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不穏の種は未然に防げ


ストーリー Story

 ズェスカ地方を始めとした復興事業は順調に進んでいた。
 大陸を縦断する鉄道計画も、大国が参加することで進展している。
 それらを進めるに当たって必要な人手も、確保されていた。
 魔王軍との戦いで被害を受けた人々や、魔族達も積極的に雇い、着実に形になっていった。
 懸念されていた魔族との軋轢も、学園生達が尽力することで最小限に抑えることが出来ていた。
 それは魔王の脅威がなくなった世界を象徴するように、繁栄と平和へと繋がるものであるように見える。
 多くの人々が待ち望んだ世界が、これから続いていくように思えるような状況だった。

 けれど、それを望まぬ者もいる。

「どねーかしてくださいや! このままじゃジリ貧になっちまうんじゃ!」
 懇願するように、悪徳商人【ギド・ギギル】は男に頼む。
「折角アホどもから二束三文で手に入れた土地が、学園のクソ共のせいで取り上げられちまったんじゃ!」
 それはズェスカでの話だ。
 ギドは、元々の住人から現地の土地を買い占めていたのだが、学園が間に入ることで取り返されている。
 それは現地で行われた、地殻変動による温泉計画を乗っ取ろうとしたことが原因だ。
 火の霊玉を中心として行われた地殻変動に干渉し、自分達の土地の価値を高め、それ以外の土地は暴力沙汰で奪うつもりでいたが、学園生達により防がれている。
 地殻変動に干渉しようとしたことがバレ、それを切っ掛けに学園に介入されたのだ。
 手に入れた土地自体が、暴力じみた脅しで強引に買い上げていたり、場合によっては詐欺で騙して手に入れていたので、そこを突かれ土地を没収された。
 どうにかしようにも、名のある大国は全て学園と協調しているので、それらに広げていた伝手を頼ろうにも断られる始末。
 なので、異界同盟という秘密結社に、ギドは泣きついていたのだ。
「そもそもそっちが寄こしたもんが原因じゃろが!」
 懇願していたギドだったが、相手の応えが鈍いので、脅すような口調で言った。
「儂がこうなったんはアンタらのせいじゃ! 責任があるじゃろ責任が!」
「そうですねぇ」
 激昂するギドに、男は言った。
「確かに言われてみれば、あなたの言い分は正しいですねぇ」
「そ、そうじゃろ」
「ええ。それに私達としても、あなたのように我々の理念を理解して協力して貰える方は大事にしたいと思っています。それにあなたは商才もある。我々が世の中を牛耳った暁には、あなたのような方に商業をお任せしたいと思っているのですよ」
「そ、そうなんか。ははっ、そりゃまぁ、儂も力になれることがありゃ、力になりたいとおもっとるんじゃ」
 相手が言うことを聞き、持ち上げるようなことを口にしたので、ギドは途端に下手に出る。
「本当に、あんたらの力になりたいと思っちょるんじゃ。じゃけど、それにゃ色々と人手もいるけぇ」
「ええ、分かっています。ですので、これらを差し上げます」
 そう言って男が指を鳴らすと、無表情な男たちが現れた。
「これらは死人兵と言います。自分で動く死体、ゾンビのようなものと思って下さい」
 男は説明すると、刃物を取り出し死人兵の1人に刺した。
「少々壊れても動きます。それに命令に忠実です」
 そう言うと、男は命令する。
「自分で傷を抉りなさい」
 刺された死人兵は言われた通りに従う。
「これらをあなたに差し上げます。好きに使ってください」
「こいつ、儂の言うこと聞くんか?」
「ええ。そのように設定しました」
「ほうか」
 ギドは笑みを浮かべると、死人兵の1人を殴りつける。
「土下座せぇ」
 命令通り従う死人兵。
「こりゃあええわ!」
「喜んでいただけたなら何よりです」
 微笑みながら男は言った。
「異世界の技術を応用して作りました。こちらの世界にも死霊術はあったらしいのですが、それを使っていた魔王軍の幹部は殺されてしまったらしく、代替するのに手間が掛かりましたよ」
 笑顔のまま男は続ける。
「素材となる人間がいれば幾らでも作れますから、売っていただければ買いますよ」
「ええの! 邪魔な奴ら殺したら処分する金かかっとったが、これからは儂が貰えるんか!」
「その通りです。色々と実験するのにも素材は必要なので、あるだけ買いますよ」
「そげぇに研究することあるんですかの?」
「もちろん。死人兵に吸血鬼の性質を付与して、勝手に増えるようにもしたいですから。まぁ、そうした事を進めるためにも、表の世界の顔役となって貰える方が必要なのです。なっていただけますか?」
「もちろんじゃ! 任せぇ!」
 大口を叩くギドを、男は薄い笑みを浮かべ見詰めていた。

 そして、不穏な事態が進行する。
 ギドは死人兵を荒事に使い、裏社会で急速に力を着けていく。
 同時に表の顔である商人としての伝手を使い、各地の復興事業に手を広げようとしていた。
 斡旋業を介したピンハネや、土地の地上げ。
 そうしたあくどい商売をしながら裏社会の伝手も使い、復興事業の労働者を博打や薬に引きずり込もうと画策している。
 しかも搾り取れるだけ搾り取ったあとは、異界同盟に売りさばくつもりのようだ。
 それを学園は、事前に察知している。

「魔法でみんなまとめて吹き飛ばした方が早いと思うゾ☆」
 笑顔で言う【メメ・メメル】に、【ユリ・ネオネ】が返す。
「気持ちは分かります。というか私もそうしたいですけど、それしちゃうと地下に潜られちゃうんで、慎重に行きましょう。潜入工作してくれている生徒達の安全も確保しないといけませんし」
 ユリの言葉通り、いま学園では、学園生による異界同盟への潜入工作が行われている。
 ギド達の動きも、そうした学園生達からの情報で得た物だが、それを表に出すと潜入している学園生達の安全が危ない。
 仮に安全が守られたとしても、相手に気付かれたら潜入工作が難しくなる。
「あくまでも偶然を装って、悪徳商人の悪巧みを防ぎつつ、異界同盟の本丸を叩く準備をしないといけないんです」
「面倒だナ」
「はい。ですが現時点では、この方針が最善です。ですので各地の復興事業に協力しつつ、不測の事態が起こりそうな場所に学園生を配置しましょう」
 ユリの提言をメメルは許可し、課題が出されることになるのでした。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 6日 出発日 2022-09-13

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2022-09-23

登場人物 2/8 Characters
《ココの大好きな人》アンリ・ミラーヴ
 ルネサンス Lv18 / 教祖・聖職 Rank 1
純種が馬のルネサンス。馬の耳と尻尾を持つ。 身長175cm。体重56kg。 16歳。 性格は温厚。 あまり表情を変えず寡黙。 喋る際は、言葉に短く間を置きながら発していく。 少しのんびりした性格と、言葉を選びながら喋るため。 思考や文章は比較的普通に言葉を紡ぐ。 表現が下手なだけで、年相応に感情は豊か。 好奇心も強く、珍しいものを見つけては、つぶらな瞳を輝かせながら眺めている。 群れで暮らす馬の遺伝により、少し寂しがり屋な面もある。 やや天然で、草原出身の世間知らずも合わさって時折、突拍子の無い発言をする。 好きな食べ物はニンジン。 食べていると美味しそうに目を細めて表情を和らげる。 趣味はランニング。運動自体を好む。 武術だけは、傷付ける行為を好まないため苦手。 入学の目的は、生者を癒し死者を慰める力を身に着ける事。
《ゆう×ドラ》シルク・ブラスリップ
 エリアル Lv17 / 村人・従者 Rank 1
「命令(オーダー)は受けない主義なの。作りたいものを、やりたいように作りたい……それが夢」 「最高の武具には最高の使い手がいるの。あなたはどうかしら?」 #####  武具職人志願のフェアリーの少女。  専門は衣服・装飾だが割と何でも小器用にこなすセンスの持ち主。  歴史ある職人の下で修業を積んできたが、閉鎖的な一門を嫌い魔法学園へとやってきた。 ◆性格・趣向  一言で言うと『天才肌の変態おねーさん』  男女問わず誘惑してからかうのが趣味のお色気担当。  筋肉&おっぱい星人だが精神の気高さも大事で、好みの理想は意外と高い。 ◆容姿補足  フェアリータイプのエリアル。身長およそ90cm。

解説 Explan

●目的

悪徳商人や異界同盟の妨害。

●方法

1 復興事業・表

各地で行われている復興事業に協力してください。

ズェスカでは温泉事業が本格的に始まり、関連するボソク島ではレジャー事業が進んでいます。

その他、各地を繋ぐ鉄道事業も進んでおり、それらに協力してください。

直接、労働力を提供するのでも良いですし、何か企画を進めるのも可能です。

2 復興事業・裏

復興事業の障害になる悪徳商人の妨害をして下さい。

悪徳商人は、以下のようなことをしています。

労働者の斡旋によるピンハネ。

博打や薬を蔓延させる。

人攫い。

これらは潜入工作をしてくれている学園生からの情報で、どこで何が行われるかが事前に知らされます。

学園が事前に察知していることが知られると拙いので、偶然を装って介入してください。

3 潜入工作

異界同盟への潜入工作を行ってください。

バレずに、巧く情報を引き出せるよう立ち回るプランが必要です。

既に潜入しているPCは、その状況から話を進めることが出来ます。

現時点で、以下のようなことを異界同盟は目論んでいます。

異世界からの転移者に、元の世界の力と姿を取り戻す。
その取っ掛かりとして、吸血鬼などの、ゆうがく世界で元の種族から変質した存在を求めている。

異界技術による兵器製造。
巨大人型兵器などの製造を目論んでいる。

これらに対抗して、異界同盟の悪質では無い者を、同盟に気付かれないように逃がす活動などが行われています。

また未確認ですが、精霊王に関わる何かも画策しているようです。

これらを調べる、あるいは対処してください。

他にも、異界同盟が企んでいそうな事をプランで書くと、関連した内容が発生するかもしれません。

●敵NPC

異界同盟

転移者が中心になって作られた秘密組織。

ギド・ギギル

悪徳商人。
死人兵を使って裏社会の勢力を伸ばしており、復興事業を食い物にしようとしています。

死人兵

死者の兵隊です。
プラン内容によって出てきたりします。

以上です。


作者コメント Comment
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。

今回は、今までアフターエピソードで進めていただいた内容から発生したエピソードになります。

関連する話を進めていき、『魔王の脅威が無くなった後のゆうがく世界』という結末に行ければと思います。

魔王の脅威は無くなったけれど、そんな世界でも色々と問題は発生するでしょう。
けれど、何があっても学園と学園生が、どうにかします。
それが出来るのが、魔王の脅威が無くなった後の、ゆうがく世界なのです。

というまとめで、アフターエピソードの流れが括れればいいなと思っています。

それはそれとしまして、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリザルトに頑張ります。



個人成績表 Report
アンリ・ミラーヴ 個人成績:

獲得経験:135 = 112全体 + 23個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
薬物の蔓延を阻止するため、労働者に変装して売人に接触し、薬物を入手して調べた後、改めて売人を捕まえる。
皆の健康を害する薬物は撲滅したい。
潜入工作中の学生達から知って、放っておけない気持ちになった。
薬物が売られているらしい地域の付近で、労働者の姿になり帽子やタオルで顔の一部を隠しながら、数日間働き続ける。
他の労働者の輪に加わるようにして打ち解けていき、賭博や薬物など隠れて行われる事を教えて貰えるように動く。
毎日真面目に働いて、疲労が溜まっているように見せかけ、何か元気になる食べ物でもないかと尋ねたりする。
薬物の話を聞いたら、欲しいと言って売人と合わせえないかと、不審に思われないよう説得する。

シルク・ブラスリップ 個人成績:

獲得経験:135 = 112全体 + 23個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●方針
引き続き異界同盟に潜入中
『巨大人型兵器』派閥を煽り、死人兵計画を潰すよう誘導

●潜入後
学園とは『フクロウ』を使って定期的に情報交換しつつ
嬉々として巨大人型兵器(自称『GDプロジェクト』)を推進中
良識派の人物はパイロット候補などと称して積極的に勧誘しておく

●行動
「ま、まずいわ…このままじゃあたしの『GDプロジェクト』がっ」

学園経由で死人兵の情報を得たら『巨大人型兵器』派閥はじめ、他勢力にお漏らし
死人兵派閥の企みが成功すると発言権や予算がやべーぞ、援助打ち切りだぞ、みたいに不安を煽り、死人兵派閥が嫌われるよう誘導。
(内乱とまでいかなくて、潰したいから組もうぜと円滑に情報収集できるように)

また死人兵派閥にも、同盟内部の派閥が攻撃してると思わせた方が逃げられにくいかと画策。

主張としては
・秘密裏に進めるてるのが気に食わない、という感情論
・自分たちも死人兵にされるのでは?的な不安煽り
・死人兵は悪目立ちして長期的に危険、という長期視点の意見

などを主張。こっちに協力した方が得だぞ、と派閥拡大に努める

リザルト Result

●潜入捜査
「今の話、詳しく聞かせて貰っても、いいかな?」
 お昼の学園食堂で、気になる話が聞こえてきた【アンリ・ミラーヴ】は、話をしていた学園生に声を掛けた。
(薬物を広めようとしている人達がいるなんて……)
 それは各地で広がり始めているという薬物の話だった。
「気になるの?」
 兎のルネサンスらしい少女に訊かれ、アンリは応える。
「うん。皆の健康を害する薬物は、撲滅したい」
「好いね。俺も同じ気持ちだぜ」
 ヒューマンの少年が、自分の隣の席をひいてアンリに勧めながら言った。
「俺は【アギト】ってんだ。で、さっきアンタに話しかけたのが、【リーファ】。んで、こっちの食いしん坊が、【ボーラ】」
「よろしく」
 エリアルの少年に挨拶され、アンリは応える。
「俺は、アンリって言うんだ。よろしく」
 和やかに挨拶し、話を聞いていく。
「――ズェスカの所にも、薬は広まってるの?」
「まだ広がり始めって感じだけどね。なにか、気になることがあるの?」
 リーファに訊かれ、アンリは応えた。
「少し前に、手伝いに行ったんだ。みんな頑張ってたのに……」
 アンリは決意するように言った。
「手伝わせて貰っても、良いかな?」
「歓迎するぜ!」
 アギトの言葉に、他の2人も賛同する。
「ちょうど人手が欲しかったの」
「後で一緒に、先生の所に報告に行こう」

 話はスムーズにまとまり、アンリはリーファ達3人と一緒に、ズェスカに潜入工作として訪れることになった。
 そして現地に向かうことにしたのだが、【ココ】と一緒に行くことにした。

「アンリといっしょ♪ いっしょいっしょ♪」
 ココはアンリと一緒にお出かけ出来るのが嬉しいのか、尻尾を振りながら連れ添って歩いていた。
 少し前に、ココとお話できる魔法を使ったので、アンリにはココの鳴き声が人の言葉に聞こえている。
 その気になれば、他の人達にもココが喋っていることが分かる様にも出来るらしいのだが、万が一のことを考えて、他の人には犬の鳴き声にしか聞こえないようにしていた。
「ココ、疲れてない?」 
「うん! へいき、たのしい」
 ちょこちょこと、アンリの回りをついて回りながら、時折ココは道端の花などを好奇心一杯に見詰めたり匂いを嗅いだりしながら歩いて行き、ズェスカに辿り着いた。

「ココ、ここでお留守番していてくれる?」
 ズェスカに辿り着いたアンリは、前に来た時に拠点となった診療所に訪れると、ココに言った。
「俺は、みんなと一緒にお仕事して来るから、待ってて欲しいんだ」
 これにココは――
「おてつだい! おてつだい、できる! にもつせなかにのせて! はこぶ!」
 尻尾を振りながらアピールするが、今回はお留守番をして貰うことにする。
「ありがとう、ココ。でも今日は、お留守番して欲しいんだ。いい?」
「……うん、わかった」
 お手伝いできなかったので、しゅんと気落ちしながらも、ココはアンリの言うことをきいた。
 そのあとアンリは準備をして、リーファ達との合流場所に向かおうとする。
「いってらっしゃい、アンリ」
「うん、行って来るね」
 パタパタ尻尾を振りながら見送りしてくれるココに応えを返し、アンリが向かおうとすると――
「この間の子やないの。どうしたん?」
 大きな亀の姿をした土の精霊王【プロギュート】が声を掛けてきた。
「お見送りしてあげとるんか?」
「うん! アンリ、おしごといくの。がんばるの」
「ほぅか。えらいのぅ」
「うん!」
 アンリを褒められたと思ったのか、嬉しそうに尻尾を振るココ。
 話が通じているように見えたアンリは、周囲の気配を確認してからプロギュートに尋ねた。
「プロギュート様、ココの言うことが――」
「心配せんでもええよ」
 プロギュートは穏やかな声で言った。
「この子が危ない目に遭わんよぅ、気を付けるさかい。それは、お前さんもやけどなぁ」
 そうプロギュートが言うと、アンリは一瞬淡い輝きに包まれる。
「加護を強めたさかい、何かあったら力になると思うわ」
 ルネサンスの守護者であるプロギュートの優しい声に――
「ありがとうございます」
 礼を言うアンリに、プロギュートは言った。
「気にせんでええんよ。お前さんみたいな子と会えるんは、嬉しいことやからね」
 プロギュートは遠い昔、ルネサンスの祖となる者達を通して加護を与えた時のことを思い出しながら続ける。
「仲間を救いたい思う子らや、あまりに不当な強者に反撃したい思うて前を歩いとった子らを思い出すわ」
 魔王と戦う決意をした種族の中で、ルネサンスの始まりの想いは、そうした意志だったのだ。
「お前さんに、あの子らの加護もありますように」
「いってらっしゃい、アンリ」
 プロギュートとココに見送られ、アンリはリーファ達の待つ場所に合流した。

「こいつ俺と同郷なんですよ。ここで働かせてやっても良いですかね?」
 先に潜入工作していたアギトが現場監督らしい男に尋ねると、笑顔で受け入れてくれる。
「いいぞ。人手も足りないから助かる」
 アンリに笑顔を向けながら男は言った。
「俺は【リキッド】って言うんだ。よろしくな」
 挨拶をアンリが返すと、リキッドは説明してくれる。
「ここは街道整備してるから、舗装用の石とか運ぶ手伝いをしてくれるか?」
「はい」
「それじゃ頼むわ。最初の頃は分からんこともあるだろうから、何かあったら俺に言ってくれ」
 現場の親方のリキッドは人が良い笑みを浮かべると、新人のアンリを気に掛けるように手配してくれた。

 そしてアンリは働き始める。
 労働者の姿で帽子やタオルで顔の一部を隠しながら、信頼して貰えるよう一生懸命に働く。
 その甲斐もあり、すぐに他の労働者達とも仲良くなる。

「出稼ぎで、来ているんですか?」
「ああ。魔王軍が暴れて地元は無茶苦茶になったからな。働き口があるって聞いて飛びついたわけよ。あんたも、そういう口かい?」
「はい」
 話していると、魔族と思われる男も作業に加わる。
 今まで話していた内容が内容なので、少し気を付けていると――
「ああ、にぃちゃん、心配すんなって。こいつ魔族だけど、気の好いヤツだから」
 すると魔族の男は、アンリを気遣うように言った。
「気になるなら、他に行くから」
「いえ、大丈夫です。気にしないで下さい」
 多少の緊張感はありつつも、魔族も含めて仕事が進んでいく。
 それは現場の親方が細かく気を使っているからのようだった。
「いい現場だね」
 アンリは情報交換も兼ね、潜入工作員であるボーラ達と言葉を交わす。
「活気もあるし、仕事も問題なく進んでる」
「ああ。親方も細かく見てて、何かあればすぐ入ってくれるし」
「ええ、いい現場だと思うわ」
「だよなぁ。みんな悪くないんだよ」
 そう言うとアギトは、声を潜めて言った。
「だからこそ余計に性質が悪い。そろそろアンリにも声が掛けられると思うから気を付けてくれ」
 アギトの言葉の意味は、その日の仕事終わりに分かった。
「ここ最近働きづめだったけど、疲れてないか?」
 仕事終わりに親方が声を掛けてくる。
「疲れてるんなら良い物があるんだ」
「良い物? 元気になる食べ物でもあるんですか?」
 話を聞くと、疲れがとれる飲み物を安く売っているらしい。
 そこでは遊び半分の賭博も行われており、娯楽のない現場で憩いの場になっているようだ。
「遊べるけど嵌っちゃダメだぞ。気晴らしぐらいにしとけよ」
 親方を含め皆は悪意なく善意だった。
(何が行われてるのか、気付かされずにいるんだ)
 売られていた、疲れがとれる飲み物を学園に調べて貰うと、軽いドラッグらしい。
 この段階ならそれほどではないが、段々と強い物に変えていく可能性が高い。なので――
「学園よ! 薬物違法販売の現行犯で捕縛させて貰うわ!」
 大捕り物を実行する。
「ま、待ってくれ。俺らは知らないんだ!」
 現場監督も含め大勢の者達が実体を知らされ慌てる中、売人達が逃げようとするが全員捕まえる。
「貴方達にも事情を聴かせて貰います」
「待ってくれ。本当に知らないんだ。特にそいつらとか、入ったばかりで何の関係もないんだ」
 アンリも含めた若い衆を庇うように現場監督は言うが、教師達は全員捕まえる。
「身の潔白を晴らして貰うためにも、全員取調べさせて貰います」
 そうして連行される中には、アンリ達も含まれる。
 アンリ達は、驚いたような演技をしながら連行された。

 その後、捕えた者の大半は保護も考え一時的に拘留。
 一部の怪しい者達から情報を訊き出し、更なる対処に当たる事となった。

●GDプロジェクト!!
「だから、ここはこうだって!」
「いや、こっちの方が出力は上がる!」
「それだと負荷が大きくなり過ぎてすぐ壊れちゃうじゃない!」
「5分動けば十分!」
「ダメでしょ!」
 喧々諤々、異界同盟のマッドサイエンティストの集まりに、【シルク・ブラスリップ】は参加していた。
「稼働時間の相対的な長さも考慮に入れて出力は考慮しなさいよ」
「一理ある。だが! それで瞬間的な強さを捨てて良い理由にはならん!」
 熱く語るのは、ヒューマンの姿をした青年、【カーズ】。
 異世界転移者で、元の世界でも技術者だったらしい。
「何も最終的な機体を今の構想で作れとは言わん。だが今は実験機の段階。データ収集も兼ねて極端な極振りをするのも必要だ」
「それ言われちゃうと、ちょっと心が傾くけど」
 悩むシルク。
「鍛冶仕事だって習作から始めて、真打にするもんだけど……」
「だろ? だからここは思い切ってだな――」
「それ予算持つの?」
 冷静なツッコミ入れたのは、アークライトの少女である【グレゴリ】。
「予算は有限だよ」
「それはそうだが……」
 ぐぬぬっ、と押し黙るカーズに、グレゴリは提案する。
「シルクが言うように通常運用も出来るようにしつつ、ここぞという時に過剰出力を出せるようにするのはどう?」
「ふむ、それなら」
「シルクは、どう?」
「……いけるかもしれないわね。むしろ通常運転で出力を上げていって、そこから過剰出力に繋げれば、稼働時間の長さと出力の大きさを兼ねる事も出来るかも」
「それだ!」
「それね!」
 2人とも賛同し設計を詰めていく。それはとても――
(楽しいわね)
 のびのびと何の制約も無く作りたいモノを作れるのが、シルクは楽しい。
(なんというか、余計な混ぜ物がない感じが好いのよね)
 シルクが携わっているのは巨大人型兵器製造計画、通称GDプロジェクトだ。
 元々はシルクが自称で言っていた物だが、他の研究員も同調したので、今ではそれで通っている。
 そうした、やりたいことが出来ていることも楽しいと感じる理由だが、携わっている研究員達のノリが良いのも一因だ。
(大半は、技術バカなのよね)
 純粋に作りたいモノを作ろうとしている者が多い。
 マッドサイエンティストの類なので、世間一般でいう良識は持ってないが、彼らあるいは彼女達なりの倫理観は持っている者が多かった。
(これなら、ある程度誘導すれば、性質の悪い奴等とは切り離せるかも)
 そうした事も考えながら議論している時だった――
「あんたらも、死人に操縦させるもの作ってるのか?」
 狼のルネサンスらしい青年が、感情を押し殺したような声で訊いてきた。
「死人に操縦って……どういうこと?」
 初めて知ったという風にシルクは言った。
 実際の所は、学園を通して死人兵の情報を得ていたが、情報の出所を探られることを危惧し研究員達に広める機会を見計らっていた。
(好機ね)
 シルクは他の研究員達にも情報が広まるよう、青年から話を聞き出す。
「――死人兵、とかいうのに操縦させようっての?」
「ああ。だから将来的には俺らみたいなのは不要と言われた」
 【ゼノ】と名乗った青年の話によれば、巨大人型兵器も含めた兵器群を、将来的には生身の人間ではなく死人兵に運用させると言われたらしい。
「恐怖も感じない、取り換えも簡単にきくから有効性が高いって言ってて……それに俺が死んだら死人兵に再利用する契約書にサインを書けって言いやがって……」
 ゼノの話に、研究員達は押し黙る。
 重苦しい空気が広がる中、それを吹き飛ばすような明るい声で、シルクはゼノに言った。
「ゼノ。あなた、いい体してるわね。あたし達の作る巨大ロボに乗ってみない?」
「……そりゃ俺は、筋肉は付いてるけど、それに意味があるのか?」
「筋肉じゃなくて目よ」
 ふわりと浮かび近付くと、胸を人差し指で、とんっ、と突いてから言った。
「心の好さが、目に出てるわ。あなた、死人兵とか嫌いでしょ?」
「……ああ」
「だったら、あたし達は手を組めるわ。あたし達は最高の機体を。あなたは最高の操縦を。お互い持ち寄ってみない?」
 そう言うと、他の研究員達にも呼び掛ける。
「みんなは、どう思う? あたしは、自分達が作る物は、心を持った相手に託したい」
「……そうだな」
 真っ先に賛同したのはカーズ。
「浪漫も分からん奴に乗せる気はない!」
 これに他の研究員達も同調する。
 少なくとも、シルクが属している『巨大人型兵器』派閥は反対に意見が統一されていった。
(この流れを、より大きく出来れば)
 シルクは、さらに煽る様に声を上げる。
「これは由々しき事態よ。予算は有限なんだし、死人兵なんて面白くないものに予算が取られたら、あたし達の『GDプロジェクト』が立ち行かなくなるかもしれない。それだけじゃないわ」
 利だけでなく、感情面でも揺さぶりをかけていく。
「そもそも、あたし達に黙って、死人兵なんて計画を進めてるのが気に食わない。そんなことされたら信用できないじゃない!」
 同意する声が上がる中、危険性も主張していく。
「だいたい、短期的には良いでしょうけど、長期的に考えたら死人を使った兵隊なんて悪目立ちして危険よ。そもそも――」
 ゼノに視線を向けながら続ける。
「あたし達だって、死人兵にされないとは限らないでしょ? ゼノだけの話じゃないの。あたし達にも、直接関わってくることよ」
 扇動する中、グレゴリが危惧するように言った。
「でも、どうするの? 私達だけで反対したって、それこそ予算削られるだけかもしれないし」
「だから、他の派閥とも手を組むのよ」
 自然に導かれた答えを告げるように言った。
「数は力よ。他の派閥だって他人事じゃないことを伝えて、巧く立ち回っていきましょう」
 それはある種の政治的な駆け引きだ。
 研究者たちは得意では無かったが、放っておけば明日は我が身ということで、危機感もあり積極的に連携を取り始めた。
 もちろん、シルクも積極的に進めていく。

「ちょっとヤバいわよ! 他の研究部門の成果を大々的に売り出すつもりらしいわ。死人兵って言うんだけど、あたし達にも危険性があるかもしれない」

 比較的、協力関係にある派閥には、お得な情報を伝えるようにして広めていく。
 それ以外の、ライバル的な派閥には、危機感を煽りつつ駆け引きをしていく。

「随分と、派手に資材も資金も使って、急ピッチで作ってるじゃない」
 シルク達とは別のコンセプトで人型兵器を作っている派閥に声を掛ける。
「こっちが動けないの知って、抜け駆けしてるってわけね。いい度胸じゃない」
「だからどうした。こういうのは早い者勝ちだろ」
 ライバル研究者のリーダー格、【ヤン】が言った。
「そちらの邪魔をする気はないが、労働争議のようなことに加わる気はない」
「他人事みたいに言うわね」
「違うというのか?」
 シルクは、根気よく状況を説明する。
「――というわけよ。これでも他人事だと余裕でいられるっての?」
「……」
 シルクの話が正しいと判断したのか、ヤンは考え込むように押し黙っていたが、探りを入れるように言った。
「死人兵製造派閥が信用できないのは納得できる。だが、そちらの派閥と手を組む意味があるのか?」
「あたしたちは、あんな臭い奴らとは違うわよ」
 ふわりと浮かびながらシルクは近付き、囁くように言った。
「時代は抜け駆けより共闘、そう思わない? 少なくとも、あたし達の派閥は、自分達だけで得するようなことはしないわ。長期的な利益で考えれば、協力し合った方が成果は大きくなるもの」
「……確かにな」
 ヤンは頷くと、人目を気にするように声を潜める。
「分かった。こちらも同調する。だが慣れ合う気はない。あくまでもお互いライバルだからな」
「もちろん。こちらとしても、そこで手を抜く気はないわ。張り合った方が、良い物作れるし。競争しつつ、助け合いましょう」
「承知した。こちらの人員には俺から話す。そちらは任せても良いな?」
「ええ。責任は果たすわ」

 こうして着実に、同調派閥を作り、死人兵計画を潰すよう誘導していった。
 その経緯は、使い魔であるフクロウを介して学園に伝えていた。

「死人兵計画は、現在進行中のようです。現状は、百人単位で準備できているようですが、大量生産までは到達してない模様。反対派派閥を広げつつ、死人兵計画を進行している研究者達に気取られないよう、適度にこちらに華を持たせてあしらっていくのがベストだと思います」
 状況報告と提案、そして最後に意気込みも記していく。
「『GDプロジェクト』の方も順調なので楽しみにしててください。かしこ」
 全て書き終えれば、フクロウを召喚。
「契約した動物だけにしか使えないけど、便利ね」
 異世界の魔法を流用した物で、契約した使い魔を自分がいる場所に転移させることが出来るのだ。
「それじゃ、これ。学園に持って行って」
 フクロウの足に情報を記した紙を入れた筒を括り、空に飛ばす。
 人目が付かないよう、夜ではあったが、魔法で強化されたフクロウは音もなく飛んでいくのだった。



課題評価
課題経験:112
課題報酬:5000
不穏の種は未然に防げ
執筆:春夏秋冬 GM


《不穏の種は未然に防げ》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 1) 2022-09-11 07:58:15
教祖・聖職コース、アンリ・ミラーヴ。よろしく(尻尾ぶんぶん)

《ゆう×ドラ》 シルク・ブラスリップ (No 2) 2022-09-12 08:28:12
村人・従者コースあらため、異界同盟の天ェン才マッドサイエンティストのシルクよ。よろしくー

つーわけで、異界同盟への潜入に成功してるからそのままいくわ。
中からできる事ってーと、死人兵の弱点調査とか、プロジェクトの横槍(内紛煽動)かしらね。
倫理的に反感もつのはいそうだし、うまいこと足の引っ張り合いに持ち込めないかなって