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冬季、雪合戦演習!


ストーリー Story

 季節は冬の真っただ中。
 昨日記録的な大雪に見舞われた屋外演習場は未だ雪かきもされておらず、真っ白に染め上げられている。
 そんな演習場に生徒たちが集められていた。
 生徒たちの前には一人の細身の男が立っている。
「やあ、僕の名前は【ニルバルディ・アロンダマークォル】、ここの卒業生で冒険者として現場でバリバリ働いている超優秀なお兄さんだよ。おっとそこ、おっさんなんて言ったら首と胴体が離れることになるから注意しようね。これでも僕はギリギリ二十代なんだ」
 講師の男は朗らかに笑う。
 腰に提げた双剣、体のラインが分かる身軽そうな服装。
 切れ長の目と整った顔立ち、細身ですらりと背の高い彼は、忍者や暗殺者を思わせる雰囲気を醸し出している。
「先輩……いや、今は講師だったね。その人の紹介で今日は遊……ゲフン、特別講師として招待された。今回君たちの実戦演習を担当させてもらうよ」
 そのひょうひょうとした態度とは裏腹に、武芸に通じている者であれば油断ならない気配を敏感に察知することだろう。
 ここの卒業生で講師の友人、さらには現役の冒険者としても活躍しているのだから、その経験も技能もかなりのものに違いない。
「君たちはとても優秀な学生だと彼女から聞いているよ。今日は存分に君達の実力を……と思ったんだけどね」
 そこでニルバルディは周囲を見渡して苦笑を浮かべ両手を広げた。
「こうも雪が降り積もっていては演習どころじゃないね。いやまあ雪の除去を待ってもらうよう頼んだのは僕なんだけど。せっかくだし、今回君たちには特別な演習を用意したかったからね。このままにしておいてもらったよ」
 そう言うとニルバルディは一本の大きな旗を用意し、演習場のど真ん中に突き立てた。
 軍隊が拠点に立てるような背の高い旗で、そこには学園の校章が描かれている。
「君達にはここで雪合戦をしてもらおう」
 ざわりと周囲がざわめいた。
 雪が降ったんだからレクリエーションでも行おうというのだろうか?
「まさかとは思うけど、勇者を目指そうという君たちが雪を丸めて投げ合うようなキャッキャムフフな青春の一コマを思い浮かべていたりなんてしないよね?」
 圧のあるにこやかな笑みに一部の生徒が目を逸らす。
 一方で初めからその意図に気づき、力強く頷き返す生徒もいた。
「君たちはこれまでの学園生活で様々な経験を積み、技能を習得している事だろう。だが時にはその力を万全に振るえない環境だって存在する。状態異常然り、周囲の天候や地形然りだ」
 そこでニルバルディは指を立ててくるくると回しながら歩き出した。
「だが考えてもみたまえ。逆にそれらの周囲に存在するものをとことん利用して状況を有利に運べられたらどうだい? どんな状況でも環境を味方につける。それくらいの気概をみんなには見せてほしいと思っているんだ」
 唐突にニルバルディはパチンと指を鳴らした。
 すると彼の足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから一体の雪の人形が姿を現す。
 大きさは彼と同じくらい。
 粘土細工のようなぐにゃぐにゃとしたもので、両手をぶらんぶらんとさせている。
「こいつの名前はアイスドール。見ての通り雪を人の形に固めて操る簡易の分身魔法だ」
 ニルバルディは短剣の一本を引き抜き軽く薙ぐ。
 それだけでアイスドールは雪塊となり、ボロボロと崩れ去ってしまった。
「見ての通りアイスドールは脆い。武器で攻撃すれば簡単に崩れ去ってしまうデコイで、主にトラップ探知や偵察に使われるんだ」
 今度は二体のアイスドールが呼び出される。
 呼び出された二体は壁に向かって走り出した。
 見た目に寄らず足は速い。そして壁に到達したアイスドールは丸い手足を壁にくっつけてよじ登り始める。
 耐久性こそないものの、身体能力自体はそれなりに高い。
 特に速度に関しては格闘家並みの速度を持っているようだ。
「という訳で具体的な話をしよう。君たちにはこの『雪』を使ってこの演習場の防衛を行ってもらう」
 戻ってきた二体のアイスドールが手を繋ぎその場でぐるぐるとダンスを踊るように回りだす。
 かなりコントロールが効くらしい。
 臨機応変な行動をとることも可能だろう。
「僕はこれからこのアイスドールを……そうだな、一人頭50体くらいにするか。勝利条件はこのアイスドールたちから制限時間一杯旗を守ること。もちろん迎撃に際してドールを破壊してもいいし、制限時間内にドールをすべて破壊できれば特別報酬を用意すると約束しよう」
 その言葉に生徒たちが囁き合う。
 いくら弱いとはいえ、すばしっこいアイスドールの大群に雪崩込まれれば、数の暴力であっという間に押し込まれてしまうだろう。
「もちろん君たちには準備時間を与えるつもりだ。午前中はこの拠点に防衛陣地を作ってもらう。昼食を挟んだ休憩後に演習開始だ。魔法や技能を駆使して頑強な要塞を作ってくれたまえ。ただし、すべては『雪』を加工して使用すること。これはドールへの迎撃にも適応される。今回君たちはドールに対しての武器や魔法、技能の使用は禁止だ。すべては雪を用いて戦うように」
 ニルバルディは歩きながら指をふるふると降り始めた。
「火をくべれば溶けて水になる。風に巻けば煙幕になる。土で踏み固めれば何よりも硬い岩になる。やりようはいくらでもある。技術と知恵、チームワークを駆使して最高の要塞と罠を作ってみてくれよ?」


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2021-01-18

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2021-01-28

登場人物 3/8 Characters
《ゆう×ドラ》シルク・ブラスリップ
 エリアル Lv17 / 村人・従者 Rank 1
「命令(オーダー)は受けない主義なの。作りたいものを、やりたいように作りたい……それが夢」 「最高の武具には最高の使い手がいるの。あなたはどうかしら?」 #####  武具職人志願のフェアリーの少女。  専門は衣服・装飾だが割と何でも小器用にこなすセンスの持ち主。  歴史ある職人の下で修業を積んできたが、閉鎖的な一門を嫌い魔法学園へとやってきた。 ◆性格・趣向  一言で言うと『天才肌の変態おねーさん』  男女問わず誘惑してからかうのが趣味のお色気担当。  筋肉&おっぱい星人だが精神の気高さも大事で、好みの理想は意外と高い。 ◆容姿補足  フェアリータイプのエリアル。身長およそ90cm。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《静止時空の探求者》ディートハルト・イェーガー
 カルマ Lv9 / 賢者・導師 Rank 1
僕は、ディートハルト・イェーガー(Diethard・Jäger)と、 申します。よろしくお願い致します。 正式名称があるのですが、一応伏せておけと言われまして… 父さんの亡くなったご子息の名称を名乗らせて頂いてます。 父さん曰く、調査依頼を受けた遺跡の隠し部屋で 休眠中の僕を発見、再起動しました。 父さんはあの通り小さな方なので…起きなかったらどうしようかと思った、と。 再起動したのは2019年5月21日です。 …本来、既に有事以外で再起動しない筈でした。 そして自由意志なぞ、僕にはなかった筈なのですが… …いえ、この様に再起動したからには、父さんのお役に立ちたいと思っております。 ですが、その父さんが2020年2月から調査依頼に出たきり 音沙汰がなくなりまして… 安否確認に来ましたら、何故か入学していました。 表面上は言葉と表情は柔らかく、にこやかに対応する。 いわゆる営業スマイルであり、実際に喜怒哀楽などの感情は持ち合わせていない なので、内面ではどの様に対応すればよいのか、と観察と試行錯誤を繰り返してるのでよく営業スマイルで止まっている。 ヒトって突飛ですね…と、学園長を見て零す日々。 『父さん』 ジークベルト・イェーガーのこと 本人的には義理親子よりも主従関係の方が認識し易いと言うが 異世界遺物の可能性やジークベルトの役に立ちたいという意思と ジークベルトの主人と呼ばれる忌避感から養子縁組で落ち着いた

解説 Explan

 学園内演習場での拠点防衛演習の授業です。
 「雪」が降り積もった演習場で、雪を利用した拠点の構築を行い、雪を利用しての戦闘を行ってもらいます。

 直接武器や魔法、スキルを敵にぶつけるのは禁止ですが、雪を加工するのに利用するのはオーケーです。
 氷にして固くしたり鋭くしたり、熱湯にしたり、その他いろいろと加工し利用してください。

 拠点中心のフラッグを制限時間中守りきれば演習は成功になりますが、人数×50体の迫るアイスドールをすべて倒せば追加評価と報酬が得られます。

 スキルを駆使して要塞を作りますが、昼休憩を挟みますので午前中に消耗したたいりょく・まりょく等はエピソード開始時点まで回復した状態で戦闘が始まります。


作者コメント Comment
皆様、ごきげんよう。
プレイヤーの皆さま初めまして、SHUKAと申します。

今回は季節を意識した学園エピソードを用意させていただきました。

お互いを知る意味でもぜひともこのエピソードに参加いただければと思っています。

純粋な戦闘だけでなく、知恵比べの部分もありますので、プレイヤーの方々のどんな発想が見られるかが今からとても楽しみです!

皆様の参加をとても楽しみにしております!


個人成績表 Report
シルク・ブラスリップ 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●方針
旗を守りつつアイスドール迎撃。
150体は…ちょいと厳しいかしら?

●事前準備
アイスドールの性能…どれくらいのダメージで壊れるか『魔物学』でおさらい。


●行動
午前中メイン。
まずは基本的な陣地設営と合わせ、主戦場と定めた位置への【防具適合I】を全員に。
旗はできる限り陣地の奥の高台に、できれば衝立をおいて設置。

罠は燃えやすい藁などをスネアトラップと共に進行ルート複数個所に敷き詰め

午後の戦闘開始後は『投擲技術』で早めに攻撃開始。

藁の罠はドールが差し掛かったら『オクタルヴァ』を火属性で発砲して順次着火。
高熱で溶解を狙うと同時、旗への接近を阻む壁にしていく。

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
雪で拠点を作って雪合戦か………

色々考えるとしよう

まずは事前調査、説得、会話術で多方向からのドールのスタートは禁止、ドールが作った雪玉での攻撃は禁止など追加のルールを認めて貰おう
このままだとそちら側が有利すぎる


防御拠点、魔王の空間、設計、罠設置で拠点構築
旗からある程度離れた場所に壁を作る
壁の外側には空堀
躓く位の小さな穴をそれなりの数作って置こう
転けて自滅してくれれば儲けものだな

遠距離攻撃用に雪玉を近接用には氷の大鎌を作っておく

演習時は壁を乗り越えようとしているドールに雪玉を投げつける
近づかれたら氷の武器で攻撃
視覚強化、精密行動を使用できるなら使用

他の作戦があるなら協力する

アドリブA、絡み大歓迎

ディートハルト・イェーガー 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
周辺の雪をシャベルとそりで一か所に集めます
ヒト族が簡単に手の届かない所に守るべき物を置くのがセオリーだと聞きました
雪は踏み固めるのも有効ですが、固めた雪に水をかけると更に硬く固まるとも聞きました
表面をなるべくなめらかにして水をかければ滑りやすくなるでしょう…ゴーレムにどこまで効くか判りませんが

あとは…武器に使ってよいのも雪なんですよね?
とりあえず、雪玉を沢山作って…石入りでも作ります?

演習では雪だまりに行けば埋まる危険性がありますし、基本固定砲台ですかね…

リザルト Result

「そろそろ演習時間ですね……あっ、彼が戻ってきましたよ」
 昼食後、演習場の真ん中に構築した氷の砦の上で、見張りをしていた【ディートハルト・イェーガー】が演習場に入ってくる【ニルバルディ・アロンダマークォル】の姿を視認する。
「ディートハルト、見張りありがとう。お陰で体を温められたわ」
「いえ、これくらいお安い御用です」
 【シルク・ブラスリップ】のねぎらいにディートハルトは柔和(にゅうわ)な笑みを返す。
 彼は演習場の入口で立ち止まり、こちらを眺めて感嘆しているようだった。
 まるで観光地で立派な建物を前にした観光客のような姿にシルクは満足感を抱く。
 この氷の砦は彼女が設計したものだ。
 一見シンプルだがセンスのよさを感じさせる、職人としての将来を期待させる光景を目の前に作り出している。
 砦は内外には旗を隠せるほどの大きさのかまくらが数多く用意されていた。
 まさか砦の外のかまくらに隠しているとは思わないだろうが、少しでもそちらに意識が向いてくれれば儲けものだろう。
 そしてこの短時間でこのような砦を作り上げられたのは、同じく演習に参加している【仁和・貴人(ニワ・タカト)】やディートハルトがシルクの設計を理解し、協力して構築したからである。
 特に貴人はシルクの設計をしっかりと理解すると、様々な仕掛けを効率よく配置し、より守りの堅い砦へと改修した。
 砦の周りに堀を掘ったり、罠の効率のいい設置を行ったり。
 その熟練のやり方はシルクも舌を巻くほどだ。
 将来の魔王城がどうのと呟いていたような気がするが、きっと目的意識の高さがここまで技術を高めたのだろう。
「それじゃあディートハルト、この場所の守りはよろしくね」
「ええ、お任せくださいませ」
 ディートハルトはまるで執事のような姿勢の良さで、出撃するシルクを見送る。
 彼はこの砦上から、壁を這い上がるアイスドールを迎撃する役目を担っている、守りの要(かなめ)なのだ。
 シルクは砦の淵から飛び出すと、自らの愛銃『オクタルヴァ』を構えながら滑空するようにニルバルディとの距離を詰めていく。
 それと同時に演習時間となった。

 正面のニルバルディが足元に魔法陣を作り出し、150体のアイスドールたちを召喚した。
 そして彼は迷わず全部のアイスドールを突進させる。
「いきなり全軍突撃だなんて……ふふっ、あたしたちも舐められたものね」
 その大胆さにシルクは一瞬面食らうも、打合せ通りにオクタルヴァの銃口を地面に向けて放つ。
 使用する魔法石は『火』属性。
 赤い魔法の弾丸はアイスドールの前方に着弾、それと同時に炎の壁が立ち上った。
 予め薬品を染みこませ、着火と同時に燃え上がるようにした地面。
 アイスドールたちは予想通り炎の壁を避けた動きを見せる。
 だが先頭数体が唐突に転倒した。
 逃げた先に仕掛けられていたのはスネアトラップ。
 その細くも鋭い糸に足首から切断されたアイスドールたちは転んでもがくしかない。
 予め平地を凸凹にし、そこに罠を用意していたのだ。
 それはアイスドールを走りにくくする効果もあり、その機動力を削っている。
 後続のアイスドールたちは転んだ個体を踏み台に前進を続ける。
 と、炎の壁に向かって突進するアイスドールの集団が現れた。
 一カ所に雪を投げ込み炎の勢いを弱めると、突進して強引に突破を始めたのだ。
「そこから抜けていくの――!?」
 驚くシルクにニルバルディの柔らかくもよく通る声がかかる。
「『水属性は火属性に強く、雷属性に弱い』。この罠も悪くないんだけど、魔法の基本特性にも意識を向けてみよう」
「しまった! あたしの雷を使っていれば……!」
 氷も水属性だ。
 いくら脆(もろ)いとはいえ、アイスドールにも火耐性は存在する。
 確かにもしも電撃トラップの設置だったならドールの制御を奪った上、瞬時にその体を砕いていただろう。
 そうすればニルバルディも迂闊(うかつ)にはドールを突っ込ませることが出来なかったはず。
 砦作りに集中してしまって、基本が抜けていたなんて……。
 スネアトラップを迂回され、計画よりも多くのアイスドールが砦へと押し寄せる。
 十数体のアイスドールが粘土細工のように連なり堀に橋をかけると、その上を通ったアイスドールたちが次々と壁を登り始めた。
 一斉に這い上がられれば抑えきれない。
 だがその動きは鈍重(どんじゅう)だった――。
 まるでカメのようにゆっくりとした動きで、慎重に壁を登っていく。
 説明でのデモンストレーションの時より、大幅に速度が落ちている。
 そこに頭上から雪玉が叩きつけられ、一体また一体とアイスドールが堀へと叩き落される。
 体を割られたアイスドールは堀で溺れてただ漂うのみ。
「どうやら壁に水をかけたのは効果があったようですね」
 そんなアイスドールたちの様子をディートハルトは壁の上から見下ろし、安堵の声を漏らした。
 固めた氷の壁に水をかけてさらに硬く、滑りやすくしたのだ。
 知識としては知っていたが、実際どこまで効果があるかはやってみなければ分からなかった。
 堀の前にアイスドールが密集する。
「――貴人! 今よ!」
「さぁ、アイスドール共。おやすみなさいの時間だ」
 そして半数近くが壁に差し掛かった頃、唐突に一つのかまくらの中から飛び出してくる影があった。
 ここまでまったく姿を見せなかった貴人である。
 彼はスコップの先端に加工した氷で作った鎌を担ぎ、アイスドールの集団を背後から奇襲する。
 しんがりのアイスドールたちが貴人へと反転する。
 それを貴人は軽やかな動きで捌(さば)いた。
 二段ジャンプの技能による中空を蹴る変則的な動きに、目の前で盾を展開してのガード。
 貴人は黒い装束と合わせてまるで死神のように、次々とアイスドールの首を刈り取っていく。
 荒削りだがセンスを感じさせるいい戦いを見せていた。
「貴人、背後に回り込まれているわ。相手は素早いんだから気をつけなさい」
「さすがに数が多すぎるな。引き続きカバーを頼む、ブラスリップくん」
 そして死角を上空から俯瞰(ふかん)するシルクが雪玉でカバーする。
 またシルクは壁に向かっても雪玉を投げ、ディートハルトの撃ち漏らしたアイスドールを叩き落していた。
 下では貴人が、上ではディートハルトが、空を飛べるシルクが臨機応変に動き、両者のカバーに入る。
 前後上下からの包囲の形が出来上がった。
 このまま粘れば間違いなく旗は守りきれるだろう。
 いや制限時間内に全てを倒しきるのも十分に可能だ。
 だが、状況は唐突に変化を見せる――。
 突然貴人が右足を取られたのだ。
「――これはスネアトラップ!? なぜこんなところに!?」
 もしも演習前にシルクに防具の強化をして貰っていなければ、足に大怪我を負って動けなくなっていただろう。
 足の痛みを堪えつつ、貴人は鎌を振るう。
「環境は利用するだけ利用する。それは僕にも言えることだからね」
「こっちのトラップを回収して仕掛け直したのか……!」
 右足を庇うその動きは先程よりも重くなってしまっていた。
 ニルバルディはじっとこの瞬間が訪れるのを、手ぐすねを引いて待っていたのだ。
 あとは残党を倒すだけ――そんな油断が生じていた。
 こちらを気持ちよく戦わせて罠の場所へと誘い出す。
 ここに来て実戦経験の差が形勢の逆転を許してしまったのである。
 さらに追い打ちとばかりに地面の凹みに隠れていたアイスドールたちが姿を現すと一斉に貴人へと飛びかかる。
 トラップを隠すための地面までもが逆に奇襲に利用された。
 貴人はアイスドールたちに押さえ込まれる。
「いつの間にこちらから!?」
 さらに砦の壁の上でも状況が変わっていた。
 壁を背後から登ってくる勢力――別働隊がいたのだ。
 ディートハルトは慌てて迎撃する。
 もちろん屋上にも罠はある。
 炎の壁で侵入を阻止、スネアトラップも利用し雪玉で迎撃する。
 だが火属性に耐性のあるアイスドールは脆(もろ)いとはいえ、すぐには壊れない。
 数で押し切られれば旗を奪われかねない。
 そうこうしているうちに、前方からもアイスドールたちが上がってくる。
「ごめん、向こうに加勢するわ。あとで埋め合わせはするから」
 シルクは申し訳なさそうに手を合わせながら貴人に呼びかける。
「気にするな。オレでも同じ判断をする。まあ後でジュースでも奢ってくれ」
「ええ、購買部の熱々肉まんもつけてあげるわ」
 こうなってしまってはもう貴人をおとりにせざるを得ない。
 彼の救出にもたついていれば、その間に旗は奪われてしまうだろう。
 急いで加勢に向かわねば――そう思考したとき、轟音が演習場に響いた。
 その突然の事態に、シルクたちだけでなくニルバルディも刮目(かつもく)する。
 砦の壁の前に雪柱が立っていた。
 ディートハルトが壁からダイブしたのだ。
 前方から上りつつあるアイスドールたちを巻き込みながら堀へと飛び込んだ。
 堀から這い上がるように姿を現したディートハルトは、落下の衝撃などものともしない様子で次の瞬間には駆け出していた。
 そして罠をも気にせずに直進、彼を取り押さえようとしたアイスドールたちはその重量の前にことごとく跳ね返され、砕け散っていく。
 まさに走る戦車、勢いのついた彼は誰にも止められない。
「あれはまあ……一応攻撃ではないな、うん」
 苦笑を浮かべるしかないニルバルディ。
 それは生物には決して成し得ない、体の重量と無痛がなせる力業だった。
「今救助しますね」
 ディートハルトはアイスドールの群れの中から貴人を引きずり出すと、シルクの援護を受けながら近くのかまくらへ退避する。
 そして魔法薬生成キットで作っていた治療薬を貴人に飲ませる。
「申し訳ありません。持ち場を離れてしまいました」
「いや、それはいいのだが……」
 思わぬ事態に呆ける貴人。
 しかしそれもディートハルトのボロボロな体を見るまでだった。
「オレよりイェーガーくんの方が重症に見えるが?」
「僕なら問題ありませんよ」
 怪我などなんともないと言わんばかりに微笑む。
 だが貴人は気づく。
 それは優しさでもなんでもないのだと。
 彼は本当に痛みを感じていないのだ。
 だから痛みを恐れない。自分の機能をただ十全に活かそうとする。
 その痛々しい姿に、貴人の中で何かのスイッチが入った。
「くっくっく……未来の魔王であるこのオレを、随分とコケにしてくれたものだ、キサマら……!」
 にやり――その覇気は人外の片鱗か?
 かまくらを飛び出した貴人は鎌でドールを薙ぎ払い、スネアトラップを切り飛ばす。
 高まった集中力が貴人の動きを洗練させる。
 刃は鋭く、動きは音もなく、潜在能力を引き出した彼の動きは速かった。
「ブラスリップくんは旗を!」
「もう向かってるわ!」
 背後から壁を登りきった一体のアイスドールが今まさに旗のあるかまくらへと入ろうとしていた。
 すべての罠も発動済み。足止めもない。
 シルクも離れた距離で、ここからでは雪玉が届かない。
「こんなのあたしのキャラじゃないんだけれど。……このまま、やられっぱなしで終わらせはしないわよ!」
 オクタルヴァを構える。
 不意にニルバルディの言葉がシルクの頭を過ぎる。
『水属性は火属性に強く、雷属性に弱い』――。
 頭よりも先に手が動いていた。
 元々オクタルヴァは雷の弾丸を発射するように作られた銃だ。
 意識などせずとも、その扱い方は体がしっかりと覚えている。
「――当たって!」
 照準を合わせる時間もない、直感頼みの発砲。
 雷の弾丸は吸い込まれるように炎の壁によって溶かされた池の中へ。
 池に雷撃が奔(はし)り、かまくらに差し掛かっていたアイスドールが砕け散る。
「そこまで!」
 同時、ニルバルディの声がこの場にいるすべての者の動きを制した。
 貴人とディートハルトも壁下のアイスドールを全滅させていたのだ。
「お見事。制限時間内にアイスドール150体の全滅。文句なしの……とは言い難いが、合格だ」
 疲れてぐったりとする三人の前でニルバルディは満足げに微笑む。
「各自今回の反省を踏まえて更なる精進をしてくれよ。全撃破の特別報酬も含めて依頼の講師に預けてあるから、あとで受け取りに行ってくれ。またキミ達と会えるのを楽しみにしているよ」
 今回は現場の洗礼を浴びせる演習となった。
 それと同時に新たな伸び代も垣間(かいま)見られた。
 やはり彼らは将来有望だろう、そうニルバルディは講師に報告するのだった。



課題評価
課題経験:55
課題報酬:1500
冬季、雪合戦演習!
執筆:SHUKA GM


《冬季、雪合戦演習!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《ゆう×ドラ》 シルク・ブラスリップ (No 1) 2021-01-12 21:08:11
村人・従者コースのシルク。よろしくー。

あたしはサイズ的にドンパチやるのは厳しいし、
準備と搦め手中心で動こうと思うわ

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 2) 2021-01-13 06:51:13
魔王・覇王コースの仁和だ。

オレも基本的に力を入れるのは防衛陣地の作成だな。
演習中はさて、どうしようか・・・

《ゆう×ドラ》 シルク・ブラスリップ (No 3) 2021-01-15 19:28:32
貴人、よろしくー。

そうねぇ、ちょっと今の参加状況だと演習中の事も考えないとまずいわね。
真っ向勝負は難しいし、攻撃で誘導して落とし穴とかトラップにはめていく感じになるかしら?

《静止時空の探求者》 ディートハルト・イェーガー (No 4) 2021-01-16 21:24:03
賢者・導師コースのディートハルトと申します。よろしくお願いいたします。

……雪で拠点生成、のちに拠点防衛演習、でよいのでしょうか

守るべき旗は、高い所に設置する、でよろしいでしょうか?

《ゆう×ドラ》 シルク・ブラスリップ (No 5) 2021-01-16 23:21:45
よろしく、ディートハルト。

流れはそんな感じでいいと思うわ。
ドールは歩行移動で飛び道具も内容だし、旗は高所というのもありね。
(準備半日だし、あんまり高台にはできなそうだけど…)