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≪奉仕科2≫仔犬とお留守番


ストーリー Story

「今日の課題は『仔犬がいっぱいいるお宅のお留守番』なんですよ~」
 奉仕科担当の【ユリア・ノイヴィント】先生は、教壇の前でちょっと羨ましそうに眉尻を下げて微笑むと、奉仕科宛てに送られてきた依頼が書かれた書類を読み上げ始めた。

 依頼内容は、【コルライト夫人】の家で、仔犬と一緒に留守番をしてほしいというもの。
 学園都市内にある一軒家に住んでいるコルライト夫人は、大小さまざまな犬種の犬を数頭飼っているのだ。
 その犬たちが3か月ほど前に相次いで出産し、仔犬が全部で20匹も生まれてしまった。
 現在、親犬たちは犬舎で飼っているが、仔犬たちは家の中に置いてお世話をしている状態だ。
 仔犬たちからはまだ眼が離せないのだが、コルライト夫人は朝から夕方まで、どうしても留守にしなくてはならなくなった。
 そこで、その一日だけ仔犬たちの世話をしながら留守番をしてほしいのだという。

「……という訳で、犬好きの人にはよだれが出そうな依頼です。本当は私が行きたいぐらいですが、私は先生ですからね……うん、皆さんにおいしい依頼は譲りますよ……」
 と言いながらも残念さを隠せないユリア先生だ。
 意外と大人げない。
「先生! 留守番中の仔犬のお世話は、どんなことをするのですか?」
「仔犬ちゃんたちはサークルに入れてあって、水はいつでも飲めるようにして置いてくれるので、皆さんは途中で1度だけエサをあげればいいそうです」
「じゃあ、ただ仔犬の側で留守番するって課題ですか? なんてラクな……」
「まあ、何事もなければその通りなのですが、仔犬ちゃんたちは度々サークルから脱走してイタズラするので、仔犬ちゃんにとっても危険ですし、そうさせないようにしてほしいそうですよ」
 ユリア先生が学生たちを見回して、
「では、この課題に挑戦する人は?」
 と言い終わるより早く、数人の手が上がった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2019-07-21

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2019-07-31

登場人物 4/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《ココの大好きな人》アンリ・ミラーヴ
 ルネサンス Lv18 / 教祖・聖職 Rank 1
純種が馬のルネサンス。馬の耳と尻尾を持つ。 身長175cm。体重56kg。 16歳。 性格は温厚。 あまり表情を変えず寡黙。 喋る際は、言葉に短く間を置きながら発していく。 少しのんびりした性格と、言葉を選びながら喋るため。 思考や文章は比較的普通に言葉を紡ぐ。 表現が下手なだけで、年相応に感情は豊か。 好奇心も強く、珍しいものを見つけては、つぶらな瞳を輝かせながら眺めている。 群れで暮らす馬の遺伝により、少し寂しがり屋な面もある。 やや天然で、草原出身の世間知らずも合わさって時折、突拍子の無い発言をする。 好きな食べ物はニンジン。 食べていると美味しそうに目を細めて表情を和らげる。 趣味はランニング。運動自体を好む。 武術だけは、傷付ける行為を好まないため苦手。 入学の目的は、生者を癒し死者を慰める力を身に着ける事。
《模範生》プラム・アーヴィング
 ヒューマン Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
「俺はプラム・アーヴィング。ラム肉を導く修道士だ。…そうは見えない?そりゃそうだ、真面目にヤる気ないからな。ま、お互い楽しく適当によろしくヤろうぜ。ハハハハ!」                                       ■身体 178cm/85kg ■人格 身に降り注ぐ事象、感情の機微の全てを[快楽]として享受する特異体質持ち。 良心の欠如が見られ、飽き性で欲望に忠実、貞操観念が無い腐れ修道士。 しかし、異常性を自覚している為、持ち前の対人スキルで上手く取り繕い社会に馴染み、円滑に対人関係を構築する。 最近は交友関係を構築したお陰か、(犬と親友と恋人限定で)人間らしい側面が見られるように。 現在、課題にて連れ帰った大型犬を7匹飼っている。 味覚はあるが、食える食えないの範囲がガバく悪食も好む。 ■口調 修道士の皮を被り丁寧な口調の場合もあるが、普段は男口調を軸に雑で適当な口調・文章構成で喋る。 「一年の頃の容姿が良かっただァ?ハッ、言ってろ。俺は常に今が至高で完成されてんだよ。」 「やだ~~も~~~梅雨ってマジ髪がキマらないやんけ~~無理~~~二度寝決めちゃお~~~!おやすみんみ!」 「一応これでも修道士の端くれ。迷えるラム肉を導くのが私の使命ですから、安心してその身をゆだねると良いでしょう。フフ…。」 ■好き イヌ(特に大型) ファッション 極端な味付けの料理 ヤバい料理 RAP アルバリ ヘルムート(弟) ■嫌い 教会/制約 価値観の押し付け
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に

解説 Explan

 奉仕科の授業は、『人助け』がテーマです。
 真の勇者となるために、人としての心を磨くことを目標にしています。
 (詳しい解説は『≪奉仕科1≫誕生日パーティーのお手伝い』をご参照ください)

 1回ごとの授業内容は独立していますので、初めてでも問題なく課題に取り組める形となっております。

 今回は、イタズラな仔犬たちと留守番をする課題に挑戦していただきます。

●状況
 ・犬の種類は様々ですが、極端に大きい犬や小さい犬はいません。
  成犬の大きさとしては、大きいものはゴールデンレトリーバーぐらい、小さいものは柴犬ぐらいです。
 ・仔犬のサークルは大小2つ。大きい方には大きい犬種、小さい方には小さい犬種と、2つに分けて半数ずつ入っています。
 ・仔犬用のエサは、扉の付いた戸棚の中に用意してあります。
 ・今回の依頼にはほとんど危険がないため、ユリア先生は涙を呑んで同行しません。

●想定される事件
 ・仔犬たちは知恵が付いていて、主人のコルライト夫人がいないとわかると、全員が必ずサークルを脱走します。
 ・脱走した仔犬は、家具をかじったり貯蔵してある食品を盗み食いしたり、室内の植木鉢を倒して割ったりします。
 ・もし庭に出てしまったら、毒のある草の根を掘り返して食べてしまうかもしれず危険です。

●目標
 ・皆様は脱走した仔犬をいち早く発見し捕まえてサークルに戻し、イタズラを阻止しつつ危険から遠ざけてください。
 ・夕方、コルライト夫人が帰宅した時に、家の中が朝出かけた時と変わらない状態だったら課題は大成功です。


 仔犬たちに辛い思いをさせないよう、また帰宅したコルライト夫人をがっかりさせないよう、しっかりお留守番をお願いします!


作者コメント Comment
 浅田亜芽です。こんにちは!
 プロローグに目を通していただき、ありがとうございます。

 皆様、犬はお好きでしょうか?
 私は動物全般好きなので、こんな仔犬まみれな状況になったら天国だと思っています。
 犬が苦手な方も、勇者の修行ですから何とかできることを工夫して、課題に挑戦してみてくださいね。

 皆様のご参加をお待ちしております!


個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
今度は犬のお守り見守りねぇ。
ザコちゃん犬派か猫派で言えばお魚派。つやきらだし美味しいし住む世界が違うしでいーよね。
なんせよ、言葉の通じない存在に対しての接触やアプローチの参考にはなるかなって。
身体の作りが違うってとこも、言葉通じないとこも、魔物とお揃いなんだし。

てか飼い主様のお話語り耳にねじ込んで思ったんだけどさ。
飼い主様がいなくてはっちゃけるってなら、そこ騙しとけば全部解決しない?ダメ?
どこまで、どれくらいの間だまくらかせっかはわかんないけど、やるだけやってみるかな。
なんか会った時に脱走する時の練習になるし。

てな訳で飼い主様、色々お貸ししてくれない?
服とか、香水とか。あ、ドレスだけは勘弁ね?

アンリ・ミラーヴ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
仔犬の世話…頑張る(無表情で尻尾を高く立て元気に振る)


コルライト夫人が出かける前に…もしも仔犬がサークルに出た場合を考えて…不安定な場所にあるものや、植木鉢など…別の部屋に動かせるか聞いてみる。

脱走した仔犬には…破けた服の袖先を振ったり…テカったローブを被せて…遊…捕獲だ。

仔犬のエサ係は…俺。
先に夫人へ…エサ用の食器と…一匹の食べる量を…尋ねておく。
戸棚からエサを出して…サークルのある部屋の外で食器に入れる。
二つのサークルを皆に見ていてもらってる間…一匹ずつ部屋の外へ出して食事させる。
食べた仔の右前足に、カラフル糸セットの短く切った糸を巻いて…食べ終えた目印。
仔犬たちが食事を終えたら糸を取る。

プラム・アーヴィング 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
■大型犬が好き
大型犬は存在感が圧倒的で良い。
適当な所で寝転がり行く手を阻んでいくところとかカワイイし、抱きしめた時の満足感が高い。
後なんだか懐かしい感じがするんだよね。

そういう訳で、子犬は大型犬の方をお世話しよう。
食事に関してはアンリ君に任せるけど。

大型犬は適度な運動が大事。足腰を鍛えよう。
【ぬいぐるみ】で引っ張り合いとかで犬同士で遊べるんじゃないかな。

遊んだ後は、睡眠も大事。そして時間も稼げるし犬の寝顔は幸せの象徴。
【清廉のオルゴール】で睡眠導入に応用しよう。


後は、【気配察知】【危険察知】と【自然友愛】を使いつつ子犬の様子を監視してなんとか乗り切りたいね。

あぁ、今回はヒールのない靴で行くよ。

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
取り敢えず、サークルの強化とオイタした仔にお仕置きしようか
まぁ、夫人が許可くれたらだが

なんで、夫人が出かける前に色々と許可を取っておこうと思う
あと、夫人から見てヤンチャな仔とかの情報も貰って置こうか
貰った情報は共有しておくな

設計、陣地作成、防御拠点を使ってサークルの強化をする
鍵を開けずらい様にしたりサークルの高さを高くしたりだな

オイタした仔に対してのお仕置きだが威圧感、人心掌握学、精神分析を使いつつ叱っておこう
叱るっていってもあんまりオイタすると夫人が困るからあんまりやらないようにした方がいいとかそんなのだな

やることやったらララバイでも演奏しておこう
仔犬が寝てくれれば楽だからな

リザルト Result

「いらっしゃい、お待ちしていましたよ」
 玄関ドアを開けるなり、ふくよかな【コルライト夫人】がにこやかに出迎えてくれた。
 招き入れられた四人の学生たちは早速、二十匹の仔犬がいる広い居間に通された。
 朝から元気な仔犬たちは珍しいお客に興奮気味で、サークルの柵に飛びついて立ち上がり、クンクン鳴きながら尻尾を千切れんばかりに振っている。
「可愛い……」
 普段は寡黙な【アンリ・ミラーヴ】が思わず呟く。
 その横では【プラム・アーヴィング】が日頃のポーカーフェイスを完全に忘れ、目尻を下げて仔犬に見入っている。顔に『カワイイ!』と書いてあるのが見えるようだ。
 実はプラムは犬が好き。特に存在感が圧倒的にある大型犬が大好きだった。
 その一番の理由は抱きしめた時の満足感。あと適当な所で寝そべって人が通るのを阻んでいるところなどもたまらなく可愛いと思うし、なんとなく懐かしい気がして好ましく感じるのだった。
 懐かしさの裏側でふとよぎるのが、プラムが子供の頃のおぼろげな記憶。小さなプラムに寄り添ってくれていた大型犬がいたような……。
 プラムが、霞がかったような記憶に手を伸ばしかけた時、大きめの仔犬が『ワン!』と吠えた。
「ヒッ!」
 と声にならない声を上げたのは【仁和・貴人】(にわ たかと)だった。
 仮面の下の表情は見えないが、もし仮面を被っていなければ顔が引きつっているのが分かっただろう。
 貴人は正直、犬がちょっと苦手なのだ。正確には『大きめで吠えてくる犬』が苦手。
 理由は、犬が苦手な人のご多分に漏れず、昔噛まれたことがあるからだった。
 けれども貴人は、
(こ、仔犬だったら大丈夫なはずだ、うん)
 と勇気を奮い、この課題に挑戦している。
『犬が苦手でもできることはあるはず!』と拳を握りしめている貴人を尻目に、【チョウザ・コナミ】は平常運転だ。
「ザコちゃん犬派か猫派で言えばお魚派。つやきらだし美味しいし住む世界が違うしでいーよね」
 掴みどころのない笑みを浮かべて独自理論を展開している。
 しかし本題に戻ることを忘れないのもチョウザだ。
「飼い主様の服とか、色々お貸ししてくれない?」
 チョウザは、飼い主がいないと仔犬がはっちゃけるなら、飼い主に変装して仔犬を騙しておけば懸念は全部解決すると踏んでいるのだ。
 四人の中で唯一の女性、そしてハッタリの技能を高めているチョウザにこそ、この役は適任だ。
「どこまで、どれくらいの間だまくらかせっかはわかんないけど、やるだけやってみる」
 建設的な提案をしているチョウザだが、心の中では、
(なんかあった時に脱走するときの練習になるし)
 と計算しているのだった。
 しかしそんなチョウザの心中を知る由もないコルライト夫人は、面白がって賛成してくれた。
 仔犬の見張りを三人に任せ、チョウザと夫人は服を取りに寝室に向かった。

 ●

 クローゼットを開けた夫人は、
「どれがいいかしら? あなたはスレンダーだから、私の服はどれもぶかぶかかもしれないけど……」
 とチョウザに合いそうな服を選んでいる。
 クローゼットの中にドレスを見つけたチョウザは顔を曇らせた。
『ドレスだけは勘弁』と念じていると、夫人は普段着のロングスカートを選んで出した。
「はい。これならあの子たちを騙せるかもしれないわ。いつも見えているのは足元だけだし」
「あと、匂いで仔犬を誤魔化すものもあったらいーよね。飼い主様の香水とか」
 そこで夫人は引き出しからショールとエプロンを取り出してチョウザに手渡した。
「私は香水を使わないのよ。普段よく使っている物ならたぶん私の匂いがするわ」
 ちゃんと洗ってあるから安心して、と夫人は笑った。
(汗の匂いとか付いてる首巻きの方が良いのに……)
 とも思うチョウザだったが、それは夫人の方が気にしているのかもしれないと考えて黙っていた。
 チョウザが派手な髪色をカラフルチョークで染めると言うと、夫人は慌てて制止した。
「そんなことしなくても、あの子たちには色まで見えてないから大丈夫よ」
 汚れ耐性はあるけれど、髪が汚れなくてよかったと、少しホッとするチョウザだった。

 チョウザはだぶだぶのスカートのウエストを裁縫の技能で簡易的に調節した。長さはさほど問題ない。
 スカートの上からエプロンを着け、ショールを羽織り、化粧品セットでコルライト夫人に似せたメイクを完成させた。仔犬は気にしないかもしれないが、頬の魚の文様も化粧品で塗り潰しておく。
 できるだけのことをしておけば、変装のクオリティも上がるというものだ。
 居間へ戻ったチョウザは夫人と並んで立ち、男子三人に変装の出来栄えを確認してもらった。
 背丈は夫人がやや低いだけだが、横幅がだいぶん違う。
 三人は、ここは迂闊にコメントするのは危険だと本能で察し、『うん』『いいんじゃないかな』『そっくりだよ』と口の中でもごもご言うのみであった。

 ●

 夫人が出かけた後、学生たちは持ち場についた。
 全て夫人に許可を取っておいたから、安心して色々な作業に取り組める。
 アンリはまず居間に置いてある観葉植物の鉢を全て台所へ移した。仔犬には届かない高い所に置いてある花瓶等も念のため台所に移動。空いた場所には低い位置に置いてあった本や布類を上げた。
 時折り仔犬のサークル内にアンリは手を入れて、仔犬を撫でながら作業をしている。高く立ち上げた尻尾を振り回している様子で、無表情でも仔犬たちにメロメロなのがバレバレなのだった。
 その一方で貴人は陣地作成と設計の技能を使って、小さい方のサークルを黙々と強化していた。
 庭で見つけた平たい木切れをサークルの上部にぐるりと取り付けて、柵の高さを高くする。少しでも普段より高くなれば、ジャンプして飛び越えることは難しいだろう。
 更に留め金に過ぎない鍵を、上から紐で縛って補強する。紐で結んでしまえば仔犬には開けられまい。
 精神分析や人心掌握を使いたくても相手は仔犬。知的交流は不可能なため技能を発揮できない。
 でも小さい犬種の仔犬なら、貴人だって怖くはない。
 貴人は、
「ふふふふふ、オイタしたらお仕置きだからな」
 と威圧感を使った魔王のオーラを放ってみせる。ただし、それが仔犬たちに届いているかは微妙だった。
 その直後、鍵の強化作業中の貴人の手を、一匹の仔犬がカプッと甘噛みした。
「うわっ!」
 慌てて手を引っ込める貴人。見ると、噛んだのは夫人から聞いていたヤンチャな子だった。
(くそぉ……)
 これぐらいで驚いていてはいざという時お仕置きできないぞ、と気を引き締めて、でもまた噛まれないように細心の注意を払いながら貴人は鍵の強化を終わらせた。
 そんな貴人だったから、大きい仔犬のサークル強化に取り掛かる段になると、どうにも心細くなってきた。
 そこで貴人は、犬好きを隠しきれない仲間に協力を頼んだ。
「アーヴィングくん、ミラーヴくん、大きい方の仔犬を全部サークルの外に出して相手しておいてくれないか。その間にオレがサークル内に入って柵を高くする作業を済ませるから」
 貴人は自分がサークルの中に入って仔犬から守られながら、防衛拠点の技能を使ってサークル強化をすることにしたのだった。『我ながらナイスアイデア!』だと思っている。
「いいけど、俺たちホントに遊ぶだけでいいの?」
 プラムにとっては願ったり叶ったりの申し出だった。
 元々プラムは仔犬と遊ぶ気満々で、いつも履いているヒールの高い靴をヒールの無いブーツに履き替えて来ているのだ。
 思わず頬が緩みそうになるのを必死にこらえ、
「大型犬は適度な運動が大事なんだよね、足腰を鍛えないとね」
 などと澄まし顔で言っている。
 その横でアンリはつぶらな瞳を輝かせ、尻尾を激しく振って喜びを表現していた。

 正々堂々と遊べる絶好のチャンスだ。
 二人は早速大きな仔犬十匹をサークルから出した。
 夫人に変装したチョウザが庭に通じるドアの前で椅子に腰かけているので、仔犬たちは意外と落ち着いている。
 貴人は素早くサークルに入るとしっかりと留め金を掛け、ひとまず安心したのだった。

 プラムは持参したぬいぐるみを取り出し、犬同士で引っ張り合いをさせて遊ぶことにした。
 犬をけしかけたり追いかけたりする時、慣れない低いブーツではバランスが取りにくいものの、仔犬を踏まないようにする足さばきは完璧だ。
 遊んでいる間もちゃんと気配察知や危険察知を働かせて、仔犬が目の届かない範囲に行かないよう十分気を付けている。
 プラムは抱き上げた仔犬の耳の後ろに鼻を付け、仲間の目を盗んで思い切り吸い込んで匂いを嗅いだ。
 ……ッスーーーーーーーーッッ!
「くっさ!」
 顔を顰めながらも嬉しそうに呟くプラム。
「こいつはどうかなぁ?」
 別の一匹を捕まえて首に鼻を付けて匂いを吸い込む。
(ん~……あー犬だわ……凄く犬……)
 日ごろの努力疲れを癒すため、プラムは次々と仔犬の匂いを嗅ぐ。
(一匹貰っちゃダメかな……)
 放っておいたらこのまま連れて帰りそうな勢いである。どうやら犬吸いがクセになってしまったようだった。
 アンリの方は破けた服の袖先を左右に大きく振って仔犬を翻弄していた。
 頃合いを見計らってテカったローブを被せて捕獲する。
 そうして抱き上げたり仰向けにしてお腹をくすぐったりして、無言でいても仔犬まみれになる楽しさで鼻息が相当荒くなっていた。
 チョウザを飼い主と間違えたのかそちらへ寄っていく仔犬は、チョウザがすぐに捕まえて二人の方へ戻していた。
 仔犬と触れあう気はないチョウザだが、聴覚強化した聞き耳と気配察知を使って仔犬たちが居間の外に出ないように気を配り、本来の役目を忠実に果たしているのだった。
 貴人の作業が終わる頃には、プラムとアンリは仔犬を堪能し尽していた。

 遊び疲れた仔犬を、プラムは時間稼ぎのために寝かしつける。
 清廉のオルゴールが奏でる優しい音色を聞かせると、そのリラックス効果で仔犬たちはすぐに眠ってしまった。
 犬の寝顔は幸せの象徴。
 プラムは犬の匂いと寝顔でたっぷり英気を養っていた。

 ●

 仔犬たちが眠っている間に、四人は昼食を取ることにした。
 コルライト夫人が用意しておいてくれた白身魚のクリームシチューは絶品だった。
 特に魚が好きなチョウザは満足し、舌鼓を打っていた。
 アンリも、柔らかく煮込まれた好物の人参が入っているので目を細めて美味しそうに食べている。
 美味しくて温かい食べ物に貴人がホッと一息ついた時、ふと気になっていたことを思い出した。
「そういえばアーヴィングくん、縮んだ?」
 食事中は仮面を外す貴人の、たまにしか見られない素顔を密かに観賞していたプラムは、飲みかけていた水でむせて咳き込んだ。
 自分でも他人と目線が近くなっていてヤバイと思っていたのだ。
「そんなことないよ、気のせいじゃないかな」
 すぐに態勢を立て直したプラムは蠱惑的な流し目を送って誤魔化す。
「そう?」
 流し目の意味を計りかね、あっさりと引く貴人だった。

 人間の食事が終わったら、次は仔犬たちの番である。
 アンリが予め夫人に習っておいた通りにふやかした餌を用意し、皆で手分けして二十枚の皿に盛り分けた。
 初めはアンリが一匹ずつサークルから出して餌を食べさせ、『食事済』の印として前足にカラフル糸セットの糸を巻いてサークルに戻していた。
 しかし待ちきれない犬たちが騒ぐし時間もかかるので、四匹ずつ出して皆で食べさせることにした。計算上は一人一匹担当だ。
 けれども貴人とチョウザは見守り要員、プラムとアンリが餌やり要員、と自然に役割分担していった。

 お腹一杯になった仔犬たちはうとうとし始める。
 足に巻いた目印の糸をアンリが取ってやり、貴人が、
「さぁ、おやすみなさいの時間だ」
 とララバイを吹くと、皆すぐに夢の中へ。
 仔犬が寝ている間は人間も楽になる。
 お腹が一杯でそろそろ疲れが出てきた学生たちもあくびをし、うとうとしてしまうのだった。

 ●

 夕方になり、コルライト夫人が帰ってくる時間が近づいてきた。
 サークル内の仔犬たちは、まだ半数以上がぐっすりと眠っている。
 起きている子も前足を舐めたり一人で転がって遊んでいたりして大人しい。
 今日一日で随分犬に慣れてきた貴人がそんな仔犬たちを見て、
(どうやら何事もなく終わりそうだな)
 と安心していると、腹の虫がぐぅ~と鳴った。そういえば小腹が空いている。
 ポケットから干し肉を取り出したが、自分一人で食べるのも気が引ける。
「干し肉あるけど食べる?」
 仲間に差し出した途端、今まで大人しかった仔犬たちが急に大興奮状態になってこちらに向かって鳴き始め、柵に飛びついた。
「え? え? 何ごと?」
 皆驚いて仔犬たちを見つめる。
 仔犬たちはジャンプして柵を飛び越えようとするものの、高さを足しておいたおかげで飛び越えることができない。
 しかし、ああ、なんということだろう、留め金が中から簡単に外れ、仔犬たちが一斉に飛び出してしまった!
 留め金を紐で括って外れないようにしていたはずなのに、餌を与えた時、最後に紐で括るのを忘れてしまっていたのだ。
 仔犬たちは干し肉を握りしめた貴人めがけて突進する。
 仔犬といえども一度に二十匹もに飛びつかれてはたまらない。
「うわああああ、やめろぉ~!!」
 貴人はあっというまに押し倒されてしまった!
 プラムは、
(押し倒すのは俺の役なのに……)
 チラっと思ったが、仔犬の狙いは貴人ではなく干し肉であることを瞬時に悟った。
 塩辛い物を仔犬に食べさせるわけにいかない。
 仔犬たちにぐじゃぐじゃにされている貴人から干し肉を奪い取ったプラムは、窓際に立っていたチョウザにそれを放り投げた。
「ザコちゃん、任せた!」
「おっけー、ザコちゃん受け取り引き受けよ」
 チョウザはキャッチした干し肉を窓から庭に放り投げ、素早く窓を閉めた。
 まだ貴人にまとわりついている仔犬たちを、アンリとプラムが大急ぎで引き剥がしてサークルに戻していく。
 チョウザは留め金を紐で手早く厳重に縛って、今度こそ開けられないようにした。
 仔犬の回収を途中からはチョウザも手伝い、ようやく全員サークルに戻し終えた時、貴人は仔犬たちに仮面を剥がされ舐めまわされたせいで顔じゅうベトベト、魂が抜けたようになって座り込んでいた。
 他の三人はゼーハーと肩で息をしている。
 その時、
「ただいま~、お留守番ありがとね~」
 と玄関から声がした。夫人が帰ってきたのだ。
 お留守番終了直前のハプニングで何か壊れたり仔犬が怪我をしたりしていないかと、学生たちの間に緊張が走る。
 貴人を除く三人が無言で素早く手分けして、仔犬と部屋の中の状態を確認した。
 ……どうやらどこにも異常はないようだ。
 ホッと胸を撫でおろすと同時に、夫人が居間に入ってきた。
 サークルの中で何事もなかったようにウロウロしている仔犬たちを見て、夫人はにっこりして言った。
「あら、皆お利口にしていたようね。皆さん、上手にお世話してくれたのね、ありがとう」
 これを聞いた学生たちは一気に脱力し、微苦笑を浮かべて互いの顔を見合わせたのだった。



課題評価
課題経験:65
課題報酬:2000
≪奉仕科2≫仔犬とお留守番
執筆:浅田亜芽 GM


《≪奉仕科2≫仔犬とお留守番》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 1) 2019-07-16 01:11:59
教祖・聖職コースのアンリ・ミラーヴだ…続けて奉仕科への参加になる。
前回の仲間と一緒になれるのは嬉しい(尻尾フリフリ)。
新しい仲間と協力できれば尚喜ばしく思う。
………犬は俺も飼っていた事がある…村の中でもよく飼われている……。
仔犬が二十匹いるところは見た事ないが…頑張ろう。

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 2) 2019-07-18 00:05:04
俺もマテが苦手なイヌ(意味深)は良く触れ合うし何とかなりそうなので参加。
大型犬(意味深)が結構好きなんだよねー。

ってわけで、大型犬側を担当してもいい?

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 3) 2019-07-18 00:26:39
ザコちゃんそもそも犬派じゃなくってお魚派だから。どっち側担当でもおけまるちゃん。
っても、逃げたしたの確保すること考えっと、担当振りはしといても両方に目配りしといた方が良さみあるけどね。

で、やり方としては、逃げ出したのを秒速高速で捕まえっか、そもそも出さないようにするか、って感じになんのかなぁ。
ザコちゃんが微妙に思い考えたのは、飼い主様がいたら別に逃げ出さないんでしょ?
そったら飼い主様の服とか香水とか借りて、化けても良くない?って。
完璧に騙せっかは怪しめだけど、遠くからなら多少使えるくない?ダメ?

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 4) 2019-07-18 01:25:32
はじめましてプラム・アーヴィング。アンリだ。よろしく(ふりふり)

大きいのと小さいの、両方を警戒するのも確かだ(こくこく頷く)
でもプラムが大型犬なら、俺は小型犬を主に見ておこう…うん(ふりふり)

変装は……良いかもしれない(こくこく)

授業を受ける人が少しでも多いと…余裕ができる…犬の相手をする…(目を細める)

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 5) 2019-07-18 22:40:38
流石に俺は男だし、変装技能持ってても無理みが激しみ…だと思うから、ザコちゃんにその辺りは任せてもいい?

あーあと、今回はヒールじゃない靴で行く。
何気に殺傷能力あるし危ないと思うしね。
ヒール捌きに自信がないわけじゃないけど。

とりあえず、【気配察知】【危険察知】は使えそうだから持ってくね。

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 6) 2019-07-19 00:19:38
俺も女装は…無理だろう。
俺はぬいぐるみを持っていく。これで仔犬たちに遊んでもらう。
あと…整理整頓…仔犬が割ったり、しそうなものを、先に、片付けたい。

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 7) 2019-07-19 19:43:18
遅ればせながら参加させてもらうな。

ミラーヴくんは初めましてだな。
魔王・覇王コースの仁和だ・・・よろしく。
サークルあるの室内か・・・
拠点構築系の技能でサークル強化して逃げ出せない様にとか考えたんだが・・・室内だと厳しいか?

あと、威圧するのは・・・不味いよな?

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 8) 2019-07-19 20:46:46
オイタした時だけでいいんじゃない、威圧

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 9) 2019-07-20 00:08:41
仮面のまおー様もお出ましいらっしゃい。

そったら変装枠はザコちゃんやっとくかな。どこまでだまくらかせっかは謎いけど。
ある程度物借りれるってなら、誤魔化せるかもでいーのかな。背丈の高すぎ低すぎがあったらどーしよーもないけど。

サークルに手加えんのも、飼い主様の許可貰えるんならいーんじゃん?たぶん。
鍵のとこ補強増強するなり、柵の高さ上げてくなり。
それがダメならダメで、逃げ出しても遠くに行きにくいような障害物とか仕掛け置いといてもいいかなって。

威圧…んー、場合によりけり?
なんだったらそれも許可制になりけり?

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 10) 2019-07-20 01:36:17
仁和・貴人、はじめまして。よろしく。
許可を得られればサークルの補強も…ありだと思う。

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 11) 2019-07-20 13:46:04
出発まで残り時間は少ないが……エサをどうしよう。
一匹ずつ同じ量で食べさせるには…横取りとかしないよう…少しでも距離を開けて…エサを与えた方が、良い。
つまりサークルの外で…食べさせたいと思うのだが…仔犬たちを全部出すわけに…いかないから。
一人が二匹くらいを外で、食べさせて…三人はサークルの仔を見張って…食べ終えた仔と、まだの仔を…交替させていくのは…どうだろう。
エサを食べた仔には…俺が持っていくカラフル糸セットの糸を…前足へ結んで…目印にするんだ。
もしこれで良くて…エサをあげたい人もいなかったら………俺があげる。
どうかな?

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 12) 2019-07-20 22:40:36
ん、じゃあ餌やりはアンリ君に任せようかな
よろしく

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 13) 2019-07-20 23:29:11
滑り込み発言だから間に合うか怪しめだけど。
前足だと取れる可能性と動き阻害な可能性あるし、首輪とかつけてるんならそこに巻けば良くない?とは思いみ。
でもって余った糸はサークルの補強増強にも使えなくもなさそうかなって。量にもよるけどさぁ。

なんせよ、さかさか書くだけは書いとこーね、プラン。ほんとにもうすぐだから。