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【想刻】慟哭の残響


ストーリー Story

●慟哭
 勇者になりたい少年がいた。
 彼は幼い頃、幸せな毎日を唐突に奪われ。であるがゆえに、力を求めた。
 それは復讐でもあり、たった一人生き残ってしまった自分が抱えるべき、使命だとも思っていた。
 しかし勇者に『なりたかった』少年は今、己がすべきことを見失い、ただ。
 泣いている。

●残響
「どうですか、フィーカさんの様子は」
「駄目だメェ。食事も全然食べないし、起きてる時は母親の日記を開いて、泣いてばっかだメェ~」
 ――フトゥールム・スクエア内、『保健室』前の廊下にて。
 【シトリ・イエライ】に声をかけられた【メッチェ・スピッティ】は、声色通りの表情で首を振った。
 彼女はここ最近、【フィーカ・ラファール】というルネサンスの少年の介抱にあたっている。
(とはいえ、体にもう異変はないメェ。でも心が、ボロボロなんだメェ~……)
 無理もないな、とメッチェは思う。彼女はフィーカが、どんな気持ちでこの学園にやって来たのかを、よく知っていた。
『おれ、最初は復讐したくて、剣を取ったんだ。でも、強くなって、なにをすればいいか、わかんなくなって』
 そんな時に、みんなに出会ったんだ。おれを助けてくれた、『ゆうしゃ』に。
『だから、おれ……みんなみたいに。かっこよく、なりたいんだ』
 そう笑っていた少年は、さりとて忘れてはいなかったはずだ。
 奪われた悲しみ、全てを消し炭にされた憎しみ、……昇華されなかったその気持ちは、矛先を得ることで、再び燃え上がる。
(だからこそ。何をすれば良いのか、わからなくなってしまったんだメェ~)
 だって、憎むべき相手が、最近友人になったばかりの青年だったから。
 しかも、恨むべき相手は。大好きな兄で、大切な家族で、絶対に剣を向けたくないヒトだと、思い出してしまったから。
(許せない気持ちと、恨みたくない気持ち。今のフィーカは、きっとその2つに、圧し潰されているんだメェ)
「む~……シトリ先生。本当に、カズラがフィーカの、親の仇なんだメェ?」
「わかりません。ですが、フィーカさんはそのように記憶していると、言っています。……それに」
 苦笑したシトリは、手に持っていた布切れを持ち上げる。
 それはいつも、カズラが大切そうに首に巻いていたマフラーの、切れ端だった。
「メッチェ先生。……この紋様に、見覚えはありませんか?」
「? ……あっ! フィーカが持ってる日記帳の背表紙に、似た刻印があった気がするメェ」
「えぇ、私もそう思います。もしかしたらこのマフラーは、フィーカさんのご家族が、カズラさんに贈ったものなのかもしれません」
 だとしたら、カズラさんは。
「記憶を失ってなお、家族との思い出を。大事なものだと感じていたのかもしれない」
 そんなヒトが、本当に。
 途切れたシトリの言葉に、メッチェは息をつく。
 この教師は確信のない事を口にしない主義だと知っているから、代わりに。
「あっちも、カズラがそんな酷いことをしたなんて、思いたくないメェ~」
 だから、ちゃんと。
「……飛んでった本人をとっ捕まえて、話を聞かないとだメェ~」
 何が真実で。どこまでが、本当なのかを。



「おうおう、やっとるのぉ~」
 ――フトゥールム・スクエア内、校庭。『対巨竜用バリスタ製作区画』。
 トンカントン、と小気味よい音が響く中、青いとんがり帽子の少女……【メメ・メメル】は腕を組む。
 そんな彼女の姿を目にした『きみ』は、思わず声をかけた。
 『きみ』の言葉を耳にした学園長は、青色の瞳をぱちりと瞬かせてから、いつも通り笑っただろうか。
「そりゃ、オレサマだって、学園長サマだ。今回の件については、色々動いているんだぞぅ?」
 メメルが言うに、行方をくらませた【カズラ・ナカノト】に対してはもう、幾つかの手が打たれているようだった。
 まず、突如現れた『青銀色の巨竜』についての目撃情報が、既にフトゥールム・スクエアにも舞い込んでおり。
 その情報を元に、現在多くの卒業生や、教員たちによる居場所の特定が始まっているらしい。
「もちろん、その竜がカズラたんであることは伏せてるぞ! 知っているのはチミを含め、一部の関係者だけだ」
 とはいえ、各都市の有力者からの追求を煙に巻くのは、骨がいったわぃ。
 なんて言いながら肩を回す精霊賢者は、言葉とは裏腹に楽しげだ。
 いったいどんな口車を使ったのだろう、なんて『きみ』が思っている間にも、学園長の話は続く。
「それに、このバリスタ計画もそうだ。『飛んでいるなら撃ち落としましょうか』なんて言葉がシトりんから出るとは思わんかったが、なるほど、理に適ってるな!」
 というわけで、オレサマも一肌脱いで、専用の魔弾を用意しておいたぞ。
 そう言って少女が杖で指し示す地面の先には、透明な水晶を思わせる巨大な杭のような物が、ごろりと転がっている。
 どうやらそれが、『魔弾』と言われるもののようだ。数にして4つと少な目ではあるが、命中すればかなりの抑止力にはなるだろう。
「でもなぁ……オレサマ達ができるのは、やっぱり、これくらいだと思うのだ」
 ひゅぅ、と風が吹き、少女の銀の髪を揺らす。
 青の瞳はどこか懐かしそうに、バリスタ製作に励む学園生達を見据えている。
「カズラたんを助けたい。その気持ちをチミ達が持っているのを知っているから、オレサマ達は出来るだけのことをする」
 けれど、最終的に。
「発見したカズラたんに挑むのは、チミたちだ。きっと、今のカズラたんに、オレサマ達の言葉じゃ届かんからな」
 恐らく、カズラたんに着いているだろう仮面が、邪魔するだろうし。
 続く言葉に、『きみ』は声を返す。結局あの仮面は、なんだったのか。
 そう問いかける『きみ』に、少女は僅かに瞳を細め、
「チミ達が持ち帰ってくれたものを解析している途中だから、まだ何とも言えん。ただ、あれは全てのモノに宿る『魔力』に干渉し、暴走させる力があるのかもしれん」
 そして、もし。その予想がアタリだとすれば。
「……今のところ、ドラゴンが町や村を襲っているなんて情報はない。つまり、カズラたんは」
 まだ抗っている最中なのかもしれない。『仮面』からの、干渉に。

●深淵
 彼は思う。あぁ、だから忘れたんだと。
 彼は嘆く。あぁ、だから逃げたんだと。
 けれど、――自分は、思い出してしまった。
『ぜんぶ、お前のせいなのかよ……っ!』
 悲愴と非難に満ちたその言葉が、散らばっていた記憶のピースを繋げる。
 そうだ、自分のせいだった。自分が居たから、あんなことになってしまった。
『けれど、本当は、嬉しかったんでしょう』
 声が聞こえる。
『あなただって、憎かったんでしょう? 自分が持っていない幸せの全てを持った、あの少年が』
 違う。
『だから、燃やしたんでしょう? 壊したんでしょう?』
 違う。違う。違う。
『全てが灰になって、すっきりしたんでしょう?』
 違う……っ!
『違わないわ。じゃあどうして、自分から、忘れたの? 捨ててしまったの?』
 それは。
『あなたが自分から、望んで、手を離したんでしょう?』
 ……それは。
「うぅ……」
 ずるずると、青年は膝をつく。荒い息を吐くその表情には、苦悶が広がっていた。
 しかし、それすらも面白いのか。彼の肩に張り付いたままの仮面は、歪んだ笑みを浮かべている。
 荒野に花開くリンドウの花が、哀しげに揺れた。


エピソード情報 Infomation
タイプ マルチ 相談期間 6日 出発日 2020-11-16

難易度 とても簡単 報酬 通常 完成予定 2020-11-26

登場人物 13/16 Characters
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」
《イマジネイター》ナノハ・T・アルエクス
 エリアル Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
フェアリータイプのエリアル。 その中でも非常に小柄、本人は可愛いから気に入っている。 明るく元気で優しい性格。天真爛漫で裏表がない。 精神年齢的には外見年齢に近い。 気取らず自然体で誰とでも仲良く接する。 一方で、正義感が強くて勇猛果敢なヒーロー気質。 考えるよりも動いて撃ってブン殴る方が得意。 どんな魔物が相手でもどんな困難があろうと凛として挑む。 戦闘スタイルは、高い機動性を生かして立ち回り、弓や魔法で敵を撃ち抜き、時には近接して攻め立てる。 あまり魔法使いらしくない。自分でもそう思っている。 正直、武神・無双コースに行くかで迷った程。 筋トレやパルクールなどのトレーニングを日課にしている。 実は幼い頃は運動音痴で必要に駆られて始めたことだったが、 いつの間にか半分趣味のような形になっていったらしい。 大食漢でガッツリ食べる。フードファイター並みに食べる。 小さな体のどこに消えていくのかは摩訶不思議。 地元ではブラックホールの異名(と食べ放題出禁)を貰うほど。 肉も野菜も好きだが、やっぱり炭水化物が好き。菓子も好き。 目一杯動いた分は目一杯食べて、目一杯食べた分は目一杯動く。 趣味は魔道具弄りで、ギミック満載の機械的な物が好き。 最近繋がった異世界の技術やデザインには興味津々で、 ヒーローチックなものや未来的でSFチックな物が気に入り、 アニメやロボットいうものにも心魅かれている。 (ついでにメカフェチという性癖も拗らせた模様)
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《比翼連理の誓い》オズワルド・アンダーソン
 ローレライ Lv22 / 賢者・導師 Rank 1
「初めまして、僕はオズワルド・アンダーソン。医者を志すしがないものです。」 「初見でもフレンド申請していただければお返しいたします。 一言くださると嬉しいです。」 出身:北国(リゼマイヤ)の有力貴族の生まれ 身長:172㎝ 体重:60前後 好きな物:ハーブ、酒 苦手な物:辛い物(酒は除く) 殺意:花粉 補足:医者を志す彼は、控えめながらも図太い芯を持つ。 良く言えば真面目、悪く言えば頑固。 ある日を境に人が触ったもしくは作った食べ物を極力避けていたが、 最近は落ち着き、野営の食事に少しずつ慣れている。 嫌悪を抱くものには口が悪くなるが、基本穏やかである。 ちなみに重度の花粉症。 趣味はハーブ系、柑橘系のアロマ香水調合。 医者を目指す故に保健委員会ではないが、 保健室の先輩方の手伝いをしたり、逃げる患者を仕留める様子が見られる。 悪友と交換した「高級煙管」を常に持ち、煙草を吸う悪い子になりました。
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《勇往邁進》リズリット・ソーラ
 カルマ Lv17 / 魔王・覇王 Rank 1
ぼんやりとした表情の記憶喪失のカルマ 男の子なのか女の子なのか自分でもわかってない 口調がとても特徴的 外見 ・黒色の髪に金の釣り目 ・短髪だが、横髪だけ長くそこだけウェーブ ・基本的に無表情 ・魔法陣は右手の甲と左足の太ももの内側 性格 ・基本的にぼんやりとしている ・自分が色々と物を知らないことは何となくわかっているので、色々と勉強したい。最近はとある演劇の課題を通じて物語作りに少し興味を持ち出している ・独特な口調の持ち主(所謂関西弁) ・時折「雑音がする」と元気がない時がある 好きなもの ともだち、きれいな音 嫌いなモノ 人形扱い、雑音、■■■■ 一人称「うち」時々、戦闘中気分が昂ると「ウチ」 二人称「きみ」 名前の呼び捨て
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。
《2期生》シルワ・カルブクルス
 ドラゴニア Lv15 / 村人・従者 Rank 1
細い三つ編みツインテールとルビーのような紅い目が特徴のドラゴニア 元々彼女が住む村には、大人や数人ぐらいの小さい子供たちしかおらず同い年程度の友達がいないことを心配した両親にこの学校を薦められて今に至る 一見クールに見えるが実際は温厚な性格であり、目的である世界の平和を守ることはいわば結果論、彼女の真の目的は至って単純でただの村人として平穏に暮らしたいようである しかし自分に害をなすとなれば話は別で、ドラゴニアらしく勇猛果敢に戦う 一期生にはたとえ年下だとしても「先輩」呼びをするそうだ 「私はただの村人、できる限りのことをしただけです」 「だれであろうと私の平穏を乱す者はすべて叩き伏せます」 ※口調詳細(親しくなったひとに対して) 年下:~くん、~ちゃん 同い年あるいは年上:~さん ※戦闘スタイル 盾で受け流すか止めるかでダメージを軽減しつつ、斧で反撃するという、いわゆる「肉を切らせて骨を断つ」戦法を得意とする
《呪狼の狩り手》ジークベルト・イェーガー
 エリアル Lv8 / 黒幕・暗躍 Rank 1
あぁ?俺? 俺はジークベルト、歳は44 ……はぁ?年齢詐称??生言ってんじゃねーぞ 見た目で判断すんじゃねぇよ、クソが!! 元々は潜入や暗殺、調査専門の冒険者だ。 …見た目がこんなんだからな…こういう場所潜入し易いだろって仕事振られたんだが…なんか、よく解んねーこと捲し立てる女に無理やり入学させられたんだよ。 ホント、ワケ解んねぇとこだな、此処。 センター分けのさらりとした絹糸の様な鉛色の長い髪を緩く編んだ三つ編み、そしてアホ毛が突っ立つ。 藤色の瞳、翅脈(ヒトでいう血管)が青く光るジャコウアゲハ型の翅の白皙の美少年フェアリー ……の、様に見える合法ショタのおっさん。 身長:80cm 体重:2~3kg 見た目はショタ、中身はおっさん。目が死んでる。 発する声はどこから出てるの?と思わず言いたくなる低音。 発する言葉は皮肉と嫌味。 好きな物は酒とたばこと酒に合う肴。アサリの酒蒸しとか。 居酒屋大好きだが、見た目のせいで居づらい 子供の悪意ある「チービ!」には鉄拳制裁する 苦手なものは向かい風 空気抵抗により飛ばされる。 ヘビースモーカーで、大体喫煙所に居る。 一般的に市販されている煙草は彼の体には大きいので、 いつも紙を巻き直している。 煙管はやっぱ味が違うし、こっちの方がめんどくせぇ 最近、タバコ着火の為だけにプチヒドを覚えた。
《新入生》ウィトル・ラーウェ
 エリアル Lv9 / 黒幕・暗躍 Rank 1
不思議な雰囲気を漂わせるエリアル どちらつかずの見た目は わざとそうしているとか 容姿 ・中性的な顔立ち、どちらとも解釈できる低くも高くもない声 ・服装はわざと体のラインが出にくいものを着用 ・いつも壊れた懐中時計を持ち歩いている 性格 ・のらりくらりと過ごしている、マイペースな性格 ・一人で過ごすことが多く、主に図書館で本を読みふけっている ・実は季節ごとの行事やイベントには敏感。積極的に人の輪には入らないが、イベント時にはそれにちなんだコスチュームを纏う彼(彼女)の姿が見れるとかなんとか ・課題にはあまり積極的ではなく、戦闘にも消極的 ・でも戦闘の方針は主に「物理で殴れ」もしかしなくとも脳筋かもしれない 「期待しすぎるなよ、ぼくはただの余所者だ」 二人称:きみ、あんた 相手を呼ぶとき:呼び捨て 「ぼくのことは、ラーウェと呼んでくれ。ウィラでもいいぞ。前にちょっと世話してやった家出少年はそう呼んだよ」
《新入生》パソス・ウェルテクス
 ローレライ Lv6 / 賢者・導師 Rank 1
弱きを助け悪を挫く、超天才美少女魔導士!! 身体に内包している莫大な魔力と天才的な知能を駆使して、今日も敵をバッタバッタとなぎ倒せ!! …という設定のすこしいたーいローレライ 設定全開で活躍しようとするが、だいたい空回りした後に「ふっそういうことだ」とか「くくっやはりそうだと思ったのだ」とか得意げにいうのはお約束 見た目が幼いため、子供扱いされると怒るが… 持っているものは年相応に持っているようだ 本名はイエラ・コーラサワー 実はどこかの商人の令嬢だが、物語の魔導士に憧れてしまい挙句の果てにはそのせいで厨二病を発症したもよう しかし両親が超親バカなので理解しているらしく、人様のために魔物を倒すことを決意した時には、もう泣きながら学園の入学を薦めたらしい とりあえず、コーラサワーじゃ格好が悪いということで偽名で名乗ることにした…らしい ※慌てたときなどの素の口調 一人称:わたし 二人称:あなた 三人称:~さん 口 調:~です、~ます
《新入生》ルーシィ・ラスニール
 エリアル Lv14 / 賢者・導師 Rank 1
一見、8歳児位に見えるエルフタイプのエリアル。 いつも眠たそうな半眼。 身長は115cm位で細身。 父譲りの金髪と母譲りの深緑の瞳。 混血のせいか、純血のエルフに比べると短めの耳なので、癖っ毛で隠れることも(それでも人間よりは長い)。 好物はマロングラッセ。 一粒で3分は黙らせることができる。 ◆普段の服装 自身の身体に見合わない位だぼだぼの服を着て、袖や裾を余らせて引き摺ったり、袖を振り回したりしている。 これは、「急に呪いが解けて、服が成長に追い付かず破れたりしないように」とのことらしい。 とらぬ狸のなんとやらである。 ◆行動 おとなしいように見えるが、単に平常時は省エネモードなだけで、思い立ったときの行動力はとんでもない。 世間一般の倫理観よりも、自分がやりたいこと・やるべきと判断したことを優先する傾向がある危険物。 占いや魔法の薬の知識はあるが、それを人の役に立つ方向に使うとは限らない。 占いで、かあちゃんがこの学園に居ると出たので、ついでに探そうと思ってるとか。 ◆口調 ~だべ。 ~でよ。 ~んだ。 等と訛る。 これは、隠れ里の由緒ある古き雅な言葉らしい。

解説 Explan

・目的/成果により変わる事
 ①フィーカを導く/対カズラ戦にフィーカが参加するか否か
 ②対巨竜の準備を進める/対カズラ戦成功率
 ③その他(フリー枠)

・プランにてお書き頂きたい事
 ■アクション
  この状況下で『何』をするか

 例:フィーカに接触し、共に『これから』を考える。
   バリスタ作成の援助
 
 ■ウィッシュ
  行動を以下より選び、思いなどをお書きください。
  
 【A】フィーカに接触する
    彼は現在保健室に保護されていますが、気分転換に校舎内を歩き回ったりもします。
    その先で『あなた』に出会うこともあれば、『あなた』が彼に会いに、保健室を訪れることもあるでしょう。
    迷いの淵に居る彼と、何を話しますか?

 【B】対巨竜の準備を進める
    次に会う時、カズラは仮面の影響により、巨大なドラゴンに姿を変えている状態でしょう。
    彼を戻すには仮面を破壊する必要がありますが、そのためにはまず、カズラの体力を削がなければなりません。
    そのため、学園側は対巨竜用バリスタを2基作る事となりました。
    Bではその準備に参加して頂きますが、参加方法は自由です。
    設計に参加する、魔弾に魔力を籠める、作業に努めている仲間の鼓舞や軽食作りなど。
    キャラに合った方法でどうぞ。

    ▼作成するバリスタについて
     据え置き式の大型弩砲と考えて頂いて構いませんが、矢は魔石で作られた特注品です。
     使用目的は翼を狙い、撃ち落とすこと。なお、矢はヒトが乗れるサイズではない。

 【C】その他
    フリー枠。過去を思ったり、友人と語り合い、心を決めたり。
    必殺技獲得のための自己研鑽等もどうぞ。
    ※『クイーン』/『カズラ』との接触は不可能です。

・NPCについて
【カズラ・ナカノト】
 記憶を失ったドラゴニアの青年。空腹で倒れていた所を発見された。
 村を焼き払ったのは彼だと、フィーカは言うが……?

【フィーカ・ラファール】
 巨大な竜に村を焼かれた過去を持つ、ルネサンスの少年。
 カズラの記憶を探る中、自身の過去を半ば取り戻した。


作者コメント Comment
 閲覧ありがとうございます、GMの白兎(シロ・ウサギ)です。
 本エピソードは【想刻】連動エピソードの幕間です。

 さて、皆さんのおかげで、以下のことが分かりました。
 ①カズラという青年は純種に近い力を持っていたが故、同族に受け入れられず、奴隷商人の元に居た
 ②そんなカズラをフィーカの父が買い、フィーカの兄として育てた
 ③しかし、フィーカが言うに。村を焼いたドラゴンは、カズラがドラゴン化した姿と一致する

 その結果フィーカは行く道を見失い、カズラは現在、行方不明です。
 本エピソードは飛び去ったドラゴン(カズラ)の居場所を見つけるまでの、インターバルとなっております。
 動きやすいよう目的のご用意は致しましたが、いつも通り、皆さんのなさりたいことをして頂ければと思います。

 こちらの文章としましては、プロローグや既出リザルトを参考にして頂けると幸いです。
 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。


個人成績表 Report
タスク・ジム 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
カズラ君がドラゴンだと仮定して
「自分の意思ではなく心ならず村を焼いてしまった」可能性を提示し
暴走や洗脳など色々あるよと説く
日頃からの【事前調査】で【魔物学】中心に【読書】を重ねた知識を根拠に
【信用】してもらう

その上で

最悪の可能性に悲しむのと
ましな可能性を証明するためあがくのと
どちらを選ぶ

と問いかけ




ナノハ・T・アルエクス 個人成績:

獲得経験:123 = 82全体 + 41個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
対巨竜用バリスタの作成

■行動
設計と修理の技能を活かして、バリスタを組み立てるよ。
ただ組み立てるだけでなく、弓の弦や駆動部分の動作や強度に問題がないか確認しつつ調整。
練習用の矢を使っての試射をして、ブレなく飛ぶかも確認して調整。

どんな強力な代物も本番で使えなきゃ意味がない。
しっかり仕上げるよ!

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【A】話をしてみる
迷ったり解らなくなった時には聞けばいい
このまま何もしなければナカノトくんはオレ達の手で殺してしまうかもしれない
それで君は本当にいいのか?
月並みだが後悔するのならば動くべきってよく聞くな
という事を

時間があるようなら設計を使ってバリスタ作成の手伝いしつつメメたんに愚痴

アドリブA 絡み歓迎

オズワルド・アンダーソン 個人成績:

獲得経験:82 = 82全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:300
獲得努力:50
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---

クロス・アガツマ 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【A】

フィーカ君を見かけたら、少し話をしよう
立ち上がるきっかけを与えてやりたい


きっと、カズラ君が村を襲ったこと自体は間違いないのだろう


でも、まだ何かあるはずだ

君の父親や弟が生きている可能性も、カズラ君と家族のような関係だったことも、俺達は知らなかったんだ
まだ……真実の奥に隠れた真実があると、俺は思う

朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【A】フィーカ様とお話ししますわ。保健室へ向かいお饅頭を差し出します

そしてその場面を見ていないフィーカ様に女王が投げた仮面が張り付きカズラ様の意志を無視してドラゴンへ変えた経緯と自身の思いを話し

「私は貴方が、例え『真実』が辛い物だったとしても、前へ進む勇気があると信じていますわ」

と述べ部屋を出ますわ


リズリット・ソーラ 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
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C、シトリ先生と

雑音と笑い声に苛まれながら訓練の休憩中に
彼に会わないのか、と聞かれ
フィーカのことは 気になる
…でもうちは あの子になんて言えばいい?

言われへん だってうちはカズラと似てる…かも
何かを壊して 誰かの大切な何かを壊した人が
壊された人に なんて声かけたらええの?
カズラもきっと苦しんでる だから助ける

ベイキ・ミューズフェス 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【A】

校舎内を移動してたら、テラスに腰かけて何かを読んでるフィーカさん発見
日記を開いて……泣いてるようですね

泣きたいときは、思いっきり泣くといいんですよ
でも、泣いてばかりだと……その日記を書いた人も、困っちゃいますよ

その悲しみの元凶
どうにかできるのは、それはあなた自身なのかも

涙を拭いて、お立ちなさい

シルワ・カルブクルス 個人成績:

獲得経験:123 = 82全体 + 41個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
戦闘になった場合において魔法攻撃をしようしてくる想定で鍛錬を始める

鍛錬にはパソスに同行してもらい、パソスが放つ魔法弾の弾幕を回避あるいは防御して突撃し、的確なところに一撃を放つ(実際はすんでになるが)という内容になる

ジークベルト・イェーガー 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:225 = 82全体 + 143個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
煙草呑みに外出たら、うろうろしてる少年を見た

「ダチだと思ってたら、村焼いたのダチだった?へぇ…だから?」
お前のダチがどういう奴だか知らんけど
元から危ない奴だったと見抜けなかったお前の落ち度だろ

そんな奴じゃねぇってんなら、原因ぶっ飛ばせばいいじゃねぇか
簡単なことじゃねぇか

こんなトコでうじうじしてんなよ

ウィトル・ラーウェ 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
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獲得希望:10

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獲得称号:---


ふぅーん 巨竜を射ち落とす、ね
余所者のぼくには関係がないからいいけど
……(道中の生徒たちの会話を小耳にはさみ)
無言で踵を返して制作現場へ

ねぇ バリスタ作ってるのってここ?
設計図見せて、ほら早く
へーいいじゃん ロマンあるの好きだよ ぼく
重要そうなパーツは……ふぅん
テコ入れする箇所?んなもん探せば無限に出る

パソス・ウェルテクス 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
シルワ・カルブクルスにお願いされて鍛錬に参加したパソス
「魔法弾を放ってほしい」という要望だったため
とりあえず魔法弾の弾幕をはることにした

ルーシィ・ラスニール 個人成績:

獲得経験:99 = 82全体 + 17個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【A】

スタコラと帰ろうとしとったら、先生に呼び止められて、フィーカさに課題の資料持っていけって言われただよ

今日はついてねえだ

さて、フィーカさはどこだべ?

校庭うろついてたらフィーカさ発見
なんじゃ?

泣いとるだか?
でもな、泣いとっても何も変わらんで

泣いても、また立ち上がるんが……勇者ちゅうヤツじゃろ?

リザルト Result

●勿忘草
 ――フトゥールム・スクエア内、『保健室』。
 その日も、【フィーカ・ラファール】は。寝台の上にて膝を抱えるようにして、時を過ごしていた。
 窓の向こうに広がる、晴れやかな空――トン、カン、トン、と小気味よい音が聞こえても。今のフィーカの心を動かすものではない――を眺め。
 思い出したように、母の遺品……ラファール家の紋章が背表紙に刻まれた、日記帳を開く。
 そんなフィーカを見ていた【メッチェ・スピッティ】は、弱ったように眉を下げ、しかし立ち上がった。
 控えめなノックの音に促されるように、保健室の扉を開ける。
「おまえさまは……」
「どうも」
 【仁和・貴人】(にわ たかと)だった。
 彼はいつも通りに白の仮面を着けたまま、軽い会釈をメッチェに送ってから、部屋の奥……フィーカが蹲っているベッドへと、視線を向ける。
(泣いてるのか。……耳にした通り、傷は深そうだ)
 ならば、自分が言える事なんて。僅かだろうなと、貴人は思う。
(無責任かもしれないが。オレはラファールくんの想いや人生を、背負いきれないしな)
 だからこそ、フィーカの近くに椅子を寄せ、腰を落とした貴人は、
「無理に、話さなくていい。だからそのままで聞いてくれ、ラファールくん」
 語り掛ける。フィーカが感じている哀しみを邪魔することなく、受け入れつつも、言葉を綴る。
「聞こえるか? 窓の向こうで鳴っている、金属を叩くような音。あれは、バリスタを作っている音なんだ」
 わかるか? つまり。
「オレ達……『フトゥールム・スクエア』は今、竜になったナカノトくんと戦う手筈を、整えている」
 『ナカノトくんと戦う』。そのフレーズに、フィーカの肩が揺れた。
 それを仮面越しに確認した貴人は、少しだけ、声量を上げて、
「つまり、ラファールくんがこのまま、此処で泣いている間に。オレ達の手で、ナカノトくんを殺してしまう可能性もある」
「っ……!」
 勢いよく、フィーカの顔が上がる。
 けれど、涙でぐしゃぐしゃになったフィーカは、嗚咽に喉を震わせるばかりで。
 そんなフィーカを真っ直ぐに見返す貴人は、ゆっくりと。
「月並みかもしれないが。『後悔するくらいなら、動くべき』って、言うよな」
 なぁ、フィーカくん。
「君がこの場所で哀しみ続けているのは、『忘れたくない』からなのかもしれない。憎しみに、大切な想いを塗り潰されないよう、守っているんだろう」
 でも、なぁ、フィーカくん。
「それだけで、君は。本当に良いのか?」
 ――哀しみの淵に居る間に、全てが終わってしまっても。良いのか?
 問いかけに、フィーカは何も答えない。
 しかし、窓の向こうから聞こえる音へ。涙に濡れた青の眼差しが、持ち上げられる。

●Iris
 言うだけ言って、貴人はすぐに立ち去る。
 そうして、暫しの時間が流れ。日記帳を閉じ、窓の外を眺めていたフィーカは、再び名前を呼ばれた。
「フィーカ様」
 落ち着いた声に顔を向ければ、【朱璃・拝】(しゅり おがみ)と【タスク・ジム】に微笑みかけられる。
 それに対し、体を強張らせたフィーカを気にすることもなく。朱璃は貴人が残していった椅子に腰かけ、その傍らにタスクが立った。
(緊張している……いや、恐がっているのかな。こういう時は、『相手の気持ちをけして否定せず、その心に寄り添う形』が望ましいでしょうか)
 フィーカの様子を黙視しつつ、タスクは事前に読んでいた心理学の本の内容を反芻する。
(大事なのは、自分の考えを『正しいもの』だと思い込んで、相手に押し付けないこと。相手の状況と心情をよく考えながら、言葉を紡ぐこと……)
 ならば、今のフィーカはどんな気持ちだろうと、タスクは思う。
 大切なものを奪われた悲しみと。『幸せな毎日』を壊したものへの憎しみと。
(でも、それだけでは、ありませんよね……カズラ君は、フィーカ君の兄役だったようですし)
 きっと、彼を憎みたくない気持ちも、あるんじゃないでしょうか。
(それでも、家族を愛していた分だけ哀しくて、許せないから。『どうすれば良いのか、わからなくなって』、蹲ってしまったのかもしれない)
 けれどそれは、逃げと言うよりは心を守るための防衛本能で、ゆえに、咎められることでもないのだろう。
(ですが、哀しい気持ちに浸り続けることは、それ以上状況が動かなくなる事でもあります)
 つまり、新しい傷を得ることもない代わりに、この先の『未来』も訪れない。
(僕は、あの日……フィーカ君と初めて話した夜。彼に、『フトゥールム・スクエアで、一緒に学びましょう』と声をかけたんだ)
 けれど、それは。こんな哀しい結末を迎えるためじゃない。
 思いはそのまま、声となる。
「フィーカ君。きみはこのまま、『最悪な可能性を受け入れる』のと、『ましな可能性を探すために、力を尽くす』のと、どちらが良い?」
 問いかけに、フィーカは眉を下げる。
 『よくわからない』なんて声が聞こえた気がして、タスクは更に、言葉をかみ砕いた。
「カズラ君が、フィーカ君の村を焼いたドラゴンだって話だけれど。まだ、その全部が『カズラ君のせいだった』とは、わかってないんでしょう?」
 それなら。
「自分の意思じゃなく。たとえば、洗脳されたり……今回の仮面のように、暴走させられたからって可能性も、あるんじゃないかな」
「えぇ。カズラ様がフィーカ様の村を焼いた事は、『事実』なのかもしれません。ですが私も、あの方が、自らそんな事をするなんて思えません」
 タスクの言葉を聞き、朱璃もまた、口を開いた。
 叱られた子猫のように耳を下げたフィーカを、朱璃は真っ直ぐに見据える。
「先日、カズラ様がドラゴンに姿を変えた時だって。カズラ様は、『女王』から仮面を投げつけられる形で、無理やりに、姿を変えさせられたのです」
 あの時彼女は、『全て、壊れてしまえ!』と叫んでいました。
「つまり、あの女性の悪意によって、カズラ様はあの姿になってしまったのです。けして、自らの意思ではありません」
「……じゃあ、カズラがおれ達の村を焼いたのだって。誰かのせいで、ホントはやりたくなかったかもしれないってこと?」
 今日初めて反応を返したフィーカに、朱璃は微笑む。
「えぇ。その可能性が高いかと。……その日記の中で、きっとフィーカ様とカズラ様、そしてご両親も。仲睦まじく綴られているのでしょう?」
「うん……だから、おれも、信じられなくて。ぜんぶ、あいつのせいだったなんて、考えたく、なくて……」
 でも、それだけじゃ、……ないんだ。
 言葉と共に再度俯いてしまったフィーカに、朱璃は告げる。
「フィーカ様。今から言う事は、ただの私の思いです。ですから、貴方に押し付ける気は、ございません」
 もう、返事はなかった。それでも、彼女は続ける。
「私は『真実』が知りたい。ですからその為に、前へ進みます。今日までお二人と、様々な場所へ向かったのと、同じように」
 そしてもし、本当に。誰かが、『何か』が。あの方の意志を無視する形で、貴方がたの大切なものを奪わせたのだとしたら。
「私は、カズラ様を助けたいと思います。きっとその時は、カズラ様もまた、苦しんでいる筈です」
 きっと、『自分のせい』だと、深く絶望していることでしょう。
「今のフィーカ様と、同じように」
 その言葉に、フィーカは唇を噛んだ。
 まるで泣き出すのを堪えているかの少年に、朱璃は穏やかに笑って、お饅頭を差し出す。
「フィーカ様。私は貴方が、例え『真実』が辛くても。臆さず前へ進む勇気……『強さ』を持っていると、信じていますわ」



 その頃、校庭に設置された『対巨竜用バリスタ製作区画』では。今日も多くの生徒達が、手を動かしていた。
 【オズワルド・アンダーソン】や、【ナノハ・T・アルエクス】もその一人である。
「いっくよーーーーーっ!!!!!」
 ヒューマンで言えば子どもサイズのナノハの指が、大型弩弓に備え付けられたハンドル(巻上げ器)を勢いよく回していく。
 そうして巻き上げられたロープの分だけ、結びつけられている大型フックが後ろに引いていくのは、弩(いしゆみ)の弦にあたる部分だ。
 しっかりと力を溜め込み、引き絞られていく様を音で確認したナノハは、左右上下に視線を走らせていく。
(うんうん。留め金の部分も、ばっちり機能してるね。これなら、勝手に矢が発射されることはなさそうだ)
 満足そうに頷いたナノハは、最大限までつるを引いてから、矢をセットするための台座――この部分を、臂(ひ)と言う――に、木製の杭を置く。
 ちなみにこの木杭は、『ぶっつけ本番なんて、絶対にダメ!』と主張したナノハの為に用意されたものであり、言い換えれば試し引き用の『矢』だ。
(ヒトが乗れるサイズじゃないとはいえ、やっぱ大きいなぁ……いつものようには行かなそう)
 考えながら、ナノハはトリガー部分にあたる魔石に片手を置き、その姿勢のまま、『矢』が標的を射抜く図を頭の中に思い浮かべる。
 聞くにそれが、クロスボウで言う『トリガーを引く』行為にあたるそうだ。
(……強く、早く)
「――届けっ!!」
 言葉と共に、『矢』が飛んだ。
 風を切る音と共に発射された木杭は、真っ直ぐに大空へと向かい。標的として置かれていた巨大バルーン(ドラゴンタイプ)の『腕』に、弾かれる。

・・・

 それを少し離れた場所で見ていたのは、【ウィトル・ラーウェ】だった。
(撃ち落としたいんなら、狙うべきは翼だろ?)
「あぁ、ズレたのか……ま、余所者のぼくには関係のない話だ」
 肩を竦め、目的のほうへと歩き始めたウィトルは。その言葉通り、手伝うつもりで此処にいたわけではない。
 ただ、時々顔を出している空き教室へ続く道の途中に、製作区画が広がっていただけなのだ。
 しかし、情報は勝手に耳に入ってくる。
「……カズラ。なんかドラゴンになっちまったって聞いたケド、ヒトの意識もなくなってるんかなァ。俺、あいつのこと結構好きだったんだケド……」
「どうだろうな。そもそも、ドラゴンの姿になったのだって、無理やり魔力を暴走させられたからって話だが」
「ヤバそうだよなァ、それ。仮にヒトの姿に戻れたとしても、体ボロッボロじゃね? マジしんどい。やっと一基完成したけど、俺には撃てねぇよ」
(……まさか、撃ち落とす予定のドラゴンは。この学園の生徒だった奴、なのか?)
 ピクリとウィトルの長い耳が動く。その間も、製作区画で手を動かしていた者達の話は、続く。
「だが、この計画がうまくいかなければ、彼の動きを封じることは難しいだろう。それが出来なければ、諸悪の根源である仮面を壊すことも出来ない」
「えぇ。ですからわたくし達は、今できる事を致しましょう」
 その程度の内容でも、ウィトルは大体の事情を把握する。
 ゆえに踵を返し、無言のまま、足を進める。

・・・

「ねぇ、きみ。そのバリスタの設計図、見せてよ」
「ひゃいっ!」
 試射を終え、気になる部分に手を加えていたナノハに、声がかかる。
 それはウィトルによるもので、振り返ったナノハは、ぱちりと金の瞳を瞬かせた。
「えっと、これなんだけど……」
 思わず見上げていた自分に、視線を合わせるよう膝をついてくれた相手へ、ナノハは手に持っていたスクロールを広げて見せる。
 そこには今回使われる大型弩弓の全てが記されており、ウィトルは『へぇ』と声をあげた。
「良いじゃん。ロマンあるの好きだよ、ぼく」
「……! 僕もだよ!!」
 思わず声を弾ませたナノハは、しかし苦笑する。
「だから、こんな状況じゃなければ。もっと色々手を入れて、遊んでみたりするんだけど……」
 思い返してみる。カズラの肩に貼り付いたあの仮面は、あの時確かに、笑っていた。
 きっと、イストラトスの人達や『女王』。そしてカズラを狂わせ、嘲笑っていたのだ。
(許せない……っ!)
「うん、今は! 友達を助けるために、集中するんだっ!」
「……そうかい。なら、ここ、駆動部は金属で覆うと良い。そうすることで、たとえ雨に濡れても、威力や制度が落ちにくくなる」
「あ、そっか! 天候が悪かった時のことも、考えなきゃだもんね」
 頷き、鉛筆でアドバイスを書き込んでいくナノハへ、ウィトルは更に言葉を続ける。
「弾数が限られてるなら、魔法で命中精度を補正するのも良いかもしれない。あぁ、そうだ。バリスタの運搬手段や、それ自体の耐久度も要確認だな」
 思索ついでに次々と助言をくれるウィトルに、ナノハは尋ねる。
「キミも、カズラと友達だったの?」
「いや、別に?」
「そっか」
 笑みを浮かべるナノハに対し、ウィトルは軽く頭を掻いた。
(あぁ、まただ。また……首を突っ込んだ)
 ――余所者だっつってんだろ。『ぼく』。



 そんな二人を遠くから眺めていた【クロス・アガツマ】は、隣に座っているフィーカを見た。
 保健室を出て、ふらふらと彷徨っていたフィーカを見つけ、クロスが声をかけたのは、少し前の話だ。
 今日は綺麗な秋晴れで、校庭に設置されたベンチは程よい温かさに包まれているものだから。
(白猫のルネサンスである彼には、心地良いだろうかと誘ってみたが……)
 どうやら、『バリスタ製作区画』が気になっているようだと。眼鏡の奥、赤の瞳が思案する。
(ならば少し、話をしよう。……彼が立ち上がるきっかけを、掴み取れるように)
「――フィーカ君、単刀直入に聞こう。今の君は、カズラ君のことを、どう思っているんだい?」
 びくんと肩を震わせたフィーカが、クロスへと体の向きを変える。
「……嫌いだ。でも、嫌いじゃない。……だけど」
 『許せない』。
 それはとても、小さな声だった。
 しかしはっきりと聞こえた呟きに、クロスは笑った。
「良いんじゃないか、それでも。俺は別に、君の中にあるだろう『憎しみ』を、否定するつもりはないよ」
 『ゆうしゃ』らしくは、ないかもしれないけどね。
 そう微笑むクロスを、フィーカは見つめる。だからこそ、声は続く。
「きっと、カズラ君が君の村を燃やしたことは、間違いないんだろう。それを恨むのは、君に与えられた権利だ」
 けれどね、フィーカ君。
「まだ、何かある筈だ。……フィーカ君、これは俺の、ただの疑問だが。君の御母上の日記は、どうしてあんな場所に、落ちていたのだろう」
「えっ……?」
「ほら、日記は机のある場所で書くのが普通だろう? 大事な思い出を綴るのなら、尚更もっと落ち着ける場所で記し、良い場所に保管する筈だ」
 なのに、何故。
「あんな埃っぽい地下室に、『落ちていた』? ……そういえば君は、『地下室から出て来て』、『かあさんを見つけた』とも言っていたね」
 では、何故。
「あんなチーズしかない場所に?」
「それは、確か……『かあさん』が、良いっていうまで、ここにいろって」
「それは、何故?」
「……わか、らない」
 首を振るフィーカに、クロスは頷いた。まるで満足のいく答えを、得られたかのように。
「そう、『わからない』。そもそも俺達は、君の父親や弟が生きている可能性も、カズラ君と家族のような関係だったことも、知らなかった」
 けれど、今は知っている。
「それは俺達が、色々な場所へ向かい。過去に隠れていた『真実』を、見つけ出したからだ」
 ならばね、フィーカ君。
「whydunit(ホワイダニット)、howdunit(ハウダニット)……『何故?』と思い続ける限り、俺達は新しい『事実』を手に入れる事が、出来る」
 そして、それは。
「『許せない』気持ちを抱えながらでも、可能なんだよ」



「『友人を』だなんて、世界は残酷だよな」
 保健室から戻った貴人は、バリスタ製作を手伝いながら、溜息をついた。
 その隣には学園長がいて、まるで愚痴に付き合わせるかのように、言葉を零す。
「全てが終わった時に、潰れてしまいそうだ。……だが、できれば笑える未来にはしたいが、最悪はな」
 再度溜息をついた貴人の背中を、とんがり帽子の彼女は、勢いよく叩いた。
「なーに黄昏とんのじゃ。少年は大志を抱くものだゾ!」
「だっ!」
「夢を持て! 最初っから大団円を諦めて、どーする!」
「いだっ、ちょ、そんな叩かないでメメたん、痛いってば……っ!」
「柄にもなく気弱な事を言うからだ。チミ達は絶望たる象徴、魔王に立ち向かった『ゆうしゃ』の卵だぞ?」
 ならば見せてみたまえ、このオレサマに。
「友達も、幸せな未来も。諦めなければ必ず手が届くっていう、果て無き希望を――!」


●逆境で生まれる力
 同時刻、校庭。『対巨竜用戦闘訓練区画』と書かれた、即席の立て札が建てられた場所――位置で言うなら、『バリスタ製作区画』の真逆だ――では。
「はい、どんどん行くよーっ! マ・ド・ガ・ト・ル……っ!!」
 駆け声と共に、【パソス・ウェルテクス】は水晶を頂きに置いた大杖を掲げる。
 すると、彼女の周囲に幾つもの魔法陣が現れ、その1つ1つから、透明なエネルギー弾が飛び出した。
 両手に収まるサイズの魔力球は、まるでシャボン玉のようにふわふわと風の中を漂いながら、【シルワ・カルブクルス】へと向かっていく。
 しかし、その威力は初級魔法『マド』の群れであり、経験を積んだシルワにとって、さほど痛いものではない。
(ですが、これは『その全てを』『防ぎきる』ための、訓練です……っ!)
 だから、飛ぶ。龍の翼を広げ、身に着けているアーマーや、手に持つ斧の重さにけして引きずられないよう、力の限り羽ばたかせる。
 しかし、それだけでは難しい。魔法は物理攻撃と違い、悪く言えば軌道が不確定で、言い換えれば、『避けにくい』のだ。
「く……っ!」
 全てを躱したと思いきや、肩にぶつかる形で弾けた光の飛沫に、顔をしかめる。
 それは痛みよりも悔しさを滲み出た表情で、立ち位置的に真正面からそれを見ることになったパソスは、思わず息を呑む。
(こんなシルワ、初めて見た気がします)
 パソスが知っているシルワ・カルブクルスという親友は、真面目で、けれど頑固者ではなくて、むしろ『たおやか』という表現がとても似合う女性だ。
 ゆえに、パソスはシルワに対して幾許かの憧れを抱いていて。
 『ドラゴン族のブレスを避ける練習をしたいから、付き合って欲しい』と声をかけられたとき、正直に言えば、嬉しかったのだ。
(ですが、シルワは真剣です。……今回の事件、『巨大な竜が出現した』くらいのことしか、わたしは分かってはいませんが)
 きっと、彼女はそうじゃないんだと、パソスは確信する。
(だったら、わたしは……)
 助けになりたい。それはシルワの本気に触れ、パソスの胸に湧き上がる、熱い気持ちだった。
「ならば、これです……っ! 『プチヒド』……っ!!」
 先程までの陽気さを引っ込め、眉を吊り上げたパソスは、魔力を練り上げることに集中する。
 そうして出来あがっていく火球を、シルワは真っ直ぐに見返した。
 ――本当のところ、シルワの胸の内は、荒ぶっていた。
 悔しいのだ。あの時、カズラ・ナカノトが仮面を投げつけられ、その姿をドラゴンへと変えさせられていた時、シルワは間近でそれを見ていた。
 だから、悔しくてたまらないのだ。
(私は、守れませんでした。それどころかきっと、油断、していた)
 和解という形ではなかったが。あの時『蟻』達を退けることができ、『女王』を追い詰められた瞬間、シルワの頭に『勝利』が過ぎったのだ。
 だが結果は、これだ。
(ほんの一瞬の隙。それが『守れない』結果を生むのだと、よくわかりました)
 しかも、それが取り返しのつかない未来になる可能性も、身に染みた。
 だってカズラが元の姿に戻る保証は、今の所ないのだ。仮面を壊せば良いという指針は立てられても、それが確実な救いになるのかは、わからない。
(ならばせめて、私は……)
「ハァッ……!」
 放たれた火の球を避けるべく、シルワは跳躍する。
 しかしその着地点を狙うよう、パソスがマドガトルを放った。
 囲まれる。無数の魔力球が、シルワに襲い掛かる。
 その全てから視線を逸らさず、時に上体を逸らし、時にスカーレット色の盾を掲げることで相殺したシルワは、パソスが次の行動に入る前に、接近。
 反撃とばかりに、斧を振り上げた。
(そうだ、避けられなければ、盾を使えば良い。そして、次のアクションが入る前に、反撃すれば良い……っ!)
 『攻防一体』。そうか、このやり方は、相手の行動を阻害することも出来る……!
 閃きは形となって現れる。攻撃を防ごうと、詠唱を解いて防御に回ったパソスを見たシルワは、掲げた斧をゆっくりと下ろす。
 その目には、覚悟が滲んでいた。
(もう何も、……傷つけさせない)
 もしも、カズラ・ナカノトであったドラゴンが。学園の皆を、傷つけようとするのなら。
(必ずその前に、決着を付けます。私のためにも……彼の、ためにも)



 クロスが席を立ち、ベンチに独り座るフィーカは、思う。
(……おれは、きっと。皆みたいな『ゆうしゃ』には、なれない)
 ――フィーカ・ラファールは、勇者になりたい少年だった。
 けれどその理由は、あまり綺麗なものではなくて。自分から『幸せ』を奪ったドラゴンへの復讐が、主な動機だった。
 だからこそ、立ち止まる。クロスが述べた通り、それはきっと『勇者』と呼ばれるに相応しい感情ではないと、知ったからだ。
(おれが、この学園で出会ったヒトは。みんな、みんな……『優しい』んだ)
 カズラを助けようとしている。救おうとしている。……たとえ犯した罪があったとしても、許そうと、している。
(もしもみんなが、おれと同じ立場でも。そう思えるのかな)
 たとえ洗脳されていようと、暴走させられた可能性があったとしても。
(おれみたいに、『そんなの、かあさんを殺して良い理由には、ならないじゃないか』なんて、思わないのかな)
 でも。
「おれ、だって……」
 みんなみたいに、カズラを信じたい。許したい。
 何か理由があったんだろ? って。お前のせいじゃないんだろ? って、笑って言いたい。
 なのに。
「なんで……っ」
 くるしい。憎らしい。どうして、おれはこんなに嫌なヤツなんだ。
 藻掻き苦しむ彼の心を掬い上げるよう、ぼたぼたと涙が零れ落ちる。
 それを受け止めたのは、膝の上にて広げられた母の日記と、……柔らかな、体温だった。
「もう。……そんなに泣いたら、書かれている内容が、読めなくなってしまいますよ?」
 【ベイキ・ミューズフェス】の穏やかな声に、フィーカが顔をあげる。
 後ろから、ベンチの背凭れごとフィーカを抱きしめた彼女は。未だ泣き止まない少年に微笑むと、膝上に載っているものを見て、
「お母さんの日記、ですか? きっと、いろんな思い出が詰まってるんでしょうね」
 よしよし。なんて頭を撫でてくれる彼女の優しさに、フィーカはぐすぐすと鼻を啜る。
 まるで泣き止もうとしているその仕草に、ベイキは笑みを崩さぬままに、
「無理はしなくていいんです。泣きたいときは、思いっきり泣いて良いんですよ」
「でも、泣いてるだけじゃ、蹲っているだけじゃ。おれ、何も変われない」
「ふふ……フィーカさんは、『強い』んですね」
「ちがう。弱いから、泣いちゃうんだ」
「そんなことはありませんよ。強いヒトだって、泣いてしまうことはあります」
 ですが、『強い』ヒトは。
「このままじゃダメだって。苦い気持ちを抱えながらでも、前へ進もうとするんですよ」
「……そう、なのか? 『ゆうしゃ』はキレイで、正しくて、悩むことなんて何もないんじゃ、ないのか?」
「『勇者』だって、同じヒトですよ、フィーカさん。間違いもすれば、膝をつくこともある」
「そうだべ。それでも何度だって立ち上がるんが……『勇者』っちゅうヤツじゃろ?」
 突如聞こえた声に、フィーカとベイキの視線が集まる。
 そこには【ルーシィ・ラスニール】が立っていた。
「泣いとっても何も変わらんって思えてるんなら、フィーカは大丈夫だ。不安なら、『幻灯』で買ったお守りに『お願い』して、力を借りたらええ」
 ルーシィの言葉に、思い出したようにフィーカは服のポケットを探る。
 そうして、ころんと。掌の上に転がる蒼黒色の勾玉――カズラが飛び去った時に、落ちていたものだ――は、ぼんやりとした光を放っていた。
「おんや? もうカズラは『お願い』したんだべな。……そういや、フィーカひとりか? カズラはどこさいっただ」
「……あのね、ルーシィ。カズラは……」
「『ルーシィ』? しかも、金髪のエリアル……? えっ、もしかして、あなた」
 フィーカの言葉に、黙って話を聞いていたベイキが、反応する。
 そんな彼女を見上げたルーシィは、翆の瞳を丸くした。
「ありゃ、おらが生まれる前に死んだ父ちゃんの、書斎にあった肖像画とおんなじ姉ちゃんだ。もしかして、『ベイキ』っちゅう名じゃねえか?」
「えっ? やっぱりそうなの? でもあなた、もうすぐ14歳のハズですよね? どうしてそんな、小さな身体に」
「……!! おらのこと、わかるんか! やっぱり母ちゃんじゃ! やっと見つけたべ!」
 驚きと喜びをぶつけあう二人に、思わずフィーカの涙が引っ込む。
 けれど、それから。『思わぬ再会』に遭遇し、狼狽え続けるベイキを見たフィーカは、思わず吹き出してから、
「……ベイキは、『かあさん』なの? だったらおれとルーシィに、昼ごはん、つくってよ」
「昼食、ですか? 構いませんが、どんなものが良いでしょう?」
「おにぎり。具材はしゃけがいい。……これに書いてあったんだ。昔かあさんが、よくおれとカズラに、作ってくれたんだって」
 今日初めての笑みで、告げる。



 一方、『対巨竜用戦闘訓練区画』。
「リズリットさんは、向かわれないんですか? フィーカさんのところに」
 【シトリ・イエライ】との模擬戦を終え、隅のほうで休憩を共にしていた【リズリット・ソーラ】は、そんな問いかけに首を振った。
「……、うちは……」
 答えながら、空を見上げる。温かな光を降り注がせる蒼天は、雲一つないほどの快晴で、それがどこか、……物哀しい。
(なんにもない。……うちには、言えることなんか)
 正直に言えば、フィーカのことは気になっている。
 けれどリズリットには、何もないのだ。
(きっと、うちは。……カズラとよう似てる)
 だからこそ、わかるのだ。カズラがあの時、フィーカの『お前のせいだ』という言葉を聞き、静かに瞼を閉じた理由が。
 あれはきっと、肯定だった。相手の非難を受け、何も言い返すことが出来ない己を、表していた。
(けれど、でも。何かを壊したり、誰かの大切な何かを壊したヒトは。壊されたヒトに、なんて声をかけたらええの?)
 浮かぶ疑問に、答えは出ない。だからこそ、哀しみを抱える少年に、リズリットは何も言わない。
 ――だけど。
「なぁ、先生。あの仮面って、なんやと思う?」
 視線を流すようにして、シトリへと顔を向けたリズリットの瞳には、静かな怒りが満ちていた。
「うちの『雑音』は、多分ずっと付き合っていくものだけど。あの仮面は、器にしたヒトに、無理矢理植え付けるもんなんかな」
「……捕獲した『女王』は未だ昏睡状態のため、はっきりとしたことは言えません。ですが、その可能性は大いにあるでしょう」
「そか。……アレを作ったやつ、何考えとるんやろうね」
 鋭利な刃を思わせるほどに冷たい響きを残し、リズリットは高ぶる神経を鎮めるよう、瞳を閉じる。
 それに対し、シトリは何も言わずに立ち去ったが。次にリズリットが目を開けた時、彼女の鎌には薄汚れた布切れが結ばれていた。
(これ……カズラの……)
 ぼろぼろになってしまったマフラーは、カズラ・ナカノトという青年が常に身に着けていたものだ。
 ゆえに、思う。
(大丈夫、カズラは必ず助ける。あの仮面だって、必ず壊す)
 そして、もし。誰かを『破壊』するために、あの仮面を作っている『敵』がいるのなら。
(――絶対に。後悔させてやる)
 


「ふぅん、『ダチだと思ってたら』、『そいつが自分の探し求めていた、復讐相手だった』ねぇ」
「うん……」
 思いもよらない話を聞かされて、【ジークベルト・イェーガー】はため息を付く。
 煙草でも嗜もうかと部屋を出たジークベルトが、階段に座り込み、涙目でおにぎりを食べていたフィーカを見つけたのは、つい先程の事だ。
(てっきり、ガキ同士のいじめにでも遭ったのかと思って、声をかけてみたら……)
 想像以上に複雑なヤツだった。思わずため息を重ねたジークベルトは、しかし。
「だったら、こんなトコでうじうじしてんなよ。復讐したいんなら、しにいきゃ良いじゃねぇか」
「えっ? で、でも。カズラはその、悪い奴に操られてたかもしれなくて」
「だから?」
 ばっさりと切り捨てられて、フィーカは目を白黒とさせる。
 そんなフィーカに、ジークベルトは、
「ダチが悪いんなら、そいつをぶん殴りゃいい。さらに悪い奴がいたってんなら、そいつもぶっ飛ばせ。簡単な話じゃねぇか」
「えぇ……? 良いの? そんなんで」
「ここでうじうじ悩んでるよりかはマシだろ。時間は有限だぞ? ボウズ」
 『それはそうだけど』なんて呟きながら、おにぎりを頬張る幼子に、ジークベルトは本日三度目の溜息を吐き出す。
(ま、迷える若人を導くのも。年長の務めかねぇ……)
 そう思ったジークベルトは、ただ静かに。
「お前のそれは『今』の話だろう。過去じゃない。……なら後悔しないように生きろ、お前の好きに決めろ」
 おっさんの時は何もかも、間に合わなかったからな。
 その言葉に、フィーカが目を瞠(みは)る。ゆえに、ジークベルトは語った。
「俺の時は、全部終わった後だった。俺の女とガキが殺されて、殺した魔物は討伐されてた」
 でも、お前は違う。
「復讐するのも、言いたいことを言うのも、今ならやれるんだ。それ以上に大切な事なんて、あるか?」
 理屈や過去に捕らわれて、今を見失うなよ、少年。
「お前は今、どうしたいんだ?」

●Answer
 ――夜。月明かりの下で。
 日課にしていた自主練に励んでいたタスクは、長く伸びた影に振り向いた。
「……待っていましたよ、フィーカ君」
「おう……!! 誘ってくれて、ありがとな! タスク!」
 そこには、白銀の鎧に身を包み。両手剣を手にする、『勇者になりたい』少年がいた。



課題評価
課題経験:82
課題報酬:0
【想刻】慟哭の残響
執筆:白兎 GM


《【想刻】慟哭の残響》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 1) 2020-11-10 00:05:15
勇者・英雄コースのタスク・ジムです。
よろしくお願いいたします!

「勇者になりたい少年」フィーカくんに関わった、一応先輩として。
今回は、彼の心に寄り添うことに注力する予定です!

《イマジネイター》 ナノハ・T・アルエクス (No 2) 2020-11-10 01:50:14
賢者・導師コースのナノハ・T・アルエクスだよ♪

僕はバリスタの方を手伝うつもりだよ。
カズラを助けるためにも、きっちり仕上げないとね。

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 3) 2020-11-10 02:57:36
魔王・覇王コースの仁和だ。

ラファールくんと話をしてみようと思う。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 4) 2020-11-10 20:07:41
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

まだどこへ行くかは決めかねておりますが、多分フィーか様とお話してみると思いますわ。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 5) 2020-11-10 22:44:00
教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。
私もフィーカさんと接触するなりお話しするなりしてると思います。

まあ、泣きたいときは思いっきり泣くといいんですよ。
まずはそれからです。たぶん。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 6) 2020-11-13 13:30:41
フィーカくん、カズラくん、そして平和のために続々と集結されてますね!

状況把握のために、ここまでの皆さんの宣言を簡単にまとめてみますね。

【A】フィーカに接触する
貴人さん
朱璃さん
ベイキさん

【B】対巨竜の準備を進める
ナノハさん

【C】その他


ややBが少なそうなので…
僕はABバランスよくプランを書いてみようと思います。
今後の様子によっては柔軟な対応を考えます。

もし良ければ、皆さんのアプローチの方向を知りたいな~と思います。
被りを避けたり、連携を申し出たりなど、お互いのプランを書く参考や助けになりそうなので。
もし、気が向いた方は、書いていただけたら助かります!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 7) 2020-11-13 13:36:41
言い出しっぺの僕から…

メインテーマとしては、
カズラ君がドラゴンだとして、「自分の意思ではなく心ならず村を焼いてしまった」可能性を提示し、暴走や洗脳など色々あるよと説きます。

その上で
「最悪の可能性に悲しむのと、ましな可能性を証明するためあがくのと、どちらを選ぶ?」みたいな問いかけをしたいです。

そして、あとはバリスタの設計を手伝うなどを通して、最善を尽くす姿を背中で語ります。

…という構想なんですが、150字かける2枠に収まるかどうか…頑張ります。

《呪狼の狩り手》 ジークベルト・イェーガー (No 8) 2020-11-14 04:14:53
黒幕・暗躍コースのジークベルト。

あー…うん、がきんちょに発破かけようかと思ってなー

まぁ、よろしく頼むわー

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 9) 2020-11-14 09:08:26
>フィーカ様への接触
私も話すとしたらタスク様と同じような感じでしょうか。あの時カズラ様がドラゴンへ変わった経緯を考えると、仮に村を焼いた事が事実だとしてもカズラ様の意志では無かった可能性もありますし。「事実」と「真実」は違うと体は子供、頭脳は大人な少年探偵もかつて言っておりましたわ。


《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 10) 2020-11-14 22:42:09
朱璃さん、あの探偵さんですね!異世界書庫で見ました!

朱璃さんも似た方向性の励ましなら、心づよいです!
似た意見の仲間と一緒に励ます旨、プランに書いてみようかなと思います。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 11) 2020-11-15 12:57:03
下書き完了!

何か連携やお手伝いできることがあれば、
ギリギリまで調整しますので、いつでもご相談くださいね!

《勇往邁進》 リズリット・ソーラ (No 12) 2020-11-15 18:17:45
………え、あ、考えとったら、もうこんな時間…
ええと、今更やけど魔王コースのリズリット。
…ええと……先生と、話すかな…(C)
…うちは、あの子に、なんて言えばいいのか……わからんから…

《2期生》 シルワ・カルブクルス (No 13) 2020-11-15 21:29:13
紹介が遅くなりました
シルワ・カルブクルスです
私は…鍛錬をしていますね
いずれにしよ、暴走している彼にもう一度会えなければいけませんから…