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煙の招待状


ストーリー Story

 グラヌーゼの片隅にひっそりと佇む城跡。
 曇り空はどこか悲しく沈み、流れる乾いた風は切なく鳴いて、広がる大地は虚しく荒れている。
 しかし、雲一つない美しい月が見える夜。
 かつての栄華を懐かしむように、月明かりが淡くぼんやりと照らすその先。
 そこには今となってはその名を知る者は少ない城の姿を、稀に見る事ができると言われています。
 招待された者によると、その城では夜な夜な絢爛豪華な舞踏会が開かれているようで、招かれた客人たちは様々な想いを胸にその綺羅びやかな手招きに誘われて、一時の夢と幻を楽しむそうです。
 故も知らない理想の相手を求めてその手を取り、緩やかにそして瞬く間に過ぎていく時の中で、心に深く刻むのでしょう。
 それは夢でも幻でもなかったと。
 微睡む視界の中でただ一人の影を目に焼き付けて。
 ですが中には人ではなく、魔族の侵攻による戦火に飲まれて失われた知識や芸術品との出会いを求める者もおり、書庫に眠る魔導書や世に出ることの叶わなかった魔道具に、一癖も二癖もある曰く付きの絵画などの、夢と幻の境だからこそ存在する事ができる物もあるという話です。
 月が沈むまでの僅かな時であったとしても、非日常との邂逅と想い描いた理想への憧れを求めているのは、もしかするとそれは人ではなく物なのかもしれません。
 忘れないでと。
 徐々に風化していく城跡に逆らう様に、輝きを求める想いが荒廃したこの地で今も尚、あの美しい月を待ち続けているのでしょうか。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2021-09-06

難易度 簡単 報酬 少し 完成予定 2021-09-16

登場人物 2/4 Characters
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。

解説 Explan

 このエピソードは個別に描写されます。

 ある日あなたの元に一通の小洒落た、差出人不明の招待状が届きました。
 あなたはそこに自分の名前を記入し、願いを込めてそっと息を吹きかけて飛ばしてください。

 そこであなたは何を願うのでしょう。
 綺羅びやかな舞踏会で理想の相手との一時でしょうか。
 もしそうであるならば、その方は何と名乗っていたのでしょう。
 できるだけ多くの特徴を思い浮かべて下さい。
 きっと出会えることでしょう。
 舞踏会に興味が無いのであれば、あなたはまた別の願いがあるのでしょうか。
 まだ知り得ない知識にまだ見ぬ魔道具や、芸術品の何れかを求めているのですね。
 であれば、あなたはどのような未知との出会いを求めるのでしょうか。
 出会いたい、知りたい、ある種の叡智に触れたいのでしょうか。
 それはどのような物なのかを出来るだけ詳しく想像して下さい。
 もしかすると、その物もあなたとの出会いを待っているかもしれません。


作者コメント Comment
 よろしくお願いいたします。


個人成績表 Report
クロス・アガツマ 個人成績:

獲得経験:60 = 40全体 + 20個別
獲得報酬:1200 = 800全体 + 400個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:1
獲得称号:---
ひとりの少女に手招きされるがまま、舞踏会に参加

おや?君は俺を知っているのか
すまないが、こちらは君を把握できていなくてね……名乗ってもらえると嬉しいのだが

参ったな、謎かけときたか……
いや、ここまで来たんだ。受けて立とう

俺を知っていて、俺も君をしっている

付き合い……彼女がいたことはないし言葉通りではないな
ふむ、ひょっとすれば人でもないのか……

直したことがある、大切にしていたものか?

……俺が財産にしているものとなれば、ああ、解ったと思う


生前、俺が読んでいたね
筆者不明の古い魔術教典『ヘラルド』
この不思議な夜に、わざわざ出向いてくれたのか
もうずっと昔だ。恐らく本はもう土に還っているのだろう

会えてよかった

エリカ・エルオンタリエ 個人成績:

獲得経験:60 = 40全体 + 20個別
獲得報酬:1200 = 800全体 + 400個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:1
獲得称号:---
舞踏会なのでドレス着用でお城に向かう

魔王復活をもくろむ魔族の活動に懸念

魔族は知恵が回り、策略や呪いを巧妙に使い、非常に厄介
対抗するためには、自分の技術や力の研鑽も必要だが
過去の偉人に学ぶことも必要だと思う

魔族との対決、最悪魔王が復活した時の為にも
役立つ情報を得たいと望む

・魔王事変時の経緯や戦いの光景
・七選の戦士達と勇者一行の姿や働き
・使われた武具や魔法、霊玉などのアイテムやその行方
・魔王やその配下の姿や能力、封印を逃れた存在や現在の状況
・七選の戦士達と勇者の子孫やその遺志や知識を継ぐ者

幻視などを一方的に見るのでなく、直接過去の人などに会える場合は
礼を失さず丁寧に応対、今後の戦いへの助言を請う

リザルト Result

・夢幻の邂逅
 自室の扉を開くとそこには、光無き漆黒の世界が広がっていた。
 【クロス・アガツマ】が足を踏み入れたと同時に扉が音も無く閉まる。
 周囲を見回していると、クロスの瞳の端に光が走る。
 振り返るとぼんやりとした光が、漆黒に浮かんでいた。
 やがてそれは小さく華奢な手を創り出し、クロスを手招きするように揺れている。
 ――誰かが俺を呼んでいるのか? 面白い、少し付いて行ってみるか。
 好奇心に駆られてその手に付いて行くと、先程まで纏わり付いていた固く冷たい空気が静まり、柔らかく温かい空気が頬を撫でるのを感じた。
 すると突然、漆黒の世界が水に溶ける絵の具のように消え、その奥から別の世界が浮かび上がる。
 それは見知らぬ城内の風景だった。
 色づく世界はやがてクロスに耳を撫でる美しい旋律と、鼻をくすぐる馳走の匂いを運んでくる。
 クロスが静かに胸を撫で下ろした瞬間、背後に扉の閉まる衝撃音が突風のように体を突き抜けていく。
 振り返ると天秤の紋章が刻まれた、荘厳な大扉が固く閉じられていた。
 ――変わった紋章だな。天秤か……いや、よく見ると……。
 クロスが不可思議な紋章の考察をしていると、背中に刺さる視線に気付いて振り返る。
 するとそこには少女が一人、じっとクロスを見つめていた。
 まるで高尚な宮廷画家が描いた荘厳華麗な絵画の中に、一人だけ浮いている。そんな異質な何かを、少女は見る者全てに感じさせるだろう。
 クロスはその違和感の原因がすぐに分かった。
 影。少女には影が無かった。
 クロス自身その少女に見覚えは無かったが、少女のその小さく華奢な手には見覚えがあった。
 光無き漆黒の世界。その中に浮かぶ唯一の光。
 ――恐らく彼女が俺をこの世界へと導いたんだろう。……さて、どうしたものか。
 気まずくなりクロスはつい少女から目を逸らす。
 すると柔らかくひんやりとした感触が手を包み込む。
 驚き手に顔を向けると、クロスの手を握る少女と再び目が合う。
「君は俺を知っているのか? こちらは君を把握できていなくてね」
 クロスの問に少女は拗ねるように顔を背けた。
「すまないが名乗ってもらえると……」
「あなたを私はよく知っている。あなたも私をよく識っている」
 クロスの言葉を遮るように少女が口を開く。
「俺を知っていて、俺も君を知っている、か。参ったな、謎かけときたか……。いや、せっかく来たんだ。受けて立とう。」
 その言葉に少女の顔が、花が咲いたように明るくなる。
「あなたとの付き合いは二年と少し。その後も時々、私を連れ出してくれた」
 少女は僅かな手がかりを与えてクロスの手を引き、会場へと誘う。
 ――付き合い……彼女がいたこともないし言葉通りではないな。ふむ、ひょっとすれば人でもないのか……?
 跳ねるように駆ける少女は思案するクロスに、更に手がかりを与える。
「傷ついたら、私を直してくれたこともあった」
 会場に着くと少女はクロスの手を取り踊り始める。
 緩やかな時の流れが旋律となり、二人を柔らかく包み込む。
 まるでガラス細工のように美しく儚い手足で、少女は嬉しそうに踊っている。
「直したことがある。大切にしていた『もの』か?」
 徐々に縮まる心の距離に、少女は微笑みで答える。
「私はあなたに多くの財産を与え、導となった」
 仄かに熱を帯びた少女の声が、クロスの答えを確信に変える。
 ――俺が財産にしているものとなれば……。
「あぁ、解ったと思う」
 そして。
「私達はいつの日か」
「……因果を越える戸口に立つ、か」
 彼女とクロスの答えが重なる。
「生前、俺が読んでいたね。筆者不明の古い魔術教典『ヘラルド』。この不思議な夜に、わざわざ俺を呼び出したのか。もうずっと昔だ。恐らく本はもう土に還っているのだろう」
 心に開いた穴。それは――。
「――…………、私を信じたあなたに……感謝を伝えたくて――」
 懐かしい名を口にするヘラルドの声が、クロスの脳裏に響く。
 ――忘れていた思い出が埋めてくれるのだろうか。
 やがて曲は静まり、別れの時が訪れる。
 何れにせよ――
「その名前の男は君と同じくずっと前に死んだよ。だが……おかげで実に貴重な体験ができた」
 ――俺にも残っていた。支えてくれる思い出が。
 朝日が城を照らし、煙のように消えていく。
 クロスの部屋が姿を現したとき、既に少女。いや、ヘラルドはいなかった。
 柔らかくひんやりとした感触だけが、微かに手に残っている。
 ――会えてよかった。



・理想と真実
 月が煌々と輝く穏やかな夜。
 エリカが舞踏会へ向かうための身支度を整えた頃。
 月明かりが窓を通してエリカを眩しく照らす。
 まるで夜の闇をかき消すような強烈な光に、エリカの姿が白く飲み込まれる。
 やがて光が収まり闇が戻ると、エリカの姿だけが戻ることはなかった。

「大丈夫か?」
 誰かの気遣う声がエリカの強張った意識に微かに響く。
 まぶたの裏を照らす光がさる頃。
「は、はい。大丈夫です」
 少し遅れて返事をすると共に、力んだ瞳をゆっくり開く。
 そこには少年の面影を残す、端正な顔立ちをした青年風の男性がいた。
「君が俺を呼んだのかな? まだ相手がいなくてさ。もしかしたら君が……あっ、俺は【ジルウィード】。一応、勇者、なのかな? よろしくね」
 ジルウィードことジルは、エリカの手を引いて会場へと誘う。
 一方エリカは勇者という言葉に目を輝かせていた。
「勇者様ですか? お会いできて光栄です! わたしは【エリカ・エルオンタリエ】と申します。こちらこそよろしくお願いします!」
 尊敬の眼差しを一身に受け、苦笑いをしてジルが答える。
「ジルでいいよ。それに俺は君が思うような人物じゃないんだ」
「そんなことありません! わたしは今、魔法学園に通っていて多くの知識が必要なんです。魔王事変の光景やその際に使われた武具や魔法と、勇者の子孫やその遺志を継ぐ者の行方とそれから……えっと、あっ! 平和的手段で解決するためには、どうすればいいのかを知りたいです」
 エリカの熱を帯びた津波のような想いが、手を引くジルの背中に降りかかる。
「いいよ。その想いにできる限り答えてみよう。ただ俺は全てを知っているわけではないから、そこを理解してくれ」
 会場に着くとジルがエリカの手を取り、ゆっくりと踊り始める。
「現存するものはそう多くないだろう。特に武器は耐えられないから」
「どういうことですか?」
 耐えられない。その答えはすぐに返って来た。
「こういうことさ」
 ジルは少し離れると剣を抜いて、流れるように刀身に指を滑らせ掲げた。
 すると瞬く間に剣が光の渦を纏い、加速度的に激しさを増していく。が、次の瞬間、ひび割れる音が煙のように消えいていく渦から響いた。そしてジルの手から砕けた剣が、砂のように零れ落ちた。
「これが理由。それと同時にこの力が不完全である証」
「今の魔法がですか?」
 ――あれ程の魔法で不完全……。もしかすると、それは自分に向けた言葉? だとすれば、わたしは――
「恐れず力を付けるんだ。与えられた力だけじゃすぐに限界が訪れる。それ故に戦う以外の道を俺は知らなかった。今思えば皆そうだったのかもしれない」
 エリカの心の内を読んだかのように、ジルが答えた。
「戦乱の記憶のほんの一部を見せようと思うんだが、どうする?」
「見ます! そのためにここまで来たんです」
 間髪入れずにエリカが答える。
 するとジルがエリカの顔に手をかざして指を鳴らしたその時、城内が崩れるように沈んでいく。
 やがてエリカの視界に粉塵が舞い、鉄の焼けた臭いが鼻を刺す。
 空は燃え盛る炎のように紅く染まり、太陽は不気味に輝き大地を照らしている。
 身体を突き抜ける怒号に思わず耳を塞ぎ、目を力強く閉じる。
 すると凄惨な光景が音と共に脳裏から弾け飛ぶ。
 ゆっくりと目を開けると、心配そうに顔を覗くジルと目が合う。
「少し刺激が強かったようだね。ごめん。でもその反応を見るに、今はまだ穏やかなんだね」
 ジルが安心したように微笑む。
「ですが、またこのような戦いが……」
 エリカの戸惑う声にジルが重ねる。
「その時は君達の出番だ。俺達の遺志を継いだ君達の……ってもうお別れか」
 朝日が昇りエリカを迎えにやって来る。
 旋律が緩やかに静まり、夢と幻の終わりを告げる。
 やがて眩い光がエリカを包み込む。
 まぶたの裏を照らす光が去る頃。
 ジルの声が脳裏に響く。
 ――これは世界を救う勇者の物語。戦いによってもたらされた安息は長くは続かないだろう。でも心配はいらない、
勇者だからね。勝つに決まってる。そうだろ?
 ――はい、でも平和への願いは変わりません。勿論、諦める気もありません。ただ、守りたいもののためならわたしは――。
 ジルの問にエリカはそっと心の中で答える。



課題評価
課題経験:40
課題報酬:800
煙の招待状
執筆:y GM


《煙の招待状》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 1) 2021-09-05 03:08:59
賢者・導師コースのエリカ・エルオンタリエよ。よろしくね。

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 2) 2021-09-05 18:12:55
ああ、よかった。出発できないかと思っていたところだったんだ……
賢者・導師コースのクロス・アガツマだ。今回は個別だから相談事はないが、よろしく頼む。