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【王遺】遺跡からの呼び声は誰ぞ 


ストーリー Story

●古王の目覚め

 古から時を刻み続ける古代の遺跡。
 その最奥でゆっくりと動き出す存在がいた。
 身体は蔦に覆われ、その身は苔生しているがその佇まいは凛としている。
 ぼろぼろのマントを翻し、その存在はやっと口を開いた。
「……我らが求めるは闘争なり。今、眠りより覚めしこの時……闘争の宴の開始となろう」
 かつては煌びやかであったであろう朽ちた剣を古の【王】が掲げる。
 すると剣から光が放たれ、周囲で跪いた状態の石像たちに降りかかった。
 次の瞬間、石像たちもまた【王】のように動き出す。
 彼らは整列し王の前に跪いた。彼らの身もまた苔生してはいるが経年劣化による欠損はないようだ。
 その中でもひと際重厚な鎧を纏った石兵が口を開く。
「我らが王よ、今が【その時】なのでしょうか? 眠りより覚めし我らが……再び覇を唱える王の剣となるその時と」
「是非もなし。者どもよ、外界ではそれなりの刻が経っているだろう。我らに抗する者には事欠かん。まずは情報を集めるのだ、敵を知らねば勝利の美酒は味わえぬ」
「御意、我らの中でも足の速い者を向かわせるとしましょう。ではこれにて」
 兵が慌ただしく動き出す様を見ながら石兵たちの王【レガニグラス】は口の端を歪ませ笑みを作る。
 それは来たる戦いへの興奮と期待が込められたものだった。
「さて永き眠りについた甲斐があったと思わせてくれ……この時代の強者共よ。我を……退屈させるでないぞ」

 大陸一の高山【アルマレス山】。
 そこは精霊に愛された土地であり、巡礼者たちが作り上げた町【トロメイア】がある。
 そんなトロメイアでは今、町の周囲で見たこともないような石の動く石兵が目撃されたという話が飛び交っている。
 現在の所、観光客や住民に被害はなくそれらが敵対的な行動に出てくることは無い。
 だがトロメイアの町に居を構える大手商会【キルガ商会】の主【キルガ・レーンハイム】は事態を儲けの好機と見ていた。
 そんな彼に依頼として呼び出され、フトゥールム・スクエアの生徒たちは応接間にて彼の話を聞いている。
 キルガは酒瓶からグラスにワインを注ぎ、それを一口飲むと意気揚々と話し出した。
「諸君、見たこともない石の兵と聞いてわくわくしないかね? 彼らはどこから来たのか、何が目的か、謎は多い。わしはわくわくしておるとも。わかるか、ロマンというものだよ」
 そういったキルガは生徒たちに見えるように地図を壁に張り出した。その地図にはいくつかの点が記されている。
「これはわしの情報網で割り出した奴らの出現場所の印が入った地図だ。どうだ、見て何か気づくことは無いかね?」
 キルガに促され、よく見てみれば点はある地点の周囲を囲むように記されていた。その地点はアルマレス山の中腹にあるようだ。
「わかるか、この地点には古い遺跡の入口があってな。昔の土砂崩れで入れなかったんだが……何かあると思ってな。部下を向かわせた所、なんと土砂がどかされていたのだよ。それも内側からなぁ。不思議だろう? 人などいるはずがないのにだ」
 グラスの酒を飲み干すとキルガは楽しそうにしゃべる。その瞳はきらきらと輝いていた。
「ぷはっ、そのまま調査をしてもよかったんだが遺跡の入口には例の石兵がうろついていてなぁ。念の為、腕に覚えがある者を調査隊として送ろうと考えたのだよ。それで頼みとなるのが君たち、というわけだ」
 彼が言うには遺跡の内部調査をしてほしいとのこと。
 観光に使えるようなら良し、危険性のある魔物などの生物がいる場合は討伐も視野に入れて欲しいようだ。
「ああ、そうだ。中で見つけた物は自由にしてくれて構わんぞ。学園に持ち帰って君たちの糧にしてくれ。古代の遺物など、わしらが持っているよりもその方が有効活用できるだろうからなぁ」
 こうして生徒たちは古代遺跡の調査を依頼として請け負ったのである。

 アルマレス山中腹。遺跡付近。
 生徒たちは地図を頼りに件の遺跡の付近にて身を潜めていた。
 ここまで石兵に遭遇することは無かったが、遺跡が見えてきた途端に石兵を多く見かけるようになったのだ。
 彼らはまるで遺跡を守るかのように布陣しており、その様子はさながら警備兵。守りは厚く、衝突は避けられないように見える。
 ふと、生徒たちの頭の中に声が響き渡った。
 それはか細く、そして透き通った声で小さな少女のもののようだ。
(来て……お願い……私を……ここから……解き放って……誰か、私を……私を……)
 声は次第に小さくなり、ついには聞こえなくなった。
 なぜだかわからないがその声の主は目の前の遺跡の中にいる、そう生徒たちは感じ取る。
 そして彼らは小さな助けを求める声に導かれるまま、遺跡へと足を踏み入れるのであった。

 遺跡に足を踏み入れ、石兵たちと生徒たちは剣を交える。
 交戦に入った石兵は腰のほら貝を吹いて敵襲を知らせた。ほら貝の音が遺跡に響き渡る。
「敵襲ーーーッ! 者ども、であえであえーーッ!」
 石造りの太刀を抜いた石兵たちが遺跡の入口を守るように展開する。その後方には弓を構えた兵の姿も見えた。
 弓矢の雨を潜り抜け、石兵と衝突する生徒たちの頭にはまた少女の声が響く。
(お願い……どうか……もう、こんなことは、嫌、なの……お願い、私を……解放して……早く……)

 遺跡の最奥で待つのは何者か。
 彼らを呼ぶ少女の声の正体は。
 真相の全ては、昏い遺跡の奥に眠っている。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2021-10-08

難易度 普通 報酬 多い 完成予定 2021-10-18

登場人物 3/8 Characters
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《新入生》神鵺舟・乕徹
 ドラゴニア Lv10 / 芸能・芸術 Rank 1
 文字通りの意味で流れ着いてやってきた、異国の侠客。  用心棒や刺客、はたまた小間使いや芸子としてあらゆる手段で食い扶持を稼いできた苦労人。切った張ったの世界に居座り続けていた為か、思考が少々短絡的。  それだけに本来はそれなりの実力を持っていたが、エイーア大陸の魔物や勇者の戦技は祖国とは勝手が違うため、経験や知識から学び直し、自らの流れに取り入れている最中である。  元の世界では、『戮妓』と呼ばれる剣闘士のようなものをしていた。屈強な戦士や魔物を舞の如き動きで殺め、強さと美しさを見世物にする、絶望の時代ならではの卑賎な稼業である。だが、滅びを求めている魔族や権力者には強く支持されており、人気のある戮妓にはパトロンが付くこともあったという。  人気はあったものの、それ以上に悍ましき本性が勝っていたからか、彼女には誰も寄り付かなかったため、生活には結構苦労していたらしい。  また、過去の果し合いにより、左目の下に裂傷を負い、更に角をねじり折られた後遺症で枯れ木の枝のような醜い角が生えるようになってしまった。が、本人は名誉の負傷としている。  尚、今の名前はかつて愛用していた脇差から借りた偽名である。  話に聞いたエイーア大陸は、魔王の居城があるとされる場所の筈だった。人などが到底住める土地ではなかったとずっと信じていた。  ようやく大陸や学園での生活に慣れてきたものの、今度は平和ボケで腕が鈍りそうになることを恐れている。  また、同性でも自分より背の高い人が多く(というより元の世界の国ではこのくらいが平均だった)、少しだけ気後れしている。  油断すると稀に訛りが強く出てしまうらしい。非常に荒っぽくまるで喧嘩腰のように聞こえるため、極力出さないようにしている。(広島弁や播州弁に似ています。難しいと思いますので、用意された台詞以外はあまりリプレイに反映しないで大丈夫です) 『何だか、妙なとこに来たみたいじゃねえ』 『消えた後に地獄でも待っとるとしたら、そんなのでも救いになり得るのかのぅ?』 『そりゃ誰もが全て見えてりゃ苦労せんわい。目を逸らせるなら、都合のいいものしか見たくないじゃろ』 『えぐい化生共がぎょうさんと。あー邪魔くさいのぅ。わっち、せっせと帰にたい』 出身地:極東の島国 身長:五尺 体重:十貫(よりは少し重いらしい) 実年齢:数え年で二十二 好きなもの:粋な音楽、刃物 嫌いなもの:説教や小言 特技:剣舞、推察 読み:カヤフネ・コテツ
《光と駆ける天狐》シオン・ミカグラ
 ルネサンス Lv14 / 教祖・聖職 Rank 1
「先輩方、ご指導よろしくお願いしますっ」 真面目で素直な印象の少女。 フェネックのルネサンスで、耳が特徴的。 学園生の中では非常に珍しく、得意武器は銃。 知らない事があれば彼女に訊くのが早いというくらい、取り扱いと知識に長けている。 扱いを知らない生徒も多い中で、その力を正しく使わなくてはならないことを、彼女は誰よりも理解している。 シオン自身の過去に基因しているが、詳細は学園長や一部の教員しか知らないことである。 趣味と特技は料理。 なのだが、実は食べるほうが好きで、かなりの大食い。 普段は常識的な量(それでも大盛り)で済ませているが、際限なく食べられる状況になれば、皿の塔が積み上がる。 他の学園生は、基本的に『○○先輩』など、先輩呼び。 勇者の先輩として、尊敬しているらしい。 同期生に対しては基本『さん』付け。  

解説 Explan

勝利条件
:第一階層の制圧。

敗北条件
:仲間全員の戦闘不能。

戦闘場所
:アルマレス山中腹。遺跡第一階層。
 第一階層は開けた広間になっており、隣接する小部屋は一つ。
 どうやら少女の声は小部屋から聞こえてきているようだ。

敵データ
《太刀石兵》……数については不明
【格】
:2
【生態】
:上官の指示に従って動く石の雑兵。遺跡に出没。
【本能】
:大太刀で武装しており、その身は石の当世具足で覆われている。
 その守備力は高く、大太刀による斬撃も無視できない威力を誇る。
 反面、機動力は悪い。
【属性得意/苦手】
:雷系は効きにくい
【得意地形】
:地上
【戦闘スタイル】
:大太刀での一撃必殺重視。
【状態異常】
:無し

▼GM補足情報
:日本の武士モチーフです。

●《弓石兵》……数は不明
【格】
:2
【生態】
:上官の指示に従って動く石の雑兵。遺跡に出没。
【本能】
:弓で武装した石兵。その身は石の当世具足で覆われている。
【属性得意/苦手】
:雷が効きにくい
【得意地形】
:地上
【戦闘スタイル】
:太刀石兵に守られながらの弓攻撃。
【状態異常】
:無し

▼GM補足情報
:日本の武士モチーフの弓兵です。

●《武将石兵》……数は1
【格】
:3
【生態】
:雑兵を従える武将の石兵。遺跡に出没。
【本能】
:二本の刀で武装した二刀流の石兵。その身は石の当世具足で覆われている。
【属性得意/苦手】
:雷が効きにくい
【得意地形】
:地上
【戦闘スタイル】
:基本的に後方に位置し、太刀石兵、弓石兵に指示を飛ばす。
 武将石兵が存命な限り、各石兵は増え続ける。
【状態異常】
:無し

▼GM補足情報
:日本の武将モチーフの石兵です。

●登場NPC
謎の少女
:遺跡の奥から響いてくる声の主。


作者コメント Comment
お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
謎の遺跡に謎の少女……果たして遺跡の奥にて待つ者は……。

トロメイアの大手商会【キルガ商会】からの遺跡調査の依頼です。
遺跡さえ傷つけなければ、中の物品の持ち出しは自由です。
学園に持ち帰れば、いずれ購入可能となる場合もあります。

石兵たちの連携は強力な上、武将石兵を討伐しない限りは敵の増援は止まりません。
皆様の連携行動がカギとなるでしょう。

それではご参加お待ちしております。


個人成績表 Report
クロス・アガツマ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:234 = 78全体 + 156個別
獲得報酬:7200 = 2400全体 + 4800個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
動作察知で常に奇襲を警戒しながら遺跡を進もう
しかし、どうやらあちらから出迎えてくれるようだ

ミドガトルで、俺は太刀石兵を優先的に攻撃
弓石兵は他の仲間が反応しきれないときに代わりにダードで討つ
攻撃には立体機動を活かしながら対応し捌いていく
数で攻めてきたらスピット・レシールで防ぎ、仲間と連携攻撃し突破する

武将石兵へは電結変異で、しかし武器の特性で無属性のまま翻弄し速攻で決める
懐に飛び込み、零距離でダートガでその石の肉体を一気に吹き飛ばそう
術者は遠距離を得意とする……その先入観を砕きながら黄泉へ送ってやろう

片付いたら俺は声の主を調べたい
魔法学を活用し遺跡をよく理解しながら声の主を探し当てよう

神鵺舟・乕徹 個人成績:

獲得経験:93 = 78全体 + 15個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
戦闘の前にド5で力を高めておく。
仲間より更に前に立って戦う。

長引けば負ける。短期決戦が望ましい。
戦闘は防御よりは攻撃と回避を重視。防御にはド2で空いた左手を固める。それでも怪我は覚悟。
大太刀なら懐は弱い筈。懐に迫り、腕や脚の間接などに鉄扇を打ち込んで部位破壊Ⅰを試み、武器を持てなくする。
弓兵は多分に纏まって動くはず。遠い時はド8で纏めて焼き、近づけそうならド3。
後衛の攻撃で隙を突けたらド1で将に肉薄しド3で抉る。逆の場合も部位破壊Ⅰで。

怪我を負ったら特級薬草と踊り子の秘めごとを頼る。

少女に関しては仲間に任せたいが、様子を見て敵意が無ければ探して保護するのもいいか。
遺物は金にでも換えるか。

シオン・ミカグラ 個人成績:

獲得経験:93 = 78全体 + 15個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
群れ思考で仲間の皆さんとの連携を意識し動きます

私は銃の射程を活かし、通常攻撃の射撃や、それより遠い場所の敵にはスナイプショットで対応していきます
弓石兵を優先して倒し皆さんが戦いやすいようにしつつ敵を着実に減らします

誰かが負傷したらリーライブで癒し、戦線を維持しましょう
魔力が減ったらバレットリロードで再装填。まだまだやれますよ!

また、武将石兵に皆さんが接近できるよう、トライショットで複数の敵に制圧射撃を行い、道を作ります
今です先輩方!行ってください!

遺跡の調査はとりあえず目立つものを回収してみます
知識があまりないので、持ち帰ってから役立つかは調べてもらいましょう

リザルト Result


 降り注ぐ矢の雨。
 遺跡調査に訪れた学園生達を仕留めんと襲い掛かる石兵達。
 数で勝る敵兵力を前にして、学園生達の動きは素早かった。
(長引けば負ける)
 即座に判断し、積極的に前に出たのは【神鵺舟・乕徹】。
 矢が射られ、次の一矢の準備に入った瞬間、一気に前に出る。
 石兵はすぐさま反応し、乕徹を狙って矢を放つ。
 しかし、それを乕徹は鮮やかに回避。
 翼をはためかせながら優美な動きで射線から逃れ、仲間を鼓舞するために舞い踊る。
 龍翼演舞:花の効果により、【クロス・アガツマ】と【シオン・ミカグラ】は、体の内から力が湧き上がっていく。
 それを活かすように、クロスも積極的に前に出た。
 クロスの狙いは、敵前衛である太刀を構えた兵。
 乕徹に攻撃が集中しないよう、離れた位置から前に出る。
「魔術師風情が我らに直に挑むか!」
 無手で近付くクロスを魔術師と見たのか、太刀兵達は侮る様に声を上げ向かって来る。
 直情的な動きで近付く太刀兵達を、クロスは薄く笑みを浮かべ迎え撃った。
 石剣の振り降ろしを避けながら、魔力でステロノアを具現化。
 振り降ろされた太刀を撃ち落すようにして薙ぎ払い、敵の体勢を崩した所で死角に踏み込む。
「術者を侮るのは勝手だが――」
 魔力を収束し変換。
 手の平サイズの水で出来た球体を次々作り出し連続射撃。
 死角からまともに食らった太刀兵は、無数の水球がぶち当たる毎に罅が入り、最後は砕け散った。
「術者は全て遠距離でしか戦えないと思わないことだ。接近戦を得意とする者もいる」
 仲間を瞬く間に倒され、敵にざわめくような動揺が走った。
 その動揺を逃さず、クロスは攻勢を強める。
 弓兵からの射線が通らないよう、太刀兵を壁にするように立ち回り、多数を相手取りながら一体ずつ確実に破壊していった。
 クロスの活躍を、乕徹は目の端で見て楽しげに声を上げる。
「ははっ! わっちも負けておられぬな!」
 舞い踊るような動きで敵を翻弄していた乕徹は、一転して攻勢に出る。
(大太刀なら懐は弱い筈)
 多少の傷は覚悟の上で、龍翼を羽ばたかせ一気に距離を詰める。
 間合いに入られた太刀兵は武器の大きさが災いし、直接触れ合えるほど距離を詰めてきた乕徹を、咄嗟に切りつけることが出来ない。
 やむを得ず一歩下がろうとするが、そこに乕徹の一撃が叩き込まれる。
(狙うなら――そこじゃ!)
 太刀兵が振り上げた腕の肘を目掛け、鉄扇で強打した。
 重く鈍い音と共に、太刀兵の肘に大きな罅が入る。
「おのれっ!」
 肘を破壊され太刀を落とした敵は、残った手で太刀を掴もうとするが、乕徹の追撃の方が速い。
 残った肘と膝を鉄扇で破壊し動きを封じた所で、止めの一撃を脳天に叩き込む。
 大きく破片を撒き散らしながら、太刀兵は破壊された。
 立て続けに仲間を倒され、敵はどよめく。
 同時に、今まで以上の殺意が向けられるが、乕徹は楽しげな笑みを浮かべる。
「楽しくなってきたのぅ、もっと打ち込んでくるがよいわ!」
 向かい来る石兵達を迎え撃つ。
「そのようなのろまで、今世を生きる戮妓を討てると思うたか!」
 戦いを加速させる毎に笑みを深め、かつての勘を取り戻していく。
「石の兵では訛った勘を取り戻すには役不足じゃが、数の多さで大目に見てやろう。荒療治で行かせて貰うぞ!」
 戦いを楽しむ乕徹と、冷徹な判断で敵を確実に打っていくクロス。
 シオンは2人を援護しながら、その戦いぶりに感嘆していた。
「先輩方、すごい迫力です……」
 思わず目を奪われそうになるが、戦いへと意識を引き戻す。
「っとと! 見とれている場合じゃありませんね!」
 ファイニンを構え、後方から援護射撃に徹する。
 仲間であるクロスと乕徹は近接戦を仕掛け、一歩間違えれば誤射する可能性もあったが、シオンの射撃は迷いなく危なげもない。
 それはルネサンスである彼女の血に刻まれた本能が活きている。
 かつて群れで動いた先祖の血が、どう動けば仲間にとって最善の行動になるか教えてくれる。
(今この場で最優先して狙うべきは弓兵)
 クロスと乕徹が思う存分戦えるよう、敵の後方支援を叩き潰す。
(1人ずつ、確実に倒します)
 息を整え、狙撃に集中。
 片眼を閉じ照準をつけ、スナイプショット。
 針の穴を通すような精密狙撃は、矢を射ろうとした弓兵の脳天に命中。
 額に魔力弾による穴を穿ち、内部に侵透した衝撃が後頭部を粉砕。
 頭部を破壊された弓兵は、そのまま崩れるように倒れ伏した。
 仲間が倒された弓兵は怒りの声を上げ、何体かがシオンを目掛け矢を放って来る。
 しかしその時には、すでにシオンは動いている。
 降り注ぐ矢を躱しながら、精密狙撃を繰り返し、弓兵を確実に減らしていった。

 シオンの援護射撃で動き易くなったクロスと乕徹は、さらに攻勢を強める。
 敵は数で勝っていたが、それゆえ寡兵の学園生達を侮っていた。
 次々倒され数の有利が無くなって初めて焦りを見せ始めるが、時すでに遅い。
 戦いの中で勢いを加速させていった学園生達は、敵の大半を倒し切っていた。

「おのれ、増援はまだか!」
 石兵達を指揮していた武将姿の敵が苛立たしげに声を上げる。
 味方が倒れる中、それでも前に出て戦わないのは、増援を呼び寄せているように見えた。だからこそ――
「敵の頭を潰そう。それが一番手っ取り早い」
「承知した。露払いはする。先に行け!」
 乕徹はクロスが武将石兵に踏み込めるよう、今まで以上に前に出る。
 狙いは、武将石兵を守る弓兵。
 近付く乕徹に、弓兵は迎え撃つべく弓を引く。
 だが乕徹は、多少の傷など知らぬとばかりに突進の勢いを弱めず、まとめて焼き払うべく大きく息を吸う。
 距離が縮まり、弓兵の方が僅かに早く、弓を射ようとした瞬間――
「させません!」
 シオンがより早く援護射撃。
 残った魔力の全てを振り絞り、ファイニンに魔力装填。
 そこから魔力が尽きるまで連続射撃を繰り返す。
 無数の魔力弾が弓兵に襲い掛かり、攻撃を止めた。
「今です先輩方! 行ってください!」
「助かる!」
「任せよ!」
 後輩が作ってくれた絶好の好機を、乕徹とクロスは最大限に活かす。
「灼けよ!」
 乕徹は魔力を込めた息吹を熱風へと変え、弓兵達を焼き払う。
 あまりの高温に弓兵達の表面に細かな罅が入り、何より持っていた弓の弦が焼き切れる。
 武器が無くなり混乱する弓兵に、乕徹は魔力を纏い作り出した龍爪で切り裂いていく。
「焼け石には堪えたろう?」
 艶やかで、同時に獰猛な笑みを浮かべながら、乕徹は武将石兵の守りとなる石兵を次々撃破。
 それにより独りになった武将石兵の懐に、クロスが跳び込む。
「貴様!」
 距離を詰められた武将石兵は、怒りのままに二刀を振るう。
 それは剛剣ではあったが、武の理の薄い、古い戦い方だった。
 対するクロスは、武の理を持って戦う。
 手にしたステロノアを巧妙に操り、武将石兵の二刀を翻弄するように打ち捌いていく。
「おのれ小癪な!」
 あしらわれるように振り回される武将石兵は、これまで以上の剛力を見せ二刀を振るうが、クロスは速さで対抗。
 電結変異による雷の魔力を纏い、動きを加速させ、ステロノアを用いた杖術で追い込んでいく。
 だが、武将石兵には笑みが浮かぶ。
(馬鹿が、雷の魔力を用いた技と見たが、我らに通じると思うな)
 石兵は、その体の材質上、雷の属性攻撃には強い。
(あえて受け、耐えた所で斬り伏せてくれる)
 武将石兵は、カウンターでの反撃を目論み、避け切れなかった一撃をあえて受け――
「があっ!」
(なんだとっ!)
 予想以上の衝撃に動きが止まる。
 それはクロスの持つステロノアの特性がもたらした一撃。
 ステロノアによる一撃は、所有者の魔力特性に関わらず、無属性を帯びた物になる。
「知識が古すぎたようだね。長い時の中で、人は進歩するものだよ」
「おのれ――」
 手痛い一撃を受けながらも、武将石兵は反撃しようとするが、学園生はクロスだけじゃない。
「わっちも居るのを忘れるでないわ!」
 弓兵を片付けた乕徹が、魔力で作り出した龍爪で武将石兵の肘を切り砕く。さらに――
(まだまだやれますよ!)
 バレットリロードで魔力を再装填したシオンが、武将石兵の右目を狙いスナイプショット。
 狙い過たず命中し、武将石兵の視界を削る。
「貴様ら……」
 よろめく武将石兵に、止めとばかりにクロスが懐に跳び込む。
 武将石兵は近付けまいと二刀を振るうも、クロスはステロノアを操り打ち落とし、触れ合えるほどの距離で魔法陣を展開。
 展開された魔法陣は、武将石兵の上半身を飲み込むほどの魔力玉を生み出し、一気に撃ち出す。
 まともに受けた武将石兵は、耐える事など出来ず、闇に飲まれるようにして上半身を消し飛ばされた。
 あとに残った腰から下は、そのまま崩れ落ちる。
 クロスは敵の残骸に冷徹な眼と、殺気を放ちながら、問い掛けるように呟いた。
「俺は普段、杖は使わないんだ。何故だかわかるか?」
 くるりと、ステロノアを弄びながら言った。
「こっちのほうが“強いから”さ」
 武将石兵を倒したクロスに、乕徹が声を掛ける。
「術より荒事の方が得意なようじゃな」
 それにクロスが応えようとするより早く、駆け寄ってきたシオンも声を掛けて来る。
「先輩! 杖を使って戦うのも得意だったんですね!」
 感心するように、耳をピンっと立てているシオンに、クロスは苦笑しながら応えた。
「しっ、ここだけの秘密にしておいてくれ」
 口に指をあてて、乕徹とシオンに身体を向けながら言うクロスに、2人は笑みを浮かべながら頷いた。

 戦い終わり、遺跡をどうするか話し合っていると――

(……お願いです……私を……解放して……)

 少女の声が皆の脳裏に響いた。
「先輩、これって」
「戦いになる前にも聞こえてきた声じゃな。どうする?」
「確認のためにも探してみよう」
 クロスの提案に、乕徹とシオンの2人は頷き、遺跡探索へと向かう。

「うう、不気味な遺跡ですね……」
 遺跡を探索しながら、シオンは言った。
「でも声の主は悪い方ではない……気がしなくもないみたいな!」
「そうなのか?」
 聞き返す乕徹に、シオンは応える。
「あはは、勘です……」
「勘は大事じゃな。わっちも悪い相手ではないとは感じておるが、対応は任せる。訳ありの子供なぞ、どうして良いか困る」

 などと話している内に遺跡の奥へと辿り着いた三人は、石の扉を前にしていた。そこから――
(私は、ここに居ます……扉を開け、解放して……)
 悲痛な少女の声が聞こえてきた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
 重苦しい音と共に扉を開くと、そこには宝玉が納められた祭壇があった。すると――
(目の前の宝玉を破壊してください)
 少女の声が、今まで以上に明瞭に聞こえてくる。
 それを聞いたクロスは問い掛けた。
「理由次第では破壊しても良い。なぜこの宝玉を破壊したいのか? そして破壊するとどうなるのか、説明して欲しい」
 これに少女の声は応えた。
(私は、貴方達が先程倒した石兵達の王の娘だった者です)
 滔々と語る少女の言葉の内容を纏めると、次のような物だった。

 かつて魔王が封じられる以前、世界に覇を成そうとした王国があった。
 彼らは覇道を成すには長い時間が必要だと考え、剣の魔族『アスモダイ』と契約し、破壊されても何度でも蘇る『石人』へと変化した。
 魔族との契約を維持し続けるため、王の娘である少女は生贄として殺され、リバイバルへと変えられた上で、宝玉の中に封じ込められている。

「父上と兵達は、魔王が封じられると同時に力の弱った魔族の影響を受け、私と共に眠りに就きました。けれど魔王の封印が弱まってきているのでしょう、私達は目覚めてしまった」
 少女の話を聞いて、シオンは何故だか胸騒ぎがする。
(魔族との、契約……)
 自分には関わりのない話である筈なのに、宿縁めいた物を感じてしまう。
 そんな中、乕徹が口を開く。
「仔細は分かった。このまま放置する訳にもいかんじゃろう。破壊するべきだと思うが?」
「そうだね……宝玉を持って帰ってから考えるという手もあるが……」
 クロスが思案している時だった――
(止めよっ!!)
 激しい怒りと焦りの声が響く。
(父を裏切るか!!)
「裏切るも何も、生贄として殺しておいて、よくそういうことが言えるものじゃな」
 呆れたように乕徹は言うと、龍爪を作り出し宝玉を破壊しようと構える。
「わっちは破壊するつもりじゃ。2人はどうする?」
「……解放して、あげましょう」
 シオンはファイニンを構え――
「そうだね。このまま持って帰る方が危険性が高そうだ」
 クロスはステロノアを具現化させ構える。そして――
(やめろおおぉぉぉぉっ!!)
 古王の妄執と共に、宝玉を砕いた。
 その瞬間、遺跡の中に立ち込めていた魔力が霧散し、1人のリバイバルの少女が現れる。
 はらはらと涙を流しながら、少女は言った。
「ありがとう、ございました……父上と兵は、ようやく解放されました……」
 礼を言う少女に、乕徹は言った。
「これから、どうするつもりじゃ?」
「……分かりません……解放されれば消え失せるものだとばかり思っていましたが……情けなくも、現世に未練があるようです……」
「なら、学園に来ませんか!」
「……え」
 呆然と見つめて来る少女に、シオンは明るい笑顔で言った。
「きっと楽しい学園生活が送れます!」
「ああ、そうだね」
 クロスは頷き、少女に提案する。
「絶望するには、まだ早い。だから、一緒に行こう」
 自分を迎え入れてくれる呼び声に、少女は今度は、悲しみでは無い涙を流しながら――
「……はい」
 希望を掴もうとするかのように頷いた。



課題評価
課題経験:78
課題報酬:2400
【王遺】遺跡からの呼び声は誰ぞ 
執筆:春夏秋冬 GM


《【王遺】遺跡からの呼び声は誰ぞ 》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 神鵺舟・乕徹 (No 1) 2021-10-07 23:00:13
神鵺舟じゃ。
あと一時間なのは済まんが、わっちは前に出て動き、討つ。
怪我は覚悟の上じゃが、まあ多少は対策はしてきている。
数の不利を覆すなら短期決戦で臨もうと思うが、どうじゃ?

もし万が一の事があれば、骨でも拾ってくれ。

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 2) 2021-10-07 23:22:24
ああ、今プランを送っていたところだ。
こちらこそ挨拶がなくてすまないね……クロスだ、よろしく頼む。
手伝ってくれるなら心強い。人員を呼ぼうとしていたところだった。
あと一人、遠距離が得意な子が増えるから、やれると思う。
俺は魔法での攻撃と防御技での支援だ。電結変異での速攻というのも実はプランにちょうど記載してあるから対応できるよ。

《光と駆ける天狐》 シオン・ミカグラ (No 3) 2021-10-07 23:32:05
教祖・聖職コースのシオン・ミカグラです。
お呼ばれし、助太刀にきました!……助けになればいいのですが……
私は弓兵の対処に回り、皆さんが安全に戦えるよう頑張ります!

《新入生》 神鵺舟・乕徹 (No 4) 2021-10-07 23:43:26
おう、話は聞いておるよ。助かるのう。
流石に、本当に骨が折れそうな敵じゃったからな。

それと、どうにも変な声が聞こえるようじゃが、それは二人に任せてよいか?
あまりこういう変哲な手合いには慣れてなくてのぅ…。

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 5) 2021-10-07 23:50:08
ああ、よろしく頼む。
声の主については俺が記載しておいた。
読んだ限りではまあ、流れで出会えるかもしれんが、一応触れてはおこうとね。
戦闘重視なので二行ほどだが、要点は押さえてあるはずだ。