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SHUKA GM 

皆様、ごきげんよう。
SHUKAと申します。

この度は「ゆうしゃのがっこ~!」のGMに参加させていただきありがとうございます!

普段は会社員をやりながら、小説の執筆やYoutubeでの小説レビュー・ゲームプレイ動画の配信などをしています。
この学園でも楽しいエピソードをお届けできるよう頑張りますので応援よろしくお願いいたします!

担当NPC


メッセージ


作品一覧


冬季、雪合戦演習! (ショート)
SHUKA GM
 季節は冬の真っただ中。  昨日記録的な大雪に見舞われた屋外演習場は未だ雪かきもされておらず、真っ白に染め上げられている。  そんな演習場に生徒たちが集められていた。  生徒たちの前には一人の細身の男が立っている。 「やあ、僕の名前は【ニルバルディ・アロンダマークォル】、ここの卒業生で冒険者として現場でバリバリ働いている超優秀なお兄さんだよ。おっとそこ、おっさんなんて言ったら首と胴体が離れることになるから注意しようね。これでも僕はギリギリ二十代なんだ」  講師の男は朗らかに笑う。  腰に提げた双剣、体のラインが分かる身軽そうな服装。  切れ長の目と整った顔立ち、細身ですらりと背の高い彼は、忍者や暗殺者を思わせる雰囲気を醸し出している。 「先輩……いや、今は講師だったね。その人の紹介で今日は遊……ゲフン、特別講師として招待された。今回君たちの実戦演習を担当させてもらうよ」  そのひょうひょうとした態度とは裏腹に、武芸に通じている者であれば油断ならない気配を敏感に察知することだろう。  ここの卒業生で講師の友人、さらには現役の冒険者としても活躍しているのだから、その経験も技能もかなりのものに違いない。 「君たちはとても優秀な学生だと彼女から聞いているよ。今日は存分に君達の実力を……と思ったんだけどね」  そこでニルバルディは周囲を見渡して苦笑を浮かべ両手を広げた。 「こうも雪が降り積もっていては演習どころじゃないね。いやまあ雪の除去を待ってもらうよう頼んだのは僕なんだけど。せっかくだし、今回君たちには特別な演習を用意したかったからね。このままにしておいてもらったよ」  そう言うとニルバルディは一本の大きな旗を用意し、演習場のど真ん中に突き立てた。  軍隊が拠点に立てるような背の高い旗で、そこには学園の校章が描かれている。 「君達にはここで雪合戦をしてもらおう」  ざわりと周囲がざわめいた。  雪が降ったんだからレクリエーションでも行おうというのだろうか? 「まさかとは思うけど、勇者を目指そうという君たちが雪を丸めて投げ合うようなキャッキャムフフな青春の一コマを思い浮かべていたりなんてしないよね?」  圧のあるにこやかな笑みに一部の生徒が目を逸らす。  一方で初めからその意図に気づき、力強く頷き返す生徒もいた。 「君たちはこれまでの学園生活で様々な経験を積み、技能を習得している事だろう。だが時にはその力を万全に振るえない環境だって存在する。状態異常然り、周囲の天候や地形然りだ」  そこでニルバルディは指を立ててくるくると回しながら歩き出した。 「だが考えてもみたまえ。逆にそれらの周囲に存在するものをとことん利用して状況を有利に運べられたらどうだい? どんな状況でも環境を味方につける。それくらいの気概をみんなには見せてほしいと思っているんだ」  唐突にニルバルディはパチンと指を鳴らした。  すると彼の足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから一体の雪の人形が姿を現す。  大きさは彼と同じくらい。  粘土細工のようなぐにゃぐにゃとしたもので、両手をぶらんぶらんとさせている。 「こいつの名前はアイスドール。見ての通り雪を人の形に固めて操る簡易の分身魔法だ」  ニルバルディは短剣の一本を引き抜き軽く薙ぐ。  それだけでアイスドールは雪塊となり、ボロボロと崩れ去ってしまった。 「見ての通りアイスドールは脆い。武器で攻撃すれば簡単に崩れ去ってしまうデコイで、主にトラップ探知や偵察に使われるんだ」  今度は二体のアイスドールが呼び出される。  呼び出された二体は壁に向かって走り出した。  見た目に寄らず足は速い。そして壁に到達したアイスドールは丸い手足を壁にくっつけてよじ登り始める。  耐久性こそないものの、身体能力自体はそれなりに高い。  特に速度に関しては格闘家並みの速度を持っているようだ。 「という訳で具体的な話をしよう。君たちにはこの『雪』を使ってこの演習場の防衛を行ってもらう」  戻ってきた二体のアイスドールが手を繋ぎその場でぐるぐるとダンスを踊るように回りだす。  かなりコントロールが効くらしい。  臨機応変な行動をとることも可能だろう。 「僕はこれからこのアイスドールを……そうだな、一人頭50体くらいにするか。勝利条件はこのアイスドールたちから制限時間一杯旗を守ること。もちろん迎撃に際してドールを破壊してもいいし、制限時間内にドールをすべて破壊できれば特別報酬を用意すると約束しよう」  その言葉に生徒たちが囁き合う。  いくら弱いとはいえ、すばしっこいアイスドールの大群に雪崩込まれれば、数の暴力であっという間に押し込まれてしまうだろう。 「もちろん君たちには準備時間を与えるつもりだ。午前中はこの拠点に防衛陣地を作ってもらう。昼食を挟んだ休憩後に演習開始だ。魔法や技能を駆使して頑強な要塞を作ってくれたまえ。ただし、すべては『雪』を加工して使用すること。これはドールへの迎撃にも適応される。今回君たちはドールに対しての武器や魔法、技能の使用は禁止だ。すべては雪を用いて戦うように」  ニルバルディは歩きながら指をふるふると降り始めた。 「火をくべれば溶けて水になる。風に巻けば煙幕になる。土で踏み固めれば何よりも硬い岩になる。やりようはいくらでもある。技術と知恵、チームワークを駆使して最高の要塞と罠を作ってみてくれよ?」
参加人数
3 / 8 名
公開 2021-01-09
完成 2021-01-27
お猿温泉街を救え! (ショート)
SHUKA GM
 学園から数日かかる場所にあるとある温泉街。  そこの観光名物はなんといっても『お猿』であった。  地元では『ピンポンモンキー』と呼ばれる魔物で、他の地域では手先が器用で畑に仕掛けた罠を潜り抜けて農作物を荒らす嫌われ者たちだ。  そんな彼らも、この温泉街では立派な観光名物の一つとなっている。  街の傍にある小さな山は豊かな森が広がり、果実や葉っぱなど食料が十分にあること――。  観光客による餌付けで彼らが人間慣れしていること――。  そして源泉で鳥の卵をゆでたり、人と共に温泉に入る彼らがとても愛らしいこと――。  そんな彼らは老若男女に愛されていた。  しかしそんなピンポンモンキーたちの様子がここのところおかしい。  普段なら夜になると山にある住処へと帰っていく彼らが全く居なくなる気配がない。  なにかを恐れるように空き家や建物の隙間に身を寄せて小さくなって固まっている。  そのせいか皆どこか気が立っていて、観光客の中には噛みつかれたりひっかかれたりという被害を受けた者も現れ始めた。    行商人や冒険者からの噂では、山につがいの『大きな鳥』の姿を見かけるようになったという。  木に残された爪跡から恐らくは『鉤爪(かぎづめ)ワシ』なのではないかと。  鋭い急降下で獲物の肉を鋭くえぐり、そのままかっ攫(さら)う森のハンター。  警戒心が強く、敵わないと思った相手の前には決して姿を見せない。  どうやら二羽の鉤爪ワシは新たに山を根城と定めたらしい。    鉤爪ワシはピンポンモンキーだけでなく、人間の子供まで喰らう凶暴な肉食の魔物である。  時には自分の図体以上の大きさの獲物すら運んでしまう強靭な飛行能力を持ち、狩りをして生活をする空飛ぶ猛獣と呼ばれている。  繁殖期になると餌が豊富な土地を求めて移動する習性があり、今回はこの温泉街の山が狙われたのだろう。  今のところはまだ大きな被害こそ出ていないものの、もしこのまま放置していれば温泉街に逃げこんだピンポンモンキーを追って鉤爪ワシまでもが温泉街に現れ、大きな被害が出てしまう。  繁殖で数が増えれば壊滅的な被害を受けるかもしれない。    このままではこの街の観光業が成り立たなくなってしまう。  こうして温泉街の者達は学園に調査と鉤爪ワシの退治を依頼することとなるのだった。
参加人数
3 / 8 名
公開 2021-02-14
完成 2021-02-28
募集! うちのペット自慢! (ショート)
SHUKA GM
 犬派、猫派――。  それは永遠のテーマである。  老若男女、地域や国を問わず。  世界を超えた永遠の命題であり、その争いは未来永劫尽きる事はないだろう。  犬を超えし忠誠はなし。  猫を超えし愛嬌はなし。  さあ語ろう! 語りつくそう!  己の信念の赴くままに。  さあ歌おう! 踊り明かそう!  己の感情の赴くままに。  ビリビリビリビリ……! 「いきなりなにするんですか! ユリさん!」 「それはこっちの台詞よ。あなた、数年後に悶え死にたいわけ?」  購買部の主【ユリ・ネオネ】は無表情の冷静な顔でアルバイトの【ニノ・キビス】の目の前で、彼女が持ってきたポスターを真っ二つに引き裂いた。  ユリはあえて感情を押し殺した口調で淡々とニノに訊ねる。 「それで、どうしてこんな犬派と猫派の対立を煽るような謳い文句を書いたのかしら?」 「はい、キャンペーンです! この前からこの購買部で学生に『ペット』を斡旋(あっせん)するようになったじゃないですか。少しずつ学生寮でペットを飼う人も増えてきましたし、ここいらでドドーンと飼い主さん達の声を学園の皆さんに届けようと思いまして」  ニノは敬礼を返す軍人のようなよく通る声ではきはきと答えた。  するとユリの口もとがわずかに緩む。 「それはいい考えね。けれどそもそもウチで斡旋しているのは犬と猫だけではないでしょう? その辺りはどう考えているのかしら?」 「うっ、それはですね……」  ユリの問いかけにニノは言葉を詰まらせてしまった。  購買部では犬や猫の他にも、『グリフィン』や『カウンタッグ』、『フクロウ』などの生き物の斡旋も行っている。 「普通にお茶会を開いてみてはいかがかしら? その中でペットを飼っている学生同士で交流したり、飼っていない生徒にペットと触れ合ってもらったりすればそれで十分でしょう?」 「そうですかねえ? 私としてはもっと派手に盛り上げたいのですが……」  ニノは首をかしげながらも一応は納得を示す。 「中には依頼で同伴させ、活躍させた生徒達もいると聞くわよ? この場で情報共有を行うことで、そういった話が広まるだけでも十分に意義はあると思うのだけれど?」 「それもそうですね! それじゃあ校庭でのお茶会にして、ペットたちとも自由に触れ合えるようにしましょう! そうと決まれば早速新たなポスターを……!」 「紙の無駄遣いだからやめなさい」  元気よく走り出そうとするニノの襟首をユリががっと掴む。 「――グエッ!?」  細身で華奢な腕でありながら、存外力強くニノの首が締まった。 「それは私の方でやっておくわ。ポエムなんてばら撒かれたら購買部の恥晒(さら)しよ」 「ごほっ、ごほっ! ……ユリさん、そこまで言う必要ないじゃないですかあ」  涙目で抗議するニノだが、ユリのアイマスク越しの冷ややかな視線は有無を言わせない。 「あなたが働き者なのは素直に賞賛するわ。けれど今回あなたは会場の設営に専念して。いい? 絶対にポスターは作らないこと。それがあなたの身のためよ」 「な、なんですか!? ポスター作ったら私、死ぬんですか!?」 「ふふっ、きっと死ぬよりも辛い現実が待っているわ」 「ひいっ!?」  からかい半分、本気半分でユリはニノを諫(いさ)める。  そのにこりとした顔がかえって恐ろしい。  こうして学園ではペット同伴のお茶会が開かれるのだった。
参加人数
2 / 6 名
公開 2021-03-05
完成 2021-03-23
時の奇術師 ~森に張り巡らされた罠~ (ショート)
SHUKA GM
 ――瑞梨(みずり)、お前は必ず俺が……見つけ出す!  とある町の郊外に広がる森で、夜の静寂を引き裂くように悲鳴が上がる。 「ひいっ!? 助けてくれ! 俺はこの箱をただ運ぶように言われたただの運び屋なんだ!」 「冒険者ギルドにも商業ギルドにも登録してねえヤツが何言ってやがる。怪我したくなきゃ大人しくその箱の中身を見せろ。そうすりゃ危害は加えねえって約束する」  赤茶色の髪の中年男が尻餅をついている。  鼻先には長剣の先端が向けられており、少しでも逃れようと男はじりじりと後ずさる。  だが背後の木に行く手を遮られ、追い詰められてしまっていた。  男は胸に宝石箱を掻き抱き、顔面蒼白に震えあがっていた。  そんな彼に迫るのは中肉中背の黒髪の青年。  年齢は二十前後だろう。  どこにでもある革鎧に長剣という旅人風の装いをしている。  しかしその隙の無い立ち居振る舞いは高ランクの冒険者を思わせる。  そんな彼は男に言い聞かせるよう、ゆっくりと語り掛ける。 「俺はその箱の中身を確認する。それからお前は空箱を持ってそのまま取引現場へと向かう。……安心しろ、俺がお前を守ってやる。お前はただ取引相手に気取られないよう振る舞えばそれでいい」 「そ、そんな真似できるか! んな真似したら殺される!」 「んじゃここで死んどくか? 俺は別にこの場でその箱を奪ってもいいんだぜ」  言葉と同時に殺気が男を射抜く。  その威圧を受けた男は口をぱくつかせ、空気を求めるようにあえいだ。 「わ、わかった! 命だけは助けてくれ!」  死を幻視した男は震える手で宝石箱を差し出す。 「それでいい。お前はそのまま動くな」  そう言うと青年は鞄から魔法陣が描かれたスクロールを取り出し地面に広げると、宝石箱をその中心に置く。 「開錠は……魔術トラップは大した事ねえな。これならすぐにでも――っ!」  スクロールに魔力を込めながら淡々と開錠作業をしていた青年だったが、突如として飛びずさった。 「おいっ、お前! 今すぐここから逃げ――!」  青年は木の根元に座り込んでいる男に呼びかける。  だが男は目の焦点が定まらないまま虚空を見つめていた。  宝石箱と男を繋ぐように魔力が結びつく。  同時に男の肉体が溶けて箱へと吸い込まれた。 「まさか、この男を触媒にした召喚魔法か!? 正しい手順を踏まないと発動するトラップ……いや、初めからもうこの男は……」  使い捨てだった。  初めから箱の中身の生物を召喚するために、肉体に魔術式を刻み込まれていた。 「つまりこれは最初から罠だったって事か、くそっ!」  青年は歯噛みする。  そんな思考をしている間に、目の前の宝石箱は光を放ち破裂する。  すると中から複数の獣の影が飛び出してきた。  青年は長剣を構え、油断なく呼び出された獣たちを観察する。 「カースドウルフ……それも6体とは念の入ったことだな」  黒い瘴気を纏った異形の狼が姿を現す。  この世の摂理から切り離された世界を害する獣。  前準備がなければ歴戦の冒険者パーティーでも苦戦を強いられる強力な魔物が複数体同時に目の前に立ち塞がる。  獣は青年を取り囲むと、本能に突き動かされるかのように一斉に襲い掛かって来た。 「――せあっ!」  裂帛(れっぱく)の気合と共に1体と切り結び、転がるように背後の木の陰へと体を滑り込ませる。  続く1体が木へと激突して弾かれた。  残り4体のうち2体が挟み撃ちするように襲い掛かってくる。  青年は長剣で1体の攻撃を受け止めるが、その背後からもう1体が青年の喉首めがけて大きく口を開く。  だがそれは紙一重のところで防がれた。  突如として頭上から飛んできた短剣がカースドウルフの上顎から下顎を貫き、地面に縫いとめたからだ。 「ニル、意外と帰りが早かったな」  青年は背後を振り返りもせずに言った。 「まあね。君が勝手に町を出たって連絡寄越すから。嫌な予感がして慌てて追いかけてきちゃったよ」 「大正解だ。絶賛罠のど真ん中だぜ」 「カズヤ、少しは申し訳なさそうにしてはどうなんだい? 信頼が厚すぎてお兄さん泣けてきちゃうよ」  音もなくニルと呼ばれた長身の青年が木陰から姿を現した。  【ニルバルディ・アロンダマークォル】――切れ長の目と整った顔立ちの彼は、彼の相棒である【稲葉・一矢(いなば・かずや)】の隣に並び、双剣を構える。 「誘拐された少女が運ばれていた可能性があった。お前の帰りを待ってる時間なんてなかったんだよ。結局誘拐は起こってなかったがな。それでいいじゃねえか」 「いやいや、毛深いけど彼女達はメスだよ。素体の問題かな? 5体……うち1体が手負いだね」 「そもそも異形の獣に性別なんてあるのかよ?」  二人は軽口を叩き合いながらも微塵も隙を見せない。  先程はニルバルディの存在に気づいた一矢があえて隙を作り、奇襲を成立させただけだ。  二人は周囲の状況を確認し、カースドウルフを倒す算段を立てる。  奇襲で1体を仕留められたのは大きい。  幸いここは障害物の多い森の中。  時間を掛ければ確実に獣たちを仕留められるだろう。  だが状況はそれを許さなかった――。 「――なっ、逃げやがった!?」  カースドウルフ達は一斉に踵を返すと立ち去ってしまう。 「僕達に恐れをなしたか……いや、町の気配に感づいたんだろうね。あっちの方が獲物は豊富だから」 「冷静に言うな! 追うぞ!」  あんな高レベルの魔物が複数町に飛び込んだならば大惨事だ。  二人は森を駆け抜けながら作戦を立てる。 「とにかく入り口を固める。町には絶対に入れさせねえ」 「そうだね。僕と君の二人がいれば町への侵入は防げるはずだよ」 「けどそれだけだろ。チィ、こんな時にあいつが……」  そこまで言いかけて一矢は口をつぐむ。  もう一人の冒険者パーティーメンバーで、彼の妹の顔が頭を過ぎる。 「大丈夫。実は人員にはあてがあるんだ」 「まさかギルドに依頼を出すつもりか!? もし事情を聞かれたらどうするつもりだ?」 「そうじゃない。『学園』に頼むつもりだよ」 「学園!? まさか……!」  一矢の頭に浮かぶのは自分達が在籍していた勇者育成の学園だった。  その想像を肯定するようにニルバルディは微笑みながら頷く。  二人は会話を交わしながらも息一つ乱れていなかった。 「うん、例の『鳥籠』をメメル学園長に届けたついでに話を通しておいたんだ。きっと上手い事動いてくれるはずだよ。それに今の学園には優秀な生徒が揃っているからね。もしかしたら僕らがいた頃より……ってこれは僕の願望が過ぎるかな?」 「なんでもいい。俺達だけじゃカースドウルフから町を守るので手一杯だ。手配はお前に任せる」 「了解。それじゃあ……」  そう言うとニルバルディは掌の魔法陣から白いハトを一羽呼び出す。  そして手早く書いた手紙を足に括りつけると、それを学園の方角に向かって飛ばすのだった。
参加人数
6 / 6 名
公開 2021-04-18
完成 2021-05-09
時の奇術師 ~切り取られた研究室~ (ショート)
SHUKA GM
 その日、部室棟が集まる敷地の一画にある魔術研究棟は静寂に包まれていた。  日中、それも学園が最も活気づく放課後の時間帯にもかかわらず、物音一つ立っていない。  周辺のいつも通りの喧噪の中で、その静けさが際立っている。 「なんですかね、これ?」 「なにかの悪戯ってわけではなさそうだな」  魔術研究棟を訪れた二人の生徒が顔を見合わせる。  中の様子に二人はただ戸惑うしかなかった。  まるで絵画を見ているかのように止まったまま何もかもが動いていない。  人が止まっているだけならまだ何らかの悪戯かとも思えるが、止まっているのは人だけではなかった。  生徒の手から滑り落ちた本が空中でピタリと動きを止めている。  発動中の水の魔術でさえ、そのままの状態で動きを止めているのだ。  いったいどれだけの力を籠めれば、こんな微動だにしない状態で魔術が維持できるのか。 「とにかくもう少し詳しく調べ……」  生徒の一人が中の様子をよく見ようと顔を近づける。  その瞬間、生徒の動きがぴたりと止まった。  その様子に隣の生徒がぎょっとする。 「おい、大丈夫か?」  そして肩を揺する隣の生徒もまた動きを止めてしまった――。 「これは、中の時間が止まっているのでしょうか?」 「いえ、本当に時間が止まっているのであれば光も止まり、中の様子は見る事が出来なくなるはずです」  それから少しして、異変に気付いた教師たちが研究棟に集まっていた。 「どうやらこの静止空間は少しずつ範囲を広げているようです。迂闊に近づかないよう気を付けてください」  髭をたくわえた老教師の視線の先では、建物の外で部活動に向かう生徒たちが歩く姿のまま動きを止めている。 「一定の範囲に近づくと動きを止められる。厄介なことにその空間は今尚広がり続けている、と」 「そういえば最近学園長が妙な『鳥籠』を持ち込んだそうですな。確か中に入れたものの時間を止める道具だとか」  若い教師たちが口々に言う。 「なにやら出来立ての料理を入れて遊……ゲフン、研究をされていたご様子でしたが」 「恐らく飽きて……こほん、解析に回したのでしょうが、何かトラブルがあったようですね」  それは【ニルバルディ・アロンダマークォル】により持ち込まれた魔術具だった。  組み込まれている魔術式や素材を解析して欲しいと彼がメメル学園長に依頼したものだ。 「とにかくこのまま放置していては学園全体の時が止まってしまうかもしれない。ここは全校生徒にも避難を呼びかけましょう。中には魔術に詳しかったり、素晴らしいアイデアを閃く生徒もいるかもしれません。有志を募って全校を挙げて解決に乗り出しましょう」  こうして学園の危機に対処すべく、教師たちは動き出したのだった。
参加人数
7 / 8 名
公開 2021-05-26
完成 2021-06-16
時の奇術師 ~破棄された裏工房~ (ショート)
SHUKA GM
「瑞理、誕生日おめでとう。ほらケーキ持ってきたぞ」 「ありがとう、兄さん」  学院の調理実習室の中心にあるテーブル席に【稲葉・一矢(いなばかずや)】が手作りした誕生日ケーキが置かれる。 「おめでとう、瑞理ちゃん!」 「お誕生日おめでとう、みずりん!」 「ありがとう! それじゃあみんなで歌おうか、さんはいっ!」  【稲葉・瑞理(いなばみずり)】は周りに呼びかけて歌を合唱してから目の前に置かれたケーキの蝋燭を吹き消した。  実習室中から次々とお祝いの声が上がる。  今日の実習室には大勢の生徒が集まっていた。  いずれも瑞理の友人たちだ。  天性の明るさで人当たりが良く、努力家の瑞理は交友関係がとても広い。 「んでどうしてお前がいるんだ? ニル」 「そりゃあ恋人の誕生祝いに彼氏がいるのは当然だろ? むしろなんで君がいるんだい?」 「家族が誕生日を祝うのは当然だろうが」 「なら未来の家族である僕がいてもなんら不思議じゃないよね? お義兄さん」 「誰がお義兄さんだ。ふん、今すぐここから叩き出してやろうか?」  ギロリ――。  一矢は不機嫌に鼻を鳴らすと、瑞理の隣に座る【ニルバルディ・アロンダマークォル】を睨みつける。 「ほんと一矢ってシスコンだよねえ」 「さすがにそろそろ妹離れしないと事案だよ? まあ可愛いのは分かるけどさあ」 「誰がシスコンだ。俺は家族として……」 「はいはい、お兄ちゃん。早くケーキ食べようねえ」  だが周囲の生徒たちは一矢を茶化し、あははと笑い声を上げる。 「もう、兄さんも座って。ただでさえ目つきが悪いんだから、むすっとしてたら損するよ。普段から笑顔を心掛けないとね」  にいっと笑みを作る瑞理に釣られ、周囲から再び笑い声が沸き上がる。 「――!!」  と、不意に一矢の眼光が鋭さを増した。  先程までのただ不機嫌だったそれとは違い、殺気を伴うモノだった。  刹那、澄んだ金属音が響いた――。  ケーキ数ミリのところで二つのフォークが交錯していた。 「でたな、G野郎。どこから湧いて出た?」 「おいおい、可愛い生徒の誕生会にどうしてオレサマを呼んでくれない? せっかく誕生日プレゼントも用意したってのにつれないじゃないか」  いつの間にか忍び寄っていたメメル学園長の伸ばしたフォークと一矢のフォークが擦れ合い、ガチガチと音を響かせている。 「ならプレゼントだけ置いてとっとと失せろ。そうしたら後でケーキだけは持っていってやる」 「おいおい、最近言動が益々乱暴になったんじゃないか。先生は悲しいぞ。ただでさえ目つきが悪いんだ。それで態度まで粗暴になったら人生ジ・エンドだぜ?」 「一体誰のせいだ。毎回毎回俺のケーキを狙いやがって。狙うのならニルのにしろ」  鍔迫り合いから互いに間合いを開く。  まるで短剣を構えるように、互いにフォークを手に隙を窺っている。 「いやいや、頼めばニル坊もみずちんも喜んでオレサマに献上するだろ? 奪うからこそ美味なんじゃないか」 「それが教職者の言葉か? このG野郎、人類を舐めんなよ!」  二つのフォークがまるで刃をぶつけ合うかのように、いたるところで火花と高音を散らす。 「あっ、これ魔法石だ。しかも私の杖に合うように魔術式がカスタマイズされてるよ」 「さすがは学園長だね。ここまで細密な組み上げなんて超一流の魔術師でもなかなか出来るものじゃないよ」  瑞理とニルバルディはメメル学園長から攻防の合間に手渡された誕生日プレゼントに目を見張る。 「さすがは一矢先輩。ケーキ作りの腕だけは超一流だよね」 「こういう時だけは先輩がシスコンで良かったって思うよね」  周囲の生徒たちも鋭いフォークの応酬をまるでそよ風のように気にも留めていない。  いい意味か悪い意味か、他の生徒たちはこれを日常の光景としてすっかり受け入れてしまっていた。 「くっ、またやられた……!」  数分後、雌雄は決していた。  無念そうに顔をしかめ、地面に這いつくばる一矢。  そして彼の背中に座り、満足そうにケーキを食べているメメル学園長。 「オマエのものはオレサマのモノ、オレサマのモノもオレサマのモノ~♪」  予めメメル学園長に用意されていた分を含め、二つのケーキが胃袋に収められる。 「やっぱメメたん相手じゃ学園の鬼神と呼ばれた兄さんも形無しだね。ニル、あーん」 「あむ……最初はお菓子作りだけが取り柄だった心根優しい少年が、どうして学年最強の剣士になったんだかねえ」 「そこ、さりげなくあーんしてんじゃねえ……!」  瑞理とニルバルディは生暖かい視線を倒れ伏す一矢に送る。 「……ニルか?」 「すまない、起こしてしまったかい?」 「いや、どうせ起きるタイミングだった。問題ねえよ」  微睡(まどろみ)の中、気配を察知し夢から覚めた一矢は椅子から立ち上がるとオーブンから焼き立てのケーキを取り出す。 「おっ、ケーキを焼いたの?」 「たまには作っておかねえと腕が鈍るからな」  瑞理の魔術工房。  元々パン工房だったこの家には大きな窯がある。  三人が拠点としているこの家は甘い匂いに包まれていた。 「それでなにか情報は手に入ったか?」 「うん、学園での鑑定結果を聞いて来たよ。鳥籠が解析中に壊れたとかで分解して隅々まで調べてくれたって」  ケーキを頬張るニルバルディの話によれは、一時的に鳥籠の魔術が暴走したらしい。  だがその場に居合わせた学園の生徒たちの活躍によって事態は収集されたという。 「鳥籠の金属成分に加工方法。それと魔法石の術式解析について。それぞれのルートから分析した結果、一つ有力な情報が得られた」 「有力な情報?」 「ゼドリのアトリエ、鳥籠の籠はそこで作られたらしい」 「聞いた事がねえな。裏工房か?」  一矢はそう言いながら旅支度を始める。 「うん、先日この国の男爵家がとり潰されたのは知っているだろ?」 「国外と魔術具の違法売買をしていたとかいう話だったな」 「その男爵家が運営していた裏工房が先日見つかってね。騎士隊が踏み込んだところ地下に巨大な研究施設が見つかったんだ。けれどその研究施設がどうも手に負えるような代物じゃなかったみたいでね、学園に調査依頼が出されたらしい」 「んじゃ学園の人間が入り込む前にとっとと調べておくか」  一矢は大剣を背中に担ぐと玄関へと向かう。  それをニルバルディは慌てて止めた。 「ちゃんと話は最後まで聞こうね。内部では凶悪な魔獣が脱走してダンジョンと化しているらしいよ。それに加えて魔獣の逃走防止用トラップまでが配置されている。迂闊に踏み込むと僕らがそれにかかりかねない。そのお蔭で外部には魔獣は逃げていないけれど、内部はあまりにも危険なんだよ」 「んなもん、まとめて叩き斬ればいいだけじゃねえか」 「それを本当にやってのけそうだから怖いね」  ニルバルディは苦笑を浮かべる。 「いや、今回は学園の生徒たちに任せるべきだと思う」 「瑞理の手掛かりがあるかもしれねえんだぞ。そんな悠長に待ってられるか」  一矢はギロリと苛立たし気にニルバルディを睨む。  だがニルベルディは飄々とその視線を受け流した。 「僕達は魔術や錬金術に関する知識に乏しい。そういうのは瑞理が担当だったからね。それに国が調査依頼を出している建物に無断で踏み込むのは冒険者として得策じゃない」 「チィ……わかってる」  一矢はドカッと椅子に座り直した。 「それに君も『彼ら』を知っているだろう? 彼らならきっとやってのけてくれるさ」  そう言うとニルバルディは窓の外、学園の方角へと視線を向けるのだった。
参加人数
5 / 8 名
公開 2021-07-09
完成 2021-07-30
時の奇術師 ~美術館の亜空結界~ (EX)
SHUKA GM
「ニル、お兄ちゃん、気を付けて。術が発動するまで魔力を全く感知できなかった。こいつ相当の手練れだよ」 「瑞理が罠を感知し損ねるなんてね。確かに相当厄介な相手だという事は間違いないようだね」  【ニルバルディ・アロンダマークォル】、【稲葉・一矢】、【稲葉・瑞理】の三人は学園の依頼で遺跡調査に向かう道中の森の中、唐突に襲撃を受けた。  三人が見上げる木の枝の上には、頬に歯車の意匠が施された銀色の仮面をつけた男が立っている。 「まんまと俺達を罠に嵌めたつもりだろうがな、すぐにでもぶち抜いて――」  一矢は大剣を振りかぶり、自分たちを囲う結界の壁に叩きつけようとする。  だがそれを振り下ろすことなく、一矢は大きく飛びすさっていた。  瞬きの間もなく、さっきまで木の枝の上にいたはずの仮面の男が死角から彼に斬りかかったためだ。  すかさずニルバルディが援護の攻撃を入れるもすでにそこに仮面の男の姿はなかった。 「今のは転移なのか?」 「多分この空間内だと自由に転移を繰り返せるんだと思う。相当入念に術式を組まないとこんな真似出来ない筈だけれど……ひっ!?」  そう呟く瑞理の足元に一矢が大剣を突き立てた。  今まさに瑞理の足の筋を狙った攻撃を未然に防いだのだ。  仮面の男は地面に埋まっていた。 「考えるのは後だ! とにかくこの空間から脱出するぞ!」 「そうだね。悔しいけどこの空間内じゃ僕達は手も足も出ない。まずは脱出に専念しよう」  ニルバルディは自らへの頭上からの攻撃を双剣でいなしながら応じた。 「瑞理、俺の傍から離れるなよ」 「うん!」  一人仮面の男の動きに反応できない瑞理は一矢に庇われながら結界の壁へと向かう。  そして全力の魔力を乗せた大剣を振りかぶり、結界へと叩きつけた。  結界の壁が大きく揺らぎ、やがて空間が消失する。 「どうだ! これでもう妙な転移はでき……!」  一矢が再び木の上に上がった仮面の男へと振り返った時、 「は、離して!」  瑞理が仮面の男の腕の中に捕らえられているのを見た。 「結界は解いたはず。いつの間に!?」 「気をつけるんだ一矢。転移がなくとも相当な手練れだよ、彼は」  瑞理が必死に仮面の男の腕から逃れようとするも、びくともしない。  枝を斬りおとすべく飛び上がった一矢の大剣と無造作に引き抜かれた仮面の男のレイピアが激突する。  一矢の手に火花と共にまるで鉄塊を叩きつけたかのような重さと衝撃が返ってくる。  その細身の剣から返された手応えは防御魔術ではなく、剣技ですらもない。  単なる純粋な膂力によって押し返されたものだった。  細腕と細い刀身ではあり得ない、壁を叩いたかのような手応え。  すかさず背後の死角から斬りつけた攻撃も空振りする。  そして仮面の男は瑞理を抱えたまま飛び上がっていた。 「瑞理!」 「お兄……!」  こちらへと伸ばされる手。  一矢も必死に手を伸ばすが、それが届く前に瑞理の腕が掻き消える。  仮面の男は懐から箱を取り出すと、その中へと瑞理を吸い込んでしまったのだ。 「……ニル、帰ってたのか」 「ただいま一矢、随分とうなされていたようだけれど大丈夫かい?」 「問題ねえよ。それよりお前はここ数日、どこに出かけてたんだ?」  ニルバルディの気配に目を覚ました一矢はソファから起き上がった。 「手掛かりを掴んだよ。出先で偶然例の仮面の男を見つけてね、あいつの靴裏に上手く針を仕込むことに成功した。行先はエーデルワイス美術館だ」 「エーデルワイス? まさかこの国の王都にある美術館か?」 「そう。まさしくこの国一二を争う美しい美術品が揃ったあの美術館だね。経営者はレートン伯爵だ。美しいものに目がないと有名な人物だね」 「そういや数年前に娘を亡くしてそれからさらに美術品収集にのめり込んだって聞いてるな」  この国では知らない者はいない程に有名過ぎる美術館の名前に一矢は目を白黒させる。 「そこまでは間違いない。ただそこで反応が消えた。こっちの探知に気づいたみたいだ」 「明らかに罠だな。美術館には多くの魔術具も展示されている。展示物兼警備装置になっているってのも有名な話だろ」 「確かに。それらを罠として大規模な魔術を発動されたらと考えるとぞっとしない。そして悪いことに探知に気づくまでは無防備だったと僕は踏んでいる。あの美術館……レートン伯爵と仮面の男が無関係とは思えないね」 「そうなると、あそこがヤツの本拠地、もしかしたら瑞理も……!」  そう言いながら立ち上がる一矢をニルバルディが止める。 「まさかと思うけど、美術品を全部叩き壊すとか言い出さないよね?」 「さすがにんな真似しねえよ。お尋ね者にはなりたくねえからな。それじゃあ瑞理と再会できても一緒に暮らせねえだろ」 「君って人は……」  ニルバルディは呆れて言葉も出ない。  この男は瑞理が結婚してもずっと一緒に暮らすつもりなのだろうか?  こんなだから『剛剣のシスコン番長』だとか言われるのだと本人は気づていないのだろうか?  素で口にする一矢に本気で不安になってくる。 「あの結界をまた使われる可能性もある。あれに捕らわれたら僕らでも防戦一方、まず勝ち目はない」 「本格的に俺達を潰しに来たなら好都合だ。叩き斬るまで」 「まあまあ。策を練らないと間違いなく返り討ちだよ。あの男を生け捕りにする必要があるからね……そこでだ」  ニルバルディは一矢に提案する。 「勇者達の力を借りよう」 「またあいつらの力を借りるのか?」 「君もちゃんと彼らをよく見ておくといい。彼らは紛れもなく『勇者』だよ。僕らの世代とは比べ物にならない程力をつけている。もしかしたら……」  そこまで口にしてニルバルディは口をつぐんだ。  まだ結論を出すには早いだろう。  彼らをもっと見極めないといけない。 「……わかった。手続きは任せる」 「うおっ――なんだい、この重さは!?」  すると一矢はソファの傍らに置かれた皮袋を無造作に投げ寄越した。  その中には銀貨がぎっしりと詰まっている。  金に糸目をつけないという意思表示だろうが、それにしてもこの重みはいかがなものか。 「一体どれだけの魔物を狩ったんだい?」  驚きを通り越して呆れた声を上げるニルバルディ。 「さあな。けど大量の魔物は助かった。これで当面活動資金には困らねえしな。ナソーグって奴には感謝だ」  対して一矢はさして興味無さそうに言う。  先日、霊玉を狙って島を襲撃したという【ナソーグ・ベルジ】。  彼の率いた魔物達の残党が海岸線の村々を襲ったのだ。 「いやいや世界を揺るがす悪の根源だよ、その人。間違っても感謝していい対象じゃないからね」 「いいんだよ、俺はもう勇者じゃねえ。ただの賞金稼ぎなんだからな」  一矢はふんと鼻を鳴らす。  瑞理を追うと決め、学園を中退した。  世界の安定よりも妹の命を選んだ。  その時からもう自分は『勇者』ではなくなったのだ。 「仮面の男は僕達を罠にかけるまで姿を見せないだろうね。けど罠にはまった後じゃ対処は困難、あの時と同じ、いやそれ以上に最悪の結果になりかねない。今回は大規模な術を発動させるための材料が数多い。剣で叩ききれるなんて思わない方がいい」 「とはいえ手をこまねいる訳にもいかねえ。捕らえられる事を前提に作戦を立てて奴の裏をかく。そういう方針でいいんだな?」 「うん。学園の勇者達の動きがカギだ。なんとしても瑞理の手掛かりを得よう」
参加人数
4 / 8 名
公開 2021-08-24
完成 2021-09-14
時の奇術師 ~聖魔ゲーム~ (ショート)
SHUKA GM
「皆さん、こんにちは。今日は僕達が君達の演習の臨時講師を務めるよ」 【ニルバルディ・アロンダマークォル】【稲葉・一矢】は二人並んで生徒達の前に立っていた。  数年の間冒険者として世界で揉まれた卒業生たちからは油断ならない気配を感じさせる。 「今日は皆で聖魔ゲームをしようじゃないか」  ニルバルディの提案に首を傾げる生徒達。  生徒の中には聖魔ゲームを知っている者もいたが、演習場で武装をしてのゲームとなると一体何が行われるのか予想が出来ないようだ。 「この中に一人、聖人に化けた魔人が紛れていると想定する。そんな中で君達は魔王討伐を行うのさ」  そう言ってニルバルディは角の生えたヘルメットを被る一矢を示す。  目つきが悪く、腕組みをしてむすっとしている様子は魔王としては少々小物感を否めない。 「君達は魔王を討伐、その後演習場の出口へと向かってもらう。それで聖人側は勝利だ」  彼の視線の先には出口がある。 「ただし、ゲートをくぐる時、そのメンバーの中に魔人が混じっていたら聖人側の負け、『戦闘不能になっていない聖人全員でゲートをくぐらなければならない』。そうでなければ魔王側の勝利となる。だからゲートをくぐる前に皆はメンバーの中で誰が魔人かを言い当て置いていかなければならない」  そこでニルバルディは意地悪な笑みを浮かべた。 「まあ当然だけどそもそも魔王を倒せなかったら聖人側の負けだ。だから魔人は敢えて一矢に加勢して戦闘で聖人側を全滅させるという手に出ても構わないよ。裏切りの瞬間が鍵になるだろうね」 「なるほど、互いに疑心暗鬼の状況の中で、いかに普段通りに立ち回れるかを見るということですね」  生徒の一人が納得して頷いた。 「けれどそれだと魔王側が有利じゃないですか?」  そんな中、別の生徒が困り顔で手を挙げる。 「魔人役が全力で聖人側に加勢したら魔人の特定が出来ません」  その分析にニルバルディはごもっともと頷き返した。 「うーん、そこは洞察でなんとかしてね、と言うことも出来るんだけど、門の前で不毛な口喧嘩なんて事になるのも困るからね。ここは一つルールを追加しよう」  この中にはそもそも聖魔ゲームをよく知らない者もいるはず。  そう判断してニルバルディは生徒の提案を受け入れる。  果たして今の生徒はあの魔人の必勝法に気づいて発言しているか?  そこまでは分からないが、現状では魔王側有利である状況に変わりはない。 「魔人役はある一つの行動がとれない、という制約をつけよう。魔人がその行動をとった瞬間聖人側の勝利だ。ちなみに制限される行動を知る者は、魔人役本人と魔王役の一矢、審判である僕だけだよ。そのあたりも考慮に入れて作戦を立ててね」  演習場の真ん中で生徒達が作戦を話し合っている。  そんな彼らを見ながら、ニルバルディと一矢はこの演習が開かれる前に訪れた学園長室を思い出す。  学園長室、ニルバルディと一矢が揃ってこれまでの一連の事件について報告をしていた。 「学園長、以上が我々の報告になります」 「うむ、ご苦労」  学園長席でふんぞり返り、鷹揚に頷いてみせるメメル学園長。  表情こそ真面目を装っているが、その芝居がかった所作はこのシチュエーションを心底楽しんでいるらしい。  しかしその愛らしい容姿と一矢から差し入れられた手作りチョコレートケーキのクリームが口の端についていて、せっかくの威厳が台無しになっている。 「それとメメル学園長。生徒達を派遣していただいてありがとう御座います。僕たちは本当に助けられました」 「……正直助かった。まさか助けを寄越してくれるとは思っていなかった」  一矢も目を逸らしながらも礼を言う。  そんな一矢の様子をメメル学園長はけらけらと一笑する。 「たとえ学園を卒業したとしても、教え子のために一肌脱ぐのは当然さ。それがたとえ、家族を救うためにすべてを投げ出して学園を飛び出していった生徒であったとしてもね」 「……チッ、こんな時ばっかり教師面しやがって」 「ふふっ、惚れ直したかい?」 「抜かせ。いつ俺があんたに惚れたって?」 「毎回お茶会で俺様にケーキを焼いてくれたじゃないか」 「あれは俺の食べる分だろうが。毎度毎度奪っていきやがって」  そう言いつつも、一矢の頬は上気し瞳は揺らいでいる。 「ところで今のチミ達は時間がある訳だね。だったらお願いしたい事があるのだ」 「まさか生徒達に臨時講師として演習をしろとはな」  一矢は目を伏せながら言う。どうやら学園中退という立場を後ろめたく感じているようだ。 「まあまあ。君の冒険者としての豊富な実戦経験は貴重だよ。それを存分に伝えればいい」 「つまりここにいる生徒共を全力で叩き潰せと?」 「出来るものならね」  ニルバルディは不敵に笑う。 「なるほど、それは楽しみだ」  そこに生徒達への強い信頼を見て取った一矢もまた不敵に笑い返す。  一矢もまた先日の美術館での戦いで、生徒一人一人が油断ならない力と伸びしろを持っていることを理解している。今回の戦いは全力で挑まなければあっという間に潰されるだろう。  それを見たニルバルディはにこりと微笑むと離れて集まり相談をする生徒達に向かって呼びかける。 「それじゃあ作戦は決まったかな? 準備が出来たならそろそろ演習を始めよう」
参加人数
2 / 6 名
公開 2021-12-29
完成 2022-01-15
時の奇術師(完) ~新たな旅立ち~ (EX)
SHUKA GM
「さあ立ち上がって。あなた達がこの世界の最後の希望」  暖かい光が体を包む。  それまで石のように重く動かなかった体に力が戻ってきた。  赤黒く染まる学園の空。  黒い霊樹が、今自分達の立っている学園の霊樹へと喰らわんばかりに枝や根を伸ばし絡みついてくる。  眼下では先ほどまでの自分達のように、身動きが取れず倒れ伏す学園生や教師の姿が見えた。  どうやら今動けるのは自分達以外にいないらしい。  まるで地獄を彷彿とさせる光景だ。 「霊樹から力を分けてもらったの。これで貴方達はあの黒い霊樹の影響を受けないわ」  声の主を見やれば、そこには【稲葉瑞理(いなばみずり)】が光を抱えるように立っていた。  両隣には彼女の婚約者である【ニルバルディ・アロンダマークォル】と彼女の兄である【稲葉一矢(いなばかずや)】が彼女を守るように武器を手に立っている。  瑞理の足元には割れた仮面が転がっていた。  その日、学園は仮面の集団に襲われた。  飛躍的な力の向上と引き換えにその命が魔石へと変質していく呪いの仮面。  その強大な力を抱える集団に立ち向かった勇者達。  学園長や教師たちまでもが奮戦する中、集団を率いる瑞理が一矢の前に現れた。  瑞理の命をおもんばかり力を出せない一矢は瑞理に倒されてしまう。  彼女を救うために立ち向かった勇者達は瑞理を取り押さえることに成功。  その一瞬の隙を見逃さず、一矢は瑞理の仮面を断ち切り彼女を救い出すことに成功した。  しかし他の者達は次々に魔石へと変化。  さらにその魔石は一つに集まると、霊玉へと変化する。  これで愛する妻を取り戻せる――  魔石の下に現れたエーデルワイス伯爵は自ら体内にその霊玉を取り込むと、自らの姿を黒い霊木へと変えたのだった…… 「まさか仮面の人間全員を魔石に変えて、それを合わせて霊玉に変えちまうなんてな」 「あれは不完全なものだよ。あんなものを霊玉なんて言わない。理論を構築させられた私が言うのもなんだけど……」  瑞理は自分が仮面に支配されていた時の記憶を思い出して苦笑を浮かべる。 「『生』と『死』の境界を取り払いこの世界から悲しみを消す……この世界に新たな法則を定着させようとした結果がこれとはね」  三人は赤黒く染まった世界を見渡した。 「愛する妻一人を蘇らせるために世界丸ごと書き換えようだなんて、常軌を逸してるな」 「ははっ、さすがの君もこれには共感できないか」 「当たり前だ。俺をなんだと思ってやがる」  ニルバルディの軽口に一矢が苦い顔を返す。  以前の一矢ならやりかねない危うさがあった。  だが成長し続ける勇者達、そして元生徒をも慈しむ学園長の心に触れ、いつからか彼の中からそんな狂気は消え失せていた。  すると黒い霊樹の葉が形を変え、黒い魔物となると次々にこちらへと向かってきた。  まるで光に吸い寄せられるアンデッドのようである。 「俺達で瑞理を守る。だからお前達はあいつを倒せ」  一矢が指し示す先、黒い霊樹の中心ではエーデルワイス伯爵の上半身が変わり果てた姿で生えている。 「ヴヴッ……ヴガアアアアアアーーッ!!」  紫の表皮に覆われ、爪や角を生やす姿は魔物とも鬼とも言えるだろう。 「あんな異形になり果ててまで、彼はどんな世界を創りたかったのやら」  ニルバルディは哀れみ交じりの視線を彼に送る。 「そうだな、俺達で終わらせてやろう……これが最後の戦いだ!」  その場にいる全員が武器を構える。 「さあ勇者達よ。今こそこの世界を救って!」  瑞理の手の中にある霊樹の光が強さを増す。  その力に後押しされるように、勇者達は黒い霊樹へと立ち向かっていくのだった。
参加人数
5 / 8 名
公開 2022-02-02
完成 2022-02-24

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サンプル


 秋――作物の収穫時を迎える村々。
 その一つに中年の一人の冒険者の男が訪れていた。

 ベテランの中級冒険者である彼は村の入り口を抜けると、勝手知ったる様子で村内を進み、やがて小高い丘の上にある村長の家に辿り着く。

「よう村長、今年も来てやったぜ」
「おうお前か。相変わらず冒険者家業を続けているようだな。そろそろいい歳なんだ。嫁でももらってお前も土地を耕したらどうだ?」
「俺は気ままに暮らすのが性に合ってんだよ。余計なお世話だ」

 軽口を交わしつつ、冒険者の男と幼馴染である村長は彼の使い込まれた革鎧姿を見て相好を崩した。

「それで、今年もアレの収穫時期だろう? 今回の実りはどうなんだ?」

 そう言って冒険者の男は窓へと視線を向けて山のふもとに広がる果樹園の木々を見る。
 そこにはまもなく収穫を迎えるゴールデンピーチがたわわにぶら下がっていた。

「なかなかに豊作だよ。今年は天候に恵まれたからな」
「だろうな。んで今年も依頼を出すんだろう? 依頼書と報酬金の届け出は俺に任せておけ。お前らは今、迎撃準備に忙しいだろうからな。たまたま通りかかった俺に感謝しろよ」
「なにを言っている。どうせ今年もこっち方面の依頼を請けて、その帰りに立ち寄ったんだろ?」

 冒険者の男がにやりと恩着せがましくおどけると、村長は苦笑しつつ肩をすくめて返す。

「まあいくつか持ってけ。早熟で早摘みした小ぶりのものがある。味がぎゅっとしまったなかなかのものだぞ」
「そうこなくっちゃな。アレを食わなきゃ秋が始まったって実感が沸かねえ」
「ついでに一通り果樹園の周りを見回ってバリケードのチェックも頼むぞ」
「ああ、任せておけ」

 返事を返しつつ、冒険者の男はその果実の甘さを想像して口内に唾液を溜めた。

 口の中で溶けるように甘さが広がり、爽やかな香りが鼻を抜けて後味はすっきり。
 この村を離れてもう二十年近くは経つか、未だにあの果実の味を上回る食べ物には出会っていない。

 それは自分がしがない冒険者として一般市民と同じ生活を送っているせいかもしれないが、それでも人生の中でこれ以上の食材に出会ったことはないと彼は思っている。

 実際国内でも有名な特産品の一つで、この村の財政のほとんどはこのゴールデンピーチから得られている。
 貴族でも好んでいる者たちがいて、魔物に狙われやすいこの果実を守るために、ギルドに支援金を提供している者までいると聞く。

「それで今年の新人冒険者たちはどんな具合だ?」

 早速彼は村長から出されたゴールデンピーチの薄皮をナイフで器用に剥いて食べ始める。
 そんな彼に村長は尋ねた。

「ああ。今年はなかなかに見どころのある冒険者たちが揃ってるぜ。まだまだ未熟な連中も多いが、どいつもこいつも個性的で才能溢れているときた」
「そこまでの者達なのか?」
「そうだ。もしかしたら将来、あの中から歴史に名を遺すようなヤツも出てくるかもしれねえな。まったく、若いってのはいいねえ」

 冒険者の男の言葉にほうと溜息交じりに感心する村長。
 皮肉屋の彼をしてそこまで言わしめる冒険者たちが今王都に集まっているとは。

「俺も村に訪れた冒険者の活躍を見て冒険者になったクチだが、どうせならこの世代で冒険者になりたかったよ」

 そう言いながら男は遠い目をする。

「とはいえ彼らはまだ初級冒険者なんだろ? いくら才能に溢れていても経験が伴わないのは少し不安だな」
「安心しろ。まだ未確定だが中級以上のヤツらも参加予定だ。そうでなくとも最悪俺が手を貸してやるよ」

 農民時代からギルドに依頼を出している彼は、依頼者であるが故に積極的に依頼に参加することはないが、人手が足りなかったり、果樹園まで魔物が入り込んだ時には手伝いに回ることもある。

「さて、今年はどんな攻防戦を見せてくれるか楽しみだぜ。俺の期待を裏切らないでくれよ」

 彼はいつぞや冒険者ギルドで見かけた若者たちの姿を思い浮かべながら、ついつい口の端を吊り上げるのだった。



 冒険者ギルド――。

「という訳で、今回の依頼のご説明をいたします」

 つい先ほど持ち込まれた依頼書について、複数人の冒険者たちが話を聞くために受付ボード脇についたてで仕切られた会議スペースに集まっていた。

 テーブルには近隣の村々の場所と地形について書かれた地図が広げられていて、ギルド職員の女性が地図の一点を指し示す。
 その隣では依頼者であろう中年の革鎧姿のベテラン冒険者が腕組みをして立っていた。

「依頼は毎年この村の北にある果樹園で行われる「ゴールデンピーチ」の収穫補佐になります」

 職員の女性はそう言うと、今度は村周辺の地図をテーブルに広げた。

「ゴールデンピーチは木から実をもぎ取るとフェロモンを含んだ強い香りを発し、その香りに釣られて魔物が集まってくるという特徴があります。皆様には襲ってくる魔物の撃退、または収穫の手伝いを行っていただきます」
「襲ってくる魔物はロックウルフやワイルドモンキー、フェイクバードといった初級者にはやや荷が重い魔物ばかりだ。戦闘に自信がねえヤツは収穫の手伝いに回り、襲撃時間の短縮に貢献してくれ」

 職員の女性の説明にベテラン冒険者が補足を加える。

「ですが安心してください。魔物については無理に討伐していただく必要はありません。村には頑丈な柵やバリケードが設けられていますので、それらが壊されないよう魔物に対処いただければ十分です。また村には魔法の力がかけられた倉庫があり、そこに実を全て運び込んでしまえば香りが広がることもなく、魔物たちは立ち去っていくでしょう」

 彼女の説明のとおり、果樹園の周りを柵で囲われているのが地図から読み取れる。
 物見やぐらもあり、ここからなら弓や魔法などの遠距離攻撃も可能なようだ。

「それから収穫するヤツも注意をしてくれ。ゴールデンピーチの中に、たまに「いぶし銀ピーチ」が混ざっている。こいつは強い衝撃を与えると爆発し、周囲に尖った種をばら撒いちまう危険なものだ。まあ魔物に投げつけりゃかなりのダメージを与えられるだろうがくれぐれも取り扱いには注意をしてくれ。ゴールデンピーチと違って見た目が赤黒く毒々しいから見分けは簡単だがな」
「魔物討伐などの活躍次第ではギルドから追加報酬もお支払いしますのでぜひ頑張ってくださいね。私もあの実が大好きなんです。皆さんのご活躍を期待していますよ」

 先程ベテラン冒険者からお土産として果実をもらった受付の女性はそう締めくくると、にこやかな笑みを浮かべるのだった。