≪奉仕科1≫誕生日パーティーのお手伝い
(ショート)
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浅田亜芽 GM
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第一校舎『フトゥールム・パレス』の、ある大教室に集まった学生たちは、今日から始まる新しい授業科目に興味津々の面持ちで、先生が来るのを待っていた。
ガラリ。
勢いよく扉を開けて入ってきたのは、ヒューマンの女性教師。
年の頃は30手前だろうか。
肩の下まで届く亜麻色の髪には程よいウェーブがかかっていて、彼女の歩みに合わせて軽やかに揺れる。
教壇の前に立ち、抱えてきた書類をタンっと置くと、注視している学生たちに零れるような笑みを向けた。
「皆さん、初めまして! 私は奉仕科の授業を担当する【ユリア・ノイヴィント】です」
温かみのある澄んだ声は、教室にいた全員の耳を一瞬で捉えた。
ユリア先生は続ける。
「皆さんは奉仕科って何をするの? と疑問に思っていることと思います。奉仕科で行うのは……」
一旦言葉を区切り、教室の端から端まで見渡したユリア先生は、きっぱりと告げた。
「ズバリ、『人助け』です。皆さんには困っている人を助けたり、困っている事を解決したりしてもらいます!」
教室内がざわめいた。
喧騒が落ち着くのを待ってから、ユリア先生は静かに口を開く。
「まず皆さんに質問ですが、勇者に必要なことは何だと思いますか?」
あちこちの席から、
「勇気!」
「体力も!」
「戦闘力は?」
などの声があがる。
「そうですね。それらはもちろんとても大切な能力ですが、それだけでは十分ではありません。『思いやり』や『想像力』など、人間らしい心を磨いてこそ勇者たり得るのです。その訓練をする科目として奉仕科があります。人の役に立つ経験が真の勇者となる糧になるのですよ」
次にユリア先生は、この授業のシステムを簡単に説明した。
様々なジャンルの依頼を受けて実習に行くため座学ではなく、難易度もまちまちであること。
そして、出来るだけ学生が自分たちで解決方法を見つけることが大切であること。
そのためユリア先生は適宜サポートするにとどまること、などだった。
「難しそうと感じても思い切って挑戦してみることが大切です。きっと新たな発見があり、自身の成長に繋がりますからね」
ユリア先生の説明が一通り終わった時、
「しつもーん!」
と一人の学生が挙手した。
「先生、困っている人や困っている事ってどうやって見つけるんですか? 無かったら課題をこなすことができません」
「ああ、それは心配ありません。私が日頃、さまざまな依頼を広く受け付けているので、お困りごとはたくさん『ストック』されている状態なのですよ」
ユリア先生は質問した学生に、
「積極的でいいですね」
と褒めてから、全員に向かって言った。
「今日はそのストックの中から、皆さんが取り組めそうな内容をいくつか選んで持ってきています」
ユリア先生は書類の束を指し示す。
「後で参加希望者を募りますから、依頼の内容をよく聞いてくださいね。では一つ目」
一番上にあった書類を取り上げて、声に出して読み始めた。
「おばあ様の誕生日パーティー準備のお手伝いの依頼です。依頼者は10歳と8歳の兄妹……」
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参加人数
5 / 8 名
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公開 2019-06-09
完成 2019-06-22
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≪奉仕科2≫仔犬とお留守番
(ショート)
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浅田亜芽 GM
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「今日の課題は『仔犬がいっぱいいるお宅のお留守番』なんですよ~」
奉仕科担当の【ユリア・ノイヴィント】先生は、教壇の前でちょっと羨ましそうに眉尻を下げて微笑むと、奉仕科宛てに送られてきた依頼が書かれた書類を読み上げ始めた。
依頼内容は、【コルライト夫人】の家で、仔犬と一緒に留守番をしてほしいというもの。
学園都市内にある一軒家に住んでいるコルライト夫人は、大小さまざまな犬種の犬を数頭飼っているのだ。
その犬たちが3か月ほど前に相次いで出産し、仔犬が全部で20匹も生まれてしまった。
現在、親犬たちは犬舎で飼っているが、仔犬たちは家の中に置いてお世話をしている状態だ。
仔犬たちからはまだ眼が離せないのだが、コルライト夫人は朝から夕方まで、どうしても留守にしなくてはならなくなった。
そこで、その一日だけ仔犬たちの世話をしながら留守番をしてほしいのだという。
「……という訳で、犬好きの人にはよだれが出そうな依頼です。本当は私が行きたいぐらいですが、私は先生ですからね……うん、皆さんにおいしい依頼は譲りますよ……」
と言いながらも残念さを隠せないユリア先生だ。
意外と大人げない。
「先生! 留守番中の仔犬のお世話は、どんなことをするのですか?」
「仔犬ちゃんたちはサークルに入れてあって、水はいつでも飲めるようにして置いてくれるので、皆さんは途中で1度だけエサをあげればいいそうです」
「じゃあ、ただ仔犬の側で留守番するって課題ですか? なんてラクな……」
「まあ、何事もなければその通りなのですが、仔犬ちゃんたちは度々サークルから脱走してイタズラするので、仔犬ちゃんにとっても危険ですし、そうさせないようにしてほしいそうですよ」
ユリア先生が学生たちを見回して、
「では、この課題に挑戦する人は?」
と言い終わるより早く、数人の手が上がった。
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参加人数
4 / 8 名
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公開 2019-07-12
完成 2019-07-27
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≪奉仕科3≫悲恋の結末
(ショート)
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浅田亜芽 GM
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奉仕科の【ユリア・ノイヴィント】先生が、俯き加減で教室に入って来た。
美しい細工が施された竪琴を脇に抱えている。
ユリア先生の様子が普段と違うことは、学生たちにはすぐにわかった。
いつもふんわりと楽しそうに弾む髪は萎れ、目を赤く腫らしているのだ。
「先生! どうしたんですか!?」
「泣いてるの?」
口々に問いかける学生に、ユリア先生は無理に微笑んでみせた。
「皆さん、ごめんなさいね。今日の依頼を読んでいたら涙が止まらなくなっちゃって……」
ユリア先生は竪琴を教壇に置くと、盛大に洟をかむ。
学生たちは、先生を泣かせた依頼の内容と竪琴を持ってきた理由を早く聞きたくて、黙ってユリア先生の言葉を待っていた。
「これは、今日届いた依頼です。読みますので聞いてください」
涙を拭って、ユリア先生は今日の課題となる依頼の書かれた『手紙』を手に取った。
いつもならば、依頼は内容を整理して所定のフォーマットに書き写してあるので、今回は異例である。
ユリア先生は時々声を詰まらせながら、送られてきた手紙を読み上げていった。
「フトゥールム・スクエア魔法学園で困りごと解決の依頼を受け付けていると聞いて、急いでこの手紙を書いています。私に残された命はあと僅かです。人生最後の望みをどうか叶えていただけないでしょうか……」
こんな書き出しで始まった手紙には、およそ次のような内容が書かれていた。
***
手紙の差出人は【クララ・ウェーバー】。年老いたローレライの女性だ。
彼女は数十年前、トロメイアの『八色祭り』に出かけた折、ドラゴニアの青年【イザーク・ワイマン】に出会い、互いに一目惚れした。
しかし、ローレライとドラゴニアは水と火で、種族としての相性が良くない。
今でこそ恋愛において種族の違いは障害にならないが、当時は互いの家がトロメイアの名家だったこともあり、周囲の猛反対にあった。
『今は無理でもいずれ時期が来たら一緒になろう』と誓い、誓いの印に互いの持ち物を交換することにした。
そうしてクララはイザークの竪琴を受け取り、イザークはクララ愛用の横笛を預かったのだった。
将来晴れて一緒になれた暁には、この楽器で合奏しようというささやかな約束が、別れて暮らす二人をつなぐ希望だった。
しかし月日は無情に流れ、フトゥルーム・スクエアに移り住んでいたクララはとうとう死の病に倒れてしまった。
クララは死ぬ前に竪琴を愛しい持ち主に返したいと、奉仕科に依頼したのだった。
手紙の最後に、イザークの住む『トロメイア』の住所が記されていた。
日付は二日前だった。
***
「という訳で皆さん、この竪琴をイザークさんの所まで届けてくださいね……」
涙を流して手紙を読み終わったユリア先生の鼻の頭は真っ赤になっていたが、一部の学生の鼻も同様に赤くなっていた――。
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参加人数
5 / 8 名
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公開 2019-08-23
完成 2019-09-08
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【新歓】≪奉仕科4≫体験授業:薔薇のお茶会
(ショート)
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浅田亜芽 GM
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『植物園リリー・ミーツ・ローズにて、薔薇のお茶会をします。
新入生も上級生も、興味のある人は来てくださいね。
奉仕科担当教諭 【ユリア・ノイヴィント】』
こんなチラシが掲示板に張り出されていた。
下の方には、詳しい場所と時間が書かれている。
「ユリア先生、今日は授業でお困りごと解決の依頼をするんじゃなくて、お茶会をするのか。まあ新入生歓迎会だしな」
「薔薇のお茶会って、ステキね」
張り紙の前に集まった生徒たちは、優美な響きがする『薔薇のお茶会』に思いを馳せた。
新しいゆうしゃのたまごたちの中には、地図を広げて植物園への行き方を調べ始めた者もいる。
「私、行ってみよう!」
1期生の一人が植物園の方へ駆け出すと、わたしも! オレも! と2期生が続いた。
***
みんながひと塊になって指定の場所へ到着すると、ユリア先生が微笑んで立っていた。
見ると、先生の脇には白い瀟洒なテーブルがある。いかにも優雅なお茶会向きといったデザインだ。
しかしその上には何も乗っていない。
「皆さん、いらっしゃい。今日はMagic of Delightの奉仕科体験授業ということで、私からの依頼を受けていただきますね」
「ええ~! 薔薇のお茶会は嘘だったの? 私たちだまされたわけ?」
「先生の依頼って、何なんですか?」
「まさかこの巨大迷路のような植物園を掃除しろ、とかそういう……?」
生徒たちは口々に声を上げた。
ユリア先生はコロコロと笑って、
「ああ、お掃除もいいわね。今度お願いしようかな」
いたずらっぽく首を傾げた。
「でもね、今日はお茶会ってはっきりと書いてあったでしょう? 嘘ではありませんし、だましたりなんてしませんよ。『お茶会の準備を手伝ってほしい』というのが私の依頼です。そして、後でみんなでおいしいお茶をいただきましょう」
そう言うとユリア先生は、魔法を使ってテーブルの上に薔薇の小花模様がついたティーセットを並べた。人数分のカップ&ソーサーとケーキ皿、それに盛り付け用の大皿も数枚。食器は全部お揃いの絵柄だ。
「さて、このとおり道具は揃っているけど、材料がまだ全部揃ってないの。ここリリー・ミーツ・ローズではジャム用の薔薇もサンドイッチ用のキュウリも栽培しているから、皆さんで探して採ってきてね」
魔法で食器やカトラリーが出現したのを、新入生は目を丸くして見ていた。
そんな初々しい彼らを微笑ましく見遣りながら、ユリア先生は続ける。
「他にもお茶会に良さそうなものが見つかったら、食べるものでも飲むものでも見て楽しむものでも、皆さんのひらめきで良いなぁと思ったものはなんでも、採ってきてください」
ユリア先生は胸の前で手を小さく叩くと、
「それではスタートです!」
生徒たちは広い植物園内で迷わないように目印になるものを覚えながら、上級生は下級生をリードしながら、バラ園と野菜エリアに向かったのだった。
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参加人数
5 / 8 名
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公開 2020-04-30
完成 2020-05-19
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