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お猿温泉街を救え!


ストーリー Story

 学園から数日かかる場所にあるとある温泉街。
 そこの観光名物はなんといっても『お猿』であった。
 地元では『ピンポンモンキー』と呼ばれる魔物で、他の地域では手先が器用で畑に仕掛けた罠を潜り抜けて農作物を荒らす嫌われ者たちだ。
 そんな彼らも、この温泉街では立派な観光名物の一つとなっている。
 街の傍にある小さな山は豊かな森が広がり、果実や葉っぱなど食料が十分にあること――。
 観光客による餌付けで彼らが人間慣れしていること――。
 そして源泉で鳥の卵をゆでたり、人と共に温泉に入る彼らがとても愛らしいこと――。
 そんな彼らは老若男女に愛されていた。

 しかしそんなピンポンモンキーたちの様子がここのところおかしい。
 普段なら夜になると山にある住処へと帰っていく彼らが全く居なくなる気配がない。
 なにかを恐れるように空き家や建物の隙間に身を寄せて小さくなって固まっている。
 そのせいか皆どこか気が立っていて、観光客の中には噛みつかれたりひっかかれたりという被害を受けた者も現れ始めた。
 
 行商人や冒険者からの噂では、山につがいの『大きな鳥』の姿を見かけるようになったという。
 木に残された爪跡から恐らくは『鉤爪(かぎづめ)ワシ』なのではないかと。
 鋭い急降下で獲物の肉を鋭くえぐり、そのままかっ攫(さら)う森のハンター。
 警戒心が強く、敵わないと思った相手の前には決して姿を見せない。
 どうやら二羽の鉤爪ワシは新たに山を根城と定めたらしい。
 
 鉤爪ワシはピンポンモンキーだけでなく、人間の子供まで喰らう凶暴な肉食の魔物である。
 時には自分の図体以上の大きさの獲物すら運んでしまう強靭な飛行能力を持ち、狩りをして生活をする空飛ぶ猛獣と呼ばれている。
 繁殖期になると餌が豊富な土地を求めて移動する習性があり、今回はこの温泉街の山が狙われたのだろう。
 今のところはまだ大きな被害こそ出ていないものの、もしこのまま放置していれば温泉街に逃げこんだピンポンモンキーを追って鉤爪ワシまでもが温泉街に現れ、大きな被害が出てしまう。
 繁殖で数が増えれば壊滅的な被害を受けるかもしれない。
 
 このままではこの街の観光業が成り立たなくなってしまう。
 こうして温泉街の者達は学園に調査と鉤爪ワシの退治を依頼することとなるのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2021-02-22

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2021-03-04

登場人物 3/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《新入生》シアン・クロキ
 ルネサンス Lv12 / 黒幕・暗躍 Rank 1
「おいらはシアン・クロキ。よろしくなのだ。ん?誰がちびなのだ。お前さんが大きいのだ。」 「こら、耳を引っ張るな、やめるのだ」 ■容姿■ 身長→小学校低学年サイズ 瞳 →紫。瞳孔は✕型。 髪 →黒色のショートカット 動物→うさぎ 耳 →ロップイヤー 服装→ワイシャツ、ショートパンツ、サスペンダー、ブーツ ■性格■ 背が小さいのでなめられないように必死。 かわいいものや甘いもが好きだが、ばれないようにしてたり、わざとぶっきらぼうな態度をとっている。 そのせいで、基本ツンツンしているように見られてしまう。 仲良くなれば甘えてくるかもしれない。 ■サンプルセリフ■ 《基本》 「ジロジロ見てなんなのだ。言いたいことははっきり言えなのだ。」 《仲良し(低)》 「なんだ、お前さんなのか。何か用なのだ?用がないなら、あまり見ないで欲しいのだ。」 《仲良し(中)》 「もう少し付き合ってやってもいいのだ。え、いらない?そ、そうなのか…」 《仲良し(高)》 「遅いのだ!どれだけ待たせるのだ。って、別に待ってなんかないのだ。勘違いしないで欲しいのだ!!」 ■趣味■ カードゲーム、ボードゲーム ■好き■ ニンジン、かわいいもの、あまいもの、紅茶 ■嫌い■ 身長を馬鹿にする人、耳を引っ張られること、ちびと言われること ■苦手■苦いもの、兄、姉 ■口調■ 一人称:おいら 二人称:お前さん。お前さんら。苗字呼び捨て
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に

解説 Explan

 温泉街近くの山に現れた『鉤爪ワシ』二羽の討伐依頼です。
 彼らは警戒心が強く、戦う術を持つ武装した学園の生徒を前にしては決して姿を見せる事はありません。
 ただ森の中を探索しているだけでは悪戯に時間ばかりが過ぎることとなるでしょう。
 山に罠を仕掛けたりなどのからめ手が必要となります。

 また温泉街のピンポンモンキーと心を通わせられれば、彼らの協力を得られるかもしれません。
 恐怖に怯える彼らをどう味方につけるかは生徒たちの腕の見せ所となるでしょう。
 彼らの好物は温泉卵。
 森には鳥の卵も数多くあり、普段は卵を採取して温泉の源泉でゆでて食べています。

 鉤爪ワシとの直接戦闘となった場合はそのスピードと鋭い攻撃に注意。
 軽装のメンバーは負傷に気を付けましょう。
 空を飛ぶ相手なのでなにか動きを阻害しないと逃げられてしまうでしょう。


作者コメント Comment
 皆様ごきげんよう、『SHUKA』です。

 日頃の心身の疲れを癒しに温泉などいかがでしょう?
 今なら動物との触れ合いつき!
 という願望を具現化したエピソードを用意させていただきました。
 皆様ぜひこの温泉街のエピソードを楽しんでくださいませ!

 略して『ピ〇猿』とは呼ばないこと!



個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●方針
ピポ…ピンポンモンキー(以下、猿)と交渉、卵をもらって鉤爪ワシ(以下、ワシ)の討伐に

●事前準備
街の地図を把握。開けていて、また立体機動の足場が多そうな迎撃地点候補を皆と情報共有
また猿たちの好みの卵を調べて購入し、できれば温泉卵にして準備

●行動
鉤爪ワシの襲来前に卵を餌に猿と接触。
できる限り多くを集めて、猿を狙うワシの襲来場所を絞れるように。

ワシが襲来したら猿たちをかばいつつ、みなが分散しているなら『とんでく花火
』で合図を。

猿たちにつられてワシが降りてきたら、剣が届くところで一撃。
降りてこない、追いつけなければ『グロリアスブースター』や『二段ジャンプ』に
レイダーの射程(2)を生かして空中戦を

シアン・クロキ 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
猿たちの交渉は、温泉卵を使うのだ。
学園から、卵を持ってきたので、それで温泉卵を作って交渉するのだ。
怖いときは、おいしいものを食べると心が落ち着くのだ。
け、決して、自分がそうだと言ってるわけではないから勘違いするのでない。
それに、怖ければ、おいらたち学園性が助けるのだ。
だから、力を貸してほしいのだ。

そして、問題の敵のほうだが、ここは、おいらの腕の見せ所。
奴らがいそうな場所に『罠設置 』するのだ。
『聴覚強化Ⅰ』『聞き耳』で逃さないのだ。
同行する二人に比べれば、オイラは弱い。
なら、得意なことで役立てばよいのだ。

敵を見つけたら、サーチ&デストロイ。
『二連射』『ル5』で飛行能力を落とせるようにするのだ。

仁和・貴人 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:132 = 55全体 + 77個別
獲得報酬:3600 = 1500全体 + 2100個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
鷲退治か
慎重な性格だと言うし誘き寄せるのが鍵になってきそうだな

事前調査、魔物学、推測で良く獲物を襲う場所を割り出し、魔王の空間、設計、罠設置、鉤爪付ロープ(大)を使い罠を作って置こう
誘き寄せ用の餌は誰か囮になってもらうか温泉街で手に入れよう

鷲を補足できたら繋りの意味を使いできるだけこちらに有利になるようにしてからグリフォンに乗って基本鎌術、奇襲攻撃、絶対王セイッ!、覇道行進、マドーガ、ウィズマ・アーダを上手く使い攻撃
グリフォンが疲れたら、二重詠唱、マドーガで遠距離攻撃だな

戦闘が終わったらオレ、温泉で待ったりするんだ

アドリブA、絡み大歓迎

リザルト Result

 【フィリン・スタンテッド】【シアン・クロキ】【仁和・貴人】の三人は温泉街から山中へと向かっていた。
 昨日温泉街へと現地入りし、町長の家で詳しい事情を聞いたあと、用意された温泉宿へ。
 しばらく街を散策してから宿に戻り一泊といった流れだ。
「ウキッ! ウキッ!」
 そして彼女たちの周りにはピンポンモンキーたちが集まっており、一緒に山を目指していた。
「すっかり元気を取り戻したようでなによりなのだ。今日はしっかりと働くのだぞ?」
「「ウキッ!」」
 シアンは敬礼を返す彼らを満足げに見渡すと、鷹揚(おうよう)に頷いた。
「まさかここまで協力が得られるなんて……」
「人に慣れているとは聞いていたが、意思疎通まで可能とはな。もし彼らに文字でも覚えさせようものなら我が配下として……いや、もしかしたらすでに?」
 フィリンも感嘆(かんたん)し、貴人にいたっては仮面の下で思考を楽しんでいる。

 昨日、温泉街に到着したフィリンたちはその光景に言葉を失った。
 建物の間で小さくなり、おびえているピンポンモンキーたち。
 ろくに温泉にも入れていないのだろう。
 毛並みもボロボロで、まるで都会のスラムの浮浪児を目の当たりにしているかのようだった。
 その居たたまれない光景について、三人は心配をする町長や街の住人たちの話を聞く。
 最近では森だけではなく、街中でも頻繁に鉤爪ワシを見かけるとのこと。
 執拗(しつよう)以上の追撃が行われている。
 ただし街や人には直接被害がなかったため、ここまで状況が悪化するまで依頼が出せなかったという。

 それらの情報をもとに宿で話し合いをした三人は、鉤爪ワシ退治に向かう前にまずはピンポンモンキーたちと接触することに決めた。
 シアンは学園のアニパークから持ってきた鶏の卵を源泉で温泉卵にし、ピンポンモンキーたちに働きかける。
 その美味から簡単に彼らに受け入れられた。
 鉤爪ワシをまったく恐れない態度と強力な武装で彼女たちが何者なのかを理解したようである。
 さらにはシアンの持つ微笑(ほほえ)ましいいじられオーラに反応し、和んだであろうことはフィリンと貴人の胸中での解釈だ。
 その後も現地のハンターたちから山でとれる鳥の卵をもらい、一緒に温泉卵を作ることですっかり打ち解けることができたのだった。

「本当に条件通りの場所が見つかったな」
 ピンポンモンキーたちの案内に従い山道から外れた三人は、木々の少ない開けた場所に出る。
「そうね……ここなら問題ないと思う」
「それじゃあみんな、昨日の打ち合わせ通りに行動を始めるのだ!」
「「ウキッ」」
 そして彼女たちはピンポンモンキーたちと工作を始める。
「こうして草の根元を束ねることで、しっかりと罠を隠すのだぞ」
「ウキッ!」
 シアンが手本を見せると、周りのピンポンモンキーたちが真似をして作業を始める。
 普段から温泉街に入り浸っているだけあって、どこでそんな動きを覚えたのだろうという程、彼らの動きは人間じみている。
 そこへ偵察に出ていたフィリンが戻ってきた。
「この辺りには今のところ鉤爪ワシの姿は見えていない。……それと、あっちに条件に合う場所を見つけた。シアン、お願いできる?」
「任せるのだ。それでは皆の者、行くのだ」
「「ウキキッ!」」
 シアンの号令にピンポンモンキーたちは列を作ってついていく。
 自分よりも小柄な猿たちが大勢自分を慕ってくれている。
 今日のシアンは大変に機嫌がよかった。
 そんなシアンたちを見送った貴人が口を開く。
「……罠の配置はこれで十分そうだな。あとは鉤爪ワシがこちらに現れるのを待つだけか」
 フィリンが得意の隠密偵察で周辺把握を行い、貴人がその情報をもとに『魔王の空間』の技能で罠エリアを設計。
 『罠設置』の技能で頭一つ抜きん出ているシアンが精度の高い罠をピンポンモンキーたちと設置していく。
 こうして着々と準備が進み、舞台は整っていく。
「貴人……そろそろ作戦、実行する?」
「そうだな。スタンテッドくん、頼めるかい?」
「ええ、任せて」
 短く言葉と視線を交わし、互いに頷き合う。
 それからフィリンは一匹のピンポンモンキーとともに草むらへと姿を消した。
「やはり一緒にいると襲って来なかったな……」
 フィリンを見送った後、貴人は一人ごちる。
 気配を抑え、草むらに隠れながら行動するフィリンやシアンに対し、貴人の動きは堂々としたものだった。
 大鎌『ペリドット・サイス』を担ぎ、オリーブグリーンの刃を煌(きら)めかせてあえて目立ち、かつ周囲への警戒を露わにしていた。
 すると鉤爪ワシは襲ってくる様子が無い。
 警戒心が強いという情報は本当だったらしい。

 全ての作業が終わった頃、草むらから少し離れたところで一匹、孤立したピンポンモンキーがいた。
 どうやら仕掛けを設置している間に仲間とはぐれてしまったらしい。
 それに周囲には罠があり、迂闊(うかつ)には動けない。
 助けを呼ぼうと声を上げればそれこそ鉤爪ワシの格好の標的だ。
 じっとしているしかないのだが、隠れ方がまずかった。
 草むらには隠れられているが、上空からは丸見えだったのだ。
 そんなピンポンモンキーを鉤爪ワシは見逃さない。
 音もなく上空から急降下すると、一直線にその鋭い足爪を突き立てる。
 両足がピンポンモンキーに刺さるかと思った瞬間、突如として鉤爪ワシの体に強烈な一打が入った。
 バネじかけのようにしなった枝が、鞭のごとく鉤爪ワシの胴体を打ち抜いたのだ。
 体勢が崩れ、間一髪爪は空を切る。
「――還襲斬星断!」
 そこへフィリンの神速の一閃が放たれた。
 スタンテッド家に伝わる変幻武術の一つ。
 『ウィズマ・アーダ』の応用で剣の刀身を蛇腹剣(鞭剣)状に変化させ、変幻自在に攻撃する。
 翼を切り裂かれた鉤爪ワシは羽ばたくこともままならず、ひっくり返るように地面へと激突した。
「今よ!」
「「キ――ッ!」」
 フィリンの号令とともに、隠れていた猿たちが草むらから一斉に飛び出してくる。
 手斧やナイフを構え群がり、全員でタコ殴りにした。
「まるでどこかの戦闘員だな」
 貴人はその光景に、転移前の世界の光景を頭にちらつかせる。
「戦闘員、なのか?」
「いや、気にしないでくれ。こっちの話だ。それよりもクロキくん、どうやらこちらも仕事のようだ」
「わかっているのだ」
 貴人が視線を空に向ける。
 シアンはすでに自らの両手弓『ソレイユ』を宙に向けていた。
 おそらく先ほどのつがいであろう。
 さっきまでは完全に気配を消していたというのに、今は並々ならぬ殺意をこちらへと向けている。

 二羽の鉤爪ワシは卵をピンポンモンキーたちに狙われた。
 鉤爪ワシは強い種族で、元々産み落とす卵の数は少ない。
 それ故(ゆえ)に子への情は深く、害する者には決して容赦はしない。
 そんな中、好奇心旺盛なピンポンモンキーたちが悪戯しようとしたのだ。
 その上、今度は自分のつがいを寄ってたかって蹂躙された。
 これで大人しくなどしてはいられない。

 シアンの放った矢が鉤爪ワシに刺さる。
 だがまるで勢いは衰えず、真っ直ぐにこちらへと向かってきた。
「危ないのだ!」
 やせーの勘が冴える――!
 シアンはピンポンモンキーの一体を抱えて転がる。
 制服の背中が裂かれるも怪我はなし。
 間一髪のところで救出に成功する。
「グリード!」
 貴人が叫ぶと、木々の中から一頭のグリフィンが飛び出してきた。
 『トルミン牛』の肉を与え、グリフィンに騎乗する。
 再び急降下する鉤爪ワシと交錯する。
 大鎌と爪が激しくぶつかり合い、火花を散らす。
「喰らえ、なのだ!」
 そこに地上からシアンの矢の追撃。
 1本目は回避するが、二連射で放たれた2本目が翼を傷つけ一瞬動きを鈍らせる。
「もらったぞ!」
 その隙を突いて貴人がウィズマ・アーダの力で刀身を伸ばした鎌で鉤爪ワシを鋭く裂く。
 二人がかりでの連撃で、致命的な深手を負わせる。
 それでも鉤爪ワシは強引に急降下を始めた。
「くそっ、まだ動けるのか!」
「止まれ、なのだ!」
 シアンの矢を受けつつもまっすぐにピンポンモンキーたちのもとへと向かう鉤爪ワシ。
 そこへフィリンが立ち塞がった。
 大剣を盾のように構え、正面から攻撃を受け止める。
 その衝撃に膝を折るも、決して視線は鉤爪ワシから離さない。
「私を無視すんじゃねえよ! てめえの内蔵、えぐり出すぞ、コラァ!」
 衝撃に晒(さら)されたはずのフィリンだが、何事もないかのように次の動作に入っている。
 左右の手にありったけの魔力を生み出し合体。
 愛剣レイダーへと力を収束させる。
 そして衝撃で同じく体が硬直する鉤爪ワシに向かい、裂帛(れっぱく)の気合が籠った渾身の一振りを放った。
「――スタンテッドキャリバー!!」
 宝剣から放たれる渾身の斬撃が鉤爪ワシの胴体を切り裂く。
 この一撃に、終(つ)いには鉤爪ワシも息絶えたのだった。


「ふう……」
 露天風呂に浸かる貴人はひとつ大きく息を吐くと、夕暮れ時の景色に魅入(みい)る。
 山にかかる太陽と、大きく伸びる影が作るコントラストはなかなかに見ごたえのある光景だ。
「「ウキイ……」」
 周りでは何匹かのピンポンモンキーたちが頭にタオルを乗せて、湯船で気持ちよさそうにぷかぷかと浮かんでいる。
 前日宿に泊まったときには誰もいなかったことを考えると、これが本来の光景なのだろう。
「このあとは山の幸づくしか……楽しみだ。いや、その前に卓球だな。まさかこっちの猿は卓球ができるとは思わなかった」
 平和が訪れた――。
 わずか二泊とはいえ、貴人はそう実感を覚える。
 そう思うと湯船にどっと疲れが溶け出し、癒されるかのようだった。
 将来はこういう土地でのんびりと暮らすのも悪くないかもしれない。
「……んっ?」
 ぼんやりと未来の光景を頭に描いていると、ふと垣根一枚を挟んだ女湯が騒がしいことに気がつく。

「今日はせっかく動き回ったのだ。しっかりとマッサージをして大きく(身長)なるよう体をほぐすのだ」
 女風呂ではシアンが体を揉みほぐし始めていた。
 温泉での血行促進――そうだ、それは体の成長の手助けになる効能ではないのか?
 なんで今までそれに自分は気がつかなかったのだろう。
「きゅ、急にどうしたの? お、大きく(胸)てもそんなにいいことなんてない、よ? 小さくて(胸)いいと思うけど」
 突然の奇行に周囲をあたふたと見て、ピンポンモンキーたちが面白がって真似するのを見てからシアンに尋ねる。
 しかしフィリンの小さい(身長)という言葉に、シアンは目を吊り上げる。
「そんなことないのだ! 小さい(身長)と馬鹿にされる。お前も小さい(身長)と言われて悔しくはないか?」
「えっ、小さい(胸)? そんなことは言われたことはないけど……だ、だからって、お、大きく(胸)なったところでいやらしい目で見られるだけだよ? むしろ私は小さく(胸)ていいと思う」
 学生寮の大浴場でのいじりを思い出し、フィリンの顔が真っ赤になる。
 周囲から自分のスタイルを羨ましがられるだけならまだしも、たまに絡み付いてくる同級生や先輩もいるからだ。
 自分はそういうノリには馴染めないし、正直どう反応したらいいかもわからない。
 この学園が以前の環境とは全く違うと分かっていても、どうしても身構えてしまう。
 自分はただ『勇者』で有り続けるだけ。
 まだ学園の『日常』を自分の『日常』とうまく結び付けられない……。
 そんなことを考えて自然と表情が陰ってしまったせいだろう。
 フィリンを見つめるシアンは真剣な顔で頷いた。
「そういうものなのか? 大きいと大きい(身長)でそういう問題が起こるのだな。目からウロコの話なのだ」
 そんなシアンの表情にはっとし、フィリンは取り繕(つくろ)うようにぎこちない笑顔を浮かべる。
「はい。特に大浴場では気をつけてくださいね。揉まれます(胸)」
「揉まれるのか(頭)!? それは恐ろしい話だ。大きくなる(身長)というのも考えものなのだな」
 シアンは思わぬ惨状を思い浮かべ、目を見開いた。
 フィリンはスタイルがいい分、小柄でも身長をいじられることはほとんどない。
 よってフィリンはシアンの切実な悩みを最後まで察することができないのだった。

「なんだろう、あの会話。物凄くなにかが噛み合っていない気がするのだが……」
 貴人の顔が熱くなる。
 こんなにも女子という生き物は体の話で盛り上がるものなのか?
 これが噂に聞く『女子校のノリ』というものなのだろうか?
 思わず硬直してしまったが、あまり女子の会話に聞き耳を立てるものでもないだろう。
 というか、これ以上聞き続けていたら別の意味でのぼせてしまうかもしれない。
 ただでさえ薄い壁一つ向こうに女子がいるというこの状況。
 意図して狙ったわけではないが、さっきまで行動を共にし、ピンポンモンキーたちに誘われたとなれば時間がかぶるのは自然な流れだったのだ。
「上がろう……これでは落ち着けない」
 仮面を脱衣所に置いてきた15歳の少年にはまだ刺激が強すぎた。
 貴人は聞き耳技能もないのに勝手に生々しく光景を想像してしまう自分を叱咤(しった)し、垣根を自由に飛び越え気ままに行き来するピンポンモンキーたちを背にして、風呂を後にするのだった。



課題評価
課題経験:55
課題報酬:1500
お猿温泉街を救え!
執筆:SHUKA GM


《お猿温泉街を救え!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 1) 2021-02-17 07:35:56
勇者・英雄コースのフィリンよ、よろしく。
対空戦闘とお猿さんとの交渉ね…
別の卵を用意して、交換してもらうのがいいのかしら

《新入生》 シアン・クロキ (No 2) 2021-02-21 18:01:36
すまないのだ。
黒幕・暗躍コース、シアン・クロキなのだ。

行動方針としては、弓での対空攻撃。
温泉卵は…頑張って用意してみたいのだ。