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正木 猫弥 GM 

はじめまして。

この度「ゆうしゃのがっこ~!」にGMとして参加することになりました、正木猫弥と申します。

かなり昔に某社のPBWを遊んだ経験はありますが、GMは今回が初めて。

かつての私が体験したPBWの楽しさを、皆様にも味わっていただけるような、そんなGMになる事が目標です。

どうぞよろしくお願いいたします。

担当NPC


メッセージ


『擬人化始めました!』のリザルトノベルが公開されました。
個性的なアイテムやペットが集うゆうがく世界。
参加してくださった皆様からどんなプランが送られてくるのか楽しみにしながら待っていましたが、私の予想をはるかに上回る内容揃い。
PC達の温かい『思い』が、少しでもリザルトで表現できていれば幸いです。

ご参加いただいた皆様、素敵なプランをありがとうございました!

作品一覧


甘くて辛いハニーコーム (ショート)
正木 猫弥 GM
 名峰『アルマレス山』の麓には、八色の街『トロメイア』以外にも小規模な集落が散らばっている。  人口三十人ほどの小さな村、『ハニーコーム』もその内の一つ。  周囲はうっそうとした森と、耕作には適さない平野に囲まれていて、どこか浮世離れした雰囲気が漂う集落である。  そんなハニーコームの村から、『フトゥールム・スクエア』に向けてゴブリン退治の依頼が出されてから数日の後のこと。 「――おい、あんたら。もしかしてハニーコームに行くつもりか?」 目的地に向けて、山道を歩く学生たち。そんな彼らに話しかけたのは、ハニーコームの隣村に住む森の木こりであった。 「そうか、ゴブリンを退治しに。そりゃあご愁傷様……おっと、いけねえ」  思わず口を滑らせた木こりの男を、学生たちは怪訝な表情で見つめた。  フトゥールム・スクエアに寄せられた今回の依頼に、特に不審な点は見られない。強いて言えば、退治するゴブリンの数の割に、報酬がかなり多いことだろうか。  聞けばハニーコームの村人は全員養蜂を行っていて、彼らの作り出すハチミツは世の美食家や菓子職人にとっては垂涎の的であるらしい。  彼らの収入は近隣の村々に比べてかなり多く、報酬の高さはそれが理由と思われる。  至れり尽くせりに見せるこの依頼の、どこに問題があるというのだろうか。 「……いや、ハニーコームのことを悪く言うつもりはねえよ。気のいい連中で、俺もあの村の宴会に参加したことがあるしな。だけどよ」  木こりの顔が、心なしか青ざめたように見える。 「ケーキに入れたり、肉を軟らかくするために使うってのはまだ分かる。でも『ハチミツかけごはん』とか『ハチミツのハチミツ割り』ってのは何なんだ⁉ うう、思い出したら気分が……」  首を振って悪夢を振り払った木こりの視線には、学生たちに対する『同情』の成分がたっぷりと含まれていた。 「ま、ハチミツの質が良いってことは間違いないんだ。覚悟を決めるこったな」  その村は、甘党にとっての楽園。しかし、そうでない者には――?  木こりを見送った学生たちは、再びハニーコームへ向かう山道を歩き始めた。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-06-15
完成 2020-07-01
【水着】ふんドラゴラを捕まえて!! (ショート)
正木 猫弥 GM
 魔法学園『フトゥールム・スクエア』が誇る植物園、『リリー・ミーツ・ローズ』。  世界中の植物が集うこの施設は、学生たちが日々の喧騒から逃れる癒しの場であると同時に、貴重で危険な植物が封印された魔窟とも呼べる場所でもある。  そんなリリー・ミーツ・ローズから、ある特殊な魔法植物が『脱走』を果たした。  時は夏。フトゥールム・スクエアでは、どこか浮かれた雰囲気が漂っている。  学生たちの大半は、学園に迫る脅威を未だ知らずにいたのであった――。 「――全員揃ったな。皆には、『ふんドラゴラ』の捕獲任務に当たってもらいたい」  集められた学生たちに、その教師は手短に緊急課題の内容を述べた。  ふんドラゴラ。それは数十年前、とある学園教師が偶然生み出したマンドラゴラの亜種であり、そのあまりに特殊な性質からリリー・ミーツ・ローズに封印された魔法植物の名前である。 「ふんドラゴラに毒性や特殊な薬効などは一切無い。その分、根に蓄えられたエネルギーで、猛スピードで走り回る性質がある」  そう言いながら、当時記されたふんドラゴラのスケッチを見せる教師。マンドラゴラと言う割にはやたらと白くすべすべしていて、二股に分かれた大根のようにしか見えない。  だが、そんな事よりもっと目に付く特徴がふんドラゴラにはある。 「……もう分かったと思うが、ふんドラゴラには自らの皮や葉を材料とした『ふんどし』を履く性質がある。こいつらのふんどしに対する執着は凄く、ふんどしを履いている者には猛スピードで突進してくるぞ」  次に教師が持ってきたのは、虫取り網や漁師が使う投網など、ふんドラゴラ捕獲に使えそうなグッズの数々。 「皆には、園の外に出てしまったふんドラゴラの捕獲を担当してもらう。すばしっこい上に夜行性である奴らを日中捕らえる事は不可能に近いが、実は一網打尽にできそうなチャンスがある」  最後に教師が取り出したのは、『ふんどしボディービル大会開催!!』と書かれたパンプレットであった。 「……今回の件の責任を取って、『植物委員会』の学生たちにふんドラゴラをおびき寄せる作戦を立案させたんだが、一部の連中がやたら盛り上がってな。変な風に話が転がった挙句、園の近くでボディービル大会をやる事になったってわけだ」  ま、罰を与えるだけが教育ではないしな、と教師は苦笑いを浮かべた。 「園内は俺と他の植物委員会が責任を持つ。すまんが大会の安全を守りつつ、ふんドラゴラを一匹残らず捕まえてもらいたい。……頼んだぞ」  そう言いながら、教師は学生全員に紐のような物を握らせていく。手を開くと、そこには真新しい純白のふんどしがあった――。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-07-06
完成 2020-07-23
きれいなコルネさんは、好きですか。 (ショート)
正木 猫弥 GM
「おっすおーーっす! いやあ、良い朝だねえ!」  この人に『眠い』とか『だるい』とかいう感覚はあるのだろうか。  魔法学園『フトゥールム・スクエア』学園長、元気一杯の【メメ・メメル】を前に、早朝から課題に駆り出された学生達はそんな想いを新たにする。  ここは『スペル湖』にほど近い森の入り口。少し進んだ先には、学園長所有のログハウスが建てられているらしい。  独りで研究や骨休めを行うために確保した場所ではあるが、神出鬼没のメメたん先生がじっとしている事などそうあるはずもなく。 「最近全然行けてないから、水やりをしてない『花』が凄く怒ってると思うんだよね。悪いんだけど、様子を見てきてもらえない?」  ……水をやらなければ、花は枯れるのではなかろうか。 「ログハウスの鍵はこれね。ちゃんと水やりをすればすぐ大人しくなるから、かっとなって火を付けたりしたらメッ! だぞ☆」  学生達の疑問をよそにぽんぽん話を進める学園長と、自由奔放なメメたんらしいと思いながら課題の説明を受ける学生達。  ここまでであればよくある学園生活のひとコマ、というだけなのだが――今回は少し様子が違うようだ。 「水やりが終わったら、ログハウスや近くの施設を使って存分に楽しんでいいからね。で、一つお願いがあるんだけど……それにコルネたんも加えてもらえないかなあ?」  【コルネ・ワルフルド】。学園教師にして新入生の対応や広報まで担当する優しいお姉さん。  そんな彼女の事を学生達も知らない訳ではないが、何故今その名前が出てくるのだろう? 「最近何かと忙しかったからね。コルネたんに無理させちゃったかなって、メメたんちょっち反省してるんだ。……で、これはせめてもの埋め合わせ」  学園長が取り出したのは、白地に葡萄の柄があしらわれた木綿の着物と赤色の帯。 「これは『浴衣』っていう東方の着物でね。夏の暑い日に、これを着てお祭りに行ったりするんだって。でも、これはあくまで小道具。コルネたんを本当の意味で癒す事が出来るのは、君達しかいないと思うんだ。……だから、頼むね☆」  コルネたんにはちゃんと纏まった休みを取ってもらうから安心してね、と言いながら、我らが学園長は学生達にウインクを飛ばすのだった。
参加人数
5 / 8 名
公開 2020-08-04
完成 2020-08-21
勇者を憎む町にて (EX)
正木 猫弥 GM
「そんな悪い子は、『フトゥールム・スクエア』の怖い魔女に連れていかれるよ」  傭兵の町『バルバグラード』の子供達は、夜更かしや悪戯をすると母親からそう叱られるのだという。  バルバグラードの住民達が、かの魔法学園をそこまで敵視するのには理由がある。  辺り一帯を荒らし回る『バルバグラード盗賊団』が、フトゥールム・スクエアの学生達の手により壊滅させられたのは、今から30年程前の事。  盗賊稼業を捨てる羽目になってからも、彼らのフトゥールム・スクエアに対する畏怖と嫌悪の感情は残り、世代交代を経た今もそれは続いている。  荒くれ者の血を引いた町の若者は、その多くが傭兵となり、己が腕一本で栄光を掴み取る日を夢見る。  フトゥールム・スクエア何するものぞ――バルバグラードは、そういう雰囲気が漂う場所であった。 ◆ 「――早速だが本題に入ろう。傭兵の町バルバグラードに、『ドッペルダケ』が発生した可能性がある」  フトゥールム・スクエアの会議室。集められた学生達に、緊張した面持ちの教師が説明を始める。 「ドッペルダケはヒューマンにのみ寄生する特殊なキノコだ。寄生された宿主は、自分でも気付かないままドッペルダケの繁殖に利する行動を取るようになる。寄生された身体の部分を隠したり、部屋に閉じこもりがちになる等が初期の症状だ」  ドッペルダケは寄生が進むと全身が変異し、最後には理性を失った『歩くキノコ』と化して周囲に爆発的に胞子を撒き散らす。その状態になるまでは、宿主は徹底的に寄生されている事実を隠そうとするらしい。  幸いにもドッペルダケの治療法は既に確立されており、初期段階であればフトゥールム・スクエアでの治療が可能だという。 「これまで宿主の足取りを追跡し続け、どうにか初期症状の段階で対処できていたのだが、今回は場所が悪かった」  バルバグラードに、ドッペルダケの宿主がいると考えられるようになった理由。それは、町に長期滞在をしていた行商人の1人が、町を出立後にドッペルダケの感染が判明した事がきっかけだった。  香水や宝飾品など、高級品を取り扱うその行商人が接触した人数は決して多くはない。状況から考えて、バルバグラードの住人からドッペルダケの菌が感染したと考えられる。 「こちらもバルバグラードに事情を説明し、宿主特定の為に協力を依頼したのだが、にべもなく断られてな。……今はそんな場合ではないのに」  苦々しく呟いた教師だったが、自分を見つめる学生達の視線に気付いて話を続ける。 「お前達にはこれからバルバグラードに潜入し、ドッペルダケの宿主を特定して連れ出してもらいたい。事態は一刻を争う。頼んだぞ」  バルバグラードの隣町にはフトゥールム・スクエアの医療班が待機しており、宿主をそこまで連れていくことができれば治療が可能になるとの事だった。  一気に話を終えた教師は、厳しい表情を崩さないまま学生達に出立を促すのだった。
参加人数
6 / 8 名
公開 2020-08-30
完成 2020-09-19
メメル&スピッティの必殺技相談室 (ショート)
正木 猫弥 GM
 魔法学園『フトゥールム・スクエア』の校庭。  授業中、多くの血と汗と涙が流れるこの場所では、放課後も修練に余念がない学生達が居残りを行っている。 「………………」  黙々と武器の素振りを続ける者。 「フン! フン!」  全身から大粒の汗を滴らせながら、筋トレに励む者。 「でやああああっ!」 「はあああああっ!!」  そして、仲間同士で激しく組手を行う者――。  追い求める大切な『何か』のために、自分自身を鍛え続ける学生達を、校庭の片隅からじっと見つめる2つの人影があった。 「今日もやっとるな~。感心感心!」 「めぇ~」  学園長【メメ・メメル】。そして、客員教授【メッチェ・スピッティ】。校庭を見守る彼女達の眼差しは限りなく優しい。  しかし、それと同時に彼女達の目には、最近学生達の中に『迷い』を抱える者が多く映るようになっていた。 「皆キラキラしてるめぇ~。でも……」 「そうだねえ……」  学生達が、とてつもない素質を持った金の卵である事は間違いない。学園で会得した技能を、己だけの『必殺技』へと昇華させる者が出始めているのもその証拠だろう。  しかし、誰もが目指す道を最短で往けるとは限らない。  時にもがき、苦しみながら進まなくてはならないのが人生の常であり、そんな悩める学生に手を差し伸べる事こそが、教師の本分であるだろう。 「高みに至るには、『技』と『体』だけでは不十分だねぇ。『心』を解き放ち、迷いの霧を晴らす事ができれば、きっと道が開けるはずだめぇ」 「メッチェたん、良い事言うねえ! そのために、ちょっと一肌脱いでみよっか!」  そんな会話を交わした2人は、何やら相談しながら校舎へと引き返していった。  数日後、学園の掲示板に奇妙な貼り紙がされた。  文面はたった一行、『必殺技の相談乗ります』。後は日時と、開催場所が保健室である事だけが記されている。  大半の者が素通りしていくその貼り紙に、不思議な引っかかりを感じた一部の学生は、書かれた内容を心に留めてその場を後にする。  メメル&スピッティの不思議な修行は、こうして開催される運びとなったのだった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-09-27
完成 2020-10-14
闘え!! 木人拳 (ショート)
正木 猫弥 GM
「木人10号、起動確認」 「よし、成功だ!」  祭壇に鎮座している木像の瞳に赤い光が点ると、その場にいた人々の間で歓声が上がった。  村人の1人が、用意した水晶玉に両手を乗せて念を込める。すると、デッサン人形のような見た目のその木像は、人が入っているかのような軽快な動きを見せ始めた。 「村長、これで一安心ですね」 「うむ。10体もの『木人』がこうして動いてくれるのは、皆がきちんと祭壇を管理してくれたおかげじゃな。礼を言うぞ」  長い髭をしごきながら、村長の老人が村人達をねぎらう。  ここは『アルマレス山』の麓にある集落の1つ、木こりと木工職人の村『ドレスト』。高級ハチミツで名高い隣村の『ハニーコーム』に比べ、村人達の暮らしぶりはごく慎ましい。  しかし、地味で目立たないドレストの村が、10年に1度だけ大きな注目を集める日がある。  ハニーコームとは反対側の隣村、『ルガルク』と共同で開催する伝統行事『木人武闘会』。世にも珍しい『ウッドゴーレム同士の殴り合い』を一目見ようと、各地から多くの人が押し寄せてくるのだ。 「前回は不幸な事故があったからのう。今回はそんな事のないよう、ルガルクとよく打ち合わせをして――」 「事故だと? よく言うぜ。あれはお前らが仕組んだ事だろうが」  村長の言葉を遮り、祭祀場に乱入してきた若い男。それは、話に出たばかりのルガルク村の村長であった。 「……お主、なぜこんな所で油を売っておる?」  ドレストとルガルク、2つの村の村長が対峙する。村の規模も生業もほぼ同じである両村は、長年に渡るライバル同士の関係にある。 「けっ、相変わらず気に食わない連中だ。この俺自ら、わざわざ報告に来てやったのによ」  口の端を歪めながら、ルガルクの村長が言葉を吐き捨てる。 「報告じゃと?」 「ああ。耳の穴かっぽじってよく聞けよ。俺達ルガルクは、木人武闘会に生身で1名出場させる事にした。……おい、入っていいぞ!」  ルガルクの村長に促され、1人の巨漢がのっそりと祭祀場の入り口をくぐり抜けた。天井に頭をつきそうなその大男には、強面の人相も相まって凄まじい威圧感がある。 「な、何じゃその男は?」 「傭兵の町『バルバグラード』から腕利きを1人雇った。当日はこいつに武闘会に出てもらう。お前達のせいで動かなくなった、うちの木人の代わりにな」 「お、お主。一体何を考えておるのじゃ……?」 「そんなの決まってるだろ? 俺も木人武闘会を盛り上げたいんだよ。ただ……前みたいな事故は起こるかもなあ?」 「ま、待つのじゃ!」  制止も虚しく、大男を引き連れたルガルクの村長は、高笑いを響かせながら祭祀場を立ち去るのだった。 ◆ 「――今からおよそ200年前。アルマレス山の麓に、ゴーレムの研究ばかりを行う変わり者の魔術師がいた。彼がドレスト・ルガルク両村に10体ずつ授けたのが、『木人』と呼ばれるウッドゴーレムだ。伝承によると、この2つの村の間でもめ事が起こると、人の代わりに木人を戦わせて解決を図ったのだという」  魔法学園『フトゥールム・スクエア』の教師が語るのは、奇妙なゴーレムが織りなす2つの村の歴史であった。 「はっきり言って、そのゴーレムに実用性はほとんどない。数日動かすのに森の精気を10年間も充填しなくてはならない上、出せる力はせいぜい一般人と同じ程度だからな」  それでも、魔法適性のない者が木人を操作できるよう、水晶玉に特殊な処理を施した魔術師の技量には目を見張るものがある。  その魔術師が亡くなった後も、2つの村の人々は木人を大切に守り続けてきた。  10年に1度しか使えないものを、実際の紛争解決に使うのは難しい。代わりの利用法として考え出されたのが、村対抗で木人達を戦わせる『木人武闘会』だったのだ。 「競技として木人達を戦わせる事が、一種のガス抜きになったのだろうな。両村は長年深刻な対立をせずに済んだのだが、前回の武闘会で事件が起こった」  木人は頭・胴体・右腕・左腕・両脚の5つのパーツに分類される。その中で、頭だけは替えが効かないのだという。 「詳しい経緯は不明だが、ドレスト側の木人が放った突きが頭部を直撃し、ルガルクの木人の1体が故障してしまったらしい。当然、その木人を操作していた村長の息子は抗議をしたが、トラブルを恐れた当時のルガルク村長は、それ以上の追及を許さなかった」  その時はそれで収まったものの、最近ルガルクの村長が代替わりした事で状況は変わった。 「……今のルガルク村長は、木人を操っていたその息子だ。10年も前の事なのに、まだしつこく根に持っているらしい」  執念深いルガルクの現村長は、動かなくなった木人の代わりに傭兵まで雇い、復讐を果たそうとしている。 「ルガルクの村人達はともかく、村長の木人とその傭兵がラフプレーを行ってくる可能性は高い。状況がさらに悪化すれば、2つの村の全面衝突は避けられなくなるだろう。お前達は木人武闘会にドレスト側の選手として参加し、両村の木人を何としても守り通してくれ。木人を操るか、それとも生身で戦うか。それは各人に任せる。頼んだぞ」  今は悪意を向けられているとはいえ、これ以上ルガルクの木人が故障するような事態は避けたい。それがドレスト村の総意であった。  長い話を終えたその教師は、疲れた表情を浮かべながらも鋭い視線を学生達に向けるのだった。
参加人数
2 / 8 名
公開 2020-10-23
完成 2020-11-06
どうせ みんな ねこになる (ショート)
正木 猫弥 GM
「コルネ先生!」 「落ち着いて。何があったか話してくれるかな?」  魔法学園『フトゥールム・スクエア』が誇る植物園、『リリー・ミーツ・ローズ』。  異常事態に駆けつけた学園教師【コルネ・ワルフルド】は、泣きじゃくる植物委員の女子学生から聞き取りを行っていた。 「たまたま温室の近くで、収穫したマタタビを乾燥させていたんです。まさかその中に、『マタタビモドキ』が混じってたなんて……」  コルネに渡されたハンカチで涙を拭いながら、必死で女子学生は言葉を紡いだ。  猫が酔っ払ったような症状を見せる事で知られるマタタビ。しかし、マタタビモドキはマタタビとは似て非なる魔法植物の一種であり、その効能は猫以外の動物や種族にも及ぶ。  乾燥させたマタタビモドキの実には、通常のマタタビよりさらに強烈な陶酔作用がある。実が発する香りを一定量嗅ぐと、その者は『自分は猫である』という幻覚に囚われてしまうのだ。 「猫化した学生が温室に実を持ち去ったせいで、温室の中にマタタビモドキの香りが充満してしまったんです。その場にいた全員で温室内を探し回ったんですが、それが却って良くなかったみたいで。皆が次々ニャーニャー鳴き始めて、私、怖くなって逃げてきたんです」 「大変だったね。でも、アタシが来たからにはもう安心だよ」  再び涙ぐむ女子学生の肩に手を置いて、コルネが優しく語りかける。 「も、もしかして先生1人で行くつもりですか? 無茶ですよ! せめてマスクが届いてから――」 「……残念だけど、あまりのんびりはしてられないみたいだね。あの温室は、学園にとって貴重な施設。被害は最低限に止めないと」  温室内には貴重な薬草が多数栽培されている。猫化した学生が好き勝手に暴れ回れば、多大な損害が発生する恐れがあるのだ。 (うーん、干しブドウが足りない……。今日は忙しかったからなあ)  景気づけに干しブドウを食べておきたかったが、生憎手持ちを切らしてしまっている。  買いに行こうとした矢先に事件が起きてしまったので、今のコルネは干しブドウの摂取量が不足した状態であった。 「せ、先生……」 「大丈夫! 狼のルネサンスであるアタシが、マタタビなんかに負ける訳ないでしょ?」  力強く宣言したコルネは、不安げな表情を浮かべる女子学生にウインクをしてみせるのだった。 ◆ 「――というのがマタタビモドキの特徴だ。お前達には、温室内のどこかにある実の回収と、猫化した者の救出を頼みたい」  マタタビモドキに関する説明を終えてから、その教師は集められた学生達を一瞥した。 「と言っても、実の在り処の見当は付いている。お前達が来る前にコルネ先生が学生達の救助に向かっていたのだが、数時間経っても戻って来る気配がない。状況から考えて、恐らくコルネ先生も猫化してしまった可能性が高い。マタタビモドキの実を学生から取り上げた後で、自らがその香りにやられてしまったと考えられる」  猫化した学生の数は10人以上。その全員をたった1人で取り押さえ、温室の外に連れ出した手腕は流石と言うしかない。しかし、マタタビモドキの実を所持したままでの救助活動は、コルネ自身の猫化を当人の予想以上に早めてしまったのだろう。 「猫化しているとはいえ、あのコルネ先生を力づくでどうにかする事は難しい。だが、その猫に成りきった状態を利用すれば打開策は見えてくるはずだ。幻覚によって、仲間の姿が猫に見える等の影響が出るだろう。猫が二足歩行をする奇妙な光景が見えるはずだが、動揺せず落ち着いて対処してくれ。頼んだぞ」  教師はそう語り終えると、学生達に専用のマスクと容器を手渡して出立を促すのだった。
参加人数
2 / 5 名
公開 2020-11-23
完成 2020-12-07
ワイズ・クレバーの単純なお仕事 (ショート)
正木 猫弥 GM
「おはようございます、学園長」 「おっすおっーす! 今日も寒いねえ!」  ある冬の日。  魔法学園『フトゥールム・スクエア』の大図書館、『ワイズ・クレバー』の一室で、学園長【メメ・メメル】と教師が話を交わしている。  2人の目の前には、古びた木製の本棚が鎮座している。収められた書物は本棚に負けず劣らずのオンボロだが、見る者が見ればその禍々しい雰囲気に気付いたかもしれない。 「……おお、結構溜まってるねえ。もうそんな時期かあ」 「前回から結構経ちましたからな。そろそろ頃合いかと」  本棚の書物は、その危険性故に禁書に指定されたいわく付きの代物揃い。学園長自らが施した封印は完璧ではあるが、それでも少しずつ『瘴気』が溜まってしまうのは避けられないのだ。 「見た感じ、瘴気を発散させるには最低10時間は必要だな! となると、『紙魚』が発生するのは避けられないから……」 「やはり、『虫干し』が必要となりますな……」  虫やカビを防ぐため、本や衣類に風を通すのが虫干しであるが、2人の言うそれは意味合いが異なる。  無数の禁書から発せられた瘴気は、それだけで周囲に様々な影響を及ぼす。元はちっぽけな紙魚であっても、それが巨大化し、大量発生するとなれば見過ごせない脅威となるだろう。 「瘴気が充満し過ぎると危険ですので、本棚には1時間おきに封印の解除と再封印を自動で行う細工を仕掛けるようにしましょう。単純ではありますが、1日がかりの過酷な作業になりますな」 「その分、報酬はバッチリ弾んじゃおっかな~☆ サポート態勢も整えて」 「かしこまりました。早速手配いたします」 「じゃあよろしく!」 「はっ」  ウインクをして颯爽と立ち去る学園長を、教師は恭しく見送った。 (相変わらず決断が早い。流石だな)  気まぐれな言動に振り回される時もあるが、教師が学園長に抱いている尊敬の念は揺らぐ事はない。しかし。 「にしても……ネーミングセンスだけはどうにかならんかなあ」  そう独り言ちながら、教師は『メメたん☆文庫』と名付けられたその本棚を見つめるだった。
参加人数
6 / 8 名
公開 2021-01-03
完成 2021-01-22
ぬるぬるショコラティエ? (ショート)
正木 猫弥 GM
「さっさと起きなさい!」  強烈なビンタを見舞われ、混濁していた意識が急激に取り戻されていく。 「う、うう……?」  新進気鋭のオペラ歌手、【エメリート・クラッセ】が目覚めた時に最初に目にしたもの。  それは、長い前髪で両目を隠した陰気な雰囲気の女であった。 「こ、ここは……? 君は一体……?」 「ふん、死にかけているくせに呑気なものね。流石今をときめく大スターは違うわ」 「!? な、何だこれは!!」  首から下がずしりと重く、指1本すら動かす事ができない。嘲るような女の言葉によって、エメリートは初めて自分の身体が半透明の茶色い粘液に取り込まれている事を認識した。 「な、何故、こんな真似を……? 私に何の恨みが……?」 「恨み、などという低俗なものではないわ。これは天罰よ。偉大なる芸術を踏みにじった愚か者には似合いの末路だわ!」 「……!」  『バグシュタット王国』の南東部は、歓楽街であると同時に多くの劇場や音楽ホールが存在する事で知られている。  その中で最も有名なものの1つ、『ジルフォニアホール』でエメリートが主役を務める歌劇『ショコラティエ』は、『トロメイアの菓子職人』という戯曲を下敷きとしている。元は悲劇であった原作を喜劇へと改変した事で、普段観劇をしない層から絶大な支持を得た半面、コアなファンからは批判を受ける事も少なくない作品であった。 (つまり、この仕打ちは『ショコラティエ』に対する不満って事か。冗談じゃない!)  今回の新作歌劇を公演するにあたり、エメリートはもちろん多くの関係者が血のにじむような労苦を重ねてきたのだ。仲間達の、そして自分自身の芸術家としての誇りにかけて、こんな脅しに屈する訳にはいかない。  そして、エメリートには帰りを待ってくれている人がいる。 (愛しいマリー。そしてポーラ、ジョアンナ、アリシア……。えーと、後誰だっけ?)  大切な恋人『達』の顔を思い浮かべながら、エメリートはこの窮地を脱するために必死で頭を巡らせるのだった。 ◆ 「――おお! 『フトゥールム・スクエア』の皆さん、よく来て下さいました!」  『ジルフォニアホール襲撃事件』が発生してから12時間が経過した頃。  歓楽街の中央広場に避難していたジルフォニアホールの支配人は、待ちかねていた救いの手に目を輝かせた。 「脅迫状が届いていたのに、本気にしなかった私の責任です。もっとちゃんと警備体制を敷いていれば……」  ほっとして気が緩んだのか、支配人が涙ながらに反省の弁を述べる。  一方の学園側も、提供を受けた脅迫状から分析を行い、実行犯を特定する事に成功していた。  支配人は学生達が告げた【セレス・ミラン】という名前に心当たりはなかったが、容姿と『スライムを自在に操る』という特徴に大きく頷いてみせた。 「その女で間違いありません。ホールの正面入り口と、楽屋に通じる裏口は得体の知れない茶色のスライムが塞いでいます。ホール内にも同じようなスライムがうじゃうじゃいて、うかつに手出しできなくて……」  言葉の端々に無念さをにじませながら話を続ける支配人。  1000人超の観客数を誇るジルフォニアホールには、それだけスライムが入り込めるだけの隙間が多いという事になる。戦いに慣れない者が手出しをすれば、さらなる被害を招く事になるだろう。 「エメリート・クラッセは我がジルフォニアホールの、いえ、バグシュタット王国の宝です。どうか、どうかエメリートを助けてやって下さい……」  無名時代にエメリートを見出し、引き立ててきた支配人にとって、彼は自慢の息子同然。  溢れる涙をハンカチで拭いながら、学生達に深々と頭を下げる支配人であった。
参加人数
6 / 6 名
公開 2021-02-08
完成 2021-02-25
Come On A My Mouth! (ショート)
正木 猫弥 GM
「あ、あった! やっと着いた……!」  長らく歩き回っていたその少女は、ようやく見つけた『目的地』を安堵の眼差しで見つめた。  少女のいる裏路地は、魔法学園『フトゥールム・スクエア』が有する居住区域『レゼント』でも特に猥雑な一角である。  職人や小商人の店舗兼住居が立ち並ぶ中、貴族が住むような『お屋敷』がそびえ立つ光景はかなり奇妙だが、少女は特に気にする様子はない。 「早く、早く行かなきゃ!」  熱に浮かされたような表情で、屋敷の扉に手を伸ばす少女。その指先がノブに触れようとした次の瞬間、少女の腕を何者かが掴んだ。 「こんにちは。この屋敷に何の用かな?」 「コルネ先生!? ど、どうしてここに!?」  少女の前に立ちはだかったのは、フトゥールム・スクエア学園教師【コルネ・ワルフルド】であった。 「そりゃ、ウチの制服を着た子が真っ青な顔でフラフラしてたら声をかけるよ。この屋敷に何かあるの?」 「私はここに行かないといけないんです! 離してください! 離せ!!」 (やっぱり。この子、普通の状態じゃない!)  コルネがこの女子学生を見かけたのは偶然だったが、彼女が手にしている紙切れから異様な気配を感じたのは気のせいではなかったらしい。 「ああああああああああ!! があああああああああああ!!」 「くっ!?」  半狂乱の状態で無理に取り押さえようとすれば、少女の身体に危険が及ぶ。 「ごめん!」 「うっ……?」  コルネが少女の首筋に手刀を叩き込んで気絶させる。すると、瀟洒な佇まいを見せていたはずの屋敷に変化が起きた。 「?“#$%&=~|(‘+*!!!」  目の前の屋敷から発せられる奇妙な『鳴き声』は、窓や扉を激しく開閉し、打ち鳴らす事で生まれた音であった。 (建物内に人気は全く感じない。……じゃあ、この屋敷自体が生きてるって事?)  その推測を裏付けるかのように、コルネを威嚇する騒音がいつまでも続く。 「仕方ない……!」  手出しをしようにも、背中に少女をおぶっている以上無理はできない。声に無念さをにじませながら、断腸の思いでこの場を撤退するコルネであった。 ◆ 「――その子の具合は?」 「検査の結果、特に異状はないようです」 「そっか。よかったよかった☆」  フトゥールム・スクエアの保健室。  コルネから連絡を受けた学園長【メメ・メメル】は、ベッドですやすやと寝息を立てる女子学生の顔を見ながら微笑を浮かべた。 「でも、まさかあの屋敷全体がミミックとは思いませんでした。しかも、獲物をおびき寄せて喰らおうとするなんて……!」  主人の命を忠実に守り、中に入れられた物を保管するために生み出されたのがミミックという存在であるが、長い年月を経る事で暴走するケースがある。  コルネが遭遇した『ミミックハウス』は、記録がわずかしか存在しない希少なモンスターであったのだ。 「レアなモンスターだけど、オレサマのシマでこんな事やるなら許しちゃおけねえな! コルネたんはミミックハウス討伐の課題を出したら、周辺住民の避難の手配をする事。いいね!?」 「はい!」  学園長の指示を受け、コルネがすぐさま行動を開始する。 「そんなに腹が減ってるなら、とっておきをデリバリーしてやるぜ。フトゥールム・スクエアの『フルコース』はと~っても活きが良いから、覚悟しとけよ☆」  コルネを見送った学園長は、そう呟きながら不敵な笑みを浮かべるのであった。
参加人数
6 / 7 名
公開 2021-03-04
完成 2021-03-23
嘘つきはメメたんの始まり (ショート)
正木 猫弥 GM
「おっすおっーす! 遅かったじゃ~ん。メメたんすっかり待ちくたびれちまったぜ☆」  相変わらずの明るい調子で、『フトゥールム・スクエア』学園長【メメ・メメル】が部下である【コルネ・ワルフルド】に話しかける。 「………………」  対するコルネは、メメたんを見つめたまま微動だにしない。顔面蒼白で口をつぐみ、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。 「んも~、何か暗いなあ! スマイルスマイル! 教師がそんな辛気臭い顔してたら示しがつかないぜ!?」 「示しがつかないのはどっちですか! 何で逮捕されてるんですかああああああっ!!」  2人の間を隔てる鉄格子を両手で握りしめたコルネは、泣き叫びながら膝から崩れ落ちたのだった。 ◆ 「――いや~、びっくりしました。いつかこんな日が来るかもとは思ってましたけど、実際目の当たりにした時の衝撃が大きくて。でも、学園長の容疑が晴れて本当に良かったです」 「……コルネたん、さりげなく酷い事言ってない?」  数分後。学園長から説明を受けたコルネは、『メメたん逮捕』の知らせが誤報であった事に胸をなでおろしていた。 「それにしてもいい度胸してますね。学園長の名を騙って無銭飲食するなんて……」  メメ・メメルの『偽者』が、街中を手玉に取った。犯行のあまりの大胆さに、コルネは感心せざるを得なかった。  現在2人がいる場所は、煙と極楽の街『トルミン』を守る自警団、『ギルッチ団』の屯所である。  今回学園長がトルミンを訪れたのは、知り合いの旅芸人一座の座長から、街最大の温泉郷『ギンザーン』での公演を観に来て欲しいという招待状を受け取ったためであった。  トルミンに到着して早々、学園長は詐欺の容疑で捕まる羽目になった。しかし、被害者の1人である宿の仲居が犯人は学園長とは別人であると証言してくれたため、すでに濡れ衣であった事が判明している。 「偽者が泊まってた『馬閣楼』の女将とは顔見知りだから、オレサマの名前で別人が好き勝手してたらすぐにバレるはずなんだけどな! 生憎今はトルミンを離れているとかで、まんまと騙されちゃったみたい。……んな事より、メメたんちょ~っち気になる事があるんだよね」  手招きをした学園長が、コルネに小声で話し始める。 「実はその偽者、数日前から行方不明らしいぜ! しかも荷物をそっくりそのまま、宿に置いたままなんだって!」  「……なるほど。状況から考えて、性質の悪い連中に捕まった可能性がありますね」  コルネは理解した。メメたんが牢から出ない理由は、『本物』がいる事を誘拐犯に知られないようにするためだったのだ。 「コルネたんはすぐに学園に戻って、捜査に参加してくれる学生を集めて。頼んだぜ!」 「分かりました!!」  学園長の命を受け、力強く頷いたコルネは外へと飛び出していった。 「今日は1日、芝居を観たり温泉に入ったりしてのんびりするつもりだったんだけどなあ。人気者は辛いぜ☆」  牢屋の壁に背中をもたせかけながら、独り苦笑いを浮かべるメメたんであった。
参加人数
5 / 6 名
公開 2021-03-28
完成 2021-04-13
擬人化始めました!! (ショート)
正木 猫弥 GM
 魔法学園『フトゥールム・スクエア』、ある日の昼休み。 「うーん、今日は平和だなあ」  物騒な事件は持ち込まれていないし、どこかの教室で厄介な事故が起きたという報告もない。  久々に訪れた穏やかな時間を、学園教師【コルネ・ワルフルド】は満喫していた。 「腹減った~」 「ねえねえ、どこでお弁当食べよっか?」  校庭に植えられた木の上で、干しぶどうがギッシリ……というより干しぶどうしか入っていないサンドイッチをぱくつく。  樹上にいると、学生達の声がどこからともなく聞こえてくる。その内容はどれも穏やかなものばかりで、今日の平和を裏付けるものとコルネは思っていたのだが……。 「今日は何食おうかなあ」 「擬人化~、擬人化はいらんかね~」 「おい、早く学食行こうぜ!」 (……んん?)  ありふれた雑談の中に、何か異様な単語が紛れていたような気がする。しかも、その声の主にコルネは非常に心当たりがある。 (しょうがない。行ってみるか)  軽い身のこなしで木を飛び降りたコルネは、残りの干しぶどうサンドを口に放り込んでから声のする方へと向かった。 ◆ 「擬人化~、擬人化はいらんかね~。本日限定だよ~」 「……やっぱり学園長でしたか」  コルネの予想通り、奇妙な台詞を発していたのは我らが学園長【メメ・メメル】その人であった。 「コルネたん、おっすおっーす! さっすが、耳が早いねえ☆」  校庭の片隅にテーブルを設置し、怪しい露天商さながらに学生達に呼び込みをかける学園長の事は一旦置いておく。問題はテーブルの上、メメたんが配ろうとしている小瓶の中に何が入っているかという事である。 「アタシの事はいいんですけど、今度は何を始めたんです?」 「それを説明するには論より証拠だけど……お、ちょうど戻って来た!」  コルネの質問に学園長が答えようとした所に、猫のルネサンスらしき少女がやってきた。  少女は『擬人化始めました』と書かれたのぼりを手にしている。どうやら学園長に言われて露店の宣伝をしていたらしい。 「お前の言う通り、この辺をうろついてきたにゃ」 「お疲れー! どうもありがとね☆」 「さっさと魚よこせにゃ」 「はいはい」 「あの、論より証拠って? それと、その子はうちの学生ですか?」 「まあ見ててよ。5! 4! 3! 2! 1!」  少女に魚の干物を渡した学園長が、戸惑うコルネを制しながらカウントダウンを開始する。  すると――。 「0!!」 「!?」  カウントダウンを終えた瞬間、少女の身体はいきなり白煙に包まれた。そして、もうもうと立ち込める煙の中から現れたのは――美味しそうに干物を食べる1匹の猫であった。 「……これってつまり、あの子の正体がこの猫って事ですか!?」 「その通り!! いや~、久々にカレーを作ろうと思って鍋に色々入れたら爆発しちゃってさあ。でもこんな面白い薬が作れたんだから結果オーライだぜ☆」 「カレーを爆発させないでください。後、それでとんでもない薬を作らないでください……」  相変わらず無茶苦茶である。頭が痛くなってくるのを感じながら、コルネは学園長にツッコミを入れた。  聞けばこの『擬人化薬』は揮発性で後数時間しか持たない上、少量しか作れなかったために学生達に配布しようと思い立ったらしい。 「さっきは会ったばかりの野良猫に使ったから、大して変身時間が続かなかったけど。一緒に暮らしているペットや愛用の武器なんかであれば、もっと長く変身していられるだろうね」  使用者の思い入れが強ければ強いほど、この薬の効果時間は長くなる。上手くすれば、最大で丸1日程度は擬人化していられるだろうとの事だった。 「さあさあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」 (やっぱ何事もないより、刺激があった方がフトゥールム・スクエアらしいかな? うちの学生達なら、きっと楽しくあの薬を使ってくれるはずだしね)  再び呼び込みをかけ始めたメメたんを見つめながら、独り苦笑いを浮かべるコルネであった。
参加人数
4 / 6 名
公開 2021-05-01
完成 2021-05-18

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サンプル


 名峰『アルマレス山』の麓には、八色の街『トロメイア』以外にも小規模な集落が散らばっている。
 人口三十人ほどの小さな村、『ハニーコーム』もその内の一つ。
 周囲はうっそうとした森と、耕作には適さない平野に囲まれていて、どこか浮世離れした雰囲気が漂う集落である。
 そんなハニーコームの村から、『フトゥールム・スクエア』に向けてゴブリン退治の依頼が出されてから数日の後のこと。
「――おい、あんたら。もしかしてハニーコームに行くつもりか?」
目的地に向けて、山道を歩く学生たち。そんな彼らに話しかけたのは、ハニーコームの隣村に住む森の木こりであった。
「そうか、ゴブリンを退治しに。そりゃあご愁傷様……おっと、いけねえ」
 思わず口を滑らせた木こりの男を、学生たちは怪訝な表情で見つめた。
 フトゥールム・スクエアに寄せられた今回の依頼に、特に不審な点は見られない。強いて言えば、退治するゴブリンの数の割に、報酬がかなり多いことだろうか。
 聞けばハニーコームの村人は全員養蜂を行っていて、彼らの作り出すハチミツは世の美食家や菓子職人にとっては垂涎の的であるらしい。
 彼らの収入は近隣の村々に比べてかなり多く、報酬の高さはそれが理由と思われる。
 至れり尽くせりに見せるこの依頼の、どこに問題があるというのだろうか。
「……いや、ハニーコームのことを悪く言うつもりはねえよ。気のいい連中で、俺もあの村の宴会に参加したことがあるしな。だけどよ」
 木こりの顔が、心なしか青ざめたように見える。
「ケーキに入れたり、肉を軟らかくするために使うってのはまだ分かる。でも『ハチミツかけごはん』とか『ハチミツのハチミツ割り』ってのは何なんだ⁉ うう、思い出したら気分が……」
 首を振って悪夢を振り払った木こりの視線には、学生たちに対する『同情』の成分がたっぷりと含まれていた。
「ま、ハチミツの質が良いってことは間違いないんだ。覚悟を決めるこったな」
 その村は、甘党にとっての楽園。しかし、そうでない者には――?
 木こりを見送った学生たちは、再びハニーコームへ向かう山道を歩き始めた。