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てんさいのあしあと (ショート)
y GM
 星々が煌めき柔らかな静寂が包み込む穏やかな夜の出来事。  ここはトロメイアの街の外れ。アルマレス山を背景にポツンと一軒、小さな家が建っている。  小屋。それは家と言うには小さくこじんまりとしていた。また、薄い月明かりからでも所々、継ぎ接ぎのような修復跡が見て取れる。そして、人もまだ住んでいるようだ。くすんだ橙色の灯りがぼんやりと、その小さな窓から溢れている。  雷だろうか。その小さな家の存在を確認したときほんの一瞬、視界が白く点滅したような気がした。と、次の瞬間。  まぶたの裏に走る閃光と共に、雷が落ちたかのような轟音がアルマレス山を越え、トロメイアの街を突き抜け静寂を破っていった。  しかし街は静かだった。まるで最初からそんなざわめきなど無かったかのように。  慣れているのだろうか。このざわめきに。  夢から引き戻された人々が再び微睡み始める頃、夜もまた静寂を取り戻そうとしていたとき、先程までそこにあったはずの家は僅かな残骸と、向かい合う二つの人影をそこに置いて無くなっていた。と、そのとき。 「お姉ちゃん!」  可憐な怒号が影の方から、空へと虚しく響いていった。 「エヘヘ……ゴ、ゴメンね? ジュリ」  お姉ちゃんと呼ばれた人影は舌をペロッと出して、パチッとウィンクをしながらお茶目にそして、どこかぎこちなく申し訳なさそうに謝っていた。 「全くもう……これで何回目だと思ってるの?」 「さ、いや、よ、四回目、くらいかな?」 「五回目!」  フワフワとした姉リディアーネの返事に、妹ジュリアーネは深いため息をついて、ピシャリと言い放つ。  その迫力に押されて姉は胡座を解き、背筋を伸ばして正座をする。 「魔法の研究をやめてとは言わないけど、その度に家を吹き飛ばすのはやめてよね。これで五、回、目、なんだから」 「ゴ、ゴメンて……」 「そんなに魔法の研究がしたいんならさ、ほら、あの学園、何ていったっけ? 魔法学園【フトゥールム・スクエア】だっけ? に入学とかしてみたらどう?」  ジュリが散乱した家の破片を集めながら、姉に学園への入学を勧める。 「あぁ……でもさ、あそこって魔法の研究ってできるのかな? ていうかどうやって入学するの?」  こんなときでも魔法の事しか頭にないのだろうか、目の前でせっせと惨事の後始末をしている妹をよそにこの姉ときたら、話を半分も聞かずにボーッと考え事に耽っているのだった。 「さぁ? 私は行ったことないからよく分からないけど……あっ! だったらさ、魔法の研究がどうたらって依頼してみて、実際にその学校に通ってる生徒さんに聞いてみたら?」  ジュリは我ながら良い考えだと思い、姉の方へと振り返る。するとそこには、未だに手伝いもせずに口をポカンと開けて、抜け殻と化した姉がいた。 「お姉ちゃん!」  三度目の怒号が辺り一面に響き渡る。それは満月の美しい夜だった。
参加人数
2 / 4 名
公開 2021-07-20
完成 2021-08-02
煙の招待状 (ショート)
y GM
 グラヌーゼの片隅にひっそりと佇む城跡。  曇り空はどこか悲しく沈み、流れる乾いた風は切なく鳴いて、広がる大地は虚しく荒れている。  しかし、雲一つない美しい月が見える夜。  かつての栄華を懐かしむように、月明かりが淡くぼんやりと照らすその先。  そこには今となってはその名を知る者は少ない城の姿を、稀に見る事ができると言われています。  招待された者によると、その城では夜な夜な絢爛豪華な舞踏会が開かれているようで、招かれた客人たちは様々な想いを胸にその綺羅びやかな手招きに誘われて、一時の夢と幻を楽しむそうです。  故も知らない理想の相手を求めてその手を取り、緩やかにそして瞬く間に過ぎていく時の中で、心に深く刻むのでしょう。  それは夢でも幻でもなかったと。  微睡む視界の中でただ一人の影を目に焼き付けて。  ですが中には人ではなく、魔族の侵攻による戦火に飲まれて失われた知識や芸術品との出会いを求める者もおり、書庫に眠る魔導書や世に出ることの叶わなかった魔道具に、一癖も二癖もある曰く付きの絵画などの、夢と幻の境だからこそ存在する事ができる物もあるという話です。  月が沈むまでの僅かな時であったとしても、非日常との邂逅と想い描いた理想への憧れを求めているのは、もしかするとそれは人ではなく物なのかもしれません。  忘れないでと。  徐々に風化していく城跡に逆らう様に、輝きを求める想いが荒廃したこの地で今も尚、あの美しい月を待ち続けているのでしょうか。
参加人数
2 / 4 名
公開 2021-08-30
完成 2021-09-14

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