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【心愛】恋するライオン


ストーリー Story

 バレンタインデー。
 それは、甘く優しい思いが、大陸全体を包み込むチョコレート色の季節。
 もちろんそれはフトゥールム・スクエアも例外ではなく、2月を過ぎ3月に入った今でも、そこかしこでチョコレートの話題が聞こえてくる。
 『気になるあの人にチョコはあげたの?』『今年は1つくらいは貰えたか?』
 そんな浮足立った世間話の中を歩いていた『きみ』は、ふと聞き覚えのある声に顔を向ける。
「話は分かったのですが、しかしですね……」
 どこか困ったような声音で誰かと話しているのは、【シトリ・イエライ】……この学園にて上級魔法を担当している、泡麗族の男性教師だった。
 彼は、話し相手に目線を合わせるよう身を屈めながら、やはり困ったような顔をしていて。
 どうしたのだろうと思った『きみ』が静かな足取りで近づくと、シトリも『きみ』に気付いたようだ、次第に表情を緩め、微笑み、
「ちょうど良い所に。どうか頼まれてはくれませんか」
 突然の言葉に、『きみ』は首を傾げる。すると不意に、むにゅっとした感覚が、下のほうから――。
「お願いします~~~後生ですから~~~」
 顔を向ければ、二つの後ろ足で立ち上がった猫が『きみ』の脚にへばりついていた。むにゅむにゅ。力をこめられるたびに、肉球の感触を感じる。
 あぁ、『ケットシー』だと、『きみ』は理解する。
 人語を解し、人間のように二足歩行をする大型の猫は、祖流族と妖精族の特性を真似て作られた魔物であるという。
 時に悪戯をして困らせ、また時に猫のフリをして人間に飼われていることもあるというケットシーは、比較的悪意のない魔物であり、
「わたくし、チョコを作ってみたいんです~~~」
 こんなふうに、唐突なお願いを持ってくる存在でもある。
 思わず苦笑した『きみ』は、隣で似たような表情をしているシトリに顔を向ける。彼は一度頷いてから、
「彼は【レオン】と名乗るケットシーです。どうやらバレンタインの話を聞き、自分を猫として飼ってくれている女性にチョコを送りたいらしく……」
「お嬢様に感謝の気持ちを伝えたいのです~~~わたくし、ステラ様に助けて頂いたのです~~~」
 聞けば、レオンはまだ子猫(というのかわからないが、とにかく大人になる前に)の頃、【ステラ】に命を助けて貰い、飼い猫となったらしい。
 お腹が空いて蹲っていた時、馬車に轢かれそうになったところをステラに助けて貰ったのだそうだ。
「ですが、そのせいでお嬢様は視力を奪われ、脚も不自由になってしまいました~……」
 しょぼん。両耳を下げるレオンは、心から哀しんでいるようだった。余程主人のことを大切に思っているらしい。
 思わず頭を撫でてやれば、レオンは嬉しそうに喉を鳴らしながら、
「それからわたくしは、お嬢様の猫として過ごしているのですが~、『猫』ではお嬢様に感謝を伝えられず~」
 なるほど、と『きみ』は思う。つまり、本当は言葉を話せる身でありながら、伝えられないもどかしさが、彼の中にずっとあったのだろう。
 そんな時、バレンタインの話を聞いて、居ても経ってもいられなくなってしまった。
「ですが、どうやってお嬢様にお渡しするつもりなのです? 仮にチョコレートを作れたとして、あなたは彼女の前では『猫』なのでしょう?」
「それは大丈夫です~。お嬢様は毎日、車いすで公園にお散歩するのが日課でして~」
 そこでわたくしとお話をしているのです~。
 続く言葉に、ん? と『きみ』は思う。お嬢様と、お話しているって?
「はい~。公園で偶然毎日出会うお友達作戦をしているのです~」
「あぁ、なるほど……ステラさんは目が見えないから、声だけなら正体がわからない、ということですね?」
「はい~。なので、今回は『特別なお友達にチョコをあげる』という流れで、その時お嬢様にお渡ししたいのです~」
 それは、『優しい嘘』だった。伝えたい、チョコをあげたい、けれど、真実は伝えられない。
 どこか抜けている様子のレオンではあるが、どうすれば大好きなお嬢様にチョコを渡せるか、たくさん考えたのかもしれない。
 だからだろうか、『きみ』の口から、『どんなチョコが良いの?』という言葉が零れた。
 見るからに瞳を輝かせたレオンは、『きみ』の足にへばりつくのをやめ、ふわふわの両前足を大きく広げながら、
「お嬢様が幸せになれるようなものがいいです~! 数はあればあるほど、嬉しいです~!」
 ならばやはり、美味しいものが良いだろう。視覚を奪われているようだから、味で勝負、ということだ。
「それなら、カカオポッドを使ったものが良いでしょう。彼等はこの時期、色々な場所に現れますし、チョコの材料になる板チョコを落としますから」
 考え始めた『きみ』に、シトリが手助けする。確かに、カカオポッドを使えばより美味しいチョコレートが作れるだろう。
 悪さをしていたわけでもないので多少申し訳ない気持ちはあるが、一定以上砕き倒した後に、何故か包装された板チョコが手に入る謎生物だ。
 完全に命を奪わずとも、チョコレートの材料は手に入るだろう。
「しかし、やはり猫の手で料理をするのは……チョコに毛が入ってしまうかもしれませんし……」
「それなら、作るのは諦めます~~~お渡しできるだけでも、良いんです~~~どうか、どうか~~~」
 お願いします~~~。涙目で再び『きみ』の脚にへばりつくレオンに、『きみ』は微笑みかける。
 甘い甘いチョコレート。それはいわゆる食事とは違い、栄養素に関わらない……食べなくても生きていけるという、いわば『嗜好品』だ。
 けれど、だからこそ。この世に存在する理由は、『あなたに幸せになって欲しい』という思いの、優しさの結晶。
 ならば、そんな思いを守るのだって、『ゆうしゃ』のお仕事の一つだと言えるだろう。
 だから『きみ』は頷いた。それなら一緒にチョコを作ろうと、提案しながら。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 5日 出発日 2020-03-09

難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2020-03-19

登場人物 7/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》ビアンデ・ムート
 ヒューマン Lv20 / 勇者・英雄 Rank 1
●身長 148センチ ●体重 50キロ ●頭 髪型はボブカット。瞳は垂れ目で気弱な印象 顔立ちは少し丸みを帯びている ●体型 胸はCカップ 腰も程よくくびれており女性的なラインが出ている ●口調 です、ます調。基本的に他人であれば年齢関係なく敬語 ●性格 印象に違わず大人しく、前に出る事が苦手 臆病でもあるため、大概の事には真っ先に驚く 誰かと争う事を嫌い、大抵の場合は自分から引き下がったり譲歩したり、とにかく波風を立てないように立ち振舞う 誰にでも優しく接したり気を遣ったり、自分より他者を立てる事になんの躊躇いも見せない 反面、自分の夢や目標のために必要な事など絶対に譲れない事があれば一歩も引かずに立ち向かう 特に自分の後ろに守るべき人がいる場合は自分を犠牲にしてでも守る事になんの躊躇いも見せない その自己犠牲の精神は人助けを生業とする者にとっては尊いものではあるが、一瞬で自分を破滅させる程の狂気も孕んでいる ●服装 肌を多く晒す服はあまり着たがらないため、普段着は長袖やロングスカートである事が多い しかし戦闘などがある依頼をする際は動きやすさを考えて布面積が少ない服を選ぶ傾向にある それでも下着を見せない事にはかなり気を使っており、外で活動する際は確実にスパッツは着用している ●セリフ 「私の力が皆のために……そう思ってるけどやっぱり怖いですよぉ~!」 「ここからは、一歩も、下がりませんから!」
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《ココの大好きな人》アンリ・ミラーヴ
 ルネサンス Lv18 / 教祖・聖職 Rank 1
純種が馬のルネサンス。馬の耳と尻尾を持つ。 身長175cm。体重56kg。 16歳。 性格は温厚。 あまり表情を変えず寡黙。 喋る際は、言葉に短く間を置きながら発していく。 少しのんびりした性格と、言葉を選びながら喋るため。 思考や文章は比較的普通に言葉を紡ぐ。 表現が下手なだけで、年相応に感情は豊か。 好奇心も強く、珍しいものを見つけては、つぶらな瞳を輝かせながら眺めている。 群れで暮らす馬の遺伝により、少し寂しがり屋な面もある。 やや天然で、草原出身の世間知らずも合わさって時折、突拍子の無い発言をする。 好きな食べ物はニンジン。 食べていると美味しそうに目を細めて表情を和らげる。 趣味はランニング。運動自体を好む。 武術だけは、傷付ける行為を好まないため苦手。 入学の目的は、生者を癒し死者を慰める力を身に着ける事。
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《新入生》雪路・成町
 ヒューマン Lv5 / 黒幕・暗躍 Rank 1
名前:成町 雪路(本名ではない) 読み:なりまち ゆきじ 「なんか用……?」 普段はメガネをかけている、クール系青年。 20歳くらいの年齢らしいが、実際は不明。 普段は、ひとりでいることが多いが、たまに連れて歩いている猫を探している。 猫の名前は「トト」 性格:基本クールですこしめんどくさがりや    本当は根が優しく、面倒見がいい    笑うと優しい顔になる    動物、子供が好きで戯れたりすることがある    器用 過去:家族から、いないものと思われて生きてきた    アイドルの時だけ、嫌なことを忘れることができた    クールだけど、可愛いやつと思われていた    家族には縁を切られている あだ名:雪にゃん、雪くん、雪ちゃん(NGワード) 好きなもの:動物、飴、寝ること、子供 趣味:デザイン練り、弁当作り、運動 特技:持久走、短距離走(走ること)、料理、衣装制作 元職業:アイドル

解説 Explan

当エピソードでは以下のように物語が進み、全員がこの流れを体験します。

●A:街中にいるカカオポッドを倒し、材料を集める(個人行動)
 戦闘は自動成功しますが、撃破できるカカオポッドの数はダイス次第です。
 会議室にてサイコロを1人2個ふり、その数の分だけ板チョコを入手します。
 カカオポッドについては以下
  習性:カカオの匂いに寄ってきます
  攻撃:『体当たり』や『チョコを浴びせる』
  苦手:火属性

●B:チョコを作る(合流)
 Aで得た板チョコを使い、チョコを作ります。レシピや他の材料は自由です。
 作ったチョコのうち、1人につき1つはレオンに渡されますが、残ったチョコはご自由に。
 レオンに手伝いを頼むこともできますが、もふもふの手にお気を付けを。

●C:チョコを渡す
 このパートでは分岐が発生します。
 ①レオンがステラに渡すまでをサポートする
  ここでステラに接触することも可能です。

 ②お友達に渡す/交換する
  ですが、ここで選択できる相手は、当エピソード参加者内に限らせて頂きます。
  希望があれば白兎担当の公認/個人NPC(噂話の3人含)に渡すことも可能です。

上記パートから最大2つまで選び、その時の様子をプランにお書きください。
A選択の場合、状況等は自由に設定頂いて構いません。お好きにドタバタどうぞ。
Cの中から2つは不可。Aを選ばなかった場合でもダイスはお振り下さい。

・NPCについて
【ステラ】
 子どもの頃、レオンを助けようとして馬車に巻き込まれ、両脚の力と視力を失った少女。
 いわゆる貴族の娘ではあるが、高慢さなどはなく、優しい気遣いのできる女の子。
 数年前にアークライトに覚醒し、フトゥールム・スクエアの招待状を持ってはいるのだが……?

【レオン】
 ステラに飼われている茶トラの猫……と見せかけているケットシー。
 可愛がられているらしくふくふくで丸い。のんびり屋でちょっと間が抜けている。
 ステラが大好きで、密やかな恋心を胸にしまっている。


作者コメント Comment
 エピソードの閲覧をありがとうございます、GMの白兎(シロ・ウサギ)と申します。
 本エピソードは、授業でも課題でもない、何気ない日常のお話です。
 また、『心愛:Melty Love』イベントに属するものとなっております。

 バレンタインと言えば、甘く優しい思いの行き交う季節。
 今回は、そんなムードに触発された、一匹のケットシーに纏わるお話です。
 皆さんはABCパートの全てを体験することとなりますが、そのうち描写される部分は1人につき2パートと限らせて頂きます。
 パート選びは、特に描写してほしい内容でお選び頂いて構いません。
 Cに関しては分岐がございますが、物語の行く末が気になる方は、C①をお選び頂ければと思います。
 ステラへの言葉、レオンへのアドバイス等をしたい場合も①をどうぞ。

 こちらの文章としましては、プロローグや既出リプレイをご参照ください。
 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。


個人成績表 Report
ビアンデ・ムート 個人成績:

獲得経験:29 = 24全体 + 5個別
獲得報酬:1224 = 1020全体 + 204個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
こちらではバレンタインにチョコを渡す習慣があるんですね……私のいたところではなかったので新鮮です

では私もお世話になった方にチョコを渡します
幸いチョコは3つ手に入ったので、レオンさんに渡しても2つは使えます

というわけで、私はシトリ先生とベリル先輩に渡します
お二人とも課題でお世話になってますし、シトリ先生には色々な相談に乗ってもらったりと学校の事以外でも助けてもらってますから

とはいえ、チョコはこちらに来て初めて見知った物なのでまだ調理に自信がなくて……なので、失礼ながらカカオポッドから手に入れたままの物をお渡しします
確かシトリ先生は紅茶お好きという話を聞いたので、良ければその時にでも食べてください

フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:37 = 24全体 + 13個別
獲得報酬:1530 = 1020全体 + 510個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
●方針
レオンのお手伝い。ステラにチョコと、想いを届けられるように。


●行動
B+C

B:
カカオポッド全然集まらなかったわ…(※出目3)


えぇい!気を切り替えるわ。
量が少ないならチョコレート菓子にすればいいのよ。
もふもふ手のレオンくんには『薄皮の手袋』を貸し出して…
グラヌーゼ麦粉(薄力)とバター卵諸々…これにチョコを溶かして混ぜて焼けば、ガトーショコラの完成よ!
日持ちするからプレゼントにも最適のはず!

C:
みんなに配る分とレオン君のを分けて…はい。
(レオンのは型にエンボス加工して、レオンの名前をそっと入れてます)
彼女を大切にしたい遠慮しすぎもダメよ、後悔ないようにね

アンリ・ミラーヴ 個人成績:

獲得経験:29 = 24全体 + 5個別
獲得報酬:1224 = 1020全体 + 204個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
ダイス目は4・2。

A:街中で【恋の薬】を開け、漂う臭いにカカオポッドが寄ってくるのを期待しながら、歩いて回る。
カカオポッドが来たら、チョコモンスターになる前に【部分獣化:跳躍】で飛びかかり、捕まえて【天界の戒律書】を叩き込んだり体を折るなりして素早く仕留める。
チョコは【荷物カバン(大)】に入れていく。
捕まえる前にチョコモンスターになってきたら、戒律書で戦う。

C:レオンさんと一緒に公園でステラさんを待つ。
俺の存在はステラさんに気付かれないよう大人しくしてる。
小さくて猫の手のレオンさんの代わりに、俺がチョコをステラさんへ手渡そうと思う。
身長をどう思われたいかレオンさんに聞いて、手の高さを調節。

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:29 = 24全体 + 5個別
獲得報酬:1224 = 1020全体 + 204個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
…ザコちゃん思うんだけどー、なーんでケットシーって大体ほとんど人種に友好的なんだろーね。
お陰で仕留めるついでに調べたり遊んだり出来ないからー、学園資料に乗ってる以上のことわっかんないんだよねぇ。
そのうち、仕留めざるを得ないようなバタバタはた迷惑なケットシー集団でも来ないもんかな、ねぇ?

なんせよ、まずはカカオポッド仕留めに行く。
こないだの課題で相当大量な数仕留めたし、そっから出たチョコはちゃめちゃにあるんだけど、それじゃダメ?
なーにが問題なのか…鮮度?仕留めたてと数日の熟成で味変わんもんなのかな。

とりまひとまず、独立孤立気味なの1匹しとめてー、それ囮に仕留めていけばいーかな。
6枚あれば切りあげ。

ベイキ・ミューズフェス 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:67 = 24全体 + 43個別
獲得報酬:2610 = 1020全体 + 1590個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
ちょっと板チョコの収穫が少なかったんで……ドーナツにして嵩まししましょうか

◆B
板チョコを大体1センチ位に刻んで、ホットケーキ用の粉にバター、砂糖、牛乳に卵を混ぜた生地に投入
わっか状に型抜きした生地を油で揚げて、わっかの半分だけ湯煎したチョコに浸けてチョココーティング

これで手をチョコで汚さないで食べられます

さあ、バスケットに盛ってステラさんに会いに行きましょ

◆C1
お友達のお友達としてご挨拶
ドーナツを紙に包み手が汚れないようにし、レオンさんのもふもふの手でケットシーだとばれて困りそうなら、代わりにステラさんに手渡して

私の手だとばれて「レオンさんの手から欲しい」と言われたらレオンさんから渡して貰って

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:29 = 24全体 + 5個別
獲得報酬:1224 = 1020全体 + 204個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
まずはチョコの入手からだな
まぁ、オレはレオンに渡す分と個人的に楽しむ分だけあればいいから
適当に街を散策するとしようか
散歩気分でカカオポッド見かけたら倒せばいいだろ

手作りチョコは材料も制作法も簡単なトリュフチョコだ
小さ目、柔めに作って嵩マシしておこうか
あ、自分の分とレオンに渡す分以外は欲しい人がいたらあげてしまおう
それでも余るようなら・・・トリュフにして東雲くんに渡しに行くか
孤児院にでも持って行ってくれるだろ

無駄にしないで済むし、いいことっぽいことできるし良い事尽くしだな

そういえばお嬢、目が見えないとのことだが覚醒してるし視力を失ってからそれなりの時間が経ってるんだろ?
何か感じられてしまうかもな



雪路・成町 個人成績:

獲得経験:29 = 24全体 + 5個別
獲得報酬:1224 = 1020全体 + 204個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
B・Cの①を選択

レオンとチョコを作りながら仲を深める
ステラに渡すのを成功させるのが目的

レオンと一緒に作ろう誘う
レオン自身が作ったものを渡したほう思い出になると思ったから

手袋を付けてあげて作る

二種類のチョコレートを作ることにする

難しいこと以外は、レオンにやってもらう

チョコにナッツや干した果物を入れて、ハートのチョコバーを
フルーツにチョコをコーティングしたものを作る

少しでも、レオンが作ったことがわかるように手紙やラッピングも添えることに
手紙に彼の手形を添える

レオンがステラに渡せるようにふたりっきりにさせる
躊躇っているようなら、後押しする

遠くで見守る

上手く渡せたら、儚げに見つめる

リザルト Result

●Alstroemeria
 右へ、左へ。【アンリ・ミラーヴ】が顔を動かすたび、さらさらと銀色の髪が揺れる。
(本当に。こんなところに、いるのかな)
 思いつつ、アンリはレゼントの街を歩いていた。もちろん、チョコレートの材料となる、カカオポッドを捕まえるためだ。
(カカオの匂いに寄って来るらしいし。濃いチョコの香りがするっていう『恋の薬』を用意して、歩き回ってみたけど)
 今のところ、姿を見かけない。さすがに、人通りの多い場所にはいないということだろうか。
 首を傾げながら、アンリは手に持った小瓶を鼻に近づけてみた。甘い匂いがする。うん、偽物じゃない。
(なら、やっぱり場所かな。もっと人通りの少ない場所へ……あっ)
 見つけた。どうやらチョコレートの香りに寄ってくるというのは本当らしい。
 チラッ、チラッと木陰から顔(?)を出すカカオポッドはどう見ても包装された板チョコだったが、どこか小動物っぽさも感じられ、可愛らしい。
 だがアンリの行動は早かった。素早く両脚を獣化させ、カカオポッドの背後へと跳躍し、それから。
「えい……っ!」
 着地すると共に、もう片手で持っていた天界の戒律書を勢いよく振り下ろす。
『$¢£%#&*@~!!??!!』
 直撃だった。とっさの事態に動けなかったカカオポッドは、ピアノの鍵盤を同時に何個も押したような、奇妙な鳴き声と共に『砕ける』。
 具体的に言うと、ビリビリッと小気味よい音が鳴り、チョコレートを包んでいた銀紙が一部破れ、包まれていたチョコ部分がぽろっと欠け落ちた。
(不思議。原生生物って聞いたから、ずっと昔からいる生き物なんだろうけど)
 どう見たってお菓子。思っていると、カカオポッドはピョンピョンと跳ね、アンリに抗議の意を唱え始める。
 言葉にするなら、『見てただけじゃん!』『ボク悪いことしてないじゃん!』という感じだろうか。
「うん、ごめんね。でも、どうしても美味しいチョコが必要なんだ」
 だから、ごめんね。言葉と共に、アンリの手が動く。ゴンッ! 鈍くも大きな音が鳴り、さらに包装紙が破けた。バリバリッ。ぽろろっ。
 けれど、言葉とは裏腹に。アンリは少しだけ、懐かしさを感じていた。
(大事に食べるために、狩りをする。草原で、父さんや友達と、獲物を追いかけていた時みたいだ)
 生きる糧を得るために、感謝の意と共に、命を頂く。
 今回は必要な分のチョコレートを集めれば良いだけなので、完全に仕留める必要はないが、根っことしては同じだ。
(俺は、絶対。レオンさんの願いを、叶えたい)
 だから、ごめん。でも、ありがとう。
「大事に、使うね」
 たくさん砕けて気絶したらしいカカオポッドにそう呟いてから、アンリは落ちている板チョコを丁寧に集め、鞄にしまう。



 同時刻、【チョウザ・コナミ】はフトゥールム・スクエアの校舎内をうろついていた。
(この前だってチョコモンスターの騒動あったし、こっちのがいそうじゃん?)
 愛と憎悪は紙一重、バレンタインとは恋と戦争の日。
 そんな話はチョウザにとって心底どうでも良かったが、甘いものがあまり好きではないが故に参加したチョコモンスター掃討は、まだ記憶に新しい。
(というより、アレで相当大量な数仕留めたし、そっから出たチョコはちゃめちゃに余ってるんだけど)
 それ使うじゃダメ? なーにが問題なのか……鮮度?
(仕留めたてと数日の熟成で、味変わんもんなのかな。そもそも謎い生物すぎっし、今度教官様に聞いてみよ)
 考えていると、視界をさっと横切る茶色い物体が見えた。甘い香りが鼻をくすぐり、ふわっと空気に溶けていく。
 とはいえ、追いかける気の起きなかったチョウザは、ふあ、とあくびを零しながら、六角棒で軽く肩を叩きつつ、事の発端をふり返る。
(そもそも、ザコちゃん思うんだけど。なーんでケットシーって、大体ほとんど人種に友好的なんだろーねぇ)
 聞くに、ケットシーとは祖流族と妖精族を真似て作られた魔物……つまりは遠い昔、魔王がこの世界に放った、対人間向け生物兵器みたいなものだ。
(それに魔物は、基本的には『魔王に絶対服従』で、『他の種族は滅ぼすべき対象』だって思ってるんでしょ?)
 それがなーんで、恋だの愛だの、飼い猫だの。そんな話になっちゃうわけ?
(まー、思考思索がまるっと同じで画一的なんて、なーんも面白くないからいいけど)
 仕留めるついでに調べたり遊んだり出来ないから、学園資料に乗ってる以上のことわかんないんだよねぇ。
 思っていれば、突如曲がり角から飛び出してきたカカオポッドが脚にぶつかった。ゴツン。反射的に振り下ろした六角棒が、見事その姿を捕える。
『$¢£%#&*@~……』
 パタッ。様々な経験をこなし、自然と成長していたチョウザの一撃は、弱小モンスターに括られるカカオポッドにとって十分な痛手であったらしい。
 破けた包装紙が桜吹雪のように舞い上がり、光を放って消えた頃、数枚の板チョコ(包装済)がその場に残された。
「ちょーどいいや、これ囮にして残りも集めよ。ザコちゃんかしこーい」
 転がっていた板チョコと、気絶しているカカオポッドを抱えたチョウザは、のらりくらりと歩みを再開する。

●Begonia
 それから、それから。
 各自カカオポッドを倒し、材料となる板チョコを集め終えた7人は、調理室で待っていた【レオン】と合流した。
「みなさま。今日は本当に、ありがとうございます~」
 余程感激しているのだろう。今日何度目かのお礼を言い、深々と頭を下げる茶トラ模様のケットシーは、もう既に涙目の様子だった。
 まだチョコを作り始めてもいないのに、全身から感謝のオーラを発しているレオンに、チョウザは肩を竦める。
「些かに今更なんだけどー。今まで声だけやり取りな動きスタンス崩さなかったってなら、本日今日もばらすつもりないんでしょー?」
「はい~。お嬢様の飼い猫レオンからではなく、お友達の『リオン』として、お渡し致しますので~」
 想像したのだろう。ほわほわとした空気を纏いながら答えるレオンに、7人はわずかに沈黙する。
 『リオンさん、ですか』『……捻りがないな』『さすがに似すぎじゃ……?』なんて各々が思っていると、
「うける、そっくり。それ、もーバレてない? ま、そーでなくとも、渡す時に猫手ならもふみでバレんでしょ」
 誰かの手、借りたら? と続いたチョウザの言葉に、レオンは雷に打たれたかのように固まった。
 茶色の尻尾がぼわっと膨らみ、藍色の瞳をまんまるにしている辺り、どうやら思ってもみなかった指摘であるらしい。
(のんびり屋さんで可愛らしいなと思ってはいましたが、まさかこれほどとは……)
 苦笑しつつ、【ベイキ・ミューズフェス】は思う。あぁ、けれど、もしかしたら。
(ステラさんは『お友達さん』がレオンさんだと、既に気付いているのかもしれませんね)
 だが、人間のふりをしているレオンに合わせ、気付かないふりをしているのかもしれない。
(レオンさんが傷つかないように。哀しい気持ちに、ならないように)
 それは小さなすれ違い。だがレオンがこれからステラにしようとしているのと同じ、『優しい嘘』でもあるのだろう。……が。
(そんな優しさのすれ違いは……ちょっと、寂しいですよね)
 たとえば、もしも。公園限定で会える誰かではなく、常に傍にいるレオン自身が、ステラのお友達になれたとしたら。
 彼女の動かせない脚の代わりに、本棚の高い位置にある書物へ背伸びをしたり。
 彼女の閉じられた目の代わりに。綴られている内容を読み、言葉にすることで、彼女と『面白い』を共有できるのかもしれない。
(それはとても、素敵なことではないでしょうか)
 暗い世界に、たった一人でいるよりも。誰かと笑ったりするほうがきっと楽しいし、『生きること』だって眩しく感じられはしないだろうか。
 ならば、できるなら、そうなって欲しい。思っていると、レオンがぽつりと、言葉を落とす。
「わたくしがこの手で~……ケットシーである限り~、お嬢様に『ありがとう』を伝えられないのでしょうか~……」
「それは、逆じゃない?」
 ふわふわの両前足を見つめるようにして、俯いたレオンに、【フィリン・スタンテッド】が微笑む。
「レオン、あなたには普通の猫と違い、『言葉』があるでしょう? あなたがその気になれば、いつだって伝えられるはずよ」
 それとも、ケットシーだとバレたくない理由があるの? 
 続く質問に、レオンは弱りきったような様子で、
「わたくし~……実はステラ様に助けて頂くよりも前に~、ケットシーであることが理由で、捨てられたことがありまして~……」
 ぽつぽつと。呟くように続けられた内容は、こうだ。
 どうやらレオンは、ステラに拾われる前は、他の貴族の飼い猫として過ごしていたらしい。
 その時生まれたばかりだったレオンは、気付けばその家にいたものだから、ケットシーという自覚がないままに、可愛がられていた。
 だがある日、自分は何故か人間と同じように『言葉』を話せることを理解して、その喜びのままに、言ってしまったのだそうだ。
 『ありがとう』、と。
「そうして、わたくしはおうちを追い出されたのです~……当然です~、わたくしのことを、ただの猫だと思っていたのですから~」
 まさか、魔物を育てているとは思わなかった。しかも喋るだなんて、気持ち悪い。
 出ていけ。――あの時の言葉が、耳から離れない。だから。
「わたくしは怖いのです~……ステラ様はお優しい。知っています、わかっています。でも、恐ろしくて、わたくしは~……」
 放り出されて、途方に暮れて。お腹が空いて丸まっていたら、馬車に轢かれそうになって、でもそれも良いかな、なんて。
 思ってしまった時に、身を挺して助けてくれた、女の子。
 きっとこのヒトなら怖がらない。そう思って、目を覚ます時まで毎日病室へ向かい、医者につまみ出され、そうして迎えた、『初めまして』の日。
 『ありがとう』と。――言いかけて、急に。怖くなって、しまって。
「そうです~……わたくしがあの日、猫のフリをして、嘘をついたりしなければ。今日、みなさまの手を煩わせることだって、なかったのです~……」
 『ごめんなさい~』。思いの丈を、初めて打ち明けたからだろう。とうとう鼻を啜り始めてしまったレオンに、フィリンは小さく首を振る。
「ううん、責めているわけじゃないの。……本当の自分を曝け出すのは、勇気がいるもの。嘘をついてしまうことだって、あるわよね」
 でもね、レオン。
「後悔のないようにね? ステラさん、アークライトに覚醒しているんでしょう?」
 静かな声で確認するフィリンに、レオンは頷く。ぺたんと、思いきり、耳を下げて。
 だからフィリンは繰り返した。後悔しないようにね。今日がいつまでも続くのだと。
「当たり前のように思っていたら。突然終わってしまうことも、――あるんだからね」



 『渡し方は、その時まで悩めばいい』、『俺たちが代わりに渡すことも、猫の手を手袋でごまかすことだって、出来るだろうから』。
 そんな【雪路・成町】(ゆきじ なりまち)の言葉が決め手となり、ステラにどうやって渡すかという問題は保留のまま、チョコ作りが始まった。
「レオン、こっち来て」
「はい~……」
 ずびっと鼻を鳴らしたレオンが、雪路のいる調理台へと近づく。促されるままに飛び乗ると、そこにはカラフルな色彩があった。
「わぁ~……ドライフルーツですか~」
「うん。これとナッツ類を使って、ハート型のチョコバーを作ろうと思う」
「ハート~……」
 想像して照れたらしい。両前足を頬に添え、ほわ~っとし始めたレオンに、雪路は『はい』、と。
「これ。ケットシーの手にも合いそうな薄皮の手袋と、子供用のエプロン。探してきたから、着けて」
「? 今日は寒いからですか~?」
「そうじゃなくて。レオンも一緒に作れるように」
「わ、わたくしがですか~~~」
 めいっぱいの歓喜と困惑をごちゃまぜにして、レオンが尋ねる。小さな両前足が、ぎゅっと手袋を握りしめていた。
 だから雪路は、ほんの少しだけ。優しげな笑みを浮かべて、
「難しいことは俺がするよ。でも、レオンにできそうなことは、任せるから。ナッツを綿棒で叩いたりとか、溶かしたチョコをかき混ぜたりとか」
 そういうことなら、出来るだろ? 雪路の質問に、レオンは頷く。何回も、なんかいも、噛み締めるように。
 そんなレオンに、『簡単な物にして正解だったな』と雪路が思っていると、レオンが突然の跳躍を見せた。
「わっ……こら、危な……」
「ありがとうございます、ありがとうございます、雪路さま~~~!!!」
 飛び掛かってきたレオンを、思わず雪路は受け止める。大きな猫を抱き上げるような形になって、ぱちりと瞬(まばた)いた。
 まるで子守をしてるような体勢に、気恥ずかしさが募る。だが、レオンがごろごろと喉を鳴らし、頬にすり寄ってくるものだから。
(まずは、手を綺麗に洗ってからだな)
 そんなことを思いつつ、苦笑する。猫の足跡を押した、カードを同封するのも良いなとも、思いながら。



 そんなふうにして。レオンはそれぞれのチョコレートを手伝う機会に恵まれた。
 フィリンに声を掛けられれば、ガトーショコラの材料を混ぜまぜし。
 チョウザに呼ばれ、溶かされた『トピアリーチョコ』のボウルを渡されれば、固まるまでぎゅっと抱きしめ、お魚型チョコレートを作った。
 そればかりか、雪路が余ったチョコレートで生の果物をコーティングしようとしていることに気付けば、自分もやってみたいと調理台に飛び乗り。
 ベイキがチョコレートドーナッツを作るために、わっか状に生地を型抜きしているのを見れば、『わたくしにもできますか~』と顔を出したりもした。
(『後悔しないように』って。さっき、圧を感じる女ゆーしゃ様が言ったこと、気にしてんのかもね)
 あの時耳を下げていたし、ステラがアークライトに覚醒したということの意味を、レオンも理解しているのかもしれない。
(……馬車に巻き込まれて、盲目車いす生活か。おまけにアークライト化なんて、ねぇ)
 つまらなそうに頭を掻いたチョウザは、いつも通りの笑みを浮かべながら、ちょいちょいとレオンを手招き、
「ちょーっと肉球かして? んで、消毒液あるから、これで拭いて」
「? わかりました~」
 言われるがままに手袋を外したレオンは、差し出された簡易救急箱の消毒液をガーゼに染み込ませ、自分の肉球を拭き始める。
 それが終わったのを確認してから、チョウザは表面だけ柔く溶かした板チョコを、レオンの前に並べた。
「6枚あるから。好きに肉球ぺたぺた押し付けスタンプしてって」
「! なんだか楽しそうです~」
 ぺた。ぺたぺたぺた……。最初の1枚はそっと、2枚目からはどこかリズミカルに押される肉球スタンプを見つつ、チョウザは頬杖をつく。
「本気でばらしたくないんなら、それはザコちゃんから渡したげる。知り合いの猫が手伝いたがったからーって言えば、安心安全でしょ?」
 お礼は抜け毛か抜け髭でいーよ。笑うチョウザに、レオンは頷く。けれどその瞳にはまだ、迷いが見えた。

●Crowea
 だが、チョコレートを作り終われば、次は答えを出す番だ。
「わたくし、どうしたら~……」
 7つのチョコレートを前にして、思考の袋小路に入ってしまったレオンに、『あの』とアンリが声をかける。
「俺、思ったんだけど。そもそも、レオンさんの手で7個ものチョコを持ち運ぶのは、無理じゃないかな」
「確かに。俺も作る前は、チョコは全てレオンに渡し、俺達はステラとレオンが二人きりになれる状況を作るのが良いだろうと考えていたんだが……」
 雪路は顎に指を乗せながら、レオンの手を見る。ケットシーは普通の猫より大柄とはいえ、やはり猫なのだ。
 故にその手にあたる前足は、人の手程にサイズもなければ、指と指の感覚も広くはない。つまり、レオンの作戦は最初から、破綻していたのだ。
 彼の手では、『たくさんの』チョコレートを持つことなど到底できず。
 その上でもしも、レオンが自分自身で渡したいと願うなら。それはきっと抱きしめるような形で、せいぜい頑張って2つが限度だろう。
「どうする? レオンが仮に2つ渡すとするなら、残りの5つは俺達が……いやしかし、初対面の俺達が彼女にチョコを渡すのは、さすがに変だな」
「俺達もついて行って、でも何もしゃべらないでいたら、ステラさんに気付かれずにすまないかな。渡したり話したりは、レオンさんに任せて……」
「出来なくはないが、難しいだろうな。彼女は目が見えないんだろう? ならば恐らく、視覚以外の感覚に対して、かなり注意を向けているはずだ」
 意見を交わし合う雪路とアンリに、『それなら』とベイキが口を開く。
「いっそ『リオン』さんのお友達として。私達もご一緒するのはいかがでしょう」
「……口実は?」
「そうですね……、レオンさん、何か思いつきます?」
「えっ? あっ、えっと~……フトゥールム・スクエアの生徒さん、とか~……」
 突然話を振られ、己の小さな手を見つめていたレオンが、顔をあげる。
 『どういうことですか?』とベイキがたずねると、レオンは身振り手ぶりを交えつつ、
「ステラ様は、実は、フトゥールム・スクエアの招待状を持っておられまして~……」
 レオンが言うに、理由はわからないが、ステラは既に学園の招待状を持っていて、しかしそれをずっと机の引き出しに閉まっているらしい。
 不思議に思ったレオンは、リオンである時に『それとなく』尋ねてみたのだが、はぐらかされてしまったのだそうだ。
「でも、ステラ様は歌う事がとてもお好きなのです~。だからきっと~、音楽を学べるこの学園が、気になっているのです~」
「なるほど、それは使えるな」
 レオンの言葉に、雪路が頷く。ならば、こういう筋書きはどうだ?
「俺達は『リオン』の友人であり、フトゥールム・スクエアの学園生。かねてから親交のあった俺達は、リオンから、バレンタインの相談を受ける」
 そして。
「その相手が、かつてリオンから話を聞いた、『学園の招待状を持ち、気になってはいるが、招待状を使えていない少女』だと知り」
 ゆえに。
「『なにか不安などがあるのなら、相談に乗ろうと思って』、リオンと共にやってきた」
 俺達がチョコを分担して持っているのは、『はりきり過ぎたリオンがチョコを大量に作り、一人では持てなかったから』とも言えそうだ。
 そう言って、ふっと笑った雪路に、反対の声はあがらなかった。



「まぁ、そうなんですね。ふふふ……」
 雪路の作戦はうまくいき、ステラの膝上には大量のチョコの包みが載せられることとなった。
(というより、『全てを言葉のままに、受け入れてくれた』と言ったほうが、正しいのかもしれない)
 思いつつ、フィリンは魔法式の車いすに乗り、瞑目している少女……ステラを見る。
 白銀色の髪に、雪のような白い肌。車いすを器用に操り、公園に現れた彼女は、とても綺麗だった。
 見た目の話ではない。心根が、美しいのだ。
 彼女は『リオン』が緊張して噛み噛みになりながら、雪路の台本通りに話し終わるのを、微笑みでもって待ち続け。
 それが終われば、少し前から彼と親交のあった友人なのだと偽った自分たちに対して、深々と頭を下げたのだ。
 『ありがとございます』、と。
(やっぱり、気付いているのね)
 それ以上のことは言わなかったが、あれはきっと『自分を気にかけて来てくれて』というより、『この子に協力してくれて』、『ありがとう』だ。
 わかるのだ、フィリンには。こんなにも光輝くオーラを纏う人に、一度だけ。会ったことが、あるのだから。
(……眩しい、なぁ)
 人知れず眉を下げたフィリンとは裏腹に、アンリはどこか興奮した様子で、言葉を続ける。
「うん、それで。俺達は、リオンさんと一緒に、チョコを作ったんだ」
 言葉を選んでいるのだろう。流暢な話し方ではなかったが、アンリは一生懸命、ステラにお話していた。
 レオン……リオンが、自分たちに、チョコレートを作りたいから助けて欲しいと嘆願しに来たこと。
 自分たちがカカオポッドを倒し、チョコレートを手に帰ってきた時、心の底から嬉しそうな様子だったこと。
 一緒にチョコレートを作るときはとても頑張って、たくさんのお手伝いをしてくれたこと。
(伝えたい。レオンさんが、どれだけ、ステラさんのことを大切に思っているのかを)
 たとえ『リオン』が主語であったとしても、話している内容は、レオン自身の行動なのだ。
 ならば、伝えてあげたいじゃないか。彼がどんなに、ステラを思って、尽力していたのかを。
 そんなアンリの熱い思いに気付いているのか、いないのか。ステラは時に相槌を打ちながら、ベイキの作ったチョコレートドーナッツを口にする。
 さくり。一口食べれば優しい甘さが口に広がり、チョコレート部分からはカカオの芳醇な香りが漂うそれには、ベイキの心遣いが散りばめられていた。
 まず、その場ですぐに楽しめるよう、ボックスタイプの包装ではなくバスケットに盛りつけられる形で仕上げられ。
 しかし指が汚れないよう、ドーナッツの1つ1つが、コーヒーフィルターの中に収められていた。
(これなら、ほどよく油を吸収してくれますし。コーティングしたチョコレートがぽろっとしても、フィルターの中に収まってくれますから)
 一石二鳥です。心の中で頷いたベイキは、アンリのお話が一区切りしたところで、言葉を添える。
「そういえば。ステラさんは、どうして学園の招待状を、そのままに?」
 尋ねるベイキに、ステラは食べていたドーナッツを一度置いてから、
「私は、このような身体ですから。いえ、ある程度のことは、自分ひとりでどうにか出来るのですが……」
 万が一があった時、困ったことになってしまうでしょうし。そう答えるステラに、やはり、とベイキは思う。
(捨てずに持っていたのなら、そういうこと、ですよね)
 ならば――。
「それなら大丈夫ですよ、ステラさん。実はここに来る前、学園長先生に聞いたのですが、寮には相部屋のできる広い部屋もあるのだそうです」
「そうなの、ですか?」
「えぇ。ですので、仲の良いお友達と一緒に入学することも出来ますし、学園で出来たお友達と相部屋を始めることもできますし」
 もちろん、慣れ親しんだおうちのかたとご一緒に入寮されても、大丈夫だそうです。
 続くベイキの言葉に、ステラは少しの逡巡の後、
「……でも、私がいなくなったら。レオンが……」
「レオンさん?」
 ぽつりと呟かれた言葉に、アンリが反応を示す。はっと我に返ったステラは、今日初めての狼狽を見せてから、頷いた。
「はい……。その、レオンというのは、私の飼っている、猫のことなのですが」
 話し始めるステラに、レオンが近付く。触れられない、一歩手前。そんな場所で、ステラを見上げていたレオンは、確かに聞いた。
「とても甘えん坊な子なので。私がいなくなったら、寂しがってしまうんじゃないかって」
「……っ!」
 ああそうか、このひとは――。
「だ、大丈夫です……っ!」
 ずっと、わたくしのことを。
「きっときっと、会いに行きますっ!!」
 ずっと、案じてくださって。
「だから、大丈夫です! ステラ様、レオンは、レオンは……っ」
 それは大粒の涙と、一緒だった。溢れるような気持ちと共に、レオンは言葉を続ける。
「ずっとステラ様の幸せを願っておりました! 出会った時からずっと、ずっと、だから……っ!」
 わたくしのことは気にせずに。
「やりたいことを、なさってください! 大丈夫です、だって」
 こんな、わたくしにも。
「おともだちが、できたんです……っ!」
 嗚咽を混じらせながら、レオン……『リオン』は伝える。
 そんな彼に、ステラは驚いた表情をして、それから。
「あなたがそういうのなら、きっとあの子も。そう思って、くれるのでしょうね」
 ――笑った。

●Cyclamen
 同時刻。カカオポッドから得た板チョコをレオンに渡した【ビアンデ・ムート】は、その足でとある場所へと向かった。
(シトリ先生には、色々な相談に乗ってもらったりと。学校の事以外でも助けてもらっていますし)
 幸いあともう一枚あるので、もしベリル先輩もご一緒でしたら、お渡ししたいのですが。
 思いつつ、到着した部屋、【シトリ・イエライ】の執務室の扉をノックする。コンコン。ガチャ。あっ……。
「あなたは、確か」
「お久しぶりです、ベリル先輩」
 扉を開けたカルマの少女……【ベリル・ドロン】は、ぺこりとお辞儀をするビアンデに、『お久しぶりです』と無機質な声で応える。
(そういえば、以前課題で一緒になったことがあるとはいえ、面と向かってお話するのは初めてでした)
 あの時は時間もなかったですし、まずは自己紹介からでしょうか。悩み始めたビアンデの視界に、ひょこ、ともう一人。
「おや、ビアンデさんじゃないですか。いらっしゃい」
 どうされました? なんて顔を出すシトリは、いつも通りの笑みでビアンデを迎える。
 だからだろうか。肩の力を抜いたビアンデは、ほっと息をついてから、
「お世話になったシトリ先生とベリル先輩に、感謝の気持ちを伝えたくて……」



 室内に通されたビアンデが、チョコレートを差し出した時。二人の反応はまさに正反対だった。
 まずはベリル。やはり彼女はカルマらしく、相変わらずの無表情で『ありがとうございます』と礼を述べ、チョコを受け取り。
 対するシトリは、『えっ』と驚いてから、一度視線を彷徨わせ、それからコホンとわざとらしい咳払いをしてから、
「ありがとうございます。美味しく頂きますね」
 なんて言って受け取る手つきは、相変わらずの丁寧だったが、ビアンデにはどこか戸惑っているようにも感じられた。
(やっぱり、カカオポッドから手に入れたままのものをお渡しするのは、失礼だったでしょうか……)
 思いながら、勧められたカウチに座り、振る舞われた紅茶に口を付けていたビアンデは、それなら謝らなければ、と。
「あの、すみませんでした」
「うん?」
 カップを置き、突然頭を下げるビアンデに、シトリは首を傾げる。
 だからビアンデは、言葉を続けた。
「チョコはこちらに来て初めて見知った物なので、まだ調理に自信がなくて。それで、板チョコのまま、お渡ししてしまったので……」
「あぁ、いえ、お気になさらず。どんな形であれ、甘いものは好きですし。とても嬉しいですよ」
 ありがとうございます。そう微笑むシトリに、嘘を言っている気配は感じられない。
 じゃあ、どうして? と首を傾げたビアンデに、シトリも察したのだろう。『あぁ、なるほど』と言葉を落としてから、
「……そんなに顔に出ていました? これでも、不自然にならないよう、頑張ってはみたのですが」
「がんばっ、て……」
 『先生』らしからぬ発言に、きょとん、としているビアンデに、シトリはどこか照れくさそうに、
「実は、先ほどのように。面と向かっていただくことは、あまりないもので。何分、子どものころから、こういったことにはまるで縁がなく」
 教卓の上に乗っていることはありますがね。なんて言葉を続けるシトリに、ビアンデはぱちりと瞳を瞬かせ、
「シトリ先生の故郷でも、チョコレートは珍しいものだったのですか?」
「いえ、チョコもバレンタインもありましたが。あまり友人が多い部類ではなかったというか、昔の私はコミュニケーションに難があったというか……」
「つまりヒキコモリだったのです、マスターは。ですので、ビアンデさんが気にされるようなことは、何もありません」
 『そうはっきり言われると、さすがの私も傷つくんですが』、『過去は変わりません。受け止めて未来を見るべきです、マスター』。
 そんなやりとりをし始めた二人に、ビアンデは思わず、くすりと笑う。
 意外な一面もあるのだな、なんて思っていると、シトリはわざとらしく、コホン、と、
「私のことは良いのです。ビアンデさん、あれから『ご友人』とは、お会いできましたか?」
「えっ? あ、えっと……」
 思わぬ話題を出されて、言葉が凍る。そんなビアンデに、シトリはゆったりと微笑んでから、
「あれから、私も考えてみたのですが。彼女が哀しみに陥ってしまったのは、ビアンデさんのことが『わからなくなって』しまったからかもしれません」
 つまり。
「いつか大けがをしてしまうんじゃないかという不安だったり、誰かのために自分を投げ出してしまわないかという懸念だったり」
 大切な友人を失いたくないという、恐怖だったり。
「それはつまり、『誰かを守ることをやめて欲しい』というよりは、『もっと自分を大事にして欲しい』ということではないでしょうか」
「そうなので、しょうか」
 呟くビアンデに、シトリは首を振る。わかりません、全ては想像の範囲内です。ですが。
「ビアンデさんのことを嫌いになってしまったわけではないと、私は思いますよ」

●Campanula
「バレンタイン~~~、ウェーイ↑↑↑」
 ――同時刻、フトゥールム・スクエアの食堂では。
「いやァ、まさか貴人君が、俺に! チョコくれるなんてなァ~!」
 フッフー↑↑↑。テンションあげあげ状態の【東雲・陽】(しののめ よう)が、それはもう喜んでいた。
 そんな陽へ、『騒がしいぞ』と眼鏡の位置を正しながら文句を言う【サフィール・エルネスト】に、【ラスク・シュトラール】も頷く。
「さっきまで『今年も貰えなかったわァ~』って煩かったんですから、そろそろ静かにしてくださいません?」
「いやいやいや、これが落ち着いてられるゥ? だって友チョコよ、フレンズよ! しかもこんなに!」
 フッフー↑↑↑! 輝くような笑みを浮かべる陽は、1つ1つ紙に包まれたトリュフチョコが、山盛りに詰まった箱を抱えている。
「もうこれはマブの証だよなァ~、なァ貴人クゥン~」
「いや、誰も全部、東雲くんにあげるとは言ってないぞ」
「えっ……!?」
 ずばっと言い切った【仁和・貴人】(にわ たかと)に、陽はビシャーン! と固まる。
 そんな陽に、『人の話は最後まで聞け』と肩を竦めた貴人は、仮面の位置を直しつつ、
「東雲くんと、この前一緒に演劇を披露した、孤児院のみんなに、だ。訳あってチョコレートを作ることになったんだが、思ったよりも材料が余ってな」
 だから、ちょっと小さ目ではあるが、たくさん作ってみんなに配ろうかと。
 続く貴人の言葉に、陽はぽかん、とした表情を浮かべる。
 けれど、それはみるみるうちに笑顔に――さっきまでの騒がしいものではなく、胸の奥から広がるような、そんな笑みだ――変わって、
「マジで? ……良いの? あいつらに、あげちゃって」
「もちろん。そのために作ったんだから」
「しかも手作り? いやもうホント、ヤめてよ俺、涙腺弱いんだからさ……」
 ぐすっ。明らかに鼻をすすり始めた陽に、『よかったな』とサフィールが苦笑する。あぁ、それなら。
「僕達も配るのを手伝おうか。恐らくだが、ヨウ、キミが育ったという孤児院についての話だろう?」
「うん……俺んトコ、あんま金ねぇからさ。すげぇ喜ぶと思うんだ」
 聞くに、だから陽は、色々な課題に顔を出しては、『あしながおじさん』をしているのだという。
(なるほど。だから『復興』を目的とした、あのグリフォンの課題にも参加していたし)
 被害にあった村の全部を回りたいと言った自分に、いち早く賛同したのだろう。自分ではどうしようもない状況を、よく知っているから。
「それなら、俺も行こう。せっかくだからな」
「マ??? じゃ、じゃあ行こうぜ! あいつらさ、『あの鎌のにーちゃん、かっこよかったよなー!』って、よく言っててさ!」
 前のめり気味に話し出した陽に、貴人は笑う。『そっか、それはよかった』なんて、言いながら。



 そうして、三人と共に孤児院へと赴いた貴人は、たくさんの子ども達に囲まれることとなった。
「なぁなぁ、これなんていうチョコ? どうやって作んの?」
「トリュフチョコだ。チョコレートを鍋で溶かして、丸くして、ココアパウダーをまぶすだけだから、簡単だぞ」
「そーなの? すっげー! うめー! にーちゃんすげー!!」
 満面の笑みで、指や口元をココアパウダーで汚しながら。チョコを食べる子ども達は、誰もが嬉しそうで。
(無駄にしないで済んだし、いいことっぽいことも出来たし。良い事尽くしだな)
 ありがとう、カカオポッド。心の中で感謝を述べる貴人に、全てを配り終わったらしい、陽が近付く。
「今日はサンキューな、貴人君。おかげでチビ達にもイイ思い出ができたわ。いやもうマジ感謝、お返し何が良い?」
「何もいらんぞ。俺がしたくてやったんだから」
「っか~~~……かっけぇ……いやもうマジ惚れちゃいそう……マジで胸キュン5秒前……」
「それは勘弁な」
 素早く帰ってきた言葉に、わーってるって、と陽は笑う。
「んでも、俺さァ。貴人君のことガチ友だと思ってるからさ、なんかあったらソーダンしてよ。いや何かなくてもさァ! 一緒に遊ぼうぜェ!」
 勇者と魔王の仲じゃん? 肩を組みそうな勢いの陽に、『勇者と魔王の仲では、喧嘩になるのでは?』なんてラスクのツッコミが入る。
 それに対し、『ばっか、喧嘩するほど仲が良いってことだよ! 察せよ!』と騒ぐ陽は、相変わらずにやかましいのだが。
(良いよな、こういうのも。たまにはな)
 いや、たまにではないか。SSM(そこまでに・しておけよ・メメたん)案件だって結構あるし。でも、まあ。
(……悪くないよな。『こっち』の世界もさ)



 数日後。貴人の寮の部屋に、ギフトボックスが届いた。
 差出人は不明。だが、なんとなく相手の察しがついた貴人は、警戒することなくラッピングを解き、
「はは。よくできてるじゃないか」
 中に入っていた、厚紙で出来た剣や盾、クレヨンで描かれた『魔王さま』のイラスト達を眺める。
 その顔は白い仮面に覆われていてわからなかったが、どれも笑っているように見えた。

●Fleur
 さらに数日後。
 ステラは自室で、最後の1つとなってしまったチョコレートの封を開けた。
 あの日、『リオンとその友人たち』から貰ったお菓子には、猫を感じさせる趣向がたくさん凝らされており。
 その内容を使用人たちから聞くのが楽しみだったステラは、今日が最後であることに、大層肩を落としていた。
「お嬢様。そんなに気落ちされなくても、チョコならいつでもばあやが買って参りますよ」
「……あの日貰ったチョコ達は、特別だったの」
 拗ねたような言葉と共に、最後の1つを乳母に預けるステラ。
 そんな彼女に笑った老婆は、おや、と。
「ステラ様は本当に、レオンのことが好きなのですねえ。お友達にまで、飼い猫の話をされていただなんて」
「……どうしてそう思うの?」
「だって、このガトーショコラ。『From Leon』と入っていますよ」
 飼い猫からのプレゼントを装うだなんて、素敵なお友達ですねえ。
 感心する老婆の言葉に、ステラはぱちりと瞳を瞬かせてから、にっこりと。
「えぇ。私はそのお友達のことも、レオンのことも――大好きなの」



課題評価
課題経験:24
課題報酬:1020
【心愛】恋するライオン
執筆:白兎 GM


《【心愛】恋するライオン》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 1) 2020-03-04 22:04:56
勇者・英雄コースのフィリンよ、よろしく。
今回は個人行動メインだし、あまり相談することはないかもしれないけど…
あ、私はレオンの方に行こうと思うわ。自分の恋愛はあんまり…だし

まずはチョコレートの数ね…頑張ってみるっ

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 2) 2020-03-04 22:05:11
…3…orz

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 3) 2020-03-05 00:35:05
教祖・聖職コース、アンリ・ミラーヴ。
俺も、レオン手伝う。
チョコ集め。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 4) 2020-03-05 00:45:00
…ザコちゃんさぁ、去年のカカオポッド騒動の時のチョコ、まだ残ってんだけど。
いっそそれ使ったらダメなわけ?ちょっとくらい混ぜてもさぁ。
…だめか。えー。

《甲冑マラソン覇者》 ビアンデ・ムート (No 5) 2020-03-05 03:17:43
勇者・英雄コースのビアンデ・ムートです。皆さんよろしくお願いします

まだやる事は固まってませんが、何をするにもまずはダイスを振りましょう。えーい!

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 6) 2020-03-06 01:43:38
魔王・覇王コースの仁和だ。

俺もダイスだけは振っておかないとな


《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 7) 2020-03-06 01:46:02
11個・・・
こんなにあっても使わないんだが・・・
誰か欲しい奴はいるか?

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 8) 2020-03-06 01:48:11
っと9個だったな
見間違えた。
それでも多いな・・・
俺はレオンに渡す分含めて2個あればいいからな

《新入生》 雪路・成町 (No 9) 2020-03-06 21:12:03
黒幕・暗躍コースの雪路だ。

今回はレオンだっけか、サポートをさせてもらうために来た。
まあ、よろしく。

ダイスか、俺も振るか。

《新入生》 雪路・成町 (No 10) 2020-03-06 21:13:30
ん…?多くないか?
いろんな種類のチョコ作ればいいか…。
レオンと一緒に作るってことはできるのだろうか?
もふもふの手にご注意をか、そこは一緒にできることを考えよう。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 11) 2020-03-07 11:07:45
教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。
ご挨拶が遅れてごめんなさい。

とりあえず、レオンさんのお手伝いを。
いくつ出るかな。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 12) 2020-03-07 11:10:10
……こいつは参りました。
ケーキやドーナツにして嵩ましするか。