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擬人化始めました!!


ストーリー Story

 魔法学園『フトゥールム・スクエア』、ある日の昼休み。
「うーん、今日は平和だなあ」
 物騒な事件は持ち込まれていないし、どこかの教室で厄介な事故が起きたという報告もない。
 久々に訪れた穏やかな時間を、学園教師【コルネ・ワルフルド】は満喫していた。
「腹減った~」
「ねえねえ、どこでお弁当食べよっか?」
 校庭に植えられた木の上で、干しぶどうがギッシリ……というより干しぶどうしか入っていないサンドイッチをぱくつく。
 樹上にいると、学生達の声がどこからともなく聞こえてくる。その内容はどれも穏やかなものばかりで、今日の平和を裏付けるものとコルネは思っていたのだが……。
「今日は何食おうかなあ」
「擬人化~、擬人化はいらんかね~」
「おい、早く学食行こうぜ!」
(……んん?)
 ありふれた雑談の中に、何か異様な単語が紛れていたような気がする。しかも、その声の主にコルネは非常に心当たりがある。
(しょうがない。行ってみるか)
 軽い身のこなしで木を飛び降りたコルネは、残りの干しぶどうサンドを口に放り込んでから声のする方へと向かった。


「擬人化~、擬人化はいらんかね~。本日限定だよ~」
「……やっぱり学園長でしたか」
 コルネの予想通り、奇妙な台詞を発していたのは我らが学園長【メメ・メメル】その人であった。
「コルネたん、おっすおっーす! さっすが、耳が早いねえ☆」
 校庭の片隅にテーブルを設置し、怪しい露天商さながらに学生達に呼び込みをかける学園長の事は一旦置いておく。問題はテーブルの上、メメたんが配ろうとしている小瓶の中に何が入っているかという事である。
「アタシの事はいいんですけど、今度は何を始めたんです?」
「それを説明するには論より証拠だけど……お、ちょうど戻って来た!」
 コルネの質問に学園長が答えようとした所に、猫のルネサンスらしき少女がやってきた。
 少女は『擬人化始めました』と書かれたのぼりを手にしている。どうやら学園長に言われて露店の宣伝をしていたらしい。
「お前の言う通り、この辺をうろついてきたにゃ」
「お疲れー! どうもありがとね☆」
「さっさと魚よこせにゃ」
「はいはい」
「あの、論より証拠って? それと、その子はうちの学生ですか?」
「まあ見ててよ。5! 4! 3! 2! 1!」
 少女に魚の干物を渡した学園長が、戸惑うコルネを制しながらカウントダウンを開始する。
 すると――。
「0!!」
「!?」
 カウントダウンを終えた瞬間、少女の身体はいきなり白煙に包まれた。そして、もうもうと立ち込める煙の中から現れたのは――美味しそうに干物を食べる1匹の猫であった。
「……これってつまり、あの子の正体がこの猫って事ですか!?」
「その通り!! いや~、久々にカレーを作ろうと思って鍋に色々入れたら爆発しちゃってさあ。でもこんな面白い薬が作れたんだから結果オーライだぜ☆」
「カレーを爆発させないでください。後、それでとんでもない薬を作らないでください……」
 相変わらず無茶苦茶である。頭が痛くなってくるのを感じながら、コルネは学園長にツッコミを入れた。
 聞けばこの『擬人化薬』は揮発性で後数時間しか持たない上、少量しか作れなかったために学生達に配布しようと思い立ったらしい。
「さっきは会ったばかりの野良猫に使ったから、大して変身時間が続かなかったけど。一緒に暮らしているペットや愛用の武器なんかであれば、もっと長く変身していられるだろうね」
 使用者の思い入れが強ければ強いほど、この薬の効果時間は長くなる。上手くすれば、最大で丸1日程度は擬人化していられるだろうとの事だった。
「さあさあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
(やっぱ何事もないより、刺激があった方がフトゥールム・スクエアらしいかな? うちの学生達なら、きっと楽しくあの薬を使ってくれるはずだしね)
 再び呼び込みをかけ始めたメメたんを見つめながら、独り苦笑いを浮かべるコルネであった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2021-05-09

難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2021-05-19

登場人物 4/6 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。
《熱華の麗鳥》シキア・エラルド
 ヒューマン Lv25 / 芸能・芸術 Rank 1
音楽と踊りが好きなヒューマンの青年 近況 自我の境界線が時々あやふやになる みっともない姿はさらしたくないんだけどなぁ 容姿 ・薄茶色の髪は腰の長さまで伸びた、今は緩く一つの三つ編みにしている ・翡翠色の瞳 ・ピアスが好きで沢山つけてる、つけるものはその日の気分でころころ変える 性格 ・音楽と踊りが大好きな自由人 ・好奇心>正義感。好き嫌いがハッキリしてきた ・「自分自身であること」に強いこだわりを持っており、自分の姿に他者を見出されることをひどく嫌う ・自分の容姿に自信を持っており、ナルシストな言動も。美しさを追及するためなら女装もする。 好きなもの 音楽、踊り、ともだち 苦手なもの ■■■■、理想を押し付けられること 自己犠牲 二人称:キミ、(気に入らない相手)あんた 初対面は名前+さん、仲良くなると呼び捨て
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」

解説 Explan

【課題の目的】
 メメたん特製の『擬人化薬』を使って楽しく1日を過ごす。

【擬人化薬について】
 生物(本エピソードでは、ヒューマンやドラゴニアといった高い知能を持つ種族以外の総称とする)や無生物に振りかける事で、使用者のイメージに応じた人型の姿に変身させる薬。
 使用者の思い入れに比例して効果時間が長くなる性質があり、ステータス画面に装備されたアイテムに使用した場合、最大24時間擬人化状態が継続する。
 擬人化した対象の能力は一般人程度となる(例:強力な武器であっても戦闘力が高くなる事はない、高度な魔術書でも知能が高くなる事はない等)。
 また、あまりに巨大な物体や、液体・気体には効果がないものとする。

【テンプレート】
 以下は擬人化キャラクター作成のためのテンプレートです。

1.擬人化する対象名(装備できるアイテムの場合は必ずステータス画面に装備し、プランに正式名称を記入する事)
2.外見の特徴(性別や外見年齢、髪や肌の色、どんな服装をしているか等)
3.口調(語尾・1人称・2人称)
4.どんな性格の持ち主で、PCに対してどんな感情を持っているか(例:大切に使ってくれているから慕っている等)
5.擬人化したキャラクターとPCで何をするか
6.その他注意する事

※文字数やその他の事情により、プランに書かれた内容が一部変更・省略される可能性があります。


作者コメント Comment
 正木猫弥です。
 最近殺伐とした内容が続いたので、今回は擬人化したアイテムやペット達とのんびり楽しく過ごす日常エピソードを考えてみました。
 
 『擬人化キャラクター作成』と聞くと難しく感じるかもしれませんが、PCを作成した時のように細かく設定する必要はありません。内容が思いつかない場合はお任せにしていただいて大丈夫ですのでご安心ください。
 ただし、『何を擬人化するか』の記入がない場合は、『擬人化薬を何に使うか決めきれない内に薬が蒸発してしまった』という内容のリザルトとさせていただきますのでご了承ください。

 どんな擬人化キャラクター達が登場するか、私も今から楽しみです。
 皆様のご参加、お待ちしております!



個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:14 = 12全体 + 2個別
獲得報酬:252 = 210全体 + 42個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●テンプレート
1擬人化対象
ダイアモンドホープ(EX)

2外見
成長したフィリンを思わせる顔立ち
アイテムを連想させる銀髪、碧眼。神秘的なドレスの淑女

3.口調
丁寧な女性(私、あなた、~様、です、でしょう、ですか?)

4.性格
物腰柔らかくも真の通った大人の女性

6.その他注意する事
EXアイテム追記あり。その他はウィッシュプランで

●行動
「クリスタ…ダイアと呼んだ方がいい?」
まず確認が装備品時代の記憶はあるのか、改修前の記憶はあるのか?
記憶がないならそのまま…ちょっとはしゃぎ気味に学園の皆に紹介(自慢)したり
学園や授業を見学させたり…母親に甘える娘のように。
別れが近づいたら静かな屋外で膝枕をお願いしたい

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:14 = 12全体 + 2個別
獲得報酬:252 = 210全体 + 42個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
フクロウのティムさんに擬人化してもらいます。

いままでの課題でとってもたいせつな役割をはたしてくれました。
てがみをはこんでくれる……それはわたくしと仲間のひとたちとの絆。

そのティムさんにまずありがとうっていいます。

そして、いっしょに学園、そして学園都市をまわります。

タスク・ジムさんたちおなじクラブのひと、そしておおぜいの方々を紹介します。

これからもティムさんにはおせわにならなきゃいけないから。


時間があんまりないのがつらいです。
もっともっとなかよくしたいです。
いつも、おはなししたいです。

だから、学園長先生のおくすりもしらべます。

じぶんでもつくってみたいから。

シキア・エラルド 個人成績:

獲得経験:14 = 12全体 + 2個別
獲得報酬:252 = 210全体 + 42個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
まーたメメル先生が変なものつくってるよ…
はいはい、今度は何ですか?擬人化?

擬人化ねぇ、楽器の擬人化…
もしかしたら、一緒にセッションできたりする?
出来心で試しに振りかけてみて
液体ってなんかやだな……えっと拭くもの…うわっ!?
え、煙?え!?などと混乱してる内に擬人化が完了
……あの、部屋入る時ノックしてくれない?(混乱中)

へぇ、本当に青嵐なんだ?うわーすごい、人だぁ
ねぇ俺が演奏してるのどう思う?俺はキミの音を引き出せている?
…ふうん、そっか。それは光栄だね。
前に出るのは必要だから、そうしてるだけだよ

って、そんな話してる場合じゃないよ
折角だからキミも何か演奏したら?っていうかしようよ、ほらほら

タスク・ジム 個人成績:

獲得経験:14 = 12全体 + 2個別
獲得報酬:252 = 210全体 + 42個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
1.擬人化する対象名 鬼面【墜悪】(装備アイテムではない)
広場イベント【華鬼事件】で謎の男に操られ生徒を襲い
一度破壊されたが修理された
学園の監視下のアイテムだが、タスクは度々持ち出し申請し
修行、調べもの、イベントに身に付け大切にしてる

2.外見の特徴
頭に小さな角が2本生えた和服の男の子
外見10歳程

3.口調
腕白坊主

4.性格、対PC感情
大切にされてると感じており、慕っている

5.何をするか
お散歩

【特訓】(後述)

また擬人化して遊んであげたいとタスクはいうが
普段から十分遊んでもらってると感謝を述べる

6.その他
フレンド登録あり。
スタンプ3種全てに登場。
学生寮「フレンド」「イラスト」ご参照ください

アドリブA

リザルト Result

 魔法学園『フトゥールム・スクエア』の校庭で、学園長【メメ・メメル】お手製の『擬人化薬』が配布された日の放課後。
 薬を受け取った学生の1人、【シキア・エラルド】は自室の椅子に腰かけながら手にしたガラス瓶を眺めていた。
「まーた、メメル先生は変なものを……。どうしようこれ」
 室内を見渡し、何に擬人化薬を使うのか考えを巡らせてみる。その内に、いつしかシキアは『青嵐』の丸みを帯びたフォルムに目を留めていた。
「……もしかして、一緒にセッションできたりする?」
 琵琶と呼ばれる東方の弦楽器だが、シキアの手入れに抜かりはなく、今すぐにでも弾ける状態で維持されている。
 魅力的な楽器を前に、シキアが『青嵐を擬人化する』という誘惑に抗えなかったのは、ある意味自然の成り行きだったのかもしれない。
「液体ってなんかやだな……って、うわっ!? え、煙? え!?」
 意を決したシキアが青嵐に薬を振りかけると、変化はすぐに訪れた。
 拭くものを取ってくる暇すら与えず、もうもうとした白煙に包まれた青嵐は、慌てるシキアをよそに一瞬で擬人化を完了させたのだった。
「……あの、部屋入る時ノックしてくれない?」
「随分な挨拶だな。元より僕はこの部屋の住民だ」
 煙が晴れると、シキアの目の前にはポニーテールの髪型をした青年が立っていた。
 初対面のはずなのに、青年の異国情緒漂う出で立ちには何故か既視感がある。その理由を考えたシキアは、青年の雅な装束が青嵐に描かれた花の模様と同じである事に思い至った。
「へぇ、本当に青嵐なんだ? うわーすごい、人だぁ」
 混乱から立ち直ったシキアは、興奮した面持ちで青嵐の姿をまじまじと見つめるのだった。


「ああ、なくなってしまいましたか」
 擬人化薬をビーカーに移し替えようとした【レーネ・ブリーズ】は、ガラス瓶の中身が空っぽになっている事に気付いて残念そうに呟いた。
 擬人化薬が揮発するスピードはレーネの想像以上であった。大急ぎで学園の実験室へと向かったレーネであったが、薬の成分を特定する事は難しかったのだ。
(くすりが消えてしまうまえに、ティムさんに使っておいてほんとうによかった……)
 レーネが瓶を受け取った時点で、中の液体は半分ほど残っていた。それらを全て分析に回していれば、もっと長く調べられたのかもしれない。
 しかし、レーネは擬人化薬を使用する道を選んだ。フクロウの『ティムさん』と貴重な時間を過ごす機会を、レーネは逃すつもりはなかったのである。
「ねえ、まだじっけんするの?」
 服を引っ張られたレーネが後ろを振り返ると、少女の姿に変身したティムがたどたどしい口調で話しかけてきた。
「いえ、もうおわりにします。待たせてしまってごめんなさい」
「こんどはなにする? おてがみをかくならとどけるよ?」
 灰色の瞳でこちらを注視するティムの様子が、変身前の姿と重なって見える。例え擬人化していても、ティムのレーネに対する思いに変わりはないらしい。
「どうしたのレーネ?」
「いえ。……いつもありがとうございます」
「? さっきもおれい、いわれたよ?」
 微笑みを浮かべたレーネの顔を、ティムが不思議そうな表情で見上げる。
「そうでしたね。でも、だいじなことはなんどでも言わせてください」
 温かな気持ちに包まれたレーネは、きょとんとしているティムの白い髪をそっと撫でた。


「じゃあ、あなたには昔の記憶が……」
「はい。申し訳ありませんが」
 黒髪と銀髪。相違点はあるが、2人の顔立ちは姉妹と見紛う程によく似ている。
 学生寮のある部屋では、ドレス姿の淑女へと変貌を遂げた『ダイアモンドホープ』が【フィリン・スタンテッド】の問いに答えていた。
「昔の使い手達の思いが、私の中に残っている可能性はゼロではありません。ですが、今の私はあなたが私に込めた思いによって変化した存在です。あなたの思いが私の記憶の根幹であり、それ以外は枝葉でしかないのです」
「そう、なのね……」
 フィリンが愛用するダイアモンドホープには、スタンテッド家に伝わっていた『クリスタルブレイブ』を精錬して生まれたという経緯がある。
 ダイアモンドホープに精錬前の記憶がないのなら、それは即ち『過去の所有者』についても覚えていないという事でもあるのだろう。
 フィリンが抱える『大きな秘密』を、ダイアモンドホープが暴く可能性はないようだ。密かに安堵の息を漏らしたフィリンは、気を取り直して再び口を開いた。
「クリスタ……ダイアと呼んだ方がいい? せっかくだし、何かやってみたい事でもある?」
「名前はあなたの呼びたいように。やりたい事……そうですね……」
 思いがけない質問にダイアモンドホープ――ダイアが小さく首を傾げて考え込む。
「それじゃ、私が学園を案内するわ。授業参観、って言うんだっけ? ダイアは普段座学なんて観ないでしょ?」
「……はい。かしこまりました」
 フィリンの提案に内心で戸惑いながらも、ダイアは恭しく臣下の礼をとるのだった。


 学園内の掲示板に貼られた、大図書館『ワイズ・クレバー』の新刊案内。
 【タスク・ジム】が貼り紙に気を取られたのはほんの一瞬だったが、傍らの『腕白坊主』には隙だらけに見えたらしい。
「よーい、ドン!!」
「あっこら!?」
 廊下をダッシュする男の子と追いかけるタスクを、たまたま近くにいた学生達が何事かと見つめる。中には男の子の額に生えた2本の角に気付いた者もいただろう。
 男の子の正体は、かつて学園を騒がせた鬼面『墜悪』の擬人化した姿である。
 墜悪がその力を失った後も、タスクは何かとこの鬼面を気にかけてきた。しかし、事あるごとに持ち出してきた『相棒』が、ここまでやんちゃになるとはタスクにも予想外だったのだ。
「はい、捕まえた」
「うわっ!?」
 子沢山のジム一家で、長年お兄ちゃんをしてきた経験は伊達ではない。
 文字通りの『鬼ごっこ』は、走行ルートを先読みしたタスクが墜悪の身体をふわりと抱き止めて終了した。
「くそ、離せよタスク!」
「こ、こら! 危ないから!」
 ジタバタと暴れてはいるが、墜悪の顔には満面の笑みが浮かんでいる。ひょいと身体を持ち上げて肩の上に墜悪を座らせると、ようやく少しは制御可能となった。
「うわー! すげー高い!!」
(やれやれ。のんびり散歩、とはいかないみたいだ)
 墜悪からしてみれば、タスクは楽しい世界へと連れ出してくれる兄のような存在なのだろう。
 大喜びの墜悪を肩車してやりながら、タスクは弟妹達の事を思い出して苦笑いを浮かべた。


 こうして、擬人化薬を渡された学生達の放課後は過ぎていった。
 メメたんの説明によれば、薬の効能は最大で24時間。大切な存在と過ごすには、あまりに短いひと時でしかない。
 4人が懸命に思い出を育む間にも、次第に夜は更け、そしてまた日は昇っていく。
 そして、フトゥールム・スクエアに再び放課後が訪れた。『魔法』が解ける瞬間は、ひっそりと、だが着実に近づいていたのである。


 譜面の内容は、いつしか頭の中から消え失せた。
 バイオリンを手にしたシキアと青嵐が、互いの旋律を心の赴くままに重ね合わせていく。
 永遠に続くかのような2人の合奏。しかし、その幸福な時間は青嵐が弓を弦から外した事で中断された。
「? どうしたんだい?」
 西日が差し込む学園の音楽室。
 我に返ったシキアは、突然演奏を止めた青嵐に怪訝な顔を向けた。
「音が疲れてきている。そろそろ頃合いのようだ」
「……何言ってる? まだこれからじゃないか」
 様々な楽器の使い方を教える内に、シキアは青嵐に天賦の才がある事を見抜いていた。
 多少無理をしてでも、青嵐と奏でてみたい音色がまだまだある。そんなシキアの焦りを見透かしたかのように、青嵐は静かに首を振った。
「お前さんだけじゃない。……そろそろ僕も『時間』のようなのでな」
「!?」
 青嵐がそう言い終えると、身体から昨日と同じような白煙が立ち昇り始めた。
「1つだけ教えてくれ。俺が演奏してるのどう思う? 俺はキミの音を引き出せている?」
 覚悟を決めたシキアが、前々から気になっていた事を尋ねた。
「お前さんより面白い奏者はそういやしない。僕の使い手はお前さんだけだよ」
「……ふうん、そっか。それは光栄だね」
 照れくさそうに答える青嵐の思いの丈を、シキアはしっかりと心に刻み付けていく。
「ただ、あまり前に出すぎてくれるな。もっと自分の身を――大事に――――」
「青嵐!!」
 シキアが青嵐に伸ばした手はあっけなく空を切った。
 白煙が晴れた後には、青嵐が弾いていたバイオリンと座っていた椅子。そして、美しい一丁の琵琶だけが残されたのだった。
「……分かった、今日は休むよ。でも、明日は思い切り弾いてやるからな?」
 独り呟いたシキアが弦をかき鳴らすと、青嵐はどこか嬉しそうに音色を響かせた。


 暮れなずむ学園の中庭に、賑やかな子供の歓声が響き渡る。
「勇者斬り!」
「効かないよーん!」
 棒切れから放たれたタスク渾身の一撃は、両腕を胸の前にクロスさせた墜悪のバリアによって阻まれた。
「物理無効!? じゃあ、どう立ち向かうべきか……」
「どうしたどうした~?」
 がくりと片膝をついたタスクに、墜悪が虎視眈々と止めを狙う。
「やっちゃえー、ついあく!」
「ほら、タスクさんもがんばってください!」
 手近なベンチに腰を下ろしたティムとレーネが、激闘を続けるタスク達に声援を送る。
 話をするだけのつもりでも、お互い『子連れ』では中々そう上手くは行かない。
 来るべき脅威に向けての意見交換は、退屈した墜悪の相手をしている内に戦いごっこの時間へと変わっていたのだった。
「ティムさん、ねむくなりましたか?」
 先程まで墜悪と一緒に駆け回っていたティムが、今はレーネの傍にぺたりと引っ付いてくる。
 タスクを始め、今日は朝からティムを沢山の人に紹介した。ティムが離れようとしない理由を、レーネは最初疲れによるものと思っていたのだが――。
「ううん。でも――――」
「ティムさん!?」
 ティムの身体が煙を放ちながら徐々に縮んでいくのを、レーネは呆然と見守った。
「そんな……もっともっとなかよくしたいのに……!!」
 悲しみに暮れるレーネをじっと見つめたティムは、不自由になっていく唇を必死で動かして話し始めた。
「……おはなしできなくなったら、レーネはわたしとなかよくしてくれないの?」
「い、いえ。ぜったいにそんなことはありません」
「ならいいの。しゃべれなくても、わたしはいつもレーネの『ありがとう』をもらってるから。あり――がと、レーネ。だい――すき――――」
「ティムさん!? ティムさん!!」
 立ち昇る煙など気にも留めず、レーネがティムをしっかりと抱きしめる。
 そして――レーネがふと気付いた時には、白いフクロウが腕の中でじっとこちらを見つめていたのだった。
「ティムが戻ったか。じゃ、オレもそろそろだな――」
「墜悪!?」
 レーネ達に気を取られていたタスクは、墜悪の身体がティムと同じような煙に包まれている事に気付いた。
「墜悪……いきなり過ぎて実感が湧かないよ……」
「そんな顔すんなって! 今までもオレ達ずっと一緒だっただろ? また明日遊ぼうぜ!!」
 満足そうな笑みを浮かべた墜悪は、そう言うとあっさり元の鬼面へと戻っていった。
 例えどんな姿でも、墜悪にはタスクと共に過ごした楽しい思い出が残っている。鬼面か子供かという違いなど、あの無邪気な腕白坊主には些細な事に過ぎないのだろう。
「……よーし。じゃあ、明日はどこに行こうか?」
 散々遊び回ったせいで、地面に落ちた墜悪には至る所に泥や草の切れ端が引っ付いている。
 墜悪を拾い上げたタスクは、鬼面の汚れを払い落しながら優しく語りかけた。


「膝枕……してほしい」
「はい。それがあなたの望みなら」
 学園女子寮『レイアーニ』の屋上には、フィリンとダイア以外の何者もいない。
 おずおずと発せられた命に従い、ダイアは自らの太ももに主の頭をそっと乗せた。
「何だか疲れちゃった。少しだけ、目を閉じさせて……」
「かしこまりました」
 燃え盛る夕陽が、姉妹のような2人を紅く照らしている。
 昨日ダイアが人の形を成した時も、部屋の窓からは同じような夕陽が差し込んでいた。擬人化薬の効果は間もなく切れる。その事を、フィリンもダイアもそれとなく察している。
 主の願いは、『最後の時』を心穏やかに過ごす事なのだろう。ダイアはその崇高な使命を、全力で果たすつもりであった。
(これが、戦わない時のあなたなのですね……)
 いつしか寝息を立て始めたフィリンの顔を眺めながら、ダイアは主と共に過ごした24時間を思い起こしていた。
 フィリンの盾として、剣として常日頃仕えているダイアの記憶には、主が凛々しく自分を使う時の姿が刻み込まれている。
 はしゃぎながら学園を案内する姿も、嬉しそうにクラスメイトに自分を紹介する姿も、ダイアは初めて目の当たりにするものだった。
 いつまでもこのままでいたい。しかし、それは所詮叶わぬ願いであった。 
(……ああ! いよいよ――なのですね――)
 煙を発しながら、ダイアの身体が少しずつ元の姿へと還っていく。
(何かを――何かを、言わなくては――――――)
 フィリンに贈る最後の言葉を、ダイアは必死で探し求める。
 全ては主のために。ダイアのその思いが、『とある記憶』を遂に過去から掘り当てたのだった。
「……ダイア?」
「大丈夫よ。ずっと見守っているからね」
「え……!?」
 フィリンが体を起こす間もなく、ダイアは『ダイアモンドホープ』へと戻っていった。
(今のは……もしかして……)
 ダイアの『贈りもの』を受け取ったフィリンが、思わずダイアモンドホープの硬い表面に顔を埋める。
 盾が冷たく感じなかったのは、涙のせいだけではないはずであった。


「……ん?」
 翌日の昼休み。
 木の上でまどろんでいた学園教師【コルネ・ワルフルド】は、白いフクロウが校庭の上空を飛んでいるのに気付いた。
(ふふっ。『ティムさん』は今日も元気みたいだね)
 コルネは昨日、レーネが嬉しそうに擬人化したティムを紹介してくれた時の事を思い出していた。
 レーネ以外の3名も、きっとかけがえのない時間を過ごした事だろう。
 嘘かまことか、メメたんがカレーを作ろうとして生まれたという擬人化薬。
 この薬が学生達にとって、大切な存在との絆を一層深めるためのきっかけになる事をコルネは願わずにはいられなかった。
「ふぁ~あ。さーて、アタシも頑張るか!」
 太陽の光にもめげず、フクロウが青い空へと消えていく。
 その様子を見届けたコルネは、大きな欠伸をしながら木から飛び下り、のんびり校舎へと戻っていった。



課題評価
課題経験:12
課題報酬:210
擬人化始めました!!
執筆:正木 猫弥 GM


《擬人化始めました!!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 1) 2021-05-04 20:34:34
勇者・英雄コースのフィリンよ。よろしく。

擬人化…物を人間に…うん、ど、どうしよう?

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 2) 2021-05-06 19:27:45
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。
ペットのティムさんといっしょにいたいです。
よろしくお願いします。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 3) 2021-05-06 19:54:06
遅刻帰国~!ご無沙汰瘡蓋~~!!
勇者・英雄コースのタスク・ジムです!よろしくお願いいたします!

実は、ど~してもやってみたいことを考えたので、以下の通り参加を募集します。
とはいっても、一人でも成立することなので、無問題なのですが、
面白そうだな、暇だな、文字数余るな、と思ったら、ぜひご参加いただけたら嬉しいです。

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タグ【特訓】

強敵との激戦の中で得た課題解決、さらなる驚異の予感への備えとして
作戦や技連携の意見交換をしようとすると、
擬人化ちゃんたちがかまってかまってと邪魔をしてくるので、
そんじゃあ戦いごっこで発散しよう、というシチュ。

ポイントは、僕達生徒側は、あくまで自分の能力や特技の範囲内で
ごっこ技を繰り出す(攻撃する振り、型を披露する、みたいなイメージ)が、
擬人化ちゃんたちは、そんなのお構いなしに、想像の赴くままに
小学生技中2技チート技を繰り出してくる。

(例:「勇者斬り!」「そんなの効かないよーん!」「何!?まさかの物理無効!?じゃあ、どう立ち向かうべきか・・・」)

おふざけのように見えて、意外と、未知の強敵に立ち向かう練習になっている
・・・かもしれない。

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もし、どなたか「面白い」って思って下さったら、実施の方向で。
その場合は、僕がアウトラインを書きますので、
参加下さる方は「【特訓】」タグと、可能な範囲の文字数で希望の演出を書いてくださればと思います。

また、他にも、連携や企画やうちよそロールプレイの案がありましたら、
そーゆーの、大好物ですので、よろしくお願いいたします!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 4) 2021-05-06 19:55:54
ちなみに、僕は【鬼面】を擬人化する予定です。

アイテムとして所持はしてないものの、広場企画【華鬼事件】で出会い、フレンド登録をし、スタンプにも描いてもらっている、大切な相棒です。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 5) 2021-05-06 19:56:01

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 6) 2021-05-06 19:56:09

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 7) 2021-05-06 19:56:18

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 8) 2021-05-07 08:00:34
だいぶ揃ってきたわね。タスク、シキア、レーネ、今回もよろしく。

調整(EX)をお願いしてたクリスタルブレイブ…じゃなくて『ダイアモンドホープ』が間に合ったから、これで試してみるつもり。
体が変わったら、心も変わるのかな…?

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 9) 2021-05-07 19:45:36
わたくしはフクロウのティムさんと学園や学園都市をまわって、
あと、おなじクラブのジムさんたちを紹介してまわってますね。

おてがみはこんでくれるので、おぼえておいてほしいですもの。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 10) 2021-05-08 23:14:03
フィリンさん、思い入れがある盾、いいですね。
ずっと同じもの(というEX設定)なら、心はそのままなんじゃないかな、となんとなく思います。

レーネさんのフクロウさんには、確か前の課題でもお世話になりましたね。
擬人化するとどんな子になるのか、楽しみですね!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 11) 2021-05-08 23:34:45
いよいよ出発ですね!
今回もご一緒いただきありがとうございました。
皆さんの大切なものの擬人化、とっても楽しみです!