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月夜に泳ぐ鯉のぼり


ストーリー Story

●コウモリ軍団やってきた
 学園から遠くもなく近くもないところにある、某村。
 そこは今大変困っていた。
 最近、夜ごとコウモリの大群が押し寄せてくるようになったのである。
 それもただのコウモリではない。大きさこそ普通のコウモリだが、赤く光る目を持ち、異様に発達した爪と牙を有している……どうやら、ジャバウォックの一種らしい。
 ジャバウォック・コウモリはとにかく気が荒い。目が合っただけで威嚇し襲ってくる。一匹一匹が野猿程度の攻撃力を有しているので、一般人にはなかなか手に負えるものではない。
 そんなわけで老いも若きも男も女も夜、外を出歩けなくなってしまった。
 それをいいことにコウモリたちは農作物を食い荒らし、鶏小屋を襲い、羊や牛を噛みとやりたい放題。
 果敢に立ち向かった番犬は束になって襲われ、半死半生になる始末。
 困り果てた村人たちは、学園に助けを求めることにした。
 学園は直ちにそれを受け入れた。

●事前協議
 ジャバウォック・コウモリ退治依頼を受けた【ガブ】【ガル】【ガオ】達生徒は、ひとまず、どうやってこの問題を解決すべきか話し合った。
 最も確かな対処法は、ジャバウォック・コウモリ一匹残らず物理的に消滅させることだが……。
「それはなかなか難しいんじゃないかな。コウモリたちは村に居着いてるわけじゃないらしいし」
「本拠地探して、叩けばいいんじゃねーか」
「どうやって探す。相手は飛べるよ」
「何匹か捕まえて目印をつけて、後を追いかけんのはどうだ。蜂の子を取るときみてえに」
「今回はそこまでする時間、無さそうだなあ……とにかく今来ているコウモリを、村から追い出すことを先に考えよう」
 現れたジャバウォック・コウモリを一匹一匹叩いていくのも非効率的である。敵は大群。村は広い。そして言ってはなんだが味方は少数。いかに八面六臂走り回って奮闘しても、全滅させるのは難しいだろう。
 自分たちが村に常駐出来るならいいが、現実にはそうもいかない。
 残ったコウモリたちが機を見て再来する恐れは十二分にある。
 とすると……。
「村人たちが、コウモリを脅せる手立てを作れないもんかなあ。そうしたら、私たちが引き上げた後またコウモリが来ても、対処出来るだろう?」
「まあ、ねえ……」
 しばらく皆で頭を悩ませていたところ、一人が『そうだ!』と手を打った。
「あのさ、こんなのはどうかな? この前先生から聞いたんだけどさ、東方ではこの季節に――」

●迎撃開始
 満月煌々と冴え渡る、明るい夜。
 いつも通り村へ飛来してきたジャバウォック・コウモリの群れは、驚いた。
 昨日まではいなかった大魚の一団が、村の上をふわふわ飛んでいたのである。
 大きな丸い目、大きな丸い口。変にぺらぺらした体。
 コウモリたちは怪しみ警戒し、ホバリングして様子を窺った。
 そこで大魚が急に身をひるがえし、突進してきた。
 コウモリたちはびっくり仰天し、逃げ回る。

 生徒達は夜空を見上げながら、手元の糸を操り、空に浮かぶ鯉のぼりを自在に操る。
 この鯉のぼりは学園芸能・美術コースの先生方に協力を仰ぎ、製作してもらった特注品。
 一匹の大きさは全長4メートル。
 畳んだ状態から広げれば、風がなくとも浮き上がることが出来る。そして繋がった糸(最大500メートルまで伸びる)を操ることにより、前後左右上下自在に動かすことが可能。糸にも鯉自身にも魔法加工がしてあるので別の糸と絡まったり別の鯉と衝突したりすることはない。
 付け加えれば糸も鯉を作っている布も、ちょっとやそっと以上の力を加えても切れたり破けたりしないほど丈夫だ。
 ――真剣な依頼ではあるが、なんだか皆楽しそうである。特にガブガルガオの三兄弟。
「あ、そっちに飛んで行ったぞ、回り込め!」
「下に逃げる、高度下げろ!」
「ばかやろ、違う違う、右右! 右だっての!」



エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2021-05-21

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2021-05-31

登場人物 3/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《新入生》ルーシィ・ラスニール
 エリアル Lv14 / 賢者・導師 Rank 1
一見、8歳児位に見えるエルフタイプのエリアル。 いつも眠たそうな半眼。 身長は115cm位で細身。 父譲りの金髪と母譲りの深緑の瞳。 混血のせいか、純血のエルフに比べると短めの耳なので、癖っ毛で隠れることも(それでも人間よりは長い)。 好物はマロングラッセ。 一粒で3分は黙らせることができる。 ◆普段の服装 自身の身体に見合わない位だぼだぼの服を着て、袖や裾を余らせて引き摺ったり、袖を振り回したりしている。 これは、「急に呪いが解けて、服が成長に追い付かず破れたりしないように」とのことらしい。 とらぬ狸のなんとやらである。 ◆行動 おとなしいように見えるが、単に平常時は省エネモードなだけで、思い立ったときの行動力はとんでもない。 世間一般の倫理観よりも、自分がやりたいこと・やるべきと判断したことを優先する傾向がある危険物。 占いや魔法の薬の知識はあるが、それを人の役に立つ方向に使うとは限らない。 占いで、かあちゃんがこの学園に居ると出たので、ついでに探そうと思ってるとか。 ◆口調 ~だべ。 ~でよ。 ~んだ。 等と訛る。 これは、隠れ里の由緒ある古き雅な言葉らしい。
《幸便の祈祷師》アルフィオーネ・ブランエトワル
 ドラゴニア Lv23 / 教祖・聖職 Rank 1
異世界からやってきたという、ドラゴニアの少女。 「この世界に存在しうる雛形の中で、本来のわたしに近いもの が選択された・・・ってとこかしらね」 その容姿は幼子そのものだが、どこかしら、大人びた雰囲気を纏っている。  髪は青緑。前髪は山形に切り揃え、両サイドに三つ編み。後ろ髪は大きなバレッタで結い上げ、垂らした髪を二つ分け。リボンで結んでいる。  二重のたれ目で、左目の下に泣きぼくろがある。  古竜族の特徴として、半月型の鶏冠状の角。小振りな、翼と尻尾。後頭部から耳裏、鎖骨の辺りまで、竜の皮膚が覆っている。  争いごとを好まない、優しい性格。しかし、幼少より戦闘教育を受けており、戦うことに躊躇することはない。  普段はたおやかだが、戦闘では苛烈であり、特に”悪”と認めた相手には明確な殺意を持って当たる。 「死んであの世で懺悔なさい!」(認めないとは言っていない) 「悪党に神の慈悲など無用よ?」(ないとは言っていない)  感情の起伏が希薄で、長命の種族であった故に、他者との深い関りは避ける傾向にある。加えて、怜悧であるため、冷たい人間と思われがちだが、その実、世話焼きな、所謂、オカン気質。  お饅頭が大のお気に入り  諸般の事情で偽名 ”力なき人々の力になること” ”悪には屈しないこと” ”あきらめないこと” ”仲間を信じること” ”約束は絶対に守ること” 5つの誓いを胸に、学園での日々を過ごしている

解説 Explan

今回は、息抜き依頼。

村に被害を与えるジャバウォック・コウモリ軍団(推定100~150匹)を、ドローン的鯉のぼりで追い払っちゃおう。の巻。
ジャバウォック・コウモリの知的レベルは獣ですので、細かい作戦などは考えなくても大丈夫。
数が数ですから、追い回しから逃れ地上に降りて来るものもいるでしょう。そのときにはそれぞれのスキルで、追い払うなり退治するなりしていただければ、と思います。
鯉のぼりの色や形については、PCが指定出来ます。何かご希望があれば、プランにて指定ください。


NPCは狼3兄弟【ガブ】【ガル】【ガオ】が同行します。

*なお、鯉のぼりは依頼が終わった後、村に譲渡されることになります。コウモリが再度来たときの用心のために。



作者コメント Comment
Kです。
今回ミラちゃん家は、ちょっとお休み。
平和(?)な依頼が来ております。
せっかくの五月ですから、皆さん、鯉のぼりを上げてみましょう。




個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
私は赤い鯉のぼりを使わせて頂きますわ。なにしろ名前が「朱」璃、ですから。

蝙蝠達がどう逃げるかにもよりますが狼ズや仲間達と効率よく追い払えるよう立ち回りますわね。地上に落ちた蝙蝠がいましたら、糸を離さないようにしつつヴェン・サドムで攻撃、退治なり追い払うなりしますわ。手が届くようでしたら魔牙Ⅱも使ってみますわね

ただこの鯉のぼりの操作、何だか楽しいですわね。仕事ではありますが小さい頃に戻ったみたいで思わず笑みが零れてしまいますわ。こう、いかに生きているかのように操るかに拘ってしまいますわね♪狼ズには負けられませんわ

無事仕事が終わりましたらお腹も空いた事でしょうしバットマカロンを皆でいただきましょう

ルーシィ・ラスニール 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
鯉のぼりを利用して、村に被害を与えるコウモリ軍団を追い払う

◆鯉のぼり
おらは、コウモリがうろつく夜でも目立つように、白い鯉のぼりを作って貰うでよ
あと、実際の大きさより大きく目立つように、背ビレとか胸ビレ、尾ビレさ大きく長く改造して貰うべ

◆追い払い
仲間と手分けさして、村全域を効率よくカバーできるように配置について、コウモリの襲撃に備えるだよ

上空から来るコウモリに向かって、鯉のぼりを上昇させたり、地面近くのコウモリの群れ目掛けて、鯉のぼりを急降下させて脅かしたりして、群れを切り崩していくでよ

それでも迫ってくる敵には、見せしめにヒドガトルさ食らわせて、割に合わねえと思わせるべ
負傷者にはリーラブ

アルフィオーネ・ブランエトワル 個人成績:

獲得経験:82 = 55全体 + 27個別
獲得報酬:2250 = 1500全体 + 750個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
鯉の形状・色

まぐろ(速い、大きい、美味しい)


村人から有志を募り、鯉のぼりの操作法、運用方法を伝授【説得/信用/会話術】。ある程度、村人がなれたところで、自分は、【龍の翼/龍の大翼】で空へ。コウモリを討つ。

敵の攻撃は【立体起動I】で回避。離れた対象は必殺技で落とし、近い敵は【ホームランスイング】でたたき落とす。なるべく、密集するように、鯉のぼりと連携して追いつめて、まとめて【灼つく息吹】
 

狼ズにコウモリを、一カ所に追い込んで欲しいと依頼
「じゃ、ガブ、ガル、ガオ。お願いね。うまくいったら、あとで、ご馳走してあげる!」


「そは生命のたぎり。そは魂のぬくもり。星の火よ、仇なす敵を焼き尽くせ」


アドリブA

リザルト Result

●屋根より高い鯉のぼり
 大きな鯉のぼりが地を離れ、夜空に浮かび上がっていく。
 その数全部で6匹。
 1匹は、真っ白な鯉のぼり。背びれ胸びれ尾びれが長く大きく作ってあるので、他のものより二回りほど膨らんで見える。
 注文主は【ルーシィ・ラスニール】。操るのも彼女。ジャバウォック・コウモリがうろつく夜でも目立つように考えた結果、この色と形に落ち着いた次第。
「んー、なんか金魚みてえに見えなくもねえなあ……」
 1匹は、まさに鯉のぼりという形の鯉のぼり。シンプルかつ力強い形。色は赤。
 注文主は【朱璃・拝】。操るのも彼女。名前の『朱』にちなんだ色にするという以外、特別なカスタマイズは行わなかったので、こういう形になった。
「さぁ、この燃えるような赤い鯉のぼりで一匹残らず追い散らしますわよ!」
 1匹は、鯉のぼりだがまぐろ。完全にまぐろ。上下左右どこから見てもまぐろ。注文主は【アルフィオーネ・ブランエトワル】。(速い、大きい、美味しい)を主題にした結果、この造形に落ち着いた。
 操っているのは彼女ではない。村の有志たち。
 この先のことを考えれば、村人たちだけでジャバウォック・コウモリに対処出来るようにしておく必要がある。であれば、彼らに実戦経験を積ませるべき――そう思ってのことである。
「ええと、どうしたら右向くんだったべな、アルフィオーネさん」
「左の糸を緩めて、右の糸を引くのよ」
「どれどれ……あ、本当だ。曲がったべ」
 残り3匹は、メタリックカラーで塗り上げられた鯉。全身に稲妻だの虎だの竜だの骸骨だの、派手な模様が入っている。
 注文したのも操るのも【ガブ】【ガル】【ガオ】。
 『どうせならバリバリにイカした感じにしたい』と製作陣に意見した結果こうなった。無論彼らはこの仕上がりに大満足だ。
「おーっ、浮いた浮いた」
「こうやって並べてみると、やっぱ俺のが一番ヤバイな」
「違う、俺のだ」
「馬鹿言え、俺だっての」
 アルフィオーネの鯉のぼりを担当している以外の村人は、皆屋内に避難している。家畜たちも一匹残らず家畜小屋へ集められた。迎え撃つ態勢は万全。
 朱璃の狼耳がピンと立った。向かってくる羽音を聞きつけたのだ。
「――来たようですわよ」
 ルーシィは夜の闇に紛れ接近してくる細かな粒の固まりを、深緑色の目にとらえる。
「んむ、確かにお出ましだべ」
 かくして銘々、配置に付く。村全体をカバー出来るように。
 アルフィオーネはガブたちに、ジャバウォック・コウモリを一カ所に追い込むよう言い聞かせた。
「できるだけ多くのジャバウォック・コウモリを、この場で始末してしまいたいのよ。そのためにはまとめて叩くのが、一番効果的だからね」
「おー、分かった」
「まかしとけ」
「万事ぬかりなしだぜ」
 景気のいい返事を受けたアルフィオーネは、背中の翼をひと奮いし飛び立った。
「じゃ、ガブ、ガル、ガオ。お願いね。うまくいったら、あとで、ご馳走してあげる!」


 ジャバウォック・コウモリの群れは向かってくる鯉のぼりを避け、上昇する。見慣れぬ生き物の手が届かぬところまで離れようというつもりで。
 ルーシィはすかさず白い鯉のぼりを、ジャバウォック・コウモリたちより更に高く浮かばせる。
 動物は基本、上を取られるのが嫌いである。群れは旋回し、鯉のぼりの視界から離れようとした。
 彼女は村人有志に呼びかける。
「よーい、村の衆。そっちから、まぐろよこしてくんねえかー。村の外に逃げられると困るでよう」
 有志らはまぐろを、ジャバウォック・コウモリの進行方向を塞ぐように動かした
 だがそこはやはり素人である。学園生徒ほど手並み鮮やかには出来ない。
 ジャバウォック・コウモリたちは、向かってくる魚が他の魚に比べ、動きが鈍重であることをすぐ察知した。高度を下げ相手の腹の下に潜り込み、擦り抜けてしまう。
 そこに朱璃の鯉のぼりが、直下から襲いかかってきた。
「こう、もっと尾ひれを綺麗に動かして……急降下から急上昇!」
 ジャバウォック・コウモリの塊が、左右に別れた。そのうちの何匹かは逃げ遅れ、鯉のぼりに吸い込まれてしまう。
 吸い込まれたものは大いに焦った。開きっぱなしの口と尾から逃げようと試みる。
 しかし朱璃はそうさせない。鯉の体を捻り出口を塞ぐ。そして、きりもみ回転。
(一応仕事ではありますが……なんだか小さい頃を思い出しますわ。新年には凧揚げなど、よくしましたっけ)
 童心に帰った彼女は、思わず笑みを零す。
「ふふ、これは楽しいですわ♪」
 しかし吸い込まれたジャバウォック・コウモリは楽しいどころではない。鯉幟の腹の中でいやというほどもみくちゃにされ目を回し、吐き出されてもフラフラした冴えない飛びっぷり。
 一方襲撃を避けたジャバウォック・コウモリたちは、一足先に地上へ降りていく。
「逃がしゃしねえべ。たっぷり脅かしておかにゃあ、また戻ってきちまうでな」
 白い鯉のぼりが高い空から急降下、続けて上昇。彼らを再び空へと追い上げていく。
 ガブ、ガルの鯉のぼりがそれに追いつき、群れの両脇を固める。
 ガオの鯉のぼりは群れの下に位置して群れの高度を保たせる。
 空にいたアルフィオーネが手を叩き、地上に向かって呼びかける。
「いいわよ、その調子!」
 ジャバウォック・コウモリたちは彼女の存在に気づいた。
 が、怖がるということはなかった。自分達を追う魚よりずっと小さいものであったから――動物は往々にして、大きさで相手の強さを測るものだ。
 腹立たしげな鳴き声を上げ、傍を通り抜けようとする。
 だがそれは、大きな判断ミスであった。
 アルフィオーネは両手の人差し指、中指を広げ、丸い額の真ん中にある宝石に添える。
「そは生命のたぎり。そは魂のぬくもり。星の火よ、仇なす敵を焼き尽くせ」
 詠唱が終わるか終わらないかの内に宝石から、緋色の光線が放たれる。
 射線にいたものが一瞬で焼け尽きた。
 ここで初めてジャバウォック・コウモリたちは、目の前にいる相手の危険さを理解した。
 急停止をかける。左右に、あるいは上下に身を翻し避けようとする。
 だがその判断は、ちょっと遅かった。
 アルフィオーネは自分の方から群れに急接近し、最も密度が高い所へ向け『シールド・オブ・アイ』で『ホームランスイング』をお見舞いする。
 攻撃を受けたジャバウォック・コウモリたちの多くはそこで息絶えた。
 しかし、全部ではない。当たりどころがよかったものは地上に落ちた後、再び舞い上がる。隠れる場所を探し動き回る。
 まぐろの鯉のぼりを動かしていた村人有志は魔物の接近に対し、反射的に怯んだ。
 ジャバウォック・コウモリはそれを敏感に察し、居丈高に牙をむく。噛んで引っかく。
 朱璃は鯉のぼりの糸を離さないようにしつつ、そちらに向け、ヴェン・サドムを発動した。
 魔法の砂つぶてをぶつけられたジャバウォック・コウモリたちは、驚き反転。
 ルーシィは村人有志の気持ちが挫けないよう、彼らに向け、『言の葉の詩』を歌う。
「♪ハアー、世間という名の荒波に、どんと漕ぎ出せお前さん、大漁得るのは間違いなしよ、誰にも負けぬ肝っ玉♪」
 ジャバウォック・コウモリたちは彼女が小さかったので、例によって例のごとく強気に出る。そのまま一直線に襲いかかる。
 だが、アルフィオーネの場合と同様、その対処も間違いであった。
 ルーシィは接近してくる相手に、迷いなく『ヒドガトル』を乱射。
 的になったジャバウォック・コウモリは、あえなくそこで燃え尽きる。
 的にならなかった分は大急ぎで反転した。家の陰、家畜小屋の陰などに逃げ込もうと。
 朱璃はそれを追い出すため、鯉のぼりを地上スレスレまで引き寄せ、家々の合間を泳がせる。まるで本当に魚が泳いでいるかのような動きで。
 ルーシィの白い鯉のぼりも頭を下げ、舞い降りた。くねくねと身をよじり、家畜小屋の周囲を巡る。
 ジャバウォック・コウモリたちは震え上がった。一目散に、再び空へと舞い上がった。
 朱璃とルーシィの鯉さばきを見たガブは、自分も難易度の高い動きに挑戦してみたくなった。
 腰を据え糸を手繰り寄せ、腕を大きく回す。
 鯉が、夜空に円を描く。
「どうだ!」
 ガルとガオも負けていない。
「そんなん甘い、こっちはこうだぞ!」
「へっ、俺はこうだ!」
 かくして出現する背面泳ぎの鯉、並びに八の字泳ぎの鯉。
 そういうことをしていると、当然隙が出来る。
 集められていた群れの塊が崩れた。それぞれが勝手に、いっせいに逃げ出す。
 アルフィオーネは夜空から地上に向け、声を張り上げた。
「あなたたち、遊びじゃないのよ! そういうことは後にして、真面目にジャバウォック・コウモリを追いなさい!」
 鶴の一声ならぬドラゴニアの一声で、ど派手な鯉のぼりの泳ぎはたちまち正常化。
 朱璃とルーシィが加勢に入る。
「お待ちなさい!」
「そーれそれそれ、そっちじゃないべ、こっちだべ」
 ジャバウォック・コウモリたちはまた塊になった。
 立て続けの連続攻撃で彼らは、すっかり戦意をなくしている。もう戦おうともせず、尻尾を巻いて逃げ回るだけ。
 だがアルフィオーネはもちろん見逃すつもりはない。
 害獣は、可能な限り数を減らしておくべき。そうすれば再来しようという気を、確実に萎えさせることが出来る。――ということで容赦なく、灼つく息吹を浴びせかける。がんがん叩き落とす。
 朱璃は手の届く所に落ちてきたものを『魔牙』で引き裂いた。そうでない場合は、先程同様、『ヴェン・サドム』。
「この私から逃れられると思わないでくださいましね♪」
 ルーシィは努めて、村人有志のほうへ注意を注いでいた。この場では彼らが、最も高いリスクを負うからだ。
 引き続き歌を歌い続ける。
『♪どんなに堅い地べたこも、おらの鍬にはかなうまい。叩き砕いて馴らしてみせる、豊年踊りだちょいやっさ♪』
 歌詞はともかく歌に込められた力は、確かに彼らの心を勇気づけた。まぐろは勇壮に空を泳ぎ、ほかの鯉のぼりともどもジャバウォック・コウモリを蹴散らして行く。
 最終的にジャバウォック・コウモリ軍団は一桁まで数を減らしたあげく、ほうほうの体で逃げ出した。
 鯉のぼりたちはそれを追ったが、村の領域を出たところで引き返した。今回の目的は追い払いであって、殲滅ではないので。
 アルフィオーネは空から、ジャバウォック・コウモリの群れが飛んで行く方向を見定めておく。
 それは、村の北西だった。はるか向こうに、森に裾野を覆われた岩山がある。

●お片づけ
 ジャバウォック・コウモリが去った後は、片付け。朱璃は鯉のぼりを地上に降ろし、村人の協力のもと、きれいに畳み巻いていく。ルーシィはジャバウォック・コウモリに噛まれた有志のため、魔法薬生成キットで体力回復の薬を作ってやる。
 その間にアルフィオーネはガブたちを引き連れ、まだ生き残っているジャバウォック・コウモリがいないか見回りした。
 その結果、鶏小屋の近くで一匹見つけた。彼女はそれを難なく素手取りして、手持ちの袋に詰め込む。皆の所へ戻って、村人達に聞く。
「これ、持ち帰ってもいいかしら?」
「かまいませんが……どうするおつもりですだ?」
「いえね、食べられそうなら食べてみようかと思って」
「た、食べる? それは魔物ですだよ?」
 目を丸くする村人たちへアルフィオーネは、自慢げに言った。
「わたしに、捌けないお肉なんてないのよ?」
 ガブたちは胡散臭そうに、ジャバウォック・コウモリが入った袋を見る。
「魔物って、なんか毒持ってそうじゃねー?」
「なあ」
「つーか、魔物って死んだらすぐ消えるんじゃなかったか?」
 その疑問にアルフィオーネは、ちちちと指を振って応えた。
「あら、普通の動物と同じくらい、消えにくいのもいるのよ。とりあえずあなたたちには、約束どおり、これでおいしいお夜食スープを作ってあげるわね」
 衝撃発言に固まる狼三兄弟。
 そこで、鯉のぼりの片付けを終えた朱璃が言った。
「さて、無事仕事が終わりましたわね。皆様、お腹、お空きになりましたでしょう。疲れたときには甘いものがよいと申しますわ。時間は少々遅くなっておりますけれども……どうぞ召し上がれ」
 と言って彼女は鞄から、山盛りのマカロンを取り出す。
「蝙蝠退治の後ですから、バットマカロン、なかなか洒落が利いてるとは思いません事?」
「おー、こいつはうまそうだべ」
 ルーシィは早速マカロンを取り上げ、すんすん匂いを嗅いだ。
「中身はチョコレートクリームだべな」
 ぱくりと食べて、付け加える。
「そう言えばこんコウモリ達は、どっから来たんだろうなあ」
 それにアルフィオーネが答える。
「北西の森から来ているみたいよ。残念ながら全滅はさせられなかったから、いずれ増えることもあるかもしれないわね……」
 その言葉に対し、村人有志は胸を張って答えた。
「なあに、そのときはまた、鯉のぼりで追い払うだよ」
「使いかたさ教えてもろうたでな」
 今回無事ジャバウォック・コウモリを追い払えたことで、魔物に対抗する自信と気構えが出来たようだ。
 それ自体はいいことなのだが、しかし、と彼女は釘を刺す。
「鯉のぼりの効果を過信しちゃいけないわ。あれはあくまで脅しのためのもので。ジャバウォック・コウモリが増えてきて、被害がでそうになったら、早めに学園に連絡してね」

 さてこの後、アルフィオーネはジャバウォック・コウモリ・スープを作ることが出来たのか。作ることが出来たとして味はどうだったのか。
 気になるところだがそこはまた別の話。本人達のみが知る、ということにしておこう。
 




課題評価
課題経験:55
課題報酬:1500
月夜に泳ぐ鯉のぼり
執筆:K GM


《月夜に泳ぐ鯉のぼり》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2021-05-15 17:07:45
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝ともうします。どうぞよろしくお願いしますね。

《新入生》 ルーシィ・ラスニール (No 2) 2021-05-19 12:10:07
おらぁ、賢者・導師コースのルーシィいうだ。よろしく頼むだよ。
おらは、コウモリがうろつく夜でも目立つように、白い鯉のぼりを作って貰うでよ。
あと、実際の大きさより大きく目立つように、ヒレさ大きく長く改造して貰おうと思ってるでよ。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 3) 2021-05-19 20:23:27
ルーシィ様、よろしくお願いしますね。

私は「赤」でしょうか。

主に地上に落ちた蝙蝠を狙うと思いますが、届くようならヴェン・サドムで空のものも狙ってみますわ。

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 4) 2021-05-20 05:14:13
教祖・聖職専攻のアルフィオーネ・ブランエトワルです。どうぞ、よしなに

なるたけ減らしておいたほうががいいはずなので、積極的に駆除します。