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Shall We Dance?


ストーリー Story

●『舞踏音楽学』
 音楽室に、軽やかにジャスピアノが響き渡る。
「いいねいいね! 最高だよキミたち!」
 と楽しそうに声を張り上げて、学園教師の【ジョニー・ラッセル】はいっそう鍵盤を叩いた。
 生徒たちは、ジョニーの演奏に合わせて思い思いのステップを踏んでいる。
 『舞踏音楽学』は、音楽とダンスに魔法を融合させたジョニー独自の論理に基づく授業だ。
 音楽センスだけでなく、身体全体を使った表現力、体力が求められる。
 魔法によって自らを強化することだけでなく、周囲に幸せな気持ちを広げ士気を上げたり、敵の戦意を削ぎ弱化させることができる、と、いうのがジョニーの触れ込みだ。
 芸能・芸術コースの生徒からは、
「いいエクササイズになるよな」
「音楽に合わせて踊るのって楽しいよね!」
 と好評を受ける一方、他の学科の生徒からは、
「音楽に合わせて踊るより、もっと効率のいい魔法はいくらでもあるでしょ」
「俺たちは先生のモルモットなんだよ。先生の魔法が効くかどうか、授業中にデータを取られてるんだ」
 と、冷ややかで懐疑的な声も上がっている。
 そんな世間の評判もどこ吹く風と、今日も今日とて音楽室にジャズピアノの音色を響かせていたジョニーだが、その日ばかりは少し様子がおかしかった。

●ジョニーの危機
 その日のジョニーは、ひどくしおれていた。普段なら元気に跳ねている癖っ毛も寝ぐせも、心なしか落ち込んでいる。
 授業開始だというのに、ピアノの蓋を持ち上げることもなく、彼はただ椅子に座っていた。
 何かあったのは一目瞭然だ。
「えーっと……」
 見かねた生徒の一人が声をかける。
「先生? 恋人にフラれたりしましたか……?」
 ジョニーは沈み切った様子で生徒を見遣った。
「僕の授業って、やっぱりあんまり役に立ってないかな……?」
 生徒たちに何とも言い難い沈黙が流れる。
「役に立てられるかどうかは、個人にもよる気がしますけど……」
 という控えめなフォローを聞き、ジョニーは深いため息をこぼした。
「一部のOBから、この授業の必要性を聞かれちゃって……芸術や芸能を極めるなら魔法はいらないって……中途半端な学問って言われて……僕うまく答えられなくて……」
 青菜に塩とはこのことで、ジョニーはしおしおとへこたれてしまっている。
「ところで生徒諸君、頼まれちゃくれないかな……」
 と言ってひらりと見せたのは『勇者活動』の詳細が記載された紙だった。
「簡単なゴブリン討伐なんだ。巣もそんなにまだ深く作られていないし、ゴブリンたちも若くて知恵が浅い。だから、この勇者活動で『舞踏音楽』が役に立ったって証明してきてほしいんだ……」
 しょぼくれきったジョニーを前に、生徒たちは顔を見合わせた。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 5日 出発日 2020-07-04

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2020-07-14

登場人物 6/8 Characters
《ゆうがく2年生》ヒューズ・トゥエルプ
 ヒューマン Lv21 / 黒幕・暗躍 Rank 1
(未設定)
《模範生》プラム・アーヴィング
 ヒューマン Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
「俺はプラム・アーヴィング。ラム肉を導く修道士だ。…そうは見えない?そりゃそうだ、真面目にヤる気ないからな。ま、お互い楽しく適当によろしくヤろうぜ。ハハハハ!」                                       ■身体 178cm/85kg ■人格 身に降り注ぐ事象、感情の機微の全てを[快楽]として享受する特異体質持ち。 良心の欠如が見られ、飽き性で欲望に忠実、貞操観念が無い腐れ修道士。 しかし、異常性を自覚している為、持ち前の対人スキルで上手く取り繕い社会に馴染み、円滑に対人関係を構築する。 最近は交友関係を構築したお陰か、(犬と親友と恋人限定で)人間らしい側面が見られるように。 現在、課題にて連れ帰った大型犬を7匹飼っている。 味覚はあるが、食える食えないの範囲がガバく悪食も好む。 ■口調 修道士の皮を被り丁寧な口調の場合もあるが、普段は男口調を軸に雑で適当な口調・文章構成で喋る。 「一年の頃の容姿が良かっただァ?ハッ、言ってろ。俺は常に今が至高で完成されてんだよ。」 「やだ~~も~~~梅雨ってマジ髪がキマらないやんけ~~無理~~~二度寝決めちゃお~~~!おやすみんみ!」 「一応これでも修道士の端くれ。迷えるラム肉を導くのが私の使命ですから、安心してその身をゆだねると良いでしょう。フフ…。」 ■好き イヌ(特に大型) ファッション 極端な味付けの料理 ヤバい料理 RAP アルバリ ヘルムート(弟) ■嫌い 教会/制約 価値観の押し付け
《妖麗幽舞》サクラ・ブラディー
 リバイバル Lv14 / 黒幕・暗躍 Rank 1
イタズラ好きのリバイバル。 自分の名前や常識等以外記憶から抜け落ちている。 リバイバルになるための強い感情も抜け落ちておりなんで今ここに存在しているのかも本人にもわからない。(という嘘をついている) 取り敢えず毎日が楽しく過ごせればいい。 黒幕・暗躍コースなのは自分の特性がうまくいかせそうだったから 楽して成績優秀なら空いた時間は自由に使えるじゃろ? 趣味は人を揶揄うこと。 特技はなぜか舞踊、剣舞ができる。 また、占いもすることがあるようだ。 偶に変な雑学を披露する。 とある生徒の部下ではあるがそれを理由に相手をおもちゃにするために部下になってる ただ、ちょっとしたことならお願いは聞いているようだ 二人称:おぬし、または 名前殿
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。
《熱華の麗鳥》シキア・エラルド
 ヒューマン Lv25 / 芸能・芸術 Rank 1
音楽と踊りが好きなヒューマンの青年 近況 自我の境界線が時々あやふやになる みっともない姿はさらしたくないんだけどなぁ 容姿 ・薄茶色の髪は腰の長さまで伸びた、今は緩く一つの三つ編みにしている ・翡翠色の瞳 ・ピアスが好きで沢山つけてる、つけるものはその日の気分でころころ変える 性格 ・音楽と踊りが大好きな自由人 ・好奇心>正義感。好き嫌いがハッキリしてきた ・「自分自身であること」に強いこだわりを持っており、自分の姿に他者を見出されることをひどく嫌う ・自分の容姿に自信を持っており、ナルシストな言動も。美しさを追及するためなら女装もする。 好きなもの 音楽、踊り、ともだち 苦手なもの ■■■■、理想を押し付けられること 自己犠牲 二人称:キミ、(気に入らない相手)あんた 初対面は名前+さん、仲良くなると呼び捨て
《勇往邁進》アレックス・ジェット
 アークライト Lv7 / 芸能・芸術 Rank 1
本名:アレクサンドラ・ジェット 年齢:17歳(覚醒時の年齢は16歳) 身長:165cm 体型:スラりとしたモデル体型 髪型:剃り込みを入れたアシンメトリーのボブ。ベースはグレーでインナーカラーは赤。青や黄色のメッシュを入れている。 服装:パンクファッション。制服は改造してある。 性格:ロックな見た目とは裏腹に、普段の性格は落ち着いている。真面目にコツコツと物事に臨む。ややクール系。 音楽の事になると一転スイッチが入りテンションがぐーんと上がる。バーニンッ! 好き:音楽を響かせる事。相棒(ギター)の手入れ。 苦手:緊張する場面(何時か克服!)。マナーの悪い客。 ★口調(通常) 二人称:アンタ、名前+さん、くん ~だよ。~だね。 「アタシはアレクサンドラ・ジェット。アレックスって呼んで。よろしくね。」 ★口調(ロック) 二人称:名前のアニキ、名前のアネゴ ~だぜ!~だろ! 「〇〇のアニキも!○○のアネゴも!サイッコーに燃えてるぜぇ!」

解説 Explan

●『舞踏音楽』について
 学園教師ジョニー・ラッセルが編み出した、音楽と舞踏と一体となった特殊な舞踊技術です。
 音楽に合わせて呪文を詠唱し、軽やかにステップを踏むことで魔法陣を描き、呪文のリズムに合わせたダンスを踊ることで自らや味方に力を与え、敵を弱くすることができます。
 また、舞踏には戦闘に必要なステップも組み込まれており、美しいながらも攻撃・防御・回避・陽動が組み込まれており、使い方次第では、実践的な武闘舞踏と言えるでしょう。
 音楽は、才能あるものがそばで奏でてくれても構いませんし、一人で立ち向かう場合は鼻歌などで自ら歌いながら戦うことも可能です。
「鼻歌交じりに敵を殲滅」するような、洒落た戦闘スタイルが取れます。

なお、必ず「呪文を唱える音楽」と「魔法陣を描くための踊り」がセットであることが条件です。

また、一般技能:音楽、歌唱、舞踏が高いほど効果が上がります。
※これらの技能が無くても舞踊音楽を披露することに支障はありません。

プランに、自分の思い付いた舞踏音楽の動きを書いていただいても楽しいかもしれません。


●敵のゴブリンについて
近隣の村に巣を作ってしまったとのことで『勇者活動』の要請が届いています。
数は30前後で、まだ若く知恵も浅い個体ばかりのようです。

【生態】
 小人のような体躯に醜い顔をした魔物。
 徒党を組み集団で襲い掛かる。
 残虐性は低い。

【本能】
 知能は低く、本能のままに動き、己の欲望に忠実。
 特に性欲と食欲は旺盛。

【属性得意/苦手】
 無/無 魔法は大体大ダメージ。

【得意地形】
 ゴブリンの巣窟

【戦闘スタイル】
 近接戦闘型。
 武器は棍棒や斧、剣。
 知能が低いので防御のいろはは心得ておらず、盾を持つ個体は無い。

【状態異常】
 無


作者コメント Comment
閲覧くださりありがとうございます!

音楽とダンスがメインの物語ではありますが、芸術・芸能コースだけではなく、勇者・英雄コース、魔王・覇王コースはもちろん、武神・無双コースなどの方にもお楽しみいただければ嬉しいです。


個人成績表 Report
ヒューズ・トゥエルプ 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:3600 = 3000全体 + 600個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
舞踏音楽学、侮れねえぜ。
特に俺のように足を使って戦うスタイルには、リズム感ってのが欠かせねぇからな。

【戦闘】
1.【ダガーステップ】で演奏されている音楽に合わせる。
足で細かくシャッフルを刻み、敵にタイミングを取らせず
また、相手のタイミングは外すように斬りかかる。

2.ヒラヒラ感は期待できないな…
「忍縄」をリボンに見立て新体操をする。「演技、踊り、運動神経、跳躍」
縦横無尽に駆け巡って地面に定陣式魔法陣を足で描く。
演奏とクライマックスで忍縄をゴブリンに巻き付け魔法陣の中に引き込んで【マド】を発動する。

プラム・アーヴィング 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:3600 = 3000全体 + 600個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【挑発/ハッタリ/会話術/ポエム/魔物学/心理学/語学】から韻を踏んだリリックを編み出し、【マド】の詠唱やらを交えつつ【歌唱/早口】でアレックスの演奏に乗せてフロウ。

ダンスは【肉体言語/演技】や【基本杖術】での杖捌きを【踊り】の振り付けに応用し、必要に応じて回避と物理防御の【危険察知/立体起動/全力防御】の動きを取り入れる。
また、その行動に合わせてリリックを繰り出す。


相手さえ問題なければ、仲間内でコラボ/コンボも良いよな。
相乗効果を狙えるかもしれねェ。

また、巣窟内に踏み込み過ぎて包囲されたり、誰かに敵が集中しすぎたりしない様に調節しねェと。徒党を組む知能はあるようだし。

■アドリブ/交流度:A

サクラ・ブラディー 個人成績:

獲得経験:123 = 82全体 + 41個別
獲得報酬:4500 = 3000全体 + 1500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
実践的な武闘舞踏のぅ・・・
わっちの元々の戦闘スタイルに上手く組み込むことが出来ればいいんじゃがの
歌自体は得意ではないし楽器も出来る身ではないからの
リズムを鼻歌で刻む程度にしておこうかの
勿論、曲を弾いてくれる者がおればその曲に合わせていこうとは思うのじゃよ

ただ、アレじゃな相手はゴブリンとはいえ舐めプは出来ないんじゃが踊りという事で芸術点を高めていきたいとこではあるかの

アドリブA 大歓迎
絡みも大歓迎

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:3600 = 3000全体 + 600個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
わたくしは音楽、歌唱、舞踏をまなんでいません。
芸術・芸能科ですけど、芸術や芸能を極めようというつもりはありません。
いっしょにたたかってくれる人をささえるために演奏をまなんでます。

だから、わたくしは音楽、歌唱、舞踏の技能による『舞踏音楽』の増強を
確認するための比較対象になります。
それをまなんだ人との協力で検証していけるとおもいますから。

プチマドで魔法攻撃します、そのとき、『舞踏音楽』の手法の有無で
どう変化するか、ほかの方の演奏があればどうか、
それをていねいに確認していきます。
魔物討伐は手加減できませんし、わたくしたちにも個人差があります。
ですからただ強い弱いじゃなくて「どう強くなったか」ですね。

シキア・エラルド 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:247 = 82全体 + 165個別
獲得報酬:9000 = 3000全体 + 6000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
OBの先輩とやらが必要じゃなくても、俺には必要なんですけど?
先生!今日はよろしくお願いします!

・準備
先生から基本的なステップやコツを教わりたい
多分、戦ってる最中に踊るっていきなり言われても
大半の人は困ると思います
だから、基礎的なステップとか
リズムの取り方とか…アドバイスがほしい

・戦闘
味方が音楽にのって動きやすいように【演奏】は一定のリズムを意識
他の仲間が同時に演奏している際はテンポと曲調を合わせて不協和音にならないように

ある程度音楽が成り立ったら自分も前線へ
【演奏】の効果が続いている間に「歌唱」しながら「踊り」
近くにいる敵を優先して【二連切り】
攻撃はステップを交えた「跳躍」「緊急回避」で回避

アレックス・ジェット 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:3600 = 3000全体 + 600個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
・目標
舞踏魔術でロックに戦う

・心情
ジョニー先生の舞踏魔術…いいじゃん、ロックだぜ!
音楽には力がある!心の奥からずしんと来るパワーがさ!
アタシは先生の闘い方を支持するぜ!
…まぁ、ダンスは得意じゃないから魔法陣は他の人と協力しないとだけどね

・戦闘
舞踏魔術の【音楽】側
皆がノれる様に全力で歌うぜ
アツくなりすぎて前に出すぎない様気を付けるよ

演奏で皆の支援をしつつギターをかき鳴らし、舞踏魔術の詠唱を!
「ロックアレンジでぶっトばしていくぜェ!」

攻勢を仕掛けるタイミングに合わせて鼓舞激励Ⅰでかしこさを強化支援

敵がアタシを狙って近接距離へ迫り避けられない場合はプチコードで応戦
その後距離を取って即座に演奏を再開さ

リザルト Result

●出発の前に
 放課後の音楽室で、【アレックス・ジェット】はギターを片手に難しい顔をしていた。
「えーっと……あぁ、また間違えた」
 アレックスは呪文を書いた紙を伏せて、もう一度言葉を口に出す。
 教師の【ジョニー・ラッセル】曰く、
「呪文は頭で考えるんじゃなくて、口が覚えるもの。リズムやメロディの心地よさを、自分自身が感じて初めて本物になるんだ」
 とのことだった。
「まだ頭で考えちまってるのかな……」
 もう一度、最初から呪文を唱えていく。この呪文が目指すものを、自分自身の願いや祈りと重ねていく。
 本番で全力を出すには練習が不可欠であることを、アレックスは誰より理解している。
 踊り手が躍りやすいように、安定したテンポでの演奏をするために。練習は決して、嘘をつかない。
「よし、もっかい最初からだ」
 アレックスは目を閉じ、もう一度ギターを手に取った。
 それから、練習すること数時間。
「お疲れさま」
 音楽室の扉を開けて、ジョニーが顔を出した。
「精が出るね」
「先生!」
「ずいぶん熱心だったね。すごい集中力だった」
「出発前までに、もっとうまくなっておきたくて」
「本当にありがとう。君たちのような才能ある生徒たちがこの学問に携わってくれること、心から嬉しく思うよ……」
 その言葉に、アレックスはニカッと笑って見せた。
「だってさ。舞踏魔術……いいじゃん、ロックだぜ! 音楽には力がある。心の奥からずしんと来るパワーがさ!」
 音楽の力を、アレックスはよく理解している。
 自分を変える原動力となってくれたこと、アークライトとして生きる日々を支えてくれているのは、ほかならぬ音楽。
「アタシは先生の闘い方を支持するぜ!」
 アレックスは、励ますようにジョニーの肩を叩いた。
「ありがとう、アレックスさん」
「アタシ自身、音楽の力には生きる元気をもらってるんだ。音楽の力を理解しないで否定するOBなんかに好きかって言われて凹むことねぇよ」
 ジョニーはじっとアレックスの言葉に聞き入っていた。
「……君は本当に、音楽を愛しているんだね」
「あぁ。愛なんて言葉も生ぬるいぐらいだ。だからどんと構えてな! 音楽の力で、トラブルまとめて吹っ飛ばしてきてやるからさ!」
 頼もしい言葉に、ジョニーは嬉しそうに目を細めた。
「僕も、君のような情熱ある音楽家に出会えてとても嬉しいよ」
「照れるじゃんか。……それじゃ、アタシはこのへんで。音楽室、使うんだろ?」
「気を遣ってくれてありがとう」
 立ち去るアレックスに、ジョニーは言葉をかけた。
「君の音楽は、命の輝きに満ちている。君の音楽にだけ、照らせる闇があるんだ。君の音楽家としての人生がどう続くのか、一人の演奏家として心から応援している」
 アレックスは少し、はにかむように笑った。

 アレックスが立ち去った後、【シキア・エラルド】がジョニーのもとを訪れた。
「シキアくん! 君も課題に参加してくれるの?」
「はい! OBの先輩とやらが必要じゃなくても、俺には必要な授業なんです……! 先生! 今日はよろしくお願いします!」
「君みたいに才能豊かな生徒がそう言ってくれるなんて……泣けてきちゃうな……」
「泣くのはまだ早いですよ、先生!」
 それで、とシキアは用件を切り出す。
「出発の前に、先生から基本的なステップやコツを教わりたいんです。多分、戦ってる最中に踊るっていきなり言われても、大半の人は困ると思います。……だから、基礎的なステップとか、リズムの取り方とか……。アドバイスを頂けたらと思って」
「もちろん、喜んで。授業だけじゃ分からないことは、実践の場に出ればたくさん起きるからね」
「ありがとうございます!」
「習うより慣れろ、とは言うけどね。結局一番大事なのは、戦闘も舞台も同じで、アガらないこと。焦らないこと。これに尽きるよ。どんな場所でも、自分の中のリズムをちゃんと刻むことさえ出来れば、音楽家は誰にも負けない」
 ジョニーはピアノの前に座った。
「といっても、誰の音楽に合わせるかで、リズムは多少変わってくる。たとえば、君が今度課題に持っていくのは『青嵐』だ。もし君がそれで東洋の音楽を奏でるなら、楽器を主軸で奏でるというよりは唄を引き立てるための『間(ま)』を取ることが主な役目になってくる。とすると、歌に合わせるダンスそのものも、緩急の利いた、静と動の動きがたっぷり取り入れられたものになってくる……というわけで、突き詰めてしまえば、君そのものの個性に依存する部分が大きくなるんだ。何を歌うかも、それこそ『青嵐』のような楽器じゃ、いくらでもバリエーションが利くしね」
「……なるほど……?」
「質問してくれた基本的なステップは、どうしても分かりにくかったら音楽に合わせて身体を左右へ動かすものでも大丈夫。リズムの取り方も、基本的なものでイイのなら、そんなに高度じゃないよ。音楽に合わせて手拍子することがあるだろ? あのリズムに合わせて行けばいい。……ただ、君が持ってきた『青嵐』だと、うーん……普通の音楽とは、ちょっとジャンルが変わるから難しいかもしれないけど」
 ジョニーは少し考えるようなそぶりを見せた。
「『青嵐』を、ちょっと貸してくれるかな」
「どうぞ、喜んで」
 ジョニーはシキアから借りた青嵐を、ビィイン、と鳴らした。
「うん、いい楽器だ。ちゃんと手入れも欠かしていないね」
 ジョニーは深く息を吸う。
「青嵐 一掻き奏でれば まなこ隈なく澄み渡り」
 余韻に乗せるように、腹から響くような低い声が音楽室の地を這う。
 一度弾かれた弦の震え、それによる余韻が、はっきりと意識出来た。弦が奏でる音が、耳から、肌へ、全身へ染み込んでいくような錯覚さえある。
 ジョニーの脚が、ゆっくりと動いた。右足を肩幅へ開き、重心を右へ寄せていく。体重の抜けた左足で、するりと地に円を描く。
「青嵐 二掻き つま弾けば 懐剣鋭く敵を絶ち」
 動きはあくまでゆったりとしていて、芸術の領域を離れることは無い。
 だがその足元で、すでに魔法陣は完成していた。
「僕が使うならこんなもんかな。初動は遅くなるけど、まず数度弦をかき鳴らして場を作る。それから自分の間(ま)で、丁寧に歌を紡ぐんだ。……きっと君のことだから、もう何を歌うかは考えてありそうだね」
「ええ、アイディアはあります」
「うまくいくことを祈ってるよ。音楽の前では誰もが自由だ。自分のリズムを、ちゃんと刻むんだよ」
 応援するように、ジョニーの手がシキアの肩に乗る。
「……誰もでも、自由……ですか」
「そう。歌って踊ることは、みんなに許された自由だから。生まれも種族も親友もお金も、自分を助けてくれない。音楽の前には、自分一人しか持ち込めないからね。だから、限りなく自由なんだ」
 シキアは顔を上げた。
 ジョニーはシキアの一切を知るわけではない。きっと自分自身の経験を語っているんだろう。
 それでもその言葉は、シキアの胸に確かに響いた。

 出発前の【レーネ・ブリーズ】の心は、ひどく落ち着いていた。
 入学してから、様々な魔物、悪意ある人間と戦ってきた。
「レーネ君、演奏しないって本当に?」
 ジョニーに問われ、レーネはにこりと微笑んだ。
「先生の学問に必要な研究のお手伝いが出来ればと、思っているんです」
「……手伝い?」
「私はまだ『舞踏音楽学』をきちんと学んでいません。ですから、その学問をちゃんと理解している方とそうでない私との比較で、差分が出ればなと」
 ジョニーに先を促され、レーネは自分の思いを語る。
「芸術や芸能を極めるなら魔法はいらない……今回ジョニー先生が直面したような人も、いるとは思います」
 レーネに、その考えを否定するつもりは無いようだった。
「でも、芸能や芸術に必要なものは、どこからか自然に湧いてくるものだけではありません。芸術には、詩であれ、歌であれ、物語であれ、曲であれ……それぞれ『題材』が必要です」
「その通りだ。自分の中にあるものだけじゃ芸術は作れない。引き出しの数が、才能の本質の一つだ」
「えぇ。……もちろん、なにげない日常に感動を見出す、ということも素敵ですけれど、例えば事件を題材に選ぶ場合、その取材には危険がともないます。芸術に携わる人間は、自分を守るすべが必要となります」
 胸を揺さぶる芸術は、人間の魂が震える瞬間にこそ作られる。
 そんな言葉が、ジョニーの脳裏をよぎる。
「それだけではありません。地方の村の人々にとっては、たまに村を訪れる芸人、吟遊詩人さんたちが、とても大切な喜びのひと時をくれます。……だけれど、そのために遠路をゆく一行の旅は、いつだって危険と隣り合わせです。護身できるだけの武力を身につけるのも、大変です。それにその努力は、芸術のための努力と直接的な関係がありません」
 レーネの言葉を、ジョニーはじっと聞いていた。
 レーネは、にこりと微笑んで見せる。
「でも、練習した歌や音楽や踊りがそのまま護身に仕えるなら、それはきっと芸術の歩みを支える力になる。そう思います。だから、先生には頑張ってほしいですし、私が比較対象となることでこの学問の価値を証明できるなら、嬉しいことだと、思っているんです」
 どこかはかなげながらも凛とした物言いに、ジョニーは深く頭を下げた。
「ありがとう。……どうか君にも、音楽の神様と、戦いの神様が微笑みますように」
 レーネはまた微笑みを返した。穏やかで透き通った、彼女らしい微笑みだった。

●いざ、洞窟へ
 討伐当日、冒険者たちはゴブリンの穴を慎重に進んでいた。
「まだ……あまり大きくはないか」
 【ヒューズ・トゥエルプ】は緊張感を失わないまま、
「暗いのう……」
 【サクラ・ブラディー】も、隣で目をすがめた。
「ゴブリンとはいえ、舐めプは禁物じゃの。落ち着いていきたいものじゃ」
「まぁ死ぬことは無いだろうけど?」
 【プラム・アーヴィング】は軽く肩をすくめた。
「それよりヒューズ、お前ダンスなんかできるのか?」
「何、プラム君」
 ヒューズはプラムのほうをじっと見る。
「スモーカーだし。息切れしちゃいそうと思って」
「それでもこの授業はいい経験だ。俺みたいに足を使って戦うスタイルには、リズム感ってのが欠かせねぇからな」
「なるほど」
「プラム君こそ。踊り子ってタイプには見えねぇけど」
「今日の俺はRAP導師コースのプラムだよ~~☆」
「何それ」
「ま、いざとなればフツーに魔法も使いますけど」
 不良トリオのうち二人でまったりと会話しながら先陣を切っていく。
 その後ろをレーネとアレックスが行き、しんがりはシキア、サクラだ。
「そういえば、サクラさんはどうしてこの課題に?」
 シキアに話を振られ、サクラは軽く肩を竦めた。
「わっちは先生に誘われての。普段の戦闘の動きが舞いに似ておるから、きっと学びはあるはずじゃと熱心に……。失った記憶を取り戻す手がかりがもしかするとあるかもしれないだとか、色々」
 サクラの視線は、シキアの手にした『青嵐』へ向く。
「それに今回は、琵琶に似た楽器もあるようじゃしの。良い演奏を楽しみにしておるよ。シキア殿」
「それは嬉しいな。ご期待に沿えるよう頑張るよ」
 そう答えた時、ヒューズとプラムの足が止まった。

●第一幕 ロックは魂を揺さぶる
「早速お出ましだぜ」
 プラムが軽く口笛を吹く。
 次の瞬間、
「ギィィイッ!!!」
 ゴブリンの鳴き声が、巣の中にこだました。
「いくぜ!」
 ヒューズの声に合わせて、アレックスがギターをかき鳴らす。
 作戦はこうだ。
 まず、ヒューズ、プラム、アレックスの三人がロックで敵の先鋒を突き崩す。
 三人が疲弊した頃合いで、サクラとシキアが出る。
 レーネは遊軍となり、体力を温存しつつ両グループの補佐と、音楽性の違いによる効果の有無を確認する。
 アレックスは『ソウル・オブ・ギター』を構えた。
「耳かっぽじってよぉっく聞きな! 言葉の通じねえゴブリンでも、音楽は分かるだろ?」
 洞窟の中で、ギターの響きが反響し、増幅されていく。
「ロックアレンジでぶっトばしていくぜェ! 二人とも、準備はいいかァ!」
「はいよ!」
「いつでも!」
 ノリのよいロックのメロディに合わせ、プラムがまず先陣を切る。
「見てな。これがラップロックポール(両手杖)ダンスッ!」
 ぱちんと指を鳴らし、ニィ、と楽しげに唇を吊り上げる。
「It’s show time 詠唱エネミー破壊するマド乱打なんだこんなモンか? ゴブ肉ミンチ 実力ダンチ 蹂躙する惨状現状実質俺等がモンスター」
 自分の持つ様々な技術から見事に韻を踏んだリリックを編み出し、フロウにマドの詠唱を交えつつアレックスの演奏に乗せて歌いあげてゆく。
「ぎぃぃ!?」
 華麗な杖さばきを交えたダンスは、日頃から鍛えていた演技力や、戦闘や授業の中で身に着けた杖捌きを応用したものだ。
 プラムの攻撃に、最初のうち圧倒されていたゴブリンだったが、即座に棍棒で反撃してくる。
「お見通しだってェの」
 プラムは軽く笑って攻撃を回避し、たたらを踏んだゴブリンの後頭部に再びマドをお見舞いする。
「なるほどなァ、効き目はどうだか知らねえけど、BGM付きってのは楽しいな」
 プラムは楽しげに笑う。
 だがゴブリンたちは音源であるアレックスに目をつけて、ぎぃぎぃ耳障りな鳴き声を上げた。
「アレックス!」
 誰かが退避を促すように名前を叫んだ。
 だがアレックスは動かない。
 仲間を信じて、決して彼女は演奏は止めなかった。
 行く前に練習した呪文が、すらすらと口をついて出る。味方を鼓舞し、戦う力を与える呪文。それは今、アレックスの身体になじみ、自分の心が言葉になって、音楽に乗ってこぼれだしていくようだった。
(先生が言ってたのは、こういうことなのかな)
 戦いの中で、自分のメロディを刻むこと。
 自分に生きる勇気を与えた音楽は、今、この場で引かずに戦い続ける原動力そのものとなっていた。
 五匹のゴブリンが徒党を組み、一気にアレックスめがけて駆け寄っていく。
(何が、怖いもんか)
 アレックスは、きっと敵を睨みつける。
「ゴブリンたった五匹で、アタシの演奏が止められるかよ……!」
 ガキィン、と、鈍い音がした。
 その行く末を、ヒューズが阻んだ。
 ダガーステップを使いこなし、演奏されている音楽に合わせながらステップを踏み、敵の攻撃タイミングを狂わせる。
 先鋒と務めるゴブリンが躓いた拍子に、ステップに合わせてゴブリンの顎を蹴り上げた。
「そらよっ!」
 シャッフルダンスの軽やかなステップを刻みながら、ゴブリンを袈裟懸けに切り捨てていく。
「ありがとう、ヒューズ」
「こっちこそ! かっこよかったよ、アレックス」
 演奏の合間にわずかに言葉を交わし、二人はまた戦闘に集中する。
 ヒューズは忍縄をリボンに見立て、新体操の動きを見せた。
 辺りを縦横無尽に駆け巡ってゴブリンたちの動きを混乱させ、地面に定式魔法陣を足で描いていく。
 プラムが賞賛するように口笛を吹いた。
 そして、ヒューズの動きを邪魔しようとするゴブリンたちに向かって、再びリリックを叩き込んでいく。
「演舞リリック全部無に帰す殺戮 ノンストップスプラッター まだマド リピート尽きぬリビドー魔力 ロックストリップImエネミー生憎その身リリックと共に刻む魔法」
 ゴブリンたちは見事にマドを食らい、はじけ飛んだ。
「やっぱり威力上がってる……? いや気のせいか……?」
 プラムは首をかしげた。
 その間にも、ヒューズは忍縄をゴブリンに巻き付け、魔法陣の中に引き込んでいく。
「ぎぃぃ!!!」
 ゴブリンたちは斧を振り回して縄を絶ち切ろうとしたが、それより先に、ヒューズがマドを発動させた。
「第一陣は、あらかた片付いたか?」
 さすがに、息が切れる。
 ヒューズは足を止め、深く息を吐いた。
 その隙を狙おうと、剣を持ったゴブリンが死角から飛び掛かる。
「チッ」
 回避しようとするより先に、レーネが動いた。
「プチマド!」
 攻撃は見事に、ゴブリンに命中する。
「……どう? データは取れそう?」
 ヒューズの問いに、レーネは少し笑って見せた。
「ええ。……ですが、音楽による高揚感を忘れていました。実際に『舞踏音楽学』を使わなくても、アレックスさんの演奏に勇気づけられてしまっています」
 それより、と、レーネはヒューズを気遣う。
「そろそろ交代した方がよいかもしれません。マドを撃った後ですし、消耗も激しいようですから」
 ゴブリンたちも、このまま戦っては不利だと踏んだのだろう。残った数匹が、洞窟の奥へ逃げていく。
 ヒューズはプラムと顔を見合わせた。プラムはからかうようににやりと笑う。
「やっぱりタバコやめた方がいいんじゃないの?」
「うるさいな」
 肩で息をするヒューズを、レーネが心配するように伺った。
「……ヒューズさんは、どうでしたか? 『舞踏音楽学』の成果は」
「そう……だなぁ」
 息を整えながら、なんとか返答する。
「……同時に色んな事をやらなきゃと、散漫になるイメージだったが、むしろその逆……。集中力が増してく感じだぜ」
 そして振り向きざま、自分たちの様子を偵察するゴブリンの足元に、プチマドを撃った。
「ほら、お前さんも一緒に踊ろうぜ」
 ゴブリンはまた、ぎぃぃ! と不快な鳴き声を上げて逃げていく。
「よし、交代だ。ショータイムだぜ、お二人さん」
 プラムが後ろで控える二人に向かって交代の合図を出した。
「あーーー! 疲れたぜっーーー! けど楽しかったー!」
 ヒューズが体を起こす隣で、演奏を終えたアレックスとぱちんとハイタッチし、下がる。
「いい演奏サンキューな」
「こっちこそ! いいリリックだったよ」
 隊列を組みなおす間、レーネが周囲を警戒し続ける。
「ありがとう、レーネさん」
 シキアとサクラが、前列へ立った。

●第二幕 演舞は雅に 歌は凛と
「行こうか、サクラさん。第二幕だ」
「わっちらの舞を観ずに死ぬなんて惜しいぞ?」
 びぃん……と、洞窟の中に『青嵐』の音が響いた。
 シキアは真っすぐに前を向き、『青嵐』を抱えている。
 サクラは華奢な体ひとつで前線へ出た。
 ゴブリンたちは、少女一人と侮ったのか、数を増して襲い掛かる。
 サクラは微動だにしなかった。
 傘を持ち、舞うように流水の構えを見せる。
「挑んでくるが良い。だがわっちは、見た目ほど優しくはないぞ?」
 ゴブリンたちが四匹ほどで束になって襲い掛かってくる。
 それは、静と動の緩急のついた、美しい舞だった。
「そら。ついてこられるかえ?」
 ゴブリンたちは、じっと止まったサクラに向かってめちゃくちゃに棍棒を振り回す。だが不格好な彼らの舞をあざ笑うように、サクラは彼らを翻弄した。
 直前まで目の前に立っていたかと思うと、軽く後ろへ身を引く。次の瞬間には、ゴブリンが側頭部を殴り飛ばされている。
 そのタイミングに合わせて、『青嵐』の音が鳴り響く。
「……ほう」
 サクラは嬉しそうに目を細めた。
「絶妙な間(ま)じゃな」
「それはどうも、嬉しいね……!」
 飛び掛かってくるゴブリンをさばいていくサクラの動きは、殺陣にも似た美しさがあった。立っている位置はほとんど動かないにもかかわらず、次々とゴブリンたちがなぎ倒されていく。
 その彼女のリズムを支えるように、シキアの楽器が鳴り響いていく。
「これは気持ちよいぞ」
 くつくつと笑いながら、サクラは最後に立ちはだかっているゴブリンを叩きのめした。
 そして、シキアを振り向く。
「のう、おぬしも一緒に舞おうぞ」
「え、俺も?」
「舞も得意なのじゃろう? 出し惜しみは無しじゃ」
 ちらりとアレックスを振り返る。
「頼めるかな」
「もちろんだ。ロックだけじゃないアレンジも楽しそうだしな!」
 シキアはレーネへ視線を向けた。
「これ、頼めるかな」
 『青嵐』を預かり、レーネはこくりと頷いて見せた。
 シキアはゴブリンたちの方を振り向く。
「それじゃあ、一曲お相手願おうかな」
 残りは7匹程度だった。
 アレックスのノリのいいギターのメロディに合わせて、レーネが詩を歌う。勢いのあるアレックスの音楽と、柔らかな旋律を紡ぐレーネの声。
 一見相反するような二つの音楽は、洞窟の中に澄み渡るように響いていった。
「盛り上がってきたのぅ」
 楽し気に笑うサクラの手を取り、シキアは笑顔を返した。
「さぁ、フィナーレだ!」
 先ほどのヒューズと同じ、シャッフルダンスのような足の動きを重視したステップを踏む。
 ゴブリンたちはさすがに対応しようとしてきたが、シキアの方が一枚上手だった。
 くるりと回避するターンを交えて、振り返りざまゴブリンたちに攻撃を加えていく。
 シキアの動きに合わせて、音楽がテンポを上げていく。そのリズムに合わせるように、シキア自身も自分の足音でベースのリズムを踏んでいく。
 辺りには、アレックスとレーネ、そしてシキアの奏でる『音楽』が響き始めていた。
「あぁ、楽しい……楽しいな」
 先生が言っていた自由は、こういうことなのかもしれない。
 そんな直感が胸をよぎった。
 音楽に合わせて、自然と言葉が口をついて出る。
 父が教えてくれた『うた』だ。
「銀の導 金の道 翠の雨は 音となり 加護を謳え」
 もっとだ。
 そんな思いがシキアの胸に広がっていく。
「もっと俺、勉強したい。もっと魅力的に。もっと……美しく!」
 演奏が終わるまで、シキアは夢中で踊っていた。
 はっと気が付いた頃、洞窟の中は仲間たちの拍手で満たされていた。

●『舞踏音楽学』
 一行のゴブリン退治は、無事に終了した。
「誰も怪我はありませんか?」
 レーネが気遣うように一行を見遣る。
「おかげさまで。かすり傷程度で済んだぜ」
 プラムが笑って答える。
 踊り疲れたサクラは、シキアの背におぶってもらっている。
「ちと眠たくなったの……」
 とあくびをかみ殺す様子は、
「これならまだ、先生の授業は続きそうかな」
 シキアの言葉に、アレックスが笑って見せた。
「大丈夫だろ、これだけしっかりやり切ったんだから」
 レーネは少し考えるように頬に手を当てていた。
「どうかした? レーネ」
 アレックスに問われ、レーネは少し首を振った。
「いいえ。……この学問を学んでいらっしゃるシキアさんと、プラムさん、ヒューズさん、サクラさんたちの違いを考えていたのですが……」
 まだ結論は出ないらしい。
「ただ、一つ言えるとすれば……。誰かと戦闘の中で声を合わせることはよくあると思うのですが。音楽で繋がる間(ま)のようなものや、阿吽の呼吸は……。興味深いものでした」
「あぁ、それは俺も思った」
 ひょいとヒューズが会話に加わる。
「音楽があるからタイミングも合わせやすいし、どっちが前に出るパートか分かってるから連携がとりやすいんだよな。それに、音楽が一緒だと、なんかテンションが上がるし」
「えぇ。きっとそれも……『舞踏音楽学』に限られない、音楽の力なのかもしれませんね」
 レーネは考え込むように歩いていく。
「課外の後まで頭使ってすげぇなァ」
 プラムはレーネの後姿を眺めて感嘆の声を漏らした。そして、大きく伸びをする。
「あー、疲れた疲れた。普段使わねえ筋肉がすげぇ動いた感じするわぁ~」
「なんだよ、プラム君も疲れてるんじゃねえか。人のこと言えた口かよ」
「頭も使ったから俺は~。聞いてただろ? 俺の見事なリリック」
「あれな、よく舌噛まなかったな?」
「こう見えても立派な導師サマだからァ。ゴブリンとはいえ誰かを導くときに噛んじゃかっこ悪いでしょ?」
 食えない口調でへらへらと笑うプラムに、ヒューズは肩を竦める。
「っていうか、新体操するとは思わなかったわァ……。何あのダンス、どこで練習したの」
「足使って戦ってナンボだから。……体の柔軟性とか、動きの俊敏さと美しさとか、新体操ってけっこういいなと思って」
「服装までこだわってほしかったわぁ」
「全身タイツ着ろって? 冗談キツイわ。着たら着たでからかう癖に」
「アハハ、わかってんじゃん」
 男子二人はどつき合いながら歩いていく。
「そういえばの」
 シキアの背におぶられたサクラが、不意に口を開いた。
「舞の中で何かが吹っ切れたのかは知らぬが、おぬし、なかなか良い踊りっぷりじゃったぞ」
「あぁ、本当に?」
 シキアは少しサクラを振り向いた。
「自分から解放されるような感じじゃった。……良いものじゃな、解放は」
「……サクラさんは、自分の記憶がないんだっけ」
「ほほ。肩の荷など何一つないのじゃ」
 どこかからかうような口調で、サクラは笑う。
「おぬしのこと、わっちは何も知らぬ。じゃが、音楽を奏でているとき、踊り始めた時、おぬしはやけに楽しそうじゃった」
 小さな手が、ぽん、ぽん、とシキアの後頭部を撫でた。
「……なんか、母親みたいなこと言うんだね」
「ほほ。リバイバルじゃからの」
「でも記憶はないんでしょ?」
「まぁそれもそうなのじゃが」
 くぁりとあくびをして、サクラはまたシキアの後ろでじっと沈黙する。
 シキアは、ジョニーに言われた言葉を反芻していた。
 父親も、母親も。自分の生まれも、姿も。『オズ』も『ジェンダート』も。
 音楽の音色の中に、何一つ持ち込むことはできない。父親が譲ってくれたはずの才能も、磨いて音楽にのせていくのは、自分自身だ。
「音楽の前では、誰もが自由……か」
 帰路につく足取りは、不思議と軽いものだった。



課題評価
課題経験:82
課題報酬:3000
Shall We Dance?
執筆:海太郎 GM


《Shall We Dance?》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 1) 2020-06-29 04:09:55
ばわにちは、RAP導師コースのプラムだよ~~☆

これは、俺の考案したストリップRAP真拳を披露する時では?
まぁ、魔法で攻撃するんだけどなァ~~~~~!!

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 2) 2020-06-29 06:40:06
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。よろしくお願いします。

《熱華の麗鳥》 シキア・エラルド (No 3) 2020-06-29 20:35:41
はいはいはい!!今参加しなくていつ参加するの!?今じゃん!!!!(ハイテンション)
というわけで芸能コースのシキアだよ、みんなよろしく

で、舞踏音楽には「踊り」と「音楽」がいるみたいだけど
誰か演奏してほしいって人いたら俺は演奏に回るよ

《勇往邁進》 アレックス・ジェット (No 4) 2020-06-30 00:46:18
アタシは芸術・芸能コースでアークライトのアレックス・ジェット。よろしく。

舞踏音楽…アタシは踊りは得意じゃないから先生みたいに戦えないけど、
このギター……相棒での演奏なら任せてくれよな!最高のロックを奏でてやるぜ!

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 5) 2020-07-01 13:30:09
普段はわたくしも演奏することがおおいですけれど、
今回は演奏してくださる方がおられますから、
魔法で攻撃しますね。

わたくしは音楽、歌唱、舞踏にあまり興味がないので
それらの一般技能はなにも習得していません。
わたくしにとって演奏はたたかうための力ですから。

だから、技能を習得している方々との比較対象になりたいです。
それによって有用性を確認できたらとおもいます。

音楽、歌唱、舞踏がすきで練習してきた方が、それを活用してたたかえるなら、
その歩みをしっかりとささえられるすてきな力になるとおもうから。

《ゆうがく2年生》 ヒューズ・トゥエルプ (No 6) 2020-07-02 01:04:36
黒幕・暗躍コースのヒューズです。よろしく。

学べることがありそうだったから参加させて貰ったよ。
自分の手で仕留めたい性分なんで、舞踏を希望。

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 7) 2020-07-03 10:25:56
おっと、今日が出発日だな。

シキアは踊りが得意だし、演奏だけよか複合した方が良いんじゃねえか?
ま、俺がシキアのダンスが見たいだけだが。

アレックスが演奏してくれんなら、音楽は確保出来た感じがするな。ありがとよ。

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 8) 2020-07-03 20:08:15
あ、もう会議室誰も居ねえかもだが。
一応、誰とでも舞踏音楽のコラボ出来るようにプランには記載しておいたぜ。
色々楽しめりゃいいよな。