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冷酷な天使のパパ


ストーリー Story

 自称、学園一忙しい天使【シルフォンス・ファミリア】。
 授業に出席している時間より、依頼で学園を留守にしている事の方が多く、学年問わず、彼とは依頼先で会う事が多い。
 自称、学園で一、二を争う実戦経験を経て、学内のアークライトの中でもトップクラスの覚醒時間を有する――らしい。
 ともかくそんな彼は、今日も依頼に出ていた。
 この日はとある山中にて、山賊の討伐依頼である。
 洞窟を根城にしていた山賊相手に、容赦なく弦を弾いて矢を放つシルフォンスは、有無も言わさず団員を掃討。戦塵の晴れた洞窟には、虫の息で倒れる山賊と、彼らが近くの村から強奪した金品が転がって、彼らを打ち倒した大量の矢が、あちこちに突き刺さっている。
「数だけだったな……ゴブリンより弱かった」
「怪我はしてませんか? していませんね? しているなら秘匿しないで詳細に話してください。でないと殺しますよ」
「一方的に打ってただけだ、怪我なんかするか」
「本当ですか? 本当ですね?」
「あぁ、本当だよ。ったく……」
 怪我の絶えない彼にいつも付いて行く看護師志望のカルマ【クオリア・ナティアラール】は、疑いの目で以てシルフォンスを睨む。
 自分がいなければまともに手当てすらせず、次の依頼にすぐ行ってしまうし、今回だって矢の補充役と回復役が必要なのに、自分一人で行こうとするし、とにかく目が離せない。
 だからと言って、周囲から恋人同士と思われるのは、大変癪なのだが。
「……? あの扉は何でしょう」
「さぁな。金品はそこに転がってるし、それ以上の何か……前みたいに、炸裂の種でも蓄えてんじゃねぇだろうな」
 クオリアの拳撃で以て鍵を破壊し、扉を打ち壊す。
 中は暗く、クオリアが自身の魔力でキラキラ石を使って明かりを点けて、シルフォンスが奥へと進む。
 特別何も置かれておらず、何も無いと思いながらも奥に進むと、大きな絨毯が一つ丸められて、大きな縄一本で縛られていた。
 絨毯は物によっては高級品だと言うが、それもその類なのか、とシルフォンスが考えを巡らせた時、絨毯の中心が突如として動いて、中にいる何者かの存在を知らせて来た。
 クオリアにアイコンタクトを送り、懐から取り出したナイフで紐を切り裂く。
 絨毯が緩んで広がると、中から薄汚れた服を着せられ、ボサボサの髪のまま長い間放置されていただろう少女が出て来たのだった。
「何だ? 奴隷か?」
「人身売買をしていたと言う情報は、なかったはずですが……」
「とにかく、全員近くの警備隊に引き渡すぞ。このガキも――」
 不意に、裾を掴まれる。
 力の方向がやや下に向いているのに気付いたシルフォンスが見下ろすと、少女はシルフォンスの裾をしっかり掴んで。
「パパ」
 静寂の籠る中、とんでもない爆弾を投げつけて来たのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2021-03-14

難易度 とても簡単 報酬 少し 完成予定 2021-03-24

登場人物 3/6 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《ゆうがく2年生》アリア・カヴァティーナ
 アークライト Lv14 / 村人・従者 Rank 1
 幼い頃から聞かされてきた英雄譚に憧れて、いつしか勇者さまを導く人物になりたいと願ってきた。  その『導き』とはすなわち、町の入口に立って町の名前を勇者様に告げる役。  けれども、その役を務めるということは、町の顔になるということ。この学校でたくさん学んで、いろんなことを知ることで、素敵な案内役になりたい!  ……それが自分の使命であると信じて入学したけれど、実のところ勉強よりも、花好きが高じた畑いじりのほうが好きだったりする。そのせいで、実はそこそこの力持ちだったりする。  たぶん、アークライトの中ではかなり変人なほうなんだと思うけれど、本人はあんまり気にしていない模様。  基本的に前向き……というか猪突猛進なところがある、かも。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に

解説 Explan

 とある依頼先より、自分をパパと呼ぶ少女を連れ帰って来たアークライトの【シルフォンス・ファミリア】。
 警備兵に引き渡そうにも泣くし喚くし、仕方なく連れ帰って来たものの、すぐさま次の依頼に行かなくてはならないし、当然、少女を連れて行くわけにもいかない。
「と言う訳でだ。俺が帰ってくるまで、とりあえず、一旦、一度、このガキの面倒を看てろ。報酬は少ないがくれてやる。だから三日、三日だけで良いから面倒を看てくれ。任せたぞ頼んだぞ行くからなもう行くからな! 速攻で終わらせてくるからな!」
 と、言う訳で、シルフォンスの帰還まで、少女の面倒を看てあげて下さい。
 少女は外見年齢五、六歳の女の子です。
 三日間、少女の面倒を看る事が今回の依頼内容です。
 少しずつ少女と心の距離を詰め、彼女に関する情報を少しでも引き出せると良いでしょう。少女には名前がないので、まずは名前を付けてあげるところから始めるといいかもしれません。
 少女自身は気付いてないですが、シルフォンスと同じアークライトです。
 パニックになったり、強い不安を感じたりすると覚醒し、翼を宿してプチラドを乱射する癇癪を起こすので、街などには出さない方が良いでしょう。
 シルフォンスにとにかく懐いているので、シルフォンスの私物を何か渡してやると良いかもしれません。(男子寮の、シルフォンスの部屋の窓が開いています……。)
 怪我などさせようものなら、シルフォンスはもちろん【クオリア・ナティアラール】が怖いので、細心の注意を払って接しましょう。


作者コメント Comment
 こんにちは、七四六明です。
 今回は初めての日常系ストーリーを用意させて頂きました。
 今回は特別なケースですが、子守りと言うのはとても大変で、もしかしたらそこらの魔物を倒すより大変かもしれません。
 少女は自分の事が何もわからない赤子のようなもの。少女に寄り添い、少女のために三日間、力を尽くしてあげて下さい!


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:33 = 28全体 + 5個別
獲得報酬:480 = 400全体 + 80個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●方針
シルフォンス先輩から預かった少女の世話。
何とか正体を探ってみる。

●事前準備
可能ならクオリアに発見当時の状況を確認。
何か持ってなかったかとか、手掛かり探し

●行動
アリアのおままごと作戦に乗って、名前は本人から聞き出せないか挑戦。
無理なら問いかけの形で幾つか選択肢をあげて選ばせる作戦
「あなたはアリス?ベティ?それともシャーリー?」
(※あげる名前は他の人提案のでも可)

またおままごとの延長で、お風呂や洗濯(着替え)を誘い、所持品についても調べてみる。
(着替えはシルフォンス先輩のお揃いを用意すれば喜んでくれるかも?)

名前の記載など直接的でなくても、縫製や素材に特徴はないか、そこから辿れないものか…

アリア・カヴァティーナ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:84 = 28全体 + 56個別
獲得報酬:1200 = 400全体 + 800個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
シルフォンスパパ! わたくしもパパの娘になりますわ!
だってフトゥールム・スクエアには年上のかたが多いんですもの…たまにはお姉さんをしたいですわ!

そんなわけでわたくし、甲斐甲斐しく妹の世話をいたしますわ!
「さあ、何をして遊びましょうか!」
好き放題して汚してしまってもわたくしが後でお掃除しておきますから、何をしても大丈夫! でも、特に遊びの希望がないのなら…「おままごと」なんていかがでしょうか!
おままごとなら自由な名前を名乗る口実になりますし、お互いの3日間の生活の予行演習にできますし…何より、パパとの関係や家族観を知れるかもしれませんので、接しかたや口に出せない希望などを知る手がかりにもなりますわ!

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:33 = 28全体 + 5個別
獲得報酬:480 = 400全体 + 80個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
えーと・・・子守か。

彼女の基本的な対応は女子たちに任せて基本的に裏働きでもしようか

特にファミリア(くん?先輩?)の部屋の中に入ったりだとかは
忍び込むんだ同姓の方が何かあったときのダメージは少ないだろうからな、お互いに


取り敢えず何かあったときのために身代わりうさぎ・改とァミリア(くん?先輩?)のまだ洗濯してないシャツか何か(においがある程度しみ込んだもの)を渡しておこう

後は三日間という長丁場だ

朝昼晩の料理だとか
寝泊まりする部屋だったリベットだったりの掃除や洗濯
その他の買い出しに行ったりだとかするかな

いや、依頼が子守とはいえ、生活水準とか下げたらまずいだろ
重労働だし

アドリブA 絡み大歓迎

リザルト Result

「初めまして! 【アリア・カヴァティーナ】と言いますわ!」
「【フィリン・スタンテッド】よ。パパから話は聞いているわ」
「【仁和・貴人】(にわ たかと)だ。よろしく――」
「ぱ……パパァ!!!」
 子守初日。
 貴人の仮面が怖かったらしく、大泣きされた。
 顕現した翼から連射されるプチラドの回避から始まり、一先ず貴人は、自分の代役としてうさぎのぬいぐるみを渡して別行動を取る事となった。
 ぬいぐるみを抱き締め、ぐすぐすと鼻をすする少女が落ち着いたところで、改めて、アリアとフィリンの二人でコンタクトを試みる。
「さ、お面さんは行きましたわ。わたくし達と一緒に、パパの帰りを待ちましょう」
「パパ、帰ってくる?」
「えぇ、すぐに帰ってくるわ」
「うん……」
 貴人の仮面で泣くような少女がよく、【シルフォンス・ファミリア】なんて無愛想な男に懐いたものだ。立ち居振る舞いから言動から、彼の方がずっと怖いと思うのだが。
「とにかく、まずは名前ね」
「そうですわね。名前が無い事には」
 【クオリア・ナティアラール】曰く、少女を発見した近くの村でも素性は確認出来ず、名前を訊いても答えなかったらしい。
 シルフォンスは顎で使っていたらしいが、さすがにそれは憚られる。
 と言うわけで、まず。
「おままごとをしましょう!? わたくしがあなたのお姉ちゃんですわ!」
「……ねぇね?」
 小さく発せられた一言が、アリアの胸を突く。さながら、アーラブルの突進の如き破壊力。
 思わず、頬が緩む。
「あなたは……アリス? ベティ? それとも……」
「アリエッタが良いですわ! ねぇ? アリエッタ」
「ふ、ぇ……?」
「あなたの名前よ」
「何て呼ばれたいのです?」
 少女は少し俯いてから、アリアの裾を掴む。
 舌が上手く回らない様子で何度か言い淀んでから、アリアの裾を引っ張って抱き着いた。
「ぁ……ありえった、は……アリエッタが、い、い……」
「……! アリエッタ! 今日からあなたはわたくしの妹、アリエッタですわぁ!」
 アリエッタは小さなアリア、と言う意味合いを持つ。少女――アリエッタはそこまでの意味は知らないだろうが、知らないからこそ選んでくれた事が嬉しくて、アリアはアリエッタを抱き締めた。
 確かに、種族も同じで髪も同じ色。年齢的にも、本当の姉妹のようではある。
 学園には何かと年上が多いから、妹が出来たアリアも嬉しそうだった。
「じゃあパパは先輩だから、私はママを……」
「ヤ!」
 速攻で拒絶された。
 ままごととはいえ、何か傷付く。
 が、ここで怒るのは大人げない。一回り近い年下の少女相手に、怒鳴るのはまずいと堪える。
「じゃあ、何が良いのかしら」
「……めいど、さん?」
 メイド、使用人――小間使い。
 凄惨な過去のせいで入ってしまった妙なスイッチが、アリエッタの言葉を誤解させる。
 襟首を掴んで殴りかかろうとしたところで、背後に回ったアリアが両脇を抱えて止めた。
「ガキが、調子に乗ってんじゃねぇ!」
「抑えて下さいフィリンさま! そんなに怒る事ですの?!」
「るさい! んでこんな小娘にまで、小間使いされなきゃならねぇんだ!」
「堪えて下さいましぃ!」

 一方で、貴人はシルフォンスの部屋にいた。
 先輩方から場所を訊くと窓が空いていたので、木を伝って侵入。部屋の中から、アリエッタの気持ちを安定させるに足る何かを探す。
 だが部屋の中は弓と矢、これから受ける依頼と今まで受けた依頼の報告書とが山積みになっているばかりで、とても少女の気を安らげるような物がありそうに見えない。
「戦闘民族か何かなのか……?」
 ふと、それが目に入った。
 シルフォンスと今回が初対面だった貴人だが、それが何かはすぐにわかった。
 矢の残数を見せないため羽織るマントだ。最近洗濯したのか、柔らかな感触が指先に絡まる。
「……これでいいか。後は――」

「どうせ私なんて……母親になる資格なんて……」
「戻ったぞ。って、スタンテッドくんは何をしているんだ」
 部屋の片隅で両膝を抱えて小さくなるフィリンは、ただいま自己嫌悪の真っ最中。
 八つ当たりに近い形で怒鳴ってしまい、冷静になった今、恥ずかしさと情けなさとで消えて無くなりたい自分と闘っている。
 一体自分のいない間に何があったのか。知る術の無い貴人は、首を傾げるばかり。
 彼女を止めたアリアもフィリンの過去さえ知らないものの、深く反省している姿を見てしまうと同情しないわけにもいかず、貴人にもそっとしておくよう言う他なかった。
「カヴァティーナくんも、大変そうだな」
「妹のためですもの、これくらい何ともありませんわ!」
「妹?」
 貴人に応対するアリアの後ろで、もう一人のアリアがアリエッタに振る舞うお菓子を作り、更にもう一人がアリエッタとままごとをしている。
 存在時分割。三人に分身して三倍の事を成せるという技だが、言ってしまえば超が付く高速移動の連続でしかなく、大変である事に変わりない。
「なるほど。アリエッタ、になったのか。とりあえずオレは怖がられているようだから、菓子作りを手伝おう。彼女にはこれを」

 二日目、昼過ぎ。
 アリアがグロッキー状態だ。
 昨日フィリンが腑抜けている穴をも埋めるため、存在時分割を限界まで続けていた事が裏目に出たらしい。
 アリエッタは夜泣きが酷く、満足に眠ることさえ出来なかった様子で、授業さえ休んでソファの上でぐったりしている。
 まぁ、授業は元々休むつもりだったから良いとして、問題はアリエッタの世話だ。貴人が怖がられている以上、やれるのは初日丸々凹んでいたフィリンしかいない。
「オレは彼女のご飯の買い出しに行って来るが……そう、心細い顔をしないで欲しい」
「だって! 私丸一日部屋の片隅で固まってただけよ?! どう接しろって言うの!」
 平凡な家庭など理解の及んでいないフィリンには、未だ少女との付き合い方がわからない。
 今はうさぎを相手に遊んでいるが、いつ自分に来るかわからなくて、フィリン・スタンテッドあろう者が内心怖じ気づいていた。
「そう緊張するな。カヴァティーナくんから聞く限り、聞き分けの良さそうな子じゃないか」
「で、でも……私、素性を探る事ばかりで、どう相手したら良いかとかわからないし……三日程度なら、まぁ、死なないと思うし……」
「あの子がそんな状態になってみろ。何が起きるか、想像つくだろ」
 貴人とフィリンの脳裏に、クオリアの影が映る。
 死なせてでも治すと宣う過激なカルマが、弱り切った少女など見た瞬間何をするか、想像に難くない。また、そこまで追い込んだ者達に対して何をするかも、容易に想像出来てしまえる。
「まずはその考え方から、治療しましょうか」
 その場にいないはずのクオリアの気配を感じた気がして、悪寒が走った。
「おまえも持っているだろう、身代わりうさぎ。とりあえずあれで遊んでやれば良いのではないか。適度に水分補給をさせて、怪我にだけ気を付けていれば、早々問題は――」
 起きないだろう、と言いかけたところで、アリエッタが盛大に花瓶の水をぶちまけた。花瓶も割れなかったし怪我こそなかったが、ずぶ濡れになった彼女を洗ってやらなくてはならない。
 言うまでもなく、貴人には任せられない。
「あぁ……癒されますわぁ」
「ほら、動かない。上手く洗えないでしょう?」
 アリアが入る湯船の隣で、髪を洗ってやる。
 クオリアが洗った時は土と埃で大変だったそうだが、アリエッタの髪は、羨む程に艶と指通りが良い。
 元々の質もあるだろうが、初日のメイド発言といい、アリエッタは高貴な家の令嬢なのかもしれない。元々着ていた服もぼろ雑巾のようだったそうだが、材質自体はなかなかに良質だった。
 人身売買が目的だった事も考慮すれば、やはり高貴な血筋と考えるのが妥当だろう。
 問題は、何処の誰かと言うことだが。
「あぁ、こら! 体を拭かないと、風邪引くでしょう?!」
 風呂から上がり、アリアと早く遊びたいアリエッタが飛び出していきそうになったので、フィリンはバスタオルで包(くる)んで捕まえる。
 初日よりは、フィリンの言うこともだいぶ聞いてくれるようになった。
 フィリン個人としては複雑だが、メイドとして振る舞うと割り切ってしまえば問題はない。
「に、しても……貴人、あれはちょっと無理があるんじゃない?」
 昨日、貴人が拝借してきたシルフォンスのシャツをアリエッタは着ている。身長がシルフォンスと違い過ぎて、ズルズルと裾を引きずってしまっているが、アリエッタが脱ごうとしない。
「マント一枚よりは、マシだと思うが」
「そりゃそうだろうけど」
「パパ、まだ帰ってこない?」
「明日帰ってきますわ。それまで、お姉ちゃんとお人形遊びをして待っていましょう?」
「うん、待ってぅ」
 待ち遠しいらしく、シルフォンスのマントに包まり、先端を食んでいる。シルフォンスが知ったら、嫌そうな顔をしそうだが、あれが一番落ち着くらしい。
「ところで、いい匂いがするわね」
「トルミン牛があったので、ビーフシチューにした。野菜の形が無くなるまで煮込み、わからなくしたが、令嬢の肥えた口に合うかどうか」
「あなたって、意外に料理得意よね……」
「配下を増やす手段の一つとして、覚えただけだ」
 にしては、なかなか美味しそうなビーフシチューが出来上がっている。
 実際、アリアに食べさせて貰ったアリエッタも気に入った様子で、咀嚼も忘れて次々と頬張っていた。
「ねぇねが作ったの?」
「いいえ。貴人さ――お面さんが作ってくれたのですわ」
「お面さん?」
「……ありがとう! お面さん! とっても美味しい!」
「う、うん……気に入ったなら、何よりだ」
 精霊のような扱いなのだろうか。
 だがまぁ、初日に大泣きされた事を思えば、アリア越しでも笑いかけてくれただけ、マシと言うものだろう。ビーフシチューも気に入ってくれた様だし、本当に、何よりだ。

 三日目、夕刻。
 初日と比べれば、互いに随分と慣れてきた。
 貴人とも一定の距離があればアリア越しに話せる。フィリンは変わらずメイドの位置にあったが、もう動揺はない。
 貴人と自分のグリフォンを外に出し、貴人の監視下で遊ばせているフィリンは、側のベンチで情報をまとめているが、高貴な血筋のアークライトの令嬢――と言う事以外、わかっていない。
 とりあえず、先輩らはもうすぐ帰って来るが。
「何かわかりましたの?」
「全っ然。これは時間が掛かりそうね……とりあえず出生もだけど、今後の身の振り方も考えなきゃ。あの子の先輩に対する依存度の高さが、問題なのよね……」
「先輩は、外出される事が多いですからね」
 教会ないし孤児院に預けるにしても、すぐにパニックになるだろう。
 今だって、シルフォンスが帰って来るから堪えられているのであって、未だ彼を求めて夜泣きしてしまう癖は治っていない。
 たった三日で、彼女と川の字で寝ていたアリアとフィリンは、目の下にクマが出来ていた。
「一応、私が前にドラゴン討伐に行った教会に掛け合ってみるけど……」
「おい、こら! やめろ!」
 見ると、二頭のグリフォンが互いに前足を掴み合い、口ばしで突きあって喧嘩をしていた。そしてあろう事か、貴人の方のグリフォンに、アリエッタがしがみついている。
「貴人! 何をしているの!」
「こいつら、じゃれ合っていたと思ったら、突然喧嘩を――!」
「アリエッタ!」
「ねぇね!」
 喧嘩は激化しつつある。今は必死にしがみついているが、いつか握力に限界が来て、振り下ろされてしまうだろう。そうなっては、グリフォンの爪で傷付きかねない。
「今行きますわ!」
「貴人! あんたは自分の!」
「あぁ!」
 互いに剣と鎌を出し、グリフォンの注意を引き付けようとする。
 が、踏み出そうとしたところで、それぞれの刃がアリエッタに危害を加えかねない可能性に気付き、進めなくなってしまった。
 アリアも覚醒の翼を広げ、空からの救助を試みるが、暴れるグリフォンの動きが激しく、入り込む隙がない。
「ねぇね!」
「頑張って、アリエッタ! 今助けますわ!」
 とは言ったものの、喧嘩は激化するばかり。互いの主人さえ視界に入っていない状態で、一体どうするべきか――。
「右に躱せ、アリア・カヴァティーナ」
 咄嗟に右に躱したアリアのすぐ側を、赤く輝く矢が通過する。
 二頭の間に突き刺さった矢が小さく爆ぜて、二頭を驚かせて止めた。
 今だ、とアリアがアリエッタを攫う様に助け、二頭のグリフォンはそれぞれの主に宥められる。
「パパぁ!」
「だから、俺はパパじゃ……ったく」
 などと言いつつ、脚にすり寄ってきた彼女を抱き上げる様は、父親の様であった。
 言うと怒るだろうから言わないが、本当の家族と言われても違和感はない。
「シルフォンス先輩、戻られていたのですね!」
「任せたままでは悪いからな」
「パパぁ。アリエッタ、パパが帰るまでねぇね達と待ってたよ? えらい?」
「あぁ、偉い偉い……待て。ねぇねって誰だ」
「ねぇね!」
 目の前のアリアが指される。
 照れていると、シルフォンスはあからさまに嫌そうな顔をしたが、すぐさま割り切った様子で溜息を吐き尽くした。
「……まぁ、今はいい。よくやってくれたな、おまえら」
 その後、アリエッタはどうなったかと言うと――
「パパぁ!」
「呼ばれてますよ、パパ」
「呼んでますわよ、パパ」
「てめぇらまでパパ呼びするな! クオリア! アリア・カヴァティーナ!」
 シルフォンスとクオリアの元、学園でしばらく預かる事となった。
 貴人とフィリンも含め、現在、アリエッタの素性を捜索中である……。



課題評価
課題経験:28
課題報酬:400
冷酷な天使のパパ
執筆:七四六明 GM


《冷酷な天使のパパ》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 1) 2021-03-11 08:08:44
勇者・英数コースのフィリンよ、よろしく。
なかなか難しそうだけど…お父さんの知り合い、って言ったら聞いてくれるのかな…?

《ゆうがく2年生》 アリア・カヴァティーナ (No 2) 2021-03-11 22:34:09
アリア・カヴァティーナですわ!
わたくしもパパの娘になりますわ!!
一緒におままごとなんてしておくと、この子の家族のことがちょっぴりわかりそうな気がするので、おままごとして遊ぼうと思いますわ!

ところで……お名前、どうしましょうか……? おままごとの時に「好きな名前を名乗っていいよ」ということにしておくと、名前をつけやすいかもしれませんわ!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 3) 2021-03-12 07:31:59
アリアもよろしく。
生活をシミュレーションしてみるのはよさそうね。

>名前
本人に名乗れる、名乗りたいのがあるならそうね…まだ6歳くらいだそうだし、本人から出なかった時用に提案ストックは幾つか上げておいた方がよさそうかも

「あなたはアリス? ベティ? それともシャーリー?」

みたいに問いかけの形で投げかけるとか…あ、名前のところは適当(ABC)だけどね

《ゆうがく2年生》 アリア・カヴァティーナ (No 4) 2021-03-13 01:38:04
でしたらわたくしも……お名前の案を考えておきますわ!
わたくしの名前に近いところだと、アリエッタ、とかでしょうか……気に入ってもらえるか、楽しみですわ!

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 5) 2021-03-13 14:48:34
仁和だ。
よろしく。

・・・名前か、オレにはセンスがないからな。
下手すれば一生ものだしそういうのは任せた。

ファミリア(くん?先輩?)の部屋の中に入るのは任せてくれ。
忍び込むとはいえ同姓の方が何かあったときのダメージは少ないだろうからな、お互いに。