それぞれのやり方
(ショート)
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るう GM
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麓に八色の街『トロメイア』を擁することで知られるアルマレス山から少し離れた場所に、辺りの人々がマイター谷と呼ぶ自然豊かな谷がある。
そんなマイター谷の奥に位置する『上(かみ)マイター村』は、けれどもその日、騒然となった。近頃マイター谷の界隈を荒らし回っている盗賊団がこの村を目指しているらしいという情報を、近隣から逃げてきた村人から伝え聞いたのだ。
「なんでまたこんな辺鄙な村を!」
「どこかから、俺たちの村の山羊は質がいいって聞きつけたらしいぞ!」
それが誇らしくないわけじゃない。けれどもいくら誇らしいからといえ、盗賊なんぞに大切な山羊を、財産を、人命をくれてやりたいはずもない。
上マイター村の住民が奮い立ったのは、盗賊らが村の誇りを知った上で貶めんとするからなのだ。本来ならば彼らは逃げ隠れすべきところだったかもしれないが、蹂躙する者たちに屈したくない思いが先に出る……盗賊ごとき、何するものぞ。こちらには子供の頃から山羊を追い、岩場や尾根を駆けながら育んできた体力がある。
……とはいえ、さしもの彼らも盗賊どもを無傷で蹴散らすまでの自信はなかったので、フトゥールム・スクエアに増援を頼んだ次第なのだった。
さて……君たちの目的は『盗賊の撃退』である。しかし、方法がひとつだけとは限らない……君たちも知ってのとおり、フトゥールム・スクエアには多数の専攻があり、そのどれもが上マイター村を救うのに役立つだろう。
村人たちを鼓舞して戦意を高揚させる役。逆に盗賊たちの士気を下げるため、罠や奇襲などを活用する役。
救護や陣頭指揮も村人たちの役に立つだろうし──もちろん、盗賊の頭目【ギュスターヴ】を討ち取るための力も必要だ。
だから、上マイター村の人々が彼らのやり方で盗賊たちに立ち向かうように、君たちにも君たちのやり方で戦ってほしい。
このフトゥールム・スクエアに入学するまでの間、そして入学してから今まで学んだことがあれば、君には、君らしく戦い、そして勝利を手にすることができるに違いない。
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参加人数
8 / 8 名
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公開 2019-07-02
完成 2019-07-17
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変身クエスト
(ショート)
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るう GM
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「ほーら可愛い生徒たんたち、今から魔法をかけるからきりきりとそこに並べー☆」
校舎3階の教室に集まった君たちの前に、唐突に『特別授業』をすると言ってやって来た学園長【メメ・メメル】の開口一番は、そんな強引な一言だった。生徒たちが素直に、あるいは文句を言いながらも仕方なく列を作っている間、学園長はこんな説明をしてみせる。
「知ってのとおりこのフトゥールム・スクエアの教育理念は、『新たな勇者の育成』ってヤツさっ☆ ところで勇者ってのは、敵地への潜入や情報収集のために変身の魔法を使う場合もあるかもしれないし、逆に悪いヤツに魔法をかけられて、変身した姿のままでしばらく過ごす羽目になるかもしれない……そこで今回の特別授業の出番だ♪」
特別授業の内容は……学園長に変身魔法をかけられたまま、今いる校舎を出、他の生徒たちも多数いる校庭の脇を通過して、ハンティング授業中の森の中を通りつつ、学園西側にある『スペル湖』のほとりに作られたゴールまで辿り着くこと。ゴールできれば学園長が魔法を解いてくれるので、その時点を以って授業は終了、だそうだ。
使い慣れない体でゴールまで行くのは大変? 変身した姿を誰かに見られるのは恥ずかしい?
だからこそぶっつけ本番になる前に慣れて克服しておこう! ……というのが授業の趣旨だけど、もちろん存分に変身ライフを楽しむのもひとつの手だ。
もっとも、コースには変身した姿ならではの、幾つもの難所が待ち構えている。
校庭の生徒たちが君たちの姿を見たら、興味を持って寄ってきたり、附属生物園『アニパーク』などから脱走した動物かと勘違いして捕まえようとしたりするかもしれない。
森の中でハンティング授業中の生徒たちに見つかれば、武器や魔法で攻撃されるかもしれない。
姿によっては3階の教室から1階に下りる階段が思わぬ難所になったり、そもそも教室の扉を開くことさえできないかもしれない。
……これ、ゴールできなかったら一生変身した姿のままなんだろうか?
教室内がにわかにざわつきはじめるが、学園長はそんなことさっぱり気にすることなく、魔法の杖を掲げてみせた。
「早くゴールした偉い子たんは、全員がゴールするまでの間、オレサマが好きな姿に変身させてやるから自由に遊び回ってもいいぞ~♪ あ、でもはしゃぎすぎると野生化しちゃうかも……?」
本当に大丈夫なんですかねこの魔法?
「まぁ、チミらなら余裕だ! 多分! さぁて心の準備はできたなー! 順番に魔法をかけてくぞっ☆」
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参加人数
6 / 8 名
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公開 2019-08-27
完成 2019-09-14
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死を喰らうもの
(ショート)
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るう GM
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フトゥールム・スクエアが収蔵する資料によれば、『ソレ』は人の死への感情を糧とする魔物だとされた。
命奪われる者が抱いた恐怖。命と引き換えに得た勝利への満足。正負を問わぬ強烈な感情のみが、『ソレ』――『デスイーター』の空腹を癒してくれる。
殺したい。その気になれば治療できる『死亡』などでなく、抗い難き『消滅』を獲物にもたらして喰いたい。
しかし――かつては闇雲に獲物を殺して死を啜っていたデスイーターも、いつしか知恵をつけるようになっていた。
殺しても、得られる死への感情の味は『魔物に殺されたものの感情』のもの一辺倒になってしまう。
何よりも、殺せば、それ以上は喰えなくなってしまう。
ある時、デスイーターは人の夢の存在に気付き、そこに足を踏み入れるようになった。そこにはデスイーターには思いもよらぬ世界が広がっており、目も眩むような崖から落下したり、同胞らの憎悪を一身に受けたりと、様々な死が渦巻いている。
得られる感情は実際の死のものと遜色ないばかりか、多彩な味までをも楽しめて、しかも同じ者から何度でも吸い取ることができる。
いつしかデスイーターは夢の世界に味を占め、人に死の夢を見させて味わうようになっていた。
だが……それは人々にとって、デスイーターが安全になったことを意味しない。
中にはあまりに現実味のある夢に恐怖して、本当に命を落としてしまった者もいる。
想像力が乏しくリアリティある死の夢を見ることができず、怒ったデスイーターに殺されてしまった者もいる。
もちろん、そんな者たちの割合は決して多くないのだろうが――『死に至る夢を見せる魔物』の存在は人々を恐れさせ、賢者らは危険な夢魔の一種として記録に残したらしい。
そして今……とある田舎町の人々が、同時に悪夢を見るようになったという。必ず自身の死で終わる不吉な夢――恐れた人々はフトゥールム・スクエアに調査を依頼して、その結果、町に悪夢をもたらす元凶がデスイーターではないかと、教員たちは結論づけた。
デスイーターは出現記録が少ないため、いまだ討伐の方法は未確立だと黒幕・暗躍コース専攻の教師【ユリ・ネオネ】は語る。
「でも……被害を減らす方法だけは判っているわ。それは上質の『死への感情』を存分に食べさせてあげること」
一般人と比べれば遥かに波乱万丈な人生を歩むだろう学園生徒たちが死に対して向ける感情は、さぞかしデスイーターにとって美味なものになるだろう……死を存分に味わって満足したデスイーターは、それ以上の害を出すことなく立ち去って、再び長い休眠に入るのだ。
だからユリ先生は口許にどこか寂しげな微笑みを浮かべ、課外授業を言い渡す。
「自分が死ぬ姿を想像するのは辛いだろうけど……本当に命の危険に晒される前に、安全な夢の中で慣れておいたほうがいいかもしれないわ」
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参加人数
8 / 8 名
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公開 2020-04-29
完成 2020-05-12
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魔王たる者、威厳あるべし
(ショート)
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るう GM
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その部屋は、闇の帳に包まれていた。
コオオと冷酷な風の音が鳴り響く。辺りを照らすのは両の壁に整然と並ぶ、紅き蝋燭の光のみ。
そんな中、ひとりの痩せこけて肌色の悪い、しかし眼光を鋭くぎらつかせたマント姿の男が、講堂の壇上に姿を表した。それから集まる者たちを睥睨し、それから重々しく、ゆっくりと口を開く。
「此度は、よくぞ我が元に参った」
男の唇の端は仄かに吊り上がる。誰の目にも彼が、これから起こるだろう出来事に期待を寄せていることが見て取れたであろう。
期待を裏切ろうという者は……恐らくは、この場にはおらぬに違いない。その場合に自分の身に何が起こるかを、この場に集う者たちは皆知っているからだ……すなわち、壇上の人物──学園教師【ディクタトール・クルエントゥス】の講義『幹部登場演出学』の単位を落としてしまうかもしれぬのだ!
そんなわけで今日のフトゥールム・スクエアでは、『幹部登場演出学』の期末試験が行なわれることになっていた。
この講義は魔王・覇王コースの生徒に向けた、いかに第一印象の段階で大物感や油断ならなさを演出するかを学ぶためのものである。敵味方に魔王や覇王としての格の違いを見せつけることができれば、不要な争いを避けることができる……自身を信じて付き従ってくれる部下たちを無益に失うことは魔王・覇王にとって避けるべきことであり、それにはこのような『戦わずして勝つ』手段が有益なのだ。
もっともこの講義、受講自体は他のコース生にも開かれている。クルエントゥス先生は常々こう語る。
「どのような形であれ信念を貫いた者は、望むと望まざるとに関わらず、必ず信奉者を集めるものだ。我が校の生徒諸君であれば、どのコースの生徒であれ、どこかに魔王・覇王としての資質が眠っていよう……」
さて、本試験は受講生──つまり君たちだ──による実演を、魔王・覇王コースの先生方が採点するという実技試験形式で行なわれることになっている。
受講生は幾つかのグループに分かれ、各グループの受講生は自分らしい登場演出をしながら全員円卓に着く。他者に存在感を掻き消されてはならない。かといって、逆に他者の存在感を奪いすぎてもいけない……他者の上に君臨しながらも、部下も立てるのが魔王・覇王たる者の責務であろうから。
はたして、君たちは恐るべき魔王・覇王になれるのか?
今君たちにできる限りの登場演出で、先生方を戦慄させるのだ!
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参加人数
3 / 8 名
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公開 2021-02-23
完成 2021-03-09
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