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魔王たる者、威厳あるべし


ストーリー Story

 その部屋は、闇の帳に包まれていた。
 コオオと冷酷な風の音が鳴り響く。辺りを照らすのは両の壁に整然と並ぶ、紅き蝋燭の光のみ。
 そんな中、ひとりの痩せこけて肌色の悪い、しかし眼光を鋭くぎらつかせたマント姿の男が、講堂の壇上に姿を表した。それから集まる者たちを睥睨し、それから重々しく、ゆっくりと口を開く。
「此度は、よくぞ我が元に参った」
 男の唇の端は仄かに吊り上がる。誰の目にも彼が、これから起こるだろう出来事に期待を寄せていることが見て取れたであろう。
 期待を裏切ろうという者は……恐らくは、この場にはおらぬに違いない。その場合に自分の身に何が起こるかを、この場に集う者たちは皆知っているからだ……すなわち、壇上の人物──学園教師【ディクタトール・クルエントゥス】の講義『幹部登場演出学』の単位を落としてしまうかもしれぬのだ!

 そんなわけで今日のフトゥールム・スクエアでは、『幹部登場演出学』の期末試験が行なわれることになっていた。
 この講義は魔王・覇王コースの生徒に向けた、いかに第一印象の段階で大物感や油断ならなさを演出するかを学ぶためのものである。敵味方に魔王や覇王としての格の違いを見せつけることができれば、不要な争いを避けることができる……自身を信じて付き従ってくれる部下たちを無益に失うことは魔王・覇王にとって避けるべきことであり、それにはこのような『戦わずして勝つ』手段が有益なのだ。
 もっともこの講義、受講自体は他のコース生にも開かれている。クルエントゥス先生は常々こう語る。
「どのような形であれ信念を貫いた者は、望むと望まざるとに関わらず、必ず信奉者を集めるものだ。我が校の生徒諸君であれば、どのコースの生徒であれ、どこかに魔王・覇王としての資質が眠っていよう……」

 さて、本試験は受講生──つまり君たちだ──による実演を、魔王・覇王コースの先生方が採点するという実技試験形式で行なわれることになっている。
 受講生は幾つかのグループに分かれ、各グループの受講生は自分らしい登場演出をしながら全員円卓に着く。他者に存在感を掻き消されてはならない。かといって、逆に他者の存在感を奪いすぎてもいけない……他者の上に君臨しながらも、部下も立てるのが魔王・覇王たる者の責務であろうから。

 はたして、君たちは恐るべき魔王・覇王になれるのか?
 今君たちにできる限りの登場演出で、先生方を戦慄させるのだ!


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 7日 出発日 2021-03-05

難易度 普通 報酬 ほんの少し 完成予定 2021-03-15

登場人物 3/8 Characters
《猫の友》パーシア・セントレジャー
 リバイバル Lv19 / 王様・貴族 Rank 1
かなり古い王朝の王族の娘。 とは言っても、すでに国は滅び、王城は朽ち果てた遺跡と化している上、妾腹の生まれ故に生前は疎まれる存在であったが。 と、学園の研究者から自身の出自を告げられた過去の亡霊。 生前が望まれない存在だったせいか、生き残るために計算高くなったが、己の務めは弁えていた。 美しく長い黒髪は羨望の対象だったが、それ故に妬まれたので、自分の髪の色は好きではない。 一族の他の者は金髪だったせいか、心ない者からは、 「我が王家は黄金の獅子と讃えられる血筋。それなのに、どこぞから不吉な黒猫が紛れ込んだ」 等と揶揄されていた。 身長は150cm後半。 スレンダーな体型でCクラスらしい。 安息日の晩餐とともにいただく、一杯の葡萄酒がささやかな贅沢。 目立たなく生きるのが一番と思っている。
《人間万事塞翁が馬》ラピャタミャク・タラタタララタ
 カルマ Lv22 / 魔王・覇王 Rank 1
不気味で人外的な容姿をしたカルマの少女。 愛称は「ラピャ子」や「ラピ子」など。 名前が読み難かったらお好きな愛称でどうぞ。 性格は、明るく無邪気でお茶目。 楽しいと面白いと美味しいが大好き。 感情豊かで隠さない。隠せない。ポーカーフェース出来ない。 そしてちょっと短気なところが玉に瑕。 ギャンブルに手を出すと確実に負けるタイプ。 羞恥心を感じない性質で、露出度の高い衣装にも全然動じない。 むしろ前衛的なファッション格好いいと思ってる節がある。 戦闘スタイルは我流の喧嘩殺法。 昔は力に任せて単純に暴れるだけだったが、 最近は学園で習う体術を取り入れるようになったらしい。 しかしながら、ゴリ押しスタイルは相変わらず。 食巡りを趣味としているグルメ。 世界の半分よりも、世界中の美味しいモノの方が欲しい。 大体のものを美味しいと感じる味覚を持っており、 見た目にも全く拘りがなくゲテモノだろうと 毒など食べ物でないもの以外ならば何でも食べる悪食。 なお、美味しいものはより美味しく感じる。Not味音痴。 しかし、酒だけは飲もうとしない。アルコールはダメらしい。 最近、食材や料理に関する事を学び始めた模様。 入学までの旅で得た知識や経験を形に変えて、 段々と身に付いてきた…と思う。たぶん、きっと、おそらく。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に

解説 Explan

 そんなわけで皆様は『幹部登場演出学』の実技試験にて、偶然にも同一グループのメンバーに選ばれました。
 試験課題は、『魔王・覇王たちが円卓会議に招集され、議長による開始の号令を待つというシーンで、各自が自身の存在をアピールする』となります……この短い間に自身を演出し、大物感を漂わせることができたなら、きっと皆様はこの試験に合格できることでしょう!

 今期、皆様が講義により学んできたことを簡単に説明すると、以下のような内容になります……賢明なる皆様であれば、これだけ説明があれば今期の講義内容全てをご理解いただけると思います。

・自分がどれだけ手強そうなのかを印象づけよう
・自分の個性や能力が第三者にもわかりやすく伝わるような態度を取ろう
・最初から着席しているのも、少しだけ遅れて登場シーンから演出するのもアリ
・反目し合ったり肩を持ったりして、幹部同士の関係性を匂わせてみてもよい
・ネタ被りは避けるようにする
・ただし、どうしてもネタが被る時はコンビとして印象づけることで逆手に取ることも可能

 皆様は、普段通りの自分をより幹部らしく演出してもいいですが、あえて普段とは全く異なる自分を演出してみてもかまいません。
 その場合……クルエントゥス先生は評価に影響しないとは言っていますが、正体を隠しておくとよりそれらしく見えるかもしれません。意外な身近な人が(味方でも敵でも)重要人物だった、というパターンは王道的な演出です。

 なお、円卓会議の議題に関しては決めなくても、皆様で決めてしまってもOKです。
 もし議長役をなさりたい方がいらっしゃればその辺もご自由にどうぞ。


作者コメント Comment
 和訳すると『血の独裁官』となる【ディクタトール・クルエントゥス】先生ですが、実のところ学内ではより個性的な先生方の間を東奔西走する調整役だというのが専らの噂です。


個人成績表 Report
パーシア・セントレジャー 個人成績:

獲得経験:21 = 18全体 + 3個別
獲得報酬:540 = 450全体 + 90個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
登場時の演出で、魔王らしく印象づける

◆方向性
まずは従者っぽい衣装で、円卓の側で客人達を迎え入れ、ゲストが揃った段階で最後の空席に座る様なイメージ

◆演出等
ゲストが到着したら、先に来た方から円卓へ案内し、椅子を引いて座りやすいように
待ち時間を退屈そうにされてる方が居たら、お茶と焼き菓子等をおすすめしてみる

ゲストが揃うまでは、着席せず円卓の側で控えて

ゲストが揃ったら、最後の空席に着席
「使用人の分際で何のつもりだ!」

とか叱責されたら、
「失礼、この姿の方がよろしいかしら?」

と魔王風の衣装に服装を魔力で再構成
「静粛に。此れより、円卓会議を執り行う」

等と議長として議事進行
さあ、各々方の権能を示されよ!

ラピャタミャク・タラタタララタ 個人成績:

獲得経験:21 = 18全体 + 3個別
獲得報酬:540 = 450全体 + 90個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
自分らしさを出しつつ登場演出

■行動
扉をドーンと開けつつ名乗りながら登場じゃ。
らぴゃたみゃくたらたたららた!招集を受けてあちきが来たのじゃーっ!
他の皆に挨拶しつつ土産の温泉饅頭(プリン味)を配るのじゃ。
温泉グルメを満喫したときにいいものを見つけたから、お裾分けじゃ。
グルメは分かち合ってこそなのじゃよ。

着席して会議が始まるまで待っている間は
グルメ雑誌を見ながら次のグルメ巡りの案を考えるのじゃ。
ふむふむ、春爛漫お花見グルメ…ほぉ、どれも美味しそうなのじゃ♪

会議が始まる頃に、雑誌を閉じて気を引き締める。
そろそろ頃合いか…とか言いつつ、少し妖艶な笑みを浮かべながら議長をチラリと見るのじゃ。

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:21 = 18全体 + 3個別
獲得報酬:540 = 450全体 + 90個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
『魔王・覇王たちが円卓会議に招集され、議長による開始の号令を待つというシーン』で『自身の存在をアピールする』か・・・
なかなか難しいとは思うがやってみようか

事前調査でというか根回しというか登場シーンの前に魔王の空間を使用し使用人役(出来ればイケメンか美女)を用意しておく
居るだけで部下の存在をアピールできるしな
他の参加者にお茶とか入れてもらおうか


会議室に入る際にはグリフォン同伴で入り、席に侍らせる
少々大きいが、ペットがいるそれも(種族的に)獰猛で勇敢なのがってのは大物感を出すことが出来るんじゃないのか?

後はいつもよりもちょっと言葉数を少なめにそれっぽく喋ってみようか

アドリブA、絡み大歓迎

リザルト Result

●円卓の間にて
 室内は、漆黒の静謐に包まれていた。
 燭台の照らし出す闇の中で動くのは、一糸乱れぬ身のこなしで料理を給仕するメイド(【仁和・貴人】が演出に必要だとして要望したため、アルバイトとして動員された村人・従者コースの先輩らしい)と、彼女の用意した大量の肉料理を手掴みして貪る、獅子を思わせる豪傑漢(同、武神・無双コースの先輩だとか)のみ。その他は一切の静寂に支配されており、時折窓の外で瞬く雷光の他は、あたかも時が止まっているかのごとく。
 ……いや。

「らぴゃたみゃくたらたたららた! 招集を受けてあちきが来たのじゃーっ!」
 登場した途端に扉を壊さんばかりに開け放ち、名乗りを上げた【ラピャタミャク・タラタタララタ】は、その直後、すぐ傍の闇の中に佇む、ひとつの影に気がついた。
 恭しく彼女に一礼し、あちらへご着席くださいと促すかのように手のひらを向けたのは、給仕していた者とは別の『従者』の女。どちらも絹のごとく手入れされた髪を持ち、質素ながら上等で落ち着いた黒ワンピースと純白のエプロンに身を包んではいるが……最初の従者がこの部屋に集う魔王・覇王たちのため設えられた美しい家具だったとすれば、こちらは双眸に大粒のエメラルドを嵌めた高価な芸術品だろう。
「ご苦労!」
 ラピャタミャクは『従者』の出迎えを見て大いに頷くと、背負っていた大荷物を床へと下ろした。
 本来ならばそのような大荷物、従者に預けて然るべきものであったろう……が、彼女はそれをせぬ。代わりに荷物の中から何か箱のようなものを取り出して、まずは傍らの『従者』の腕の中に置く。
「お土産じゃ」
「何だそれは」
 不快そうに問うた豪傑漢先輩。土産とやらに興味があるわけではないが、ラピャタミャクが格上のはずの自分よりも従者に先にそれを渡したことに不満を表明しているのであろう。
 一方で、醸し出す雰囲気にも気づかずラピャタミャクは事もなげに彼に近づいて、自ら同じものを彼にも手渡してみせる。
「温泉饅頭(プリン味)じゃ。温泉グルメを満喫したときにいいものを見つけたから、お裾分けというやつじゃよ。……ところで、汝も良いものを食べておるようじゃな、『獅子王』どの」

 出迎えの『従者』がひとつの椅子を引き、再びラピャタミャクを促した。
「うむ」
 着席するラピャタミャク。給仕メイドが彼女にも料理を運んできたならば、礼として彼女にも饅頭の箱を差し出した。
「従者にまで土産をくれてやるとは、魔王にしてはお優しいことだ」
 豪傑漢先輩――どうやらこの場では『獅子王』と呼ばれることになったらしい――が皮肉げな一言(今日はリクエストに応えて短慮な戦闘狂を演じているだけで、いつもはもっと仲間想いなので嫌わないであげてほしい)を発したのならば、嫌味に怒ってみせるどころか、何故だかラピャタミャクは得意気に胸を張っている。
「当然じゃ! 弱肉強食が蔓延る世界より、焼肉定食が流行る世界の方がハッピーじゃろぉ? 食を制する者は何とやらとも言うしのぉ」
 すると。
「……フン。伊達にグルメ魔神などと自称してはおらぬか」
 馬鹿馬鹿しい、とでも言うように、獅子王は再び大皿に視線を戻し、乗せられた丸焼きとの格闘を始めた。素で判らぬ……この後輩、此度の円卓がどれほど重要なものなのかさっぱり理解しておらぬのか。それともそのように見せかけて、何もかもが計算ずくの演出なのか……。

「しかし……遅いな」
 いつしか目の前の丸焼きがすっかり骨だけになっていたことに気づき、獅子王は残る2つの座席を見渡した。
 開会の時間まであと僅かだと言うに、依然として姿を見せる素振りのない他の出席者たち。『従者』にお茶と焼き菓子を供されて、お、済まぬの、などとすっかりリラックスしながらグルメ雑誌を開けるのはグルメ魔神ばかりで、いつまで経っても食後のトレーニングに移れぬ獅子王の苛立ちは募ってゆくばかり。
 ……そんな時、次第に緊張感の高まってゆく空間を直後に襲ったものは、突如窓を破り飛びこんできたひとつの暴風だった。
「何事だ!?」
 慌てて立ち上がる獅子王。
「ふむふむ、春爛漫お花見グルメとな……むっ、どれも美味しそうじゃが風で次のページがめくれぬっ!?」
 必死に雑誌のページを押さえつけるラピャタミャク。

 他方、室内に突風をもたらした張本人――気高いグリフォンの背に跨って現れた仮面の魔王、貴人は、ゆっくりとグリフォンを室内に下ろして羽ばたきを止めさせた後、背負うマントをはためかせ、何事もなかったかのようにその背から降りた。
 その失礼千万の――言い換えればその無礼を当然のものとするほどの絶大な自信に、獅子王が吠える。
「遅刻ギリギリにやって来たばかりかこの狼藉。どうやら身の程というものを知らないようだなぁ!」
 にもかかわらず、突風に流されることもなく自らの傍にかしずいた給仕メイドに小さく頷いてねぎらった後、そよ風のように聞き流しつつ空いている席のひとつへと向かう貴人。
 腰の剣へと手を伸ばす獅子王。目聡く気づいたグリフォンが唸り、主人を守ろうと羽毛を逆立てる……が。
「良い」
 片手でそれを制した貴人が顎を引いたなら、ただでさえ薄笑いを浮かべていた仮面は一掃不気味な笑みへと変化した。思わず獅子王が手を止めた中、貴人は悠々と部屋内を進む。獰猛なグリフォンを容易く御してみせたことにより、力量はこの場の者たちに十分に伝わったことだろう。
 ならば……これ以上の争いなど必要はない。歩みを進める彼の数歩後ろを出迎えの『従者』が付き従って、やはりラピャタミャクにしたように椅子を引く。……が。

「やはり納得できぬぞ!」
 獅子王の拳が円卓を叩き、居合わせた者たちを威嚇した。
「この俺が、食狂い、ひいては議場に乗騎ごと乗りつけるような無礼者と同列に扱われるなどと!」
 その猛威は凄まじい。グリフォンの登場にさえ怯えなかった給仕メイドの体が、威圧に震え、おのず膝をつくほどに。
 もっとも……この場に集うのは誰もが魔王・覇王と呼ぶに足る(という設定の)存在であった。ひざまずいたのは哀れなメイドだけ。出迎えの『従者』のほうは毅然とした態度を崩さぬばかりか、怖じけず獅子王へと言葉を挟む。
「優劣を定めぬ円卓にて、というのが此度の趣向でございます。失礼ながら、それに異をお唱えになる、と?」
 また、給仕メイドを庇うかのように、貴人も無言で彼女の前に進み出ている。無機質なはずの仮面はこう語る。
『このメイドはオレが手配したものだ。つい先ほどまでその恩恵を受けておきながら、それに対する感謝のひとつもないとはどういった了見か』

 獅子王の額に脂汗が浮かび、そのまま彼は動きを止めた。
 このまま剣を抜けば分が悪い。一方で、何もせずに矛を収めるのもバツが悪すぎる。勇猛さで知られた獅子王とて不要な諍いで身を滅ぼしたくはないものの、何でもいい、何か、何か切っ掛けが――。

「――そういえば、汝にも饅頭を渡しておかねばのぅ」
 一触即発の空気をたちどころに霧散させたのは、どこか間の抜けたラピャタミャクの一言だった。
「ほう、これは」
 貴人の意識が一瞬そちらに奪われる。獅子王に向けられていた圧がほんの僅かに和らいだのが判る……それは僥倖。それは天佑。獅子王にとってはこの『余計な邪魔』が、物事を仕切り直しにするための最良の口実となりうるのだから。
 だから、今しがた起こったことをはぐらかすかのように一言。
「……で、最後の参加者はまだか?」

 次の瞬間に起こった出来事を、獅子王は理解ができなかったことだろう。
 最初は彼やラピャタミャクを出迎えた『従者』が。列席者が増えてからは給仕メイドに加え、自らもワゴンを押し給仕に加わったエメラルドの芸術品が。
 不意に最後まで空いたままの席へと向かい、誰もおらぬのにそっと椅子を引いたのだ。
「な……!?」
 獅子王が驚いたのは最後の列席者の姿が見えなかったことではなかった。彼が驚いたのはその次の出来事……椅子を引いた『従者』自身が、彼の見ている前で、さも当然のようにその席に腰掛けていたことに、だ!
「何故お前がその席に座る!?」
 獅子王が再び吼えた。
 けれども『従者』は微笑みさえ浮かべ、どこかぞくりとした雰囲気を纏う……それから、ふと思い出したかのように一言。
「失礼、この姿の方がよろしいかしら?」

 彼女が再び立ち上がり、指をひとつ鳴らしてターンしたならば、その身に纏っていたメイド服は魔力の粒へと昇華した。
「なんと……」
 戸惑うのはただ獅子王ばかり。貴人は最初から知っていたとでも言うように両肩を小さく震わせていたし、ラピャタミャクもさも気にするに値せぬかのように、再びグルメ雑誌のページに目を落としたままだ。
 魔力の粒は再び収束し、『従者』の全身を覆い隠した。魔力は彼女の黒髪に近い濃藍色のスカートに、それから上衣、腰の鞭へと姿を変えている。そして彼女が再び正面を向いた途端……魔力粒が両肩に集まって、そこからこれまた濃藍色のローブを生やして全身を包む。

 最後に……彼女の額には、その真なる地位を示す銀のティアラが、燭台の光を受けて冷たく輝いていた。
 【パーシア・セントレジャー】――それが此度の各々の参加者の取り纏め役となる、最後――あるいは最初――に現れた出席者にして議長の名前であった。彼女が再び優雅に着席するさまは、あたかも生まれつきそれが当然であったかのごとく。
「貴様……どれほど我らを愚弄すれば気が済むのだ!」
 獅子王の戸惑いが、再び怒りへと変化した。
「おや可笑しなことを。まさか獅子王ともあろう男が、外見などに騙されて本質を見逃していた責任を相手に求めると?」
 まるで全てを見透かしていたかのように、この場で初めて見せた饒舌さにて諌めた貴人。
「汝の好む戦いも、元を辿れば食を求めるためのものじゃ。汝ももっと良いものを食べて、たまには原点に立ち返ることじゃな」
 良いことを言ったようで言ってないラピャタミャク。それが場慣れゆえの彼女らしい冗句であったのか、それとも単に普段通りのマイペースであったのかなど、採点官の先生にさえとんと判断がつかぬ。
 再び辺りに一触即発の空気が漂いはじめた時――パーシアの明朗なる鶴の一声が、改めて部屋じゅうに響き渡った。

「静粛に。此れより、円卓会議を執り行なう……さあ、各々方の権能はつまらぬ言い争いなどでなく、会議の場にて示されよ!」



課題評価
課題経験:18
課題報酬:450
魔王たる者、威厳あるべし
執筆:るう GM


《魔王たる者、威厳あるべし》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《人間万事塞翁が馬》 ラピャタミャク・タラタタララタ (No 1) 2021-03-02 00:21:56
らぴゃたみゃくたらたたららた!
魔王・覇王コースのラピャタミャク・タラタタララタじゃ。
よろしく頼むのじゃ。

細かい部分はまだ考え中なのじゃが、
あちきはあちきらしくフレンドリーなグルメ魔神で行くつもりじゃ。

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 2) 2021-03-02 06:10:19
王様・貴族コースのパーシア。よろしくお願いします。
私は、そうねえ……最初から居て円卓の側で待機してた使用人が、全員揃ったのを確認して最後の空席に座る。
なんて感じでいこうかと思ってるわ。

あ、誰か議長役やったりする?
誰もやらないならやってみたいし、誰かやるなら私は書記役でもいいし。

《人間万事塞翁が馬》 ラピャタミャク・タラタタララタ (No 3) 2021-03-04 01:12:15
あちきは役とかは考えておらず、1参加者のつもりなのじゃ。
議長とか役はお任せするのじゃ。

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 4) 2021-03-04 18:35:19
遅くなってすまない。
魔王・覇王コースの仁和だ・・・よろしく。

議長などの役は考えてないな。
まぁ、普段通りに少し演出加えてやってみるとしようか。