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ミラちゃん家――呪われてあれ


ストーリー Story

●総括と現状確認
 現在保護施設『ミラちゃん家』には、ノア一族にまつわる二つの指輪が一時保管されている。
 一つは生徒達が実業家【セム・ボルジア】から預かっている指輪。
 もう一つは生徒達がグラヌーゼにある『いのちの花畑』で見つけてきた指輪。
 どちらの指輪も保護施設関係者が抱えている問題に関連するものである。
 その問題とは、魔物【黒犬】【赤猫】にかけられているノアの呪いだ。
 この二匹は互いに相手を嫌い抜いているのだが、ノアに呪いをかけられ命を結び付けられてしまっている。片方が死んだら、もう片方も死ぬように。
 黒犬も赤猫も呪いを快く思っていない。特に黒犬は、一刻も早く呪いを解除したいと思っている。現在施設に保護されている【トーマス・マン】を通じ、【カサンドラ】並びに施設関係者へ、協力への働きかけを行なっている。

 生徒達がグラヌーゼで見つけてきた指輪(以下、呪いの指輪と呼ぶ)は、呪いの要である。呪いの解除のためには、その存在が欠かせない――生徒達が先にそれを『いのちの花畑』で見つけたことを、黒犬はまだ知らない。

 呪いの指輪は、グラヌーゼの戦いの際、ワレン・シュタインという騎士に拾われその妻の手に渡った。
 直後妻は狂気に陥り失踪。グラヌーゼにて発見される。その際指輪は妻の指を千切り、地に沈み消えた。

 セムが所有する指輪は、同騎士が同時期にグラヌーゼの別の場所で手に入れたものである。ボルジア家は何代か前、融資と引き換えにその指輪をシュタイン家から譲り受けた。
 黒犬たちの呪いとは直接関係ないかもしれないが、同じノアが作ったものであれば、呪いの指輪の仕組みを探る手掛かりになるかもしれない。そのように考えて生徒達は、セムからそれを借り受けてきたとのことである。
 シュタイン家はボルジア家に指輪を譲渡した後廃絶している。
 ボルジア家は現在、セムを除いた全員が故人となっている。

 赤猫は呪いを解除することに危険を感じている。罠が必ず含まれていると考えるからだ。
 セムの側近【ラインフラウ】は彼女に『他者へ呪いを肩代わりさせること』を提案しているようだ。赤猫はそれに協力的であると思われる……。

「と、ゆー感じなんだよな? こーゆー雰囲気の理解でいいんだよな、現状?」
 手の中で万年筆を回す学園長【メメ・メメル】に、ドラゴニア老教師【ドリャエモン】は頷いた。彼女が単語と落書きで一杯にしたチラシ裏を見下ろしながら。
「おおむねそういうところだろう、とわしらは思っておる」
「はっきりしねーなー……まあ、しょうがないか。関係者が総じて、こっちに情報出し惜しみしまくってるしな」
 カルマ教師【ラビーリャ・シェムエリヤ】は、表情を変えないまま本題に入った。
「……生徒達から聞いた話では、この指輪を所有していたボルジア家は、現在の当主セムを残し、皆故人となっているそうですね……ちまたの一部では彼女が毒殺したのではないかという噂もあるとか」
「うん。でもセムたんは、『事実と違う』って言ってた」
「……どう思われます?」
「オレ様の勘として、セムたんの言葉にウソはねーと思うぞ? 家族が一時に死んだというのは事実のよーだが」
「……具体的に何があったのか、聞けませんか?」
「難しいなー、本人にそこまで突っ込むのは……外部の記録を当たってみるしかないだろ」

●月夜の零れ話
 サーブル城に猫たちが群れ集う。今宵は満月。浮かれ騒ぐに最適な夜。
「――ああ、カサンドラのことなら、知ってる」
 赤猫ははすかいにラインフラウを見た。泥酔者特有のどろんとした目。奥に緑色の火花が燃えている。
「あら、それは初耳ね。どんな人だったの?」
「食べるところもないくらい、がりがりの、死にかけ。それで、とびきり、馬鹿。黒犬の適当なフカシを信じるくらいだから、そりゃもう、馬鹿」
「それって、どんなフカシ?」
「黒犬のやつ、あの死にかけに、魔物にしてやるって言ったのよ。そしたら死にかけも直るって。そんな力、ハナから持っていやしないくせに」
「へえ、それは悪質。でもあなた、なんでそのことを知ってるの?」
「本人から聞いた。生きてる時に。いつだったかあの女、この近くの野原をうろうろしてたから、捕まえてみた」
「黒犬がウソをついていることを、あなた、わざわざ教えてあげたの?」
「うん、そう。あんまり馬鹿みたいで面白かったから、ついでに」
「どういう反応だったの?」
「そんなことない、うそだってむきになって言ってきた。半泣きになって」
 赤猫はよっぽどおかしかったのか、くくくと小さく喉を鳴らした。
 周囲の猫たちがそれに呼応するように、同じく喉を鳴らす。

●彼女が思うこと
 カサンドラの心の中にはふつふつと、黒犬に対する怒りが煮え立っていた。
 サーブル城に潜入する前、荒れ地で、赤猫と出会ったことを彼女は思い出している。
 あれは満月の夜だった。赤猫は上機嫌に踊っていた。
 驚き急ぎ立ち去ろうとしていたこちらを見つけ、追いかけてきた。大きな猫の姿になって。
 ネズミのように前足で押さえ付けられたとき感じた恐怖は、忘れられない。
 しかしそれよりもっと忘れられないのは、笑い声を交え発された言葉だ。
『黒犬には、人間を魔物にする力なんか、ありゃしないわ。あいつに出来るのは吠えて、噛み付いて、火を吐くことだけよ』
『あのポンコツで、間抜けで、脳たりんな、ワン公に騙されるなんて、お前、本当に馬鹿ね。馬鹿な人間』
 その場では相手の言葉を完全に信じたわけじゃなかった。黒犬から聞かされていたのだ。赤猫は言うことなすこと全てにおいて信用おけない相手だと。
 でも、そのことを改めて聞いても黒犬は、うるさいと言って、まともに答えてくれないのだ。
 疑いは、日々膨らんでいった。
 それが確信に変わったのは、サーブル城でノアが記した資料を見たときだ。
 そこには黒犬と赤猫にかけられた呪いのことに加えて、黒犬と赤猫自身の能力についても事細かく記してあった……。
 もしかしたらと思ってすがった言葉は、全くのデタラメだった。
(私は、なんて馬鹿だったんだろう……)
 半透明な自分の手を見下ろし、彼女は、唇を噛む。
 頭を過るのはトーマスのことだ。
 彼は黒犬を信じている。昔の自分のように。であればこの先、自分と同じ道を歩まないとも限らない。
(私は、もう手遅れだわ。だけどあの子はまだ、取り返しがつく)
 今後の指輪の扱いに関し、カサンドラは心を決めていた。
(黒犬には指輪を渡さない)
 呪いの解き方を思い出したとしても教えない――もしそれが黒犬を解放するものであるならば。
 しかし呪いを解くことが黒犬にとって致命的な結果をもたらすならば――教えてもいい。

 彼も、自分のように、死ねばいい。

●どうかお話を一つ
 学園生徒たちは指輪が持つ力や作用について調査するため、指輪を所有していたシュタイン家の元領地を訪れた。彼らの痕跡を探れば、知れることがあるかもしれないと。
 だがそこには、何も残っていなかった。一面の荒蕪地が広がるだけで。
「所領争いに負けた後、目ぼしいもの全部近隣諸侯にとられちゃったのかな」
 であれば、取った側は何か知っているかもしれない。
 と言うことでそちらへ話を聞きに向かう。
 相手は貴族だ。一般人の訪問にすんなり応じてくれるとは限らない。
 でもまあ、学園の権威を盾にすればどうにかなるだろう。少なくとも会って話はしてくれるはずだ。
 この後行く予定である、シュターニャの当局にしても……。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2021-06-06

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2021-06-16

登場人物 4/8 Characters
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《幸便の祈祷師》アルフィオーネ・ブランエトワル
 ドラゴニア Lv23 / 教祖・聖職 Rank 1
異世界からやってきたという、ドラゴニアの少女。 「この世界に存在しうる雛形の中で、本来のわたしに近いもの が選択された・・・ってとこかしらね」 その容姿は幼子そのものだが、どこかしら、大人びた雰囲気を纏っている。  髪は青緑。前髪は山形に切り揃え、両サイドに三つ編み。後ろ髪は大きなバレッタで結い上げ、垂らした髪を二つ分け。リボンで結んでいる。  二重のたれ目で、左目の下に泣きぼくろがある。  古竜族の特徴として、半月型の鶏冠状の角。小振りな、翼と尻尾。後頭部から耳裏、鎖骨の辺りまで、竜の皮膚が覆っている。  争いごとを好まない、優しい性格。しかし、幼少より戦闘教育を受けており、戦うことに躊躇することはない。  普段はたおやかだが、戦闘では苛烈であり、特に”悪”と認めた相手には明確な殺意を持って当たる。 「死んであの世で懺悔なさい!」(認めないとは言っていない) 「悪党に神の慈悲など無用よ?」(ないとは言っていない)  感情の起伏が希薄で、長命の種族であった故に、他者との深い関りは避ける傾向にある。加えて、怜悧であるため、冷たい人間と思われがちだが、その実、世話焼きな、所謂、オカン気質。  お饅頭が大のお気に入り  諸般の事情で偽名 ”力なき人々の力になること” ”悪には屈しないこと” ”あきらめないこと” ”仲間を信じること” ”約束は絶対に守ること” 5つの誓いを胸に、学園での日々を過ごしている

解説 Explan

ミラちゃん家、ひとまず指輪が確保されましたので、新しいフェーズに入ります。
これから探りあてなければならないのは『ノア一族の呪い』の解除方法。
セムが持っている指輪は、黒犬たちの呪いに直接関係している訳ではありません。しかし、何らかの呪いがかかっていることは確かです。
どちらも同じノア一族がかけた呪い。仕組みに共通するところはあるはずです。
そこが分かれば呪いの指輪についても、より踏み込んだ推理が出来ます。

前回シリーズに参加された方から『具体的にどういう行動をしたらいいのかよく分からない』というご指摘がありましたので、今回は行動を選択制にしてみます。

選択1:いかにしてシュタイン家が滅んだのか、近隣諸侯への聞き込みを行う。
選択2:セムの一家がどういう状態で死んだのか、彼女の本拠地であるシュターニャへ行って、当局に聞き込みを行う。

1と2の重複は可能です。その場合1が先で、2が後ということになります。
どちらの調査もNPC【アマル・カネグラ】【ドリャエモン】【カサンドラ】の3名が同行可能となります。

カサンドラと赤猫の間で過去行われたやり取りについては、カサンドラ本人に聞けば教えてくれます。黒犬がでたらめを言っていたのは、紛れもない事実です。

※これまでのエピソードやNPCの詳細について気になる方は、GMページをご確認くださいませ。
そういうものが特に気にならない方は、確認の必要はありません。そのままプランを作成し、提出してください。エピソードの内容に反しない限り判定は、有利にも不利にもなりません。



作者コメント Comment
Kです。
ミラちゃん家最終フェーズに入ります。
ここからは一直線に、呪いの本題に突き進む次第。
紆余曲折はありましょうが、必ずゴールはございます。






個人成績表 Report
エリカ・エルオンタリエ 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
指輪に関わったすべての人が呪いの影響下にあるのではないか?
セムさんはじめボルジア家の人々も
もしかしてわたしたちも
願いが空回りし、叶えられず、望まなかった方向へ流されていくのも。
今、自分たちが望んでいること、信じて行動していることも
呪いに操られた上でのものかもしれない。

連鎖を終わらせるには指輪の破壊か封印が必要か

セムさんの性格など気になるところもあるけれど、そこは責めない。

無理に呪いを解こうと足掻いてより傷を深めてしまうより、
現状の不満や問題も現実を生きてく上で存在するのは当然であると受け入れ、
一足飛びの奇跡にすがることなく、
地道な努力で乗り越えるまたは共存していく必要があるのかもしれない。




ベイキ・ミューズフェス 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
ノア一族が掛けた呪いの解除に繋がる情報の収集

◆分担
私は旧シュタイン領周辺諸侯への聞き込みに同行

◆聞き込み
まずは、急な来訪に対し面会頂いたことへ謝辞を述べ、自己紹介を済ませ聞き込みへ
直に見てきた旧シュタイン領の様子を織り交ぜつつ、何故、シュタイン領が没落してしまったのか尋ねて

ご自身やご先祖の自慢話なんかも適度に聞きつつ、無礼にならないよう相槌をいれつつも、やんわりと脱線した話を本筋に戻す等して、相手の機嫌をよくして情報の引き出しを

深く突っ込んで、相手が触れたがらない話題に触れてしまいそうなことになりそうだったり、誰かが無礼を働いて先方の機嫌を損ねそうなら、神格適正で最悪の事態を避ける努力を

朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:90 = 60全体 + 30個別
獲得報酬:2250 = 1500全体 + 750個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
私はシュタイン家の近隣諸侯にお話を聞きますわ

先ずは丁寧に守衛に当主にお会いしたい旨伝え、許しが出ればお友達に教わった通りの礼儀を護り、カーテシーを行い優雅にご当主にご挨拶

質問としてはシュタイン家が所有していた指輪について、ご先祖から何か伝わっていないか。シュタイン家に所蔵されていた物、絵画なり書物なりがあれば見せて頂く事はできないか、を訪ねてみます。合間に当時のご当主や今のご当主について調べた事を元にほめそやす事も忘れずに。気をよくしてくれたら聞かない事も教えて下さるかも。信用や人心掌握学も活用

解った事は後で皆と共有。それにしてもお友達だったあの子は貴族としては変わり者だったのですわね、やはり


アルフィオーネ・ブランエトワル 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
選択:2

個人的に調べたいことがあるので、シュターニャに先行して、向かう。主に古くから街にいるようなお年寄りに、頼みごとがあれば要望に応えつつ、話を聞く。(説得/信用/精神分析/会話術)


調べたいこと
.子供のころのセムはどんな子だったか?
.親兄弟との関係は良好だったか?
.それらが大きく変容する出来事はなかったか?
.件の指輪を手に入れてから、現在までのボルジア家の盛衰や、事業展開、功績など

「黒犬、赤猫は恐ろしい相手だけど、交渉の余地はあるわ。共存は無理でも、住み分けは可能。でも、ノア一族は絶対にあり得ない。だからこそ、彼らの意志の介在する可能性は、徹底的に排除されなくてはならない。絶対に」

アドリブA

リザルト Result

●シュタイン家にまつわる話を聞かせて
 【朱璃・拝】は、応接間に現れた豪傑風の男に対し、しとやかにカーテシーをして見せた。
「この度はお目にかかれてうれしゅうございます、タムル侯爵様。私は朱璃・拝と申します」
 上品なドレス、控えめな薄化粧。本日の彼女はどこから見ても良家のご令嬢だ。
 男はほう、と声をあげ目を細める。
「これはこれは。かように愛らしいレディにお会い出来るとは、今日の私はついているな」
「まあ、恐縮ですわ。私など山出しの田舎娘に過ぎませんのに……侯爵様のお家がいや栄えますように」
 続けて【ベイキ・ミューズフェス】が、伯爵に向かって謝辞を述べる。
「急な来訪にもかかわらずご面会頂きましたこと、まことにありがたく存じます。私はベイキ・ミューズフェスと申します」
 そこから流れるように【カサンドラ】の紹介をする。
「こちらの方は、私たちの友人です。ご覧のとおりリバイバルで……お気の毒に、自分の名前も含め記憶喪失中でして。私たち、仮に『リバさん』とお呼びしております」
 フードを目深に顔を見せないようにしたまま、カサンドラは、言葉少なに頭を下げた。
「……お初にお目にかかります……この度はどうぞよろしくお願い致します……」
 男は終始ご機嫌な顔つきをしていた。カサンドラはともかく、朱璃、ベイキの見目麗しさは、彼の心をだいぶ和ませたようだ。
 そこを見計らって【アマル・カネグラ】が、本題に入った。
「お時間頂戴してお話お伺いしても、よろしいでしょうか?」
「まあ、よかろう。立ち話もなんだから、そこにかけるといい」
 朱璃はノートとペンを取り出して、侯爵に、訪問理由を説明する。
「私、フトゥールム・スクエアの学生なのですが、只今課題でシュタイン家の事を調べておりまして。そのためにまず旧シュタイン領へ足を運んだのですが……見渡す限り荒れ地が広がるばかり。調査の手がかりとなるものが何も見つからず、困り果てておりますの」
 ベイキが困り果てた表情を作り、相槌を打つ。
「そうなんです。瑞々しき田園広がる侯爵様の領地とは、まさに雲泥の差の荒れ模様。領地の近い侯爵様なら、かの家について何かご存知ではなかろうかと、このようにお伺いさせていただいた次第で――」
 相手を持ち上げながら、さて核心へ入っていこうとしたところで、アマルが口を挟む。
「僕たち、こんなに旧領地に何もないのは、所領争いに勝った方々に持ち逃げされたからなんじゃないかなあって思ってるんです。そういう品は美術系のオークションにも、ちっとも流れてきてませんし」
 あけすけな物言いに侯爵は、ちょっといやな顔をした。
 朱璃はすかさずアマルの頭を、持参した扇子ではたく。侯爵の立場を百パーセント擁護しながら。
「アマル様、無礼ですわよ。戦利品とは、競技の勝者における勲章のようなもの。誰はばかることのない、法的に正当な権利の行使ですわ」
 ベイキは最大限持ち上げに努力する。
「そうですよ、アマルさん。失礼があってはいけません。タムル侯爵様は歴代綺羅星のごとく勇将を輩出されている、高潔にして誇り高き家柄のお方なのですよ」
 それによって侯爵は機嫌を直した。朱璃の次の質問に、快く答えてくれる。
「私たちが調べましたところ、シュタイン家には、グラヌーゼの戦いにまつわる、魔法の指輪が伝わっていたそうなのです。その話について、何か存じありませんか?」
「いや? そのような話、聞いたことはないな」
「そうですか……では、シュタイン家に所蔵されていた物、絵画なり書物なりはございませんか?」
「そういうものは当家には残されておらん。というか……誰の家にもないであろうな。何しろシュタイン家の廃絶と同時に、全て焼けてしまったのだから」
「……焼けたのですか?」
「ああ。城もろともな」
「火攻めが行われたのでございましょうか?」
「――そなたたちはどうも勘違いしているようだが、シュタイン家は、我ら諸侯が攻め滅ぼしたのではないぞ? あの者たちはいわば、自滅したのだ」
 予想だにしていなかった答えに、一同は戸惑った。
 ベイキは突っ込んで尋ねる。
「自滅とは、具体的にどういうことですか?」
「かの家は、骨肉相食むところがあってな。代々身内争いが常態化しておったのよ。そのあげく今言ったように城を焼き、己ら諸とも全てを灰にしてしまったのだ」
 侯爵からこれ以上の情報は引き出せなかった。一行は、丁寧に礼を言い場を辞し、別の領地へ向かう。

●ボルジア家のこと
 【エリカ・エルオンタリエ】と【アルフィオーネ・ブランエトワル】は朱璃たちに先んじてシュターニャへ来ている。
 目的はボルジア家についての聞き込み。対象は昔を知っている人間――老人たち。
 一通りの聞き込みが終わったあとアルフィオーネとエリカはカフェのテラス席で情報を交換し合った。

 アルフィオーネは頼んだコーヒーを一口飲んで、言う。
「どうも、ね、セムのこと以前にもボルジア家では、不審死事件が繰り返し起きていたみたい……表向きそれらは全て事故や病気ってことになってるわ……セムの事件が起きた当座、一族は彼女が属する本家以外、全く絶えていたそうよ」
 エリカはコーヒーにミルクを垂らした。黒い水面に落ちた一滴が渦となって回り始める。
「……わたしのほうも、似たようなことを聞いたわ。もっと濁した形だったけど。皆、そのことをはっきり口にするのを、怖がっていたわ。言上げしたら自分にも害が及ぶんじゃないかって思っているみたいね」
 どこかの子供たちがボールを手にはしゃぎながら、カフェの前を通りすぎていく。
 アルフィオーネはそれに視線を向けながら、話を続けた。
「ボルジア家はもともと数多くある金融業者の一つに過ぎなかった。それが他を圧して巨大化し始めたのは、およそ200年前――シュタイン家から指輪を手にいれた時期とぴったり一致するわ。以降、手掛けた事業全て右肩上がりでここまで来てる。それと比例してさっき言った不審死事件が頻発するようになり、一族の数がどんどん減って……今はセム一人」
 思いつめたような顔で、渦をじっと見つめている。
「指輪の呪いは直接関わったものだけではなく、もっと広い範囲に影響を及ぼすのではないかしら。指輪に関わったすべての人――セムさんはじめボルジア家の人々も、もしかしてわたしたちも。今、自分たちが望んでいること、信じて行動していることも呪いに操られて――」
 アルフィオーネはその見方を否定した。
「呪いの影響は個人だけの物じゃない。そこは確か。でもだからって、全てが呪いの誘導通りになっているとは思わないわ。主体はあくまでも、わたしたちよ」
 エリカが、はたと我に返ったように瞬きをし、嘆息する。
「そう、ね。ごめん、つい弱気になって。でも、呪いの連鎖を終わらせるには指輪の破壊や厳重な封印が必要かもしれない。メメたんや学園教師陣のような識者の協力も考えておかないとね」
「そうね」
 とは言うが、アルフィオーネも実のところ、不透明なもやつきを抱えていた。呪いのことを知れば知るほど、理屈にあわない部分が出てくるように思えて。
 黒犬、赤猫を制御するために呪いをかけたというのなら、どうして二匹の命を結んだのか。
(結ぶ対象を別の者にすれば、もっとスムーズに話が運びそうなものなのに。他にも、色々……)
 思いながら彼女は、街角で聞いた、【セム・ボルジア】についての話を思い返す。
『子供のころからお嬢さんは、利発でしたよ』
『家族仲は、まあ普通には見えましたけど……ただ、ボルジア家の人たちはお嬢さんを含めて皆、なんとなく互いによそよそしかったね。なんだか距離を取り合っているみたいに』

●シュタイン家にまつわる話をもっと聞かせて
 侯爵のもとを辞した朱璃たちは、続けて諸侯を手当たり次第訪問して回った。シュタイン家の輪郭を、より明確にしていくために。
 以下は、その際に集めた話である。

「シュタイン家はすこぶる裕福な一族でしたぞ。廃絶のときまでそうでしたな。魔王戦役にて活躍された祖を称えるため、『騎士』の肩書を通しておりましたが、実質的には王と呼んで差し支えなきほどでござった」
「確かに、身内争いはシュタイン家の習いのようなところがありました。といっても古からそうだったわけではなかったようで。しかし長く時を経るにつれ、よからぬ傾向が顕著になってきまして」
「廃絶の直前には、わずかひと家族しか残っていなかったそうですな」
「シュタイン家が廃絶したのは――確かそう、ちょうど代替わりのときだったはずです。父親が体を悪くし、亡くなって」
「父親は、亡くなる少し前、身の回りの品を息子達に黙って、売り払ったそうですな。相続の際、揉めるもとになったのではありますまいか」
「息子達が争いの末火を放ったと……? いや……当家に伝わっている話はまた少し違いますな。ご先祖が城から逃げてきた侍従に聞いたらしいのですが……火が回る前に一家は死んでいたそうです。父親の葬儀の最中、突然城の天井が崩落し押しつぶされたとか。火はその後、急にあちこちから発生したそうで」
「炎は三日三晩昼夜分かたず燃え続け、城の中のものばかりか、城自体も灰燼に帰してしまったとのことじゃ」
「しかし……石造りの建物が、そんなに長く燃えるものかとは思いますわね。しかも、礎石の一つも残らないほどに」
「おおっぴらには言えませんが、正直薄気味悪くてね……だから、旧シュタイン領には、諸侯の誰も手をつけずにいるのです」

 帰りの馬車の中で朱璃は、手足を伸ばし深呼吸する。
「……疲れましたわー」
 まったく、貴族様の相手というのは気骨が折れる仕事だ。しかし、やってみるだけの価値はあった。
「どうも分かりませんわね。シュタイン家は何故ボルジア家に指輪を担保として、お金を借りたのでございましょう。廃絶するその瞬間まで、お金には全く困っていなかったようでしたのに」
 その疑問についてアマルは、こんな推測を立てた。
「当主の主観的には『融資を求めた』んじゃなくて『買取させた』だったのかもしれませんね。亡くなる前に身の回りの品を息子達に黙って売り払ったみたいだっていう話も、あったじゃないですか」
 しかしベイキは、その見立てに懐疑的だ。
「仮にも家宝なのでしょう? それを売り払おうなどと思いますでしょうか……」
 そこでカサンドラが唐突に、ぼそっと呟いた。
「……お金を得るのが目的ではなく、指輪を手離すのが目的だったのかもしれません? そうしたら、呪いから逃げられるかもしれないと思って」
 馬車の中が一瞬静まる。
 ベイキの脳裏にふと、無数の小さな頭を持つ蛇のイメージが浮かんだ。
 頭はお互いに噛みあう。
 食いちぎられた頭は地に落ち金貨に変わる。
 残った頭だけが太り、大きくなっていく。地は見渡す限り金貨で覆われていく。
 最後頭は一つになる。頭の上には王冠。王冠には文字が刻まれている。
『王になれるのは、一人だけ』

●一家全滅事件について
 
 アルフィオーネたちは、シュタイン家の調査から戻ってきたメンバーと合流した。そして市の治安当局へ足を運んだ。ボルジア家の件について聞くために。
 当局は、申し出に直接答えてくれなかった。その代わり、当時事件を担当した人間に引き合わせてくれた。
 恐らく現役当局者が部外者に情報を与えるのは、都合が悪いと考えたのだろう。

 当時を知っているという初老の男は半白髪を掻き、一同に念を押した。
「これから話す内容は他言無用に願います。よろしいですか?」
 もちろん皆は、この要求を呑む。
「……急を伝えてきたのは、当時ボルジア家に仕えていた使用人たちでした。行ってみればボルジア家の人間は晩餐の席で、皆息絶えていました。大量に血を吐いてね。セムだけが虫の息で生きていました。私たちは彼女をまず病院に運びました。それから、飲食物に何か毒物が混入した形跡はないかと調べました」
「結果は?」
「分かりませんでした。少なくとも一般的に知られている類いの毒物は検出されなかった」
 アマルは手を上げて聞いた。
「それは、一般的に知られていない類いの毒物が使われたかもしれないということですか?」
 男は一拍置いて、そうです、と答える。
「数日後セムが回復したので、一体何があったのかと聞きました。すると彼女はこう言いました。『分からない、食事が始まってすぐ皆が苦しみだした』と」
 朱璃とベイキは顔を見合わせた。
 エリカは男に聞く。
「それで、捜査班は事件について、どのような結論に至ったのですか?」
「原因不明の薬物混入事故。そのように結論づけました」
「事故? 事件ではなく?」
「ええ」
 しばしの間、皆は沈黙した。
 ややもしてアルフィオーネは、区切るように言葉を吐き出す。床に差し込む斜めの日を見つめながら。
「セムが家族に毒を盛った。その上で、自分も被害者と見られるように、わざと同じ毒を飲んだ。そういう可能性はありえませんか?」
「……そのような考えも当然成り立つでしょう。しかし私は、毒を盛ったのは彼女以外の家族の誰かであったと考えています」
「根拠は?」
「特にありません。ただ、勘です」

●情報から推測へ 
 朱璃はノートを広げ、得た情報の総括を行う。
「得た情報を総合するに、こういうことらしいですわね。『指輪はそれを持つ一族を富ませる』『同時に一族に不和を呼ぶ』『シュタイン家は恐らく、その呪いから逃れようと、ボルジア家に指輪を渡した』『しかし指輪を渡した直後、城が焼失。富は消え、家系もそこで絶えた』『呪いは消えないまま、新しい所有者であるボルジア家に移った』……」
「……呪いそのものの中に、そこから逃れようとする行動に対してのペナルティが含まれていたとしか、思えないわね……」
 かくいうアルフィオーネの分析に対し、誰も異を唱えなかった。
 ベイキは深刻な顔で持論を付け加える。
「シュタイン家では長い時間をかけ現れてきた事柄が、ボルジア家においては、比較にならないほど早いスパンで進行しています。呪いの作用が、時を経るごとに強くなっているのかも」
 エリカは厭な汗が出てくるのを感じた。
(思った以上に呪いは深刻かも知れないわ……)
 これまで彼女は、なるべく平和的な手段で多くの人を救いたいと願っていた。
 だがこうなっては、それは極度に困難なことだと考えざるを得ない。頭に浮かぶのはマン兄妹のことだ。彼らに影響が及ぶことだけは、避けなければ。
(呪いを解くことが新たな不幸を呼ぶのなら、それと共存する道を探るべきかも知れないわ。たとえ現状に不満や問題があったとしても……)
 アルフィオーネが眦を険しくする。
「黒犬、赤猫は恐ろしい相手だけど、交渉の余地はあるわ。共存は無理でも、住み分けは可能。でも、ノア一族は絶対にあり得ない。だからこそ、彼らの意志の介在する可能性は、徹底的に排除されなくてはならない。絶対に」
 アマルはカサンドラの顔を見た。
 彼女は、石のように硬い表情をしていた。
 
 




課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
ミラちゃん家――呪われてあれ
執筆:K GM


《ミラちゃん家――呪われてあれ》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 1) 2021-05-31 00:01:40
賢者・導師コースのエリカ・エルオンタリエよ。よろしくね。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 2) 2021-05-31 18:34:22
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 3) 2021-06-01 20:04:38
教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。
さて、今回はシュタイン家元所領周辺の近隣諸侯への聞き込みに、シュターニャでセムさんご家族の死亡についての調査ですね。

両方に関わることもできそうですが、片方に絞った方が深く調査できる可能性もありますね。
私は貴族相手は苦手ですし、シュターニャでの調査に重きを置こうかなと。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 4) 2021-06-01 20:19:07
私もそれほど得意な訳ではありませんが、貴族のお友達もいたのでそれでは1をメインに行ってみようかと思いますわ。

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 5) 2021-06-04 03:34:02
教祖・聖職者専攻のアルフィオーネ・ブランエトワルです。どうぞ、よしなに。

セムもすでになんらかの影響下にあるのでは?という疑念が、わたしの中で消えていないので2に集中したいと思います

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 6) 2021-06-05 00:09:31
わたしもボルジア家の不幸は呪いのせいではないかと調べてみるつもりよ。
(中の人のトラブルで以降の相談参加が怪しいです。申し訳ありません)

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 7) 2021-06-05 12:45:11
ひとまずプランは提出しましたわ。貴族の方に聞く事としてはシュタイン家が所蔵していた指輪について何かご先祖から聞いた事はないかと、絵画なり書物なりシュタイン家から持ち帰った物があれば見せて頂けないかという事でしょうか。どちらかといえばそういう持ち帰りについてプライドを傷つけたりしないようにとか、そういう事に気を遣うのが大変そうですわね・・・。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 8) 2021-06-05 22:42:59
んーっと、諸侯聞き込みが朱璃さんおひとりだと、ちょっとバランス偏りますよね。
あまり得意じゃないですし、出発直前になっちゃいますが、私も諸侯聞き込みに向かいますね。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 9) 2021-06-05 23:14:55
あ、しまった。
諸侯への聞き込みにはカサンドラさんも同行するんですよね?

対面する際には名乗るのが礼儀ですが、カサンドラさんが名乗るのは色々まずいかも……。
セムさんがカサンドラさんの存在に気づいてるのとは、これまた別の話ですから。

一応、面倒回避のためにも「記憶をなくしたリバイバルの女性」って紹介とかしておきますね。ウィッシュ案件でいいかな……。