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悪の芽は潰えず


ストーリー Story

 ソレは邪悪だった。

「プランAは失敗しましたねぇ」
 嘲笑う声に、蔑む声が返す。
「他人事ではないだろう。アレの失敗は、私達の失敗でもあるのだ。私よ」
「そうですねぇ、私。悪くない所までは行けたと思ったんですが」
「ああなる前に私達全てが死んで力を集約するべきだったか?」
 見下す声に、侮蔑する声が返す。
「無駄な仮想実験。私達が死ぬより早く、あの私は捕食封印された」
「確かに」
 侮る声が同意する。
「プランAを進めていた私の行動は、あの時点の直前までは正しかった」
「そうでありながら失敗したなら、やはり他のプランを進めるべきだ」
 嘲弄する声が断言するように言った。
「今後は、私達それぞれのプランを進めるべきだ」
「ならばこれ以上封印されないよう、気を付けましょう」
 見縊る声が言った。
「この世界の維持機構に、すでに私(あくま)達の存在は知覚された。今いる私達を直接知覚することは出来ないが、増やそうとすれば居場所を知られ即座に封印される」
「面倒だねぇ」
 愚弄する声が言った。
「大人しく惨めに嘆きながら滅びていけば良いのに。余計な手間を掛けさせてくれる」
「それはそれで良いではないですか。弄ぶ時間が増える」
 嘲笑う声に、この場にいる11の同位体は嗤いながら同意した。
「違いない」
「滅ぼし喰らう前に」
「嘆きと苦痛で彩って」
「恐怖と怨嗟をスパイスに」
「味付けしてやろう」
「それぐらいしか価値は無い」
 けらけらと悪魔は嗤い、邪悪な企みをこらし始めた。

◆  ◆  ◆

「黙ってついて来い!」
 ヒューマンの男が、痩せ衰えた魔族を殴りつけた。
 苦悶の声を上げながら、殴りつけられ倒れた男は立ち上がる。
「……」
 無言で殴ってきたヒューマンの男を睨みつける魔族に、舌打ちしながら今度は蹴り飛ばした。
「薄汚ねぇ魔族がっ、調子こいてんじゃねぇぞ!」
 さらに殴りつけようとした男を、軽い声が止める。
「それぐらいにしとけ。死んだら素材にならねぇ」
 いかにもチンピラといった狼のルネサンスの男が、にやにや笑いながら言った。
「そいつはクソ以下のカスだが、俺達で巧く使ってやりゃ、人間様の役に立つ物になれるんだ。魔王なんかに従ってた極悪人共に、罪を償わせてやる折角のチャンスを無駄にしちゃいけねぇよ。なにより、俺達の儲けが減るだろ、こんな所で無駄に殺したら」
「……分かってますよ」
 渋々というようにヒューマンの男は応えると、魔族を殴りながら言った。
「オラ、さっさと進め! 手間かけさせんじゃねぇ!」
 言われるがままに、魔族の男は進む。

 だが、魔族の男は気付かれずに痕跡を残した。
 それは小さな宝石。
 豆粒にも満たない小さな粒は、魔族の男の種族が使える魔法だ。
 情報を刻んだ魔力を宝石として固定することが出来る。
 それを、魔族の男が連れて行かれた後で、2人の覇王が見つけた。

「巧くいってるようであるな」
 情報の刻まれた宝石を拾い上げながら【アーカード】は、同行する【スルト】に言った。
「これで人攫いのアジトの場所が分かるのである」
「そこに囚われた者達を助けに行くのか?」
「もちろんである」
「そうか」
 たこ焼きを食べながらスルトは返す。
「それで、場所は1つだけなのか? それなら手っ取り早くて良いが」
「ちょっと待つである」
 アーカードは、宝石の内部に蓄えられている情報を閲覧する。
「複数あるみたいであるな。あまり時間を掛けるとろくなことになりそうにないであるから、学園にも手伝わせるのである」
「ふむ。まぁ、別に良いが。俺もストーカーの所で食客になってるから、飯の分は働いてやる」
 気軽に応えるスルト。
 いま2人がここに居るのは、銀行業を筆頭に幅広く商業活動を行っているストーカー商会の筆頭、【ブラム・ストーカー】の頼みを受けているからだ。
 アーカードの眷属であった人物を先祖に持つストーカー家は、魔王のとの決着がつく前から魔族の一部と関わりを持っている。
 その伝手で、魔族の一部が人間に浚われる事件が頻発しているという話を聞き、アーカード達に協力を求めて来たのだ。
「昔と変わらんな、こういうのは」
 呆れたように言うスルトに、アーカードは応える。
「それでも変わってはいるであるよ。それをより我輩達好みに変えるためにも、早く助けに行くである」

 その後、人攫いのアジトのひとつに行き、人攫い達をボッコボコにしたアーカードとスルトは、他のアジトも潰すため学園に協力を求めるのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 6日 出発日 2022-07-15

難易度 普通 報酬 なし 完成予定 2022-07-25

登場人物 4/8 Characters
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《新入生》ウィトル・ラーウェ
 エリアル Lv9 / 黒幕・暗躍 Rank 1
不思議な雰囲気を漂わせるエリアル どちらつかずの見た目は わざとそうしているとか 容姿 ・中性的な顔立ち、どちらとも解釈できる低くも高くもない声 ・服装はわざと体のラインが出にくいものを着用 ・いつも壊れた懐中時計を持ち歩いている 性格 ・のらりくらりと過ごしている、マイペースな性格 ・一人で過ごすことが多く、主に図書館で本を読みふけっている ・実は季節ごとの行事やイベントには敏感。積極的に人の輪には入らないが、イベント時にはそれにちなんだコスチュームを纏う彼(彼女)の姿が見れるとかなんとか ・課題にはあまり積極的ではなく、戦闘にも消極的 ・でも戦闘の方針は主に「物理で殴れ」もしかしなくとも脳筋かもしれない 「期待しすぎるなよ、ぼくはただの余所者だ」 二人称:きみ、あんた 相手を呼ぶとき:呼び捨て 「ぼくのことは、ラーウェと呼んでくれ。ウィラでもいいぞ。前にちょっと世話してやった家出少年はそう呼んだよ」
《イマジネイター》ナノハ・T・アルエクス
 エリアル Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
フェアリータイプのエリアル。 その中でも非常に小柄、本人は可愛いから気に入っている。 明るく元気で優しい性格。天真爛漫で裏表がない。 精神年齢的には外見年齢に近い。 気取らず自然体で誰とでも仲良く接する。 一方で、正義感が強くて勇猛果敢なヒーロー気質。 考えるよりも動いて撃ってブン殴る方が得意。 どんな魔物が相手でもどんな困難があろうと凛として挑む。 戦闘スタイルは、高い機動性を生かして立ち回り、弓や魔法で敵を撃ち抜き、時には近接して攻め立てる。 あまり魔法使いらしくない。自分でもそう思っている。 正直、武神・無双コースに行くかで迷った程。 筋トレやパルクールなどのトレーニングを日課にしている。 実は幼い頃は運動音痴で必要に駆られて始めたことだったが、 いつの間にか半分趣味のような形になっていったらしい。 大食漢でガッツリ食べる。フードファイター並みに食べる。 小さな体のどこに消えていくのかは摩訶不思議。 地元ではブラックホールの異名(と食べ放題出禁)を貰うほど。 肉も野菜も好きだが、やっぱり炭水化物が好き。菓子も好き。 目一杯動いた分は目一杯食べて、目一杯食べた分は目一杯動く。 趣味は魔道具弄りで、ギミック満載の機械的な物が好き。 最近繋がった異世界の技術やデザインには興味津々で、 ヒーローチックなものや未来的でSFチックな物が気に入り、 アニメやロボットいうものにも心魅かれている。 (ついでにメカフェチという性癖も拗らせた模様)

解説 Explan

●目的

魔族を浚う組織のアジトを壊滅させる。

戦闘やシリアス系のフリーシナリオです。
PCの自由設定に絡める形で進めていただいても構いません。



PCの辛い過去に、何かしらの形で黒幕たちが関わっていたので潰すと決意する、など。

●方法

三つの選択肢の内、どれか一つを選んでください。

1 アーカード達から提供された情報に基づいてアジトを強襲する。

場所が分かっているアジトを強襲する選択肢です。
敵の数と強さは参加人数によって変化します。
浚われた魔族が人質にされたりする場合もあります。

2 わざと浚われて侵入しアジトを壊滅させる。

場所が分からないアジトを見つけ壊滅させる選択肢です。
どのような場所で、どういう状況で浚われるかは、自由にプランに書いていただけます。
敵の数と規模は参加人数によって変化します。
浚われてアジトにつれて行かれた後どう動くかプランにお書きください。

3 シチュエーションなど自由に決める。

魔族達を浚った組織に何かしらのアクションを起こす、という前提であれば、それ以外の細かい内容は自由に決められます。

●NPC

基本、誰を出しても良いです。
戦力として協力させたり、その他も可能です。

●PL情報

今回の件は、世界を滅ぼすことを目的とする悪魔、人形遣いが裏で画策しています。

饕餮により人形遣いの1人が捕食封印されたので、他の人形遣いが計画を開始しました。

それぞれの個体で計画を進めていますが、具体的には以下のようになります。

プランA 饕餮を取り込むことで世界全てを捕食し破壊する→PC達の活躍により失敗

プランB 異世界の危険な技術を流出させることで自滅させる

プランC 種族間の対立を煽り最終的に絶滅戦争をさせる

プランD ゆうがく世界の住人は魔力の塊なので、異世界人に資源として認識させ争いを起こさせる

などの、ろくでもない計画を立ててます。

そういった計画の痕跡を見つけるなども、プランに自由にお書き頂けます。

以上です。


作者コメント Comment
今回は、アフターストーリーエピソード第三弾、になっています。

基本は、悪い奴をぶっ飛ばそう、という内容になっています。

それにPCの自由設定を好きに絡める事も出来ます。

大まかな筋道はありますが、フリーシナリオとして、状況や敵の規模など自由に決められます。

それに沿って、リザルトは書かれます。

PC達で協力するのも可能ですし、個別に話を進めるのも可能です。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリザルトに頑張ります。



個人成績表 Report
エリカ・エルオンタリエ 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
1:アジト強襲をサポート

鳥の姿であることを最大限に活用
直接的な会話は行わない(行えない)

視覚強化
気配察知

高高度からの索敵、ナビゲーション、伝令など

空中や立ち木、建物などの高い位置から人さらいの動向を監視
捜査・強襲チームにその位置を知らせ、誘導する

また敵の動向、待ち伏せ、襲撃なども鳴き声や空中で旋回するなどの行動で知らせ、
態勢を整えさせ、状況を有利に運ぶ

なるべく敵にも警戒されないよう、野生の鳥らしくふるまっているが

味方やさらわれた被害者や周囲の一般人などに大きな危険が迫った時は
自身も戦いに参加
急降下して顔を蹴りつけたり、くちばしでつついたり

状況が厳しそうなら
スプリーム・クラッシュの体当たりを敢行





仁和・貴人 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
魔王との闘いがすんでこちら側の勝利で終わったとはいえそれで魔族が悪いとはならないだろうに…
何考えてるんだ…
とりあえず悪い人攫いにはお仕置きが必要だよな


1 アーカード達から提供された情報に基づいてアジトを強襲する

まずは事前調査、信用、説得で強襲する予定の町の自警団等に協力を求めるとしようか
人がいないからな鎮圧した後の捕縛作業とか捕まってた人(浚われた魔族)達のフォローとかにもマンパワーが必要だし

強襲方法はグリフォンに乗って上空からのダイナミックお邪魔しますだな
絶対服従で戦意喪失させてそのうえで無力化していこう
人質を取られた場合は妖艶の美貌を使い隙を作らせられないか試してみよう

アドリブA、絡み大歓迎

ウィトル・ラーウェ 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
平和になったら新たな火種ね
仕方ないね、簡単に世界平和ができたら苦労しないし

ただの残党と思いきや、もっと面倒くさいものが
とりあえず突撃チームと一緒に突撃……なんてしないで
ぼくはこそこそ裏方捜索でもさせてもらおう
とりあえず【隠密】でバレないようにこそこそーっと…

残党とはいえ、それなりの戦力だ
どーせため込んでいたんだろうけど……

……待て、どうしてこんなものがここにある
それは本来、此処にある筈がないもの
とりあえずこれは破壊して、ただのスクラップにして……と…

捕縛された主犯格にだけ話を
「余所者」が全員話の通じるやつだとでも思ったの?
馬鹿だな、余所者ほど警戒しなきゃいけないんだよ

ナノハ・T・アルエクス 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
攫われた魔族を救出する

■行動
人攫いのアジトを強襲する。
僕は殲滅よりも救助を優先するよ。

まずは攫われた人(魔族)達のところに向かうよ。まで突っ切る。
魔術師の箒に乗って突貫、グロリアスブースターを併用して加速と方向転換しつつ、立体機動の動きで突っ切るよ。
ナノハ・T・アルエクス、行きまーすっ!!

目標に到着したら、近くの敵を素早く撃破して周囲の安全を確保。
人質に取られないよう反応されるよりも早く、ファストショットで抜き撃ち。
その後は盾を構えて皆を守りつつ、トライショットで向かってくる敵を迎撃するよ。

これ以上は君達の好きにはやらせないよ!
人種も魔族も関係ない。悪を挫き皆を守る、それが勇者ってね♪


リザルト Result

 魔族が、人間の人攫いに拉致されている。
 それを救出する課題を受けた学園生達は、まずは人攫いのアジトに最も近い町に訪れ、協力を頼んでいた。

「力を貸して貰えませんか」
 町の自警団に頼みこんでいるのは、【仁和・貴人】だ。
 彼が、町の人達への協力を提案したこともあり、積極的に交渉していた。
「オレ達だけじゃ人手が足らないんです。助けてください」
 返答は色よいものでは無かった。
「なんで私達が魔族のために危険なことしないといけないんだ。町の人間が浚われたわけでもないんだろう?」
 面倒事は御免だと言わんばかりに、自警団のリーダーは拒絶する。
 彼の後ろにいる他の自警団のメンバーは、リーダーほど明確ではないが、少なくとも進んで手を貸そうという気配はない。
 それを一歩退いた視点で、【ウィトル・ラーウェ】は静かに見ていた。
(平和になったら新たな火種ね……仕方ないね、簡単に世界平和ができたら苦労しないし)
 冷ややかというほどではないが、どこまでも中立的だ。
 それはウィトルが異世界の出身であることが関わっているかもしれないし、あるいは、ウィトル自身の元々の『種族』の性質が理由かもしれない。
 けれどそうであると同時に、この世界と、そこに生きる人々とウィトルなりに関わろうとも思っていた。
(余所者なりに、この世界に骨をうずめるつもりだしね。それに――)
 ある種の協定、あるいは取引をしている『同類』達のことも頭に浮かぶ。
(どうにも、話を聞いてるとキナ臭い。皆と情報を共有するためにも、色々と探った方が良いかもしれないな)
 単独行動も考えながら黙している。
 その間も自警団との話し合いは進んでいたが、明らかに乗り気ではない。
 どうにかして動いて貰おうと、貴人が言葉を選んでいると――
「人間も魔族も変わらないよ!」
 確固たる信念と強い口調で、【ナノハ・T・アルエクス】が話に加わった。
「魔族だから助けないなんて間違ってる」
 彼女が迷いなく言い切れるのは、彼女自身の資質も大きいが、人間と魔族に違いがないことを知ったからだ。
「魔族と僕たち人間の違いなんて、精霊王の加護があるか無いかの違いでしかないんだ」
 異世界人である【メフィスト】や、魔王軍幹部だった【ヌル・スチュワート】から知らされた事実を、ナノハは自身の血肉として受け入れている。
 そしてなによりも――
「魔族の人達と、手を取り合うことは出来るんだ」
 自らの経験に基づく実感を自警団に伝えていく。
「魔王との決戦があった時、僕は異世界にみんなを避難して貰えるようにしたんだ。その中には、魔族の人達もいたよ。だから言える。僕達も魔族も変わらないって。君達も避難したなら、知ってる筈だよ」
「それは……」
 ナノハの呼び掛けに、自警団のメンバーの何人かが、何か言いたげにするが口ごもる。
 同時に、何故か自警団のリーダーは、余計なことをというように眉を寄せた。
(……なんだ?)
 訝しさを覚えた貴人は、自警団のリーダーが何か言うより早く、ナノハの説得を援護するように言葉を続けた。
「ナノハくんの言う通りだ。オレ達も魔族も変わらない。だから余計に、協力し合う必要がある」
「別に要らないだろ」
 切り捨てるように自警団のリーダーが返す。
「浚われてるのは魔族なんだろ。この町の人間じゃないんだ。下手に突いて、あとで報復でもされたら――」
「そんなことさせないよ」
 キッパリとナノハが言い切る。
「人攫いなんてする悪い奴らは、全員やっつける。みんな捕まえて二度とこんなことが出来ないようにするから大丈夫だよ」
「いや、しかしだな」
 食い下がるように反論する自警団のリーダーに――
「魔族だけで済む話じゃない」
 貴人が他人事ではないことを伝える。
「魔族だからって人攫いをして平気な奴らが、この後もずっと町の人間に手出しをしてこない保証はない。それに魔族を浚い続けて、浚える相手がいなくなったら、そこで止めるとも思えない。魔族の次は、人間に狙いをつけるに決まってる。そうなってからじゃ遅いんだ」
 あえて強い口調で説得する貴人に、自分達にも関わって来ることだと気付いたのか、自警団の何人かが同調するように話を合わせて来る。しかし――
「お前ら頭を冷やせ」
 自警団のリーダーは頑なに反対し続けた。
「魔族のために身体を張るつもりか? 勇者ごっこで怪我でもしたらどうする」
 あまりの物言いに、ナノハや貴人が反論しようとする。
 しかしそれより早く、ウィトルが冷静な声で指摘した。
「人攫いを制圧したら、あなたは困るのか?」
「――っ、なにを」
「別に責めてる訳じゃない。ただの疑問。さっきから見ていると、あなたは町全体のことよりも、個人的な都合を第一にしているように見える。違うのなら、理路整然と説明して欲しい」
 思わず言葉に詰まる自警団リーダー。
 そこに、ノックの音が響く。
 皆が話をしている自警団詰所に、誰かが来たのだ。
 全員の視線が扉に向かう中、入って来たのは――
「町長の許可を取って来たわ。これで協力して貰えるかしら」
 委任状を見せながら詰め所に入って来たのは、学園教師である【ユリ・ネオネ】だ。
 今回の課題で人手が欲しいと思っていた貴人に頼まれ、他にも何人か連れて手助けに来てくれている。
「町長が……」
 何故か顔を青ざめさせる自警団リーダー。
 そこに止めを刺すようにユリは言った。
「最近、あなたは羽振りが良いそうですね。町長と話をして、その件についても後で聞きたいことがあります。ですがその前に、今回の件では副団長さんに自警団の指揮を執って貰えるようお願いします。それに関しても、町長自身から委任状を貰っていますから、抵抗は諦めて」
「……そんな」
 ぐったりと項垂れる自警団リーダー。
 その処遇を自警団のメンバーに任せている間に、貴人たちがユリに話を聞く。
「ひょっとして、人攫いたちと繋がってました?」
「ええ、そうみたいね」
 ユリが説明する。
「詳しいことは本人から聴取しないと分からないけど、定期的に金銭を受け取ってたみたい」
「そんなのって酷いよ!」
 憤るナノハに、ユリは応える。
「私も、そう思う。でも、これはチャンスでもあるわ」
「どういうこと?」
 ウィトルの問い掛けに、ユリは返す。
「向こうは、自分達に便宜が図られてると思ってるから油断してる。叩くなら、今ね」
 ユリの言葉に皆は頷き、人攫いたちを制圧し浚われている魔族達を助け出すため、具体的な計画を立てる。

 その相談を、はるか上空から聞いている人物がいた。

(好かった。これで魔族の人達を助けられる)
 大空に翼を広げ風に乗りながら、【エリカ・エルオンタリエ】は安堵した。
「キィ」
 一息つくように、小さく鳴く。
 今の彼女は人の姿ではなく隼になっているため、人のように言葉を発することが出来ない。
 そうなっているのは、彼女が魔王との決戦で取った行動にある。
 魔王の初期化を彼女は後押ししたのだが、それに巻き込まれ人としての形を失ったのだ。
 そのままだと世界に融けてしまう所だったが、風の精霊王【アリアモーレ】の助けにより今の姿になっている。
(みんな、頑張ってる)
 学園生達が立てる計画を聞きながら、エリカは誇らしい気持ちになっていた。
 いま彼女がいるのは、皆が相談している自警団詰所の遥か上空なのだが、風の精霊達の助けを借り音を届けて貰っている。
 アリアモーレにより隼の姿になったエリカだが、今の彼女は精霊王の眷属になっているので、人よりも精霊達との会話をする方が容易い。
 現に今も、小さな子供のような風の精霊達の声が聞こえる。
『きこえますです?』
『もっとおおきい、する?』
『大丈夫、ありがとう。よく聞こえるわ』
 エリカが礼を言うと、風の精霊達は嬉しそうに笑いながら世界に融けて消えた。
 明確な形を持たない精霊達は、自我が曖昧で、すぐに生まれたり消えたりするのだ。
 消えたと言っても、世界が滅びぬ限り本当の意味で死ぬわけではないので、誰かに喚ばれたりしない限りは、それぞれの属性に合った自然に還っているだけである。
 精霊達の常識に、最初は戸惑いつつも今では慣れたエリカは、魔族を救出しようとする学園生達の方に意識を向ける。
(なにか、手伝えることがあれば……)
 今の姿になってから、エリカは学園や学園生達に現状を伝えてはいない。
 それはこの先、自分がどうなるか予測がつかないので、下手に知らせて負担にさせたくないからだ。
 とはいえ、それが原因で直接協力することが難しくなっている。
(気になってついて来たけれど、何をすればいいかしら?)
 時折、学園の様子を見に行っているエリカなのだが、偶々見に行った際に、今回の課題のことを知り何か出来ないかと、人知れずついてきていたのだ。
(とりあえず、人攫いのアジトを確認するのが先決ね)
 今のエリカは、隼の姿になっているだけあって、目がとんでもなく良い。
 その気になれば数百m先の物でも明確に分かるほどだ。
(アジトは……あっちね)
 周囲を見渡し、風と同化し飛翔する。
 アリアモーレの眷属となっているので、今のエリカにとって風は同胞であり、自分自身の延長でもあった。
 空を翔ける一陣の風となって瞬く間に、人攫いのアジトの上空へと到着。
(……酷い)
 浚われた魔族達の様子に、エリカは胸を痛めた。
 町の外れにある古びた小屋の横、草木が伸び放題の荒地に魔族達は拘束されていた。
 檻のつもりなのか、周囲を柵で覆い、片手と片足が縄で繋がれ括られている。
 逃げ出さないよう数人が監視しているが、酒を飲んでいるのか顔が赤い。
 時折、笑いながら魔族達に悪態をつき、石を投げたりして遊んでいる。
(早く助けてあげないと)
 そう思うも、1人ではどうにもならない。
 魔族の見張りに数人がついている以外にも、小屋の中には十数人がたむろしているのが、風の精霊達の助けで分かる。
 それ以外にも、小屋の外に置いたテーブルを挟んで賭け事に興じている者達がいるが、そいつらは明らかに手練れであるように見えた。
(数だけじゃなく、手強そうなのが何人かいる。みんなに伝えられればいいんだけど)
 隼の姿をしているので難しい。
 それでもどうにかできないかと、皆がいる自警団詰所に戻ろうとした時だった――
(――あれは)
 隼の目で、かなり離れた場所から近付いて来る一団に気付く。
(魔族の人達、なの?)
 それはエリカの感覚で言えば、『鬼』の姿をした人達だった。
 牛のルネサンスという可能性も考えたが、違うようにしか思えない。
(……ひょっとして、浚われた人達を助けに来てる?)
 そういえば、外で拘束されている人達の中には、今こちらに近付く鬼の姿に近い者もいたように思う。
(助けに来た人達なら、教えてあげないと)
 確かめるため、風になって飛び近付く。すると――
(このままだと、まずい)
 魔族達の様子を確認し、エリカは焦る。
 近付いてくる魔族達は明らかに殺意を滲ませていた。
(浚われた人達の様子を見たら殺し合いになるかも……そうなったら、どれだけ被害が出るか。それに――)
 町の方に視線を向けたあと、エリカは懸念を抱く。
(町の近くにアジトがあるのに放置している状況を見たら、町の人達にも怒りが向いてしまうかも……)
 最悪の場合を想定した推測だが、万が一にもそうなった場合、後々の禍根となるのは確実だろう。
(何でこんなタイミングで)
 まるで、『誰か』が最悪になる様に糸を引き操っているかのような状況に、エリカは自分の出来る最善を見つけ出す。
(知らせないと!)
 風となって飛翔し、仲間に助けを求める。

 向かう先は、グリフォンの背に乗り上空高くに浮かぶ貴人の元だった。

「こちら貴人。グリフォンの調子は良好。いつでもいけるよ」
 携帯用の通信魔法石を手に、貴人はナノハ達に連絡を入れた。
『了解。僕達も準備は出来たよ。それじゃ、上空からの偵察お願いするね』
「了解」
 応えを返し、アジトのある方角に向かおうとする貴人。
 自警団詰所の話し合いで、それぞれの配置は決まり、その通りに動いている。
 グリフォンを用意していた貴人が上空から、人攫いのアジトの様子を確認。
 それを受けたナノハたち先行部隊が、一気に吶喊。
 敵に痛打を喰らわせた所で、周囲を包囲しつつ魔族の救出確保。
 貴人が上空から遊撃役として動き、敵の取りこぼしが起きないよう、隠密に長けたウィトルたちが逃走経路を事前に潰すように動いていた。
 不測の事態も想定しながら不備のない計画を立て、いざ実際に動こうとした時――
「キィ、キイッ」
「うわっ、え、なんだ?」
 突然、貴人の元に一羽の隼が飛び込んでくる。
 驚きつつも、怪我をさせないよう隼を追い払おうとする貴人だったが、隼は変わらず鳴き声を上げている。
「キィ、キイ」
(なんだ?)
 危害を加えようとするわけではなく、まるで何かを伝えようとしているように貴人には感じられた。
(なんで?)
 自分でも不思議に思いつつ、隼に誘導されるように視線が、ある場所に向く。そこには――
「え……あれ、ひょっとして、魔族か?」
「キィ」
 正解、とでも言うように隼は鳴くと、ついて来てと言わんばかりに、近付いてくる魔族達に向かって飛んだ。
「……これ、放置する訳にはいかないよな」
 貴人は通信魔法石でナノハ達に連絡。
「こちらに近づいてくる魔族がいる。何かがあると拙いから確認してくる」
『分かった。もし何かあったら教えて。すぐに助けに行くからね』
「ありがとう。その時は頼むよ」
 連絡を返すと、貴人はグリフォンに頼み近付いてくる魔族達の元に向かう。
 すると険悪な声を掛けられた。
「なんだお前は! 人攫いの仲間か!」
 殺意を感じさせる声に、貴人は押し負けないよう力強い声で返した。
「オレ達はフトゥールム・スクエアの学園生だ。この先で捕らわれている魔族の人達を救出するために来ている」
 これを聞いて魔族達の間に迷いのような気配が広がる。
 だが疑心に囚われているのか、敵意を滲ませ言った。
「お前の言うことが本当だという証拠が何処にある! 俺達を騙すつもりじゃないのか!」
「そんなつもりはない。落ち着いてくれ」
 貴人は宥めるように言うが、怒りで冷静さを失っている相手に対応を迷う。
(ひとまず退いて、みんなとどうするか話し合うか? でもそんなことをしたら、余計に信頼されなくなるかもしれないし……)
 どうするべきか、貴人が迷っている時だった。
(これは――)
 清涼な風が、魔族と貴人達に流れる。
 それは怒りや迷いの熱を冷ますような心地好い風だった。
「キィ」
 隼が鳴き声を上げる。
「この風、ひょっとして――」
「キィ」
 貴人の呼び掛けに、隼は鳴き声で応えながら魔族達の近くまで降り、ゆっくりと弧を描くように飛び続ける。
 それはまるで、貴人にもグリフォンの背から降りてきて、魔族達と話し合って欲しいと言っているかのようだった。
(ええい、腹を括るか)
 貴人は魔族達の元に降りると目線を合わせ、改めて状況を説明した。
「オレ達は、この近くに浚われた魔族の人達がいると話を聞いて助けに来たんだ」
「なんで、そんなことをする」
 警戒しながら聞き返す魔族の男に、貴人は返した。
「それがオレ達、フトゥールム・スクエアの、勇者候補生のしたい事だからだよ。それに助けてくれって頼まれたから」
「頼まれた……誰にだ?」
「それは――」
 そこまで言うと、貴人は通信魔法石を取り出して続ける。
「一緒に助けに来てるから、話をするよ」
 仲間に連絡を繋げ、【アーカード】を呼び出して貰う。
(声を掛けておいて良かった)
 戦力を少しでも増やすため学園中を周って声を掛けていたのだが、それが功を奏したようだ。
『なんであるか?』
「今こっちに、浚われた人達を助けに来た魔族の人達がいるんだ。同じ魔族として、話をつけてくれないか?」
『知ってる種族なら大丈夫であるが――』
 そのあと幾らか話をすると、幸いなことにアーカードの知っている種族だったらしい。
『ダエーワの一族であるか? ルドラは、まだ生きているであるか?』
「我らの高祖を知っているのか?」
 話が進み、どうにか協力し合うことでまとまる。
「それじゃ、オレ達が先行して人攫いを制圧するよ。そのあと助け出した魔族の人達のケアを頼めるかな? オレ達じゃなくて、魔族の方が安心すると思うし」
「分かった。我らも可能な限り速く向かう」
 貴人は、人攫いのアジトの大まかな位置を魔族達に伝えたあと、元の偵察任務に戻る。
 グリフォンの背に乗り、人攫いたちに気付かれないよう高度を上げると――
「キィ」
 隼が、ついて来てというように先行して飛ぶ。
 そのあとを貴人がついていくと、人攫いのアジトを探れる絶好のポイントにまで案内される。さらに――
「……この声って」
 上空に居るというのに、人攫い達がいる小屋の中の会話が貴人に聞こえてきた。
(この鳥……なんなんだろう)
 不思議と警戒感は湧かない。
 むしろ親しみすら感じていた。
(気になるけど、今は救出を一番に考えないと)
 貴人は意識を切り替え、ナノハ達に人攫いのアジトの情報を伝える。
「――ということになってるんだ。まずは浚われた魔族の人達の安全を第一にしたい。小屋の中から仲間が出て来る前に、一気に保護できるかな?」
『任せて! 人質に取る暇もないぐらい速く、悪い奴らは一気にやっつけちゃうよ』

 ナノハは力強く応え、突入の準備をする。

「今回の救出作戦の要を任せてしまうけど、良いかしら?」
 先行部隊の指揮者についた教師のユリに訊かれ、ナノハは頷く。
「大丈夫。誰も傷付けさせないよ」
「良いわね、その意気よ」
 ユリは笑顔を浮かべると、ナノハの突撃に合せ援護できるよう、先行部隊に指示を出し準備につく。
「こっちの用意は出来たわ。この中で一番の突破力を持つ貴女の力、見せてちょうだい」
「任せて!」
 ナノハは魔術師の箒に魔力を流し活性化させると、グロリアスブースターに魔力を充填する。
 それにより強化された魔術師の箒は、解放の時が待ちきれないと言わんばかりに、小さく唸りを上げていた。
 呼応するように、ナノハの戦意が高まる。
 その視線は、捕らわれた魔族達に向いていた。
(待ってて。いま助けるからね)
 決意を抱き、自身を鼓舞するように、高らかに声を上げる。
「ナノハ・T・アルエクス、行きまーすっ!!」
 瞬間、加速する。
 風切音をさせながら、百m以上離れた距離を一気に縮めた。
 その速さに、見張りは気付くのが遅れる。
「な、なんだ――」
 風切り音で気付いて視線を向けて来るが、その時には既にナノハは照準を付けている。
「いっけー!!」
 迎撃の準備すらさせず、ファストショットで魔力弾を叩き込み数人を吹っ飛ばす。
「て、テメェ!」
 仲間がやられ、そこでようやく見張りの1人が刃物を振り回して斬りつけて来るが、高度を上げ危なげなく回避。
 そこから急旋回すると、再び突撃。
「これ以上は君達の好きにはやらせないよ!」
 魔族達から遠ざけるように、見張り達を撃っていく。
「お前、なんなんだ!」
「フトゥールム・スクエアだよ! 君達に浚われた人達を助けに来たんだ!」
 浚われた魔族達に助けが来たことを知らせるよう、ナノハはあえて大きく声を張り上げて言った。
 これに人攫いたちは引きつった声を上げた。
「魔法学園だと!? お前ら魔王を倒したんだろうが!」
「そうだ! なのに魔族の味方をすんのかよ!」
「当たり前だよ!」
 キッパリとナノハは言った。
「人種も魔族も関係ない。悪を挫き皆を守る、それが勇者ってね♪」
「ふざけんな! 魔族みたいなクソ以下のカスをどうしようが俺達の勝手だろうが!」
「俺達が人間様の役に立てるようにしてやってるのに邪魔すんじゃねぇ!」
「魔族みたいな悪党をどうしようが自由だろうが!」
「ふざけるな!」
 怒りと共にナノハは返す。
「悪人は君達の方だよ! そんな勝手な理屈、通させないよ!」
 見張り達が投げつける石をシールドウィップで弾きながら、ナノハは言い切った。
「これからの未来は魔族も人間も一緒に進むんだ! 僕はそのために、ここにいる!」
 浚われた魔族達を背に庇い、ナノハは立ち向かう。
 それは正に勇者の戦い。
 勇気を胸に、悪を挫くべく立ち向かう。
「くそっ、他の奴らは何してる!」
 ナノハ1人に翻弄される見張りは仲間を呼ぼうとするが、そちらにはユリを始めとした部隊がすでに制圧に動いていた。
「ちくしょう……おいっ、魔族を盾にしろ!」
「させないよ!」
 ナノハは魔族を守るため、トライショットで連続射撃。
 真正面からでは叶わぬと見た見張り達は、何人かが回り込んで魔族達を盾にしようとするが――
「させるか!」
 グリフォンを駆り、貴人が急降下。
「ぎゃあ!」
 グリフォンの体当たりを喰らい悲鳴を上げながら吹っ飛ばされる人攫い。
「ここから先は通さん」
 向かって来る人攫い達に、魔力を込めた視線を向ける。
「ひぃっ」
 圧倒的な眼力は、恐怖を感じさせ動きを止める。
 そこにナノハの射撃が叩き込まれた。
「この調子で行こう!」
 ナノハの呼び掛けに貴人は応える。
「分かった。敵を抑えるから、その間に制圧を頼むよ」
「任せて!」
 ナノハと貴人は連携して敵を討つ。
 魔力を込めた眼力で貴人は敵の動きを封じると、その隙を逃さずナノハがトライショット。
 優勢に進むが、敵の数が多い。
 ナノハと貴人を迂回して魔族達に近付こうとする者も、どうしても出てしまう。その時――
「キィ」
 上空から隼が急降下。
 風を纏い突撃し吹き飛ばすと、追撃で顔を蹴りつける。
「このっ――」
 怒った人攫いは石を投げつけるが、隼は妖精が舞うような動きで風に乗り華麗に回避。
「くそっ。鳥なんかに、ぐあっ!」
「させないよ!」
 隼を斬りつけようとした敵を、ナノハがトライショットで倒す。
「キィ」
 ありがとう、というように鳴く隼。
 その間にも人攫い達は魔族を盾にしようと動くが、仮面を外した貴人が立ちはだかり妖艶の美貌を発動。
 魔族に向かっていた人攫い達は、見惚れたように動きが止まる。
 そこに貴人はマドーガを叩き込み吹っ飛ばした。

 強襲は成功し、人攫い達は次々無力化され捕縛される。
 だが全員ではなく、何人か目端の利く者が逃げ出していた。
 しかし、それを許す学園生達では無かった。

「――くそっ、なんなんだ」
 人攫いのアジトの裏、林の中を1人の男が走っていた。
「自警団のリーダーに金を掴ませてたってのに、なんで学園の奴らが来てるんだ。こんな筈じゃ――」
「予定が狂った?」
「へ?」
 突然の呼び掛けに、男は思わず間の抜けた声を上げてしまう。
「誰――」
「質問したいのはこっちだよ」
「ぎゃあっ!」
 切り裂かれる痛みに男は悲鳴を上げる。
 死角から忍び寄ったウィトルに、男は足を切り裂かれたのだ。
「ひっ、あぁ……」
「心配しなくても大丈夫。致命傷じゃないよ」
 静かな声でウィトルは言った。
「別に殺す気は無いよ。殺しちゃったら、話が訊けないからね」
「ちくしょう……」
 足を引きずりながら遠ざかろうとする男にウィトルは近付くと――
「……待て、どうしてこんなものがここにある」
 男が懐から落とした物を見て眉をひそめる。
 それは、この世界には存在しない筈のもの。
 電子端末だった。
 一瞬、ウィトルのいた世界の物かと思ったが、よく見れば違う。
(ぼくの世界のモノじゃない。こういっちゃなんだけど、これは……玩具レベル。よく似た世界の一つだろうけど、違う世界の物だ)
「これ、どこで手に入れたの?」
 ウィトルの問い掛けに、男は笑みを浮かべ応えた。
「あんた、これが何なのか分かるのか……だったら、この世界以外の人間だろ。俺と同じ」
「……異世界の出身?」
「ああ、そうだ。なぁ、それなら同類だろ。見逃してくれよ」
「なんで?」
「なんでって、こんな世界に勝手に跳ばされた者同士、助け合おうぜ。俺達は被害者なんだからよ」
「……どういうこと?」
「分かるだろ? なんか知らんが勝手にこんな世界に跳ばされて。野蛮人共と同じ姿にされて……むかつくだろ?」
「だから魔族を浚っていたの?」
「ああ、そうだ。だって俺達は被害者なんだ。だからこの世界の奴らは、俺達に賠償する義務がある」
「……なるほど、よく分かったよ」
「そ、そう――ぐあっ」
 ウィトルは男の顎を打ち抜いた。
「話が通じない相手ってことだね。ならこうするのが話が早い」
「て、テメェ……」
 恨めしげな声を上げる男を縛りながらウィトルは言った。
「『余所者』が全員話の通じるやつだとでも思ったの? 馬鹿だな、余所者ほど警戒しなきゃいけないんだよ」
 そう言うと男を拘束し終わり、男が持っていた電子端末を破壊する。
「とりあえずこれは破壊して、ただのスクラップにして……と……」
 完全粉砕した上で、持ち帰ろうとする。そこに――
「それは危険な物であったのであるか?」
 ウィトルと同じく、人攫いの逃走阻止に動いていたアーカードが声を掛けてきた。
(さて、どうしようか?)
 どう返すべきか思案していると、新たに1人が声を掛けて来る。
「電子機器ですねー。魔法じゃなくて科学の産物ですよー」
 ひょいっと、異世界人であるメフィストが現れた。
「技術的にはそれほど高くないですねー。星の海に出られるほどでもないですしー、電脳世界を構築できるほどの水準でもないですねー」
「異世界の技術であるか? あの男の出身の世界の物であるのか?」
「さー、どうでしょー。それは後で話を聞いときましょー。ひとまず今は眠って貰っているのでー、話聞けませんしー」
 メフィストの言葉に視線を向ければ、捕縛された男は傷が癒され、静かに寝息を立てていた。
「余計なこと聞かれないように眠らせましたー」
「それって、ぼくに何か聞きたいことがあるってこと?」
「そういうことである。魔族の救出以外に気が向いているようであったからな。気になったのである」
「……なんで?」
「この世界に害があると危ないであるからな。それと、あまり無茶して饕餮に喰われないように注意もしたかったであるからな」
「饕餮サマか……」
「どうしたである?」
 アーカードの問い掛けに、少し思案してからウィトルは返した。
「場合によっては、ぼくの本来の目的を果たさないといけなくなりそうだからね……どうしよ、饕餮サマに話つけといた方がいいかなぁ」
「気になるなら、我輩が橋渡ししても良いのである」
 アーカードの提案に、ウィトルは考える。
(ぼく本来の目的を考えると、この世界の免疫機構の化身である饕餮サマと敵対する訳じゃないし……)
 ウィトルの目的は、『世界を超える破壊者と戦うこと』であり、そして――
(所有する力が、あの世界の遺産であれば、確実に破壊しないと。これは、かえる場所をなくした『ぼくら』と『記録者』との取引なんだから)
 使命とも言える目的を改めて意識する。
(目的を実現するためには、協力者はいた方が良いけれど――)
 今ここで全てをアーカードやメフィスト達に伝えるかは決められない。
(ぼくだけじゃ、ね……)
 ウィトルには、出身世界はバラバラだが、似たような仲間がいる。
(とりあえず状況を伝えて、それから、かな?)
 考えをまとめたウィトルはアーカードとメフィストに言った。
「今日のことは饕餮サマに伝えて貰っても良いよ。それ以上は、まだ決められない」
「分かったである。悪いようにはしないよう饕餮とは話をつけておくである」
「私も何かあれば協力しますねー。なんだか嫌な予感しますしー」
 こうして、ウィトルの個人的なことは隠しつつ、話をつけて終わった。

 その後、逃げようとしていた他の人攫い達もすべて捕まえ終えると、浚われていた魔族達を解放する。

「怪我があったら言ってくれ。手当てをするから」
 仲間と共に、貴人は捕らわれていた魔族達に声を掛けていく。
 警戒している魔族達もいたが、こちらに助けに来た魔族、嵐の魔族ダエーワ達も加わりフォローを手伝ってくれたので、安堵するように表情を和らげていた。
(よかった)
 貴人は胸を撫で下ろすと、人攫い達がいた小屋に向かう。
「何か見つかった?」
 先に小屋を調べていたナノハに訊くと、親指ほどの大きさをした、縦半分に切り裂かれた人形を見せながら言った。
「暖炉の奥に隠してあったよ。余程大事な物なんだろうね」
「これが……なんだろう?」
「よく分からないけど、何かの取り引きの時に使われるのかも。割符みたいに」
「残った半欠けの人形と合わせて、取引相手の証拠にするってことかな?」
「かもしれない。人を攫うってのなら、攫われた先があるってことだからね。しかもこの規模での誘拐なら、背後の闇も大きいはずだよ」
 まだ見ぬ敵を前にするかのように、ナノハは闘志を燃やす。
「魔王よりも邪悪な何か……うん、戦いはまだまだ続くね」
「ああ。だとしたら、負けられないな」
「うん! 人と魔族の融和を進めるためにも、悪い奴らはやっつけないとね!」
 ナノハの言葉に貴人は頷き――
「キィ」
 賛同するように隼は一鳴きすると、大空へと飛んでいくのだった。



課題評価
課題経験:0
課題報酬:0
悪の芽は潰えず
執筆:春夏秋冬 GM


《悪の芽は潰えず》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 1) 2022-07-09 00:18:51
(周辺で一番高い木の上に、一羽の隼が止まっている)

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 2) 2022-07-09 14:17:28
(鳥は人の様には活動できないので、鳥らしく状況に貢献したいと思います。)

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 3) 2022-07-10 04:11:13
仁和だ…よろしく頼む。
アジトを強襲する予定だ。

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 4) 2022-07-10 14:44:02
(高高度からの索敵、ナビゲーション、場合によっては伝令なども行なえないかと試してみるつもりです)

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 5) 2022-07-10 14:45:12
(と、一瞬青空に現れた幻影が語ったw)

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 6) 2022-07-12 03:09:24
エルオンタリエくん・・・
(空に彼女の幻影を見ながら)

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 7) 2022-07-13 23:07:14
キィ

《イマジネイター》 ナノハ・T・アルエクス (No 8) 2022-07-14 22:29:25
ナノハ・T・アルエクスだよ♪
ギリギリの参加だけどよろしくね♪

僕もアジトを強襲する予定だよ。