;
2020年ハロウィンの乱


ストーリー Story

 ハロウィン。
 それは、この地域ではとある古代人を起源とし、秋の終わりと冬の訪れを祝う前夜祭。
 祭司たちが篝火を焚き、作物と動物を捧げ、火の周りを踊り、太陽の季節が過ぎ去り暗闇の季節が始まるのを祝うのだ。そう、それはさながら生贄を捧げる儀式――。
「トリック・オア・トリィイイイイイイイイイイーーーーート!」
 しかし、そんな歴史ある由緒ある祭りを口実に、玄関先に『恐ろしいもの』除けであるジャック・オー・ランタンというカボチャでできたランプを飾り、『恐ろしいもの』の仮装を楽しみ、菓子の争奪戦を行うハロウィンの乱が、今ここに勃発しようとしていた。

●菓子をよこせ!
 儀式や習慣というものは、時代が進むにつれてイベント化されるというのが世の常である。
 それがここ、魔法学園フトゥールム・スクエアとなれば、尚更だ。
 マントをかぶるだけなど、生温い。プロのデザイナーもビックリな本気衣装。己の種族特性をフル活用した、もしかしたらこの日の衣装が正装なのではないかという仮装。基本的には『恐ろしい』と思われているものが選ばれるハロウィンの仮装だが、現在ではステレオタイプ化された登場人物や物語の敵役、果ては『可愛いから』という理由だけで選ばれる衣装など、そもそも本来の意味合いである『恐ろしい仮装』というより、コスプレ大会のような体をなしている。
 そんな(そう、あえて『そんな』と表現しよう)『恐ろしい』仮装をした者たちは、『トリック・オア・トリート!』と叫びながら、菓子を強奪していく。本来は子どもたちが家々を周り、『御馳走をくれないと、悪戯しちゃうぞ!』という可愛らしい酒宴の習慣に似た慣しだった。それがいつの間にかイイ歳した大人たちが目の色を変えて菓子屋の菓子という菓子を買い占め、菓子業界の売り上げに貢献するようになった。
 つまり、そう――祭りという名の、あらゆる菓子職人たちが腕を振るうスイーツ祭りである!
 約1.6kmに渡り、菓子業界という菓子業界が、この日のためだけに作ったスイーツが列をなし、売り上げを競う。今年も気合を入れているのは、フルーツの最高峰・千箱屋か!? はたまたチョコレート菓子で不動の人気を誇るゴテンヴァーか!?
 飛び入り参加も認められているこの菓子ロードは、今年もアツイ戦いを繰り広げる。

●悪戯しちゃうぞ!
「クックック、貴様にこのリンゴが取れるかな!?」
「何おう、取らいでか!」
 菓子ロードの他にも、ハロウィンは余興でいっぱいである。
 その中の一つが、『ダック・アップル』と呼ばれるリンゴ食い競争だ。大きめのタライの中に浮かべた丸々1つのリンゴを、手を使わずに口でくわえ取るという、非常にシンプルな遊びだ。1回目で成功した参加者には、美味しいアップルパイが待っているとかいないとか!? 1回目を失敗した参加者には、身の毛もよだつ罰が待っているとかいないとか!? その後、姿を見た者はいるとかいないとか!?
「さぁ、寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! 『スナップ・ドラゴン』に挑戦しようぜ!」
 別の場所では、皿が燃えていた。正確には、皿に盛った干しぶどうにブランデーを振りかけて火をつけているのである。そこから火が消えるまで干しぶどうを素手でつまみ取るという『スナップ・ドラゴン』という遊びだ。ブランデーをかけた干しぶどうは、青い炎で皿を照らす。少し幻想的に見えなくもない、ちょっとした度胸試しのような、大人の火遊びである!
 他にも、ハロウィンに因んだゾンビ仮装の行列や、火を掲げた野外ステージでの歌や踊り、人形劇、墓地を描いたベニヤ板の前で記念撮影など、夜明けまで楽しめるイベントが満載だ。
 もちろん、中にはお化け屋敷なるものまである。おどかし、脅かされ、目を回し、救護される吸血鬼がいたとかいないとか?
「ハメを外しすぎないようにな……」
 素でハロウィンな漆黒のドラゴニア【エイデン・ハワード】も、菓子ロードでの戦利品を片手に、ハロウィンなる祭りを楽しんでいるようである。

●夜明けの花火
「よーし、こんなもんか?」
「明るいうちに終わってよかったな」
 ハロウィンの翌朝、つまり暗闇の季節の始まりとして、この祭りの締めには花火が打ち上げられることになっていた。夜通し行われる祭りで悪霊たちも追い払われるのだが、祭りの最後は花火と相場が決まっている。この日のために、花火職人たちも気合を入れて作ってきた。
 魔法で打ち上げられる物もあるのだが、やはり伝統ある花火も捨てがたい。そういうわけで、約300発もの打ち上げ花火が用意されていた。
 魔法のものはともかく、伝統ある点火装置による花火を住宅街のど真ん中から打ち上げるわけにはいかない。うっかりすれば、大惨事になるからだ。
「さて、あとは夜明けを待つばかりだなー」
「祭り参加したかったな。見張ってなきゃいけねーもん」
「大トリ任されてるんだ、ぶつくさ言うなって。それに、花火は火薬の塊なんだから」
「わぁかってるよ……あれ?」
「どうし……え?」
 二人の視線がある一つの装置に注がれる。
 それは花火の最後を飾る大玉『昇り曲付変化牡丹』があるはずの場所だった。
「嘘だろ……20号の花火は70kgあるのに!」
 誰がどうやったのか。
 そこにはあるはずの大玉花火はなく、嘲笑うような巨大な岩が鎮座していた。
 ――Trick or Dead. 悪魔に平伏し、生贄を捧げ、祝いを述べよ。 ニルロド
「運営委員に報告だ! あんなのが街中で爆発したら……!」
 花火職人たちは蒼白になる。
 誰よりもその危険性を知るからこそ、彼らの動きは素早かった。
「誰か……!」
 ハロウィンの長い長い夜が始まる。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2020-11-04

難易度 難しい 報酬 通常 完成予定 2020-11-14

登場人物 2/8 Characters
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《ゆう×ドラ》アレイシア・ドゥラメトリー
 リバイバル Lv11 / 村人・従者 Rank 1
「あたしはアレイシア、あなたは?」 姉妹の片割れ、妹 思考を重ね、最善を探す 奥底に、消えない炎を抱えながら 容姿 ・淡い薄紫のミディアムウェーブ、色は紫色寄り ・目は姉よりやや釣り目、同じくやや水色がかった銀色 ・眼鏡着用、目が悪いというわけではない。つまるところ伊達眼鏡 性格 ・妹と対照的に、考えで動くタイプ。人当たりは良く、社交的 ・好奇心旺盛、知りたいことはたくさんあるの! ・重度のシスコン、姉の為ならなんだってする ・結構子供っぽい所も、地は激情家 ・なぜか炎を見るとテンションが上がるらしい、熱いのが好き、というわけではない模様 姉について ・姉が全て、基本的に姉・自分・それ以外 ・人当たり良くして姉の居場所を増やしたい 好きなもの 姉、本 二人称:基本は「あなた」 先輩生徒「センパイ」 初対面には基本敬語

解説 Explan

●参加省略記号:【1】
お菓子ロードで、お菓子を販売。もしくはお菓子を買い食い!
どんなお菓子が推しですか?

●参加省略記号:【2】
余興に参加出店。どんな余興に参加・見物する?
ハワード先生に遭遇するかも?
1・ダック・アップル
2・スナップ・ドラゴン
3・ゾンビ行列
4・野外ステージ(踊り・歌・人形劇etc…)
5・記念撮影
6・その他(自由出店など)

※参加する場合は、どれに参加するか。
また、失敗や成功などの表記もぜひしてください!
失敗・成功に関して記載がない場合、GMが2Dで決めます。

●参加省略記号:【3】
大玉花火が盗まれた!
それを知った君は、花火が始まる夜明け前までに花火を取り戻すことを任務とする。
残されたカボチャのランプには、次の文字が刻まれている。
『Trick or Dead. 悪魔に平伏し、生贄を捧げ、祝いを述べよ。ニルロド』

●ドレスコード
ハロウィンらしい仮装


作者コメント Comment
3度目まして、鶴野あきはる(つるの・あきはる)です。
10月といえばハロウィンですね! ハロウィンは眺めているだけでも楽しいものです。
今回は伝統的なハロウィンを元に、楽しんでいただければ幸いです。
果たして、犯人の目的は? つつがなくハロウィンは楽しめるのか!?
さぁ、祭りの始まりです。


個人成績表 Report
クロス・アガツマ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:285 = 95全体 + 190個別
獲得報酬:7500 = 2500全体 + 5000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
【3】

犯人がわざわざメッセージを残したのには、相応に意味があるのだろう
人知れずにやろうとしなかった。なら、本人にとっても成果が分かりやすい場所に仕掛けてくるのでは……?

事前調査含め、探索候補を調べあげ、推測し、花火を探そう
20号の花火、隠せるところもそう限られるはずだ

調べたスポット間を急ぐ際は、立体機動を駆使して素早く移動する


不審な大きい荷物を持っている人には、荷物に死角から触れる
普通の人はぶつかっただけと思うだろうが、犯人なら過剰反応する筈

スポットでの探索では、焚火の死角やステージ下などの花火を隠せつつも被害を出しそうな場所等を調べる

見つけたら即時アレイシア君か花火職人に知らせ、移動させよう

アレイシア・ドゥラメトリー 個人成績:

獲得経験:114 = 95全体 + 19個別
獲得報酬:3000 = 2500全体 + 500個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
何でハロウィンのこんな時に頭のおかしい奴が出てくるの!?
ハロウィンだから?あぁもう思想なんざどうでもいいのよ
とにかく、何か起こす気なら止めないと!

・行動
まずは現場検証を
それだけ大きなものを移動させるなら、道具ないし人手がいるはず
足跡、何かを引きずったような跡がないか
逆に不自然に綺麗な箇所がないかも周辺をスタッフと手分けして捜索

あとは担当のスタッフにも話を聞く
最後に見たのはいつ?
疑ってるわけじゃないわ(「信用」「会話術」)

あれだけのものを隠すなら…
もしかして、魔法で隠してる?幻影を見せる魔法などではないか「推測」
花火を捜索する際は【視覚強化】と【魔法感知】を組み合わせ

リザルト Result

「何でこんな時に頭のおかしい奴が出てくるの!? ハロウィンだから!?」
「まったくだな。おちおち祭りさえ楽しんでいられないとは」
 【アレイシア・ドゥラメトリー】と【クロス・アガツマ】は、祭りとはかけ離れた町外れに来ていた。
「思想なんざどうでもいいけど、何かを起こす気なら止めないと!」
 アレイシアは大玉花火があったはずの場所を見て回る。まずは現場検証が必要だと思ったからだ。
「引きずった跡は……特にないわね。ねぇ、この花火を最後に見たのはいつ?」
「一通りの設置が終わったのが陽が落ちる前で……大体5時半くらいだったと思う」
「なるほど。それからは触ってないのね?」
「ああ。設置した後は触らない」
 20号の花火は約70kg。大の大人でも一人で持ち運ぶのには骨が折れる。それが、引きずった痕跡もなく、大岩へと姿を変えているとは。
 ――Trick or Dead. 悪魔に平伏し、生贄を捧げ、祝いを述べよ。ニルロド
 悪戯か、死か。
 笑えないメッセージだ。しかし、これが大きな手掛かりであることも間違いない。
「これだけ大きなものを移動させるなら、道具か人手が必要なはず……小さくバラして動かしたとか?」
「姉ちゃん、そりゃ無理だ。下手に触ったら爆発しちまうよ」
「それもそうね。細かく分けるなんて、相当な技術者でもない限り無理でしょうし」
 そこまで言って、アレイシアは頭を振った。
 違う。バラすつもりなら、こんなメッセージを残さない。そもそも盗まない。
「間違いなく『使う』つもりよ。そして、それを見て欲しい。使うなら目立つ場所?」
「犯人にとっても成果がわかりやすい場所に仕掛けるだろう」
「設営のための道具がある場所とか? あえて見世物にして目を誤魔化す?」
「どちらも可能性はある。手分けして探そう」
 クロスはコートを翻して駆け出した。それを追おうとして、アレイシアは花火職人を振り返る。
「ねぇ。職人さんたちって、魔法を使えるのかしら?」
「まさか!」
 頷いて、アレイシアは精神を集中させた。

「今年のゴテンヴァーは一味違うよ!」
「千箱屋の絶品フルーツタルトはいかが!?」
 菓子ロードは盛況だった。あちこちから客引きのための声が上がり、甘い香りが漂う。
 その様子は至って平和で、まさか大玉花火が盗まれ、命の危機に瀕しているとは誰も思っていないことだろう。クロスは素早く周囲を見回した。
 大玉花火は70kgもある。もし持ち歩いたならば、不審なほど大きな荷物になるに違いないが、ここにはそういう人物はいなさそうだ。
「あら。千箱屋さんのフルーツタルト、リンゴは入ってないのね?」
「ああ、リンゴは悪魔の実だからね」
 余興エリアへ向かおうとしたクロスは、足を止めた。
「ダック・アップルって知ってるかい? 水に浮かべたリンゴを、手を使わずに咥えられたら成功。1回で成功したらアップルパイがもらえるんだけど」
「あ、もしかして」
「そう。アップルパイになっちゃうから、入れてないんだよ」
「なぁんだ! 怖がって損しちゃった!」
 笑い合う女性客たちを見送った店員に、クロスは声をかけた。
「すまない。今の話を詳しく聞いてもいいだろうか?」
 店員はキョトンとクロスを見返す。
「悪魔の実、とか」
「ああ。大昔の風習ってやつさ。一説では、生贄を捧げる儀式だったらしい。その生贄をダック・アップルで決めてたって話だよ」
「なんとも恐ろしい話だな」
 クロスが言うと、店員はカラカラと笑った。
「ま、昔話なんで。でも起源がそういう感じだから、リンゴは悪魔の実ってわけ」

 ――こんなの、人間業じゃない。
 人の仕業なら、魔法で隠したり、幻影を見せる魔法などで誤魔化している可能性も考慮できる。だから、魔法を使った形跡がないかどうか確認したのだ。
 それなのに。
 アレイシアは頭痛を覚えて、こめかみに手をやった。
 魔法の痕跡など、どこにもなかった。信じられないことだが、花火を盗んだ犯人は、70kgもの花火をヒョイと持ち上げ、巨岩を代わりに置いていくという力技をやってのけたということになる。しかも足跡から見るに、それは空をも飛んでいた可能性がある。
 それを、誰にも見られずにやったというのか。
 信じられない。信じられないが……唇をかみ、アレイシアは駆け出した。
 ――絶対に阻止しなきゃ。だめよ、爆発だなんて。
 喧騒の中に、人々の笑い声が聞こえる。
 ――爆発なんてのはね、こんな楽しい場所じゃなくて、
「もっともっと、消し飛ばしたいバカばっかりのところでやるものよ」

 余興エリアへ移動したクロスは、目立って大きな荷物を持っている人物に死角からぶつかっていた。人混みゆえに、それほど不審がられることもないのは幸いだが、深夜を過ぎ、クロスは焦りを感じていた。
 このままもし花火が見つからなかったら――最悪の場面を想像し、クロスは頭を振る。顔を上げ、ダック・アップルを供する屋台を振り返った。
 店員が、いつの間にか消えている。バケツの中には水だけが揺れ、リンゴが消えている。リンゴの補充に行ったのだろうか。それとも――、
「くっ!」
「のわぁ!」
 振り返った瞬間、誰かとぶつかった。よろよろとタタラを踏む青年の腕を、クロスはとっさに掴む。
「申し訳ない! 大丈夫か?」
「ああ、うん。大丈夫。ちょっとビックリしただけさ」
 青年は人好きのする笑顔をクロスに向けた。
 ヤギのルネサンスだろうか、青年の瞳孔は水平に細長く、何だか奇妙な印象を与えた。
「あれ、おにーさん。うちの店をずっと見てた人だね。ごめんね、店仕舞いで」
 青年の方からそう言われ、クロスはドキリとした。
「いや、それは良いんだ。……朝まで続く祭りだそうだが、ずいぶん早いんだな」
 他の出店は、まだまだこれからが稼ぎどき、と言わんばかりだ。青年はあっけらかんと笑う。
「ほら、うちのは水桶の中に顔を突っ込むでしょ。酔っ払いがやったら危ないからね」
 それは確かに、とクロスは頷く。
 ふと青年が肩に背負う荷物が目に入った。ずいぶんと重そうだ。
「手伝おうか?」
「いいよ、大丈夫。こう見えて力持ちなんだ、おれ」
「しかし」
「ヘーキヘーキ。それより、おにーさんも祭りを楽しんでよ! 祝祭なんだからさ」
 それじゃあ、と青年は人混みに紛れていってしまった。
「クロスさん! やっと見つけた。今の、誰?」
「ちょっとぶつかってしまって――」
 ――おにーさんも祭りを楽しんでよ!
「……アレイシア君。君は、この祭りをどう解釈している?」
「え。お菓子をあげたりもらったり、仮装したり?」
 頷くや否や、クロスは青年が立ち去った方へと駆け出した。
「ちょ、ちょっと、クロスさん!?」
 ――祝祭なんだからさ。

 70kgもの大玉花火を隠すのには、どんな場所が最適だろうか。
 道具をまとめて置いておく場所? 焚火の死角?
 いいや、違う。
 ステージ下。見世物として誤魔化すのも、そこなら簡単だ。誰が出入りをしようとも、何が置かれていようとも、そこなら不審に思われない。そして、野外ステージでは歌や踊り、人形劇が行われるという。
「それって、儀式を模した劇ってこと!?」
 千箱屋の店員から聞いた話をアレイシアにしながら、二人は裏道を通り、野外ステージへと急ぐ。もし、千箱屋の店員が言っていたことが実際にあったのなら、ダック・アップルを失敗した者は生贄になる。歌や踊りは、祝いとなるだろう。
「杞憂ならそれでいいんだ」
 本当にただの劇なら良い。けれど、万が一、そうでないとしたら?
 二人は急いでステージ下を目指す。扉を勢いよく開け、二人は息を飲んだ。
「何……これ」
 巨大な魔法陣が、淡い燐光を放っていた。その真ん中には、人間の形をした巨大な編み細工の檻が設置されている。
「花火……!」
 探していた大玉花火が、檻の腹の上に置かれていた。
「だ、誰かそこにいるのか!?」
「助けてくれ!」
 檻の中から人の声がし、二人は魔法陣へと足を踏み入れた。燐光が少しだけ強くなるが、何かが起こる様子は無い。
「誰かいるの!? 助けにきたわ!」
 複数人の声が、檻の中から聞こえてくる。恐慌状態になっているのか、檻がグラグラと揺れた。
「ねぇ、落ち着いて!」
「助けてくれ! 悪魔に殺される!」
 檻が揺れるたびに、その上の花火が揺れる。
「花火職人たちを呼んでくる。ここは任せてもいいだろうか」
「クロスさんの方が足速いですからね、お願いします!」

「ふぅ……いやはや、リバイバルが嫌な汗をかいてしまったよ」
 大玉花火が無事に戻り、クロスとアレイシアは千箱屋のフルーツタルトを頬張っていた。
 檻に閉じ込められた人々も、アレイシアの交渉術が功を奏し、花火職人たちが駆け付けるまでには平静を取り戻していた。檻が解放されると不気味な燐光も力を失い、檻さえも跡形もなく消えていった。
「悪魔に殺されるっていうのが、気になるけど」
 謎は残る。しかし、今は惨事を回避し、この楽しい祭りが終わることを喜ぼう。
 『昇り曲付変化牡丹』が、朝焼けの空に美しく咲き誇った。



課題評価
課題経験:95
課題報酬:2500
2020年ハロウィンの乱
執筆:鶴野あきはる GM


《2020年ハロウィンの乱》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《ゆう×ドラ》 アレイシア・ドゥラメトリー (No 1) 2020-11-01 22:21:32
村人コースのアレイシア・ドゥラメトリーです
クロスさんは清姫以来になるの?今回もよろしくお願いしますね

ええと、推理するには色々と考えなきゃいけないこと多いわね…(眉間にしわを寄せて)
まともなことに使われるとはとても思えないし、なんとしても花火は見つけないと…

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 2) 2020-11-02 18:06:52
賢者・導師コースのリバイバル、クロス・アガツマだ。
ああ、あの時は世話になった、確か符を繋いでくれていたね。此度もよろしく頼むよ。

俺は【3】に向かう……今さら聞くこともないのだろうが、君もそのようだね。
なにせ今回、正直なところ情報が少ない……探すのは、骨が折れるだろうな。
ある程度の方針などを決めつつ、しっかりとした探索を行うことで見つけ出せればいいのだが……

とりあえずは犯人の動機や心情を考察して、そこから場所に目星をつけてみようと思う。
技能も活用し、探してみよう。70キロ……調べたところ、20号は思いの外大きい、隠せるところも限られてくるはずだ。