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ピクシー×ミミック


ストーリー Story

●イッツフォーリンラブ
 魔法学園内植物園『リリー・ミーツ・ローズ』。
 緑豊かなこの空間には、虫、小鳥、小動物といった小さな命がたくさん息づいている。
 人や植物に害を与えそうなものに限っては、管理側がそれとなく追い出すようにしているが、そうでないものはまあ、そこそこ大目に見る感じ。

 蜜蜂が忙しく花を巡る昼下がり。赤いチューリップの中で、小さな一匹のピクシーがアーアと欠伸し起き上がった――外見が男の子っぽいので、以降このピクシーは、ピク太郎と呼ぶことにしたい。
 さてそのピク太郎は目をゴシゴシこすり、チューリップの茎を伝い降りた。
 今日は何か面白いことはないかなあと思いながら、園をぶらぶら巡る。
 彼はよく人間にいたずらを仕掛ける。
 この間は木陰で今しもチューしそうな雰囲気だった男女の頭の上に、そのあたりで集めてきた両腕一杯のシャクトリムシを落とした。そしたら男がものすごい声を上げ女を突き飛ばし逃走――どうやら虫嫌いな人間だったらしい。それに激怒した女は男を追いかけ捕まえ、平手打ちを連発していた。
 あれは実に面白かったので、出来たらもう一回やってみたい。
 そんなことを考えながらぶらぶら歩きを続けるピク太郎。しかし残念ながら今日は、いいカモをなかなか見つけられない。
 とりあえず腹が減ってきた。
 その辺に生えていたキノコを食べる。
 お腹一杯になったところでまた、歩き始める。
 そのうちに竹林に出た。
 季節柄、竹になりかけたタケノコがにょきにょき顔を出している。
 その一本のタケノコの側でピク太郎は、足を止めた。
 タケノコの根元に、家の形をした泥だらけの箱が落ちていたのだ。どうやら地面に埋まっていたものが、タケノコの圧力に押され出てきたらしい。
 種族的能力によってピク太郎は、それがただの箱ではなくミミックだということにすぐ気づいた。
 興味を覚えたので近づき、泥を落としてやる。すると、箱の造作がより分かるようになった。
 色はパステルカラー。至るところに花模様。なんともメルヘンチックでかわいらしい。屋根に硬貨投入のための切れ込みがある。どうやら、貯金箱であるらしい。
 このミミック――全体的な印象から、以降ミミ子と呼ぶことにする――にピク太郎は一目ぼれした。ピクシーとミミックの間には特殊な関係性があるとはいえ、一目ぼれは言い過ぎでないかという人もいるだろうが、ピクシーの感性は人間とは違うからそういったこともあり得るのだ。
 ピク太郎はピクシーにしか出来ない特殊なやり方でミミ子とコミュニケーションを図る。仲良くしましょうと。
 ミミ子はこの申し出を快く受けた。
 かくして二人は相思相愛となった。そう、さながらクマノミとイソギンチャクのように。

●レゼントの一角で。
 食べ盛りの生徒たちが何かとお世話になる、お手頃価格なカレー食堂。今はまさにお昼時。どこもたくさんの客で賑わっている。
 そこに店員の怒鳴り声が響いた。
「こら待て、こらーっ!」
 カレーをぱくついていた生徒達は、何事かとレジの方を見る。
 直後床の上を小さなピクシーがさあっと駆け抜け、外に逃げて行った。
「ええい、くそっ。すばしこい野郎だ!」
 悔しそうに言う店員に、生徒たちは聞いた。今逃げて行ったピクシーは何をしたんですかと。
 店員は苦虫噛み潰した顔でこう答えた。
「小銭をくすねていきやがったんですよ」
「えっ、小銭を? ピクシーが?」
「ええ。うちだけじゃねえんです。この界隈の店、軒並みあいつにやられてましてね。まあ、盗まれるのは硬貨に限られているし、あの体格だとせいぜい数枚しか運べないから、被害額は少ないんですが、それでも売上を盗まれるっていうのは気持ちいもんじゃねえですよ。気をつけるようにはしているんですが……」
 なんとも面妖な話だ。ピクシーがいたずら好きだというのはよく知られている。しかし、金を盗むなどとは……。
「そういうことするのって、普通ゴブリンじゃないのか?」
「だよね。ピクシーは金銭的なものに価値を見いださないはずなんだけど……」
「もしや、いたずらの一環としてやっている、ということでしょうか」
「それにしても、どうもしっくり来ないよ。もしかして裏にピクシーを操る別の存在がいるんじゃ」
「黒幕ってやつか。ありそうな話だな」
「だとしたら、看過出来ないなあ」
「一度この件、ちゃんと調べてみた方がいいかも。今は小銭だけかもしれないけど、いずれもっと大きなものを盗もうとするようになるかも知れないし」

●マイスイートホーム
 1G青銅貨と100G銀貨を一枚ずつ持って帰ったピク太郎は、それをミミ子に入れてやった。
 貯金箱の本能を持つミミ子はお金を自分の内部でちゃりちゃり言わせ、喜びを表現する。
 ピク太郎はミミ子の扉を開け、中に入った。
 真っ暗で、暖かくかつ、柔らかい。ミミックの中はピクシーにとっては実に心地いい空間だ。日の光や物音に遮られることなく、安心して惰眠を貪れる。
 そんなわけでピク太郎、早速いびきをかき始めた。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2020-05-10

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2020-05-20

登場人物 3/8 Characters
《模範生》プラム・アーヴィング
 ヒューマン Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
「俺はプラム・アーヴィング。ラム肉を導く修道士だ。…そうは見えない?そりゃそうだ、真面目にヤる気ないからな。ま、お互い楽しく適当によろしくヤろうぜ。ハハハハ!」                                       ■身体 178cm/85kg ■人格 身に降り注ぐ事象、感情の機微の全てを[快楽]として享受する特異体質持ち。 良心の欠如が見られ、飽き性で欲望に忠実、貞操観念が無い腐れ修道士。 しかし、異常性を自覚している為、持ち前の対人スキルで上手く取り繕い社会に馴染み、円滑に対人関係を構築する。 最近は交友関係を構築したお陰か、(犬と親友と恋人限定で)人間らしい側面が見られるように。 現在、課題にて連れ帰った大型犬を7匹飼っている。 味覚はあるが、食える食えないの範囲がガバく悪食も好む。 ■口調 修道士の皮を被り丁寧な口調の場合もあるが、普段は男口調を軸に雑で適当な口調・文章構成で喋る。 「一年の頃の容姿が良かっただァ?ハッ、言ってろ。俺は常に今が至高で完成されてんだよ。」 「やだ~~も~~~梅雨ってマジ髪がキマらないやんけ~~無理~~~二度寝決めちゃお~~~!おやすみんみ!」 「一応これでも修道士の端くれ。迷えるラム肉を導くのが私の使命ですから、安心してその身をゆだねると良いでしょう。フフ…。」 ■好き イヌ(特に大型) ファッション 極端な味付けの料理 ヤバい料理 RAP アルバリ ヘルムート(弟) ■嫌い 教会/制約 価値観の押し付け
《ココの大好きな人》アンリ・ミラーヴ
 ルネサンス Lv18 / 教祖・聖職 Rank 1
純種が馬のルネサンス。馬の耳と尻尾を持つ。 身長175cm。体重56kg。 16歳。 性格は温厚。 あまり表情を変えず寡黙。 喋る際は、言葉に短く間を置きながら発していく。 少しのんびりした性格と、言葉を選びながら喋るため。 思考や文章は比較的普通に言葉を紡ぐ。 表現が下手なだけで、年相応に感情は豊か。 好奇心も強く、珍しいものを見つけては、つぶらな瞳を輝かせながら眺めている。 群れで暮らす馬の遺伝により、少し寂しがり屋な面もある。 やや天然で、草原出身の世間知らずも合わさって時折、突拍子の無い発言をする。 好きな食べ物はニンジン。 食べていると美味しそうに目を細めて表情を和らげる。 趣味はランニング。運動自体を好む。 武術だけは、傷付ける行為を好まないため苦手。 入学の目的は、生者を癒し死者を慰める力を身に着ける事。
《ゆうがく2年生》不束・奏戯
 リバイバル Lv10 / 王様・貴族 Rank 1
【外見】 金髪セミロングの外ハネ 黄色人種 ややつり目の赤い目 見た目はイケメンなはずなんです 【服装】 基本改造制服 マント無くしてもっとロングコートにしよ! 萌え袖は外せないね! 中の制服の基本カラーが赤と黒で コートは緑で行こう! 【性格】 女子が大好きのチャラ夫 ともすれば一目惚れも多い 大体振られる メンタルは形状記憶合金 3日くらいで元に戻る 器用貧乏というか広く浅い為に中途半端 パリピ 彼女欲しい彼女欲しい彼女欲しい彼女欲しい彼女欲しい彼女欲しい彼女欲しい フェミニストではあるが男子の友達も大事にするよ! 地味に服装に拘りがあるおしゃれさん ※アドリブ大歓迎! GM様へ 思いっきり不遇にしてやって下さい

解説 Explan

皆様こんにちは。Kです。新しい課題です。今回は魔物が出ます。
やるべきことは、ピク太郎が何故小銭をくすねていたのかを突き止めること。
ミミ子は大人しいミミックなので、触られた程度では噛み付きません。攻撃態勢に入るのは、主以外の人間が中に入っているお金を取ろうとした場合だけです。
ピク太郎は人間の言葉は話せませんが、相手が何を言っているのかは大体分かります。その程度の知恵はあります。ミミ子に危害を加えようとすると怒ります。

皆様には、とりあえずピク太郎が今後、店から小銭をくすねることがないようにしていただければと。今のところ問題とされているのはそこだけです。植物園でも結構いたずらしているみたいですが、そちらのほうの被害者はまだ彼の存在に気づいておりませんので、はい。


作者コメント Comment
つくしの子が恥ずかしげに顔を出しスギナに変じるこの頃。
皆さん、恋をしていますか。
異種族間の愛って、いいものですね(違)。






個人成績表 Report
プラム・アーヴィング 個人成績:

獲得経験:75 = 50全体 + 25個別
獲得報酬:1500 = 1000全体 + 500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
現場張り込みの空腹を紛らわす為にカレーをくれ。
大丈夫、【気配察知/集中】でちゃんとレジの方を監視しとくんで。

■ピクシー再来
【奏風のオカリナ】で素早さを上げて追う。
振り切られそうなら【自然友愛】の精霊に追わせ後をつける。

住処を見つけたら、ピクシーを捕まえる。
所持金をチラつかせるか、住処に【キラキラ石】詰め込んで追い出すとか。まぶしっ!

捕まえたピクシーと対話。
知能があるらしいし【人心掌握学/心理学/会話術/演技/説得/語学】で対話と推測を試みる。

…素直に白状しないよな。
ピクシーとコインが関連してそうなモノ、【心理学】でピクシーが一番反応するものにアクションを起こし、黒幕と原因を考察。

アンリ・ミラーヴ 個人成績:

獲得経験:75 = 50全体 + 25個別
獲得報酬:1500 = 1000全体 + 500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
目標
ピク太郎とミミ子が迷惑をかけず、仲良く過ごせるようにする。

手段
食堂の外で物陰に隠れ、食堂の出入り口を監視。
ピク太郎の姿を見つけたら気付かれず見失わない距離を維持して追跡。

二人の住処に辿り着くかピク太郎と接触したら「俺はお金、取らない。敵じゃない」と訴える。
お金が必要な理由を聞きたくて来た。手伝える事があれば協力する。と説得。

ミミ子にお金を使う事が分かれば、暫く考えて、ミミ子を「お金を入れた恋人達にご利益のある貯金箱」として、植物園のデートスポットにしようと提案。
その代わり、植物園で誰かがいたずらするようなので、ピク太郎にパトロールをお願いする。
ピク太郎が良いなら、管理人に許可をお願いする。

不束・奏戯 個人成績:

獲得経験:75 = 50全体 + 25個別
獲得報酬:1500 = 1000全体 + 500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
ピクシーとミミックを説得

【行動・心情】
俺様ちゃんは分かるぜ
好きな子になにかしてあげたくなる男心!

額も少額みたいだし、謝れば皆そんな怒らないみたいじゃん?
だったら余計このままじゃダメだよな!

という事で、俺様ちゃんは2人を説得したいんだぜー!

とりあえず捕まえるというか所在を探すべきじゃね?
ほいほい、んじゃ、初めますかね!

なんとなく、地図があるならピクシーちゃん達の場所に当たりをつけて探すぜ!

情報は皆に共有して協力はするぜ!
そしてピクちゃん見つけたら

ミミちゃんに何かしてあげたかったんだろ?
でもそのままだと追われちゃうからさ
一緒に『もうやらないから』って謝りに行こうぜ!
皆、怒ってないからさ!

リザルト Result

●カレー食堂『おいらのカレー』
 店員の話を聞いた【アンリ・ミラーヴ】は、馬耳を落ちつかなげに動かした。
(お金が盗まれるとは、大変なことだ)
 この店はとてもいい店だ。早い安いうまいだけでなく、サービス精神も旺盛。ニンジン好きな自分が具材ニンジン増しでと頼むと、生ニンジンを丸まる一本つけてくれる気前のよさ。そんな馴染みのお店が窮地(というほどでもないが)に立たされているとあれば、常連客として手をこまねいているわけにいかない。
 そう思ってアンリは、事件解決に名乗りを挙げる。
「そういう、ことなら、俺、お助けする」
「おお、それは助かります! ありがとうございます!」
 アンリの手を取り感謝を示した店員は、続けて店内を見回した。誰か他にも名乗りを挙げてくれないかなー、と。
 それに応えたのは【不束・奏戯】。外ハネの金髪をファサッとかき上げ店内の女性客へアピール(しかし誰も見ていない)する。
「事情はよく分かった。ここは……俺様ちゃんに任せろ!」
「ありがとうございます!」
 間髪入れず礼を述べた店員は、再度店内を見回し始める。
 無言の圧を感じた【プラム・アーヴィング】は、窓の外を見るふりを始めた。彼的にはこの事件、あんまり興味なかったのだ。
 そこで店員はこう言い始めた。
「手伝ってくださった方には、特別に無料でカレーライス大盛りをご提供してもいいのですが! トッピングもご自由に選べますが!」
 プラムはピンク色の目を輝かせ、指を鳴らす。
「いいね、ヤル気出たわ。最高に激辛で頼むぜ。あ、俺福神漬けよりらっきょ派だから、そこんとこよろしくな」
「ありがとうございます! 大盛りカレーらっきょ増、大急ぎで!」
 数分後、どんぶりに盛ったラッキョウと対面相手が見えなくなるほどの山盛りカレー(激辛)を囲んで、対ピクシー作戦会議が始まった。
 進行役は奏戯。店に借りた周辺の地図を広げ、自信満満にプレゼンを始める。
「ほいほい、んじゃ、初めますかね! とりあえず捕まえるというか所在を探すべきじゃね?」
 対してプラムは、テキトーな感じの相槌を打つ。奏戯の目のように赤いルーをスプーンで掬い、口に入れながら。
「あー、そーね。それがいいかもねー……あ、うめえわこれ。うわやべえマジやべえ」
 アンリは会議が始まった時点から耳を後ろに伏せ、鼻をすすっている。緑色の目にいっぱい涙を溜めて――激辛カレーから揮発してくる激辛成分が網膜と鼻の粘膜に呵責ない攻撃を加えているのである。
 プラムはもとより辛いもの好き。奏戯はリバイバルだから生身の体を持たない。だが彼は、生まれつき五感の優れたルネサンス。この状況はかなりきつい。
 どう頑張っても耐えられそうにないので、早々離脱した。
「俺、外で、見張り、する。ピクシー、戻ってくる、かも」
 奏戯はずっと喋り続けている。
「ピクシーっていう魔物は、大体草原や森の中や、岩の間に生息してるだろ? この辺りでそれに近い環境がある場所っていったら、一番確率高いのは、やっぱり植物園じゃないかって――」
 まだ続きそうなところでプラムが、しっ、と息を吐き出した。
 声を出さず目線によって、奏戯の注意をレジ近くに誘導する。
 レジ台の下から小さな顔が、こっそり覗いていた。
 奏戯は思わず声を上げる。
「あっ! 出たっ!」
「馬鹿、でかい声出すな」
 とプラムが注意するも遅かった。見られているということを察したピクシー……ピク太郎は、ぴゅっと身を引っ込め逃げ出す。
 店内の声を聞き付けたアンリは、飛び出してきた小さな生き物の姿を見逃さず追いかける。気づかれないように、あくまでも距離を保って。
 店から出てきたプラムと奏戯がそこに合流する。
 プラムは『奏風のオカリナ』を取り出し、吹いた。仲間たちがピクシーに巻かれることのないように。

●リリー・ミーツ・ローズ……のどこか
 風に吹かれ潮騒のような音を立てる竹林。その一角にあるクマザサの繁茂エリア。
「ほらな。やっぱり俺様ちゃんが言った通り、植物園が黒星だっただろ」
「そーな。てか、割とフツーに魔物生息してるよな、学園」
「二人とも、あんまり声を出したら、駄目。小さなもの、警戒する」
 つかず離れず追跡を続けていた一行は、この場で足止めをくらっている。丈低く生い茂るクマザザの葉が地面を覆い隠しているせいで、ピク太郎の足取りが掴みにくくなったのだ。
 額に手を当てぐるりを見回した奏戯はアンリへ、心配そうに聞いた。
「なあアンリちゃん、逃げられちゃってはないよな?」
「それは、大丈夫。近くにいる、ことは、間違いない」
「ならいいけど……全然見えねえなあ」
 多分向こうも人間が近くにいるので警戒しているのだろう。物音ひとつ立てようとしない。
(これじゃあ、らち明かねえなあ)
 一計を案じたプラムは手持ちの小銭をポケットから取り出した。そしてそのへんにばら撒いた。
「ほーらほら。出ておいでーピクシーちゃーん、お金がザクザクよー、ザクザクー」
 奏戯は呆れ顔になり、小声で言う。
「おいおい、そんな分かりやすい罠にひっかかるわけが――」
 その途端、硬貨が落ちた地点のクマザザがカサカサ揺れた。
 プラムはしたり顔で奏戯を見返す。
「ひっかかったみたいよー」
 葉の揺れが移動して行く。三者はそれを追う。引き続きあんまり近づき過ぎないように。
 やがてクマザザのエリアが途切れた。周囲は丈高い竹ばかりとなる。
 若竹の葉を通した陽光が地面に落ちる。白髪、金髪、銀髪がその透ける光を反映し、ところどころ薄緑に染まる。
 しばらく行ったところでアンリが、馬耳を前方に向け立ち止まった。
「あそこ、なにか置いてある」
 プラムと奏戯がそちらを見れば、一際太い竹。その根元に、小さな家の置物。
 何ともメルヘンな色と形。硬貨を入れる穴がついているところからして、貯金箱らしい。
「あらー。こんなところにこんなもの捨てたの誰かしらー」
 戯れ口を叩きながら歩み寄るプラム。
 すると家の扉が開きピク太郎が出してきた。キッ、キッと甲高い声を発する。シャドーボクシングみたいな動きをする。
 相手が警戒していると見た奏戯は、プラムに言った。
「プラムちゃん、ちょい離れようぜ。なんかピクちゃん威嚇してるみてーだから」
 プラムはピク太郎が警戒音を発するのを止める距離まで後退した。
 そこからアンリが改めて、ピク太郎との意志疎通を試みる。
「俺はお金、取らない。敵じゃない」
 相手が驚かないよう姿勢を低く、ゆっくりした身振りを交え、訥々と話しかける。
 その言葉の調子から誠実さを感じ取ったらしい。ピク太郎はちょっと怒った顔ながらも自分からアンリに近づき、話を聞き始めた。
 ルネサンスとピクシーとの異種コミュニケーションが行われている間、奏戯とプラムは、貯金箱を前に話し合い。
「あれに近づこうとした途端に、ピクちゃん怒り出しただろ? だからさ、魔物学的に考えて、絶対ミミックだと思うんだよ。あの貯金箱」
「あー、それ俺も同感だわ。あのピクシー、ゆるふわ系ミミックに貢ぐためにせっせとコソ泥してたわけか」
「……プラムちゃんさー、そういうやな言い方すんなよ。俺様ちゃんは分かるぜ、好きな子になにかしてあげたくなる男心!」
「まあ、俺も異種カン交友の味のよさは知ってるけどな。やったことあるから」
 ともあれ原因が分かったなら対処しやすい。奏戯はミミックのミミ子に、ピク太郎説得への協力を要請した。
「なあ、ミミちゃん。ピクちゃんが今のやり方でコインを集めようとし続けると、人間から追われることになるかもしれないんだ。俺様ちゃんたちはそうならないよう、ピクちゃんに別のやり方を勧めたいと思ってんだ。よかったらそこんとこを、ピクちゃんに伝えてもらいたいんだけど」
 ミミ子はミミックなので特に返答することも動き出すこともない。
 だが一応何らかの意志表明があったものと見える。アンリの話を聞いていたピク太郎が、急遽彼女のもとへ戻ってきたからには。
 機を逃さず奏戯はピク太郎に、こう言い聞かせた。
「なあピクちゃん、ミミちゃんに何かしてあげたかったんだろ? でもそのままだと追われちゃうからさー。一緒にお店の人達に、『もうやらないから』って謝りに行こうぜ! 皆、怒ってないからさ! なんなら店の人を手伝って『アルバイト』してコインを貰ったらどうだろ? そしたら合法的にコインが貰えるぜ」
 そこでプラムはふと、あることを思いついた。
(貯金箱っていうなら、限度額まで金詰め込んで腹一杯になれば、これ以上の金品欲しがらなくなるんじゃね?)
 ものは試しとピク太郎に聞いてみる。
「なあ。このミミック、いくらまで貯められるか分かるか?」
 ピク太郎はミミ子に向かい身振り手振り。何か納得したように頷いてから、ミミ子の玄関ドアを指さす。
 プラムが身をかがめ目をこらしてみると、そこには丸っこい書体でこう描かれていた。
『1000000000Gためられるちょきんばこ』
 プラムは自分の思いつきを秒速で却下した。何事もなかったような顔をして奏戯の案に乗っかる。
「バイトで金稼ぎ? うん、いいんじゃないか。窃盗した店で売り上げに貢献すりゃあ、これまでのことはチャラだチャラ」
 アンリがそれに続けて、こんな提案をする。
「ミミックも、仕事、してみたら、どうかな。植物園、の、適当なところに、デートスポットとして、設置、されるとか。とても可愛らしい、から、人気が出ると、思う」

 ピク太郎とミミ子は話し合いをした結果、人間たちの案に同意した。
 奏戯とプラムはピク太郎を、アンリはミミ子を連れ、早速関係先に向かう。

●ピクシーによる謝罪会見
「とゆーことで、すんませんでした! こいつもこの通り反省してますんで、ひとつご勘弁いただけますと」
 と言う奏戯に併せてピク太郎が頭を下げる。
 それを見た被害店舗の店主たちは渋い顔をしつつ、こう言った。
「……まあ、二度とやらないというならね、いいんだが」
「しかしバイトといってもねえ、ピクシーに出来る仕事なんてないよ。その小ささじゃあ厨房仕事はもちろん出来ないだろう?」
「喋れないなら注文取りも無理だし……レジも難しいよねえ」
 普通に考えればその通り。
 しかし奏戯はそこをなんとか、と頼み込んだ。
「ピクちゃんも更生したいということですので」
「……本当かね? そのピクシーさっきからずっと鼻をほじっているんだが」
「え? あっ! こら止めなさいピクちゃんそういうことするのは! 誠意を疑われちゃうでしょ!」
 プラムが退屈そうに口を挟む。
「そんな普通の人間に出来るようなことさせなくたっていーじゃん。こいつはこのままで十分役に立つって、客寄せとして」
「客寄せ?」
「ああ。なんなら俺がこいつをレクチャーするけど?」

●ミミック。をプロデュース
「植物園に設置?」
「はい。噛んでくること、ないから、注意書きさえすれば、安全。ピクシー、も、パトロール、する、言ってる――」
 言葉を選び一所懸命に話すアンリに、植物園管理者は好感を持った。最終的にミミックの園内設置を許可してくれた。
「いいでしょう。これは、そんなに強力な魔物じゃありませんしね」
「あ、ありがとうございます」
 話がうまく行って気が緩んだアンリは、尻尾を高く起こして振る。
「どこに、置いて、くれますか?」
「そうですねー、恋人たちに御利益云々と言うなら、花園回廊あたりに据え付けましょうか。あそこは公然たるデートコースですから。つる性花木の生け垣やアーチが多く仕立ててあるので、何をしていても外からあまり見えないんですよ――ま、あまり過ぎたことがないように、一応こちらで監視はしてますけど」
 かくしてミミ子は、花咲き乱れる恋の園に安住の地を得た。

●そして後日、再び『おいらのカレー』
「キミいつからここにバイト入ったの?」
「あ、昨日すよ昨日。学費稼がないとヤバいんでー」
「大変だねー。これ、とっといて」
「あざっす。カツカレー1プレート、ライス大盛りでー」
 一物ありげな誠意を示す男性客からチップを巻き上げたプラムは、厨房に声をかけた後、店外に出た。
「おーい、ちゃんとやってるか?」
 日変わりメニュー看板の上に寝転んでいたピク太郎がぱっと跳び起きた。
(……こいつ、寝てたな)
 という彼の視線を浴びつつ何食わぬ素振りで、小さなチャルメラを吹く。
 道行く女子たちがその姿に目を留め、寄ってきた。
 ピク太郎は上目使いに相手の顔を見て、小首を傾げる。
「あ、こっち見てる」
「やだあ、かわいーっ」
 受けは上々。
 そこですかさず腰に下げた店の割引券を渡す。
「あ、日変わりが20%オフだって。ドリンクも」
「入ってみる?」
 とにもかくにもピク太郎が教えた通りにやっていると確認したプラムは、店内へ戻って行く。さらにチップをかっぱいでやろうと。
 後でコインに両替したら、幾らかミミ子へ詰め込んでやるつもりなのだ。彼女とピク太郎との前途遼遠な貯蓄計画を、ほんのわずか手助けしてやるために。






課題評価
課題経験:50
課題報酬:1000
ピクシー×ミミック
執筆:K GM


《ピクシー×ミミック》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 1) 2020-05-05 21:48:51
へーピクシーにも不良が居るって事じゃダメなん?
あぁそうですの…解決…しなきゃメッですか。

えーまぁ、報酬あるならやるけどもさ。

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 2) 2020-05-06 06:51:40
教祖・聖職コース、アンリ・ミラーヴ。よろしく(尻尾ぶんぶん)
植物園、落ち着く。緑があるから。
ピクシーは、ここにいるの、かな。
まず探す。それから、説得?

《ゆうがく2年生》 不束・奏戯 (No 3) 2020-05-06 17:47:03
いえーい!ゆうがく随一の美形!
不束さん家の奏戯君だぜ☆
シクヨロー!(ダブルピース)

軽率に悪い事したい気持ち、俺様ちゃんわかる〜。
たまには盗んだ箒でを走り出したいんじゃね?(絶対違う)

って事で、今回までは多目に見て貰う感じで説得したいよな。
とりあえず今後やらなきゃ良いみたいだしさ。

理由だけでも分かったらいいよなぁ。

とりあえず植物園探す方向で俺様ちゃんもOKだぜ!

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 4) 2020-05-07 00:13:07
(目を丸くして驚いた表情でコクコク頷く)
……多目に見てもらう、良いと思う。