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Don’t ask me why.


ストーリー Story

「本気で言ってるんですか?」
 これが、衝撃と当惑と混乱を経てようやくしぼりだした【コルネ・ワルフルド】の回答だった。
「おいおい」
 うなじのあたりに手をやって、【メメ・メメル】はあきれたように言う。
「さすがのオレサマでもジョークでこんなこと言うかよ~」 
「じゃあ思いつきで……?」
「どんだけ信用ないんだオレサマは!」
 ……まあ、そう思われても仕方ないくらいのテキトー具合だったこともあるけどなぁ、と苦笑いして、メメルは手にした三角帽子を指先でくるくると回した。
 フトゥールム・スクエア学園長室にして校長室、残暑の西日がやけにきついが、メメルはカーテンを引いていない。とうに授業は終わって放課後だ。
 いつものように椅子に浅くこしかけるメメルと、その正面に立つコルネ、いわば日常の光景といえよう。しかし会話の内容はあまり日常的ではないらしく、コルネは刀でも呑んだような表情、いっぽうでメメルのほうは、いささか疲れたような顔をしている。
「酔ってないですよね?」
「酔ってない。っつーか、初期化以来オレサマ昔ほど呑めんよーになったんだ。ワインなんてボトル半分を超えると気持ち悪くなるぞ。なもんで基本的には酒はやめとる。毎日飲んだくれるなんてもう、やろうとも思わんしやりたくても体のほうが無理のムリムリだ」
 気づいとらんかったのか、とメメルはため息をついた。
「そういえば、アタシが入室したときに慌ててボトルを隠す姿を見ていないですね、最近」
 それはそうとして、とコルネはふたたび険しい表情にもどった。
「せっかくのお話ですけどアタシには……」
「他に誰がおるというんだ」
「でも」
「見ろ」
 メメルは立って真横を向いた。帽子を頭に乗せ、ひらいた手の左右を合わせる。しばしの集中ののち、ハアッと髪が逆立つほどの気合いを入れた。
 泡のような魔法弾の粒が、ふわっと散ってたちまち消えた。
「……今のオレサマができる最大限の魔法だ。これでも努力したんだからな。先週はいくらやっても粉チーズみたいなのしか出んかった。その前にいたってはゼロだ。こんな……」
 と言ってコルネを見るメメルの目には、いまにも泣き出しそうなアメジストの光がやどっている。
「こんなオレサマが、『勇者』を指導する学園長なんぞできるかよ。かけだし以下の学園長でござい、ってか?」
 どすんと音を立て椅子に戻るとメメルは、まっすぐにコルネを見すえた。
「だから受けてくれ、コルネ・ワルフルド。もう理由なんて訊くな。オレサマに代わってフトゥールム・スクエア二代目学園長になってくれ……!」

 ◆ ◆ ◆

 眠っていた。
 開きかけの本に手をかけたまま、頬杖ついて【ネビュラロン・アーミット】は眠っていた。
 右頬にはざっくりと深い傷跡、目覚めているときはそれこそ雌獅子というか、射るような眼光の持ち主である彼女も、こうしていれば丸まった猫のように穏やかである。
 しかしネビュラロンの眠りは唐突に途切れた。目は閉じたままだが左手をかすかに、音も立てずに腰の剣に置いている。
 ネビュラロンの脳裏に、部屋にしみ入ってくる影のようなイメージが走ったのだった。すでに彼女の筋肉は、非常態勢に即応できる状態だ。 
「さすがは――」
 声がした。
「気配は完全に消したつもりでしたが」
 ため息をついてネビュラロンは手を剣からはなした。
「……試すようなまねはやめてもらえませんか、ネオネ先生」
 そんな意図はなかったのだけど、と【ユリ・ネオネ】は肩をすくめる。
「ごめんなさいね。隠密家業が長いもので、つい」
 それで、といささか不機嫌そうにネビュラロンは座り直した。
「なにかご用ですか」
 ここは学園の一角、正門にほど近い宿直室だ。放課後ではあれどまだ陽の高い午後、ネビュラロンともあろうものがつい油断してうたた寝してしまったのは、魔王との決戦が終わったがゆえの油断だったろうか。
「急を要す事態となりました。すぐ連絡のつく数名で構いません。学園生の招集が必要です」
 ネビュラロンの表情が険しくなる。
「うかがいましょう」
「アーミット先生は、魔王軍幹部【ドクトラ・シュバルツ】を覚えておいでですね?」
 ドクトラ・シュバルツ――折り曲げた案山子(かかし)のような体躯、ととのった顔立ちではあるが常に狂気を宿したような笑みを浮かべ、黒いタンクトップにミニスカート、白衣を羽織るという異形の人物である。弱肉強食の理想に凝り固まり、魔王すら理想実現のための手段と言い切った。
 当然でしょう、といった表情がネビュラロンの顔に浮かんだ。
「魔王決戦のおりに一度刃を交えました。たしかに恐るべき敵でした。……しかし彼女は敗死した。私はこの目で見たのです。まちがいはない」
 もちろんです、とうなずいてユリは言ったのである。
「ですがこのほどシュバルツに忘れ形見……まだ幼い娘がいることが判明しました」
 ネビュラロンは言葉を失った。
「それも、シュバルツにとっては因縁浅からぬ地、アルチェからさほど遠くない魔族の集落にです。魔王軍敗退の流れを受けて集落は解散、住民の大半は立ち去りましたが彼女――【ブロンシュ・シュバルツ】は少ない世話人とともに残ることを選びました」
 すでにネビュラロンは立ち上がっている。
 魔王決戦のおりアルチェを攻める途中で、シュバルツは村をひとつ滅ぼした。子どもですら許さぬ鏖殺(みなごろし)であったという。
 もし惨劇のおり偶然村を離れており、生き延びた者たちがいたとしたら。
 そうでなくとも、シュバルツの娘を売ろうと思う者たちがいたとしたら。
 恐怖に駆られた人間が、どれほど残酷になれるかをネビュラロンは知っている。

 ◆ ◆ ◆

 野良作業を終えてひと息をつく間もなかった。
 火がついたように泣き出す赤子を抱え、【ピーチ・ロロン】は木陰に入り息をついた。乳房を出すと【レミール】にくわえさせる。さすがに暑さに参ったか、盛夏の時期はいささか元気のなかった彼だが、涼しくなりはじめたおかげか、ここ数日はピーチが痛みを感じるほど元気よく吸うようになった。
「きれいな夕陽……」
 沈みゆくブラッドオレンジに染まる彼女には、かつての面影はない。黒づくめの衣装と厚底ブーツに身を包み、青白い顔で病んだ笑みを見せていたあの頃――わずか一年ほど前のことなのに、十年は前の記憶のようだ。
 あのころピーチが我が身と心を捧げ、求められるなら命だってきっと捧げた男は、不実が服を着ているような人間だった。口では世直しと理想を語りながら、実質は魔王打倒より、いかに自分の影響力を高めるかばかりを考えていた。あの男にとってピーチは、一時の欲望を解消するためだけの道具、それも、たくさんある道具のひとつでしかなかった。
 そんなことわかってた。でも、それでもいい、って思ってたよね、私――。
 でも今は、
 今はちが……う……。
 ピーチは目を見張った。
「やあ……探したよ」
 ピーチの眼前にボロボロのサンダルが止まった。同じくらいひどい状態の粗衣、枝を折っただけの杖。
 かくまってほしい、と【ディンス・レイカー】は媚びるような笑みを見せた。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 5日 出発日 2022-09-23

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2022-10-03

登場人物 5/5 Characters
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。
《人たらし》七枷・陣
 ヒューマン Lv18 / 賢者・導師 Rank 1
異世界:情報旅団テストピアという所に住んでいたが、とある仕事の最中に、この世界に強制転移してしまった。 普段は一人称おじさん。真面目、シリアスな場合はオレ。 本来は50手前のアラフィフおじさんだが、何故か30歳以上若返ってしまった。強制転移した経緯が原因と思われるが真偽は不明。 普段はいかに自分の得意分野だけで楽出来ないかを考えているダメ親父的な人間。 自分や同行する仲間が危機に陥ると気合いを入れて打開しようと真面目モードに。 厄介事に巻き込まれるのは嫌い。お金にならない厄介事はもっと嫌い。でも一度関わってしまったら何だかんだ文句言いながら根気よく取り組む。 やれば出来る人。でも基本ダメ人間。 恋愛事は興味をあまり示さない枯れ気味な人。超若返っても現状は変わらず。 どうにかして元の世界へ戻る為、フトゥールム・スクエアに入学。 転送、転移関係の魔法や装置を徹底的に調べる事が目下の目標。 魔法系の適性があったらしいので、雷系を集中的に伸ばしたいと思っている。自前で転移装置の電源を確保出来るようにしたいのと、未成熟な体躯のフォローとして反応速度メインの自己強化が主な理由。理想は人間ダイナモ。 転移直前まで一緒にいた仲間の女性3名(マナ、マリア、マルタ)の安否を心配している。 「はぁ~…どうしてこんな事になったんだ?…おじさん、ちゃんと元の世界に戻れるんだろうか…こんな厄介事は前代未聞だよ…トホホ」
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。

解説 Explan

 魔王決戦の補遺となるようなエピローグエピソードです。

 ガイドには三つの物語をしたためましたが、いずれにも絡む必要はありません。
 タイトルの言い回しには、『理由(わけ)は訊かないで』という意味だけでなく、『自分でもなぜだかわからないけど』といった意味もあります。あなたにとって、理由はなくとも気になる事柄、訊かないでほしいと言われても訊ねずにはいられないような事柄にもとづいたアクションをお寄せ下さい。
 もちろん、コルネの決意をうながしたり、シュバルツの娘を確保するアクション、逃亡犯ディンスをとらえるアクションもお待ちしております。

◆NPCについて
【コルネ・ワルフルド】
 突然の話に心が揺れています。自分が学園長になったら【メメ・メメル】は……? と気にもしているようです。

【ブロンシュ・シュバルツ】
 魔王軍幹部【ドクトラ・シュバルツ】の忘れ形見です。まだ四歳で、母のことはほとんど何も知りません。(ドクトラは育児放棄しており、部下の魔族に娘を預けっぱなしにしていました。
 現在、ドクトラに恨みを持つ小集団がブロンシュに迫りつつあります。捕まれば、悲惨な運命が待ち受けていることでしょう。

【ディンス・レイカー】
 元学園生ながら学園転覆をもくろんだ自称革命家です。
 襲撃に敗れ異世界で収監されていたもののなんらかの手段を用いて脱獄、この世界に舞い戻りました。(※当然、追っ手がかけられています)
 逃亡のためかつての愛人【ピーチ・ロロン】を利用する考えです。【レミール・ロロン】を見て気づくかもしれませんが、自分に息子がいることはまだ知りません。

 以上三名以外のNPCも、死亡でもしていないかぎり登場可能です!(できるよう努力します)


作者コメント Comment
 お久しぶりです! 桂木京介です。

 本作はフリーシナリオですので、冒頭の三つの物語にこだわる必要はありません。

 たとえば、
 ・きみのことが好きな理由? 改まって訊かれると困る……え、言わなきゃダメ?(ロマンス)
 ・なぜかはわからないけど涙がこぼれます。過去のトラウマが蘇ったのです。(シリアス)
 ・理由や理屈なく、夜中にラーメン食べたくなることってあるよね。(コメディ寄りの日常)
 といったお話も大歓迎です。
 残り少なくなった学園ライフ、やり残しのないようにあなたらしくお過ごしください!
 
 それではリザルトノベルでまた会いましょう!
 桂木京介でした。 


個人成績表 Report
エリカ・エルオンタリエ 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:3600 = 3000全体 + 600個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
学園生エリカ・エルオンタリエではなく、さすらいの冒険者ファルコンとして活動。

ディンスを確保するために動く。
過去の罪状を考えても、放置できる相手ではないし、捕らえるしかないだろう。

とはいえ、ピーチさんのところへ助けを求めに来るぐらいだから、
わずかでも情はあるのかもしれない。
少しの再会ぐらいは許してもいいだろう。
追っ手には頼んで再会の猶予を貰うが
ディンスを逃さない厳重な包囲網は敷いておいてもらう。

隼の姿で監視し、少しでも母子や周囲への危険を感じれば割って入り、身を挺して保護。
または、再会を一通りできたところでディンス確保。

気の毒だとは思うが、学園生や一般人の惨殺などは許されない。
罪は償ってもらう。

七枷・陣 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:270 = 90全体 + 180個別
獲得報酬:9000 = 3000全体 + 6000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
コルネに二代目学園長に就くよう促す、アホ校長の思惑も看破する
両方やらなきゃいけないのが傍観者(おじさん)の辛い所だな

【行動】
所用で学園長室に入ると何やらシリアスな修羅場風味の現場に出くわす
あ、お邪魔しました~…ぐえっ
その場でのやり取りを聞かされ、意見を求められてしまう
なればいいじゃないですか、コルネ先生が学園長に
今日の飯どうしようなぁ…A定食で良いかくらいの軽いノリで即答

メメ校長の去就がどうなるか心配?
あのですね…この人が学園長を辞して潔く去るとか本気で思ってるの?そんなタマかっていう
どうせ今日からコルネたんが学園長!そして理事長に、オレサマはなる!!(ドン!
とか吐かすんでしょあなた?

フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:3600 = 3000全体 + 600個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●行き先
ネビュラロン先生とブロンシュ・シュバルツの保護に
コンディション最悪ですが、何言われてもしがみついていきます
「約束しますから、必ず帰ると!彼女を救えなければ、私は母になれません!」

●行動
警戒される可能性を考え、学園の身元を示すものは隠し
『ドクトラの知り合いで、娘の話を聞いて様子を見に来た』
とのカバーで行動。
(世話人が気づいたようならさっさと身バレ)

話ができたらドクトラへの怨恨でブロンシュを狙うものがいる事を警告し
世話人ともども面倒を見るから自分たちのところ(学園が警戒されそうならスタンテッド家の養女に)にこないかと提案、説得
ブロンシュを売ろうとする者をけん制するため、待遇は気持ち優遇めに。

もし襲撃者と出くわした場合、自分がドクトラを討った勇者と明かし、
なお怒り冷めぬなら自分が受け止めると説得、ダメなら恫喝
(恫喝は『お前らドクトラを討った勇者に勝てると思う?』と現実の話。実際のところは体調最悪だし、学園の仲間やルガルと一緒だった当時とは比べるべくもないのですが。いわゆるハッタリ)

タスク・ジム 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:3600 = 3000全体 + 600個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
コルネ先生校長選ルート

自分の方針は、コルネ先生とメメタン現校長先生に、自分の思う方針を2つ提案し(迷ってる状態から2択にまで狭めてあげる意図もあり)、
あとはとことん相談に乗って、2人が納得できる方向に導き、
その決めた方向に向かって段取りを整えてあげる
「事務は僕の仕事ですから」

提案する方針は
①コルネ先生を校長にする。「校長先生の決断なら、みんな納得してくれますよ」あとはコルネ先生の肚ひとつなのでそこを励ます
②「もし、公平性がご心配なら・・・選挙でもしてみます?」立候補を募り、学園生の清き一票にゆだねる

メメタン先生が「学園に最早オレサマは不要」なんてお考えなら
それはきっちり否定
「僕たち学園生を「ゆうしゃ」に育てた教えは「魔力」じゃないですよね」
豊かな経験と悪戯心はこれからの学園生活に必要だと強調

併せて、コルネ先生には
「(現)校長先生の眼力は確かなのだから、本当に後を任せられる人が育ったと確信できない限り、こんなことは言わないはずだ」みたいな方向で、
「私なんかに」という点だけはきっちり否定

ベイキ・ミューズフェス 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:3600 = 3000全体 + 600個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
現学園長にしかお願いできない、お仕事のお手伝いをお願いする

◆行動
具体的には……先の代王、アントンさんに関することです
以前の事件もあり、ご本人は表には出されませんが……ご心労は大きい様子

そんなアントンさんを、公私ともに支える方が居た方がいいのではと
実は……最近知り合った方で、ピッタリな方が居たんですよ

その方は、以前、お名前を借りたジルダ・ジルヴェストロさんです
その人となりやご活躍は、現学園長のお耳にも入ってるかと

武芸だけでなく、兵站や事後処理で、細かいお心配りが多くを救いました
今度は……アントンさんも救って貰いましょう

これは、現学園長の魔力以上に……経験と悪戯心が重要なミッションですからね

リザルト Result

 風には匂いがある。季節ごとの、天候ごとの、あるいは時間ごとの匂いだ。
 知ってはいた。知悉しているつもりだったかもしれない。けれど肉体を喪い風と一体化するまで、【エリカ・エルオンタリエ】は本当の意味で風の匂いを知らなかったような気がしている。
 風に混じるは、小雨に湿る土の匂い。
 音もなく呼吸する古木の匂い。
 人が発する戸惑いの匂い。あるいは哀しみの匂い。 
 大空を滑空する隼(ファルコン)は両眼を閉じ、暫時、匂いの発信源を探った。

 彼の来訪が合図だったかのように、晴れていた空が薄灰色の雲に煙(けぶ)った。ぽつ、ぽつ、と冷たい雨まで降りはじめている。
「ディンス様……」
 座ったまま【ピーチ・ロロン】は反射的に我が子をかきいだき、上半身をひねるようにして【ディンス・レイカー】に背を向けた。  
「どうして、いまごろ」
 身を震わせる。必死に彼を見ないようにする。ふりかえれば塩の柱になってしまうというかのように。視界には黒い木の幹と、まどろみはじめた【レミール】しか映っていない。
「理由が必要かな?」
 ディンスは薄笑みを浮かべた。頭髪の薄毛は進行し、いまでは地肌が見えるほどだ。いっぽうで顔は濃い無精髭でおおわれている。洒落者だった過去は見るべくもなく、穴の空いた麻服にほつれたサンダル、伸び放題の蓬髪という姿だ。もともと悪かった足を逃亡の過程で痛めたのか、杖によりかかるようにしていた。
 だがピーチは知っている。そんなディンスであったとしても、ひとたび目を向けてしまえば自分はたちまち、かつての自分、彼のためなら命だって喜んで捧げていたころの自分にもどってしまうだろうと。
 自称革命家、自称次世代のリーダー、元学園生のテロリスト、守旧勢力への反逆者……ディンスに冠する双つ名はいくつも挙げられよう。しかし双つ名はそのひとつひとつに検証が必要かもしれない。たとえば彼は『テロリスト』の言葉に異を唱え、改革を止めぬために犠牲はつきものだと主張するだろう。
 されどひとつ、はっきりと言えることもある。
 ピーチがかつてディンスの愛人であったという事実だ。

 見つけた。
 翼が雨に濡れるもいとわず、隼はふたりを見おろす地点で旋空する。大きく、横倒しした『8』の字のように。
 ディンス逃亡の報は、文字通り風にのってファルコンのもとに届いていた。
 放置できる相手ではない。すぐ足跡を追った結果、ディンスがあらたな罪を重ねる前に追いつくことができたのだった。
 ディンスにも申し開きはあるだろう。しかしみずからが掲げる『改革への覚悟』なり『しがらみの打破』を示すために学園生、さらには力なき一般人を惨殺してきた過去は許されるものではない。
 本来ならすぐにでも襲いかかっていいはずだった。
 でも、ピーチさんがいる……!
 手出しをためらう要素はこの一点だった。ましてや彼女が、生まれて日も浅いレミールを抱いているとあればなおさらだ。
 雨の勢いが増しはじめた。猛禽類は鋭いまなざしをふたりの人間に向けたまま、ピーチとディンスの宿る木の梢に舞い降りる。
 たとえわずかでも彼にだって情はあるはず。前非を詫びるために姿を見せたのかもしれない。ピーチさんをもてあそび、支配し、凶行に走らせようとした過去を。
 だとすれば、少しの再会くらいは許してもいいと隼は思う。
 ピーチさんやわが子を見て思うところはあるかもしれない。
 そこから奪った命や罪の重さに気がつくかもしれない……。
 ごくごくわずかな、それでも切実な望みだった。疑うことよりも、信じることを選びたかった。
 ――あきらめたくない。人間には可能性があるって。
 ディンスは雨を避けるように樹の下に入りこんだ。
「その子はもしや……?」
 ディンスの呼びかけにピーチは即答した。
「そう。ディンス様、あなたの子です。名はレミール……男の子です」
 強張ったピーチの肩が、わずかにだが緩むのを隼は見た。はっきり言語化して考えたわけではないが、ディンスにも好意的な反応を期待した。涙を流すほどではなくとも、我が子を抱かせてくれとせがむのではないかと。
 しかし西風の隼が期待したものは、砂上の楼閣のごとく崩れ去った。
「乳飲み子か。足手まといだな……」
 ディンスは舌打ちしたのである。
「置いていけないか? 君には、私に手を貸してもらわなければならない」
「本気で言ってるの……!?」
 さっとピーチの顔色が変わった。ディンスに顔をむける。
「君のことを君以上に知っているのは私だ」
 ディンスの口調は、これまで以上に優しいものだった。ほとんど猫なで声と言ってもいい。
「わかっているよ。本当は君だって、そうしたいと思っているということを」
「馬鹿言わないで!」
 ピーチはレミールを抱いたまま立ち上がった。怒りに燃える目をディンスに向ける。
 いまやピーチにとって、ディンスはかつて愛した男ではない。薄汚い初老の男だった。
「出ていけ! 私の生活圏から、この世界から出ていけ!」
「聞き分けのない……これだから女は」
 ディンスは唇を歪めると、杖によりかかったまま歩みを進めた。
「ならその赤ん坊、せいぜい人質にでも使わせてもらうとしよう。メメルの学園生は甘っちょろい連中だから手を出せまい」 
「……来ないで!」
 ピーチは後退するも背を木の幹にぶつけた。
「私の子と言ったね? なら、その子を私が利用するのも自由なはずだ。私にはその権利がある」
 ディンスの右手には杖、左手には錆びたナイフがあった。
『ディンス・レイカー、これ以上罪を重ねるというの!』
 自称革命家はたしかに聞いた。自分を糾(ただ)す風の声を。
「誰だ!」
 そのとき斜め上方より閃光が、ディンス目がけ落下したのである。
 衰えたりとはいえディンスも、フトゥールム・スクエア開校以来の逸材と呼ばれた男だ。直前で見切って隼の攻撃を避けた。
「鳥ごときが!」
 ディンスはナイフ、ついで杖を隼めがけふるった。
 雪白の羽毛が散った。霧のような赤い飛沫があがった。
 しかし致命傷ではなかった。雨中、ぬかるみに叩きつけられた隼だったが、なおも翼をはためかせ、燃えるようなまなざしでディンスを射貫いたのである。
「学園生の使い魔か? いやちがうな。こいつは……!」
 ディンスはナイフを振り上げるも目的を果たすことはできなかった。 
『タスクさん……ここよ! 早く!』
 風の声に応えるようににわかに、空に数頭のグリフォンが姿を見せ急降下をはじめたからだった。
「ここまででーす、ディンス・レイカー! 神妙にゲット・ザ・お縄ー!」
 うち一頭の背にあるのは怪紳士【メフィスト】だ。自慢のナマズ髭も濡れそぼち垂れているが、声はハツラツと響き渡る。
 ついで、
「覚悟!」
 グリフォンの背から飛びディンスの背に体当たりした者があった。【タスク・ジム】その人だった。何でたまろう。ディンスは組み伏せられ武器を取り落とす。
「早すぎる……なぜだ!」
「風に案内されて来ました」
 あの声はたしかにエリカ部長だった――という言葉をタスクは呑みこんでいる。
 だとしたらいま、部長はどこにいるのだろう。

 ディンスは護送されることになった。鉄の檻も用意されている。
「一時的にー、プリズンスクエアに収監しまーす」
 メフィストは紳士だ。ディンスを小突き回すようなことはせず丁寧に檻へと誘う。
「斬らなかったことを後悔するがいい」
 縄目をかけられてなお、ディンスは不敵な笑みを浮かべている。彼は一度もピーチを振り返らなかった。
「……ありがとう。彼のこと、頼みます」
「もちろん虐待なんてしませんよ」
 タスクはほほえむも、つづくピーチの言葉には黙るほかなかった。
「いえ、二度と私たちの前に現れないようにしてほしいという意味です。お願いします」
 メフィストを見送りピーチを農家まで護衛し、なおも雨降るなかグリフォンまで戻ったタスクは、濡れながら一羽の隼が、両脚を揃えて立ち自分を待っていることに気がついた。
「あなたはもしかしたら……僕のよく知っている人の御使いでしょうか?」
 だとしたらあの方に伝えてほしいんです、とタスクは膝を屈し隼の視線の高さになって告げた。
「早く帰ってきてほしい、と。僕には人生を共に歩く人ができました、その報告をさせて下さい、と」
 隼は軽くうなずいたのちはばたき、矢のごとく西風に乗って姿を消したのだった。

 ◆

 駄目だ、と【ネビュラロン・アーミット】は声を荒げた。
「貴公だけは連れて行けない」
 魔王軍幹部【ドクトラ・シュバルツ】、先日の魔王決戦にて敗死したこの魔人には遺児があるという。年齢わずか四歳で名は【ブロンシュ】、魔族の集落にてひそかに養育されているという話だ。シュバルツには娘を育てる気はなく、配下の魔族に丸投げのようにしてブロンシュの身を任せていた。会いに行ったことすらほぼなかったらしい。ためにブロンシュは母の顔を知らず、かつまたこの事実も知られていなかった……これまでは。
 ブロンシュの情報を得たネビュラロンは、急ぎ学園生に彼女の保護を命じた。暴虐をつくした幹部の娘だとしても本人に罪はない。だがそのように冷静な判断ができる者ばかりではないだろう。とりわけ、シュバルツに殺戮された者の遺族たちにとっては。
 ネビュラロンの呼びかけに馳せ参じたのは【フィリン・スタンテッド】のみだった。ネビュラロンが情報を得て、まだ半刻と経っていないゆえ仕方がないだろう。魔王軍の脅威が去ったとてなお、世界各地には問題が山積みである。例のディンス・レイカーの件を含め多くの学園生は対応に追われているのだった。
「ルガルがいれば代わりを託すこともできようが……」
 口惜しげにネビュラロンはうめく。フィリンのパートナー【ルガル・ラッセル】は、伝説の巨大エビを釣ってくる! と張り切って一昨日、海を目指し旅立ったばかりなのだ。巨大エビなるものの実在はそも不明な上に、実際に存在したとして簡単に釣り上げられるものでもなかろう。産後の肥立ちには栄養満点のエビがいいって話だからな――とはルガル本人の弁である。
 ここで作者は産後の肥立ちと書いた。
 誤記ではない。
 フィリンは偉業を成し遂げたばかりなのだった。少し前に娘【ドクトリア】を出産したところなのである。初産ということもあってか大変な難産となり一昼夜を費やすことになったものの、まるまると太った健康な姿でドクトリア、通称ドーラは誕生した。魔王復活の恐怖とは無縁の世界に生まれた最初の世代ということになるだろう。
 いまもフィリンは、信頼できる学園生にドーラを預けてきている。着実に健康を取りもどしつつあるとはいえ、とてもではないが万全とはいえない状態だ。
「ドクトラを討ったのは私、ならば彼女の子にも責任を負う立場であるはず。行かせて下さい」
 だがネビュラロンは応じない。
「無責任なことは命じられん」
 なあ、とネビュラロンは困ったように眉を下げた。これはもしかしたら彼女が、学園ではじめて見せる表情かもしれなかった。
「貴公の気持ちもわかるつもりだ……。しかし考えてもみよ、貴公の身に万が一のことがあればドーラはどうなるか」
 けれどフィリンは退かず頑として告げた。
「約束しますから……必ず帰ると! 彼女を救えなければ、私は母になれません!」

 翌朝、魔族の集落を奇妙な旅人が訪れた。
 旅人は高貴な身なりをした黒髪の女性だった。従者は甲冑を着た騎士らしき姿ひとりのみだ。騎士は面頬を下ろしており顔は見えないが、全身からすさまじい威圧感を発していた。
 名もなき集落であり人影はまばら、魔族と他の人間たちは停戦したとはいえ、やはりまだ恐れがあるのだろうか。まるで世界から自分たちの存在を隠そうとでもするかのように、集落はひっそりと静まりかえっている。
 誰も近づいてくる者はない。フィリンのほうから村人に声をかけた。
「私はドクトラ・シュバルツの知人です。……彼女に娘がいると聞いて、心配で会いに参りました」
 偽りを申すなと声を荒げ、小屋のような住居から背の高い老人が姿を見せた。エルフだが相当に高齢らしく、長く白い眉毛に目は覆われている。肌はなめした革のように黒い。
「そのような者はおらぬわ。さては風説に惑わされてきおったか。招かれざる客、すぐに立ち去るが身のためぞ」
 老人は銅剣を佩いており、返答次第ではいつでも抜く考えのようだ。だがネビュラロンが黙って眼前に立つとさすがに口を閉ざした。
「待って下さい」
 フィリンはネビュラロンを止めて進み出る。
 この人は信用していい――直感にしたがってフィリンはマントをかなぐり捨てた。下は学園制服だ。
「隠し立てしても無駄ですね。私たちはフトゥールム・スクエアからの使者、ブロンシュちゃんを狙う者たちから彼女を保護するためにきました」
 だがこの発言は火に油だったかもしれない。
「さすればルージュ様の仇か!」
「生かして帰すまいぞ!」
 フィリンの言葉に耳を澄ませていたのだろう。口々に叫ぶと、周辺より住民が何人も飛び出してきたのだ。いずれも手に簡素な武器や鎌などの農具を手にしている。  
(【ルージュ】……それがドクトラの本名ね)
 フィリンは思う。
(彼女は自分をみじめだと表現した。でも本当にそうだったのかしら。だって彼女を慕う人たちがこんなにもいる……)
「突破する気ならいつでも合図しろ」
 ネビュラロンがささやくもフィリンは首を振った。ここで争う愚は、魔族とて知っていると信じたから。
「待て、皆の衆」
 老人は声を荒げたわけではなかった。されど皆水を打ったように静まりかえった。老人はフィリンに告げる。 
「……勇者よ、戦いは終わった。我らとて結果は受け入れている。ルージュ様はあらかじめ、もし大願ならず死したとしても、それは自分一人が誤っていただけのことゆえお前たちに罪はない、ゆえに恥じるな、そして学園を恨むなと言い残して出陣された。我らはルージュ様の言葉に従うだけじゃ」
 フィリンの肩から力が抜けた。
(最後まで彼女は、正しいから勝つのではなく勝ったほうが正しいのだと考えていたのね)
 賛同はしない。けれどシュバルツらしいと思う。
「私はけっしてドクトラ……ルージュと親しかったわけではないけれど、その言葉は彼女の本心であったと保証するわ。私たちも同じ気持ち。勝ったからといって驕らない。そして恨みを残さない。約束は守ると誓う。だからどうか本当のことを聞かせて。ルージュの娘は――」
「ここにいるのだろう!」
 フィリンの足元に矢が突き立った。
 振り返り目にしたのは武装集団だ。ざっと十数人はいる。
 幽鬼のごとき顔色で刃を振りかざす兵がいる。弓矢を構える兵もいる。まだ午(ひる)前なのにたいまつを掲げている兵も。
「シュバルツの娘を引き渡せ。従うのであれば村の安全は約束する」
 さもなくば――というのがたいまつの意味だろう。
 フィリンは倒れこみそうなほどの疲労感をおぼえていた。ここへの移動すらいまの彼女には重労働だった。もう限界ちかい。
(絶え間ない憎しみ、報復の連鎖……それが一体何になるっていうの!?)
 だがフィリンはネビュラロンに駆け寄るや、彼女の腰の剣を奪い鞘走らせたのである。
 鏡のような白刃が秋空を反射する。
 ネビュラロンは抵抗しなかった。面頬だけ上げて腕を組む。貴公に任せる、とのメッセージである。
 フィリンは声を張り上げた。
「ドクトラの娘、あるいは村人に手を出すつもりなら私が相手になる。……我が名はフィリン・スタンテッド、ドクトラ・シュバルツを討った勇者!」
 襲撃者たち、村の住民、双方がどよめいた。
 本当のところフィリンはもう、立っているだけで精一杯の状態なのである。それでも、
「この時点にとどまらない。これから先も、私の宣言が撤回されることはない!」
 ハッタリといえばそれまでだが、フィリンは体力ではなく気力で言葉を言い終えた。
 このとき、
「勇者はここにもいます!」
 グリフォンの黒い影が太陽を隠した。マントをはためかせ騎獣の背から、タスクが飛び降りてくる。
「同じく、学園生にして勇者タスク・ジム! 証人たるべくここに参上つかまつった!」
 ここにいるすべての皆さん、と両腕を広げタスクは呼びかけた。
「すぐ水に流せとは言いません。魔王軍の非道、あるいは魔族がこうむってきた受難、いずれも語り継ぐことは大切です。しかしこれ以上血を流すのはもうやめませんか。いまの僕たちに必要なのは、加害ではなく癒やしのはずです」
 抗議の声はなかった。すくなくとも、いまは。
「タスクさん」
「ギリギリ間に合いました。えっと、ブロンシュさんという方は……」
 わたしですと声がして、幼い少女が進み出た。
 タスクは息を詰めた。プラチナの髪緑の瞳、ドクトラと似ているところは少ないが、しいて言えば目元に共通点がある。
「あなたが勇者フィリンさんですか、話に聞いております」
 四歳とは思えぬ聡明さでブロンシュは語った。天才児なのか。フィリンは剣を収めネビュラロンに返す。視線はブロンシュに向けたままだ。
「そう、私が……あなたの母の仇」
 恨み言や非難をフィリンは覚悟していた。だがブロンシュの返した言葉はまるでちがった。
「いいえ。あなたは、母を救った人だと思っています」
 なぜわたしに会いに? とブロンシュは尋ねる。そういう率直な発言は母譲りかもしれなかった。
「あなたのことを聞いて、昔を思い出したの……守るべき人を守れなかった過去を」
 いてもたってもいられなかったとフィリンは言った。それはブロンシュへの言葉なのか、それとも『フィリン』への言葉か。
「今度こそ守ると誓ったから」
「お礼を言います。勇者フィリンさん、そして勇者タスクさん、わたしはここを離れます。……つきましては、学園に保護を求めたいのですが」
 フィリンにもタスクにも否やはなかった。 
「体……きつかったでしょう」
 タスクはフィリンに耳打ちした。
「さすがお見通しね」
 いまは否定する体力すらない。誰もいなければここに倒れ伏したいくらいのフィリンである。
「弟妹がいますので。生まれる前後の母の様子を見てますし……あと最近は、ルルくんたちの育児のため育児本を読み漁ってますから!」
 頼もしいねとフィリンは笑った。

 ◆

 魔王は若返って赤ちゃんになりました。魔王軍は解散して世界は平和になりました。
 ――で、終わらないのが現実というものだ。
 このところ嫌というほど、現実を思い知らされている【ベイキ・ミューズフェス】である。
 ディンス・レイカーが脱走したとは後から聞いた。ほどなくしてドクトラ・シュバルツに娘がいるとの報も入った。
 前者には間にあわなかったが後者には、ネビュラロンの招集に馳せ参じようとしたベイキだった。ところが、
「あなたは、ご自身のお立場を分かってるんですか!」
 手のひらをつきだし、ベイキを止めた者がある。【ジルダ・ジルヴェストロ】、リーベラント国伯爵ジルヴェストロ家の一人娘で、シャンパンゴールドの髪をもつうら若き女性だ。泡麗(ローレライ)族にしては髪の透明度が低く、革のチュニックがよく似合う。いささか融通のきかないところもあるが裏表のない明るい性格、立ち居振る舞いも颯爽として卑屈なところがない。友人にするのであれば頼もしいことこのうえないだろう。
 されどジルダは友人としてこのベイキのそばにいるのではない。リーベラント王妃候補の護衛――といえば聞こえもよかろうが事実上のお目付役として、先日よりフトゥールム・スクエアに派遣されベイキに仕えているのだった。ベイキの求婚者【ミゲル・シーネフォス】王の命であることは言うまでもない。
 ベイキも抗弁はした。
「立場と言うのでしたら、私も学園生なのですよ」
 出産したばかりのフィリンが行くと聞いている。産後、とりわけ初産の直後の長い疲労感についてはベイキにも経験がある。フィリンにはネビュラロンも同行し、タスクも後を追っているという話ではあるが、自分も力になりたかった。
 事情はジルダもわかっているだろう。しかし彼女は認めない。
「なりません。彼の地には緊張が高まりつつあるとか。もし何かあったら……陛下が軍勢を率いて来るかもしれません」
 すなわち戦争の勃発だ。ミゲルならやりかねないとはベイキも認めざるを得なかった。せっかく築いた魔族との和平が消し飛んでしまう。
「わかってくださいベイキ様。これ以上、私の心配の種を増やさないでください……」
 懇願されるとベイキも弱るしかない。わかりましたと言って腰に手を当てた。
(言っていることが正鵠を射ているだけに反論できませんね)
 大変遺憾なことながら、もはや自分の動静は国家レベルの事態ということだ。
 私はいいとしても――とベイキは眉を曇らせる。
(せっかく学園に来たというのにずっと公務とは。ジルダさんには楽しみらしい楽しみもなくあまりに不憫ですね……)
 そうだと内心ベイキは手を打った。ひとつアイデアを思いついたのである。

 ◆

 えっ?
 思わず【七枷・陣】は声を漏らした。
 学園長室のドアが当たり前のように開いたからだ。
 ただのドアならいざ知らず、これはフトゥールム・スクエア学園長室のドアなのだ。うかつに触れようものならドアノブがパクッとかみついてきたり電気ショックが流れたりが通常運転だ。やたらベタベタしたスライミーなもので覆われていたこともあるし、手がくっついて取れなくなったこともある。
 なのでノックもせずうっかりドアに手をかけたとき、陣は自分のうかつさを一瞬だが激しく後悔したのだった。にもかかわらず実際のところドアにはなんのトラップもなくそれどころか鍵すらかかっておらず、あっさりと開いたことには逆に、衝撃を通りこして不気味さすらおぼえたほどだった。
 陣は思い出した。
(そうだ、学園長ってもう魔力のほとんどをなくしたんだった……)
 それはそれで、いつもギャンギャン吠えかかってくる犬が急死したような、一抹のさびしさを覚えないでもない。
「……失礼しまーす、この禁書目録をセントリアへ持ち出すのに学園長の承認印が必要って言われたんでほしいんですけど……?」
 部屋の内側に声をかけるも返事はなく、かわりに陣の耳を直撃したのは、
「もう理由なんて訊くな。オレサマに代わってフトゥールム・スクエア二代目学園長になってくれ……!」
「そ……そんなの、アタシには大役すぎますっ!」
 なる【メメ・メメル】と【コルネ・ワルフルド】による言葉の応酬だった。
「できるって!」
「できません!」
「こんなに頼んでるのにかっ!」
「頼まれても駄目なものはダーメー!!」
 オーマイガー、陣は天をあおいだ。執務机という名のバリケードをはさみ、メメとコルネはケンカする猫同士のように髪を逆立ててむかいあっているではないか。
(学園長が学園長を引退!? コルネ先生に跡目をつがせたいって!?)
 これはまた大変な話を聞いてしまったものである。
 ……いや、『聞かなかったこと』にはまだできる。できるはずだ。
「あ、お邪魔しました~」
 小声で挨拶だけして陣はドアを閉じようとした。三十六計逃げるにしかずとはよく言ったものである。
 されどそれまで不倶戴天の宿敵同士のようににらみあっていたメメルとコルネが、声をあわせて言ったのはどういうわけか。
「待って!」
「待てい!」
 語尾こそちがえど同じ言葉だった。シャーッと豹のごとくコルネは陣に飛びかかり腕をつかむ。
「ぐえっ! なんという素早さ!」
 言葉が感嘆文になる陣である。コルネは目が血走っていた。
「ちょうどいいところに居合わせたね、陣クン!」
「……おじさんはベリーバッドなタイミングにドアを開けてしまったと後悔していますよ」
「まあまあ、陣たんがこの瞬間にここに来てしまったのも運命、デスティニーというものであろうて♪」
 メメルまでそんなことを言う。『デスティニー』って略すると『デス(死)』になるなあと陣は思った。

 一部始終を両者から聞かされ、陣はコメントを求められたのである。
「知ってのとーりオレサマはもう、力を失ってか弱き乙女となった」
 か弱き……? と陣とコルネは同時に同一の疑念を口にする。メメルは無視して言う。
「だから実力者に後任を譲ろうというのだ。おかしなことは言っておるまいて♪」
「でも長きにわたって学園を維持してきた創立者の跡目をアタシごときがつぐのはですね! 分不相応というものですっ」
 コルネも必死だ。しかしメメルにも言い分がある。
「言うに事欠いて『アタシごときが』なんてなぁ。それは言い過ぎだよねえ陣たん?」
「ですよねえ」
「ねー?」
「ねー!」
 こういうノリは陣の得意分野ではないが乗りかかった船、メメルの口調にあわせておく。
「ともかくも陣くんの意見を聞こうじゃないですか」
「おうよ」
 女子ふたりは陣に迫るのである。
「では忌憚なく意見を述べるがよい」
「頼むよ」 
 まさか理事長と主任教師、その両者からコメントを求められることになるとは――出世したというべきか、のっぴきならない立場に追いこまれてしまったというべきか。
 それでも単なるだんまりだとか、何か言っているようで何も言っていない玉虫色の答弁だとかは陣の好むところではない。きっぱりと告げた。
「なればいいじゃないですか、コルネ先生が学園長に」
 今日のランチはA定食でいいかな、くらいの軽いノリで答えた。
「え? ちょっとちょっと! それマジで!?」
 自分寄りの意見を期待していたのかコルネは大慌ての様相だ。
 もちろん思いつきを陣は述べたのではなかった。理由も伝える。
「実際問題、学園の長は現場のトップなんだ。実力は伴ってなきゃまずいでしょ? メメ校長の次に適してるのは、総合力でコルネ先生一択なんだわっていうのがおじさんの考えですよ、はい」
「イェーイ☆」
 メメルの嬉しそうなこと! 左右の手のひらを頭の横にくっつけてクネクネと、なんとも侮辱的な舞を舞いはじめる始末だ。
「だろう? さすが陣たん、よく見ておる!」
 されど陣は舞には参加しない。逆に氷結魔法のごとくクールになってコルネに示すのだ。メメルの狂態を。
「えー、ご覧の通り、ちゃらんぽらんがマントかぶって常にマイムマイム踊ってるような校長ではありますが」
 うぐとメメルがうめくのがわかった。現在の自分の行動は、そうとしか表現しようがないと悟ったらしい。
「でも校長が初期化して戦闘力がなくなったとしても、いままでつちかってきた知識や学園運営のノウハウは忘れてないでしょ? ならコルネ先生が現場の、メメ校長が裏方のトップって分担するのはアリだと思いますけど」
「アッ……!」
 コルネは目を見張った。もしかしたら彼女は、ひとたび承諾するや翌日にもメメルが学園を去ると思っていたのかもしれない。
 陣はたたみかけるように執務机に手をかける。
「考えてみてくださいよ、あのですね……この人が学園長を辞して去るとか本気で思ってます? そんなタマかっていう!」
 どうせ、とコルネからメメルに視線をスライドして陣は言うのである。
「『今日からコルネたんが学園長! そして理事長に、オレサマはなる!!』」
 ドンと分厚い机を叩いてつづけた。
「――とかぬかすんでしょあなたはっ!?」
 お見通しですから! と陣は断じた。
 さすが策士陣たんオレサマの心情をよく知る者よ――などと、どこから出したか羽扇などパタパタとやってメメルが呵々大笑するところを陣は予想した。こういう人を食った演出こそメメルの真骨頂と思っていた。
 ところが、
「あぁー……それ思いつかんかったなあ、オレサマ。そうか理事長かー」
 などと口を半開きにして、ほうけた表情でメメルは言ったのである。
「またまたご冗談を」
「いや冗談ならもっとオーバーアクションするから、オレサマなら」
 と言ってはばかるところがない。コルネも、
「裏からサポートしてもらえるなら……か、考えないでもないですね……」
 などと満更でもない様子だ。
 むしろショックを受けたのは陣である。
(こ、この人たちピュアすぎる……!)
 考えてみれば二千年近く『学園長』と『メメル』はほぼ同義であったのだ。思いつかなかったとしても無理はない。ある意味これは、異世界人という外部出身者だからこそできた発想だったのかもしれない。
「ではまあ、月日が経って校長の力が全盛期に戻ったらまたどうするか考えるというのは?」
 陣がもうひと案提供すると、それがいいとコルネは手を叩き、
「えーそんなことあるかなぁー?」
 不承不承ながらメメルも応じた。

 ◆

 陣が立ち去り、メメルとコルネも室を後にした。
「……ともかく、頭を冷やそうか」
「ですね……」
 方針は定まったとはいえ、やはりまだコルネにも迷いはあるようだった。
 連れだって歩いた。どこを目指したわけでもなかったが、気がつけば霊樹の枝の下にいる。
 道中、ふたりとも継承の件にはふれなかった。メメルはあえてバカな話をふってみたりもしたが、雨の日の花火のようなものですぐに絶えてしまう。なのでずっと無言がつづいた。
 そろって神妙な顔をしていたのだろう。
「メメたん先生、コルネ先生……どうしたんですか? また何か問題でも?」
 たまたまこの場所にいたタスクが、両人に駆け寄りいぶかしげに尋ねた。
「先日報告したようにディンス・レイカーはプリズンスクエアです。ブロンシュ・シュバルツさんも学園で保護しています。まさかディンスがまた脱走したとか……?」
「いやいや、そういった事件ではないぞ。安心するがいい♪」
 メメルはつとめて明るい声を出した。
 ディンスは最高レベルの体制で収監されている。メフィストや精霊王の助力を得たうえで、ふたたび異世界に送られることになるだろう。
 ブロンシュはもうじき五歳という幼さではあるが、学園入学を希望しているので近いうちに正式承認が予定されている。
 それでな、とメメルはコルネに呼びかける。
「ここにも賢者がおったぞ。どうだね? タスクたんの意見も求めるというのは☆」
「そうしましょう。……タスクくん、実はね」
 ……。
 事情を聞くと、しばしタスクはあごに手をあてて黙考した。
(コルネ先生が二代目校長に就任、メメたん先生は理事長としてコルネ先生をバックアップする……さすが陣さん、いいアイデアですね。けれど学園創立以来のダイナミックな体制変更であることも事実。まだコルネ先生には不安があるというわけですか)
「正直に言うとね、アタシなんかが偉大な学園長のあとを継いで、周囲が納得するのかなぁ……って心配なんだよ」
 悄然としてコルネは心のうちを吐露した。
「またそんなことを言うー」
 コルネの自己卑下は何度かあったようだ、とタスクは直感するや大きく息を吸いこんだ。
「コルネ先生、それだけはないです!」
 一刀両断、きっぱりと述べてつづける。
「フトゥールム・スクエアを育てたのはメメたん校長です。その校長の眼力にまちがいはないはず。本当に後を任せられる人が育ったと確信したからこそ、メメたん先生はコルネ先生に次代を任せると言ったんです!」
 メメルも手を打った。
「コルネたんよ、ちと面映(おもは)ゆいが、オレサマを偉大と言ってくるのであれば偉大なオレサマの選択も信じてくれい♪」
「校長先生の決断なら、みんな納得してくれますよ。自信をもってください」
 教師としてコルネが自分を励ましてくれた日々をタスクは思い出している。
 今度は、自分がコルネを励ます番だ。
 おうとも、とメメルが口添えた。
「困ったことがあればオレサマが支えよう」
 タスクは内心安堵している。もうオレサマは学園に不要だからな――などとメメルが口にしないか懸念していたのだ。
「頼りにしていますよメメたん先生。僕たち学園生を『ゆうしゃ』に育てた教えは『魔力』ではないのですから」
 ふたたび、今度はぐっとにこやかにコルネに告げるのである。
「運営上の諸手続きなど、実務的な段取りなら僕が協力します」
 もちろんタスクとて不安がないわけではない。気が遠くなるほどの年月不動だった体制の変更だ。戸惑うこと、窮することは山とあるだろうとは思っている。だが虚勢であってもかまわない、あえて力強く我が胸を叩いた。
「どうぞお任せ下さい、事務は僕の仕事ですから」
 ひらめいたものをタスクは言い加えた。
「そうだ! どうしても公平性がご心配なら……投票でもしてみます? 学園生と職員、一人一票で。他の立候補者もつのって選挙にするとか」
「それがいい☆」
 異存はないなとメメルに問われたコルネは、雲間からのぞく朝日のように晴れやかに、しかしいくらか照れをまじえて首肯したのだった。
「お任せします」

 後日、次期学園長選挙が実施されたことについても簡単にふれておこう。
 立候補したのはコルネ・ワルフルドひとりであり、他に候補が名乗りを上げなかったため選挙は信任投票へと移った。
 不信任と書かれた票はなかった。 

 ◆

 数日後。
 学園長室のドア前だ。ベイキはジルダに告げた。
「では私は、学園長にお目にかかりますから」
 この時点ではまだ、学園長選挙は告示があっただけで候補者募集の段階だ。現学園長はメメルである。
「同席してよろしいでしょうか」
 ジルダは目を輝かせている。高揚しているのか、ボールを目の前にした犬を思わせた。遠くリーベラントのしかも辺境出身ゆえか、ジルダはメメルの実像を知らず、それはそれは立派な人物だと一方的に尊敬しているようなのだ。世界を救った七勇者のひとり、勇者の学校の創立者――たしかに伝説の人物ではある。七枷陣言うところのちゃらんぽらニストにしてマイムダンサーなメメルの素顔は、ジルダには想像もつかないらしい。
 普段ならベイキもジルダの同席を拒むことはなかっただろう。傷は浅いうちに、とばかりにさっさとメメルのメメルっぷりを御披露目しようと考えたのかもしれない。けれども、
「今日はご遠慮ください」
 ベイキはジルダをしりぞけたのである。なぜにとジルダが問う前に、しっと唇に指をたてて謎めいた笑みをうかべた。
「密談があります」
「密談……!」
 その秘(ひそ)やかな響きに魅せられたのか、ジルダはむしろ嬉しそうに、
「左様であれば、私は外で待ちましょう」
 どうぞごゆっくりとベイキを部屋に送り出した。
(密談ですよ……あなたについての)
 ベイキはふきだしたいくらいだったが、こらえてドアをノックした。

 おー! とベイキを迎えたメメルは、さきのジルダを何倍かしたくらいにワクワク顔だった。
 事前にベイキは、今日の用件を『密談』とだけ告げていたのだ。メメルにとってすれば三度の食事に勝るトピックらしい。挨拶もそこそこにかぶりついてきた。
「して、ナイショ話とは何かな?」
「現学園長にしかお願いできない、お仕事のお手伝いをお願いしたくて」
「純情コルネたんには聞かせられないたぐいの作戦とみたが、どうかな♪」
 イエスともノーとも言わずベイキは語った。
「具体的には……先のリーベラント代王、アントンさんに関することです」
「クラルテの上の子【アントニオ・シーネフォス】だな。オレサマ遠い昔に、あの子を風呂に入れてやったこともあるのだぞ♪」
 あの子がよちよちのころだがなとメメルは笑った。
「以前の事件もあり、アントンさんご本人は表には出されませんが……ご心労は大きい様子」
「わかるよ」
 メメルはしみじみと言った。
「ムカっ腹を立てたこともあるがアントニオは親友の息子じゃ。オレサマにとってはかわいい坊やでもある……気にはなっとる」
「そんなアントンさんを、公私ともに支える方がいたほうがいいのではないかと思ったのです」
「その手の話は好きだぞ♪ 周囲の人間の色恋☆」   
 案の定メメルが食いつく話題であった。
「……最近知り合った方で、ピッタリな方がいたんですよ」
「名を聞かせたまえ☆」
「以前、私がお名前を借りたジルダ・ジルヴェストロさんです。その人となりやご活躍は、現学園長のお耳にも入ってるかと」
 おおあの子かとメメルは手を打った。入学者でもないこともあり、多忙のためメメルはジルダを一度ちらりと目にしただけだという。
「武芸だけでなく兵站や事後処理で、細かいお心配りが多くを救いました」
 等々、時間をかけてベイキはジルダを褒めた。考えてみれば、いくらでも好評価できる娘である。
「マジか? その子オレサマが嫁にほしいくらいだなぁ……というジョークはともかく」
 膝を叩いてメメルは言った。
「恋はあせらずと世に言うが、善は急げもまた真理! 偶然ながら明後日、そのアントニオたんが学園を訪れる手はずになっとる。うまいこと両者を引き合わせ、オレサマがイイ感じのムードを作ってそっと立ち去って……あっ!」
 メメルはニヤリとしたのである。
「これは一本とられたの、ベイキたん。アントニオたんの学園訪問まで知っていた上で、オレサマに月下氷人(仲人役)を割りふったというわけか」
 いや待てよとメメルは言った。
「……この策にはミゲルたんも一枚噛んでおるだろう? タイミングが良すぎる」
 ベイキはやはり、イエスともノーとも言わず曖昧な笑みを浮かべただけだ。
『兄上も、幸せになっていいはずだ』
 ベイキに返送した手紙の文面で、ミゲルは熱く語ったものである。これはベイキが立案しミゲルがお膳立てを整え、メメルに実行役を任せようという計画なのだ。
 ベイキは多くを語らない。けれど誘いの言葉はかける。
「さあ、メメタンも一口乗りません?」
「あたぼうよ!」
 メメルはほくそ笑んだ。
「恋にお膳立てはあっても理屈はいらん、名付けて『Don’t ask me why. 』作戦というのはどうだ?」

 作戦が動き出す――といったところで今回は紙幅が尽きてしまった!



課題評価
課題経験:90
課題報酬:3000
Don’t ask me why.
執筆:桂木京介 GM


《Don’t ask me why.》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 1) 2022-09-18 00:16:22
賢者・導師コースの……じゃなくて、さすらいの冒険者ファルコンだ。
俺は、今のところはディンス・レイカーの確保に動くつもりだ。
過去の罪状を考えても、放置できる相手ではないしな。捕らえるしかないだろう。

とは言え、他のルートも重要なので、他のメンバーの動き次第では
ルート変更もできるように考えておきたいとは思っているので、
各自、簡単にでも行先や目的を教えてくれると助かる。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 2) 2022-09-18 21:36:09
勇者・英雄コースのフィリンよ。
冒険もだいぶ久しぶりね…改めてよろしく。

私の方はブロンシュ・シュバルツの保護に動こうと考えてるわ。
シュバルツを討った責任…彼女にしてみれば親の敵に当たるわけだけど、それでも何もしないわけにはいかないと思うから。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 3) 2022-09-20 20:33:28
遅刻帰国~!御無沙汰瘡蓋~!
勇者・英雄コースのタスク・ジムです!よろしくお願いいたします!

フィリンさん、お元気でしたか?
こうして一緒に課題に挑むのも久しぶりですね!
よろしくお願いいたします!

ファルコンさん、はじめまして!
冒険者の方なんですね。歴戦の感じがして、心強いです。
よろしくお願いいたします!
(それにしても、誰かに似ているような…)

さて、僕はコルネさんの背中を押すコースをメインに考えてます。
1コース限定の縛りはなさそうなので、必要なら他コースの補助も検討したいとこですが、
プランを分散してうまく行ったためしがないので…悩ましいですね!

《人たらし》 七枷・陣 (No 4) 2022-09-21 00:53:05
賢者・導師コースの七枷陣だよ、よろしくねぇ。
おじさんはコルネ先生とアホ校長の修羅場に闖入してくることにするよ。
後押しする方向だけど、重苦しい雰囲気をコメディに落とす方向で行きたいかな。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 5) 2022-09-21 19:19:42
陣さん、同じ方向ですね!よろしくお願いいたします!

さて、こちらは、コインによる文字増も総動員して、色々挑戦することにしました!

最優先課題としては、ディンスコースとシュバルツコースの盾役参加を検討しています。
お二人が良ければ、ですが。

他に何か助けになれることがあれば、どしどしお寄せください!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 6) 2022-09-21 19:19:52

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 7) 2022-09-21 20:00:31
ありがとう。
うまく各ルートに人員配置できているようで、ひとまずは安心だ。
特に魔王軍の残党狩りは気になっていたので、対応してくれる学園生がいてくれて助かる。

俺は前の発言通り、ディンス確保に集中して動こうと思う。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 8) 2022-09-22 05:51:20
陣さんへ

コルネ先生校長ルートについて、何か協同出来れば面白いと思うので、自分の方針を共有しておきますね。

自分の方針は、コルネ先生とメメタン現校長先生に、自分の思う方針を2つ提案し(迷ってる状態から2択にまで狭めてあげる意図もあり)、
あとはとことん相談に乗って、2人が納得できる方向に導き、
その決めた方向に向かって「事務は僕の仕事ですから」と言って段取りを整えてあげることです。

提案する方針は
①コルネ先生を校長にする。「校長先生の決断なら、みんな納得してくれますよ」あとはコルネ先生の肚ひとつなのでそこを励ます
②「もし、公平性がご心配なら・・・選挙でもしてみます?」立候補を募り、学園生の清き一票にゆだねる

陣さんの後押ししながらコメディに持っていく方針に非常に興味があり、
うまくかみ合えば素敵かな・・・と思っています!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 9) 2022-09-22 05:53:42
余談ですが・・・

③「魔力がなくても校長は校長、やはりメメタンしか考えられません!」
というセンも考え中です。良い理論づけが思いつけば加えるかもしれません。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 10) 2022-09-22 07:03:01
ご挨拶が遅れ申し訳ありません。教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。

とりあえず、これまでの活動の流れ的に考えると……学園長絡みですかね。
荒事に突っ込もうとすると、別の方面から妨害されそうですし。

>フィリンさん
ルガルを連れて行ってもええんやで(イイエガオで)

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 11) 2022-09-22 07:10:18
そうそう。
個人的にですが……例のアントンさんに良さそうな方がいらっしゃるので、現学園長を巻き込んで、ふたりをくっつけちゃう算段も立ててみようかと。

これは、学園長の魔力以上に……経験と悪戯心が重要なミッションですからね。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 12) 2022-09-22 08:09:16
ベイキさん、よろしくお願いいたします!
例の方とは、前の課題でご一緒(ルートは別でしたが)したときの
例の方ですね!あのリザルト好きなので楽しみです。

さて、校長ルートの方針で追加ですが、
メメタン先生が「学園に最早オレサマは不要」なんてお考えなら
それはきっちり否定しておきたいところです。
「僕たち学園生を「ゆうしゃ」に育てた教えは
「魔力」じゃないですよね」みたいな感じで。
(これはベイキさんの「経験と悪戯心」というお言葉で思い付きました。
ありがとうございます!)

併せて、コルネ先生には
「(現)校長先生の眼力は確かなのだから、本当に後を任せられる人が育ったと確信できない限り、こんなことは言わないはずだ」みたいな方向で、
「私なんかに」という点だけはきっちり否定しておきたいところです。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 13) 2022-09-22 08:15:37
そうそう、シュバルツルートについてですが、
タスクとしては身重のフィリンさんに1ミリたりともダメージを行かせないことは最優先事項です。

何故知ってるか、の設定については以下のとおりです。
「弟妹がいますから、生まれる前後の母の様子を見てますし…
最近は(ルルくんたちの育児で)育児本を読み漁ってますから!」

もし、上記ロールプレイに差し障り等あれば取り下げますが、
問題なければ、ご了承いただけたら幸いです。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 14) 2022-09-22 21:48:28
そろそろ出発ね。

>タスク
ありがとう。だいぶ体もなまっちゃってるしね…十分注意するけど、迷惑かけるかも
(PL註.体の事は桂木GMに一任ですが、日数的に産後になるかなと思います(問題のリザルトから出発までだいたい280日なので)どのみちコンディションは最悪ですけど…)

《人たらし》 七枷・陣 (No 15) 2022-09-22 22:41:26
出発直前でごめんよタスク。
おじさんのやり方はざっくりとだけど
今日の飯を適当に決める風味で、コルネ先生がなれば学園長にって形で行くよ
後はどうせアホ校長の事だから、学園長はコルネたん!そして理事長にオレサマはなる!(ドン!
とか吐かすに決まってるよ…大人しく学園去るタマかっていう。

こういった感じでツッコむ行動になると思うよ。学園の現役トップにコルネ先生、経営等の裏方のトップにメメたんを押しこ…もとい、擁立する感じだね。
タスクとの噛合いがうまく行けば面白い事になるかもね~。