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怪奇! 枕おとこ


ストーリー Story

「抱き枕?」
 と教師【ゴドワルド・ゴドリー】は言った。
「普通に使うぞ。あれは腰痛にいい」
 なぜか得意げに腕組みする。生徒たちがヒソヒソと、先生の脳内嫁っていうのはまさか……! とささやきを交わしていることには気付いていないようだ。
 放課後、たいていの生徒が下校して、ガランとした教室に夕日が差しこんでいる。
 教卓のところにゴドリー、最前列にわずかな生徒たちというのが現在の図式だ。
 五十人は入る広い教室なだけに物寂しいものがあった。
 赤葡萄のような太陽を浴びながらゴドリーは軽く咳払いした。
「脱線してすまん。枕の話だったな。話のまくらではない。枕が本題だ。枕は枕でも枕にまつわる怪奇現象だ」
 このときゴドリーは『怪奇』の部分にアクセントを置いていた。
「フトゥールム・スクエアの敷地内に、使われなくなって久しい合宿所がある。『カブト虫荘』という。炊事場なども付属しているがメインは畳敷きの広い部屋ひとつだ。中央がふすまで仕切られており、外せばちょうどこの教室ほどになる」
 それなりに広く、設備のととのった場所のようだ。なぜ使われなくなったのだろうか。
「使われなくなった理由か? 簡単だ。建物の周囲に何もないからだな。グランドは遠くトレーニング設備もない。校舎から遠いわりに風光明媚でもないし夏は蚊が多い」
 つまり利用価値がないということだろう。
「ゆえに教職員の一部以外には忘れられた場所だったのだが、このところカブト虫荘に妙な噂が立つようになった」
 一拍おいて、ゴドリーは声をひそめて告げた。
「……出る、らしい」
「カブトムシがですか?」
 という生徒の回答に、おいおい、とゴドリーは言ってゼスチャーまじりに告げた。
「これだ、これ」
 こういう場合のポージングは、肘を曲げ、両手を揃えてたらりと垂らし手の甲を見せるというものになりがちなのだが、この人は両手をパーにして左右のこめかみに親指を当てるという、オリジナルならぬ俺ジナル感強めの姿勢であった。
「変質者が出るという話ですか」
「いや見ればわかるだろう! おばけだ、おばけ! 怪異現象! ホラー!」
 いないいないばあっ、ってやってるようにしか見えないが、これがゴドリー流なのだろう。つっこんではいけない。
「どうもなこのカブト虫荘には、リアルが充実しているやつ、つまりリア充を許せないという怨念がうずまいているらしく、宿泊者が夜中、リアリア充充的な行動をしていると怪奇現象が襲ってくるというのだ」
「質問、リア充的行動ってなんですか?」
 すかさず飛んできた質問に、うぐっ、と一瞬ゴドリーは固まったがやがて言った。
「男子ならほら……す、好きな女子の話とかするんだろ? 寝床で」
 皆まで言わせんな、とでも言いたげなうつむき加減だった。頬が赤いように見える。黒いロン毛に青白い肌、鋭い眼光のゴドリーの照れ――イチゴをシチューに入れるような不気味さがあった。
 じゃあ女子なら、という質問には、うってかわって即答だ。
「好きなアイスクリームの種類の話でもすればいいんじゃないかな」
 それリア充ですか? という疑念を投げかける勇気のある者はいなかった。
 怪異現象はふすまがすべて消失することからはじまる。
 つづいて押し入れががらりと開き、大量の枕がこぼれ出てくるというのだ。
「西側の押し入れが諸君サイドだとすれば反対の東側が怪異サイドだ。東側からは枕だけではなく、温泉旅館の浴衣を着た怪物たちがぞろぞろが出てくる。ぜんぶ人間大だが頭だけは甲虫だ。しかも口々に『おのれリア充』『成敗してくれる』などとわめきながら枕を投げてくる」
 どうやら全部オスらしいな、とゴドリーは言う。
「さしづめ『枕おとこ』とでも呼ぼうか。こちらも枕を投げて対抗するのだ」
 怪奇とか恐怖とかいうより楽しそうなのだけど……と言う生徒がいたが、遊びではないぞ、とゴドリーはたしなめるのである。
「怪異現象を鎮めるのがお前たちの使命だ。ゆめ、あなどるなかれ。武器や魔法を使うのも自由でありそれを躊躇しないなら簡単だが、相手が枕でくる以上、こちらも枕で対抗したいものだな」
 たくさん枕を受けるとカブト虫は気絶してしまう。特に顔面へのヒットはダメージが大きいらしい。なおこの条件はこちらも同じだ。
「最後まで立っていた側が勝利だ。枕おとこたちを見事倒してみせろ」
 なお朝日が差すとタイムオーバーで強制終了となる。その場合は失敗とみなされるだろう。
 くわと鋭い眼光でゴドリーは言う。
「なんにせよ疲れることだろう。枕だけにピロー(疲労)というわけだな!」
 これがギャグだと伝わるのに、何秒か必要だった。
 伝わったところで受けるわけでもなかった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 3日 出発日 2020-09-23

難易度 簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2020-10-03

登場人物 4/8 Characters
《猫の友》パーシア・セントレジャー
 リバイバル Lv19 / 王様・貴族 Rank 1
かなり古い王朝の王族の娘。 とは言っても、すでに国は滅び、王城は朽ち果てた遺跡と化している上、妾腹の生まれ故に生前は疎まれる存在であったが。 と、学園の研究者から自身の出自を告げられた過去の亡霊。 生前が望まれない存在だったせいか、生き残るために計算高くなったが、己の務めは弁えていた。 美しく長い黒髪は羨望の対象だったが、それ故に妬まれたので、自分の髪の色は好きではない。 一族の他の者は金髪だったせいか、心ない者からは、 「我が王家は黄金の獅子と讃えられる血筋。それなのに、どこぞから不吉な黒猫が紛れ込んだ」 等と揶揄されていた。 身長は150cm後半。 スレンダーな体型でCクラスらしい。 安息日の晩餐とともにいただく、一杯の葡萄酒がささやかな贅沢。 目立たなく生きるのが一番と思っている。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《幸便の祈祷師》アルフィオーネ・ブランエトワル
 ドラゴニア Lv23 / 教祖・聖職 Rank 1
異世界からやってきたという、ドラゴニアの少女。 「この世界に存在しうる雛形の中で、本来のわたしに近いもの が選択された・・・ってとこかしらね」 その容姿は幼子そのものだが、どこかしら、大人びた雰囲気を纏っている。  髪は青緑。前髪は山形に切り揃え、両サイドに三つ編み。後ろ髪は大きなバレッタで結い上げ、垂らした髪を二つ分け。リボンで結んでいる。  二重のたれ目で、左目の下に泣きぼくろがある。  古竜族の特徴として、半月型の鶏冠状の角。小振りな、翼と尻尾。後頭部から耳裏、鎖骨の辺りまで、竜の皮膚が覆っている。  争いごとを好まない、優しい性格。しかし、幼少より戦闘教育を受けており、戦うことに躊躇することはない。  普段はたおやかだが、戦闘では苛烈であり、特に”悪”と認めた相手には明確な殺意を持って当たる。 「死んであの世で懺悔なさい!」(認めないとは言っていない) 「悪党に神の慈悲など無用よ?」(ないとは言っていない)  感情の起伏が希薄で、長命の種族であった故に、他者との深い関りは避ける傾向にある。加えて、怜悧であるため、冷たい人間と思われがちだが、その実、世話焼きな、所謂、オカン気質。  お饅頭が大のお気に入り  諸般の事情で偽名 ”力なき人々の力になること” ”悪には屈しないこと” ”あきらめないこと” ”仲間を信じること” ”約束は絶対に守ること” 5つの誓いを胸に、学園での日々を過ごしている
《呪狼の狩り手》ジークベルト・イェーガー
 エリアル Lv8 / 黒幕・暗躍 Rank 1
あぁ?俺? 俺はジークベルト、歳は44 ……はぁ?年齢詐称??生言ってんじゃねーぞ 見た目で判断すんじゃねぇよ、クソが!! 元々は潜入や暗殺、調査専門の冒険者だ。 …見た目がこんなんだからな…こういう場所潜入し易いだろって仕事振られたんだが…なんか、よく解んねーこと捲し立てる女に無理やり入学させられたんだよ。 ホント、ワケ解んねぇとこだな、此処。 センター分けのさらりとした絹糸の様な鉛色の長い髪を緩く編んだ三つ編み、そしてアホ毛が突っ立つ。 藤色の瞳、翅脈(ヒトでいう血管)が青く光るジャコウアゲハ型の翅の白皙の美少年フェアリー ……の、様に見える合法ショタのおっさん。 身長:80cm 体重:2~3kg 見た目はショタ、中身はおっさん。目が死んでる。 発する声はどこから出てるの?と思わず言いたくなる低音。 発する言葉は皮肉と嫌味。 好きな物は酒とたばこと酒に合う肴。アサリの酒蒸しとか。 居酒屋大好きだが、見た目のせいで居づらい 子供の悪意ある「チービ!」には鉄拳制裁する 苦手なものは向かい風 空気抵抗により飛ばされる。 ヘビースモーカーで、大体喫煙所に居る。 一般的に市販されている煙草は彼の体には大きいので、 いつも紙を巻き直している。 煙管はやっぱ味が違うし、こっちの方がめんどくせぇ 最近、タバコ着火の為だけにプチヒドを覚えた。

解説 Explan

 去ったばかりの夏を惜しむように、夏の延長戦みたいな合宿がはじまります。
 カブト虫荘なる和室の合宿所で寝泊まりしましょう。
 といっても本当に何もない場所(周辺は野原。見るものもない)なので、夜になるまでは結構ヒマだと思います。イベントといってもせいぜいご飯を作るくらいでしょうか。
 メインは真夜中、枕投げです!!

●状況について
 五十人は入れそうな広い部屋です。男女の仕切りはふすま一枚ですが、使っても使わなくても構いません。足元は布団がしきつめられています。
 蚊はいなくなっていますので蚊帳は必要ありません。

●怪異現象のスタートについて
 夜、ゴドリーのセンスよりは本当っぽい『リア充的行動』をとると、いきなり枕投げ
がはじまります。敵は『枕おとこ』たち、数はみなさんの1.5倍くらいいます。
 なお『リア充的行動』の中身はみなさんでお考え下さい。ゴドリーが例示したレベルでは何も起こりません!

●枕投げについて
 枕おとこは弱い存在ですので、剣を抜いたり魔法を炸裂させればなんなく倒せます。
 もちろん勝てばエピソードは成功判定です。
 ですがここは、目には目を枕には枕をの精神(?)で投げ返して戦いたいもの。
 一定以上枕をぶつけられダメージが蓄積すると、気絶(またの名を寝落ち)状態になって朝まで眠ることになります。

●枕について
 なぜか枕の種類はすこぶる充実しています。以下いくつか例をあげます。
 ・ソバがら枕:難いので攻撃力高め。重いので飛距離はのびにくいです。
 ・羽根枕:ガチョウの羽がつまったふわふわまくら。よく飛びますが攻撃力は最低です。
 ・おがくず枕:ソバがらと羽根の中巻くらいでしょう。主力になりそうです。
 ・低反発枕:特殊な植物から作った枕です。投げ心地はよさそうですが……?
 他にも、抱き枕だの籐編み枕だの、ちょっと珍しいものもたくさんありそうです。他のバリエーションは皆さんの想像力にお任せするとしましょう。


作者コメント Comment
 通常エピソードは久しぶりです! 桂木京介です。
 先日、配信で募集した新エピソードのお題のうち、ランダムで選んだものから作成しました。ありがとうございました! なお、残念ながら選から漏れたものからエッセンスを抽出しています。
 
 基本的に軽い話ですので枕のチョイスや投げ方を工夫してみて下さい。食らったときの反応や、投げるときのセリフなんかもあると面白いことになりそうです。
 どさくさに紛れ本当にリアリア充充してみる(すこぶる都合のいいことに合宿所には月を眺めるに最適な縁側や、絶妙な位置に存在する物陰などがあります)のもいいでしょう。
 枕を喰らいまくっていい夢をみるのもグッドな思い出になるはずです。

 では楽しく熱い夜を!
 次はリザルトノベルで会いましょう、桂木京介でした!


個人成績表 Report
パーシア・セントレジャー 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
とりあえず……幽霊に扮して、リア充を脅かせばいいの?

◆リア充になる?
じゃあ、縁側で月を眺めつつ痛チョコつまみにお酒呑むしかない
痛チョコは下にハンカチ敷いてグーで割る

割れチョコの美少女の顔は仁和さんにあげる

折角ですし、ゴドリー先生も一杯お付き合いくださいな
大丈夫、とって食べたりはしませんから

◆枕
マイ枕は羽根枕

◆枕投げ
基本はおが屑枕使用
確実に当たる距離ならソバがら枕

まずは枕男の足目掛け枕を投げ、転んだら顔目掛け連打
立て直すまでに当てられるだけ当てて、早々にお休み願うわ

こちらが狙われそうなら、掛け布団の端を手に持ち引き上げ、前面をカバーする盾代わりに
これなら、顔を狙われても布団でカバーして隠せるわね

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
要はリア充っぽいことをして誘き出して枕をぶつければいいんだよな?

………リア充っぽいことってなんだ?
とりあえず、パーティーピーポー的に夕食とかはしゃいで見るか?
あ、ブランエトワルくんが企画考えてるみたいだから手伝いに行くか

寝るときには陣地作成を使って周りに蕎麦殻枕を配置しておこう
残弾数は大事だしな
枕おとこが出たらリア充になる方法を教えるとかなんとか言って興味を引き、
女子と仲良くしゃべるには甘いものの話がいいぞと天国のマロングラッセを食べさせる。

その後食べてもらえてももらえなくても配置した枕を投げまくろう

あ、俺が寝るのに使う枕は普段使ってる低反発枕を持ってきておこう

アドリブA 絡み大歓迎

アルフィオーネ・ブランエトワル 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
パーティーの開催を画策。炊事場を借り、料理をいっぱい作りまくる。枕男の分も含め、かなり多めに【料理】

ポテトサラダ
スパゲッティサラダ
海藻サラダ
クラムチャウダー
ビシソワーズ
コーンポタージュ
豚汁
鮭のムニエル
スターゲイザーパイ
真鯛の煮つけ
鶏の唐揚げ
豚の角煮
フライドポテト
ゆで枝豆

そして、主役の【高級なお肉】を使った、厚焼きステーキ

デザートにおまんじゅうを忘れない

自分は”絶対に”飲まないが、お酒も準備

枕おとこが現れたら、まず、交渉を試みる【説得/会話術】
「こんばんわ。あなたたちもご一緒にどう?いっぱいあるのよ。遠慮はいらないわ」

戦闘
投げてもあてる自信がないので、抱き枕を抱えて、自ら突撃【龍の翼】


アドリブA

ジークベルト・イェーガー 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:45 = 15全体 + 30個別
獲得報酬:900 = 300全体 + 600個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
あー?カミさん??
あぁ、普通に小奇麗な女だったよ
俺と違って普通に成長して普通に年取る、柔らかい感じの女だったよ
……まぁ、ガキと出先で魔物に襲われて死んだけどな
勇者なんて当てに出来ねぇと思ったね
だって、事後に来るだろ、お前ら

人間大のカブト虫の相手なんぞ出来るか!俺は80㎝しかねぇんだぞ!!
人間用の枕投げろ?ふざけんな、俺よりでけぇもん投げられるワケねぇだろ!!

枝豆あるんだったら、ビールだろ!
フランクフルト炙ったのも持ち出して、完全に酒飲み体勢
酒には甘い卵焼きじゃなくて、大根おろし乗せた出汁巻きだよなー
アサリとかムール貝の酒蒸しもいいな
から揚げも作ろうぜ!ハイボールもいいな!

よし、作ろう

アドリブA

リザルト Result

 秋か。
 トレードマークでもある仮面の、あごの位置に【仁和・貴人】は手をかけた。
 少し前まで暑い死ぬると言っていたような気がするのに、気がつけばもうとうに秋なのだ。
 風が涼しい。
 もう夕方だ。昼間も日一日と短くなっているように思う。
 そういえば出がけに会った【メメ・メメル】校長も長袖だった。
『衣替えかって? そらそーだろチミィ、オレサマだっていつまでも水着みたいなカッコではおれんわな』
 そんなこと言ってたっけ――。
「ちょっと何たそがれてんのそこ!」
 腰の左右に手をあてて【アルフィオーネ・ブランエトワル】が、手伝ってよと声を上げている。
「ポテト、茹で上がってるんだからマッシュして!」
「お、おう……ハンマー借りてやればいいか?」
 大真面目に貴人が言ったものだからアルフィオーネは吹きだした。
「クラッシュハンマーでマッシュしたらボウルごとぺったんこになっちゃうよ」
 そして【パーシア・セントレジャー】を振り返る。
「パーシアさんてば上手~。豚の角煮、これ居酒屋で出せるレベルよ」
 照り色も美しい角煮だった。汁気たっぷりでやわらかそう。ゆで卵もいい色がついており、煮汁も適温に保たれているようだ。
「まかせて」
 キリっと効果音が立ちそうなほどいい顔でパーシアは胸を張る。頭にいつものティアラではなく、三角巾を巻いているところからもやる気が伝わろうというものだ。
「お酒のつまみになるものなら研究は惜しまないから」
 他にパーシアが手がけているのはフライドポテトに枝豆、さらには鶏唐揚げだ。数種のチーズもきれいに盛りつけていた。さながら酒のお供のクリーンナップ打線である。
「お化け屋敷に来て飯作るハメになるたぁな」
 ぼやきつつ【ジークベルト・イェーガー】も、ムール貝の酒蒸しの火加減を見ていた。味見と称してベーコンの切れっ端をつまみつつ、早くもちびちび、瓶のビールを口にしている。
 かったりぃと口では言っているものの、ジークベルトの作業は手早い。貝の鍋に蓋をするとフライパンにとりかかった。
「やっぱ酒には甘い卵焼きじゃなくて、大根おろし乗せた出汁巻きだよな」
 片手で卵を器用に割って、菜箸を使いボウルで混ぜはじめる。
 これが彼ら考えるところのリア充、パーティーピーポーというやつだ。つまりパーティするピーポー! 字義通り!
「略してパリピとか言うんだっけな、やってみると意外と面倒なものだった」
 貴人はまだ茹でジャガのマッシュ作業中だ。
「まあパーティーのピーポーは自分で準備はしないかもしれないけれど」
 パーシアが言うと、
「いいんじゃねぇの」
 とジークベルトが応じた。
「俺ぁ悪くねぇと思うぜ。結局のところ充実してるかどーかなんて、決めんのは他人じゃなくて自分だからな」
「いいこと言うわね」
 アルフィオーネが豚汁をかき混ぜながら言う。
「な……なんだよオイ藪から棒に。単に俺はトシくってるだけだ、トシ!」
 直球で褒められるのは慣れていないのか、ジークベルトはそう言って大皿を手にする。専用の卵焼き器ではなくフライパンだけで作ったのに、長方形の見事な出汁巻きができていた。そそくさと終えると、
「フランクフルト取ってくらぁ」
 ぱたたと黒い翅をはためかせ、その場から姿を消してしまうのである。

 和気あいあいのうちに準備はととのい、四人は野外テーブルで豪華料理を囲んだ。
 すっかり夜だが火をふんだんにつかい、魔法のカンテラなんかも置いているので周辺は、高級レストランのように雰囲気のある薄暗さだった。
「何もない合宿所、とゴドリー先生は言っていたけど」
 ワイングラスを手にパーシアが椅子から立つ。
「なかなかどうしていいところじゃない? 調理場は広いし山林は見事だし、虫の音だって聞こえるし」
 蚊なんて姿すら見なかった。
「食料庫が近いから酒にも不自由しねぇしな」
 ジークベルトの手にはビールのジョッキ、色も泡も申し分ない。樽ごと転がしてもってきてサーバーにしているから、一週間呑んだとしてもまだ余るだろう。
 酒の話をするならそれこそ山盛りだった。パーシアが厳選したフルボディの赤ワイン、ウイスキーやジン、ウオッカに日本酒の数々が、すぐそばの台車にずらりと詰みこまれているのだ。すべて食料庫の片隅に『オレサマこれくしょん☆』と銘打って仕切られた一角に貯蔵されていたものだ。なんのヒネりもないこのネーミングから、誰が取っておいたものかはわかろうというものだ。意地汚いあの人のチョイスだから、いずれも高級品であることはまちがいあるまい。
「俺たちには依頼という大義名分があるからな」
 と宣言してジークベルトが拝借したのである。半端なパーティではリア充にはならないという理屈が成立している。
「ブランエトワルくんには感謝だな。このパーティ計画にも食材にも、なんと言ってもメインの……」
 高級肉にもッ! と貴人の声が跳ね上がった。
 煉瓦を組んで作った野外コンロ、鉄板の上でじゅうじゅうと湯気をあげているのは、アルフィオーネが持ってきた肉なのである。
 大きくしかも分厚いがそれだけではない。細かい霜降りが入る通称コザシという最高品質のビーフ、焼けるにしたがい否応なく、空腹を刺激してやまない薫りが立つ。
 いい具合ね、とアルフィオーネは焼き具合を見ると、特大ハンマーならぬ特大のナイフとフォークでステーキを切り分けていった。
「肉だけじゃないわ。サラダだって三種類、鮭のムニエルもスターゲイザーパイも真鯛の煮つけもあるからゆっくり食い倒れていってね」
 それじゃあ、とパーシアがグラスをかかげた。
「おう乾杯か」
 ジークベルトは羽で飛ぼうとしたがその必要はなかった。
 パーシアと貴人とアルフィオーネ、みんなかがんで彼の位置にグラスを持ってきたからである。
「若いモンが気ぃつかってんじゃねーよ。……ま、サンキュな」
 四人一斉に声を合わせる。
「乾杯!」

 摂取カロリーを計算すると気が遠くなりそうだからやらない。
 たらふく食べて成人は酒も進んで、いつしか彼らは動けないくらいになり、涼むべく縁側に移動している。
 月が美しい。満月というにはいくらか欠けているものの、鏡みたいにくっきりしている。星も降ってきそうなほどまばゆい。
 思い思いに座り、クラウンシーフのときはああだったこうだったとか、ちくしょー校長めやっぱいい酒持ってやがんなーとか、ほらもーグラスそんなそばに置いてると倒すよー、とか、話題はあっちへ飛びこっちへ飛びしているものの一同、それが心地好いという状態である。
「そういえば」
 満腹すぎるのかアルフィオーネの金の目は半分閉じているし、銀の目なんかもう閉じていた。
「わたしたち何しにきたんだっけ」
「……なんだったかなー」
 回ってきたのかトロンとした目で、ジークベルトはフランクフルトにかぶりついている。酒はハイボールだ。24年物のバーボンらしいが気にせず使っていた。
「怪異現象とかなんとか……」
 言いかけたところで貴人の背後から、しくしくと女のすすり泣く声がした。
「ちょ! おどかしっこなしだぜメメたん!」
 思わず吹きだして同時に姿も露呈しまう。透明化していたパーシアなのだった。
「貴人さんのなかでは、イタズラしてくる人イコール校長先生なのね? それとも彼女にイタズラされたかった?」
 お腹を抱えて笑う。
「ちがっ……あの人ならやりそーって思っただけだって! ていうかイタズラされたくないし!」
「どうだか~? で、実際のところどー思ってるの校長のこと?」
「どうもこうもないって! マジで」
 話の方向が恋バナっぽくなってきたところで、ねえ、とアルフィオーネは寝そべってジークベルトに顔を向けた。
「あなたは結婚してたんでしょう? 奥さん、どんな人だったの?」
「なんだまた藪から棒かよ」
 ぽりぽりと頬をかくと、ジークベルトはハイボールの残りを一息で空けた。
「あぁ……普通に小奇麗な女だったよ。俺とちがって普通に成長して普通に年取る、やわらかい感じの女だったな」
 へええ、とここまではニヤニヤしていたアルフィオーネだったが、つづく彼の言葉を聞いて黙った。
「……まぁ、ガキと出先で魔物に襲われて死んだけどな」
 あんとき、と24年物をトクトクとグラスに注いでつづけた。
「勇者なんて当てにできねぇと思ったね。だって、事後に来るだろ、お前ら」
「悪いこと訊いちゃったかな……」
「いいさ。昔の話だ」
 これも干してしまうとジークベルトは煙草を取り出した。
「悪い、一本吸わせてもらっていいか?」
 くしゃっとなった紙巻きを指で伸ばす。
「ええ」
「うん」
「どうぞ」
「我々モ気ニシマセン」
 そいつはどうも、と言ったところでジークベルトは煙草を取り落とす。
「返事多いぞ! てか『我々』!?」
 見ればいつのまにか、縁側にカブト虫がならんで腰を下ろしているのだった。人間大のが四人、いや四匹。そろいの浴衣を着ている。
「コンバンハ、怪異現象デス」
 昆虫たちは全員、枕を膝に乗せていた。
「枕おとこね?」
 パーシアは笑ってしまった。肩を寄せ合い枕を膝に置き、神妙にしている彼らの姿が妙におかしかったからだ。
「枕オトコ……? ソンナ呼バレカタハ初メテデスガ、多分ソウデス」
 昆虫らしく、声にブブブと羽音のような雑音が混じっていた。
「楽シソウダッタノデ、ツイ出テキテ仕舞イマシタ。意地悪デ枕ヲブツケル積モリデシタガ、今ノオ話聞イテ、戦意ガ失セテシマッテ……」
 両目に手ならぬ節足を当てているカブトもいる。
 にこやかに話しかけたのはアルフィオーネだ。
「こんばんわ。パーティだけどあなたたちも一緒にどう? いっぱいあるのよ。遠慮はいらないわ」
「イエ、我々肉ハ……」
「そう思って用意しておいたから」
 アルフィオーネが差し出した盆にはスイカやメロンが載っていた。
 昆虫だから表情はない。ないのだけれど、あっ、とパーシアは思った。
(彼、笑顔になったわ)
「イタダキマス」
 枕を置き、四匹は深々とお辞儀したのだった。

「ゴ馳走ニナッテシマッテ」
 申シ訳ナイと言いながら、リーダーらしき黒みの濃いカブトはスイカをすすっている。(彼らはかじるのではなく蜜を吸うのだ)
「こちらこそ、寝間着姿でごめんなさいね」
 パーシアは眠くなってきたので、いち早く絹のネグリジェに着替えていた。つるりと薄い生地は菫色だ。
 うかつに凝視などしようものなら下着――どうやら黒――が透けかねない、と貴人はパーシアを見ないようにしながら黄金色のカブトムシと話しこむ。
「リア充になる方法が知りたい? 女子と仲良くしゃべるには甘いものの話がいいぞ」
 と言って天国のマロングラッセを渡したのだ。カブト虫は喜んで舐めはじめた。
 アルフィオーネと話しているのは、立派な(しかし重そうな)ツノをもつカブトだ。
「女性ガイルノデ、ドウシヨウカト思ッテマシタ、枕投ゲ。ゴ婦人ノオ顔ニ当テル訳ニモイキマセンシ」
「紳士なのね。あなたたちは単なるカブトムシではないわ」
「料理ヲヒックリ返ス事モ避ケタクテ、食ベ終ワルマデオ待チシテマシタ」
 避けて正解、とアルフィオーネは笑う。
「それ実現していたらわたし、『覚悟はできているのでしょうね……一匹残らず引導を渡してあげる!』って感じで切れてたと思うし」
「オオ怖イ!」
 少し離れた場所では赤ら顔のジークベルトが、一番小さなカブトムシと意外な再会を果たしている。
「お、お前……やっぱり、あのときのカブト虫だったのか!?」
 ある夏の朝、ジークベルトは玄関前に小さなカブト虫を見つけた。本当に小さく、消しゴムくらいの大きさしかなかった。ちょっとしたツノがなければ、コガネムシと見まちがえたかもしれないくらいだ。
 飲まず食わず五日くらいいたので、ジークベルトも気がとがめて彼を森に連れていって放した。
「でも、やっぱ死んだのか……」
 しみじみつぶやく。
「カモ知レマセン」
 彼が本当のことを言っているのか、ジークベルトに合わせているだけなのかは不明だ。記憶が曖昧なだけかもしれない。
 とにかくだ、とジークベルトはカブトの肩に手を置いた。
「とっとと輪廻しろよー。んで、今度は玄関前に迷いこむなよ」
 メス追いかけてたんだか何だか知らねぇけどさ、と短く笑う。
 デザートのおにまんじゅう、そして、貴人持参の痛チョコ(パッケージがえっちな感じの板チョコ)を食べている途中でパーシアが言った。
「どうやら『枕おとこ』さんたちも含めみんなでリア充になっちゃったところでなんだけど」
 おが屑枕を右手に、マイ枕の羽根枕を左手に持つ。
「せっかくだからやらない? 枕投げ」
「イインデスカ?」
「もちろん。でもおねーさんかなり呑んだから、色々乱れちゃうかも」
 うふふと笑うパーシアの、目つきはどうにも色っぽい。
「よし! パジャマに着替えてくるから待ってろ」
 貴人も賛同し姿を消した。
「この状況ではむしろ、リア充『だからこそ』やるスポーツみたいになってきたわね」
 アルフィオーネの目が光る。実は、とっておきの枕を用意していたのだ。
 だがジークベルトは首を振った。
「俺はパス」
 えーっと不平顔のアルフィオーネに、
「俺このサイズよ? 身長80センチ! 人間用の枕なんざ投げられるはずが……」
 ここで、
「学園ノ合宿所デスンデ、ふぇありー用ノ枕モアリマス」
 一番小さなカブトムシが、そっとミニ枕を手渡してくれる。
 どかっと座るとジークベルトは、またストレートでウイスキーを空けた。
「見た目歳喰わねぇ変な男だから最年少に見えるだろーけどよ、俺これでも大人なんだよ大人……だが仕方ねぇ」
 つきあってやるかー、とジークベルトは大儀そうに立ち上がったが、どこか楽しそうなのは否めない。
 恨みつらみや果たし合いではないレクリエーション、学園生と枕おとこたちの枕合戦が、かくして幕を開けたのだ。
 なおアルフィオーネが、
「ひれ伏すといいわ!」
 と持ってきた抱き枕、それが、どこで作ったのやらメメたん校長のイラストの描かれたムフフな抱き枕であったことは記しておきたい。
 しかもこれを彼女が、
「オレ味方チームだ味方っ!」
 まっさきに貴人に投じたことも記しておきたい。

 朝日を浴びてパーシアは目覚めた。
「よく暴れたわね」
 肩紐の位置を直す。
 枕おとこたちは消えてしまった。どこにもいない。
 仲間は大広間のほうぼうで雑魚寝している。
 半分メンバーが消えてしまったので、畳敷きの部屋をやけに広く感じた。
 布団をはねのけアルフィオーネが起き上がる。
「わたしは一体ここで何を? 甲虫頭の男と一晩添い寝するとか、なんて恐ろしい夢だったのかしら……」
 例のメメまくらを抱いているのはアルフィオーネだったりする。
 紙袋が持ち上がった。
 貴人だ。黒いパジャマ姿。仮面の代わりに目の部分に穴を空けた紙袋をかぶっていたのである。
「そばがら枕って堅いんだな」
 覚えておこうと感慨深くつぶやく。ヒットしたあごがまだ痛い。
 一番最後に目を覚ましたのはジークベルトだ。
「……朝か」
 口元をゆがめる。ほんの軽くだが。
 いい夢を見た。
 幼なじみの少女、のちに妻となる女性の夢だ。
 



課題評価
課題経験:15
課題報酬:300
怪奇! 枕おとこ
執筆:桂木京介 GM


《怪奇! 枕おとこ》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 1) 2020-09-20 20:05:24
王様・貴族コースのパーシア。よろしくお願いします。
とりあえず……幽霊に扮して、リア充を脅かせばいいの?

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 2) 2020-09-22 19:48:14
パーティーでもすればいいのかしらね?

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 3) 2020-09-22 20:19:48
パーティー………
はしゃげばいいのか?
まぁ、やれるだけやってみよう

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 4) 2020-09-22 22:15:22
こんなかんじになりました

パーティーの開催を画策。炊事場を借り、料理をいっぱい作りまくる。枕男の分も含め、かなり多めに【料理】

ポテトサラダ
スパゲッティサラダ
海藻サラダ
クラムチャウダー
ビシソワーズ
コーンポタージュ
豚汁
鮭のムニエル
スターゲイザーパイ
真鯛の煮つけ
鶏の唐揚げ
豚の角煮
フライドポテト
ゆで枝豆

そして、主役の【高級なお肉】を使った、厚焼きステーキ

デザートにおまんじゅうを忘れない

自分は”絶対に”飲まないが、お酒も準備

枕おとこが現れたら、まず、交渉を試みる【説得/会話術】
「こんばんわ。あなたたちもご一緒にどう?いっぱいあるのよ。遠慮はいらないわ」

戦闘
投げてもあてる自信がないので、抱き枕を抱えて、自ら突撃【龍の翼】


アドリブA

《呪狼の狩り手》 ジークベルト・イェーガー (No 5) 2020-09-22 22:23:51
パーティーと聞いて。

人間大のカブト虫とか、どう考えても俺勝てねぇじゃん。

(おっさんは80cmしかない!!)

《呪狼の狩り手》 ジークベルト・イェーガー (No 6) 2020-09-22 22:49:53
今の所、こんな感じだな。

あー?カミさん??
あぁ、普通に小奇麗な女だったよ
俺と違って普通に成長して普通に年取る、柔らかい感じの女だったよ
……まぁ、ガキと出先で死んだけどな
魔物に襲われてな。

人間大のカブト虫の相手なんぞ出来るか!俺は80㎝しかねぇんだぞ!!
人間用の枕投げろ?ふざけんな、俺よりでけぇもん投げられるワケねぇだろ!!
枝豆あるんだったら、ビールだろ!
フランクフルト炙ったのも持ち出して、完全に酒飲み体勢
酒には甘い卵焼きじゃなくて、大根おろし乗せた出汁巻きだよなー
アサリとかムール貝の酒蒸しもいいな
塩味利かせたスペアリブとかー

よし、作ろう

アドリブA