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夏の夜空に悲鳴を響かせ


ストーリー Story

●夏といえば 肝試し
「お前らが大好きな夏が来たぞ」
 開口一番、学園教師の【ジョー・ウォーカー】は楽しげに言い放った。
「夏といえば何だ?」
「海?」
「花火?」
「長期休暇!」
 口々に答える生徒に、ジョーは穏やかに首を振る。
「夏といえば、肝試しだ」
 ニヤニヤと楽しげなジョーを前に、生徒たちは顔を見合わせる。
「今年はヴェリエーダ街の夏祭りに協力することになってな。他の先公どもにもいろいろとヴェリエーダの夏祭りに協力してるやつもいるんだが、このジョー・ウォーカーの担当はお化け屋敷ってわけだ。それでお前たちの手を借りたい」
 この教師の『手を借りたい』が意味するところは『実働はお前らだぞ』だと理解している生徒たちは、あぁまたか。と察しの良い顔をした。
「一等怖い仕掛けや演出を思いついたやつが優勝だ。夏休みどうせ暇してるんなら、ひと夏の思い出作りでも兼ねて俺に手を貸してくれよ」
 生徒の一人が手を上げた。
「それってチームでもいいんですか?」
「もちろん」
「なにか条件はありますか?」
「良い質問だ。ヴェリエーダに伝わる悲恋『湖の君』をモチーフにする必要がある」
「どんな話ですか」
「ドラゴニアに恋したローレライの悲恋話だ」
 『湖の君』の筋書きはこうだ。
 昔々、ヴェリエーダの街で暮らしていた、メリエルという名の美しいローレライが居た。
 彼女は知恵も深く魔力も強かった。そして惜しみなく街の発展に深く寄与した。
 今も街に残る文化の多くは、彼女が伝え教えたものとされている。
 だがある日、彼女は街へやってきた旅人のドラゴニアに恋をした。
 長命であるメリエルにとって、ドラゴニアとの確執はそう古い記憶ではなかった。
 その葛藤を、恋心が上回ってしまった。
「ドラゴニアの旅人が何者だったか。メリエルをどう思っていたのかはわからない。だが、ドラゴニアに焦がれたメリエルがとうとう、その腕の中で蒸発しちまうのを村人が見た」
 ここまでは悲劇だ。
 だがそれからが怪談だった。
 それからヴェリエーダの街には、雨が降るたび、メリエルの亡霊が出没するようになったという。
 誰かを探すようにウロウロとあたりをさまよい、時には人を連れ去ってしまうこともあるとの噂も流れた。
 これはいけないと、メリエルが暮らしていた湖のそばに祠を建て、年に一度鎮魂の祭りを開き始めたのが、そもそものこの夏祭りの起源だという。
「皮肉にも、その祭りのやり方も、教えたのはメリエルだって話なんだけどな。とにかく、今度やるお化け屋敷も、その物語をある程度踏襲しなきゃならん。要するにお題付きってわけだ」
「優勝したらなにかいいことあります?」
「俺の担当してる試験を今期分免除してやる」
「それだけですか?」
「それだけ、って何だよ。十分嬉しいだろうが」
「先生がこんなにやる気ってことは、ヴェリエーダ街からなにかもっといい景品がかけられてるんじゃないんですか?」
 どこか非難するような口ぶりの生徒たちに、ジョーはチッと舌打ちした。
「お前らもそろそろわかってきてるな」
「何が景品なんです?」
「賞金あるなら山分けですよ」
 矢継ぎ早に言う生徒たちに、ジョーは待て待てと手を広げてみせた。
「お子ちゃまのお前らに言っても仕方ねえんだが……1967年に作られた蒸留酒『エーダ・ガッティ』が上がってる。知ってるやつもいるかも知れねえが、ヴェリエーダは酒の名所でな。いろんな催し物の中で一番集客につながった出店のオーナーに贈呈されることになってる。……まぁそういうことだがお前らにはまだ早いから」
「先生、学生にも成人済みの人はいます。黙っているのはアンフェアだと思います」
「先生、勇者歴1960年ものの『エーダ・ガッティ』ならどの年代のものでも時価総額はかなりのものだと思います。飲めなくても転売できます」
「先生」
「先生」
 やんややんやと口にする生徒たちを、ジョーはちっと睨みつけた。
「わかったわかった。いいか。他の出店を差し置いてお化け屋敷に人を誘導することが必須条件だ。お化け屋敷の演出に関して優れたアイディアを出したやつは今期の俺が受け持つ試験を免除してやる」
 生徒たちは同意するように頷いた。
 ジョーはぐっと腕組みをする。
「いいか。今年のヴェリエーダの夏祭りを絶叫で染め上げるんだぞ」
「おー!」
 かくして、最恐のお化け屋敷計画の火蓋は切って落とされたのである。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2020-08-02

難易度 簡単 報酬 少し 完成予定 2020-08-12

登場人物 3/8 Characters
《新入生》白峰・雪菜
 ルネサンス Lv10 / 勇者・英雄 Rank 1
「…ここは、どこ?」 「ユキには…あった…大事な思い出が…」 【読み方】シラミネ ユキナ 【愛称】ユキ 【種族】 ルネサンス(ホッキョクオオカミ) 【口調補正】 一人称;ユキ 大事なことをいうときは、倒置法を使う 文節ごとに止まる癖がある 【容姿】 ・色白の肌に白のロングヘアに赤色の瞳 ・狼のルネサンスのため、狼の耳と尻尾がある ・やや身長は小さめ ・常に布を身につけている ・常にアザラシのぬいぐるみを持ち歩いている ・腕に星のような痣がある 【性格】 ・とてもおとなしい ・若干おバカ、時折的はずれな返答をする ・手が届く範囲は守りたい ・甘いもので簡単に釣れる 【好きな物】 ・小動物 ・甘いもの ・ゲーム(チェス等) 【苦手な物】 ・苦いもの
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《呪狼の狩り手》ジークベルト・イェーガー
 エリアル Lv8 / 黒幕・暗躍 Rank 1
あぁ?俺? 俺はジークベルト、歳は44 ……はぁ?年齢詐称??生言ってんじゃねーぞ 見た目で判断すんじゃねぇよ、クソが!! 元々は潜入や暗殺、調査専門の冒険者だ。 …見た目がこんなんだからな…こういう場所潜入し易いだろって仕事振られたんだが…なんか、よく解んねーこと捲し立てる女に無理やり入学させられたんだよ。 ホント、ワケ解んねぇとこだな、此処。 センター分けのさらりとした絹糸の様な鉛色の長い髪を緩く編んだ三つ編み、そしてアホ毛が突っ立つ。 藤色の瞳、翅脈(ヒトでいう血管)が青く光るジャコウアゲハ型の翅の白皙の美少年フェアリー ……の、様に見える合法ショタのおっさん。 身長:80cm 体重:2~3kg 見た目はショタ、中身はおっさん。目が死んでる。 発する声はどこから出てるの?と思わず言いたくなる低音。 発する言葉は皮肉と嫌味。 好きな物は酒とたばこと酒に合う肴。アサリの酒蒸しとか。 居酒屋大好きだが、見た目のせいで居づらい 子供の悪意ある「チービ!」には鉄拳制裁する 苦手なものは向かい風 空気抵抗により飛ばされる。 ヘビースモーカーで、大体喫煙所に居る。 一般的に市販されている煙草は彼の体には大きいので、 いつも紙を巻き直している。 煙管はやっぱ味が違うし、こっちの方がめんどくせぇ 最近、タバコ着火の為だけにプチヒドを覚えた。

解説 Explan

●ヴェリエーダの夏祭り
若者で賑わう元気な街です。みな流行には敏感で、少し古いものにはすぐ飽きてしまう傾向があります。
また、若者が多いことから好奇心は旺盛なようです。
お祭りには、デート気分でやってくる若い男女が目立ちます。

●お化け屋敷の舞台
お祭りエリア内に建っている洋館を丸々借りられることとなっています。
建物は1階建てで、エントランス、居間、寝室、台所、風呂場などを備えたごく一般的な建造物です。
家族暮らしを想定した建物となっており、家具を破壊したり家を傷つけなければ、壁紙を塗り替えたり、好きな備品を持ち込んで飾ったり、ある程度はなんでも好きにして良いとの許可が出ています。
壁には絵が飾られており、少々不気味な雰囲気です。

●『エーダ・ガッティ』
ヴェリエーダでは非常にポピュラーなお酒です。
最近は少しずつ流通の販路を広げているのだとか。
特に、60年代ものの『エーダ・ガッティ』は、一口飲めば極楽、二口飲めば死者も生き返ると言われるほどの名酒です。

●ヴェリエーダについて
街道沿いにある、中規模ながらも活気ある宿場町です。
宿場町、商人の多く息づく街であることから、他種族に対する偏見も薄く、多くの種族が混在して暮らしている街のようです。

街には、ローレライの娘『メリエル』の伝説が息づいており、街の文化の多くは彼女がもたらしたものと語られています。
街の伝統はローレライの文化との親和性が高く、村人たちもローレライには旅人であれ親切でしょう。


作者コメント Comment
蒸留酒で有名なヴェリエーダ街で催される夏休みに、お化け屋敷の出店で参加しましょう~!!

どうしたら怖がってもらえるのか、他のキャッチーなお店を差し置いて集客できるのか、めいめいに知恵を絞っていただけると嬉しいです。

怪談のシナリオを考えてそれになぞらえた演出を行うもよし、種族の特技を生かして恐怖を演出するもよしです!

夏祭りを楽しみつつ、ヴェリエーダの街に恐怖の悲鳴を響かせましょう~!


個人成績表 Report
白峰・雪菜 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
■いっぱい…働くよ…?
準備段階では、材料調達・加工などをメインで行う
コナミさんの企画に同意し、準備を一生懸命行う
材料の調達などを【運動神経】で素早く行えるよう心掛ける
家の中を【オカルト/神話学】を利用して、怖くなるように手を加える
例えば、縫ぐるみを赤い絵の具で怖くする、怖い絵を描く等
自分自身も、白い服を着て赤い絵の具を塗って、怖くなるようにする

■ゆっくり…怖がって…いってね…?
【オカルト/神話学/心理学/運動神経】で家の中を徘徊
相手が怖がっているタイミングを見極めて、接近し、怖がらせる
成るべく物陰など、相手の死角から登場することを心がける
声をかける際は、大きな声などではなく、小さな声

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
一軒家を好き勝手にできる機会はそんなにないしね。弄ってこ、なんがし。

とりまさ、一軒家借りてんだから…一般的?なお化け屋敷と同じ形にすんの、むずくない?
勝手口あるにしろないにしろ順路とりにくいし、構造上隠れて脅かすーって仕組みギミックがたくさんは作りにくいし。
限られスペースの無駄遣いになりかねなさ。

だからさー、折角の別枠個性。
お化け屋敷?としてってよりかは、微妙に違う方向性的なのでやってこ。
求められてんのも独自性なんでしょ?違う?なら知らない。

ザコちゃんそのへんの…企画?担当やるからさー。
内装の移動とか準備もそれなりに。あとは外の受付とかあれで。
脅かし役ぅ?…えー、めん………向いてないよ。うん。

ジークベルト・イェーガー 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
「ようこそお客人、呪われた屋敷へ」
メリエルと言うローレライがその昔この地に居たのはご存じか?
作用か…
ならば、その亡霊が人を攫ったというのは?
「この屋敷はその攫われた者の屋敷だった場所…」
…最近、その攫われた者の亡霊が、出るらしい…
どうかな、お客人何故今頃になってその亡霊が彷徨うのか、謎を解いてはくれないか…?

…と、意味深に入り口にテーブル上に燭台と共に傍に座って説明と案内役する

ホルモンは風呂場にぶち撒けとく

寝室は血見まれに

台所に血糊濡れのまな板にぶっ刺さったブッチャーナイフ

謎解きの紙片を居間、寝室、風呂場に置く

リザルト Result

 夏祭りの喧騒から少し外れ、薄暗い通りを若い男女が歩いていた。
 チカチカと瞬く街灯の下、男は怯える女の手を引き歩く。
「ごめん、俺がちゃんと地図を見ておけばよかったな」
「いいのよ、私もまさか街中で迷子になるなんて思ってなかったし……でも、ここはちょっと気味が悪いわ。早く離れたい……」
 祭りの喧騒が恋しかった。早く人のいる場所へ――。
 そう思った二人は足を早める。
 しかし、彼らは見てしまった。
 暗闇に佇む古びた洋館を。
 彼らは聞いてしまった。
『ぎゃあああああああああっ!』
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
『助けてぇぇぇぇぇ!』
 耳をつんざくほどの悲鳴を。
 真っ青になった二人はその場を動けなかった。
 一体何があったというのか、この洋館の中で。
 悲鳴に気を取られていた二人は気づかなかった。
「おきゃくさま二名、ごあんなーい」
 背後に女が迫っていたことに。
「いやぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁっ!」
 振り返ることも無く、二人は一目散に駆け出した。
 その背中を見送りつつ――。
「脅かし役じゃないんだけどねぇ」
 バンダナを巻いた女はやれやれ、と息を吐いた。
「ま、いい感じに宣伝してくれそうだし? 別にいっか」
 逃げ出した二人は気づかなかったが、実は洋館の門扉にはひっそりと2枚の看板が立てかけられていたのだった。
 一枚はヴェリエーダ街の役所が出した『解体予定地』を示す看板。
 その隣のボロボロの木の板。そこに書かれた館の名は――『亡霊屋敷』。
 

 時刻は昼にさかのぼる。
 【白峰・雪菜】、【チョウザ・コナミ】、【ジークベルト・イェーガー】は【ジョー・ウォーカー】の課題を受け、ヴェリエーダにやってきていた。
 割り当てられた洋館は、日の光の中で見れば『ちょっとレトロでいい感じの洋館』といった雰囲気だ。ただ、館内の壁にかけられた絵だけが妙な不気味さを醸し出していた。
 三人は一通り屋敷の中を見て回ると、まずは打ち合わせだ、と居間(であろう場所)に腰を落ち着けた。
「とりまさ、一軒家借りてんだから……一般的? なお化け屋敷と同じ形にすんの、むずくない?」
 そう口火を切ったチョウザ。
「確かに。それに普通のお化け屋敷じゃ優勝なんてできないもんな」
 酒のためなら何でもする、と豪語するジークベルトと、
「ユキも……たくさんの人に……こわがってほしいな……」
 そうやる気を見せる雪菜も同意する。
「んじゃさ、ザコちゃんちょっと考えたんだけど……捜索系にしちゃお」
「捜索系……?」
「家の中で宝探しでもするのか?」
「ま、似たような感じ。手に入るのは宝じゃないかもだけど」
 捜索系のお化け屋敷――つまり、制限時間内に館の中を探索し、恐怖の中で謎解きをしていくという趣向だ。
 不気味な館への恐怖、制限時間へのプレッシャー。ホラー嫌いな人が裸足で逃げ出すこと請け合い。
 こうしてコンセプトはまとまった。
「さっそく準備にかかるか」
「『いないもの』作り頑張るね……!」
 三人は館を恐怖の色に染め上げようと、各々動き始めたのだった。
 

「いっぱい……働く……!」
 雪菜は気合十分な様子を見せると、さっそく足早に館の中を回り始めた。
 物置から発掘した道具を携え、まずやって来たのは子供部屋。
 雪菜の背丈よりもはるかに小さいベッドや棚は埃を被っているが、荒れた印象は無い。
 しばし考え、雪菜は棚の元へ向かう。
 天板に並べられていたクマの縫いぐるみを手に取ると。
「ごめんね……」
 暗いところで見たら別の物と見間違えそうな、眩い赤色。
 絵の具でぺたぺたと汚していく。一応汚れが落ちやすい、魔法の絵の具を使うことにした。
 床にも点々と赤の絵の具を垂らし、カーテンやシーツもほどほどに汚して子供部屋を後にする。
 階段を下り、みしみしと音を立てる床を踏みしめ進んでいくと、カタン、と音が聞こえた。
「ここは……お風呂……」
 誰かいるのだろうか。雪菜はそっと浴室のドアを開く。
 その目に飛び込んできたのは――真顔でぐにゃりとした『何か』を床にぶちまけているジークベルトの姿だった。
 あまりにも『アレ』な光景に一瞬雪菜は息を詰めたが、すぐに気を取り直して声をかけた。
「ホルモン……?」
「ああ。あとで焼いて食うべ」
 そんなことを言いながら淡々とホルモンをぶちまけるジークベルト。
 雪菜はいきなりこれを見たら勘違いしそう、と思いながらも、ふと気になったことを口に出す。
「赤が足りない……?」
 勘違いさせるにはもう少し色味が欲しいところだ。
 それが聞こえたジークベルトはしばし考えると。
「食紅かけとけ」
 ホルモンと一緒に入手した食紅を上からふりかけた。少しだけ混ぜてまんべんなく色を広げる。
「うん……赤くなった」
 床に広がるピンクと赤のグラデーションに満足した雪菜は、血糊を量産し始めたジークベルトを残し、再び廊下へ戻る。
 続いて訪れたのは最初に打ち合わせをした居間だった。
 のぞいてみると、チョウザがテーブルに向かっている。
 羊皮紙を手に取るとさらさら、と羽ペンを動かす。そしてまた次の羊皮紙へ。
「これを隠すの……?」
 雪菜が尋ねると、チョウザは頷く。
「そ。これを集めて謎解きする感じで。あ、悲鳴上げたら一個回収してまた隠しちゃうってことで。お化け屋敷だし」
「楽しそう……」
 ぴくりと白色の耳が動く。
 どういう風にお客さんを驚かせようか。
 脅かし役をやるつもりでいた雪菜は思いを馳せる。
「そういえば……コナミさんは、脅かし役……やる?」
 ふと気になって聞いてみると、
「脅かし役ぅ? えー、めん…………向いてないよ、うん」
 チョウザは首を横に振った。
「準備したらあとは、外で呼び込みとか受付とか、あれで」
「そう……。コナミさんの分まで、頑張って脅かすね……!」
 少ししょぼんとなりながらも、雪菜は改めて気合を見せた。
 
 ――それから小一時間後。
 なんということでしょう。
 小ぢんまりとした台所は、血まみれのまな板とナイフが禍々しい猟奇殺人現場に。
 落ち着いた雰囲気だった寝室は、赤黒いシーツと天井まで飛んだ血痕が恐ろしい一室へビフォーアフター。
 『ちょっとレトロでいい感じの洋館』は『恐怖の亡霊屋敷』に変貌を遂げた。
 もちろん、足元の誘導など安全への配慮も怠ることは無い。要所、危険な場所にはキラキラ石を置き注意を引き付けるようにした。
 自分たちの衣装も整え準備は万端。
 いよいよ、三人の作り上げた亡霊屋敷がお披露目されるときがやって来た。


「お、ここが例のお化け屋敷か」
「雰囲気ある~」
 若者四人組が館の前にやってきた。
 祭りのメイン会場では出店の紹介が貼り出されている。
 新しい物に敏感な若者たちは、さっそくお化け屋敷のことを目にし、ここまで足を向けたのだった。
「いらっしゃい。入り口はあっちねー」
 チョウザは客の姿を見ると、普段と変わらない調子で声をかけた。
 『亡霊屋敷』の看板と『解体予定地』の看板の横を通り過ぎ、門を開く。
「この館、全部お化け屋敷になってるんですか!?」
「そうだよぉ。ま、ふつーのお化け屋敷じゃないから。詳しくは中で聞いてねぇ」
 チョウザの答えに四人の期待は膨らむ。
 館の中に消えていく背中にいってらっしゃーい、と小さく声をかけた。
 捜索型という性質上、同時に大人数が館の中で行動するのは難しい。
 チョウザはこのまま外で、客の誘導や人数のコントロールに徹することにした。
「脅かし役は十分だしねぇ。……さて、次のおきゃくさまはこっちにどーぞ」


 一方、館に足を踏み入れた四人組。
 灯りの落とされたエントランスに怯みつつ、行儀よくドアを閉めた。
 すると、
「ようこそお客人、呪われた屋敷へ」
 暗闇に浮かび上がる蝋燭の灯り。それに照らされる灰色の髪と、黒色の羽。
 館内で見つけた化粧道具で老爺のようなメイクを施したジークベルトは、重くのしかかるような低音を紡ぎだす。
「さて……メリエルと言うローレライがその昔この地に居たのはご存じか?」
 四人組はすぐに頷いた。
「左様か……ならば、その亡霊が人を攫ったというのは?」
 これには二人が頷いた。もう二人はきょとんとした表情を浮かべている。
 ジークベルトはくつくつと笑うと、一層声を低めた。
「この屋敷はその攫われた者の屋敷だった場所。……最近、その攫われた者の亡霊が、出るらしい」
 なぜ今頃になってその亡霊が彷徨っているのか、謎を解いてくれないか?
 ジークベルトの差し出した羽ペンを受取り、四人組はこのアトラクションの主旨を理解する。
「謎解きは結構得意なんだ。それで、どこからまわればいい?」
 今にも飛び出していきそうな四人をジークベルトはまあ落ち着け、と制する。
「順路は決まっていないからお好きなように。制限時間は15分、謎を解くカギは三つ。その間、この館の中を自由に見て回って良いぞ。ただし……」
「ただし……?」
「大声を出すと、亡霊に気づかれちまう。そうしたら捜索はやり直しだ」
 せいぜい気を付けるようにな、と最後に忠告をし、ジークベルトは四人を送り出した。
「あとは脅かし役のお手並み拝見、ってところか」


 四人組は手初めてに台所に足を踏み入れた。
「荒れてるなぁ……」
「うわ、すごい血」
 口々に感想を漏らしながら部屋を探索する。
 食器棚を漁っていた一人が、近くで物音がしたのに気がついた。
 顔を上げ、飛び込んできたのは窓に映る白い服を着たルネサンスの少女。
 胸元を血で染め、手にはナイフの刃が光る。
「っ!」
 悲鳴をあげかけたものの、最初の忠告を思い出しなんとかとどまった。
 薄く笑った少女はすっとその場から姿を消す。
「おーい、あったぞ」
 他のメンバーが羊皮紙を見つけ出し、思いがけない恐怖に遭遇した彼は、心なしか青い顔でそれに応じた。
 四人はぎしぎり鳴る廊下を進む。
「でもこれ、変なところで途切れてないか? 紙も端の方が千切れたみたいになってるし」
「つまり他にも何枚かあって、それを繋げて謎を解くってことなんでしょ」
「なるほどなぁ、じゃあ次は……あそこ、開けてみる?」
 一人が指さしたのは、浴室のドアだ。
 他の三人から異論は出ない。
 慎重にドアノブを回す。
 目に飛び込んできたのは赤とピンクのドロドロとした何か。
 これは……臓物!?
「っ……わあああああっ!!」
 脊髄反射で悲鳴が漏れ出る。
「あ、馬鹿!」
「わあああ……むぐ」
 慌てて横から口をふさぐものの、
「あ、紙持ってかれちゃった!」
 どこからともなく表れた黒子――ヴェリエーダ街が派遣してくれた手伝い要員が扮している――が羊皮紙を回収していく。
「亡霊に気づかれた、ってことか」
「またどこかに隠されちゃったんだよね」
 肩を落とすも、気を取り直して風呂の捜索を続ける。
「あ、あった。バケツの下」
 無事二枚目を回収すると、次の部屋へ。
 その後、四人組は二階の子供部屋で失った一枚目の羊皮紙を再び回収すると、寝室で三枚目を回収。
 羊皮紙は全て揃った。
「三枚を繋げると……」
 『I w+n& *&*rni&y.』。
「虫食いになってるな……これを解けばいいってことか」
「あ、まだ続きあるよ。えーと……『*=e、+=*-4、&=+×20』だって」
「つまり、*はeに置き換えればいい、と。次の『+=*-4』は?」
 頭を突き合わせ羊皮紙をのぞきこむ四人。一人があ、と声をあげた。
「*がeだからe-4……あ、eより4つ前の文字とか」
「それだ」
「ってことはaだな。そのノリでいくと……こうなる」
 『I want eternity.』。
「永遠が欲しい? どういうこと?」
「んー……なにか引っかかるんだよね。結構最初の方にあった……」
 言われて記憶を掘り返す。
「看板だ。入り口の『解体予定』ってやつ」
「この館はもうすぐ解体される。自分の館を永遠に残しておきたい……解体されたくなくて、亡霊は今になって現れたんだ!」
 真相にたどり着き、歓喜に沸く四人。
「さて、謎も解けたし外に出るか」
 満ち足りた気分で階段へと足をかける。
「あれ……踊り場の絵、なんか変じゃない?」
 踊り場にかけられた家族の肖像画。彼らの瞳は……血の涙を流している。
「え……」
「いつの間に……」
 しん、と静まり返る館の中。
 とん、と肩を叩かれ振り返ると……。
「カエシテ……ワタシ、ノ……オウチ……!」
 耳元で囁く声。
 真っ白な服。その胸元をべっとりと濡らす鮮烈な赤。
 乱れた髪で目もとを隠し、ルネサンスの少女が彼らに手を伸ばしていた。
「わぁぁぁぁぁ!?」
「台所の人ぉぉぉっ!?」
 不意を突かれた四人はバタバタと階段を駆け下りていく。
 真っ青な顔をした彼らの表情に、
「こわがって……くれた……!」
 雪菜は目まで覆った髪の下で満足そうに笑った。


 亡霊屋敷の噂は瞬く間に祭りの会場を駆け巡った。
 祭りの終了時刻まで館は何組もの客人を迎え入れ、恐怖を与え続けた。
 後片付けを終えた頃、三人の元に届いたのはエーダ・ガッティの60年代もの。
「よっしゃ、ホルモン焼くぞ。酒飲むぞ!」
「おさけはのめないけど……街の人からクッキー……差し入れもらったから一緒に食べよう……」
「ま、ザコちゃんもほどほどに楽しむから」
 自分たちの健闘を労い、祭りの夜は更けていった。



課題評価
課題経験:44
課題報酬:1200
夏の夜空に悲鳴を響かせ
執筆:海無鈴河 GM


《夏の夜空に悲鳴を響かせ》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 白峰・雪菜 (No 1) 2020-07-29 19:12:24
プール掃除の人…もいる…良かった…
一緒…する人たち…よろしく…

沢山…怖がって…欲しいな…
ぬいぐるみとか…絵の具で怖く…したり…?
あと…ユキ…白いから…暗がりだったら…怖いかも…?

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 2) 2020-07-30 13:30:16
家まるっと好き勝手に弄っていー機会なんてないしね。弄ろ。なんがし。

てかあれ、一軒家ーってことは、裏口とか勝手口ないとむずくない?順路作るの。
それもあるけどせっかく違うの作ってねー、ってあれなんだし、ベースが一軒家ってのも個性なんだろーし。
ザコちゃん裏方とか企画的なあっちやっといていい?動き続けるのめんどいってあれもあるけど。

せっかく一軒家、ってごちゃつきのぱやぱやを舞台にすんだから、捜索系にしたら良くない?みたいな。
謎解きだのパズルだのの断片色んなとこに隠しといてー、決めた時間の間に解けるか競うみたいな。
お化け屋敷のあれだから、悲鳴上げちゃったら持ってる1つ断片回収されて、またどっかに隠されるみたいな。

ふわっとのぱやぱやだけど、そんな感じの裏仕事しとくかなーって。

《呪狼の狩り手》 ジークベルト・イェーガー (No 3) 2020-07-30 15:23:25
賞金に酒があると聞いて!
ジークベルト・イェーガーだ、よろしく頼むわ。

一階平屋建てだが、豪華な感じの屋敷一軒丸っと改造OKとは太っ腹だな。
怖さを作るとしたら、やっぱ『そこに居ない筈のモノを作る』が手っ取り早いかねぇ。

チョウザの案だと、一度に入る人数限定するとか、競うなら景品作るのかどうかって所かな?
あとは、お客入れる時に「お客様に、この屋敷で起こってる問題を、解決してほしいのです…」とか説明役が欲しいな。
解いてもらう謎はメリエリに攫われた人をここで見たとかか?

酒を入手する為なら、俺は何でもするぜー?

《新入生》 白峰・雪菜 (No 4) 2020-08-01 20:49:42
次の発言…あいちゃった…
ごめんね…

コナミさんの…企画に…同意…
ユキ…かわりに…いっぱい動く…

オカルト…好きだから…いないもの作りも…がんばる…

説明…ユキ…話すの苦手だから…
説明は…だれかしてくれると…うれしい…

《呪狼の狩り手》 ジークベルト・イェーガー (No 5) 2020-08-01 23:10:48
締め切り1時間切ってるが!
説明進行するやつ居ないなら俺やっとくよ!

それらしいことは今考えるけど!
とりあえず、一度に入れるのは二人組なら3~4組くらいかね?

《呪狼の狩り手》 ジークベルト・イェーガー (No 6) 2020-08-01 23:41:20
あ、それと。

打ち上げするかなー。
肉屋で狩ってきたホルモン(怖さ演出用)焼くからよ。
普通の肉も買っとくわ