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【新歓】≪奉仕科4≫体験授業:薔薇のお茶会


ストーリー Story

『植物園リリー・ミーツ・ローズにて、薔薇のお茶会をします。
 新入生も上級生も、興味のある人は来てくださいね。
    奉仕科担当教諭 【ユリア・ノイヴィント】』

 こんなチラシが掲示板に張り出されていた。
 下の方には、詳しい場所と時間が書かれている。

「ユリア先生、今日は授業でお困りごと解決の依頼をするんじゃなくて、お茶会をするのか。まあ新入生歓迎会だしな」
「薔薇のお茶会って、ステキね」
 張り紙の前に集まった生徒たちは、優美な響きがする『薔薇のお茶会』に思いを馳せた。
 新しいゆうしゃのたまごたちの中には、地図を広げて植物園への行き方を調べ始めた者もいる。
「私、行ってみよう!」
 1期生の一人が植物園の方へ駆け出すと、わたしも! オレも! と2期生が続いた。

 ***

 みんながひと塊になって指定の場所へ到着すると、ユリア先生が微笑んで立っていた。
 見ると、先生の脇には白い瀟洒なテーブルがある。いかにも優雅なお茶会向きといったデザインだ。
 しかしその上には何も乗っていない。
「皆さん、いらっしゃい。今日はMagic of Delightの奉仕科体験授業ということで、私からの依頼を受けていただきますね」
「ええ~! 薔薇のお茶会は嘘だったの? 私たちだまされたわけ?」
「先生の依頼って、何なんですか?」
「まさかこの巨大迷路のような植物園を掃除しろ、とかそういう……?」
 生徒たちは口々に声を上げた。
 ユリア先生はコロコロと笑って、
「ああ、お掃除もいいわね。今度お願いしようかな」
 いたずらっぽく首を傾げた。
「でもね、今日はお茶会ってはっきりと書いてあったでしょう? 嘘ではありませんし、だましたりなんてしませんよ。『お茶会の準備を手伝ってほしい』というのが私の依頼です。そして、後でみんなでおいしいお茶をいただきましょう」
 そう言うとユリア先生は、魔法を使ってテーブルの上に薔薇の小花模様がついたティーセットを並べた。人数分のカップ&ソーサーとケーキ皿、それに盛り付け用の大皿も数枚。食器は全部お揃いの絵柄だ。
「さて、このとおり道具は揃っているけど、材料がまだ全部揃ってないの。ここリリー・ミーツ・ローズではジャム用の薔薇もサンドイッチ用のキュウリも栽培しているから、皆さんで探して採ってきてね」
 魔法で食器やカトラリーが出現したのを、新入生は目を丸くして見ていた。
 そんな初々しい彼らを微笑ましく見遣りながら、ユリア先生は続ける。
「他にもお茶会に良さそうなものが見つかったら、食べるものでも飲むものでも見て楽しむものでも、皆さんのひらめきで良いなぁと思ったものはなんでも、採ってきてください」
 ユリア先生は胸の前で手を小さく叩くと、
「それではスタートです!」

 生徒たちは広い植物園内で迷わないように目印になるものを覚えながら、上級生は下級生をリードしながら、バラ園と野菜エリアに向かったのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 8日 出発日 2020-05-11

難易度 簡単 報酬 少し 完成予定 2020-05-21

登場人物 5/8 Characters
《ココの大好きな人》アンリ・ミラーヴ
 ルネサンス Lv18 / 教祖・聖職 Rank 1
純種が馬のルネサンス。馬の耳と尻尾を持つ。 身長175cm。体重56kg。 16歳。 性格は温厚。 あまり表情を変えず寡黙。 喋る際は、言葉に短く間を置きながら発していく。 少しのんびりした性格と、言葉を選びながら喋るため。 思考や文章は比較的普通に言葉を紡ぐ。 表現が下手なだけで、年相応に感情は豊か。 好奇心も強く、珍しいものを見つけては、つぶらな瞳を輝かせながら眺めている。 群れで暮らす馬の遺伝により、少し寂しがり屋な面もある。 やや天然で、草原出身の世間知らずも合わさって時折、突拍子の無い発言をする。 好きな食べ物はニンジン。 食べていると美味しそうに目を細めて表情を和らげる。 趣味はランニング。運動自体を好む。 武術だけは、傷付ける行為を好まないため苦手。 入学の目的は、生者を癒し死者を慰める力を身に着ける事。
《新入生》マルガレーテ・トラマリア
 ヒューマン Lv12 / 王様・貴族 Rank 1
「仮面が気になりまして?言わずとも分かりますわ、特注品ですもの!」 仮面をつけたヒューマンの少女 素顔に刻まれし呪いに臆せず、今日も不敵に微笑む 容姿 ・黒色のウェーブボブ、白色の瞳。頭にはリボンの飾りがついたカチューシャをつけている ・目元を覆うベネチアンマスクが特徴的、頼まれれば普通に取る ・仮面の下にはヒビのような痣が両目の周囲に広がっている 性格 ・感情豊かで負けず嫌い、何事にも基本は真面目に取り組む ・普段は優雅な振る舞いを心がけているが、余裕がなくなると感情的になりやすい。そこは欠点として自分でも自覚している。 ・呪い道具への関心が強く、よく図書館で本を探すことも ・可愛いもの、綺麗なものが好き。それを身につけた綺麗で可愛い人を見るのはもっと好き。 ・顔の痣はそこまで悲観的に捉えてはおらず、頼まれれば普通に見せる ・「いちいち腫れ物に触る様に、声をかけられるのも面倒です」とは本人談 好きなもの 紅茶、りんご、童話の本、可愛いものや人 苦手なもの 薬、暑さ、暗くて狭いところ 愛称:マギー 二人称:貴方、〜様、仲が深まれば呼び捨て。敵対者にはお前 三人称:あの方
《2期生》ナイル・レズニック
 アークライト Lv12 / 賢者・導師 Rank 1
「やぁ、ぼくはナイル。ナイル・レズニックさ。この布?かっこいいだろう?」 「顔が見たい?ふふ、タダじゃ見せれないね。ごめんね。」 【容姿】 体型→細マッチョ 髪 →黒髪 瞳 →桃色/猫目 服装→キャスケット帽、雑面 【好き】 魔法、散歩、料理 【性格】 優しい 【雑面】 いつも雑面をつけている。 雑面のイラストはコロコロ変わる。 雑面の下は見せようとはしない。 顔にできたケロイドを見せたくないから。
《新入生》一雫・悲哀
 ヒューマン Lv6 / 村人・従者 Rank 1
名前:一雫 悲哀(ひとしずく ひあい) 種族:ヒューマン 年齢:17歳 外見 ・青い長い髪を緩く三つ編みにしている ・青い目 ・黄色人種 ・モデル体型 性格 育った環境が環境な為に、自分を蔑ろにする癖がついている。 自分は[醜女]だと思っており、顔を誰かに見せるのを嫌う。 村では男性から暴力を受けていた為に苦手意識が物凄く強い。 また、発育が他の人より良すぎた為に異端とされていた事もあり、自分の体型を凄い気にしている。
《商人の才覚》マリウス・ザ・シーフ
 カルマ Lv7 / 黒幕・暗躍 Rank 1
「マリウス・ザ・シーフ……『怪盗マリウス』だ」 「固すぎるビンの蓋、どこからでも開けられるはずの袋、開かずの金庫……そして、誰かに奪われた何が何でも取り戻したい宝物……」 「そういったものがあるならば、私のところに来たまえ。無論、相応の報酬はいただくがね」 本名不明。年齢不明。性別不明。国籍不明。 依頼を受けてターゲットを盗み出す、謎だらけの怪盗。 (性別に関しては、男物の服をよく着ているため、男性と仮定して扱われることが多い) 両利きで、魔法陣の位置は両手の甲。 カルマらしい球体関節の身体に、魔術的なものと思しき紋様が刻まれている。 どちらも露出の低い服で隠しており、一見してヒューマンと見分けがつきづらい。 話し方は紳士的で気障な口調、無機質で機械的な口調、フランクな若者口調の3つを、恐らくは気分によって使い分けている。 特技は鍵開け。好物はプリンアラモード。 【怪盗6ヶ条】 マリウスが己に課している、怪盗たるための6つの鉄則。 一、己の仕事に誇りと自信を持つべし 一、美意識は高く保つべし 一、日々、鍛錬に励むべし 一、道具は丁寧に扱うべし 一、暴力・破壊は極力慎むべし 一、一度定めたターゲットは必ず盗み出すべし

解説 Explan

 奉仕科の授業は『人助け』がテーマです。
 真の勇者となるために、人としての心を磨くことが目標です。

 ユリア先生は普段、人々のお困りごと解決の依頼を受け付けています。
 ストックしてある依頼の中から皆さんにお願いできそうなものを、奉仕科の課題として解決していただく、という仕組みになっています。
 ですから依頼は、簡単なものから難しいものまで多岐に渡ります。
 新入生の皆さんも1期生の皆さんも、ちょっと難しいかなと感じても思い切って挑戦していただければ幸いです。
(詳しい解説は『≪奉仕科1≫誕生日パーティーのお手伝い』のプロローグをご参照ください)

 1回ごとの授業内容は独立していますので、初めてでも問題なく課題に取り組める形となっております。

 今回は新入生歓迎会の体験授業なので簡単な依頼です。

●依頼内容
 ・薔薇のお茶会を成功させるために、薔薇の花とキュウリを採ってきてください。
  花びらはユリア先生がジャムにしますし、キュウリはサンドイッチ用です。
  採る時はトゲに気を付けてください。
 ・『薔薇のお茶会』に合いそうな『素敵なもの』を見つけた場合は、それも採ってきてください。

●プランについて
 ・プランには、どんな薔薇やキュウリなのか、見つけた場所や手に入れるのに苦労したことなどを書いてください。
 ・お茶会では皆さん自身のこと(入学した理由や今まで学んだこと、思い出など)も話して頂きたいので、文字数に余裕があればご記入ください。

●植物園『リリー・ミーツ・ローズ』について
 芸術作品のような植物園で、中は植物の種類や色合いで分けられています。
 あまりにも広く、巨大迷路のようなので、迷わないように注意が必要です。
 しかし屋外なので迷ったら最悪空へ逃げれば脱出できます。
 迷う恐れのある方は是非、空を飛ぶ装備をしておきましょう。


作者コメント Comment
 お久しぶりです。もしくは初めまして。浅田亜芽と申します。
 プロローグに目を通して頂き、ありがとうございます。

 イベント『Magic of Delight』の催し物の一環として、奉仕科の体験授業を行ってみました。
 ごく簡単な課題と、お茶会を気楽に楽しんでみてくださいね!


個人成績表 Report
アンリ・ミラーヴ 個人成績:

獲得経験:78 = 52全体 + 26個別
獲得報酬:2400 = 1600全体 + 800個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
楽しいお茶会にするため食材を収穫する

食材は順番に薔薇、キュウリ、人参、玉葱。
先の二種はほどほど、メインは後の二種。
収穫すると【荷物カバン(大)】に、途中で一杯にならないよう其々の量を考えて入れていく。
薔薇とキュウリは【果物ナイフ】で収穫。
棘の対策に【白い麻手袋】装着。
薔薇は外観を損なわないよう目立たないものを選ぶ。
人参と玉葱は傷付けず注意して手で掘り出す。
人参は擦ってマヨネーズと混ぜ、玉葱は薄く切って水にさらしてから、どちらもサンドイッチに挟める。
人参は細く切ってスティックサラダにも出来る。

人参や玉葱を採った話をする。
手で掘って引き抜いた。
どっちも土が良い。
きっと栄養豊富。美容にも良いと思う。

マルガレーテ・トラマリア 個人成績:

獲得経験:78 = 52全体 + 26個別
獲得報酬:2400 = 1600全体 + 800個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
お茶会…!えぇ、とても素敵だと思いますわ!
では早速探して…あ、いけない
地図があれば、一応目を通しておきたいですわ

道の道中で目印になるものを覚えてメモを取る
「植物学」でジャムに最適な薔薇を探して
事前に摘み方を学んで、切る時は次の花が咲きやすい位置に
キュウリも同じく「植物学」で状態のいいものを探し

薔薇…優しい香りの赤いバラ
キュウリ…瑞々しい大きめのキュウリ

しかしここは本当に広いですわね!?
前に図書館にもお邪魔させていただきましたが
この学園どこもかしこも広いのではなくて?
えっと、メモメモ…
うう、気を抜けば迷いそうになりますわ…!

ナイル・レズニック 個人成績:

獲得経験:62 = 52全体 + 10個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
心情:楽しいお茶会の為に、美味しそうなものを見つけたい/
見つけた場所:木陰の涼しい所/
見つけた物:緑の薔薇、良く育ったキュウリ/
見つけ方:一般技能「推測」で、良く育ちそうな場所を推測して見つけた/
素敵なもの:木苺(理由:宝石のようにきらきらしてておいしそうだったから)/
その他:一般技能「料理」で、料理の手伝いを進言。容認されれば、「調理道具一式」を利用してお手伝い/
迷路:迷わないように右手法を用いる/
お茶会:先生になりたい旨を話す。家族のことは言わない/
「緑の薔薇の花ことばは、希望を持ち得るさ。ぼくらにピッタリじゃないか」
「おいしそうな木苺だろう?おいしいものは素敵なものさ」

一雫・悲哀 個人成績:

獲得経験:62 = 52全体 + 10個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
▽PL意図
他の皆様と交流したい

▼PC目的
難易度の低い依頼から頑張りたい

▼PC動機
私は…何からやれるのでしょうか
自分で何が出来るかわかりませんが
簡単なところから1つ1つ丁寧にこなして行きましょう
私は…人に殴られるしか能が無いのですから

▼PC手段
薔薇園で迷わないように方角を確認し目印を確認しながら歩く
男性を見かけたら、少し距離を置き相手の攻撃範囲に入らないようにする

持ち帰る物
・赤い薔薇(取りすぎ無いよう注意する)
・キュウリ数本

お茶会なら甘いもの
果物があれば取ってくる

他のPLが困っていたら手伝う

道に万が一迷ったら左手の法則に従い手をつき歩く

お茶会は自分から行くのは難しいから話しかけて貰うのを待ちたい

マリウス・ザ・シーフ 個人成績:

獲得経験:62 = 52全体 + 10個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
アドリブ絡み歓迎
一期生は名前に『先輩』、先生は名前に『先生』を付けるが
タメ口で話して二人称は『キミ』なのは全員同じ

まずは高い木に登って全体を見渡し地形を把握、
取るべきルートを決めてから薔薇園に突入
ジャムに適した花びらが薄く、濃い色の品種を選び
より香り高い開ききっていない花を摘む

続いてハーブのエリアに向かい
リフレッシュ効果のあるレモングラスとペパーミントを摘んで戻る

ハーブはよく洗い、ちぎりながらティーセットに入れてお湯を注ぐ
蓋をしてしばらく待ったらフレッシュハーブティーの完成だ
希望があればみんなにも振る舞おう

リザルト Result

 【ユリア・ノイヴィント】先生は、スタートですと言った後、
「あ、そうそう、忘れていました」
 と園芸用ハサミとカゴ、それに『トケイの実の枝』も各々に渡してくれた。
「あまり収穫に時間がかかってしまっては肝心のお茶会ができなくなりますから、トケイの実が六つ弾けるまでに戻ってきてくださいね」
 『トケイの実』は真珠に似た白く輝く実で、枝に一列に並んで実る。いくつかの実が付いた枝を切り取ると、枝先の実から一つずつ順番に、一定の時間を空けてパチンと音を立てて弾けるので、大まかな時間を計るのに便利な植物なのだった。
「依頼内容の確認を完了、ミッションを受諾した」
 【マリウス・ザ・シーフ】は無機質に言ってから、ふいと表情を綻ばせ面白そうに呟いた。
「ふむ、花畑での優雅なお茶会に惹かれて来たが……これはこれで宝探しのようで、なかなか悪くないじゃないか」
 ベネチアンマスクが特徴的な【マルガレーテ・トラマリア】は、
「では早速探して……」
 すぐに駆けだそうとしたが『あ、いけない』と思いとどまった。
「地図があれば、一応目を通しておきたいですわ」
 と申し出た。ユリア先生は、
「地図はないから、行き方を書くわね」
 羊皮紙の切れ端に簡単な地図を書いてくれた。
 ここから道なりに行くと野菜畑があり、その向こうに薔薇園があるのがわかる程度だった。
 距離も規模もわからない。
 地図を囲んで、皆不安そうに首を傾げた。
 【アンリ・ミラーヴ】は1期生なので少しは植物園のことを知っていた。こんなこともあろうかと、ここへ来る前に地図を見てきたので、メモ書きよりもう少し詳しく道が想像できる。
 いつもは控えめなアンリだけどここは勇気を出して『ゆうがく2年生』の気概を見せ、新入生を纏める役を買って出た。
「俺、道、少しわかる。皆で一緒に、行こう」
 緊張で馬の耳がブルンブルンとせわしなく動くが、アンリはやせ我慢をしてでも先輩らしくしっかりしたところを示そうと頑張っていた。


 生徒達はアンリを先頭に、纏まって植物園内を進んでいく。
 マルガレーテは帰りに迷わないようにと目印になる植物の名前をメモしていた。
「しかしここは本当に広いですわね!? うう、気を抜けば迷いそうになりますわ……」
「そうだね」
 と【ナイル・レズニック】が相槌を打った。優しい声だが顔を覆う雑面が目を引く。光の環を頭上に頂き、立派な翼を持っているのでアークライトだということだけは分かるのだが。
 マリウスは、植物というより全体を観察しながら歩いていた。
 そんな一行から三歩ほど離れた後ろを【一雫・悲哀】(ひとしずく ひあい)は俯き加減で付いて行く。悲哀は男性が怖い。だから無意識のうちに男性とは距離を取ってしまうのだった。

 *

 野菜畑に着いた。
 植物園の畑というには広大で、育てている野菜の種類も多いようだ。
 幸いキュウリはすぐ見つかったので、早速収穫する。
「よく育ったやつがいいよね」
 ナイルが推測して葉の陰を覗き込む。
「瑞々しくて大きめのものが良いようですわ」
 マルガレーテが植物学の知識で言った。
 悲哀は男性に近づかないように気を張りながら食べ頃のものを探す。
 数本採った時、マリウスが唐突に言った。
「もうキュウリの収穫は終わったかい? 私は一足先に薔薇園を上から偵察してきたよ」
 聞けば、皆が全く気付かないうちに薔薇園の入り口近くにある高い木に登って上から見渡し、薔薇園全体の様子を調べてきたというのだ。
「かなり広い上に、高く茂っている場所もあったから、薔薇園に入ったら迷わないように注意が必要だな」
 その時、アンリが少し離れた所から声を掛けた。
「皆、キュウリ、この位にして、薔薇園に行こう」
 トケイの実は二つ弾けて、残りは四つになっていた。

 *

 薔薇園の中では単独行動にして、各自好みの薔薇を採ってこようということになった。
 さっきマリウスが登ったという高い木を目印にすれば入り口までは迷わずに戻ってこれるだろう。トケイの実が二つ弾けるまでにここに戻り、全員揃って帰ることにして、みな思い思いの方向へ歩を進めた。


 マリウスは機械のような口調で自身に宣言した。
「経路の入力を完了。これより内部に侵入する」
 木の上から見た時に目星をつけておいた場所へと迷わず向かう。目的地は深紅の薔薇が咲くエリア。
 近づいて見ると薄い花びらがジャムに適していそうだ。
「やあ薔薇の木くん、予告状も出さずに失礼するよ。私たちのジャムのために、キミから花をいくつか頂戴しよう」
 怪盗紳士の如く薔薇にも礼儀正しく挨拶して、開ききっていない花を摘んでいった。
 ある程度収穫して『薔薇はこれでいいかな?』と満足したマリウスは、木の上から発見したもう一つの目的地、ハーブ園に向かった。

 アンリは薔薇の棘で怪我をしないように白い麻手袋をはめた。
 入り口近くに咲いていた紅薔薇の中から、外観を損ねないよう目立たない位置の花を数輪摘むと、急いで野菜畑に戻った。さっきキュウリを収穫している時に見つけた人参と玉ねぎを採るためだ。
 アンリは人参が大好物。だから農業学の知識を使って葉の状態からよく育った人参を慎重に見定め、傷付けないように手で優しく掘ってから引き抜いた。立派な人参だ。これなら栄養も豊富に違いない。
 玉ねぎも人参と同様に収穫した。ずっしりと重い。
 これはきっと美味しいサンドイッチになると、アンリはニッコリして荷物カバン(大)に仕舞った。

 マルガレーテは薔薇園の奥へと進んでいった。ジャムに適した優しい香りの赤い薔薇を植物学の知識で探したら、割とすぐに見つかった。手を保護するためにシルクグローブを付け、蕾まで摘んでしまわないよう程よく開いた花だけを摘み取る。
「そういえば、他に素敵なものがあれは持ってきても良いと、先生は仰っていましたわね」
 マルガレーテはお茶会のテーブルに飾れる薔薇を探そうと思った。
「ええと、確か姫姉様が教えてくださったものが……」
 小国の貴族の娘として生まれたマルガレーテは、故国の王女を姫姉様、王子を兄様と呼んで敬愛していた。しかし何者かの呪いによって王女は心を壊され、王子は長い眠りに就かされてしまったのだ。彼らの呪いを解くためにマルガレーテは学園に入学し、今ここにいる。
「姫姉様……」
 マルガレーテは優しく麗しい王女の面影を思い浮かべていた。
「必ずや、呪いを解く術を探してみせます!」
 思わず拳を固く握りしめる。
「……って! 物思いにふけっている場合ではありませんわ」
 マルガレーテは姫姉様に教えてもらったことを思い出して切なくなりながら、香りが強すぎないピンクの蔓薔薇を探しに行った。

 木陰の涼しい場所で、ナイルは緑の薔薇を見つけてハッとした。
 学園に入学する前、家を継ぐために様々なことを学び耐えてきたナイルは、ある時偶然に緑の薔薇の花言葉を知った。辛い運命に耐えかねて物陰で一人涙した日々、緑の薔薇に慰められたことを思う。
「ジャムになるかどうかわからないけど、緑の薔薇を摘んで帰ろう」
 摘み終わって戻ろうとしたが、高い茂みに遮られて目印の木が見えない。
「困った……。とりあえず右手法で進んだらあの木が見える所に出るかな?」
 ナイルは右手に葉が触れるようにして歩き始めた。

 迷子にならないように、悲哀は目印の木の方角を確認しながら進んでいった。
 薔薇を一か所で採り過ぎたら怒られるかもと、一輪摘んでは進み、また一輪摘んで、ということを繰り返している。手袋をはめてない手は棘に傷つけられて血が滲んでいたが、痛みに耐えてやり過ごしていた。痛いのは確かだが、殴られるよりはるかにマシだった。
 時々視界に入る男性に見つからないよう、悲哀は反射的に隠れる。
 悲哀だって頭では理解しているのだ。学園生の彼らが村の男たちのように悲哀を殴ったりしないことを。それでも体は勝手に強張り、足は逃げる方向に向いた。
 俯き加減で歩いていたせいだろうか、目印の高い木の所まで戻ってきたと思ったら全然違う木の前だった。赤い実――よく見たらリンゴがなっている。
 悲哀はリンゴをお茶会に持っていこうと思い付き、長身を活かして高い所にある一番赤い実に手を伸ばした。

 *

 生徒たちがユリア先生の元に到着した直後、六つ目のトケイの実が弾けた。
 薔薇園の入り口に全員が戻った時には遅れ気味だったが、マルガレーテのメモのおかげで迷うことなくここまで戻れたのだった。
「あら、時間ピッタリ。皆さん優秀ですね」
 ユリア先生が感心していた。

 先生は皆が採ってきた薔薇を、魔法であっという間にジャムにしてしまった。一種類ずつ別々のガラスの器に入った綺麗なジャムが五つ。つやつやしておいしそうだ。
 緑の薔薇は美しい翡翠色のジャムになったので、皆歓声を上げた。
「緑の薔薇の花言葉は『希望を持ち得る』さ。ぼくらにピッタリじゃないか」
 花言葉を語るナイルは嬉しそうだ。

 お茶会の準備は全員で行った。
 料理の技能があるナイルはキュウリを薄く均一にスライスし、手際よくパンに挟んでいった。
 アンリは人参と玉ねぎのサンドイッチを作った。よく洗った人参は皮ごとすりおろしてマヨネーズで和え、薄くスライスした玉ねぎを水に晒して人参と一緒にパンに挟む。ついでに人参とキュウリを細く切ってスティックサラダにする工夫も怠らない。
 マリウスは一口大に切ったサンドイッチとサラダを大皿に彩りよく盛り付けていった。美しく盛り付けるのは、マリウスの美意識のなせる技だった。
 盛り付けられたサンドイッチの横に、ナイルがアクセントとして宝石のような木苺を散らした。薔薇園で迷っている間に見つけたのだという。
「美味しそうな木苺だろう? 美味しいものは素敵なものさ」

 マルガレーテは悲哀を誘って先生と一緒にテーブルセッティングしていた。淡いピンクの蔓薔薇も水差しに活けてある。
 悲哀は袂が食器に当たらないように袖を押さえた時、袂の中に入れた物を思い出した。リンゴだ。
「あの、先生、これお茶会にと思って採ってきたんですけど……」
 ユリア先生に差し出したが、先生より早く反応したのはマルガレーテだった。
「まあ、リンゴ! ワタクシの好物ですわ! どこで見つけましたの?」
「え、あの、薔薇園で迷ってしまって、気が付いたらリンゴの木の前にいたんです。そこからは左手の法則を使ってやっと脱出してきたので、どこにあったのか、さっぱり……」
「そうでしたの。まあワタクシもこの学園の生徒になったのですから、いつでも探しに行けますわね」
「これ、よかったらどうぞ」
 悲哀はマルガレーテにリンゴをプレゼントした。
「まあ、ありがとう、嬉しいですわ」

 サンドイッチとユリア先生お手製のスコーンがテーブルの真ん中に置かれ、薔薇のジャムが添えられた。ティーポットには熱い紅茶ができている。
「さあ、お茶会を始めましょう!」

 皆お腹が空いていたので遠慮することなくサンドイッチやスコーンに手を伸ばした。
 サンドイッチはシャキシャキした新鮮な具が最高だったし、香り高い薔薇のジャムはスコーンに付けても紅茶に入れても美味しく、五種類のジャムを食べ比べる楽しさもあった。

 楽しく食べてお腹が落ち着いた頃、ユリア先生が切り出した。
「皆さんのことが知りたいから、最近思っていることとか、入学した理由なんかを聞かせてもらってもいいかな? まずは、先輩になったアンリくんから」
 一番に当てられてアンリは焦ったが、何度か授業を受けているユリア先生なので頑張って話した。
「俺は、お茶会が切っ掛けで、植物園にいろんな植物が、育てられていることを、知った。人参と玉ねぎ、手で掘って採ったら、柔らかくて良い土だった。できたら俺も、野菜や花を育てて、お世話になっている先生たちに、あげたい」
 アンリにしては珍しく長い発言だった。
「確かに、ワタクシもこのお茶会でここにこんなに広い植物園があることを知りましたわ。前に図書館にもお邪魔させていただきましたが、この学園どこもかしこも広いのですね!」
 そう言ってからマルガレーテは決まり悪そうにした。
「ワタクシの国は、その、この学園よりもずっとずっと小さいのです。なので、はい、恥ずかしながら『世間知らず』というものです。ですので、このように皆様とお茶会ができるのは大変わくわくしますの」
「別に恥ずかしくなんかないよ」
 ナイルが明るい声で言った。
「ぼくたちは皆、知らないことを勉強しに来てるんだから、ね」
「そう、ですわね」
 マルガレーテはナイルの雑面の理由をこそ知りたかったが、そうすると自分もマスクを付けている説明をする流れになるだろうと予想して黙っていた。
「あ、ぼくは困っている人を助けたくて、教師になろうと思ってこの学園に入学したのさ。ほら、希望を持ち得るって教えてあげられるし」
 ナイルは全員が雑面の理由を聞きたがっているのをわざと誤解して入学の理由を語り、緑の薔薇のジャムを掲げてみせた。
「ところで一雫さんはどうしてこの学園に?」
 と悲哀に話を振って自分への関心を逸らした。
 悲哀はびくっとして、
「私は……普通に生きるため、それと、行方不明の兄を探すためです」
 答えてから一層俯いた。皆に注目されていると思うと身がすくむ。
 ユリア先生が優しく声を掛けた。
「もし差支えなければ事情を聞かせて? 力になれることがあるかもしれませんよ」
 悲哀は迷った。みっともない自分の話をしたら嫌われるかもしれない。
 けれども勇気を振り絞って、生い立ちや家族のことを話し始めた。
 閉鎖的な村で娼婦の子として生まれ、蔑まれて暴力を受けてきたため男性が怖いこと。母は亡くなり、いつも守ってくれた兄も行方不明になったこと――。
 話し終えてこわごわ皆を見ると、嫌悪している風には見えない。それどころかさっきよりも受け入れられているように感じる。
 ナイルは『困ったことがあったら何でも言ってよ』と言うし、マルガレーテは『ワタクシたちはもう見ず知らずの他人ではありませんしね』と付け加える。マリウスはさらりと『皆何かしら事情があるものさ』と言い、アンリは優しい目をしてしきりに頷いている。
 悲哀は嫌われていないことがわかってホッとした。そして思い切って話してみてよかったと思った。

 ここでマリウスがおもむろにガラスのティーセットを取り出した。
「薔薇の紅茶も味わい深かったけど、目先を変えてハーブティーを飲もうじゃないか」
 ハーブ園で摘んできた新鮮なレモングラスとペパーミントの葉を、ちぎりながらポットに入れていく。
 熱い湯を注ぎ入れて蓋をし、しばらく待つと爽やかな香りが立ち始めた。
「ハーブは見た目や香りが良いのみならず、様々な効能があるんだ。もっとも、カルマの私にどこまで効いているのかは分からないが……まあ、そういう気分になれるだけでも、価値はあるだろう」
 マリウスがハーブティーをカップに注ぎ分け、全員に配った。
 リフレッシュ効果のある美味しいフレッシュハーブティーで、お茶会は和やかに続いた。



課題評価
課題経験:52
課題報酬:1600
【新歓】≪奉仕科4≫体験授業:薔薇のお茶会
執筆:浅田亜芽 GM


《【新歓】≪奉仕科4≫体験授業:薔薇のお茶会》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 1) 2020-05-04 02:09:50
教祖・聖職コース、アンリ・ミラーヴ。よろしく。
奉仕科、授業ひさしぶり。薔薇、キュウリ、探す。

《2期生》 ナイル・レズニック (No 2) 2020-05-04 11:23:56
賢者・導師コースのナイルさ。よろしくね☆
薔薇とキュウリ…あと似合いそうなものか。
探すのが楽しみだよ。
そういえば、別れて探した方がいいのかな?

《新入生》 マルガレーテ・トラマリア (No 3) 2020-05-05 20:30:35
王様・貴族コースのマルガレーテと申します。よろしくお願いしますわ
学園の植物園はとても広いとお聞きしました
うっかり迷子にならないように気を付けて探していきたいですね

どうしましょう?皆様が個人でお探しになるのなら、別れて探した方がいいと思いますわ

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 4) 2020-05-06 06:39:48
別れて探すと、良いもの、見つけやすい、かも。
俺は、キュウリと薔薇、両方、採るつもり。
良いもの、見つけたい。

《2期生》 ナイル・レズニック (No 5) 2020-05-06 10:04:02
いやーキュウリ班と薔薇班に別れた方が効率いいかなーとか思ったんだけど
現状3人だからね、難しいね(

とりあえず、個人で探す感じでいいのかな?

《新入生》 一雫・悲哀 (No 6) 2020-05-06 23:58:33
…初め、まして。
村人・従者コース所属、一雫 悲哀(ひとしずく ひあい)と申します。

探すのは…個人の方が効率が良いと思います。
ただ、広い場所のようなので…。
道に迷いやすい方は誰かに着いていく方がいいかと。

私は、個人で探そうかなと思っていました。
よろしくお願いいたします。


《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 7) 2020-05-06 23:59:19
どれか一つ、集中したい人、とりあえず、言ってみて、良いと思う。
俺は両方、だから一方だけ、ゼロには、ならないはず。

《2期生》 ナイル・レズニック (No 8) 2020-05-07 00:48:32
成程~二人ともありがとう!

そうしたら、ぼくもどっちも探してみようかな。
料理用だから、選び難くてね;

多分迷子に関しては、大丈夫だと思うさ!

《商人の才覚》 マリウス・ザ・シーフ (No 9) 2020-05-07 22:14:23
私は黒幕・暗躍コース、マリウス・ザ・シーフ。怪盗さ。
諸君、よろしく頼む。

ふむ……私には空を飛ぶ手立てがないので、
一度高いところから全体を見回し、ルートを決めてから突入するとしよう。
いつも怪盗の仕事を支えるのは綿密な下調べだ。

私はバラを摘むのに加えて、ハーブを何種類か集めて来るよ。
摘みたてのフレッシュハーブティーもなかなか良いものだからね。