事処。とすると、怖い物見たさで足を運ぶ人や、毒には強い、と自信満々の生徒達が何人も挑戦しますが、結果は返り討ち。
 全員気を失って、店主達に謝られながら、帰る場所へと搬送されます。
 帰る場所であり、還る場所ではないのであしからず。
 そんな事が起こり続ければ、ついには店主は頭を悩ませ、店を閉める事になりました。


 そして、丁度その頃、『フトゥールム・スクエア』の掲示物展示場所には、一つの記事が載っていた。
 その記事は――、
『呪いの食事処 その真実』
 という見出しから始まり、
『最初に申し上げておくが、あの店の料理に毒などは入っていない。むしろあらゆる研究が積み重ねられた英知の結晶である』
 との文に繋がり、最終的に、
『あの店で出される人を倒しまくる料理の正体、それは――――脳の理解を超えるほどの美味しさで口を、舌を、喉を、胃を。通る場所全てを屈服させてくる暴力的な美味さが原因である』
 と締めくくられる。
 そして最後に、
『残念な事にあの店の店主は勘違いから店を畳もうとしている。……この学園にいる味覚に、胃袋に自信を持つ諸君! 誰も為し得ていない、店主に『美味しい』という感想を届ける大役を、誰か担って貰えないだろうか』
 という悲痛な願いが綴られていた。

 時を同じくして、
「明日で店じまい。短かったが、料理は楽しかったよ。けど、食べた人ぶっ倒してりゃあ、こうなるのも必然さ。……どうせ最後なんだ。食材を残してもしょうがねぇ。今日は儲けを考えねぇで、来た客全員に大盤振る舞いといくぜ!」
 そう意気込んだ店主は、若干の寂しさを背中に漂わせながら、一つの依頼を出した。
 もしかしたら、倒れるのを承知で客が大勢来るかもしれない。
 そんな淡い期待を胸に秘めた店主は、店の手伝いを募集する依頼を、学園へと、出すのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2020-03-03

難易度 とても簡単 報酬 少し 完成予定 2020-03-13

登場人物 4/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《人間万事塞翁が馬》ラピャタミャク・タラタタララタ
 カルマ Lv22 / 魔王・覇王 Rank 1
不気味で人外的な容姿をしたカルマの少女。 愛称は「ラピャ子」や「ラピ子」など。 名前が読み難かったらお好きな愛称でどうぞ。 性格は、明るく無邪気でお茶目。 楽しいと面白いと美味しいが大好き。 感情豊かで隠さない。隠せない。ポーカーフェース出来ない。 そしてちょっと短気なところが玉に瑕。 ギャンブルに手を出すと確実に負けるタイプ。 羞恥心を感じない性質で、露出度の高い衣装にも全然動じない。 むしろ前衛的なファッション格好いいと思ってる節がある。 戦闘スタイルは我流の喧嘩殺法。 昔は力に任せて単純に暴れるだけだったが、 最近は学園で習う体術を取り入れるようになったらしい。 しかしながら、ゴリ押しスタイルは相変わらず。 食巡りを趣味としているグルメ。 世界の半分よりも、世界中の美味しいモノの方が欲しい。 大体のものを美味しいと感じる味覚を持っており、 見た目にも全く拘りがなくゲテモノだろうと 毒など食べ物でないもの以外ならば何でも食べる悪食。 なお、美味しいものはより美味しく感じる。Not味音痴。 しかし、酒だけは飲もうとしない。アルコールはダメらしい。 最近、食材や料理に関する事を学び始めた模様。 入学までの旅で得た知識や経験を形に変えて、 段々と身に付いてきた…と思う。たぶん、きっと、おそらく。
《ギャンブラー》エズミ・デュラック
 エリアル Lv11 / 教祖・聖職 Rank 1
エズミは良い導きを求めている。 主、風、心、あなた。誰のものでも。

解説 Explan

 未だ誰も達成していない、意識を手放すほどに美味しい料理を完食し、味の感想を伝える事。
 または、店主と協力し、詰めかける客に料理を提供する事が目的となります。

 お店はアルチェで捕れた新鮮な魚が売りの大衆食堂。あらゆるメニューがございますので、お客として参加される方は好きなメニューを注文してください。
 その際に、どんな心構えで(スキルや特性を駆使して)意識を保つのかも記載いただけるとありがたいです。

 応援として参加される方は、店主のレシピ通りの料理を出していただくことになります。
 どんな料理を提供したか、また、駆けつけた誰に(NPC指定可)料理を出すかを記載ください。

 間違っても料理に調味料を足したり、水で流し込む等という悲しい食べ方はしないように。


作者コメント Comment
 過去にどこぞの誰かが『不味い料理作って決闘する』とかいう頭おかしいエピソードを書いていましたが、今回はその逆。美味しすぎて意識を手放すほどの料理に立ち向かっていただきたく思います。
 ひっそり『飯テロGM』とか呼ばれて有頂天になっている馬なので、ぜひぜひ参加を。


個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:43 = 36全体 + 7個別
獲得報酬:1152 = 960全体 + 192個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
ザコちゃんぶっちゃけさぁ、美味しいだけの食べものって好きじゃないんだよね。つまんないから。
でもここの料理で起きるらしい効果はおもしろそーだから気になりみある。美味しさだけでそこまでできるーってなったら、いっくらお高い食材と功績ある料理人使おうが行き着けなかった範疇ってことでしょ?
やっぱり物とか人の価値とかどーでもいーし、挙句の結局、味には関係ないんだよね。
人は情報で味覚の手のひら返し決めがちだし?ふふ。

とりまザコちゃんお魚使ってるメニューで、お高い食材何も使ってないならなんでもいーよ。てきとーにだーして。
…あー、あとあんまし東の国っぽいメニューじゃない方が嬉しみ。ないならしゃーなしなんだけど。

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:43 = 36全体 + 7個別
獲得報酬:1152 = 960全体 + 192個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
気絶するほど美味しいとか想像が出来ないな・・・
そんなわけでホイホイ件のお店に来てみました

まずは、席に着き、手を拭き、今日は魚の気分なのでそれも踏まえ店主に一言
「今ある魚でおススメなのをおススメの食べ方で食べさせていただきたい」

そして料理が来るまでじっと待つ
来るまでの間に店主の動きを見たり他のお客さんがいるなら他のお客さんの料理に対してのリアクションを観察したりする
行儀が悪いのは承知の上でになってしまうがな

料理が来たら全身全霊をかけて料理を楽しもう
気絶してしまうかもだが気負いすぎても美味しくなくなってしまうからな

出来ることなら完食し料理の感想を店主に述べたい

アドリブ大歓迎

ラピャタミャク・タラタタララタ 個人成績:

獲得経験:54 = 36全体 + 18個別
獲得報酬:1440 = 960全体 + 480個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
アドリブ度A

■心情・行動
らぴゃたみゃくたらたたららた!
美味い料理と聞いてあちきが来たのじゃっ!!
ふむ、倒れる程の暴力的な美味さ…じゃと?
それは気になるのじゃ。

料理は店主のオススメを頼むのじゃ。
耐えることなぞ考えず、ただ味わうのみ。
食べくらべ技能、味覚強化、触覚強化、そしてあちきのグルメ知識を持って、
その味の程を見極めてやるのじゃ!キリッ!
パクッ…クミャタピャラッ!?(ばたんっ)



倒れたら、リブートで起き上がるのじゃ。
味の感想を伝えねばじゃな…
確かに情報に違わぬ美味しさじゃ…あちきは今この料理に屈服しておる…
確かに美味い…美味いが、しかし…
あちきは、この料理にケチを付けざるをえぬ!

エズミ・デュラック 個人成績:

獲得経験:54 = 36全体 + 18個別
獲得報酬:1440 = 960全体 + 480個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
料理で人が倒れるのは只事ではない。美味であれ問題であれ。その真偽を確かめる。仮に美味すぎたなら、いかなる神意がそうさせたのか。

魚が売りならばアクアパッツァを。魚を食べたら残ったソースにパスタを入れる。
食べる前にディスエレメンティで料理に有利な属性になる。
味覚強化で真実を探る。悪いものが入っているのか、あるいは……人知の及ばぬ恩寵を受けてしまったのか。
耐えられるかどうかが幸運判定ならエ2で判定。ファンブルなら神格適正で振り直し。

「神よ、なぜ彼のような者を。如何な意を以って彼を苦しめ、我らを惑わすのか」
「我らを試みに放し給うな。斯様な謎かけは暴力でしかない」

リザルト Result

「らぴゃたみゃくたらたたららた! 美味しい料理と聞いて、あちきが来たっ!!」
 豪快に、ド派手に。
 大声で店の扉を開け放ち、仁王立ちした【ラピャタミャク・タラタタララタ】は、そこで初めて店内の様子が窺えた。
 学園の掲示板にあのような物が張り出されたのだ。学園に通う者ならば、興味が沸くのは必然。
 事実、ラピャタミャクもこうして興味が沸いたためにやってきたのだから。
 ――しかし、店の入り口から見える様子は、ラピャタミャクが想像していたものとは少しばかり違っていた。
 阿鼻叫喚の地獄絵図――いや、天国絵図とでも評そうか。
「無理だ! 今の俺には無理だ!!」
「食いたくねぇ!! こんなうまいもん食いたくねぇよぉっ!!」
「我が人生に一片の悔い無し!!」
「恥の多い生涯を送ってきました」
 聞こえる声は多数あれど、そのどれもが、とても料理を食べた感想であるものとは思いがたく。
 美味いものが食べられる。これが地獄な訳が無く。
 けれども、一度食べると拒否反応すら示すほどに美味い料理を食べることは、果たして天国と言い切れるのか。
 その解答を得るために、ラピャタミャクが取った行動は至極簡単で。
 というかそもそも、それ以外に何がある? と言われてしまいそうな、単純なこと。
 すなわち、
「すまぬのじゃ店主! オススメの料理をあちきに!!」
 入ってきたときと同じく、大きな声で、元気いっぱいに。
 座って待ってなと言われ、空いてる席をキョロキョロと探してみると、
「赤猫目のまおー様、ザコちゃんの隣が空いてるよん」
 と、声をかけられて。
 そちらを向けば、【チョウザ・コナミ】が、自分の座っているカウンター席の隣を指さしていた。
「失礼するのじゃ」
「別に相席じゃないんだし、気にしなくていーよ」
 誘われたとおりに隣へ座り、自分の料理が出てくるまで、他のお客の頼んだ料理が出てくるのを眺めていくラピャタミャク。
 と、一人の見知った顔と目が合った。
 同じく料理を追っていたその目線の持ち主は――いや、仮面をつけているので本当に視線が合ったかは定かでは無いのだが。
 それでもラピャタミャクは顔の動きから自分と同じ事をしていたと確信する。
 【仁和・貴人】が、料理の行方を、ひいてはその料理が注文した客の口に運ばれるまでの一部始終を見ていたのだ。
 その時の料理はオムレツだった。持っていくさまからして、明らかにふわふわで中身は半熟。
 そう主張する孤を描いたその三日月は、中に入っているであろう魚介の具に合うようホワイトソースがかけられていて。色合い良しと散らされたパセリが調和して、眺めるだけですでに美味しいこと間違い無し。
 事実、その料理の行く末を追っていた二人の口には、溺れてもおかしくないほどの涎が溢れているほどだ。
 その溜まった涎を飲み干すと同時に、注文した客がオムレツにスプーンを割り入れると――。
 ほんわりとした湯気が昇り、周囲に魚介の旨味を直接匂いにしたような、濃厚な匂いが漂って。
 正直、匂いだけでもご飯が進む……というか、その楽しみ方が正解な気がしてきた二人。
 ――と、
「ほい、お待ち。フィッシュアンドチップスね」
 チョウザの前に、彼女が注文していた料理が運ばれてくる。
「あ、ザコちゃんのなんだ。確かに注文どーりだし、不満無いけど」
 何の変哲も無いただのフィッシュアンドチップス……だったらそもそもここに来てなど居ないわけで。
 必ず何か秘密があるだろうと、まずは色々と探りを入れる。
 匂いを嗅いで、薬なんぞ盛られていないかを確認し。見た目から可能な限りの情報を手に入れようとするが……。
 言ってしまえばフィッシュアンドチップスなんて、具材を揚げてハイおしまい、な料理である。いくら目を凝らしても油で揚げられた魚と芋以外には見えないわけで。
 匂いについても、油と芋と魚の匂いしかしないわけで。
 だとしたらもう、食べるしか無いわけで。
 ラピャタミャクと貴人の視線がチョウザに注がれる中、当のチョウザは――。
 ちょびっとだけ、ポテトを囓り。まるで毒味のように、何かを確認するように二度三度咀嚼して――。
 勢いよく、注がれていた水を呷った。
(あっぶな。ほんのちょっとしか口に入れてないのに意識持って行かれそーになった。え? 何コレ?)
 内心の動揺はしかし、見ている二人には悟らせぬように。
「んまぁ、おいしーけど……いや、美味しい? うん?」
 感想を口にしようとして、出てくるのは妙に歯切れが悪い言葉。
 どういう事だと首を捻る貴人の元へ、頼んでいた料理が運ばれる。
 オススメの魚をオススメの食べ方で。
 ラピャタミャクと似たような注文をしていた貴人の元へ運ばれたのは――大きな椀に盛られた汁物。
 それにご飯と漬物付きの定食セットだった。
「わりぃな、オススメの魚しかねぇもんだから全部を味わえるあら汁にしたぞ」
 という言葉を店主から聞き、なるほど、と納得した貴人は。
 その味や如何ほどのものか、とあら汁の椀を掴み持ち上げ口をつけて一グビリ。
(あー、ご愁傷さん。骨くらいは拾ったげる)
 すでにほんの欠片ほどだが味わったチョウザが、胸の中で貴人がもう戻って来ない事を悟る。
 椀の傾きを戻し、椀をテーブルへと戻し、体勢を椅子の背もたれへと戻した貴人は――。
「燃えたよ……燃え尽きた。――真っ白にな」
 と言ってがっくりと項垂れる。
「たった一啜(ひとすす)りしただけじゃろうが!」
 と、ラピャタミャクがツッコむのと、
「戻って来い……と主も言っている」
 とどこからともなく強い言葉が飛んでくるのが同時だった。
 強い言葉を発した主の方を見やれば、事の一部始終を見ていたのであろう【エズミ・デュラック】の姿に辿り着き。
 動かなくなった貴人の頬を、何度か軽く打っていると。
「う~ん……六文銭は持ち合わせていないなぁ」
「寝言はいい。戻れ」
 と、少し強めの気付けの一発。
「――ハッ!? 今はどこ私はいつここは誰?」
 どうやら遠くに行っていた意識が戻ってきたようだ。
「あら汁を口にして意識を手放していた」
 状況が分からないと左右を見渡す貴人に、小さくため息をついて答えるエズミ。
「全く、意識を奪う料理と知りながらいきなり飲む奴があるか」
「可能な限りの情報は手に入れたと思って、特におかしいところは無いと判断したんだが……。まぁ、気絶対策もしてた――筈だったがすり抜けたな」
 持っている技能をフル活用し、それでいてなお普通と判断した代物は、結果として貴人の意識を刈り取った。
 とはいえ、
「いや、まぁでも味は分かった。うま――い? いや、うん。美味いんだけど……なんか違うな」
「分かるー。ザコちゃんも全く全然しっくりこない」
「美味いのは間違いないんだけど」
「足りないよねぇ」
 すでに料理を口にした貴人とチョウザは顔を見合わせて。
 食べたものにしか分からないであろう事を確認し合う。
 そして、
「あいよ、魚介タップリドリア、お待ち」
 ラピャタミャクの元へ、店主のオススメが運ばれてくる。
 半分がホワイトソース、もう半分がトマトソースがかけられ、それらを包むのは黄金色に美しい焦げ目の付いたチーズ。
 そして、ソースとチーズの合間に見える海老やイカ、白身と言った魚介類は、すぐにでも掻き込みたいほどの衝動に駆らせるものだった――が。
(ここでがっついては先の二の舞。ここは慎重にいくのじゃ)
 意外! そこは冷静!
 貴人もやっていた事ではあるが、やはり持てる技能をフル活用し、変なところが無いかを探るラピャタミャク。
 しかしそんなものはどこにも無いわけで。
(やはり――食べるしか無いのじゃな……)
 美味しい料理であるはずなのに、どこか警戒しなければならないのは何の皮肉か。
 恐る恐るスプーンで少し掬い、小鳥が食べるほどの量を口に含んで覚悟を決める。
 一噛み、二噛み、三噛み。
「クミャタピャラッ!?」
 口から出たよく分からない擬音は、限界を周囲に悟らせ。
 水の入ったコップを差し出すチョウザと、すぐにでも気付けを行えるようにするエズミと、他の擬音も聞きたいと期待する貴人。
 差し出された水を受け取り一気に飲み干し、気絶は防ぐ――が、どこか目が虚ろになったラピャタミャクは、店主に向けて、ゆっくりとサムズアップした。
「ほい。アクアパッツァ、お待ち!」
 そんな店主はエズミの注文したものを持ってきていて。
 容器から見える景色は、非常に美しいものだった。
 白身魚の白、トマトの赤、パセリの緑からなるその景色は、誰が見ても完璧な調和でもって佇んで。
 これまでの三人から、見た目も匂いも異常が無いことは把握済み。
 であるならば、問題は味だけということになる。
 つまり、食べてみなければ何一つ近づけない。
 食べるだけで気を失うという、もはや神秘の類いに近いその真相に。
 だから、エズミは――間髪入れずに尾頭付きの魚をフォークで崩し、そのほぐれた身を口に運んだ。
 ホロホロと崩れる身と、崩れるほどに流れ込む旨味。
 程よく、心地良く。途中までは甘美な気持ちを味わわせるだけだった料理は――。
 ある時間を境に一変する。
 臨界点を超えたように、何にも形容しがたい旨味以上のものへと昇華されたその味は、理解するのを放棄して、自衛のために、これ以上味わわないために。
 意識を手放させるのには……十分だった。
 ――が、それの対応策も学習済み。
 手元にあった水を一気飲みし、口の中の旨味を洗い流して無理矢理胃へと。
 流し込むことで、なんとか気絶からは免れる。
 そして、
「なるほど。足りない」
「じゃな」
 先の二人が口にした、『足りない』という意味を。
 理解した二人は店主へと叫ぶ。
「店主よ、この料理に対してあちき達は何も言えぬのじゃ!」
「この料理に対する感想を述べるには、圧倒的に語彙力が足りない」
「てか多分、この料理の評価に相応しい言葉って、まだ開発発見されてないと思うよ」
「言語化出来ないほど、美味い。いや、美味いではないな――凄い? コレも違う……」
「だから、言語化出来ないんだってば……」
 二人に続いたチョウザも貴人も、思いは同じ。
 伝えたい感想は、けれども伝えるには美味いでは、素晴らしいでは。
 自身の知り得る言葉の中では、そのどれもが足りなさすぎて。
 それほどまでの美味しさの料理は、誰もの口を塞ぐ。
 ――が、なんとか合う言葉を探そうと、思考を巡らせる内に、食べたものはやがて諦めるのだ。考えるのを。そして、言葉一つが出てこないその意識を保つのを。
 パチパチ、と。
 エズミが拍手をした。
 言葉に出来ぬなら、行動で示そうと。
 そしてそれは、店中に伝播する。最初はラピャタミャク、次いで貴人にチョウザ。
 その拍手は、次第に店中に広がっていく。
 誰もが口で言えぬから。
 けれども想いは伝えたいから。
 万雷の拍手の中で、店主は一人涙ぐむ。『拍手』、それが、自分の料理に相応しい感想なのだと、この時初めて知り得たのだから。
「てか思ったんだけど、あの店主ってこれ味見しないのかね?」
 貴人の口から出たのは一つの疑問。
 けれどもそれは、言われてみれば確かに気になる部分であり。
「流石に店主には耐性があるのではないか?」
 こうして客の前に出している以上、味見はされているはず……。
「聞いてみるのじゃ」
 気になることは即行動。ラピャタミャクが厨房に戻る途中の店主へと声をかけに行き。
「出来れば作り方とか聞いときたさあっし、教えてくれないかな」
 そのあとをチョウザが続く。
 数分後に戻って来た二人からは、店主についての情報があるにはあったが……。
「味見、したことないらしいぞよ?」
「ついでにレシピも、勘と経験と目分量だって。それでこの味になるなら奇跡か神秘の類いよきっと」
「……冗談だよな?」
「さもありなん」
 なんてやりとりをしながら四人は、各々が頼んだ料理を口に運んでは拍手を送る。
 最初から、言葉にしないと決めていれば、頭の中で言葉を探す必要はなく。
 それが唯一、無事に料理を完食出来る方法だと気が付いた。
 こうしてこの店は後日、『拍手の鳴り止まぬ店』と見出しの付いた記事が付き、大盛況を迎えているとのこと。
 元々店主一人で切り盛りしていたのに超満員で、嬉しい悲鳴をあげているらしい。
 ――これは余談だが、後日、開店時間になっても開かない店を不審に思った客の一人が心配になって店に入ると。
 そこには、厨房で倒れていた店主の姿があったらしいが、倒れていた原因は分かっていない。
 ただ、厨房には、出来たての魚の煮付けが、美味しそうに置かれていたという。



課題評価
課題経験:36
課題報酬:960
殺人料理店
執筆:瀧音 静 GM


《殺人料理店》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《人間万事塞翁が馬》 ラピャタミャク・タラタタララタ (No 1) 2020-03-01 14:49:16
らぴゃたみゃくたらたたららた!

美味しい料理と聞いて、あちきが来たのじゃ!
倒れる程の暴力的な美味しさ、か…う~む、悩ましいのぉ…