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時の奇術師(完) ~新たな旅立ち~


ストーリー Story

「さあ立ち上がって。あなた達がこの世界の最後の希望」
 暖かい光が体を包む。
 それまで石のように重く動かなかった体に力が戻ってきた。
 赤黒く染まる学園の空。
 黒い霊樹が、今自分達の立っている学園の霊樹へと喰らわんばかりに枝や根を伸ばし絡みついてくる。
 眼下では先ほどまでの自分達のように、身動きが取れず倒れ伏す学園生や教師の姿が見えた。
 どうやら今動けるのは自分達以外にいないらしい。
 まるで地獄を彷彿とさせる光景だ。
「霊樹から力を分けてもらったの。これで貴方達はあの黒い霊樹の影響を受けないわ」
 声の主を見やれば、そこには【稲葉瑞理(いなばみずり)】が光を抱えるように立っていた。
 両隣には彼女の婚約者である【ニルバルディ・アロンダマークォル】と彼女の兄である【稲葉一矢(いなばかずや)】が彼女を守るように武器を手に立っている。
 瑞理の足元には割れた仮面が転がっていた。

 その日、学園は仮面の集団に襲われた。
 飛躍的な力の向上と引き換えにその命が魔石へと変質していく呪いの仮面。
 その強大な力を抱える集団に立ち向かった勇者達。
 学園長や教師たちまでもが奮戦する中、集団を率いる瑞理が一矢の前に現れた。
 瑞理の命をおもんばかり力を出せない一矢は瑞理に倒されてしまう。
 彼女を救うために立ち向かった勇者達は瑞理を取り押さえることに成功。
 その一瞬の隙を見逃さず、一矢は瑞理の仮面を断ち切り彼女を救い出すことに成功した。
 しかし他の者達は次々に魔石へと変化。
 さらにその魔石は一つに集まると、霊玉へと変化する。
 これで愛する妻を取り戻せる――
 魔石の下に現れたエーデルワイス伯爵は自ら体内にその霊玉を取り込むと、自らの姿を黒い霊木へと変えたのだった……

「まさか仮面の人間全員を魔石に変えて、それを合わせて霊玉に変えちまうなんてな」
「あれは不完全なものだよ。あんなものを霊玉なんて言わない。理論を構築させられた私が言うのもなんだけど……」
 瑞理は自分が仮面に支配されていた時の記憶を思い出して苦笑を浮かべる。
「『生』と『死』の境界を取り払いこの世界から悲しみを消す……この世界に新たな法則を定着させようとした結果がこれとはね」
 三人は赤黒く染まった世界を見渡した。
「愛する妻一人を蘇らせるために世界丸ごと書き換えようだなんて、常軌を逸してるな」
「ははっ、さすがの君もこれには共感できないか」
「当たり前だ。俺をなんだと思ってやがる」
 ニルバルディの軽口に一矢が苦い顔を返す。
 以前の一矢ならやりかねない危うさがあった。
 だが成長し続ける勇者達、そして元生徒をも慈しむ学園長の心に触れ、いつからか彼の中からそんな狂気は消え失せていた。
 すると黒い霊樹の葉が形を変え、黒い魔物となると次々にこちらへと向かってきた。
 まるで光に吸い寄せられるアンデッドのようである。
「俺達で瑞理を守る。だからお前達はあいつを倒せ」
 一矢が指し示す先、黒い霊樹の中心ではエーデルワイス伯爵の上半身が変わり果てた姿で生えている。
「ヴヴッ……ヴガアアアアアアーーッ!!」
 紫の表皮に覆われ、爪や角を生やす姿は魔物とも鬼とも言えるだろう。
「あんな異形になり果ててまで、彼はどんな世界を創りたかったのやら」
 ニルバルディは哀れみ交じりの視線を彼に送る。
「そうだな、俺達で終わらせてやろう……これが最後の戦いだ!」
 その場にいる全員が武器を構える。
「さあ勇者達よ。今こそこの世界を救って!」
 瑞理の手の中にある霊樹の光が強さを増す。
 その力に後押しされるように、勇者達は黒い霊樹へと立ち向かっていくのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2022-02-12

難易度 難しい 報酬 多い 完成予定 2022-02-22

登場人物 5/8 Characters
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《剛麗なる龍爪龍翼》カゲトラ・トウジロウ
 ドラゴニア Lv9 / 村人・従者 Rank 1
「炉の炎が如く、我の血も滾っておる」 筋肉質な巨躯が目を惹くドラゴニアの女性。 鋭い目つきと古めかしい口調が印象的。 正式な名前表記は藤次郎景虎。 現役の刀工であり、武具甲冑の職人。 代々、鍛冶製錬を生業としてきた由緒あるドラゴニア一族の長女であり、その技術の後継者。 炎の加護を受けた種族であるため、武具づくりに欠かせない炉に灯る炎を神聖なものとして崇めている。 幼少から鍛冶職人としての技術を学び、現在に至るまでの長年に渡って炉の炎を近くで見てきたせいか実は目が悪い。 そのため、勉学の場では眼鏡を掛けている。 戦闘にはあまり影響はない。 体格のせいで時々、武神・無双コースや魔王・覇王コースの生徒と間違われる。 身長は約2メートル。 発達した筋肉は幾万回も鉄塊や金床に向き合った結果、自然と身についたもの。 外見よりも実年齢は数十年ほど上。 趣味は作刀や工芸製作。 好きなものは風呂(高温下で仕事すると汗をかく為)
《新入生》ルーシィ・ラスニール
 エリアル Lv14 / 賢者・導師 Rank 1
一見、8歳児位に見えるエルフタイプのエリアル。 いつも眠たそうな半眼。 身長は115cm位で細身。 父譲りの金髪と母譲りの深緑の瞳。 混血のせいか、純血のエルフに比べると短めの耳なので、癖っ毛で隠れることも(それでも人間よりは長い)。 好物はマロングラッセ。 一粒で3分は黙らせることができる。 ◆普段の服装 自身の身体に見合わない位だぼだぼの服を着て、袖や裾を余らせて引き摺ったり、袖を振り回したりしている。 これは、「急に呪いが解けて、服が成長に追い付かず破れたりしないように」とのことらしい。 とらぬ狸のなんとやらである。 ◆行動 おとなしいように見えるが、単に平常時は省エネモードなだけで、思い立ったときの行動力はとんでもない。 世間一般の倫理観よりも、自分がやりたいこと・やるべきと判断したことを優先する傾向がある危険物。 占いや魔法の薬の知識はあるが、それを人の役に立つ方向に使うとは限らない。 占いで、かあちゃんがこの学園に居ると出たので、ついでに探そうと思ってるとか。 ◆口調 ~だべ。 ~でよ。 ~んだ。 等と訛る。 これは、隠れ里の由緒ある古き雅な言葉らしい。

解説 Explan

称号:霊樹の勇者、他

 全ての元凶となったエーデルワイス伯爵の撃破が勝利条件です。
 襲い来る魔物の群れを突破しながら黒い霊樹の中心へ……霊樹の力を借りて、強大な敵に立ち向かいましょう!
 伯爵本体からの魔法攻撃、枝の攻撃に気を付けながら撃破してください。

 新たな霊玉の影響で他の生徒や教師たちは身動きがとれません。
 また、ニルバルディと一矢は瑞理の護衛のためにその場から動けず援護は出来ません。
 参加メンバーのみで攻略してください。

 シンプルですが、世界の命運を背負う時、自らがイメージする最高の戦いやセリフを考えていただけると嬉しいです。


作者コメント Comment
 皆様ごきげんよう、SHUKAです。
 ラスボス戦、エンディングを意識してエピソードを書かせていただきました。

 最終決戦で大活躍、大暴れ!
 ぜひとも参加をお待ちしています。


個人成績表 Report
クロス・アガツマ 個人成績:

獲得経験:270 = 180全体 + 90個別
獲得報酬:12600 = 8400全体 + 4200個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:霊樹の勇者
魔物を蹴散らし、伯爵のところへ辿り着き、奴を終わらせよう

立体機動を駆使して攻撃を避けつつ進んでいく
ヒドガトルとダートガで一点に火力を集中し、突破の道を拓こう

伯爵からの攻撃は複数を狙えるものもあると思うから、その場合はスピット・レシールで仲間を守護する盾となる
そして、パクス・ア・ニミで神聖状態を自身に付与し、光属性で攻撃だ
あの黒い樹を、聖なる力で攻め立てていく

枝による攻撃が俺や仲間を襲うなら、アン・デ・カースやアン・デ・フィアで縛り、攻撃のチャンスへと転じよう

追い込んだら、接近戦をしている仲間に下がるよう呼びかけ、災厄の芽の果実を奴の幹へ打ち込むよ

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:216 = 180全体 + 36個別
獲得報酬:10080 = 8400全体 + 1680個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:霊樹の勇者
装備した「天使の歌」の調べを「風の旋律」で奏でてもらって
味方のひとたちのたいりょくの回復をしますね。
「絶対音感」と「調律」でその効果を高めてもいますし。
味方が状態異常をうけてしまったら「備えあれば何とやら」で
「福の針」をつかって解除します。

そして、途中をはばむ魔物については三体まで攻撃できる種族特性のエアルで
ふっとばすおてつだいもしますね。

伯爵とのたたかいで味方のひとたちのけががひどくなったら
「風の旋律」にあわせてわたくし自身の「演奏」もつかいます。

同じアイコンのアクティブ技能は同時にはつかえないけど、
「風の旋律」のアイコンは「演奏」とはちがうから
いっしょにつかえますから。

フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:270 = 180全体 + 90個別
獲得報酬:12600 = 8400全体 + 4200個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:霊樹の勇者
●作戦
黒い霊樹とエーデルワイス伯爵の撃破
魔物相手はできる限り回避し、霊樹に攻撃を集中。

●行動
前衛にたち、突破の中心へ。
周囲の魔物に対しては『マカロンボム』を投げて切り崩し
『グロリアスブースター』や『二段ジャンプ』で突破。
包囲されそうなときは『スプリーム・クラッシュ』で一掃を。

状態異常は毒・麻痺なら種族特性『ベア・デトル』で、萎縮には『勇猛果敢』で対抗。
霊樹の中心まで突破出来たら、必殺技『還襲斬星断』の連撃で枝と伯爵本体へ同時攻撃で援護をさせないようダメージを与えていく。

窮地には『希望の剣』『希望の鎧』の効果を信じ果敢に攻撃。
必殺技『スタンテッドキャリバー』はここぞという時の切り札に

カゲトラ・トウジロウ 個人成績:

獲得経験:216 = 180全体 + 36個別
獲得報酬:10080 = 8400全体 + 1680個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:霊樹の勇者
おい何事だ!炉の炎が消えてしまったぞ!
……なるほど、彼奴の仕業か

我は龍翼演舞:花による神楽を舞い、仲間に強化を施す

黒き邪悪なる魔物には通常反撃で真っ向からたたき伏せ、前進を目指す
また、黒い霊樹の魔の手が伸びてきたら、龍爪撃で薪のように裂いてくれる

敵の攻撃は龍の翼なども活用しなるべく避けるが、対処しきれぬものもあるだろう
そのような場合は部分硬質化で鱗を纏い、忍耐で受け止めよう
……さすがに、堪えるな

伯爵とやらに接近したら全力攻撃を叩き込む。赤熱する鋼を幾百と鍛えた槌の一撃をお見舞いしてくれる
そして我は刀匠。己で戦うより戦う力を創ることを得意とする
槌ミョルニルの力で近接攻撃を行う勇者に力を付与しよう

ルーシィ・ラスニール 個人成績:

獲得経験:216 = 180全体 + 36個別
獲得報酬:10080 = 8400全体 + 1680個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:霊樹の勇者
◆目的
黒い霊樹の本体、伯爵とやらをぶっ倒すだ

◆基本行動
リーラブで仲間を回復し戦線を支えつつ、隙をみてマドガトルで攻撃
可能であれば、魔法薬生成キットで仲間を回復する薬を作成

第六感で道中の雑魚の奇襲や伯爵の隠し球的な攻撃等に警戒

◆道中
マドガトルで雑魚さ減らして、雑魚の陰や頭上、足元から枝で邪魔されねえように警戒すっぺよ

◆対伯爵
基本行動通りに回復で戦線を支えることを軸に応戦
後方から戦況を注視し、大きな幹の陰や頭上、足元から枝で仲間の行動を邪魔されないよう警戒

負傷者が多く回復の手が回らないときは、一番深手の者を優先
少しでも戦闘不能者を減らし、戦力の減少を回避

幻視や第六感で何か見えたら仲間にも一応伝達を

リザルト Result

「来る――!」
 【フィリン・スタンテッド】はいち早くその異変を察知した。
 自らの立つ霊樹の光が強くなった途端、目の前の黒い霊樹の枝から葉が次々と抜けていき、魔物へと姿を変えていた。
 まるで影のように黒い魔物たちは黒い霊樹の周囲で渦を巻くと、こちらに向かって雪崩れこんできた。
「雑魚に構うな! ここは俺とニルで食い止める! ウィーブトルネード!」
 魔力を解放した【稲葉・一矢(いなば かずや)】が大剣で竜巻を起こすと、迫る魔物たちを巻き込みすり潰していく。
「そうそう。主役は主役らしく、さっさとラスボス倒してきちゃいな。面倒ごとはお兄さんたちが引き受けるから」
 そして竜巻を迂回してきた魔物を【ニルバルディ・アロンダマークォル】が目にも止まらぬ速さで切り刻んだ。
「霊樹の力にも限りがあるから……振り返らないで、全力でエーデルワイス伯爵を倒すことだけに専念して」
 【稲葉・瑞理】は霊樹に祈りながら、この場にいる全員にその力を分け与え続けている。
「では遠慮なくそうさせてもらおう」
 それを見た【クロス・アガツマ】はいち早く決断を口にし、動き出す。
「行くぞ、奴に時間を与えるな! 守りは二人に任せておけば十分だ!」
 彼の行動に他の勇者たちも続く。
 霊樹と黒い霊樹、二つの霊樹の絡み合う枝を伝いながら、エーデルワイス伯爵の元へと急ぐ。
 そんな彼らの横を黒い濁流が通り過ぎていく。
「魔物が霊樹の光に吸い寄せられていくか。ともあれこれはチャンスであるな」
 ミョルニルを手にし、先頭で魔物の攻撃に対処しようとした【カゲトラ・トウジロウ】は自分たちを素通りしていく魔物たちを横目に走り続ける。
 それに【レーネ・ブリーズ】が声を大きくして注意喚起する。
「油断はだめです。いまはちかくにつよい光があるからわたしたちがみえていないだけ。わたしたちもいずれねらわれるとおもいます」
「レーネ、あなたの言うとおりね。今の私たちには霊樹の加護がある。いつ狙われてもおかしくないわ。今のうちに陣形を整えましょう!」
 希望の剣を抜き放ったフィリンがダッシュで先頭に飛び出し、勇者たちを先導する。
 その横にミョルニルを肩に担ぐカゲトラが追いついた。
「では片翼は我に任せてもらおうか」
「ええ、お願いするわ」
 前衛では攻防一体のバディが組まれる。
 そんな二人に守られるようにレーネと【ルーシィ・ラスニール】が続き、クロスがしんがりとして隊全体を見渡しながら支援の用意に入った。
 と、ルーシィが押し寄せる魔物の群れの隙間からエーデルワイス伯爵の姿を垣間見る。
「あれは……鳥かごだべ? 以前学園さ持ち込まれたもんによく似てるだべよ」
「まちがいないです。まえに研究棟でぼうそうし、まわりの時間をとめた魔術具にそっくりです」
 レーネもルーシィの気づきに頷きで答える。
「せやさ? あの時は災難だったべ」
「そうでしたね。作戦がうまくいかなかったらどうなっていたかわかりません」
 二人は互いに目を合わせ苦笑を浮かべる。
「けれどあの時見たものより随分と大きいようだな」
「それに中に何かが入っているわ。あれは……女の人?」
 同じくその暴走事件に関わったクロスとフィリンは目を凝らして鳥かごの中を観察する。
 中には銀髪の美しい女性が横たわっている。
 恐らく彼女こそが伯爵の妻なのだろう。
「鳥かごは中の時間を止める魔術具だったはずだべ。時間を止めて閉じ込めとるでよ」
「恐らくあの女性が亡くなったエーデルワイス伯爵夫人なのだろうな」
 クロスはエーデルワイス伯爵が霊玉を取り込むときに言っていた『妻を取り戻す』という言葉を頭の中で反芻しながら見解を口にした。
「気分の悪い話であるな。あのように死人を弄ぶとは――っと!」
 不快に表情を歪めたカゲトラは自分に襲い掛かってきた魔物をミョルニルで打ち返した。
 雷撃と共に槌が振り抜かれ、目の前の魔物が砕け散る。
「おしゃべりはここまでね。皆、気を引き締めて!」
 フィリンの号令と共にその場の全員の表情が引き締まる。
 黒い霊樹の幹へと迫るほど、魔物たちが勇者たちへと向かう数が増えていく。
 背後に流れた魔物が戻ってくることはないものの、それでも圧倒的な数の暴力が勇者たちの行く手を阻む。
 徐々に勢いは削がれ、とうとうその場に足止めされてしまう。
「チッ……ここに来て数が増大して――! あともう少しなのに!」
 眼下の魔物たちの隙間から垣間見える伯爵の姿にフィリンがギリッと歯噛みする。
 クロスの作戦で高所のルートを走っていた彼らは落下により伯爵へと一気に迫ろうとしたのである。
 魔物は光に向かって一方通行に突き進んでいる。
 なればこそ伯爵に肉薄さえしてしまえばあとは目の前の戦いに集中できると分析していた。
 フィリンの背後でレーネのエアルを受けた魔物が四散した。
 さらにカゲトラの横合いでルーシィの放ったマドガトルの魔力弾が直撃し、魔物が爆散した。
 辛うじて陣形は保てているものの、このまま消耗を続ければジリ貧となるだろう。
「こうなったら――!」
 フィリンが意を決して一歩踏み込む。
「スタンテッドさん、おちついて! チャンスはかならずやってきます。かずやさんにおそわった訓練をおもいだしてください!」
 風の旋律の力で天使の歌を演奏して味方の体力を回復させながら、レーネは表情を一変させたフィリンに呼びかける。
「訓練? ……そうね。今の私なら――きっと!」
 その瞬間、フィリンの剣閃が鋭くなった。
 エーデルワイス博物館の地下倉庫――そこで一矢と対峙し、見合いによりイメージの中で何度も斬りあったあの時間。
 それからもフィリンは先輩や教師との見合いを経てその剣技を飛躍的に成長させていた。
 先日は学園に戻ってきた一矢と互角以上の勝負を繰り広げ、確かな自信を得ていたのである。
 演習であったため勝負こそ引き分けとされているが、そのまま戦い続けていれば勝っていたのは間違いなくフィリンであっただろう。
 彼女が本来持つ荒々しいまでの闘争心を勇者としての確かな意志が導き、内に押さえ込んでいた本来の彼女と一体になった。
 二人の勇者の剣技が融合したのである。
「砕け散れ! 羽虫どもめえええっ!」
 スプリーム・クラッシュの斬撃が前方の魔物たちを切り刻んでいく。
 立ちふさがる壁は粉砕し、何者をもそこに留めることを許さない。
「今だ、一気に突破するぞ!」
 勝負所と見たクロスは左右の手にそれぞれヒドガトルとダートガを作り出し、闇の炎で前面の魔物たちを焼き払った。
 黒い壁が穿たれ、エーデルワイス伯爵へと続く一本のトンネルが作られる。
「ここだわ! 私に続いて!」
 それでも穴を塞ごうとする魔物たちへと、フィリンは落下しながらマカロンボムを投げ込んだ。
 黒いトンネルはクロスの魔術と相まって、灼熱色に塗り固められる。
 フィリンは全身を炎に包まれながらも力強く先陣を切った。
「我らも続こうぞ!」
「はい、いきましょう!」
「クロス、背中さ任せたべよ」
「抜かりはないさ。安心して飛び込みなさい」
 すかさずカゲトラが龍爪撃で増援を切り刻みながら突破する。
 さらにクロスがアン・デ・カースの鎖で穴を安定させ、レーネとルーシィと共にトンネルを通過した。
 眼下に上半身を幹から突き出したエーデルワイスの姿があらわになる。
 もう勇者たちとの間に阻むものはない。
「これで終わりよ! フィリン・スタンテッドの名に懸けて……必ず殺す!」
 フィリンの剣と盾が融合し、彼女の魔力を得て希望の剣が大剣に姿を変える。
 それは一直線に伯爵の頭上から大きく振り下ろされた。
「スタンテッドキャリバー!!」
 スタンテッド家始祖の勇者が聖剣の力を最大限に引き出すために生み出した必殺の剣は、世代を超えて今まさに目の前の巨悪を両断せんと振るわれる。
 その刃は何者をも――。
 ガゴン――だがそれは到底生物を切り裂くような手ごたえとは異なっていた。
「なっ――!?」
 フィリンは突然自分とエーデルワイス伯爵の間に割り込んだソレに瞠目する。
 突然眼前に鳥かごが現れたのである。
 巨大盾に阻まれるが如く、大剣と鳥かごが激しく衝突し、火花と魔力の光が激しく明滅させる。
 だがそれも一瞬のこと。
 次の瞬間にはすべての時間が止まっていた――。
 フィリンは剣を振り下ろした姿で。
 カゲトラは追撃のために油断なくミョルニルを振りかぶった姿勢で。
 ルーシィは周囲に注意を払いながら油断なく落下する途中で。
 クロスは魔術書のページを開いた姿のままで。
 全員が中空に固定されている。
 鳥かごを中心に静止空間が広がっていた。
「とまったじかんをうごかす方法はもうわかっています!」
 しかしその静止はレーネの声と共に打ち破られた。
 かつて学園で鳥かごの魔石が暴走した時と状況は同じ。
 そうであるならば、今回もその原因となる魔石を破壊すればいい。
 静止空間が時間を取り戻す。
 そしてそこには鳥かごの魔石に福の針を突き入れたレーネの姿があった。
 時間が動き出し、鳥かごが重力の影響を受ける。
 その質量に枝が支えきれなくなり、鳥かごが落下を始めた。
「みれ……ヌッうううっ……!」
 エーデルワイスは自らの体を掻き抱くように落下する鳥かごに向かって次々に枝を伸ばす。
 かろうじて鳥かごは地面との激突を免れた。
 中空に放り出されそうになった伯爵夫人が静かに横たえられる。
 その間に勇者たちは伯爵の前に降り立った。
 レーネも鳥かごを吊るしていた枝から飛び降り合流を図る。
「キサマガアアアッ!! ゆるサンぞオオオオオーーッ!!」
 憎悪の感情を膨れ上がらせ、エーデルワイス伯爵が根をうねらせた。
 土蛇が地を這うようにレーネを襲う――。
 そして地面から突き出た根に貫かれた。
 しかしレーネの姿はそこで掻き消える。
 身代わりうさぎ・改のふんわりとしたぬいぐるみが風船のように弾け散る。
 レーネは転がるように皆の元へとたどり着いた。
 それでも黒い霊樹の根はレーネを執拗に追いかける。
「おめえのご先祖様が、今のおめえさ見たら……情けなくて泣くんじゃねえか!?」
 だがその直線的な一撃を小さなため息とともに前に出て受け止めた者がいた。
 全開の魔力をその両手杖エーデンユートに込めてガツンと叩き返す。
「たったひとりのためだけに、どんだけの命さ無駄にしてんだ。しかも、相手が望んでるかすらもわかんねえ自己満足に巻き込みやがってなあ」
 立ちふさがったのはルーシィだった。
 彼女は心に焼き付いた情景を思い浮かべる。
 親が自分の傍からいなくなった光景を。
 里の者たちが無慈悲に、理不尽に命を奪われた光景を。
「せっかく死んで静かに眠ってるのに、自分の勝手な都合で人様に迷惑掛けて無理矢理起こそうとするんじゃねーよ!」
 ルーシィはエーデンユートにマドガトルを一点集中し、魔力の打撃で根の脈動を逆流させ、エーデルワイス伯爵に叩き返したのである。
「ぬガアアアアアアーーッ!!」
 幹から伝う衝撃に伯爵の上半身はのたうった。
「ラスニールさん、大丈夫ですか!?」
 そこへすかさず顔をこわばらせたレーネが駆け寄り、自ら天使の歌を手に取り演奏を始める。
 風の旋律の助けを借りながら深みのある演奏がたちまちのうちにルーシィのあらぬ方向に折れ曲がった両腕を癒していく。
「無茶しすぎです!」
「あはは。レーネ、すまねえだ、おらついかっとなってだたたたあ――っ!」
 腕を無理やり元に戻され、ルーシィは絶叫する。
「痛いのはあたりまえです! とにかく呼吸をととのえて! ……よかった、なんとかなおりそう」
 レーネはほっと息を一つ吐くと、伯爵に向き直る。
「わたしたちは過去にも今にもとどまるつもりはありません。よりよい未来をつかむために歩みつづけています。だからあなたもそろそろ未来へと歩みだしませんか?」
 レーネは思い浮かべる。
 きれいな虹がよりそっている滝。
 松明の炎にきらめく鍾乳石。
 海の中でおどる魚たち――。
「世界にはふしぎなものがいっぱいだから、わたくしはそれを大切にしたいとおもいます」
 レーネの瞳に悲しげな光が宿る。
「あなたはやさしい人です。心をとざさなければ、きっとあなたにはあらたな出会いがあったはず。いままでだっておおくの人が手をさしのべてくれていたのではないですか?」
 彼女の言う通り、もしエーデルワイス伯爵がただのわがままな領主であったなら、ここまでの組織を作り暗躍することは不可能だっただろう。
 周囲の人間が自らの体を魔石に変えてまで彼を救おうとしていた。
 もしも伯爵自らがしっかりと悲しみに向き合っていたならば、そんな者たちと共にもっと別の未来を歩めていたかもしれない。
 レーネはそれが残念でならないのである。
「ヴガアアアアアアーーッ!!」」
 しかしそれに反発するようにさらに周囲の枝がレーネに襲い掛かる。
 枝が濁流のように押し寄せ、レーネとルーシィの逃げ場を奪う。
 だがレーネはその濁流から目を逸らさない。
 濁流が二人の少女を飲み込んでいく。
 だがそれは彼女を覆う光の半球に防がれた。
 スピット・レシール――クロスの魔術がルーシィを守ったのである。
 クロスはレーネの前に出た。
「俺も使命のために世界の理を変える力を探求していた。その気持ちも多少は理解しよう」
 クロスは聖典パクス・ア・ニミのページをはためかせながら静かに口にする。
 あふれだす膨大な魔力の奔流にコートがバサバサとはためいた。
 神聖な光が自身を包み込み、霊樹の加護の光と同調してその力を高めていく。
 それと同時に彼の内において、心の底がざわめくのを感じた。
 厳重にプロテクトされた深層意識。
 その一端が疼いて仕方がない。
 決して目の前の存在を認めてはいけないと、自分の中の何かが叫び続けている。
「だが、それでも俺は否定する――逃避の先に真理など存在しない。このようなまがい物に用はない――さっさとこの場から消えてもらおうか!」
「ぎ、ぎぎガア、ゴオオオーーッ!」
 無数の黒い枝が大量の光の鎖と交錯し、切り刻まれていく。
 そのままアン・デ・カースの鎖は濁流の先の伯爵の腹を貫いた。
 伯爵は吐血し、口端から血を滴り落とした。
 同時に災厄の芽が芽吹き、伯爵の力を吸い上げあっというまに果実を実らせる。
 黄金のたわわにまぎれるたった1つの禁断の果実は弾け、怨嗟の果汁をまき散らす。
 伯爵の肉体を漆黒の地獄へと染め上げていく。
「年貢の納め時であるな、伯爵よ」
 その開かれた道をドラゴニアの女性が巨大な槌を旋回させながら悠然と歩む。
 回転と共にミョルニルの稲光が轟音を立てる。
 雷神と化した彼女は口を開いた。
「はあ、まさかと思うがぬしは自らが世界の不幸のすべてを背負っているつもりではなかろうな?」
 カゲトラの脳裏に里を滅ぼした魔銃の男の姿が思い浮かぶ。
 魔王の脅威となる鍛冶技術を葬り去る、そのためだけに自らの全てを踏みにじられた。
「ぬしの境遇に同情の余地はあるとして、それがどうしたというのだ?」
 カゲトラはミョルニルを振り回しながらその勢いを加速させていく。 
「世の中、理不尽な死で溢れかえっている、そうぬしはぬかしたな? だが我にはそれが理解できているようには見えぬ。本当にそういう者たちを救いたいと願っていたならば他にやるべきことがいくらでもあったのではないか? 伯爵ともなればそれだけのことができた筈であろう!」
 この学園だけであっても、そんな理不尽な、それこそ胸が張り裂けそうな程の運命に振り回された者たちは数えきれないほど在籍している。
 この世界では当たり前の話なのだ。
 そして勇者の中で、そんな自分に甘えている者は一人もいない。
 皆前を向いて戦い続けている。
「嘆く前に槌をとれ! その心に燃え滾る熱があるというのであらば、それを鍛えぬいて業物の一つでも作り上げてみせよ!」
「ごオオッ!」
 迫る枝の攻撃をジャンプでかわし、枝を踏みつけながらカゲトラは飛び上がる。
 そして回転の勢いのままに全力の一撃を伯爵の横っ面に叩き込んだ。
 上半身がのたうちまわり、同時に襲い掛かる枝や根の動きが緩慢になる。
 そんな伯爵に向かい、希望の剣を手に一人の勇者が静かに歩み出る。
「これで終わりにしましょう。もうこの世界にこれ以上の悲しみを振りまかないで」
 フィリンは切っ先を真っすぐにエーデルワイスへと向ける。
 かつて失われた本物のフィリン・スタンテッド。
 そして贖罪を免罪符に自ら閉じ込めていたもう一人の内なる勇者。
 自分が何者かすらも見失いかけて、けれどもそれらすべてを受け入れた。
 これからの自分がどのように変わりゆくのか。
 その答えは今は出ていないけれども……。
 歩むための道を今ここで失うわけにはいかない。
「メルルン☆メルルン☆メルルンテ♪」
 と、腕の大怪我から急速回復したルーシィがふらふらと踊りだした。
 まるで交霊術でも使っているかのように、目を回しながらもなにかを唱え続けている。
「これは……ふはははっ! いいだろう! それに乗っからせてもらおうか!」
 クロスはルーシィを見てにやりと獰猛な笑みを浮かべると、懐から霊樹の実を摘まみだす。
 小さな豆のようなそれからは魔力の波動が伝わってくる。
 それを儀式のように踊るルーシィの足元へと投げ込んだ。
 するとルーシィが歩いた軌跡が光の線となり、魔法陣が浮かび上がる。
 そして本来決して芽吹くことのないはずの新たな霊樹が芽吹いたのである。
「おねがい。わたくしたちにちからをかして」
 レーネは天使の歌で演奏をする。
 すると芽吹いた霊樹の芽がすくすくと伸び、ひとつの果実を実らせた。
「素晴らしい力であるな。ならば我の力の全てをこの果実に注ぐとしよう!」
 カゲトラはミョルニルを手に果実へと自らの気力を注ぐ。
 果実は強い光を放ち、やがて幹から零れ落ちた。
 カゲトラはそれを手に取ると、フィリンに向かって投げる。
 果実は希望の剣の中へと吸い込まれ、白銀の輝きを強くした。
「エーデルワイス伯爵。私たちの世界を返してもらうわよ!」
 剣と盾が融合する。
 さらに大剣は本来の大きさよりもはるかに大きくなる。
 その全長は黒い霊樹をも超えた。
「スタンテッド・グランドキャリバー!!」
 光の大剣が黒い霊樹ごとエーデルワイス伯爵を白銀の光の中に飲み込んでいく。
 そして世界は光に包まれていった――。

「新郎ニルバルディ・アロンダマークォルは、新婦イナバミズリを健やかなる時も、病める時もあなたを愛し、あなたをなぐさめ、命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います――」
 学園近くの教会――そこでニルバルディと瑞理の結婚式が執り行われていた。
 純白のウェディングドレスに身を包んだ瑞理とタキシード姿のニルバルディは神父の前で宣誓をし、誓いのキスを交わす。
 式を終えて教会の入口に現れる二人はフラワーシャワーを受けながら学園生たちに祝福される。
「ミズリ、おめでとう!」
「綺麗だよ! 幸せになってね!」
「ニル、幸せになあ! これでようやくシスコン兄貴から解放されるな!」
 生徒たちから次々に祝福の言葉を投げかけられる。
 そんな皆に向かって、ニルバルディと瑞理は手を振って答えるのだった。
「それではこれからブーケトスを行います。参加希望の方は花嫁の前に集まってください!」
 教会の神父に呼びかけられ、女子生徒たちが続々と集まってくる。
 その中には先日の戦いで活躍をしたレーネ、フィリン、カゲトラ、ルーシィの姿もあった。
「なんだかこういう瞬間って落ち着かないわね」
「うむ、戦いや鍛冶とはまた異なる緊張感が張り詰めておるな」
 周囲の女子生徒たちのそわそわとした空気にあてられてか、フィリンとカゲトラも落ち着きを失っている。
「べ、別に結婚に興味があるわけではないのだけれど……」
 そう言いながら自分の毛先をいじり始めるフィリン。
「勝負事に背を向けるというのは誠実ではないであろうな」
 カゲトラもまた自分の頬をかく。
 そしてそれを紛らわすかのように二人は頷きあった。
 そんな二人の様子にルーシィは呆れたように首を横に振る。
「これは勝負事じゃあねえだべ。ただの運試しだべよ?」
「そうです。幸運をねがって、ねがわれて、そうしてはじめてうけとることができるものですよ」
 ルーシィとレーネも苦笑しながら、けれども他の女子生徒たちと同様そわそわした様子であった。
「運命はつかみ取るものよ」
「であるな。ならばここはひとつ、全力で臨むとしよう」
 フィリンとカゲトラはなおも口を開いて緊張を紛らわせようとする。
 そんなタイミングで神父が瑞理に声をかけた。
「それではミズリさん、ブーケトスをお願いいたします」
 はい、と瑞理は応じ、ブーケを手に皆に背を向ける。
 すると広場に集まった女性たちが彼女の背にくぎ付けになった。
 今か今かと放たれようとしている花束を見逃さないようにしていた。
 静寂が訪れ空気が張り詰める。
 それはある意味戦いよりも緊張感が高まっているかもしれない。
 そしてブーケは空高く思い切り放り投げられた。
 勇者たちの身体能力で行われるブーケ争奪戦はそれはもう苛烈なものだった。
 魔力や技能の使用が禁じられていてなお、放物線を描くブーケのわずかな時間の間に落下ポイントでの激しいぶつかり合いは容赦がない。
 結婚願望の有無にかかわらず、勝負事には全力を。
 それが勇者の悲しい性なのかもしれない。
 女子らしからぬ気迫のこもったぶつかり合いは、傍から見て男子生徒たちに女子の幻想を打ち砕くに十分な迫力と凄惨さを目に焼き付けたのである。
「くっ、指が届かない……!」
「バランスが! これでは飛び上がれぬ!」
「潰れる! 潰れるだべよおおっ!」
「ひいいっ、目がまわりますう!」
 集団に果敢に飛び込んだレーネたちも女子生徒たちにもみくちゃにされ、身動きがとれなくなっていた。
 そしてブーケは女子学生の集まる中心から弾かれ大きく外れていく。
 ストン――そしてそれは一人の手の中に収まった。
「……私か? ――ひっ!?」
 ブーケトスを遠巻きに見守っていた男子生徒たち。
 その中にいたクロスの手の中にブーケはあった。
 殺気立った女子生徒たちの肉食獣のような眼光を一身に集め、クロスは震え上がる。
 それは人生の中で最大級の恐怖だったかもしれない。
 きっと今夜は夢にうなされることだろう。
 クロスは思わずブーケを手放そうとして、だがその前に周囲の男子生徒たちから肩を叩かれた。
「クロス、教師の一人と浮いた話があったからな。その啓示か?」
「なぜそれを――いや、あれは誤解だ!?」
 周囲の男子学生たちにはやし立てられ、顔を真っ赤にするクロスはパニックになる。
 そんな周囲で爆笑が沸き起こり……。
 なんだかんだあった結婚式はそれでも無事執り行われたのだった。
 
「本当に学園を出るのかい、カズヤ?」
「ああ、メメル学園長から卒業証書ももらったしな。もうこの学園に用はねえよ」
 学園の正門前、一矢はニルバルディに向かって卒業証書の入った筒を振って見せる。
「このまま学園に残って講師をする道もあっただろうに。わざわざ旅に出る必要もないだろう?」
「何言ってやがる。ラブラブの夫婦生活を目の前で見せられる俺の身になってみろ。お前らは仲良くこの学園で講師をやっていればいいだろうが」
 一矢は苦い顔を浮かべてニルバルディを睨む。
「俺は世界一のパティシエを目指す。菓子作りの腕を磨いて、世界中の人間を笑顔にする。そのために世界各地を巡る予定なんだよ」
「そうだね、お兄ちゃんならきっとできるよ。それにしてもスイーツ食べ歩きの旅かあ。ちょっとうらやましいかも」
 瑞理はにこにこと笑みを浮かべた。
「究極の食材を自ら手にし、調理する、か……本当に君らしいね」
 ニルバルディは一矢の背に背負われている大剣を見ながら苦笑する。
「それに……」
「カズヤ、早くお菓子食いたい。食材探そう」
「そうだな。んじゃそろそろ出発するか」
 彼の隣には一人の銀髪の少女がいた。
 まだ十歳にも満たない幼い彼女は、しかしどことなく伯爵婦人の面影を持っている。
 あの戦いの後、鳥かごの中で彼女は眠っていた。
 記憶は何も持っていない。
 しかしあの偽りの霊玉の力が彼女の中に宿っているのは間違いない。
 そしてその不安定な霊玉の力を新たに芽吹いた霊樹が少女の体の中で安定させたのかもしれない。
 芽吹いた霊樹も戦いの後には跡形もなく消え去っていた。
 そんな彼女を誰かが傍で見守る必要があった。
「旅は大変だろう? 僕たちに預けてくれてもいいんだよ?」
「そうだよ。学園のみんなで可愛がるのに」
 瑞理も少女の愛らしさに相好を崩している。
「しょうがねえだろ。こいつ、俺から離れようとしねえんだからよ」
 一矢も彼女を連れて歩く気などさらさらなかった。
 ただでさえ得体がしれないのである。
 そうであるならば学園でしっかりと守っているのがいいに決まっている。
 誰が好き好んで危険な旅に幼女を連れ歩かなければならないのか?
「はあ、とうとうシスコンからロリコンにクラスチェンジしたか」
「誰がロリコンだあ?」
「そうだぞ、レディに向かってロりとはなんだ!」
 少女がビシッとニルバルディを指さす。
「これは失礼いたしました、お嬢様」
 ニルバルディはにこやかに、慇懃に礼をして謝罪のポーズをとる。
「そうだね、あなたは立派なレディよねえ」
「ねえ」
 そして瑞理と少女はにっこりと笑いあった。
「うむ、ではゆくぞ、カズヤ」
「はいはい、仰せのままに」
 一矢は苦笑すると、一度少女の頭をくしゃくしゃと撫でてから歩き出す。
 少女は一矢の手を取り二人並んで歩きだしたのだった。



課題評価
課題経験:180
課題報酬:8400
時の奇術師(完) ~新たな旅立ち~
執筆:SHUKA GM


《時の奇術師(完) ~新たな旅立ち~》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 1) 2022-02-06 22:43:38
賢者・導師コースのリバイバル、クロス・アガツマだ。よろしく頼む。

魔王と戦うという時にとんだ災難だが、やるしかないか。
木っ端を蹴散らし、伯爵にたどり着き、奴を倒す。大まかに言えば、流れはこんな感じだろうか。
戦術はまだ考え中だ……

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 2) 2022-02-09 20:17:28
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。

わたくしは楽器をつかった回復をかんがえてます。
でも、人手がすくないようでしたら
がんじょうさをたかめての防御役とかでもだいじょうぶです。
よろしくおねがいします。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 3) 2022-02-11 10:49:09
ギリギリでごめんなさい、勇者・英雄コースのフィリンよ。

仮面と霊玉…そういう関係だったわけね
人数の少ないうえに一対多数の戦いになるし、蹴散らす『スプリームクラッシュ』、回避するための『立体機動』『グロリアスブースター』で切り抜けて伯爵本体狙いって感じがいいかしら

《剛麗なる龍爪龍翼》 カゲトラ・トウジロウ (No 4) 2022-02-11 21:37:45
村人・従者コースのトウジロウだ、微力ながら助太刀致す。

できることは少ないものの、己にできる全力を尽くそう。
我は装備しているミョルニルで物理攻撃を強化しよう。
さらに龍翼演舞で、全体の強化もしていくぞ。あとは、近接戦闘を務める。

《新入生》 ルーシィ・ラスニール (No 5) 2022-02-11 21:51:38
おらぁ、賢者・導師コースのルーシィいうだ。よろしく頼むだよ。
とりあえず、回復で支援しながら、マドガトルで援護したりするでよ。

余裕あれば魔法薬さ用意してえけど、そん場で調合はちと難しそうだなあ。