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【水着】鮫に歌えば


ストーリー Story

●OBの苦言
 その日、演奏会から帰ってきたジョニー・ラッセルは実に満足げだった。
「いやぁ、自分が教えた生徒が立派に音楽家として活躍してるのを見るほど、幸せなことはないね~」
 ニコニコとご満悦に、ラッセルは赤ワインのボトルを空ける。
 楽しく酔っ払い、音楽を奏でて歌いながら、教え子の活躍を思い返してまた嬉しそうに酒を飲む。
 だが、ご機嫌なジョニーのもとに辛い知らせが届いた。
「ラッセル先生、これ先生宛の手紙です」
「忙しいから後にして」
「でも緊急の知らせで」
「じゃあ君が読んで。耳だけ貸すか……」
「OB会からですよ、ラッセル先生」
 ジョニーはぴたりと手を止めた。
「……貸してくれ」
 手紙を受け取り、文字に目を走らせる。
 内容はこうだった。
・ゴブリン退治程度の簡単な仕事で『舞踏音楽学』の必要性は証明できない。
・歌と踊りは芸術性としてその価値を高めるべきであって、戦闘の舞台は他のものに任せればよろしい云々。
「……そっか……そうですか……」
 ジョニーは深く息を吐いて髪をくしゃりとかき上げた。
 酔いはあっという間に醒めてしまった。
 ジョニーは部屋の中をうろうろ歩き回って考えを巡らせる。その目はやがて、友人から送られてきたSOSの手紙に留まった。

●海開き! 鮫開き!?
「親切なみんな、良かったら次は、『舞踏音楽学』の力でフラッシャーをぶちのめしてくれないかな!」
 授業が始まった途端ニコニコとそう言い出すジョニーを前に、生徒たちは呆気にとられた。
「フラッシャー……ですか?」
「そう。友人がそろそろ海開きをするんだけどね、フラッシャーの群れがそばの海を回遊していて困ってるらしいんだ。群れを壊滅、とまではいかなくても、何匹か撃退してきてほしい」
「えっ、でも先生、フラッシャーって、水の中にいるんでしょう?」
「そうだよ。だからこそ『舞踏音楽学』が挑む価値がある。音楽があって、ダンスがあれば、『舞踏音楽学』はどこででも力を発揮できるはずなんだ」
 ジョニーの目は、強い光を宿していた。
「君たちの実力なら、船の上でもきっと存分に戦える。……大丈夫」
 それに、とジョニーは言葉を続ける。
「特別に、今度の『勇者活動』で必要な衣服……つまり水着なんかは、こっちでお望みの物を手配するよ。舟だって出す。仕事が終わったら、海の家の友人も酒やごちそうで歓迎してくれるはずだ。……学校の課題で海豪遊なんて、悪い話じゃないだろ?」
 フラッシャーとの勝負、そして夏休み前のお遊びの予感に、生徒たちは思わず、顔を見合わせたのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 4日 出発日 2020-07-20

難易度 難しい 報酬 通常 完成予定 2020-07-30

登場人物 5/8 Characters
《新入生》フェリシティ・オーバーベック
 アークライト Lv10 / 芸能・芸術 Rank 1
■性別■ 男性 ■容姿■ 見た目:活発そうな女の子 髪:オレンジの二つ結び 目:金と紫のオッドアイ 服:可愛い女性服を好む ■性格■ 元気 かわいいもの好き ■趣味■ 可愛いものを作ること 可愛いものを身に付けること ■好き■ かわいいもの ■苦手■ 男らしいものを身に付けたり、使うこと 男として過ごすこと ※男らしい人、男性は苦手にはいらない ■サンプルセリフ■ 「はろろん、フェリシティよ。どうぞよろしく」 「私は可愛いものが大好き!だから、私自身も可愛くいたい」 「私は自分を偽りたくない。私は私らしくいたい。」 「受け入れられなくたっていい、だって、これが私なんだもの」
《妖麗幽舞》サクラ・ブラディー
 リバイバル Lv14 / 黒幕・暗躍 Rank 1
イタズラ好きのリバイバル。 自分の名前や常識等以外記憶から抜け落ちている。 リバイバルになるための強い感情も抜け落ちておりなんで今ここに存在しているのかも本人にもわからない。(という嘘をついている) 取り敢えず毎日が楽しく過ごせればいい。 黒幕・暗躍コースなのは自分の特性がうまくいかせそうだったから 楽して成績優秀なら空いた時間は自由に使えるじゃろ? 趣味は人を揶揄うこと。 特技はなぜか舞踊、剣舞ができる。 また、占いもすることがあるようだ。 偶に変な雑学を披露する。 とある生徒の部下ではあるがそれを理由に相手をおもちゃにするために部下になってる ただ、ちょっとしたことならお願いは聞いているようだ 二人称:おぬし、または 名前殿
《熱華の麗鳥》シキア・エラルド
 ヒューマン Lv25 / 芸能・芸術 Rank 1
音楽と踊りが好きなヒューマンの青年 近況 自我の境界線が時々あやふやになる みっともない姿はさらしたくないんだけどなぁ 容姿 ・薄茶色の髪は腰の長さまで伸びた、今は緩く一つの三つ編みにしている ・翡翠色の瞳 ・ピアスが好きで沢山つけてる、つけるものはその日の気分でころころ変える 性格 ・音楽と踊りが大好きな自由人 ・好奇心>正義感。好き嫌いがハッキリしてきた ・「自分自身であること」に強いこだわりを持っており、自分の姿に他者を見出されることをひどく嫌う ・自分の容姿に自信を持っており、ナルシストな言動も。美しさを追及するためなら女装もする。 好きなもの 音楽、踊り、ともだち 苦手なもの ■■■■、理想を押し付けられること 自己犠牲 二人称:キミ、(気に入らない相手)あんた 初対面は名前+さん、仲良くなると呼び捨て
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。

解説 Explan

●『舞踏音楽』について
 学園教師ジョニー・ラッセルが編み出した、音楽と舞踏と一体となった特殊な舞踊技術です。
 音楽に合わせて呪文を詠唱し、軽やかにステップを踏むことで魔法陣を描き、呪文のリズムに合わせたダンスを踊ることで自らや味方に力を与え、敵を弱くすることができます。
 また、舞踏には戦闘に必要なステップも組み込まれており、美しいながらも攻撃・防御・回避・陽動が組み込まれており、使い方次第では、実践的な武闘舞踏と言えるでしょう。
 音楽は、才能あるものがそばで奏でてくれても構いませんし、一人で立ち向かう場合は鼻歌などで自ら歌いながら戦うことも可能です。
「鼻歌交じりに敵を殲滅」するような、洒落た戦闘スタイルが取れます。

なお、必ず「呪文を唱える音楽」と「魔法陣を描くための踊り」がセットであることが条件です。

また、一般技能:音楽、歌唱、舞踏が高いほど効果が上がります。
※これらの技能が無くても舞踊音楽を披露することに支障はありません。

●敵のフラッシャーについて
海を回遊しているようです。10匹程度が群れになっています。
海で遊ぶ者たちを攻撃しようとするので、被害が出ています。

【生態】
 名前の由来は「フライングシャーク(飛翔する鮫)」。
 海に住む生物の特性を真似て作られた魔物。
 基本は水棲生物だが、噛みついたら離さない鋭い牙と、短時間なら水中から飛び出しても活動出来る汎用性を持つ。

【本能】
 獰猛で好戦的。
 知能は低め。

【属性得意/苦手】
 水/無

【得意地形】
 空中、水中

【戦闘スタイル】
 高速で泳ぎ敵に噛みつく。
 水中に引きずり込み噛みちぎる。
 地上では噛みついた敵を地面に打ち付ける、など。
 また、跳ねている瞬間のフラッシャーは【飛行】状態となり、攻撃が当たりにくくなります。

【状態異常】
 氷結
 飛び上がってアイスブレスを吐きます。


作者コメント Comment
閲覧くださりありがとうございます!
『舞踏音楽学』の存在意義がまたピンチのようです。どうぞ素晴らしい成果を残して学問を救ってあげてください!



音楽とダンスがメインの物語ではありますが、芸術・芸能コースだけではなく、勇者・英雄コース、魔王・覇王コースはもちろん、武神・無双コースなどの方にもお楽しみいただければ嬉しいです。


個人成績表 Report
フェリシティ・オーバーベック 個人成績:

獲得経験:180 = 150全体 + 30個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
心情:
「喉OK、いつでも行けるよ!皆のために、歌うね!」

行動:
基本は、「呪文を唱える音楽」を【音楽】と【歌唱】で呪文を歌い上げる。

後方支援をメインで行う。後方支援の内容は、
1、「呪文を唱える音楽」を歌う。
2、歌いながら、敵の位置を確認。
3、敵の位置を仲間に伝えるべく、武器で敵の方向を示す。
  →武器を叩いて音を鳴らすなど
4、怪我した味方を回収する。

攻撃に転じることができそうであれば、【踊り】で攻撃に参加。
状態異常になる前に【秘められし力】で対応。

数が減り、余裕が出てきたら、【覚醒Ⅰ】【天使のオーラ】を発動。
効果時間中に歌いながら攻撃に参加する。

サクラ・ブラディー 個人成績:

獲得経験:180 = 150全体 + 30個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
前回と同じく学びに来たのじゃ
今回のお相手はフラッシャーとな
ちと厄介な相手じゃの・・・まぁ、やることは変わりないのじゃが


船体や皆を守るために流水の構え、プチシルトで受け流したり障壁を張ったりするのじゃ
障壁と言ってもそんなに強くないがないよりましじゃろ?

ダード 、アン・デ・カースで遠距離のを、
近づいてきたのを基本剣術を使い「桜舞」で切りつけたり、逢魔抱擁で相手の力を吸収したりして攻撃じゃ

基本的に守り>近接範囲の敵の排除>遠距離の敵に攻撃
といったように動きたいがそこはまぁ臨機応変に動くのじゃ

アドリブA 絡み大歓迎

シキア・エラルド 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:427 = 150全体 + 277個別
獲得報酬:13500 = 5000全体 + 8500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
ステージ用意してもらえなきゃ動けない、なぁんて…そんなわけないでしょ
さー頑張ろう!

・事前準備
船の構造把握と水着準備

・行動
初手は【演奏】で味方の支援を
自身も敵からの攻撃は「踊り」「緊急回避」で避けつつ、敵の動きを観察
一定のテンポを保ちつつ、水の音を聞き逃さないように

攻撃時は味方とタイミングを合わせて
水中にいる間は味方が攻撃後の敵が避けた方向へ【マド】
空中時はヒレを狙い【二連斬り】
船の上ということで、あまり船を揺らさないように下半身よろ上半身の動きを意識
持ってきた武器(楽器)の特性を踏まえ、静と動の緩急を意識した「踊り」を

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:180 = 150全体 + 30個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
サメじゃん。1年ぶりくらい?
また分解したり食べたり調べたりしよーね。飛ぶ理屈とか知らないし。
…音楽?踊り?そーいうのはやらないけど。ザコちゃん踊ってもいー思い出ないし。

それよかザコちゃん欲しいのはサメのだし。
仕留めるのは手伝うよ。お邪魔はしないからさぁ。ほんとほんとぉ。

とりまザコちゃんサメの引き付けやるね。
飛んでる相手にわたわた踊るよか、多少当てやすくしてたり余計な邪魔入ったりとかがないほーがいーんじゃん?多分。


とりま飛んでくるサメ【挑発】して、ザコちゃんに狙い寄せれるよーに。
低空飛行系のサメならぽこして叩き落としたら甲板でしょ?
水とか空に比べたら多少の隙は出来んじゃん?多分。

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:225 = 150全体 + 75個別
獲得報酬:7500 = 5000全体 + 2500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
わたくしは楽器「天使の歌」を職業技能「演奏」でつかって
ほかの方々のおけがをなおしていきます。

楽器効果:射程内の自分を除く味方全員のたいりょくを30回復する。


わたくしは『舞踏音楽学』をまなんでいません。

そのわたくしの演奏を『舞踏音楽学』をつかう方々が
普通よりさらに効果的に活かせるなら、
それもまた『舞踏音楽学』の有用性を示す、
それを検証してみますね。

また、演奏しながら周囲の状況を「視覚強化Ⅰ」「聴覚強化Ⅰ」
「動作察知Ⅰ」の技能で把握して、敵からの攻撃を確実によけます。

ほかの方が敵にかみつかれてひきずりこまれそうになったら
種族特性の「フド」の魔法攻撃をぶつけてたすけますね。

リザルト Result

●旅立ちの前に、生徒は集い
「先生」
 放課後の音楽室で、学園教師の【ジョニー・ラッセル】と【レーネ・ブリーズ】が向き合っていた。
「OBの方の説得は、あまり現実味のある対策ではないのかもしれません」
「そうだね、僕もそんな気がするよ……」
 レーネは、ジョニーの担当する『舞踏音楽学』の生徒ではない。
 だが、芸術を嗜むものとして、この学問の未来を憂いているらしい。
「たとえば校庭で在校生が誰でも習得できるようにした上で、その利用状況をまとめてみてはいかがでしょう。OBには理解してもらえなくても、現在学園に携わっている生徒たちに有用性を理解してもらえれば……」
「うん、うん」
「本学園の理念は『芸術性の追求』ではなく『魔物を討伐し、人々を救うことができる存在、勇者の育成を行う』ということです。それを踏まえれば、『ゴブリン退治程度』というような言葉は不適切だと感じますし……何より、戦い方の選択肢を狭めるような言葉は、参考にならないかと」
 ジョニーは意外そうに彼女を見つめた。
「……君がそんなふうにこの学問を捉えていてくれたなんて、ありがたいなと思うよ」
「めっそうもありませんん」
 レーネはぺこりと頭を下げる。
 品が良く、決して他人と争うことを好むようなタイプには見えない。
 それでも、OBの物言いに対する毅然とした姿勢や、自分の信じるものを曲げずにいくにはどうすればよいのかを模索する姿には、胸を打つものがあった。
「……そうだね、僕も少し、OBに負けない方法を考えてみるよ。OBと真っ向勝負で戦うより、君たち在校生がこの学問を望んでくれることのほうが、たしかにずっと、喜ばしいことだ」
「それなら良かったです」
 レーネはニコリと微笑んだ。
 その時、コンコン、と音楽室のドアをノックする音がした。
 見れば、開けたままのドアを【サクラ・ブラディー】が軽く手の甲で叩いている。
 会話を中断しないようそこで待っていてくれたのだろう。
「あぁ、こんにちは、サクラさん。今日はどうしたの」
 問われて、サクラは楽しげに目を細めた。
「ちと先生に質問があるのじゃが。時間は構わんかの?」
「質問は歓迎だよ。レーネさんとの議論も、一段落ついたところだし」
 レーネもサクラにこくりと頷いてみせる。
 サクラは、
「では、お邪魔するかの」
 と音楽室へ入り、椅子へと腰掛けた。
「早速質問なのじゃが、音楽のテンポによっては、舞踏音楽学がわざとして成り立つまでに差が出てしまう場合があるように思える。……ほれ、例えばラップとバラードじゃ、そもそものメロディからして違っておるじゃろ」
「うん、うん」
「それを考えてみると、音楽の種類をあれこれとっ散らからせてしまうより、何か舞踏音楽学に向いた音楽のジャンルを一つ選んでしまったほうが即効性が高いように思うのじゃが、そうしない理由……テンポの遅い音楽も、舞踏音楽学として成り立つといえる側面があれば、伺いたいなと思ったのじゃ。どうじゃろう」
「なるほどなぁ。すごく良い質問だね」
 ジョニーは感心したようにサクラを見た。
「今の質問は、サクラさんの体験が元になってるの?」
「そうじゃな。前回の課題でわっちも踊ったのじゃが、わっちが好む東の国の伝統音楽は、やはり少々テンポが遅いでの。他のものの音楽を聞くにつけ、そう言えば……と、思ったのじゃ。戦いの途中で敵が待ってくれるでもあるまい?」
「なるほどね」
 ジョニーはまたこくこくと頷いてみせる。
「結論から行くと、舞踏音楽学で加味されるのは小節数じゃなくて経過時間なんだ。使った時間がながければ長いほど、技は強力になる。同じ一つの術を出すにしても、テンポの速い曲と遅い曲では、威力そのものが違うんだ」
「ほう」
「だから、例えば、ラップみたいな音楽では、小技をいくつも繰り出すことができる。ジャブに似たイメージかな。相手の足を掬ったり出鼻をくじいたり、とっさの応急手当するような使い方だと思ってもらえればいいと思う」
「ふむ。では遅い曲は?」
「そうだね。シックなテンポの音楽は大技に向いてる。例えば、前衛で味方に頑張ってもらっている間に、大技を練り上げて一気に敵へ叩き込んだり、戦闘で消耗してきた味方を大きく治療したり……同じ状態異常でも、手数のあるアップテンポに対して、スローテンポの曲は、手数こそ少ないけど威力が絶大になるんだ。参考になったかな?」
 サクラはコクリと頷いた。
「音楽そのものに優劣はつかないと思ってるし、舞踏音楽学ではそういう取り入れ方をしているけど、もっといい方法もあるかもしれない。なにか思いついたら、また相談しに来てね」
「感謝するのじゃ」
「他になにか質問は?」
「そうじゃの。今度の課題が終わった後のOB反応、先生はどう見ておる?」
「……そりゃぁ」
 ジョニーは少し難しい顔をした。
「これで多少は黙っていてくれれば、と思うけど」
「なるほどの。大切なのは対面的な処置ではなく、根治じゃ」
「根治……」
 サクラは薄く目を細めてみせる。
「どれ。ではひとまず、目の前の問題に取り組んでいくかの」

●いざ出航のとき
「せんせー!」
 港に停泊する船を確認するジョニーのもとに、明るい声が響いた。
 【シキア・エラルド】が、ぶんぶんと手を降っている。
「あぁ、シキアくん!」
「聞いたよ、俺もやるー!」
「君も課題に参加してくれてたね、嬉しいよ」
 彼もまた、前回の授業から改めて踊りについて考え直したらしい。
「前も言ったけど、OBがなんて言ったって俺には必要な学問だしね!」
「優しいなぁ君は……」
 やりたいようにやる。そのスタンスに変化はないものの、音楽と向き合う姿勢はいくらか深まっているようにジョニーには見えた。
「あれから思ったんだ。やりたいように自由に、って考えた先でも、音楽がやっぱり好きだって。だから、やりたいって。……それに、俺には音楽しかもってないって思ってたけど、違ったんだって、気づけて」
「本当に? あの課題の中でそんなことまで感じ取ってくれてたの……嬉しくなっちゃうな」
「うん」
 そう頷いてみせるシキアの表情は、いつも以上に晴れやかだった。
「音楽しか無いんじゃない。俺には、音楽があったんだなって……だから、今回もがんばります」
「ありがとう。君みたいに才能のある子にそう言ってもらえるのは、教師としても嬉しいことだよ」
「船の中、見てもいいですか?」
「うん。じっくり確認してみて」
 停めてある船に、シキアは乗り込んでいく。
 操縦室がある他は、段差の少ないボートだった。普通の船より、平たい場所が多い。また、船全体を見渡しても、へりが大きめに作られている事がわかる。踊ったり演奏したりする途中で海の中へ転落する危険性は無いだろう。
「珍しい形の船ですね。ベンチのようなものも無い」
「そう。これもともと海上楽団向けに作られててね。潮風で楽器が駄目になりにくいよう普通の船より少し深めに作られてるし、平たい部分を沢山確保することで演奏向きのスペースを取れてるんだ」
「なるほど……本当に誂え向きってわけですね」
「そう。これが今度のステージだよ」
 そんな会話する二人の元へ、また一人、青年が訪れる。
 可愛らしい水着に身を包んだ【フェリシティ・オーバーベック】だ。
「あ!」
 シキアが嬉しそうに声を上げる。
「この間の酒場に一緒に行った子?」
「あッ、うん!」
 フェリシティは少し緊張しているように、やや上ずった返事をした。
「今日は、よ、よろしくね!」
「こちらこそー! 嬉しいなぁ! おんなじコースの人増えてきて、俺も負けてられないね」
「負けるだなんて……! でも今日は、精一杯、頑張るね!」
 ニコニコと嬉しそうにしながら、シキアはフェリシティを歓迎する。
「可愛い水着だね」
「ほんと? ありがとう~」
 男性向け水着には違いないが、その中でも丈がゆったりしていて、ズボンと言うよりはキュロットスカートに近いかたちをしている。フェリシティがくるりと回ってみせると、丈がスカートのようにふわりと広がっただろう。
 上から薄手の上着を一枚羽織るだけで、ガーリーさがぐっと上がり、どこか中性的な魅力をまとって見える。
「似合うかな」
「うん! 凄く可愛いよ」
「えへへ」
 フェリシティは、少し照れたように笑ってみせた。
「俺もそろそろ着替えなきゃ」
「エラルドさんはどんな水着にしたの?」
「水色のボクサーパンツ系にしたんだ。海の色と合うかなと思って」
「ふふ。エラルドさんの水着姿も楽しみ」
「えー、なんだか照れちゃう」
 クスクスと笑い、シキアはジョニーに軽く挨拶をして離れていく。
 入れ違いで【チョウザ・コナミ】が顔を出した。
「コナミさん!」
 知った顔に、フェリシティが嬉しそうな声を上げる。
「どうもー」
 チョウザはけだるげながらも片手を上げて挨拶に答えた。
 派手なマゼンタと緑をベースにしたビキニに、金で大きな柄のついたパレオが風に翻る。
 今回、チョウザは舞踏音楽学を使うつもりが無いことは事前に周知済みだ。
 言うなれば、単純に鮫を食べに来ただけで、学問の未来云々は彼女にとって興味の範疇外である。
「準備できたら行っちゃおっかー。いつまでも港で過ごすわけにも行かないじゃん?」
 そういうチョウザの視線の先には、同じく水着に着替えた女子二人と、手早く着替えを済ませて戻ってくるシキアの姿があった。
 レーネは、白と薄桃色を基調にした品の良いビキニの上から、薄手のカーディガンをまとっている。清楚で控えめながらも、思わず目を引くような美しさがあった。
 一方のサクラは、黒に紅色で桜模様が浮き彫りにされたオフショルダーのビキニをまとっている。ひらりとトップの豊かな布が翻るさまは、さながら普段の着物姿を彷彿とさせるようだ。
「全員集合かの」
 サクラは集まったメンバーを眺めた。ジョニーの案内で、一人、また一人と船へ乗り込んでいく。
 ジョニーは全員に向けて、最後に船の説明を行った。
「僕が案内できるのはここまでだ。操縦室にある大きなレバーを奥まで倒せば、船は自動で目的地まで案内してくれる。レバーを真ん中に設定すれば停泊するし、手前に引き戻せば、ここまで帰ってくることもできる。いざとなったら、操縦室の中にある照明弾を打ち上げて、合図を送って」
「はい」
「……それじゃあ、皆の無事を祈るよ」
 その言葉が、出航の合図となった。
 チョウザががたんとレバーを奥へ押した。こうして、五人は船に乗り、フラッシャー退治へ向かっていったのだった。

●歓迎するのは、海の荒くれもの
「海は広いなー! 大きいなー!」
 浅瀬を離れ、どれほど船を走らせただろう。
 途中までは発声練習を行っていたフェリシティも、緊張がほぐれたのか、楽しげに海へ向けて声を放っている。
 その声を聞きつけて襲うなら襲ってくれば良いと、他のメンバーもおおらかに構えている。
「あ。トビウオがおるのじゃ」
「へー。どんな味すんだろぉ」
「ザコちゃんお腹すいたの?」
「別にぃ、ただの興味だけど」
「こんなに時間あるなら、釣竿持ってくればよかったなー。私発声練習のことしか考えてなかった」
「考えてみれば、船に乗って海へ行くのにそれは思いつきませんでした。有用性が高い発想ですね……」
 五人がめいめいにのんびり会話を続けている。
 だが不意に、海の気配が変わるのを察知した。
 飛んでいたトビウオが消え失せ、魚影がほとんど無くなる。
 どこからか、ピリピリとした殺気のようなものを感じ、全員がとっさに身構えた。
「……来る」
 誰かがそう呟いた、次の瞬間だった。
 パァン、と派手な音がして、水面から唐突に巨大な塊が跳ね上がった。
 体長は一メートル前後であり、そう大型ではない。
 だが『フライングシャーク』の名の由来通り、跳躍力は並以上だった。
 一匹目のフラッシャーが、高く跳ねて全員の注意を引きつける。
「何アレ」
 不思議がるような言葉を口にしたのは、チョウザだけではなかった。
 生物の生存本能とはかけ離れたような動きに、サクラも眉を寄せる。
 だが次の瞬間彼女ははっと気が付き、声を張り上げた。
「……! アレは囮じゃ! 伏せろ!」
 そう彼女が叫んだ次の瞬間、低い軌道で船の両脇からフラッシャーが二匹飛びかかってくる。
 ガチン、と歯が噛み鳴らされる音を、船に居た全員が耳にした。
「……危なかったぁ」
 シキアが小さく息を漏らす。
「ふむ、敵も考えるものじゃの。集団の戦法に慣れておる」
 レーネはすぐに周囲を見渡した。
「お怪我は、ありませんか」
「ありがとう。私は大丈夫だよ。皆も無事みたい」
 とっさに甲板に身を伏せた衝撃はいくらかあるものの、大した問題ではなさそうだ。
「向こうから来てくれるんなら好都合じゃん」
 チョウザはいち早く立ち上がった。
「ザコちゃん囮やるからぁ。相手の先鋒にばっか好き勝手させてらんないっしょ?」
 食うなら食えと言わんばかりに、大きく両手を広げてみせる。
 チョウザの影が、海に落ちた。
 また、大きな音がして水からフラッシャーが跳ね上がる。フラッシャーはチョウザの背後を取り、大きな口を開いてひとのみにしようとした。
 その間に、サクラがすっと立ちはだかる。
「流水の構え」
 フラッシャーの跳躍の方向をそらし、一度海へ叩き落とす。
「なんとかなるものじゃの」
 ふぅ、と息をこぼすサクラのそばで、フェリシティとシキアも立ち上がっていた。
 フェリシティの喉から、朗々と透き通った歌声が響き渡る。
「戦に挑むものよ 誓いのため流す血を惜しまぬ勇者よ」
 フェリシティの歌声は、フラッシャーの出没で張り詰めた空気を鼓舞に変え、皆の心に落ち着きと高揚をもたらしていくかのようだった。
 暖かでどこか懐かしい、吟遊詩人の奏でる音楽に似たメロディは、聞くものの戦意を強く後押ししてくれる。
「……いいね」
 シキアはフェリシティの歌声だけでなく、周囲の海の音へも耳を澄ませた。
「フラッシャーが飛び出してくる直前に、ほんのちょっとだけ、海の音が変わる場所があるんだ。そこを狙えば、奴らが飛びかかってくる瞬間に攻撃ができる」
「ほう」
 サクラが興味深そうにシキアを見る。
「わっちには聞こえんかったのじゃ。音楽の才能の問題かの」
「才能、ってより、かけてきた時間の問題かな」
 シキアは少し笑って、目を閉じる。
「……来る。九時の方向、ザコちゃん狙いだ!」
 言い放った数秒後に、またフラッシャーが現れた。
 チョウザに狙いを定めた跳躍に、タイミングを完全に合わせて『青嵐』の仕込み刀を振るう。
 見事な二連斬りをくらい、フラッシャーのヒレが甲板に落ちた。
「おっ、ラッキィ」
 チョウザがヒュウと口笛を吹く。
 フラッシャーは自分の体のコントロールを失い、やや仰向けに海へ落ちていった。
 機動力は損なわれていないものの、流血が激しい。
 その血の匂いに駆られ、他のフラッシャーたちが集まり始めた。
 傷ついたフラッシャーを、仲間だったことを忘れてしまったかのように貪り始める。
「うわ……」
 フェリシティが小さく悲鳴に似た声を上げた。
 一方でチョウザは
「ちょっとぉ。それザコちゃんの素材なんだけどぉ」
 と不服気な声を漏らす。
「ザコちゃんザコちゃん。でもフカヒレは取れたよ」
「それはそうだけどぉ」
 共食いするフラッシャーから視線を戻したチョウザに、音もなく別のフラッシャーが飛びかかった。
 というより、共食いの水しぶきのせいで、フラッシャーが近づく音がかき消されてしまっていたのだ。
「危ない……!」
 チョウザの右後ろ、ちょうど死角になっていた場所からフラッシャーが迫る。
「おっ、と」
 チョウザは小さく声を上げた。
 彼女にとって、推測の範疇の結果ではあった。だからこそ、とっさの対処が間に合った。
 そこに、フェリシティが大きく一歩踏み込む。
「コナミさん……!」
 その行動の意図を理解し、チョウザは直前までフラッシャーの注意を自身へひきつけた。
「ほぉら。こんなに赤くて美味しそうでしょ? もっとこっちに来てご覧、素材ちゃん」
 身を捻ってかわすチョウザの腕を、フラッシャーの牙がかすめる。
 その口が、ガチンと音を立てて閉じた瞬間、エラのすぐ下をえぐるようにフェリシティの『フギン・ムニン』が突き刺さった。
 再起不能の手傷を追い、フラッシャーが甲板に打ち上げられる。
 びちびちと跳ね回るその姿は、凶悪以外の何物でもなかった。
「まだ素材一歩手前って感じぃ」
 チョウザがひょいとフラッシャーを見下ろす。
 次の瞬間、フラッシャーは最後の気力を振り絞るようにチョウザに肉薄していった。
 軽いステップでかわそうとするものの、甲板の上では限界がある。
「危ない!」
 誰かが叫ぶと同時に、大きく口を開いたフラッシャーは、チョウザの脚をたしかに噛みちぎった……はずだった。
「ヒヤッとしたぁ」
 チョウザは大きく息をこぼし、すとんと甲板に座ってみせた。
 チョウザの持ち歩いていた『身代わりうさぎ』が、無残に食い破られ、ふわふわの綿がむき出しになってしまっていた。
 だがその役目を果たし、主を守りきった立派な姿には違いない。
「ご無事で良かったです」
 レーネはそう言いながら、楽器『天使の歌』を手にした。
「皆さんどうぞ、また甲板にお座りください。立ったままでは、また不用意に的にされてしまいますので」
 レーネの言葉に促され、全員がめいめいの姿勢で甲板に腰を下ろす。
 彼女がそのラッパで奏でたのは、追悼にも似た響きの音楽だった。一呼吸挟んで一度状況をリセットするように、身代わりうさぎをいたわるように、レーネは丁寧にメロディを紡いでいく。
 彼女の演奏の力によって、味方全員の疲労が徐々に癒やされていくのがわかった。
 演奏を終え、レーネはそっと目を閉じた。
 一時の休息を経て、勇者候補生たちのコンディションは良好に保たれているようだ。
「……また、静かになりましたね」
 早くも二匹が迎撃されたからだろう。フラッシャーの群れは船から少し距離を開けたようだった。群れから離反し、戦闘には加わらずに離れた場所から様子をうかがう個体も現れている。
 三匹のフラッシャーが離れていくのを見て、思わずシキアは呟いた。
「なんだか世知辛いね……。いいとこ取りだけ狙ってるよ」
 サクラもシキアの視線を追う。
「はは。戦線離脱してくれるのはありがたいことじゃがの。負け戦は好きじゃないようであれば、こちらも手間が省けるわ」
 チョウザは甲板に残されたフラッシャーの死体と、海を見比べて様子をうかがう。
 自身の読みでは、フラッシャーは一度休息に入ったように見えた。
 出鼻を早々にくじかれる形で二匹がやられたのだ。群れを組む知能がある生き物なら、当然の行動だろう。
「かかってこないなら、今のうちに解体しちゃっとのもアリだけど。あと何匹ぐらい素材クン残ってるかわかるぅ?」
 チョウザの問いかけに答えるよう、シキアはまた海へ視線をやる。
「ヒレが5匹分見えるよ。あともう一息。ってところかな。さっき離れた個体の感じからすると、全部を殺す必要はないかもしれない」
「つまり?」
 フェリシティが不思議そうに首を傾げる。
「つまり、彼らにとってこの海は狩場じゃないって理解してくれれば離れてくれるかもしれない。この海に出てくるのは、ここを自分の庭だと思ってるからだろ。負け戦をしない主義なら、この戦場はお前たちのフィールドじゃないんだって教えるだけで効果はあるかもしれない」
「なるほど……! やってやるっきゃないねー!」
 フェリシティはこくりと頷いた。
 チョウザは軽く肩をすくめる。彼女にとっては素材収集がメインであるから一匹でも獲物は多いに越したことはないが、逃げるフラッシャーを追うだけの機動力がこの船にないことも理解していた。
 深追いして、もっと大群のフラッシャーと鉢合わせても面倒だ。
「ま、素材が取れるならザコちゃんそれで文句ないしぃ」
 そう返事して、どの程度が持ち帰れて、どの程度は海に捨てるべきかと頭を巡らせる。
「さて、残る戦意を削いでやろうかの。シキア、フェリシティ。準備を頼むぞ」
 サクラは面白半分のように立ち上がり、二人へ声をかける。
「任せて! まだ全然歌えるよ!」
「もちろん。いよいよフィナーレだね」
 シキアは自分の手にした弦楽器『青嵐』をゆったりと構えた。
 びぃいん……。と。
 青嵐の確かな旋律が、海へゆったりと響き渡っていく。
 すぅ、と、フェリシティが息を吸い込む。
 事前に青嵐がどんな音色を奏でるのか。シキアと相談した上で、ジョニーから教わった歌を口にする。
 普段歌いなれたメロディがあるものとは違う。どちらかと言えば語るほうに近い感覚だが、これも音楽のひとつなのだ。
「……猛きつわものは、おのが死を見定めることなく」
 甲板を揺らさぬよう、シキアは丁寧に足を運んでいく。激しいタップのような動きはせず、重心を低く安定させたまま上半身をうまく使い、演奏しながらのダンスを披露した。
「……ただ猛り狂うがゆえに、つわものたるや。しかしてその末期は、泡沫、夢のごとき儚さとなり」
 弦の響き、振動の余韻がもたらす『静』の動きと、唄による『動』のフェーズ。
 その2つを理解し、緩急をつけたシキアは、たしかに舞踏音楽を体現していた。
「ゆくぞ」
 サクラが手を広げ、海へ向けて『ダート』を放った。
 ざわり、と、海底でフラッシャーたちの気配が変わったのがわかる。
 当たる当たらぬはともかくとして、小柄な敵影を見つけたのだろう。狙いの先をマゼンタ色の女から小柄なリバイバルへ、殺意の矛先が変わっていくのが肌で感じられた。
「はは。ゾクゾクさせてくれるのぅ」
 目を細めたサクラめがけて、二匹のフラッシャーが迫ってくるのがはっきり見えた。
「今じゃ!」
 そうサクラが叫ぶと同時に、フェリシティとシキアはそれぞれ行動を開始した。
 フェリシティは自身に宿った光の魔力を解き放ち、アークライトとしての本領を発揮した。僅かな時間だが、勝機を掴むには十分だ。
「喰らえ……!」
 フギン・ムニンを携え、飛びかかってきたフラッシャーの側面に深く刃を食い込ませていく。
 一方のシキアは、フラッシャーの放ったアイスブレスに対して寸分違わずマドを放った。
「今日のフカ料理はウェルダン気味かな?」
 攻撃を相殺され無防備になったフラッシャーは一度水に姿を消し、それでも諦めずに船の下をくぐり抜けるように泳いだ。
 あっという間に姿をくらませたかに見えたフラッシャーだが、一呼吸開けるか否かのうちに、再びサクラへ弾丸のように飛びかかった。
「さて、守られてばかりも性に合わぬからの」
 サクラは薄く目を細めた。
 そしてダメ押しのように、先程の演奏中支度しておいた『アン・デ・カース』をフラッシャーめがけて放つ。
 顎を見事に固定され、アイスブレスを吐きそこねたフラッシャーの口周りがあっという間に凍りつくのが見えた。
「はは。このまま吊り下げれば、大物一丁上がりといったところか」
 サクラはゆったりと番傘『桜舞』に手をかけた。
 そして、一刀のもとにフラッシャーを切り捨てたのだった。

●祭りのあと 1
「結局取れたフカって一匹分じゃん……。船乗り損の草臥れ儲け……」
 はぁ、とチョウザが人知れず深くため息をこぼす。
 その視線の先では、海の家が再び盛況を取り戻していた。
 客は誰もかれも楽しそうに海を満喫しており、どこにもフラッシャーの驚異は見当たらない。
(ま、一度覚えた狩場を、あんなに簡単に手放すとは思えないけど……)
 念の為、最後のダメ押しで残った個体めがけてチョウザは『炸裂の種』を放り投げておいた。
 それがどの程度威嚇としての意味を為すか、それは蓋を開けてみるまでわからないだろう。
 調査報告後から3日後、海の家のオーナー直々に、勇者候補生たちへ招待がかかった。海で好きなだけ過ごしてくれて構わない、とのことで、足を運んだというわけだ。
 そのチョウザと同じテーブルで、レーネは真剣にノートに何かをメモしている。
「さっきから何してんのぉ」
 チョウザに問われ、レーネは顔を上げた。
「レポートの作成です。課題があったわけではないのですが、今回のことで少しでも、色んな人の意見が変わればと思って……」
「でも、漫遊系エリアル様って別に舞踏ナントカの生徒じゃないんでしょ?」
「ええ。ですがこの学問の持つ有用性や可能性を、もっと多くの人に知らせることができれば。それは……大きな光になると信じているので」
「ふぅん……」
 チョウザは適当な相槌を返し、頬杖をつく。
 なぜレーネがその有効性を信じ、尽力しながらも、自身の学問領域としては頑なに舞踏音楽学と一線を画すのか。それはレーネの胸に秘められており、誰かが預かり知るところではない。
 静かに夏を過ごす女子二人のもとに、ぱたぱたとフェリシティが駆け寄ってくる。
「ねえねえ、海の家のオーナーが、バーベキュー振る舞ってくれるって! 一緒に行こうよ」
「いいねー。ザコちゃんお腹減ったぁ」
 チョウザは立ち上がり、フェリシティとともに姿を消す。
 レーネはなおも、真摯に自分のノートに向かい合っていた。
 一方、サクラとシキアはのんびりと海辺を歩いていた。
「そう言えば、この間はありがとう」
「ん?」
 シキアの言葉に、サクラが不思議そうに顔を上げる。
「ちょっとだけ軽くなった気がする。色々と」
「そうじゃったか」
 サクラはコクリと頷いた。
「まぁ、人生は長いでの。あまり重荷を持って歩くと、長続きせんからなぁ」
「はは。サクラさんが言うとなおさらだね」
 シキアは少し笑い、また海辺を歩いていく。
 その耳に、潮騒が心地よく響いていた。



課題評価
課題経験:150
課題報酬:5000
【水着】鮫に歌えば
執筆:海太郎 GM


《【水着】鮫に歌えば》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 フェリシティ・オーバーベック (No 1) 2020-07-17 23:28:19
アークライトのフェリシティだよ!よろしくね。
さて、人も増えてきたし、そろそろお話していきたいなーって思うんだけど、来てたりするかな?

「呪文を唱える音楽」と「魔法陣を描くための踊り」が必要とのことだけど、
一人でもできるようになってるみたいだね。
私は、音楽、歌唱、踊りはレベルは低いけど取得済みだから、一応どっちも行けるよとだけ。
あ、でも、楽器演奏はパス。あんまり得意じゃないんだよね。

《熱華の麗鳥》 シキア・エラルド (No 2) 2020-07-19 00:04:43
やっほー、芸能コースのシキアです
皆一回は一緒に課題やったよね?よろしく!

俺もどっちもいけるよ、とだけ
武器のことを考えると、多分メインは踊りになるかも
今回は前回と違って、敵が手ごわいからちょっと考えて取り組まないとね…

《新入生》 フェリシティ・オーバーベック (No 3) 2020-07-19 00:17:05
この間課題で一緒になった先輩だ〜
授業の出発明日になっちゃったね。

そしたら、先輩が踊るならわたし、歌って「呪文を唱える音楽」を担当しようかな…

《熱華の麗鳥》 シキア・エラルド (No 4) 2020-07-19 00:43:39
ん、まぁそこは俺も臨機応変に動けるから、硬くならなくて大丈夫

先生が「君たちの実力なら、船の上でもきっと存分に戦える。……大丈夫」って言ってるから、主な戦場は船の上かぁ
俺として一番怖いのは、空中で噛まれてそのまま海に引きずり込まれることなんだよね…飛んでる最中にうまいこと攻撃を当てられたら…
ま、そのための「舞踏音楽学」だろうけどね!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 5) 2020-07-19 00:48:27
んー、1年ぶりくらいにサメじゃん。飛ぶやつ。
ザコちゃん二度と踊りはごめんだから、言われてんのはやらないけど。

とりまサメおびき寄せひきつけとかの【挑発】やったり、足止めしたり的なやつ。
そーいうのはザコちゃん調整しとっから、踊るゆーしゃ様は好きにやってくれたらいーよ。
サメ素材だけちょーだい。ふふ。

《新入生》 フェリシティ・オーバーベック (No 6) 2020-07-19 01:13:38
え、硬くなってた?やだなぁ、そういうのは、昔の自分と一緒に捨ててきたはずなのに。
(顔を叩いて)もう大丈夫!先輩たちが一緒だもの。怖がっても仕方ないね!!
わたしらしく楽しんでいくよ!!

海へ引きずり込まれるのは、わたしも心配。
でも、先生を信じれば大丈夫…かな?

足止めしてもらえるのはすごくありがたいよ!!
この間もそうだけど、すごい先輩なんだなとしみじみ感じるよ
いっぱいサメ素材ゲットできるように、頑張って歌うよ!!

《妖麗幽舞》 サクラ・ブラディー (No 7) 2020-07-19 06:17:04
リバイバルのサクラ・ブラディーじゃ。
よろしくの?

楽器演奏、歌唱、踊りの中ならわっちが出来るのは踊りくらいじゃの。
なので、楽器演奏は誰かに任せたのじゃ。

流水の構え、プチシルト、ダード 、アン・デ・カース 、逢魔抱擁を主軸に動いてみるとするのじゃよ。


《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 8) 2020-07-19 20:00:50
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。
わたくしは楽器「天使の歌」を「演奏」して
みなさんのおけがをなおそうとかんがえてます。

楽器効果:射程内の自分を除く味方全員のたいりょくを30回復する。

よろしくお願いします。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 9) 2020-07-19 20:35:58
わたくしに才能があるかはわかりませんけれど、
わたくしの演奏が楽器効果だけではなく、
旋律によってもみなさんのたたかいをささえられたらうれしいです。