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桂木京介 GM 

はじめまして! マスターの桂木京介と申します。
いよいよ始まりましたね!
この日をずっと待っていました。

色々なことをしかけていきたいと思っています。
みなさんも、色々挑戦しください。
わくわくでいっぱいの学園生活を一緒に作っていきましょう!

担当NPC


《学園教師》ネビュラロン・アーミット
  Lv90 / Rank 1
「剣術教師ネビュラロン・アーミットだ。以上」    フトゥールム・スクエア教師。  常に剣を腰に提げている。  白金(プラチナ)の全身甲冑を着込み、白いマントを肩から提げた姿。  甲冑の表面に彫り込まれた金飾りの意匠が、美しくも好戦的な印象を与える。  常にフルフェイスのヘルメットゆえ顔は見えない。  声から女性だとわかるだけである。  基本的に無口で、話すときも簡潔な物言いをする。  ジッセン教育がモットーとのことだが、この『ジッセン』は『実践』なのか『実戦』なのか不明である。  メメル校長にはなんらかの大きな借りがあるらしい。  右手は手首から先がない。顔にも深い傷があると自称している。(右頬の刀傷が目撃されている)   一度だけ公の場でヘルメットを脱いだことがある。長い髪で顔は隠れており目鼻立ちは不明だったが、栗毛だということだけはわかっている。 ■公認NPC □担当GM:桂木京介  規約上、以下のことはできませんのでご了承下さい。 ・フレンド申請(受けることは可能です) ・公式クラブ以外への参加と発言
《学園教師》ゴドワルド・ゴドリー
  Lv87 / Rank 1
「……初級魔法術の教師、ゴドワルド・ゴドリーだ……。用がないなら帰らせてもらうぞ。脳内妻が待っているのでな……」    フトゥールム・スクエア教師。  櫛を入れていない長髪に、いい加減に剃ったと思しき無精ひげがトレードマーク。  青白い顔色で、目の下には深い隈がある。  常に体調の悪そうな声色でポソポソしゃべるが、実はそれなりに健康らしい。  一応ハンサムの部類に入るが、髪型とか陰気な雰囲気のせいで色々台無しである。  ところどころに黄金の意匠をほどこした黒いコートを着ている。  右手に、赤い石をはめた樫の杖を握っていることが多い。  根が暗そうに見えることを気にしているようで、ときどき突拍子もない冗談を言ってみたりする。だが、たいがいセンスが激しくずれているのでまるきり笑えない。  見た目からは想像がつかないが料理が得意。  脳内妻がいると言い張っている。  本当に結婚しているのをこう表現しているのか、想像上の結婚をしているだけなのかは謎である。 ■公認NPC □担当GM:桂木京介  規約上、以下のことはできませんのでご了承下さい。 ・フレンド申請(受けることは可能です) ・公式クラブ以外への参加と発言
《学園教師》イアン・キタザト
  Lv85 / Rank 1
「やあ! 僕は僕はイアン・キタザト、錬金術の教師なんだよ。え? 教師に見えない、って? やだなー僕これでもわりとおっさんなんだから」    フトゥールム・スクエア教師。  すっきりした顔立ちで柔和そうなタレ目、くすんだ金髪。いわゆる鼻眼鏡をちょんとかけている。  学生にしか見えない幼さだが、れっきとした教師であり、同じく教師のゴドワルド・ゴドリーと同い年である。  そして、なにかというとゴドリー(イアンは彼を『ゴドー』と呼ぶ)を頼りにする。  夏以外はワイシャツ、ネクタイの上に明るい色の上着という扮装を好む。夏場はノータイのシャツだけが基本スタイル。  好奇心は強いようで、触ってはいけないものに悪気なく手を伸ばしたり、突拍子もない探検に出かけ周囲を巻き込んだりしがちである。  少年にしか見えないが、しっかりバツイチ、つまり離婚経験者だったりする。 ■公認NPC □担当GM:桂木京介  規約上、以下のことはできませんのでご了承下さい。 ・フレンド申請(受けることは可能です) ・公式クラブ以外への参加と発言
《先輩》サラシナ・マイ
  Lv74 / Rank 1
見た目と口調でほぼ100%間違えられるが、 れっきとした女の子である。 入学以前の村での生活において、容姿と性別の不一致から いじめまがいの行いを受ける事があり、いじめに負けない 自分を手に入れるため、学園に入学を志願した。 入学当初も、上記の理由から先輩などに喧嘩を売られる 事が多くあったが、売られた喧嘩は全て買い、どんどん成長。 負けず嫌いな性格も相まって、最後には喧嘩相手に対して 彼女が必ず勝利を収めるまでに強くなった。 上記の関連で3年ほどプリズン・スクエアで生活していた 時期があり、そこでも何かと揉め事に絡まれては 解決してきた。その時の経験を学園長に買われ、 今では監督学生として、週に6日間はプリズン・スクエアで 生活している。

メッセージ


☆リザルトノベル公開中!
『怪獣王女☆参上!』
 メメル校長が贔屓にしているブランド、それが【マグナム・ワイナリー】氏のもつ広大なワイン畑&醸造所なのです。この醸造所を占拠する悪漢は、怪獣王女なる怪人物のようです。
 怪獣王女が使役する怪獣『うわばみ』を倒してワイン醸造所を取り戻しましょう。
 ワイナリーの破壊を食い止めつつきちんと王女を追っ払った手腕はお見事でした。今回王女が案外弱かったのは、闇属性魔法&お菓子がうわばみに効きまくってうろたえたからでしょう。

★リザルトノベル執筆中
『宿り木の下に唇を盗んで』
 ロマンスエピソードです。
 宿り木の下で紡がれる物語とは……? 
 
◇エピソード予定!
『ヒノエ 対 怪獣王女』(仮題)
 迷惑キャラ同士が激突します。

『Had I known you better then』
 実はできているのですが公開タイミングが……(汗
 

作品一覧


はじめての魔法使い (ショート)
桂木京介 GM
 さんさんと陽光ふりそそぐ学園内にあって、この一角はまるで異空間だ。  まだお昼前、ずっと青空だったはずなのに、木々に覆われて空は陰り、どこからきたのか瘴気のようなもやがたちこめている。木の枝に乗った数え切れないほどのカラスが、ギャアギャアとせせら笑うように鳴く。なかば土に戻った枯葉だらけの地面が、踏むたびにみしりと湿った音を立てた。 「……よく来た」  暗がりからぬっと現れた人影に、驚いて叫んでしまう新入生もいた。 「どうした……私の生徒なのだろう……?」  低い声である。薄ら笑いを浮かべている。  死人のような顔色をした、背の高い男だった。  ところどころに黄金の意匠をほどこした黒いコートを着ている。右手に、赤い石をはめた樫の杖を握っていた。  まだ若い……のだと思われる。といっても、目に浮かぶ表情は老人のような印象も与えた。  目の下にある隈は深く、眼球は充血していて三日くらい寝ていないように見えた。闇のように黒い髪を長く伸ばし、頬にも黒い無精ヒゲをちらほら生やしている。  しかし顔立ちは整っているので、ちゃんとした格好をして身なりを整えれば女子に人気が出るかも――と余計なことを考える生徒もいた。 「おはよう……初級魔法術の教師、【ゴドワルド・ゴドリー】だ」  皆、恐る恐る「おはようございます……」と返すほかない。  この男に似合うあいさつは、どう考えても「こんばんは」ではなかろうか。  でなければ「おやすみ」、あるいは「ご冥福をお祈りします」……? 「魔法の授業は、この『センジュの森』中央付近で行う。森の奥にトーテムが立つ広場があるはずだ。制限時間内に広場まで来るように」  制限時間? いきなりトーテム(木彫りの柱)とか言われても……? ざわつく生徒たちをゴドリーは冷ややかに一瞥した。  声を荒げたわけでもないのに、それだけで皆は水を打ったように静まる。 「私は先に行ってそこで待っている。ただし! 日没を過ぎればタイムオーバーだ。帰らせてもらうよ。脳内妻が夕食を作って待っているのでね……」  いま『脳内』って言わなかったか!? でも誰も聞き返せなかった。 「……ちゃんとひとかたまりになって移動したほうがいいぞ。はぐれて遭難でもすれば、次に見つかったときは白骨やもしれん……。それに、少々だが原生動物もいるようなのでな……肉食の……」  その言い方はなんだか楽しそうに聞こえた。 「せっかくだ。覚えたての魔法なり技術なりを試しながら来るといい。小さな怪物は追い払えばいいし、大きな怪物は……ま、自分たちで考えるんだな……」  そこまで言っておいてあとは独り言のように、 「そういえばこの森には、どこかから逃げ込んだ【餓鬼】の集団がいると聞いたな……あいつら若い女の太股にかじりつくのが大好きらしい……もちろん、『死んだ』若い女のな」  と呟いたりする。 「だが連中は火に弱いという話だ。一匹一匹は弱小だが、数で来られると面倒というもの。近づけさせないのがまず大事だろう……」  それに、とゴドリーはなぜかクワと両腕を振り上げ威嚇するようなポーズを取った。 「……あと、これが出る」  カパッと口を開く。大真面目な表情のまま。  このジェスチャーがなにを意味しているのか不明だ。  生徒たちが凍り付いたように反応しないのを見ると、 「……形態模写……モノマネだ」  ポツリと彼は言った。そうしてさらに、 「笑え」  と付け加える。  あははははは、と生徒たちは引きつった声を上げるほかない。もしかして彼、自分ではお茶目だとか思っていないか……? 「【ジャバウォック】、知ってるか? いま私がやったようなポーズのやつだ。熊がよりおっかなくなったようなモンスター、とでも思えばいいか。長い腕をしており、強力な両手の爪、それに顎をもつ。熊よりずっと好戦的で、いつも腹を空かせているようだな」  ポーズをやめてゴドリーは続けた。 「頭は悪いが恐れも知らない。弱点らしい弱点はないので、得意の爪攻撃を活かせない地形を選んで戦うべきだろう。ま、戦うとしたら、の話だが……いきなり背後からガブリとされたら防ぎようがないからな」  以上、説明は終わりだ、とゴドリーは杖を握り直した。 「せっかくだ。道中、魔法の授業の予行演習でもするがいい」  では待っているぞと言い残すと、どこに隠していたのか、ひらりとグリフォンに彼はまたがったのである。 「グリフォンを使うなどのズルは禁止だ。歩いて来い。急げば日没までには間に合う。間に合わなかったら……まあ、翌朝まで生き延びるんだな……」  そうして姿を消してしまった。  こっちは初心者なのに! と不満を言うなかれ。これがゴドリー流の授業なのである。  仕方がない。君たちは、恐る恐る森に足を踏み入れる。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-01-22
完成 2019-02-07
ゆうしゃのじゅぎょ~!★新入生、荒ぶる! (ショート)
桂木京介 GM
 金属と金属が擦れ合う耳障りな音。  そして、冷ややかに鉄の扉がきしむ音。 「入れ」  奥から声が聞こえた。若い女性の声だ。  どこか、くぐもった声だった。  館内は真っ暗だった。  だが唐突に、ぱっと白みを帯びた明かりが灯った。  新入生たち――つまり君たちだ――は、驚いて周囲を見回す。  広い。  体育館と聞いていたからそれなりのものをイメージしていたのだが明らかに違っていた。室内型陸上競技場といったほうがいいかもしれない。もっといえばコロッセウムか。  アリーナ席に囲まれた中央に、砂が敷かれた広いグランドがある。  ドーム状で、天井や柱には無数の明かりが吊されている。魔法で一斉に点火したものらしい。  普段、このグランドあるいはアリーナは球技や陸上競技に使われるのだろうと想像できた。けれども今日は無人だ。趣(おもむき)がちがうようだ。  アリーナに金属製の箱のようなものがいくつも、うず高く積み上げられていた。  塗装が施されていたり編み目が細かかったりして、いずれも外から内部は見えない。  ひとつひとつが住居にできるほど大きい。それがピラミッドみたいにいくつも積み上げられていた。頂点に位置する鉄の箱は、天井すれすれの位置にある。  しかし君たちの視線を釘付けにしたのは、『体育館』の広大さでもなく、客席やアリーナという設備でもなく、積み上げられた金属製の箱ですらなかった。  ピラミッド状の構造物の前でただ一人、すっくと立つ甲冑の人物に異様な存在感があるのだった。  殺意というのか。  端的にいえば、凄みだ。  下手に近づけば、一刀のもとに叩き切られそうな気迫が伝わってくる。  白い。  白いとしか言いようがない。  その人物は白金(プラチナ)の甲冑を着込み、白いマントを肩から提げていた。  甲冑の表面に彫り込まれた金飾りの意匠が、美しくも好戦的な印象を与えていた。  フルフェイスのヘルメットゆえ顔は見えない。  もちろん年格好すらわかりようがない。  このときふたたび、尖塔型のヘルメットの奥から声が轟いた。 「教師の【ネビュラロン・アーミット】だ」  無人の客席に名乗りが反響する。女の声だ。 「幸運と思うがいいぞ、諸君。このネビュラロンの授業に参加できるとはな!」  ヘルメットはすっぽりと頭部を覆っており、目の部分が格子状になっているだけなので彼女の表情をうかがい知ることはできない。 「座学は好かん。私の授業は常にジッセンだ」  実践、と聞こえたのだがもしかしたら『実戦』かもしれない。  彼女はこう告げたからである。 「これは、私が『檻』と呼んでいる訓練設備だ。今日の授業ではこの『檻』に入り、内部を探索してもらう」  物騒な名前だ。  彼女は続けた。 「それぞれの『檻』は接続してあり、内部に梯子や階段も用意している。といっても、複数のルートから選択する場面も多かろう。上下のみならず左右の移動も、行き止まりもある。立体型のダンジョンだと思えばいい。ゴールは頂点だ」  ネビュラロンは腰からロングソードを鞘ごと外した。  間髪入れず左手で、これを手近なコンテナに叩きつける。強く。   すると『檻』のほうぼうから、低く唸るような声が聞こえたのである。 「気付いたようだな。ただのアスレチックではないぞ。いくつかの檻には『アーラブル』が収めてある。倒すかかわすかして進んでいかねばなるまい」  少し沈黙すると、そうか、とネビュラロンは察したように言う。 「アーラブルを実際に見た者はおらんか。獣型の魔物だ。角の生えた牛に似ているが、『猛牛』と呼ばれるたぐいの牛より、もっと気性が激しく凶暴だ。この学校でも訓練用に飼っている。野生のものよりはずっとマシだろうが、毎年アーラブルによる生徒の事故は絶えんな」  アーラブルを怒らせるなよ、と彼女は続けた。 「毒のたぐいはないとはいえ、角で腹部を貫かれようものなら痛いではすまんだろう。連中は大きな音が嫌いだ」  するとネビュラロンはこともあろうに、 「特に、こういう音がな!」  両手でソードを握るやガンガンと力任せに『檻』を連打したのである。  またたくまにあちこちから、アーラブルの咆える声が聞こえてきた。先ほどより激しいし数も多い! あきらかに怒っているではないか。  サディスト――! と君が思ったとしたら、たぶんそれは間違いではない。 「規定時間より早く終われば報奨金も出してやる。ほら、ここが入り口だ」  と言って否応なく、ネビュラロンは君たちを『檻』のひとつに向かわせた。口ごたえでもしようものなら剣の鞘でひっぱたかれるのではないか、と思った君たちは牧羊犬に追われる山羊のように従う。 「言うのを忘れていたが、ところどころ戯れで罠をしかけてあるから気をつけるように」  どんな罠かは教える気がないらしい。やっぱりサディストなのだろう。 「ギブアップしたいなら火の手を上げろ。……まあ、私が救いに行くより先に、アーラブルが突進してくるかもしれんが」  などと物騒な言葉とともに、ネビュラロンは『檻』の出入り口を閉めてしまったのである。  閂(かんぬき)の下りる冷たく重い音が響いた。  檻の内部は広い。三人くらいなら並んで歩けそうである。薄明かりも用意されている。錆混じりの鉄の匂いが鼻をついた。  さっそく行く手に二つの梯子が見えた。  奥か手前か、登る梯子を選ぶがいい。  授業開始だ。    荒ぶるのはアーラブルか。  それとも君たち新入生か。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-02-09
完成 2019-02-24
春のハイクはダンジョンで (ショート)
桂木京介 GM
 引率はゴドリー先生――と聞いた瞬間、げっ、とか、しまった! とかいう声がいくつか上がった。  その名を知らない生徒は、なんで? という顔をしている。  いずれにせよ、あまりふさわしい反応ではないだろう。  だってここは、『たのしい春のハイキング』の集合場所のはずなのだから。  広大な学園の敷地内、まだ新入生たちが足を踏み入れたことのない一角。  岩ばかりで殺風景な場所ではあったが、これからさぞや風光明媚なところへ移動するのだろうと誰もが思っていたのだ。最初は。  『きたる春の好日、たのしいハイキングを開催します。お弁当不要! お菓子も不要! ぜ~んぶ学校が用意しちゃうゾ☆ 通常装備で来てね♪』  と、いうのが募集時のポスターに書かれていた文字だった。  だから大半の参加者は、わくわく気分でありこそすれ、不安とか戸惑いとかとは無縁のはずだった。  しかし不安や戸惑いは、もやっとした予兆からカチっとした確信へと変わった。 「……どうやら歓迎されてない様子だが、待たせたな」   ぬっと岩陰から、どうにも不景気な様相の男性教師が現れたからである。  それなりにハンサムではある。しかしそれは彼が、伸び放題の無精髭を剃って不揃いの黒い長髪を切り、充血しっぱなしの目と目の下の隈をどうにかしたうえ、さわやかな笑みのひとつでも浮かべた場合に限られよう。 「おはよう……初級魔法術の教師、【ゴドワルド・ゴドリー】だ」  ニヤリという幻聴が聞こえるくらいゴドリーは唇を歪めた。  皆、恐る恐る、おはようございます……と返すほかない。  でもこの男に似合うあいさつは、『このたびはご愁傷様でした』ではなかろうか。毎度授業と称しては、厳しい難関に生徒たちを放り込む自称実践主義教師が彼なのだ。 「これからハイキング場に引率する。ついてこい」  と言うなり、ところどころに黄金の意匠をほどこした黒いコートをひきずるようにしてゴドリーは歩き出す。生徒たちは、カルガモの赤ちゃんのように一列になって彼に従った。そうするほかなかった。  ゴドリーの名を告げた用務員は、ひらひらと手を振って見送っている。  行軍は十分ほどで終わった。 「ここだ」  数人が乗れそうな大きな岩のところまで来ると、ゴドリーは突然立ち止まり、右手にもった樫の杖を無造作に振った。  杖の先に着いた赤い石が警告灯のように鋭くと光った。  すると岩が真横に動き、その下から地下へと降る石の階段が姿を見せたのである。 「今日のハイキングはこの階段を下りた先で行う。もとは洞窟を改造したものだから……一種の自然公園だな。自然光も入るし、深いところなら光る苔がむしている。ちょっとした迷路になっているが、アトラクションと思えば楽しかろう」  いえそれ自然公園じゃなくて『ダンジョン』じゃないですか――と異論が上がったがゴドリーは無視した。 「迷路ばかりで退屈しないように、土塊(つちくれ)で作った『ご当地キャラ』にうろうろしてもらっている。一緒に遊んでもらうといい」  ご当地キャラ? という声に、 「……まあ、ダンジョンのご当地キャラだから、『ゴーレム』と言ったほうが適切かもしれん」  平然とゴドリーは答えた。ていうか早々に『自然公園』という嘘を放棄している! 「ゴーレムどもの数は忘れた。動きは鈍いし頭も鈍い、力もこの類いでは弱いほうだ。ただし集団行動が好きで、大声を出して仲間を呼ぶ習性があるので倒すときはスピード重視だな。あと、土でできているから風属性の魔法が効きやすい」  一旦ここで言葉を切って、おっと、と声を出してゴドリーは続ける。 「言い忘れるところだった。一体だけ石のゴーレムがいるぞ。あれはそれなりに強敵だ。なんとかしてしのぐように」  私の引率はここまでだ、とゴドリーは当たり前のように言った。 「一足先に出口で待っているから、慌てず騒がず春のハイクを楽しんでくるがいい。運が良ければ半日ほどで出てこれるだろう」  このとき生徒の一人が大急ぎで、あの募集メッセージを書いたのは誰ですか? と訊いた。  するとゴドリーはにこりともせず、 「あれか? 書いたのは私の脳内妻だ。かわいいメッセージだったろう?」  と言い切ったのだ。  脳内? と訊き返す勇気のある生徒はいない。  かわりに皆、口を揃えて、か、かわいい……と引きつった反応を返すのだった。  数メートルの階段を全員が下りたところで、入り口の穴の上にゴドリーは顔をのぞかせた。 「入り口を閉じる前に、希望者には短冊を渡す。俳句を詠むといい。私が預かっておこう」  俳句? と問う声に、 「わからんか? 辞世の句、ってやつだ」  全然ありがたくないお言葉である。……まさかハイキングの略『ハイク』とかけたのではあるまいな。  ひょっとして彼、自分ではお茶目だとか思っていないか――?  間もなく岩が動き、ぴったりと入り口は閉ざされてしまった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-03-11
完成 2019-03-28
ドキドキ☆春の個人面談っ! (EX)
桂木京介 GM
 オレンジ色の夕陽が射し込んでいる。  中途半端に引かれたカーテンが、春風に吹かれクラゲのように揺れている。  君はいま教室の中央で、向かいあわせに設置された机のひとつについていた。  教室は無人だ。君と、【コルネ・ワルフルド】先生以外は……! 「んっと~☆」  先生がペラペラとめくっている手元のボードには、君に関する情報が集められているようだ。入学願書とかここまでの成績表とか、面談前に書くよう手渡された簡単なアンケートとか、そういったもろもろだろう。付箋がやたらペタペタ張り付けられているあたりが、ちょっと気になるところではある。  すこし難しい顔をしていたコルネ先生が、資料をめくる手を止めて顔を上げた。 「じゃあ……」  ぐいと先生は前のめりになった。 「君のこと聞いちゃおっかな~☆」  はい、と思わず君も前のめりになる。  なんだか、いい匂いがした。  ◆ ◆ ◆  君はなにを語るのだろう。  授業に対する現状や不満? 学園生活の悩みごと? はたまた学生寮の不備についてだろうか。  ここまでの生い立ちや好きな教科、クラブ活動の状況や希望、これからの進路や将来の夢など、話題はたくさんあるだろう。  先生のほうに逆質問したって、まったくもって構わない。むしろ質問責めにして、先生を困らせてしまおうか?  君の面談を受け持つのは誰だろう。  コルネ先生はもちろんのこと、いつもマイペースな【メメ・メメル】校長、授業で出会った印象的な教師、憧れの先輩生徒だって話をしてくれる。  なんとまさかの【ツリーフォレストマン】も出てくるらしい。ツリーとなにを話せと!?  面談といっても、教室で向かい合うという形式だけじゃない。ここは自由な学園フトゥールム・スクエアなのだ。  喫茶店で軽食を楽しみながらとか、アウトドアで釣り糸を垂れながらとか、ジョギングで息を切らしながらとか、ありとあらゆる面談スタイルがあると思う。  期待に胸を膨らませよう。  ちょっと緊張しても大丈夫。  ドキドキな春の個人面談が、さあ、はじまる!
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-04-04
完成 2019-04-21
天井裏より愛を込めて (ショート)
桂木京介 GM
「ゴドー!」  ワイシャツ、ネクタイの上にオレンジ色のダッフルコートを着た姿が、こちらに向けて片手を振っている。  これを見るや教師【ゴドワルド・ゴドリー】は、通常の三倍増しの早足になり彼の眼前五十センチ前後まで歩み寄って、 「……言ったはずだろう。学校内では『ゴドワルド先生』と呼べ……!」  元旦のおみくじで三回連続『凶』の卦が出たような顔を見せ、ささやくような口調で、しかし深みとコクのある声(ドスが効いているともいう)でスゴんだのだった。たぶん生徒たちに聞かせたくなかったからこその小声だったのだろうが、ちょうど風がやんだところだったこともあり丸聞こえだったりする。 「ごめん。『ゴドワルド先生』、新入生をたくさん連れてきてくれたんだね。嬉しいよ」  よろしく、とその教師は集まった面々に告げた。玩具付きチョコレート菓子をもらったばかりの少年みたいな笑顔だ。  すっきりした顔立ちで柔和そうなタレ目、くすんだ金髪。いわゆる鼻眼鏡をちょんとかけている。ゴドワルドよりいくらか背が低い。 「僕は【イアン・キタザト】、錬金術の教師だよ」  と、キタザトは隣に立つゴドワルドを見上げて、 「彼、ゴドー……」 「ゴドワルド」  間髪をいれずボソッとゴドリーは注意喚起する。 「ゴドー……ワルド先生とは幼馴染なんだ」  ニコニコとキタザトはいうのだが、ゴドリーの考えは違うらしい。 「キタザト先生その情報は、今日の話にはまったく関係がないと思いますが」  冷たいけれども丁寧に言った。もともと三白眼気味の目を、ますます白面積多めにしてキタザトに向けている。  幼馴染、という言葉に内心、驚く生徒も少なくなかった。猫背気味、不健康そうな蓬髪に無精髭、いつも徹夜明けみたいに青白い顔色をしたゴドワルドと、童顔でつやつやして育ちが良さそうな、もっというとゴールデンレトリバーの子犬のようなキタザトが、同じ文化のもとで育ったようとは思えない。年だってキタザトのほうが五歳は下に見えた。  けれどもキタザトは、ゴドリーの反応にはまるで頓着していないようだ。 「それで今日は、僕からの依頼なんだけどね」  やっぱりニコニコと、けれども、困ってるんだと彼は言う。  魔法学園フトゥールム・スクエアには複数の校舎がある。複数、というより、かなり沢山と言ったほうがいいかもしれない。  そんな校舎のひとつに、『旧実験棟』と通称される古い建物があるのだ。木造で、しかもかなりの年月を経てたきたらしく、内部には古木とワックスの匂いがしみついていた。 「旧実験棟は最近ではほとんど使われてないんだ。廃屋みたいなものだよ」  その旧実験棟に骸骨怪物(スケルトン)が現れるという。歩く人型の白骨だ。汚れた歯みたいな黄ばんだ色をして、同じく骨製の剣や盾で武装しているらしい。出現時間は夕方から夜にかけて、いわゆる逢魔が時というやつだろう。 「このスケルトン、おばけとかそういうたぐいじゃなくって、どうも古い時代の魔法実験の残留物かなにかみたいなんだよね……」  首をかしげながらキタザトは言うのだ。そもそも『リバイバル』という立派な(?)霊体種族が存在するこの界隈では、『おばけ』のほうがよほどリアリティがあるのだった。 「つまり、その正体をつきとめて退治してほしい――ということですね」  ゴドリーが締めくくる。一応、教師らしくするためキタザトには敬語で話しているのだが、キタザトのほうは全然配慮していなかった。 「そういうこと! さすがゴド、ワルド先生。冴えてるね」 「冴えてるもなにも、この流れからしたらそれ以外の内容は思いつかんだろうが……ですね、キタザト先生」  ゴドリーの口調は微妙になりつつある。 「旧実験棟は四階建てなんだ。途中、封鎖されている階段や通行止めがあるから回避しつつ進んでね。骸骨怪物の出所は天井裏が怪しいと僕はにらんでいるんだ」  なにせ廃屋寸前の建物だ。床板が抜けたり壁が崩れてきたりと、建物自体が障害になることだろう。天井裏とくればなおさらだ。  そんな足場の悪い状況での探検と戦闘も、きっと貴重な体験になるに違いない! 「頑張ってね。無事に戻れたら、今夜はゴドワルド先生が手料理を振る舞ってくれるそうだよ」 「そんな話聞いてないぞ!」  やめんか! とゴドリーは威嚇するようなポーズを取った。  しかし、 「ところで脳内奥さんはお元気?」  とキタザトに訊かれた瞬間、 「……ノーコメントだ」  ぷいと背中を向けてしまう。  どうもゴドリーも、彼が相手だと調子が狂うらしい。    かくて君たちは、ニコニコ顔のキタザトと背を向けるゴドリーと、傾きかけた太陽に見送られつつ旧実験棟に踏み込むのだった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-04-13
完成 2019-04-24
ゆうしゃのじゅぎょ~★春の嵐だ! 合宿だ! (EX)
桂木京介 GM
「集合」  くぐもった声が聞こえる。フルフェイスの兜の内側から。  その人物は、重そうな白金(プラチナ)の甲冑を着込み、白いマントを肩から提げていた。  兜もやはり白く尖塔型、目の部分だけ切れ込みがあるものの、その奥は影がさし、素顔はおろか瞳の色すらうかがうことができない。  甲冑の人物は教師の【ネビュラロン・アーミット】、女性だ。声からすれば、おそらく若い。  左利きなのか右腰にソードを佩いている。凜として立つその姿は、比較的小柄にもかかわらず殺意というか圧というか、毒蛇のそれに似た凄みがあった。 「指定した用意は、すべて整っているな」  集まった新入生たちの脇に積まれているのは、テントや寝袋など野営具一式と食料、それに大量の薪だった。  もうじき陽が沈む。  甲冑の表面に彫り込まれた金飾りの意匠に、あかあかと炎が照りかえしている。ネビュラロンはかがり火を手にしているのだった。  魔法学園フトゥールム・スクエアはとにかく広いので、敷地内には山も川もある。ここはそんな小川のひとつだ。浅く透明度の高い水が、さやさやと流れている。水辺独特の苔のような香りがしていた。  一行がいるこの場所は、ぐるりと水に囲まれた中州だった。  広さはせいぜい二十メートル四方といったところだろう。足場は主として、丸石の詰まった砂利だ。 「本日もジッセン授業となる」  ネビュラロンのいう『ジッセン』は、『実践』か『実戦』なのかわからない。 「あらかじめ伝えておいたように合宿形式とする。陽が沈みきった時点で開始、明日また、日没が終わった時点で終了だ」  ここまでは聞いていた通りだから、生徒たちはうなずくだけだった。  問題は、この合宿で何をするのか、まだ知らされていないことである。  空はペールブルーに染まっていた。太陽は山の彼方に消えつつある。  ネビュラロンは中州の中央付近に薪をいくらか積み、そこにかがり火の火を近づけた。たちまち乾いた木に火が付き、焚火特有の煙がたちこめる。  黙ったままネビュラロンは足で、地面に軽い盛り土をつくった。  そうして、だしぬけに。  何か拾い上げたかと思いきや、これを盛り土の頂点に突き立てたのである。  丸まっていた布が風に翻る。  一本の旗だった。  地面から突きだしているのは二メートル程度、旗の面積も横一メートル半に縦一メートル程度だろう。白地に描かれているのはフトゥールム・スクエアの校章だ。 「明日(みょうにち)の日没までこの旗を倒さないこと。それが今回のミッションだ。一度も倒さず守り切ることができれば成功とする」  旗が抜けたり倒れたりすればすぐにわかる、とネビュラロンは言った。 「旗には魔法がかけてある。異変があれば即座に、耳を塞ぎたくなるほどの強烈な音と花火のような火柱が立つ」  そうなったら即失格ということだ。 「土塀や木材、荷を積み上げるなどの手段で旗の周囲を覆うことは禁止だ。必ず現状のように、四方から見える状態にしておくこと」  禁を破れば、旗が倒れたときと同じ結果になるという話だった。 「今夜から明け方にかけては晴天が予想されている。雨の心配はない。現状、風も穏やかだ。野営しながら交代で見張れば自然に倒れることはあるまい」  ほっとしたものが新入生一同の間に流れた。鬼教師として名高いネビュラロンのことだからどんな無理難題をふっかけられるかと思いきや、なにやらレクリエーション的な話ではないか。  本日、日中は汗ばむ陽気だったがその分夜は過ごしやすくなると思われる。食料も豊富だし、小川に囲まれた中州というロケーションもいい。この辺りならきっと、美しい星空を楽しめるだろう。  守る対象にしたって、ロウソクのか細い炎などであればともかく、ちゃんと立っている旗なのだ。存分に薪のたくわえもあるし、交代で張り番をすればまさかの事態はないだろう。  この合宿で生徒同士の親睦を深めろ、という話なのだろうか――と思ったとしたら少々甘い判断だったというほかない。 「明日までの二十四時間で、この旗を狙う数度の襲撃を用意している」  穏やかな話ではない。当たり前のように『襲撃』なんていうあたりはやはりネビュラロンだ。 「少なくともその一つは空からだ。のんびり星空を楽しんでいる時間はないぞ」  それと――と、どことなく愉しげにネビュラロンは付け加える。 「天気が味方するのは明日朝までだ。明日午後に入る頃は荒天となる見込みだ」  土砂降り、あるいは大風、はたまたその両方か。雷を伴わないことを祈ろう。  ネビュラロンはきっと、そんな天候を見越してこの授業を組んだのだ。最悪、豪雨と大風の嵐のなかで、襲撃者を剣を交えるという状況もありえる!  サディスト――! と君が思ったとしたら、たぶんそれは間違いではない。 「以上だ。質問は……」  新入生の一人がおそるおそる手を挙げようとしたのだが、 「聞かん。健闘を祈る」  すっぱりと断ち切って、ネビュラロンは回れ右をして薄闇に消えていった。  ぼやぼやしている時間はなさそうだ。もう陽が沈んだのだから。  授業開始だ。  まずは大急ぎでテントを設営せねばなるまい。  襲撃は空から。  しかし地からもあると思ったほうがいい。  さらに思わぬ来訪者もあるかもしれない。  そして最大の敵、天候もたちはだかることだろう。  この厳しい条件下でも君たちは守り切れるか……フトゥールム・スクエアの旗を!?
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-05-04
完成 2019-05-22
【夏コレ!】水着を買いに行こう! (EX)
桂木京介 GM
「夏、だなっ☆」  と【メメ・メメル】校長が君に話しかけてきた。わりと突然に。  それは、あなたが学食でカレーを食べているときだったかもしれず、友達とわいわい校門を出たときだったかもしれず、はたまた、授業中に居眠りして廊下に立たされている最中だったかもしれない。  ともかくメメル校長は凶器サイズの胸を揺らしながら君の眼前に飛び出してきて呼びかけてきたのである。 「夏だな!」  と。  いえまだ間があるような――と、君は冷静に返しただろうか。  イエス! と腕まくりして答えただろうか。  それとも、近くで見るとますますデカいな、とわりと無関係な感想を抱き生唾を飲み込んだろうか……ッ。  いずれにせよこちらのリアクションになどお構いなしにメメルは続ける。 「毎日毎日カクジツに暑くなっており、もう気分は夏なのだ。少なくともオレサマ的には☆」  というわけで、と言ったのだ。 「夏といえば海にプールに川に……とにかくスイミングなのだ。だから水着を買いに行こうぜ! なんならオレサマが選んであげよう☆ むしろ選ばせろ、みたいな♪」  やる気まんまんのメメルに導かれ、君は学園都市のショッピングモール『クイドクアム』に連れて行かれるのであった。  かぎりなく『連行』に近い形で。  さあ、クイドクアムに水着を買いに行こう!    ◇ ◇ ◇ 「水着を買いにいくの~? え~、どうしようかなぁ」  もじもじした様子で【キキ・モンロ】はかたわらの【サラシナ・マイ】に訊く。 「マイは行く~? キキはね、帰りにごはんごちそうしてくれるなら行ってもいいの~」 「お前いつもそれだよな。ある意味ブレないというか」  キキはもう行く気でいっぱいのようだが、マイは乗り気ではなさそうだ。 「オレはあんま興味ないな。わざわざクイドクアムまで出なくても、『アボット』(※制服専門店)で学園指定だか推薦だかの水着買う程度で構わねえし」  え~っ、とキキはイヤイヤをするように左右に揺れる。 「マイも行こうよ。せっかくだもん。おなかもいっぱいになるよ」 「せっかくってったってなぁ。ていうかなぜ食うことが前提になってんだよオイ」  とはいえキキにお願いされるとマイは弱い。 「しょうがねえなあ……」  というわけで首尾良く、君たちの誘いにキキとマイは乗ったのだった。  クイドクアムに水着を買いに行こう!  ついでにご飯もお忘れなく。  ◇ ◇ ◇ 「水着を買いに行くのかい? いやあ、どうしようかなあ」  あっはっは、と錬金術教師【イアン・キタザト】はかたわらの【ゴドワルド・ゴドリー】に訊く。 「ゴドーは行……」 「行くわけないだろ。お前の水着は褌(ふんどし)で十分だ」  ゴドリーは、とりつく島もない様子である。  君たちは一体どうしてしまったのか。気の迷いかそれとも、トリップする魔法薬の匂いでも嗅いでしまったのか。キタザトとゴドリーという、おっさん教師二人組に水着を買いに行こうと呼びかけるなんて! (※キタザトは少年みたいに見えるがゴドリーと同い年である) 「じゃあ褌でいいからゴドーも付き合ってね」 「冗談はよせ」 「だったら褌で泳ぐのと、今から水着を買いに行くの、どっちがいい?」 「そ、それは水着を買いに行くほうが……おい待て」  なぜその二択なんだとゴドリーは言うのだが、いつの間にかキタザトに丸め込まれて、君たちに同行することになってしまうのだった。  クイドクアムに水着を買いに行こう!    なお、フル甲冑を着込んだ素顔不明の教師【ネビュラロン・アーミット】に声をかけた君は、 「…………」  無言の彼女から、ヘルメット越しの凍てつくような視線を浴びる羽目になった。   ◇ ◇ ◇  クイドクアムに水着を買いに行こう!  買いに行こう!  だってもうすぐ夏だから! 理由なんてそれで十分じゃないか。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-06-14
完成 2019-06-25
デート日和のセプテンバー (EX)
桂木京介 GM
 瞳は澄んだ菫色。水気を帯びた眼差しは、見つめる者自身の姿を鏡のように映し出す。  現在、そこに映り込んでいるのはこの学校の学園長、【メメ・メメル】だ。  「ラビーリャたんよ」  はい、と【ラビーリャ・シェムエリヤ】は抑揚を欠いた口調で答える。褐色の肌、銀色の髪、均整の取れたスレンダーな体躯、人形めいた印象を与える少女だ。 「学園生活には慣れたかえ?」 「慣れたといえば、慣れたような」  青い鳥でも探すように、しばらく視線を天井にさまよわせてから続ける。 「……でも慣れていないといえば、慣れていませんね」 「いやどっちやねんっ! っと、一応ツッコんではみたものの、どーもラビーリャたん相手だと勝手がわからんなぁ」 「すいません」  ラビーリャは頭を下げた。やっぱり調子狂うなァ、とメメルは口を『へ』の字型にしてしまう。 「いやいいんだよ、いいんだけど~、その、慣れたような慣れてないような、と思うのはなぜなのか教えてくれんかね、チミィ」  ここは学長室、豪奢な革張りのソファに向かい合って座り、メメルは定例の職員面談をしているのだった。いつも遊びほうけているように見えるメメルだが、代表者らしい仕事もするのだ。たまには。 「私は……用務員ですから……ふだん、あまり生徒に接することがないから、かもしれません」 「それだ!」  ぴょんとメメルは立ち上がった。急に立つとメメルの胸にはもれなく、わさっと揺れるというエフェクトがかかる。 「ラビーリャたん、チミに足りないのは生徒との交流だったんだよ!」 「交流……ですか。直流と交流……?」 「そういうボケいいから、マジでマジで。ともかくなラビーリャたん、資金はオレサマが太っ腹に出してやるから、男子生徒いや女子でもいいけれどもと、デートのひとつでもしてくるのだ!」  そうだそれがいい、となぜか満足そうなメメルなのである。 「デート? ……『日付』ですか?」 「だからそういうボケはいいって、話進まなくなるから! あー、デートというのはアレだよ、ふたりきりで手をつないで歩いたりして」 「はい」 「盛り上がったらチュッチュしちゃったりして♪」 「そうですか」 「イヤ~ンバカ~ンとかしたりもするかも☆」 「急に具体性がなくなりましたね」 「だー! そんなことオレサマに言わせんな! 具体的にアレしろコレしろというのはないけど、要はふたりで買い物なり遊びなりしてこい、ってことだっつーの! いまや夏の暑さも終わって、いいアンバイにおデートが盛り上がるセプテンバーの到来、行くならこのとき! ってやつなのだよ☆」  なんだか勝手に決められているように見えるだろうが、特に疑問をいだくこともなくラビーリャは従うことにした。  ところで、とラビーリャは言った。 「誰と行けばいいんです?」 「ま、誰かいい相手を見つくろっとくよ、オレサマが。誰と出かけるかは待ち合わせ場所までわからんことにしておこう」  当日をお楽しみにっ♪ となにやら嬉しげなメメルなのである。  こういうのを世間では『ブラインドデート』と言うとか、言わないとか。    ★ ★ ★  どうもこのブラインドデートという発想が気に入ったらしい。その後もメメルは、この話を次々と職員や学園上級生に持っていくのだった。 「私が学生と? それ問題になったりしません? 校長公認って……いいんですか? え、隠密指令?」  隠密指令と言われて、【ユリ・ネオネ】は満更でもなさそうな顔をした。 「オレがデート? 校長それマジっすか?」 「マジなのだ。マイたんにはなー、よき先輩として下級生を導く義務があると思うんだよオレサマは☆ な、頼むよ新入生のためだと思って」  当惑した様子ながら、メメルに新入生のためと言われ【サラシナ・マイ】は断りづらそうにしている。 「ヤローと遊んだりするのはいつもやってんだけど……」 「だったら女の子ちゃんとデートするがよい☆」 「オレ女の喜びそうな場所とか知らないんすよ、いやマジで! いや自分も女っすけど……」 「……校長、私は結婚しています」 「脳内で、じゃろ」  痛いところを突かれたらしく、【ゴドワルド・ゴドリー】はくるり振り向いて壁に頭をもたれさせた。 「お~ほっほっほ、どんと来いですわ!」  わたくしにかしずきたい者はどんどん来るといいですことよ、となぜか【ミレーヌ・エンブリッシュ】は自信満々である。  なお、箱入り娘だったミレーヌは生まれてこの方デートらしいデートをしたことがない。 「ごはんおごってくれるならどこでもいくの~! レストランとか」  どこでも、と言いながらレストランと言っているあたり、さすがの【キキ・モンロ】といえよう。 「……」  無言だ。全身甲冑の戦士【ネビュラロン・アーミット】は。 「いや~ん、ネビュラロンたん黙っててこわーい☆」 「そろそろアタシのところに来るって思ってましたっ」  腕組みして【コルネ・ワルフルド】はメメルを待ち受けていた。 「いーですけどアタシは健康的なチョイスにしますからねっ! マラソンとかクロスカントリーとか!」 「それデートか……?」    ★ ★ ★  ころはセプテンバー、涼しくなってきた季節。  メメルの思いつきによるブラインドデートがはじまろうとしている。  どこへ行くかはあなたの自由だ。街で買い物か観光地でピクニックか、まさかまさかのクロスカントリーか!?  お前もブラインドデートにしてやろうか……。  お前もブラインドデートにしてやろうか!! 
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-09-16
完成 2019-10-01
BLACKOUT (EX)
桂木京介 GM
 赤ん坊が泣いている。  いまにも殺されそうといった勢いで、爆発的に泣いている。  かまどの前に立った母親らしき女性はなにもせず、立ち尽くしているだけだ。  火にかけられた大鍋が煮えている。  煮えているなどといった穏やかなものではない。シチューは吹きこぼれる寸前だ。表面には泡がたえず泡が浮かび、破裂してはまた新しいのが生まれている。  赤ん坊は毛布を蹴りのけ、籐編みの籠から飛び出してしまいそうだ。  鍋はもう、軽く手で押しさえすれば溶岩のような中身をぶちまけるのではないか。  それなのに、女は口を半開きにしたままぼんやりとしている。 「ここは……」  まるで寝言のように、ぽつりと女はつぶやいた。  家の戸口には男が立っている。開いたドアを黙って見つめ、こわごわと中をのぞいて、室内に入りかけたものの体を戻した。赤ん坊の泣き声が気になるのだが、自分が行くことにはためらいがあるようだった。 「おうい」  男は間の抜けた声で呼びかけた。 「おうい、なんとかしたほうがいいぞ、あんた」 「え……?」  女は蝋が溶けるように鈍くまばたきすると、周囲を見渡して誰もこの赤ん坊を抱くものがないと知った様子だ。仕方なくこわごわと、手負いの獣に触れるようにして赤ん坊を抱き上げた。  男は首だけのばしその様子を見て、じりじりと後ずさっていった。  ここはどこなのだろうか。  自分は、誰なのだろうか。  あの女は? 赤ん坊は?  あの建物は?  仕事を終えた村人が妻子の待つ自宅に戻ってきた光景――だったのだ。ほんの少し前までは。  村人の背が見知らぬ姿にぶつかった。いやこのとき男にとっては、自分を含むすべてが『見知らぬ』存在であったのだが。  振り向いて、村人は彫像のように身を固くした。  先頭にいるのはヒューマンらしい。襟元までしっかり締めた、濃い紫色のフロックコート、ぴったり七三に撫でつけた髪も紫で、ふくよかな、というより小太りといったほうがいい体型をしている。つま先がとがった緑のブーツを履き、左手には象牙色のステッキを握っている。背はやけに低く、鏡のようにぴかぴかした銀縁の眼鏡をかけていた。年齢不詳だ。年寄りのようでもあるが少年のようにも見える。  強い印象を与えるのは、男に浮かぶニヤニヤ笑いだった。口元からのぞく、荒目のノコギリのような歯が恐ろしい。ヒューマン種のようだからあれは牙ではなく入れ歯だろう。さもなくば自分で削ったというのか。 「あの……あんた様、もしかすっとオラのこと、知りませんか?」 「知らんね」  ダッフルコートの男は、どんと右手で村人を突き飛ばした。小さいのにすごい力だ。村人はたまらず尻餅をついてしまう。  男は歩き出す。  村人はそのまま言葉を失った。  ダッフルコートの男につづいて、幽鬼のような集団が続いていたからだ。十人はいるだろうか。そろって同じ扮装。全身が黒。背はひょろりと高く、手足がまたアンバランスなまでに長い。目にあたる部分にハンカチほどの白い布が垂れ下がっている以外は黒づくめだ。影が地面から立ち上がって歩き始めたかと錯覚してしまう。  もうひとつ村人を怯えさせたものは、影のうち二体が、引きずるようにして、ひとりの男を運んでいることだった。狼ルネサンスの男らしい。ひどく傷つき、顔にも紫のアザがある。これほど血と土で汚れていなければ、耳の毛はきっと銀色に見えただろう。 「つまらんなあ」  ダッフルコートの男――【ガスペロ・シュターゼ】は振り返った。 「そう思わないか?」  振り返った拍子に、ステッキの尖端にぶら下げられたランタンの灯が揺れた。 「一般的な村人の記憶などたかがしれている。奪っても得られる力は微弱だ」  引きずられていた男が、首だけ上げて片目を開けた。 「だったらフトゥールム・スクエアでも襲ったらどうだ? さぞや濃い記憶が集まるだろうぜ」 「知ってるだろう? ルガル君、私はそういう無謀をしないのだよ。『彼』の持っていたものに比べれば、これなんてまだ玩具(オモチャ)さ。実用に耐えるものにするためにはもっと使い込まないとね」 「てめぇには過ぎた玩具だよ、ブタ野郎」  ガスペロは黙って、【ルガル・ラッセル】に近づくとその頬を張った。やはりすごい力だ。鞭で打たれたようにルガルの首は真横を向く。 「立場の違いを考えたまえ、ルガル君」 「……ジャックの小間使いだったてめぇが、いっぱしの悪党気取りか」  しかしルガルには、憎まれ口をやめる気はないらしい。 「こそこそしやがって。しょせん小間使いは小間使いだってことかよ」  ふん、とガスペロは鼻を鳴らした。 「目立っちゃいけないんだ。私はね。殺しや火付けをするわけじゃない。大事件のかげで静かに動く。動いて少しずつ力を蓄える。まあ、しばらくの辛抱だ」 「なら、さっさと俺の記憶を吸い取って力に変えやがれよ」  それができたら、とガスペロは言った。 「とっくにそうしてる」  まだ、夜と呼ぶには早い時間帯だ。夕方にしたって明るすぎる。  なのにガスペロがもつ杖、そこに吊されたランタンには紫色の炎が宿っている。  ◆ ◆ ◆ 「不穏な話があるのだよ」  と【メメ・メメル】は腕組みして言った。  教室の一角、集まった生徒たちを前に、メメルは彼女にしてはめずらしい曇り顔を見せていた。 「チミら覚えとるか? ハロウィンの夜、【ジャック・ワンダー】を筆頭にした一派がリーバメントの町を襲い、巨大な魔法陣でなにかを呼び出そうとしていたことを」  ジャックは、大鎌の先にランタンをぶら下げていた。ランタンから発する炎は、これを浴びた者の記憶を奪う力を有する。  ジャックはフトゥールム・スクエアに倒され、カンテラも魔法陣も破壊された。ジャックの部下【ジョン・ドゥ】も消滅した。唯一、一味のルガル・ラッセルというルネサンスだけが逃れたが、以後目立った行動はしていないようだ。 「それなのにな」  最近、ジャックの力を彷彿とさせる事件が三度、立て続けに起こったというのだ。  いずれも舞台は、辺境の小さな集落だ。ある一日を境に、集落の住民全員が記憶をなくしてしまったという。住民はせいぜい十数人で、村と呼ぶにしても小さい規模だが、集落丸ごと記憶喪失となれば話は穏やかではない。  二度目の事件のおり、偶然村の外にいた住民が下手人とおぼしき集団を目にしている。リーダーらしき人物は紫色の服を着た小男、それ以外は影のような姿だという。 「死傷者が出たというわけではないのだな。物盗りもない……といってもなぁ~、ほっぽっておくわけにはいかんよコレは。記憶泥棒ってのは、金品の泥棒よりある意味ずっとたちが悪いからな!」  集団が訪れていたのはともに、リーバメントよりずっと小さい規模の集落だ。 「小さな集落しか襲う力がないのか。大事件にならんよーにしているのか。んー、しかしとっちめるほかないな、と思うわけだオレサマは!」  一計を案じた、とメメルは言った。 「連中の移動ルートから予測できる地点に、住民が見捨てて廃村となっていた地域があるのだ。ここに罠を張る! つまり村人の振りをして、記憶ボードロを待ち構え返り討ちにするってえ寸法よお☆」  ボードロ? と生徒のひとりが聞いた。 「ギョーカイ用語だよギョーカイ用語♪ 泥棒のことな☆」  なんの業界だ。  メメルの作戦は短絡的だが、案外こういう単純な仕掛けのほうが成功したりするものだ。 「ところで集団が来なかったら?」  また別の生徒が訊いた。 「一週間くらい村人ライフを堪能して帰っといで♪」  オイ。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-03-03
完成 2020-03-22
【心愛】どっきん! 学園バレンタインっ! (EX)
桂木京介 GM
「あっ、いいところに!」  声をかけられて君は足を止める、目の前にあるのは長い長い行列だ。喫茶店のようなところにつづいているようだが……。  その行列のなかほどにあって、おーいおーいと手を振るは、ご存じ『学園のアイドル』こと【エミリー・ルイーズム】ではないか。 「チョコレートサンデー食べない?」  突然のお誘いである。  チョコレートサンデー、勝手に略してチョコサンとは、背の高いグラスに山盛りのチョコアイスを詰め、生クリームやらフルーツやらウエハースやらをずんずん積み重ねてグラスからあふれんばかりにする究極の甘味のことである。 「時間制限つきだけどお代わり自由の食べ放題なんだって!」  チョコサンって、そんなに山盛り食べたいものだろうか。 「バレンタインデーの時期だからね~」  ところでなぜ自分に声をかけたのか、と尋ねると、 「一緒に予約してた子が、急に来られなくなって」  とのことだった。  予約?  ではなぜ並んでいるのかと当然の質問をしたところ、エミリーはごく平然と言い放ったのである。 「予約してても並ぶでしょ?」  そうなの!? 「イベントだものっ!」  並ぶところからもう、イベントははじまっているのだ!  ☆ ☆ ☆  神出鬼没どこにでも登場。学園の廊下、校庭、あるいは教室まで。  登場、【メメ・メメル】が登場! ガラッとドアを開けて!  見るに見かねた様子で、【コルネ・ワルフルド】は言ったのである。 「校長……みっともないからやめてください」 「え? なんのこと? オレサマただお散歩をしているだけだゾ☆」  きらきらと目を輝かせメメルは振り向いた。その首から下に、紐がけした大きな箱を吊り下げている。箱には『義理チョコ☆大募集中!』という露骨すぎるメッセージが殴り書きされていた。  それ、とコルネは箱を指さした。 「あからさますぎます。あと、今は授業中なんですけど」 「コルネたんもくれ♪」 「いやです。ていうかもう、義理チョコという文化はすたれたのでは……?」 「フトゥールム・スクエアでは花盛りの文化ぞよ☆」 「お引き取り下さい」  なにが『ぞよ☆』ですか――と言いながらコルネはメメルを教室から追い出した。  ☆ ☆ ☆  芝生に面したベンチに、【パルシェ・ドルティーナ】と【ルシファー・キンメリー】が並んで腰を下ろしている。 「どうしたのパルシェ? こんなところによびだして」 「うん……実はね、今日はルシファーにプレゼントしたいものがあって……友チョコっていう……あれ?」 「これ?」  すでにルシファーの手には、パルシェが用意していた包みがあった。 「わっ、いつの間にっ!?」  その質問にルシファーは答えない。だってもう開封して食べはじめていたから。大きな板チョコだ。パルシェの手作りらしくルシファーらしき顔が描いてある。 「おいしいな」 「わーっ! だいなしだよ~!」  チョコの上のルシファーの顔はたちまち半分になった。 「いいじゃない、てまはぶけるし」  四分の一になった。と思ったらゼロになった。 「わーん、風情もなにもないよ~」  チョコで口元をべったりと汚したまま、ルシファーはニコリとしたのである。 「あはは、パルシェ、そんなかおしないでよ」  ほら、とルシファーは真新しい包みを取り出したのである。 「アタシからもあるからさ、ともチョコ♪ わらってわらって」  ☆ ☆ ☆  といった感じで、学園のバレンタインが幕を開けた。  あなたのバレンタインデー、あるいはその前後でもいい、どんな一日なのか、それを教えてほしいのだ。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-02-16
完成 2020-03-05
おいでませ勇者様:春の個人MEN DANG (EX)
桂木京介 GM
 ドアをノックする。ちょうど2回。  きみの、握った手が軽く震えている。 「どーぞー☆」  たいへんお気楽な声が返ってくるけれど、きみのほうはそうもいかない。失礼します、と言ったものの、舌はいくらかもつれている。  入る。  イスを引いて座る。  殺風景な小部屋だ。正面の席、ななめがけに座っているのは、フトゥールム・スクエアの学園長【メメ・メメル】だった。春の午後ゆえ眠いのか、まぶたが半分おりている。 「よろしくお願いし……」 「あーはいはい」  さえぎってメメルは言った。 「面接試験といってもだなぁ、はっきしいって形式的なもんだから。普段どーり答えるがヨロシ。むしろ素のチミが見たいので自然に自然に、な♪」 「はい」  きみは少しリラックスした。といっても、メメル校長ほど露骨にリラックスはできないけれど。  じゃあまぁはじめるか、と言ってメメルは眼鏡(老眼鏡? ダテ眼鏡?)をかけて手元の書類に目を落とす。 「えー、まずは『本校を志望した理由』と、『本校に入学したら何をしたいか』について教えてくれたまい☆」 「……志望動機、ですか?」 「そういうこと♪」  困った。きみの胃はきりきりと痛み、額には汗が浮かびはじめた。膝までふるえはじめる。さすがメメル校長、というべきだろうか。まさかこんな質問が来るとは思ってもみなかった。 「あ、あの僕……」 「なんじゃあ? もちっと大きい声で話してくれいや」 「僕、在学生なんですけどっ!!」   えっ、とメメルは眼鏡をかけなおして手元の資料を見た。 「あれ? 今日は学年末の個人面談だったな。オレサマ違う書類もってきちゃった♪ てへっ、メンゴ☆」  ぺろりと舌を出して、進級おめでとうとメメルは言った。 「じゃあ、この一年で学んだことを教えてくれりんこ☆」  ……学んだこと、それは『メメル校長の行動は予測不可能だということ』と、きみは言おうと決めた。  ☆ ☆ ☆  真昼のグラウンド……の一角に設けられた障害物競争のコース。 「はーいじゃあ、その網をくぐってロープに飛びついて~」  首からホイッスルをぶらさげた状態で【コルネ・ワルフルド】先生は言う。 「で、ロープを上まで昇りきったら、壁を乗り越えてジャンプして着地、そこから丸太の橋をダッシュで渡って飛び石に乗る。リズミカルに石を踏んでいって最後は、小麦粉の海に隠されたアメを手を使わずに取るよ~」  簡単でしょ? とコルネは言うが、網は有刺鉄線みたいだし吊り下げられたロープの長さは身長の五倍はあるし、泥沼にかけられた丸太の橋は奈落みたいな高さに設置されているではないか。飛び石の下にいたっては剣山だ。最後の小麦粉の海だって、プールくらいあったりするという過剰なおもてなし精神が発揮されているのである。  ぐっと拳を握ってコルネは勇気づけてくれる。 「大丈夫っ、キミならやれるよ!」  やれるのか? 「アタシも併走するから、面談もついでにやっちゃうよ!」  マジデスカ?  もちろんマジらしい。入学早々すごいことになりそうだ。  ……あと、コルネ先生の交代要員だという、あそこに控えている白い全身甲冑の人がやたらとおっかないのですが。  ☆ ☆ ☆  男は、どかっとカウンター席に陣取る。  真昼の酒場、客はまばらだ。それでも、アウトローや賞金稼ぎ風の連中、傭兵らしき姿がちらほらとうかがえる。  そのすべてが、男と目線を合わさないように顔をそむけた。  それほどまでに、このルネサンスの男に黒い威圧感があったからだ。魔物でも背負っているかのような。  痩せぎすの体。汚れた服。くすんだ銀色の髪に狼の耳。眼光はまるで、研ぎ澄ませた匕首だ。  男はカウンターに何枚かの硬貨を並べた。 「これで提供できるだけの食い物をくれ。あと、水だ」  男の目の前にショットグラスが置かれた。テキーラが注がれる。 「酒はいらん。そこまでの金はねぇ」  しかしバーテンは震え声で、あちらのお客様からです、と告げた。 「……良い子の学園生がこんなとこ来ていいのか」  視線を滑らせ片眉を上げて、面白くもなさそうに男は言う。 「てめぇらとは休戦中だ。飯くらい食わせろ」  礼も言わずに【ルガル・ラッセル】はグラスをあおった。 「話がしたいだと? なら、もう一杯だ」  ☆ ☆ ☆  きみの肩に手が、ぽん、と置かれた。 「……教えて」  平板なその口調は【ラビーリャ・シェムエリヤ】のものだった。  放課後の帰路、出し抜けに背後を取られたので、きみの心臓はバクバクだ。  しかも、 「作り方、教えて……」  などと彼女は言う。きみの頭はさらに、無数のクエスチョンマークで埋められてゆく。  何を? ときみは問い返した。 「こども」  子ども!? 「の、好きそうな料理の、作り方……」   そういうことか。  でも、ときみは考えざるを得ない。  なぜ自分に?  ★ ★ ★  波乱の初年度を経た二年生たちよ。  たくさんの期待といくらかの不安を抱いている新入生たちよ。  春だ。面談の時間だ。  教師、上級生、市井の人たちあるいは旧敵……?  きみと差し向かいで話したい、あるいはきみから語りかけた相手との、一対一の面談がはじまる。  相手はきみに質問するのか、それとも逆か。  丁々発止のやりとりか、暴投連発&命がけのキャッチボールか、きみの過去が明かされる一幕となるのか。  などと考えても仕方ないかもしれない。  なぜってその相手はもう、きみの目の前にいるのだから!
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-04-10
完成 2020-04-27
【新歓】決斗★知恵か勇気かアピールか!? (マルチ)
桂木京介 GM
 一瞬、耳がおかしくなったかと疑ったかもしれない。  分厚い鉄の扉が左右に開かれるやいな、髪が逆立ち服がビリビリ震えるほどの野太い音の塊に圧倒されたのだから!  雷鳴のごとき銅鑼の音。  下腹に響く大太鼓のリズム。  びっしり埋まった観客が刻む荒波のような手拍子。  これにトランペットの嵐まで加わったのだから凄絶だ。校章が描かれた巨大な旗が、右へ左へ龍のようになびいていた。  これは、なんだ。  詳しい説明もないまま君たちは、このまっただ中に放り込まれていた。  熱気で気温が上昇している。満場の注目が痛いほどに集まっている。  コロシアムの中央、拳を左の胸に当て、甲冑の騎士が立っていた。色はプラチナ、金の縁取り、プレートメイルにガントレット、ブーツ、それにヘルメットまで同じ色彩で統一している。たなびくマントも白金だ。 「刮目(かつもく)!」  騎士が突然声を上げたので、きみたちも慌ててこれにならった。すなわち、左右のかかとを揃えた直立の姿勢で、右手を握って胸に当てたのだ。騎士に相対する格好で、横一列に整列する。  音楽が止まった。銅鑼はもちろん、太鼓も金管楽器も。  場内は水を打ったように静まりかえる。  もしかして騎士は、これより公開処刑を行うとでも言い出すのではないか――そんな不安を抱いたとしてもいたしかたなかろう。  されど心配は無用、やがて満場の拍手とともに、学園長【メメ・メメル】が登場したのである。 「あい、あい☆ よしなに、よしなに♪」  女王様もかくやといった優雅さで手を振りつつ、メメルは客席の間を抜けた。そして騎士にして教師【ネビュラロン・アーミット】の隣に立つ。  ちょこんと立つメメルを一見しただけで、この人が学園長だと思う人はいないのではないか。ベイビィフェイスだし胸は風船みたいだし、帽子を斜めがけしてけらけら笑っているしで、どうにも威厳というものがない。  しかし間もなく気がつくだろう。メメルは片手だけでこの大観衆をコントロールしており、何千何万という注目を集めてもけろりとしているということに。全身甲冑のネビュラロンでさえも、メメルの前では小さく見えた。  ようこそと、きみたちに向き直ってメメルは言った。 「ここが学園の誇る屋内型コロシアム『ブラーヴ・オブリージュ』だ! まー、オレサマなんかは『体育館』なんて呼んだりもするけどな☆」  今日はほうぼうから観客を招待したが、ふだんはもっと静かだゾ――などといったことを一通り述べてメメルは続けた。 「ここで新入生のお手並みと、二年目に入った在校生の学習成果を拝見すべく、オレサマはちょっとした趣向を用意した」  だが実際は、『ちょっとした』などと言う穏やかなものではなさそうだ。  メメルが言い終えるやすぐに、きみたちが入ってきたのとは反対側の鉄扉が重々しく左右に開かれたのである。  ズズンと地面が揺れた。客席から悲鳴とも歓声ともつかぬものが上がった  太鼓と銅鑼、そしてファンファーレがカオスに興を添える。  現れた。巨大なものが。  ゴーレムというのであろうか。  身長は成人男性の三倍少々、二足歩行の人型ではあれど人には似ず、顔にあるのは目と口を摸した丸い穴が三つ開いただけ、腕も足もセコイアの木のような巨塊だった。引き締まった体つきだがいささか前屈み、両腕をだらりと前につきだしている。  しかもこの超重量級は三体もいるのだ。 「これはな、ソーセージだ☆」  ソーセージ? 「そう、ビーフ、ポーク、チキンの三種類! ソーセージから作ったゴーレムなのだよ。削いで火を通したら食えるぞ」  そういえばなんとも香ばしい。燻製のような香り、空腹を刺激する匂いがする。 「この三種がチミらの相手をすることになる♪ さっき言った順番で力が強く速度は遅い。つまりチキンが最速ということだな。逆に、ビーフはパワフルということになるわけだなあ」  ソーセージゴーレムと戦えという話なのである。もちろんゴーレムとして強化してあるから、ソーセージそのものの柔らかさではないようだが。 「ここから先はネビュラロンたんから説明がある。闘いが終わったら焼きソーセージでランチといこうじゃないか~」  では♪ などと言ってメメルは客席へと上がっていってしまう。  咳払いして甲冑の騎士が述べた。 「ルールの話もしておく」  最初は気付かなかったが、よく聞くと騎士の声は若い女性のものだ。 「時間は無制限、ゴーレム三体をすべて倒せば勝利、半数以上の学生が戦闘不能に追い込まれるか、この敷地内から逃亡すれば敗北だ。スタジアムは」  とネビュラロンは周囲を示した。広いグラウンドはすべて地続きだが、いくつかのエリアにわかれている。 「中央付近は砂地、移動速度は落ちる一方、砂がクッションになるため叩きつけられたり落下してもダメージは低い」  ネビュラロンは右を向く。 「西のグラウンドは石切場から大理石の柱を組み合わせて櫓(やぐら)状にしてある。敏捷に動ける者には有利な地形だ。ただしゴーレムは容赦なく櫓を破壊するからいつまでも優位は保てまい。落下しようものなら足元は石だ。その先は想像したくないな」  さらに、とネビュラロンは左エリアを指した。 「東には腰までの深さの泥沼地帯を作った。速度は殺されるが落下時のダメージは最小となるだろう。ただ数カ所、トラップとして底なし沼を設けてあることを言い加えておく」  三体同時に全員で相手にするか、二または三グループに分かれて各個撃破するか。戦うとしたらどのロケーションを選ぶか……いささか検討する必要があるだろう。 「学園長の趣味でゴーレムには、歓声に応えて強弱が変化する機構が組み込まれている」  声援が増えれば増えるほどゴーレムの動きは弱体化するという。逆に、聴衆が静まりかえったり、ブーイングが高まればそれだけゴーレムは強力になるというのだ。 「チミらの声は集音の魔法でよく通るようにしておいたからなぁ♪」  こんな風に、と客席からメメルが手を振っている。わざわざスタジアムの端まで移動したらしい。  遠くぽつんと見えるだけなのに、ちゃんと声は間近で聞いているようによく通っていた。多少エコーがかかっているのは仕様なのかメメルのサービスなのか。 「だから格好いい決め台詞や必殺技のボイスがあると、きっと喜ばれるぞ☆ あとポーズな! ヒーローっぽいやつ!」  シャキンとか言いながらメメルはポーズを取ったが、ひいき目に見ても前衛芸術ないし腰痛に効くヨガのたぐいとしか映らなかった。  無茶を言う――ときみが思ったとしたらそれはまぎれもなく正解だ。メメ・メメルというのは基本、無茶を言う人なのである。  そのメメルが立っているのが、銅鑼の前だということに気付いただろうか。両手に、ハンマーみたいなバチを握っているということにも。 「校長の話によればゴーレムは、活火山ほどに歓声を高めてようやく勝てるレベルに設定してあるらしい」  素っ気なく告げると、健闘を祈るとだけ告げてネビュラロンは背を向けた。  ものものしい金属音が立った。ゴーレム三体の足にはめられていた鎖が一斉に解けたのだった。獅子のそれを百倍少々したくらいの声で、三体がうなるのが聞こえた。  そして轟いたのだ。学園長の声が。 「試合、開始ーっ☆」  ほりゃーと振りかぶってフルスイング!  メメルは銅鑼を、思いっきり鳴らした!    決斗(けっとう)の幕が上がる。
参加人数
16 / 16 名
公開 2020-04-28
完成 2020-05-12
霎雨(しょうう) (EX)
桂木京介 GM
 霎の字はこの一文字で『小雨』『通り雨』を意味し、転じて、『ごく短い時間』『またたくま』を指すこともある。  小雨の意味に限定するなら、『霎雨(しょうう)』とあらわすこともできる。  外はまさしく霎雨だった。  さっと降って、もうやみつつある。  けれど空は薄曇りのままだ。  もう一度、降るのだろうか。晴れ間は見えるのだろうか。 「そうか」  腰に回した両手を結んで、【メメ・メメル】は窓の外を見つめている。 「生後まもなくか……あまり聞かない話だが、古来、例がないわけではない」 「ええ、以来、ほとんど外の世界に出されることなく育てられました」  メメルは窓に背を向けると、【メアリ・レイン】をもう一度見た。  白に近いプラチナの髪、整った――いささか整いすぎた容姿、頭上には金の輪。そして、背の翼。  精霊から祝福と呪いの両方を与えられた存在、アークライトであることは明白だ。  メアリは微笑を浮かべている。その笑みはあまりに無垢で、人を疑うことを知らないかのようだ。育ちがよかったのだろうと想像がつく。  けれど、現在メメルが学園長室に飾っているハエトリグサの鉢植えの横に立っていると、ひどく不釣り合いに見えた。  その鉢植えが小玉スイカほどの大きさで、両手の指全部を合わせたよりたくさんあるだけに、なおさら。 「相次いで両親が亡くなったことをきっかけに私は家を出ることにしました。そして、憧れていたフトゥールム・スクエアへの願書を出したんです」 「そんなイイもんじゃないぞ。訓練の名目で、猛牛怪物が襲ってくる鉄の檻に放り込まれたりするし」 「楽しみですわ」 「ハイキングといっては、カビ臭い地下迷宮に閉じ込められたりもする」 「望むところです」 「泥沼に腰までつかった状態で、ソーセージをかためて作った巨大ゴーレムと殴り合いをさせられたりもするぞ」  「ぜひ私も挑戦させてください、その泥沼とゴーレムの試練に!」  メアリは胸の前で両手を握りあわせている。目がきらきらしていた。  そうか、とため息をつくようにメメルは言った。 「ならば……入学を認める」 「ありがとうございます!」 「学園でやってみたいことを教えてくれ」 「訓練ですね。うんと厳しく鍛えていただきたいです。勉強もいっぱいやりたい。掃除などの奉仕活動もがんばります」  ためこんでいた想いがあるのだろう。メアリは勢いこんで続けた。 「広大な学園内の施設も探索したいです。学食でご飯も食べたい、名高き図書館『ワイズ・クレバー』にも行ってみたいです」 「そうか、うん」 「私、お屋敷育ちだったので同年代の知り合いがいないんです。学園でお友だちをいっぱい作りたい。寮の部屋に集まっておしゃべりしたり、お酒を飲んだり……」  もちろん、勇者のつとめも忘れていません、とメアリは言う。 「ジャバウォックを追い払うとか、ゴブリンの襲撃から橋を守るとか……力なき人たちの力になるような依頼も積極的に受けてみたいと思います」 「そうだな。学園におれば、いずれ全部体験できるだろうよ」  だがな、とメメルの口調が重くなった。 「チミは一歳にならんうちにアークライトになったという、つまり……」 「わかっています」  これまで前のめり気味に話していたメアリは、静かに深呼吸した。にこりとほほえんで口を開く。 「現在わたしは二十歳、もう長くありません」  アークライトはヒューマンの変異種である。多数派の人類、とりたてて特長のない種であるヒューマンが、光の輪と白い二枚の翼を授かってアークライトへと姿を変える。一度変化してしまうと、二度と元には戻らない。  この変異は、なんの予告もなく訪れるという。予知夢を見たとか、お告げを聞いたとかいう話もないではないが、大多数にとっては突然のものだ。地域性や家系的なものがあるわけでもない。双子の姉妹であっても、妹だけが覚醒したという例もある。  一種の運命と言えよう。この運命をアークライトは受け入れるほかはない。  アークライトはヒューマンを超えた存在だ。精霊の力を解放することで、一般的なヒューマンとは比較にならない能力を発揮する。長時間ではないが空を飛ぶことも可能だ。これが、アークライトへの変異が祝福と言われるゆえんである。  しかし同時に、アークライトは呪いでもある。  ほとんどのアークライトは、変異してから二十年前後で寿命を迎える。アークライトへの変異は、緩慢だが確実な死の宣告なのだ。 「もってあと一年、長くても二年は残されていないはずです。残り短い人生を、私は学園生活でしめくくりたいのです」  新品の制服を受け取ると、メアリはこれを抱きしめるようにして言った。 「勉強したい。鍛えたい。楽しい思い出を作りたい。誰かの役に立ちたい……これが私の最後の望みです」  それに、と言葉に詰まったものの、うっすらと頬を赤らめてメアリは続けたのである。 「できることなら……素敵な殿方とふたりで、どこかに……デ、デートに行きたく……経験がないので……」 「うむ、わかった。寮の部屋に行くがいいぞ。何人かに、新入生が来たと声をかけておく。みんな協力してくれるよ」  メメルはまた窓を振り返った。 「晴れてきたな」  メメ・メメルは、この地上の誰よりも多くアークライトを見てきた。  だから気付いている。常人ではわからない徴(しるし)に。  ――メアリ・レインは、あと数日で天に召される。  どこがどうと明確に指摘できるわけではない。ひらたく言えば予感でしかない。  けれどメメルの予感は当たるのだ。  こういうときは特に。悲しいくらいに。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-05-19
完成 2020-06-01
大図書館の休日~地獄の蔵書点検 (ショート)
桂木京介 GM
「あー、諸君、図書館は人類の英知の結晶と言われておる。英知な、エッチの結晶ではないぞ☆」 「学園長、駄洒落は求めていません」  ブ~、と【メメ・メメル】はたちまち渋い顔をした。 「エミたん、あのな、そういうときはだな、たとえ面白くなくても『ちゃうやろー!』とかツッコんでおくのが礼儀だぞ」 「そうですか」 「『赤ちゃんのことですか?』とか高度なツッコミを入れるのもアリ☆」 「意味がわかりません」  いつも通りのメメル学園長に決して乗らないこの女性は、エルフタイプのエリアルで、名を【エミ・バナーマン】という。  おそらくこの世界最高峰ともいえるエッ、もとい、英知の結晶、それがこの場所、フトゥールム・スクエアが誇る大図書館『ワイズ・クレバー』である。君たちはそのエントランスホールに集まっている。  図書館はあまりに大きく、その書庫ともなれば並大抵のダンジョン以上の広大さだ。噂では内部には川が流れ谷があり、行方不明になった学生たちが、共同生活している集落まであるといわれている。  当然これほどの規模の図書館だから司書は何人もいる。そのひとりがエミなのだ。  エミの特徴はそのメガネにあるだろう。フレームが大きく、蝶みたいにつり上がった独特の形状をしている。暗い桃色の髪で、前髪の一部を縛ってヘアバンドで巻いていた。一部では『バタフライメガネ』とあだ名されているらしい。 「えー、エミたんが冷たいのでそろそろ本題に入るが、実は今日、わざわざ図書館の閉館日にみなに集まってもらったのはだナ、今日が年に何度かある蔵書点検の日だからなのだよ。ストレートに言うと点検の手伝いをしてくれという話だ」  君たちは『臨時休館日』という札のさがっている図書館に呼び出されたのである。エミとメメルは司書カウンターの向こう側にいる。 「といっても、毎回全部の書籍を点検しているわけではありません。今回は、都市近郊に出没する初級モンスター関連の書籍です」  エミは君たちにリストを配った。 「ここに掲載されている書籍をチェックしていって下さい」  リストの紙束は、えっ! というくらい分厚い。点検対象は図書館の本すべてではなく、モンスター関連の蔵書だけ、しかも都市近郊かつ初級に限られている。それなのにこれだけの人数が必要なのだ。 「見つかったものにはリスト横の四角覧にチェック(『〆』みたいな印)を、ないものにはバツ(『×』)をつけます。簡単ですね」  なるほど、と君たちはうなずいた。アルバイトとしては楽なほうかもしれない。 「バツ印が13個たまるたびに、その本に関連したモンスターが襲ってきます」  なるほど、と君たちはうなず……くはずがない! 「安心してください。本物ではなく、長年図書館に蓄積した紙の精がイタズラをしているだけです。強さは本物と同程度ですが倒せば消えます」  安心できるかー! と声が上がったがエミは無視している。 「中級や上級じゃなかっただけ良いではありませんか」  良くないし! 「大丈夫です。死んだ人はいません。私がここに就職してからは」  最後のそれ付け加える必要ある!?  「本来図書館では大声での会話、食事、戦闘は御法度です。しかし点検日はそれが許されるのです。大いにどうぞ。ただし、他の書籍を傷つけたり書架を倒したり本を燃やしたりはしないでくださいね。それではよろしくお願いします」  それだけ言うとエミは歩き出したのである。 「ついてきて下さい。書庫の該当部に案内しますので」  エミと、問答無用気味に連れて行かれる生徒たちの背を見送ってメメルはしみじみとつぶやいた。 「毎度思うが……あの子には勝てんなあ……」
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-05-24
完成 2020-06-07
【体験】Keep On Runnin’ (マルチ)
桂木京介 GM
 まだ眠たげな太陽が、ぐずぐずと頭の先を見せはじめていた。  夜の黒はグレーに、ついで群青色から淡いブルーへ、いちいちもったいぶるみたいにじわじわと変化していく。  大地に突き立てた剣、その柄に両手を重ね、白いマントの騎士が立っている。  全身白銀の甲冑だ。ブーツも、ガントレットも、ヘルメットにいたるまで。バイザーとマスクに覆われた顔はうかがうことができない。  一瞬、置物かと疑ってしまうほど微動だにせず、教師【ネビュラロン・アーミット】が待っていたのだった。 「よく来た」  背に旭日を浴び、ネビュラロンは静かに告げた。  まるで張りつめた弦、その凜然たる響きに生徒たちは思わず居住まいをただす。  どちらかといえば小柄な女性教師なのに、ネビュラロンの放つ威圧感たるやすさまじい。抜き身の剣を喉元に突きつけられているように感じた者もいたことだろう。 「本日の授業の目的、それは体力作りである」  来た――目配せしあう生徒たちがいた。数日前から告知されていたのだ。まさかとかマジかとか言いたい。  これから暑くなるというのに、よりによって……! 「先日予告したはずだな。体力作りとして、『マ』ではじまり『ン』で終わるハードなジッセン授業を行うと」  ここで出た『ジッセン』はネビュラロンがよく用いる表現だ。『実践』と考えるのが常道だろう。新入生だったらきっとそう考える。  しかし在校生ならこう考える。『実戦』だと。毎回とんでもない授業を行ってきたネビュラロンだからありえる話だ。  それにしても、『マ』ではじまり『ン』で終わるハードな訓練とは――。そんなの『マラソン』以外思いつかないじゃないか! 「あ……『マンドリン』とか?」 「マンドリンか、マンドリンはハードだよなー」  と小粋な会話を交わした生徒たちがいるが、ネビュラロンにはまるきり無視された。 「フルマラソンの距離を走破してもらう。だがジッセンだからな、ただ走るだけではない」  早々に『マラソン』と言っているあたり全然隠す気はないらしい。かく告げてネビュラロンは振り返った。 「では……キタザト先生」 「はい~」  すると草葉の陰からよろよろと、やはり教師の【イアン・キタザト】がまろび出たのである。  彼は小柄な童顔の教師で、しばしば生徒と間違われるルックスである。  といっても、それは通常時であればの話だ。  なぜならこのときキタザトは、ネビュラロンそっくりの鎧とヘルメットを着込んでいたからだ。ヘルメットの顔は開いており、肩から手、膝から下の装甲はない。それでもネビュラロンによく似ている。 「どうですか先生、着心地は」 「まったく良くないよう……」  イアンは半泣きである。 「走れそうですか」 「これすごい重いんだもんこんなの無理……いや、まあ関節だけはよく動くんで移動はできるけど……」 「申し訳ない、キタザト先生、こんな扮装までしていただいて」  言葉こそ丁寧だが、ネビュラロンの口調は氷のように冷ややかである。  は、は、は、と乾いた声でキタザトは笑った。 「いやあ、ネビュラロン先生のためなら、たとえ火の中水の中、ですよう」  などと言っているがこちらも、まったくもって声に気持ちがこもっていないのは丸わかりだ。どうも『言わされている』印象である。  さて、とネビュラロンは生徒たちのほうに向き直った。 「一人一着用意している」  何を? などと野暮を言う生徒はいない。 「コースも三つ用意した」  コースって? と生徒の気持ちを代弁するようにキタザトが言った。 「山、川、森」  ということらしい。  山は、急勾配を登っていく道のりだ。登りと下りを繰り返す構造であり、登攀(はん)路はこの世のものとも思えぬほど苦しい。ただし下りになればかなり楽だということだ。  川は容易に想像がつくだろう。急流や滝、ゆるやかな小川などが交互に現れる水辺の道だ。川に入って進むことも可能だが足元がおぼつかない。ただし涼しいことは間違いないだろう。  そして森、これは鬱蒼と茂る木々を抜けながら走るコースということになる。体力回復する果実も得られたりするが、木々が邪魔である上に倒木なども進路を妨害する。 「おのおの好きなコースを選ぶといい。せっかくなのでコースごとにチームとなり、対抗戦をするものとしよう。最初にゴールにたどりついたチームには栄誉が与えられる。ただし、同じチームの全員が走破できたときだけだ」  迷惑なことに各コースには敵も生息するらしい。  山にはアーラブル、突進攻撃を主とする猛牛のような野生の獣が出る。バイソンをずっと大きく凶暴にした動物を想像するといいだろう。直線攻撃しかしてこないが、その突進力はすさまじい。  川にはアスピレイトランプレイの生息地がある。ヤツメウナギに似ているがずっと大きな怪物で、体にからみつき精気を吸い取ってくる。妙にいやらしい絡み方をしがちだそうだが……幸か不幸か鎧が役立つだろう。  森は怪異の巣窟だ。餓鬼、ケットシー、リザードマンなど、そこまで強力ではないが数が厄介なモンスターが次々と襲ってくる。多少知能がはたらくモンスターなら、罠をしかけてくるかもしれない。 「それってマラソンなのかなぁ……クロスカントリーとかトライアスロンに近いような気も……」  キタザトの疑念ももっともであろう。 「困難ばかりではない。各コース途中にいずれも一人、諸君の訓練を助ける助っ人が待っている」  頼もしいことだ。お助けキャラがいるということなのだから。  山コースには教師【コルネ・ワルフルド】が待っている。近道のヒントをくれたり、栄養ドリンクを出してくれたり、傷ついた生徒には簡易の治療をほどこしてくれるという話だ。きっと助けになるだろう。  川コースでは学園長【メメ・メメル】が遊んでいる。メメルは自分本位で気まぐれなため、役に立ってくれるかどうかはわからない。むしろイタズラを仕掛けてくるかもしれない。お助けキャラの定義とは一体……。  森コースにいるのは用務員【ラビーリャ・シェムエリヤ】だ。何をすれば助けになるのか彼女はいまいち理解していないようだが、うまく意思が通じれば近道や安全なルートを教えてくれるかもしれない。 「いずれのお助け役にも、あのルール……えっと、なんでしたっけ先生?」 「『マ』ではじまり『ン』で終わる言葉、そのキーワードにあてはまる援助に応じてもらえるよう頼んでいる」  まさかここでまたこのキーワードが出るとは! 「糖分補給に『マカロン』を出してとか頼むとか……いやいや、『マイルストーン』(道標)を示してほしいと頼むとか……うーん」  キタザトは腕を組んで考え込んでいる様子だ。こうして見ると、ネビュラロン風鎧を着込んでいても、それなりに動けるということはわかる。  ざわめく生徒たちをよそに、ネビュラロンはやはり静かに問いかける。 「コースは選んだか。ぐずぐずしていると陽が高くなる。その分道中は厳しくなるぞ」  こうしてはいられない! 急いでコースを選び、山または川ないし森、同じチームの仲間と力を合わせて他のチームより先に栄光を目指すのだ! ……あんなアーマーとヘルムを着込んだ上で。  走れ! 走り続けろ! Keep On Runnin’ だ!
参加人数
15 / 16 名
公開 2020-06-12
完成 2020-06-28
いきなり! 素敵 (ショート)
桂木京介 GM
 学食片隅、本来は一人がけであろう狭いテーブルに男性教師ふたりが向かい合って座っている。 「……狭いんだが」  自作手作り弁当を【ゴドワルド・ゴドリー】はぐいと押し出した。静かに食事していたところに押しかけられ迷惑している、と表情で示している。  あきらかに『あっち行け』というメッセージだというのに、【イアン・キタザト】たるやどこ吹く風で、 「そう? 僕は狭くないよ」  自分の皿を中央に寄せたのだった。ハンバーグと唐揚げがこれでもかという勢いで乗せられたカレーだ。ぼこぼこにビーフが入った肉々しい作りだが、野菜の姿はまるで確認できない。強いて言うならつけあわせのコーンくらいだろうか。 「よくそんな子どもみたいなものが食べられるな」  ゴドリーの弁当はとてつもなく地味だった。じゃことごぼうのまぜごはんのおにぎり、ひじきとツナのトマト煮、さらにピーマンの焼きびたし、申し訳程度に入っている魚もイカナゴのくぎ煮だったりする。全体的に茶色い。でもカロリー低めで栄養価は高めだ。 「いいじゃん、僕子どもだし」 「……同い年だろ」 「パルシェくん(※【パルシェ・ドルティーナ】)と? 僕そこまで若くないよ」 「俺と! 同い年だろ!」  これは事実だ。おなじヒューマンだというのに、どこかくたびれた姿で歳相応、いやへたすると実年齢以上の容貌のゴドリーと、学生それも入りたてにしか見えないキタザトの間には大きな隔たりがある。 「やだぁ、ゴドーったらめずらしく『俺』なんて言っちゃって♪ こわーい♪」 「……もういい。少し黙っててくれ」  あと、『ゴドリー先生』と呼べ、とゴドリーは一言つけくわえた。 「ところでさぁ、あのうわさ聞いた?」 「聞いてない」 「即答だねぇ。で、学園777不思議のひとつなんだけど、昔ね、演劇部だかファッションショー部だかが使っていた小さな野外劇場跡があってね。裏山のほうに」  私が興味あるかどうかは無視なのか……と、ぼやくゴドリーをよそにキタザトは続ける。 「そのステージのランウェイ……あ、ランウェイっていうのは、舞台中央に設置されてる、客席にせり出すようになった幅が狭い部分ね」 「……それくらい知ってる」  無視するつもりだったのについ、ゴドリーも話に引き込まれている。 「で、満月の晩そのランウェイを歩くと、どこからともなく『いきなり!』って呼び声がかかるらしいんだ」 「お前それ真面目に言っているのか」 「そこで求められるのは何かを披露すること! それこそ一芸であろうとギャグであろうと、自分の夢を語ることであろうと、好みの女性について熱く叫ぶことであろうと……なにか魂を震えさせるような自分だけの表現を繰り出すんだ」 「意味がわからんのだが」 「最高の栄誉は『素敵』、これを得た人にはこんがり焼いた分厚い牛ヒレ肉にありつけるみたいだね。『素敵』だけにステー……」  駄洒落にしてもベタすぎる、とゴドリーは頭を抱えた。 「それに『素敵』の評価を得られれば、どんな願いもかなうと言うよ」  くだらん、と弁当を平らげてゴドリーは立ち上がった。 「えー、でもゴドー、語ってみたらどう? ほら、脳内奥さんのこととか……ひょっとすると願いだって……」  その話はここまでだ、とぴしゃりとゴドーは言って去る。 「……そもそも『学園777不思議』てなんだ。初耳だぞ」  翌日。やはり学食。 「どしたのゴドー、元気ないね?」  ゴドリー先生だ、とつぶやくように言うゴドリーは、いつもに増して顔色が白く、いつもに増して疲れているように見えた。 「……『いきなり!』につづいて『無駄なあがき』などと言われたぞ……おまけに干し柿が飛んできた……干し柿だと……」  死んだような目でゴドリーは弁当箱のふたを開けた。  少々焦げたトーストが一枚きり入っているだけだった。今朝は弁当を作る時間がなかったのだろう。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-06-10
完成 2020-06-18
怪奇! 枕おとこ (ショート)
桂木京介 GM
「抱き枕?」  と教師【ゴドワルド・ゴドリー】は言った。 「普通に使うぞ。あれは腰痛にいい」  なぜか得意げに腕組みする。生徒たちがヒソヒソと、先生の脳内嫁っていうのはまさか……! とささやきを交わしていることには気付いていないようだ。  放課後、たいていの生徒が下校して、ガランとした教室に夕日が差しこんでいる。  教卓のところにゴドリー、最前列にわずかな生徒たちというのが現在の図式だ。  五十人は入る広い教室なだけに物寂しいものがあった。  赤葡萄のような太陽を浴びながらゴドリーは軽く咳払いした。 「脱線してすまん。枕の話だったな。話のまくらではない。枕が本題だ。枕は枕でも枕にまつわる怪奇現象だ」  このときゴドリーは『怪奇』の部分にアクセントを置いていた。 「フトゥールム・スクエアの敷地内に、使われなくなって久しい合宿所がある。『カブト虫荘』という。炊事場なども付属しているがメインは畳敷きの広い部屋ひとつだ。中央がふすまで仕切られており、外せばちょうどこの教室ほどになる」  それなりに広く、設備のととのった場所のようだ。なぜ使われなくなったのだろうか。 「使われなくなった理由か? 簡単だ。建物の周囲に何もないからだな。グランドは遠くトレーニング設備もない。校舎から遠いわりに風光明媚でもないし夏は蚊が多い」  つまり利用価値がないということだろう。 「ゆえに教職員の一部以外には忘れられた場所だったのだが、このところカブト虫荘に妙な噂が立つようになった」  一拍おいて、ゴドリーは声をひそめて告げた。 「……出る、らしい」 「カブトムシがですか?」  という生徒の回答に、おいおい、とゴドリーは言ってゼスチャーまじりに告げた。 「これだ、これ」  こういう場合のポージングは、肘を曲げ、両手を揃えてたらりと垂らし手の甲を見せるというものになりがちなのだが、この人は両手をパーにして左右のこめかみに親指を当てるという、オリジナルならぬ俺ジナル感強めの姿勢であった。 「変質者が出るという話ですか」 「いや見ればわかるだろう! おばけだ、おばけ! 怪異現象! ホラー!」  いないいないばあっ、ってやってるようにしか見えないが、これがゴドリー流なのだろう。つっこんではいけない。 「どうもなこのカブト虫荘には、リアルが充実しているやつ、つまりリア充を許せないという怨念がうずまいているらしく、宿泊者が夜中、リアリア充充的な行動をしていると怪奇現象が襲ってくるというのだ」 「質問、リア充的行動ってなんですか?」  すかさず飛んできた質問に、うぐっ、と一瞬ゴドリーは固まったがやがて言った。 「男子ならほら……す、好きな女子の話とかするんだろ? 寝床で」  皆まで言わせんな、とでも言いたげなうつむき加減だった。頬が赤いように見える。黒いロン毛に青白い肌、鋭い眼光のゴドリーの照れ――イチゴをシチューに入れるような不気味さがあった。  じゃあ女子なら、という質問には、うってかわって即答だ。 「好きなアイスクリームの種類の話でもすればいいんじゃないかな」  それリア充ですか? という疑念を投げかける勇気のある者はいなかった。  怪異現象はふすまがすべて消失することからはじまる。  つづいて押し入れががらりと開き、大量の枕がこぼれ出てくるというのだ。 「西側の押し入れが諸君サイドだとすれば反対の東側が怪異サイドだ。東側からは枕だけではなく、温泉旅館の浴衣を着た怪物たちがぞろぞろが出てくる。ぜんぶ人間大だが頭だけは甲虫だ。しかも口々に『おのれリア充』『成敗してくれる』などとわめきながら枕を投げてくる」  どうやら全部オスらしいな、とゴドリーは言う。 「さしづめ『枕おとこ』とでも呼ぼうか。こちらも枕を投げて対抗するのだ」  怪奇とか恐怖とかいうより楽しそうなのだけど……と言う生徒がいたが、遊びではないぞ、とゴドリーはたしなめるのである。 「怪異現象を鎮めるのがお前たちの使命だ。ゆめ、あなどるなかれ。武器や魔法を使うのも自由でありそれを躊躇しないなら簡単だが、相手が枕でくる以上、こちらも枕で対抗したいものだな」  たくさん枕を受けるとカブト虫は気絶してしまう。特に顔面へのヒットはダメージが大きいらしい。なおこの条件はこちらも同じだ。 「最後まで立っていた側が勝利だ。枕おとこたちを見事倒してみせろ」  なお朝日が差すとタイムオーバーで強制終了となる。その場合は失敗とみなされるだろう。  くわと鋭い眼光でゴドリーは言う。 「なんにせよ疲れることだろう。枕だけにピロー(疲労)というわけだな!」  これがギャグだと伝わるのに、何秒か必要だった。  伝わったところで受けるわけでもなかった。
参加人数
4 / 8 名
公開 2020-09-17
完成 2020-10-01
contraband (ショート)
桂木京介 GM
 木の根にでも乗り上げたか、馬車は縦に大きく跳ねた。  幌車の内も無事では済まない。積み上げられた木箱がかしぎ、ひとつが【ルガル・ラッセル】の足元に落ちている。  この世のあらゆるものを罵る言葉を短くつぶやくと、ルガルは額の脂汗をぬぐった。  ますます効きが悪くなってきやがった。  少しでも気を抜けば一気に戻ってしまいそうだ。  ――獣(けだもの)の姿に。  手を伸ばせば届く場所に例の仮面はある。白く、穏やかな表情をした聖女をかたどったものだ。あれを顔につけ数呼吸もすればたちまち、この苦しみから解放されることをルガルは知っている。  だが仮面に頼りたくはなかった。  かつて仮面の効果は高く、一度かぶれば数日は穏やかな気持ちでいられた。なのに現在ではもって半日、下手をすれば数時間せぬうちに新たな発作が襲ってくる。  少しずつ、少しずつ仮面に異存せざるを得なくなっているのだ。  待ち構えている運命はおそらく二つしかない。  獣か。  隷従か。  燃えさかる石炭の上を素足で歩くがごとく、破壊衝動に灼かれつづける獣人に逆戻りするか。  人の姿ではあれど仮面――それはとりもなおさず仮面の作り手【ナソーグ・ペルジ】とイコールである――に隷従するか。  いずれかを選ぶしかないのだろう。  吐き気を抑えるようにしてこらえる。仮面に伸びそうになる右手首を左手でつかむ。汗がしたたり落ちた。いましばらくだ。いましばらくこらえれば衝動は消える、そう信じながら。 「ルガル」  音もなく幌をめくり、小男が馬車に這い入ってきた。  御者台から器用につたってきたようだがルガルはとくに何も言わない。 「顔色が悪いな。大丈夫か」 「……じき収まる」 「そうは言われてもな」  小男は片目をすがめた。  小男はヒューマンだ。中年というより初老、頭はまことに髪が少なく山芋のようにこぶだらけ、目ばかりぎょろついていて歯並びもひどい。ずいぶんな悪相だ。着ているものも麻の粗衣で風体のあがらぬことこのうえなかった。しかしどことなく愛嬌があるのも事実だった。 「肝心なところで役に立たないようじゃ困るぜ」   男――【アーチー・ゲム】は言うも、ルガルは無造作に手を振る。 「給金に見合う働きはする」  ようやく発作が鎮まりはじめた。ごろりと横たわってつづけた。 「蛟(ミズチ)が数体と言ったな。その程度なら案ずるには及ばん」 「けどよ……」  不審顔のゲムを片手を挙げて制し、ルガルは言った。 「ずいぶんあるな」  背後の木箱を眼で示す。ぎっしりと積み上げられたものだ。これを輸送することが旅の目的である。 「中身は薬草だぜ」 「よく言うぜこの悪党が」  苦み走っていたルガルの顔に皮肉な笑みが浮かんだ。 「ただの薬草運びにこんな危ねぇルートを使うやつがいるかよ。しかも俺みたいな男を用心棒に雇って」  禁制品だろうが、と断じるもそれ以上ルガルは追求しなかった。破格の報奨金に口止め料も含まれていることは百も承知だ。 「悪党? 俺は商人、求められて荷を運んでるだけだ。需要あるところに供給ありさね」  ゲムもクックと喉の奥で笑って、 「それに薬草って言ったのはある意味嘘じゃない。常用性はねぇが痛みや憂さを晴らしてくれる。どうだルガル先生よ、ご所望ならひとつ、格安で譲ってもいいが」 「いらん」 「病気なんだろ? 少しはマシにしてくれるぜ」 「俺の『病気』には効かねえ」  そんなものでごまかせるのであれば苦労しねーよ、と言いながら無意識のうちに、枕代わりにしているザックに手が伸びている自分にルガルは気付いた。  舌打ちして手を引っ込める。  仮面を取り出そうとしていたのだ。  またひとつ、大きく馬車が跳ねた。  しかも斜めに傾いて制止する。 「ちっ……!」  なんだ、と立ち上がろうとしたゲムにルガルは鋭い一瞥をくれた。  人差し指を立て唇に当てる。 「父様(とうさま)!」  ばっと幌がはためき少女が飛び込んできた。剽悍(ひょうかん)と表現したくなる鋭い目つきに赤い髪、よく日焼けしている。右手には弓、背に矢筒があった。 「罠です。車輪が沼に……包囲されています!」 「包囲!?」  娘を押しのけてゲムは幌をはね上げて首を突き出し、すぐに首を戻した。 「マジかよ……やつら、待ち伏せしてやがった」  おい、とゲムが目を向けたときにはすでに、ルガルは片膝立ちの姿勢となっていた。腰の剣も払っている。 「ゲム、てめぇ言ったよな。蛟が出る地域をかすめるかも、って。……なにがかすめるだ馬鹿野郎! 生息地のど真ん中じゃねーか!」 「早く着くにはこれしかなかった」  ゲムは蒼白だ。ルガルは返事を待たずゲムの娘に言った。 「小娘、やつらは何匹だ」 「小娘ではない。あたしには【ヒノエ】って名がある」 「うるせぇ! 何匹だ!」 「三十……はいる。もっとかも」  蛟(ミズチ)は爬虫類から派生したと思しきモンスターだ。顔はトカゲそのもので鱗に覆われ、鋭い牙、そして長い爪を有する。沼沢部に生息し二足歩行し身長は150センチ程度、黒ずんだ灰色でずんぐりとしており、亀のような甲羅を背負っている。  ゴブリンよりは知性があるがコミュニケーションを取るのは不可能に近く、性質はきわめて残忍とされている。  五、六体の小規模集団で行動するのが常だというが、今回ばかりは例外のようだ。複数の部隊が待つところに飛び込んだだけかもしれないが。  ひゅ、と音がして馬車の車体に何かが突き立った。矢だ。 「相手が多すぎる。しかも馬車は動かねぇと来たか」  厄日だな、とつぶやいてルガルは幌に手を掛けた。 「娘、てめえはオヤジを守れ。俺が突破口を切りひらく。そこを抜けて走るんだ」 「積み荷は」  ゲムが口を挟んだ。ルガルは即答する。 「あきらめるんだな」 「やつらを追い払おう! あたしも戦える!」  ヒノエが意気込むもルガルは大喝した。 「くたばる気か! 相手の数を考えろ!」  わかったな! と言って車外へ飛び出さんとしたルガルだが、幌から半身を出したところで身を強張らせた。  ミズチたちが動揺している。一角では戦闘が始まっていた。  見覚えのある制服姿。きらめく刃と魔法。 「フトゥールム・スクエアかよ……積み荷を追ってきたのか」  疫病神め、とルガルは毒づくとゲムに顔を向けた。 「雇い主はお前だ。選べ」 「選べ?」  そうだ、とルガルは言った。 「先に蛟を始末するか、亀どもに乗じてフトゥールム・スクエアを始末するか」
参加人数
6 / 8 名
公開 2020-10-21
完成 2020-11-07
怪獣王女☆出現 (ショート)
桂木京介 GM
 このおじいさんに名前はなくても話は進むのだけども、なければないで語りにくいので仮に、【ガリクソンさん】(80)としておこう。  ガリクソンさんは行商人である。両天秤状のかごをかついでえいほえいほ、峠の中腹まできたところでいつものように一休みした。  あつらえたような位置にある平らな岩に腰を下ろし、これまたいつものようにキセルをとりだして口にする。  といってもこのキセル、中身は空なのである。ガリクソンさんが禁煙してもう長い。慣習として一服しているだけなのだった。ガリクソンさんがタバコをやめるまでの物語も波瀾万丈だったりするわけだが、本編にはまったく関係ないので割愛する。  空気を吸って空気を吐きだすだけ、それでもプカーとやるとそれなりに落ち着くのだから不思議だ。  しかし老人の平穏はにわかに破れた。 「ヘイボーイ!」  舌っ足らずな声がして、茂みかきわけがさがさと、妙な格好の女の子がガリクソンの前に飛び出したからだ。 「コズミックエッグよこすのじゃ!」  十歳はたぶん超えていない。ぶあつい桃色のガウン、襟と袖のところは白くモコモコしていて、バラのような派手な襟飾りもついている。ベルトは金色でむやみに太く、ブーツもやはり金ぴかだ。金といえば髪もゆたかな巻き髪のブロンド、てっぺんに王冠をいただいている。  仮装がどうのという時期はもう終わったと思うが。  ガリクソンさんはあっけにとられた。そうするしかなかった。  しかし少女は許さない。豊かな髪から飛び出したトカゲっぽい耳をひくひくさせてもう一度言った。 「コズミックエッグよこすのじゃ!」  目がくりっと大きくて口が小さく、びっくりするくらいの美少女だ。なんか歩くたびに『きゃるん』とか音が立ちそうな。  ゆえにわけのわからさなさも倍増である。なんのことだろう。そんなコズミックなもの(?)の心当たりは当然ない。老人は首をかしげるしかなかった。  かごの内側がちらりとのぞいた。  卵がたくさん入ってる。ガリクソンさんのあきないの中心を占めるものだ。 「よこすのじゃ!」  得たりとばかりに少女は近づいてくる。  物盗りか? 素直に頼めばひとつくらいあげてもいいが、そういう平和的な雰囲気ではないとみた。そもそも少女からは、ただ者ならぬ闘気(バトルオーラ)が立ちのぼっているのである。 「ふぬう……さすればこのガリクソン、腕に多少の覚えあり」  ガリクソンさん八十歳は上半身をはだけた。大小さまざま無数の戦傷(いくさきず)、肉は落ちたが引き締まった骨格はなお健在、天秤棒をからりと外せば、たちまち六尺棒に早変わり。  ひゅんと棒を回してぴたりと止める。構える。攻防一体、人呼んで豹の構えだ。  これで逃げてくれればいいがと老闘士は思った。  生涯独身、孫はもちろん子も持ったことのないガリクソン(若い頃のあだ名は『棒術の鬼』)だが慈愛の情に厚い。子ども相手に蛮勇はふるいたくなかった。  しかし少女は恐れない。 「やる気のようじゃの!」  と言って、お人形さんみたいな顔にニヤリとした笑みを浮かべた。 「わちきは怪獣王女☆ 邪魔だてするなら容赦しないのじゃ!!」  少女は、長手袋をはめた両手を交差させガウンの内側につっこんだ。  * * * 「……それで、すべて奪われたということらしい」  商売道具を、と言ったのはフトゥールム・スクエア教師【ゴドワルド・ゴドリー】だ。 「怪獣王女と名乗った謎の少女は、桃色の卵をいくつもふところから出した。投げるとそこから桃色の怪獣が出てきたという」  見た目が恐ろしいモンスターではなかった。むしろ逆だということだった。特に似たモンスターはなくしいて言えば二足歩行のドラゴンといった形状だが、白みがかったピンクでぷにぷにとした、つぶらな瞳の『どらごん』というのが適切だろう。このお風呂のおもちゃみたいなのが何体もあらわれキュウキュウと鳴きながら迫ってきたという。 「で、キュウキュウと鳴きながらガリクソン氏を血祭りに……」  見た目とちがって凶暴らしい。注意したい。  ガリクソンさんは無事ですかと生徒の一人が聞いた。 「氏は『どらごん』のあまりの可愛さに抵抗できずボコボコにされたそうだが」  入院はしたものの元気にはしているようだ、とゴドリーは言った。  どらごん(仮称)は一応竜らしく火も吹くそうだ。温度は種火くらいのものらしいがもちろん食らえば熱い。 「コズミックエッグとかいうものについては、ざっと当たってみたが該当するものは見つからなかった……一体なんのことやら。とりあえずこの怪獣王女というのをおびき寄せ、奪われたガリクソン氏の荷物と六尺棒を取り戻すことが使命だ」  健闘を祈る、と普通に言えばいいのにゴドリーはここでどうしてもひとボケしたかったらしい。 「健康を祈る!」
参加人数
6 / 8 名
公開 2020-11-10
完成 2020-11-28
ヒノエ・イン・ザ・シティ (ショート)
桂木京介 GM
 きらびやかな盛り場もひとつ角を曲がろうものなら、たちまちのうちに黒と灰色の二色に沈む。  夜の黒。  石畳の灰色。  路地裏の色だ。  ときたま駆け抜けていくネズミとて、その二色のいずれかである。  チーズのかけらでも見つけたか、足を止めたネズミが泡を食って壁の穴に飛び込んだ。  漏れる薄明かりに照らされて、赤い姿が歩みきたる。  少女だ。真紅のドレス、炎のような赤毛、履いているヒールすら太陽の舌のよう。不器用ながらメイクをしている。どうやら年齢以上に見せようとしているようだが、その試みは成功しているとは言いがたい。十代、それもせいぜいなかば頃だろう。  「うむ」  少女――【ヒノエ・ゲム】は腕組みする。  そろそろやるか。  空腹で目まいがしそうな気分だが、気力で忘れることにする。  それにしても左腰が寂しい。背中もだ。弓と矢筒、それに矢まで残らず質屋に出したのは失敗だった。森で食料を調達するのもままならない。まあこんな都市(まち)の近辺で、まともな獲物がとれるか疑問ではあるが。  さっと前髪を直してきっと視線をただし、できるだけ内股で歩き出す。レディーというのはそういうものだと父親に聞いたことがある。  建物と建物のあいだから観察して、手頃な相手を物色した。  間もなく見つかった。単独の男、酒に酔っている。  毎回ここでためらう。知らない男に声をかけることにヒノエは慣れていない。ましてや弓も矢もない丸腰では。  それでもおもむろに歩み寄り、 「あー、時間は、あるか。お前」  唐突にもほどがある口上を男に述べた。 「私はいま、とても暇だ。よかったら、あー、遊ばないか?」  視線が平泳ぎからクロールへと転身を遂げる。我ながらアホかと思う言葉だが、これが案外効果があるらしい。  男は、ちょっと一杯引っかけて帰るところといった風体だ。あまり頭髪は豊かではない。腹も出ている。激安っぽいジャケットが悲しいくらいよく似合っていた。 「うんぁ?」  男は湿り気のある視線でヒノエを見た。ニワトリの品定めをするような視線だ。  なんだガキじゃねぇか、という気持ちがないわけではなかった。きゅっとした猫目、眉は長い。鼻は低いものの顔はまあまあ可愛いほうだろう。でも衣装は全然似合っていない。野育ちといった感じでどうにも垢抜けない。  しかし――だがそれがいい、という気持ちのほうが勝った。男の鼻の下がにょきにょきと伸びた。  田舎うまれの家出小娘が背伸びしているのだろう。もしかしたら今夜の宿もないのかもしれない。連れ込んであれやこれや……想像がむくむくと育っていった。 「よし、おじさんが遊んであげよう」 「そうか。こっちだ」  ヒノエが先導し男を裏道に連れ込んだ。  数分せぬうちにグエという声がした。  ヒノエは男を見おろし、手にした財布を調べている。男は白目をむいており、麻の紐で丁寧に縛られ転がっていた。 「これだけか!?」  機嫌の悪い牛みたいにヒノエはうなった。男の所持金はあきれるほど少ないのだった。これでは借金返済など千里の先だ。今夜の食費だってまかなえるかどうか。 「こんなのでよく……」  あきれ果てる。  この街に来てわかったのは、男というのはどうしようもなく馬鹿だということだった。ちょっと誘えばホイホイついてくる。どう考えても怪しいというのに、まるで疑ってもみないらしい。男は後先を考えることができないのだろうか。  もっとも父様は別だが――とは言い切れないか。  彼女の父親は事業に失敗し、さる筋にかなりの借金を作ってしまったのだ。絶対成功すると信じて大きく借りすぎたのがまずかった。なんとか猶予はしてもらえたものの、現在父は某所にて監視下にある。ストレートに言えば人質だ。  無計画すぎたんだ。  事業の失敗は一種の事故によるものだったが、悔やんだところで仕方がない。  それでもヒノエにとって父は唯一の肉親である。助け出すつもりだ。絶対に。  待ってて、父様。  あと二三人物色してみよう――ヒノエは黒と灰色のなかに姿を消した。  えへえへと愛想笑いする男に、【ルガル・ラッセル】は本能的な嫌悪感を抱いている。  どうも好かない、この手の手合いは。  男はいわゆる優男だ。女にはもてるだろう。もっとも、頭に包帯を巻き右目に青あざを作っていなければ、という話になるが。 「それでですね先生」  揉み手しながら優男【ジェリー・バームクーヘン】は言った。 「凶悪な小娘でしてね。おぼこい見た目ながらとんだ美人局(つつもたせ)だ。男を誘っておいていきなりこれですよ」  目と頭の傷を示した。 「ということはお前、小娘にのされたってのか」 「え……? 違う違う、これはきっと、そう、共犯者でさ。後ろからバキっとやられたんですよ。そうでないとこのジェリー・バームクーヘン、おいそれとやられはしません」  どうも疑わしい。けれどルガルは追求はやめておいた。 「わかった。で、その娘と共犯者か? そいつらをブチのめせばいいんだな」  そういうことです、とジェリーはニヤニヤと笑った。 「前金はこちらです。あとは成功報酬ということで」  かなりの額だった。  無造作に受け取って、ルガルは手を左右に払った。 「わかったからテメエは消えろ。終わったら娘を連れて行く」 「任せましたよ」 「カネの分はやってやるさ」 「加減なしでお願いしますよ」  返事の代わりにルガルはジェリーに視線を向けた。  炎であぶられた刃のような目つきだ。ジェリーは肝を冷やして退散した。  ジェリーがいなくなると、ルガルは壁に背中をあずけて荒い息を吐き出した。心臓が早鐘のように打っている。必死で隠してきたがもう限界だ。  白い聖女の仮面を貌に押し当て、ルガルは深く深呼吸した。
参加人数
4 / 4 名
公開 2020-12-17
完成 2020-12-31
怪獣王女☆見参! (ショート)
桂木京介 GM
 ものすごい顔をして【メメ・メメル】学園長は男にとびつき、両手を彼の肩に乗せて前後に激しくゆさぶった。 「マジでか!?」 「……本当なのよォ~」  小柄な男だ。小柄だがまんまるだ。平らな頭頂ぷくぷくボディ、前後に貼り出していて足も大きい。なにかに似ている。そうだ樽に似ている。ワイン樽のような体型なのだ。整ったあごひげが生え口ひげは豆のつるみたくカールしており、髪まで謎のカールをしているところは、トランプのキングのカードを思わせる。  顔がキングのワイン樽男、彼は名を【マグナム・ワイナリー】という。  このマグナム氏がK(キング)顔を泣き顔にして言うのは、 「メメちゃん助けてェ~」  救援依頼だったりする。 「このままだと今年の新酒、持って来れないのよォ~」 「ノォォォ!」  メメルは銅版画みたいな形相で天を仰いだ。 「よくぞ集まった我が精鋭たちよ☆」  集結した君たちを眺めメメルはマグナムを、ワイン醸造所の事業主だと紹介した。 「氏は広大な葡萄畑と、これまた特大のワイン醸造所を有しておってな。ここで作られるワインが最高なのだよ♪ オレサマのおすすめは白! 豊潤な味わいながら適度なすっきり感、どんな料理にもあいグイグイ飲めるのに後味も最高なのだ。けれど赤ワインも良い! 力強い滋味にパンチの効いたアルコール分、こいつでステーキとか焼肉とかやりだしたらついつい飲み過ぎてしまってなぁ……マグナムのところの赤で酔うとオレサマ、セクシーな気分になっちゃうんだよなぁ……☆」   語りが止まらなくなりヨダレを垂らしそうな表情になってゆくメメルを止めるべく、隣に立つ教師【ゴドワルド・ゴドリー】が軽く咳払いした。 「あー学園長、お話が脱線しておりますが」 「オホン、失礼した。マグナムブランドのワイン新酒は一般的なものよりやや遅くてこの時期でな、毎年オレサマはできたてのボトルを届けてもらっておるのだ♪ 多少だがな」 「多少、って昨年も10ケースほど購入していた気がします。コルネ先生が嘆いていた記憶が……」  ゴドリーの言葉を、メメルはさらりと聞き流す。 「ところがだな諸君! 昨日突然、マグナム・ワイナリー醸造所が正体不明の敵の襲撃をうけ占領されてしまったというのだ! これはゆゆしき事態だぞオイ!」 「そうなのよ~困ったの~」  妙にねちっこい口調でK顔マグナムがなげいた。口調のせいかあんまり困っているように聞こえないが、実際のところ大変困っているらしい。 「なんかねぇ、ちいさい女の子ちゃんがやってきたのよぅ。もこもこのガウン着た子が。10歳くらいかしら?」  こんなことを言ったわ、とマグナムは少女の口まねをして告げた。 「ヘイボーイ! わちきは【怪獣王女】☆ コズミックエッグよこすのじゃ!」  怪獣王女? コズミックエッグ? なんのことかしらぁ? とマグナムが優しく問い返したとたん王女は牙をむいたという。 「なんかねー、卵をたっくさんばらまいたのよう。そこからムクムクって紫色の蛇が出てきて~」  蛇といってもリアルな大蛇ではなかった。なんかぷにぷにしており、つぶらな瞳をもつぬいぐるみのような蛇だったという。大きさは大人一人ぶんくらいだが愛嬌はあった。  で、これがたくさんいた。 「許しがたいことにな! こいつらワイン樽をこじあけてワインを飲みおるという!」  本当に怒っているらしくメメルは顔を真っ赤にしていた。 「酒飲む蛇、要するにうわばみということになるのか!? くっそー! やつらのためのワインじゃないぞ! オレサマのためのものだ!」  白熱するメメルをさえぎるように、黒衣白顔のゴドリー先生が前に出る。 「使命は単純だな。この『うわばみ』たちを倒し怪獣王女なる怪人物を追い払うことが主旨だ。醸造所内は樽が大量に置かれており、鉄製の醸造機器も連なってジャングルのようになっている。敷地面積は8ヘクタールというからかなりのものだろう」 「ウチではワインの付け合わせ用のチーズとかピクルスも作ってるの~。ワインはもちろんのこと、付け合わせの製造場もできるだけ守ってくれたら嬉しいわぁ」 「どうやらその怪人物は『コズミックエッグ』なるものをワイン醸造所に求めているようだが。コズミックエッグとはなんなのか……やはり卵なのか? 見当もつかんな」  ゴドリーは首をかしげマグナムを見る。トランプ風の紳士も首をすくめた。(もっとも、彼は首が短くほとんどないのだが) 「そうなのよ~、ウチは養鶏所じゃないし、ぜんぜん思いつかないわぁ。メメちゃんはわかるぅ?」  マグナムが水を向けるも、メメルは『さっぱり』とお手上げポーズを取っただけである。 「ところで学園長、怪獣王女というこの人物に心当たりはありませんか」 「ないぞ☆」 「学園長のお知り合いだという気がするのですが、なんとなく」 「えーそんなヘンチクリンな子オレサマ知らなーい☆ マジでマジで~」  本当なのかトボけているだけなのか、ひょっとして忘れているだけなのか、そこらあたりは定かではない。 「ともかくだなチミたち! ワインや付け合わせの被害は最小限に! 怪獣ナンチャラとかいう娘にはキツ~いお灸をすえてやってくれたまい☆」  最後にっ、とメメルは力強く言った。 「ゴドリーたん締めの一言を頼むぞ! できるだけ場を和ませるようなのをなっ!」 「いきなりですか! えー……勝利のあかつきにはワイナリーでお祝いナリー!」  しばしの沈黙の後、ハックションとマグナム氏がくしゃみをした。冷えたようだった。
参加人数
5 / 6 名
公開 2020-12-19
完成 2021-01-06
宿り木の下に唇を盗んで (EX)
桂木京介 GM
 聖夜近づく真冬の夜に、身を寄せ合うようにして歩くふたつの影。  ひとりはとんがり帽子、もうひとりは毛糸の帽子――ご存じ【メメ・メメル】学園長と教師【コルネ・ワルフルド】だ。  雪こそ降らねどしんしんと冷え、いまにもちらりちらりと白いものが舞い落ちそうな気配、鈴の音のかわりに聞こえるものは、霜柱踏みしだく足音ばかりである。 「なぁ、コルネた~ん」  白い息を吐いてメメルはコルネを見上げた。 「お正月の御年酒買ってくれとか言ってもだめですから。ていうか学校の予算を酒代に使わないでくださいっ」 「まだなんも言っとらんだろーが! オレサマが猫なで声だしたらおねだりとか決めつけるでない!」  えっ、とコルネは意外そうな顔をした。 「じゃあおねだりじゃないんですか?」 「クリスマスのスパークリングワイン買って! ブランデーでもいいけど♪ できれば両方……あはっ☆」 「ぶちますよ」  こわーい、とメメルは両腕をさするようなポーズをした。けれどコルネは愛想笑いのひとつもしない。  歳末ゆえどうも予算関係の話はまずいようだ、と悟ったか、 「いや冗談だよジョーダン、酒の話ではないわいな」  じゃあなんの話で? という目をするコルネに頭上を指して言う。 「見よ。星がきれいだなあ」 「そうですねえ」  コルネも警戒をといたらしい。毛糸の手袋をはめた手で、マフラーを首元に引き上げ空を眺める。 「頭の上の木が見えるかコルネたん? あの葉っぱのあるやつ」 「クリスマスツリーじゃないですよね」 「そうともあれは宿り木(ヤドリギ)といってな、他の木に寄生して緑の葉を茂らせる。寄生っていっても他の木から養分を吸い取っとるわけじゃないぞ。ちゃんとお日様を浴びて自力ですくすく育っていると言われておるのだ☆」 「そういえばあれはブナの樹ですね。ブナの葉はぜんぶ落ちちゃったのに、くっついてるヤドリギのおかげで上の方は青々としてます♪」  勉強になりました~、というコルネに、うんうんとメメルはうなずいた。 「ヤドリギにはキュートな伝統があってな。クリスマスの季節に、ヤドリギの下にいる女性はキスを拒むことができないというのだ☆」 「本当にやったらぶちますよ☆」  にっこりしているがコルネは、手袋の拳をがっちりかためている。 「コルネたんマジこわーい♪」 「これも学園長先生の教育のたまものですよ☆」  コルネの左フックがシュッと風を切った。  ★ ★ ★  あっ、と小さく声を発して【イアン・キタザト】は反転して背を向けた。 「見てませんから!」 「……気にしなくて結構、キタザト先生」  フルフェイスの兜を持ち上げ、【ネビュラロン・アーミット】はかぶり直す。  金具を下ろす冷たい音が冴え冴えと響きわたった。  夜空には銀の月、頭上にはヤドリギの葉、学舎を遠くにのぞむ散歩道だ。他に人影はない。 「眠れなくてつい、散歩していたらですね。ふと姿をお見かけして……」  ごくりとキタザトは唾を飲みこむ。正直、この人は苦手だ。  心臓が高鳴る。  とっさに見てないと口走ったがあれは嘘だった。  見てしまった。  ネビュラロンの兜の下を。真夏の海ですらさらさぬ素顔を。  目撃したのは右側だった。頬にざっくりと深く長い傷跡があった。刀創(かたなきず)だろうか。  髪は栗色、長く伸ばしており目元は隠れていた。ただ一瞬風が吹き、まぶしそうに歪めたまなざしがちらりとあらわれた気がする。  美人というよりは可愛い、って感じかな、意外なんだけども――。  だがこんなこと、片言でも口にすれば即叩き斬られそうな気がする。  ネビュラロンは無言だ。  カチッ、と音が立った。 「もう振り向いてもらって結構」  向き直ったネビュラロンは、全身甲冑に兜、おなじみのあの姿である。 「はい、どうも、こんばんは」 「こんばんは」 「冷えますね。明日あたり雪になりそうだ」 「まったく」  一応世間話してみようと試みるし相手も応じているとはいえ、 (ヤバい、間が持たない――!)  もうキタザトはいっぱいいっぱいだった。  ええい、ままよ!  いざとなればダッシュで逃げる覚悟で息を吸い込む。 「ごめんなさい先生、僕、ちょっとだけですけどお顔を見ちゃいましたー!!」 「ああ」  けれどネビュラロンは落ち着いている。 「傷があったでしょう?」  言いながら彼女は右の手首、手甲(ガントレット)に左手を添えた。  手甲を外す。右手首から先は何もなかった。 「このとき一緒に失いました」 「どこで?」  反射的に言ってしまったことをキタザトは激しく後悔した。間違いなく気分を害するだろう。無言で行ってしまうかもしれない。  だが意外にもネビュラロンは、 「遠い空の彼方で」  素直に答えて顔を、夜空へと向けたのだった。  ★ ★ ★  薄暗い部屋。  まったく似合わないサンタ帽をかぶって、線香みたいにケーキに立てた細長いロウソクを前にして、そのロウソクにも負けないくらい白い顔をした【ゴドワルド・ゴドリー】先生が、クリスマスソングをソロで歌っている。  でもケーキ皿はふたつあるのだ。  あら不思議。  ★ ★ ★  星降る雪降る聖なる夜。  ヤドリギを見上げるは、寄り添うふたつのシルエットだろうか。  それとも待ちぼうけを食わされているシングルガールか。  気になるあの人とすごそう。  一方通行の想いとて、今夜ばかりは伝わるかもしれないから。  あるいは独りで心の静寂を求めるか。  それもまた、佳いものなのだから。
参加人数
4 / 6 名
公開 2020-12-23
完成 2021-01-09

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