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王冠――restoration


ストーリー Story


 わたしたちはいつかまた
 ここにもどってこよう
 そのために
 わたしたちのしろを
 はききよめ
 でむかえるものを
 よういしよう


●その日、【セム・ボルジア】はグラヌーゼに。
 【ガブ】【ガル】【ガオ】はグラヌーゼに来ていた。サーブル城周辺で行われている測量作業の護衛に、バイトとして参加しているのだ。数名の傭兵と一緒に。
 その話を彼らに持ってきたのは、セムである。ちょっとしたお手伝いをしていただけませんか。腕に覚えのあるあなたたちになら簡単なことですから、と言ってきたのだ。おだてられるとすぐ乗っちゃう。それが三兄弟の悪い癖だ。
 さて、そのセムは今、測量隊と話をしている。寒風にコートの襟をはためかせながら。例によって例のごとく、現場に顔を出してきているのだ。報告を待つ時間が惜しいと言わんばかりに。
「進み具合はどうですか」
「今のところ大体、こんな感じです」
 セムは渡されたバインダーを開き、綴じ込まれた周辺の略図と、そこに書き込まれた計測の値を眺めた。
「やはり、街道の痕跡がありましたか」
「ええ。城門から真っ直ぐ、荒地を横切るようにして。長い時間がたっていますので、見た目は分からなくなっていますが、そこだけ明らかに土質が違います」
「加えて陥没跡もある、と」
「ええ。グラヌーゼ南部における新規貯水池の作られたことによって、この周辺の地下に溜まっていた水が引き込まれ、抜けてしまったことが原因であるようで」
「そのことが、本来あった城の排水機構も機能不全にさせた、と――これは修復しておきませんとね」
 その言葉を聞いてガオは、多少疑問を抱かないでもなかった。
 修復して流れを元に戻したら、今度は貯水池に水が行かなくなるのでは? と思ったのだ。
 対してセムは、このように言った。
「ああ、その心配はないですよ。向こうに流れ込んでいる水脈には手をつけませんから。私が修復したいのは、あくまでも排水機構です。城の地下部分は、長い年月水に浸っていただけあって、まだかなりじめついていますからね」
 彼女はバインダーを閉じる。測量隊に戻す。遠くにある城に視線を向ける。
「乾かしておかないと、快適ではないでしょう? 入る際に」
 ガブは、たまげた顔をした。セムが城を観光地にしようと目論んでいるのは無論知っていたが、曰くつきだらけな地下部分までそうしようとしているとは、想像していなかったので。
 確かあそこには、魔王の像とか呪いの本とかそういうやばそうな代物が、あったのではなかったろうか。よく知らないけど。
「地下にも客を入れるつもりかよ?」
 その質問にセムは、城を見ながら答えた。
「いいえ」
 その表情にガブは違和感を覚える。なにやら変に優しげで、懐かしげなのだ。実に彼女らしくない。
「あそこに入るのは、客ではなくて、あの人達」
「え? 誰だよ『あの人達』って」
 直後セムが怪訝な目を彼に向けた。ずるくて抜け目無さそうな、いつもの顔に戻って。
「何です? 『あの人達』って」
「いや、何ですって……あんた今自分でそう言ったろ」
「? いいえ。私は何も言っていませんよ」
 訳が分からなくなったガブは、近くにいたガオとガルに聞く。
「お前も、今何か聞いたろ?」
 ガオとガルは顔を見合わせ、首を振る。
「いや、さあ……」
「俺ら今、話してたし」

●その日、【ウルド】は郊外に。
 新居は、可能なら静かなところがよい。森や林が近い方がよい。
 そんなウルド一家の望みを叶えるため施設関係者は、あちこちの不動産屋を当たってみた。
 そして、彼らの希望にかなうであろう物件にめぐり合った。
 郊外の中古一軒家。小ぶりながら庭がついている。屋根や床の一部に痛みが見られるが、基礎はしっかりしている。
 必要なだけの手直しをすれば後百年は余裕で持つであろう――とは【ラビーリャ・シェムエリヤ】の見立てだ。

 ウルドは生徒達に案内されつつ、祖父母と一緒に、新居物件の確認へ赴いた。
「おお、これかいな」
 平屋の古民家。屋根は草葺き。小ぶりであるが納屋つき。
 入ってみれば床の一部が黒く変色し、踏むとぼやぼやした感触。
 ウルドの祖父は眉をひそめる。
「どうも床板が腐っているようだの。取り替えねばなるまいて」
 天井を見上げると、そこもまた黒ずんでいた。どうやら雨漏りがしているらしい。
「屋根も早く葺き替えなければいかんのう。放っておくと、全体が腐ってしまうでな」
 とはいえ屋根を葺き替えるほどの材料は、すぐには集められない。
 であるからして生徒達は、急遽、応急処置をすることにした。
 大きな防水布を持ってきて、屋根全体に覆いかぶせる。止め具をつける。布の端々にロープを取り付け引っ張り、地面に打ち込んだペグに結び付ける。
 その合間にウルドは、古屋のスケッチを始めた。今後リフォーム作業を行う際、参考に出来るかと思って。

●その日、【ラインフラウ】は保護施設に。
「――あら、皆お出かけしているの。タイミングが悪かったわね」
 と【ラインフラウ】はぼやいた。
 それから施設留守役をしている【ドリャエモン】に聞いた。
「エリアルの坊やは、その後何も新しい絵を描いていない?」
 「おらぬ」と彼が答えると、彼女は、ちょっと残念そうな顔になった。
「あらそう。もう少し手掛かりが増えているかなあと期待したんだけど……」
「その手掛かりというのは、セム一家の全滅事件のことかの?」
「当たり。セムがここのところ随分気にしてるのよね、そのこと」
「おぬし、セムに頼まれたのかの? 新しい情報があるかどうか、確認してきてくれと」
「いいえ。直接そう言われたわけではないの。だけどまあ、忖度ってやつ? 最近セムったら、忙しくてね。前にも増してシュターニャとグラヌーゼの間を、行ったり来たりしてるわ」
 ドリャエモンの脳裏にサーブル城の姿が浮かぶ。
 思えばすべてが、あそこから始まっている。【黒犬】と【赤猫】の呪いはもちろん、セムの指輪にまつわる呪いも。災厄の連鎖も。
「そうかの。そういえば、シュターニャの再開発計画は進んでおるのか」
「順調ね。経済界重鎮二名の手打ちが終わったから――」
 ラインフラウは面白がるような一瞥をドリャエモンにくれてから、こんなことを言い出した。
「よろしければ、学園で保管しているノア一族の遺品を、見せていただけないかしら? かなり前サーブル城の地下で見つけた、例のあれ。赤猫が引き裂いたノアの所有物。甲冑と剣の残骸――宝飾品もあったかしら?」
「……なぜ今更そんなものを見たいのだ?」
「もしかしたら、何か幻視出来るかもしれないなあ、と思ってね。私も私なりに調べてるのよ。セムの呪いが、何のためのものなのかについて」
 


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2022-02-25

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2022-03-07

登場人物 4/8 Characters
《猫の友》パーシア・セントレジャー
 リバイバル Lv19 / 王様・貴族 Rank 1
かなり古い王朝の王族の娘。 とは言っても、すでに国は滅び、王城は朽ち果てた遺跡と化している上、妾腹の生まれ故に生前は疎まれる存在であったが。 と、学園の研究者から自身の出自を告げられた過去の亡霊。 生前が望まれない存在だったせいか、生き残るために計算高くなったが、己の務めは弁えていた。 美しく長い黒髪は羨望の対象だったが、それ故に妬まれたので、自分の髪の色は好きではない。 一族の他の者は金髪だったせいか、心ない者からは、 「我が王家は黄金の獅子と讃えられる血筋。それなのに、どこぞから不吉な黒猫が紛れ込んだ」 等と揶揄されていた。 身長は150cm後半。 スレンダーな体型でCクラスらしい。 安息日の晩餐とともにいただく、一杯の葡萄酒がささやかな贅沢。 目立たなく生きるのが一番と思っている。
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《新入生》ルーシィ・ラスニール
 エリアル Lv14 / 賢者・導師 Rank 1
一見、8歳児位に見えるエルフタイプのエリアル。 いつも眠たそうな半眼。 身長は115cm位で細身。 父譲りの金髪と母譲りの深緑の瞳。 混血のせいか、純血のエルフに比べると短めの耳なので、癖っ毛で隠れることも(それでも人間よりは長い)。 好物はマロングラッセ。 一粒で3分は黙らせることができる。 ◆普段の服装 自身の身体に見合わない位だぼだぼの服を着て、袖や裾を余らせて引き摺ったり、袖を振り回したりしている。 これは、「急に呪いが解けて、服が成長に追い付かず破れたりしないように」とのことらしい。 とらぬ狸のなんとやらである。 ◆行動 おとなしいように見えるが、単に平常時は省エネモードなだけで、思い立ったときの行動力はとんでもない。 世間一般の倫理観よりも、自分がやりたいこと・やるべきと判断したことを優先する傾向がある危険物。 占いや魔法の薬の知識はあるが、それを人の役に立つ方向に使うとは限らない。 占いで、かあちゃんがこの学園に居ると出たので、ついでに探そうと思ってるとか。 ◆口調 ~だべ。 ~でよ。 ~んだ。 等と訛る。 これは、隠れ里の由緒ある古き雅な言葉らしい。
《幸便の祈祷師》アルフィオーネ・ブランエトワル
 ドラゴニア Lv23 / 教祖・聖職 Rank 1
異世界からやってきたという、ドラゴニアの少女。 「この世界に存在しうる雛形の中で、本来のわたしに近いもの が選択された・・・ってとこかしらね」 その容姿は幼子そのものだが、どこかしら、大人びた雰囲気を纏っている。  髪は青緑。前髪は山形に切り揃え、両サイドに三つ編み。後ろ髪は大きなバレッタで結い上げ、垂らした髪を二つ分け。リボンで結んでいる。  二重のたれ目で、左目の下に泣きぼくろがある。  古竜族の特徴として、半月型の鶏冠状の角。小振りな、翼と尻尾。後頭部から耳裏、鎖骨の辺りまで、竜の皮膚が覆っている。  争いごとを好まない、優しい性格。しかし、幼少より戦闘教育を受けており、戦うことに躊躇することはない。  普段はたおやかだが、戦闘では苛烈であり、特に”悪”と認めた相手には明確な殺意を持って当たる。 「死んであの世で懺悔なさい!」(認めないとは言っていない) 「悪党に神の慈悲など無用よ?」(ないとは言っていない)  感情の起伏が希薄で、長命の種族であった故に、他者との深い関りは避ける傾向にある。加えて、怜悧であるため、冷たい人間と思われがちだが、その実、世話焼きな、所謂、オカン気質。  お饅頭が大のお気に入り  諸般の事情で偽名 ”力なき人々の力になること” ”悪には屈しないこと” ”あきらめないこと” ”仲間を信じること” ”約束は絶対に守ること” 5つの誓いを胸に、学園での日々を過ごしている

解説 Explan



『王冠』シリーズ、続きです。

エピソード内のイベント
『その日、【セム・ボルジア】はグラヌーゼに。』
『その日、【ウルド】は郊外に。』
『その日、【ラインフラウ】は保護施設に。』
は、同日、同時刻に進行している出来事です。
それぞれのイベントに同時参加することは出来ません。




今回PCに課せられた課題は二つ。

1:『ウルド一家の新居(になるはずの古屋)の応急手当』
2:『セムが持っている指輪の呪いについて探る』

※2については、ラインフラウと一緒に行動することが可能です。その際は、ノアの所有物である甲冑、剣の残骸、宝飾品を見ることが出来ます。
ラインフラウはボルジア一族の呪いについて、ある程度何かを掴んでいるようです。

※セムの小さな異変については、ガブが、学園に帰ってきた際教えてくれます。

※これまでのエピソードやNPCの詳細について気になる方は、GMページをご確認くださいませ。
そういうものが特に気にならない方は、確認の必要はありません。そのままプランを作成し、提出してください。エピソードの内容に反しない限り判定は、有利にも不利にもなりません。



作者コメント Comment


Kです。
セム、疲れてるんでしょうか。なんだかちょっと不安定です。
まあそれはさておき。
少し、展開のスピードを上げたいと思います。
うまくいけば今回で、呪いの目的が大体分かるはずです。




個人成績表 Report
パーシア・セントレジャー 個人成績:

獲得経験:90 = 60全体 + 30個別
獲得報酬:2250 = 1500全体 + 750個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
セムさんの指輪の呪いについて調べる

◆行き先
保護施設に行って、ラインフラウさんと一緒にノア一族の遺品を見せて貰えるようドリャエモン先生にお願い

◆調査
そう言えば、宝飾品や剣、鎧の残骸があったんですっけ
痛み具合や、共通した意匠……紋様とか紋章とか、なにかをモチーフにした痕跡等がないか第六感、魔法感知、リ15を活かし調べてみましょ

もしかしたら………指輪と共通した意匠があったりして
宝飾品も、男物と女物で身に付けてた者が違うかも

意匠や時代背景等から、どの遺品を誰が身につけていたか推測し、指輪は誰が身につけていたか調べてみましょ
男性と女性だと、呪いに秘めた感情も違うかもしれないし

特に、子どもが居たらね

朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
私は新居の応急処置のお手伝いを致しますわ。一先ず屋根に防水シートをかぶせ終わったら、家の中からも天井に防水シートを張って端を止めておきますわ。それから床の対処を。炭を調達してきて床下に敷いておきますわ。これである程度湿気を取ってくれるはず

さて、きちんとした床の張替えはリフォームの際に行うとして、腐った部分だけは取り除いておいた方がよいでしょうか?その上に乾燥した板をおいて端を釘でうっておきますわね。なるべく段差が少なくなるよう気をつけて

納屋の方もチェックして、雨漏りや床の痛みがあれば同様に応急処置をしておきますわ。あとはリフォームの際すぐ解るよう問題個所はチョークで印をつけておきますわね

ルーシィ・ラスニール 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
セムさの指輪の呪いの調査

◆行き先
セムさ達に同行し、サーブル城の周辺で護衛の手伝い
あん三兄弟だけだと心配だでなあ

◆護衛?
セムさになんかあったらいけねえで、セムさの居るうちはセムさの側で護衛だあ
セムさが妙なこと言ったり、普段しないような行動とかしてたら、注意しとくで

カサンドラさも、なんか急に、別のモンに操られたようになったりしたちゅう話もあるでな

勿論、調査や測量中に敵さ来たら、三兄弟や傭兵さ達と一緒に応戦だあ
セムさとか戦えねえ人さ狙う奴を優先して、マドガトルで攻撃しつつ、怪我したモンへリーラブで回復するでよ

敵さ追い返したら、魔法薬生成キットで薬さこさえて、消耗が激しいモンに飲ませるだあよ

アルフィオーネ・ブランエトワル 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
ラインフラウに同行し、指輪の呪いの調査をする。彼女が、呪いについてどう見通しているのか、世間話も交えながら、それとなく聞き出す。よく観察し、言動に不自然な点がないか見極める。

また、自分の考えも話し、例え、セムやラインフラウにとって望まない結果が導き出されるとしても、ノアの復活はいかなる手段を用いてでも阻止すると宣言する。


「聞いてもいいかしら?あなたと、セムって、いつから、どんな経緯でパートナーに?今日は別行動だけど、わたしにもずっと一緒にいるパートナーがいるのよ」


「あの指輪は何かを選別してるのだと思うわ。新たな従者か・・・あるいは『器』」


「ノアは命脈が尽きたに過ぎない。その意思は生きている」

リザルト Result

●【ラインフラウ】に同行して
 【パーシア・セントレジャー】と【アルフィオーネ・ブランエトワル】は【ドリャエモン】の先導のもと、学園の保管庫へ向かった。
 保管庫にあるのは、学園が『管理必須』と見なした品々。ノアの遺品も、もちろんその中に含まれている。
「おや、これはドリャエモン先生。何か御用で?」
「うむ、資料を拝観させてもらいたくての――」
 ドリャエモンが管理職員に事情を話し始める。
 その傍らでラインフラウが、パーシアに話しかけた。
「ありがと、パーシア。あなたが一緒に頼んでくれたお陰で、話がスムーズにいったわ。私だけだと、こうは早くいかなかったわね。なにしろ学園の部外者だから」
「どういたしまして。私もノアのことについては知りたかったのよ。利害の一致という奴」
 それが終わったところでアルフィオーネが、ラインフラウに話しかける。
 内容は個人的な世間話だ。第三者から聞いている分には。
「ラインフラウ、聞いてもいいかしら? あなたと、セムって、いつから、どんな経緯でパートナーに? 今日は別行動だけど、わたしにもずっと一緒にいるパートナーがいるのよ」
「あら、そうなの。それは知らなかったわ――そうねえ、私がセムに会ったのは、5、6年前のことかしら。あの人はシュターニャのバーにいた。地元企業との商談があってね。私もそのときちょうど、同じ店に飲みに来ていて――それで知り合ったの。一目ぼれって奴ねえ。そこからずうっと一緒」
 ラインフラウが口にしていることを真に受けてはいけない。彼女はよくウソをつく。
 そう己を戒めつつアルフィオーネは、改めて相手の言葉を吟味する。そこにどれだけ真実が含まれているだろうかと。
(まあ、五割くらい……一目ぼれというところに至っては丸々本当でしょうけど)
 その上で、また疑う。彼女の意志はどこまで彼女自身のものなのかと。
 実のところアルフィオーネは、セムに留まらずラインフラウも、ノアの呪いの影響下にあるのではないかと疑っている。場合によっては、セムと出会う前からそうだったのではないか、と。
「あなた、その時どうしてそのバーにいたの?」
「別に、どうしてってことはないわね。ただ、飲みたくなったから。それだけよ。誰にでもあるでしょう、そういうこと?」
 管理職員が保管庫の扉を開ける。
 アルフィオーネたちはいったん話を打ち切り、開かれた扉の向こうへ入って行く。ドリャエモン、パーシアに続いて。

●【朱璃・拝】は、古民家の応急処置に
 訪れていた(ちなみに【アマル・カネグラ】も、彼女に同行している。彼いわく『僕今暇だから、手伝いますよ』とのこと)。
「これは中々に傷んでおりますわね」
 古民家の様子を一通り確かめてから、彼女は、引いてきた荷車を振り返る。そこには、家屋修理に必要な材料と道具が満載されていた。
「ですが、傷みはいくらでも直しがききます。まずは張り切って、応急処置を行うとしましょう――お爺様とお婆様は休んでいてくださいましね」
 朱璃は丸めた防水布を抱え、屋根に上がった。
 屋根の天辺で防水布を解き、両側へ均等に垂らす。
 下にいるアマルが防水布を引っ張り、止め具とロープをくっつけ、地上に打ち込んだペグへ結び付ける。
 それが終わったところで朱璃は、もう一枚用意していた防水シートを抱え、天井裏に向かう――念のため屋根の内側からも、防水しておく所存なのだ。
 屋根裏へ通じるはしご段を上り天井裏に上がった途端、ぶわっとクモの巣が覆いかぶさってきた。
「これはお掃除が必要ですねー」
 同行したアマルは、マスクとゴーグル、全身つなぎで完全防備。持参した魔法粉塵吸引器で、くまなく掃除し始める。
 その間に朱璃は、首尾よく防水シートをつけ終わった。
 そこでばきっと板が割れる音。
 何事かと思えば、アマルが片足を踏み抜いていた。天井裏の一部も雨漏りで腐っていたらしい。
「……床もそうですが、こちらもちょっと張り替えた方がよさそうですわね」
「そうみたいですねえ」
 ひとまず踏み抜いた周囲も含めて、天井裏の床板を切り取る。続いてそれより大きくカットした、新しい板を打ち付ける。
「これでよし、ですわ」
 続けて下へ降り、床の腐った箇所を同じように養生する。こちらは常に人の足が踏むので、天井よりも丁寧に、なるべく段差が出ないように調整する。
 それから……。
「こんなにたくさんの炭どうするんですか、朱璃さん」
「これは、床下へ敷くのですわ。炭は湿気を取り、家屋を長持ちさせる効果があるんですのよ」

●【ガブ】は【ルーシィ・ラスニール】に聞いた。
「……お前は何か聞いてないか?」
「うんにゃあ。おらも今、測量のあんちゃんたちと話しとったでよう」
 彼女の答えにしかめ面をして、ぼやいた。
「あんだよ、もう。どいつもこいつも。間違いなく聞いたんだけどな、俺」
 その主張を【セム】は、そっけなくあしらう。
「空耳でしょう。今日は風が強いですからね」
 確かに風が強い。まるで、叫んでいるように。
 思いながらルーシィは、ガブに、こそっと尋ねる。
「セムさ、何て言ったんだべ?」
「ああ、それがな――」
 彼が教えてくれた言葉にルーシィもまた、いぶかしんだ。
(なるほど、確かにそりゃあ、ちょっと変だなあ……)
 そしてまたセムの方へ顔を戻し――慌てた。いつの間にか彼女が、城の方に向け、歩き始めていたから。
「セムさ、待つだよ。単独行動は危ないべ」
 そう呼びかけているのにセムは、聞こえた様子がない。風が強いので、耳に届いていないのだろうか。
 ルーシィは声を大きくして、追いかける。
「セムったら、よう!」
 セムの傍らに追いつき、腕を取る。
 そこでセムは足を止めた。初めてルーシィの存在に気づいたように、怪訝な顔で見下ろしてきた。
「何です?」
「何ですじゃねえべ。一人であちこち行ったら危ないでよ。ここは城から大分離れてるけんど、魔物が出てこないってわけじゃねえ」
 ルーシィがそう言ったときである。目の前の茂みが、がさがさっと動いた。
 ルーシィはさっとセムの前に立ち、身構える。脅しの意味も込めてマドガトルをぶっ放す。
 枯草の茂みから大きめの『のけもの』が飛び出してきた。
 傭兵たちは技師たちを囲むように展開する。ガブたちも。
 『のけもの』は目をぎらつかせた。姿勢を低くし唸り声を上げ――突如尻尾を巻いて逃げ出した。

●宝飾品、剣、鎧の残骸。
 保管される際洗浄されたこともあって、どれも城の地下で見つけたときより輝いて見える。
「ドリャエモン先生、これらに触れても構いませんか?」
「ああ、かまわぬ。傷さえつけなければな」
 パーシアは手袋を嵌め、慎重に鎧の残骸をつなぎ合わせた。
 アルフィオーネはそれを手伝う。
 ラインフラウは――見ているだけだ。けど、そのほうがパーシアにとって気が楽だった。目的のためなら遺品を失敬することも、やりかねない人だと思うので。
(そう言えば……何故盾がないのかしら。剣があるなら当然それもあってしかるべきのような気もするけど……)
 通常盾には家の紋章が記載される。もしそれがあったら、調査がぐんと楽になるかもしれないのに。
 そのことを惜しみつつパーシアは、遺品に刻まれた華麗な蔦模様を、虫メガネを持って観察する。
 そして、それらが細かな文字、数字、文様の集合であることに気づく。
 これと似たものをどこかで見た。どこだったろう。ああそうだ。
(サーブル城の地下で見た、魔法陣)
 ということは。
(もしかしてこれらは、単なる鎧ではなくて、剣ではなくて、宝飾品ではなくて、呪具……?)
 以上のことを彼女は、ラインフラウとアルフィオーネに伝えようとした。
 その時、頭の中がかっと燃えるように感じた。
 実のところそれは彼女だけに起きた現象ではない。アルフィオーネも同じものを感じた――ということは、ラインフラウはもっと強烈に鮮明に何かを感じたということになる。
 皆は聞いた。水底から立ち上るようなくぐもった声を。
『さあ呪いを。これまでの中で、最も大きな呪いを。私たちが戻ってくるために』
『呪いを始めるために私の血と肉を捧げましょう』
『あなた一人ではとても足りそうにない。私も同じものを捧げよう』
『あの愚かなけだものたちに引き裂かせよう。私と、あなたと、私たちの子供を』
 パーシアは悟る。盾がなかった理由を。
 それはそもそも必要なかったのだ。最初から、我が身を引き裂かせるつもりだったのだから。

●納屋の方もチェックも終わり、
 破損箇所の養生も終了。気づけば昼過ぎになっている。
「あら、もうこんな時間。休憩しなくてはなりませんわね」
 朱璃がそう呟いたところで、ウルドの祖母が声をかけてきた。
「お二人とも、お腹がお空きになったでしょう? 焼き芋を作りましたんでね、おあがりになりませんか?」
 かくして急遽、ウルド一家との焼き芋パーティーが始まる。
 ほくほくの甘いお芋を食べながら、朱璃は、ウルドの祖父母たちに修繕の結果報告をした。
「家も納屋も、雨漏り、床の痛み、全て処置いたしましたわ。後日リフォームの際すぐ解るよう、問題個所は全て、チョークで印をつけておきましたので」
「何から何までありがとうございます」
「助かりましたじゃ」
 ついでウルドに家屋のスケッチを見せてもらってから、改めて聞く。
「皆様はどのような家にしたいですか?」
「そうですねえ。まあ、もといた家に近いようにしてくれるのが一番いいですねえ」
「わしらも年じゃで、馴染んだ間取りのほうが暮らしようてのう」
「俺も、それのほうがええかなあて思う」
 やはり故郷の暮らしは忘れ難いようだ。であるなら、是非その願いをかなえてあげたい。
 でもそのためにはどうしよう。
 ひと思案したところで朱璃は、アマルの(実家の)人脈の広さを思い出した。
「……アマル様、ウルド様たちのご要望を満たせるような業者様をご存じでしょうか?」
 アマルは両方のほっぺに芋を溜め込んだまま、答える。
「はい、僕知ってます。『新築瓜二つ工法』っていうプランをやってる建築会社」

●声が過ぎ去った後
 アルフィオーネは額を拭い、ラインフラウに視線を向ける。
「……あなたは、セムの呪いがどういうものだと思っているの?」
 ラインフラウはうっすらと白い歯を見せる。
「あなたこそ、どう思う?」
 質問返しを受けアルフィオ-ネは、己の見解を述べた。
「あの指輪は何かを選別してるのだと思うわ。新たな従者か……あるいは『器』」
 ラインフラウは手をたたき合わせる。まるで、うれしいニュースでも聞いたみたいだった。
「私も、そうだと思うわ。あの指輪はね、ノアが、ノアのためになる人間を作るためのものね。奸智に長けていて、強欲で、身内に対し愛情を持たず、経営に関する手腕が並外れている――そういう人間を作るためのもの。恐らくは、何か仕事を任せるために。富という栄養を与えつつ、何世代もかけて椅子取りゲームをさせれば、結果そういう人間だけが残るわよね? 頭のいいやり方だわ」
 アルフィオーネは。厳しくラインフラウの顔を見つめる。そこにノアがいるかのように。
「……そもそも、なぜ、近年になって、黒犬は呪い解除に動いたのかしら? 呪いが始まったのは、随分、昔からなのに。それもこれも、魔王復活に呼応して、ノアの意思がなしたことなんじゃないかしら?」
「ええ、全部ではないにしろ、無関係とは思えないわね」
「黒犬、赤猫から奪われた魔力は、もう一つの指輪とも消え去ったわ――多分、ノアの元に戻ったのよ」
 そこでパーシアが異を唱えた。
「どうやって。彼らの存在は失われて久しいでしょう」
 アルフィオーネは首を振る。
「ノアは命脈が尽きたに過ぎない。その意思は生きている。どのような形であるにせよ、ノアが再び、グラヌーゼの地に覇を唱えようと画策してるのであろうことは疑う余地がないわ」
 パーシアは彼女の推測に説得力を覚えつつも、なお、異論を挟む。
「セムさんが人の下に立つことを良しとするような人間とは思えないわ。そもそも彼女は、自分の事業のためにグラヌーゼを観光地化したいんでしょう? ラインフラウさん?」
 ラインフラウは髪をかきあげる。くつくつ喉を鳴らして。
「ええ、そう。セムは本気でそう思ってる。それは間違いなくセム自身の意思よ。グラヌ-ゼに繁栄を築くことによって、ボルジアの名を残せないかと思っているの。実際それしか名を残す手段がないのよ。家族を持つことは出来ないんだもの。また殺し合いが始まるだけだから」
 彼女の瞳にはぬらりとした炎が宿っていた。狂気と愛情がそこには垣間見える。
「ひとりぼっちのかわいそうなセム。そういうストイックなところも、私好き。だから一緒に死にたいのよねえ、私」
 アルフィオーネはラインフラウに言う。宣戦布告でもするような調子で。
「……わたしは、ノアの復活をいかなる手を使ってでも阻止するわ。たとえそれが、あなたやセムの望まない結果を導き出すとしても」
 ラインフラウは黙って微笑んだ。あでやかに、毒々しく。

●なんだか変だな、とルーシィは思った。
 最初の威嚇攻撃において、あの魔物はさほどひるんでいなかった。
 なのに、こちらが追加攻撃を行う前に、急に逃げて行った。何かを恐れたかのように。
 まあ、こちらの人数が人数なので、不利を悟っただけかもしれないが……。
「どうしたんだべな」
 呟いたところで、足先にコツンと何かが当たる。
 見れば白い石。その辺に転がっているただの石ではない。成型された――石畳に使われる石。それが地面からわずかに顔を出している
 なんでこんなものがあるのかなと首を傾げたところで、セムがしゃがみこんだ。
 どうやら彼女も石畳に気づいたらしい。
 まさにその時、ばあっとルーシィの前に幻視が広がった。

 白い石で築かれた大きな舗装道が、荒れ地を貫いて真っすぐ、城門まで続いている。
 城門は――城壁も城も――今作られたもののように光り輝いている。
 優雅な一団がそこにやってくる。
 褐色の肌色、金色の目、黒い髪。
 彼らは門を叩く。
 門が内側から開く。
 開いた門の中には豪華絢爛な空間が広がっていた。
 奥からセムが出てきて彼らに一礼する。胸に手を当てて。
 彼らは当然のように頷く。その口が次のような言葉を唱えたのを、ルーシィは確かに聞いた気がした。
『わたしたち』
『でむかえるもの』
(あの人達……まさか、かつてのサーブル城の主達じゃあねえだろうな?)
ルーシィがそう思ったとき、突如耳元で声がした。
「その通りだ」

 幻視が切れた。
 ルーシィの視界はもとに戻る。
 セムは相変わらずしゃがんで石を見ていた。
 ル-シィの目にはそれが、城に向かって跪拝しているように映る。
 ムクムクと疑念が浮かんでくる。
(……ノアの連中、セムさに城さ復旧させて、そんあとに入り込むつもりじゃあねえだろうな。それとも……まさか、セムさとラインフラウさに取り憑いたり……実は二人に転生してたり?)

 帰った後彼女はガルとともに、自分が見聞きしたことを、学園の仲間に伝えた……。






課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
王冠――restoration
執筆:K GM


《王冠――restoration》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2022-02-19 09:16:16
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 2) 2022-02-21 07:17:03
ご挨拶が遅れてごめんなさい。王様・貴族コースのパーシア。よろしくお願いします。

私は修理にしようか、指輪について探るか思案中だけど、現状では調査寄りの行動で考えてるわ。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 3) 2022-02-21 22:13:10
私は今のところ家屋の修理で考えておりますわ。

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 4) 2022-02-23 22:53:38
じゃあ、私は指輪の呪い関係を調べてみるわね。

《新入生》 ルーシィ・ラスニール (No 5) 2022-02-24 07:14:56
おらぁ、賢者・導師コースのルーシィいうだ。よろしく頼むだよ。
さあて、何すっぺか……ウルドさんところも気になるけんど、セムさのところもあん三兄弟だでなあ……セムさのとこさ行くでよ。

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 6) 2022-02-24 15:36:14
教祖・聖職者専攻のアルフィオーネ・ブランエトワルです。どうぞ、よしなに

わたしは指輪の調査をしたいと思います

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 7) 2022-02-24 21:24:42
皆様、よろしくお願いいたしますね。

応急処置については屋根はOPにあるように防水シートをかぶせるとして、家屋内の天井にも一応はりつけておきますわ。あとは雨漏りで床が腐ったと思いますので、床下に炭をしいておきますわ。多少なりとも湿気を取ってくれるかと思いますので。あとは床の腐った部分だけでも上から板をはっておきますわ。